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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 A23D 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A23D 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A23D |
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管理番号 | 1371689 |
異議申立番号 | 異議2020-700064 |
総通号数 | 256 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-04-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-02-04 |
確定日 | 2021-01-05 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6555451号発明「ロールイン用油脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6555451号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-12〕について訂正することを認める。 特許第6555451号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6555451号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?12に係る特許についての出願は、2018年8月3日(優先権主張 2017年9月14日(日本))を国際出願日とする出願であって、令和1年7月19日にその特許権の設定登録がされ、同年8月7日に特許掲載公報が発行されたものである。 その後、その特許の全請求項について、令和2年2月4日に特許異議申立人 安藤 慶治(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年5月25日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年7月21日に意見書及び訂正請求書が提出されたものである。 なお、同年8月24日付けで、特許法第120条の5第5項に基づく訂正請求があった旨の通知がされ、申立人に対し相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、意見書の提出はなかった。 第2 訂正の適否 1 訂正の趣旨 本件訂正請求は、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?12について訂正(以下、「本件訂正」という。)することを求めるものである。 2 訂正の内容 本件訂正の内容は、以下の訂正事項のとおりである。(なお、下線は訂正箇所を示す。) 訂正事項: 特許請求の範囲の請求項1に、 「油相中に、全構成脂肪酸に対し、ラウリン酸含量が5?25重量%、パルミチン酸含量が5?25重量%及びステアリン酸含量が10?35重量%であり、ステアリン酸/パルミチン酸の重量比率が0.5?7であるエステル交換油脂を45?95重量%、液状油5?25重量%及び上昇融点45℃を超える高融点油脂1重量%未満を含有することを特徴とするロールイン用油脂組成物。」 と記載されているのを、 「油相中に、全構成脂肪酸に対し、ラウリン酸含量が10?20重量%、パルミチン酸含量が5?25重量%及びステアリン酸含量が10?35重量%であり、ステアリン酸/パルミチン酸の重量比率が1?3であるエステル交換油脂を50?90重量%、液状油5?25重量%及び上昇融点45℃を超える高融点油脂1重量%未満を含有することを特徴とするロールイン用油脂組成物。」 に訂正する。(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2?12も同様に訂正する)。 3 一群の請求項について 訂正前の請求項1?12について、請求項2?12はそれぞれ請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、上記訂正事項によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。 したがって、訂正前の請求項1?12に対応する訂正後の請求項1?12に係る本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してされたものである。 4 訂正の目的の適否について 上記訂正事項は、訂正前の請求項1に記載されたロールイン用油脂組成物について、油相中に、エステル交換油脂を45?95重量%含有するとされていたのを、50?90重量%とその範囲をより狭い範囲に限定するともに、エステル交換油脂の全構成脂肪酸に対し、ラウリン酸含量が5?25重量%とされていたのを10?20重量%とし、かつ、ステアリン酸/パルミチン酸の重量比率が0.5?7であるとされていたのを1?3であると、それぞれその範囲をより狭い範囲に限定したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正後の請求項2?12は、訂正後の請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、請求項2?12についての訂正も同様である。 5 新規事項の追加の有無について 上記訂正事項における、ラウリン酸含量、ステアリン酸/パルミチン酸の重量比率、及びエステル交換油脂の含有量の記載は、本件特許明細書【0020】の「本発明のロールイン用油脂組成物は、油相中に、全構成脂肪酸に対し、ラウリン酸含量が5?25重量%、パルミチン酸含量が5?25重量%及びステアリン酸含量が10?35重量%であり、ステアリン酸/パルミチン酸の重量比率が0.5?7であるエステル交換油脂を45?95重量%、より好ましくは50?90重量%、液状油を5?25重量%、より好ましくは10?25重量%、及び上昇融点45℃を超える高融点油脂1重量%未満を含有するものである。」及び【0021】の「前記エステル交換油脂中のラウリン酸含量は、より好ましくは10?20重量%であり、パルミチン酸含量はより好ましくは5?20重量%である。また、ステアリン酸含量はより好ましくは15?35重量%である。St/P比は、より好ましくは0.8?5、最も好ましくは1?3である。」との記載に基づくものであるから、新規事項の追加にあたらず、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。 また、訂正後の請求項2?12は、訂正後の請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、請求項2?12についての訂正も同様である。 6 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について 上記訂正事項は、上記4で述べたとおり、特許請求の範囲を減縮するものであり、数値範囲の技術的意義やカテゴリーを変更するものでもないことから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。 また、訂正後の請求項2?12は、訂正後の請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、請求項2?12についての訂正も同様である。 7 まとめ 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?12〕について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 前記第2のとおり本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1?12に係る発明は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 なお、以下、これらを「本件特許発明1」などといい、まとめて「本件特許発明」ともいう。 「【請求項1】 油相中に、全構成脂肪酸に対し、ラウリン酸含量が10?20重量%、パルミチン酸含量が5?25重量%及びステアリン酸含量が10?35重量%であり、ステアリン酸/パルミチン酸の重量比率が1?3であるエステル交換油脂を50?90重量%、液状油5?25重量%及び上昇融点45℃を超える高融点油脂1重量%未満を含有することを特徴とするロールイン用油脂組成物。 【請求項2】 油相中に、上昇融点45℃を超える高融点油脂を含有しない請求項1記載のロールイン用油脂組成物。 【請求項3】 油相中の油脂の上昇融点が30?40℃であり、20℃SFCが20?45%、35℃SFCが10%以下である請求項1記載のロールイン用油脂組成物。 【請求項4】 油相中の油脂の上昇融点が30?40℃であり、20℃SFCが20?45%、35℃SFCが10%以下である請求項2記載のロールイン用油脂組成物。 【請求項5】 油脂含量が50?100重量%である請求項1記載のロールイン用油脂組成物。 【請求項6】 油脂含量が50?100重量%である請求項2記載のロールイン用油脂組成物。 【請求項7】 油脂含量が50?100重量%である請求項3記載のロールイン用油脂組成物。 【請求項8】 油脂含量が50?100重量%である請求項4記載のロールイン用油脂組成物。 【請求項9】 請求項5記載のロールイン用油脂組成物を用いた層状ベーカリー食品。 【請求項10】 請求項6記載のロールイン用油脂組成物を用いた層状ベーカリー食品。 【請求項11】 請求項7記載のロールイン用油脂組成物を用いた層状ベーカリー食品。 【請求項12】 請求項8記載のロールイン用油脂組成物を用いた層状ベーカリー食品。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 当審は、本件特許発明1?12に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由によっては、取り消すことはできないと判断する。 その理由は以下のとおりである。 1 取消理由の概要 訂正前の請求項1?12に係る特許に対して、当審が令和2年5月25日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。 なお、以下、甲第1号証などを単に「甲1」などという。 (1)理由1(新規性) 本件特許の請求項1?12に係る発明は、本件特許の出願前日本国内において、頒布された甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1?12に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 (2)理由2(進歩性) 本件特許の請求項1?12に係る発明は、本件特許の出願前日本国内において、頒布された甲1に記載された発明及び甲2、4?6に記載された周知の技術的事項に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 2 甲号証及び甲号証に記載された事項 (1)甲1(特開2009-95312号公報)には、次の事項が記載されている。 (甲1a)「【請求項1】 ランダムエステル交換により得られた可塑性油脂組成物であって、構成脂肪酸組成が、(1)飽和脂肪酸の合計量が75重量%?85重量%、(2)不飽和脂肪酸の合計量が25重量%?15重量%であって、尚かつ(3)炭素数12以下の飽和脂肪酸が20重量%?30重量%、(4)炭素数が14?18の飽和脂肪酸が45重量%?55重量%で、トランス酸含量が3重量%以下であることを特徴とする可塑性油脂組成物。 ・・・ 【請求項5】 請求項1?4の何れか1項に記載の可塑性油脂組成物を20重量%?80重量%含有することを特徴とする折込み用可塑性油脂組成物。」 (甲1b)「【0001】 本発明は、トランス酸含量が低減され、従来の折込み用油中水型エマルション等に用いられていた可塑性油脂組成物の代替として使用可能な可塑性油脂組成物に関する。」 (甲1c)「【0009】 本発明は、トランス酸含量が低減され、更に従来の折込み用油中水型エマルション等に用いられていた可塑性油脂組成物の代替として使用可能な可塑性油脂組成物を提供することを目的とする。更に他の目的としては、進展性、硬さ、耐熱性の優れた折込み用油中水型エマルションが作製可能な折込み用可塑性油脂組成物、可塑性油脂組成物を提供することを目的とする。 ・・・ 【0016】 本発明の可塑性油脂組成物によれば、トランス酸含量が低減され、更に従来の折込み用油中水型エマルション等に用いられていたトランス酸を含む可塑性油脂組成物とほぼ同等か、それ以上の特性を得ることができ、代替油脂として使用することが可能となる。また、特に折込み用油中水型エマルションを形成する為の折込み用可塑性油脂組成物、可塑性油脂組成物等として使用した場合、トランス酸含量を低減した上で、従来同様に進展性、硬さ、耐熱性の優れた折込み用油中水型エマルションを作製可能となる。 ・・・ 【0020】 本発明の可塑性油脂組成物によれば、従来の配合技術では得られたなかった高次元で特性がバランスされた折込み用油中水型エマルション、更には、これを得るための折込み用可塑性油脂組成物、可塑性油脂組成物を提供することを可能となる。また、これにより、従来の方法では長鎖脂肪酸を使用する為に膨化食品の口溶けが悪くなるという問題があったが、本発明ではこの問題を改善することが可能となった。」 (甲1d)「【0024】 本発明の折込み用可塑性油脂の製造例を以下に例示する。常温で液体油の大豆油、コーン油、菜種油(ローエルシン酸)から1種以上と、大豆極度硬化油、コーン極度硬化油、菜種極度硬化油(ローエルシン酸)から1種以上と、硬化パームカーネルオイル(融点36?40℃)、硬化ヤシ油(融点32?34℃)から1種以上を調合した後、90℃に加熱、脱水を行ないソジウムメチラート0.2重量%添加して90℃で20分反応させる。その後、水洗を繰り返した後、活性白土を2%添加させ90℃、20分の条件で脱色する。脱臭は、250℃、60分にて行い可塑性油脂組成物を得る。前記可塑性油脂成物20重量%?80重量%、精製ラード0重量%?25重量%、常温で液体である大豆油、コーン油、菜種油(ローエルシン酸)を0重量%?30重量%、ヤシ油0重量%?10重量%、必要であれば魚油、パーム油、乳脂肪などを適宜配合し求める折込み用可塑性油脂の物性を調整したものを油相部とする。水相部は、水5重量%?40重量%に風味素材などを適宜溶解し、80℃、20分で殺菌した後、約60℃にしておく。風味素材として各種乳製品、殺菌温度を低く調整するチョコレート、ココアなどの呈味材、食塩、異性化糖、砂糖、転化糖などの糖類、香料、着色料などを用途目的に応じて使用する。乳化剤は、グリセリン脂肪酸エステル、レシチン、プロピレングリコール脂肪酸エステルなど適宜用いる。油相部、水相部ともに約60℃に温調し混合、予備乳化した後、コンビネーターなどの急冷捏和機を用いて冷却捏和、レストチューブなどを用いて結晶調整を行った後、ノズルで成型することでシート状折込み用可塑性油脂を得ることができる。本発明は、急冷が可能となった冷却捏和製造機に対応できる折込み用可塑性油脂組成物であり、製造時のシート成型性と層状膨化食品の物性を兼ね備えた可塑性油脂組成物である。」 (甲1e)「【実施例】 【0026】 以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「%」は重量基準である。 【0027】 <可塑性油脂の脂肪酸組成並びにトランス酸量の測定法> 実施例、比較例で得られた可塑性油脂に対し、GC法(基準油脂分析試験法、2003年版)に準拠して、ガスクロマトグラフィー(機器名:6890Nガスクロマトグラフ、Agilent社製)を用いて、可塑性油脂中の脂肪酸組成、トランス酸量の測定を実施した。 【0028】 <ロールイン用可塑性油脂の硬さ評価法> 実施例・比較例で得た折込み用可塑性油脂を予めペネ缶に充填し、15℃の恒温水槽に2時間温調した後、ペネトロメーター・コーン(102.5g、JIS標準品)の先を油中水型乳化油脂組成物の表面に合わせてから落下させ、5秒後のコーン進入距離(単位:mm)を測定、その数値を10倍して針入度(15℃)として評価値とした。 【0029】 <製パン性試験:折込み用可塑性油脂折込み時評価法> 製パン時の伸展性、生地状態を熟練した研究員が評価した。その際の評価基準は以下の通りである。○:良好(伸展性が良く均一な生地を有すこと)、△:やや良好(やや伸展性が劣るがほぼ均一な生地を有すこと)、×:不良(伸展性が悪く、均一でない生地を有すこと)。 【0030】 <パンの官能評価法> 実施例、比較例で得られたパンを熟練した3人のパネラーによりサンプル名ブラインド方式でクロワッサンの外観、内層状態など総合的に評価した。その際の評価基準は以下の通りであった。○:良好(パンの内層が良く、膜が薄い。パンの外観、内層ともバラツキがない)、△:やや良好(パンの内層がやや良く、やや膜が薄い。パンの外観、内層ともバラツキが少ないない)、×:不良(パンの内層が劣り、膜が厚い。パンの外観、内層ともバラツキが見られる)。 (実施例1) 表1に従って、硬化パームカーネルオイル(融点36℃)60重量%、菜種極度硬化油(ローエルシン酸)(IV:1以下、融点:67℃以上)25重量%、菜種油(ローエルシン酸)15重量%を配合し90℃に加熱、脱水を行ないソジウムメチラート0.2重量%添加して20分反応させた。その後、水洗を繰り返し、活性白土2%添加、90℃、20分の条件で脱色、250℃、60分脱臭して可塑性油脂組成物を得た。得られた可塑性油脂組成物の脂肪酸の構成は、C12以下の飽和脂肪酸26.9重量%、C14?18飽和脂肪酸51.3重量%、C20以上の飽和脂肪酸0.9重量%、飽和脂肪酸の合計79.1重量%でトランス酸2.5重量%であり、上昇融点は35.4℃であった。 【0031】 【表1】 (実施例2) 表1に従って、硬化パームカーネルオイル(融点36℃)60重量%、大豆油極度硬化油(IV:1以下、融点:67℃以上)25重量%、大豆油15重量%を配合し90℃に加熱、脱水を行ないソジウムメチラート0.2重量%添加して20分反応させた。その後、水洗を繰り返し、活性白土を2%添加、90℃、20分の条件で脱色、250℃、60分脱臭して可塑性油脂を得た。脂肪酸の構成は、C12以下の飽和脂肪酸27.9重量%、C14?18飽和脂肪酸53.7重量%、C20以上の飽和脂肪酸0.4重量%、飽和脂肪酸の合計82.0重量%でトランス酸2.6重量%であり、上昇融点は36.2℃であった。 【0032】 (実施例3) 表2に従って、実施例1の可塑性油脂40重量%、精製ラード20重量%、ヤシ油4重量%、菜種油(ローエルシン酸)16重量%を調合し水17.6重量%に食塩2.0重量%を添加、溶解した。乳化剤は、グリセリン脂肪酸エステル0.2重量%、大豆レシチン0.2重量%用いた。油相部、水相部ともに約60℃に温調し混合予備乳化した後、コンビネーターの急冷捏和機を用いて冷却捏和、ノズルで成型してシート状折込み用可塑性油脂を得た。融点37.1℃、針入度15℃で80であった。この折込み用可塑性油脂を用いて表3に示した製パン評価のクロワッサン配合により、表4に示したクロワッサンの作製条件に従って作製して、表5にクロワッサンの評価を示した。製パン物性、クロワッサンの比容積、外観、内層、風味評価を実施して良好と判断した。 【0033】 【表2】 ・・・ 【0036】 【表5】 (実施例4) 表2に従って、実施例2の可塑性油脂40重量%、精製ラード20重量%、ヤシ油4重量%、大豆油16重量%を調合し水17.6重量%に食塩2.0重量%を添加、溶解した。乳化剤は、グリセリン脂肪酸エステル0.2重量%、大豆レシチン0.2重量%用いた。油相部、水相部ともに約60℃に温調し混合予備乳化した後、コンビネーターの急冷捏和機を用いて冷却捏和、ノズルで成型してシート状折込み用可塑性油脂を得た。融点38.1℃、針入度15℃で79であった。このロールイン用可塑性油脂を用いて、表3に示した製パン評価のクロワッサン配合により、表4に示したクロワッサンの作製条件に従って作製して、表5にクロワッサンの評価を示した。製パン物性、クロワッサンの比容積、外観、内層、風味評価を実施して良好と判断した。」(なお、【表1】、【表2】及び【表5】については、実施例1、2及び実施例3、4の部分) (2)甲2(Ralph E.Timms著,佐藤清隆監修,蜂屋巌翻訳,「製菓用油脂ハンドブック」,初版第1刷,株式会社幸書房,2010年2月14日,p.124,164,187)には、次の事項が記載されている。 (甲2a)「1.ランダムエステル交換 方法(a)は食用油の精製施設で実施される標準的なエステル交換工程である.この方法では,触媒を不活性化する不純物を含まない精製された無水の油脂ブレンドにアルカリ性の触媒(典型的にはナトリウムメトキシド)を加えて通常約100℃で反応させる.この反応はTAGのランダム分布を促し,脂肪酸がグリセロールの1-,2-,3-位の全体にわたってランダムに分布する.・・・この製法の本質が統計学的なため,エステル交換された油脂の最終的な平衡TAG組成は簡単に計算され,そして,その油脂の特性も容易に予測される.」(124ページ16?27行) (甲2b)「 」(164ページ 表5.11) (甲2c)「 」(187ページ 表5.17) (3)甲4(特開平4-75590号公報)には、次の事項が記載されている。 (甲4a)「油脂の硬さを示すものとしてSFC(固体脂含有量)がある。これは、所定温度における油脂中の固体脂含有量を示すものであり、可塑性・延展性を示す指標として重要である。ロールイン用油脂では、通常の作業温度(0-30℃)においてSFC値が15-40%になることが望ましい。又、口どけ性の点からいって体温付近の温度ではSFC値が5%以下で、融解するものが望ましい。従って上昇融点は、34-38℃のものが最適であるとされている。」(1ページ右欄10?19行) (4)甲5(特開2012-183080号公報)には、次の事項が記載されている。 (甲5a)「【0016】 本発明のロールイン用油中水型乳化組成物を構成する油脂原料は、10℃におけるSFCが30?70、20℃におけるSFCが10?45、30℃におけるSFCが2?25であるのが好ましい。 このSFCは油脂の固体脂指数を表わすものであって測定方法としては、AOCS Official Method第5版Cd16-81に準じて、60℃に60分置いた後、0℃に移し60分置いた後、各測定温度に移し30分後に測定したものである。下限未満ではロールイン用油中水型乳化組成物が軟らかくなりすぎ、ロールイン作業時に生地が縮んでしまい焼成品の内層が不均一になったり、油中水型乳化組成物が生地に練り込まれてしまい焼成品の内層が詰まってしまったりして好ましくない。上限を超える場合はロールイン用油中水型乳化組成物が硬くなりすぎてしまい場合によっては可塑性を失ってしまい、ロールイン作業時に油中水型乳化組成物が割れてしまい、焼成品の内層が不均一になってしまい好ましくない。」 (5)甲6(特開2016-21941号公報)には、次の事項が記載されている。 (甲6a)「【0022】 本発明のロールイン用乳化油脂組成物の油相は、10℃におけるSFC(固体脂含量)が35?60%であることが好ましく、より好ましくは37?58%であり、さらに好ましくは39?56%である。10℃におけるSFCが60%を超えると、ロールイン用乳化油脂組成物が硬くなりすぎ、展延性が劣る場合がある。また、ロールイン作業時に割れて焼成品の内層が不均一になる場合がある。一方、35%未満になると、ロールイン用乳化油脂組成物が軟らかすぎて、ロールイン作業時に生地に馴染んでしまったり、油脂が滲み出したりして、展延作業での生地が安定せずに、焼成品の浮きに影響を及ぼす場合がある。 【0023】 本発明のロールイン用乳化油脂組成物の油相は、35℃におけるSFCが7%以下であることが好ましく、より好ましくは6%以下であり、さらに好ましくは5%以下である。35℃におけるSFCが7%を超えると、得られるロールイン用乳化油脂組成物及び焼成品の口溶けが悪化してしまう場合があるので好ましくない。 【0024】 ここで、油脂の固体脂指数を表わすSFCは、AOCS Official Method第5版Cd16-81に準じて、60℃に60分置いた後、0℃に移し60分置き、各測定温度に移し30分後に測定したものである。」 3 理由1(新規性)について (1)甲1に記載された発明 ア 甲1の請求項1及び5(上記(甲1a))に係る発明の具体例である実施例1、3及び表1、2(上記(甲1e))からみて、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明A」という。)が記載されていると認める。 甲1発明A: 「油相部に、 ランダムエステル交換により得られた可塑性油脂組成物であって、 構成脂肪酸組成が、 飽和脂肪酸の合計量が79.1重量%であって、尚かつ、飽和脂肪酸が C12以下の飽和脂肪酸が26.9重量%、 C14?18の飽和脂肪酸が51.3重量%、 C16の飽和脂肪酸が8.4重量%、 C20以上の飽和脂肪酸が0.9重量%、 トランス酸含量が2.5重量%であり、 上昇融点が35.4℃である、可塑性油脂組成物を40重量%、 精製ラードを20重量%、 ヤシ油を4重量%、 菜種油(ローエルシン酸)を16重量%、 グリセリン脂肪酸エステルを0.2重量%、及び 大豆レシチンを0.2重量%、 水相部に、 食塩を2重量%、及び 水を17.6重量%含有し、 上昇融点が37.1℃である折込み用可塑性油脂組成物。」 イ また、甲1の請求項1及び5(上記(甲1a))に係る発明の他の具体例である実施例2、4及び表1、2(上記(甲1e))からみて、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明B」という。)も記載されていると認める。 甲1発明B: 「油相部に ランダムエステル交換により得られた可塑性油脂組成物であって、 構成脂肪酸組成が、 飽和脂肪酸の合計量が82.0重量%であって、尚かつ、飽和脂肪酸が C12以下の飽和脂肪酸が27.9重量%、 C14?18の飽和脂肪酸が53.7重量%、 C16の飽和脂肪酸が10.5重量%、 C20以上の飽和脂肪酸が0.4重量%、 トランス酸含量が2.6重量%であり、 上昇融点が36.2℃である、可塑性油脂組成物を40重量%、 精製ラードを20重量%、 ヤシ油を4重量%、 大豆油を16重量%、 グリセリン脂肪酸エステルを0.2重量%、及び 大豆レシチンを0.2重量%、 水相部に、 食塩を2重量%、及び 水を17.6重量%含有し、 上昇融点が38.1℃である折込み用可塑性油脂組成物。」 (2)本件特許発明1について ア 甲1発明Aについて (ア)対比 本件特許発明1と甲1発明Aとを対比する。 a 甲1発明Aの「折込み用可塑性油脂組成物」は、「油相部」と「水相部」とからなるところ、甲1発明Aを認定した実施例3(上記(甲1e))によれば、「油相部」の「グリセリン脂肪酸エステル」及び「大豆レシチン」は乳化剤として用いられ、「油相部」と「水相物」を混合予備乳化した後、急冷捏和して得られたものである。 一方、本件特許明細書【0038】?【0041】に「本発明のロールイン用油脂組成物は、・・・水相を含むマーガリンタイプであるのが好ましい。・・・本発明のロールイン用油脂組成物には、必要に応じて乳化剤を添加しても良い。乳化剤としては、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル・・・などが挙げられる。・・・本発明のロールイン用油脂組成物の製造方法については特に限定されないが、常法通り油相と水相とを予備乳化した後、・・・急冷捏和することにより製造することができる。」と記載されている。 そうすると、本件特許発明1の「ロールイン用油脂組成物」における「油相」は、水相を含む乳化型油脂組成物中の油相であるといえる。 また、甲1発明Aの「折込み用可塑性油脂組成物」は、甲1の上記(甲1e)【0028】のとおり、ロールイン用油脂組成物である。 したがって、甲1発明Aの「油相部」は、本件特許発明1の「油相」に相当し、「油相部」に「グリセリン脂肪酸エステルを0.2重量%、及び大豆レシチンを0.2重量%」含有し、さらに「食塩を2重量%、及び水を17.6重量%」含有する「水相部」を有する甲1発明Aの「折込み用可塑性油脂組成物」は、本件特許発明1の「ロールイン用油脂組成物」に該当しているといえる。 b 甲1発明Aの「菜種油(ローエルシン酸)」は、甲1の上記(甲1d)の記載から、常温で液体である油であるから、本件特許発明1の「液状油」に相当する。 そして、その含量は「油相部」に「16重量%」であるところ、甲1発明Aの重量%は「水相部」を含めて100重量%となる量であるから、「油相部」中の「菜種油(ローエルシン酸)」の含量は、16/(40+20+4+16+0.2+0.2)から計算される19.9重量%といえる。 したがって、甲1発明Aが「油相部」中に「菜種油(ローエルシン酸)」を19.9重量%含有することは、本件特許発明1の「油相中」に「液状油5?25重量%」含有することと、「油相中」に「液状油19.9重量%」含有する点で一致する。 c 甲1発明Aは、「油相部」に「ランダムエステル交換により得られた可塑性油脂組成物」を「40重量%」含有する。 一方、本件特許発明1は、「油相中」に「エステル交換油脂を45?95重量%」含有するところ、本件特許明細書【0017】に「ランダムエステル交換油と液状油を特定比率で含有するロールイン用油脂組成物」と記載され、【0035】に「上記のエステル交換の反応は、ナトリウムメチラートなどの化学的触媒による方法・・・、非選択的なランダム化反応であるのが好ましい。」と記載されていることから、本件特許発明1の「エステル交換油脂」はランダムエステル交換により得られた油脂組成物を含むものといえる。 そうすると、甲1発明Aの「ランダムエステル交換により得られた可塑性油脂組成物」は、本件特許発明1の「エステル交換油脂」に相当する。 そして、その含量は「油相部」に「40重量%」であるから、上記bと同様に「油相部」中の量に換算すると、40/(40+20+4+16+0.2+0.2)から計算される49.8重量%といえる。 したがって、甲1発明Aが「油相部」中に「ランダムエステル交換により得られた可塑性油脂組成物」を49.8重量%含有することは、本件特許発明1の「油相中」に「エステル交換油脂を50?90重量%」含有することと、「油相中」に「エステル交換油脂」を含有する点で共通する。 d 以上のことから、本件特許発明1と甲1発明Aとは、次の一致点及び相違点を有する。 一致点: 「油相中に、エステル交換油脂、液状油19.9重量%を含有するロールイン用油脂組成物。」である点。 相違点A-1: 本件特許発明1は「油相中」に「エステル交換油脂を50?90重量%」含有すると特定しているのに対し、 甲1発明Aは「油相部」に「ランダムエステル交換により得られた可塑性油脂組成物」を49.8重量%含有している点。 相違点A-2: エステル交換油脂について、 本件特許発明1は「全構成脂肪酸に対し、ラウリン酸含量が10?20重量%、パルミチン酸含量が5?25重量%及びステアリン酸含量が10?35重量%であり、ステアリン酸/パルミチン酸の重量比率が1?3」であると特定しているのに対し、 甲1発明Aは「構成脂肪酸組成が、飽和脂肪酸の合計量が79.1重量%であって、尚かつ、飽和脂肪酸がC12以下の飽和脂肪酸が26.9重量%、C14?18の飽和脂肪酸が51.3重量%、C16の飽和脂肪酸が8.4重量%、C20以上の飽和脂肪酸が0.9重量%、トランス酸含量が2.5重量%であり、上昇融点が35.4℃」であると特定している点。 相違点A-3: 本件特許発明1は「油相中」に「エステル交換油脂」及び「液状油」の他に「上昇融点45℃を超える高融点油脂1重量%未満」含有すると特定しているのに対し、 甲1発明Aは「油相部」に「ランダムエステル交換により得られた可塑性油脂組成物」及び「菜種油(ローエルシン酸)」の他に「精製ラードを20重量%、ヤシ油を4重量%」含有すると特定している点。 相違点A-4: 本件特許発明1は「ロールイン用油脂組成物」の上昇融点を特定していないのに対し、 甲1発明Aは「折込み用可塑性油脂組成物」が「上昇融点が37.1℃」であると特定している点。 (イ)判断 事案に鑑み、相違点A-2から検討する。 a パルミチン酸含量について 甲1発明Aの「ランダムエステル交換により得られた可塑性油脂組成物」は、「構成脂肪酸組成」について「飽和脂肪酸の合計量が79.1重量%」であることが特定されている。 さらに、「C12以下の飽和脂肪酸が26.9重量%」、「C14?18の飽和脂肪酸が51.3重量%」、「C16の飽和脂肪酸が8.4重量%」、「C20以上の飽和脂肪酸が0.9重量%」とされているところ、「C16の飽和脂肪酸」以外の含量の合計(26.9+51.3+0.9)が79.1であるから、「C16の飽和脂肪酸」の含量は「C14?18の飽和脂肪酸」の内数であり、かつ、「構成脂肪酸組成」中の「C16の飽和脂肪酸」の含量であることが理解できる。 そして、「C16の飽和脂肪酸」はパルミチン酸のことであるから、甲1発明Aの「ランダムエステル交換により得られた可塑性油脂組成物」は、全構成脂肪酸に対し、パルミチン酸含量が8.4重量%といえる。 b ラウリン酸含量について 甲1発明Aの「ランダムエステル交換により得られた可塑性油脂組成物」は、上記(甲1e)の実施例1に記載の方法で得られたものであるところ、具体的には、硬化パームカーネルオイル(融点36℃)60重量%、菜種極度硬化油(ローエルシン酸)(IV:1以下、融点:67℃以上)25重量%、菜種油(ローエルシン酸)15重量%である油脂混合物を、ランダムエステル交換して得られたものである。 ここで、甲2の上記(甲2c)によれば、ナタネ油(ゼロ-エルカ酸)の典型的な脂肪酸組成には、C12以下の飽和脂肪酸は含まれないことが理解できるから、上記油脂混合物のうち、菜種極度硬化油(ローエルシン酸)及び菜種油(ローエルシン酸)は、C12以下の飽和脂肪酸を含んでおらず、甲1発明Aの「ランダムエステル交換により得られた可塑性油脂組成物」の「構成脂肪酸組成」のうちの「C12以下の飽和脂肪酸」は、上記油脂混合物の硬化パームカーネルオイルにのみ由来するといえる。 そして、甲2の上記(甲2b)によれば、パーム核油(パームカーネルオイルと同義)の脂肪酸組成におけるC12以下の飽和脂肪酸の含量は、全産地の平均からみて、C6の飽和脂肪酸0.3重量%、C8の飽和脂肪酸3.3重量%、C10の飽和脂肪酸3.5重量%及びC12の飽和脂肪酸47.5重量%の合計54.6重量%である(C12以下の脂肪酸に不飽和脂肪酸は含まれていないから、硬化パームカーネルオイルのC12以下の飽和脂肪酸の含量も同様である)と理解できる。 そうすると、甲2の上記(甲2a)に、ランダムエステル交換により得られた油脂の最終的な平衡トリアシルグリセロール組成は簡単に計算されると記載されていることから、甲1発明Aの「ランダムエステル交換により得られた可塑性油脂組成物」の「構成脂肪酸組成」のうちの「C12以下の飽和脂肪酸が26.9重量%」となるように、エステル交換反応した硬化パームカーネルオイルの割合も計算できるといえる。すなわち、26.9/54.6から計算される49.3%の硬化パームカーネルオイルが反応したと理解される。そして、C12以下の飽和脂肪酸の26.9重量%のうちのC12の飽和脂肪酸の含量も硬化パームカーネルオイルの平均的な脂肪酸組成に基づき、47.5×0.493から計算される23.4重量%程度であるといえる。 したがって、「C12の飽和脂肪酸」はラウリン酸のことであるから、甲1発明Aの「ランダムエステル交換により得られた可塑性油脂組成物」においては、全構成脂肪酸に対し、ラウリン酸含量が23.4重量%程度であるといえる。 c ステアリン酸含量について 甲2の上記(甲2c)によれば、ナタネ油(ゼロ-エルカ酸)の典型的な脂肪酸組成にC14の飽和脂肪酸も含まれないことが理解できるから、甲1発明Aの「ランダムエステル交換により得られた可塑性油脂組成物」の「構成脂肪酸組成」のうちの「C14の飽和脂肪酸」も、上記bと同様に硬化パームカーネルオイルにのみ由来するといえる。 そして、甲2の上記(甲2b)によれば、パームカーネルオイルの脂肪酸組成におけるC14の飽和脂肪酸の含量は、全産地の平均からみて16.4重量%である(C14の脂肪酸に不飽和脂肪酸は含まれていないから、硬化パームカーネルオイルのC14の飽和脂肪酸の含量も同様である)と理解できる。 そうすると、上記bと同様に、C14の飽和脂肪酸の含量は、エステル交換反応した硬化パームカーネルオイルの割合である49.3%と硬化パームカーネルオイルの平均的な脂肪酸組成に基づき、16.4×0.493から計算される8.09重量%程度であるといえる。 甲1発明Aは、「C14?18の飽和脂肪酸が51.3重量%」であることが特定されており、C14の飽和脂肪酸の含量が8.09重量%程度であり、上記aのとおり、C16の飽和脂肪酸の含量は8.4重量%であるから、C18の飽和脂肪酸の含量は、51.3-(8.09+8.4)から計算される34.8重量%程度であるといえる。 したがって、「C18の飽和脂肪酸」はステアリン酸のことであるから、甲1発明Aの「ランダムエステル交換により得られた可塑性油脂組成物」においては、全構成脂肪酸に対し、ステアリン酸含量が34.8重量%程度であるといえる。 d ステアリン酸/パルミチン酸の重量比率について ステアリン酸/パルミチン酸の重量比率は、上記a及びcの値に基づき34.8/8.4から4.14程度と計算できるから、甲1発明Aの「ランダムエステル交換により得られた可塑性油脂組成物」は、ステアリン酸/パルミチン酸の重量比率が4.14程度であるといえる。 e 上記a?dのとおり、甲1発明Aの「ランダムエステル交換により得られた可塑性油脂組成物」は、全構成脂肪酸に対し、ラウリン酸含量が23.4重量%程度、パルミチン酸含量が8.4重量%及びステアリン酸含量が34.8重量%程度であり、ステアリン酸/パルミチン酸の重量比率が4.14程度と計算されるところ、本件特許発明1とは、ラウリン酸含量(本件特許発明1では、10?20重量%)及びステアリン酸/パルミチン酸重量比率(本件特許発明1では、1?3)において相違している。 そうすると、甲1発明Aの「ランダムエステル交換により得られた可塑性油脂組成物」について、本件特許発明1の特定方法と同様な特定方法に換算して、その含有量を検討したところ、相違点A-2において相違している。 (ウ)小括 以上のとおりであるから、相違点A-1及びA-3?A-4について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明Aであるとはいえない。 イ 甲1発明Bについて (ア)対比 本件特許発明1と甲1発明Bとを対比する。 a 上記ア(ア)aと同様に、甲1発明Bの「油相部」は、本件特許発明1の「油相」に相当し、「油相部」に「グリセリン脂肪酸エステルを0.2重量%、及び大豆レシチンを0.2重量%」含有し、さらに「食塩を2重量%、及び水を17.6重量%」含有する「水相部」を有する甲1発明Bの「折込み用可塑性油脂組成物」は、本件特許発明1の「ロールイン用油脂組成物」に該当しているといえる。 b 甲1発明Bの「大豆油」は、甲1の上記(甲1d)の記載から、常温で液体である油であるから、本件特許発明1の「液状油」に相当する。 そして、「油相部」中の含量は、上記ア(ア)bと同様に、16/(40+20+4+16+0.2+0.2)から計算される19.9重量%といえる。 したがって、甲1発明Bが「油相部」中に「大豆油」を19.9重量%含有することは、本件特許発明1の「油相中」に「液状油5?25重量%」含有することと、「油相中」に「液状油19.9重量%」含有する点で一致する。 c 上記ア(ア)cと同様に、甲1発明Bの「ランダムエステル交換により得られた可塑性油脂組成物」は、本件特許発明1の「エステル交換油脂」に相当する。 そして、「油相部」中の含量は、40/(40+20+4+16+0.2+0.2)から計算される49.8重量%といえる。 したがって、甲1発明Bが「油相部」中に「ランダムエステル交換により得られた可塑性油脂組成物」を49.8重量%含有することは、本件特許発明1の「油相中」に「エステル交換油脂を50?90重量%」含有することと、「油相中」に「エステル交換油脂」を含有する点で共通する。 d 以上のことから、本件特許発明1と甲1発明Bとは、次の一致点及び相違点を有する。 一致点: 「油相中に、エステル交換油脂、液状油19.9重量%を含有するロールイン用油脂組成物。」である点。 相違点B-1: 本件特許発明1は「油相中」に「エステル交換油脂を50?90重量%」含有すると特定しているのに対し、 甲1発明Bは「油相部」に「ランダムエステル交換により得られた可塑性油脂組成物」を49.8重量%含有している点。 相違点B-2: エステル交換油脂について、 本件特許発明1は「全構成脂肪酸に対し、ラウリン酸含量が10?20重量%、パルミチン酸含量が5?25重量%及びステアリン酸含量が10?35重量%であり、ステアリン酸/パルミチン酸の重量比率が1?3」であると特定しているのに対し、 甲1発明Bは「構成脂肪酸組成が、飽和脂肪酸の合計量が82.0重量%であって、尚かつ、飽和脂肪酸がC12以下の飽和脂肪酸が27.9重量%、C14?18の飽和脂肪酸が53.7重量%、C16の飽和脂肪酸が10.5重量%、C20以上の飽和脂肪酸が0.4重量%、トランス酸含量が2.6重量%であり、上昇融点が36.2℃」であると特定している点。 相違点B-3: 本件特許発明1は「油相中」に「エステル交換油脂」及び「液状油」の他に「上昇融点45℃を超える高融点油脂1重量%未満」含有すると特定しているのに対し、 甲1発明Bは「油相部」に「ランダムエステル交換により得られた可塑性油脂組成物」及び「大豆油」の他に「精製ラードを20重量%、ヤシ油を4重量%」含有すると特定している点。 相違点B-4: 本件特許発明1は「ロールイン用油脂組成物」の上昇融点を特定していないのに対し、 甲1発明Bは「折込み用可塑性油脂組成物」が「上昇融点が38.1℃」であると特定している点。 (イ)判断 事案に鑑み、相違点B-2から検討する。 a パルミチン酸含量について 上記ア(イ)aと同様に、甲1発明Bの「C16の飽和脂肪酸」の含量は「C14?18の飽和脂肪酸」の内数であり、かつ、「構成脂肪酸組成」中の「C16の飽和脂肪酸」の含量であることが理解できる。 そして、「C16の飽和脂肪酸」はパルミチン酸のことであるから、甲1発明Bの「ランダムエステル交換により得られた可塑性油脂組成物」は、全構成脂肪酸に対し、パルミチン酸含量が10.5重量%であるといえる。 b ラウリン酸含量について 甲1発明Bの「ランダムエステル交換により得られた可塑性油脂組成物」は、上記(甲1e)の実施例2に記載の方法で得られたものであるところ、具体的には、硬化パームカーネルオイル(融点36℃)60重量%、大豆極度硬化油(IV:1以下、融点:67℃以上)25重量%、大豆油15重量%である油脂混合物を、ランダムエステル交換して得られたものである。 ここで、甲2の上記(甲2c)によれば、大豆油の典型的な脂肪酸組成には、C12以下の飽和脂肪酸は含まれないことが理解できるから、上記油脂混合物のうち、大豆極度硬化油及び大豆油は、C12以下の飽和脂肪酸を含んでおらず、甲1発明Bの「ランダムエステル交換により得られた可塑性油脂組成物」の「構成脂肪酸組成」のうちの「C12以下の飽和脂肪酸」は、上記油脂混合物の硬化パームカーネルオイルにのみ由来するといえる。 そうすると、上記ア(イ)bと同様に、甲1発明Bの「ランダムエステル交換により得られた可塑性油脂組成物」の「構成脂肪酸組成」のうちの「C12以下の飽和脂肪酸が27.9重量%」となるように、エステル交換反応した硬化パームカーネルオイルの割合は、27.9/54.6から計算される51.1%と理解される。そして、C12以下の飽和脂肪酸の27.9重量%のうちのC12の飽和脂肪酸の含量も硬化パームカーネルオイルの平均的なC12の飽和脂肪酸含量である47.5重量%に基づき、47.5×0.511から計算される24.3重量%程度であるといえる。 したがって、「C12の飽和脂肪酸」はラウリン酸のことであるから、甲1発明Bの「ランダムエステル交換により得られた可塑性油脂組成物」においては、全構成脂肪酸に対し、ラウリン酸含量が24.3重量%程度であるといえる。 c ステアリン酸含量について 甲2の上記(甲2c)によれば、大豆油の典型的な脂肪酸組成にC14の飽和脂肪酸も含まれないことが理解できるから、甲1発明Bの「ランダムエステル交換により得られた可塑性油脂組成物」の「構成脂肪酸組成」のうちの「C14の飽和脂肪酸」も、上記bと同様に硬化パームカーネルオイルにのみ由来するといえる。 そうすると、上記ア(イ)cと同様に、甲1発明Bの「ランダムエステル交換により得られた可塑性油脂組成物」の「構成脂肪酸組成」のうちの「C14の飽和脂肪酸」の含量は、エステル交換反応した硬化パームカーネルオイルの割合である51.1%と硬化パームカーネルオイルの平均的なC14の飽和脂肪酸含量である16.4重量%に基づき、16.4×0.511から計算される8.38重量%程度であるといえる。 そして、甲1発明Bは、「C14?18の飽和脂肪酸が53.7重量%」であることが特定されており、C14の飽和脂肪酸の含量が8.38重量%程度であり、上記aのとおり、C16の飽和脂肪酸の含量は10.5重量%であるから、C18の飽和脂肪酸の含量は、53.7-(8.38+10.5)から計算される34.8重量%程度であるといえる。 したがって、「C18の飽和脂肪酸」はステアリン酸のことであるから、甲1発明Bの「ランダムエステル交換により得られた可塑性油脂組成物」においては、全構成脂肪酸に対し、ステアリン酸含量が34.8重量%程度であるといえる。 d ステアリン酸/パルミチン酸の重量比率について 上記ア(イ)dと同様に、ステアリン酸/パルミチン酸の重量比率は、上記a及びcの値に基づき34.8/10.5から3.31程度と計算できるから、甲1発明Bの「ランダムエステル交換により得られた可塑性油脂組成物」は、ステアリン酸/パルミチン酸の重量比率が3.31程度であるといえる。 e 上記a?dのとおり、甲1発明Bの「ランダムエステル交換により得られた可塑性油脂組成物」は、全構成脂肪酸に対し、ラウリン酸含量が24.3重量%程度、パルミチン酸含量が10.5重量%及びステアリン酸含量が34.8重量%程度であり、ステアリン酸/パルミチン酸の重量比率が3.31程度と計算されるところ、本件特許発明1とは、ラウリン酸含量(本件特許発明1では、10?20重量%)及びステアリン酸/パルミチン酸重量比率(本件特許発明1では、1?3)において相違している。 そうすると、甲1発明Bの「ランダムエステル交換により得られた可塑性油脂組成物」について、本件特許発明1の特定方法と同様な特定方法に換算して、その含有量を検討したところ、相違点B-2において相違している。 (ウ)小括 以上のとおりであるから、相違点B-1及びB-3?B-4について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明Bであるとはいえない。 ウ まとめ よって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明ではない。 (3)本件特許発明2?12について 本件特許発明2?8は、いずれも本件特許発明1を直接又は間接的に引用して、さらに、油相中に、上昇融点45℃を超える高融点油脂を含有しないこと(請求項2)、油相中の油脂の上昇融点が30?40℃であり、20℃SFCが20?45%、35℃SFCが10%以下であること(請求項3、4)、油脂含量が50?100重量%であること(請求項5?8)を特定するものである。 また、本件特許発明9?12は、いずれも本件特許発明1を直接又は間接的に引用する本件特許発明5?8のロールイン用油脂組成物を用いた層状ベーカリー食品に関する。 そうすると、本件特許発明1のすべての発明特定事項を含む本件特許発明2?12についても、上記(2)で検討したのと同様の理由により、甲1に記載された発明ではない。 そして、甲1と同様な、折込み用可塑性油脂組成物に関する甲4?6の開示から、上昇融点が30?40℃程度であり、20℃SFCが20?45%、35℃SFCが10%以下であることが、折込み用可塑性油脂組成物に通常求められる物性であることは、周知の技術的事項であることが理解できるとしても(上記(甲4a)、(甲5a)及び(甲6a))、上記判断に影響はない。 (4)理由1(新規性)についてのまとめ 以上のとおり、本件特許発明1?12は、甲1に記載された発明とはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当する発明ではなく、これら発明の特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。 4 理由2(進歩性)について (1)甲1に記載された発明 上記3(1)ア及びイに記載したとおりである。 (2)本件特許発明1について ア 甲1発明Aについて (ア)対比 本件特許発明1と甲1発明Aとを対比すると、両発明は、上記3(2)ア(ア)dのとおりの一致点及び相違点A-1?A-4を有する。 相違点A-1及び相違点A-2を再掲する。 相違点A-1: 本件特許発明1は「油相中」に「エステル交換油脂を50?90重量%」含有すると特定しているのに対し、 甲1発明Aは「油相部」に「ランダムエステル交換により得られた可塑性油脂組成物」を49.8重量%含有している点。 相違点A-2: エステル交換油脂について、 本件特許発明1は「全構成脂肪酸に対し、ラウリン酸含量が10?20重量%、パルミチン酸含量が5?25重量%及びステアリン酸含量が10?35重量%であり、ステアリン酸/パルミチン酸の重量比率が1?3」であると特定しているのに対し、 甲1発明Aは「構成脂肪酸組成が、飽和脂肪酸の合計量が79.1重量%であって、尚かつ、飽和脂肪酸がC12以下の飽和脂肪酸が26.9重量%、C14?18の飽和脂肪酸が51.3重量%、C16の飽和脂肪酸が8.4重量%、C20以上の飽和脂肪酸が0.9重量%、トランス酸含量が2.5重量%であり、上昇融点が35.4℃」であると特定している点。 (イ)判断 a 事案に鑑み、相違点A-1と相違点A-2を一緒に検討する。 上記3(2)ア(ア)cで述べたとおり、油相部に対するランダムエステル交換により得られた可塑性油脂組成物の含有量は、甲1発明Aから算出された値によるものであって、本件特許発明1で特定する50?90重量%の下限値と極めて近い数値である。 そして、甲1には、折込み用可塑性油脂組成物に、ランダムエステル交換により得られた可塑性油脂組成物を20重量%?80重量%含有することが記載されているから(上記(甲1a)、(甲1d))、ランダムエステル交換により得られた可塑性油脂組成物の効果の発現を重視して、その含有量を49.8重量%より多い50重量%程度以上にして、相違点A-1に係る構成とすること自体は、一応当業者が容易になし得るものといえる。 b しかしながら、相違点A-2に関して、甲1には、ランダムエステル交換により得られる可塑性油脂組成物について、その製造方法としては、常温で液体油の大豆油、コーン油、菜種油(ローエルシン酸)から1種以上と、大豆極度硬化油、コーン極度硬化油、菜種極度硬化油(ローエルシン酸)から1種以上と、硬化パームカーネルオイル(融点36?40℃)、硬化ヤシ油(融点32?34℃)から1種以上を調合した原料を用いることが記載されている(上記(甲1d))。 そして、原料油脂混合物の種類や比率によって、ランダムエステル交換により得られた可塑性樹脂組成物の構成脂肪酸組成が変化することが理解できるところ、甲1は、トランス酸含量が低減され、従来の折込み用油中水型エマルション等に用いられていた可塑性油脂組成物の代替として使用可能な可塑性油脂組成物を提供することを目的として、その構成脂肪酸組成について、飽和脂肪酸の合計量、不飽和脂肪酸の合計量、炭素数12以下の飽和脂肪酸量、炭素数が14?18の飽和脂肪酸量、トランス酸含量に着目して、「(1)飽和脂肪酸の合計量が75重量%?85重量%、(2)不飽和脂肪酸の合計量が25重量%?15重量%であって、尚かつ(3)炭素数12以下の飽和脂肪酸が20重量%?30重量%、(4)炭素数が14?18の飽和脂肪酸が45重量%?55重量%で、トランス酸含量が3重量%以下である」ようにしたものである(上記(甲1a)、(甲1b)及び(甲1c))。 一方、本件特許発明1も、本件特許明細書【0019】のとおり、トランス脂肪酸含量が5重量%未満である低トランスタイプのロールイン用油脂組成物を提供するものであるが、エステル交換油脂の構成脂肪酸組成については、全構成脂肪酸に対するラウリン酸含量、パルミチン酸含量、ステアリン酸含量、ステアリン酸/パルミチン酸の重量比率に着目して、「全構成脂肪酸に対し、ラウリン酸含量が10?20重量%、パルミチン酸含量が5?25重量%及びステアリン酸含量が10?35重量%であり、ステアリン酸/パルミチン酸の重量比率が1?3である」と特定したものである。 すなわち、両発明は、エステル交換油脂の構成脂肪酸組成について異なる視点で成分組成を特定したものである。 c そうすると、甲1発明Aにおいて、ランダムエステル交換により得られた可塑性樹脂組成物の含有量を49.8重量%から50?90重量%の範囲内に増加させるとともに、その構成脂肪酸組成について、甲1で特定する条件にかえて、本件特許発明1で特定する点に着目して、原料油脂混合物の種類や比率を変更して、相違点A-2に係る構成となるようにする動機付けがない。 そして、本件特許発明1は、本件特許明細書【0019】に記載の、焼成1日後に焼き立て同様のジューシーな口当りとさっくりとした歯切れを有する層状ベーカリー食品の提供が可能となるという、甲1の記載からは予測もできない効果を奏するものである。 (ウ)小括 以上のとおりであるから、相違点A-3?A-4について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明Aに基いて、当業者が容易になし得たものではない。 イ 甲1発明Bについて 本件特許発明1と甲1発明Bとを対比すると、両発明は、上記3(2)イ(ア)dのとおりの一致点及び相違点B-1?B-4を有するところ、相違点B-1及びB-2は、それぞれ、上記ア(イ)で検討した本件特許発明1と甲1発明Aとの相違点A-1及びA-2と同様であるから、同様に、相違点B-1に係る構成とすること自体は、一応当業者が容易になし得るものといえるとしても、それとともに、相違点B-2に係る構成となるようにする動機付けがない。 よって、相違点B-3?B-4について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明Bに基いて、当業者が容易になし得たものではない。 ウ まとめ よって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)本件特許発明2?12 上記3(3)のとおり、本件特許発明2?12は、いずれも本件特許発明1を直接又は間接的に引用するものである。 そうすると、本件特許発明1のすべての発明特定事項を含む本件特許発明2?12についても、上記(2)で検討したのと同様の理由により、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 また、甲4?6に記載された周知の技術的事項を考慮しても(上記(甲4a)、(甲5a)及び(甲6a))、上記判断に影響はない。 (4)理由2(進歩性)についてのまとめ 以上のとおり、本件特許発明1?12は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、これら発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。 第5 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由について 当審は、本件特許発明1?12に係る特許は、申立人が申し立てた理由によっても、取り消すことはできないと判断する。 その理由は以下のとおりである。 1 申立て理由の概要 訂正前の請求項1?12に係る特許に対して、申立人が申し立てた理由の要旨及び証拠方法は次のとおりである。 (1)理由1(進歩性) 本件特許の請求項1?12に係る発明は、本件特許の出願前日本国内において、頒布された甲1に記載された発明及び甲2?6に記載される周知技術に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (2)理由2(サポート要件) 本件の請求項1?12に係る特許は、発明の詳細な説明に記載の実施例に用いた油脂のステアリン酸/パルミチン酸の重量比率が特定範囲のもののみであるので、その特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。 したがって、本件の請求項1?12に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (3)理由3(明確性) 本件特許の請求項2、4、6、8、10及び12に係る特許は、請求項2の「油相中に、上昇融点45℃を超える高融点油脂を含有しない」との記載と、引用している請求項1の「油相中に、・・・上昇融点45℃を超える高融点油脂1重量%未満を含有する」との記載との関係で発明の範囲が不明確であり、その特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。 したがって、請求項2、4、6、8、10及び12に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (4)証拠方法 甲1:特開2009-95312号公報 甲2:Ralph E.Timms著,佐藤清隆監修,蜂屋巌翻訳,「製菓用油脂ハンドブック」,初版第1刷,株式会社幸書房,2010年2月14日,p.124,164,187 甲3:特開2013-188205号公報 甲4:特開平4-75590号公報 甲5:特開2012-183080号公報 甲6:特開2016-21941号公報 2 甲号証の記載 (1)甲1?2及び4?6の記載 前記第4 2(1)?(5)のとおりである。 (2)甲3(特開2013-188205号公報)には、次の事項が記載されている。 (甲3a)「【0001】 本発明は、口溶けがよく、ジューシー感を有するベーカリー食品を製造することができるベーカリー食品用油脂組成物、詳しくはロールイン用油脂組成物に好適なベーカリー食品用油脂組成物に関する。」 (甲3b)「【0018】 本発明のベーカリー食品用油脂組成物の全油脂中のトリグリセリド組成が上記の1)?4)の条件の全てを満たす具体的な配合油脂としては、以下の油脂Aと油脂Bと油脂Cとを用いて、上記1)?4)の条件を全て満たすように配合することにより得られる。 ・・・ 【0021】 上記の油脂Cは融点が50℃以上の油脂であり、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、ナタネ油、キャノーラ油、ハイオレイックキャノーラ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、オリーブ油、落花生油、カポック油、胡麻油、月見草油、カカオ脂、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、牛脂、乳脂、豚脂、魚油、鯨油等の各種植物油脂、動物油脂の極度硬化油やパームステアリンを挙げることができる。・・・ ・・・ 【0024】 上記油脂Cの含有量は、本発明のベーカリー食品用油脂組成物の全油脂中、好ましくは0.1?8質量%、さらに好ましくは0.2?7質量%、一層好ましくは0.3?5質量%、最も好ましくは0.5?2質量%である。本発明のベーカリー食品用油脂組成物の全油脂中、上記油脂Cの含有量が0.1質量%よりも少ないと、本発明のベーカリー食品用油脂組成物をロールイン用油脂組成物として用いたベーカリー食品において内層不良となりやすく、本発明のベーカリー食品用油脂組成物を練り込み用油脂組成物として用いたベーカリー食品の内相において気泡膜が厚くなりやすかったり、目が詰まりやすい。8質量%よりも多いと口溶けが悪く、優れたジューシー感と甘味の発現性を有するベーカリー食品を得られにくい。」 3 当審の判断 (1)理由1(進歩性)について ア 申立人は、特許異議申立書9ページ16行?17ページ12行において、概略、甲1の実施例1又は実施例2から甲1に記載された発明を認定し、甲2の記載を参酌して、前記第4 3(2)ア(イ)又はイ(イ)で述べたのと同様に、ランダムエステル交換により得られた可塑性油脂組成物の構成脂肪酸組成を算出したところ、本件特許発明1と甲1に記載された発明とは、エステル交換油脂の構成脂肪酸組成及び含有量、液状油の含有量について相違するところはなく、本件特許発明1との相違点は、本件特許発明1は「上昇融点45℃を超える高融点油脂1重量%未満を含有する」と特定しているのに対し、甲1にはそのように記載されていないことをあげている。 そして、この相違点について、ロールイン用油脂組成物に好適なベーカリー食品用油脂組成物に関する甲3に、融点が50℃以上の油脂の含有量は、0.1?8質量%であることが好ましく、0.1質量%よりも少ないと、ベーカリー食品用油脂組成物をロールイン用油脂組成物として用いたベーカリー食品において内層不良となりやすいことが記載されていることから(上記(甲3a)、(甲3b))、ロールイン用油脂組成物において、「上昇融点45℃を超える高融点油脂」を「1重量%未満含有する」ように配合することは、当業者が適宜なし得た単なる設計的事項に過ぎない旨主張している。 イ しかしながら、前記第4 4(2)ア(イ)又はイで述べたとおり、本件特許発明1と甲1に記載された発明とは、エステル交換油脂について、その含有量において相違しているとともに、その構成脂肪酸組成について異なる視点で成分組成を特定した点でも相違しており、この相違点は、当業者が容易になし得たものではない。 そして、甲3の上記記載を考慮しても、当業者が容易になし得たものとはいえず、甲4?6に記載される周知の事項を考慮しても、同様である。 したがって、本件特許発明1及び本件特許発明1を直接又は間接的に引用する本件特許発明2?12は、甲1に記載された発明及び甲2?6に記載される周知技術に基いて、当業者が容易なし得たものとはいえない。 ウ よって、申立人の申し立てた理由1(進歩性)は理由がない。 (2)理由2(サポート要件)について ア 本件特許明細書の記載 (ア)背景技術に関する記載 「【0002】 パイやデニッシュなどの層状ベーカリー食品の製造には、層状構造をつくるために、生地にロールイン油脂組成物を層状に折り込まれる。・・・ロールイン用油脂組成物には生地に折り込む際の広い温度域、例えば5?25℃における伸展性と焼成後の優れた歯切れ、口溶けが要求される。 【0003】 上記要求に対して、従来は動植物油脂の水素添加油を高融点油脂や中融点油脂としてロールイン用油脂組成物に液状油脂とともに配合することにより、伸展性と焼成後の優れた歯切れ、口溶けを満足するロールイン用油脂組成物が得られていた。 【0004】 近年、水素添加油に由来する油脂中のトランス脂肪酸の健康に与える悪影響が問題視され、・・・低トランスタイプのロールイン用油脂組成物への要望が高まり、かかる低トランスタイプで伸展性と焼成後の優れた歯切れ、口溶けを満足する可塑性油脂及びそれを用いたロールイン用油脂組成物が要望されている。 【0005】 上記に加えて、・・・焼き立てのジューシーな口当たり、さっくりと歯切れの良い食感が消費者に好まれていると言える。・・・ジューシーな口当たり、さっくり歯切れの良い食感を長時間にわたり維持できる技術が強く望まれている。 ・・・ 【0007】 ・・・ロールイン用油脂組成物は幅広い温度帯で硬さの変化が少なく伸展性に優れ、ホイロで融け出さない品質が望ましいとされており、バターのような作業温度域が狭い油脂組成物は実質的に使用することは難しい。 【0008】 このような問題を克服する為、ロールイン用油脂組成物の油相に高融点脂を配合し、幅広い温度帯で硬さの変化が少なく展延性に優れ、且つホイロで融け出さないようにする方法が一般的に知られているが、これらを使用して得られるクロワッサン、パイ、デニッシュペストリーはジューシー感に乏しくなってしまう問題がある。」 (イ)発明が解決しようとする課題に関する記載 「【0015】 本発明は、トランス脂肪酸含量が5重量%未満である低トランスタイプで、コシが強く広い温度域で伸展性に優れ、優れた口溶けを有するロールイン用油脂組成物、該ロールイン用油脂組成物を使用して得られる、焼成1日後に焼き立て同様のジューシーな口当りとさっくりとした歯切れを有する層状ベーカリー食品の提供を課題とする。」 (ウ)課題を解決するための手段に関する記載 「【0017】 本発明者は、上記課題を解決するロールイン用油脂組成物を鋭意検討した結果、全構成脂肪酸組成のラウリン酸含量、パルミチン酸含量及びステアリン酸含量を特定の割合としたランダムエステル交換油と液状油を特定比率で含有するロールイン用油脂組成物が優れたコシと進展性を有し、該ロールイン用油脂組成物、該ロールイン用油脂組成物を用いて焼成した層状ベーカリーが焼成1日後の焼き立て同様のジューシーな口当りと優れた歯切れを有することを見出し、本発明を完成させた。」 (エ)ロールイン用油脂組成物に関する記載 「【0020】 本発明のロールイン用油脂組成物は、油相中に、・・・エステル交換油脂を45?95重量%、より好ましくは50?90重量%、液状油を5?25重量%、より好ましくは10?25重量%、及び上昇融点45℃を超える高融点油脂1重量%未満を含有するものである。 前記エステル交換油脂の含有量が45重量%未満であると、ロールイン用油脂組成物のコシが弱くなる傾向にある。逆に、95重量%を超えると、ロールイン用油脂組成物を使用して得られた層状ベーカリー食品の焼成1日後のジューシー感が低下する傾向にある。液状油の含有量が5重量%未満であると、同様にロールイン用油脂組成物を使用して得られた層状ベーカリー食品の焼成1日後のジューシー感が低下する傾向にある。また、液状油の含有量が25重量%を超えると、ロールイン用油脂組成物のコシが弱くなる傾向にある。なお、本発明においては、ロールイン用油脂組成物の油相中に一般的に配合される、上昇融点45℃を超える高融点油脂の含有量は1重量%未満であり、より好ましくは全く含有しないのが望ましい。かかる高融点油脂を配合すると、ロールイン用油脂組成物の口溶けが低下するとともに、ロールイン用油脂組成物を使用して得られた層状ベーカリー食品の焼成1日後のジューシー感の発現も阻害される傾向にある。」 (オ)エステル交換油脂の構成脂肪酸組成に関する記載 「【0021】 前記エステル交換油脂中のラウリン酸含量は、より好ましくは10?20重量%であり、パルミチン酸含量はより好ましくは5?20重量%である。また、ステアリン酸含量はより好ましくは15?35重量%である。St/P比は、より好ましくは0.8?5、最も好ましくは1?3である。 【0022】 上記のラウリン酸含量が5重量%より少ないと、ロールイン用油脂組成物の口溶けが低下する傾向にあり、最終製品の層状ベーカリーの口溶けも重くなる傾向にある。逆に、25重量%を超えると、ロールイン用油脂組成物が低温で硬くなる傾向にあり、ロールイン用油脂組成物のコシが弱くなるとともに広い温度域、例えば5?25℃での伸展性が低下する傾向にあり、好ましくない。 【0023】 上記のパルミチン酸含量が5重量%より少ないと、ロールイン用油脂組成物の口溶けがやはり低下する傾向にあり、最終製品の層状ベーカリーの口溶けも重くなる傾向にある。逆に、25重量%を超えると、ロールイン用油脂組成物が低温でやや硬くなる傾向にあり、ロールイン用油脂組成物のコシが弱くなるとともに広い温度域、例えば5?25℃での伸展性が低下する傾向にある。 【0024】 上記のステアリン酸含量が10重量%より少ないと、ロールイン用油脂組成物の口溶けは良くなる傾向であるが、ロールイン用油脂組成物が低温で硬くなる傾向にあり、ロールイン用油脂組成物のコシが弱くなるとともに広い温度域、例えば5?25℃での伸展性が低下するため、好ましくない。逆に、35重量%を超えると、ロールイン用油脂組成物の口溶けがやはり低下する傾向にあり、最終製品の層状ベーカリーの口溶けも重くなる傾向にある。 【0025】 上記のステアリン酸/パルミチン酸の重量比率が0.5未満であると、ロールイン用油脂組成物の口溶けは良くなる傾向であるが、ロールイン用油脂組成物が低温で硬くなる傾向にあり、ロールイン用油脂組成物のコシが弱くなるとともに広い温度域、例えば5?25℃での伸展性が低下するため、好ましくない。逆に、7を超えると、ロールイン用油脂組成物の口溶けがやはり低下する傾向にあり、最終製品の層状ベーカリーの口溶けも重くなる傾向にある。」 (カ)実施例の記載 「【0044】 (エステル交換油脂の調製) 試作例1 ・・・ 【0049】 表1 【0050】 ロールイン用油脂組成物の調製用として、別に下記の高融点エステル交換油脂を調製した。 試作例6(高融点エステル交換油脂) ・・・エステル交換油脂6得た。油脂6の上昇融点は46℃あった。 また、高融点油脂として、高エルシン酸菜種極度硬化油(ヨウ素価1.0、上昇融点62℃)の精製油を調製した。 【0051】 (ロールイン用油脂組成物の調製) 実施例1 ・・・ 【0058】 実施例1?3、比較例1?4で調製したロールイン用油脂組成物の油相分析結果を表2に示した。 表2 【0059】 (層状ベーカリー食品の調製) 実施例1?3及び比較例1?4で調製したロールイン用油脂組成物1?7を用いて、下記の配合でクロワッサンを調製した。 ・・・ 【0061】 (ロールイン用油脂組成物のコシ及び伸展性の評価) 10℃と20℃の恒温室で温調したロールイン用油脂組成物を生地に包んで折り込み(対粉50%)、リバースシーターで3つ折りを2回行い、ロールイン用油脂組成物の伸展性を下記の基準で評価した。また、最終展延時の生地状態から、ロールイン油脂組成物のコシを下記の基準で評価した。評価結果を表3に示した。いずれも○以上を合格とした。 (10℃温調した際のロールイン(伸展性)評価) ◎:ロールイン用油脂組成物に割れずに端まできれいに油脂が伸びる ○:ロールイン用油脂組成物に割れないが、端に生地が残る。 △:ロールイン用油脂組成物に僅かな割れがみられて、端に生地が残る。 ×:ロールイン用油脂が割れ、伸びにくい。 (20℃温調した際のロールイン(伸展性)評価) ◎:ロールイン用油脂は割れずに伸びて、軟化せず生地も縮まない ○:ロールイン用油脂は割れずに伸びるが、やや軟化し、生地が縮む △:ロールイン用油脂は割れずに伸びるが、軟化し、生地が縮む。 ×:ロールイン用油脂の軟化し生地に練り込まれる (最終展延後の成形後の生地状態(コシの評価) ◎:生地のコシが強く、全く縮まず、成形性もよい。 ○:生地にコシがあり、ほとんど縮まず、成形性もよい △:生地がやや軟らかく、やや縮むため、成形性が劣る。 ×:生地が軟らかく、縮むため、成形性が悪い。 【0062】 (層状ベーカリー食品の評価) 上記で調製したクロワッサン1?6について、パネラー7名による官能評価を行い、焼成1日後の口溶け、ジューシー感、及び食感(歯切れ、サクサク感)について評価した結果を表3に示した。いずれも○以上を合格とした。 (口溶け) ◎:非常に良好 ○:良好 △:やや悪い ×:悪い (ジューシー感) ◎:非常に良好 ○:良好 △:やや悪い ×:悪い (食感) ◎:歯切れ、サクサク感とも非常に良好 ○:歯切れ、サクサク感とも良好 △:歯切れ、サクサク感にやや乏しい ×:歯切れ、サクサク感が乏しい 【0063】 表3 【0064】 表3に示すように、本発明のエステル交換油脂1?3と菜種油の混合油を油相として使用した実施例1?3は、10?20℃で良好な伸展性を有しており、コシに優れたものであった。また、ロールイン用油脂組成物1?3を用いて、焼成した実施例4?6は口溶け良好で、ジューシー感、歯切れ、サクサク感とも良好なものであった。St/P比が低いエステル交換油脂4?5と菜種油の混合油を油相として使用した比較例1?2は、口溶けとジューシー感は良好であったが、10?20℃での進展性に乏しく、クロワッサンの歯切れもやや悪いものであった。本発明のエステル交換油脂1と菜種油の混合油に、高融点油脂であるエステル交換油脂6または高エルシン酸菜種極度硬化油を配合した比較例3?4は、10?20℃で良好な伸展性を有し、クロワッサンの歯切れは良好であったが、口溶けがやや悪くジューシー感に乏しいものであった。 【0065】 実施例7 試作例1で調製した油脂1 ・・・組織良好なロールイン用油脂組成物8を得た。なお、油相の上昇融点は35.7℃であった。 ・・・ 【0072】 表4に、実施例13、比較例7で調製したロールイン用油脂組成物の油相分析結果を示した。 表4 【0073】 実施例11?14、比較例12?14 実施例4?6同様に、実施例11?14及び比較例12?14で調製したロールイン用油脂組成物8?14を用いてクロワッサンを調製し、クロワッサン8?14を得た。ロールイン用油脂組成物8?14のコシ・伸展性の評価を10℃及び20℃の条件で実施例4?6同様に行い、またクロワッサン8?14の評価を実施例4?6同様に行い、その結果を表5に示した。 表5 」 イ 本件特許発明の解決しようとする課題 本件特許明細書の記載、特に上記ア(ア)及び(イ)からみて、本件特許発明1?8の解決しようとする課題は、「トランス脂肪酸含量が5重量%未満である低トランスタイプで、コシが強く広い温度域で伸展性に優れ、優れた口溶けを有するロールイン用油脂組成物を提供すること」にあり、本件特許発明9?12の解決しようとする課題は、「該ロールイン用油脂組成物を使用して得られる、焼成1日後に焼き立て同様のジューシーな口当りとさっくりとした歯切れを有する層状ベーカリー食品を提供すること」にあると認める。 ウ 判断 本件特許明細書の上記ア(ウ)?(オ)の一般記載及び上記ア(カ)の実施例の記載から、ロールイン用油脂組成物において、油相中に、特定の構成脂肪酸組成を有するエステル交換油脂と液状油とを特定量で含有し、上昇融点45℃を超える高融点油脂を1重量未満含有すること、また該ロールイン用油脂組成物を用いた層状ベーカリー食品とすることで、上記課題を解決できることが理解できる。 したがって、本件特許発明1?12は、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、本件特許発明1?12の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内のものであるから、本件特許発明1?12が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満足しないとはいえない。 エ 申立人の主張について (ア)申立人は、特許異議申立書17ページ13行?18ページ16行において、概略次のように主張する。 本件特許明細書の実施例(上記ア(カ))によると、実施例に用いた油脂のステアリン酸/パルミチン酸の重量比率はいずれも1.0以上の値であり、1.0未満の記載はないうえに、該比率が0.1又は0.3である油脂は比較例に用いられているから、ステアリン酸/パルミチン酸の重量比率が1.0未満である場合については、発明の詳細な説明に記載されていない。 同様に、ステアリン酸含有量も、21.8重量%より少ない場合については、発明の詳細な説明に記載されていない。 (イ)申立人の上記主張について検討する。 本件特許明細書全体の記載から、本件特許発明のロールイン用油脂組成物は、特許請求の範囲に記載された発明特定事項を満たすことで、課題を解決したものであることが理解できることは、上記ウで述べたとおりであるところ、申立人は、課題を解決できないといえる具体的な根拠を示していない。 そして、ステアリン酸/パルミチン酸の重量比率やステアリン酸含有量などの一つの条件でみれば、発明特定事項の範囲のすべてに渡る実施例が記載されていないとしても、上記ア(オ)の一般記載から、ステアリン酸/パルミチン酸の重量比率が0.5?7であることや、ステアリン酸含有量が10?35重量%であることにより、ロールイン用油脂組成物の口溶けや広い温度域での伸展性などが優れることが理解でき、上記ア(カ)の実施例によれば、それぞれ、1.0?5.2、21.8?30.4重量%のときに、課題を解決できることが具体的に確認されているので、当業者であれば、本件特許発明全体について、課題を解決できると認識できるといえる。 なお、ステアリン酸/パルミチン酸の重量比率については、本件訂正により1?3に特定されており、実施例で課題を解決できることが確認された範囲内のものである。 したがって、申立人の主張は採用できない。 オ よって、申立人の申し立てた理由2(サポート要件)は理由がない。 (3)理由3(明確性)について ア 本件特許発明2、4、6、8、10及び12について 本件特許発明2は、「油相中に、・・・上昇融点45℃を超える高融点油脂1重量%未満を含有することを特徴とするロールイン用油脂組成物。」である本件特許発明1を引用して、「油相中に、上昇融点45℃を超える高融点油脂を含有しない」と特定するものである。 そして、本件特許発明1では、油相中に、上昇融点45℃を超える高融点油脂を含有する場合と、含有しない場合の両方が含まれており、含有する場合には、その上限が1重量%未満であることを特定しているものを、本件特許発明2では、油相中に、上昇融点45℃を超える高融点油脂を含有しない場合に限定したものであることを、明確に理解できる。 このことは、本件特許明細書【0020】に、「なお、本発明においては、ロールイン用油脂組成物の油相中に一般的に配合される、上昇融点45℃を超える高融点油脂の含有量は1重量%未満であり、より好ましくは全く含有しないのが望ましい。」と記載されていることとも一致している。 したがって、本件特許発明2及び本件特許発明2を直接又は間接的に引用する本件特許発明4、6、8、10及び12は、明確である。 イ 申立人の主張について 特許異議申立書18ページ17行?19ページ3行における申立人の主張は、本件特許発明2が本件特許発明1を引用するため、油相中に、上昇融点45℃を超える高融点油脂を1重量%未満含有する場合と、油相中に、上昇融点45℃を超える高融点油脂を含有しない場合の両方を含むものとも理解でき、発明の範囲が明確でないというものと解される。 しかしながら、上記アのとおり、本件特許発明2の記載は発明の範囲が明確であって、申立人の主張する不備はない。 ウ よって、申立人の申し立てた理由3(明確性)は理由がない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1?12に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 油相中に、全構成脂肪酸に対し、ラウリン酸含量が10?20重量%、パルミチン酸含量が5?25重量%及びステアリン酸含量が10?35重量%であり、ステアリン酸/パルミチン酸の重量比率が1?3であるエステル交換油脂を50?90重量%、液状油5?25重量%及び上昇融点45℃を超える高融点油脂1重量%未満を含有することを特徴とするロールイン用油脂組成物。 【請求項2】 油相中に、上昇融点45℃を超える高融点油脂を含有しない請求項1記載のロールイン用油脂組成物。 【請求項3】 油相中の油脂の上昇融点が30?40℃であり、20℃SFCが20?45%、35℃SFCが10%以下である請求項1記載のロールイン用油脂組成物。 【請求項4】 油相中の油脂の上昇融点が30?40℃であり、20℃SFCが20?45%、35℃SFCが10%以下である請求項2記載のロールイン用油脂組成物。 【請求項5】 油脂含量が50?100重量%である請求項1記載のロールイン用油脂組成物。 【請求項6】 油脂含量が50?100重量%である請求項2記載のロールイン用油脂組成物。 【請求項7】 油脂含量が50?100重量%である請求項3記載のロールイン用油脂組成物。 【請求項8】 油脂含量が50?100重量%である請求項4記載のロールイン用油脂組成物。 【請求項9】 請求項5記載のロールイン用油脂組成物を用いた層状ベーカリー食品。 【請求項10】 請求項6記載のロールイン用油脂組成物を用いた層状ベーカリー食品。 【請求項11】 請求項7記載のロールイン用油脂組成物を用いた層状ベーカリー食品。 【請求項12】 請求項8記載のロールイン用油脂組成物を用いた層状ベーカリー食品。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2020-12-14 |
出願番号 | 特願2019-513082(P2019-513082) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(A23D)
P 1 651・ 113- YAA (A23D) P 1 651・ 121- YAA (A23D) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 山本 匡子 |
特許庁審判長 |
瀬良 聡機 |
特許庁審判官 |
井上 千弥子 関 美祝 |
登録日 | 2019-07-19 |
登録番号 | 特許第6555451号(P6555451) |
権利者 | 不二製油株式会社 |
発明の名称 | ロールイン用油脂組成物 |