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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 H01M 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H01M |
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管理番号 | 1371655 |
異議申立番号 | 異議2019-700151 |
総通号数 | 256 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-04-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-02-26 |
確定日 | 2020-12-08 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6380600号発明「フルオロスルホン酸リチウム、非水系電解液、及び非水系電解液二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6380600号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-14〕について訂正することを認める。 特許第6380600号の請求項2ないし14に係る特許を維持する。 特許第6380600号の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立ては却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6380600号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?14に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、平成24年 4月13日(優先権主張平成23年 4月13日)を出願日とする特願2012-92111号の一部を平成28年 2月10日に新たな特許出願とした特願2016-23960号の一部をさらに平成29年 4月13日に新たな特許出願である特願2017-79873号としたものであって、平成30年 8月10日にその特許権の設定登録がなされ、同年 8月29日にその特許掲載公報(以下、「本件特許公報」という。)が発行された。 その後、本件特許について、平成31年 2月26日付けで、特許異議申立人 松永健太郎(以下、「申立人」という。)により、請求項1?14(全請求項)に係る本件特許に対して特許異議の申立てがなされ、令和 1年 6月12日付けで取消理由が通知され、同年 8月19日付で意見書が提出されるとともに、訂正請求がなされ、同年12月16日付けで申立人により意見書が提出され、令和 2年 3月27日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年 5月28日付けで意見書が提出されるとともに、訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされたが、申立人からは意見書が提出されなかったものである。 第2 訂正請求について 1 訂正の趣旨、及び、訂正の内容 (1)訂正の趣旨 本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、特許第6380600号の特許請求の範囲を令和 2年 5月28日付の訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?14について訂正を求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。 なお、令和 1年 8月19日付け訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなされる。 (2)訂正の内容 訂正事項1 請求項2について、本件訂正前の 「前記非水系電解液がフルオロスルホン酸リチウム以外のリチウム塩を含有する、請求項1に記載の非水系電解液二次電池。」 を 「リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極及び負極、並びに非水系電解液が外装ケースに封入された非水系電解液二次電池であって、該非水系電解液は、フルオロスルホン酸リチウム及び硫酸イオンを含有し、非水系電解液中のフルオロスルホン酸リチウムのモル含有量が、0.0005mol/L以上0.5mol/L以下であり、硫酸イオンの含有量が、1.0×10^(-7)mol/L以上1.0×10^(-2)mol/L以下であり、かつ該外装ケースがラミネートフィルムである非水系電解液二次電池であって、 前記非水系電解液がフルオロスルホン酸リチウム以外のリチウム塩を含有する、前記非水系電解液二次電池。」 と訂正する。 請求項2を引用する請求項3?14も同様に訂正する。 なお、下線は訂正箇所(本件訂正前に請求項1を引用していた箇所を具体的に書き下した部分については実質的に訂正を行った箇所)を表す。 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1を削除する。 また、請求項1の削除に伴って、同請求項を引用する請求項4、6、8、10、12及び14において、引用する請求項から請求項1を削除する。 2 本件訂正の適否についての当審の判断 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的 訂正事項1は、本件訂正前の請求項2が、請求項1を引用するように記載されていたものを、請求項間の引用関係を解消して、請求項1を引用しないようにするとともに、本件訂正前の請求項1、2に記載されていた「フルオロスルホン酸リチウム」について、「非水系電解液中」の「モル含有量」が「0.0005mol/L以上0.5mol/L以下」であることを特定するものであるから、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」及び「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。 したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第4号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項追加の有無 (ア)訂正事項1のうち、請求項1を引用するように記載されていたものを、請求項間の引用関係を解消して、請求項1を引用しないように記載する訂正事項(以下、「訂正事項1A」という。)については、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかである。 (イ)訂正事項1のうち、「フルオロスルホン酸リチウム」について、「非水系電解液中」の「モル含有量」が「0.0005mol/L以上0.5mol/L以下」であることを特定する訂正事項(以下、「訂正事項1B」という。)について検討する。 本願の願書に添付した明細書(本件特許の特許掲載公報の明細書のこと。以下、「本件明細書」という。)には次の記載がある(下線は当審が付与した。)。 「【0022】 本発明の非水系電解液においては、非水系電解液中のフルオロスルホン酸リチウムのモル含有量が、下限値として、0.0005mol/L以上であり、0.01mol/L以上であることが好ましく、0.02mol/L以上であることがより好ましい。また、上限値として、0.5mol/L以下であり、0.45mol/L以下であることが好ましく、0.4mol/L以下であることがより好ましい。フルオロスルホン酸リチウムの濃度の範囲としては、0.0005mol/L以上0.5mol/L以下であり、0.01mol/L以上0.5mol/L以下が好ましく、0.01mol/L以上0.45mol/L以下がより好ましく、0.01mol/L以上0.40mol/L以下が特に好ましい。フルオロスルホン酸リチウムのモル濃度が上記範囲内であると、電池内部インピーダンスが低くなり、入出力特性や耐久性に優れる。」 (ウ)上記(イ)の記載によれば、「非水系電解液中」の「フルオロスルホン酸リチウム」の「モル含有量」は、「0.0005mol/L以上0.5mol/L以下」が好ましいと記載されているから、訂正事項1Bは、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。 (エ)したがって、訂正事項1A及び訂正事項1Bを含む訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法126条第5項の規定に適合する。 ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更について 上記アのとおり、訂正事項1による訂正は、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」及び「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、請求項1を削除するとともに、当該削除に伴って、本件訂正前に請求項1を直接引用していた請求項4、6、8、10、12及び14について、削除された請求項1を引用しないようにする訂正であるから、「特許請求の範囲の減縮」及び「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当しており、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも明らかである。 したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第3号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法126条第5項、第6項の規定に適合する。 (3)一群の請求項について 本件訂正によって、本件訂正前の請求項1を引用する請求項2?14が連動して訂正されるから、本件訂正前の請求項1?14は一群の請求項であるところ、本件訂正請求は、上記一群の請求項についてされたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。 そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものであるが、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めはないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1?14〕を訂正単位として訂正の請求をするものである。 (4)独立して特許を受けることができるかについて 特許異議は本件特許の全請求項に対して申し立てられているので、本件訂正に、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されず、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの要件は課されない。 (5)小括 以上のとおりであるから、令和 2年 5月28日付で特許権者が行った本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に規定する事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、本件訂正後の請求項〔1?14〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2で検討したとおり、本件訂正は適法になされたものであるから、請求項1?14に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明14」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?14に記載された次のとおりのものである。なお、下線は訂正された箇所を表す。 「【請求項1】 (削除) 【請求項2】 リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極及び負極、並びに非水系電解液が外装ケースに封入された非水系電解液二次電池であって、該非水系電解液は、フルオロスルホン酸リチウム及び硫酸イオンを含有し、非水系電解液中のフルオロスルホン酸リチウムのモル含有量が、0.0005mol/L以上0.5mol/L以下であり、硫酸イオンの含有量が、1.0×10^(-7)mol/L以上1.0×10^(-2)mol/L以下であり、かつ該外装ケースがラミネートフィルムである非水系電解液二次電池であって、 前記非水系電解液がフルオロスルホン酸リチウム以外のリチウム塩を含有する、前記非水系電解液二次電池。 【請求項3】 前記フルオロスルホン酸リチウム以外のリチウム塩がLiPF_(6)及びLiBF_(4)の少なくとも一方である、請求項2に記載の非水系電解液二次電池。 【請求項4】 前記非水系電解液がフッ素原子を有する環状カーボネートを含有する請求項2?3の何れか1項に記載の非水系電解液二次電池。 【請求項5】 前記フッ素原子を有する環状カーボネートが非水系電解液中に0.001質量%以上85質量%以下含有されている、請求項4に記載の非水系電解液二次電池。 【請求項6】 前記非水系電解液が炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネートを含有する、請求項2?5の何れか1項に記載の非水系電解液二次電池。 【請求項7】 前記炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネートが非水系電解液中に0.001質量%以上10質量%以下含有されている、請求項6に記載の非水系電解液二次電池。 【請求項8】 前記非水系電解液が環状スルホン酸エステルを含有する、請求項2?7の何れか1項に記載の非水系電解液二次電池。 【請求項9】 前記環状スルホン酸エステルの非水系電解液中における含有量が0.001質量%以上10質量%以下である、請求項8に記載の非水系電解液二次電池。 【請求項10】 前記非水系電解液がシアノ基を有する化合物を含有する、請求項2?9のいずれか1項に記載の非水系電解液二次電池。 【請求項11】 前記シアノ基を有する化合物の非水系電解液中における含有量が0.001質量%以上10質量%以下である、請求項10に記載の非水系電解液二次電池。 【請求項12】 前記非水系電解液がジイソシアネート化合物を含有する請求項2?11の何れか1項に記載の非水系電解液二次電池。 【請求項13】 前記ジイソシアネート化合物の非水系電解液中における含有量が0.001質量%以上5質量%以下である、請求項12に記載の非水系電解液二次電池。 【請求項14】 前記非水系電解液がリチウムオキサラート塩類を含有する、請求項2?13の何れか1項に記載の非水系電解液二次電池。」 第4 申立人及び特許権者の主張 1 申立理由の概要 申立人は、証拠方法として、下記甲第1、2号証を提出して、以下の申立理由1、2により、請求項1?14に係る本件特許を取り消すべきものである旨主張している。 (1)申立理由1 本件発明1?14は、以下の具体的理由A?Dによって、発明の詳細な説明に記載したものではないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない発明に対してされたものであり、取り消されるべきものである。 ア 理由A(異議申立書第9頁(ア)) 本件特許の明細書の段落【0005】、【0007】の記載に基づいて、本件発明が解決しようとする課題を「初期充電容量、入出力特性およびインピーダンス特性を改善すること」であると認定した場合に、発明の詳細な説明には、上記課題が解決できていることが一切示されていないので、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。(取消理由として採用) イ 理由B(異議申立書第10頁(イ)) 発明の詳細な説明に記載された試験例Bに基づいて、本件発明が解決しようとする課題を「初期放電容量の向上及び高温保存時のガス発生量の低下」であると認定した場合であっても、発明の詳細な説明には、出願時の技術常識に照らしても、上記課題を本件発明によって解決し得るまでの開示はされていないので、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。(取消理由として採用) ウ 理由C(異議申立書第11頁(ウ)) 本件発明は非水電解液中に、電池特性に影響を与える塩化物イオンやカルボン酸イオンを含有し得るものであるところ、これら塩化物イオンやカルボン酸イオンの含有量が特定されていない本件発明は、本件発明の課題を解決し得ない範囲を含むので、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。(取消理由として採用) エ 理由D(異議申立書第12頁(エ)) 出願時の技術常識に照らすと、試験例Bにおける非水電解液は、不純物として硫酸イオン以外に塩化物イオン等の他のイオンも含んでいるものといえ、試験例Bにおける電池特性は硫酸イオンの含有量のみでなく、塩化物イオン等の含有量の影響も受けていると考えるのが相当であるところ、電池特性に影響を与える塩化物イオン等の含有量が特定されていない本件発明は、本件発明の課題を解決し得ない範囲を含むので、発明の詳細な説明に記載したものではない。(取消理由として一部採用) (2)申立理由2 以下の具体的理由Eによって、発明の詳細な説明は、本件発明1?14を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。 ア 理由E(異議申立書第13頁(ア)) 本件特許の発明の詳細な説明には、非水系電解液中の硫酸イオンを本件発明の範囲とする方法が何ら開示されておらず、さらに、非水系電解液中の硫酸イオンの含有量を本件発明の所定の範囲となるように低減させる方法が、本件特許の出願時の技術常識であったといった事情も存在しないから、発明の詳細な説明に基づいて、本件発明を実施することはできない。(取消理由として採用) <証拠方法> 甲第1号証:国際公開第2012/141180号 甲第2号証:特開2008-91196号公報 なお、甲第1号証、甲第2号証をそれぞれ甲1、甲2ということがある。 2.特許権者の主張の概要 特許権者は、令和1年8月19日付及び令和2年5月28日付の意見書において、証拠方法として下記乙第1?21号証を提出して、下記第5に記載したいずれの取消理由によっても本件発明2?14を取り消すことができない旨主張している。 <証拠方法> 乙第1号証:Xianming Wang et al. ,“New Additives to Improve the First-Cycle Charge-Discharge Performance of a Graphite Anode for Lithium-Ion Cells”, Journal of The Electrochemical Society, 152(10), 2005, p A1996-A2001 乙第2号証:A.J.Smith et al. , “Precision Measurements of the Coulombic Efficiency of Lithium-Ion Batteries and of Electrode Materials for Lithium-Ion batteries”, Journal of The Electrochemical Society, 157(2), 2010, p A196-A202 乙第3号証:特開2007-242496号公報 乙第4号証:特開2010-287512号公報 乙第5号証:特開2003-168427号公報 乙第6号証:電池ハンドブック、電気化学会電池技術委員会編、株式会社オーム社、370?374頁、523?546頁、610?613頁 乙第7号証:特開2008-222484号公報 乙第8号証:国際公開第2008/133112号 乙第9号証:工学院大学先進工学部環境化学科准教授 関志朗、“特許5987431号に対する意見・見解書”、2017年12月20日 乙第10号証:特開2007-103246号公報 乙第11号証:特開2009-277597号公報 乙第12号証:特開2010-123287号公報 乙第13号証:石川仁志、外1名、“リチウムイオン二次電池電解液用新規添加剤の開発”、NEC TOKIN TECHNICAL REVEW、第33号、NECトーキン株式会社、平成18年9月25日、p5?6 乙第14号証:特開2000-195546号公報 乙第15号証:本件特許の特許権者である三菱ケミカル株式会社は、特許を受ける権利を三菱化学株式会社から承継した者であるところ、三菱化学株式会社が、本願を含む一連の分割出願のうち特願2012-92111号が特許設定登録を受けた特許5987431号に対する異議申立事件(異議2017-700208)において、平成29年8月23日付けで提出した上申書 乙第16号証:特許権者である三菱ケミカル株式会社の従業員徳田浩之による実験報告書、2019年1月8日 乙第17号証:国際公開第2010/113483号 乙第18号証:Wilhelm Traube et al.,“Uber Fluor-sulfonsaure, Fluor-sulfonate und Sulfurylfluorid”, BERICHTE DER DEUTSCHEN CHEMISCHEN GESELLSCHAFT. ABTEILUNG B: ABHANDLUNGEN,1919, p1272-1285 乙第19号証:特開2012-218985号公報 乙第20号証:特開2012-232888号公報 乙第21号証:有機合成実験法ハンドブック、有機合成化学協会編、丸善株式会社、平成2年3月31日、p99?102、p110?113、p263?280 なお、乙第1号証?乙第21号証をそれぞれ、乙1?乙21ということがある。 第5 取消理由の概要 令和 1年 6月12日付けで通知した取消理由と、令和 2年 3月27日付けで通知した取消理由(決定の予告)において、上記申立理由1、2に基づき、また、職権によって次の取消理由が通知された。 理由1.特許法第36条第6項第1号に規定するサポート要件について(理由Aと理由Bに基づいて通知) ア 本件明細書の段落【0007】等の記載に基づいて、本件発明が解決しようとする課題を「初期(4サイクル目)の充電容量とインピーダンス特性が改善されることで、高温保存試験前後でガス発生量が少なく容量維持率が高いのみならず、高温保存試験後も高いインピーダンス特性が維持される非水系電解液を用いた、非水系電解液二次電池を提供すること。」(「実質課題」という。)と認定することができる。 しかしながら、本件の発明の詳細な説明に記載された実施例のうち硫酸イオン含有のものにおいて、すなわち、硫酸イオンを含有するフルオロスルホン酸リチウムを非水系電解液に加えている試験例Bにおいて、上記実質課題が解決されているかについて確認すると、試験例Bの評価結果を表す【表2】(【0255】)において、比較例2、3に対して実施例1?7において改善されることが確認された事項は、「初期放電容量」と「(高温保存試験時の)ガス発生量」のみである。 したがって、【表2】に示された実施例1?7は、いずれも、「高温保存試験時のガス発生量」が改善されていることは確認できるものの、「初期の充電容量」、「(初期の)インピーダンス特性」、「高温保存試験後のインピーダンス特性」が改善されることについては確認できず、上記実質課題を解決できる範囲を確定することができないため、本件発明1(本件訂正前の請求項1に係る発明のこと。)が上記実質課題を解決し得るものであるということもできない。 イ また、本件の発明の詳細な説明によれば、硫酸イオンを含有するフルオロスルホン酸リチウムを非水系電解液に加えている試験例Bにおいて、「初期放電容量」と「高温保存試験時のガス発生量」については改善されることが把握されるので、発明の詳細な説明の記載に基づいて総合的に勘案すれば、本件発明が解決しようとする課題を、「初期放電容量が改善され、高温保存試験時のガス発生量が改善された非水系電解液を用いた二次電池を提供すること」(「実施例に基づく課題」という。)とも認定することができる。 このように課題を認定した場合、上記試験例Bについての記載に基づいて、上記実施例に基づく課題が解決できると確認できる範囲は、 「負極、セパレータ、正極の順に積層した電池要素をラミネートフィルムからなる袋内に挿入し、電解液を当該袋内に注入し、真空封止を行った、シート状のリチウム二次電池であって、 上記電解液は、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合物(体積比30:70)にLiPF_(6)を1mol/Lの割合となるように溶解して調整した基本電解液に、硫酸イオンを含むフルオロスルホン酸リチウムを混合した非水系電解液であり、 上記非水系電解液中に、フルオロスルホン酸リチウムが2.98×10^(-3)mol/L以上0.596mol/L以下の範囲で含有されており、硫酸イオンが1.00×10^(-7)mol/L以上1.00×10^(-2)mol/L以下の範囲で含有されている、リチウム二次電池。」(「認定発明の範囲」という。) であるといえる。 ウ そこで、本件訂正前の請求項1に係る発明(本件特許公報の請求項1に係る発明のこと。以下、「本件訂正前発明1」という。)と認定発明の範囲を対比すると、認定発明の範囲では、「エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合物(体積比30:70)にLiPF_(6)を1mol/Lの割合となるように溶解して調整した基本電解液」に「フルオロスルホン酸リチウムが2.98×10^(-3)mol/L以上0.596mol/L以下の範囲内で含有されている」との発明特定事項を備えるものであるのに対し、本件訂正前発明1は、そのような発明特定事項を備えるものではない。 したがって、本件訂正前発明1は、認定発明の範囲を超える非水系電解液二次電池も包含されていることとなるが、発明の詳細な説明には、本件特許の出願時の技術常識に照らしても、本件訂正前発明1によって解決し得るまでの開示がされているとはいえないから、本件訂正前発明1は発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。 理由2.特許法第36条第6項第1号に規定するサポート要件について(理由Cと理由Dに基づいて通知) ア 本件訂正前発明1において、「非水系電解液」は「フルオロスルホン酸リチウム及び硫酸イオンを含有」すると特定されているから、当該「非水系電解液」は「フルオロスルホン酸リチウム及び硫酸イオン」以外の任意の成分を任意の量で含有することを許容するものとなっている。 イ そのため、本件訂正前発明1においては、「非水系電解液」は、電池特性を悪化させるような成分を含むことを許容しており、具体的には、非水電解液中に明示的に示されたフルオロスルホン酸リチウム及び硫酸イオンを含有する他に、初期放電容量や容量維持率を悪化させるようなClイオン等の不純物を含有する非水電解液を用いる発明が含まれているといえる。 ウ したがって、本件訂正前発明1は、本件発明の課題を解決することのできない発明を含んでいるから、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。 理由3.特許法第36条第4項第1号に規定する実施可能要件について(理由Eに基づいて通知) 本件明細書の発明の詳細な説明には、本件訂正前発明1における「非水系電解液中の硫酸イオンの含有量が、1.0×10^(-7)mol/L以上1.0×10^(-2)mol/L以下」とするために、フルオロスルホン酸リチウム中の硫酸イオンの濃度を低減する具体的な製造方法が記載されておらず、また、製造された非水系電解液中の硫酸イオンの濃度が、本件発明1に記載された「1.0×10^(-7)mol/L以上1.0×10^(-2)mol/L以下」であることを確認するための濃度の測定方法が不明であるから、本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。 理由4.特許法第36条第6項第1号に規定するサポート要件について (決定の予告において職権によって通知) ア 特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなされる、令和1年8月19日付で提出された訂正請求書によって訂正された特許請求の範囲の請求項1?14に係る発明(以下、それぞれ「本件仮発明1?14」という。)に対して、サポート要件について次の取消理由が通知された。 イ 本件発明が解決しようとする課題は、本件特許明細書の記載を総合的に勘案すれば、「フルオロスルホン酸リチウムと硫酸イオンとを添加剤として含有しない非水系電解液に対して、初期放電容量等の電池特性を改善する非水系電解液を用いた非水系電解液二次電池を提供すること」と認定できるところ、本件仮発明1は、「非水系電解液」に「フルオロスルホン酸リチウム以外のリチウム塩」が含有されることが特定されていないために、上記課題を解決し得るものであるとはいえないし、本件仮発明4?14のうち、本件仮発明2または3を引用しないため、「非水系電解液」に「フルオロスルホン酸リチウム以外のリチウム塩」が含有されることが特定されていないものについては、本件仮発明1と同様に、上記課題を解決し得るものであるとはいえない。 第6 当審の判断 1 サポート要件について(その1) 上記第5に記載した取消理由のうち、上記理由1(申立ての理由Aと理由Bに対応)と理由4についてまとめて検討する。 (1)サポート要件についての判断手法 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるといえる。(必要なら知的財産高等裁判所特別部 平成17年(行ケ)第10042号判決を参照)。 (2)本件明細書の記載 サポート要件の取消理由について上記アの手法に従って検討するにあたり、まず、本件明細書の記載を確認する。本件訂正後の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明には次の記載がある(なお、下線は当審が付与したものであり、「…」によって記載の省略を表す。以下同様。)。 a「【特許請求の範囲】 【請求項1】 (削除) 【請求項2】 リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極及び負極、並びに非水系電解液が外装ケースに封入された非水系電解液二次電池であって、該非水系電解液は、フルオロスルホン酸リチウム及び硫酸イオンを含有し、非水系電解液中のフルオロスルホン酸リチウムのモル含有量が、0.0005mol/L以上0.5mol/L以下であり、硫酸イオンの含有量が、1.0×10^(-7)mol/L以上1.0×10^(-2)mol/L以下であり、かつ該外装ケースがラミネートフィルムである非水系電解液二次電池であって、 前記非水系電解液がフルオロスルホン酸リチウム以外のリチウム塩を含有する、前記非水系電解液二次電池。」 b「【背景技術】 【0002】 携帯電話、ノートパソコン等のいわゆる民生用の電源から自動車用等の駆動用車載電源や定置用大型電源等の広範な用途にリチウム二次電池等の非水系電解液二次電池が実用化されつつある。しかしながら、近年の非水系電解液二次電池に対する高性能化の要求はますます高くなっており、電池特性、例えば高容量、高出力、高温保存特性、サイクル特性等を高い水準で達成することが求められている。 【0003】 特に電気自動車用電源としてリチウム二次電池を使用する場合、電気自動車は発進、加速時に大きなエネルギーを要し、また、減速時に発生する大きなエネルギーを効率よく回生させなければならないため、リチウム二次電池には、高い出力特性、入力特性が要求される。また、電気自動車は屋外で使用されるため、寒冷時期においても電気自動車が速やかに発進、加速できるためには、リチウム二次電池には、特に、-30℃のような低温における高い入出力特性(電池内部インピーダンスが低いこと)が要求される。加えて、高温環境下で繰り返し充放電させた場合においてもその容量の劣化が少なく、電池内部インピーダンスの増加が少ない必要がある。 【0004】 また、電気自動車用途のみならず、各種バックアップ用途や、電力供給の負荷平準化用途、自然エネルギー発電の出力安定化用途等の定置用大型電源としてリチウム二次電池を使用する際には、単電池が大型化されるだけでなく、多数の単電池が直並列接続される。このため、個々の単電池の放電特性のばらつきや、単電池間における温度のばらつき、個々の単電池の容量や充電状態のばらつきといった各種の非一様性に起因する信頼性や安全性の問題が生じやすい。電池設計や管理が不適切であると、上記のような組電池を構成する単電池の一部だけが高い充電状態のまま保持されたり、あるいは電池内部の温度が上昇して高温状態に陥るというような問題を生じる。 即ち、現在の非水系電解液二次電池には、初期の容量と入出力特性が高く、電池内部インピーダンスが低いこと、高温保存試験やサイクル試験といった耐久試験後の容量維持率が高いこと、耐久試験後でも入出力性能とインピーダンス特性に優れること、といった項目が、極めて高いレベルで要求される。 【0005】 これまで、非水系電解液二次電池の入出力特性、インピーダンス特性、高温サイクル特性、高温保存特性を改善するための手段として、正極や負極の活物質や、非水系電解液を始めとする様々な電池の構成要素について、数多くの技術が検討されている。例えば特許文献1には、LiFSO_(3)を電解質とすると、60℃充放電サイクル評価時の放電容量が高い電池が得られることが記載されている。特許文献1によると、電解質にLiClO_(4)を用いた場合、正極活物質の貴な電位によりLiClO_(4)が分解し活性酸素が生成し、この活性酸素が溶媒を攻撃して溶媒の分解反応を促進させる。また、電解質にCF_(3)SO_(3)Li、LiBF_(4)およびLiPF_(6)を用いた場合は、正極活物質の貴な電位により電解質の分解が進行してフッ素が生成し、このフッ素が溶媒を攻撃して溶媒の分解反応を促進させると記載されている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0006】 【特許文献1】特開平7-296849号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 本発明の課題は、初期充電容量、入出力特性およびインピーダンス特性が改善されることで、初期の電池特性と耐久性のみならず、耐久後も高い入出力特性およびインピーダンス特性が維持される非水系電解液二次電池をもたらすことができる非水系電解液用の添加剤ならびに非水系電解液を提供することにあり、また、この非水系電解液を用いた非水系電解液二次電池を提供することにある。」 c「【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定量のカルボン酸、ハロゲン元素、硫酸イオンを含有するフルオロスルホン酸リチウムを非水系電解液に加えた場合、初期充電容量、及び容量維持率が改善された非水系電解液二次電池をもたらすことができる非水系電解液が実現できることを見出し、本発明を完成させるに至った。…」 d「【発明の効果】 【0009】 発明者らは、特定量の硫酸イオン分を含有するフルオロスルホン酸リチウムを、非水系電解液中に含有させることにより、電池内部インピーダンスが低下し、低温出力特性が向上するという優れた特徴が発現されることを見出し、更に耐久後にも初期の電池内部インピーダンス特性や高出力特性が持続するとの知見を得て、本発明を完成させた。詳細は詳らかではないが、フルオロスルホン酸リチウムに特定の割合で硫酸イオンを含有させることにより相乗効果が発現されていると考えられる。 【0010】 すなわち、本発明の非水系電解液によれば、初期充電容量、入出力特性、電池内部インピーダンス特性が改善された非水系電解液二次電池をもたらすことができる非水系電解液が提供される。また、本発明の非水系電解液によれば、高温保存試験やサイクル試験といった耐久試験後においても、容量維持率が高く、入出力性能に優れ、また、インピーダンス特性にも優れた非水系電解液電池が提供できることになる。よって、産業上の観点では、上記の携帯機器用途や、電気自動車用途、定置用大型電源用途等、各方面に適用可能な優れた電池を供給することが可能となる。」 e「【発明を実施するための形態】 … 【0017】 また、本発明は、特定量の硫酸イオン分を含有するフルオロスルホン酸リチウムに関する。硫酸イオンは、例えば、上記ハロゲン化リチウムを用いてフルオロスルホン酸リチウムを製造する際に副生することがある。硫酸イオンは、硫酸リチウム、硫酸水素リチウム、硫酸のいずれの形態で含有していてもよい。本発明のフルオロスルホン酸リチウムは、硫酸イオン分のモル含有量が、フルオロスルホン酸リチウムの重量に対して下限値として、1.0×10^(-5)mol/kg以上であり、好ましくは5.0×10^(-5)mol/kg以上、より好ましくは1.0×10^(-4)mol/kg以上である。また、フルオロスルホン酸リチウム中に含有する硫酸イオン分のモル含有量が、上限値として、2.5×10^(-1)mol/kg以下であり、好ましくは2.0×10^(-1)mol/kg以下、より好ましくは1.5×10^(-1)mol/kg以下である。硫酸イオン分のモル含有量が上記範囲内にあることにより、電解液に加えた際の電池内での硫酸イオン分の効果が十分に発現し、また、副反応による抵抗の増加を抑制する。 【0018】 また、フルオロスルホン酸リチウムを電解液中に含有する場合、非水系電解液中の硫酸イオンの含有量は、上限値としては、1.0×10^(-2)mol/L以下であり、好ましくは8.0×10^(-3)mol/L以下、より好ましくは5.0×10^(-3)mol/L以下、更に好ましくは1.0×10^(-3)mol/L以下、最も好ましくは5.0×10^(-4)mol/L以下である。一方で、下限値としては、1.0×10^(-7)mol/L以上であり、好ましくは5.0×10^(-7)mol/L以上、より好ましくは8.0×10^(-7)mol/L以上である。硫酸イオンのモル濃度が上記範囲内であると、電池内部インピーダンスが低くなり入出力特性や耐久性がより発現し易くなる。また、上記値は、添加量から算出される値及び電解液を分析して、電解液中に含まれる含有量から適宜算出される値のうち少なくとも一方である。」 f「【0021】 <1.非水系電解液> 本発明の非水系電解液は、少なくとも、フルオロスルホン酸リチウム、フルオロスルホン酸リチウム以外のリチウム塩、及びこれらを溶解する非水系溶媒を含有するものである。 <1-1.フルオロスルホン酸リチウム> 本発明の非水系電解液に用いるフルオロスルホン酸リチウムは、前項に記載されたフルオロスルホン酸リチウムを用いることができる。 【0022】 本発明の非水系電解液においては、非水系電解液中のフルオロスルホン酸リチウムのモル含有量が、下限値として、0.0005mol/L以上であり、0.01mol/L以上であることが好ましく、0.02mol/L以上であることがより好ましい。また、上限値として、0.5mol/L以下であり、0.45mol/L以下であることが好ましく、0.4mol/L以下であることがより好ましい。フルオロスルホン酸リチウムの濃度の範囲としては、0.0005mol/L以上0.5mol/L以下であり、0.01mol/L以上0.5mol/L以下が好ましく、0.01mol/L以上0.45mol/L以下がより好ましく、0.01mol/L以上0.40mol/L以下が特に好ましい。フルオロスルホン酸リチウムのモル濃度が上記範囲内であると、電池内部インピーダンスが低くなり、入出力特性や耐久性に優れる。 … 【0024】 <1-2.フルオロスルホン酸リチウム以外のリチウム塩> 本発明における非水系電解液は、特定量の硫酸イオン分を含有するフルオロ硫酸リチウムを含有するが、さらにその他のリチウム塩を1種以上含有することが好ましい。 その他のリチウム塩としては、この用途に用いることが知られているものであれば、特に制限はなく、具体的には以下のものが挙げられる。 【0025】 例えば、LiPF_(6)、LiBF_(4)、LiClO_(4)、LiAlF_(4)、LiSbF_(6)、LiTaF_(6)、LiWF_(7)等の無機リチウム塩; LiPO_(3)F、LiPO_(2)F_(2)等のLiPF_(6)以外のフルオロリン酸リチウム塩類; … 【0035】 <1-3.非水系溶媒> 本発明において、フルオロスルホン酸リチウム、フルオロスルホン酸リチウム以外のリチウム塩を溶解する為の非水系溶媒の代表的な具体例を以下に列挙する。本発明においては、これらの非水系溶媒は単独或いは複数の溶媒を任意の割合で混合した混合液として使用されるが、本発明の効果を著しく損なわない限りこれらの例示に限定されない。」 【0036】 <飽和環状カーボネート> 本発明において非水系溶媒として用いることができる飽和環状カーボネートとしては、炭素数2?4のアルキレン基を有するものが挙げられる。 具体的には、炭素数2?4の飽和環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等が挙げられる。中でも、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートがリチウムイオン解離度の向上に由来する電池特性向上の点から特に好ましい。 飽和環状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併有してもよい。 … 【0039】 <鎖状カーボネート> 本発明において非水系溶媒として用いることができる鎖状カーボネートとしては、炭素数3?7のものが挙げられる。 具体的には、炭素数3?7の鎖状カーボネートとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-n-プロピルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、n-プロピルイソプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチル-n-プロピルカーボネート、n-ブチルメチルカーボネート、イソブチルメチルカーボネート、t-ブチルメチルカーボネート、エチル-n-プロピルカーボネート、n-ブチルエチルカーボネート、イソブチルエチルカーボネート、t-ブチルエチルカーボネート等が挙げられる。」 g「【0240】 [外装ケース] 外装ケースの材質は用いられる非水系電解液に対して安定な物質であれば特に限定されるものではない。具体的には、ニッケルめっき鋼板、ステンレス、アルミニウム又はアルミニウム合金、マグネシウム合金等の金属類、又は、樹脂とアルミ箔との積層フィルム(ラミネートフィルム)が用いられる。軽量化の観点から、アルミニウム又はアルミニウム合金の金属、ラミネートフィルムが好適に用いられる。」 h「【実施例】 【0244】 … <実施例1?15、比較例1?9> [試験例A] [硫酸イオン分の測定] フルオロスルホン酸リチウムに含まれる硫酸イオンをイオンクロマトグラフィーで測定した。測定結果を表1に示す。 [電池の製造] 【0245】 [負極の作製] 炭素質材料98質量部に、増粘剤及びバインダーとして、それぞれ、カルボキシメチルセルロースナトリウムの水性ディスパージョン(カルボキシメチルセルロースナトリウムの濃度1質量%)100質量部及びスチレン-ブタジエンゴムの水性ディスパージョン(スチレン-ブタジエンゴムの濃度50質量%)1質量部を加え、ディスパーザーで混合してスラリー化した。得られたスラリーを厚さ10μmの銅箔に塗布して乾燥し、プレス機で圧延したものを、活物質層のサイズとして幅30mm、長さ40mm、及び幅5mm、長さ9mmの未塗工部を有する形状に切り出し、それぞれ実施及び比較例に用いる負極とした。 【0246】 [正極の作製] 正極活物質としてコバルト酸リチウムを90質量%と、導電材としてのアセチレンブラック5質量%と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)5質量%とを、N-メチルピロリドン溶媒中で混合して、スラリー化した。得られたスラリーを、厚さ15μmのアルミ箔に塗布して乾燥し、プレス機で圧延したものを、活物質層のサイズとして幅30mm、長さ40mm、及び幅5mm、長さ9mmの未塗工部を有する形状に切り出し、それぞれ実施例及び比較例に用いる正極とした。 【0247】 [電解液の製造] 乾燥アルゴン雰囲気下、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合物(体積比30:70)に乾燥したLiPF_(6)を1mol/Lの割合となるように溶解して基本電解液を調製した。この基本電解液に、硫酸イオンを含むフルオロスルホン酸リチウムを5質量%含有するように混合した。 【0248】 [リチウム二次電池の製造] 上記の正極、負極、及びポリエチレン製のセパレータを、負極、セパレータ、正極の順に積層して電池要素を作製した。この電池要素をアルミニウム(厚さ40μm)の両面を樹脂層で被覆したラミネートフィルムからなる袋内に正極と負極の端子を突設させながら挿入した後、表に記載の化合物を混合した電解液をそれぞれ袋内に注入し、真空封止を行い、シート状電池を作製し、それぞれ実施例1及び比較例1に用いる電池とした。 【0249】 [初期容量評価] リチウム二次電池を、電極間の密着性を高めるためにガラス板で挟んだ状態で、25℃において0.2Cに相当する定電流で4.1Vまで充電した後、0.2Cの定電流で3.0Vまで放電した。これを2サイクル行って電池を安定させ、3サイクル目は、0.2Cの定電流で4.2Vまで充電後、4.2Vの定電圧で電流値が0.05Cになるまで充電を実施し、0.2Cの定電流で3.0Vまで放電した。その後、4サイクル目に0.2Cの定電流で4.2Vまで充電後、4.2Vの定電圧で電流値が0.05Cになるまで充電を実施し、0.2Cの定電流で3.0Vまで放電して、初期放電容量を求めた。評価結果を表1に示す。尚、1Cとは電池の基準容量を1時間で放電する電流値を表し、2Cとはその2倍の電流値を、また0.2Cとはその1/5の電流値を表す。 【0250】 [高温保存膨れ評価] 初期放電容量評価試験の終了した電池を、0.2Cの定電流で4.2Vまで充電後、4.2Vの定電圧で電流値が0.05Cになるまで充電した。これを85℃で24時間保存し、電池を冷却させた後、エタノール浴中に浸して体積を測定し、高温保存前後の体積変化から発生したガス量を求めた。評価結果を表1に示す。 【0251】 【表1】 ![]() 【0252】 表1より、同量のフルオロスルホン酸リチウムを含有する電解液を用いた電池においては、フルオロスルホン酸リチウム中に含まれる硫酸イオンの量が少ない方が、初期放電容量が高く、かつ高温保存時のガス発生量が低いことから、電池特性に優れることが分かる。 【0253】 [試験例B] [電解液の製造] 乾燥アルゴン雰囲気下、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合物(体積比30:70)に乾燥したLiPF_(6)を1mol/Lの割合となるように溶解して基本電解液を調製した。この基本電解液に、硫酸イオンを含むフルオロスルホン酸リチウムを表2に記載の割合となるように混合した。 【0254】 [リチウム二次電池の製造] 実施例1及び比較例1と同様の方法にてシート状電池を作製して初期容量評価及び高温保存膨れ評価を行った。評価結果を表2に示す。 【0255】 【表2】 ![]() 【0256】 表2より、製造された電解液の硫酸イオンの量が1.00×10^(-7)×mol/L?1.00×10^(-2)mol/Lの範囲内であれば、初期放電容量が向上し、高温保存時のガス発生量が低下することから、電池特性が向上することが分かる。」 i「[試験例C] [カルボン酸イオン分の測定] フルオロスルホン酸リチウムに含まれる酢酸イオンをイオンクロマトグラフィーで測定した。測定結果を表3に示す。 【0257】 [電解液の製造] 乾燥アルゴン雰囲気下、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合物(体積比30:70)に乾燥したLiPF_(6)を1mol/Lの割合となるように溶解して基本電解液を調製した。この基本電解液に、酢酸イオンを含むフルオロスルホン酸リチウムを1質量%含有するように混合した。 【0258】 [リチウム二次電池の製造] 実施例1?7及び比較例1?3と同様の方法にてシート状電池を作製し、高温保存膨れ評価を行った。評価結果を表3に示す。 【0259】 【表3】… 【0260】 表3より、同量のフルオロスルホン酸リチウムを含有する電解液を用いた電池においては、酢酸イオンの量が少ない方が高温保存時のガス発生量が少なく、電池特性に優れることが分かる。 【0261】 [試験例D] [電解液の製造] 乾燥アルゴン雰囲気下、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合物(体積比30:70)に乾燥したLiPF_(6)を1mol/Lの割合となるように溶解して基本電解液を調製した。この基本電解液に、酢酸イオンを含むフルオロスルホン酸リチウムを表に記載の割合となるように混合した。 【0262】 [リチウム二次電池の製造] 上記負極、正極並びに上記電解液を使用した以外、実施例1?8及び比較例1?4と同様の方法にてシート状電池を作製して初期容量評価及び高温保存膨れ評価を行った。評価結果を表4に示す。 【0263】 【表4】 ![]() 【0264】 表4より、製造された電解液の酢酸イオンの量が1.00×10^(-6)mol/L?4.00×10^(-3)mol/Lの範囲内であれば、初期放電容量が高く、かつ高温保存時のガス発生量が低下することから、電池特性が向上することが分かる。」 j「[試験例E] [ハロゲン分の測定] フルオロスルホン酸リチウムに含まれるハロゲン化物イオンをイオンクロマトグラフィーで測定した。測定結果を表5に示す。尚、フッ化物イオン、塩化物イオン以外のハロゲン化物イオンは検出されなかった。 【0265】 [電解液の製造] 乾燥アルゴン雰囲気下、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合物(体積比30:70)に乾燥したLiPF_(6)を1mol/Lの割合となるように溶解して基本電解液を調製した。この基本電解液に、塩化物イオンを含むフルオロスルホン酸リチウムを2.5質量%含有するように混合した。 【0266】 [リチウム二次電池の製造] 実施例1?12及び比較例1?6と同様の方法にてシート状電池を作製して初期容量評価を行った。評価結果を表5に示す。 [高温保存特性の評価] 初期放電容量評価試験の終了した電池を、0.2Cの定電流で4.2Vまで充電後、4.2Vの定電圧で電流値が0.05Cになるまで充電した。これを85℃で24時間保存し、電池を冷却させた後、25℃において0.2Cの定電流で3Vまで放電させて残存容量を求めた。(残存容量/充電容量)×100より容量維持率を求めた。評価結果を表5に示す。 【0267】 【表5】… 【0268】 表5より、同量のフルオロスルホン酸リチウムを含有する電解液を用いた電池においては、フルオロスルホン酸リチウム中に含まれる塩化物イオンの量が少ない方が、初期放電容量と容量維持率が明らかに高く、電池特性に優れることが分かる。 【0269】 [試験例F] [電解液の製造] 乾燥アルゴン雰囲気下、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合物(体積比30:70)に乾燥したLiPF_(6)を1mol/Lの割合となるように溶解して基本電解液を調製した。この基本電解液に、塩化物イオンを含むフルオロスルホン酸リチウムを表6に記載の割合となるように混合した。 【0270】 [リチウム二次電池の製造] 上記負極、正極並びに上記電解液を使用した以外、実施例1?13及び比較例1?7と同様の方法にてシート状電池を作製して初期容量評価及び高温保存特性評価を行った。評価結果を表6に示す。 【0271】 【表6】 ![]() 【0272】 表6より、製造された電解液の塩化物イオンの量が1.00×10^(-6)mol/L?1.00×10^(-3)mol/Lの範囲内であれば、初期放電容量や高温保存特性といった電池特性が向上することが分かる。」 (3) 本件発明が解決しようとする課題 ア 上記bの本件明細書の段落【0007】によれば、「本発明の課題」は、「初期の電池特性と耐久性」、「耐久後も高い入出力特性およびインピーダンス特性」が維持される非水系電解液二次電池をもたらすことができる「非水系電解液用の添加剤ならびに非水系電解液」を提供することにあると理解できる。 イ 一方で、上記hの段落【0253】?【0256】には、試験例Bとして、「エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合物(体積比30:70)に乾燥したLiPF_(6)を1mol/Lの割合となるように溶解」して調製した「基本電解液」に、「硫酸イオンを含むフルオロスルホン酸リチウム」を表2に記載された割合となるように混合した電解液(実施例1?7、比較例2?3)が記載されており、それぞれの電解液を用いた電池の特性として「初期放電容量」と「ガス発生量」が評価されている。 上記「初期放電容量」は段落【0007】に記載された上記「初期の電池特性」に相当しており、上記「ガス発生量」は、高温(85℃で24時間)保存前後の体積変化から求めた発生したガス量のことであり(【0250】)、電池の耐久性を評価しているといえるから、段落【0007】に記載された上記「耐久性」に相当するものと理解できるが、本件明細書全体をみても、段落【0007】の「耐久後も高い入出力特性およびインピーダンス特性」について評価試験を行ったことについての記載はない。 ウ 上記ア、イによれば、本件明細書の段落【0007】の「本発明の課題」は、「初期の電池特性と耐久性」、「耐久後も高い入出力特性およびインピーダンス特性」が維持される非水系電解液二次電池をもたらすことができる「非水系電解液用の添加剤ならびに非水系電解液」を提供することにあるとの記載は、これらの項目の全てを向上又は改善することを課題とすることを開示したものではなく、少なくともこれらの項目のいずれかを向上又は改善することにより、電池特性を向上させることを開示したものと理解できる。 エ そして、本件明細書には、「発明の効果」として、「発明者らは、特定量の硫酸イオン分を含有するフルオロスルホン酸リチウムを、非水系電解液中に含有させることにより、電池内部インピーダンスが低下し、低温出力特性が向上するという優れた特徴が発現されることを見出し、更に耐久後にも初期の電池内部インピーダンス特性や高出力特性が持続するとの知見を得て、本発明を完成させた。詳細は詳らかではないが、フルオロスルホン酸リチウムに特定の割合で硫酸イオンを含有させることにより相乗効果が発現されていると考えられる。」(上記dの段落【0009】)との記載がある。 この記載から、「特定量の硫酸イオン分を含有するフルオロスルホン酸リチウムを、非水系電解液中に含有させることにより」、「優れた特徴が発現されることを見出し」、「本発明を完成させた」こと、また、「詳細は詳らかではないが、フルオロスルホン酸リチウムに特定の割合で硫酸イオンを含有させることにより相乗効果が発現されていると考え」ていたことを理解できる。 オ また、本件明細書には、上記試験例Bの試験結果として、上記hの段落【0255】の【表2】において、「基本電解液」に「フルオロスルホン酸リチウム(FSO_(3)Li)」及び「硫酸イオン」を所定の割合で含有させた電解液(実施例1?7)の「初期放電容量」(146.5?148.8(mAh/g))が、「フルオロスルホン酸リチウム(FSO_(3)Li)」及び「硫酸イオン」をいずれも含有しない電解液(比較例2)の「初期放電容量」(145.8(mAh/g))よりも優れていることが示されている。 さらに、本件明細書には「LiPF_(6)」は電解質として用いられることが記載されており(上記bの段落【0005】)、「本発明の課題」は「非水系電解液用の添加剤」を提供することにあると記載されている(上記bの段落【0007】)ことに照らすと、本件発明において、「LiPF_(6)」は電解質として用いられ、「フルオロスルホン酸リチウム」及び「硫酸イオン」は添加剤として用いられているとみるのが自然である。 カ 以上の検討によれば、本件明細書の記載に基づいて、本件発明が解決しようとする課題は、「フルオロスルホン酸リチウムと硫酸イオンとを添加剤として含有しない非水系電解液に対して、初期放電容量等の電池特性を改善する非水系電解液を用いた非水系電解液二次電池を提供すること」であると認められる。 キ なお、本願を含む一連の分割出願のうち特願2012-92111号が特許設定登録を受けた特許第5987431号は、本件発明の非水系電解液二次電池に封入された非水系電解液と同様の特徴を有する非水系電解液の発明に関するものであるところ、当該特許第5987431号に係る特許取消決定取消請求事件の判決(H30年(行ケ)10170号)において、課題の認定手法及び課題の認定について、次のように判断されたことに基づいて、本決定においても上記ウ、カのように判断している。 「第4 当裁判所の判断 … 2 取消事由1(本件訂正発明4,6ないし22のサポート要件の判断の誤り)について 本件訂正発明4の課題の認定の誤りの有無について … ア… (ウ) …本件明細書の【0007】の「本発明」の課題は,「初期の電池特性と耐久性」,「耐久後も高い入出力特性およびインピーダンス特性」が維持される非水系電解液二次電池をもたらすことができる「非水系電解液用の添加剤ならびに非水系電解液」を提供することにあるとの記載は,従来技術においてこれらの電池特性の項目に具体的な問題点があることを踏まえて,それらを解決することを課題とし,あるいはこれらの項目のすべてを向上又は改善することを課題とすることを開示したものではなく,少なくともこれらの項目のいずれかを向上又は改善することにより,電池特性を向上させることを課題として開示したものと理解できる。 … ウ 以上によれば,本件明細書には,本件訂正発明4の課題は,フルオロスルホン酸リチウムと硫酸イオンとを添加剤として含有しない非水系電解液に対して,初期放電容量等の電池特性を改善する非水系電解液を提供することにあることが開示されているものと認められる。」(第54?58頁) ク また、本件発明の課題は上記カのとおりであるから、上記第5の理由1.アで認定した「実質課題」及び同イで認定した「実施例に基づく課題」は採用できず、また、これら課題の認定を踏まえたサポート要件の取消理由(申立ての理由Aと理由Bに基づく理由1)も採用できない。以下のサポート要件についての検討は、上記カで認定した課題に基づいて行う。 (4)本件発明の課題を解決できると認識できる範囲について ア 上記hの段落【0253】?【0256】には、実施例1?7に係る「試験例B」の電池として、負極、セパレータ、正極の順に積層した電池要素をラミネートフィルムからなる袋内に挿入し、上記電解液を当該袋内に注入し、真空封止を行うことによって作製したシート状電池であって(上記hの段落【0248】)、上記電解液が、「エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合物(体積比30:70)に乾燥したLiPF_(6)を1mol/Lの割合となるように溶解」して調製した「基本電解液」に、「硫酸イオンを含むフルオロスルホン酸リチウムを表2に記載された割合となるように混合」して製造した電解液であるもの(上記hの段落【0253】)が記載されている。 また、上記電池について、初期容量評価及び高温保存膨れ評価を行ったこと(上記hの段落【0249】、【0250】、【0254】)が記載されている。 イ 上記hの段落【0255】の【表2】の実施例1?7における、非水系電解液中のフルオロスルホン酸リチウム(FSO_(3)Li)の含有量は、0.025質量%以上5質量%以下の範囲内であると記載されているところ、次のとおり「質量%」は「mol/L」に換算することができる。 上記hの段落【0251】の【表1】によれば、実施例1のフルオロスルホン酸リチウム中の硫酸イオン量は0.115mol/kgであり、また、上記hの段落【0255】の【表2】によれば、実施例1の電解液中のフルオロスルホン酸リチウムの含有量と硫酸イオンの含有量は、それぞれ、5質量%、7.27×10^(-3)mol/Lであることから、実施例1の非水電解液の比重をρ(g/cm^(3))とすると、実施例1の1L(=1000cm^(3))中のフルオロスルホン酸リチウムの質量は1000×ρ×(5/100)gであり、その中に含まれる硫酸イオンのモル量は1000×ρ×(5/100)×(0.115/1000)mol=7.27×10^(-3)となるから、実施例1の電解液1L(=1000cm^(3))中にフルオロスルホン酸リチウムは、1000×ρ×(5/100)=7.27×10^(-3)÷(0.115/1000)=63.2g含まれていることとなる。 そして、フルオロスルホン酸リチウム(FSO_(3)Li)の分子量は106であるから、実施例1の電解液中のフルオロスルホン酸リチウムのモル濃度は63.2÷106=0.596mol/Lと計算できる。 そして、上記hの段落【0255】の【表2】によれば、実施例7の電解液中のフルオロスルホン酸リチウムの含有量は0.025質量%であるところ、その含有量は、実施例1の電解液中のフルオロスルホン酸リチウムの含有量の1/200であることから、実施例7の電解液中のフルオロスルホン酸リチウムのモル濃度は、0.596÷200=2.98×10^(-3)mol/Lと計算できる。 そうすると、実施例1?7の非水系電解液は、上記アに示した「基本電解液」に「フルオロスルホン酸リチウム」を「2.98×10^(-3)mol/L以上0.596mol/L以下」の範囲内で含有している非水系電解液であると認められる。 また、比較例2は、基本電解液にフルオロスルホン酸リチウム(FSO_(3)Li)を全く含有しないものである。そして、実施例1?7の初期放電容量(146.5?148.8(mAh/g))は、比較例2の初期放電容量(145.8(mAh/g))に比べて、改善されていることが確認できる。 ウ 同【表2】の実施例1?7における、非水系電解液中の硫酸イオンの含有量は、9.21×10^(-7)mol/L以上8.23×10^(-3)mol/Lであるが、上記hの段落【0256】の記載によれば、初期放電容量が向上し、高温保存時のガス発生量が低下する硫酸イオン含有量は、1.00×10^(-7)mol/L以上1.00×10^(-2)mol/L以下の範囲内であるとされている。 エ してみると、上記(3)カに示した課題について、発明の詳細な説明の記載のうち試験例Bの記載に基づいて、当業者が当該課題を解決できると認識できる範囲(以下、「試験例Bに基づく認定範囲」という。)は、 「負極、セパレータ、正極の順に積層した電池要素をラミネートフィルムからなる袋内に挿入し、電解液を当該袋内に注入し、真空封止を行った、シート状のリチウム二次電池であって、 上記電解液は、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合物(体積比30:70)にLiPF_(6)を1mol/Lの割合となるように溶解して調整した基本電解液に、硫酸イオンを含むフルオロスルホン酸リチウムを混合した非水系電解液であり、 上記非水系電解液中に、フルオロスルホン酸リチウムが2.98×10^(-3)mol/L以上0.596mol/L以下の範囲で含有されており、硫酸イオンが1.00×10^(-7)mol/L以上1.00×10^(-2)mol/L以下の範囲で含有されている、リチウム二次電池。」 であるといえる。 (5)本件発明2と試験例Bに基づく認定範囲との対比 本件訂正によって請求項1は削除されたので、本件発明2と試験例Bに基づく認定範囲とを対比することによって、本件発明2が上記(3)カに示した課題を解決し得るものであるといえるかについて検討する。 ア ラミネートフィルムが外装ケースとして用いられる電池がシート状の電池であること、及び、リチウム二次電池において正極・負極がリチウムイオンを吸蔵・放出可能であることは技術常識であるから、本件発明2の「リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極及び負極、並びに非水系電解液が外装ケースに封入され」ており、「該外装ケースがラミネートフィルムである非水系電解液二次電池」は、試験例Bに基づく認定範囲の「負極、セパレータ、正極の順に積層した電池要素をラミネートフィルムからなる袋内に挿入し、電解液を当該袋内に注入し、真空封止を行った、シート状のリチウム二次電池」に相当する。 イ 「非水系電解液」が、本件発明2において、「フルオロスルホン酸リチウム及び硫酸イオンを含有」するものであることは、試験例Bに基づく認定範囲において、「硫酸イオンを含むフルオロスルホン酸リチウムを混合した」ものであることに相当し、また、「非水系電解液中の硫酸イオンの含有量が、1.0×10^(-7)mol/L以上1.0×10^(-2)mol/L以下であ」ることは、両者で一致している。 ウ しかしながら、「非水系電解液」が、試験例Bに基づく認定範囲では、「エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合物(体積比30:70)にLiPF_(6)を1mol/Lの割合となるように溶解して調整した基本電解液」を用いているものであるのに対し、本件発明2は、「フルオロスルホン酸リチウム以外のリチウム塩を含有する」ことが特定されているのみであって、上記「基本電解液」を用いる点について特定されていない点で相違している(以下「相違点1」という。)。 エ また、「非水系電解液中のフルオロスルホン酸リチウム」の「モル含有量」について、本件発明2の上限値が「0.5mol/L以下」であることは、試験例Bに基づく認定範囲の上限値が「0.596mol/L以下」の範囲に含まれているが、本件発明2の下限値が「0.0005mol/L以上」であることは、試験例Bに基づく認定範囲の下限値「2.98×10^(-3)mol/L以上(0.00298mol/L以上)」を下回っている点で相違している(以下「相違点2」という。)。 (6)相違点についての検討 本件発明2は、上記相違点1及び相違点2で、試験例Bに基づく認定範囲を超えるものであるが、そのような本件発明2が、上記(3)カに示した課題を解決し得ないものであるといえるかについて以下検討する。 (6-1)相違点1についての検討 ア 試験例Bに基づく認定範囲を認定する基礎となった試験例Bにおいて使用されている「基本電解液」は、「エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合物(体積比30:70)にLiPF_(6)を1mol/Lの割合となるように溶解」されたものである。 そこで、非水系電解液に、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)(以下、それぞれ「EC」及び「EMC」という。)が含有されることが特定されていない点、及び、1mol/LのLiPF_(6)を含有することが特定されていない点に関して、本件発明2が課題を解決し得ないものであるといえるかについて順次検討する。 イ 本件発明2は、上述のように、「非水系電解液」にECとEMCが含有されることが特定されていないが、「非水系電解液」が「非水系溶媒」を含むことは技術常識であるから、本件発明2の「非水系電解液」が「非水系溶媒」を含有するものであることは明らかである。 ウ そして、上記fの段落【0035】、【0036】、【0039】によれば、上記ECとEMCは、「フルオロスルホン酸リチウム、フルオロスルホン酸リチウム以外のリチウム塩を溶解する為の非水系溶媒」であり、非水系溶媒については「単独或いは複数の溶媒を任意の割合で混合した混合液として使用されるが、本発明の効果を著しく損なわない限りこれらの例示に限定されない」と記載されている。 また、本件発明は、上記(3)のウ?オで検討したように、非水系電解液に、フルオロスルホン酸リチウムと硫酸イオンが添加剤として含有されていることによって、相乗効果が発現するものであるから、非水系電解液にフルオロスルホン酸リチウムと硫酸イオンが添加剤として含有されていれば、非水系溶媒の種類によらずに初期放電容量等の電池特性を改善することができるといえる。 さらに、特許権者が令和 1年 8月19日に提出した意見書の第16頁(ア)に、「エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)及びジメチルカーボネート(DMC)の混合物(体積比20:10:70)」にLiPF_(6)を1mol/Lの割合となるように溶解した別の基本電解液を調整した追試2の結果を記載しており、当該別の基本電解液におけるフルオロスルホン酸リチウムと硫酸イオンの含有量が次に摘記する表Dのとおり、本件発明2の範囲内のものとなるように調整した電解液を用いて電池の評価をした実施例D-1の場合においても、本件発明2の範囲内のものではない比較例D-1に比べて、初期放電容量等が改善されることが確認できる。 「 ![]() 」 エ したがって、上記ウの検討によれば、試験例Bにおいて用いられた上記ECとEMCは、上記fの段落【0035】、【0036】、【0039】に記載されるように、代表的な非水系溶媒の具体例として採用されたものであり、また、別の基本電解液を採用した場合の追試2の結果も勘案すると、本件発明2は、上記ECとEMC以外の通常採用される非水系溶媒を用いても、初期放電容量等の電池特性を改善し得るものであるといえる。 よって、本件発明2は、「非水系電解液」に、ECとEMCが含有されることが特定されていないことをもって、上記(3)カに示した課題を解決し得ないものであるとはいえない。 オ 次に、本件発明2の「非水系電解液」に、「フルオロスルホン酸リチウム以外のリチウム塩を含有する」ことが特定されているが、「LiPF_(6)を1mol/Lの割合となるように溶解」することが特定されていない点について検討する。 カ この点に関して、上記fの段落【0021】には「本発明の非水系電解液は、少なくとも、フルオロスルホン酸リチウム、フルオロスルホン酸リチウム以外のリチウム塩、及びこれらを溶解する非水系溶媒を含有するものである。」と記載されており、本発明の非水系電解液にフルオロスルホン酸リチウム以外のリチウム塩が必須であることが示されている。 また、上記fの段落【0024】、【0025】には「本発明における非水系電解液は、特定量の硫酸イオン分を含有するフルオロ硫酸リチウムを含有するが、さらにその他のリチウム塩を1種以上含有することが好ましい。その他のリチウム塩としては、この用途に用いることが知られているものであれば、特に制限はなく、具体的には以下のものが挙げられる。例えば、LiPF_(6)・・・」と記載されており、当該記載によれば、「LiPF_(6)」は、「フルオロスルホン酸リチウム以外のリチウム塩」の好ましい一例であって、従来同じ用途に用いられるものであれば、これに限られるものではないことが理解される。なお、上記同じ用途とは、非水系溶媒に溶解して、当該リチウム二次電池の正極・負極において吸蔵・放出されるリチウムイオンを供給することであることは、当業者には自明の事項である。 キ したがって、本件発明2において、「フルオロスルホン酸リチウム以外のリチウム塩」を含有することが特定されており、当該「フルオロスルホン酸リチウム以外のリチウム塩」が非水系電解液に溶解することで、リチウム二次電池に必要なリチウムイオンが供給されることが理解できるから、「LiPF_(6)」を含有することが特定されていないことをもって、上記(3)カに示した課題を解決し得ないものであるとはいえない。 ク また、本件明細書には、「フルオロスルホン酸リチウム以外のリチウム塩」の「含有量」について一般的に述べた記載はないが、特許権者が令和 1年 8月19日に提出した上記意見書の第17頁(イ)に、「エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)の混合物(体積比30:70)」に「LiPF_(6)」を「1mol/L、0.7mol/L、1.5mol/L」の割合となるように溶解した基本電解液1、2、3を調整し、これらの基本電解液にフルオロスルホン酸リチウムと硫酸イオンの含有量が本件発明2に規定する含有量の範囲となるように、次に摘記する表1のとおりに混合した電解液を用いて電池の評価を行った追試について記載されており、試験例Bの実施例3に相当する上記基本電解液2を用いた実験番号2と、基本電解液2、3を用いた実験番号3、4は、初期放電容量が143.3?143.7mAH/gと略同様の結果が得られていることからして、非水電解液に「LiPF_(6)」等の「フルオロスルホン酸リチウム以外のリチウム塩」が一定の範囲、例えば上記0.7?1.5mol/Lの範囲で含有していれば、好ましい結果が得られることが理解できる。 ![]() したがって、本件発明2において、非水系電解液に含有された「フルオロスルホン酸リチウム以外のリチウム塩」について、その含有量が特定されていなくとも、好ましい初期放電容量等の電池特性が得られるような含有量の範囲で使用することは当業者にとって自明であるので、その含有量が特定されていないことをもって、上記(3)カに示した課題を解決し得ないものであるとはいえない。 ケ 以上から、本件発明2は、上記相違点1にかかわらず、「非水系電解液」に「フルオロスルホン酸リチウム以外のリチウム塩」が含有されることが特定されているので、上記3カに示した課題を解決し得ないものであるとはいえない。 (6-2)相違点2についての検討 ア 「フルオロスルホン酸リチウム」の「モル含有量」について、上記fの段落【0022】には、「下限値として、0.0005mol/L以上であり、0.01mol/L以上であることが好ましく・・・フルオロスルホン酸リチウムのモル濃度が上記範囲内であると、電池内部インピーダンスが低くなり、入出力特性や耐久性に優れる。」と記載されており、下限値が「0.0005mol/L以上」であれば、電池内部インピーダンスが低くなり、入出力特性が優れることが示されている。 また、上記hの段落【0255】の【表2】によれば、実施例1から実施例7へと「フルオロスルホン酸リチウム」の濃度が少なくなるほど初期放電容量が増加する傾向性があることを見て取ることができる。これは、特許権者が令和 1年 8月19日に提出した上記意見書の第19頁(ア)において、「本件発明1は、フルオロスルホン酸リチウムを非水系電解液の添加剤として用いて電極に被膜を形成するものであって、・・・電極に被膜を形成する際には、インピーダンス特性を向上させる上では可及的に薄い被膜を形成すべきであって、・・・通常は、添加剤の含有量の上限を定めることにこそ技術的な意味がある・・・本件発明1においては、フルオロスルホン酸リチウムの含有量の数値範囲について下限も定められている。しかし、これは、単に実質的に添加剤が存在しないとみられるようなものを除外する趣旨でしかない。いかにフルオロスルホン酸リチウムの含有量が極小量であったとしても、・・・少なくとも電極の一部の表面改質がなされ、その部分的な表面改質に応じて幾らかの電極性能の改善の効果が生じることは、当業者に明らかである」と説明されていることも合わせて考慮すると、「フルオロスルホン酸リチウム」の含有量が少なく、「フルオロスルホン酸リチウム」によって形成される被膜は薄いほど電極性能が向上し、また、電極表面の全体を覆わず、その一部のみの表面改質がなされる場合であっても電極性能の一定の改善効果が見込まれるものであると理解される。 したがって、本件発明2における「フルオロスルホン酸リチウム」の「モル含有量」の下限値「0.0005mol/L以上」が、試験例Bに基づいて採用された下限値「2.98×10^(-3)mol/L以上」を下回っていたとしても、そのような本件発明2は、「フルオロスルホン酸リチウム」が全く含まれない場合に比べて、初期放電容量等の電池特性を改善しているということができる。 よって、本件発明2は、相違点2に係る特定事項を備えていないことによって、上記(3)カに示した課題を解決し得ないものであるとはいえない。 (7) 小括 上記(3)?(6)の検討によれば、本件発明が解決しようとする課題は、上記(3)カに記載した課題と認定できるところ、本件発明2は、上記相違点1及び相違点2で試験例Bに基づく認定範囲を超えるものであるにもかかわらず、上記課題を解決し得ないものであるとはいえない。 また、本件発明2を引用することによって、本件発明2の特定事項の全てを含む本件発明3?14も、同様の理由によって、上記課題を解決し得ないものであるとはいえない。 2 サポート要件について(その2) 上記第5に記載した取消理由のうち、上記理由2(申立ての理由Cと理由Dに対応)について検討する。 ア 理由2は、本件訂正前の請求項1に係る発明に対する次の取消理由である。 「本件発明1において、「非水系電解液」は「フルオロスルホン酸リチウム及び硫酸イオンを含有し」、また、「フルオロスルホン酸リチウム以外のリチウム塩を含有する」と特定されているから、「非水系電解液」は「フルオロスルホン酸リチウム及び硫酸イオン」と「フルオロスルホン酸リチウム以外のリチウム塩」以外の任意の成分を任意の量で含有することを許容するものとなっている。 そのため、本件発明1においては、「非水系電解液」は、電池特性を悪化させるような成分を含むことを許容しており、具体的には、非水電解液中に明示的に示された「フルオロスルホン酸リチウム」、「硫酸イオン」及び「フルオロスルホン酸リチウム以外のリチウム塩」を含有する他に、初期放電容量や容量維持率を悪化させるようなClイオン等の不純物を含有する非水電解液を用いる発明が含まれているといえる。 したがって、本件発明1は、本件発明の課題を解決することのできない発明を含んでいるから、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。」 イ 一方、本件訂正後の本件発明2においても、「非水系電解液」は「フルオロスルホン酸リチウム及び硫酸イオン」と「フルオロスルホン酸リチウム以外のリチウム塩」以外の任意の成分を任意の量で含有することを許容するものであることは同様であるから、本件発明2を対象とした場合の上記理由2について検討する。 ウ 本件発明2において、「該非水系電解液は、フルオロスルホン酸リチウム及び硫酸イオンを含有し」及び「前記非水系電解液がフルオロスルホン酸リチウム以外のリチウム塩を含有する」と特定されているから、本件発明2の「非水系電解液」は、文言上、初期放電容量や容量維持率を悪化させるような含有量のClイオンや酢酸イオンを含有し得るものである。 エ しかしながら、上記理由2に対して、特許権者が令和 1年 8月19日に提出した意見書の(2)理由2(a)(b)(第20?28頁)を参照すると、いずれも本件特許に係る出願の優先日前に公知となった、乙17には、ビス(フルオロスルホニル)イミドとフルオロ硫酸を含む混合液を、LiOHで中和し、中和液からフルオロ硫酸リチウムを単離する製法が記載されており、乙18には、三酸化硫黄とフッ化アンモニウムからフルオロスルホン酸アンモニウムを合成し、得られたフルオロスルホン酸アンモニウムをリチウムアルコキシドを用いて濃縮することでフルオロスルホン酸リチウムを得る方法が記載されている。 したがって、乙17や乙18が本件発明に係る出願の優先日よりも前に公知となっていることを勘案すると、初期放電容量や容量維持率を悪化させるようなClイオンや酢酸イオンを含有することなくフルオロスルホン酸リチウムが製造可能であることは、本件発明に係る出願の優先日における、当業者の技術常識であったといえる。 オ また、フルオロスルホン酸リチウムの製造方法によっては、副生成物として硫酸イオン以外にClイオンや酢酸イオンが含有される場合があるが、フルオロスルホン酸リチウムに含まれる硫酸イオンを低減するために、通常行われる精製方法によって精製すると、Clイオンや酢酸イオンも同時に低減されることとなるので、本件発明2のように硫酸イオンが低減されている場合には、Clイオンや酢酸イオンが微量含まれていたとしても、電池の初期放電容量や容量維持率を悪化させるような含有量で含むことはないといえる。 カ この点について、上記意見書の(2)理由2(c)(第28?34頁)の説明を参照すると、乙19と乙20はいずれも本件特許に係る出願の分割に係る原出願の出願日後に公知となったものではあるが、乙19には、塩化リチウムとフルオロスルホン酸(フルオロ硫酸)を原料として炭酸ジメチル中で反応させ、炭酸ジメチルを蒸留留去することにより、硫酸イオン及び塩化物イオンを含むフルオロスルホン酸リチウムの粉末が得られるが、この粉末を炭酸ジメチルに60℃で加熱攪拌して溶解させ、溶け残った微量の粉末をメンブレンフィルターで濾別し、冷却して再結晶を行う精製工程を繰り返して行うことによって、塩化物イオンを硫酸イオンの含有濃度以下に低減しうることが記載されており(段落【0056】?【0063】)、乙20には、酢酸リチウムとフルオロスルホン酸(フルオロ硫酸)を原料として炭酸ジメチル中で反応させ、炭酸ジメチルを蒸留留去し、カルボン酸を除去することにより、硫酸イオン及び酢酸イオンを含むフルオロスルホン酸リチウムの溶液が得られるが、これに45℃で炭酸ジメチルを加えて得られた溶液を、メンブレンフィルターで濾過し、冷却して再結晶を行う精製工程を繰り返して行うことによって、酢酸イオンと硫酸イオンを同程度の濃度に低減しうることが記載されている(段落【0057】?【0060】)。 (ア)乙第19号証 「【0056】 (実施例1) <反応> 乾燥窒素気流下、200mlのPFA製四口フラスコに塩化リチウム4.4g (103.5mmol)を量り取り、炭酸ジメチル125mlを加えた。この溶液を氷浴中で攪袢しながらフルオロスルホン酸5ml(8.63g、86.24mmol)を約10分かけてと滴下した。滴下前に10℃であった液温は、酸の滴下により発熱し20℃まで昇温されたが、滴下終了後に速やかに元の温度に戻った。滴下に伴い、炭酸ジメチルに難溶である塩化リチウムが溶解した。氷水浴にて冷却しながら2時間撹拌した後、氷水浴を外し室温環境下にて1時間攪袢した。反応終了後の溶液からメンブレンフィルター(PTFE製、公称孔径0.5μm)を用いて過剰の塩化リチウムを濾別した。 【0057】 <濃縮> 上記反応溶液から約10kPa、40℃で炭酸ジメチルを100ml蒸留留去し、この溶液を放置することで白色粉末を得た。 NMR分析結果から得られた粉末はフルオロスルホン酸リチウムと炭酸ジメチルのモル比1:1の錯体であり、イオンクロマトグラフィーの結果から、硫酸イオン0.30mol/kg、塩化物イオン0.56mol/kgを含んでいた。 【0058】 <再結晶1> 得られた、粗生物を乾燥不活性ガス雰囲気化、50mlの炭酸ジメチルに分散させ、60℃で30分間加熱撹拌することで溶解させた。溶け残った微量の粉末をメンブレンフィルター(PTFE製、 公称孔径0.5μm)を用いて濾別した。得られた濾液を室温まで放冷の後、5℃にて10時間静置し。無色の結晶を得た。 【0059】 NMR分析結果から得られた粉末はフルオロスルホン酸リチウムと炭酸ジメチルのモル比1:1の錯体であり、イオンクロマトグラフィーの結果から、硫酸イオン0.12mol/kg、塩化物イオン0.11mol/kgを含んでいた。 フルオロスルホン酸リチウムの収量は4.9g。再結晶の収率は72%、操作全体を通しての収率は54%であった。 【0060】 <再結晶2> このフルオロスルホン酸リチウムを再度同様の方法で再結晶を実施したところ、硫酸イオン0.062mol/kg、塩化物イオン0.056mol/kgを含むフルオロスルホン酸リチウムを収量3.5g得た。この操作での収率は71%、操作全体を通しての収率は39%であった。 【0061】 (実施例2) <濃縮>工程までは実施例1記載の方法と同様に実施した。 <再結晶1> 得られた、粗生物を乾燥不活性ガス雰囲気化、50mlの炭酸ジメチルに分散させ、140μL(塩化物イオンに対して1.2mol倍量)の純水を加えた後、60℃で30分間加熱撹拌することで溶解させた。溶け残った微量の粉末をメンブレンフィルター(PTFE製、 公称孔径0.5μm)を用いて濾別した。得られた濾液を室温まで放冷の後、5℃にて10時間静置し。無色の結晶を得た。 【0062】 NMR分析結果から得られた粉末は実施例1と同様にフルオロスルホン酸リチウムと炭酸ジメチルのモル比1:1の錯体であり、イオンクロマトグラフィーの結果から、硫酸イオン0.083mol/kg、塩化物イオン0.0011mol/kgを含んでいた。 <再結晶2> このフルオロスルホン酸リチウムを実施例1と同様の純水を添加しない方法で再度再結晶を実施したところ、硫酸イオン0.062mol/kg、塩化物イオン0.00056mol/kgを含むフルオロスルホン酸リチウムを収量2.58g得た。操作全体を通しての収率は29.8%であった。 【0063】 <脱炭酸ジメチル> 得られたフルオロスルホン酸リチウムを真空容器内に入れ、100Paまで減圧後、40℃に加熱しながら4時間放置したところ、炭酸ジメチルの比率は1.3mol%であった。」 (イ)乙第20号証 「【0057】 (実施例2) <反応工程> 乾燥窒素気流下、500mlのPFA製四口フラスコに酢酸リチウム7.9g(120.1mmol)を量り取り、炭酸ジメチル250mlを加えた。この溶液を水浴中で攪袢しながらフルオロスルホン酸5.43ml(10.0g、100mmol)を約10分かけて滴下した。滴下前に25℃であった液温は、酸の滴下により発熱し30℃まで昇温されたが、滴下終了後に速やかに元の温度に戻った。滴下に伴い、炭酸ジメチルに難溶である酢酸リチウムが溶解した。水浴にて1時間撹拌した。 【0058】 <反応工程時に用いた非水溶媒を取り除く工程> 上記反応溶液を浴温45℃にて減圧度を制御しながら炭酸ジメチルを約220ml蒸留留去し、脱水された不活性ガスにて大気圧に復圧後、300mlの炭酸ジエチルを加えた。この溶液からメンブレンフィルター(PTFE製、公称孔径0.5μm)を用いて過剰の酢酸リチウムを濾別した。 【0059】 <カルボン酸を除去する工程> 上記溶液をトートクエンジ社製のHelipackNo.2を充填した10cmの精留塔を用いて、浴温45℃にて、減圧度を制御しながら、残りの炭酸ジメチルと炭酸ジエチルを炭酸ジエチルが残り約10mlとなるまで留去した。 【0060】 <精製工程> 脱水された不活性ガスにて大気圧に復圧後、浴温45℃を保ちながら、炭酸ジメチルを40ml加えた。得られた溶液を、脱水された不活性ガス雰囲気下、メンブレンフィルター(PTFE製、公称孔径0.5μm)を用いて熱時漉過を行い、溶液を不活性ガス雰囲気下で徐々に4℃まで冷却したところ、白色結晶が得られた。収率は66%、硫酸イオンの含量は0.01mol/kg以下、酢酸イオンの含量は0.001mol/kg以下であった。さらに、得られた固体を45℃にて50mlのDMCに溶解し、同様の工程を実施したところ、90%の回収率で、硫酸イオン・酢酸イオン共に0.001mol/kg以下の白色結晶を得た。」 キ したがって、乙19や乙20を参照すると、塩化物イオンや酢酸イオンと硫酸イオンを含有したフルオロスルホン酸リチウムは、熱濾過や再結晶を繰り返すことで精製可能であることが理解され、ここで使用された熱濾過や再結晶という操作自体は有機合成における基本的な操作であって、これらの操作を行うことでフルオロスルホン酸リチウムを精製できることは、本件発明に係る出願の優先日前における当業者の技術常識といえる。 してみると、本件発明2のように、非水系電解液中の硫酸イオンの含有量が、1.0×10^(-7)mol/L以上1.0×10^(-2)mol/L以下に低減されていれば、フルオロスルホン酸リチウムの製造工程において塩化物イオンや酢酸イオンが混入する場合であっても、不純物である塩化物イオンや酢酸イオンは、硫酸イオンと同程度かそれ以下に低減されているとみなすことができる。 ク さらに、本件明細書の上記iの【表4】によれば、酢酸イオンの含有量が5.27×10^(-3)である比較例6は、同含有量が1.00×10^(-6)mol/L?4.00×10^(-3)mol/Lの範囲内である実施例9?12よりも初期放電容量等が低下することが示されており、上記jの【表6】によれば、塩化物イオンの含有量が3.03×10^(-3)である比較例9は、同含有量が1.00×10^(-6)mol/L?1.00×10^(-3)mol/Lの範囲内である実施例14?15よりも初期放電容量等が低下することが示されている。したがって、本件明細書には、フルオロスルホン酸リチウムに含有される塩化物イオンや酢酸イオンが多すぎると、初期放電容量等の電池特性に悪影響があるので好ましくないことが明記されている。 ケ すなわち、本件発明2は、その文言上、初期放電容量や容量維持率を悪化させるような含有量のClイオンや酢酸イオンを含有し得るものではあるが、本件発明の開示内容から、あえて電池特性に悪影響がある程度に多量の塩化物イオンや酢酸イオンを含有させることはないといえる。 そして、フルオロスルホン酸リチウムの製造方法や精製方法についての上述の技術常識を勘案すれば、「硫酸イオンの含有量が、1.0×10^(-7)mol/L以上1.0×10^(-2)mol/L以下」であると特定されていることから、硫酸イオンの含有量がそのように低減されているフルオロスルホン酸リチウムを用いようとすれば、A)不純物としてClイオンと酢酸イオンのいずれも含有することのない方法で製造されたフルオロスルホン酸リチウムを用いる(上記エ)か、もしくは、B)不純物としてClイオンと酢酸イオンを含有する方法で製造されるが、硫酸イオンの含有量を上記特定された範囲に低減するために精製を行うことにより、Clイオンと酢酸イオンも問題にならない程度の含有量にまで低減されたフルオロスルホン酸リチウムを用いる(上記カ)か、のどちらかであることが理解される。 コ したがって、本件発明2は、Clイオンや酢酸イオンは含まれていないか、仮に含まれていたとしても、「硫酸イオンの含有量」が「1.0×10^(-7)mol/L以上1.0×10^(-2)mol/L以下」に低減されていることに伴って、初期放電容量や容量維持率を悪化させるような含有量で含まれることはないものであるといえる。 サ よって、本件発明2は、上記ア、イに記載した理由2によって本件発明の課題を解決することができない発明を含んでいるとはいえない。 また、本件発明2を引用することによって、本件発明2の特定事項の全てを含む本件発明3?14も、同様の理由によって、上記課題を解決し得ないものであるとはいえない。 3 実施可能要件について(理由3について) 上記第5に記載した取消理由のうち、理由3(申立ての理由Eに対応)について検討する。 ア 理由3は、本件訂正前の請求項1に係る発明に対する次の取消理由である。 「本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1における「非水系電解液中の硫酸イオンの含有量が、1.0×10^(-7)mol/L以上1.0×10^(-2)mol/L以下」とするために、フルオロスルホン酸リチウム中の硫酸イオンの濃度を低減する具体的な製造方法が記載されておらず、また、製造された非水系電解液中の硫酸イオンの濃度が、本件発明1に記載された「1.0×10^(-7)mol/L以上1.0×10^(-2)mol/L以下」であることを確認するための濃度の測定方法が不明であるから、本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。」 イ 一方、本件訂正後の本件発明2においても、「非水系電解液中の…硫酸イオンの含有量が、1.0×10^(-7)mol/L以上1.0×10^(-2)mol/L以下であり」との特定がされていることは同様であるので、本件発明2を対象とした場合の上記アの理由3について検討する。 ウ フルオロスルホン酸リチウム中の硫酸イオンの濃度を低減する具体的な方法については、本件明細書には記載されていないが、上記2のカの検討によれば、フルオロスルホン酸リチウム中の硫酸イオンの濃度を低減することは、本件発明に係る出願の優先日前における技術常識である精製工程を行うことによって、当業者が過度の試行錯誤をすることなく実施可能であるといえる。 エ また、特許権者が令和 1年 8月19日に提出した上記意見書の第3(1)(c)(第34?35頁)を参照すると、非水系電解液中の硫酸イオンの濃度の分析は、一般的な液体クロマトグラフィー等の周知の手法を利用することができると説明されている。そして、液体クロマトグラフィーであるHPLC(高速液体クロマトグラフィー)は、装置構成や分析条件を設定することにより、%からpptオーダーの分析感度とし得るものであり、例えば、検出器として質量分析計を用いれば、最小検出感度が10^(-14)gと極微量の検出が可能であることも技術常識であるといえる(Thermo Fisher Scientific のHP「初心者必見!知っておきたいHPLCの基礎」、https://www.thermofisher.com/blog/learning-at-the-bench/hplc_basic/#HPLC-6 参照。)。 オ したがって、本件明細書の発明の詳細な説明には、フルオロスルホン酸リチウム中の硫酸イオンの濃度を「1.0×10^(-7)mol/L以上1.0×10^(-2)mol/L以下」の範囲に低減する具体的な製造方法や、非水系電解液中の硫酸イオンの濃度が上記範囲にあることを確認するための具体的な測定方法については記載されていないけれども、上記ウ、エに記載した事項が本件発明に係る出願の優先日前において技術常識であったことを勘案すれば、硫酸イオンの濃度が「1.0×10^(-7)mol/L以上1.0×10^(-2)mol/L以下」であるフルオロスルホン酸リチウムを含有する非水系電解液を調製することは、当業者が過度の試行錯誤をすることなく実施可能であるといえる。 カ よって、上記ア、イに示した理由3について、本件明細書の発明の詳細な説明が、本件発明2と、本件発明2を引用する本件発明3?14を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえない。 第5 まとめ 以上のとおりであるから、特許異議申立書の申立理由及び当審から通知した取消理由によっては、本件請求項2?14に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項2?14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 そして、本件訂正によって請求項1は削除され、特許異議の申立ての対象となる請求項1は存在しないものとなったから、請求項1に係る特許異議の申立ては、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定によって却下すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 (削除) 【請求項2】 リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極及び負極、並びに非水系電解液が外装ケースに封入された非水系電解液二次電池であって、該非水系電解液は、フルオロスルホン酸リチウム及び硫酸イオンを含有し、非水系電解液中のフルオロスルホン酸リチウムのモル含有量が、0.0005mol/L以上0.5mol/L以下であり、硫酸イオンの含有量が、1.0×10^(-7)mol/L以上1.0×10^(-2)mol/L以下であり、かつ該外装ケースがラミネートフィルムである非水系電解液二次電池であって、 前記非水系電解液がフルオロスルホン酸リチウム以外のリチウム塩を含有する、前記非水系電解液二次電池。 【請求項3】 前記フルオロスルホン酸リチウム以外のリチウム塩がLiPF_(6)及びLiBF_(4)の少なくとも一方である、請求項2に記載の非水系電解液二次電池。 【請求項4】 前記非水系電解液がフッ素原子を有する環状カーボネートを含有する請求項2?3の何れか1項に記載の非水系電解液二次電池。 【請求項5】 前記フッ素原子を有する環状カーボネートが非水系電解液中に0.001質量%以上85質量%以下含有されている、請求項4に記載の非水系電解液二次電池。 【請求項6】 前記非水系電解液が炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネートを含有する、請求項2?5の何れか1項に記載の非水系電解液二次電池。 【請求項7】 前記炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネートが非水系電解液中に0.001質量%以上10質量%以下含有されている、請求項6に記載の非水系電解液二次電池。 【請求項8】 前記非水系電解液が環状スルホン酸エステルを含有する、請求項2?7の何れか1項に記載の非水系電解液二次電池。 【請求項9】 前記環状スルホン酸エステルの非水系電解液中における含有量が0.001質量%以上10質量%以下である、請求項8に記載の非水系電解液二次電池。 【請求項10】 前記非水系電解液がシアノ基を有する化合物を含有する、請求項2?9のいずれか1項に記載の非水系電解液二次電池。 【請求項11】 前記シアノ基を有する化合物の非水系電解液中における含有量が0.001質量%以上10質量%以下である、請求項10に記載の非水系電解液二次電池。 【請求項12】 前記非水系電解液がジイソシアネート化合物を含有する請求項2?11の何れか1項に記載の非水系電解液二次電池。 【請求項13】 前記ジイソシアネート化合物の非水系電解液中における含有量が0.001質量%以上5質量%以下である、請求項12に記載の非水系電解液二次電池。 【請求項14】 前記非水系電解液がリチウムオキサラート塩類を含有する、請求項2?13の何れか1項に記載の非水系電解液二次電池。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2020-11-27 |
出願番号 | 特願2017-79873(P2017-79873) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
YAA
(H01M)
P 1 651・ 537- YAA (H01M) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 神野 将志 |
特許庁審判長 |
中澤 登 |
特許庁審判官 |
土屋 知久 池渕 立 |
登録日 | 2018-08-10 |
登録番号 | 特許第6380600号(P6380600) |
権利者 | 三菱ケミカル株式会社 |
発明の名称 | フルオロスルホン酸リチウム、非水系電解液、及び非水系電解液二次電池 |
代理人 | 五味渕 琢也 |
代理人 | 飯野 陽一 |
代理人 | 小野 誠 |
代理人 | 小野 誠 |
代理人 | 重森 一輝 |
代理人 | 川嵜 洋祐 |
代理人 | 城山 康文 |
代理人 | 重森 一輝 |
代理人 | 岩瀬 吉和 |
代理人 | 川嵜 洋祐 |
代理人 | 金山 賢教 |
代理人 | 金山 賢教 |
代理人 | 城山 康文 |
代理人 | 坪倉 道明 |
代理人 | 岩瀬 吉和 |
代理人 | 飯野 陽一 |
代理人 | 坪倉 道明 |
代理人 | 五味渕 琢也 |