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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G02B
審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
管理番号 1371684
異議申立番号 異議2019-700523  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-04-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-07-04 
確定日 2020-12-17 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6460275号発明「波長変換シート及びバックライトユニット」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6460275号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正することを認める。 特許第6460275号の請求項1、3に係る特許を取り消す。 同請求項2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続等の経緯
特許第6460275号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?3に係る特許についての出願(特願2018-85813号)は、2015年(平成27年)4月3日(先の出願に基づく優先権主張 平成26年4月4日、平成26年4月4日)を国際出願日とする特願2016-511642号の一部を平成30年4月26日に新たな特許出願としたものであって、平成31年1月11日にその特許権の設定登録がされ、平成31年1月30日に特許掲載公報が発行された。
本件特許について、特許掲載公報発行の日から6月以内である令和元年7月4日に特許異議申立人 成田隆臣(以下、「特許異議申立人」という。)から全請求項に対して特許異議の申立てがされた。その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。

令和 元年10月18日付け:取消理由通知書
令和 元年12月23日付け:意見書(特許権者)
令和 元年12月23日付け:訂正請求書
令和 2年 2月 7日付け:意見書(特許異議申立人)
令和 2年 3月25日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和 2年 5月29日付け:意見書(特許権者)
令和 2年 5月29日付け:訂正請求書(この訂正請求書による訂正の
請求を、以下「本件訂正請求」という。)
令和2年 9月 3日付け:意見書(特許異議申立人)

なお、令和元年12月23日付け訂正請求書による訂正の請求は、特許法120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

第2 本件訂正請求について
1 訂正の趣旨及び訂正の内容
(1)訂正の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、特許第6460275号の明細書及び特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?3について訂正することを求める、というものである。

(2)訂正の内容
本件訂正請求において特許権者が求める訂正の内容は、以下のとおりである。なお、下線は当合議体が付したものであり、訂正箇所を示す。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「 量子ドットを用いた蛍光体を含む蛍光体層と、前記蛍光体層の少なくとも一方の面上に積層される1以上の蛍光体用保護フィルムと、を備える波長変換シートであって、
前記蛍光体用保護フィルムは、
基材と、前記基材の少なくとも一方の面上に設けられたバリア層と、を有するバリアフィルムと、
前記基材の前記バリア層と反対の面上に設けられた、光学的機能を有するコーティング層と、を有し、
前記バリア層は、
前記基材の一方の面上に積層された無機薄膜層と、
前記無機薄膜層とは異なる材料で形成され、水酸基含有高分子化合物、金属アルコキシド、金属アルコキシド加水分解物、及び金属アルコキシド重合物のうち、少なくとも1以上を含み、前記無機薄膜層の上に積層されたガスバリア性被覆層と、を含み、
前記蛍光体用保護フィルムは、前記バリア層と前記蛍光体層とが対向するように積層されている、
波長変換シート。」
と記載されているのを、
「 量子ドットを用いた蛍光体を含む蛍光体層と、前記蛍光体層の少なくとも一方の面上に積層される1以上の蛍光体用保護フィルムと、を備える波長変換シートであって、
前記蛍光体用保護フィルムは、
基材と、前記基材の少なくとも一方の面上に設けられたバリア層と、を有するバリアフィルムと、
前記基材の前記バリア層と反対の面上に設けられた、光学的機能を有するコーティング層と、を有し、
前記基材は、酸価が25以下のポリエチレンテレフタレート系フィルムであり、
前記バリア層は、
前記基材の一方の面上に積層された無機薄膜層と、
前記無機薄膜層とは異なる材料で形成され、水酸基含有高分子化合物、金属アルコキシド、金属アルコキシド加水分解物、及び金属アルコキシド重合物のうち、少なくとも1以上を含み、前記無機薄膜層の上に積層されたガスバリア性被覆層と、を含み、
前記蛍光体用保護フィルムは、前記バリア層と前記蛍光体層とが対向するように積層されている、
波長変換シート。」
に訂正する(請求項1の記載を引用して記載された、請求項2及び3についても、同様に訂正する。)。

イ 訂正事項2
明細書の段落【0016】に
「本発明の第一の態様は、量子ドットを用いた蛍光体を含む蛍光体層と、蛍光体層の少なくとも一方の面上に積層される1以上の蛍光体用保護フィルムとを備える波長変換シートである。蛍光体用保護フィルムは、基材と、基材の少なくとも一方の面上に設けられたバリア層とを有するバリアフィルム23と、基材のバリア層と反対の面上に設けられた、光学的機能を有するコーティング層8とを有する。バリア層は、基材の一方の面上に積層された無機薄膜層と、無機薄膜層とは異なる材料で形成され、水酸基含有高分子化合物、金属アルコキシド、金属アルコキシド加水分解物、及び金属アルコキシド重合物のうち、少なくとも1以上を含み、無機薄膜層の上に積層されたガスバリア性被覆層とを含む。蛍光体用保護フィルムは、バリア層と蛍光体層とが対向するように積層されている。」
と記載されているのを、
「本発明の第一の態様は、量子ドットを用いた蛍光体を含む蛍光体層と、前記蛍光体層の少なくとも一方の面上に積層される1以上の蛍光体用保護フィルムと、を備える波長変換シートであって、前記蛍光体用保護フィルムは、基材と、前記基材の少なくとも一方の面上に設けられたバリア層と、を有するバリアフィルムと、前記基材の前記バリア層と反対の面上に設けられた、光学的機能を有するコーティング層と、を有し、前記基材は、酸価が25以下のポリエチレンテレフタレート系フィルムであり、前記バリア層は、前記基材の一方の面上に積層された無機薄膜層と、前記無機薄膜層とは異なる材料で形成され、水酸基含有高分子化合物、金属アルコキシド、金属アルコキシド加水分解物、及び金属アルコキシド重合物のうち、少なくとも1以上を含み、前記無機薄膜層の上に積層されたガスバリア性被覆層と、を含み、前記蛍光体用保護フィルムは、前記バリア層と前記蛍光体層とが対向するように積層されている。」
に訂正する。

(3)本件訂正請求は、一群の請求項〔1-3〕に対して請求されたものである。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
訂正事項1による訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の【0027】及び【0075】の記載に基づいて、特許請求の範囲の請求項1に記載された「基材」について、「前記基材は、酸価が25以下のポリエチレンテレフタレート系フィルムであり」と限定する、訂正である。
したがって、訂正事項1による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
請求項2及び3についてみても、同じである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、訂正事項1による訂正に伴って、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1の記載と明細書の【0016】の記載を整合させる、訂正である。
したがって、訂正事項2による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項2による訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の訂正に係る請求項1を含む一群の請求項〔1?3〕の全てについて行われている。
さらに、訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正(訂正事項1及び2による訂正)は、特許法120条の5第2項ただし書、同法同条9項において準用する同法126条4項から6項までの規定に適合する。
よって、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正することを認める。


第3 本件特許発明
前記「第2」のとおり、本件訂正請求による訂正は認められた。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?3に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」?「本件特許発明3」という。)は、本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
量子ドットを用いた蛍光体を含む蛍光体層と、前記蛍光体層の少なくとも一方の面上に積層される1以上の蛍光体用保護フィルムと、を備える波長変換シートであって、
前記蛍光体用保護フィルムは、
基材と、前記基材の少なくとも一方の面上に設けられたバリア層と、を有するバリアフィルムと、
前記基材の前記バリア層と反対の面上に設けられた、光学的機能を有するコーティング層と、を有し、
前記基材は、酸価が25以下のポリエチレンテレフタレート系フィルムであり、
前記バリア層は、
前記基材の一方の面上に積層された無機薄膜層と、
前記無機薄膜層とは異なる材料で形成され、水酸基含有高分子化合物、金属アルコキシド、金属アルコキシド加水分解物、及び金属アルコキシド重合物のうち、少なくとも1以上を含み、前記無機薄膜層の上に積層されたガスバリア性被覆層と、を含み、
前記蛍光体用保護フィルムは、前記バリア層と前記蛍光体層とが対向するように積層されている、
波長変換シート。
【請求項2】
前記バリア層が、
前記ガスバリア性被覆層上に積層された第2の無機薄膜層と、
前記第2の無機薄膜層とは異なる材料で形成され、水酸基含有高分子化合物、金属アルコキシド、金属アルコキシド加水分解物、及び金属アルコキシド重合物のうち、少なくとも1以上を含み、前記第2の無機薄膜層上に積層された第2のガスバリア性被覆層と、をさらに有する、
請求項1に記載の波長変換シート。
【請求項3】
光源と、
導光板と、
請求項1または2に記載の波長変換シートと、
を備える、
バックライトユニット。」

第4 取消しの理由の概要
令和2年3月25日付け取消理由通知書(決定の予告)により特許権者に通知した取消しの理由は、概略、本件特許の請求項1?3に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?3に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである、というものである。

甲1:特表2013-544018号公報
甲2:特開2011-13567号公報
甲3:特開2009-61711号公報
甲4:特開2009-61760号公報
甲5:特開2008-162046号公報
甲6:国際公開第2004/101276号
(当合議体注:特許異議申立人が提出した再公表特許に対応するもの。)
甲10:特開2013-73192号公報
甲11:特開平11-95013号公報

第5 当合議体の判断
1 甲1の記載・引用発明
(1)甲1の記載
取消しの理由で引用された甲1(特表2013-544018号公報)には、次の事項が記載されている。なお、下線は当合議体が付した。以下、同じ。

ア 「【0002】
本発明は、量子ドット(QD)蛍光体フィルム、QD照明装置、および関連方法に関する。
【背景技術】
【0003】
従来の照明装置は、制限された光色特性および不十分な照明効率を有する。高色純度、高効率、および改善された光色特性を示す、費用効率のよい照明方法および装置に対する必要性が存在する。
【0004】
本発明は、高効率で、色が純粋な、色調整可能な量子ドット(QD)照明方法および装置に関する。本発明は、さらに、量子ドットフィルム(QDフィルム)ならびに関連する照明方法および装置に関する。
・・・(中略)・・・
【0006】
本発明は、光源、光フィルター、および/または一次光の下方変換器としての使用のためのQDフィルムを含む。ある特定の実施形態において、QDフィルムは一次光源であり、QDフィルムが、電気的刺激時に光子を放出する電子発光性QDを含む、電子発光性フィルムである。ある特定の実施形態において、QDフィルムは光フィルターであり、QDが、ある特定の波長または波長範囲を有する光を吸収する。QDフィルムフィルターは、特定の波長または波長範囲の通過を、その他のものを吸収またはフィルタリング除去しながら、可能にすることができる。ある特定の実施形態において、QDフィルムは、下方変換器であり、それによって、一次光源からの一次光の少なくとも一部分が、QDフィルム内でQDによって吸収され、一次光よりも低エネルギーまたは長い波長を有する二次光として再放出される。好ましい実施形態において、QDフィルムは、フィルターおよび一次光下方変換器の両方であり、それによって、一次光の第1の部分が、QDフィルム内のQDによって吸収されることなくQDフィルムを通過することを可能にし、一次光の少なくとも第2の部分は、QDによって吸収され、一次光よりも低エネルギーまたは長い波長を有する二次光に下方変換される。
【0007】
一実施形態において、本発明は、量子ドット(QD)フィルムバックライトユニット(BLU)を提供する。QD BLUは、好適には、青色発光ダイオード(LED)およびQDフィルムを備え、QDフィルムは、好適には、QD蛍光体材料層の上部側面および底部側面のそれぞれの上のバリア層の間に配置される、QD蛍光体材料のフィルムまたは層を含む。好適には、LEDは、導光パネル(LGP)に結合され、QDフィルムは、LGPと液晶ディスプレイ(LCD)パネルの光学フィルムとの間に配置される。LGPとLCDの光学フィルムとの間にQDフィルムを配置することにより、青色光の効率的な再利用、およびQDに対する青色光の光路距離の増加を可能にし、それによって、QD照明装置における十分な輝度の達成に必要なQD濃度の大幅な低下を可能にする。」

イ 「【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、照明用途での使用のためのQD照明装置およびQDフィルムを提供する。
・・・(中略)・・・
【0030】
図5は、輝度強化フィルム(BEF)501、拡散層504、LGP506、LEDハウジング510、および反射体508を含む、BLU512の構成要素を示す、従来のLEDバックライトLCDディスプレイ500を示す。
【0031】
本発明の1つの例示的な実施形態によると、図6Aおよび6Bに示されるように、照明装置600(例えば、ディスプレイBLU)は、2つのバリア層620と622との間に挟持または配置されるQD蛍光体材料604を含む、フィルムを含む、QDフィルムリモート蛍光体パッケージ602を備える。QDフィルムは、導光パネル(LGP)の上に配置され、少なくとも1つの一次光源610が、LGPに隣接して位置され、それによって、一次光源は、QD蛍光体材料との光通信状態にある。一次光614が、一次光源によって放出される際、一次光は、LGPを通じてQDフィルムに向かって進む。QDフィルムおよび一次光源は、一次光が、リモート蛍光体パッケージのQD蛍光体材料を通じて進み、QD蛍光体材料内のQDを励起し、それによって、QDフィルムからの二次光の放出をもたらすように配置される。リモート蛍光体パッケージおよび照明装置から放出される光は、蛍光体材料によって放出される二次光、QDフィルムを完全に通過する一次光、または好ましくはそれらの組み合わせを含む。図6Aおよび6Bに示される例示的な実施形態において、QDフィルムBLU600は、底部反射フィルムまたは層608、LGPの上部および/または底部の付近の1つ以上の光抽出層(図6には示されない)、ならびに、QDフィルムが、BEF(例えば、反射偏光フィルムもしくはプリズムフィルム)と、反射フィルムおよび1つ以上の光抽出層を有するLGPとの間に挟持または配置されるように、QDフィルムの上に配置される1つ以上の輝度強化フィルム601をさらに備える。
【0032】
図6A?6Cの例示の実施形態に示されるように、本発明の照明方法および装置は、量子ドットの下方変換層を、より好ましい位置に、好ましくは、LCD BLUの反射フィルム608とBEF601との間、例えば、LCD BLUの反射フィルム608とLGP606の間、またはLGP606とBEF601の間に配置される、QD蛍光体層604を含むQDフィルム層602の形状で、位置付けることを目的とする。好適には、QDフィルム602は、上部バリア620および底部バリア622を含み、これらのバリアは、QD蛍光体材料604を収容し、外部の環境条件からそれを保護する。QDフィルムを、LED610の付近よりも、LGPに隣接したこのような位置に配置することで、QD蛍光体材料内の光束および温度は、著しく低減され、結果として、QD蛍光体材料およびQDBLUに、より長い寿命をもたらす。さらに、フィルムアセンブリの導入が、簡略化され、機械的損傷問題が解決する。多数のさらなる利点が、以下により詳細に記載されるように、本発明のQDフィルム実施形態により達成される。
・・・(中略)・・・
【0054】
QDフィルムリモート蛍光体パッケージ
本明細書に言及される際、本発明の「リモート蛍光体パッケージ」または「QDフィルム」には、以下により詳細に記載されるように、QD蛍光体材料およびそれに関連するパッケージ材料が含まれる。本発明のリモート蛍光体パッケージは、一次光源および蛍光体材料が、別個の要素であり、蛍光体材料が、単一の要素として一次光源と統合されていないという意味で、「リモート」である。一次光は、一次光源から放出され、QDフィルムのQD蛍光体材料に到達する前に、1つ以上の外部媒体を通じて進む。
【0055】
本発明のリモート蛍光体パッケージは、本明細書にQD蛍光体、二次光源、または二次発光QDとも称される、少なくとも1つの発光量子ドット(QD)集団を含む、QD蛍光体材料を含む。図8に示されるように、QD813は、QDによって吸収される一次光814の下方変換時に、二次光放出816を提供する。図9に示されるように、本発明のQDは、好適には、コア902、コアの上にコーティングされる少なくとも1つのシェル904、好ましくは有機ポリマーリガンドである1つ以上のリガンドを含む外側のコーティング906を含む、コア/シェルQD900を含む。好ましい実施形態において、リモート蛍光体パッケージは、図10に示されるように、QD蛍光体材料1000を含むことになり、QD蛍光体材料は、1つ以上のマトリックス材料1030に埋め込まれるかまたは分散されるQD1013を含み、そうして、QD蛍光体材料がQD-マトリックス材料複合体を含むようになる。
【0056】
好適なQD、リガンド、およびマトリックス材料には、本明細書に記載のものを含むが、これらに限定されない、当業者に既知の任意のこのような好適な材料が含まれる。本明細書に言及される際、本発明の「QD蛍光体材料」は、QD蛍光体(すなわち、二次発光QDおよび関連リガンドもしくはコーティング)、ならびにそれに関連するあらゆるマトリックス材料を指す。好ましい実施形態において、QD蛍光体材料は、以下にさらに詳細に記載されるように、1つ以上の散乱特徴部をさらに含むことになる。」
(当合議体注:【0054】冒頭の「QDフィルムリモート蛍光体パッケージ」の下線は、当合議体が付したものではない。)

ウ 「【0104】
本発明のある特定の実施形態において、中にQD蛍光体が埋め込まれるマトリックス材料は、QDが、その中に埋め込まれ、したがって、そこを通じて伝送される一次光の少なくとも一部分が、QDによって吸収され、QDによって放出される二次光に下方変換されるように、BLUの他の層、例えば、LGP、バリア層、BEF、拡散層、もしくはBLUの他の好適な層のうち1つ以上から構成されてもよい。QD蛍光体が、装置の既存の層の中に埋め込まれる実施形態、およびQD蛍光体がマトリックス材料によって包囲されていない実施形態においては、QDは、好ましくは、酸化ケイ素、酸化チタン、または酸化アルミニウム(例えば、SiO_(2)、Si_(2)O_(3)、TiO_(2)、もしくはAl_(2)O_(3))等、外側の酸化物コーティングを備える。酸化物コーティングされたQDは、照明装置の1つ以上の層の上に直接被着される、および/またはその中に直接分散されてもよい。
・・・(中略)・・・
【0110】
バリア
好ましい実施形態において、QDフィルムは、QD蛍光体材料層のいずれか1つまたは両方の側面に配置される、1つ以上のバリア層を含む。好適なバリア層は、QDおよびQD蛍光体材料を、高温、酸素、および湿気等の環境条件から保護する。好適なバリア材料には、疎水性で、QD蛍光体材料と化学的および機械的に適合性があり、光および化学安定性を示し、高温に耐えることのできる、非黄変の透明な光学材料が挙げられる。好ましくは、1つ以上のバリア層は、QD蛍光体材料と屈折率が整合される。好ましい実施形態において、QD蛍光体材料のマトリックス材料および1つ以上の隣接するバリア層は、類似の屈折率を有するように屈折率が整合され、その結果、バリア層を通じてQD蛍光体材料に向かって伝送する光の大半が、バリア層から蛍光体材料内に伝送されるようになる。この屈折率整合により、バリアとマトリックス材料との間の界面における光学的損失が減少される。
【0111】
バリア層は、好適には、固体材料であり、硬化された液体、ゲル、またはポリマーであってもよい。バリア層は、特定の用途に応じて、可撓性または非可撓性材料を含んでもよい。バリア層は、好ましくは、平面層であり、特定の照明用途に応じて、任意の好適な形状および表面積構造を含んでもよい。好ましい実施形態において、1つ以上のバリア層は、積層フィルム加工技術と適合性を有することになり、それによって、QD蛍光体材料は、少なくとも第1のバリアフィルム上に配置され、少なくとも第2のバリアフィルムが、QD蛍光体材料とは反対の側面のQD蛍光体材料上に配置されて、本発明の一実施形態によるQDフィルムを形成する。好適なバリア材料には、当該技術分野で既知の任意の好適なバリア材料が含まれる。例えば、好適なバリア材料には、ガラス、ポリマー、および酸化物が含まれる。好適なバリア層材料には、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリマー、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム(例えば、SiO_(2)、Si_(2)O_(3)、TiO_(2)、もしくはAl_(2)O_(3))等の酸化物、およびそれらの好適な組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、QDフィルムの各バリア層は、異なる材料または組成物を含む少なくとも2つの層を含み、その結果、多層状のバリアが、バリア層内のピンホール欠陥配列を排除または減少させ、QD蛍光体材料内への酸素および湿気の侵入に対する効果的なバリアを提供するようになる。QDフィルムは、任意の好適な材料または材料の組み合わせ、ならびにQD蛍光体材料のいずれかもしくは両方の側面上の任意の好適な数のバリア層を含んでもよい。バリア層の材料、厚さ、および数は、具体的な用途に依存することになり、好適には、QDフィルムの厚さを最小化しながらも、QD蛍光体のバリア保護および輝度を最大化するように、選択されることになる。好ましい実施形態において、各バリア層は、積層フィルム、好ましくは二重積層フィルムを含み、各バリア層の厚さは、ロールツーロールまたは積層製造プロセス時の皺を排除するのに十分に厚い。バリアの数または厚さは、さらに、QDまたは他のQD蛍光体材料が、重金属または他の毒性材料を含む実施形態においては、法的な毒性指針に依存し、その指針は、より多いか、またはより厚いバリア層を要する場合がある。バリアのさらなる検討事項には、費用、入手可能性、および機械的強度が挙げられる。
【0112】
好ましい実施形態において、QDフィルムは、QD蛍光体材料の各側面に隣接する2つ以上のバリア層を含み、好ましくは、各側面上に2つまたは3つの層、最も好ましくは、QD蛍光体材料の各側面上に2つのバリア層を含む。好ましくは、各バリア層は、ポリマーフィルムの少なくとも1つの側面上に薄い酸化物コーティングを有する、薄いポリマーフィルムを含む。好ましくは、バリア層は、1つの側面に、酸化ケイ素(例えば、SiO_(2)またはSi_(2)O_(3))の薄層でコーティングされた、薄いPETフィルムを含む。例えば、好ましいバリア材料には、Alcan(商標)から入手可能なCeramis(商標)CPT-002およびCPT-005が挙げられる。別の好ましい実施形態において、各バリア層は、薄いガラスシート、例えば、約100μm、100μm以下、50μm以下、好ましくは、50μmまたは約50μmの厚さを有するガラスシートを含む。
【0113】
図14Aの例示の実施形態に示されるように、QD BLU1400は、一次光源1410、任意の光抽出特徴部1450を有するLGP1406、LGPの真下に配置される反射フィルム1408、BEF1401、およびLGPとBEFとの間に配置されるQDフィルム1402を含む。図14Bに示されるように、QDフィルム1402は、上部バリア1420および底部バリア1422を含む。バリア1420および1422のそれぞれは、QD蛍光体材料1404に隣接する第1の副層1420a/1422a、および第1の層1420a/1422a上の少なくとも第2の副層1420b/1422bを含む。好ましい実施形態において、副層の材料および数は、隣接する副層間のピンホール配列を最小化するように選択される。好ましい実施形態において、上部バリア1420および底部バリア1422のそれぞれは、酸化ケイ素を含む第1の副層1420a/1422aおよびPETを含む第2の副層1420b/1422bを含む。好ましくは、酸化ケイ素を含む第1の副層1420a/1422aは、QD蛍光体材料1404に直接隣接して配置され、PETを含む第2の副層1420b/1422bは、第1の副層1420a/1422aが、QD蛍光体材料1404と第2の副層1420b/1422bとの間に配置されるように、第1の副層1420a/1422aの上に配置される。1つの例示の実施形態において、QD蛍光体材料は、約50μmの厚さを有し、酸化ケイ素を含む第1の副層のそれぞれは、約8μmの厚さを有し、PETを含む第2の副層のそれぞれは、約12μmの厚さを有する。
【0114】
好ましい実施形態において、図14Cに示されるように、上部バリアおよび底部バリアは、それぞれ、二重バリア(すなわち、2つのバリア層)を含む。上部バリア1420は、第1のバリア層および第2のバリア層を含み、第1のバリア層は、第1の副層1420aおよび第2の副層1420bを含み、第2のバリア層は、第1の副層1420cおよび第2の副層1420dを含む。底部バリア1422は、第1のバリア層および第2のバリア層を含み、第1のバリア層は、第1の副層1422aおよび第2の副層1422bを含み、第2のバリア層は、第1の副層1422cおよび第2の副層1422dを含む。好ましくは、第1の副層1420a、1420c、1422a、および1422cは、酸化ケイ素を含み、第2の副層1420b、1420d、1422b、および1422dは、PETを含む。1つの例示の実施形態において、QD蛍光体材料は、約100μmの厚さを有し、二酸化ケイ素を含む第1の副層のそれぞれは、約8μmの厚さを有し、PETを含む第2の副層のそれぞれは、約12μmの厚さを有する。」
(当合議体注:【0110】冒頭の「バリア」の下線は、当合議体が付したものではない。)

エ 「【図6A】

【図6B】



オ 「【図14A】

【図14B】

【図14C】



(2)引用発明
ア 「QD」は「量子ドット」(【0004】)、「LGP」は「導光パネル」(【0007】)、「BLU」は「バックライトユニット」(【0007】)、「BEF」は、「輝度強化フィルム」(【0030】)を意味する。

イ 「QDフィルムは、下方変換器であり、それによって、一次光源からの一次光の少なくとも一部分が、QDフィルム内でQDによって吸収され、一次光よりも低エネルギーまたは長い波長を有する二次光として再放出される」(【0006】)から、「QDフィルム1402」は、波長変換をするフィルムであるといえる。

ウ 【0110】の「QD蛍光体材料層」という記載及び【図14B】の記載によると、「QD蛍光体材料1404」は「層」であるといえる。

エ 「QDフィルム1402」に関する【図14B】の記載より、「QDフィルム1402」は、「QD蛍光体材料1404」、「上部バリア1420」及び「底部バリア1422」を含むといえる。

オ 「上部バリア1420および底部バリア1422のそれぞれは、酸化ケイ素を含む第1の副層1420a/1422aおよびPETを含む第2の副層1420b/1422bを含む」(【0113】)ところ、好ましい態様として、「バリア層は、1つの側面に、酸化ケイ素(例えば、SiO_(2)またはSi_(2)O_(3))の薄層でコーティングされた、薄いPETフィルムを含む」(【0112】)ものが挙げられている。そうすると、「酸化ケイ素を含む第1の副層1420a/1422a」は、「酸化ケイ素の薄層」であり、「PETを含む第2の副層1420b/1422b」は、前記「酸化ケイ素の薄層でコーティングされた」「PETフィルム」の層であるといえる。

カ 「バリア1420および1422のそれぞれは、QD蛍光体材料1404に隣接する第1の副層1420a/1422a、および第1の層1420a/1422a上の」「第2の副層1420b/1422bを含む」(【0113】)ところ、前記オ及び【図14B】の記載を踏まえると、「上部バリア1420」及び「底部バリア1422」のそれぞれは、「QD蛍光体材料1404」に隣接する「酸化ケイ素の薄層」及び前記「酸化ケイ素の薄層でコーティングされた」「PETフィルム」の層を含むといえる。

キ 「バリア層は、QDおよびQD蛍光体材料を、高温、酸素、および湿気等の環境条件から保護する」(【0110】)から、「上部バリア1420」及び「底部バリア1422」は、量子ドット蛍光体を保護するものであるといえる。

ク 前記ア?キ及び前記(1)ア?オによると、甲1には、次の発明が記載されていると認められる(以下、「引用発明1」という。)。

「量子ドット蛍光体材料層、上部バリア及び底部バリアを含み、
上部バリア及び底部バリアは、量子ドット蛍光体を保護するものであり、
上部バリア及び底部バリアのそれぞれは、量子ドット蛍光体材料層に隣接する酸化ケイ素の薄層及び前記酸化ケイ素の薄層でコーティングされたPETフィルムの層を含み、
導光パネルと輝度強化フィルムとの間に配置される、波長変換をする量子ドットフィルム。」

ケ また、甲1には、次の発明も記載されていると認められる(以下、「引用発明2」という。)。

「一次光源と、導光パネルと、引用発明1の量子ドットフィルムと、を備えるバックライトユニット。」

2 甲2?甲6及び甲10?甲16の記載並びに周知技術等
(1)甲2
ア 甲2の記載
取消しの理由で引用された甲2(特開2011-13567号公報)には、次の事項が記載されている。

(ア)「【0024】
そこで、図2(B)に示した比較例2の蛍光体シート100Bのように、高いガスバリア性を有するハイバリアフィルム103A,103Bを用いて、色変換層101を挟み込む必要がある。ハイバリアフィルム103A,103Bは、水蒸気透過率が例えば0.05g/m^(2)/day以下の非常に高いバリア機能を有するものである。このようなハイバリアフィルム103A,103Bは、例えばPET等の樹脂フィルムの上に、酸化シリコン(SiO_(X))や酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))等よりなる無機膜が複数積層されたものである。また、無機膜と有機膜を積層する場合もある。更には、ガラス基板等が用いられる場合もある。これにより、ガスGの透過を効果的に防ぎ、蛍光体の劣化を抑制することができる。ところが、このようなハイバリアフィルム103A,103Bは、その開発が非常に困難である上、材料コストが高く、製造コストが跳ね上がってしまう。」

(イ)「【図2】



イ 上記アより、甲2には、「蛍光体シートのハイバリアフィルムとして、PET等の樹脂フィルムの上に無機膜と有機膜が積層されたものを用いること」が記載されていると認められる。

(2)甲3
ア 甲3の記載
取消しの理由で引用された甲3(特開2009-61711号公報)には、次の事項が記載されている。

(ア)「【0019】
本発明に係るガスバリアフィルムは図1に示すように、透明プラスチックフィルム(1)の少なくとも一方の面に金属酸化物からなる第一バリア層(2)、ガスバリア性被膜層(3)、金属酸化物からなる第二バリア層(4)を順次積層したガスバリアフィルムにおいて、第一バリア層(2)表面における赤外吸収スペクトルによるSi-O-Siの伸縮振動に帰属される吸収ピークの位置が1055-1075cm^(-1)の範囲であり、第一バリア層(2)の表面における純水の接触角が20°以下であることを特徴とするガスバリアフィルムである。
【0020】
前記透明プラスチックフィルム(1)としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリカーボネイトフィルム、ポリアリレートフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリスルフォンフィルム、アモルファスポリオレフィンフィルムなどが挙げられる。また、該透明プラスチックフィルムの厚さは任意であるが、一般的には数十μmから数百μmである。
【0021】
前記透明プラスチックフィルム上に積層する金属酸化物層としては、透明性を有しかつ酸素、水蒸気等のガスバリア性を有する酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムあるいはそれらの混合物などの金属酸化物の蒸着膜が挙げられるが、バリア性、密着性の観点から、酸化珪素膜が好適と考えられる。
・・・(中略)・・・
【0029】
前記ガスバリア性被膜層は水溶性高分子と1種以上の金属アルコキシドまたはその加水分解物を含む水溶液あるいは水/アルコール混合液を主剤とするコーティング剤を用いて形成される。例えば、水溶性高分子を水系(水或いは水/アルコール混合)溶媒で溶解させたものに金属アルコキシドを直接、或いは予め加水分解させる等処理を行ったものを混合したものを溶液とする。この溶液を第一バリア層上にコーティング後、加熱乾燥し形成される。コーティング剤に含まれる各成分について更に詳細に説明する。
【0030】
本発明でコーティング剤に用いられる水溶性高分子は、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。特にポリビニルアルコール(以下、PVAと略す)を本発明のコーティング剤に用いた場合にガスバリア性が最も優れるので好ましい。ここでいうPVAは、一般にポリ酢酸ビニルをけん化して得られるものである。PVAとしては例えば、酢酸基が数十%残存している、所謂部分けん化PVAから酢酸基が数%しか残存していない完全PVA等用いることができ、これ以外のものを用いても一向に構わない。
【0031】
また、金属アルコキシドは、一般式、M(OR)n(M:Si,Ti,Al,Zr等の金属、R:CH_(3),C_(2)H_(5)等のアルキル基で表せる化合物である。具体的には、テトラエトキシシラン〔Si(OC_(2)H_(5))_(4)〕、トリイソプロポキシアルミニウム〔Al(O-2‘-C_(3)H_(7))_(3)〕などが挙げられ、中でもテトラエトキシシラン、トリイソプロポキシアルミニウム、あるいはその混合物は加水分解後、水系の溶媒中において比較的安定しているので好ましい。」

(イ)「【図1】



(3)甲4
ア 甲4の記載
取消しの理由で引用された甲4(特開2009-61760号公報)には、次の事項が記載されている。

(ア)「【0031】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る透明導電性フィルム10は、基材1の表面上に金属酸化物薄膜層2として蒸着層を設け、その上に複合被膜層3を設け、窒素含有ガスを用いたプラズマ処理にて窒化層4を形成したのち、透明導電薄膜層5が形成された構成である。
【0032】
基材1はプラスチック材料からなり、金属酸化物薄膜層2の透明性を生かすために可能であれば透明なフィルム基材1であることが好ましい。基材1の材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)及びポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステルフィルム、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリアミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアクリルニトリルフィルム及びポリイミドフィルム等が挙げられるが本発明ではこれらに限定されるわけではない。
・・・(中略)・・・
【0036】
金属酸化物薄膜層2は、透明でかつ所望のガスバリア性を有していれば特に制限はないが、特に酸化珪素や酸化アルミニウム及び酸化マグネシウム薄膜を用いることができるが本発明ではこれらに限定されるわけではない。」
・・・(中略)・・・
【0039】
次いで複合被膜層3を説明する。複合被膜層3はガスバリア性を持った被膜層であり、水酸基含有性高分子化合物と1種以上の金属アルコキシドまたはその加水分解物を含む水溶液或いは水/アルコール混合溶液を主剤とするコーティング剤を用いて形成される。例えば、水酸基含有性高分子化合物を水系(水或いは水/アルコール混合)溶媒で溶解させたものに金属アルコキシドを直接、或いは予め加水分解させるなど処理を行ったものを混合したものを溶液とする。この溶液を金属または無機化酸化物からなる金属酸化物薄膜層2にコーティング後、加熱乾燥し形成される。コーティング剤に含まれる各成分について更に詳細に説明する。」

(イ)「【図1】



(4)甲5
ア 甲5の記載
取消しの理由で引用された甲5(特開2008-162046号公報)には、次の事項が記載されている。

(ア)「【0027】
図1(a)、(b)、(c)に本発明による封止フィルムの基本層構成B(1)、B(2)、B(3)を示す。図1(a)の層構成B(1)は、ポリエステル系樹脂のフィルム基材11の一面にポリエステル系樹脂のシーラント層14が接着材の介在なしに、接着強度がある状態で直接形成されている。また、フィルム基材11の他の面にガスバリア性無機物層12と、その上にガスバリア性補強層13が形成されている。図1(b)の層構成B(2)は、B(1)の構成において、フィルム基材11とガスバリア性無機物層12の間に紫外線吸収層15が形成された構成である。図1(c)の層構成B(3)は、B(1)の構成において、フィルム基材11とシーラント層14の間に紫外線吸収層15が形成された構成である。
・・・(中略)・・・
【0031】
本発明で用いられるポリエステル系樹脂フィルム基材11としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のフィルムを挙げることができる。特に,適度の耐熱性、機械的強度があり、入手も容易であるので二軸方向に任意に延伸されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムが好ましく用いられる。
・・・(中略)・・・
【0037】
ガスバリア性無機物層12に好ましい材料は、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化錫、酸化マグネシウム、あるいはそれらの混合物などの無機酸化物からなり、透明性を有し、かつ要求される酸素、水蒸気等に対するガスバリア性を有する層であればよい。これらの中では、特に酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化マグネシウムあるいはこれらの混合物が好ましい。また、成膜方法としては、量産性のある蒸着装置によって必要な性能がえられるので、おもにコストの面から好ましい。ただし、本発明における蒸着薄膜層は、上述したガスバリア性無機酸化物に限定されず、上記条件に適合する材料であれば用いることができる。
・・・(中略)・・・
【0040】
ガスバリア性補強層13は、水溶性高分子と、(a)1種以上の金属アルコキシドおよび/または加水分解物または、(b)塩化錫、の少なくとも一方を含む水溶液あるいは水/アルコール混合溶液を主剤とするコーティング剤を用いて形成される。例えば、水溶性高分子と塩化錫を水系(水あるいは水/アルコール混合)溶媒で溶解させた溶液、あるいはこれに金属アルコキシドを直接、あるいは予め加水分解させるなど処理を行ったものを混合した溶液を調整し溶液とする。この溶液を無機酸化物からなる蒸着薄膜層12の上にコーティング後、加熱乾燥し形成される。このコーティング剤に含まれる各成分についてさらに詳細に説明する。」

(イ)「【図1】



(5)甲6
ア 甲6の記載
取消しの理由で引用された甲6(国際公開第2004/101276号)には、次の事項が記載されている。

(ア)「図4に、図1の透明ガスバリア積層フィルムの変形例を表す断面図を示す。
図示するように、この透明ガスバリア積層フィルム40は、2つの透明ガスバリアフィルムが、各々基材3、基材3上に蒸着された無機酸化物蒸着層4、無機酸化物蒸着層4上に形成された第1のガスバリア性被膜層6を含む複合フィルム8からなり、その2つの複合フィルム8が粘着層2を介して積層された構成を有する。
ガスバリア性被膜層としては、例えば水溶性高分子と、(a)1種以上の金属アルコキシドまたは/およびその加水分解物または、(b)塩化錫の少なくとも一方を含む水溶液あるいは水/アルコール混合溶液を主剤とするコーティング剤を塗布し加熱乾燥してなる層があげられる。
・・・(中略)・・・
図6に、図1の透明ガスバリア積層フィルムの変形例を表す断面図を示す。
図示するように、この透明ガスバリア積層フィルム60は、2つの透明ガスバリアフィルムが、各々基材3、基材3上に蒸着された第1の無機酸化物蒸着層4、第1の無機酸化物蒸着層4上に形成された第1のガスバリア性被膜層6,第1のガスバリア性被膜層6上に形成された第2の無機酸化物蒸着層4’、及び第2の無機酸化物蒸着層4’上に形成された第2のガスバリア性被膜層6’を含む複合フィルム8’からなり、その第2のガスバリア性被膜層6’が粘着層2を介して積層された構成を有する。」(13頁21行?17頁12行)

(イ)「Fig.4



(ウ)「Fig.6



イ 上記アより、甲6には、「バリアフィルムとして、基材上に形成された第1の無機酸化物蒸着層、第1の無機酸化物蒸着層上に形成された第1のガスバリア性被膜層、第1のガスバリア性被膜層上に形成された第2の無機酸化物蒸着層、及び第2の無機酸化物蒸着層上に形成された第2のガスバリア性被膜層を含む複合フィルムを用いる」という技術事項が記載されていると認められる。

(6)周知技術1
前記(2)?(5)によると、「バリア層として、基材の一方の面上に積層された無機薄膜層と、無機薄膜層とは異なる材料で形成され、水酸基含有高分子化合物、金属アルコキシド、金属アルコキシド加水分解物、及び金属アルコキシド重合物のうち、少なくとも1以上を含み、無機薄膜層の上に積層されたガスバリア性被覆層とを含むものを用いること」は、先の出願前に周知の技術であると認められる(以下、「周知技術1」という。)。

(7)甲10
ア 取消しの理由で引用された、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲第10号証(特開2013-73192号公報。以下、「甲10」という。)には、次の事項が記載されている。

(ア)「【0004】
光学フィルムの出射面と拡散フィルムの入射面が共に平滑である場合、平滑面同士の部分的な密着により「ウェットアウト」や「ニュートンリング」と呼ばれる表示欠陥が発生しやすくなる。「ウェットアウト」とは、2枚のフィルムが部分的に面接触した場合、密着領域(空気層が無い領域)がその周囲の非密着領域(空気層が有る領域)と異なる部分として視認される表示欠陥である。これは、非密着領域では空気層の存在によりフィルム/空気界面での反射や屈折の影響を受けるのに対して、密着領域では空気層の影響が無く、光の透過特性が非密着領域と異なるためである。
【0005】
一方「ニュートンリング」とは、2枚のフィルムの隙間が数μm以下の場合に、着色および明暗の縞模様が視認される表示欠陥である。これは、2枚のフィルムの隙間(空気層の厚み)の微量な違いに伴い、光の干渉により隙間が光の1/4波長の偶数倍の所で明るく(強く)なり、奇数倍の所で暗く(弱く)なることによる。その結果、光の波長に依存した明暗差が現れるために、着色および明暗の縞模様が視認される。ニュートンリングが顕著に発生するのは、白色光の場合隙間が1.5μm以下の場合である。」

(イ)「【0006】
このような表示品質の低下の課題を解決するため、光学フィルムに用いる樹脂中にビーズを分散させ、拡散フィルムに対向する光学フィルムの表面に突起を形成する技術が提案されている(特許文献1及び2参照)。しかしながら、樹脂中にビーズを均一に分散させ、かつ突起の高さを精度よく制御することは困難である。また、光学フィルムとビーズの樹脂は異なる組成であり、光学フィルムにそりを発生させることがある。更に、樹脂中に分散したビーズは光の拡散体となるため、輝度が低下する問題もある。
・・・(中略)・・・
【0010】
【特許文献1】特開2007-249220号公報
【特許文献2】特許第3968155号公報」

(8)甲11
ア 取消しの理由で引用された、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲第11号証(特開平11-95013号公報。以下、「甲11」という。)には、次の事項が記載されている。

(ア)「【0026】本発明によれば、プリズムシートにおけるプリズム面と反対側の裏面を覆うコーティング層に透光性ビーズを分散させて、1?10μmの突出高さの多数の微小丘状突起を設ける際に、透光性ビーズを、コーティング層の表面近傍に偏在させているので、使用する透光性ビーズの割合が少なくて、無駄がなく効率的であると共に、コーティング層全体の光透過率の低下が抑制されると共に、光拡散層をプリズムシートのプリズム面と反対の裏面に形成した際に問題となる出光面の法線方向に集光して輝度を向上させるというプリズムシート本来の機能が低下してしまうという現象を抑制できる。
【0027】又、コーティング層は、透光性ビーズの比重を透光性樹脂の比重より小さくしたインキを透光性基材に塗布し、且つ、比重差により透光性ビーズを表面に浮き出した状態で固化、形成しているので、容易確実に、透光性ビーズをコーティング層の表面近傍に偏在させることができる。
【0028】プリズムシートの裏面は、微小丘状突起を有するコーティング層に覆われているので、該裏面とこれと隣接する導光板の平滑面、拡散板平滑面、他のプリズムシート等の平滑面等との間に隙間を形成し、これによって前記裏面と導光板平滑面等との距離が直進光と反射光との間で干渉を生じないようにし、干渉縞又はニュートンリングの発生を防止する。」

(イ)「【図2】



(9)甲12
ア 特許異議申立人が提出した、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲第12号証(特開2011-146658号公報。以下、「甲12」という。)には、次の事項が記載されている。

(ア)「【0003】
太陽電池モジュールは、通常、太陽光が入射する側のオモテ面ガラスと、太陽光が入射する側とは反対側(裏面側)に配置される、いわゆるバックシートとの間に、太陽電池セルが挟まれた構造を有しており、オモテ面ガラスと太陽電池セルとの間、及び太陽電池セルとバックシートとの間は、それぞれEVA(エチレン-ビニルアセテート)樹脂などで封止されている。
【0004】
バックシートは、太陽電池モジュールの裏面からの水分の浸入を防止する働きを有するもので、従来はガラスやフッ素樹脂等が用いられていたが、近年では、コストの観点からポリエステルが用いられるようになってきている。そして、バックシートは、単なるポリマーシートではなく、以下に示すような種々の機能が付与される場合がある。」

(イ)「【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の太陽電池用バックシート及びその製造方法、並びに太陽電池モジュールについて詳細に説明する。
【0016】
<太陽電池用バックシート及びその製造方法>
本発明の太陽電池用バックシートは、ポリマー基材上に該ポリマー基材側から順次、2.5?8.5g/m^(2)の顔料とバインダーとを含有する着色層と、0.05?5g/m^(2)のバインダーと該バインダーに対して5?400質量%の無機微粒子とを含有し、エチレン-ビニルアセテート系封止材に対して10N/cm以上の接着力を有する易接着性層と、を設けて構成されたものである。
・・・(中略)・・・
【0018】
-ポリマー基材-
ポリマー基材としては、ポリエステル、ポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィン、又はポリフッ化ビニルなどのフッ素系ポリマー等が挙げられる。これらの中では、コストや機械強度などの点から、ポリエステルが好ましい。
【0019】
本発明における基材(支持体)として用いられるポリエステルとしては、芳香族二塩基酸又はそのエステル形成性誘導体とジオール又はそのエステル形成性誘導体とから合成される線状飽和ポリエステルである。かかるポリエステルの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、
・・・(中略)・・・
を挙げることができる。
・・・(中略)・・・
【0023】
ポリエステル中のカルボキシル基含量は50当量/t以下が好ましく、より好ましくは35当量/t以下である。カルボキシル基含量が50当量/t以下であると、耐加水分解性を保持し、湿熱経時したときの強度低下を小さく抑制することができる。カルボキシル基含量の下限は、ポリエステルに形成される層(例えば着色層)との間の接着性を保持する点で、2当量/tが望ましい。
ポリエステル中のカルボキシル基含量は、重合触媒種、製膜条件(製膜温度や時間)により調整することが可能である。」

(10)甲13
ア 特許異議申立人が提出した、先の出願前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されている甲第13号証(国際公開第2013/024892号。以下、「甲13」という。)には、次の事項が記載されている。

(ア)「[0003] 太陽電池モジュールは、通常、太陽光が入射する側のオモテ面ガラスと、太陽光が入射する側とは反対側(裏面側)に裏面保護用シートとして配置される、いわゆるバックシートとの間に、太陽電池セル(太陽電池素子)が挟まれた構造を有している。オモテ面ガラスと太陽電池セルとの間、及び太陽電池セルとバックシートとの間には、それぞれEVA(エチレン-ビニルアセテート)樹脂などの封止材を配して封止されている。
[0004] バックシートは、太陽電池モジュールの裏面からの水分の浸入を防止する働きを有するもので、従来はガラスやフッ素樹脂等が用いられていたが、近年では、コスト等の観点からポリエステルなどをはじめ種々の樹脂材料が検討されている。」

(イ)「発明を実施するための形態
[0021] 以下、本発明の太陽電池用バックシート及びその製造方法、並びにこれを用いた太陽電池モジュールについて詳細に説明する。
・・・(中略)・・・
[0024] 本発明の太陽電池用バックシート(以下、単に「バックシート」ともいう。)は、図1に示すように、ポリマー基材11の一方面に、第1の機能性層(1)(例えば金属含有層)13と、第2の機能性層(例えば着色層)15とを有し、他方面に複合ポリマー層17を有する態様(第1の態様)、又は図2に示すように、着色剤を含めて機能性が付与されたポリマー基材21の一方面に、機能性層(1)として金属含有層13を有し、他方面に複合ポリマー層27を有する態様(第2の態様)に構成することができる。
・・・(中略)・・・
[0047] -ポリマー基材-
本発明のバックシートは、ポリマー基材を設けて構成されている。
ポリマー基材を形成するポリマー成分としては、ポリエステル、ポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィン、ポリフェニレンエーテル、ポリスチレン、又はポリフッ化ビニルなどのフッ素系ポリマー等が挙げられる。これらの中では、ポリエステル、ポリフェニレンエーテル、シンジオタクチックポリスチレンが好ましく、コストや機械強度などの点から、ポリエステルが好ましい。
[0048] ポリマー基材( 支持基材) に用いられるポリエステルとしては、芳香族二塩基酸又はそのエステル形成性誘導体とジオール又はそのエステル形成性誘導体とから合成される線状飽和ポリエステルである。かかるポリエステルの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、
・・・(中略)・・・
を挙げることができる。
・・・(中略)・・・
[0052] ポリエステル中のカルボキシル基含量は、55当量/t(トン;以下同様)以下が好ましく、より好ましくは35当量/t以下である。カルボキシル基含量の下限は、ポリエステルに形成される層(例えば着色層)との間の接着性を保持する点で、2当量/tが望ましい。カルボキシル基含量が55当量/t以下であると、耐加水分解性を保持し、湿熱経時したときの強度低下を小さく抑制することができる。
ここで、「カルボキシル基含量」は、ポリエステルがその分子構造の末端に有するカルボンキシ基(-COOH)の量を意味する。なお、「当量/t」は、1トンあたりのモル当量を表す。
ポリエステル中のカルボキシル基含量は、重合触媒種、製膜条件(製膜温度や時間)により調整することが可能である。
本明細書におけるカルボキシル基含量は、H. A. Pohl, Anal. Chem. 26 (1954) p.2145に記載の方法にしたがって、滴定法にて測定される値である。」

(11)甲14
ア 特許異議申立人が提出した、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲第14号証(特開2010-278375号公報。以下、「甲14」という。)には、次の事項が記載されている。

(ア)「【0004】
このような構成の太陽電池モジュールは、屋外で使用されるため、その構成、材質構造などにおいては、長期間にわたる過酷な自然環境に耐え得る、耐熱性、耐候性、耐加水分解性、防湿性などの耐久性が要求されると共に、裏面保護シートには外部からの水蒸気(水分)や酸素の進入を遮断するためのガスバリア性が要求される。これらの要求が満たされていないと、例えば水蒸気(水分)が透過して充填材を剥離させたり変色させ、さらには配線の腐蝕を引き起こし、モジュールの出力に影響を与えるようなことがある。
・・・(中略)・・・
【0007】
そこで、上記の問題点を解消するために、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)基材フィルムの片面に、無機酸化物の蒸着膜を設け、さらに、この無機酸化物の蒸着膜を設けた蒸着フィルムの両面に、白色化剤と紫外線吸収剤とを含む耐熱性のポリプロピレン系樹脂フィルムを積層することを特徴とする太陽電池モジュール用裏面保護シートおよびそれを使用した太陽電池モジュールが提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表平8-500214号公報
【特許文献2】特表2002-520820号公報
【特許文献3】特開2001-111077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献3で提案されている太陽電池モジュール用裏面保護シートおよびそれを使用した太陽電池モジュールは、それらに必要とされる諸特性がそれなりに充足してはいるものの、未だ十分に満足し得る状態ではなく、特に、ポリエチレンテレフタレート(PET)基材フィルムの片面に、無機酸化物の蒸着膜を設けてなるバリアフィルムのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムが高温・高湿下で加水分解劣化などを生じ、水蒸気(水分)バリア性が低下して、太陽電池の長期耐久性維持が困難であるという問題点を有している。」

(イ)「【0061】
実験結果より、実施例1?3に係る太陽電池モジュールは出力保持率も80%以上だったが、比較例に係る太陽電池モジュールは基材のPETフィルムの加水分解が進みガスバリア性が劣化したため、外観は問題ないが出力保持率は80%以下となった。」

(12)甲15
ア 特許異議申立人が提出した、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲第15号証(特開2011-171417号公報。以下、「甲15」という。)には、次の事項が記載されている。

(ア)「【0001】
本発明は、水蒸気バリア性に優れた太陽電池用バックシートおよび太陽電池に関する。
・・・(中略)・・・
【0010】
本発明の太陽電池用バックシートの詳細について、図1を例にして説明する。本発明の太陽電池用シートは、白色乳化剤を含有するポリエチレンテレフタレートフィルム11と、第一の水性ラテックス層12と、第一の無機蒸着層13とを該順に連続して有する第一の積層ユニット1と、末端カルボキシル基量が5当量/ton?40当量/tonの耐加水分解性ポリエチレンテレフタレートフィルム21と、第二の水性ラテックス層22と、第二の無機蒸着層23とを該順に連続して有する、第二の積層ユニット2とを、接着層3を介して、第一の無機蒸着層側と第二の無機蒸着層側が対向するように配置されたものである。このような構成とすることにより、ポリエチレンテレフタレートフィルムの耐加水分解性が向上し、高温多湿下に長時間おいた場合でも、水蒸気バリア性を維持することが可能になる。」

(13)甲16
ア 特許異議申立人が提出した、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲第16号証(特開2014-58154号公報。以下、「甲16」という。)には、次の事項が記載されている。

(ア)「【0001】
本発明は、ガスバリアフィルムと、ガスバリアフィルムを用いた太陽電池モジュール用裏面保護シート及び太陽電池モジュール用前面保護シートに関するものである。
・・・(中略)・・・
【0011】
そこで、上記の問題点を解消するために、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのフィルム基材の片面に、無機酸化物の蒸着膜を設けたガスバリアプラスチック基材を用いた裏面保護シートや前面保護シートが提案されている。(特許文献3、特許文献4)。
【0012】
しかしながら上記で提案されている裏面保護シート及び前面保護シートでは、太陽電池素子の耐湿性が低いアモルファスシリコンやカルコパイライト系薄膜多結晶太陽電池では、バリア性能が足りず太陽電池素子が劣化して太陽電池の長期の耐久性維持が困難である。
【0013】
また太陽電池以外のエレクトロニクス分野や、高品質なバリアフィルム性能が求められる包装材分野でも、水蒸気(水分)や酸素等の侵入を防止するガスバリア性を向上させたバリアフィルムが求められている。」

(イ)「【発明を実施するための形態】
【0026】
以下本発明を実施するための形態を、図面を用いて詳細に説明する。図1は、本発明のガスバリアフィルムの一例を示しており、ガスバリアフィルム100は、ポリエステル基材フィルム1の片面に易接着層2、アンカーコート層3、無機化合物からなる蒸着層4、複合被膜層5が順次積層されている。
【0027】
ポリエステル基材1は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステルフィルムが用いられ、易接着層2は、ポリエステル基材の延伸工程中の、縦延伸後に塗布され、その後横延伸が施されている。
【0028】
そして、長期間にわたる過酷な自然環境に耐え得るために、ポリエステル基材フィルムは、例えば、耐加水分解性を向上させるために末端カルボキシルキの濃度が減少しているポリエステル樹脂組成物からなるものが用いられる。
【0029】
ポリエステル中の末端カルボキシル基の濃度は、ANALYTICL CHEMISTRY第26巻、1614ページに記載された方法にて測定されるが、この方法によって測定された末端カルボキシ基濃度が25当量/10^(6)gを超えると加水分解が起こりやすく、太陽電池モジュール用保護シートに用いた場合、高温・高湿環境下でバリア性の低下が起こり易くなるため好ましくない。したがって、ポリエステル基材1に用いるポリエステル中の末端カルボキシル基の濃度は、25当量/10^(6)g以下、より好ましくは20当量/10^(6)g以下が好ましい。」

3 本件特許発明1について
(1)対比
本件特許発明1と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の「量子ドット蛍光体材料層」は、その文言を技術的に理解すると、量子ドットを用いた蛍光体を含む層であるといえる。
そうすると、引用発明1の「量子ドット蛍光体材料層」は、本件特許発明1の「量子ドットを用いた蛍光体を含む蛍光体層」に相当する。

イ 引用発明1の「上部バリア」及び「底部バリア」は、「量子ドット蛍光体を保護するものであ」る。
また、「量子ドット蛍光体材料層に隣接する酸化ケイ素の薄層及び前記酸化ケイ素の薄層でコーティングされたPETフィルムの層を含」む、引用発明1の「上部バリア」及び「底部バリア」は、フィルム状であるといえる(甲1の【図14B】からも確認できることである。)。
さらに、「量子ドット蛍光体材料層に隣接する酸化ケイ素の薄層」を含む、引用発明1の「上部バリア」及び「底部バリア」は、「量子ドット蛍光体材料層」の面上に積層されているといえる。
そうすると、引用発明1の「上部バリア」及び「底部バリア」は、本件特許発明1の「蛍光体用保護フィルム」に相当する。また、引用発明1の「上部バリア」及び「底部バリア」は、本件特許発明1の「前記蛍光体層の少なくとも一方の面上に積層される1以上の蛍光体用保護フィルム」という要件を満たしている。

ウ 引用発明1の「上部バリアおよび底部バリアのそれぞれは、量子ドット蛍光体材料層に隣接する酸化ケイ素の薄層及び前記酸化ケイ素の薄層でコーティングされたPETフィルムの層を含」む。そうすると、引用発明1において、「酸化ケイ素の薄層」は、「PETフィルムの層」上に設けられているともいえる。
したがって、引用発明1の「PETフィルムの層」及び「酸化ケイ素の薄層」は、それぞれ、本件特許発明1の「基材」及び「バリア層」に相当する。また、引用発明1の「上部バリア」及び「底部バリア」は、本件特許発明1の「バリアフィルム」にも相当する。そして、引用発明1の「上部バリア」及び「底部バリア」は、本件特許発明1の「基材と、前記基材の少なくとも一方の面上に設けられたバリア層と、を有するバリアフィルムと」「を有し」という要件を満たしている。

エ 「PETフィルムの層」に「コーティングされた」、引用発明1の「酸化ケイ素の薄層」は、PETフィルムの層の一方の面上に積層されたものといえる。
そうすると、引用発明1の「酸化ケイ素の薄層」は、本件特許発明1の「バリア層」における、「前記基材の一方の面上に積層された無機薄膜層」「を含み」という要件を満たしている。

オ 引用発明1の「上部バリア」及び「底部バリア」の「酸化ケイ素の薄膜」は、「量子ドット蛍光体材料層に隣接する」。
そうすると、引用発明1の「上部バリア」及び「底部バリア」は、本件特許発明1の「前記蛍光体用保護フィルムは、前記バリア層と前記蛍光体層とが対向するように積層されている」という要件を満たしている。

カ 引用発明1の「量子ドットフィルム」は、「波長変換をする」フィルムである。また、フィルムはシート状であるといえる。
そうすると、引用発明1の「量子ドットフィルム」は、本件特許発明1の「波長変換シート」に相当する。また、引用発明1の「量子ドットフィルム」は、本件特許発明1の「波長変換シート」における、「蛍光体層と」、「蛍光体用保護フィルムと」、「を備える」という要件を満たしている。

(2)一致点
上記(1)によると、本件特許発明1と引用発明1は次の点で一致する。
「量子ドットを用いた蛍光体を含む蛍光体層と、前記蛍光体層の少なくとも一方の面上に積層される1以上の蛍光体用保護フィルムと、を備える波長変換シートであって、
前記蛍光体用保護フィルムは、
基材と、前記基材の少なくとも一方の面上に設けられたバリア層と、を有するバリアフィルムを有し、
前記バリア層は、前記基材の一方の面上に積層された無機薄膜層を含み、
前記蛍光体用保護フィルムは、前記バリア層と前記蛍光体層とが対向するように積層されている、
波長変換シート。」

(3)相違点
他方、本件特許発明1と引用発明1は次の点で相違する。
(相違点1)
「蛍光体用保護フィルム」が、本件特許発明1は、「前記基材の前記バリア層と反対の面上に設けられた、光学的機能を有するコーティング層と、を有し」ているのに対し、引用発明1は、そのような層を有していない点。

(相違点2)
「バリア層」が、本件特許発明1は、「前記無機薄膜層とは異なる材料で形成され、水酸基含有高分子化合物、金属アルコキシド、金属アルコキシド加水分解物、及び金属アルコキシド重合物のうち、少なくとも1以上を含み、前記無機薄膜層の上に積層されたガスバリア性被覆層」を含むのに対し、引用発明1は、そのようなガスバリア性被覆層を含まない点。

(相違点3)
「基材」が、本件特許発明1は、「酸価が25以下のポリエチレンテレフタレート系フィルムであ」るのに対し、引用発明1は、酸価が明らかでないでない点。

(4)判断
ア 相違点1について
引用発明1の「量子ドットフィルム」は「導光パネルと輝度強化フィルムとの間に配置される」ものであり、その「上部バリア」の「PETフィルムの層」の「酸化ケイ素の薄層」と反対側の面は、「輝度強化フィルム」と密着しうるものである(甲1の【図14A】を参照のこと。甲1の【図6A】、【図6B】も参照のこと。)。
ここで、2つのフィルム等の部材が密着すると干渉縞であるニュートンリングが発生しうることは、先の出願前に周知である(本件特許明細書の【0010】において言及された特許文献1(特開平11-77946号公報)の【0002】、甲10の【0005】等参照のこと。)。また、「干渉縞であるニュートンリングの発生を防止するため、フィルムに干渉縞であるニュートンリング防止機能を有するコーティング層を設けること」は、先の出願前に周知の技術である(甲10の【0006】、甲11の【0028】、【図2】等を参照のこと。以下、「周知技術2」という。)。なお、ニュートンリング防止機能を有するコーティング層は、光学的機能を有するコーティング層であるといえる。
そうすると、引用発明1の(干渉縞であるニュートンリングが発生しうる)「上部バリア」の「PETフィルムの層」の「酸化ケイ素の薄層」と反対側の面に対して、干渉縞であるニュートンリングが発生することを防止するために周知技術2を適用し、前記相違点1に係る本件特許発明1の構成を得ることは、当業者が容易になし得ることである。

イ 相違点2について
前記2(6)で述べたとおり、「バリア層として、基材の一方の面上に積層された無機薄膜層と、無機薄膜層とは異なる材料で形成され、水酸基含有高分子化合物、金属アルコキシド、金属アルコキシド加水分解物、及び金属アルコキシド重合物のうち、少なくとも1以上を含み、無機薄膜層の上に積層されたガスバリア性被覆層とを含むものを用いること」は、先の出願前に周知の技術である(周知技術1)。
そして、甲1には、「好ましくは、QDフィルムの各バリア層は、異なる材料または組成物を含む少なくとも2つの層を含み、その結果、多層状のバリアが、バリア層内のピンホール欠陥配列を排除または減少させ、QD蛍光体材料内への酸素および湿気の侵入に対する効果的なバリアを提供するようになる」(【0111】)、「好ましい実施形態において、副層の材料および数は、隣接する副層間のピンホール配列を最小化するように選択される」(【0113】)と記載されており、より効果的なバリアとするためにバリアの副層の材料や数を選択できることが示唆されている。バリアをより効果的なものとするという課題は周知であるし、また、バリアに含まれる層の数を増やせばより効果的なバリアを得ることができることは、当業者にとって明らかである。なお、周知技術1を示す各例の技術分野は蛍光体を含むシートではないが、甲2に「蛍光体シートのハイバリアフィルムとして、PET等の樹脂フィルムの上に無機膜と有機膜が積層されたものを用いる」という事項が示されていることを勘案すると、引用発明1において周知技術1を採用することに格段の支障はないと認められる。
そうすると、引用発明1において、より効果的なバリアとするために周知技術1を採用し、前記相違点2に係る本件特許発明1の構成を得ることは、当業者が容易になし得ることである。
(当合議体注:引用発明1に周知技術1を採用すると、酸化ケイ素の薄層の上に積層されたガスバリア性被覆層(本件特許発明1でいう「バリア層」)の構成が得られる。)

ウ 相違点3について
まず、本件特許明細書の【0027】の「酸価(油脂または蝋等の油脂類1g中に含まれる遊離脂肪酸及びその他の酸性物質を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数)」という記載からすると、請求項1の「酸価」の単位は「mgKOH/g」であると解される。
そして、「耐加水分解性を保持し、湿熱経時したときの強度低下を小さく抑制するために、ポリエチレンテレフタレート(ポリエステル)中のカルボキシル基含量を所定値(例:25、50、55当量/t:酸価に換算すると、それぞれ1.4、2.8、3.08mgKOH/g)以下とすること」は、先の出願前に周知の技術である(以下、「周知技術3」という。甲12の【0023】、甲13の[0052]、甲16の【0027】?【0029】等を参照のこと。)。また、フィルムの耐加水分解性とバリア性が関連することも、先の出願前に周知の技術事項である(甲14の【0009】、甲15の【0010】、甲16の【0027】?【0029】等を参照のこと。)。さらに、湿熱経時したときでもバリア性が低下せず安定しているのが好ましいということは、当業者にとって明らかである(引用発明1は、「量子ドット蛍光体材料層」を「高温、酸素、および湿気等の環境条件から保護する」(甲1の【0110】)ために「上部バリア」及び「底部バリア」を設けるものであるから、それらを構成する「PETフィルムの層」に、バリア性が低下するようなものを用いるべきでないことは、明らかである。)。なお、周知技術3を示す各例の技術分野は蛍光体を含むシートではないが、甲16に「また太陽電池以外のエレクトロニクス分野や、高品質なバリアフィルム性能が求められる包装材分野でも、水蒸気(水分)や酸素等の侵入を防止するガスバリア性を向上させたバリアフィルムが求められている」(【0013】)という事項が示されていることを勘案すると、引用発明1において周知技術3を採用することに格段の支障はないと認められる。
そうすると、引用発明1において、湿熱経時したときでもバリア性を低下させないために周知技術3を採用し、前記相違点3に係る本件特許発明1の構成を得ることは、当業者が容易になし得ることである。

(5)小括
以上のとおり、本件特許発明1は、当業者が甲1に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

4 本件特許発明2について
(1)対比・ 一致点及び相違点
本件特許発明2と引用発明1を対比すると、両者は、前記3(2)の点で一致し、前記3(3)の相違点1?3に加え、次の相違点4で相違する。

(相違点4)
本件特許発明2は、「前記バリア層が、前記ガスバリア性被覆層上に積層された第2の無機薄膜層と、前記第2の無機薄膜層とは異なる材料で形成され、水酸基含有高分子化合物、金属アルコキシド、金属アルコキシド加水分解物、及び金属アルコキシド重合物のうち、少なくとも1以上を含み、前記第2の無機薄膜層上に積層された第2のガスバリア性被覆層と、をさらに有する」のに対し、引用発明1の「酸化ケイ素の薄層」は、そのような「第2の無機薄膜層」、「第2のガスバリア性被覆層」を有しない点。

(2)判断
事案に鑑み、相違点4について検討する。
甲6には、「バリアフィルムとして、基材上に形成された第1の無機酸化物蒸着層、第1の無機酸化物蒸着層上に形成された第1のガスバリア性被膜層、第1のガスバリア性被膜層上に形成された第2の無機酸化物蒸着層、及び第2の無機酸化物蒸着層上に形成された第2のガスバリア性被膜層を含む複合フィルムを用いる」という技術事項が記載されている(前記2(5)イを参照のこと。)。
しかしながら、甲1に接した当業者が、甲1に記載された引用発明1の「上部バリア」又は「底部バリア」をより効果的なものするために層数を増やそうとする場合、同じ甲1の【0114】及び【図14C】に記載された構成を採用しようと考えるのが自然であり、(甲1ではない)甲6に記載された技術事項を採用しようとする動機付けを見いだすことはできない。
また、甲1の【0114】及び【図14C】に記載された構成は、酸化ケイ素を含む副層とPETを含む副層を交互に重ねるものであり、これは、相違点4に係る本件特許発明2の構成とは異なっている。そうすると、当業者が、引用発明1において、甲1の【0114】及び【図14C】に記載された構成を採用したとしても、相違点4に係る本件特許発明2の構成を得ることはできない。

(3)小括
以上のとおり、本件特許発明2は、当業者が甲1に記載された発明、甲6に記載された技術事項及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。

5 本件特許発明3について
(1)対比・ 一致点及び相違点
請求項1を引用した場合の本件特許発明3と引用発明2を対比すると、前記3(3)の相違点1?3で相違し、その余の構成においては一致する。

(2)判断
相違点1?3については、上述したとおりである。

(3)小括
したがって、請求項1を引用した場合の本件特許発明3は、当業者が甲1に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

第6 通知していない取消しの理由について
1 特許異議申立人は、令和2年9月3日付け意見書において、本件の請求項1?3に係る特許は、いずれも、特許法36条6項1号及び2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法113条4号に該当し、取り消されるべきものである旨主張するので、以下、検討する

2 特許法36条6項1号(サポート要件)について
本件特許発明2は、発明の詳細な説明において、本件特許明細書の【0015】に記載された発明の課題を解決することができることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えないものである。
したがって、本件特許発明2は、発明の詳細な説明に記載したものである。

3 特許法36条6項2号(明確性要件)について
酸価の下限は0である。
したがって、請求項2において、酸価の上限だけを示すような数値範囲限定があるとしても、本件特許発明2は明確である。

第7 むすび
1 以上のとおり、本件特許発明1及び3は、当業者が甲1に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1及び3についての特許は、特許法29条の規定に違反してされたものである。
したがって、本件請求項1及び3についての特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 以上のとおり、決定の予告で通知した取消しの理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項2に係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件請求項2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件請求項2に係る特許は、維持されるべきものである。

3 よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
波長変換シート及びバックライトユニット
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長変換シート及びバックライトユニットに関する。
本願は、2014年4月4日に日本に出願された特願2014-077989号、及び2014年4月4日に日本に出願された特願2014-077990号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイは、表示のために液晶組成物が使用された表示装置である。液晶ディスプレイは、多様な機器における表示装置、特に、情報表示装置、及び画像表示装置として利用されている。
【0003】
液晶ディスプレイは、電圧の印加に基づき、領域ごとに光を透過・遮断することで映像を表示する。したがって、液晶ディスプレイに映像を表示するためには、外部の光が必要となる。そのための光源として、液晶ディスプレイの背面に設けられたバックライトが利用される。バックライトには従来冷陰極管が使用されている。最近では長寿命、発色の良さ等の理由から、冷陰極管に代わって、LED(発光ダイオード)が使用されることもある。
【0004】
ところで、近年国外のベンチャー企業を中心として、量子ドットを用いたナノサイズの蛍光体が製品化されている。量子ドットとは、発光性の半導体ナノ粒子で、直径の範囲は1?20nmである。量子ドットのユニークな光学特性及び電子特性は、生物学および医学診断の分野における蛍光イメージングに加え、フラットパネルディスプレイや多彩な色の照明(電飾)など、数多くの用途に活用されつつある。
【0005】
ディプレイにおいて非常に大きな重要度を占める白色LED技術では、セリウムをドープしたYAG・Ce(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)下方変換用蛍光体を青色(450nm)LEDチップで励起する方法が一般的に用いられている。LEDの青色光と、YAG蛍光体から発生した波長範囲の広い黄色光とが混ざることで白色光となる。
しかしこの白色光は幾分青味がかっていることが多く、しばしば〔冷たい〕とか〔涼しげな〕白色とみなされてしまう。
【0006】
量子ドットは幅広い励起スペクトルを示し量子効率が高いため、LED下方変換用蛍光体(LED波長変換用蛍光体)として使用することができる。さらに、ドットサイズや半導体材料の種類を変更するだけで、発光の波長を可視域全体にわたって完全に調整することができる。そのため、量子ドットは事実上あらゆる色、特に照明業界で強く望まれている暖かい白色を作り出せる可能性を秘めている。加えて、発光波長が、赤、緑、青に対応する3種類のドットを組み合わせて、演色評価数の異なる白色光を得ることが可能となる。このように、量子ドットによるバックライトを用いたディスプレイでは、従来の液晶TVより厚みや消費電力、コスト、製造プロセスなどを増やすことなく、色調が向上し、人が識別できる色の65%まで表現可能になる。
【0007】
このバックライトは、赤や緑の発光スペクトルを持つ量子ドットがその内部に拡散されたフィルムの両面を、バリアフィルムもしくはその積層体にて封止して形成される。また、場合によってはフィルムのエッジ部も封止される。従来から光学機器分野などでは、プラスチックフィルムやガラス板等の部材同士の密着によって発生するニュートンリングによる問題が生じていた。
【0008】
また、一方で、封止に用いるバリアフィルムには、バリア性の他に、キズやシワといった外観や透明性などが要求される。ここで、バリアフィルムとは、プラスチックフィルム等の基材の表面に蒸着等によって形成される薄膜であり、水分や気体の透過を防ぐ。しかしながら、従来のバリアフィルムは、食品や医療品等の包装材料や電子デバイス等のパッケージ材料として用いられてきたフィルムであるため、満足できる性能を得ることができなかった。
【0009】
このように、バリアフィルムでは、スプラッシュや異物などが課題となっている。ここで、スプラッシュとは、蒸着用の材料が高温の微細な粒のまま飛散する現象であり、蒸着用の材料がそのまま基材に付着して異物になったり、基材に穴を開けたりしてしまう現象をいう。すなわち、バックライトに用いるバリアフィルムでは、スプラッシュによる影響を抑え、なおかつ、バリア性を向上させることが課題であった。
【0010】
上述の課題を解決するために、いくつかの方法が考えられる。
例えば、特許文献1には、ニュートンリングの発生を防止するため、部材の片面あるいは両面に凹凸処理を施したニュートンリング防止シートが提案されている。また、凹凸処理としては、部材の表面にサンドブラスト処理を施すこと、及び部材上にバインダー成分及び微粒子からなるニュートンリング防止層を形成すること等が提案されている。
【0011】
また、特許文献2には、蛍光体の劣化を抑制するため、バリアフィルムで挟まれたバックライトが提案されている。
さらに、特許文献3には、有機EL素子の信頼性を確保するため、バリアフィルムで被覆することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平11-077946号公報
【特許文献2】特開2011-013567号公報
【特許文献3】特開2009-018568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1を参考に既存のバリアフィルムで、量子ドットを封止したディスプレイを作製したところ、白色LEDの輝度が直ぐに低下してしまうという問題があった。
【0014】
また、特許文献2、3を参考に既存のバリアフィルムで、量子ドットを封止したディスプレイを作製したところ、バリア性が不足するために得られた白色光の寿命が短くなるという問題や、フィルムのキズ、シワ、量子ドットの模様等で白色LEDにムラが生じてしまうという問題があった。また、バリアフィルムにスプラッシュがあった場合には、それを起点としてバリア不良がおこり、部分的に輝度が低下してしまうという問題があった。
【0015】
本発明はかかる事情を鑑みてなされたものであり、干渉縞の発生および光源からの光のばらつきの抑制が可能な波長変換シートおよびバックライトユニット、及び量子ドットの性能を最大限に発揮することが可能な波長変換シートおよびバックライトユニットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第一の態様は、量子ドットを用いた蛍光体を含む蛍光体層と、前記蛍光体層の少なくとも一方の面上に積層される1以上の蛍光体用保護フィルムと、を備える波長変換シートであって、前記蛍光体用保護フィルムは、基材と、前記基材の少なくとも一方の面上に設けられたバリア層と、を有するバリアフィルムと、前記基材の前記バリア層と反対の面上に設けられた、光学的機能を有するコーティング層と、を有し、前記基材は、酸価が25以下のポリエチレンテレフタレート系フィルムであり、前記バリア層は、前記基材の一方の面上に積層された無機薄膜層と、前記無機薄膜層とは異なる材料で形成され、水酸基含有高分子化合物、金属アルコキシド、金属アルコキシド加水分解物、及び金属アルコキシド重合物のうち、少なくとも1以上を含み、前記無機薄膜層の上に積層されたガスバリア性被覆層と、を含み、前記蛍光体用保護フィルムは、前記バリア層と前記蛍光体層とが対向するように積層されている。
【0017】
本発明の第二の態様は、光源と、導光板と、本発明の波長変換シートとを備えるバックライトユニットである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の波長変換シートおよびバックライトユニットによれば、干渉縞の発生および光源からの光のばらつきを抑制でき、量子ドットの性能を最大限に発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る波長変換シートの構成を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る波長変換シートの構成を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の第3の実施形態に係る波長変換シートの構成を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明の第4の実施形態に係る波長変換シートの構成を模式的に示す断面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る波長変換シートの他の構成例を模式的に示す断面図である。
【図6】本発明を適用した第1の実施形態である波長変換シートの構成を模式的に示す断面図である。
【図7】本発明を適用した第2の実施形態である波長変換シートの構成を模式的に示す断面図である。
【図8】本発明の蛍光体用保護フィルムの他の構成例を模式的に示す断面図である。
【図9】本発明の波長変換シートの他の構成例を模式的に示す断面図である。
【図10】実施形態に係る波長変換シートを搭載したバックライトユニットの一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係る波長変換シート、波長変換シートを構成する蛍光体用保護フィルム、及び波長変換シートを含むバックライトユニットについて、図面を用いて詳細に説明する。ここで、以下の実施形態の波長変換シートは、量子ドットを用いた蛍光体を含んでおり、LED波長変換用蛍光体として、バックライトユニットに用いることができるものである。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0021】
<第1の実施形態>
先ず、本発明の第1の実施形態に係る波長変換シート1について説明する。図1は、波長変換シート1の構成を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、波長変換シート1は、量子ドットを用いた蛍光体層(蛍光体)2と、蛍光体層2の一方の面2a側に設けられた第1のバリアフィルム(バリアフィルム)3と、蛍光体層2の他方の面2b側に設けられた第2のバリアフィルム4と、を備えている。より具体的には、蛍光体層2の両方の面2a,2b上が直接または封止樹脂層5(図1では不図示。図5参照)を介して第1及び第2のバリアフィルム3,4によって覆われている。これによって、第1及び第2のバリアフィルム3,4の間に蛍光体層2が包み込まれた(すなわち、封止された)構造となっている。
【0022】
(蛍光体層)
一般にバックライトユニットは、導光板とLED光源とにより構成される。LED光源は、導光板の側面に設置されている。LED光源の内部には、発光色が青色のLED素子が複数個設けられている。このLED素子は、紫LED、又はさらに低波長のLEDであってもよい。LED光源は、導光板側面に向かって光を照射する。量子ドットを用いたバックライトユニットの場合、この照射された光は、例えば、導光板を経てアクリルやエポキシ等の樹脂と蛍光体とを混合した層(蛍光体層)2に入射する。従って、蛍光体層2には、バリア性を付与する必要があることから、第1のバリアフィルムや第2のバリアフィルム4、後述の蛍光体用保護フィルムによって蛍光体層2を挟んだ構成にすることが望ましい。
【0023】
蛍光体層2は、樹脂等からなる数十?数百μmの薄膜である。樹脂としては、例えば、感光性樹脂もしくは熱硬化性樹脂を使用することができる。そして樹脂の内部には、量子ドットからなる蛍光体が2種混合された状態で封止されている。また、蛍光体層2は、1種類の蛍光体のみが封止された蛍光体層が2層以上積層されて形成されてもよい。それらの蛍光体としては、励起波長が同一の蛍光体が選択される。蛍光体の励起波長は、LED光源が照射する光の波長に基づいて選択される。2種類の蛍光体の蛍光色は相互に異なる。各蛍光色は、赤色、緑色である。各蛍光の波長、及びLED光源が照射する光の波長は、カラーフィルタの分光特性に基づき選択される。蛍光のピーク波長は、例えば赤色が610nm、緑色が550nmである。
【0024】
次に、蛍光体層2に含まれる蛍光体の粒子構造を説明する。蛍光体としては、特に発光効率の良いコア・シェル型量子ドットが好適に用いられる。コア・シェル型量子ドットは、発光部としての半導体結晶コアが保護膜としてのシェルにより被膜されている。例えば、コアにはセレン化カドミウム(CdSe)、シェルには硫化亜鉛(ZnS)が使用可能である。CdSeの粒子の表面欠陥がバンドギャップの大きいZnSにより被膜されることで量子収率が向上する。また、蛍光体は、コアが第1シェル及び第2シェルにより二重に被膜されて形成されてもよい。コアにはCdSe、第1シェルにはセレン化亜鉛(ZnSe)、第2シェルにはZnSが使用可能である。
【0025】
蛍光体層2は、光源からの光を赤色、緑色などに変換する各蛍光体を単一の層に分散させても良いし、別の層として積層し、他層構成の蛍光体層としても良い。
【0026】
(第1のバリアフィルム)
第1のバリアフィルム3は、基材6と、バリア層7と、コーティング層8と、を有している。そして、波長変換シート1では、図1に示すように、第1のバリアフィルム3は、基材6の一方の面6aが蛍光体層2の一方の面2aと対向して(接着して)配置されておいる。また、基材6の他方の面6b上に、バリア層7とコーティング層8とがこの順に積層されている。
【0027】
基材6の材料としては、特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレート系フィルム又はポリエチレンナフタレート系フィルムを用いることが好ましい。また、基材6として、酸価(油脂または蝋等の油脂類1g中に含まれる遊離脂肪酸及びその他の酸性物質を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数)が25以下のポリエチレンテレフタレート系フィルムを用いることが特に好ましい。ここで、基材6の酸価が25を超えると、特に高温高湿環境下での基材安定性が損なわれるために、バリア性の低下がおこるために好ましくない。一方、酸価が25以下であると、基材安定性が増し、高温高湿環境下でもバリア性が低下せず安定しているために好ましい。
【0028】
バリア層7は、無機薄膜層9とガスバリア性被覆層10とを含んでいる。そして、図1に示すように、バリア層7は、基材6の一方の面(片面)6b上に無機薄膜層9が積層されるとともに、無機薄膜層9の上にガスバリア性被覆層10が積層されて構成されている。
【0029】
無機薄膜層(無機酸化物薄膜層)9の材料としては、特に限定されないが、例えば、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化マグネシウムあるいはそれらの混合物を用いることができる。これらの中でも、バリア性、生産性の観点から、酸化アルミニウム又は酸化珪素を用いることが望ましい。さらに、水蒸気バリア性の面から、酸化珪素を用いることが特に望ましい。
【0030】
無機薄膜層9の厚さ(膜厚)は、10?500nmの範囲内とすることが好ましく、50?300nmの範囲内にすることが特に好ましい。ここで、膜厚が10nm未満であると、膜厚が薄すぎるために均一な膜が得られない場合や、ガスバリア材としての機能を十分に果たすことができない場合が生じるために好ましくない。一方、膜厚が500nmを越える場合は、薄膜にフレキシビリティを保持させることができず、成膜後に折り曲げ、引っ張りなどの外的要因により、薄膜に亀裂を生じるおそれがあるので好ましくない。
【0031】
ガスバリア性被覆層10は、後工程での二次的な各種損傷を防止すると共に、高いバリア性を付与するために設けられる。ガスバリア性被覆層10の材料は、水酸基含有高分子化合物、金属アルコキシド、金属アルコキシド加水分解物及び金属アルコキシド重合物のうち、少なくとも1種類以上を成分として有している。
【0032】
水酸基含有高分子化合物としては、具体的には、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプン等の水溶性高分子が挙げられるが、特にポリビニルアルコールを用いた場合にバリア性が最も優れる。
【0033】
金属アルコキシドは、一般式、M(OR)n(M:Si,Ti,Al,Zr等の金属、R:CH_(3),C_(2)H_(5)等のアルキル基)で表せる化合物である。金属アルコキシドとして、具体的にはテトラエトキシシラン[Si(OC_(2)H_(5))_(4)]、トリイソプロポキシアルミニウム[Al(O-iso-C_(3)H_(7))_(3)]などがあげられる。これらの中でもテトラエトキシシラン、トリイソプロポキシアルミニウムが加水分解後、水系の溶媒中において比較的安定であるので、ガスバリア性被覆層10の材料として好ましい。加水分解物および重合物としては、例えば、テトラエトキシシランの加水分解物や重合物としてケイ酸(Si(OH)_(4))などが挙げられ、トリプロポキシアルミニウムの加水分解物や重合物と
して水酸化アルミニウム(Al(OH)_(3))などが挙げられる。
【0034】
ガスバリア性被覆層10には、前述の金属アルコキシドを分解させるために、塩化錫等の触媒を添加しても良い。例えば塩化第一錫、塩化第二錫或いはこれらの混合物であってもよく、無水物でも水和物でもよい。
【0035】
コーティング層8は、1以上の光学的機能を発揮させるために、第1のバリアフィルム3の表面、すなわち、波長変換シート1の表面に設けられている。ここで、光学的機能としては、特に限定されないが、干渉縞(モアレ)防止機能、反射防止機能、拡散機能等が挙げられる。本実施形態の波長変換シート1においては、コーティング層は、少なくとも干渉縞防止機能を有することを特徴としている。
【0036】
コーティング層8は、図1に示すように、バインダー樹脂層11と、微粒子12と、を含んで構成されている。微粒子12は、バインダー樹脂層11の表面から微粒子12の一部が露出するように埋め込まれる。それにより、コーティング層8の表面には微細な凹凸が生じることとなる。このようにコーティング層8を第1のバリアフィルム3の表面、すなわち、波長変換シート1の表面に設けることにより、ニュートンリングの発生を防止することができる。
【0037】
バインダー樹脂層11としては、具体的には、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化型樹脂を使用することができる。
【0038】
熱可塑性樹脂としては、アセチルセルロース、ニトロセルロース、アセチルブチルセルロース、エチルセルロース、メチルセルロース等のセルロース誘導体、酢酸ビニル及びその共重合体、塩化ビニル及びその共重合体、塩化ビニリデン及びその共重合体等のビニル系樹脂、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール等のアセタール樹脂、アクリル樹脂及びその共重合体、メタアクリル樹脂及びその共重合体等のアクリル系樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、線状ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂等を用いることができる。
【0039】
熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、尿素メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。
【0040】
紫外線硬化型樹脂としては、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート等の光重合性プレポリマーが挙げられる。また、紫外線硬化型樹脂を、上記の光重合性プレポリマーを主成分とし、希釈剤として単官能や多官能のモノマーを使用して構成することもできる。
【0041】
バインダー樹脂層11の厚さ(膜厚)は、0.1?20μmの範囲内とすることが好ましく、0.3?10μmの範囲内にすることが特に好ましい。ここで、バインダー樹脂層11の膜厚が0.1μm未満であると、膜厚が薄すぎるために均一な膜が得られない場合や、光学的機能を十分に果たすことができない場合が生じるために好ましくない。一方、膜厚が20μmを越える場合は、コーティング層8の表面へ微粒子12が表出せず、凹凸付与効果が得られないおそれがある、また透明性の低下や少しでも薄膜化するディスプレイのトレンドにあわないため好ましくない。
【0042】
微粒子12としては、具体的には、例えば、有機粒子、無機粒子を使用することができる。これらのうち、いずれか一種類のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。
【0043】
有機粒子としては、球状アクリル樹脂微粉末や、四フッ化エチレン樹脂微粉末、架橋ポリスチレン樹脂微粉末、ポリウレタン樹脂微粉末、ポリエチレン樹脂微粉末、ベンゾグアナミン樹脂微粉末、シリコーン樹脂微粉末、エポキシ樹脂微粉末等が挙げられる。
無機粒子としては、シリカ粒子、やジルコニア粒子等が挙げられる。
【0044】
また、微粒子12の平均一次粒径は、0.5?30μmであることが好ましい。本実施形態では、レーザー回折法により、平均一次粒径を測定した。微粒子12の平均粒径が0.5μm未満であると、コーティング層8の表面への凹凸の付与効果が得られないために好ましくない。一方、平均粒径が30μmを超えると、コーティング膜厚よりもかなり大きな粒子を使用することになり、光線透過率の低下を招くという不具合があるために好ましくない。これに対して、平均粒径が上記範囲内であると、高い光線透過率を維持したまま、表面に凹凸形状をつけることができる。
【0045】
また、第1のバリアフィルム3は、コーティング層8を有する全構成において、全光線透過率値が85%以上であることが好ましい。ここで、コーティング層8を有する第1のバリアフィルム3の全光線透過率値が85%未満であると、光源からの光のロスが大きくなりディスプレイ上において充分な明るさが確保できないか、もしくは明るさを確保するために、より明るい光源を使用せざるを得ないために好ましくない。これに対して、全光線透過率値が85%以上であると、少ない電力使用でディスプレイ上の明るさを確保できるために好ましい。
【0046】
以上のような構成を有する第1のバリアフィルム3を波長変換シート1の構成として用いることにより、量子ドットを用いた蛍光体層2の性能を最大限に発揮することが可能になる。さらに、ニュートンリング等の干渉縞の発生を防止することができ、結果として高効率かつ高精細、長寿命のディスプレイを得られる。
【0047】
(第2のバリアフィルム)
第2のバリアフィルム4は、基材6とバリア層7とを有しており、コーティング層8を有しない点で、第1のバリアフィルム3と構成が異なっている。より具体的には、波長変換シート1では、図1に示すように、第2のバリアフィルム4は、基材6の一方の面6aが蛍光体層2の他方の面2bと対向して配置されている。そして、この基材6の一方の面6a上に無機薄膜層9が積層され、無機薄膜層9の上にガスバリア性被覆層10が積層される。無機薄膜層9とガスバリア性被覆層10とでバリア層7が構成されている。つまり、蛍光体層2の他方の面2bと第2のバリアフィルム4のガスバリア性被覆層10とが接している。
すなわち、蛍光体層2と対向する側にバリア層7が積層されている点と、蛍光体層2と反対側の面6b上にはコーティング層8が設けられていない点とで、第1のバリアフィルム3と第2のバリアフィルム4とは異なっている。なお、基材6及びバリア層7の構成については、第1のバリアフィルム3において説明した構成と同じ構成を用いることができる。
【0048】
次に、本実施形態に係る波長変換シート1の製造方法について説明する。
波長変換シート1の製造方法としては、例えば、以下の手順によって、蛍光体層2を第1のバリアフィルム3及び第2のバリアフィルム4の間に積層することができる。
【0049】
(第1及び第2のバリアフィルムの製造工程)
第1及び第2のバリアフィルム3,4の製造においては、先ず、基材6の少なくとも片方の面に無機薄膜層9を例えば蒸着法等によって積層する。次に、水溶性高分子(水酸基含有高分子化合物)と、(a)1種以上の金属アルコキシド及び加水分解物又は(b)塩化錫の少なくとも一方と、を含む水溶液あるいは水/アルコール混合溶液を主剤とするコーティング剤を無機薄膜層9の表面上に塗布して、ガスバリア性被覆層10を形成する。
これにより、基材6上にバリア層7が設けられた第2のバリアフィルム4が得られる。
【0050】
一方、第1のバリアフィルム3は、基材6上に設けられたバリア層7上に、さらにコーティング層8を形成する。具体的には、バリア層7上に、バインダー樹脂と微粒子とを混合したコーティング液を塗布し、コーティング層8を形成する。これにより、基材6上にバリア層7及びコーティング層8が積層された第1のバリアフィルムが得られる。
【0051】
(蛍光体層の製造工程およびバリアフィルムの積層工程)
蛍光体層2の形成方法は、特に限定されないが、例えば、特表2013-544018に記載されているように、感光性樹脂や熱硬化性樹脂などのバインダー樹脂に蛍光体材料を分散させ、調整した混合液を第1又は第2のバリアフィルム3,4上に塗布した後、UV硬化あるいは熱硬化することで封止することができる。感光性樹脂及び熱硬化性樹脂としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリオレフィン樹脂を用いることが挙げられる。
【0052】
なお、本実施形態では、蛍光体層2の製造工程およびバリアフィルムの積層工程は、特に上述した方法に限定されない。例えば、蛍光体層2を第1のバリアフィルム3の基材6の表面6a上に形成した後、蛍光体層2上に第2のバリアフィルム4を積層してもよい。
【0053】
以上説明したように、本実施形態に係る波長変換シート1によれば、蛍光体層2に積層された一方のバリアフィルム(第1のバリアフィルム3)が光学的機能を有するコーティング層8を有している。また、上記コーティング層8が第1のバリアフィルム3の表面に設けられている。そのため、ニュートンリング等の干渉縞の発生を抑制するとともに光源からの光のばらつきを抑制することができる。
【0054】
また、本実施形態に係る波長変換シート1によれば、バリア性や透明性に優れた第1及び第2のバリアフィルム3,4を用いているため、量子ドットの性能を最大限に発揮することのできるディスプレイ用のバックライトユニットを提供することができる。
【0055】
さらに、本実施形態に係る波長変換シート1によれば、バリア性および透明性に優れた第1及び第2のバリアフィルム3,4を用いることで、より自然に近い鮮やかな色彩に、かつ色調の優れたディスプレイを提供することができる。
【0056】
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態に係る波長変換シート21にについて、図2を用いて説明する。波長変換シート21は、第1の実施形態に係る波長変換シート1と比較して、第1のバリアフィルムの構成のみが異なる。したがって、本実施形態に係る波長変換シート21については、第1の実施形態に係る波長変換シート1と同一の構成部分については同じ符号を付すると共に説明を省略する。
【0057】
図2に示すように、波長変換シート21は、蛍光体層(蛍光体)2と、蛍光体層2の一方の面2a側に設けられた第1のバリアフィルム(バリアフィルム)23と、蛍光体層2の他方の面2b側に設けられた第2のバリアフィルム4と、を備えている。より具体的には、蛍光体層2の両方の面2a,2b上に直接または封止樹脂層5(図2では不図示。図5参照)を介して第1のバリアフィルム23及び第2のバリアフィルム4がそれぞれ積層されている。これによって、第1のバリアフィルム23及び第2のバリアフィルム4の間に蛍光体層2が包み込まれた(すなわち、封止された)構造となっている。
【0058】
(第1のバリアフィルム)
第1のバリアフィルム23は、基材6と、バリア層7と、コーティング層8と、を有している。そして、図2に示すように、第1のバリアフィルム23では、蛍光体層2の一方の面2aと対向する基材6の一方の面6a上にバリア層7が積層されている。また、基材6の他方の面6b上にコーティング層8が積層されている。すなわち、第1のバリアフィルム23のバリア層7(ガスバリア性被覆層10)が、蛍光体層2と対向して(接して)設けられている点、及び蛍光体層2と反対側の面6b上にコーティング層8が設けられている点で、本実施形態の第1のバリアフィルム23と第1実施形態の第1のバリアフィルム3とは異なっている。
【0059】
以上説明したように、本実施形態に係る波長変換シート21によれば、上述した第1実施形態に係る波長変換シート1と同様の効果を得ることができる。
また、本実施形態の波長変換シート21によれば、第1のバリアフィルム23を構成するバリア層7が蛍光体層2と対向して(接して)設けられているため、より効果的にバリア性能を発揮することができる。
【0060】
<第3の実施形態>
次に、本発明の第3の実施形態に係る波長変換シート31について、図3を用いて説明する。本実施形態では、第1及び第2の実施形態に係る波長変換シート1、21とは第1のバリアフィルムの構成のみが異なる。したがって、本実施形態の波長変換シートについては、第1及び第2の実施形態と同一の構成部分については同じ符号を付すると共に説明を省略する。
【0061】
図3に示すように、本実施形態に係る波長変換シート31は、蛍光体層(蛍光体)2と、蛍光体層2の一方の面2a側に設けられた第1のバリアフィルム(バリアフィルム)33と、蛍光体層2の他方の面2b側に設けられた第2のバリアフィルム4と、を備えている。より具体的には、蛍光体層2の両方の面2a,2b上が直接または封止樹脂層5(図3では不図示。図5参照)を介して第1のバリアフィルム33及び第2のバリアフィルム4によって覆われている。これによって、第1のバリアフィルム33及び第2のバリアフィルム4の間に蛍光体層2が包み込まれた(すなわち、封止された)構造となっている。
【0062】
(第1のバリアフィルム)
第1のバリアフィルム33は、第1及び第2の基材6A,6Bと、バリア層7と、コーティング層8と、を有している。そして、図3に示すように、第1のバリアフィルム33では、第1の基材6Aの一方の面6aが蛍光体層2の一方の面2aと対向して(接して)配置されている、また、第1の基材6Aの他方の面6b上に、バリア層7と第2の基材6Bとがこの順に積層されている。すなわち、第1の基材6Aの他方の面6bと、第2の基材6Bの一方の面6cとの間にバリア層7が挟み込まれている。ここで、本実施形態では、バリア層7の無機薄膜層9が基材6Aと接しており、ガスバリア性被覆層10が基材6Bに接している。さらに、第2の基材6Bの他方の面6d上にコーティング層8が積層されている。すなわち、蛍光体層2と対向して(接して)第1の基材6Aが設けられており、この第1の基材6A上にバリア層7、第2の基材6B及びコーティング層8が積層されて設けられている点で、本実施形態の第1のバリアフィルム33と、第1及び第2実施形態の第1のバリアフィルム3,23とは構成が異なっている。
【0063】
以上説明したように、本実施形態に係る波長変換シート31によれば、上述した第1及び第2実施形態の波長変換シート1,21と同様の効果を得ることができる。
また、本実施形態に係る波長変換シート31によれば、第1のバリアフィルム33を構成するバリア層7を第1及び第2の基材6A,6Bによって挟み込んでいるため、バリア層7に微小なピンホール等の欠陥が生じている場合であっても、より効果的にバリア性能を発揮することができる。
【0064】
<第4の実施形態>
次に、本発明の第4の実施形態に係る波長変換シート41について、図4を用いて説明する。波長変換シート41は、第2の実施形態の波長変換シート21の構成に対して、第1及び第2のバリアフィルムの構成が異なる。したがって、本実施形態に係る波長変換シート41については、第1?第3の実施形態と同一の構成部分については同じ符号を付すると共に説明を省略する。
【0065】
図4に示すように、本実施形態に係る波長変換シート41は、蛍光体層(蛍光体)2と、蛍光体層2の一方の面2a側に設けられた第1のバリアフィルム(バリアフィルム)43と、蛍光体層2の他方の面2b側に設けられた第2のバリアフィルム44と、を備えている。より具体的には、蛍光体層2の両方の面2a,2b上が直接または封止樹脂層5を(図4では不図示。図5参照)介して第1のバリアフィルム43及び第2のバリアフィルム44によって覆われている。これによって、第1のバリアフィルム43及び第2のバリアフィルム44の間に蛍光体層2が包み込まれた(すなわち、封止された)構造となっている。
【0066】
(第1のバリアフィルム)
第1のバリアフィルム43は、基材6と、第1及び第2のバリア層7A,7Bと、コーティング層8と、を有している。
図4に示すように、第1のバリアフィルム43では、蛍光体層2の一方の面2aと対向する基材6の一方の面6a上に第1のバリア層7Aと、第2のバリア層7Bと、がこの順に積層されている。第1のバリア層7Aは、第1無機薄膜層9Aと第1ガスバリア性被覆層10Aとからなり、基材6の一方の面6a上にこの順に積層されている。第2のバリア層7Bは、第2無機薄膜層9Bと第2ガスバリア性被覆層10Bとからなり、第1のバリア層7Aの第1ガスバリア性被覆層10A上にこの順に積層されている。なお、本実施形態では、蛍光体層2の一方の面2aと第2ガスバリア性被覆層10Bとが接している。
基材6の他方の面6b上にはコーティング層8が積層されている。
すなわち、第1のバリアフィルム43は、蛍光体層2と対向する側に第1及び第2のバリア層7A,7Bの積層体が設けられており、蛍光体層2と反対側の面6b上にコーティング層8が設けられている点で、本実施形態に係る第1のバリアフィルム43と、第2実施形態に係る第1のバリアフィルム23とは構成が異なっている。
【0067】
(第2のバリアフィルム)
第2のバリアフィルム44は、基材6と第1及び第2のバリア層7A,7Bとを有しており、コーティング層8を有しない点で、第1のバリアフィルム43と構成が異なっている。
図4に示すように、第2のバリアフィルム44は、基材6の一方の面6aが蛍光体層2の他方の面2bと対向して配置されている。そして、この基材6の一方の面6a上に、第1のバリア層7Aと、第2のバリア層7Bと、がこの順に積層されている。第1のバリア層7Aは、第1無機薄膜層9Aと第1ガスバリア性被覆層10Aとからなり、基材6の一方の面6a上にこの順に積層されている。第2のバリア層7Bは、第2無機薄膜層9Bと第2ガスバリア性被覆層10Bとからなり、第1のバリア層7Aの第1ガスバリア性被覆層10A上にこの順に積層されている。なお、本実施形態では、蛍光体層2の他方の面2bと第2ガスバリア性被覆層10Bとが接している。
すなわち、第2のバリアフィルム44は、蛍光体層2と対向する側に第1及び第2のバリア層7A,7Bの積層体が設けられており、蛍光体層2と反対側の面6b上にはコーティング層8が設けられていない点で、第2のバリアフィルム44と、第1のバリアフィルム43とは異なっている。なお、基材6及び第1及び第2のバリア層7A,7Bの構成については、第1のバリアフィルム43と同じ構成を用いることができる。
【0068】
以上説明したように、本実施形態に係る波長変換シート41によれば、上述した第1?第3実施形態の波長変換シート1,21,31と同様の効果を得ることができる。
また、本実施形態に係る波長変換シート41によれば、バリア層が、無機薄膜層とガスバリア性被覆層とが交互に2層ずつ以上積層されたものであるため、より優れたバリア性能を発揮することができる。
【0069】
<第5の実施形態>
本発明の第5の実施形態に係る波長変換シート61について説明する。図6は、波長変換シート61の構成を模式的に示す断面図である。ここで、本実施形態の波長変換シート1は、量子ドットを用いた蛍光体を含んでおり、LED波長変換用蛍光体として、バックライトユニットに用いることができる。なお、本実施形態に係る波長変換シート61については、第1の実施形態に係る波長変換シート1と同一の構成部分については同じ符号を付すると共に説明を省略する。
【0070】
図6に示すように、本実施形態の波長変換シート61は、量子ドットを用いた蛍光体を含む蛍光体層(波長変換層ともいう)2と、蛍光体層2の一方の面2a側および他方の面2b側にそれぞれ設けられた蛍光体用保護フィルム13と、を備えている。より具体的には、蛍光体層2の両方の面2a,2b上が直接または封止樹脂層5(図6では不図示。図7及び8参照)を介して蛍光体用保護フィルム13によって覆われている。これによって、蛍光体用保護フィルム13の間に蛍光体層2が包み込まれた(すなわち、封止された)構造となっている。
【0071】
(蛍光体用保護フィルム)
蛍光体用保護フィルム13は、図6に示すように、第1の基材6とバリア層7とを有するバリアフィルム15と、プラスチックフィルム(第2の基材)16と、接着層17と、コーティング層18と、を有している。そして、第1の基材6の一方の面6a上に設けられたバリア層7とプラスチックフィルム16とが接着層17を介して対向するように積層されている。換言すると、蛍光体用保護フィルム13は、第1の基材6と第2の基材(プラスチックフィルム)16との間にバリア層7を挟み込むように、バリアフィルム15とプラスチックフィルム16とが積層されたラミネートフィルムである。
【0072】
そして、波長変換シート61では、図6に示すように、それぞれの蛍光体用保護フィルム13は、プラスチックフィルム16が蛍光体層2側に配置される(プラスチックフィルム16が蛍光体層2に接する)ように積層する。
より具体的には、波長変換シート61において、蛍光体用保護フィルム13は、プラスチックフィルム16の、バリア層7と対向する側の面16aと反対側の面16bが、蛍光体層2の一方の面2aと対向して(接して)配置されている。また、バリアフィルム15を構成する第1の基材6の他方の面6b上にコーティング層18が積層されている。すなわち、コーティング層18は、蛍光体用保護フィルム13の表面に設けられているとともに、波長変換シート61の表面となるように設けられている。
【0073】
バリアフィルム15は、図6に示すように、第1の基材6と、この第1の基材6の一方の面6a上に設けられたバリア層7とを有している。
【0074】
第1の基材6の材料としては、特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレートフィルムやポリエチレンナフタレートフィルムなどを用いることができる。また、第1の基材6の厚さは、特に限定されないが、波長変換シート61の総厚を薄くするために、50μm以下とすることが望ましい。
【0075】
プラスチックフィルム16は、第2の基材を少なくとも含み、第2の基材のみからなっても良い。プラスチックフィルム(第2の基材)16の材料としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルムやポリエチレンナフタレートフィルムを使用することができる。特に酸価(油脂または蝋等の油脂類1g中に含まれる遊離脂肪酸及びその他の酸性物質を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数)が25以下のポリエチレンテレフタレート系フィルムを用いることがより好ましい。ここで、基材6の酸価が30を超えると、特に高温高湿環境下での基材安定性が損なわれるために、バリア性の低下がおこるために好ましくない。一方、酸価が30以下であると、基材安定性が増し、高温高湿環境下でもバリア性が低下せず安定しているために好ましい。
【0076】
また、プラスチックフィルム(第2の基材)16の厚さとしては、特に限定されないが、蛍光体用保護フィルム13あるいは波長変換シート61の総厚を薄くするために、25μm以下のフィルムを用いることが望ましい。
【0077】
プラスチックフィルム16は、図6に示すように、第1の基材6の一方の面6a上に設けられたバリア層7及び接着層17を介して、第1の基材6と対向するように設けられている。換言すると、第1の基材6と第2の基材(プラスチックフィルム)16との間にバリア層7を挟み込むように、バリアフィルム15とプラスチックフィルム16とが積層されている。このように、第1の基材6と第2の基材(プラスチックフィルム)16との間にバリア層7を挟み込んでいるため、例えバリア層7に微小なピンホール等の欠陥が生じている場合であっても、より効果的にバリア性能を発揮することができる。
【0078】
接着層17は、図6に示すように、バリアフィルム15とプラスチックフィルム16とを貼り合わせるために、バリアフィルム15とプラスチックフィルム16との間に設けられている。接着層17の材料としては、特に限定されないが、アクリル系材料、ウレタン系材料、ポリエステル系材料などの接着剤や粘着剤を用いることができる。より具体的には、アクリル樹脂系粘着剤、ウレタン系接着剤、エステル系接着剤のいずれかを用いることができる。
【0079】
また、接着層17の厚さとしては、特に限定されないが、蛍光体用保護フィルム13あるいは波長変換シート61の総厚を薄くするために、20μm以下とすることが望ましい。
【0080】
コーティング層18は、1以上の光学的機能を発揮させるために、蛍光体用保護フィルム13のそれぞれの表面、すなわち、波長変換シート61の表面に設けられている。ここで、光学的機能としては、特に限定されないが、干渉縞(モアレ)防止機能や、反射防止機能、拡散機能等が挙げられる。本実施形態に係るバックライトユニット(波長変換シート61)においては、コーティング層は、少なくとも干渉縞防止機能を有する。
【0081】
コーティング層18は、第1の実施形態のようにバインダー樹脂層と、微粒子と、を含んで構成されていても良い。また、バインダー樹脂層の表面から微粒子の一部が露出するように埋め込まれることにより、コーティング層18の表面には微細な凹凸が生じていても良い。このようにコーティング層18を蛍光体用保護フィルム13の表面、すなわち、波長変換シート61の表面に設けることにより、ニュートンリングの発生を防止することができる。
【0082】
バインダー樹脂層としては、特に限定されないが、光学的透明性に優れた樹脂を用いることができる。より具体的には、例えば、ポリエステル系樹脂や、アクリル系樹脂、アクリルウレタン系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、ポリウレタンアクリレート系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂などの熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、電離放射線硬化性樹脂などを用いることができる。これらの中でも耐光性や光学特性に優れるアクリル系樹脂を使用することが望ましい。
【0083】
微粒子としては、特に限定されないが、例えば、シリカや、クレー、タルク、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、アルミナなどの無機微粒子の他、スチレン樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂などの有機微粒子を用いることができる。これらは、1種だけでなく、複数種を組み合わせて使用することもできる。
【0084】
以上のような構成を有する蛍光体用保護フィルム13は、第1の基材6及び第2の基材16の間にバリア層7を挟み込むように、バリアフィルム15とプラスチックフィルム16とが積層されたラミネートフィルムである。そのため、スプラッシュによる影響を抑えることができ、蛍光体用保護フィルム13はバリア性に優れる。さらに、蛍光体用保護フィルム13を波長変換シート61の構成として用いることにより、量子ドットを用いた蛍光体層2の性能を最大限に発揮することが可能になるとともに、ニュートンリング等の干渉縞の発生を防止することができる。結果として、高効率かつ高精細、長寿命のディスプレイを得られる。
【0085】
次に、本実施形態の波長変換シート61の製造方法について説明する。
本実施形態の波長変換シート1の製造方法では、例えば、以下の手順によって、蛍光体層2を一対の蛍光体用保護フィルム13の間に積層することができる。
【0086】
(蛍光体用保護フィルム13の製造工程)
蛍光体用保護フィルム13の製造においては、先ず、第1の基材6の少なくとも片方の面に、コーティング層18を形成する。具体的には、先ず、バインダーとなるアクリル系樹脂とアクリル微粒子とを混合したコーティング液を塗布することで、コーティング層18が設けられた基材6が得られる。次に、第1の基材6の、コーティング層18が設けられた一方の面6aと反対側の面6b上に、無機薄膜層9を例えば蒸着法等によって積層する。次いで、水溶性高分子(水酸基含有高分子化合物)と、(a)1種以上の金属アルコキシド及び加水分解物又は(b)塩化錫の少なくとも一方と、を含む水溶液あるいは水/アルコール混合溶液を主剤とするコーティング剤を無機薄膜層9の表面上に塗布して、ガスバリア性被覆層10を形成する。これにより、第1の基材6上に、コーティング層18及びバリア層7が設けられたバリアフィルム15が得られる。
【0087】
次に、バリアフィルム15とプラスチックフィルム16とを接着層17を用いて貼り合わせて、積層する。具体的には、バリアフィルム15の第1の基材6とプラスチックフィルム16との間にバリア層7を挟み込むようにバリアフィルム15とプラスチックフィルム16とを接着する。接着層17としては、アクリル樹脂系粘着剤、ウレタン系接着剤、エステル系接着剤のいずれかを用いる。これにより、第1の基材6とプラスチックフィルム16との間にバリア層7を挟み込むように積層された蛍光体用保護フィルム13が得られる。
【0088】
(蛍光体層2の製造工程および蛍光体用保護フィルムの積層工程)
蛍光体層2の形成方法は、特に限定されないが、例えば、特表2013-544018に記載されているように、感光性樹脂や熱硬化性樹脂などのバインダー樹脂に蛍光体材料を分散させ、調整した混合液を蛍光体用保護フィルム13のコーティング層18が設けられていないプラスチックフィルム16側の表面13a(16b)上にそれぞれ塗布した後、UV硬化あるいは熱硬化することで封止することができる。このようにして、波長変換シート61を製造することができる。感光性樹脂及び熱硬化性樹脂としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリオレフィン樹脂を用いることが挙げられる。
【0089】
なお、本実施形態では、蛍光体層2の製造工程および蛍光体用保護フィルムの積層工程は、特に上述した方法に限定されない。例えば、蛍光体層2を、一方の蛍光体用保護フィルム13のコーティング層18が設けられていないプラスチックフィルム16側の表面13a(16b)上に形成した後、蛍光体層2上に他方の蛍光体用保護フィルム13を積層してもよい。
【0090】
以上説明したように、本実施形態に係る蛍光体用保護フィルム13は、第1の基材6と第2の基材(プラスチックフィルム)16との間にバリア層7を挟み込むように、バリアフィルム15とプラスチックフィルム16とが積層されたラミネートフィルムであることから、スプラッシュによる影響を最小限に抑えることができ、なおかつ、バリア層を熱安定性に優れたPETフィルムによって挟み込むことで、優れたバリア性を発揮できる。さらに、蛍光体用保護フィルム13の表面にコーティング層18が設けられているため、干渉縞の発生を抑制するとともに光源からの光のばらつきを抑制することができる。
【0091】
本実施形態に係る波長変換シート61は、量子ドットを用いた蛍光体を含む蛍光体層2が上述の蛍光体用保護フィルム13に積層されて封止されており、バリア性に優れるため、量子ドットの性能を最大限に発揮することができる。
【0092】
本実施形態に係る波長変換シート61を備えたバックライトユニットは、欠陥やムラがなく、自然に近い鮮やかな色彩に、かつ色調の優れたディスプレイを提供することができる。
【0093】
また、本実施形態に係る波長変換シート61によれば、蛍光体層2に積層された蛍光体用保護フィルム13が光学的機能を有するコーティング層18を有している。また、上記コーティング層18が波長変換シート61の表面となるように設けられている。そのため、ニュートンリング等の干渉縞の発生を抑制するとともに光源からの光のばらつきを抑制することができる。
【0094】
また、本実施形態に係る波長変換シート61によれば、バリア性や透明性に優れた蛍光体用保護フィルム13を用いているため、量子ドットの性能を最大限に発揮することのできるディスプレイ用のバックライトユニットを提供することができる。
【0095】
さらに、本実施形態に係る波長変換シート61によれば、バリア性および透明性に優れた蛍光体用保護フィルム13を用いることで、より自然に近い鮮やかな色彩に、かつ色調の優れたディスプレイを提供することができる。
【0096】
<第6の実施形態>
次に、本発明の第6の実施形態に係る波長変換シート71について、図7を用いて説明する。本実施形態では、第5の実施形態の波長変換シート61とは、蛍光体用保護フィルムの構成のみが異なる。したがって、本実施形態の波長変換シートについては、第5の実施形態と同一の構成部分については同じ符号を付すると共に説明を省略する。
【0097】
図7に示すように、本実施形態の波長変換シート71は、量子ドットを用いた蛍光体を含む蛍光体層(波長変換層)2と、蛍光体層2の一方の面2a側および他方の面2b側にそれぞれ設けられた蛍光体用保護フィルム73と、を備えている。
より具体的には、蛍光体層2の両方の面2a,2b上に直接または封止樹脂層5(図7では不図示。図8及び9参照)を介して蛍光体用保護フィルム73がそれぞれ積層されている。これによって、蛍光体用保護フィルム73の間に蛍光体層2が包み込まれた(封止された)構造となっている。
【0098】
(蛍光体用保護フィルム)
本実施形態の蛍光体用保護フィルム73は、第1の基材6とバリア層7とを有するバリアフィルム15と、プラスチックフィルム(第2の基材)16と、接着層17と、コーティング層18と、を有している。そして、第1の基材6の一方の面6a上に設けられたバリア層7とプラスチックフィルム16とが接着層17を介して対向するように積層されている。換言すると、蛍光体用保護フィルム73は、第1の基材6と第2の基材(プラスチックフィルム)16との間にバリア層7を挟み込むように、バリアフィルム15とプラスチックフィルム16とが積層されたラミネートフィルムである。
【0099】
そして、図7に示すように、それぞれの蛍光体用保護フィルム73では、バリアフィルム15の第1の基材6側の面15b(6b)が蛍光体層2と接するように積層される。
【0100】
より具体的には、波長変換シート71において、蛍光体用保護フィルム73は、バリアフィルム15の、第1の基材6のバリア層7が設けられた面6aと反対側の面6bが、蛍光体層2の一方の面2aと対向するように配置されている。また、プラスチックフィルム16のバリア層7と対向する側の面16aと反対側の面16b上にコーティング層18が積層されている。すなわち、本実施形態においてもコーティング層18は、蛍光体用保護フィルム73の表面に設けられているとともに、波長変換シート71の表面となるように設けられている。
【0101】
以上説明したように、本実施形態の71によれば、上述した第5実施形態の波長変換シート61と同様の効果を得ることができる。
【0102】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、上述の第1?第4実施形態の波長変換シート1,21,31,41で示した第1のバリアフィルム3,23,33,43の構成は一例であり、これに限定されない。具体的には、本発明の波長変換シートを構成する第1のバリアフィルムは、1以上の基材6と、1以上のバリア層7と、コーティング層8と、を有しており、コーティング層8が当該バリアフィルムの表面に設けられていればよい。
【0103】
また、本発明のコーティング層は、上述した第1のバリアフィルム3,23,33,43で示したコーティング層8の構成、すなわち、干渉縞(モアレ)防止機能を発揮する一層構造に限定されず、複数の機能を発揮する層の積層体であっても良い。
【0104】
さらに、本発明の波長変換シートは、蛍光体層2を被覆する第1及び第2のバリアフィルムのうち、少なくとも一方のバリアフィルムがコーティング層8を有する構成であってもよいし、第1及び第2のバリアフィルムの両方がコーティング層8を有する構成であってもよい。
【0105】
また、上述した第1?第4実施形態の波長変換シート1,21,31,41では、蛍光体層2を第1及び第2のバリアフィルムで直接封止する構成を説明したが、これに限定されない。例えば、図5に示すように、蛍光体層2とは別に、当該蛍光体層2を覆い、封止する封止樹脂層5を設ける構成としても良い。第1及び第2のバリアフィルム3,4の間に封止樹脂層5を設けて蛍光体層2を封止する構成とすることにより、より高いバリア性を有する波長変換シート51を提供することができる。
【0106】
封止樹脂層5としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化型樹脂を使用することができる。より具体的には、エポキシ樹脂やシリコーン樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂等を用いることができる。
【0107】
また、例えば、上述の第5及び第6の実施形態の波長変換シート61,71の構成及び蛍光体用保護フィルム13,73の構成は一例であり、これに限定されない。
【0108】
具体的には、上述の第5及び第6の実施形態の蛍光体用保護フィルム13,73では、1つのバリア層7が第1の基材6とプラスチックフィルム16との間に設けられている構成について説明したが、これに限定されない。例えば、図8に示すように、第1無機薄膜層9Aと第1ガスバリア性被覆層10Aとからなる第1のバリア層7Aと、第2無機薄膜層9Bと第2ガスバリア性被覆層10Bとからなる第2のバリア層7Bと、が積層された構成の蛍光体用保護フィルム83であってもよい。このように、無機薄膜層とガスバリア性被覆層とが交互に2層ずつ以上積層された蛍光体用保護フィルム83によれば、より優れたバリア性能を発揮することができる。さらに、本発明の蛍光体用保護フィルムには、2以上のバリア層7が設けられていてもよい。
【0109】
また、本発明の波長変換シートは、上述の第5及び第6実施形態のように、蛍光体層2を含有する封止樹脂層5が、同一の蛍光体用保護フィルム13(あるいは73)によってはさまれていてもよく、異なる構成の蛍光体用保護フィルム13,73によってはさまれていてもよい。
【0110】
さらに、本発明の波長変換シートは、蛍光体層2を被覆する蛍光体用保護フィルムのうち、少なくとも一方の蛍光体用保護フィルムがコーティング層18を有する構成であってもよいし、両方の蛍光体用保護フィルムがコーティング層18を有する構成であってもよい。
【0111】
更にまた、上述した第5及び第6実施形態の波長変換シート61,71では、蛍光体層2を蛍光体用保護フィルム13(73)で直接封止する構成を説明したが、これに限定されない。例えば、図9に示すように、蛍光体層2とは別に、蛍光体層2を覆い、封止する封止樹脂層5を設ける構成としても良い。蛍光体用保護フィルム13の間に封止樹脂層5を設けて蛍光体層2を封止する構成とすることにより、より高いバリア性を有する波長変換シート91を提供することができる。
【0112】
<バックライトユニット>
【0113】
上記実施形態に係る波長変換シートを用いて、液晶ディスプレイなどに適用されるバックライトユニットを提供することができる。上述の実施形態に係る波長変換シート1(21,31,41,51,61,71,81,91)を搭載したバックライトユニット100の一例を図10に示す。
バックライトユニット100は、LED(発光ダイオード)光源101と、導光板102と、波長変換シート1とを備える。LED光源は、導光板の側面に設置されさらに、図では省略されているが、反射板や、拡散板、プリズムシートなどを備えていても良い。
【0114】
LED光源101は、導光板102の側端面に設置され、導光板102上(光の進行方向)に波長変換シート1が配置さる。LED光源101の内部には、発光色が青色のLED素子が複数個設けられている。このLED素子は、紫LED、又は紫よりもさらに低波長のLEDであってもよい。LED光源101は、導光板102側面に向かって光を照射する。上記実施形態に係る波長変換シートを用いたバックライトユニットの場合、導光板102から照射された光Lは、波長変換シート中の蛍光体層に入射し、波長が変換された光L´になる。
【0115】
導光板102は、LED光源101から照射された光を効率的に導くものであり、公知の材料が使用される。導光板102としては、例えば、アクリル、ポリカーボネート、及びシクロオレフィンフィルム等が使用される。導光板102は、例えば、シルク印刷方式、射出成型や押出成型などの成型方式、インクジェット方式などにより形成することができる。導光板102の厚さは、例えば、100?1000μmである。また導光板102には、LED光源101から出射された光を波長変換シート側に反射させるための反射板や微細パターンを設けることができる。
【0116】
以下、実施例および比較例を用いて本発明の効果をさらに説明するが、本発明は下記実施例等に制限されない。
【0117】
「第1実施例」
(実施例1)
図1に示す構成の波長変換シートを作製した。
ポリエチレンテレフタレートフィルム(酸価28)の片面に、真空蒸着法により、無機薄膜層として250Åの厚みの酸化珪素を形成した。さらに、その上にガスバリア性被膜層としてアルコキシシランとポリビニルアルコールからなる塗液をウエットコーティング法により順次積層し、0.3μmの厚みのガスバリア性被覆層を形成した。それにより、第2のバリアフィルムを得た。
【0118】
次に、上記第2のバリアフィルムの作製工程と同様の工程で作製した積層体のガスバリア性被覆層の表面に、アクリル樹脂とシリカ粒子(平均粒子径1.0μm)からなる塗膜を塗布後、アクリル樹脂を硬化することにより、5μmの厚みのコーティング層を持つ第1のバリアフィルムを得た。
【0119】
CdSe/ZnS 530(SIGMA-ALDRICH製)を、濃度調整し、溶媒に分散することで蛍光体溶液し、その蛍光体溶液をエポキシ系感光性樹脂と混合後、先に作製した第2のバリアフィルムのガスバリア性被覆層上に塗布し、100μm厚みの蛍光体層を得た。
【0120】
得られた蛍光体層の上面に、先に作製した第1のバリアフィルムを、ガスバリア性被覆層を積層した面の反対側面が蛍光体層に対向するように配置して積層した後、UV照射により蛍光体層を硬化することで実施例1の波長変換シートを得た。
【0121】
なお、酸価の測定方法としては、カットしたフィルムを秤量し、クレゾールに加熱溶解後冷却、その後水酸化カリウムエタノール溶液で滴定して酸価を定量した。指示薬として、フェノールフタレイン溶液を用いた(JISK0070参照)。
【0122】
(実施例2)
実施例1において、ポリエチレンテレフタレートフィルム(酸化17)を用いた以外は、同様の操作にて実施例2の波長変換シートを得た。
【0123】
(実施例3)
図2に示す構成の波長変換シートを以下の工程で作製した。特に記載のない事項については、実施例1と同様の構成及び手順に従うものとする。
ポリエチレンテレフタレートフィルム(酸価17)の片面に、真空蒸着法により、無機薄膜層として250Åの厚みの酸化珪素を形成した。さらに、その上にガスバリア性被膜層としてアルコキシシランとポリビニルアルコールからなる塗液をウエットコーティング法により順次積層し、0.3μmの厚みのガスバリア性被覆層を形成した。それにより、第2のバリアフィルムを得た。
【0124】
次に、上記第2のバリアフィルムの作製工程と同様の工程で作製した積層体のガスバリア性被覆層を形成した面と反対の面に、アクリル樹脂とシリカ粒子(平均粒子径1.0μm)からなる塗膜を塗布後、アクリル樹脂を硬化することにより、一方の面に5μmの厚みのコーティング層を形成し、第1のバリアフィルムを得た。
【0125】
実施例1と同様の工程で第2のバリアフィルムのガスバリア性被覆層上に蛍光体の塗液を塗布し、100μm厚みの蛍光体層を得た。
【0126】
得られた蛍光体層の上面に、先に作製した第1のバリアフィルムのバスバリア性被覆層が蛍光体層に対向するように配置して第1のバリアフィルムを積層した後、UV照射により蛍光体層を硬化することで、実施例3の波長変換シートを得た。
【0127】
(実施例4)
実施例1において、第1のバリアフィルム上に直接コーティング層を形成する代わりに、別のポリエチレンテレフタレートフィルム上にアクリル樹脂とシリカ粒子(平均粒子径1.0μm)からなる塗膜を塗布後、アクリル樹脂を硬化することにより、5μmの厚みのコーティング層を形成した。さらに、当該コーティング層を持つポリエチレンテレフタレートフィルムのコーティング層形成面と反対側面と、第1のバリアフィルムのガスバリア性被覆層を積層した面が対向するように配置し、アクリル系粘着剤でそれらの面を貼り合わせることで、実施例4に係る第1のバリアフィルムを作製した。その他の点は、実施例1と同様の構成及び手順により、図3に示す構成の波長変換シートを作製した。
【0128】
(実施例5)
第1のバリアフィルム及び第2のバリアフィルムの作製工程において、ポリエチレンテレフタレートフィルム上にガスバリア性被膜層を形成した後、その上に真空蒸着法により第2無機薄膜層として250Åの厚みの酸化珪素を設けた。さらに、第2無機薄膜層上に第2ガスバリア性被膜層としてアルコキシシランとポリビニルアルコールからなる塗液をウエットコーティング法により順次積層した0.3μmの厚みのガスバリア性被覆層を形成した。それ以外は、実施例3と同様の構成及び手順により、図4に示す構成の波長変換シートを作製した。
【0129】
(比較例1)
実施例1において、第1のバリアフィルムにコーティング層を設けない以外は、同様の操作にて比較例1の波長変換シートを得た。
【0130】
<バリアフィルムの評価>
バリアフィルムのバリア性を評価するために、水蒸気透過度(g/m2・day)を、水蒸気透過度測定装置(Modern Control社製のPermatoran3/31)を用いて40℃-90%RH雰囲気の条件で測定した。得られた結果を表1に示す。
【0131】
<波長変換シートの評価>
波長変換シートについて、初期および60℃90%RH×1,000時間保存後の輝度を、輝度計(コニカミノルタ社製のLS-100)を用いて測定した。得られた結果を表1に示す。これら経時での輝度の差は、バリア性がよければ小さくなる。併せて、総合評価についても記載する。
【0132】
<外観>
量子ドットの模様や、フィルムのしわ等の影響による光のムラについて、目視にて確認を行った。得られた結果を表1に示す。ここで、◎はフィルムのしわ等などが全く見えず、バックライトユニット性能に必要な面内での均一発光性が非常に優れていることを示し、○はフィルムのしわ等が僅かに確認されるものの、均一発光性が優れている、すなわち、面内での輝度分布に差がないことを示し、×はしわ等が目視でも確認されるだけでなく、面内の輝度分布にもばらつきがみられることを示す。
【0133】
【表1】

【0134】
表1に示すように、実施例1?5の第1のバリアフィルムを用いた波長変換シートは、量子ドットディスプレイの特徴である高輝度を、過酷環境下でも維持することができた。
さらに、実施例1?5の第1のバリアフィルムを用いた波長変換シートは、ムラのない均一な光が得られており、良好な外観であった。
【0135】
一方、比較例1は、過酷環境下での高輝度は維持することができたが、第1及び第2のバリアフィルムのいずれにもコーティング層を用いていないため、光源としては均一性に欠け、ムラがみられることが確認された。
【0136】
「第2実施例」
<実施例6>
図6に示す構成の波長変換シートを作製した。
(蛍光体用保護フィルムの作製)
ポリエチレンテレフタレートフィルム(酸価17)の片面に、真空蒸着法により、無機薄膜層として250Åの厚みの酸化珪素を形成した。さらに、その上にガスバリア性被膜層としてアルコキシシランとポリビニルアルコールからなる塗液をウエットコーティング法により順次積層し、0.3μmの厚みのガスバリア性被覆層を形成した。それにより、バリアフィルムを得た。
【0137】
続けて、バリアフィルムのガスバリア性被覆層側に、アクリル樹脂接着剤を用いてポリエチレンテレフタレートフィルムを貼り合わせることにより、バリアフィルムを含むラミネートフィルムを得た。
【0138】
さらに、バリアフィルムのガスバリア性被覆層とは反対側に、アクリル樹脂と、アクリル樹脂からなる微粒子(平均粒径3μm)からなる塗液をウエットコーティング法により積層することにより、5μmの厚みのコーティング層を形成した。それにより、実施例6の蛍光体用保護フィルムを得た。
【0139】
(波長変換シートの作製)
CdSe/ZnS 530(SIGMA-ALDRICH製)を、濃度調整し、溶媒に分散することで蛍光体溶液となる。その蛍光体溶液を感光性樹脂と混合後、先に作製した蛍光体用保護フィルムのポリエチレンテレフタレートフィルム側に塗布、100μm厚みの蛍光体層を得た。
【0140】
蛍光体用保護フィルム上に塗布した蛍光体層上に、アクリル樹脂コーティング層が外側となるようにして、同じ構成の蛍光体用保護フィルムを積層し、UV硬化ラミネートにより、実施例6の波長変換シート(図6を参照)を得た。
【0141】
(バックライトユニットの作製)
得られた波長変換シートに、LED光源と導光板とを組み合わせて、実施例6のバックライトユニットを作製した。
【0142】
<実施例7>
実施例6において、ラミネートフィルムのポリエチレンテレフタレートフィルム側に、1μmのアクリル樹脂コーティング層を設けた以外は、同様の操作にて実施例7の蛍光体用保護フィルムを得た。さらに作成した蛍光体用保護フィルム2枚を用いて、両蛍光体用保護フィルムのアクリル樹脂コーティング層が外側となるようにして、実施例6と同様に波長変換シート及びバックライトユニットを作製した。
【0143】
<比較例2>
実施例6において、バリアフィルムのガスバリア性被覆層とは反対側に、アクリル樹脂接着剤を用いてポリエチレンテレフタレートフィルムを貼り合わせ、かつそのガスバリア性被覆層上に、アクリル樹脂と微粒子によるコーティング層を設けた以外は、同様の操作にて比較例2の蛍光体用保護フィルムを得た。さらに作成した蛍光体用保護フィルム2枚を用いて、両蛍光体用保護フィルムのアクリル樹脂コーティング層が外側となるようにして、実施例6と同様に波長変換シート及びバックライトユニットを作製した。
【0144】
<比較例3>
実施例6において、バリアフィルムに、ポリエチレンテレフタレートフィルムを貼り合わせないこと以外は、同様の操作にて比較例3の蛍光体用保護フィルムを得た。さらに作成した蛍光体用保護フィルム2枚を用いて、両蛍光体用保護フィルムのアクリル樹脂コーティング層が外側となるようにして、実施例6と同様に波長変換シート及びバックライトユニットを作製した。
【0145】
<輝度測定>
バックライトユニットについて、輝度計(コニカミノルタ社製のLS-100)を用いて輝度を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0146】
<外観評価>
バックライトユニットでの発光状態を確認し、目視評価をおこなった。その際、拡散性(面内で均一な光になっているか)、異物(スプラッシュやキズ、シワなどの見え方やについて)、干渉(バックライトユニット上にポリエチレンテレフタレートフィルムを設置した際、干渉ムラの発生有無)の観点から確認をおこなった。得られた結果を表2に示す。実施例7ではバックライトユニット性能に必要な、面内での均一発光性やスプラッシュやキズ、干渉ムラなどが見えなかった。比較例2は前記バックライトユニットに必要な性能は良好であるものの、輝度の点で劣っていた。比較例3は均一発光性がなかったり、スプラッシュやキズ、干渉ムラなどが見え、輝度の点でも劣っていた。
【0147】
【表2】

【0148】
表2から、実施例6及び7の波長変換シートを用いたバックライトユニットでは、バリアフィルムとプラスチックフィルムとを積層したことにより、スプラッシュなどの異物の影響も抑えられ、ムラなどない均一な光源を得ることができた。
【0149】
比較例2の、基材に対して無機酸化物薄膜層及びガスバリア性被覆層をコーティング層と同じ側に設けた蛍光体用保護フィルムを用いたバックライトユニットでは、保護すべき蛍光体層とバリア層との距離が大きいことからバリア性がやや劣ることにより、輝度の低下がみられた。
【0150】
比較例3の、貼りあわせ基材を積層しない蛍光体用保護フィルムを用いたバックライトユニットでは、特にスプラッシュの影響を受けやすく、局所的に蛍光体の性能悪化(輝度の低下)がみられた。
【産業上の利用可能性】
【0151】
本発明の波長変換シートを用いることにより、信頼性も備えた優れた高精細ディスプレイを製造することが可能である。
【0152】
また、本発明の、バリア層を挟み込むようにバリアフィルムとプラスチックフィルムとを積層したラミネートフィルムを有する蛍光体用保護フィルム、この蛍光体用保護フィルムによって蛍光体層を被覆した波長変換シート、及びこの波長変換シートを使用したバックライトユニットを用いることにより、優れた高精細ディスプレイを製造することが可能である。
【符号の説明】
【0153】
1,21,31,41,51,61,71,81,91・・・波長変換シート
2・・・蛍光体層(蛍光体)
3,23,33,34・・・第1のバリアフィルム(バリアフィルム)
4,44・・・第2のバリアフィルム
5・・・封止樹脂
6,6A,6B・・・基材
7,7A,7B・・・バリア層
8,18・・・コーティング層
9,9A,9B・・・無機薄膜層
10,10A,10B・・・ガスバリア性被覆層
11・・・バインダー樹脂層
12・・・微粒子
13,73,83・・・蛍光体用保護フィルム
15,85・・・バリアフィルム
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子ドットを用いた蛍光体を含む蛍光体層と、前記蛍光体層の少なくとも一方の面上に積層される1以上の蛍光体用保護フィルムと、を備える波長変換シートであって、
前記蛍光体用保護フィルムは、
基材と、前記基材の少なくとも一方の面上に設けられたバリア層と、を有するバリアフィルムと、
前記基材の前記バリア層と反対の面上に設けられた、光学的機能を有するコーティング層と、を有し、
前記基材は、酸価が25以下のポリエチレンテレフタレート系フィルムであり、
前記バリア層は、
前記基材の一方の面上に積層された無機薄膜層と、
前記無機薄膜層とは異なる材料で形成され、水酸基含有高分子化合物、金属アルコキシド、金属アルコキシド加水分解物、及び金属アルコキシド重合物のうち、少なくとも1以上を含み、前記無機薄膜層の上に積層されたガスバリア性被覆層と、を含み、
前記蛍光体用保護フィルムは、前記バリア層と前記蛍光体層とが対向するように積層されている、
波長変換シート。
【請求項2】
前記バリア層が、
前記ガスバリア性被覆層上に積層された第2の無機薄膜層と、
前記第2の無機薄膜層とは異なる材料で形成され、水酸基含有高分子化合物、金属アルコキシド、金属アルコキシド加水分解物、及び金属アルコキシド重合物のうち、少なくとも1以上を含み、前記第2の無機薄膜層上に積層された第2のガスバリア性被覆層と、をさらに有する、
請求項1に記載の波長変換シート。
【請求項3】
光源と、
導光板と、
請求項1または2に記載の波長変換シートと、
を備える、
バックライトユニット。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-11-05 
出願番号 特願2018-85813(P2018-85813)
審決分類 P 1 651・ 537- ZDA (G02B)
P 1 651・ 121- ZDA (G02B)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 岩井 好子  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 井口 猶二
関根 洋之
登録日 2019-01-11 
登録番号 特許第6460275号(P6460275)
権利者 凸版印刷株式会社
発明の名称 波長変換シート及びバックライトユニット  
代理人 松沼 泰史  
代理人 清水 雄一郎  
代理人 松沼 泰史  
代理人 鈴木 史朗  
代理人 鈴木 史朗  
代理人 大槻 真紀子  
代理人 清水 雄一郎  
代理人 大槻 真紀子  

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