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審決分類 審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
管理番号 1371697
異議申立番号 異議2019-700530  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-04-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-07-05 
確定日 2021-01-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6447106号発明「PC/ASA樹脂組成物およびその樹脂成形品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6447106号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?2〕について訂正することを認める。 特許第6447106号の請求項1?2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6447106号は平成26年12月24日に出願され、平成30年12月14日に特許権の設定登録がなされ、平成31年1月9日にその特許公報が発行され、その後、請求項1?2に係る特許に対して、令和元年7月5日に特許異議申立人 末吉直子(以下、「申立人」という。)から特許異議の申立てがなされたものである。そして、その後の経緯は以下のとおりである。

令和元年10月 9日付け:取消理由の通知
同年12月13日 :訂正の請求及び意見書の提出(特許権者)
令和2年 2月 4日 :意見書の提出(申立人)
同年 2月26日付け:訂正拒絶理由の通知
同年 3月31日 :意見書の提出(特許権者)
同年 5月21日付け:取消理由の通知<決定の予告>
同年 7月29日 :訂正の請求及び意見書の提出(特許権者)
(申立人からは、令和2年7月29日提出の特許権者からの訂正の請求及び意見書に対する意見書の提出は無かった。)

第2 訂正の可否
1 訂正の内容
令和2年7月29日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。なお、訂正前の請求項1?2は一群の請求項である。
(本件訂正により、令和元年12月13日提出の訂正請求書による訂正は取り下げられたものとみなす。)

訂正事項1:特許請求の範囲の請求項1の
「(C)グラフト共重合体は、主鎖がポリエチレンで側鎖がアクリロニトリル-スチレン」を、
「(C)グラフト共重合体は、主鎖がポリエチレンホモポリマーで側鎖がアクリロニトリル-スチレン」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、訂正前の「(C)グラフト共重合体」に関し、該共重合体の主鎖を訂正前のホモポリマーかコポリマーか判然としなかった「ポリエチレン」との規定を、「ポリエチレンホモポリマー」と明確にするものである。また、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項ないし第6項の各規定に適合するので、本件訂正を認める。

第3 本件訂正後の請求項1?2に係る発明
本件訂正により訂正された訂正請求項1?2に係る発明(以下、「本件訂正発明1」?「本件訂正発明2」、まとめて「本件訂正発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?2に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
(A)ポリカーボネート(PC)を10?90重量部と、
(B)ASA樹脂を90?10重量部と、
前記(A)と(B)との合計100重量部に対し、
(C)グラフト共重合体0.5?20重量部と、
を含有し、軋み音を低減するPC/ASA樹脂組成物であって、
前記(C)グラフト共重合体は、主鎖がポリエチレンホモポリマーで側鎖がアクリロニトリル-スチレンであり、主鎖と側鎖との重量比が40/60?90/10であり、
側鎖は、アクリロニトリル(AN)成分とスチレン(St)成分との重量比がAN/St=10/90?50/50である、軋み音低減用PC/ASA樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のPC/ASA樹脂組成物を所定形状に成形してなる、樹脂成形品。」

第4 取消理由通知について
1 取消理由通知の概要
当審は、令和元年10月9日付け並びに令和2年5月21日付け取消理由通知において、概要以下のとおりの同旨の取消理由を通知した。
「A (進歩性)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
B (明確性)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。

引用例1:特開2011-219558号公報(甲第3号証)」

2 上記取消理由通知についての検討
(1)理由Bについて
本件訂正により、本件訂正発明1の「(C)グラフト共重合体」は、「主鎖がポリエチレンホモポリマーで側鎖がアクリロニトリル-スチレン」となった。このため、本件訂正発明1、及びこれを引用する本件訂正発明2は、明確である。
よって、理由Bには理由がない。

(2)理由Aについて
ア 引用例1の記載事項
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系樹脂(A)、またはスチレン系樹脂(A)と他の熱可塑性樹脂(B)を含む樹脂組成物(AB)50?99重量部、水性液中でエチレン系共重合体を芳香族ビニル系単量体単独または芳香族ビニル系単量体およびこれらと共重合可能な他の単量体と懸濁グラフト重合することで得られる変性エチレン系共重合体(C)1?50重量部((A)、(B)、(C)の合計は100重量部)含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。

【請求項3】
スチレン系樹脂(A)と他の熱可塑性樹脂(B)を含む樹脂組成物(AB)において、他の熱可塑性樹脂(B)が、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレートのいずれかであることを特徴とする請求項1? 2のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
ISO294-3に準拠したD2タイプの試験片を重ね合わせて歪ませて、軋み音を確認する試験を行った場合に、軋み音が発生しにくいことを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1?4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物から得られることを特徴とする樹脂成形体」

(イ)「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物であって、該樹脂組成物を用いた成形体から得られる成形品を軋ませた、あるいは異種又は同種の材料からなる他の部品と接触させた(こすれた)際に、軋み音が発生しにくいことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物および成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂は、車両内装部品としてカーエアコン、カーステレオのスイッチ等に使用されている。スチレン系樹脂を用いて作られたカーエアコンやカーステレオの部品を組み立てた場合に、成形品のかん合している部分や異種又は同種材料からなる部品と接触している(こすれている)部分から軋み音が発生することが良く知られている。
【0003】
このような問題を解決するために、樹脂表面のかん合部や接触部にグリスを塗布して使用している。しかし、このグリスの塗布は、作業時間と費用がかかるため、経済的ではなく、効果の持続にも限りがある。そこで、特許文献1には、スチレン系樹脂と官能基含有エチレン系樹脂の混合物にシリコーンオイル等を添加することで、摩擦係数(摺動性)が低減でき、また特許文献2、3においては、特定のゴム状重合体を用いたスチレン系樹脂に、オレフィン系ワックスまたはシリコーンオイルを添加することで、同様に摺動性を付与することができることが開示されている。さらに特許文献4においては、グリシジルメタアクリレートで変性したゴム状重合体を用いたスチレン系樹脂に、シリコーンオイルを添加することで、摩擦係数を低減し、結果として軋み音を低減できることを開示している。

【0008】
しかしながら、上記の方法では、添加剤が容易にブリードアウトしやすく表面に析出することにより、軋み音防止効果が得られるものであるが、時間の経過に 伴い当然として効果は低くなる。よって、これらの表面に析出して効果を発現するような添加剤を全く使用しなくても、軋み音が発生しないスチレン系樹脂が求められている。
【0009】
したがって、本発明は、ブリードアウトをするような添加剤を用いることなく、軋み音の発生を低減させることが出来ることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物および成形体を提供することを目的とするものである。」

(ウ)「【0014】

本発明における、スチレン系樹脂(A)としては、ゴム強化スチレン系樹脂または非ゴム強化スチレン系樹脂等が挙げられる。これらは一種又は二種以上組み合わせて使用することができる。
上記ゴム強化スチレン系樹脂および非ゴム強化スチレン系樹脂は、ゴム状重合体の存在下または非存在下に、芳香族ビニル系単量体単独もしくはスチレン系単量体と共重合可能な他の単量体を重合することで得ることができる。

【0018】
ゴム強化スチレン系樹脂の具体例としては、ゴム強化ポリスチレン樹脂(HIPS樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン系ゴム・スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル・アクリル酸エステル系ゴム・スチレン共重合体(AAS樹脂)、メタクリル酸メチル・ブタジエン・スチレン共重合体(MBS樹脂)等が例示される。

【0022】
本発明で用いられる他の熱可塑性樹脂(B)としてはポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリ乳酸樹脂等が例示され、一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
本発明にて用いられる変性エチレン系共重合体(C)は、水性液中でエチレン系共重合体を芳香族ビニル系単量体単独、または芳香族ビニル系単量体およびこれらと共重合可能な他の単量体と懸濁グラフト重合することで得られる。他の重合方法である乳化重合、塊状重合、溶液重合、すなわちエチレン系共重合体を溶媒などに溶解した状態で、芳香族ビニル系単量体などをグラフト重合して得られた変性エチレン系共重合体を用いても、充分な軋み音防止効果は発現しない。
【0024】
エチレン系共重合体としては、例えばエチレン・α-オレフィン共重合体またはエチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体などが例示される。これらを用いた場合、軋み音防止効果は良好である。エチレン・α-オレフィン共重合体とは、エチレンと炭素数3?20のα-オレフィンとのランダム共重合体のことである。
【0025】
エチレンとの共重合に用いられる炭素数3?20のα-オレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンなどが挙げられる。また、エチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体の非共役ジエンとしてはビニリデンノルボルネン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,4-ヘキサジエンなどが挙げられる。

【0027】
変性エチレン系共重合体(C)に用いられる芳香族ビニル系単量体および芳香族ビニル系単量体と共重合可能な他の単量体は、スチレン系樹脂(A)で用いられる各単量体と同様のものを用いることが出来る。
変性エチレン系共重合体(C)中の変性率としては、変性エチレン系共重合体(C)100重量部中に芳香族ビニル系単量体および芳香族ビニル系単量体と共重合可能な他の単量体5?80重量部含んでいることが好ましく、より好ましいのは、10?75重量部で、さらに好ましいのは、15?70重量である。変性率が低すぎると、組成物の耐衝撃性が低く、表層剥離の原因になり、また変性率が高すぎると、軋み防止の効果が低くなる。
【0028】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、スチレン系樹脂(A)、またはスチレン系樹脂(A)と他の熱可塑性樹脂(B)を含む樹脂組成物(AB)50?99重量部、変性エチレン系共重合体(C)1?50重量部((A)、(B)、(C)の合計は100重量部である。)含んでいる必要がある。変性エチレン系共重合体(C)の含有量が50重量部より多いと、発色性が低下し、1重量部未満では軋み音防止効果が発現しない。好ましくは3?45重量部、更に好ましくは5?30重量部である。」

(エ)「【実施例】
【0037】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。なお、実施例中にて示す部および%は重量に基づくものである。
【0038】
ゴム強化スチレン系樹脂(A-1)の製造
ステンレス製耐圧重合反応機に、純水21.9部、オレイン酸カリウム1.0部、ナフタレンスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物0.5部、水酸化ナトリウム0.15部、ゴム状重合体としてブタジエン-スチレン共重合体ラテックス(スチレン含有量10重量%、ゲル含有量85重量%、重量平均粒子径430nm)を固形分で60部、t-ドデシルメルカプタン0.25部、ブドウ糖0.08部、硫酸第一鉄0.002部を仕込んで十分攪拌しながら67℃に昇温した後、t-ブチルハイドロパーオキサイド0.08部を仕込み67℃で重合を開始した。
【0039】
重合開始直後からスチレン30部とアクリロニトリル10部の単量体混合物を2時間にわたって連続添加し、重合転化率が63%を越えた時点でt-ブチルハイドロパーオキサイド0.04部を仕込み、反応温度を72℃に上げて反応を2時間継続し、重合転化率が97%を超えたことを確認して槽内温度を40℃以下に冷却した。得られたラテックス状のゴム含有グラフト共重合体を多量のメタノール中に投入して沈殿させ、100メッシュのステンレス製金網に流した後、先ず適量のメタノール、次に多量の純水で洗浄した。その後、減圧下で残留するメタノールを除去し、85℃の熱風オーブン中で含水率が1重量%以下になるまで乾燥させ、パウダー状のゴム強化スチレン系樹脂(A-1)を得た。

【0042】
ゴム強化スチレン系樹脂(A-3)の製造
ステンレス製耐圧重合反応機に、純水230部、オレイン酸カリウム0.30部、過硫酸カリウム0.2部、ブチルアクリレート98.0部、アクリロニトリル1.0部、アリルメタクリレート1.0部からなる混合モノマー溶液を仕込み50℃に昇温した。その後、純水20部、オレイン酸カリウム1.0部からなる乳化剤水溶液を8時間に亘って連続添加した。その後5時間重合を継続し、重量平均粒子径0.28μmのアクリル系ゴムラテックスを得た。
【0043】
さらに、ステンレス製耐圧重合反応機に、上記のアクリル系ゴムラテックス50部(固形分換算)と純水110部、デキストリン0.1部、無水ピロリン酸ナトリウム0.1部および硫酸第1鉄0.005部を溶解した水溶液を添加した後、70℃に昇温した。その後、アクリロニトリル15部、スチレン35部、クメンハイドロパーオキサイド0.3部の混合液および純水20部にオレイン酸カリウム1.0部を溶解した乳化剤水溶液を6時間に亘り連続添加した。その後、重合を3時間継続し、重合を終了した。その後、塩析・脱水・乾燥し、ゴム強化スチレン系樹脂(A-3)を得た。

【0048】
熱可塑性樹脂(B)として下記の樹脂を用いた。
B-1(ポリカーボネート):住友ダウ社製 カリバー200-20
B-2(6-ナイロン):ユニチカ社製 ユニチカナイロン6 A1030BRL
B-3(ポリブチレンテレフタレート):三菱エンジニアリングプラスチック社製 ノバデュラン5010
B-4(ポリ乳酸樹脂):ユニチカ社製 テラマック TP-4000
B-5(ポリメタクリル酸メチル):住友化学社製 スミペックス LG21
【0049】
変性オレフィン系共重合体(C-1)の製造
ステンレス製耐圧重合反応機に、純水300部、懸濁安定剤としてヒドロキシエチルセルロース0.3部を溶解した後、3mm角に裁断したエチレン・プロピレン・エチリデンノルボルネン共重合体ゴム(住友化学社製エスプレンE502、密度:0.86g/cm^(3))50部を仕込み懸濁させた。その後、スチレン37部、アクリロニトリル13部、重合開始剤としてt-ブチルパーオキシピバレート3.0部および分子量調整剤としてt-ドデシルメルカプタン0.1部を添加し、100℃にて1時間重合を行った。重合終了後、脱水し、変性オレフィン系共重合体(C-1)を得た。
【0050】
変性オレフィン系共重合体(C-2)の製造
共重合体(C-1)のエチレン・プロピレン・エチリデンノルボルネン共重合体ゴムをペレット状のエチレン・プロピレン共重合体(三井化学社製 タフマーP0480;密度:0.88g/cm^(3))に変更した以外は、共重合体(C-1)と同様の方法で変性オレフィン系共重合体(C-2)を得た。
【0051】
変性オレフィン系共重合体(C-3)の製造
共重合体(C-1)のエチレン・プロピレン・エチリデンノルボルネン共重合体ゴムをペレット状のエチレン・1-ブテン共重合体(三井化学社製 タフマーA4085S;密度:0.89g/cm^(3))に変更した以外は、共重合体(C-1)と同様の方法で変性オレフィン系共重合体(C-3)を得た。
【0052】
変性オレフィン系共重合体(C-4)の製造
共重合体(C-1)のエチレン・プロピレン・エチリデンノルボルネン共重合体ゴムをペレット状のポリエチレン(エチレン・1-ヘキセン共重合体)(三井化学社製 エボリュー SP2520;密度:0.93g/cm^(3))に変更した以外は、共重合体(C-1)と同様の方法で変性オレフィン系共重合体(C-4)を得た。

【0055】
実施例1?16、比較例1?12
表1および表2に示す成分を、表1および表2に示す割合で混合後、30mm二軸押出機を用いて220℃から250℃で溶融混練してペレットを得た。得られたペレットを射出成形機にてISO試験方法294に準拠して、実施例1?16、比較例1?12の試験片を作製し、流動性・耐衝撃性・耐熱性を評価した。それぞれの評価方法を以下に示し、評価結果を表1および表2にまとめた。
【0056】
各物性の評価方法
流動性:ISO 1133に準拠してメルトボリュームフローレイト(220℃、10kg 一部の例では240℃、10kg)を測定して評価した。単位;cm^(3)/10min
耐衝撃性:ISO 179に準拠し、ノッチ付きのシャルピー衝撃値を測定した。単位;kJ/m^(2)
耐熱性:ISO 75に準拠し、荷重1.8MPaの荷重たわみ温度を測定した。単位;℃
【0057】
軋み音評価:ISO294-3に準拠したD2タイプの試験片を図1のように2枚を表同士重ね合わせてそれぞれ両端を持ち(図2では親指と人差し指のみとなっているが、親指とそれ以外の指で両端を押さえても良い。)、図2に示すように面に垂直方向上下に歪ませる作業(振幅5mm程度)を下記のスピードで5秒間繰り返した際に、軋み音が発生するのかを確認した。
×:1秒間に1往復(上下に一回ずつ)程度のスピードで軋み音が発生する。
△:1秒間に2?3往復程度のスピードでわずかに軋み音が発生する。(×より、軋み音は小さい)
○:1秒間に3往復以上のスピードでも軋み音が全く発生しない。
なお、この試験において軋み音の発生しない組成物を用いて、実際の成形品を作成した際に軋み音が発生しないことは確認できた。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
表1に示すように、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、成形体を軋ませた際に軋み音がほとんど発生せず、特に特定範囲の密度を有するエチレン系共重合体を用いた例では全く軋み音が発生しなかったことがわかる。
【0061】
表2に示すように、変性エチレン系共重合体(C)を特定量用いていない場合(比較例1、4?6、8?12)、変性エチレン系共重合体を懸濁グラフト重合で得ていない場合(比較例3、7)、エチレン系共重合体を用いていない場合(比較例2)は軋み音評価の際に軋み音が発生してしまい、軋み音低減用の成形品として好ましくないことが分かる。」

(オ)「【産業上の利用可能性】
【0062】
以上のように、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、該樹脂組成物を用いた成形体から得られる成形品が軋む、あるいは異種又は同種の材料からなる他の部品と接触する(こすれる)ような部分に用いられる熱可塑性樹脂組成物であって、該樹脂組成物を用いた成形体は軋み音が発生しにくいため、軋み音防止材料として車両分野、家電分野、建材分野、サニタリー分野等に広く用いることができる。」

イ 引用例1に記載された発明との対比及び判断
(ア)本件訂正発明1
引用例1の実施例12(上記ア(エ))から、引用例1には、以下の引用発明が記載されていると認められる。

「ポリカーボネート(B-1)を49重量部と、
ブタジエン-スチレン共重合体ラテックス60重量部に対して、スチレン30重量部とアクリロニトリル10重量部の単量体混合物をグラフト重合させて得られる、ゴム強化スチレン系樹脂(A-1)を10重量部と、
前記(A-1)と(B-1)との合計59重量部に対し、
(C-1)変性エチレン系共重合体10重量部と、
を含有し、軋み音を低減する樹脂組成物であって、
前記(C-1)変性エチレン系共重合体は、主鎖がエチレン・プロピレン・エチリデンノルボルネン共重合体で側鎖がアクリロニトリル-スチレンであり、主鎖と側鎖との重量比が50/50であり、
側鎖は、アクリロニトリル(AN)成分とスチレン(St)成分との重量比がAN/St=13/37である、軋み音低減用樹脂組成物。」

そうすると、本件訂正発明1と引用発明とは、以下の点で相違する。
相違点1:本件訂正発明1は「(B)ASA樹脂」を用いるのに対し、引用発明は「(B-1)ブタジエン-スチレン共重合体ラテックス60重量部に対して、スチレン30重量部とアクリロニトリル10重量部の単量体混合物をグラフト重合させて得られる、ゴム強化スチレン系樹脂」を用いる点。
相違点2:本件訂正発明1は「(C)主鎖がポリエチレンホモポリマーで側鎖がアクリロニトリル-スチレンであり、主鎖と側鎖との重量比が40/60?90/10であり、側鎖は、アクリロニトリル(AN)成分とスチレン(St)成分との重量比がAN/St=10/90?50/50である」グラフト共重合体を用いるのに対し、引用発明は「(C-1)主鎖がエチレン・プロピレン・エチリデンノルボルネン共重合体で側鎖がアクリロニトリル-スチレンであり、主鎖と側鎖との重量比が50/50であり、側鎖は、アクリロニトリル(AN)成分とスチレン(St)成分との重量比がAN/St=13/37である」変性エチレン系共重合体を用いる点。
相違点3:本件訂正発明1は「(A)ポリカーボネートを10?90重量部と、(B)ASA樹脂を90?10重量部と、前記(A)と(B)との合計100重量部に対し、(C)グラフト共重合体0.5?20重量部と、を含有」する「PC/ASA樹脂組成物」であるのに対し、「ゴム強化スチレン系樹脂(A-1)を10重量部、ポリカーボネート(B-1)を49重量部、エチレン系共重合体(C-1)を10重量部含有」する「樹脂組成物」である点。

上記相違点に関し、まず相違点2について検討する。
相違点2に関し、引用発明における「変性エチレン系共重合体」の主鎖は、引用例1【0024】における「エチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体」である。同段落及び【0025】では該「エチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体」と同様に用いられるものとして「エチレン・α-オレフィン共重合体」が挙げられており、これは、甲3実施例における(C-2)?(C-4)である。
これに対し、本件訂正発明1の「(C)グラフト共重合体」の主鎖は「ポリエチレンホモポリマー」であるから、本件訂正発明1と引用発明とは、この相違点2において実質的に相違する。
そして、引用発明における「変性エチレン系共重合体」の主鎖を「ポリエチレンホモポリマー」とすることの記載ないし示唆は引用例1から見いだすことはできず、また、引用発明における「変性エチレン系共重合体」の主鎖を「ポリエチレンホモポリマー」としうることが本件出願時の技術常識であるとはいえない。
このため、相違点1及び3について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、引用例1に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものということはできない。

(イ)本件訂正発明2
本件訂正発明2は、本件訂正発明1を更に限定するものである。したがって、本件訂正発明1が引用例1に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものとはいえないことに鑑みると、本件訂正発明2も引用例1に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

ウ まとめ
よって、理由Aには理由がない。

第5 異議申立ての理由についての検討
申立人の異議申立ての理由は、いずれも取消理由通知で示した理由と同旨である。
よって、異議申立ての理由には、いずれも理由がなく、いずれの申立の理由によっても本件訂正発明に係る特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、異議申立ての理由及び当審からの取消理由によっては、請求項1?2に係る特許を取り消すことはできない。また、他に当該特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリカーボネート(PC)を10?90重量部と、
(B)ASA樹脂を90?10重量部と、
前記(A)と(B)との合計100重量部に対し、
(C)グラフト共重合体0.5?20重量部と、
を含有し、軋み音を低減するPC/ASA樹脂組成物であって、
前記(C)グラフト共重合体は、主鎖がポリエチレンホモポリマーで側鎖がアクリロニトリル-スチレンであり、主鎖と側鎖との重量比が40/60?90/10であり、
側鎖は、アクリロニトリル(AN)成分とスチレン(St)成分との重量比がAN/St=10/90?50/50である、軋み音低減用PC/ASA樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のPC/ASA樹脂組成物を所定形状に成形してなる、樹脂成形品。」
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-12-28 
出願番号 特願2014-260204(P2014-260204)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08L)
P 1 651・ 537- YAA (C08L)
P 1 651・ 853- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岡山 太一郎  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 大熊 幸治
安田 周史
登録日 2018-12-14 
登録番号 特許第6447106号(P6447106)
権利者 日油株式会社
発明の名称 PC/ASA樹脂組成物およびその樹脂成形品  
代理人 細田 益稔  
代理人 細田 益稔  

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