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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B29C
審判 全部申し立て 2項進歩性  B29C
管理番号 1371671
異議申立番号 異議2019-700615  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-04-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-08-02 
確定日 2020-11-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6464602号発明「積層基材の製造方法、及び積層基材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6464602号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし19〕について訂正することを認める。 特許第6464602号の請求項1ないし5、7、8及び10ないし18に係る特許を取り消す。 特許第6464602号の請求項6、9及び19に係る特許についての特許異議申立人 森田 弘潤による特許異議申立てを却下する。  
理由 第1 手続の経緯
特許第6464602号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし19に係る特許についての出願は、平成26年8月6日(優先権主張 平成25年8月6日)の出願であって、平成31年1月18日にその特許権の設定登録(請求項の数19)がされ、同年2月6日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和1年8月2日に特許異議申立人 中村 光代(以下、「特許異議申立人1」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1)がされ、同年同月6日に特許異議申立人 森田 弘潤(以下、「特許異議申立人2」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし19)がされ、同年10月17日付けで取消理由が通知され、同年12月20日に特許権者 三菱ケミカル株式会社(以下、「特許権者」という。)から意見書が提出されるとともに訂正の請求がされ、同年同月27日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、令和2年1月27日に特許異議申立人1から意見書が提出され、同年2月7日に特許異議申立人2から意見書が提出され、同年3月30日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年6月1日に特許権者から意見書が提出されるとともに訂正の請求がされ、同年同月26日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年8月4日に特許異議申立人1から意見書が提出され、同年同月7日に特許異議申立人2から意見書が提出されたものである。
なお、令和1年12月20日にされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
令和2年6月1日にされた訂正の請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「強化繊維と熱可塑性樹脂とを含むプリプレグを2枚以上積層して、その積層物をプレートに挟んで加熱した後、冷却することにより一体化する方法であって、前記プリプレグどうしが加熱や冷却工程の前に接着されており、当該接着が振動溶着または熱プレスを用いて施されたものであり、プリプレグとプレート間にプリプレグの厚みの10倍以下の厚みである離型紙或いは離型フィルムを配置するか、または離形処理を施したプレートを用いることを特徴とする積層基材の製造方法。」とあるのを「炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含む厚さが50μm以上、200μm以下であるプリプレグを2枚以上積層して、その積層物をプレートに挟んで加熱した後、冷却することにより一体化する厚さ0.3?10mmの積層基材の製造方法であって、前記熱可塑性樹脂が、ポリアミド、ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、またはポリフェニレンサルファイドであり、前記プリプレグどうしが加熱や冷却工程の前に接着されており、当該接着が振動溶着または熱プレスを用いて施されたものであり、プリプレグとプレート間にプリプレグの厚みの0.3倍?5倍の厚みである離型紙或いは離型フィルムを配置するか、または離形処理を施したプレートを用い、前記離型紙、離型フィルム或いはプレートの離型処理に用いる離型剤がフッ素樹脂あるいはシリコーン樹脂を含むことを特徴とする積層基材の製造方法。」に訂正する。
併せて、特許請求の範囲の請求項1を直接又は間接的に引用する他の請求項についても、請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項7、8、10ないし12、14及び16ないし18に「強化繊維」とあるのを「炭素繊維」に訂正する。
併せて、特許請求の範囲の請求項7、8、10ないし12、14、16及び17を直接又は間接的に引用する他の請求項についても、これらの請求項を訂正したことに伴う訂正をする。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項6、9及び19を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項13に「変性ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂のいずれかを含む」とあるのを「酸変性ポリプロピレン樹脂である」に訂正する。
併せて、特許請求の範囲の請求項13を直接又は間接的に引用する他の請求項についても、請求項13を訂正したことに伴う訂正をする。

(5)訂正事項5
請求項7に「請求項1?6」とあるのを「請求項1?5」に訂正する。

(6)訂正事項6
請求項8に「請求項1?6」とあるのを「請求項1?5」に訂正する。

(7)訂正事項7
請求項13に「請求項1?12」とあるのを「請求項1?5、7?8、10?12」に訂正する。

(8)訂正事項8
請求項14に「請求項1?13」とあるのを「請求項1?5、7?8、10?13」に訂正する。

(9)訂正事項9
請求項15に「請求項1?14」とあるのを「請求項1?5、7?8、10?14」に訂正する。

(10)訂正事項10
請求項16に「請求項1?15」とあるのを「請求項1?5、7?8、10?15」に訂正する。

(11)訂正事項11
請求項17に「請求項1?15」とあるのを「請求項1?5、7?8、10?15」に訂正する。

(12)訂正事項12
請求項18に「請求項1?17」とあるのを「請求項1?5、7?8、10?17」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か及特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1において、「強化繊維」とされていたのを、「炭素繊維」に限定し、厚さが特定されていなかったのを、「厚さが50μm以上、200μm以下」に限定し、「一体化する方法」とされていたのを、請求項1の末尾の「積層基材の製造方法」という記載に合わせると共に「積層基材」の厚さを「0.3?10mm」に限定し、「熱可塑性樹脂」を「ポリアミド、ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、またはポリフェニレンサルファイド」に限定し、「離型紙或いは離型フィルム」の厚みを「プリプレグの厚みの0.3倍?5倍」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項7、8、10ないし12、14及び16ないし18において、「強化繊維」とされていたのを、「炭素繊維」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、請求項6、9及び19を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項13において、「熱可塑性樹脂」が「変性ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂のいずれか」を含むとされていたのを、「酸変性ポリプロピレン樹脂」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項5ないし12について
訂正事項5ないし12は、特許請求の範囲7、8及び13ないし18の引用請求項から請求項6及び9を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項5ないし12は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 むすび
以上のとおり、訂正事項1ないし12は、それぞれ、特許請求の範囲の減縮又は明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、特許法120条の5第2項ただし書第1及び3号に掲げる事項を目的とするものである。
また、訂正事項1ないし12は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないので、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。

なお、訂正前の請求項2ないし19は訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、訂正前の請求項1ないし19は一群の請求項に該当するものである。そして、訂正事項1ないし12は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
また、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし19に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし19〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
上記第2のとおり、訂正後の請求項〔1ないし19〕について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1ないし5、7、8及び10ないし18に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、令和2年6月1日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし5、7、8及び10ないし18に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含む厚さが50μm以上、200μm以下であるプリプレグを2枚以上積層して、その積層物をプレートに挟んで加熱した後、冷却することにより一体化する厚さ0.3?10mmの積層基材の製造方法であって、前記熱可塑性樹脂が、ポリアミド、ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、またはポリフェニレンサルファイドであり、前記プリプレグどうしが加熱や冷却工程の前に接着されており、当該接着が振動溶着または熱プレスを用いて施されたものであり、プリプレグとプレート間にプリプレグの厚みの0.3倍?5倍の厚みである離型紙或いは離型フィルムを配置するか、または離形処理を施したプレートを用い、前記離型紙、離型フィルム或いはプレートの離型処理に用いる離型剤がフッ素樹脂あるいはシリコーン樹脂を含むことを特徴とする積層基材の製造方法。
【請求項2】
プリプレグに含まれる熱可塑性樹脂が融点(Tm)を有する場合、積層したプリプレグを加熱する時のプレートの温度(Th)が、Tm+100(℃)以下、ガラス転移温度(Tg)を有する場合、Tg+100(℃)以下であることを特徴とする請求項1に記載の積層基材の製造方法。
【請求項3】
積層したプリプレグを加熱する時のプレートの温度(Th)と冷却する時のプレートの温度(Tc)の差(Th-Tc)が、250(℃)以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の積層基材の製造方法。
【請求項4】
プリプレグとプレート間にプリプレグの厚みの10倍以下の厚みである離型紙或いは離型フィルムを配置する積層基材の製造方法であって、離型紙或いは離型フィルムの引張強度が30?1000Nであることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の積層基材の製造方法。
【請求項5】
プリプレグとプレート間にプリプレグの厚みの10倍以下の厚みである離型紙或いは離型フィルムを配置する積層基材の製造方法であって、離型紙或いは離型フィルムの表面粗度が30μm以下であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の積層基材の製造方法。
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
炭素繊維と熱可塑性樹脂を含むプリプレグが、一方向に配向した炭素繊維と熱可塑性樹脂を含むプリプレグであることを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の積層基材の製造方法。
【請求項8】
炭素繊維と熱可塑性樹脂を含むプリプレグが、炭素繊維100重量%の内、繊維長10mmを超える炭素繊維の比率が0?50重量%、繊維長2?10mmの炭素繊維の比率が50?100重量%、繊維長2mm未満の炭素繊維の比率が0?50重量%である炭素繊維と熱可塑性樹脂を含むプリプレグであることを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の積層基材の製造方法。
【請求項9】
(削除)
【請求項10】
一方向に配向した炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含むプリプレグを複数枚積層した積層基材であって、前記プリプレグは、炭素繊維を横切る方向に炭素繊維を切断する深さの切込を有し、前記切込が直線状であって、切込と炭素繊維のなす角度が30°以上、60°以下であり、前記プリプレグ1m^(2)あたりの切込長の総和が20m以上、150m以下であるプリプレグを含むことを特徴とする請求項7に記載の積層基材の製造方法。
【請求項11】
一方向に配向した炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含むプリプレグを複数枚積層した積層基材であって、前記プリプレグは、炭素繊維を横切る方向に炭素繊維を切断する深さの切込を有し、前記切込が直線状の中心線に沿った曲線であって、かつ曲線を中心線に投影した際に重なりがなく、該中心線と炭素繊維のなす角度が30°以上、60°以下であり、前記プリプレグ1m2あたりの切込長の総和が20m以上、150m以下であるプリプレグを含むことを特徴とする請求項7に記載の積層基材の製造方法。
【請求項12】
切込によって切断された炭素繊維の長さが、10mm以上50mm以下であるプリプレグを含むことを特徴とする請求項10または11に記載の積層基材の製造方法。
【請求項13】
熱可塑性樹脂が、酸変性ポリプロピレン樹脂であることを特徴とする請求項1?5、7?8、10?12のいずれかに記載の積層基材の製造方法。
【請求項14】
前記炭素繊維の平均単繊維繊度が0.5dtex以上、2.4dtex以下である炭素繊維であることを特徴とする請求項1?5、7?8、10?13のいずれかに記載の積層基材の製造方法。
【請求項15】
前記積層基材が、熱可塑性樹脂からなる層をさらに含むことを特徴とする請求項1?5、7?8、10?14のいずれかに記載の積層基材の製造方法。
【請求項16】
前記積層基材を構成する複数のプリプレグが、プリプレグに含まれる炭素繊維の方向が疑似等方となるように積層されることを特徴とする請求項1?5、7?8、10?15のいずれかに記載の積層基材の製造方法。
【請求項17】
前記積層基材を構成する複数のプリプレグが、プリプレグに含まれる炭素繊維の方向が0°であるプリプレグと90°であるプリプレグが交互に積層されることを特徴とする請求項1?5、7?8、10?15のいずれかに記載の積層基材の製造方法。
【請求項18】
前記積層基材を構成するプリプレグに含まれる炭素繊維の体積含有率が20体積%以上、55体積%以下であることを特徴とする請求項1?5、7?8、10?17のいずれかに記載の積層基材の製造方法。
【請求項19】
(削除)」

第4 令和2年3月30日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要
令和2年3月30日付けで通知した取消理由(決定の予告)(以下、「取消理由(決定の予告)」という。)の概要は次のとおりである。

(1)取消理由1(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし19に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

(2)取消理由2(甲2-1を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし19に係る発明は、下記の本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし19に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(3)証拠方法
甲2-1:特開平9-277387号公報
甲2-2:特開2009-286817号公報
甲2-3:平成19年度熱可塑性樹脂複合材料の機械工業分野への適用に関する調査報告書、平成20年3月、社団法人日本機械工業連合会、財団法人次世代金属・複合材料研究開発協会
甲2-4:特開平4-29833号公報
甲2-5:特開平5-329861号公報
甲2-6:「CFRPに関わる密着性の課題」、表面技術、2012年63巻12号、746-750頁
甲2-7:「炭素繊維強化熱可塑樹脂複合材の成形とその高靱性力学特性に関する実験的研究」、日本複合材料学会誌、1987年13巻2号、63-71頁
甲2-7:日東電工株式会社の製品紹介のウェブページ(印刷日:令和1年8月5日)(URLの摘記は省略。)
甲2-9:特開2011-6578号公報
甲1-3:"Unidirectional continuous-fiber-reinforced thermoplastic crush tubes -PartA:Specimen production based on a novel rapid tape-placement process", Jourrnal of Plastics Technology,2012,B.Hangs
なお、甲2-1ないし2-9は特許異議申立人2が提出した特許異議申立書に添付された甲第1ないし9号証であり、甲1-3は特許異議申立人1が提出した特許異議申立書に添付された甲第3号証である。

第5 当審の判断
1 取消理由1(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。

(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記第3のとおりである。

(3)発明の詳細な説明の記載
本件特許の発明の詳細な説明には、おおむね次の記載がある。

・「【0001】
本発明は、スタンピング成形時の複雑な形状への賦形性に優れ、短時間で成形可能であり、かつ成形後の部品が構造材に適用可能な優れた力学物性、低ばらつき性を有することを特徴とする積層基材、およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、リブ,ボス等の3次元形状の成形に容易に追随し、構造部材として機械強度を維持し、例えば航空機部材、自動車部材、スポーツ用具等に好適に用いられる繊維強化プラスチックの中間基材である積層基材の製造方法、および積層基材に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化熱可塑性プラスチックの成形方法としては、プリプレグと称される連続した強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸せしめた基材を積層し、プレス等で加熱加圧することにより目的の形状に賦形するスタンピング成形が最も一般的に行われている。これにより得られた繊維強化プラスチックは、連続した強化繊維を用いているので優れた力学物性を有する。また連続した強化繊維は規則的に配列することで、必要とする力学物性に設計することが可能であり、力学物性のばらつきも小さい。しかしながら、連続した強化繊維であるゆえに3次元形状等の複雑な形状を形成することは難しく、主として平面形状に近い部材に限られる。
【0003】
上述のような材料の欠点を埋めるべく、連続繊維と熱可塑性樹脂からなるプリプレグに切込を入れることにより、短時間成形が可能であり、成形時には優れた賦形性を示し、繊維強化プラスチックとしたときに優れた力学物性を発現するとされる積層基材が開示されている(特許文献1)。特許文献1は、積層基材の製造において、切込プリプレグを複数枚積層し、積層した切込プリプレグ基材を加熱し、所定のボイド率となるまで、加圧及び減圧を繰り返すのが良いと記載している。また、該特許文献1は、積層基材の製造に使用する機器としてダブルベルトプレスを例示している。該特許文献1が開示する方法では、積層基材がベルトに固着して安定的に積層基材が得られないという問題があった。
【0004】
また、非連続繊維と熱可塑性樹脂からなる基材として、強化繊維100重量%の内、繊維長10mmを超える強化繊維の比率が0?50重量%、繊維長2?10mmの強化繊維の比率が50?100重量%、繊維長2mm未満の強化繊維の比率が0?50重量%である強化繊維と熱可塑性樹脂を含むプリプレグからなる基材が知られている(特許文献2)。この基材においても、プリプレグを積層して積層基材を作成する際に、積層基材がベルトに固着して安定的に積層基材が得られないという問題があった。
【0005】
また、プレート等への材料の固着を防ぐ方法として離型剤や離型フィルムを使用することが知られているが、熱可塑性樹脂を含むプリプレグの積層基材を加熱、冷却して一体化しようとする場合、離型紙や離型フィルムを使用することで、加熱、または冷却されているプレートから積層基材への伝熱が阻害される問題があった。プレートから積層基材への伝熱が阻害されると、プリプレグの溶融や冷却固化が不十分となり、得られる積層基材の強度や剛性といった機械的物性が低くなる問題がある。また、プリプレグの溶融や冷却固化の不十分な問題をプレートの温度を過度に上げたり、或いは過度に下げたりすることで解決しようとすると、プレートが収縮、膨張を繰り返すことになり歪が発生したり損傷する問題がある。その場合、外観が良好で品質に優れた積層基材を安定的に製造することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5167953号公報
【特許文献2】特許第4862913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題点を解決しようとするものであって、構造材に適用可能な曲げ強度や引張弾性率など優れた力学物性を有しながら、力学特性のばらつきが低く、さらに複雑な形状への賦形性に優れて、短時間で成形可能である積層基材を安定的に製造する方法、及び積層基材を提供することを課題とする。」

・「【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、プリプレグとプレート間にプリプレグの厚みの10倍以下の厚みである離型紙或いは離型フィルムを配置するか、または離形処理を行ったプレートを用いることにより解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち本発明の要旨は、下記(1)?(24)に存する。
【0009】
(1) 強化繊維と熱可塑性樹脂とを含むプリプレグを2枚以上積層して、その積層物をプレートに挟んで加熱した後、冷却することにより一体化する方法であって、前記プリプレグどうしが加熱や冷却工程の前に接着されており、当該接着が振動溶着または熱プレスを用いて施されたものであり、プリプレグとプレート間にプリプレグの厚みの10倍以下の厚みである離型紙或いは離型フィルムを配置するか、または離形処理を施したプレートを用いることを特徴とする積層基材の製造方法。
・・・(略)・・・
【0027】
(19) 前記積層基材を構成するプリプレグの厚さが50μm以上、200μm以下であることを特徴とする上記(1)?(18)のいずれかに記載の積層基材の製造方法。」

・「【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、複雑な形状への賦形性に優れて短時間成形可能であり、かつ構造材に適用可能な曲げ強度や引張弾性率など優れた力学物性、その低ばらつき性を持つ積層基材を安定的に得ることができる。」

・「【0035】
第一の方法は、強化繊維と熱可塑性樹脂とを含むプリプレグを2枚以上積層して、その積層物をプレートに挟んで加熱した後、冷却することにより一体化する方法であって、前記プリプレグどうしが加熱や冷却工程の前に接着されており、当該接着が振動溶着または熱プレスを用いて施されたものであり、プリプレグとプレート間にプリプレグの厚みの10倍以下の厚みである離型紙或いは離型フィルムを配置するか、または離型紙或いは離型フィルムを全く配置せずに、離形処理を施したプレートを用いることを特徴とする積層基材の製造方法である。
【0036】
一般に、樹脂等を含む材料と金属等のプレートの固着を防止する場合、使用する離型紙或いは離型フィルムの耐久性だけを考慮すると厚みが厚いほど良いと考えられがちである。しかしながら、本発明のように、強化繊維と熱可塑性樹脂とを含むプリプレグを2枚以上積層して、その積層物をプレートに挟んで加熱した後、冷却することにより一体化する場合には、厚い離型紙或いは離型フィルムはプレートから基材への伝熱を阻害するので好ましくない。また、離型紙或いは離型フィルムは使用している間に皺がより、その皺が材料に転写する問題が発生することがあるが、一般にその問題を防止するために、厚い離型紙或いは離型フィルムが使用されがちである。しかしながら、本発明のように、強化繊維と熱可塑性樹脂とを含むプリプレグを2枚以上積層して、その積層物をプレートに挟んで加熱した後、冷却することにより一体化する場合には、厚い離型紙或いは離型フィルム自体も加熱、冷却されることで膨張、収縮を繰り返すことで皺が発生しやすくなり、基材への追従性が悪くなり基材への皺の転写が顕著になるので好ましくない。
【0037】
プリプレグとプレート間に離型紙、あるいは離型フィルムを配置することにより、積層基材とプレートが固着することが防止され、安定的に積層基材を得ることができる。離型紙、あるいは離型フィルムの厚みをプリプレグの厚みの10倍以下とすることで、プレートから積層基材への加熱、冷却時の伝熱の阻害を抑制することができる。特に、離型紙、或いは離型フィルムを全く配置せず、離形処理を施したプレートを用いることにより、プレートから積層基材への加熱、冷却時の伝熱の阻害を完全に無くすことができる。
【0038】
離型紙として、紙の片面、或いは両面に離型効果を有する物質を塗布した物が例示される。離型効果を有する物質としてシリコーン系、フッ素系(例えば、テフロン(登録商標))、セラミクス系が例示される。
【0039】
離型フィルムとして、樹脂フィルムの片面、或いは両面に離型効果を有する物質を塗布した物が例示される。樹脂フィルムとしてポリエステルフィルム、フッ素樹脂フィルム(例えば、テフロン(登録商標))等が例示される。樹脂フィルム自体に離型効果を有すればそのフィルムに離型処理を施す必要はないが、離型効果が不十分な場合には、離型処理を施しても良い。離型効果を有する物質としてシリコーン系、フッ素系(例えば、テフロン(登録商標))、セラミクス系が例示される。
・・・(略)・・・
【0042】
離型紙或いは離型フィルムの厚みがプリプレグの厚みの0.1倍?10倍であることが好ましい。離型紙或いは離型フィルムの厚みがプリプレグの厚みの0.1倍以上とすることで、積層基材を作成時に離型紙や離型フィルムが破れたりちぎれたりすることを防ぐことができるし、10倍以下とすることでプレートから積層基材への加熱や冷却の効率が良くなるので積層基材の生産性が向上するので好ましい。より好ましい離型紙或いは離型フィルムの厚みはプリプレグの厚みの0.3倍?5倍である。この範囲の厚みにすることにより、離型紙や離型フィルムの破れやちぎれを防ぎつつ、プレートから積層基材への伝熱効率が高いので生産性よく積層基材を一体化させることができる。
【0043】
第一の別の方法では、強化繊維と熱可塑性樹脂とを含むプリプレグを2枚以上積層して、その積層物をプレートに挟んで加熱した後、冷却することにより一体化する方法であって、プレートに予め離型処理を施しておくことを特徴とする積層基材の製造方法である。プレートに施す離型処理として、離型効果を有する物質をスプレー状の塗布する方法や、塗りつける方法や、プレートの表面改質を施す方法が例示される。離型処理に用いる離型剤がフッ素樹脂あるいはシリコーン樹脂を含むことが、離型効果の観点から好ましい。」

・「【0055】
本発明の積層基材に含まれるプリプレグに用いることができる強化繊維としては、強化繊維の種類は特に限定されず、無機繊維、有機繊維、金属繊維、またはこれらを組み合わせたハイブリッド構成の強化繊維が使用できる。無機繊維としては、炭素繊維、黒鉛繊維、炭化珪素繊維、アルミナ繊維、タングステンカーバイド繊維、ボロン繊維、ガラス繊維などが挙げられる。有機繊維としては、アラミド繊維、高密度ポリエチレン繊維、その他一般のナイロン繊維、ポリエステルなどが挙げられる。金属繊維としては、ステンレス、鉄等の繊維を挙げられ、また金属を被覆した炭素繊維でもよい。これらの中では、最終成形物の強度等の機械特性を考慮すると、炭素繊維が好ましい。また、強化繊維の平均繊維直径は、1?50μmであることが好ましく、5?20μmであることがさらに好ましい。」

・「【0057】
本発明の積層基材に含まれるプリプレグには熱可塑性樹脂を用いることが必要である。すなわち、不連続な強化繊維を用いた繊維強化プラスチックの場合、強化繊維端部どうしを連結するように破壊するため、一般的に熱硬化性樹脂よりも靱性値が高い熱可塑性樹脂を用いることで、強度、特に衝撃性が向上する。さらに熱可塑性樹脂は化学反応を伴うことなく冷却固化して形状を決定するので、短時間成形が可能であり、生産性に優れる。このような熱可塑性樹脂としては、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66、芳香族ナイロン等)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、変性ポリオレフィン、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリカーボネート、ポリアミドイミド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリスチレン、ABS、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリエステルや、アクリロニトリルとスチレンの共重合体等を用いることができる。また、これらの混合物を用いてもよい。さらに、ナイロン6とナイロン66との共重合ナイロンのように共重合したものであってもよい。また、得たい成形品の要求特性に応じて、難燃剤、耐候性改良剤、その他酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤、相溶化剤、導電性フィラー等を添加しておくこともできる。」

・「【0064】
本発明の積層基材に含まれるプリプレグは、切込を有するため、分断されるプリプレグの厚みが大きいほど強度が低下する傾向であり、構造材に適用することを前提とするならば、プリプレグの厚さは200μm以下とするのが良い。一方厚みが50μm未満ではプリプレグの取り扱いが難しく積層基材とするために積層するプリプレグの数が非常に多くなるので、生産性が著しく悪化する。よって生産性の観点から50μm以上200μm以下であることが好ましい。」

・「【0065】
本発明の積層基材に用いることができるプリプレグは、プリプレグどうしが接着されていることが、取扱いを容易にする点で好ましい。接着方法として、接着剤を用いる方法や、プリプレグに含まれる樹脂を溶融させる方法が例示される。特に、プリプレグに含まれる樹脂が熱可塑性樹脂の場合、後者に記載の方法が好ましい。後者の方法として、熱溶着法、振動溶着法、熱プレス法が例示される。熱溶着法とは接着させたい場所を加熱板等で加熱する方法であるし、振動溶着法とは溶着させたい場所を振動摩擦する方法で樹脂を溶融する方法であるし、熱プレス法とは接着させたい部分を加熱して荷重をかける方法である。」

・「【0075】
上記成形を経た本発明にかかる一体化した積層基材の厚さは、0.3?10mmであることが好ましい。」

・「【実施例】
【0076】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、実施例に記載の発明に限定されるものではない。
【0077】
(実施例1)
炭素繊維(三菱レイヨン製、製品名:パイロフィルTR-50S15L、平均単繊維直径 約7μm、平均単繊維繊度 約0.6dtex)を、強化繊維の方向が一方向となるように平面状に引き揃えて目付が72.0g/m^(2)である連続した強化繊維シートとした。この強化繊維シートの両面を、酸変性ポリプロピレン樹脂製のフィルム(酸変性ポリプロピレン樹脂:三菱化学製、製品名:モディックP958、樹脂の融点165℃、目付:36.4g/m^(2))で挟み、カレンダロールを通して、熱可塑性樹脂を強化繊維シートに含浸し、繊維体積含有率(Vf)が33%、厚さが、0.12mmの幅50cm、長さ500mの連続プリプレグを得た。
【0078】
得られた連続プリプレグを、ロールに埋め込んだ打ち抜き刃を有する打ち抜き型により連続的に、シートの端部より5mm内側部分を除き、強化繊維の長さL=25.0mm一定、平均切込長l=20.0mmになるよう、繊維を切断する切込と強化繊維のなす角度θ=30°の切込加工を施した。この際1m^(2)あたりの切込長の総和la=80.0mであった。
【0079】
上記のように切込加工したプリプレグより、縦50cm、横50cmの非連続プリプレグ16層を切り出し、強化繊維方向が疑似等方([0°/45°/90°/-45°]s2)になるように重ね、超音波溶着機(日本エマソン社製、製品名:2000LPt)でスポット溶接して積層基材を作成した。
【0080】
このようにして得た積層基材を、図3に示すような装置で、両面にシリコーン系物質を定着させた離型紙(リンテック社製、G63。引張強度50N、厚み0.05mm、表面粗度1μm)2枚で挟み、それを2枚の金属プレート(材質、SUS304)間に設置して、220℃に保持されたプレスした後、50℃でプレスすることにより積層基材を得た。加熱時にはプレートの温度は220℃に、冷却時には50℃に達していた。また、その温度差は170℃であった。積層基材は容易に離型紙より分離することができた。得られた積層基材は、良好な外観と平滑性を保っていた。
【0081】
得られた積層基材から、長さ100mm,幅25mmの曲げ強度試験片を切り出した。JIS K-7074に規定する試験方法に従い、万能試験機(インストロン社製、製品名:4465型)を用いて、標点間距離を80mmとし、クロスヘッド速度5.0mm/分で3点曲げ試験を行った。測定した試験片の数はn=6とし、曲げ強度の平均は325MPa、曲げ弾性率の平均は28.1GPaであった。
【0082】
(比較例1)
離型紙を使用しなかった以外は、実施例1と同様な操作を実施した。また、プレートに離型処理は施されなかった。積層基材が金属プレートから剥離することができなかった。
【0083】
(比較例2)
離型紙として厚み1.5mmとした以外は、実施例1と同様な操作を実施した。離型紙の厚みが厚いため積層体の温度が十分あがらずプレプレグ同士の溶着が不十分であり、積層基材は十分な物性を発現しなかった。
【0084】
(比較例3)
離型紙として王子製紙特殊社製、32KVS(引張強度25N、厚み0.025mm、表面粗度1μm)を使用した以外は、実施例1と同様な操作を実施した。積層基材の作成途中に離型紙が破れる問題があった。
【0085】
(実施例2)
離型紙の代わりに、ガラスクロスとPTFEからなる離型フィルム(ニトフロンガラスクロス、日東電工社製、9700UL。引張強度400N、厚み0.18mm、表面粗度20μm)を使用した以外は、実施例1と同様な操作を実施した。積層基材は、容易に離型フィルムより分離することができた。
【0086】
(実施例3)
離型紙の代わりに、ガラスクロスとPTFEからなる離型フィルム(チューコーフローパブリック、中興化成工業社製、FGA-500-10-2。引張強度500N、厚み0.25mm、表面粗度7μm)を使用した以外は、実施例1と同様な操作を実施した。積層基材は、容易に離型フィルムより分離することができた。
【0087】
(比較例4)
離型フィルムとしてテフロンフィルム(引張強度350N、厚み1.5mm、表面粗度3μm)を使用した以外は、実施例2と同様な操作を実施した。離型フィルムの厚みが厚いため積層体の温度が十分あがらずプレプレグ同士の溶着が不十分であり、積層基材は十分な物性を発現しなかった。
【0088】
(実施例4)
炭素繊維(三菱レイヨン製、製品名:パイロフィルTR-50S15L)を6mmにカットして、抄紙法により目付が72.0g/m^(2)であるマット状の強化繊維シートとした。この強化繊維シートの両面を、酸変性ポリプロピレン樹脂製のフィルム(酸変性ポリプロピレン樹脂:三菱化学製、製品名:モディックP958、目付:36.4g/m^(2))で挟み、カレンダロールを通して、熱可塑性樹脂を強化繊維シートに含浸し、繊維体積含有率(Vf)が33%、厚さが0.2mm、縦50cm、横50cmのプリプレグを得た。この縦50cm、横50cmのプリプレグ16層を重ね、超音波溶着機(日本エマソン社製、製品名:2000LPt)でスポット溶接して積層物を作成した。
【0089】
そして、実施例3と同様な方法で積層基材を作成した。積層基材は、容易に離型フィルムより分離することができた。
【0090】
(実施例5)
離型紙を使用せず、図4に示すような装置で、金属プレートに離型剤(ダイフリーGA-7500、ダイキン工業社製、フッ素系樹脂を含む離型剤)を塗布した以外は、実施例1と同様な操作を実施した。積層基材は容易に金属プレートより分離することができた。
【0091】
(実施例6)
離型剤として(ケムリースMR-3、ケムリースジャパン社製、フッ素系樹脂を含む離型剤)を塗布した以外は、実施例5と同様な操作を実施した。積層基材は容易に金属プレートより分離することができた。
【0092】
(実施例7)
積層物として実施例4に記載の積層物を使用した以外は、実施例6と同様な操作を実施した。積層基材は容易に金属プレートより分離することができた。
【0093】
(実施例8)
枚様式の金属プレートの代わりに、図5に示すような金属プレートが連続したダブルベルトプレス機を使用した以外は実施例2と同様な操作を実施した。ダブルベルトプレス機の前半部を220℃とし、後半部を50℃とした。16層からなる50cm角の積層物の両面をガラスクロスとPTFEからなる離型フィルム(ニトフロンガラスクロス、日東電工社製、9700UL)では挟んだ後、10cm間隔で連続的にダブルベルトプレス機に投入し、連続的に積層基材を得た。積層基材は、容易に離型フィルムや金属プレートより分離することができた。
【0094】
(比較例5)
離型フィルムを使用しなかった以外は、実施例8と同様な操作を実施した。なお、プレートに離型処理は施されなかった。積層基材が金属プレートから剥離することができなかった。
【0095】
(比較例6)
離型フィルムとしてテフロンフィルム(引張強度350N、厚み1.5mm、表面粗度3μm)を使用した以外は、実施例8と同様な操作を実施した。離型フィルムの厚みが厚いため積層体の温度が十分あがらずプレプレグ同士の溶着が不十分であり、積層基材は十分な物性を発現しなかった。
【0096】
(比較例7)
加熱時のプレートの温度を300℃、冷却時のプレートの温度を20℃とした以外は比較例6と同様な操作を実施した。比較例6の場合と比較して、プレートの加熱温度を高く、また冷却温度を低くすることで、プリプレグ同士の溶着を向上させ、積層基材を一体化させることができたが、加熱、冷却時のプレートの温度差が280℃であり、膨張、収縮によりプレートの変形、損傷がは発生した。
【0097】
(実施例9)
枚様式のプレートの代わりに、図6に示すようなプレートが連続したダブルベルトプレス機を使用した以外は実施例5と同様な操作を実施した。ダブルベルトプレス機の前半部を220℃とし、後半部を50℃とした。連続したプレートには離型剤(ダイフリーGA-7500、ダイキン工業社製)を塗布しておいた。16層からなる50cm角の積層物を10cm間隔で連続的にダブルベルトプレス機に投入し、連続的に積層基材を得た。積層基材は、容易にプレートより分離することができた。
【0098】
(実施例10)
積層体の間隔を0cmにした以外は、実施例9と同様な操作を実施し、連続した積層基材を得た。連続した積層基材は、容易にプレートより分離することができた。」

(4)判断
ア 発明の課題
本件特許の発明の詳細な説明の【0001】ないし【0007】の記載によると、本件特許発明の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、「構造材に適用可能な曲げ強度や引張弾性率など優れた力学物性を有しながら、力学特性のばらつきが低く、さらに複雑な形状への賦形性に優れて、短時間で成形可能である積層基材を安定的に製造する方法を提供すること」である。

イ サポート要件の判断
(ア)本件特許の発明の詳細な説明の【0076】ないし【0098】には、実施例1ないし10として、炭素繊維の強化繊維シートに酸変性ポリプロピレン樹脂を含浸して得た特定の厚みのプリプレグを特定層重ねた積層物に対し、特定の材質・厚みの離型紙(【0080】に記載された離型紙)、特定の材質・厚みの離型フィルム(【0085】及び【0086】に記載された離型フィルム)及び特定の材質の離型剤(【0090】及び【0091】に記載された離型剤)を用いて積層基材を製造したものが記載され、比較例1ないし7として離型紙や離型フィルムを使用しなかったもの及び離型紙や離型フィルムの厚みを本件特許の請求項1で特定された範囲外にしたものを用いて積層基材を製造したものが記載されている。
そして、実施例1ないし10は、積層基材が容易に剥離紙又は剥離フィルムから分離することができ、積層基材が十分な物性を発現したこと、すなわち発明の課題を解決するものであることが示され、比較例1、2及び5は、離型紙や離型フィルムを使用しなかったため、積層基材が金属プレートから剥離することができなかったこと、すなわち発明の課題を解決するものではないことが示され、比較例2、3、4及び6は、離型紙又は離型フィルムの厚みが「プリプレグの厚みの0.3倍?5倍」の条件を充足しないため、積層体の温度が十分あがらずプリプレグ同士の溶着が不十分であり、積層基材は十分な物性を発現しなかったこと、すなわち発明の課題を解決するものではないことが示されている。

(イ)他方、本件特許の発明の詳細な説明には、本件特許発明1の各発明特定事項の如何なる作用機序により、発明の課題が解決することができるのかを説明する記載はない。
すなわち、本件特許の発明の詳細な説明の【0055】には、本件特許発明1の積層物に含まれるプリプレグに用いることができる強化繊維について、最終成形物の強度等の機械特性を考慮すると、炭素繊維が好ましいことが記載されているが、炭素繊維の如何なる作用機序により、発明の課題を解決することができるのかを説明する記載はなく、本件特許の発明の詳細な説明の他の箇所にもない。
本件特許の発明の詳細な説明の【0064】には、本件特許発明1のプリプレグの厚さについて、生産性の観点から50μm以上200μm以下であることが好ましいことが記載されているが、50μm以上200μm以下であることの如何なる作用機序により発明の課題を解決することができるのかを説明する記載はなく、本件特許の発明の詳細な説明の他の箇所にもない。
本件特許の発明の詳細な説明の【0075】には、本件特許発明1の積層基材の厚さについて、0.3?10mmであることが好ましいことが記載されているが、積層基材の厚さを0.3?10mmとすることの如何なる作用機序により、発明の課題を解決することができるのかを説明する記載はなく、本件特許の発明の詳細な説明の他の箇所にもない。
本件特許の発明の詳細な説明の【0057】には、本件特許発明1の積層物に含まれるプリプレグに含まれる熱可塑性樹脂として「ポリアミド、ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、またはポリフェニレンサルファイド」等の樹脂が記載されているが、それらの樹脂の如何なる作用機序により、発明の課題を解決することができるのかを説明する記載はなく、本件特許の発明の詳細な説明の他の箇所にもない。
本件特許の発明の詳細な説明の【0065】には、本件特許発明1のプリプレグについて、取扱いを容易にするために、プリプレグどうしを振動溶着又は熱プレスを用いて接着することが記載されているが、プリプレグどうしを振動溶着又は熱プレスを用いて接着することの如何なる作用機序により、発明の課題を解決することができるのかを説明する記載はなく、本件特許の発明の詳細な説明の他の箇所にもない。
本件特許の発明の詳細な説明の【0042】には、本件特許発明1の離型紙或いは離型フィルムの厚さについて、プリプレグの厚みの0.3倍?5倍であることがより好ましいこと及びそれによって離型紙や離型フィルムの破れやちぎれを防ぎつつ、プレートから積層基材への伝熱効率が高いので生産性よく積層基材を一体化させることができることが記載されているが、離型紙或いは離型フィルムの厚さをプリプレグの厚みの0.3倍?5倍とすることの如何なる作用機序により、発明の課題を解決することができるのかを説明する記載はなく、本件特許の発明の詳細な説明の他の箇所にもない。
本件特許の発明の詳細な説明の【0038】及び【0039】には、本件特許発明1の離型紙、離型フィルム或いはプレートの離型処理に用いる離型剤について、フッ素樹脂あるいはシリコーン樹脂が例示されているが、それらの樹脂の如何なる作用機序により、発明の課題を解決することができるのかを説明する記載はなく、本件特許の発明の詳細な説明の他の箇所にもない。

(ウ)そうすると、実施例1ないし10のような、炭素繊維の強化繊維シートに酸変性ポリプロピレン樹脂を含浸して得た特定の厚みのプリプレグ並びに特定の材質・厚みの離型紙、特定の材質・厚みの離型フィルム又は特定の材質の離型剤を用いた場合に発明の課題を解決できると当業者は認識することはできるが、それ以外の場合に発明の課題を解決できるとは、当業者は認識することができない。

(エ)そして、本件特許発明1は、樹脂の種類並びに離型紙の材質・厚み、離型フィルムの材質・厚み及び離型剤の材質について、実施例1ないし10のものに特定されていないので、実施例1ないし10のような、炭素繊維の強化繊維シートに酸変性ポリプロピレン樹脂を含浸して得た特定の厚みのプリプレグを特定層重ねた積層基材に対し、特定の材質・厚みの離型紙、特定の材質・厚みの離型フィルム又は特定の材質の離型剤を用いた場合以外の場合を含むものである。

(オ)したがって、本件特許発明1に関して、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。
また、本件特許発明2ないし5、7、8及び10ないし18においても、樹脂の種類並びに離型紙の材質・厚み、離型フィルムの材質・厚み及び離型剤の材質について、実施例1ないし10のものに特定されていないので、本件特許発明1と同様に、本件特許発明2ないし5、7、8及び10ないし18に関して、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。

ウ 特許権者の主張について
特許権者は、令和2年6月1日に提出された意見書において、おおむね次のように主張する。
<主張1>
酸変性ポリプロピレンより熱拡散係数が高いポリアミド、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、またはポリフェニレンサルファイドについては、ポリプロピレンより熱を拡散する能力が高く、特定の離型紙等を配置したとしても、積層基材の中心層にまで十分に熱を伝搬させることができると考えられる。
また、積層基材全体の厚み上限を特定範囲に限定している。
したがって、ポリアミド、ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、またはポリフェニレンサルファイドであればプリプレグ同士が均一に十分な溶着がさせられるので本件発明の課題を解決できるものである。

<主張2>
サポート要件違反2として挙げられている0.48mmを4層積層した場合の例は、訂正請求項で規定するプリプレグの厚み範囲(0.05mm?0.2mm)外であり、本例について溶着が十分かどうかはサポート要件の判断において考慮されるべきものではない。
また、積層基材の厚さを0.3?10mmに特定した。
さらに、離型紙或いは離型フィルムの厚さをプリプレグの厚みの0.3?5倍に特定した。
したがって、本件請求項1は実施例1?10で確認されている範囲に特定されており発明の課題を解決できるものである。

そこで、上記主張1及び2について検討する。
<主張1について>
プリプレグ同士の溶着性は、熱拡散係数のみによって決定されるものではなく、溶融温度も重要な指標である。
そして、ポリアミド、ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド及びポリフェニレンサルファイドの溶融温度は全く異なる(例えば、ポリプロピレンの溶融温度は約165℃であり、ポリエーテルエーテルケトンの溶融温度は約334℃で,両者には約170℃もの差異がある。)。
したがって、積層基材の厚み上限や離型紙或いは離型フィルムのプリプレグの厚みに対する厚さが特定範囲に限定されているとしても、酸変性ポリオレフィン以外の樹脂が、酸変性ポリオレフィンと同様に均一に溶着できるとは到底考えられず、当業者は、ポリアミド、ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド及びポリフェニレンサルファイドの全ての樹脂について、発明の課題を解決できるとは認識できない。
したがって、上記主張1は採用できない。

<主張2について>
本件特許発明1によると、積層体の厚みが同じであっても、プリプレグの厚みによって、溶着が十分となったり、不十分となったりすることになるが、上記イ(イ)のとおり、なぜそうなるのか、本件特許の発明の詳細な説明には記載されておらず、また、上記意見書においても、その理由は説明されていない。
そして、当業者は、発明の課題を解決するためには、プリプレグ同士が均一に十分な溶着がさせられる必要があり、均一に十分な溶着ができるかどうかは、プリプレグを構成する強化繊維シート及び樹脂の種類並びに離型紙、離型フィルム及び離型剤の材質に依存するものと認識するものであり、また、上記意見書において、均一に十分な溶着ができるかどうかが、プリプレグを構成する強化繊維シート及び樹脂の種類並びに離型紙、離型フィルム及び離型剤の材質に依存するものではないことは説明されていないから、樹脂の種類並びに離型紙、離型フィルム及び離型剤の材質については特定されていない本件特許発明が発明の課題を解決できる範囲のものであるとはいえない。
また、実施例1ないし10は、炭素繊維の強化繊維シートに酸変性ポリプロピレン樹脂を含浸して得た特定の厚みのプリプレグを特定層重ねた積層基材に対し、特定の材質・厚みの離型紙、特定の材質・厚みの離型フィルム又は特定の材質の離型剤を用いたものであり、本件特許発明1は、それに特定されていない。
したがって、上記主張2は採用できない。

(5)取消理由1についてのまとめ
したがって、本件特許発明に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合しないので、本件特許の請求項1ないし5,7、8及び10ないし18に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

2 取消理由2(甲2-1を主引用文献とする進歩性)について
(1)甲2-1ないし2-9及び甲1-3に記載された事項等
ア 甲2-1に記載された事項等
(ア)甲2-1に記載された事項
甲2-1には、「繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。他の文献についても同様。

・「【請求項1】 強化繊維と熱可塑性樹脂とを含有する繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法であって、
該強化繊維と該熱可塑性樹脂とを含有する予備成形体を成形する工程と、
該予備成形体の少なくとも上面および下面に、該熱可塑性樹脂の軟化点または融点よりも高い融点を有する耐熱性離型物品を配置する工程と、
加圧下で、かつ、該熟可塑性樹脂の軟化点または融点以上の温度で、該耐熱性離型物品を介して該予備成形体を溶融する工程と、
加圧下で、かつ、該熟可塑性樹脂の軟化点または融点未満の温度で、該溶融した予備成形体を冷却固化する工程と、
を包含する、繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法。
【請求項2】 前記予備成形体が、長さ5mm?100mm、幅5mm?30mm、および厚み0.05mm?0.3mmの薄膜片の堆積物であり、該予備成形体に含有される前記強化繊維と前記熱可塑性樹脂との重量比が、85/15?50/50である、請求項1に記載の繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法。
【請求項3】 前記予備成形体が、幅5mm?30mmおよび厚み0.05mm?0.3mmのテープ状物から形成された織物の積層体であり、該予備成形体に含有される前記強化繊維と前記熱可塑性樹脂との重量比が、85/15?50/50である、請求項1に記載の繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法。
【請求項4】 前記予備成形体が、一方向積層体、直交積層体、斜交積層体およびこれらの組合せから選択される一方向強化シートの積層体であり、該予備成形体に含有される前記強化繊維と前記熱可塑性樹脂との重量比が、85/15?50/50である、請求項1に記載の繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法。
【請求項5】 前記予備成形体が、請求項2?4のいずれかに記載の予備成形体を少なくとも2つ組み合わせたものである、請求項1記載の繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法。
【請求項6】 前記耐熱性離型物品の形状が箱状である、請求項1から5のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法。
【請求項7】 前記耐熱性離型物品が、厚み0.05mm?1.0mmの金属箔でなる、請求項1から6のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂シー卜の製造方法。
【請求項8】 前記耐熱性離型物品が、前記予備成形体と接する面に離型処理が施されている金属箔でなる、請求項1から7のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂シー卜の製造方法。
【請求項9】 前記溶融工程および前記冷却固化工程が、プレス装置を用いて行われる、請求項1から8のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法。」

・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法に関する。より詳細には、本発明は、含浸性と生産性とを同時に満足し、溶融樹脂を流出させず、所望の絨維重量含有率が得られ、かつ、低コストで実施され得る繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法に関する。」

・「【0010】プレス成形および金型搬送冷却成形においては、(a)金型を少なくとも熱可塑性樹脂の軟化点または融点付近まで加熱し、(b)少なくとも樹脂が固化する温度まで、圧力を保持したまま金型ごと冷却しなければならない。そのため、加熱および冷却に非常に時間がかかり、生産性を上げることが難しい。一方、生産性を上げようとすると、多くの金型が必要であり、設備に要する費用の増大を招く。
【0011】ダブルベルトプレス成形においては、無端ベルト(通常、金属ベルトが使用される)と加熱および/または冷却を行う補助装置とを有する装置を用いることにより、連続的な製造が可能である(すなわち、生産性に優れる)。しかし、この方法においては、熱可塑性樹脂を強化繊維に含浸させるために加圧および加熱すると、溶融した熱可塑性樹脂が金属ベルトの幅方向の端部から流出する。その結果、繊維強化熱可塑性樹脂シートの重要な特性である絨維重量含有率が変動するばかりでなく、流出樹脂が装置を汚濁する、装置の清掃に時間がかかる、得られるシートの幅方向の端部の厚みが不足するので端部を取り除く必要がある、などの種々の問題が生じる。一方、低圧で溶融含浸させると、強化繊維への熱可塑性樹脂の含浸が不十分となり、得られる繊維強化熱可塑性樹脂シート中にボイドが存在する、強化繊維と熱可塑性樹脂との濡れ性が不足する、などの問題を生じる。すなわち、強化繊維への熱可塑性樹脂の含浸性が不十分である。このような不十分な含浸性は、例えば、スタンピング成形により、得られるシートを再度溶融し、加圧および冷却しても、十分に改善することは不可能である。さらに、現状では、ダブルベルトプレス装置は、プレス装置などと比較して非常に高価であり、製造コストの面からも非常に不利である。
【0012】ロール成形は、ダブルベルトプレス成形と同様に生産性に優れる。さらに、近年、ロールに溝加工を施すことにより、溶融樹脂の流出の防止が試みられている。しかし、このような溝加工は高価であり、しかも、樹脂の流出を十分に防止することはできない。従って、ロール成形は、上記のダブルベルトプレス成形と同様に、溶融樹脂の流出という問題を有している。さらに、ロール成形は、プレス成形のような高圧での成形が困難であるので、得られるシートの含浸性が不十分である場合が多い。
【0013】以上のように、含浸性と生産性とを同時に満足し、溶融樹脂を流出させず、所望の絨維重量含有率が得られ、かつ、低コストで実施され得る繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法は、いまだ得られていない。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、含浸性と生産性とを同時に満足し、溶融樹脂を流出させず、所望の絨維重量含有率が得られ、かつ、低コストで実施され得る繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、鋭意検討を行った結果、強化繊維と熱可塑性樹脂とを含有する予備成形体をあらかじめ成形し、かつ、熱可塑性樹脂の軟化点または融点よりも高い融点を有する耐熱性離型物品を介して予備成形体を加熱溶融して繊維強化熱可塑性樹脂シートを成形することにより上記目的を達成することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法は、強化繊維と熱可塑性樹脂とを含有する繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法であって;該強化繊維と該熱可塑性樹脂とを含有する予備成形体を成形する工程と;該予備成形体の少なくとも上面および下面に、該熱可塑性樹脂の軟化点または融点よりも高い融点を有する耐熱性離型物品を配置する工程と;加圧下で、かつ、該熟可塑性樹脂の軟化点または融点以上の温度で、該耐熱性離型物品を介して該予備成形体を溶融する工程と;加圧下で、かつ、該熟可塑性樹脂の軟化点または融点未満の温度で、該溶融した予備成形体を冷却固化する工程と;を包含する。
【0017】好適な実施態様においては、上記予備成形体は、長さ5mm?100mm、幅5mm?30mm、および厚み0.05mm?0.3mmの薄膜片の堆積物であり、該予備成形体に含有される上記強化繊維と上記熱可塑性樹脂との重量比が、85/15?50/50である。
【0018】好適な実施態様においては、上記予備成形体は、幅5mm?30mmおよび厚み0.05mm?0.3mmのテープ状物から形成された織物の積層体であり、該予備成形体に含有される上記強化繊維と上記熱可塑性樹脂との重量比が、85/15?50/50である。
【0019】好適な実施態様においては、上記予備成形体は、一方向積層体、直交積層体、斜交積層体およびこれらの組合せから選択される一方向強化シートの積層体であり、該予備成形体に含有される上記強化繊維と上記熱可塑性樹脂との重量比が、85/15?50/50である。
・・・(略)・・・
【0022】好適な実施態様においては、上記耐熱性離型物品は、厚み0.05mm?1.0mmの金属箔でなる。
【0023】好適な実施態様においては、上記耐熱性離型物品は、上記予備成形体と接する面に離型処理が施されている金属箔でなる。
【0024】好適な実施態様においては、上記溶融工程および上記冷却固化工程は、プレス装置を用いて行われる。」

・「【0027】
【発明の実施の形態】本明細書において、「予備成形体」とは、強化繊維と熱可塑性樹脂とを含有し、最終シート(すなわち、繊維強化熱可塑性樹脂シート)を形成し得るあらゆる成形体を包含する。
【0028】強化繊維は特に限定されないが、代表例としては、炭素繊維、炭化珪素繊維、ガラス繊維などの無機繊維;ボロン繊維などの金属繊維;アラミド繊維などの有機繊維が挙げられる。コスト、ならびに得られるシートの弾性率および機械的強度の点から、ガラス繊維、炭素繊維などの無機繊維が好ましい。これらの繊維は、連続繊維を引き揃え、そして十分に開繊させて用いることが好ましい。
【0029】熱可塑性樹脂は特に限定されないが、代表例としては、ナイロン6、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン46などのポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート 、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂;ポリエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂などが挙げられる。
【0030】特に好ましい熱可塑性樹脂の代表例は以下の通りである。これらは、シートの用途(または所望の特性)に応じて、適宜使用され得る:
(1)低コスト、成形時の流動性、耐水性、耐熱水性、または耐化学薬品性が要求される場合には、ポリオレフィン系樹脂が好ましい。入手が容易であるという理由で、ポリプロピレンが特に好ましい。本発明においては、酸変性されたポリプロピレンが最も好ましい。後述の強化繊維との接着性に特に優れるからである;
(2)耐摩擦磨耗性、耐油性、または長期耐熱特性が要求される場合には、ポリアミド系樹脂が好ましく、ナイロン6が特に好ましい;そして
(3)耐熱性、機械的強度、クリープ特性、耐薬品性、または耐油性が要求される場合には、ポリエステル系樹脂が好ましく、ポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。
【0031】予備成形体に含有される上記強化繊維と上記熱可塑性樹脂との重量比は、好ましくは85/15?50/50、より好ましくは80/20?60/40である。このような範囲で強化繊維と熱可塑性樹脂とを含有することにより、弾性率および強度に特に優れたシートが得られる。
・・・(略)・・・
【0033】予備成形体は、好ましくは、上記強化繊維に上記熱可塑性樹脂を含浸させ、所定の形状に成形することにより得られる。予備成形体の成形方法は、得られる予備成形体の形状に依存して変化し得る。好ましい予備成形体の成形方法について、以下に具体的に説明する。
・・・(略)・・・
【0036】○3(当審注:3を○で囲んだものである。)一方向強化シートの積層体:
(i)強化繊維の並ぶ方向が一方向に揃うように、連続繊維を十分に引き揃え開繊させる。(ii)一方向に揃って並んだ強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸させて、一方向強化シートを得る。(iii)得られた一方向強化シートを積層することにより、本発明に用いられる予備成形体が得られる;あるいは、(i)上記織物の積層体の場合と同様にして得られるテープ状物を、一方向に引き揃える。一方向に引き揃えたテープ状物を積層することにより、本発明に用いられる予備成形体が得られる。
【0037】一方向強化シートの積層方向は、一方向、直交、斜交およびこれらの組合せから選択される。ここで、「一方向」とは、強化繊維(またはテープ状物)が並ぶ方向が平行であることを意味し;「直交」とは、強化繊維(またはテープ状物)が並ぶ方向が直角であることを意味し;そして、「斜交」とは、強化繊維(またはテープ状物)が並ぶ方向が直角以外の角度を有することを意味する。
【0038】上記予備成形体は、適宜組み合わせて使用され得る。例えば、織物の積層体と薄膜片の堆積物とを組み合わせて用いてもよく、織物の積層体と一方向強化シートの積層体とを組み合わせて用いてもよい。
【0039】本発明に用いられる耐熱性離型物品は、上記熱可塑性樹脂の軟化点または融点よりも高い融点を有する。すなわち、この耐熱性離型物品は、上記熱可塑性樹脂の軟化点または融点で溶融することがなく、適当な剛性を有する。剛性が不足すると、最終シートの成形時に、耐熱性離型物品に破れ、よれ、または皺が生じやすい。そのため、最終シートの成形時に、熱可塑性樹脂が流出する場合があり、その結果、得られるシートの品質が不十分である場合がある。
【0040】耐熱性離型物品の形状は、予備成形体の形状、得られるシートの所望の特性に応じて変化し得るが、代表的には、シート状、箱状、袋状である。耐熱性離型物品の形状が箱状、袋状である場合には、最終シート成形時の熱可塑性樹脂の流出が顕著に防止され得る。耐熱性離型物品の形状がシート状である場合には、端部を折り返して壁を形成することにより、最終シート成形時の熱可塑性樹脂の流出が顕著に防止され得る。このような耐熱性離型物品を構成する材料の具体例としては、ガラス繊維強化テフロンシート(以下、テフロンガラスシートとする)、金属箔が挙げられる。金属箔としては、リサイクル可能で安価な、銅箔、アルミ箔などが好ましい。これらは、そのままで、または必要に応じて所定の形状(例えば、箱状)に成形して用いられ得る。
【0041】耐熱性離型物品を構成する材料(例えば、テフロンガラスシート、金属箔)の厚みは、好ましくは0.01mm?1.0mm、より好ましくは0.05mm?1.0mmである。厚みが0.01mm未満では、最終シートの成形時に、耐熱性離型物品に破れ、よれ、または皺が生じやすい。そのため、最終シートの成形時に、熱可塑性樹脂が流出する場合があり、その結果、得られるシートの品質が不十分である場合がある。厚みが1.0mmを超えると、耐熱性離型物品の重量が増加するので、最終シートの成形後、耐熱性離型物品の剥離に要する力が大きくなる。従って、操作性が不十分である(例えば、剥離操作の負担が増大する)場合が多い。さらに、最終シートの成形装置に必要以上の負荷がかかる場合が多い。
【0042】好ましくは、耐熱性離型物品には、離型処理が施され得る。特に好ましくは、耐熱性離型物品の予備成形体と接する面に、離型処理が施され得る。離型処理を施すことにより、得られるシートと耐熱性離型物品との剥離性が顕著に向上し、その結果、操作性ひいては生産性が顕著に向上する。離型処理の方法は特に限定されないが、代表的には、以下の方法処理が挙げられる:離型剤のスプレー、刷毛などよる塗布;離型剤へのディッピング;離型剤を含有する耐熱性離型物品の使用;優れた離型性を有する熱可塑性樹脂(例えば、シリコーン樹脂)の選択。
・・・(略)・・・
【0045】いずれのシート成形方法においても、予備成形体は、加圧下で、かつ、上記熟可塑性樹脂の軟化点または融点以上の温度で、耐熱性離型物品を介して溶融される。溶融条件は成形方法および最終シートの所望の特性に応じて変化し得るが、代表的には、溶融時の圧力は、好ましくは2?10kgf/cm^(2)であり;溶融時の金型(またはロール)温度は、好ましくは、(融点または軟化点)?(融点または軟化点+50℃)であり;そして、溶融時間は、好ましくは2?4分である。
【0046】次いで、溶融した予備成形体は、加圧下で、かつ、上記熟可塑性樹脂の軟化点または融点未満の温度で冷却固化され、最終シート(すなわち、繊維強化熱可塑性樹脂シート)が得られる。冷却固化条件は成形方法および最終シートの所望の特性に応じて変化し得るが、代表的には、冷却固化時の圧力は、好ましくは20?40kgf/cm^(2)であり;冷却固化時の金型(またはロール)温度は、好ましくは50?120℃であり;そして、溶融時間は、好ましくは1?3分である。
・・・(略)・・・
【0053】
【実施例】以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0054】(実施例1)強化繊維としてのガラス繊維75重量部に、熱可塑性樹脂としてのポリプロピレン25重量部を含浸させた後、幅10mm、厚み0.1mmのテープ状に切断した。このテープ状物を平織にし、13枚積層して予備成形体を得た。この予備成形体の上面および下面に、耐熱性離型物品として厚み0.1mmのテフロンガラスシートを配置した。このようにして、耐熱性離型物品が配置された予備成形体を得た。
【0055】一方、2台の温度調節が可能な加熱盤(すなわち、プレス)を有するプレス装置のそれぞれの加熱盤に、1辺が450mmの金型を取り付け、第1プレス金型および第2プレス金型とした。第1プレス金型を220℃に、第2プレス金型を100℃に加熱した。第1プレス金型に、耐熱性離型物品が配置された予備成形体を配置し、圧力3kgf/cm^(2)で3分間加熱溶融した。溶融した予備成形体を第2プレス金型に搬送し、第2プレス金型を用いて、20kgf/cm^(2)圧力で1分間冷却固化して、厚み2mmの繊維強化熱可塑性樹脂シートを得た。」

・「【0094】
【発明の効果】本発明によれば、含浸性と生産性とを同時に満足し、溶融樹脂を流出させず、所望の絨維重量含有率が得られ、かつ、低コストで実施され得る繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法が提供される。」

(イ)甲2-1に記載された発明
甲2-1に記載された事項を、【請求項1】、【請求項3】、【請求項9】、【0018】及び【0041】に関して整理すると、甲2-1には次の発明(以下、「甲2-1発明」という。)が記載されていると認める。

「強化繊維と熱可塑性樹脂とを含有する繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法であって、
該強化繊維と該熱可塑性樹脂とを含有する厚み0.05mm?0.3mmのテープ状物から形成された織物の積層体である予備成形体を成形する工程と、
該予備成形体の少なくとも上面および下面に、該熱可塑性樹脂の軟化点または融点よりも高い融点を有する0.05mm?1.0mmの厚さの耐熱性離型物品を配置する工程と、
プレス装置による加圧下で、かつ、該熟可塑性樹脂の軟化点または融点以上の温度で、該耐熱性離型物品を介して該予備成形体を溶融する工程と、
プレス装置による加圧下で、かつ、該熟可塑性樹脂の軟化点または融点未満の温度で、該溶融した予備成形体を冷却固化する工程と、
を包含する、繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法。」

イ 甲2-2に記載された事項
甲2-2には、「積層基材、繊維強化プラスチック、およびそれらの製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「【請求項1】
複数の一方向に配向した強化繊維と熱可塑性樹脂とからなるプリプレグ層が、2方向以上に配向して一体化されている平板状の積層基材であって、前記プリプレグ層の全面に強化繊維となす角度Θの絶対値が2?25°の範囲内の直線状の切込を有し、実質的にすべての強化繊維が前記切込により分断され、前記切込により分断された強化繊維の繊維長さLが10?100mmの範囲内である、積層基材。
【請求項2】
前記切込が、強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWsが30μm?1.5mmの範囲内である、請求項1に記載の積層基材。
【請求項3】
前記プリプレグ層が擬似等方に積層されている、請求項1または2に記載の積層基材。
・・・(略)・・・
【請求項7】
前記プリプレグ層同士が点状で一体化されている、請求項1?5のいずれかに記載の積層基材。」

・「【0001】
本発明は、取り扱い性、複雑な形状への形状追従性に優れ、短時間成形可能であるとともに、繊維強化プラスチックとした場合、構造材に適用可能な優れた力学物性、その低バラツキ性、優れた寸法安定性を発現する中間基材、およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、例えば航空機部材、自動車部材、スポーツ用具等に好適に用いられる繊維強化プラスチックの中間基材である積層基材、およびその製造方法に関する。」

・「【0004】
上述のような材料の欠点を埋めるべく、連続繊維と熱可塑性樹脂からなるプリプレグに切込を入れることにより、短時間成形が可能であり、成形時には優れた形状追従性を示し、繊維強化プラスチックとしたときに優れた力学物性を発現するとされる基材が開示されている(例えば、特許文献1,2)。しかしながら、SMCと比較すると力学特性は高く、かつそのバラツキが小さくなるものの、構造材として適用するには十分な強度とは言えない。連続繊維基材と比較すると切込という欠陥を内包した構成であるために、応力集中点である切込が破壊の起点となり、特に引張強度、引張疲労強度が低下する、という問題があった。さらに、熱可塑性樹脂のプリプレグはタックがないため、積層しただけでは一体化せず、成形が困難である、という問題があった。」

・「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、取り扱い性、複雑な形状への形状追従性に優れ、短時間成形可能であるとともに、繊維強化プラスチックとした場合、構造材に適用可能な耐衝撃性をはじめとする優れた力学物性、その低バラツキ性、優れた寸法安定性を発現する中間基材、およびその製造方法を提供することにある。」

・「【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、取り扱い性、複雑な形状への形状追従性に優れ、短時間成形可能であるとともに、繊維強化プラスチックとした場合、構造材に適用可能な耐衝撃性をはじめとする優れた力学物性、その低バラツキ性、優れた寸法安定性を発現する、中間基材、およびその製造方法を得ることができる。」

・「【0034】
本発明において、繊維長さLとは、任意の切込と、任意の切込と同等の切込が、強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWsを有する繊維方向に最近接の切込(対になる切込)とにより分断される繊維の長さを指している。ここで、“切込が、強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWs”とは図2に示すとおり、プリプレグ層の面内において、切込を強化繊維の垂直方向(繊維垂直方向2)を投影面として、切込から該投影面に垂直(繊維配向方向1)に投影した際の長さ9を指す。プリプレグ層の全面に切込が挿入され、基材中の強化繊維の繊維長さLをすべて100mm以下とすることにより、成形時に繊維は流動可能、特に繊維配向方向にも流動可能となり、複雑な形状への形状追従性にも優れる。該切込がない場合、すなわち連続繊維のみの場合、繊維配向方向には流動しないため、複雑形状を形成することは出来ない。繊維長さLを10mm未満にすると、さらに流動性が向上するが、他の用件を満たしても構造材として必要な高力学特性は得られない。流動性と力学特性との関係を鑑みると、さらに好ましくは20?60mmの範囲内である。対になる切込以外に切込まれて分断される繊維長さLより短い繊維も存在するが、10mm以下の繊維は少なければ少ないほどよい。さらに好ましくは、10mm以下の繊維が配向している面積が、プリプレグ層の面積に占める割合の5%より小さいのがよい。」

・「【0049】
本発明のプリプレグ層に用いられる強化繊維としては、例えば、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサドール(PBO)繊維などの有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、チラノ繊維、玄武岩繊維、セラミックス繊維などの無機繊維、ステンレス繊維やスチール繊維などの金属繊維、その他、ボロン繊維、天然繊維、変性した天然繊維などを繊維として用いた強化繊維などが挙げられる。その中でも特に炭素繊維は、これら強化繊維の中でも軽量であり、しかも比強度および比弾性率において特に優れた性質を有しており、さらに耐熱性や耐薬品性にも優れていることから、軽量化が望まれる自動車パネルなどの部材に好適である。なかでも、高強度の炭素繊維が得られやすいPAN系炭素繊維が好ましい。」

・「【0053】
本発明の積層基材は、プリプレグ層同士の層間に熱可塑性樹脂が偏在しているのが良い。前述の通り、層間に熱可塑性樹脂を偏在させることで、繊維堆積含有率Vfが高くても流動性が向上する。また、一般的に積層構造を有する繊維強化プラスチックは面外から衝撃荷重が加わった場合、層間剥離が起こりやすいが、強化繊維に変位を拘束されていない熱可塑性樹脂が層間に偏在していることで、層間のひずみのギャップを吸収することができ、層間剥離がおきにくい。結果、衝撃荷重が加わっても繊維強化プラスチックの力学特性の低下が少なく、耐衝撃性に優れる。層間に偏在する熱可塑性樹脂が多すぎると、繊維強化プラスチック全体の繊維堆積含有率Vfが低下するため、弾性率が低下してしまう。好ましくは偏在する熱可塑性樹脂の樹脂堆積含有率Vimが5%以下であるのが好ましい。」

・「【0056】
本発明の積層基材は、プリプレグ層同士が層間全面で融着していても良い。層間全面で融着していることで、取り扱い性が高くなると共に、ボイド率を低下させることができ、力学特性が向上する。一方で、プリプレグ層の一部同士のみをレーザーや半田ごてなどを用いて点状に融着(スポット溶接)しても良い。点状に融着させてプリプレグ層同士を一体化する場合、成形時に積層基材がばらばらにならないよう、取り扱い性を向上しつつ、積層基材として一体化する工程を短縮することが出来る、というメリットがある。」

・「【0076】
得られた切込プリプレグ基材はタックがなく、16層を疑似等方([45/0/-45/90]2S)に重ね、積層した切込プリプレグ基材群の四隅に半田ごてを押し当て、スポット溶接して、一体化して平板状の積層基材を作成した。」

・「【0121】
(比較例9)
実施例2の抜き型において、1mm間隔でカット部とアンカット部が並んだブレード状のミシン刃を配列して木型に45°の角度で埋め込んだ抜き型を押し当てて、図3b)に示すような繊維から45°の方向の直線的な切込を全面に断続的に挿入して、切込プリプレグ基材を得た。切込により分断された繊維長さLは30mmである。切込の繊維の垂直方向に投影した投影長さWsが0.71mm(実際の切込長さは1mm)であった。それ以外は実施例2と同様にして、平板状の繊維強化プラスチックを得た。
【0122】
得られた繊維強化プラスチックは若干繊維にうねりが見られたが、概ね端部まで繊維が均等に流動していた。全体的にソリもないものの、最外層の切込部において、強化繊維が存在せずに樹脂リッチまたは隣接層の強化繊維がのぞいている部位が多く、ヒケにより若干平滑性が損なわれていた。引張弾性率は41GPaと高いものの、引張強度は450MPa(CV値5%)と低かった。」

ウ 甲2-3に記載された事項
甲2-3には、おおむね次の記載がある。

・「c)超音波融着(Ultrasonic Welding)
超音波融着は、超音波振動により樹脂を発熱させ融着する方法である。図3.1.2-7に構成を、図3.1.2-8に外観を示す。超音波により界面で熱が発生し、樹脂が溶融する。圧力をかけるとともに冷却することで接着する。材料内部に加熱体のような異物が入らないため、高い融着強度が得られるとともに、材料ごとに異なる熱膨張率の差に起因する問題を避けることができる。
融着時間は数秒で済むが、小さなサイズしか接着できないこと、サポートツールが届く範囲の制限があることより、今のところスポット融着に限られている。フロアパネルのインサート6)、フロアビームのブラケットの接合などに適用されている。また、セミプレグ積層時の仮止めにも使われている。」(第43ページ下から第10ないし1行)

・「航空機部品に適用される熱可塑性樹脂複合材料の成形方法としては、ホットプレス成形が一般的である。図5.4-3にその成形工程を示す。成形工程は、プリプレグを板状に積層し加熱、素板を成形。その素材を再加熱、プレス成形し最終部品形状にトリムする(プレス成形前にトリムを実施する場合もある。)。特徴としては、プリプレグに対し保管期限がなく、室温において保管が可能である。更に成形時間が短く、不具合の発生時には再成形も可能である。ただし、プリプレグにタック(粘着)力がないので、積層時には、必要に応じて、超音波接合機等を用い、樹脂の一部を溶かし、融着させる必要がある。更に、複雑な形状に対する積層は難しい。」(第61ページ下から第13ないし6行)

エ 甲2-4に記載された事項
甲2-4には、「熱可塑性樹脂系複合材料の成形方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「従来の成形の1例は、第8図(A)?(I)のとおり、電気ゴテ(又は超音波融着機)を用いて成形素材1を積層成形し、次に油圧プレス装置を利用したホットプレス成形(又はオートクレーブ装置)内でガス圧成形などにより桁2,外板3をそれぞれ賦形し、エポキシ樹脂系接着剤4を用いオートクレーブ硬化して接着組立する(もしくは、機械的にファスナを用い桁と外板を組立ている)。」(第1ページ左下欄末行ないし右下欄第7行)

・「例えば、炭素繊維/PEEK系プリプレグ成形素材を用いてパネル構造部品を成形する」(第3ページ右上欄第6及び7行)

オ 甲2-5に記載された事項
甲2-5には、「繊維補強熱可塑性樹脂物品の圧縮成形方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「【0008】本発明で使用する熱可塑性樹脂をマトリックスとしかつ繊維で補強してなるプリプレグは、具体的には複数本の連続繊維を引き揃えて一方向に帯状に配列した一般にトウと呼ばれる繊維束にマトリックスの熱可塑性樹脂を含浸させたもの (一方向引き揃えのプリプレグ (UDプリプレグ) ) などである。室温においてタック性や可塑性がないばかりでなく、剛性が高い。シート状又は短冊状 (スリットテープ) をしている。このプリプレグを構成する繊維束に用いる補強繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維 (芳香族ポリアミド繊維) 、炭化珪素繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維等の耐熱性を備えた強度の大きい連続繊維である。」

・「【0010】本発明では、まず、熱可塑性樹脂をマトリックスとしかつ繊維で補強してなるプリプレグを上型と下型との間に配置する。この場合、図1に示すように、シート状のプリプレグを複数枚積層させた成形材料1を上型2と下型3との間に配置すればよい。」

・「【0011】上型2および下型3は、それぞれ、熱可塑性樹脂の可塑化温度以上の温度 (成形加工温度) に加熱したときに変形しない材質のものであればよく、例えば、鉄、アルミニウム等の金属製のものである。」

・「【0015】
【実施例】
実施例1
ポリエーテルイミド/炭素繊維のUDプリプレグ (Ten Cate Composite社製) を15cm角に16枚積層し、半田コテを用いて何箇所かスポット熔着してプリフォーム (成形材料4)を形成した (尚、積層は〔0,±45, 90〕_(2s)の疑似等方板であり、1プライ当たりの厚さは最終的には 170ミクロンに成形されるが、ラミネート成形以前には、16プライで約5mmであった。成形後の厚さは2.7mmである) 。次いで、厚さ8mmの鉄板 (20cm角)3枚を準備し、2枚の鉄板の間にプリフォームを挟み、更に片方の鉄板の上にやはり15cm角の厚さ20mmのPTFE板を置き、その上に第三の鉄板を置き、3枚の鉄板をしゃこ万力で固く締めた。
【0016】次いで、このようにして固締されたセットアップ (3類の鉄板に挟まれたプリフォームおよびPTFE板) を 360℃のオーブンにいれて90分保ち、次いでそれを冷水中に入れて、冷却し、材料の凝固を図った。」

カ 甲2-6に記載された事項
甲2-6には、「CFRPに関わる密着性の課題」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「3.3 施工時のプリプレグに関わる密着性
・・・(略)・・・
なお、熱可塑性樹脂マトリックスのCFRPを積層して製造する場合、それらは常温では固体であり粘着性がないため、そのままでは積層位置に固定できない。そのため局部加熱して溶融させての固定や、別途粘着質のある補助材料を準備しそれを塗布して、積層位置に仮固定していくことで作業を行う。このように、積層工程時のプリプレグの粘着性は、作業性に大きな影響を与える。」(第41ページ左欄下から15行ないし右欄第6行)

キ 甲2-7に記載された事項
甲2-7には、「炭素繊維強化熱可塑樹脂複合材の成形とその高靱性力学特性に関する実験的研究」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「このときの問題点の一つは、APC-2プリプレグにタック性がないので、パッケージ作成にやや熟練を要することである。プリプレグ相互の”ずれ”を防ぐために、半田ごての使用やスポット溶接的な部分接合などの可能性も考えられる。」(第65ページ左欄第3ないし7行)

ク 甲2-8に記載された事項
甲2-8の表2には、日東電工株式会社製の「NITOFLON No.970-4UL」の特性値(総厚さ0.08mmの引っ張り強さとして、縦200N/15mm、横160N/5mm)が記載されている。

ケ 甲2-9に記載された事項
甲2-9には、「繊維・樹脂複合化シート及びFRP成形体」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「【0002】
繊維強化プラスチックス(FRP)は、強化される側のマトリックス樹脂と繊維強化材とを複合化した材料であり、単位重量あたりの強度および弾性率に優れた特性を有することから、金属代替を中心とした用途展開が急速に進み、特に化石資源の枯渇に伴う燃料高騰と相まって、航空機や自動車等の輸送分野における低燃費化に伴う構造体の軽量化材料として広く用いられている。」

「【0060】
(実施例1)
熱可塑性樹脂bとして、十分に乾燥させたテクノポリマー社製のPC/ABS樹脂(商品名「エクセロイCKF50D2」)を用い、二軸押出機を用いて設定温度250℃で溶融混練し、110℃ のキャストロールで引き取り、冷却固化させて幅300mm、厚さ60μmの樹脂シートBを得た。
【0061】
三菱樹脂社製の12Kピッチ系炭素繊維(商品名「ダイアリード K63712」)連続繊維束を引き揃えてシート化した連続繊維体A(厚み:250μm、目付け:300g/m^(2))と、上記樹脂シートBとを用い、図1に示すように、二軸の加熱圧縮ロールを有するラミネート成形機により連続繊維シートの両面より該樹脂シートを挿入し、ロール温度200℃、ロール線圧15kg/cm、成形速度10cm/分により、厚み350μmの繊維・樹脂複合化シートを作製した。ロールによる加熱は、あらかじめ200℃へ予熱した非加熱ロールと200℃設定とした加熱ロールにより行った。
【0062】
そして、この繊維・樹脂複合化シート8枚を繊維の方向を同一方向に揃えて積層し、250℃(この温度でのPC/ABS樹脂の溶融粘度:450Pa・s)まで加熱した後、昇圧速度0.2MPa/分で10分間昇圧してプレス成形し、その後室温まで30分間で冷却して、FRP成形体を得た。
実施例1で得られた繊維・樹脂複合化シート及びFRP成形体の評価結果を表1に示した。
・・・(略)・・・
【0073】
表1より、実施例1-6で得られた繊維・樹脂複合化シートは屈曲性に優れた特性を示しており、この複合化シートを用いて成形したFRP成形体は優れた樹脂含浸性(低空隙率)と剛性を有していることが分かる(実施例1?6)。
これに対して、熱可塑性樹脂bの溶融粘度の最小値が1.0Pa・s?500Pa・sの範囲から外れている場合(比較例1)は、FRP成形体の樹脂含浸性が悪く、空隙率が高く曲げ弾性率も不十分な値を示している。
また、繊維・樹脂複合化シートの含浸深さの合計値が、5?30%の範囲外である場合(比較例2?4)には、複合化シートの状態での剛性が高いため屈曲性に劣ったり、密着性が悪いという結果となっている。
さらにまた、ロール線圧が1?80kg/cmの範囲外である場合(比較例4)は、複合化段階において樹脂が繊維中に含浸するためにシートの弾性率が高くなり、剛性が不足する結果となった。」

コ 甲1-3に記載された事項
甲1-3には、おおむね次の事項が記載されている。なお、原文の摘記は省略し、訳文を摘記する。

・「2 実験
2.1 高速積層プロセス
RELAY^(○R) 1000(当審注:○Rは、Rを○で囲んだもので、登録商標であることを示す。)は、クラッシュチューブ供試体の成形に使用されるFiberforge製の自動積層装置です。この新規技術は、一方向材(UD)から成る熱可塑性複合材の高速成形を自動化し、複合材部品の生産レートを向上させることができます。
本技術を積層体の成形に適用する場合、まず一方向材(UD)テープのロールを積層装置に装着し、次にUDテープを幅調整可能なガイドに通します。ガイドを通過し指定の長さに裁断された材料は、適した速度で積層装置のヘッド部に送り込まれ、3軸に動く(2軸方向と回転)テーブル上に積層されます。積層された最初のフライは、真空吸引により平板上に固定されます。以降に積層されるフライは、指定された長さに裁断された後、超音波溶着機によって貼り付けられます。このプロセスは、荷重に応じた繊維方向を有するネット形状の2次元の積層体が完成するまで繰り返し実施されます。
Relay プロセスは、複合材部品の製造サイクルを構成するいくつかの工程の内で最初に位置します。積層された積層体は、赤外線(IR)による加熱効率を向上させるためにプリコンソリデーション(プリコンソリデーションとは熱可塑性樹脂を加熱により溶融させ、各フライを一体化させることで固い一枚板を形成する手法のことです)され、最終的にスタンプ成形により3次元形状に成形されます(図1参照)。成形した部品はトリム加工され、そのまま使用される場合や、オーバーモールド等の追加工程が実施される場合があります。3項でUDテープからクラッシュチューブを製造する完全なプロセスについて説明します。」(第208ページ第5ないし27行)

(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲2-1発明を対比する。
甲2-1発明における「強化繊維」は本件特許発明1における「炭素繊維」と、「強化繊維」という限りにおいて一致する。
甲2-1発明における「該強化繊維と該熱可塑性樹脂とを含有する厚み0.05mm?0.3mmのテープ状物から形成された織物」は本件特許発明1における「炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含む厚さが50μm以上、200μm以下であるプリプレグ」と、「強化繊維と熱可塑性樹脂とを含むプリプレグ」という限りにおいて一致する。
甲2-1発明における「織物の積層体である予備成形体」は本件特許発明1における「プリプレグを2枚以上積層して」得た「その積層物」に相当する。
甲2-1発明における「プレス装置による加圧下で、かつ、該熟可塑性樹脂の軟化点または融点以上の温度で、該耐熱性離型物品を介して該予備成形体を溶融する工程」及び「プレス装置による加圧下で、かつ、該熟可塑性樹脂の軟化点または融点未満の温度で、該溶融した予備成形体を冷却固化する工程」は本件特許発明1における「プレートに挟んで加熱した後、冷却すること」に相当する。
甲2-1発明における「繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法」は本件特許発明1における「一体化する厚さ0.3?10mmの積層基材の製造方法」と、「一体化する積層基材の製造方法」という限りにおいて一致する。
甲2-1発明における「該熱可塑性樹脂の軟化点または融点よりも高い融点を有する0.05mm?1.0mmの厚さの耐熱性離型物品」は本件特許発明1における「プリプレグの厚みの0.3倍?5倍の厚みである離型紙或いは離型フィルム」と、「離型紙或いは離型フィルム」という限りにおいて一致する。
甲2-1発明における「該予備成形体の少なくとも上面および下面に、該熱可塑性樹脂の軟化点または融点よりも高い融点を有する0.05mm?1.0mmの厚さの耐熱性離型物品を配置する工程」は本件特許発明1における「プリプレグとプレート間にプリプレグの厚みの0.3倍?5倍の厚みである離型紙或いは離型フィルムを配置するか、または離形処理を施したプレートを用いること」と、「プリプレグとプレート間に離型紙或いは離型フィルムを配置するか、または離形処理を施したプレートを用いる」という限りにおいて一致する。

したがって、両者は次の点で一致する。
「強化繊維と熱可塑性樹脂とを含むプリプレグを2枚以上積層して、その積層物をプレートに挟んで加熱した後、冷却することにより一体化する積層基材の製造方法であって、プリプレグとプレート間に離型紙或いは離型フィルムを配置するか、または離形処理を施したプレートを用いる積層基材の製造方法。」

そして、次の点で相違する。
<相違点1>
「強化繊維」に関して、本件特許発明1においては、「炭素繊維」と特定されているのに対し、甲2-1発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点2>
「プリプレグ」及び「離型紙或いは離型フィルム」の厚さに関して、本件特許発明1においては、それぞれ、「50μm以上、200μm以下」及び「プリプレグの厚みの0.3倍?5倍」と特定されているのに対し、甲2-1発明においては、それぞれ、「0.05mm?0.3mm」及び「0.05mm?1.0mm」である点。

<相違点3>
「熱可塑性樹脂」に関して、本件特許発明1においては、「前記熱可塑性樹脂が、ポリアミド、ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、またはポリフェニレンサルファイドであり」と特定されているのに対して、甲2-1発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点4>
本件特許発明1においては、「前記プリプレグどうしが加熱や冷却工程の前に接着されており、当該接着が振動溶着または熱プレスを用いて施されたものであり」と特定されているのに対し、甲2-1発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点5>
本件特許発明1においては、「前記離型紙、離型フィルム或いはプレートの離型処理に用いる離型剤がフッ素樹脂あるいはシリコーン樹脂を含む」と特定されているのに対して、甲2-1発明においては、そのようには特定されていない点。

イ 判断
(ア)相違点1について
甲2-1の【0028】に、強化繊維の代表例として炭素繊維が最初に記載され、また、好ましいものとしてガラス繊維と並んで炭素繊維が記載されているから、甲2-1発明において、強化繊維として炭素繊維を選択して、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(イ)相違点2について
甲2-1発明における「0.05mm?0.3mm」(50μm?300μm)は本件特許発明1における「50μm以上、200μm以下」を包含し、大部分で重複する。
また、甲2-1発明における「0.05mm?0.3mm」の0.3倍は「0.015mm?0.09mm」となり、5倍は、「0.25mm?1.5mm」となるから、甲2-1発明における「0.05mm?1.0mm」は、「0.05mm?0.3mm」の「0.3倍?5倍」の数値範囲を含む。
さらに、本件特許明細書の記載からみて、本件特許発明1における「50μm以上、200μm以下」及び「0.3倍?5倍」という数値範囲に臨界的意義は認められない。
そして、実験的に数値範囲を最適化又は好適化することは、通常、当業者の通常の創作能力の発揮といえる(実際、甲2-1の【0054】及び【0055】に記載された実施例において、耐熱性物品の厚み(0.1mm)は、テープ状物(厚み0.1mm)を平織にしたものの厚み(0.1mm以上であることは明らかである。)の0.3倍?5倍の範囲内である。)から、甲2-1発明において、「プリプレグ」に相当する「織物」の厚みを「50μm以上、200μm以下」とし、「離型紙或いは離型フィルム」に相当する「耐熱性離型物品」の厚みを「織物」の厚みの「0.3倍?5倍」として、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(ウ)相違点3について
甲2-1の【0029】に、熱可塑性樹脂の代表例として、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂及びポリカーボネート樹脂が記載され、【0030】に、酸変性されたポリプロピレンが最も好ましいことが記載され、【0054】に、熱可塑性樹脂としてポリプロピレンを用いた実施例が記載されているから、甲2-1発明において、熱可塑性樹脂として、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、酸変性されたポリオレフィン系樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂又はポリカーボネート樹脂を採用して、相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(エ)相違点4について
甲2-2に「熱可塑性樹脂のプリプレグはタックがないため、積層しただけでは一体化せず、成形が困難である、という問題があった。」(【0004】)、甲2-3に「プリプレグにタック(粘着)力がないので、積層時には、必要に応じて、超音波接合機等を用い、樹脂の一部を溶かし、融着させる必要がある。」(第61ページ下から第8ないし6行)、甲2-5に「熱可塑性樹脂をマトリックスとしかつ繊維で補強してなるプリプレグは、・・・(略)・・・室温においてタック性や可塑性がないばかりでなく、剛性が高い。」(【0008】)、甲2-6に「熱可塑性樹脂マトリックスのCFRPを積層して製造する場合、それらは常温では固体であり粘着性がないため、そのままでは積層位置に固定できない。」(第41ページ左欄下から15行ないし右欄第6行)及び甲2-7に「APC-2プリプレグにタック性がないので、パッケージ作成にやや熟練を要することである。プリプレグ相互の”ずれ”を防ぐために、半田ごての使用やスポット溶接的な部分接合などの可能性も考えられる。」(第65ページ左欄第3ないし7行)と記載されているように、強化繊維と熱可塑性樹脂とを含むプリプレグには、タック(粘着力)がなく、積層しただけでは一体化せずに、成形が困難であるという課題があることは周知(以下、「周知の課題」という。)であり、該周知の課題を解決するために、超音波融着(振動溶着)や熱プレス(半田ごて)を用いて積層されたプリプレグを仮固定することも、甲2-2ないし2-7及び甲1-3に記載されているように周知(以下、「周知技術」という。)である。
したがって、甲2-1発明において、周知の課題を解決するために周知技術を適用して、相違点4に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(オ)相違点5について
甲2-1の【0040】、【0041】及び【0054】には、耐熱性離型物品として「テフロンガラスシート」(当審注:テフロンはフッ素樹脂である。)が記載され、【0042】には、シリコーン樹脂を選択して離型処理を施すことが記載されているから、甲2-1発明において、「耐熱性離型物品」にフッ素樹脂あるいはシリコーン樹脂を含ませるようにして、相違点5に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(カ)効果について
そして、本件特許明細書の【0033】に記載された「複雑な形状への賦形性に優れて短時間成形可能であり、かつ構造材に適用可能な曲げ強度や引張弾性率など優れた力学物性、その低ばらつき性を持つ積層基材を安定的に得ることができる。」という効果は、実施例1ないし10についてのみ確認されたものであるから、本件特許発明1の効果とはいえない。
仮に、上記効果が、本件特許発明1の効果であるといえたとしても、甲2-1の【0014】の「本発明は、上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、含浸性と生産性とを同時に満足し、溶融樹脂を流出させず、所望の絨維重量含有率が得られ、かつ、低コストで実施され得る繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法を提供することにある。」及び【0094】の「本発明によれば、含浸性と生産性とを同時に満足し、溶融樹脂を流出させず、所望の絨維重量含有率が得られ、かつ、低コストで実施され得る繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法が提供される。」という記載並びに周知技術の認定の根拠となった甲2-2の【0005】の「本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、取り扱い性、複雑な形状への形状追従性に優れ、短時間成形可能であるとともに、繊維強化プラスチックとした場合、構造材に適用可能な耐衝撃性をはじめとする優れた力学物性、その低バラツキ性、優れた寸法安定性を発現する中間基材、およびその製造方法を提供することにある。」及び【0025】の「本発明によれば、取り扱い性、複雑な形状への形状追従性に優れ、短時間成形可能であるとともに、繊維強化プラスチックとした場合、構造材に適用可能な耐衝撃性をはじめとする優れた力学物性、その低バラツキ性、優れた寸法安定性を発現する、中間基材、およびその製造方法を得ることができる。」という記載からみて、当業者が予測可能なものにすぎず、甲2-1発明及び周知技術からみて、格別顕著なものとはいえない。

ウ 特許権者の主張について
特許権者は、令和2年6月1日に提出された意見書において、おおむね次のように主張する。
<主張3>
この訂正により、プリプレグの厚さ、一体化された積層基材の厚さ、熱可塑性樹脂の種類、離型紙或いは離型フィルムの厚み、離型紙、離型フィルム或いはプレートの離型処理に用いる離型剤の種類を具体的に限定したものとなっており、各甲号証にはすべての要件を同時に満たすことは記載されていないものであり、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

<主張4>
甲2-1発明は、プレートから基材への伝熱、および膨張や収縮を繰り返すことでの皺の発生と基材への皺の転写を何ら考慮するものでなく、離型紙、あるいは離型フィルムの厚みをプリプレグの厚みに対して特定範囲とすることは当業者の通常の創作能力の発揮とはいえない。

<主張5>
甲2-1発明における予備成形体は、薄膜片の堆積物も態様に含んでいることから、プリプレグを2枚以上積層することを前提としたものでもなく、積層時にプリプレグどうしが滑りやすいとの課題に着目することはできない。たとえ強化繊維と熱可塑樹脂とを含むプリプレグにはタック(粘着力)がなく、積層しただけでは一体化せずに、成形が困難であるという課題が周知であったとしても、甲2-1発明の解決すべき課題である生産性向上させることとは反対方向の「プリプレグどうしが加熱や冷却工程の前に接着されており、当該接着が振動溶着または熱プレスを用いて施され」る工程を甲2-1発明に加えて適用することはできない。

<主張6>
本件特許発明は下記のような効果を奏するものである。
すなわち、本件実施例1と比較例2及び比較例3の対比によって、離型紙が特定範囲の厚みであるときに良好な外観と平滑性を保った積層基材が得られることが理解される。具体的には、実施例1は離型紙或いは離型フィルムの厚さをプリプレグの厚みの0.42倍で、得られた積層基材は、良好な外観と平滑性を保っていたことが確認されている。一方で、比較例2の離型紙或いは離型フィルムの厚さをプリプレグの厚みの12.5倍、比較例3の離型紙或いは離型フィルムの厚さをプリプレグの厚みの0.21倍であり、それぞれ溶着不十分、離型紙破れが発生し目的の積層基材が得られていない。このようにプリプレグと離型紙或いは離型フィルムの関係において特定範囲で溶着が十分な積層基材が得られることおよびその技術思想は各甲号証には記載されておらず、それらに基づいて予期できたものではない。特にプリプレグ同士が加熱や冷却工程の前に接着されており、当該接着が振動溶着または熱プレスを用いて施されていない甲2?1発明においては、プリプレグ同士のずれによる皺からの伝搬による離型紙等の皺、離型紙等の皺からの伝搬によるプリプレグの皺を十分に抑制できないと推測されるものであり、また、それらの皺を抑制することは想定されていない。

そこで、上記主張3ないし6について検討する。
<主張3について>
上記(1)ア(ア)のとおり、甲2-1には、プリプレグの厚さ、一体化された積層基材の厚さ、熱可塑性樹脂の種類、離型紙或いは離型フィルムの厚み、離型紙、離型フィルム或いはプレートの離型処理に用いる離型剤の種類について、本件特許発明1のものと同じ又は重複するものが記載されている。
したがって、すべての要件を同時に満たすことが甲2-1や他の証拠に記載されていないとしても、上記イのとおり、本件特許発明1は、甲2-1発明に周知技術を適用することによって、当業者が容易に想到し得たことであるというべきである。
よって、上記主張3は採用できない。

<主張4について>
上記(1)ア(ア)のとおり、甲2-1には、プリプレグの厚さ、離型紙或いは離型フィルムの厚みについて、本件特許発明1のものと同じ又は重複するものが記載されている。
したがって、仮に、甲2-1発明がプレートから基材への伝熱及び膨張や収縮を繰り返すことでの皺の発生と基材への皺の転写を考慮するものでないとしても、上記イのとおり、本件特許発明1は、甲2-1発明に周知技術を適用することによって、当業者が容易に想到し得たことであるというべきである。
よって、上記主張4は採用できない。

<主張5について>
甲2-1には、予備成形体の態様として薄膜片の堆積物も記載されているが、甲2-1発明は、【請求項3】の記載を根拠に認定したものであるから、主張5はその前提からして誤りである。
また、本件特許の発明の詳細な説明の【0007】の「短時間で成形可能である積層基材を安定的に製造する方法、及び積層基材を提供することを課題とする」という記載、特に「短時間で成形可能である」という記載からみて、本件特許発明1における「プリプレグどうしが加熱や冷却工程の前に接着されており、当該接着が振動溶着または熱プレスを用いて施され」る工程は、生産性を向上するための工程でもあるといえるから、甲2-1発明の解決すべき課題である生産性の向上と反対方向の技術ではなく、甲2-1発明に加えて適用できないものではない。
したがって、上記イのとおり、本件特許発明1は、甲2-1発明に周知技術を適用することによって、当業者が容易に想到し得たことであるというべきである。
よって、上記主張5は採用できない。

<主張6について>
本件特許発明1の効果については、上記イ(カ)のとおりであり、特許権者の主張する効果は、本件特許発明1の効果とはいえないし、仮に、本件特許発明1の効果であるといえたとしても、甲2-1発明及び周知技術からみて、当業者が予測可能なものにすぎず、格別顕著なものとはいえない。
よって、上記主張6は採用できない。

エ まとめ
したがって、本件特許発明1は、甲2-1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)本件特許発明2について
甲2-1の【0045】に「溶融時の金型(またはロール)温度は、好ましくは、(融点または軟化点)?(融点または軟化点+50℃)であり」と記載され、【0054】及び【0055】に熱可塑性樹脂としてポリプロピレン(当審注:ポリプロピレンの融点は約165℃である。)を用い、第1プレス金型を220℃(当審注:ポリプロピレンの融点+100℃以下である。)に加熱することが記載されている。
したがって、請求項2に記載された事項は、甲2-1に記載されているといえ、甲2-1発明において、請求項2に記載された事項を採用することに格別困難性はない。
よって、本件特許発明2は、甲2-1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)本件特許発明3について
甲2-1の【0046】に「冷却固化時の金型(またはロール)温度は、好ましくは50?120℃であり」と記載され、【0054】及び【0055】に、熱可塑性樹脂としてポリプロピレン(当審注:ポリプロピレンの融点は約165℃である。)を用い、第2プレス金型を220℃、第2プレス金型を100℃(当審注:差は120℃であり、250℃以下である。)に加熱することが記載されている。
したがって、請求項3に記載された事項は、甲2-1に記載されているといえ、甲2-1発明において、請求項3に記載された事項を採用することに格別困難性はない。
よって、本件特許発明3は、甲2-1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)本件特許発明4について
請求項4に記載された事項は、甲2-8(表2)にも記載されているように、一般的なものであり、甲2-1発明における「0.05mm?1.0mmの厚さの耐熱性離型物品」も該事項を有している蓋然性が高く、請求項4に記載された事項は、本件特許発明4と甲2-1発明の対比に際し、実質的な相違点とはならない。
仮に、実質的な相違点であるとしても、甲2-1発明において、請求項4に記載された事項を採用することに格別困難性はない。
したがって、本件特許発明4は、甲2-1発明、周知技術及び甲2-8に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)本件特許発明5について
甲2-1発明における「0.05mm?1.0mmの厚さの耐熱性離型物品」は、離型紙又は離型フィルムであるが、離型紙又は離型フィルムである以上、表面の粗度は小さいはずであるから、請求項5に記載された事項は、甲2-1発明も有している蓋然性は高く、本件特許発明5と甲2-1発明の対比に際し、実質的な相違点とはならない。
仮に、実質的な相違点であるとしても、甲2-1発明において、請求項5に記載された事項を採用することに格別困難性はない。
したがって、本件特許発明5は、甲2-1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6)本件特許発明7について
甲2-1の【0036】に「一方向に揃って並んだ強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸させて、一方向強化シートを得る。」と記載されている。
したがって、請求項7に記載された事項は、甲2-1に記載されているといえ、甲2-1発明において、請求項7に記載された事項を採用することに格別困難性はない。
よって、本件特許発明7は、甲2-1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(7)本件特許発明8について
請求項8で記載された事項は、予備成形体として、普通の事項であるから、甲2-1発明における「予備成形体」に請求項8に記載された事項を採用することに格別困難性はない。
したがって、本件特許発明8は、甲2-1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(8)本件特許発明10について
甲2-2の【請求項1】に「前記プリプレグ層の全面に強化繊維となす角度Θの絶対値が2?25°の範囲内の直線状の切込を有し、実質的にすべての強化繊維が前記切込により分断され」及び【0121】に「繊維から45°の方向の直線的な切込を全面に断続的に挿入して」と記載されているように、甲2-2には、プリプレグに切込を入れることが記載されている。
してみると、切込を入れる以上、切込と強化繊維のなす角度及びプリプレグ1m^(2)あたりの切込長の総和をどの程度にするかは当業者が適宜決めるべき設計的事項にすぎない。
他方、本件特許明細書の記載からみて、本件特許発明10における「30°以上、60°以下」及び「20m以上、150m以下」という数値範囲に臨界的意義は認められない。
したがって、甲2-1発明において、甲2-2に記載された事項を適用して、「予備成形体」に、本件特許発明10において特定されたような切込を入れるようにすることに格別困難性はない。
よって、本件特許発明10は、甲2-1発明、周知技術及び甲2-2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(9)本件特許発明11について
上記(8)のとおり、甲2-2には、プリプレグに切込を入れることが記載されている。
してみると、切込を入れる以上、切込の入れ方をどうするか並びに切込と強化繊維のなす角度及びプリプレグ1m^(2)あたりの切込長の総和をどの程度にするかは、当業者が適宜決めるべき設計的事項にすぎない。
他方、本件特許明細書の記載からみて、本件特許発明11における「30°以上、60°以下」及び「20m以上、150m以下」という数値範囲に臨界的意義は認められない。
したがって、甲2-1発明において、甲2-2に記載された事項を適用して、「予備成形体」に、本件特許発明11において特定されたような切込を入れるようにすることに格別困難性はない。
よって、本件特許発明11は、甲2-1発明、周知技術及び甲2-2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(10)本件特許発明12について
甲2-2の【請求項1】に「前記切込により分断された強化繊維の繊維長さLが10?100mmの範囲内である」、【0034】に「流動性と力学特性との関係を鑑みると、さらに好ましくは20?60mmの範囲内である。」及び【0121】に「切込により分断された繊維長さLは30mmである。」と記載されているように、甲2-2には、切込によって切断された強化繊維の長さを20?60mmの範囲内とすることが記載されている。
他方、本件特許明細書の記載からみて、本件特許発明12における「10m以上50m以下」という数値範囲に臨界的意義は認められない。
したがって、甲2-1発明において、甲2-2に記載された事項を適用して、「予備成形体」に、切込によって切断された強化繊維の長さが本件特許発明12において特定されたような長さとなるように、切込を入れるようにすることに格別困難性はない。
よって、本件特許発明12は、甲2-1発明、周知技術及び甲2-2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(11)本件特許発明13について
甲2-1の【0030】に「本発明においては、酸変性されたポリプロピレンが最も好ましい。」と記載されている。
したがって、請求項13に記載された事項は、甲2-1に記載されているといえ、甲2-1発明において、請求項13に記載された事項を採用することに格別困難性はない。
よって、本件特許発明13は、甲2-1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(12)本件特許発明14について
請求項14に記載された事項は、甲2-9(【0061】の「ダイアリード K63712」の繊度は2.0g/mであるから、平均単繊維繊度は1.7dtexを満たす。)に記載されているように、一般的な事項である。
したがって、本件特許発明14は、甲2-1発明、周知技術及び甲2-9に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(13)本件特許発明15について
甲2-2の【0053】には「プリプレグ層同士の層間に熱可塑性樹脂が偏在しているのが良い。前述の通り、層間に熱可塑性樹脂を偏在させることで、繊維堆積含有率Vfが高くても流動性が向上する。また、一般的に積層構造を有する繊維強化プラスチックは面外から衝撃荷重が加わった場合、層間剥離が起こりやすいが、強化繊維に変位を拘束されていない熱可塑性樹脂が層間に偏在していることで、層間のひずみのギャップを吸収することができ、層間剥離がおきにくい。」と記載されている。
したがって、請求項15に記載された事項は、甲2-2に記載されているといえ、甲2-1発明において、甲2-2に記載された事項を適用して、請求項13に記載された事項を採用することに格別困難性はない。
よって、本件特許発明15は、甲2-1発明、周知技術及び甲2-2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(14)本件特許発明16について
甲2-1の【請求項4】に、「前記予備成形体が、一方向積層体、直交積層体、斜交積層体およびこれらの組合せから選択される一方向強化シートの積層体であり」と、予備成形体を一方向積層体、直交積層体及び斜交積層体を組合わせて構成することが記載されている。
したがって、請求項16に記載された事項は、甲2-1に記載されているといえ、甲2-1発明において、請求項16に記載された事項を採用することに格別困難性はない。
よって、本件特許発明16は、甲2-1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(15)本件特許発明17について
甲2-1の【請求項4】に「前記予備成形体が、一方向積層体、直交積層体、斜交積層体およびこれらの組合せから選択される一方向強化シートの積層体であり」と、予備成形体を一方向積層体及び直交積層体を組合わせて構成することが記載されている。
したがって、請求項17に記載された事項は、甲2-1に記載されているといえ、甲2-1発明において、請求項17に記載された事項を採用することに格別困難性はない。
よって、本件特許発明17は、甲2-1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(16)本件特許発明18について
甲2-1の【0054】に「強化繊維としてのガラス繊維75重量部に、熱可塑性樹脂としてのポリプロピレン25重量部を含浸させた後、幅10mm、厚み0.1mmのテープ状に切断した。」と記載されており、このテープ状物について、ガラスの比重を2.55とし、ポリプロピレンの比重を0.90として、ガラスの体積含有率を計算すると約51.42%(75/2.55=29.41、25/0.90=27.78、29.41/(29.41+27.78)×100=51.42))となり、「20体積%以上、55体積%以下」を満足する。
したがって、請求項18に記載された事項は、甲2-1に記載されているといえる。
よって、本件特許発明18は、甲2-1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(17)取消理由2についてのまとめ
したがって、本件特許の請求項1ないし5、7、8及び10ないし18に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5、7、8及び10ないし18に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

第6 むすび
上記第5のとおり、本件特許の請求項1ないし5、7、8及び10ないし18に係る特許は、特許法第113条第2及び4号に該当し取り消すべきものである。
また、本件特許の請求項6、9及び19に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項6、9及び19に係る特許についての特許異議申立人2による特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

よって、結論のとおり決定する。


 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含む厚さが50μm以上、200μm以下であるプリプレグを2枚以上積層して、その積層物をプレートに挟んで加熱した後、冷却することにより一体化する厚さ0.3?10mmの積層基材の製造方法であって、前記熱可塑性樹脂が、ポリアミド、ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、またはポリフェニレンサルファイドであり、前記プリプレグどうしが加熱や冷却工程の前に接着されており、当該接着が振動溶着または熱プレスを用いて施されたものであり、プリプレグとプレート間にプリプレグの厚みの0.3倍?5倍の厚みである離型紙或いは離型フィルムを配置するか、または離形処理を施したプレートを用い、前記離型紙、離型フィルム或いはプレートの離型処理に用いる離型剤がフッ素樹脂あるいはシリコーン樹脂を含むことを特徴とする積層基材の製造方法。
【請求項2】
プリプレグに含まれる熱可塑性樹脂が融点(Tm)を有する場合、積層したプリプレグを加熱する時のプレートの温度(Th)が、Tm+100(℃)以下、ガラス転移温度(Tg)を有する場合、Tg+100(℃)以下であることを特徴とする請求項1に記載の積層基材の製造方法。
【請求項3】
積層したプリプレグを加熱する時のプレートの温度(Th)と冷却する時のプレートの温度(Tc)の差(Th-Tc)が、250(℃)以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の積層基材の製造方法。
【請求項4】
プリプレグとプレート間にプリプレグの厚みの10倍以下の厚みである離型紙或いは離型フィルムを配置する積層基材の製造方法であって、離型紙或いは離型フィルムの引張強度が30?1000Nであることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の積層基材の製造方法。
【請求項5】
プリプレグとプレート間にプリプレグの厚みの10倍以下の厚みである離型紙或いは離型フィルムを配置する積層基材の製造方法であって、離型紙或いは離型フィルムの表面粗度が30μm以下であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の積層基材の製造方法。
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
炭素繊維と熱可塑性樹脂を含むプリプレグが、一方向に配向した炭素繊維と熱可塑性樹脂を含むプリプレグであることを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の積層基材の製造方法。
【請求項8】
炭素繊維と熱可塑性樹脂を含むプリプレグが、炭素繊維100重量%の内、繊維長10mmを超える炭素繊維の比率が0?50重量%、繊維長2?10mmの炭素繊維の比率が50?100重量%、繊維長2mm未満の炭素繊維の比率が0?50重量%である炭素繊維と熱可塑性樹脂を含むプリプレグであることを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の積層基材の製造方法。
【請求項9】
(削除)
【請求項10】
一方向に配向した炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含むプリプレグを複数枚積層した積層基材であって、前記プリプレグは、炭素繊維を横切る方向に炭素繊維を切断する深さの切込を有し、前記切込が直線状であって、切込と炭素繊維のなす角度が30°以上、60°以下であり、前記プリプレグ1m^(2)あたりの切込長の総和が20m以上、150m以下であるプリプレグを含むことを特徴とする請求項7に記載の積層基材の製造方法。
【請求項11】
一方向に配向した炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含むプリプレグを複数枚積層した積層基材であって、前記プリプレグは、炭素繊維を横切る方向に炭素繊維を切断する深さの切込を有し、前記切込が直線状の中心線に沿った曲線であって、かつ曲線を中心線に投影した際に重なりがなく、該中心線と炭素繊維のなす角度が30°以上、60°以下であり、前記プリプレグ1m2あたりの切込長の総和が20m以上、150m以下であるプリプレグを含むことを特徴とする請求項7に記載の積層基材の製造方法。
【請求項12】
切込によって切断された炭素繊維の長さが、10mm以上50mm以下であるプリプレグを含むことを特徴とする請求項10または11に記載の積層基材の製造方法。
【請求項13】
熱可塑性樹脂が、酸変性ポリプロピレン樹脂であることを特徴とする請求項1?5、7?8、10?12のいずれかに記載の積層基材の製造方法。
【請求項14】
前記炭素繊維の平均単繊維繊度が0.5dtex以上、2.4dtex以下である炭素繊維であることを特徴とする請求項1?5、7?8、10?13のいずれかに記載の積層基材の製造方法。
【請求項15】
前記積層基材が、熱可塑性樹脂からなる層をさらに含むことを特徴とする請求項1?5、7?8、10?14のいずれかに記載の積層基材の製造方法。
【請求項16】
前記積層基材を構成する複数のプリプレグが、プリプレグに含まれる炭素繊維の方向が疑似等方となるように積層されることを特徴とする請求項1?5、7?8、10?15のいずれかに記載の積層基材の製造方法。
【請求項17】
前記積層基材を構成する複数のプリプレグが、プリプレグに含まれる炭素繊維の方向が0°であるプリプレグと90°であるプリプレグが交互に積層されることを特徴とする請求項1?5、7?8、10?15のいずれかに記載の積層基材の製造方法。
【請求項18】
前記積層基材を構成するプリプレグに含まれる炭素繊維の体積含有率が20体積%以上、55体積%以下であることを特徴とする請求項1?5、7?8、10?17のいずれかに記載の積層基材の製造方法。
【請求項19】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-10-16 
出願番号 特願2014-160474(P2014-160474)
審決分類 P 1 651・ 121- ZAA (B29C)
P 1 651・ 537- ZAA (B29C)
最終処分 取消  
前審関与審査官 今井 拓也  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 植前 充司
加藤 友也
登録日 2019-01-18 
登録番号 特許第6464602号(P6464602)
権利者 三菱ケミカル株式会社
発明の名称 積層基材の製造方法、及び積層基材  
代理人 田▲崎▼ 聡  
代理人 大浪 一徳  
代理人 伏見 俊介  
代理人 田▲崎▼ 聡  
代理人 伏見 俊介  
代理人 大浪 一徳  
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