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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01F |
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管理番号 | 1371568 |
審判番号 | 不服2020-1352 |
総通号数 | 256 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-04-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-01-31 |
確定日 | 2021-03-25 |
事件の表示 | 特願2015-189774「Ca-La-Co系フェライト焼結磁石の製造方法及びCa-La-Co系フェライト焼結磁石」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 4月 6日出願公開、特開2017- 69259、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成27年9月28日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。 平成31年 4月17日付け:拒絶理由通知 令和 1年 6月21日 :意見書の提出 令和 1年 6月25日 :手続補足書の提出(意見書に記載した証拠物件の提出) 令和 1年11月 1日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) 令和 2年 1月31日 :審判請求書の提出 第2 原査定の概要 原査定(令和1年11月1日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 (進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 ・請求項 1-8 ・引用文献等 1-2 引用文献等一覧 1.国際公開第2007/077811号 2.特開2002-104872号公報 第3 本願発明 本願の請求項1ないし8に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明8」という。)は、特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される、以下の通りの発明である。 「 【請求項1】 Ca、La、Ba及び/又はSrであるA元素、Fe及びCoの金属元素の原子比率を示す一般式:Ca_(1-x-y)La_(x)A_(y)Fe_(2n-z)Co_(z)において、前記1-x-y、x、y及びz、並びにモル比を表わすnが、 0.3≦1-x-y≦0.6、 0.3≦x≦0.7、 0≦y≦0.2、 0.2≦z≦0.5、及び 4≦n≦7 を満足するように原料粉末を準備する工程、 前記原料粉末を仮焼し、仮焼体を得る仮焼工程、 前記仮焼体を粉砕し、粉末を得る粉砕工程、 前記粉末を成形し、成形体を得る成形工程、 前記成形体を焼成し、焼結体を得る焼成工程、及び 前記焼結体を350℃以上475℃以下の温度で熱処理する熱処理工程を含む、Ca-La-Co系フェライト焼結磁石の製造方法。 【請求項2】 前記熱処理工程における熱処理温度が375℃以上450℃以下である、請求項1に記載のCa-La-Co系フェライト焼結磁石の製造方法。 【請求項3】 前記熱処理工程における熱処理時間が5時間以上である、請求項1又は2に記載のCa-La-Co系フェライト焼結磁石の製造方法。 【請求項4】 前記熱処理工程における熱処理時間が10時間以上である、請求項3に記載のCa-La-Co系フェライト焼結磁石の製造方法。 【請求項5】 前記熱処理工程を施した磁石の固有保磁力が、前記熱処理工程が施されていない磁石の固有保磁力よりも高く、その差が10kA/m以上である、請求項1から4のいずれかに記載のCa-La-Co系フェライト焼結磁石の製造方法。 【請求項6】 Ca、La、Ba及び/又はSrであるA元素、Fe及びCoの金属元素の原子比率を示す一般式:Ca_(1-x-y)La_(x)A_(y)Fe_(2n-z)Co_(z)において、前記1-x-y、x、y及びz、並びにモル比を表わすnが、 0.3≦1-x-y≦0.6、 0.3≦x≦0.7、 0≦y≦0.2、 0.2≦z≦0.5、及び 4≦n≦7、 を満足するCa-La-Co系フェライト焼結磁石であって、 前記磁石の固有保磁力が、前記磁石の500℃熱処理後の固有保磁力よりも高い、Ca-La-Co系フェライト焼結磁石。 【請求項7】 前記磁石の固有保磁力が、前記磁石の500℃熱処理後の固有保磁力よりも5kA/m以上高い、請求項6に記載のCa-La-Co系フェライト焼結磁石。 【請求項8】 前記磁石の固有保磁力が、熱処理が施されていない前記磁石の固有保磁力よりも高く、その差が10kA/m以上である、請求項6又は7に記載のCa-La-Co系フェライト焼結磁石。」 第4 引用文献、引用発明等 1 引用文献1について (1)記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された、国際公開第2007/077811号(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。下線は、当審で付与した。 「[0082] (実施例1) 式Ca_(1-x-x’)La_(x)Sr_(x’)Fe_(2n-y)Co_(y)Oαにおいて、x=0.45、x’=0.1、y=0.3、n=5.2?5.7となるように、CaCO_(3)粉末、La_(2)O_(3)粉末、 SrCO_(3)粉末、Fe_(2)O_(3)粉末及びCo_(3)O_(4)粉末を準備し、各粉末を配合した。得られた原料粉末にH_(3)BO_(3)を添加した後、湿式ボールミルで4時間混合し、乾燥して整粒した。次いで、大気中において、1200℃で3時間仮焼し、粉末状の仮焼体を得た。 [0083] 次に、上記仮焼体に対して、CaCO_(3)粉末をCaO換算で0.6質量%、SiO_(2)粉末を0.45質量%添加し、水を溶媒とした湿式ボールミルで、空気透過法による平均粒度が0.55μmになるまで微粉砕した。得られた微粉砕スラリー中の溶媒を除去しながら、0.8Tの磁場中でプレス成形した。得られた成形体を大気中、1180℃?1220℃で1時間焼結し、焼結磁石を得た。得られた焼結磁石の残留磁束密度B_(r)、保磁力H_(cj)の測定結果を図1に示す。」 (2)引用発明 上記記載から、引用文献1には、「焼結磁石の製造方法」として、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 「式Ca_(1-x-x’)La_(x)Sr_(x’)Fe_(2n-y)Co_(y)Oαにおいて、x=0.45、x’=0.1、y=0.3、n=5.2?5.7となるように、CaCO_(3)粉末、La_(2)O_(3)粉末、SrCO_(3)粉末、Fe_(2)O_(3)粉末及びCo_(3)O_(4)粉末を準備し、 各粉末を配合して得られた原料粉末にH_(3)BO_(3)を添加した後、大気中において、1200℃で3時間仮焼し、粉末状の仮焼体を得、 仮焼体に対して、CaCO_(3)粉末をCaO換算で0.6質量%、SiO_(2)粉末を0.45質量%添加し、水を溶媒とした湿式ボールミルで、微粉砕し、 得られた微粉砕スラリー中の溶媒を除去しながら、0.8Tの磁場中でプレス成形し、 得られた成形体を大気中、1180℃?1220℃で1時間焼結し、焼結磁石を得る 焼結磁石の製造方法。」 また、上記記載から、引用文献1には、「焼結磁石」として、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。 「式Ca_(1-x-x’)La_(x)Sr_(x’)Fe_(2n-y)Co_(y)Oαにおいて、x=0.45、x’=0.1、y=0.3、n=5.2?5.7である焼結磁石。」 2 引用文献2について (1)記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された、特開2002-104872号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。下線は、当審で付与した。 「【0007】 【課題を解決するための手段】このような目的は、下記(1)?(3)の本発明により達成される。 (1) Fe、元素A(Aは、Sr、Ba、CaおよびPbから選択される少なくとも1種)、元素R(Rは、希土類元素およびBiから選択される少なくとも1種)および元素M(Mは、Co、Mn、NiおよびZnから選択される少なくとも1種)を含有し、六方晶フェライトを主相として有するフェライト磁石を製造するに際し、原料粉末の成形体を焼成して焼結体とし、この焼結体を400℃未満の温度まで冷却した後に、前記焼結体に400?1000℃で熱処理を施すフェライト磁石の製造方法。 (2) Fe、元素A(Aは、Sr、Ba、CaおよびPbから選択される少なくとも1種)、元素R(Rは、希土類元素およびBiから選択される少なくとも1種)および元素M(Mは、Co、Mn、NiおよびZnから選択される少なくとも1種)を含有し、六方晶フェライトを主相として有するフェライト磁石に対し、400?1000℃で熱処理を施すフェライト磁石の製造方法。 (3) 元素A、元素Rおよび元素Mをそれぞれ酸化物に換算して含有量を求めたとき、 式I A_(1-x)R_(x)(Fe_(12-y)M_(y))_(z)O_(19) (上記式Iにおいて、 0.04≦x≦0.9、 0.04≦y≦1.0、 0.4≦x/y≦4、 0.7≦z≦1.2 である)である組成の焼結磁石が製造される上記(1)または(2)のフェライト磁石の製造方法。 【0008】 【作用および効果】本発明では、フェライト焼結磁石を製造するに際し、焼結後に所定範囲内の温度で焼結体に熱処理を施す。これにより、残留磁束密度を実質的に低下させることなく保磁力を向上させることができる。」 「【0014】熱処理温度は、400?1000℃、好ましくは500?1000℃、より好ましくは550?1000℃、さらに好ましくは550?950℃である。熱処理温度が低すぎても高すぎても、保磁力向上効果が低くなってしまう。なお、この熱処理温度は、安定温度または最高温度である。熱処理時間は、保磁力向上効果が十分に大きくなるように適宜決定すればよいが、好ましくは1?200時間、より好ましくは2?120時間である。なお、この熱処理時間は、上記した熱処理温度範囲内に保持する時間または安定時間(安定温度に保持する時間)である。熱処理時間が短すぎると、保磁力向上効果が低くなる。一方、熱処理時間を著しく長くしても、それによる保磁力向上は小さいため、生産性を考慮すると、熱処理時間を上記範囲を超えて長くする必要はない。なお、この熱処理時間は、焼結体の温度が上記温度範囲内にある時間であり、好ましくは安定温度に保持する時間である。」 (2)技術的事項 上記記載から、引用文献2には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。 「Fe、元素A(Aは、Sr、Ba、CaおよびPbから選択される少なくとも1種)、元素R(Rは、希土類元素およびBiから選択される少なくとも1種)および元素M(Mは、Co、Mn、NiおよびZnから選択される少なくとも1種)を含有し、六方晶フェライトを主相として有するフェライト磁石を製造するに際し、残留磁束密度を実質的に低下させることなく保磁力を向上させるために、焼結後に焼結体に熱処理温度は400?1000℃の熱処理を施す」技術。 第5 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明1との対比を行う。 ア 引用発明1の原料粉末に「Sr」が含まれることは、本願発明1の原料粉末に「SrであるA元素」が含まれることに相当する。 そして、引用発明1のLaの原子比率を表す「x」、Srの原子比率を表す「x’」、モル比を表す「n」、Coの原子比率を表す「y」は、本願発明1の「x」、「y」、「n」、「z」にそれぞれ対応するから、引用発明1の「x=0.45」は本願発明1の「0.3≦x≦0.7」に含まれ、引用発明1の「x’=0.1」は本願発明1の「0≦y≦0.2」に含まれ、引用発明1の「n=5.2?5.7」は本願発明1の「4≦n≦7」に含まれ、引用発明1の「y=0.3」は本願発明1の「0.2≦z≦0.5」に含まれる。 したがって、引用発明1の「式Ca_(1-x-x’)La_(x)Sr_(x’)Fe_(2n-y)Co_(y)Oαにおいて、x=0.45、x’=0.1、y=0.3、n=5.2?5.7となるように、CaCO_(3)粉末、La_(2)O_(3)粉末、SrCO_(3)粉末、Fe_(2)O_(3)粉末及びCo_(3)O_(4)粉末を準備」することは、本願発明1の「Ca、La、Ba及び/又はSrであるA元素、Fe及びCoの金属元素の原子比率を示す一般式:Ca_(1-x-y)La_(x)A_(y)Fe_(2n-z)Co_(z)において、前記1-x-y、x、y及びz、並びにモル比を表わすnが、 0.3≦1-x-y≦0.6、 0.3≦x≦0.7、 0≦y≦0.2、 0.2≦z≦0.5、及び 4≦n≦7 を満足するように原料粉末を準備する工程」に含まれる。 イ 引用発明1の「原料粉末にH_(3)BO_(3)を添加した後、大気中において、1200℃で3時間仮焼し、粉末状の仮焼体を得」ることは、本願発明1の「前記原料粉末を仮焼し、仮焼体を得る仮焼工程」に相当する。 ウ 引用発明1の「仮焼体に対して、CaCO_(3)粉末をCaO換算で0.6質量%、SiO_(2)粉末を0.45質量%添加し、水を溶媒とした湿式ボールミルで、微粉砕」することは、本願発明1の「前記仮焼体を粉砕し、粉末を得る粉砕工程」に相当する。 エ 引用発明1の「得られた微粉砕スラリー中の溶媒を除去しながら、0.8Tの磁場中でプレス成形」することは、本願発明1の「前記粉末を成形し、成形体を得る成形工程」に相当する。 オ 引用発明1の「得られた成形体を大気中、1180℃?1220℃で1時間焼結し、焼結磁石を得る」ことは、本願発明1の「前記成形体を焼成し、焼結体を得る焼成工程」に相当する。 カ 本願発明1は「前記焼結体を350℃以上475℃以下の温度で熱処理する熱処理工程」を含むのに対して、引用発明1はその旨特定されていない点で相違する。 キ 引用発明1の「焼結磁石の製造方法」は、「式 Ca_(1-x-x’)La_(x)Sr_(x’)Fe_(2n-y)Co_(y)Oα」となるように各粉末を配合するものであるから、本願発明1の「Ca-La-Co系フェライト焼結磁石の製造方法」に相当する。 ク したがって、本願発明1と引用発明1は以下の一致点及び相違点を有する。 〈一致点〉 「Ca、La、Ba及び/又はSrであるA元素、Fe及びCoの金属元素の原子比率を示す一般式:Ca_(1-x-y)La_(x)A_(y)Fe_(2n-z)Co_(z)において、前記1-x-y、x、y及びz、並びにモル比を表わすnが、 0.3≦1-x-y≦0.6、 0.3≦x≦0.7、 0≦y≦0.2、 0.2≦z≦0.5、及び 4≦n≦7 を満足するように原料粉末を準備する工程、 前記原料粉末を仮焼し、仮焼体を得る仮焼工程、 前記仮焼体を粉砕し、粉末を得る粉砕工程、 前記粉末を成形し、成形体を得る成形工程、 前記成形体を焼成し、焼結体を得る焼成工程を含む、Ca-La-Co系フェライト焼結磁石の製造方法。」 〈相違点1〉 本願発明1は「前記焼結体を350℃以上475℃以下の温度で熱処理する熱処理工程」を含むのに対して、引用発明1はその旨特定されていない点 (2)相違点1についての判断 引用文献2に上記相違点1に係る構成が記載または示唆されているか、以下検討する。 本願の明細書の段落【0033】に「熱処理工程は、焼結体を350℃以上475℃以下の温度で熱処理する。熱処理温度は375℃以上450℃以下がより好ましい。熱処理時間は5時間以上が好ましく、10時間以上がより好ましい。熱処理工程は大気中で行えばよい。好ましい実施形態によれば、熱処理工程を施した磁石のH_(cJ)が、前記熱処理工程が施されていない磁石のH_(cJ)より高く、その差が10kA/m以上となり、H_(cJ)を大きく向上させることが可能となる。」と記載され、段落【0038】に「本開示のCa-La-Co系フェライト焼結磁石は、前記本開示の実施形態に示す製造方法、すなわち、Ca-La-Co系フェライト焼結体を350℃以上475℃以下の温度で熱処理することによって得られる。本開示のCa-La-Co系フェライト焼結磁石は、当該磁石の固有保磁力が、熱処理が施されていない前記磁石の固有保磁力よりも高く、その差であるΔH_(cJ)(デルタH_(cJ))が10kA/m以上である。また、当該磁石の固有保磁力が、前記磁石の500℃熱処理後(500℃で熱処理を行った後)の固有保磁力よりも高く、典型的には5kA/m以上高い。すなわち、350?475℃の温度で熱処理することにより、H_(cJ)を大きく向上させることが可能となる一方、500℃で熱処理を行うと、350?475℃での熱処理の固有保磁力向上効果が失われ、典型的には固有保磁力が5kA/m以上低下してしまうという特性を有する。」と記載されているように、本願発明1は、Ca-La-Co系フェライトにおいて「焼結体を350℃以上475℃以下の温度で熱処理する熱処理工程」(上記相違点1に係る構成)により、500℃で熱処理を行った後の固有保磁力よりも高い固有保磁力を得るものである。 これに対し、引用文献2には、「Fe、元素A(Aは、Sr、Ba、CaおよびPbから選択される少なくとも1種)、元素R(Rは、希土類元素およびBiから選択される少なくとも1種)および元素M(Mは、Co、Mn、NiおよびZnから選択される少なくとも1種)を含有し、六方晶フェライトを主相として有するフェライト磁石を製造するに際し、残留磁束密度を実質的に低下させることなく保磁力を向上させるために、焼結後に焼結体に熱処理温度は400?1000℃の熱処理を施す」技術(上記「第4」の「2(2)」参照)が記載されるものの、当該技術は熱処理温度として500℃以上温度を含むものである。また、引用文献2には、Ca-La-Co系フェライト焼結体に対する熱処理の温度を350℃以上475℃以下に特定することにより、500℃で熱処理を行った後の固有保磁力よりも高い固有保磁力を得ることは記載も示唆もされていない。 したがって、引用文献2には、上記相違点1に係る構成が記載または示唆されているとはいえない。 そして、Ca-La-Co系フェライト焼結体に対する熱処理の温度を350℃以上475℃以下に特定することにより、500℃で熱処理を行った後の固有保磁力よりも高い固有保磁力を得ることは、本願出願日前において周知技術であるともいえない。 よって、引用発明1に引用文献2に記載された技術的事項を適用して本願発明1の相違点1に係る構成を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 (3)小活 以上のことより、本願発明1は、引用発明1及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 2 本願発明2ないし5について 本願発明1を直接または間接的に引用する本願発明2ないし5も、本願発明1の相違点1に係る構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、本願発明2ないし5は、引用発明1及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 3 本願発明6について (1)対比 本願発明6と引用発明2との対比を行う。 ア 引用発明2の焼結磁石に「Sr」が含まれることは、本願発明6の焼結磁石に「SrであるA元素」が含まれることに相当する。 そして、引用発明2のLaの原子比率を表す「x」、Srの原子比率を表す「x’」、モル比を表す「n」、Coの原子比率を表す「y」は、本願発明6の「x」、「y」、「n」、「z」にそれぞれ対応するから、引用発明2の「x=0.45」は本願発明6の「0.3≦x≦0.7」に含まれ、引用発明2の「x’=0.1」は本願発明6の「0≦y≦0.2」に含まれ、引用発明2の「n=5.2?5.7」は本願発明6の「4≦n≦7」に含まれ、引用発明2の「y=0.3」は本願発明6の「0.2≦z≦0.5」に含まれる。 したがって、引用発明2の「式Ca_(1-x-x’)La_(x)Sr_(x’)Fe_(2n-y)Co_(y)Oαにおいて、x=0.45、x’=0.1、y=0.3、n=5.2?5.7」であることは、本願発明6の「Ca、La、Ba及び/又はSrであるA元素、Fe及びCoの金属元素の原子比率を示す一般式:Ca_(1-x-y)La_(x)A_(y)Fe_(2n-z)Co_(z)において、前記1-x-y、x、y及びz、並びにモル比を表わすnが、 0.3≦1-x-y≦0.6、 0.3≦x≦0.7、 0≦y≦0.2、 0.2≦z≦0.5、及び 4≦n≦7 を満足する」に含まれる。 イ 引用発明2が「式 Ca_(1-x-x’)La_(x)Sr_(x’)Fe_(2n-y)Co_(y)Oα」の「焼結磁石」であることは、本願発明6の「Ca-La-Co系フェライト焼結磁石」に相当する。 ウ 本願発明6は「前記磁石の固有保磁力が、前記磁石の500℃熱処理後の固有保磁力よりも高い」のに対して、引用発明2はその旨特定されていない点で相違する。 エ したがって、本願発明6と引用発明2は以下の一致点及び相違点を有する。 〈一致点〉 「Ca、La、Ba及び/又はSrであるA元素、Fe及びCoの金属元素の原子比率を示す一般式:Ca_(1-x-y)La_(x)A_(y)Fe_(2n-z)Co_(z)において、前記1-x-y、x、y及びz、並びにモル比を表わすnが、 0.3≦1-x-y≦0.6、 0.3≦x≦0.7、 0≦y≦0.2、 0.2≦z≦0.5、及び 4≦n≦7、 を満足するCa-La-Co系フェライト焼結磁石。」 〈相違点2〉 本願発明6は「前記磁石の固有保磁力が、前記磁石の500℃熱処理後の固有保磁力よりも高い」のに対して、引用発明2はその旨特定されていない点 (2)相違点2についての判断 本願の明細書の段落【0038】の「本開示のCa-La-Co系フェライト焼結磁石は、前記本開示の実施形態に示す製造方法、すなわち、Ca-La-Co系フェライト焼結体を350℃以上475℃以下の温度で熱処理することによって得られる。本開示のCa-La-Co系フェライト焼結磁石は、当該磁石の固有保磁力が、熱処理が施されていない前記磁石の固有保磁力よりも高く、その差であるΔH_(cJ)(デルタH_(cJ))が10kA/m以上である。また、当該磁石の固有保磁力が、前記磁石の500℃熱処理後(500℃で熱処理を行った後)の固有保磁力よりも高く、典型的には5kA/m以上高い。すなわち、350?475℃の温度で熱処理することにより、H_(cJ)を大きく向上させることが可能となる一方、500℃で熱処理を行うと、350?475℃での熱処理の固有保磁力向上効果が失われ、典型的には固有保磁力が5kA/m以上低下してしまうという特性を有する。」なる記載によれば、本願発明6の「前記磁石の固有保磁力が、前記磁石の500℃熱処理後の固有保磁力よりも高い」構成は、Ca-La-Co系フェライト焼結体を350℃以上475℃以下の温度で熱処理することによる固有保持力向上効果により得られたものである。 そして、上記「1(1)」で検討したように、引用文献1には、Ca-La-Co系フェライト焼結体を350℃以上475℃以下の温度で熱処理すること(相違点1)は記載も示唆もされておらず、上記「1(2)」で検討したように、引用文献2には、Ca-La-Co系フェライト焼結体を350℃以上475℃以下の温度で熱処理し、固有保磁力を向上させることは、記載も示唆もされておらず、また、本願出願前周知技術であるとも認められない。 よって、引用発明2に引用文献2に記載された技術的事項を適用して本願発明6の相違点2に係る構成を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 (3)小活 以上のことより、本願発明6は、引用発明2及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 4 本願発明7ないし8について 本願発明6を直接または間接的に引用する本願発明7ないし8も、本願発明6の相違点2に係る構成を備えるものであるから、本願発明6と同じ理由により、本願発明7ないし8は、引用発明2及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 第6 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶するべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2021-03-10 |
出願番号 | 特願2015-189774(P2015-189774) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H01F)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 森岡 俊行、久保田 昌晴 |
特許庁審判長 |
酒井 朋広 |
特許庁審判官 |
山田 正文 畑中 博幸 |
発明の名称 | Ca-La-Co系フェライト焼結磁石の製造方法及びCa-La-Co系フェライト焼結磁石 |