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審決分類 |
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 H02M 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02M |
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管理番号 | 1371513 |
審判番号 | 不服2020-3310 |
総通号数 | 256 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-04-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-03-10 |
確定日 | 2021-02-25 |
事件の表示 | 特願2015-182870「電力変換装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 3月23日出願公開,特開2017- 60292〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成27年9月16日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。 平成30年 8月 9日 :出願審査請求書の提出 令和 1年 6月25日付け:拒絶理由通知 令和 1年 8月22日 :意見書,手続補正書の提出 令和 1年11月29日付け:拒絶査定 令和 2年 3月10日 :審判請求書,手続補正書の提出 令和 2年 4月 6日 :前置報告書 第2 令和2年3月10日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和2年3月10日にされた手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について(補正の内容) (1)本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正により,特許請求の範囲の請求項1?6の記載は,次のとおり補正された。(下線部は,補正箇所である。以下,この特許請求の範囲に記載された請求項を「補正後の請求項」という。) 「 【請求項1】 電力変換用のパワー半導体モジュールと、 前記パワー半導体モジュールを駆動する回路部品を実装した制御回路基板と、 前記パワー半導体モジュール及び前記制御回路基板を収納する金属製の筐体と、 前記制御回路基板の前記回路部品が実装されていない位置の裏面である被保持面及び前記筐体の保持面を対向して前記制御回路基板を前記筐体の内部に保持する基板保持部と、 を備え、 前記基板保持部は、 前記被保持面に形成した第1ランドと、 前記第1ランドと前記保持面とをはんだ接合するはんだ部と、を備えており、 前記被保持面に形成された前記第1ランドの外周形状は、前記保持面の外周形状より大きな面積で形成されていることを特徴とする電力変換装置。 【請求項2】 前記基板保持部は、ねじ部材の締め付けで前記制御回路基板を前記筐体に固定するねじ締結手段を備えていることを特徴とする請求項1記載の電力変換装置。 【請求項3】 前記制御回路基板の前記回路部品が実装されている位置の裏面に形成された第2ランドと、 前記筐体の前記制御回路基板の前記回路部品が実装されている位置の裏面に対向する位置に設けた放熱部と、 前記第2ランドと前記放熱部とをはんだ接合するはんだ部と、を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の電力変換装置。 【請求項4】 前記筐体の前記制御回路基板の前記回路部品が実装されている位置の裏面に対向する位置に設けた放熱部と、 前記裏面及び前記放熱部の間に介在した第2熱伝導部材と、を備えていることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の電力変換装置。 【請求項5】 前記第2熱伝導部材は、熱伝導グリスであることを特徴とする請求項4記載の電力変換装置。 【請求項6】 前記第2熱伝導部材は、熱伝導シートであることを特徴とする請求項4記載の電力変換装置。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の,令和1年8月22日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?8の記載は次のとおりである。(以下,この特許請求の範囲に記載された請求項を「補正前の請求項」という。) 「 【請求項1】 電力変換用のパワー半導体モジュールと、 前記パワー半導体モジュールを駆動する回路部品を実装した制御回路基板と、 前記パワー半導体モジュール及び前記制御回路基板を収納する金属製の筐体と、 前記制御回路基板の前記回路部品が実装されていない位置の裏面である被保持面及び前記筐体の保持面を対向して前記制御回路基板を前記筐体の内部に保持する基板保持部と、 を備え、 前記基板保持部は、 前記保持面及び前記被保持面の間に介在された第1熱伝導部材と、 前記被保持面及び前記保持面の間で前記第1熱伝導部材が密着するように、ねじ部材の締め付けにより前記制御回路基板を前記筐体に固定するねじ締結手段と、を備えているとともに、 前記制御回路基板の前記回路部品が実装されている位置の裏面に形成された第1ランドと、 前記筐体の前記制御回路基板の前記回路部品が実装されている位置の裏面に対向する位置に設けた放熱部と、 前記第1ランドと前記放熱部とをはんだ接合するはんだ部と、を備えていることを特徴とする電力変換装置。 【請求項2】 電力変換用のパワー半導体モジュールと、 前記パワー半導体モジュールを駆動する回路部品を実装した制御回路基板と、 前記パワー半導体モジュール及び前記制御回路基板を収納する金属製の筐体と、 前記制御回路基板の前記回路部品が実装されていない位置の裏面である被保持面及び前記筐体の保持面を対向して前記制御回路基板を前記筐体の内部に保持する基板保持部と、 を備え、 前記基板保持部は、 前記保持面及び前記被保持面の間に介在された第1熱伝導部材と、 前記被保持面及び前記保持面の間で前記第1熱伝導部材が密着するように、ねじ部材の締め付けにより前記制御回路基板を前記筐体に固定するねじ締結手段と、を備えているとともに、 前記筐体の前記制御回路基板の前記回路部品が実装されている位置の裏面に対向する位置に設けた放熱部と、 前記裏面及び前記放熱部の間に介在した第2熱伝導部材と、を備えていることを特徴とする電力変換装置。 【請求項3】 電力変換用のパワー半導体モジュールと、 前記パワー半導体モジュールを駆動する回路部品を実装した制御回路基板と、 前記パワー半導体モジュール及び前記制御回路基板を収納する金属製の筐体と、 前記制御回路基板の前記回路部品が実装されていない位置の裏面である被保持面及び前記筐体の保持面を対向して前記制御回路基板を前記筐体の内部に保持する基板保持部と、 を備え、 前記基板保持部は、 前記被保持面で開口するように前記制御回路基板の板厚方向に連通して形成されたビアと、 前記被保持面側の開口周縁で形成されたランドと、 前記ランドと前記保持面とをはんだ接合するはんだ部と、 前記ビアを通過したねじ部材の締め付けで前記制御回路基板を前記筐体に固定するねじ締結手段と、を備えているとともに、 前記制御回路基板の前記回路部品が実装されている位置の裏面に形成された第1ランドと、 前記筐体の前記制御回路基板の前記回路部品が実装されている位置の裏面に対向する位置に設けた放熱部と、 前記第1ランドと前記放熱部とをはんだ接合するはんだ部と、を備えていることを特徴とする電力変換装置。 【請求項4】 電力変換用のパワー半導体モジュールと、 前記パワー半導体モジュールを駆動する回路部品を実装した制御回路基板と、 前記パワー半導体モジュール及び前記制御回路基板を収納する金属製の筐体と、 前記制御回路基板の前記回路部品が実装されていない位置の裏面である被保持面及び前記筐体の保持面を対向して前記制御回路基板を前記筐体の内部に保持する基板保持部と、 を備え、 前記基板保持部は、 前記被保持面で開口するように前記制御回路基板の板厚方向に連通して形成されたビアと、 前記被保持面側の開口周縁で形成された第2ランドと、 前記第2ランドと前記保持面とをはんだ接合するはんだ部と、 前記ビアを通過したねじ部材の締め付けで前記制御回路基板を前記筐体に固定するねじ締結手段と、を備えているとともに、 前記筐体の前記制御回路基板の前記回路部品が実装されている位置の裏面に対向する位置に設けた放熱部と、 前記裏面及び前記放熱部の間に介在した第2熱伝導部材と、を備えていることを特徴とする電力変換装置。 【請求項5】 前記第1熱伝導部材は、熱伝導グリスであることを特徴とする請求項1又は2記載の電力変換装置。 【請求項6】 前記第1熱伝導部材は、熱伝導シートであることを特徴とする請求項1又は2記載の電力変換装置。 【請求項7】 前記第2熱伝導部材は、熱伝導グリスであることを特徴とする請求項2又は4記載の電力変換装置。 【請求項8】 前記第2熱伝導部材は、熱伝導シートであることを特徴とする請求項2又は4記載の電力変換装置。」 (3)補正事項 本件補正前の請求項1?8のうち,独立した請求項は請求項1?4である。そこで,本件補正後の請求項1と,本件補正前の請求項1?4とをそれぞれ対比すると,以下の補正事項を含むものである。 ア 本件補正後の請求項1と本件補正前の請求項1とを対比すると, 本件補正前の請求項1の, 「前記制御回路基板の前記回路部品が実装されている位置の裏面に形成された第1ランド」, 「前記第1ランドと前記放熱部とをはんだ接合するはんだ部」, を,それぞれ本件補正後の請求項1の, 「前記被保持面に形成した第1ランド」, 「前記第1ランドと前記保持面とをはんだ接合するはんだ部」, と補正し, 本件補正により,「前記被保持面に形成された前記第1ランドの外周形状は、前記保持面の外周形状より大きな面積で形成されている」, との限定を付加するとともに, 本件補正前の請求項1の, 「前記保持面及び前記被保持面の間に介在された第1熱伝導部材」, 「前記被保持面及び前記保持面の間で前記第1熱伝導部材が密着するように、ねじ部材の締め付けにより前記制御回路基板を前記筐体に固定するねじ締結手段」, 「前記筐体の前記制御回路基板の前記回路部品が実装されている位置の裏面に対向する位置に設けた放熱部」, との発明特定事項を削除する補正事項を含む。 イ 本件補正後の請求項1と本件補正前の請求項2とを対比すると, 本件補正により, 「前記被保持面に形成した第1ランドと、 前記第1ランドと前記保持面とをはんだ接合するはんだ部と、を備えており、 前記被保持面に形成された前記第1ランドの外周形状は、前記保持面の外周形状より大きな面積で形成されている」 との限定を付加するとともに, 本件補正前の請求項2の, 「前記保持面及び前記被保持面の間に介在された第1熱伝導部材」, 「前記被保持面及び前記保持面の間で前記第1熱伝導部材が密着するように、ねじ部材の締め付けにより前記制御回路基板を前記筐体に固定するねじ締結手段」, 「前記筐体の前記制御回路基板の前記回路部品が実装されている位置の裏面に対向する位置に設けた放熱部」, 「前記裏面及び前記放熱部の間に介在した第2熱伝導部材」, との発明特定事項を削除する補正事項を含む。 ウ 本件補正後の請求項1と本件補正前の請求項3と対比すると, 本件補正前の請求項3の, 「前記制御回路基板の前記回路部品が実装されている位置の裏面に形成された第1ランド」, 「前記第1ランドと前記放熱部とをはんだ接合するはんだ部」, を,それぞれ本件補正後の請求項1の, 「前記被保持面に形成した第1ランド」, 「前記第1ランドと前記保持面とをはんだ接合するはんだ部」, と補正し, 本件補正により,「前記被保持面に形成された前記第1ランドの外周形状は、前記保持面の外周形状より大きな面積で形成されている」, との限定を付加するとともに, 本件補正前の請求項3の, 「前記被保持面で開口するように前記制御回路基板の板厚方向に連通して形成されたビア」, 「前記被保持面側の開口周縁で形成されたランド」, 「前記ランドと前記保持面とをはんだ接合するはんだ部」, 「前記ビアを通過したねじ部材の締め付けで前記制御回路基板を前記筐体に固定するねじ締結手段」, 「前記筐体の前記制御回路基板の前記回路部品が実装されている位置の裏面に対向する位置に設けた放熱部」, との発明特定事項を削除する補正事項を含む。 エ 本件補正後の請求項1と本件補正前の請求項4と対比すると, 本件補正により, 「前記被保持面に形成した第1ランドと、 前記第1ランドと前記保持面とをはんだ接合するはんだ部と、を備えており、 前記被保持面に形成された前記第1ランドの外周形状は、前記保持面の外周形状より大きな面積で形成されている」 との限定を付加するとともに, 本件補正前の請求項4の 「前記被保持面で開口するように前記制御回路基板の板厚方向に連通して形成されたビア」, 「前記被保持面側の開口周縁で形成された第2ランド」, 「前記第2ランドと前記保持面とをはんだ接合するはんだ部」, 「前記ビアを通過したねじ部材の締め付けで前記制御回路基板を前記筐体に固定するねじ締結手段」, 「前記筐体の前記制御回路基板の前記回路部品が実装されている位置の裏面に対向する位置に設けた放熱部」, 「前記裏面及び前記放熱部の間に介在した第2熱伝導部材」, との発明特定事項を削除する補正事項を含む。 2 補正の適否 (1)上記「1(3)補正事項」で示したとおり,本件補正後の請求項1は,本件補正前の請求項1?4とそれぞれ対比すると,いずれの補正前の請求項1?4に対しても,補正前の請求項に特定されていた発明特定事項を削除する補正事項を含むものである。 してみると,本件補正は,本件補正前の請求項1?4のうち,いずれかの請求項について,その発明特定事項を限定的に減縮するものではないから,特許請求の範囲の減縮を目的とする補正とはいえない。 また,本件補正が,請求項の削除,誤記の訂正,または明瞭でない記載の釈明のいずれかを目的とするものでないことは明らかである。 (2)したがって,本件補正は,特許法第17条の2第5項各号に掲げる事項を目的とするものではないから,特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たしていない。 3 補正却下の決定についてのむすび 上記「2 補正の適否」で検討したとおり,本件補正は,特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たしていないから,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明 令和2年3月10日にされた手続補正は,上記「第2 令和2年3月10日にされた手続補正についての補正の却下の決定」で検討したとおり却下されたので,本願の請求項に係る発明は,令和1年8月22日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項2に係る発明(以下「本願発明」という。)は,請求項2に記載された以下のとおりのものである(再掲)。 「電力変換用のパワー半導体モジュールと、 前記パワー半導体モジュールを駆動する回路部品を実装した制御回路基板と、 前記パワー半導体モジュール及び前記制御回路基板を収納する金属製の筐体と、 前記制御回路基板の前記回路部品が実装されていない位置の裏面である被保持面及び前記筐体の保持面を対向して前記制御回路基板を前記筐体の内部に保持する基板保持部と、 を備え、 前記基板保持部は、 前記保持面及び前記被保持面の間に介在された第1熱伝導部材と、 前記被保持面及び前記保持面の間で前記第1熱伝導部材が密着するように、ねじ部材の締め付けにより前記制御回路基板を前記筐体に固定するねじ締結手段と、を備えているとともに、 前記筐体の前記制御回路基板の前記回路部品が実装されている位置の裏面に対向する位置に設けた放熱部と、 前記裏面及び前記放熱部の間に介在した第2熱伝導部材と、を備えていることを特徴とする電力変換装置。」 第4 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は,この出願の請求項2に係る発明は,その出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。 引用文献1:特開2004-72959号公報 第5 引用文献の記載及び引用発明 1 引用文献1の記載事項1 (1)引用文献1には,関連する図面とともに,次の記載がある。(なお,下線部は当審で付与した。以下同様。) A 「【0010】 インバータ装置200は、熱伝導性が良好な材料、例えばアルミニウム合金で形成されたケース10及びケースふた11で形成されると共に、ケース10に冷却水路18が一体形成された密閉容器内に、ケース10の上にパワーモジュール部17が、この上に制御部を構成する配線基板13が積み重なるように、パワーモジュール部17及び制御部を収納したものであり、パワーモジュール部17の発熱がケース10内の冷却水路18に伝熱されるように構成されているものである。密閉容器は、エンジンルーム内に入り込む雨水や塵埃の浸入を防ぐため、完全に密閉されていることが望ましい。」 B 「【0012】 図5はインバータ装置200の回路構成を示す。インバータ装置200は、そのパワーモジュール部17に内蔵されたパワー半導体素子のスイッチング動作を制御し、バッテリ202から供給された直流電力を交流電力に変換する。交流電力は電動機201に供給される。図5において、バッテリ202から供給された直流電力は正極端子21a,負極端子21bを通してインバータ装置200に供給される。インバータ装置200に供給された直流電力は、正極端子21aと負極端子21bに接続されたコンデンサ16に一時的に蓄えられ、パワー半導体素子X1?X6で構成され、正極端子21aと負極端子21bに接続された電力変換部で交流電力に変換される。交流電力は電動機接続端子20を通して電動機201に供給される。これにより、電動機201は駆動される。制御部はパワー半導体素子X1?X6のスイッチング動作を制御する制御用素子15や制御用素子15に指令する 演算処理用素子14を含む電子部品,回路を搭載した基板で構成されている。 」 C 「【0015】 冷却ボス10a,10bは冷却水路入口300に近い冷却水路18の上側面に設けられている。冷却ボス10a,10bは、ケース10と同一の材料、例えば熱伝導率が高い銅やアルミニウムの合金で一体形成されている。冷却ボス10a,10bの上面には、パワーモジュール部17を覆うように制御部のプリント配線基板13(以下、単に配線基板13という)が配置されている。プリント配線基板13は冷却ボス10a,10bと接触し、冷却ボス10a,10bにネジ12で固定され、冷却ボス10a,10bによって支持されている。 【0016】 配線基板13には、制御部を構成する演算処理用素子14やパワー半導体制御用素子15を含む電子部品が複数実装されている。配線基板13とパワーモジュール部17との間の電気的配線は、パワーモジュール部17からのびる制御端子19と配線基板13とをはんだ接続で行われる。はんだ接続の代わりにコネクタ接続でも良い。演算処理用素子14は1W程度の自己発熱をするものであり、表面の許容温度が110℃程度のものであり、密閉容器内温度が100℃程度に達する場合には冷却する必要がある。」 D 「【0030】 本実施例の第6実施例を図13に基づいて説明する。本実施例は第1実施例の改良例である。本実施例では、冷却ボス10aと配線基板13との間に弾性力のある熱伝導シート80を挟み込ませている。例えば、厚さ1mm、熱伝導シリコーンを主成分とした熱伝導シート80を冷却ボス10aと配線基板13との間には挟み込ませることにより、両者間隙間を埋め、接触熱抵抗を低減することができる。尚、この他の構成については第1実施例と同様であるので、その説明は省略する。」 E 「図13 」 (上記図13から,インバータ装置200において, 「インバータモジュール17と配線基板13をケース10及びケースふた11で形成される密閉容器の内部に収容する」こと, 「冷却ボス10a,10bが,配線基板13の演算処理用素子14とパワー半導体制御用素子15が実装されていない位置の裏面である被保持面及び冷却ボス10a,10bの保持面を対向して前記配線基板13をケース10及びケースふた11で形成される密閉容器の内部に保持する」こと, 「配線基板13の被保持面及び冷却ボス10a,10bの保持面の間で熱伝導シート80が密着するように,ネジ12により前記配線基板13をケース10及びケースふた11で形成される密閉容器に固定する」こと, が読み取れる。) (2)上記A?Eの,特に下線部の記載から,引用文献1には次の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されているといえる。 「インバータ装置は,アルミニウム合金で形成されたケース及びケースふたで形成される密閉容器内に,ケースの上にパワーモジュール部が,この上に制御部を構成する配線基板が積み重なるように,パワーモジュール部及び制御部を収納したものであり, インバータ装置は,そのパワーモジュール部に内蔵されたパワー半導体素子のスイッチング動作を制御するものであり, 冷却ボス10a,10bの上面には,前記配線基板が配置されており, 前記配線基板には,制御部を構成する演算処理用素子やパワー半導体制御用素子を含む電子部品が複数実装されており, 前記冷却ボス10aと前記配線基板との間に弾性力のある熱伝導シートを挟み込ませており, 前記冷却ボス10a,10bが,前記配線基板の前記演算処理用素子と前記パワー半導体制御用素子が実装されていない位置の裏面である被保持面及び前記冷却ボス10a,10bの保持面を対向して前記配線基板を前記密閉容器の内部に保持しており, 前記配線基板の被保持面及び前記冷却ボス10a,10bの保持面の間で前記熱伝導シートが密着するように,ネジにより前記配線基板を前記密閉容器に固定する, インバータ装置。」 2 引用文献1の記載事項2 (1)上記A?Eに加え,引用文献1には,関連する図面とともに,次の記載がある。 F 「【0038】 本発明の第10実施例を図18に基づいて説明する。本実施例は第1実施例の改良例である。本実施例では、制御用素子15を冷却するための冷却ボス10cを別個に設けている。制御用素子15から冷却ボス10aまでの距離が長い場合がある。このような場合には、冷却ボス10cを制御用素子15の近傍に設けることにより、制御用素子15を効率よく冷却することができる。この場合、配線基板13には、制御用素子用冷却用の伝熱パターンを構成する金属層を設けることが望ましい。」 G 「図18 」 (上記図18から,上記Eの図13に示されるインバータ装置200と同様に, 「インバータモジュール17と配線基板13をケース10及びケースふた11で形成される密閉容器の内部に収容する」こと, 「冷却ボス10a,10bが,配線基板13の演算処理用素子14とパワー半導体制御用素子15が実装されていない位置の裏面である被保持面及び冷却ボス10a,10bの保持面を対向して前記配線基板13をケース10及びケースふた11で形成される密閉容器の内部に保持する」こと, が読み取れるとともに, 「冷却ボス10cを,冷却ボス10a,10bとは別個に,密閉容器の配線基板13の前記パワー半導体制御用素子15が実装されている位置の裏面に対向する位置に設ける」こと, が読み取れる。) (2)上記F及びGの,特に下線部の記載から,引用文献1には次の発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されているといえる。 「インバータ装置は,インバータモジュールと配線基板をケース及びケースふたで形成される密閉容器の内部に収容したものであり, 冷却ボス10a,10bが,前記配線基板の演算処理用素子とパワー半導体制御用素子が実装されていない位置の裏面である被保持面及び前記冷却ボス10a,10bの保持面を対向して前記配線基板を前記密閉容器の内部に保持しており, 前記パワー半導体制御用素子を冷却するための冷却ボス10cを,冷却ボス10a,10bとは別個に,前記密閉容器の前記配線基板の前記パワー半導体制御用素子が実装されている位置の裏面に対向する位置に設ける, インバータ装置。」 第6 対比 1 本願発明と引用発明1とを対比する。 (1)引用発明1の「インバータ装置」は,電力を変換する装置に他ならないから,本願発明の「電力変換装置」に相当するものであり,引用発明1の「インバータ装置」において,「密閉容器内」に「収納」された「パワーモジュール部」は,「パワー半導体素子」を「内蔵」するものであり,“電力変換用のパワー半導体モジュール”であることは明らかであるから,本願発明と引用発明1とは,“電力変換用のパワー半導体モジュール”を備える“電力変換装置”である点で一致する。 (2)引用発明1の「インバータ装置」は,「配線基板には,制御部を構成する演算処理用素子やパワー半導体制御用素子を含む電子部品が複数実装され」ているところ,「制御部を構成する演算処理用素子やパワー半導体制御用素子」,「配線基板」は,それぞれ“パワー半導体モジュールを駆動する回路部品”,“制御回路基板”に他ならないから,本願発明と引用発明1とは,“パワー半導体モジュールを駆動する回路部品を実装した制御回路基板”を備える“電力変換装置”である点で一致する。 (3)引用発明1の「インバータ装置」は,「アルミニウム合金で形成されたケース及びケースふたで形成される密閉容器内に,ケースの上にパワーモジュール部が,この上に制御部を構成する配線基板が積み重なるように,パワーモジュール部及び制御部を収納したもの」であるところ,「アルミニウム合金で形成されたケース及びケースふたで形成される密閉容器」は,“金属製の筐体”といえ,かかる“金属製の筐体”に「配線基板」,「パワーモジュール部」を「収納」しているものである。 よって,上記(1)及び(2)の検討も踏まえると,本願発明と引用発明1とは,“パワー半導体モジュール及び制御回路基板を収納する金属製の筐体”を備える“電力変換装置”である点で一致する。 (4)引用発明1の「インバータ装置」は,「冷却ボス10a,10bの上面には,前記配線基板が配置されて」いることから,前記「冷却ボス10a,10b」は,その上面に配線基板を保持する“基板保持部”といえるものである。 そして,引用発明1の「インバータ装置」は,「冷却ボス10a,10bが,前記配線基板の前記演算処理用素子と前記パワー半導体制御用素子が実装されていない位置の裏面である被保持面及び前記冷却ボス10a,10bの保持面を対向して前記配線基板を前記密閉容器の内部に保持して」いるところ,「冷却ボス10a,10bの保持面」は,配線基板を収納する密閉容器の“保持面”であるといえる。 よって,上記(2)及び(3)の検討も踏まえると,本願発明と引用発明1とは,“制御回路基板の回路部品が実装されていない位置の裏面である被保持面及び筐体の保持面を対向して前記制御回路基板を前記筐体の内部に保持する基板保持部”を備える“電力変換装置”である点で一致する。 (5)引用発明1の「インバータ装置」は,「冷却ボス10aと前記配線基板との間に弾性力のある熱伝導シートを挟み込ませて」いるところ,「熱伝導シート」は“熱伝導部材”に他ならないから,上記(4)の検討も踏まえると,引用発明1は,“保持面及び被保持面の間に介在された第1熱伝導部材”を備えているといえる。 また,引用発明1の「インバータ装置」は,「配線基板の被保持面及び冷却ボス10a,10bの保持面の間で前記熱伝導シートが密着するように,ネジにより前記配線基板を前記密閉容器に固定する」ものであるところ,「ネジ」は,配線基板の被保持面及び冷却ボス10a,10bの保持面の間で熱伝導シートが密着するように,配線基板を密閉容器に固定する“ネジ締結手段”であるといえる。 そして,上記(4)で検討したように,引用発明1の「冷却ボス10a,10b」は“基板保持部”といえるところ,引用発明1の「熱伝導シート」,「ネジ」も,「冷却ボス10a,10b」とともに配線基板を保持している部材であるといえるから,引用発明1の「冷却ボス10a,10b」,「熱伝導シート」,及び「ネジ」は,“基板保持部”を構成しているといえる。 よって,上記(2)?(4)の検討も踏まえると,本願発明と引用発明1とは,“基板保持部は,保持面及び被保持面の間に介在された第1熱伝導部材と,前記被保持面及び前記保持面の間で前記第1熱伝導部材が密着するように,ねじ部材の締め付けにより前記制御回路基板を前記筐体に固定するねじ締結手段”を備える“電力変換装置”である点で一致する。 2 上記(1)?(5)の検討から,本願発明と引用発明1とは,以下の点で一致し,また,以下の点で相違する。 <一致点> 「電力変換用のパワー半導体モジュールと, 前記パワー半導体モジュールを駆動する回路部品を実装した制御回路基板と, 前記パワー半導体モジュール及び前記制御回路基板を収納する金属製の筐体と, 前記制御回路基板の前記回路部品が実装されていない位置の裏面である被保持面及び前記筐体の保持面を対向して前記制御回路基板を前記筐体の内部に保持する基板保持部と, を備え, 前記基板保持部は, 前記保持面及び前記被保持面の間に介在された第1熱伝導部材と, 前記被保持面及び前記保持面の間で前記第1熱伝導部材が密着するように,ねじ部材の締め付けにより前記制御回路基板を前記筐体に固定するねじ締結手段と,を備えている電力変換装置。」 <相違点> 本願発明は,「筐体の制御回路基板の回路部品が実装されている位置の裏面に対向する位置に設けた放熱部と、前記裏面及び前記放熱部の間に介在した第2熱伝導部材を備えている」のに対して,引用発明1は,そのような特定がなされていない点。 第7 当審の判断 1 上記相違点について検討する。 上記「第5 2(2)」に示したとおり,引用文献1には,次の引用発明2が記載されている(再掲)。 「インバータ装置は,インバータモジュールと配線基板をケース及びケースふたで形成される密閉容器の内部に収容したものであり, 冷却ボス10a,10bが,前記配線基板の演算処理用素子とパワー半導体制御用素子が実装されていない位置の裏面である被保持面及び前記冷却ボス10a,10bの保持面を対向して前記配線基板を前記密閉容器の内部に保持しており, 前記パワー半導体制御用素子を冷却するための冷却ボス10cを,冷却ボス10a,10bとは別個に,前記密閉容器の前記配線基板の前記パワー半導体制御用素子が実装されている位置の裏面に対向する位置に設ける, インバータ装置。」 引用発明2の「パワー半導体制御用素子を冷却するための冷却ボス10c」は,パワー半導体制御用素子で発生した熱を放熱して冷却するものであるから,“放熱部”といえるものである。そして,引用発明2は,かかる「冷却ボス10c」を,「冷却ボス10a,10bとは別個に,前記密閉容器の前記配線基板の前記パワー半導体制御用素子が実装されている位置の裏面に対向する位置に設ける」ものであるところ,「密閉容器」,「配線基板」,「パワー半導体制御用素子」は,それぞれ“筐体”,“制御回路基板”,“回路部品”といえるものであるから,結局,引用発明2には,“筐体の制御回路基板の回路部品が実装されている位置の裏面に対向する位置に設けた放熱部”を設けることが開示されているといえる。 引用発明1と引用発明2とは,「インバータ装置」という共通の技術分野に属するものであって,かつ,インバータモジュールと配線基板をケース及びケースふたで形成される密閉容器の内部に収容するものであり,冷却ボス10a,10bが,前記配線基板の回路素子が実装されていない位置の裏面で前記配線基板を前記密閉容器の内部に保持するという構成において共通するものであり,冷却ボスを介して回路素子で発生した熱を冷却するという目的も共通するものである。 してみると,引用発明1に引用発明2の「冷却ボス10a,10bとは別個に,前記密閉容器の前記配線基板の前記パワー半導体制御用素子が実装されている位置の裏面に対向する位置に設け」られた「冷却ボスc」を付加して,“筐体の制御回路基板の回路部品が実装されている位置の裏面に対向する位置に設けた放熱部”を設けるとすることは,前述した両発明の技術分野,構成,目的の共通性を鑑みれば,当業者であれば容易になし得るものであり,その際に,引用発明1では,「冷却ボス10aと前記配線基板との間に弾性力のある熱伝導シートを挟み込ませて」いるところ,冷却ボスcと配線基板の間にも同様に「熱伝導シート」を挟み込ませて,“前記裏面及び前記放熱部の間に介在した第2熱伝導部材を備えている”とすることは,冷却ボスを介して回路素子で発生した熱を冷却するという前述の目的からして,当業者であれば適宜なし得る事項にすぎない。 2 小括 上記1で検討したとおり,上記相違点に係る構成は,引用発明1及び引用発明2に基づいて,当業者が容易に想到し得たものであり,そして,上記相違点を総合的に勘案しても,本願発明の奏する作用効果は,引用発明1及び引用発明2の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。 したがって,本願発明は,引用文献1に記載された引用発明1及び引用発明2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。 第8 むすび 以上のとおり,本願の請求項2に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 |
審理終結日 | 2020-12-16 |
結審通知日 | 2020-12-22 |
審決日 | 2021-01-06 |
出願番号 | 特願2015-182870(P2015-182870) |
審決分類 |
P
1
8・
57-
Z
(H02M)
P 1 8・ 121- Z (H02M) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 山崎 雄司、麻生 哲朗 |
特許庁審判長 |
田中 秀人 |
特許庁審判官 |
小林 秀和 月野 洋一郎 |
発明の名称 | 電力変換装置 |
代理人 | 田中 秀▲てつ▼ |
代理人 | 廣瀬 一 |