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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B44C
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 B44C
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 B44C
管理番号 1371485
審判番号 不服2020-4761  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-04-07 
確定日 2021-03-16 
事件の表示 特願2015-195221「水圧転写フィルム及びこれを用いた加飾成形品」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 4月 6日出願公開、特開2017- 65166、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2015-195221号(以下、「本件出願」という。)は、平成27年9月30日を出願日とする出願であって、その手続等の経緯は、以下のとおりである。

令和元年 6月25日付け:拒絶理由通知書
令和元年 8月30日 :意見書
令和元年 8月30日 :手続補正書
令和元年12月20日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和2年 4月 7日 :審判請求書
令和2年 5月13日 :手続補正書(方式)
令和2年10月30日付け:拒絶理由通知書
(この拒絶理由通知書によって通知された拒絶の理由を、以下、「当審拒絶理由」という。)
令和2年12月 7日 :意見書
令和2年12月 7日 :手続補正書
(この手続補正書による補正を、以下、「本件補正」という。)

2 原査定の概要
原査定の拒絶の理由は、概略、本件出願の請求項1?6、8及び9に係る発明(令和元年8月30日にした手続補正後のもの)は、[A]本件出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、特開2015-66786号公報(以下「引用文献1」という。)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、及び、[B]引用文献1に記載された発明に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由は、概略、本件出願の請求項1?9の記載は、特許を受けようとする発明が、発明の詳細な説明に記載したものであるということができないから、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない、というものである。

4 本願発明
本件出願の請求項1?9に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明9」という。)は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。
「 【請求項1】
少なくとも、水溶性フィルムと、部分的に設けられた意匠層と、プライマー層とをこの順に有する水圧転写フィルムであって、
前記意匠層は、艶消し剤を含んでおり、
前記プライマー層は、アクリルポリマーポリオールを含む樹脂組成物により形成されており、
前記プライマー層は、部分的に設けられており、
前記プライマー層が形成されている部分と前記プライマー層が形成されていない部分は、前記意匠層が形成されている部分の上に形成されている、水圧転写フィルム。
【請求項2】
前記プライマー層を形成する樹脂組成物は、ウレタン樹脂をさらに含む、請求項1に記載の水圧転写フィルム。
【請求項3】
前記意匠層上において、前記プライマー層が形成されている部分と形成されていない部分とがパターン状に形成されている、請求項1または2に記載の水圧転写フィルム。
【請求項4】
前記プライマー層の前記水溶性フィルムとは反対側に、絵柄層をさらに有する、請求項1?3のいずれかに記載の水圧転写フィルム。
【請求項5】
前記絵柄層が木目模様を形成しており、前記意匠層が、前記木目模様の導管部分を形成している、請求項4に記載の水圧転写フィルム。
【請求項6】
前記プライマー層は、アクリルポリマーポリオールを含む樹脂組成物の塗布又は印刷によりパターン状に形成されている、請求項1?5のいずれかに記載の水圧転写フィルム。
【請求項7】
以下の工程(A)及び(B)を順に有する、水圧転写フィルムの製造方法。
工程(A)水溶性フィルムの表面上に、艶消し剤を含む意匠層を部分的に積層する工程
工程(B)前記意匠層の上から、アクリルポリマーポリオールを含む樹脂組成物により形成されたプライマー層を部分的に積層する工程
前記工程(B)において、前記プライマー層が形成されている部分と前記プライマー層が形成されていない部分は、前記意匠層が形成されている部分の上に形成する。
【請求項8】
下記の工程(a)?(d)を順に有する加飾成形品の製造方法。
工程(a)請求項1?7のいずれかに記載の水圧転写フィルムを、水溶性フィルム側が下向きで水面側に向くように水面に浮遊させる工程
工程(b)前記水圧転写フィルムの前記プライマー層側に活性剤組成物を塗布する活性剤塗布工程
工程(c)該工程(a)及び(b)を経た、水面に浮遊している水圧転写フィルム上に被転写体を押圧し、水圧によって前記プライマー層側を被転写体の被転写面に密着させる工程
工程(d)該被転写体の被転写面に密着した水溶性フィルムを除去する脱膜工程
【請求項9】
少なくとも、成形品の表面上に、プライマー層と、部分的に設けられた意匠層とをこの順に有する加飾成形品であって、
前記意匠層は、艶消し剤を含んでおり、
前記プライマー層は、アクリルポリマーポリオールを含む樹脂組成物により形成されており、
前記プライマー層は、部分的に形成されており、
前記プライマー層が形成されている部分と前記プライマー層が形成されていない部分は、前記意匠層が形成されている部分の上に形成されている、加飾成形品。」

第2 当合議体の判断
1 引用文献の記載及び引用発明
(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1(特開2015-66786号公報)は、本件出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ、そこには、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定及び判断等に活用した箇所を示す。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、水圧転写フィルム用活性剤組成物、及びこれを用いた加飾成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の消費者志向の変化に伴い、自動車内装材をはじめとし、建材、家電製品、OA機器などの各種部材に装飾する意匠には、多様化、高級化が求められている。このような各種部材への加飾方法は様々なものが知られているが、これらの部材は複雑な三次元形状を有するものが多いことから、複雑な三次元形状に適する水圧転写フィルムを用いた水圧転写法が好適に用いられている。
…中略…
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、水圧転写法において水圧転写フィルムを活性化させる活性剤組成物に着目し、様々な水圧転写フィルムに対応し、かつ該転写フィルムの優れた付きまわり性が得られる活性剤組成物、及びこれを用いた加飾成形品の製造方法を提供することを目的とする。
…中略…
【発明の効果】
【0009】
本発明の活性剤組成物によれば、様々な水圧転写フィルムに対応し、かつ該転写フィルムの優れた付きまわり性が得られ、また該活性剤組成物を用いた加飾成形品の製造方法により優れた外観を有する加飾成形品が得られる。」

イ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
〔水圧転写フィルム用活性剤組成物〕
水圧転写フィルム用活性剤組成物は、水圧転写フィルムにおける、被転写体に転写される意匠層の少なくとも一部を溶解又は膨潤して軟化(活性化)しうる組成物であり、また後述する被転写体の表面を溶解させる機能を有する組成物である。
…中略…
【0024】
水溶性フィルム1としては、水溶性又は水膨潤性を有するものであれば良く、従来水圧転写フィルムにおいて一般に使用されている水溶性フィルムの中から、適宜選択して用いることができる。
…中略…
【0091】
〔水圧転写フィルムD〕
本発明の活性剤組成物が好適に用いられる水圧転写フィルムとしては、水溶性フィルム上に光輝性顔料を含む意匠層と樹脂層とを順に有しており、少なくとも該樹脂層の意匠層の側とは反対側の面に凹凸形状を有し、該樹脂層がアクリルポリマーポリオールを含む樹脂組成物及び/又はその硬化物からなるものが好ましく挙げられる(以後、水圧転写フィルムDと称する場合がある。)。以下、水圧転写フィルムDについて、図7及び8を用いて説明する。
【0092】
図7及び8は本発明の活性剤組成物が好適に用いられる水圧転写フィルムDの構成の一例を示す概略断面図である。水圧転写フィルムDは、水溶性フィルム1、光輝性顔料を含む意匠層3、及び樹脂層2を順に有しており、該意匠層3の樹脂層2とは反対側の面に凹凸形状5を有しており、該樹脂層2がアクリルポリマーポリオールを含む樹脂組成物及び/又はその硬化物からなるものである。また、樹脂層2は、2層以上の複層構成であることが好ましく、図8に示される水圧転写フィルムDは、樹脂層2a及び2bの2層の樹脂層2を有している。
【0093】
水圧転写フィルムDの水溶性フィルム1は、水圧転写フィルムAと同様のものが好ましく挙げられる。
水圧転写フィルムDの意匠層3は、光輝性を発現し、水溶性フィルム1と樹脂層2との間に設けられる層であり、好ましくはバインダー樹脂と光輝性顔料を含む光輝性インキにより形成される層である。意匠層3を形成する光輝性インキは、上記の水圧転写フィルムCの意匠層3を形成する光輝性インキと同様のものが好ましく挙げられる。また、意匠層3の模様、厚さも、上記の水圧転写フィルムCの意匠層3と同様である。
【0094】
水圧転写フィルムDの樹脂層2は、意匠層3の上に設けられ、該意匠層3の側とは反対側の面に凹凸形状5を有し、かつ樹脂層2がアクリルポリマーポリオールを含む樹脂組成物及び/又はその硬化物からなる層である。このような構成の樹脂層2を設けることにより、水圧転写フィルムの製造時に凹凸形状が良好に賦型しうる賦型性が得られ、また水圧転写時に意匠層3が伸展しすぎるのを抑制し、凹凸形状5に対応する凹凸感発現部を形成して凹凸感を保持することで、光輝性と高級感とを備える意匠性が得られる。
【0095】
本発明において、樹脂層2は、樹脂成形品に転写された後の意匠層3の裏面側に位置する層となり、該意匠層3が樹脂層2を通して視認されることがない。よって、透明、半透明や不透明、あるいは着色の有無は問わず、所望の意匠に応じて選択することができる。また、樹脂層2は単層構成でもよく、二層以上の複層構成であってもよい。
【0096】
水圧転写フィルムDにおいて、凹凸形状5は、少なくとも樹脂層2の意匠層3の側とは反対側の面に存在する。水圧転写フィルムDは、凹凸形状5を有し、かつ水圧転写時に該凹凸形状5に対応する凹凸感発現部を形成して凹凸感を保持することで、光輝性に加えて高級感を発現しうる。凹凸形状5は、図7に示されるように、凹部が樹脂層2内に留まるものであってもよいし、意匠層3、更には水溶性フィルム1にまで至るものであってもよい。また、図8に示されるように、樹脂層2が二層以上の複層構成である場合、凹部は樹脂層2b内に留まるものであってもよいし、樹脂層2a、意匠層3、更には水溶性フィルム1にまで至るものであってもよい。優れた賦型性や意匠性を得る観点から、凹凸形状5は意匠層3及び水溶性フィルム1まで至るものであることが好ましい。
…中略…
【0100】
樹脂層2は、2層以上の複層構成であることが好ましい。複層構成とすることで、賦型性や意匠性を更に向上させることができる。賦型性や意匠性に加え、転写加工性(追従性)を考慮すると、2?4層であることが好ましく、2?3層であることがより好ましく、特に好ましくは2層である。また、水圧転写時の活性剤の塗布の時間を確保し、活性剤の樹脂層2や意匠層3への浸透の度合いを調整しやすく、より好適に被転写体に転写することができる。
【0101】
樹脂層2が複層構成の場合、最表面の樹脂層2は、アルキッド樹脂と樹脂1Dとしてニトロセルロース樹脂とを含む樹脂組成物により形成されており、最表面以外の樹脂層2はアクリルポリオール樹脂を含む樹脂組成物及び/又はその硬化物からなるものであることが好ましい。最表面の樹脂層2と、最表面以外の樹脂層2との組み合わせによる相乗効果により、優れた賦型性や意匠性、及び転写加工性(追従性)が得られる。
…中略…
【0103】
水圧転写フィルムDは、例えば、工程(A)水溶性フィルム1上に、光輝性顔料を含む意匠層3を積層する工程、工程(B)該意匠層3上に、アクリルポリマーポリオールを含む樹脂組成物及び/又はその硬化物からなる樹脂層2を積層する工程、及び工程(C)該樹脂層2の該意匠層3の側とは反対側の面からエンボス加工を施し、少なくとも該樹脂層2の該反対側の面に凹凸形状5を設ける工程により製造することができる。
…中略…
【0107】
〔加飾成形品の製造方法〕
本発明の加飾成形品の製造方法は、工程(a)水溶性フィルム上に、意匠層を少なくとも有する水圧転写フィルムを、該水溶性フィルム側が水面に向くように水面に浮遊させる前又は後に、該意匠層側から、少なくともイソホロンを含む水圧転写フィルム用活性剤組成物…中略…を塗布する活性剤組成物塗布工程、工程(b)該工程(a)を経た水圧転写フィルム上に被転写体を押圧し、水圧によって該意匠層側の面と被転写体の被転写面とを密着させる工程、及び工程(c)該被転写体の被転写面に密着した水溶性フィルムを除去する脱膜工程を順に有することを特徴とするものである。また、必要に応じて工程(d)被転写体の被転写面上にトップコート層を形成する工程を有してもよい。
…中略…
【0120】
また、図10は本発明の加飾成形品の製造方法により得られる加飾成形品の構成の一例を示す概略断面図であり、水圧転写フィルムDを用いた際の加飾成形品を示すものである。本発明の加飾成形品の製造方法により得られる加飾成形品20は、被転写体21、樹脂層2、及び意匠層3を順に有しており、樹脂層2の凹凸形状5に対応する凹凸感発現部23を有することで、凹凸感が保持されており、これにより加飾成形品は優れた光輝性と高級感とを備える意匠性を有するものとなっている。」

ウ 「【図7】


【図8】


…中略…
【図10】



(2)引用発明
ア 引用文献1の【0092】及び【図8】には、「水溶性フィルム1、光輝性顔料を含む意匠層3、及び樹脂層2を順に有しており、意匠層3の樹脂層2とは反対側の面に凹凸形状5を有して」いる「水圧転写フィルムD」であって、「水圧転写フィルムDは、樹脂層2a及び樹脂層2bの2層の樹脂層2を有して」いるものが記載されている。

イ ここで、上記「水溶性フィルム1」は、【0093】の「水圧転写フィルムDの水溶性フィルム1は、水圧転写フィルムAと同様のものが好ましく挙げられる。」という記載を考慮すると、「水溶性又は水膨潤性を有するものであ」(【0024】)る。また、上記「意匠層3」は、【0093】に記載のとおり、「光輝性を発現し、水溶性フィルム1と樹脂層2との間に設けられる層であ」る。さらに、上記「樹脂層2」については、【0101】の記載から、「樹脂層2が複層構成の場合、最表面の樹脂層2は、アルキッド樹脂と」「ニトロセルロース樹脂とを含む樹脂組成物により形成されており、最表面以外の樹脂層2はアクリルポリオール樹脂を含む樹脂組成物」「の硬化物からなるもの」を把握できる。

ウ 上記ア及びイより、引用文献1には、「水圧転写フィルム」として、次の発明が記載されていると認められる(以下、「引用発明」という。)。

「 水溶性フィルム1、光輝性顔料を含む意匠層3、及び樹脂層2を順に有しており、意匠層3の樹脂層2とは反対側の面に凹凸形状5を有している水圧転写フィルムDであって、
水圧転写フィルムDは、樹脂層2a及び樹脂層2bの2層の樹脂層2を有し、
水溶性フィルム1は、水溶性又は水膨潤性を有するものであり、
意匠層3は光輝性を発現し、水溶性フィルム1と樹脂層2との間に設けられる層であり、
樹脂層2は、樹脂層2が複層構成の場合、最表面の樹脂層2は、アルキッド樹脂とニトロセルロース樹脂とを含む樹脂組成物により形成されており、最表面以外の樹脂層2はアクリルポリオール樹脂を含む樹脂組成物の硬化物からなるものである、
水圧転写フィルムD。」

2 対比及び判断
(1)対比
本願発明1と引用発明を対比すると以下のとおりとなる。
ア 水溶性フィルム
引用発明の「水溶性フィルム」は、「水溶性又は水膨潤性を有するものであ」る。
ここで、本件出願の明細書の【0020】には、「水溶性フィルムとしては、水溶性又は水膨潤性を有するものであればよく」と記載されている。
そうしてみると、引用発明の「水溶性フィルム」は、本願発明1の「水溶性フィルム」に相当する。

イ 水圧転写フィルム
引用発明の「水圧転写フィルム」は、その文言上の意味から、本願発明1の「水圧転写フィルム」に相当する。また、引用発明の「水圧転写フィルム」と本願発明1の「水圧転写フィルム」は、「少なくとも、水溶性フィルム」「を」「有する」点で共通する。

(2)一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明1と引用発明は、次の構成で一致する。
「少なくとも、水溶性フィルムを有する水圧転写フィルム。」

イ 相違点
本願発明1と引用発明は、次の点で相違する。
(相違点1)
「水圧転写フィルム」が、本願発明1は、「少なくとも、水溶性フィルムと、部分的に設けられた意匠層と、プライマー層とをこの順に有する水圧転写フィルム」であるのに対し、引用発明は、上記下線を付した構成を具備しない、又は具備するとは特定されていない点。

(相違点2)
「意匠層」が、本願発明1は、「艶消し剤を含んで」いるのに対し、引用発明は、この構成を具備しない、又は具備するとは特定されていない点。

(相違点3)
「プライマー層」が、本願発明1は、「アクリルポリマーポリオールを含む樹脂組成物により形成されており」、「部分的に設けられており」、「前記プライマー層が形成されている部分と前記プライマー層が形成されていない部分は、前記意匠層が形成されている部分の上に形成されている」のに対し、引用発明は、これらの構成を具備しない、又は、具備するとは特定されていない点。

(3)判断
29条1項3号について
本願発明1と引用発明は、前記(2)イで述べた相違点において相違する。
したがって、本願発明1と引用発明は、同一ではない。

29条2項について
事案に鑑みて、相違点3について検討する。
引用発明の「水圧転写フィルムD」における各層の順番及び材料を考慮すると、引用発明の各層のうち、本願発明の「プライマー層」に最も類似する層は、「最表面以外の樹脂層2」である。
しかしながら、引用文献1には、「最表面以外の樹脂層2」が、部分的に設けられている構成は記載されていない。また、引用発明の「意匠層3」は、どちらかといえば、請求項4に記載の「絵柄層」に対応するものであるが、仮に、引用発明の「意匠層3」を本願発明1の「意匠層」に対応させるとしても、引用文献1には、引用発明の「最表面以外の樹脂層2」が形成されていない部分が、「意匠層3」が形成されている部分の上に形成されている構成は、記載されていない。かえって、引用文献1の図8を参照すると、「最表面以外の樹脂層2」(樹脂層2a)は、部分的に設けられておらず、また、「意匠層3」の上は、全て「最表面以外の樹脂層2」によって覆われている。
加えて、引用文献1の図10は、「水圧転写フィルムDを用いた際の加飾成形品を示すものである」ところ、「意匠層3」の上は、全て「最表面以外の樹脂層2」によって覆われている。そして、図10のような加飾成形品を得るために、引用発明の「最表面以外の樹脂層2」を、部分的に設ける必要性(動機付け)があるとはいえない。
ところで、引用発明の「凹凸形状5」について、引用文献1の【0096】には、「図8に示されるように、樹脂層2が二層以上の複層構成である場合、凹部は樹脂層2b内に留まるものであってもよいし、樹脂層2a、意匠層3、更には水溶性フィルム1にまで至るものであってもよい」と記載されている。また、図8からは、比較的急峻な「凹凸形状5」が看取される。しかしながら、引用発明の「凹凸形状5」は、「エンボス加工」(【0106】)によって形成されるものであり、「最表面以外の樹脂層2」を切削等により取り除くことにより形成されるものではない。製造工程を考慮しても、「最表面以外の樹脂層2」が部分的に設けられたり、「最表面以外の樹脂層2」が形成されていない部分が、「意匠層3」が形成されている部分の上に形成される構成には到らない。
さらに加えて、引用文献1の【0094】には、「樹脂層2がアクリルポリマーポリオールを含む樹脂組成物及び/又はその硬化物からなる層である」こと、及び「このような構成の樹脂層2を設けることにより」、「水圧転写時に意匠層3が伸展しすぎるのを抑制」されることが記載されている。このような記載に接した当業者ならば、引用発明の「最表面以外の樹脂層2」は、「意匠層3」の全面を覆うように設けた方が、「意匠層3」の伸展を均一に抑制できることに気付くといえるから、引用発明において、「意匠層3」が形成されている部分の上に「最表面以外の樹脂層2」が形成されていない部分を設けることには、阻害要因があるといえる。

(4)小括
以上のとおりであるから、本願発明1は、引用文献1に記載された発明と同一ではなく、また、たとえ当業者といえども、引用文献1に記載された発明に基づいて、容易に発明をすることができたものであるということもできない。

(5)請求項2?請求項9について
本件出願の請求項2?請求項6に係る発明は、本願発明1の構成に対して、さらに他の発明特定事項を付加してなる「水圧転写フィルム」であるから、いずれも、少なくとも上記相違点3に係る本願発明1の構成を具備する。
そうしてみると、これら発明についても、引用文献1に記載された発明と同一ではなく、また、たとえ当業者といえども、引用文献1に記載された発明に基づいて、容易に発明をすることができたものであるということができない。

本件出願の請求項7に係る発明は、少なくとも、「工程(B)前記意匠層の上から、アクリルポリマーポリオールを含む樹脂組成物により形成されたプライマー層を部分的に積層する工程」であって、「前記工程(B)において、前記プライマー層が形成されている部分と前記プライマー層が形成されていない部分は、前記意匠層が形成されている部分の上に形成する」工程を具備する、「水圧転写フィルムの製造方法」の発明である。
そうしてみると、本件出願の請求項7に係る発明は、少なくとも上記相違点3に係る本願発明1の構成に対応する構成を具備するものである。
したがって、本願発明1と同様の理由により、本件出願の請求項7に係る発明も、引用文献1に記載された発明と同一ではなく、また、たとえ当業者といえども、引用文献1に記載された発明に基づいて、容易に発明をすることができたものであるということができない。

本件出願の請求項8及び請求項9に係る発明も、少なくとも上記相違点3に係る本願発明1の構成に対応する構成を具備する「加飾成形品の製造方法」及び「加飾成形品」の発明である。
したがって、本願発明1と同様の理由により、本件出願の請求項8及び請求項9に係る発明も、引用文献1に記載された発明と同一ではなく、また、たとえ当業者といえども、引用文献1に記載された発明に基づいて、容易に発明をすることができたものであるということができない。

第3 原査定の拒絶の理由について
前記「第2」で述べたとおりであるから、原査定の拒絶の理由によっては、本件出願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由(特許法36条6項1号)について
本件補正により、当審拒絶理由は解消した。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の拒絶の理由及び当合議体が通知した拒絶の理由によっては、本件出願を拒絶することはできない。
また、他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。


 
審決日 2021-02-26 
出願番号 特願2015-195221(P2015-195221)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (B44C)
P 1 8・ 121- WY (B44C)
P 1 8・ 537- WY (B44C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 野田 定文  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 関根 洋之
福村 拓
発明の名称 水圧転写フィルム及びこれを用いた加飾成形品  
代理人 水谷 馨也  
代理人 田中 順也  

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