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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  C01B
審判 一部申し立て 判示事項別分類コード:857  C01B
審判 一部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C01B
管理番号 1371701
異議申立番号 異議2020-700102  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-04-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-02-21 
確定日 2021-01-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6564517号発明「電子材料用フィラー及びその製造方法、電子材料用樹脂組成物の製造方法、高周波用基板、並びに電子材料用スラリー」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6564517号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔8、10?15〕について訂正することを認める。 特許第6564517号の請求項2?5、8、10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許6564517号の請求項1?13に係る特許についての出願は、平成30年12月17日に出願され、令和1年8月2日にその特許権の設定登録がされ、同年8月21日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和2年2月21日 : 特許異議申立人 谷口真魚による請求項2?
5、8、10に係る特許に対する特許異議の
申立て
同年5月12日付け: 取消理由通知
同年7月14日 : 意見書の提出及び訂正の請求(特許権者)
同年9月16日 : 意見書の提出(特許異議申立人)

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和2年7月14日になされた訂正の請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項8、10?13についてされたものであって、その内容は以下のとおりである。なお、訂正箇所に下線を付した。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項8に「粒径が100nm?2000nmであるか又は比表面積が2m^(2)/g?35m^(2)/gであり、200℃で加熱したときに生成する水分量が表面積1m^(2)あたり40ppm以下であり、」と記載されているのを、「粒径が100nm?2000nmであるか又は比表面積が2m^(2)/g?35m^(2)/gであり、200℃で加熱したときに生成する水分量が表面積1m^(2)あたり40ppm以下、且つ、500℃で加熱したときに生成する水分量が表面積1m^(2)あたり70ppm以下であり、」に訂正する。
当該請求項8を直接又は間接的に引用する請求項10?13についても同様に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項10に「比表面積が5m^(2)/g以上である」と記載されているのを、「比表面積が10m^(2)/g以上である」に訂正する。
当該請求項10を直接又は間接的に引用する請求項11?13についても同様に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項11に「請求項8?10のうちの何れか1項に記の電子材料用フィラーと、」と記載されているのを、「請求項9?10のうちの何れか1項に記載の電子材料用フィラーと、」に訂正する。
当該請求項11を直接的に引用する請求項12についても同様に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項11において請求項8を引用している部分を書き下して、「粒径が100nm?2000nmであるか又は比表面積が2m^(2)/g?35m^(2)/gであり、200℃で加熱したときに生成する水分量が表面積1m^(2)あたり40ppm以下であり、ビニル基、フェニル基、フェニルアミノ基、炭素数4以上のアルキル基、メタクリル基、又はエポキシ基を有するシラン化合物にて表面処理されているシリカ粒子材料である電子材料用フィラーと、前記電子材料用フィラーを分散する樹脂材料と、を有する高周波用基板。」とし、これを新たに請求項14とする。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項13に「請求項8?10のうちの何れか1項に記載の電子材料用フィラーと、」と記載されているのを、「請求項9?10のうちの何れか1項に記載の電子材料用フィラーと、」に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項13において請求項8を引用している部分を書き下して、「粒径が100nm?2000nmであるか又は比表面積が2m^(2)/g?35m^(2)/gであり、200℃で加熱したときに生成する水分量が表面積1m^(2)あたり40ppm以下であり、ビニル基、フェニル基、フェニルアミノ基、炭素数4以上のアルキル基、メタクリル基、又はエポキシ基を有するシラン化合物にて表面処理されているシリカ粒子材料である電子材料用フィラーと、前記電子材料用フィラーを分散し、水分を実質的に含有しない液体状の分散媒と、を有する電子材料用スラリー。」とし、これを新たに請求項15とする。

2 訂正要件(訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件について)の判断

(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項8(及びこれを引用する請求項10?13)に記載された「・・・シラン化合物にて表面処理されているシリカ粒子材料」の水分量を「500℃で加熱したときに生成する水分量が表面積1m^(2)あたり70ppm以下」に限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
そして、願書に添付した明細書には、「500℃で生成する水分量(以下「生成水量500℃」と称する)は、生成水量200℃の値の測定方法における加熱温度を200℃から500℃に変更して算出される値である。・・・、その上限値は70ppmであることが好ましい。」(【0035】)、「本実施形態の電子材料用フィラーは、以下の(1)及び(2)のうちの少なくとも一方の特徴を有する。」(【0036】)、「(1)ビニル基、フェニル基、フェニルアミノ基、炭素数4以上のアルキル基、メタクリル基、又はエポキシ基を有するシラン化合物にて表面処理されている。特にビニル基、フェニル基、炭素数4以上のアルキル基を有するシラン化合物にて表面処理することが好ましい。」(【0037】)、及び、「(2)式(A):-OSiX^(1)X^(2)X^(3)で表される官能基と、式(B):-OSiY^(1)Y^(2)Y^(3)で表される官能基とを表面にもち、表面にOH基を実質的に有さない。・・・この官能基は前述した(1)の表面処理などにより導入可能な官能基である。」(【0039】、【0040】)と記載されているから、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内においてされたものである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項10(及びこれを引用する請求項11?13)に記載された「電子材料用フィラー」の比表面積を「10m^(2)/g以上」に限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
そして、願書に添付した明細書には、「比表面積は、下限値として・・・、10m^(2)/gが採用でき、」(【0030】)と記載されているから、訂正事項2は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内においてされたものである。

(3)訂正事項3?6について
訂正前の請求項11、13はいずれも請求項8?10のうちの何れか1項の記載を引用するものであるところ、訂正事項3、5は、請求項9、10を引用している部分を、訂正事項4、6は、請求項8を引用している部分を、それぞれ分離して、訂正後の請求項11、13及び請求項14、15とするものであるから、これらを全体としてみれば、訂正事項3?6は、特許法第120条の5第5項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。」を目的とするものということができる。また、当該請求項11の訂正に連動して実質的に訂正されることになる請求項12の訂正の目的は、同項ただし書第1項に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。そして、これらは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないし、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内においてされたものであることも明らかである。

(4)独立特許要件について
上記のとおり、訂正事項1?3による請求項11?13に係る訂正は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるところ、これらの請求項は、本件特許異議の申立ての対象外であるから、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定により、訂正の適否の検討において、訂正後の請求項11?13に係る発明につき、特許出願の際独立して特許を受けることができるか否か、すなわち、独立特許要件を満たすか否かが問題となる。そこで検討するに、これらの請求項は、請求項9又は10を引用するところ、当該請求項10に係る発明は、後記「第4」のとおり、特許を受けることができるものであり、請求項9(申立の対象外)に係る発明についても、これを特許を受けることができないとする証拠は見当たらないから、結局、請求項11?13に係る発明につき、特許出願の際独立して特許を受けることができないとすべき特段の理由が存するものとは認められない。
したがって、訂正後の請求項11?13に係る発明は、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項所定の独立特許要件を満たしているものである。

3 小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項から第7項までの規定に適合するものである。
また、独立形式の請求項とされた請求項14、15について、請求項8、10?13とは別の訂正単位とする求めはない。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔8、10?15〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記「第2」のとおり本件訂正は適法になされたものと認められるので、本件特許請求の範囲の請求項1?15に係る発明は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(下線部は、訂正箇所)。
なお、上述のとおり、本件特許異議の申立ての対象請求項は、請求項2?5、8、10のみである(以下、これらの請求項に係る各発明を項番号に合わせて「本件発明2」などといい、総じて「本件発明」という。)。

「【請求項1】
乾式法にて製造されたシリカ粒子材料を調製する調製工程と、
ビニル基、フェニル基、フェニルアミノ基、炭素数4以上のアルキル基、メタクリル基、又はエポキシ基を有するシラン化合物にて前記シリカ粒子材料を表面処理して第1表面処理済粒子材料とする第1表面処理工程と、
を有し、
前記シリカ粒子材料が乾式法にて製造された後は、液体状の水に接触させず、且つ、粒径が100nm?2000nmであるか又は比表面積が2m^(2)/g?35m^(2)/gであり、
オルガノシラザンにて前記第1表面処理済粒子材料を表面処理して第2表面処理済粒子材料とする第2表面処理工程を有し、
前記第2表面処理工程で用いる前記オルガノシラザンの量は、前記第1表面処理済粒子材料の表面に残存する前記オルガノシラザンに反応可能な官能基の量以上で、表面にOH基が実質的に残存しない量である電子材料用フィラーの製造方法。
【請求項2】
乾式法にて製造されたシリカ粒子材料を調製する調製工程と、
ビニル基、フェニル基、フェニルアミノ基、炭素数4以上のアルキル基、メタクリル基、又はエポキシ基を有するシラン化合物にて前記シリカ粒子材料を表面処理して第1表面処理済粒子材料とする第1表面処理工程と、
を有し、
前記シリカ粒子材料が乾式法にて製造された後は、液体状の水に接触させず、且つ、粒径が100nm?2000nmであるか又は比表面積が2m^(2)/g?35m^(2)/gであり、
前記調製工程は、乾式法にてシリカを製造後、200℃で加熱したときに生成する水分量が表面積1m^(2)あたり40ppm以下になるように加熱乾燥する乾燥工程を含む電子材料用フィラーの製造方法。
【請求項3】
乾式法によりシリカ粒子材料を製造するシリカ粒子材料製造工程と、
200℃で加熱したときに生成する水分量が表面積1m^(2)あたり40ppm以下になるように加熱乾燥して乾燥シリカ粒子材料を得る乾燥工程と、
を有し、
前記シリカ粒子材料が乾式法にて製造された後は、液体状の水に接触させず、且つ、粒径が100nm?2000nmであるか又は比表面積が2m^(2)/g?35m^(2)/gである電子材料用フィラーの製造方法。
【請求項4】
前記乾燥工程は、500℃で加熱したときに生成する水分量が表面積1m^(2)あたり70ppm以下になるように加熱乾燥する工程である請求項2又は3に記載の電子材料用フィラーの製造方法。
【請求項5】
前記シリカ粒子材料は粒径が600nm以下であり、比表面積が5m^(2)/g以上である請求項1?4の何れか1項に記載の電子材料用フィラーの製造方法。
【請求項6】
請求項1?5の何れか1項に記載の電子材料用フィラーの製造方法にて電子材料用フィラーを製造する工程と、
前記電子材料用フィラーを液体状の水に接触させずに樹脂材料中に混合・分散させる混合分散工程と、
を有する電子材料用樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
前記樹脂材料は、水分の含有量が1000ppm以下である請求項6に記載の電子材料用樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
粒径が100nm?2000nmであるか又は比表面積が2m^(2)/g?35m^(2)/gであり、200℃で加熱したときに生成する水分量が表面積1m^(2)あたり40ppm以下、且つ、500℃で加熱したときに生成する水分量が表面積1m^(2)あたり70ppm以下であり、
ビニル基、フェニル基、フェニルアミノ基、炭素数4以上のアルキル基、メタクリル基、又はエポキシ基を有するシラン化合物にて表面処理されているシリカ粒子材料である電子材料用フィラー。
【請求項9】
粒径が100nm?2000nmであるか又は比表面積が2m^(2)/g?35m^(2)/gであり、200℃で加熱したときに生成する表面積1m^(2)あたり40ppm以下であり、式(A):-OSiX^(1)X^(2)X^(3)で表される官能基と、式(B):-OSiY^(1)Y^(2)Y^(3)で表される官能基とを表面にもち、表面にOH基を実質的に有さないシリカ粒子材料である電子材料用フィラー。
(上記式(A)、(B)中;X^(1)はビニル基、フェニル基、フェニルアミノ基、炭素数4以上のアルキル基、メタクリル基、又はエポキシ基であり;X^(2)、X^(3)は-OSiR^(3)及び-OSiY^(4)Y^(5)Y^(6)よりそれぞれ独立して選択され;Y^(1)はRであり;Y^(2)、Y^(3)はR及び-OSiY^(4)Y^(5)Y^(6)よりそれぞれ独立して選択される。Y^(4)はRであり;Y^(5)及びY^(6)は、R及び-OSiR^(3)からそれぞれ独立して選択され;Rは炭素数1?3のアルキル基から独立して選択される。なお、X^(2)、X^(3)、Y^(2)、Y^(3)、Y^(5)、及びY^(6)の何れかは、隣接する官能基のX^(2)、X^(3)、Y^(2)、Y^(3)、Y^(5)、及びY^(6)の何れかと-O-にて結合しても良い。)
【請求項10】
前記シリカ粒子材料は粒径が600nm以下であり、比表面積が10m^(2)/g以上である請求項8又は9に記載の電子材料用フィラー。
【請求項11】
請求項9?10のうちの何れか1項に記載の電子材料用フィラーと、
前記電子材料用フィラーを分散する樹脂材料と、
を有する高周波用基板。
【請求項12】
前記樹脂材料は、水分の含有量が1000ppm以下である請求項11に記載の高周波用基板。
【請求項13】
請求項9?10のうちの何れか1項に記載の電子材料用フィラーと、
前記電子材料用フィラーを分散し、水分を実質的に含有しない液体状の分散媒と、
を有する電子材料用スラリー。
【請求項14】
粒径が100nm?2000nmであるか又は比表面積が2m^(2)/g?35m^(2)/gであり、200℃で加熱したときに生成する水分量が表面積1m^(2)あたり40ppm以下であり、
ビニル基、フェニル基、フェニルアミノ基、炭素数4以上のアルキル基、メタクリル基、又はエポキシ基を有するシラン化合物にて表面処理されているシリカ粒子材料である電子材料用フィラーと、
前記電子材料用フィラーを分散する樹脂材料と、
を有する高周波用基板。
【請求項15】
粒径が100nm?2000nmであるか又は比表面積が2m^(2)/g?35m^(2)/gであり、200℃で加熱したときに生成する水分量が表面積1m^(2)あたり40ppm以下であり、
ビニル基、フェニル基、フェニルアミノ基、炭素数4以上のアルキル基、メタクリル基、又はエポキシ基を有するシラン化合物にて表面処理されているシリカ粒子材料である電子材料用フィラーと、
前記電子材料用フィラーを分散し、水分を実質的に含有しない液体状の分散媒と、
を有する電子材料用スラリー。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 令和2年5月12日付けの取消理由の概要
標記概要は、次のとおりである。
設定登録時の請求項8、10に係る発明は、下記の引用文献1に記載された発明と、引用文献1?4に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(引用文献一覧)
引用文献1:特開2010-228997号公報(甲第1号証)
引用文献2:「化学製品の水分測定方法」JIS K 0068:2001
,日本工業標準調査会,第1、2、12頁、平成13年4月
20日改正(甲第2号証)
引用文献3:「三菱ケミカルのカールフィッシャー試薬マニュアル」,三菱
ケミカル株式会社,平成10年7月1日発行、第129、
130、200、201頁(甲第3号証)
引用文献4:近沢正敏ら 「粉粒体の表面化学と付着現象」,日本海水学会
誌、第41巻、第4号、第168?180頁、1987年(甲
第4号証)

2 引用文献の記載事項及び引用発明について
(1)引用文献1について
ア 引用文献1の記載事項(当審注:下線は当審が付した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)

(1a)「【0008】
本発明の製造方法で得られる疎水性シリカ粒子は、特定のシリカの表面にオルガノシリル基が導入されているために、疎水化度が高いだけでなく、吸湿性が抑制されたものとなる。その結果、樹脂添加剤として用いた場合に、疎水性シリカ粒子を添加した効果が低下することなく耐久性に優れる樹脂フィルム等が得られる。」

(1b)「【0028】
上述した好ましいシリカの製造方法によって分散平均粒子径が、0.05?3 μmであり、1次粒子径平均値に対する分散平均粒子径の比が10以下であるシリカが得られる。
(シリカにオルガノシリル化剤を反応させる工程)
シリカにオルガノシリル化剤を反応させる工程について説明する。
本工程は、焼成工程により得られた基材シリカに、オルガノシリル化剤を反応させて、オルガノシリル基をシリカに導入する工程である。
オルガノシリル化剤としては、下記式(2)で示されるシラン化合物(I)またはシラザン化合物が好ましい。
R_(m)SiX_((4-m)) ・・・・・(2)
(式中、Rは、置換基を有していてもよく、アルキル基、アリール基、アラルキル基、および不飽和脂肪族残基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を表し、Xは水酸基、アルコキシ基、およびアシロキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を表し、mは1から3までの整数である。) 疎水化度が高い疎水性シリカ粒子を得やすい点から、Rとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、ラウリル基、ステアリル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ナフチル基、ベンジル基、3-アクリロキシプロピル基、3-メタクリロキシプロピル基などが好ましい。また、Rとしては、アルキル基、アリール基、アラルキル基、不飽和脂肪族残基に置換基があってもよい。たとえば、3-グリシドキシプロピル基、(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基、クロロプロピル基、3,3,3-トロフルオロプロピル基などが挙げられる。
シラン化合物(I)の中でも、m=2、または3である化合物が好ましい。m=3のシラン化合物(I)としては、たとえば、トリメチルメトキシシラン、ジメチルフェニルメトキシシラン、メチルジフェニルメトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリプロピルメトキシシラン、トリブチルメトキシシラン、トリペンチルメトキシシラン、トリヘキシルメトキシシラン、トリシクロヘキシルメトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン、トリビニルメトキシシラン、トリメチルシラノールなどである。
・・・m=1のシラン化合物(I)としては、・・・3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、クロロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3-トロフルオロプロピルトリメトキシシラン、3-アミノエチルアミノプロピルトリエトキシシランなどである。・・・シラザン化合物としては、ヘキメチルジシラザン、ヘキサエチルジシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザンなどが挙げられる。シラザン化合物の中でも、ヘキサメチルジシラザンなどが特に好ましい。」

(1c)「【0037】
・・・
(疎水性シリカ粒子の用途)
本発明の製造方法で得られる疎水性シリカ粒子は、疎水化度が高く、吸湿性が抑制されるために、PETフィルムなどの高分子フィルムの滑り性改良剤、アンチブロッキング剤、光拡散フィルムの光拡散剤、半導体封止樹脂用の充填剤等の各種樹脂用添加剤に好適に使用し得る。」

(1d)「【0039】
各実施例および比較例における、シリカおよび疎水性シリカ粒子(単に粒子ともいう)に関する1次粒子径平均値、分散平均粒子径、粒子径の変動係数、比表面積・比表面積比、含水量・吸湿性、孤立シラノール基含有量、炭素含有量、疎水化度は次のとおりにして評価した。
・・・
<シリカ、粒子の比表面積、比表面積比>
比表面積は,B.E.T.法により測定した。
【0040】
・・・
<シリカ、粒子の含水量>
試料(シリカ、粒子)5gを、直径10cmの時計皿にのせ、均一に薄く広げる。その後、温度30℃、相対湿度90%の雰囲気下において24時間放置する。放置後の試料(シリカ、粒子)の含水量を、カールフィッシャー法により測定して、これを含水量とした。・・・」

(1e)「【0041】
・・・
[実施例1]
・・・
(オルガノシリル化剤処理)
・・・シリカを攪拌しているところに オルガノシリル化剤としてヘキサメチルジシラザン(信越化学製HMDS-3,最小被覆面積:485m^(2)/g)1.0kg(理論添加量の約8倍に相当する)を30分かけて均一に滴下した。・・・また、適宜、ヘラを用いて壁面付着物を掻き落とすことも行なった。加熱後、冷却することにより、表面処理粉体を得た。該粉体を、粉砕圧6kg/cm^(2)のジェット粉砕分級機(カウンタージェット100型ホソカワミクロン製)を用いて解砕及び分級を行うことによって、ヘキサメチルジシラザンで処理されたシリカからなる粒子粉体:粒子(1)を得た。
得られた粒子(1)の分散平均粒子径は0.26μm、分散粒子径の変動係数14%、吸湿量は0.03%、含有炭素分は0.15%、疎水化度は63%であった。
[実施例2]
実施例1において、焼成温度を800℃にした以外は実施例1と同様にして行い、ヘキサメチルジシラザンで処理されたシリカからなる粒子粉体:粒子(2)を得た。
[実施例3]
実施例1において、焼成温度を650℃にした以外は実施例1と同様にして行い、ヘキサメチルジシラザンで処理されたシリカからなる粒子粉体:粒子(3)を得た。
[実施例4]
(シリカ粒子の調製?焼成による基材シリカの調製)
実施例1と同様にして、シリカ粒子の調製、シリカ粒子の焼成によるシリカの調製を行い、平均粒子径は0.26μm、粒子の変動係数は14%、比表面積は12.5m^(2)/g、含水量は0.09%、炭素含有量は0%、孤立シラノール基量は0.30mmol/g、疎水化度は0%のシリカを得た。
(オルガノシリル化剤処理)
得られたシリカ100gとメタノール500gを1Lビーカーに計り取り、・・・メタノール分散体を得た。該分散体に・・・。その後、メチルトリメトキシシラン(信越化学製KBM-13、最小被覆面積575m^(2)/g)10g(理論添加量の約5倍に相当する)を一括添加し、その後30℃で保持しながら2時間攪拌することにより、表面処理シリカ前駆体分散液を得た。・・・、メチルトリメトキシシランで処理されたシリカからなる粒子粉体:粒子(4)を得た。
[実施例5]
(シリカ粒子の調製?焼成による基材シリカの調製)
実施例1と同様にして、シリカ粒子の調製を行った後、焼成温度を650℃に変える以外は同様にして、シリカを得た。(オルガノシリル化剤処理)得られたシリカを、実施例4における(オルガノシリル化剤処理)と同様にしてオルガノシリル化剤処理を行い、メチルトリメトキシシランで処理されたシリカからなる粒子粉体:粒子(5)を得た。
[比較例1]
実施例1において、シリカ粒子の焼成工程における焼成温度を550℃にしてシリカを製造した以外は、実施例1と同様にして、ヘキサメチルジシラザンで処理されたシリカからなる粒子粉体:粒子(c1)を得た。
[比較例2]
実施例1において、シリカ粒子の焼成工程における焼成温度を1200℃にしてシリカを製造した以外は、実施例1と同様にして、ヘキサメチルジシラザンで処理されたシリカからなる粒子粉体:粒子(c2)を得た。」

(1f)「【0042】
【表1】



イ 引用文献1に記載された発明
前記(1a)及び(1c)によれば、引用文献1には、半導体封止樹脂用の充填剤等に使用され、その表面にオルガノシリル基を導入する表面処理がされた疎水性シリカ粒子が記載されており、具体的には、前記(1d)記載の測定手法に照らして、(1e)及び(1f)記載の実施例1に着目すると、粒径が0.26μm、すなわち260nmであり、比表面積が9.4m^(2)/g、カールフィッシャー法により測定した含水率が0.03質量%であり、その表面がオルガノシリル基を有するヘキサメチルジシラザンで表面処理されたものを把握することができる。
そうすると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。
「粒径260nm、比表面積9.4m^(2)/g、カールフィッシャー法により測定した含水率が0.03質量%であり、その表面がヘキサメチルジシラザンで表面処理されているシリカ粒子である半導体封止樹脂用の充填剤。」

(2)引用文献2の記載事項
引用文献2には、以下の(2a)、(2b)の事項が記載されている。

(2a)「6.1 要旨 カールフィッシャー滴定法は,カールフィッシャー試薬を用いて水を滴定し,その滴定量から水分量を求める方法であり,試料の性質及び水分量に応じて,容量滴定法,電量滴定法又はそれらと水分気化法を組み合 わせた方法のいずれかを用いる。」(第2頁第2?4行)

(2b)「6.5 水分気化?容量滴定法,又は水分気化?電量滴定法
6.5.1 要旨 試料を,乾燥した窒素又は空気の気流中で加熱して気化させ,滴定溶媒又は電解液に捕集してカールフィッシャー滴定を行う。カールフィッシャー滴定法は,水分量に応じて容量滴定法又は電量滴定法のいずれかを用いる。・・・
2.適切な加熱温度を設定することによって,付着水(遊離水)と化合水(結晶水)の分別定量が可能である。」(第12頁第25?32行)

(3)引用文献3の記載事項
引用文献3には、以下の(3a)?(3c)の事項が記載されている。

(3a)「金属酸化物もまた一般にカールフィッシャー試薬中のヨウ素化水素と次式のように反応します。・・・そのため直接滴定法は採用することができません。水分気化装置を用いて水分の測定を行います。水分気化法の場合、通常付着水は100?200℃に加熱温度を設定して測定を行います。」(第129頁第3行?17行)

(3b)「


」(第130頁)

(3c)「

」(第200頁)

(4)引用文献4の記載事項
引用文献4には、以下の(4a)の事項が記載されている。

(4a)「加熱処理法の場合,試料それぞれによって物理吸着水除去の最適温度 は異なる.たとえばα-Fe_(2)O_(3)では75℃^(14)),Si0_(2)では約200℃まで化学吸着した水蒸気は脱離されないが,それ以上の温度では徐々に表面水酸基は脱離される^(15)).」(第169頁右欄第19?24行)

3 取消理由についての当審の判断
(1)本件発明8について
ア 本件発明8と引用発明1との対比
(ア)本件発明8と引用発明1とを対比すると、引用発明1における「粒径260nm、比表面積9.4m^(2)/g」であることは、本件発明8でいう「粒径が100nm?2000nmであるか又は比表面積が2m^(2)/g?35m^(2)/gであ」ることに相当する。

(イ)本件発明8の「200℃で加熱したときに生成する水分量が表面積1m^(2)あたり40ppm以下であ」ることと、引用発明1における「カールフィッシャー法により測定した含水率が0.03質量%であ」ることを対比する。
引用発明1の含水率の0.03質量%をppmに換算すると300ppmとなり、さらに比表面積の9.4m^(2)/gで除することで、表面積1m^(2)あたりの水分量は31.9ppmとなる。
ここで、前記(2a)によれば、カールフィッシャー法では試料の性質や水分量に応じて測定法を選択する必要があり、引用発明1のシリカ粒子の含水率は0.03質量%の固体の試料であるから、前記(3c)によれば、予想水分が1%以下の固体試料の場合に該当するため、水分気化法により測定を行うものであり、前記(3b)から測定の際のシリカの加熱温度は250℃であることがわかるから、引用発明1の水分量は250℃で加熱したときに生成する水分量である蓋然性が高い。
さらに、前記(4a)によれば、シリカを200℃以上で加熱を行った場合には物理吸着水に加えて化学吸着した水分も脱離することから、本件発明8でいう「200℃で加熱したときに生成する水分量が表面積1m^(2)あたり40ppm以下」とは、物理吸着水の水分量が表面積1m^(2)あたり40ppm以下であることと同義と認められるとともに、引用発明1の水分量である31.9ppmは、物理吸着水に加えて化学吸着水をも含んだ水分量を意味するものと認められる。
以上のことから、物理吸着水に加えて化学吸着水をも含んだ水分量が表面積1m^(2)あたり31.9ppmである引用発明1は、物理吸着水の水分量が表面積1m^(2)あたり40ppm以下であると認められるから、本件発明8における「200℃で加熱したときに生成する水分量が表面積1m^(2)あたり40ppm以下であ」ることに相当する。

(ウ)引用発明1における「シリカ粒子である半導体封止樹脂用の充填剤」であることは、本件発明8でいう「シリカ粒子である電子材料用フィラー」に相当する。

(エ)そうすると、本件発明8と引用発明1とは、「粒径が100nm?2000nmであるか又は比表面積が2m^(2)/g?35m^(2)/gであり、200℃で加熱したときに生成する水分量が表面積1m^(2)あたり40ppm以下であり、シリカ粒子材料である電子材料用フィラー。」である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本件発明8では、シリカ粒子が「ビニル基、フェニル基、フェニルアミノ基、炭素数4以上のアルキル基、メタクリル基、又はエポキシ基を有するシラン化合物にて表面処理」されているのに対し、引用発明1においてはシリカ粒子がヘキサメチルジシラザンで表面処理されている点において相違する。
(相違点2)
本件発明8では、「500℃で加熱したときに生成する水分量が表面積1m^(2)あたり70ppm以下」であるのに対し、引用発明1においては500℃で加熱したときに生成する水分量が特定されていない点において相違する。

イ 相違点の検討
上記相違点1、2について併せて検討する。
前記(1b)には、引用文献1に記載のシリカ粒子の表面処理に使用できるオルガノシリル化剤について、引用発明1において使用されているヘキサメチルジシラザンと並んで、式(2)中のm=2または3であるシラン化合物が好ましく使用できる旨が記載され、m=3のシラン化合物として、トリブチルメトキシシラン、トリペンチルメトキシシラン、トリヘキシルメトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン、トリビニルメトキシシランといった前記相違点に係る構成を有するシラン化合物が一応記載されている。
しかしながら、引用発明1は、好適な具体例として引用文献1に記載されたものであるから、あえて、そのオルガノシリル化剤としてのヘキサメチルジシラザンに代えて上記相違点に係る構成を有するシラン化合物を採用することについてまで、上記記載が教示しているとただちにいうことはできない。
また、仮に、引用発明1において、オルガノシリル化剤として、ヘキサメチルジシラザンに代えて、上記相違点に係る構成を有するシラン化合物を採用した場合には、両オルガノシリル化剤の化学構造は、極めて類似しているわけではないから、それらによる表面処理後の表面性状には少なからぬ違いが生じることとなり、勢いシリカ粒子の水分量にも違いが生じると解するのが合理的である。
事実、引用文献1の(1f)の【表1】に記載された実施例1?5及び比較例1、2のシリカ粒子材料をみると、実施例1?3及び比較例1、2のシリカ粒子材料は、いずれもヘキサメチルジシラザンにて表面処理され、実施例4、5のシリカ粒子材料は、前記ヘキサメチルジシラザンとは異なるシラン化合物である、メチルトリメトキシシランにて表面処理されているところ、このうち、例えば、実施例1と実施例4とは、オルガノシリル化剤処理に用いるシラン化合物が異なる点を除けば、その他の諸条件は同様であるにもかかわらず、シリカ粒子の水分量に有意な変化が生じている。
このように、引用発明1におけるオルガノシリル化剤を本件発明8のものに代替した場合には、「200℃・・・水分量」がそのまま踏襲されて、本件発明8の水分量の規定を満足する確証はないといわざるを得ない。
いわんや「500℃・・・水分量」についてはなおのこと、そのような確証があるとは到底いえない。
さらに、引用文献1?4の記載を子細にみても、そのような確証をうかがわせる記載は見当たらない。
そうである以上、引用発明1において、その水分量を本件発明8の規定内としたまま、上記相違点1、2に係る本件発明8の構成とすることは、当業者であっても容易なことではないから、本件発明8は、引用文献1に記載された発明、及び、引用文献1?4に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものといえない。

(2)本件発明10について
本件発明10は、本件発明8の粒径と比表面積についてさらに限定を加え「粒径が600nm以下であり、比表面積が10m^(2)/g以上」としたものであるが、本件発明10は、本件発明8を引用するものであって、本件発明8の特定事項をさらに減縮したものであるから、上記(1)と同様の理由により、引用文献1に記載された発明、及び、引用文献1?4に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものといえない。
なお、本件発明10に係る請求項10は、本件特許異議の申立ての対象となっていない請求項9をも引用するものであるが、当該請求項9に係る発明の特許性を否定するに足りる証拠はない。

(3)特許異議申立人の意見について
特許異議申立人が、令和2年9月16日提出の意見書の3(1)において主張する特許法第29条第2項の要件違背は、要するに、表面処理に使用する化合物の相違は有意なものでない点に依拠するものであるが、上記(1)で検討したとおり、その化合物の化学構造の違いは「200℃・・・水分量」、さらには「500℃・・・水分量」に少なからず影響を与えるものと考えるのが合理的であるから、当該主張を採用することはできない。

4 小括
以上の検討のとおりであるから、取消理由に理由はない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 標記申立理由の概要
特許異議申立人は、訂正前の請求項2に係る発明は、甲第6号証に記載された発明及び甲第1、5、7?14号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、訂正前の請求項3?5に係る発明は、甲第6号証に記載された発明及び甲第5、7?14号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項2?5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである旨を主張している。

(証拠方法)
甲第 1号証:特開2010-228997号公報
甲第 5号証:後藤弘太郎ら、「エポキシ樹脂成形用フィラーの吸湿誘電特
性」、高分子論文集、第42巻、第9号、第559?565
頁、1985年9月
甲第 6号証:宮田謙一、「熱処理微粉末シリカの水蒸気吸着特性」、日本
化学雑誌、第86巻、第12号、第1241?1244頁、
1965年
甲第 7号証:特開平10-297915号公報
甲第 8号証:直野博光、「窒素ガスおよび水蒸気吸着に基づく粉体のキャ
ラクタリゼーション」、粉体工学会誌、第28巻、第1号、
第34?39頁、1991年
甲第 9号証:「ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」
JIS Z 8830:2013、 平成25年1月21日改
正、日本工業標準調査会、第1、5頁及び表紙
甲第10号証:宮田謙一、「微粉末シリカ表面に見られるシラノール基の表
面濃度の異常性」、日本化学雑誌、第86巻、第3号、
第294?296頁、1965年
甲第11号証:特開2005-171208号公報
甲第12号証:特開2005-298740号公報
甲第13号証:特開2006-256913号公報
甲第14号征:特開2008-050207号公報

2 標記申立理由についての当審の判断
(1)甲第6号証に記載された発明
甲第6号証には、摘記は省略するが、種々の温度で熱処理を行った湿式法微粉末シリカ、乾式法微粉末シリカ、及び石英粉末について水蒸気吸着等温線と、それら試料の脱水曲線とを測定し、シリカ表面のシラノール基が脱水する際の挙動およびその分布状態につき検討したことが開示されており(第1241頁、要旨、第1?2行)、測定結果として、第1242頁の図4には、乾式法微粉末シリカである試料Dの水蒸気吸着等温線(30℃)の処理温度による変化が示されている。そして、図4のグラフに示された曲線から、例えば、相対圧が0.2である場合、600℃、 800℃及び1000℃の処理温度で熱処理を行ったシリカは、水蒸気の吸着量がそれぞれ、1. 5μmol/m^(2)、1. 1μmol/m^(2)、0. 7μmol/m^(2)程度であることを読み取ることができる。
ここで、甲第6号証の図4に示されている、 1000℃で熱処理を行った乾式法微粉末シリカの水蒸気の吸着量0. 7μmol/m^(2)は、水の分子量が 18.0であること及び甲第4号証の図-1(a)を勘案すると、「200℃で加熱したときに生成する水分量が表面積1m^(2)あたり40ppm以下」であるといえる。
さらに、甲第6号証の熱処理シリカの製造方法では、乾式法微粉末シリカを液体状の水に接触させていない。
また、甲第6号証に記載された上記試料Dは、甲第6号証の前報である甲第10号証に記載された試料Dと同じであるところ(甲第6号証の第1241頁、「2 実験」の項)、当該試料Dの比表面積は、その前報である甲第10号証の記載(甲第10号証の第294頁本文左欄下から第3行)から、160m^(2)/gであることが分かる。
そうすると、甲第6号証には、以下の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されているといえる。
「乾式法によりシリカ粒子材料を製造するシリカ粒子材料製造工程と、
200℃で加熱したときに生成する水分量が表面積1m^(2)あたり40ppm以下になるように加熱乾燥して乾燥シリカ粒子材料を得る乾燥工程と、
を有し、
前記シリカ粒子材料が乾式法にて製造された後は、液体状の水に接触させない、
シリカ粒子材料の製造方法。」

(2)本件発明3について
ア 本件発明3と甲6発明との対比
本件発明3と甲6発明とは、
「乾式法によりシリカ粒子材料を製造するシリカ粒子材料製造工程と、
200℃で加熱したときに生成する水分量が表面積1m^(2)あたり40ppm以下になるように加熱乾燥して乾燥シリカ粒子材料を得る乾燥工程と、
を有し、
前記シリカ粒子材料が乾式法にて製造された後は、液体状の水に接触させない、
シリカ粒子材料の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違するといえる。

(相違点1)
本件発明3では、シリカ粒子材料の「粒径が100nm?2000nmであるか又は比表面積が2m^(2)/g?35m^(2)/gである」のに対し、甲6発明においてはシリカ粒子の比表面積が160m^(2)/gである点において相違する。

(相違点2)
本件発明3では、シリカ粒子材料が電子材料用フィラーに用いられるものであるのに対し、甲6発明においてはシリカ粒子材料が電子材料用フィラーに用いられることが特定されていない点において相違する。

イ 相違点の検討
まず、相違点1について検討する。
甲第11?14号証には、粒径が100nm?2000nm程度であるか又は比表面積が2m^(2)/g?35m^(2)/g程度であるシリカ粒子が記載されている。
ここで、微粉末シリカの比表面積は、本件明細書【0031】にも記載されているとおり、粒径と関連があり、粒径が大きくなれば比表面積が減少することは本件特許の出願時における技術常識である。
そして、本件明細書【0031】において「粒径(比表面積)は、この下限値以上(上限値以下)にすることにより樹脂中添加時の流動性が良好であり、上限値以下(下限値以上)にすることによりスラリー組成物にした際の安定性が良好である。」と記載されるように、本件発明3では、シリカ粒子材料を樹脂中に添加した時に流動性が良好となるようにすべく、比表面積を所定の上限値以下に設定したものである。
しかしながら、甲第6号証には、乾式法微粉末シリカの粒径を大きくする、すなわち、比表面積を160m^(2)/gよりも減少させることについて記載も示唆もなく、また、微粉末シリカを樹脂中に添加した時に流動性が良好となるようにするという技術思想についても何ら開示されていない。
また、甲6発明における乾式法微粉末シリカの比表面積は、上述のとおり、160m^(2)/gであって、本件発明3におけるシリカ粒子材料の比表面積「2m^(2)/g?35m^(2)/g」に対して、4.57?80倍ほど大きい値であるが、甲6発明において、乾式法微粉末シリカの大きさを、4.57?80倍程度にまで大きくするための動機は、いずれの証拠をみても見当たらない。
したがって、甲6発明において、乾式法微粉末シリカの比表面積を「160m^(2)/g」から「2m^(2)/g?35m^(2)/g」に変更することは、甲第5、7?14号証の記載を参酌しても、当業者が容易に想到し得たことでない。
よって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明3は、甲第6号証に記載された発明及び甲第5、7?14号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(2)本件発明2、4、5について
本件発明2、4、5は、何れも上記(1)において検討した相違点1に係る「粒径が100nm?2000nmであるか又は比表面積が2m^(2)/g?35m^(2)/g」との発明特定事項を含み、さらに技術的限定を付したものであるから、本件発明3と同様、甲第6号証に記載された発明及び甲第1、5、7?14号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 小括
以上のとおりであるから、異議申立人が主張する特許法第29条第2項に係る申立理由に理由はない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明2?5、8、10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明2?5、8、10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾式法にて製造されたシリカ粒子材料を調製する調製工程と、
ビニル基、フェニル基、フェニルアミノ基、炭素数4以上のアルキル基、メタクリル基、又はエポキシ基を有するシラン化合物にて前記シリカ粒子材料を表面処理して第1表面処理済粒子材料とする第1表面処理工程と、
を有し、
前記シリカ粒子材料が乾式法にて製造された後は、液体状の水に接触させず、且つ、粒径が100nm?2000nmであるか又は比表面積が2m^(2)/g?35m^(2)/gであり、
オルガノシラザンにて前記第1表面処理済粒子材料を表面処理して第2表面処理済粒子材料とする第2表面処理工程を有し、
前記第2表面処理工程で用いる前記オルガノシラザンの量は、前記第1表面処理済粒子材料の表面に残存する前記オルガノシラザンに反応可能な官能基の量以上で、表面にOH基が実質的に残存しない量である電子材料用フィラーの製造方法。
【請求項2】
乾式法にて製造されたシリカ粒子材料を調製する調製工程と、
ビニル基、フェニル基、フェニルアミノ基、炭素数4以上のアルキル基、メタクリル基、又はエポキシ基を有するシラン化合物にて前記シリカ粒子材料を表面処理して第1表面処理済粒子材料とする第1表面処理工程と、
を有し、
前記シリカ粒子材料が乾式法にて製造された後は、液体状の水に接触させず、且つ、粒径が100nm?2000nmであるか又は比表面積が2m^(2)/g?35m^(2)/gであり、
前記調製工程は、乾式法にてシリカを製造後、200℃で加熱したときに生成する水分量が表面積1m^(2)あたり40ppm以下になるように加熱乾燥する乾燥工程を含む電子材料用フィラーの製造方法。
【請求項3】
乾式法によりシリカ粒子材料を製造するシリカ粒子材料製造工程と、
200℃で加熱したときに生成する水分量が表面積1m^(2)あたり40ppm以下になるように加熱乾燥して乾燥シリカ粒子材料を得る乾燥工程と、
を有し、
前記シリカ粒子材料が乾式法にて製造された後は、液体状の水に接触させず、且つ、粒径が100nm?2000nmであるか又は比表面積が2m^(2)/g?35m^(2)/gである電子材料用フィラーの製造方法。
【請求項4】
前記乾燥工程は、500℃で加熱したときに生成する水分量が表面積1m^(2)あたり70ppm以下になるように加熱乾燥する工程である請求項2又は3に記載の電子材料用フィラーの製造方法。
【請求項5】
前記シリカ粒子材料は粒径が600nm以下であり、比表面積が5m^(2)/g以上である請求項1?4の何れか1項に記載の電子材料用フィラーの製造方法。
【請求項6】
請求項1?5の何れか1項に記載の電子材料用フィラーの製造方法にて電子材料用フィラーを製造する工程と、
前記電子材料用フィラーを液体状の水に接触させずに樹脂材料中に混合・分散させる混合分散工程と、
を有する電子材料用樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
前記樹脂材料は、水分の含有量が1000ppm以下である請求項6に記載の電子材料用樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
粒径が100nm?2000nmであるか又は比表面積が2m^(2)/g?35m^(2)/gであり、200℃で加熱したときに生成する水分量が表面積1m^(2)あたり40ppm以下、且つ、500℃で加熱したときに生成する水分量が表面積1m^(2)あたり70ppm以下であり、
ビニル基、フェニル基、フェニルアミノ基、炭素数4以上のアルキル基、メタクリル基、又はエポキシ基を有するシラン化合物にて表面処理されているシリカ粒子材料である電子材料用フィラー。
【請求項9】
粒径が100nm?2000nmであるか又は比表面積が2m^(2)/g?35m^(2)/gであり、200℃で加熱したときに生成する表面積1m^(2)あたり40ppm以下であり、式(A):-OSiX^(1)X^(2)X^(3)で表される官能基と、式(B):-OSiY^(1)Y^(2)Y^(3)で表される官能基とを表面にもち、表面にOH基を実質的に有さないシリカ粒子材料である電子材料用フィラー。
(上記式(A)、(B)中;X^(1)はビニル基、フェニル基、フェニルアミノ基、炭素数4以上のアルキル基、メタクリル基、又はエポキシ基であり;X^(2)、X^(3)は-OSiR3及び-OSiY^(4)Y^(5)Y^(6)よりそれぞれ独立して選択され;Y^(1)はRであり;Y^(2)、Y^(3)はR及び-OSiY^(4)Y^(5)Y^(6)よりそれぞれ独立して選択される。Y^(4)はRであり;Y^(5)及びY^(6)は、R及び-OSiR3からそれぞれ独立して選択され;Rは炭素数1?3のアルキル基から独立して選択される。なお、X^(2)、X^(3)、Y^(2)、Y^(3)、Y^(5)、及びY^(6)の何れかは、隣接する官能基のX^(2)、X^(3)、Y^(2)、Y^(3)、Y^(5)、及びY^(6)の何れかと-O-にて結合しても良い。)
【請求項10】
前記シリカ粒子材料は粒径が600nm以下であり、比表面積が10m^(2)/g以上である請求項8又は9に記載の電子材料用フィラー。
【請求項11】
請求項9?10のうちの何れか1項に記載の電子材料用フィラーと、
前記電子材料用フィラーを分散する樹脂材料と、
を有する高周波用基板。
【請求項12】
前記樹脂材料は、水分の含有量が1000ppm以下である請求項11に記載の高周波用基板。
【請求項13】
請求項9?10のうちの何れか1項に記載の電子材料用フィラーと、
前記電子材料用フィラーを分散し、水分を実質的に含有しない液体状の分散媒と、
を有する電子材料用スラリー。
【請求項14】
粒径が100nm?2000nmであるか又は比表面積が2m^(2)/g?35m^(2)/gであり、200℃で加熱したときに生成する水分量が表面積1m^(2)あたり40ppm以下であり、
ビニル基、フェニル基、フェニルアミノ基、炭素数4以上のアルキル基、メタクリル基、又はエポキシ基を有するシラン化合物にて表面処理されているシリカ粒子材料である電子材料用フィラーと、
前記電子材料用フィラーを分散する樹脂材料と、
を有する高周波用基板。
【請求項15】
粒径が100nm?2000nmであるか又は比表面積が2m^(2)/g?35m^(2)/gであり、200℃で加熱したときに生成する水分量が表面積1m^(2)あたり40ppm以下であり、
ビニル基、フェニル基、フェニルアミノ基、炭素数4以上のアルキル基、メタクリル基、又はエポキシ基を有するシラン化合物にて表面処理されているシリカ粒子材料である電子材料用フィラーと、
前記電子材料用フィラーを分散し、水分を実質的に含有しない液体状の分散媒と、
を有する電子材料用スラリー。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-12-22 
出願番号 特願2018-235932(P2018-235932)
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (C01B)
P 1 652・ 857- YAA (C01B)
P 1 652・ 851- YAA (C01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 須藤 英輝岡田 隆介  
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 後藤 政博
末松 佳記
登録日 2019-08-02 
登録番号 特許第6564517号(P6564517)
権利者 株式会社アドマテックス
発明の名称 電子材料用フィラー及びその製造方法、電子材料用樹脂組成物の製造方法、高周波用基板、並びに電子材料用スラリー  
代理人 特許業務法人 共立  
代理人 特許業務法人共立  

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