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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L |
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管理番号 | 1371455 |
審判番号 | 不服2020-9660 |
総通号数 | 256 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-04-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-07-09 |
確定日 | 2021-03-16 |
事件の表示 | 特願2017-534361「焼結性接合材料およびそれを用いた半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 6月30日国際公開、WO2016/103527、平成30年 1月18日国内公表、特表2018-501657、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,2014年12月26日を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。 平成30年8月29日付け :拒絶理由通知書 平成31年2月12日 :意見書,手続補正書の提出 令和元年7月5日付け :拒絶理由通知書 令和元年12月9日 :意見書,手続補正書の提出 令和2年3月6日付け :拒絶査定 令和2年7月9日 :審判請求書,手続補正書の提出 第2 原査定の概要 原査定(令和2年3月6日付け拒絶査定)の概要は,次のとおりである。 1.本願の請求項1?8に係る発明は,本願出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された技術的事項に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 2.本願の請求項1?8に係る発明は明確ではないから,本願は,特許法36条6項2号に規定する要件を充足していない。 引用例一覧 1.特表2014-512634号公報 2.特開2014-196527号公報 第3 本願発明 本願の請求項1?8に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」?「本願発明8」という。)は,令和2年7月9日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される発明であり,そのうちの本願発明1は以下のとおりの発明である。 「 【請求項1】 i)接合材料中の固体成分の全質量に基づいて,少なくとも85質量%の銀フィラー;及び ii)有機塩基化合物である焼結促進剤 を含んでなり, 該銀フィラーは原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される算術平均粗さ(Ra)が10nm以下であるフレーク状フィラーを含み,該有機塩基化合物は窒素含有ヘテロ環化合物である,焼結性接合材料。」 本願発明2?6は,本願発明1を減縮した発明であり,本願発明7及び8は,本願発明1?6の焼結性接合材料を用いた半導体装置及び半導体装置の製造方法の発明である。 第4 引用例の記載と引用発明 1.引用例1について (1)引用例1の記載 原査定の拒絶の理由に引用された引用例1(特表2014-512634号公報)には,次の記載がある。(下線は当審による。以下同じ。) 「【0006】 (発明の詳細な説明) ほとんどの銀フレークは,凝集を防ぐために脂肪酸潤滑剤および界面活性剤のコーティングを有する状態で商業的に供給される。潤滑剤および界面活性剤は焼結を妨げる可能性があり,それは,焼結のためにより高い温度が必要になり得ることを意味する。本発明の導電性組成物の溶媒は,銀フレークの表面から潤滑剤および界面活性剤を溶解または除去するように作用する。溶媒は,被膜を除去し,塗布および焼結するまでは銀が溶媒中に分散したままにするのに有効な極性バランスを有する必要がある。銀フレークの製造業者が使用する典型的な潤滑剤としては,ステアリン酸,イソステアリン酸,ラウリン酸,デカン酸,オレイン酸,パルミチン酸,またはイミダゾールなどのアミンで中和された脂肪酸が挙げられる。有効な溶媒は,銀フレークの表面から,これらのおよびその他の潤滑剤を除去するものである。 【0007】 1つの実施形態では,溶媒は,2-(2-エトキシ-エトキシ)-エチルアセテート,プロピレングリコールモノエチルエーテル,ブチルエトキシエチルアセテートおよびプロピレンカーボネートからなる群より選択される。他の適した溶媒としては,環状ケトン,例えば,シクロオクタノン,シクロヘプタノン,シクロヘキサノン,および直鎖または分岐鎖アルカンが挙げられる。溶媒は,全組成物の15重量%未満の量で存在する。代替のアルコール溶媒,例えば,テルピネオールおよび2-オクタノールは銀表面からの潤滑剤の除去において有効であるが,しかし,銀フレークが溶液から急速に沈降するため,有効な可使時間をもたらさない。」 「【0009】 焼結を窒素雰囲気で行う場合(例えば,銅の基体が使用される場合に必要であるかもしれないように),酸素を導入するために液体ペルオキシドが組成物に添加され,潤滑剤および界面活性剤の除去に役立つ。液体ペルオキシドは,レオロジーおよび銀の沈降を制御するのに好ましい。適した液体ペルオキシドの例は,第3級-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート,第3級-ブチルペルオキシネオデカノエート,ジラウロイルペルオキシド,第3級-ブチルペルオクトエート,1,1,3,3-テトラメチルブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート,ジ-第3級-ブチルペルオキシド,2,5-ビス-(第3級-ブチルペルオキシ)-2,5-ジメチルヘキサン,およびジ-第3級-アミルペルオキシドからなる群より選択される。1つの実施形態では,ペルオキシドは,全組成物の0.2から0.5重量%の量で存在する。さらなる実施形態では,ペルオキシドは,全組成物の0.1から1.0重量%の量で存在する。」 「【0029】 実施例6 様々な脂肪酸潤滑剤とともに銀フレークを含有する銀接着剤試料の特性を,上記のように試験した。銀フレークのタップ密度は,銀粉を製粉するために使用する潤滑剤によって変化した。銀接着剤は,銀フレークを88.1重量%,プロピレンカーボネート(溶媒)を11.5重量%,および第3級-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート(ペルオキシド)を0.4重量%含有した。結果をここに報告する。」 「【0033】 実施例8 溶媒もペルオキシドも含有しない銀接着剤の試料を,空気中および窒素中でDSCによって試験し,10℃/分の昇温勾配での焼結可能性(sinter potential)を確認した。反応熱が大きいほど,銀焼結および緻密化の可能性が高い。空気中または窒素中での19J/gより大きい反応熱では,ステアリン酸,ラウリン酸,デカン酸,ステアリン酸とラウリン酸の共晶混合物,およびイミダゾールで中和したステアリン酸において焼結可能性を示した。19J/gより小さい反応熱では,特に窒素環境中では,十分に焼結しない。」 (2)摘記の整理 以上の摘記によれば,引用例1には以下の事項が記載されているものと理解できる。 ア 脂肪酸潤滑剤とともに銀フレークを含有する銀接着剤であって,銀フレークを88.1重量%,プロピレンカーボネート(溶媒)を11.5重量%,および第3級-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート(ペルオキシド)を0.4重量%含有した銀接着剤。(段落0029) イ 上記銀接着剤において,溶媒もペルオキシドも含有せず,脂肪酸潤滑剤がイミダゾールで中和したステアリン酸である銀接着剤。(段落0033) ウ 上記ア,イから,上記イの(溶媒もペルオキシドも含有しない)銀接着剤は,銀フレークを88.1重量%以上含むものと理解できる。 (3)引用発明1 上記ア?ウによれば,引用例1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。 「脂肪酸潤滑剤とともにた銀フレークを含有する銀接着剤であって, 前記銀フレークを88.1重量%以上含み, 前記脂肪酸潤滑剤がイミダゾールで中和したステアリン酸である, 銀接着剤。」 (4)引用例1のその他の記載事項 引用例1には,上記(2)(3)の他に,次の事項が記載されていると理解できる。 ア 銀フレークをコーティングする脂肪酸潤滑剤は焼結を妨げる可能性があること。(段落0006) イ 潤滑剤をプロピレンカーボネート等の溶媒で除去すること。また,窒素雰囲気中で焼結を行う場合には,液体ペルオキシドを添加することが潤滑剤の除去に役立つこと。(段落0006?0007,0009) 2.引用例2について (1)引用例2の記載 原査定の拒絶の理由に引用された引用例2(特開2014-196527号公報)には,次の記載がある。 「【0007】 本発明に係る微小粒子は,フレーク状である。この微小粒子の主成分は,金属である。この微小粒子の表面の算術平均粗さRaは,10nm以下である。 【0008】 好ましくは,この微小粒子の主成分は,銀である。好ましくは,この主成分の金属の組織は,単結晶である。」 「【0017】 図1には,微小粒子2が示されている。この微小粒子2は,フレーク状である。この微小粒子2の主成分は,導電性の金属である。この微小粒子2は,いわゆるナノフレークである。この微小粒子2は,粉末の一要素である。 【0018】 この微小粒子2の典型的な用途は,導電性ペーストである。多数の微小粒子2,溶剤,バインダー,分散剤等が混合され,導電性ペーストが得られる。 【0019】 この微小粒子2の表面の,算術平均粗さRaは,10nm以下である。この微小粒子2の表面は,平滑である。この微小粒子2は,摺動性に優れる。従って,複数の微小粒子2が凝集することが抑制される。ペーストにおいて,この微小粒子2は,充分に分散する。この微小粒子2を含有するペーストは,印刷特性に優れる。 【0020】 算術平均粗さRaが10nm以下である微小粒子2の表面は,平滑であると共に,平坦でもある。印刷された後のペーストにおいて,微小粒子2同士は,大きな接触面積にて重なり合う。従ってこのペーストは,加熱される時の熱伝導性が大きい。このペーストでは,短時間の加熱により,焼結が達成されうる。このペーストでは,低温での加熱により,焼結が達成されうる。 【0021】 焼結後のパターンでは,微小粒子2同士は,大きな接触面積にて重なり合う。従ってこのパターンは,電気を伝導しやすい。この微小粒子2は,導電性にも優れる。 【0022】 印刷特性,熱伝導性及び導電性の観点から,この算術平均粗さRaは8.0nm以下がより好ましく,3.5nm以下が特に好ましい。製造の容易の観点から,この算術平均粗さRaは,1.0nm以上が好ましい。 【0023】 算術平均粗さRaは,原子間力顕微鏡(AFM)によって測定される。AFMは,走査型プローブ顕微鏡の一種である。AFMは,カンチレバーと,このカンチレバーの先端に取り付けられた探針とを備えている。この探針が,微小粒子2の表面を走査する。試料と探針との原子間に働く力により,カンチレバーが上下方向へ変位する。この変位が,計測さる。この計測の結果に基づき,微小粒子2の算術平均粗さRaが算出される。」 (2)引用例2の技術的事項 以上によれば,引用例2には以下の技術的事項が記載されているものと理解できる。 ・原子間力顕微鏡(AFM)によって測定される算術平均粗さRaが10nm以下の,銀を主成分とするフレーク状の微小粒子を導電性ペーストに用いることで,低温で短時間の加熱により焼結が達成され,印刷特性及び導電性に優れた導電性ペーストが得られること。 第5 対比・判断 1.本願発明1について (1)本願発明1と引用発明1の対比 本願発明1と引用発明1を比較する。 ア 引用発明1における「銀フレーク」及び「銀接着剤」が,本願発明1における「銀フィラー」及び「焼結性接合材料」に相当する。 イ 引用発明1は,「銀接着剤」中に「銀フレークを88.1重量%以上含む」ものであるから,本願発明1と引用発明1は,ともに「接合材料中の固体成分の全質量に基づいて,少なくとも85質量%の銀フィラー」を含む点で一致する。 ウ 引用発明1は「銀フレーク」を含むものであるから,本願発明1と引用発明1は,ともに「フレーク状フィラーを含」む点で一致する。 エ 本願発明1では「銀フィラー」以外の成分として「焼結促進剤」を含み,引用発明1では「銀フレーク」以外の成分として「脂肪酸潤滑剤」を含むことから,両者はともに「銀フィラー」(銀フレーク)以外の成分を含む点で共通する。 上記ア?エによれば,本願発明1と引用発明1の一致点及び相違点は,次のとおりである。 (一致点) 「i)接合材料中の固体成分の全質量に基づいて,少なくとも85質量%の銀フィラーを含んでなり, 該銀フィラーはフレーク状フィラーを含む, 焼結性接合材料。」である点。 (相違点1) 本願発明1は,「ii)有機塩基化合物である焼結促進剤を含んでなり」「該有機塩基化合物は窒素含有ヘテロ環化合物である」のに対し,引用発明1では,焼結促進剤を含むことが特定されていない点。 (相違点2) 本願発明1は,「該銀フィラーは原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される算術平均粗さ(Ra)が10nm以下である」のに対し,引用発明1では,「銀フレーク」の算術平均粗さ(Ra)が特定されていない点。 (2)相違点についての判断 はじめに相違点1について検討する。 引用発明1は,「銀フレーク」以外の成分として「イミダゾールで中和したステアリン酸である」「脂肪酸潤滑剤」を含むものであるが,当該「イミダゾールで中和したステアリン酸」は「イミダゾール」自体ではなく有機酸塩であり,本願発明1の「窒素含有へテロ環化合物」には該当しない。 また,引用例1には,イミダゾールで中和したステアリン酸等の潤滑剤を溶媒で「除去」することが好ましい旨は記載されているものの(上記第4の1.(4)),特にイミダゾール等の窒素含有へテロ環化合物に着目し,それを「銀フレーク」に「添加」して接合材料とすることは記載も示唆もされていない。そして,窒素含有へテロ環化合物により,焼結が促進され,気孔率が低減するとの本願効果は,引用例1からは予測し得ないものである。 また,引用例2には,銀フレークの算術平均粗さ(Ra)を10nm以下とすることは記載されているものの(上記第4の2.(2)),銀フレークに「窒素含有へテロ環化合物」を添加することについては記載も示唆もされていない。 したがって,他の相違点について検討するまでもなく,本願発明1は引用発明1及び引用例2に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得たものではない。 2.本願発明2?8について 本願発明2?8は本願発明1と同じ技術的事項を備える発明であるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用例1?2に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 第6 原査定について 1.理由1(特許法29条2項)について 審判請求時の補正により,本願発明1?8は「有機塩基化合物である焼結促進剤」であって「該有機塩基化合物は窒素含有へテロ環化合物である」という事項を有するものとなっており,当業者であっても,拒絶査定において引用された上記引用例1?2に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。したがって,原査定の理由1を維持することはできない。 2.理由2(特許法36条6項2号)について 審判請求時の補正により,「焼結促進剤としての有機塩基化合物」という記載は「有機塩基化合物である焼結促進剤」に補正されており,原査定の理由2を維持することはできない。 第7 結言 以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2021-02-24 |
出願番号 | 特願2017-534361(P2017-534361) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H01L)
P 1 8・ 537- WY (H01L) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 綿引 隆、今井 聖和 |
特許庁審判長 |
恩田 春香 |
特許庁審判官 |
小田 浩 小川 将之 |
発明の名称 | 焼結性接合材料およびそれを用いた半導体装置 |
代理人 | 松谷 道子 |
代理人 | 森住 憲一 |
代理人 | 松谷 道子 |
代理人 | 森住 憲一 |