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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C01B 審判 全部申し立て 2項進歩性 C01B 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C01B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C01B |
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管理番号 | 1371702 |
異議申立番号 | 異議2019-701061 |
総通号数 | 256 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-04-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-12-25 |
確定日 | 2021-01-08 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6542968号発明「活性炭、及び該活性炭の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6542968号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕、3、〔4-7〕について訂正することを認める。 特許第6542968号の請求項1、2、4ないし7に係る特許を維持する。 特許第6542968号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6542968号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成30年 9月28日に出願され、令和 1年 6月21日にその特許権の設定登録がされ、令和 1年 7月10日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1?7に係る特許について、特許異議申立人 後藤 奈美 (以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものであり、その手続の経緯は以下のとおりである。 令和 1年12月25日 特許異議の申立て 令和 2年 6月 3日付け 取消理由通知 令和 2年 8月 7日 訂正の請求、意見書の提出 なお、令和 2年 8月 7日付けの訂正の請求に対して、申立人に期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、指定期間内に意見書は提出されなかった。 第2 訂正請求について 1 訂正の内容 令和 2年 8月 7日付けの訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、以下の(1)?(7)のとおりである(「・・・」は、記載の省略を表すものであり、また、下線部は、訂正箇所を示すものである)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1において、 「BET比表面積が」 と記載されているのを、 「密度1.3g/cm^(3)以下の紙フェノール樹脂積層体を炭化処理した後、ガス賦活処理して得られた活性炭であって、 BET比表面積が」 と訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1において、 「BET比表面積が650m^(2)/g以上、1250m^(2)/g以下、」 と記載されているのを、 「BET比表面積が697m^(2)/g以上、991m^(2)/g以下、」 と訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項1において、 「全細孔容積が0.25cm^(3)/g以上、」 と記載されているのを、 「全細孔容積が0.25cm^(3)/g以上、0.80cm^(3)/g以下、」 と訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項4において、 「密度1.3g/cm^(3)以下の紙フェノール樹脂積層体を炭化処理した後、」 と記載されているのを、 「密度1.3g/cm^(3)以下の紙フェノール樹脂積層体を不活性ガス雰囲気下、500℃以上、1000℃以下、1分以上、10時間以下の条件で炭化処理した後、」 と訂正する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項4において、 「ガス賦活処理する」 と記載されているのを、 「昇温速度1℃/分以上、100℃/分以下で400℃以上、1500℃以下まで加熱し、該加熱温度で0.1時間以上、10時間以下保持し、水蒸気、空気、炭酸ガス、酸素、燃焼ガス、およびこれらの混合ガスよりなる群から選択される賦活ガスを供給してガス賦活処理する」 と訂正する。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項4において、 「特徴とする活性炭の製造方法。」 と記載されているのを、 「特徴とする請求項1、または2に記載の活性炭の製造方法。」 と訂正する。 2 訂正要件(訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について)の判断 (1)訂正事項1について 訂正前の請求項1では、炭素原料を特定していなかったところ、訂正事項1は、「密度1.3g/cm^(3)以下の紙フェノール樹脂積層体を炭化処理した後、ガス賦活処理して得られた活性炭であって、」との記載により、活性炭を具体的に特定し、限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、願書に添付した訂正前の請求項3には「前記活性炭は、密度1.3g/cm^(3)以下の紙フェノール樹脂積層体を炭化処理した後、ガス賦活処理して得られたものである」と記載されているから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2について 訂正前の請求項1では、「BET比表面積が650m^(2)/g以上、1250m^(2)/g以下、」と特定していたところ、訂正事項2は、「BET比表面積が697m^(2)/g以上、991m^(2)/g以下、」との記載により、BET比表面積の数値範囲を減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、願書に添付した明細書の段落【0061】の表1の実施例2にはBET比表面積の値「697m^(2)/g」が、及び実施例5にはBET比表面積の値「991m^(2)/g」がそれぞれ記載されているから、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)訂正事項3について 訂正前の請求項3では、「全細孔容積が0.25cm^(3)/g以上、」と特定していたところ、訂正事項3は、「全細孔容積が0.25cm^(3)/g以上、0.80cm^(3)/g以下、」との記載により、全細孔容積の上限を特定して数値範囲を減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、願書に添付した明細書の段落【0022】に「全細孔容積の上限は好ましくは0.80cm^(3)/g以下」の記載に基づき全細孔容積の上限を減縮したものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (4)訂正事項4について 訂正事項4は、請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項4は、請求項3を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (5)訂正事項5について 訂正前の請求項4では、炭化処理条件を特定していなかったところ、訂正事項5は、「不活性ガス雰囲気下、500℃以上、1000℃以下、1分以上、10時間以下の条件で」炭化処理することを限定するものであるから、 特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、願書に添付した明細書の段落【0033】における「炭化処理時の雰囲気は、・・・不活性ガス雰囲気とすることが望ましい。また低密度紙フェノール樹脂積層体が燃焼しない温度、時間で加熱処理することが望ましく、炭化処理の温度(炉内温度)は、好ましくは500℃以上・・・であって、好ましくは1000℃以下・・・である。該炭化処理温度での保持時間は、好ましくは1分以上・・・であって、好ましくは10時間以下・・・である。」の記載に基づき炭化条件をより具体的に特定するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (6)訂正事項6について 訂正前の請求項4では、ガス賦活処理条件を特定していなかったところ、訂正事項6は、「昇温速度1℃/分以上、100℃/分以下で400℃以上、1500℃以下まで加熱し、該加熱温度で0.1時間以上、10時間以下保持し、水蒸気、空気、炭酸ガス、酸素、燃焼ガス、およびこれらの混合ガスよりなる群から選択される賦活ガスを供給して」ガス賦活処理することを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、願書に添付した明細書の段落【0035】における「ガス賦活処理を行う際の温度(炉内温度)は好ましくは400℃以上・・・であって、好ましくは1500℃以下・・・である。この際の昇温速度は好ましくは1℃/分以上・・・であって、好ましくは100℃/分以下・・・である。また加熱保持時間は好ましくは0.1時間以上・・・であって、好ましくは10時間以下・・・である。」、及び【0036】における「賦活ガスとしては、水蒸気、空気、炭酸ガス、酸素、燃焼ガス、およびこれらの混合ガスを用いることができる。」の記載に基づきガス賦活処理条件をより具体的に特定するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (7)訂正事項7について 訂正前の請求項4は、「・・・ガス賦活処理することを特徴とする活性炭の製造方法。」として独立請求項で規定していたところ、訂正事項7は、「・・・ガス賦活処理することを特徴とする請求項1、または2に記載の活性炭の製造方法。」との記載により、請求項4を請求項1又は請求項2に従属させることにより、請求項4で特定した製造方法により製造される活性炭を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、願書に添付した明細書の段落【0010】における「[4]本発明の活性炭の好適な製造方法は、密度1.3g/cm^(3)以下の紙フェノール樹脂積層体を炭化処理した後、ガス賦活処理することを特徴とする。」との記載に基づいて製造される活性炭を請求項1,2に係る活性炭に限定したものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3 一群の請求項について 訂正事項1?4に係る訂正前の請求項1?3は、請求項2及び3が、直接的又は間接的に請求項1を引用する関係にあるから、一群の請求項を構成するところ、訂正事項1?4に係る特許請求の範囲の訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、この一群の請求項1?3を訂正の単位として請求されたものである。 ただし、訂正事項4については、訂正後の請求項3についての訂正が認められる場合に、一群の請求項である請求項1及び2と別の訂正単位として扱われることが求められている。 また、訂正事項5?7に係る訂正前の請求項4?7は、請求項5?7が、直接的又は間接的に請求項4を引用する関係にあるから、一群の請求項を構成するところ、訂正事項5?7に係る特許請求の範囲の訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、この一群の請求項4?7を訂正の単位として請求されたものである。 4 独立特許要件について 本件特許の請求項1?7の全ての請求項について特許異議の申立てがされたので、本件訂正請求においては、訂正後の請求項1?7に係る発明について、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の独立特許要件についての規定は適用されない。 5 小活 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1、2〕、3、〔4?7〕について訂正することを認める。 第3 特許異議の申立てについて 1 本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1、2、4?7に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」・・・「本件発明7」といい、まとめて「本件発明」という場合がある。)は、次の事項により特定されるとおりのものである(下線部は、訂正箇所を示す)。 「【請求項1】 密度1.3g/cm^(3)以下の紙フェノール樹脂積層体を炭化処理した後、ガス賦活処理して得られた活性炭であって、 BET比表面積が697m^(2)/g以上、991m^(2)/g以下、 全細孔容積が0.25cm^(3)/g以上、0.80cm^(3)/g以下、 平均細孔径が1.8nm以上、4.0nm以下、 下記通水試験方法におけるクロロホルム通水量が71L/g以上である活性炭。 通水試験方法:粒子径53?180μmの活性炭2.0gを充填したカラムに試験用水を通過させて、カラム通過前後のクロロホルム濃度を測定し、破過点までの総ろ過水量(L)から活性炭1g当たりのクロロホルム通水量(L/g)を求めてクロロホルム通水量とする。 試験用水:クロロホルム濃度0.06mg/Lの蒸留水 空間速度(SV):500h^(-1) クロロホルム濃度測定方法:ヘッドスペースガスクロマトグラフ 破過点:カラム流入水に対するカラム流出水のクロロホルムの水中濃度が20%を越えた時点 【請求項2】 下記平衡試験方法におけるクロロホルム平衡吸着量が4.5mg/g以上である請求項1に記載の活性炭。 平衡試験方法:下記所定量の活性炭と攪拌子を入れた100mLの三角フラスコにクロロホルム溶液を満水充填し、密栓した後、20℃で14時間攪拌した後、三角フラスコ内容物をろ別し、ろ過液を上記クロロホルム濃度測定方法でクロロホルムの平衡濃度(mg/L)、及び活性炭1g当たりのクロロホルム平衡吸着量(mg/g)を求めると共に吸着等温線を作成し、平衡濃度0.06mg/Lにおける平衡吸着量(mg/g)とする。 試験溶液:濃度0.06mg/Lのクロロホルム溶液 三角フラスコの質量:クロロホルム溶液の充填前後で三角フラスコの質量を測定 活性炭粒径:粒子径180μm以下 各試験における活性炭量:0.013g、0.026g、0.065g、0.130g、0.260g 吸着等温線:前記活性炭の各所定量で前記平衡濃度と前記平衡吸着量を測定し、その結果に基づいて前記吸着等温線を作成する 【請求項4】 密度1.3g/cm^(3)以下の紙フェノール樹脂積層体を不活性ガス雰囲気下、500℃以上、1000℃以下、1分以上、10時間以下の条件で炭化処理した後、昇温速度1℃/分以上、100℃/分以下で400℃以上、1500℃以下まで加熱し、該加熱温度で0.1時間以上、10時間以下保持し、水蒸気、空気、炭酸ガス、酸素、燃焼ガス、およびこれらの混合ガスよりなる群から選択される賦活ガスを供給してガス賦活処理することを特徴とする請求項1、または2に記載の活性炭の製造方法。 【請求項5】 前記ガス賦活処理後に、洗浄処理、乾燥処理、粉砕処理、及び加熱処理よりなる群から選ばれる少なくとも1つを行うものである請求項4に記載の活性炭の製造方法。 【請求項6】 前記炭化処理して得られる前記紙フェノール樹脂積層体の炭化物の細孔径1?10μmの細孔容積が、0.15cm^(3)/g以上である請求項4または5に記載の活性炭の製造方法。 【請求項7】 請求項4?6のいずれかに記載の製造方法で得られた浄水器用活性炭。」 2 取消理由の概要について 当審において、訂正前の請求項1?7に対して通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。 (1)取消理由1(特許法第36条第6項第1号) ア 訂正前の請求項1?3について 本件特許に係る発明の課題(以下、「本件課題」という。)は、「吸着性能に優れた特性を有する活性炭、及び該活性炭の製造方法を提供する」(本件明細書【0006】)ことである。 (ア)炭素原料 本件明細書では、密度が1.1g/cm^(3)(実施例)及び1.44g/cm^(3)(比較例)の紙フェノール樹脂積層体を炭素原料として使用した具体例が記載されているのみである。 そうすると、低密度の紙フェノール樹脂積層体以外の炭素原料を使用した場合を含む訂正前の請求項1、2 及び1.3g/cm^(3)以下の紙フェノール樹脂積層体を炭素原料することを特定する訂正前の請求項3は、本件課題を解決できず、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえない。 (イ)活性炭の比表面積、全細孔容積及び平均細孔径 活性炭の比表面積、全細孔容積及び平均細孔径は、吸着性能に関連するから、実施例に記載の数値範囲を超えて活性炭の比表面積等を特定した訂正前の請求項1?3は、本件課題を解決できず、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。 イ 訂正前の請求項4?7について (ア)活性炭の製造条件 活性炭の各製造工程の加熱温度、時間等の製造条件について特定されていない訂正前の請求項4?7は、本件課題を解決できず、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえない。 (イ)炭素原料 請求項4?7では、1.3g/cm^(3)以下の紙フェノール樹脂積層体を炭素原料することを特定事項として含むから、上記ア(ア)と同様であり、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえない。 ウ したがって、本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (2)取消理由2(特許法第36条第6項第2号) 訂正前の請求項7について 訂正前の請求項7に係る浄水器用活性炭は、訂正前の請求項4?6の活性炭の製造方法により特定されているが、前記製造方法によりどのような特定を有する活性炭が得られるのかは把握できないから、訂正前の請求項7に係る浄水器用活性炭の物性が明らかでなく当該請求項は明確でない。 したがって、本件特許の請求項7に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 3 取消理由の検討 (1)取消理由1(特許法第36条第6項第1号)について ア 本件発明1、2について (ア)炭素原料 本件発明1は、「密度1.3g/cm^(3)以下の紙フェノール樹脂積層体を炭化処理した後、ガス賦活処理して得られた活性炭」であることが特定されている。 発明の詳細な説明の段落【0028】によると、低密度紙フェノール樹脂積層体由来の炭化物は、高密度紙フェノール樹脂積層体由来の炭化物と比べて、細孔径1?10μmの細孔容積が顕著に発達し、これをガス賦活処理すると内部でのガス拡散性が高く、形成される細孔や細孔構造に影響を及ぼし、高密度紙フェノール樹脂積層体由来の活性炭とは物理的な構造が相違し、吸着性能の差となって現れてくると説明されている。 また、実施例において、紙フェノール樹脂積層体の密度1.1g/cm^(3)、1.44g/cm^(3)に対し、1?10μmのマクロ孔容積は、それぞれ0.21cm^(3)/g、0.11cm^(3)/g となり、得られた活性炭の「クロロホルム通水量」は、それぞれ74?112g/L、54?70g/Lである(表1)。 これらのことから、比較例である1.44g/cm^(3)に対して、本件発明1で特定された「密度1.3g/cm^(3)以下の紙フェノール樹脂積層体」は低密度であるから、実施例の「1.1g/cm^(3)」の紙フェノール樹脂活性炭と同じく、得られる活性炭の吸着性能は優れたものとなり、「クロロホルム通水量」も増加することが推認できる。 したがって、「密度1.3g/cm^(3)以下の紙フェノール樹脂積層体」を炭素原料とした場合に、吸着性能に優れた特性を有する活性炭を提供するという本件課題を解決できることを当業者であれば認識することができる。 (イ)活性炭の比表面積、全細孔容積及び平均細孔径 本件発明1で特定する比表面積は、実施例(表1)に示される範囲のものである一方で、全細孔容積、平均細孔径は、実施例よりも広い数値範囲となっている。 しかし、本件発明1、2は、上記(ア)に記載のとおり、低密度である「密度1.3g/cm^(3)以下の紙フェノール樹脂積層体」を活性炭の原料として使用した場合に、吸着性能に優れた活性炭を得ることができるものであって、実際、実施例の比表面積、全細孔容積及び平均細孔径については、比較例と大差ないものとなっている。 そして、上記(ア)のとおり、活性炭の吸着性能の違いは、低密度の紙フェノール樹脂積層体に由来するといえるから、「密度1.3g/cm^(3)以下の紙フェノール樹脂積層体」の活性炭原料を特定した本件発明1について、「クロロホルム通水量71L/g以上」の通水吸着性能を得ることができると理解することができる。 そうすると、本件発明1で特定した全細孔容積や平均細孔径の範囲において、本件発明1、2は、吸着性能に優れた特性を有する活性炭を提供するという本件課題を解決できることを当業者であれば認識することができる。 イ 本件発明4?7について (ア)活性炭の製造条件 本件発明4?6は、活性炭の製造方法であるところ、ガス雰囲気、温度及び時間の炭化処理条件、及び昇温速度、加熱温度、加熱時間及び賦活ガスのガス賦活処理条件が特定されている。 そして、本件発明4?6に係る活性炭の製造方法は、本件発明1、2に従属するから、当該製造方法により本件発明1、2で特定する物性の活性炭が得られるものである。 また、本件発明7に係る浄水器活性炭は、本件発明4?6に係る活性炭の製造法により得られたことが特定されているから、本件発明1、2で特定された活性炭の物性を有するものである。 一方、発明の詳細な説明の実施例には、本件発明4?6で特定した製造条件により、本件発明1、2で特定した活性炭及び本件発明7で特定した浄水器用活性炭が得られたことが具体的に記載されている。 そうすると、本件発明4?7は、吸着性能の優れた特性を有する活性炭を提供するという本件課題を解決できることを当業者は認識できる。 (イ)炭素原料 上記ア(ア)と同様であり、本件発明4?7は、「密度1.3g/cm^(3)以下の紙フェノール樹脂積層体」を炭素原料とした場合に、吸着性能の優れた特性を有する活性炭を提供するという本件課題を解決できることを当業者は認識できる。 よって、取消理由1は、理由がない。 (2)取消理由2(特許法第36条第6項第2号)について 本件発明7について 上記(1)イ(ア)に記載したように、本件発明7に係る浄水器用活性炭は、本件発明1、2で特定した物性を有するものであることは明らかであるから、本件発明7は明確である。 よって、取消理由2は、理由がない。 4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の検討 (1)特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項に係る申立理由 ア 申立理由の概要 訂正前の請求項1?3に係る発明は、甲1に記載された発明であるか、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 また、訂正前の請求項4?7に係る発明は、甲1、4、5のそれぞれに記載された発明であるか、甲1?5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (証拠方法) 甲1:国際公開第2015/152391号 甲2:特開2000-313610号公報 甲3:特開2005-13883号公報 甲4:特開昭59-187624号公報 甲5:特開2000-256999号公報 イ 申立理由の検討 (ア)本件発明1、2について アの申立理由は、要するに、甲1に記載の浄水器用活性炭は、BET比表面積、全細孔容積、平均細孔径が、訂正前の請求項1に係る発明と差異はなく、甲1の「クロロホルム通水量」も同一である蓋然性が高く、紙-フェノール樹脂積層体原料とする点でも訂正前の請求項3に係る発明と同じであるから、訂正前の請求項1?3に係る発明は、甲1に記載された発明であるか、または当業者が容易になし得たものであり、他の請求項も各証拠を参照すれば、当業者が容易になし得たというものである。 そこで検討するに、本件発明1は、「密度1.3g/cm^(3)以下の紙フェノール樹脂積層体を炭化処理した後、ガス賦活処理して得られた活性炭」であること、及び「クロロホルム通水量が71L/g以上である」活性炭であることが特定されているところ、甲1は、紙-フェノール樹脂積層体を炭素原料とする点では、本件発明1と共通するものの、本件発明1で特定した「密度1.3g/cm^(3)以下の紙フェノール樹脂積層体」を用いる点は、記載も示唆もされていない。 そして、本件発明1で特定する活性炭の「クロロホルム通水量が71L/g以上」という優れた吸着性能は、本件明細書の記載(段落【0026】、【実施例】)の記載によると、上記のような低密度の紙フェノール樹脂積層体を炭素原料とすることによって得られるものであることが記載されていることからすれば、甲1の活性炭のクロロホルム通水量が71L/g以上となっているといえないし、また、甲1には、炭素原料とする紙フェノール樹脂積層体の密度を選択することにより、吸着性能に優れた特性を有する活性炭が得られるという知見は存在しているといえない。 したがって、本件発明1、2は、甲1に記載された発明であるとも、当業者が甲1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたともいえない。 申立人は、特許異議申立書において、活性炭の通水吸着性能はその粒子径に依存するから、粒子径53?180μmの範囲で調整すれば、甲1の「クロロホルム通水量」が本件発明1で特定する活性炭の「クロロホルム通水量が71L/g以上」となる蓋然性が高いと主張するが、甲1に記載の活性炭は、本件発明1とBET比表面積、全細孔容積、平均細孔径が共通するものの、本件発明1の低密度の紙フェノール樹脂積層体由来の細孔構造と同等の細孔構造を有するという根拠は示されておらず、申立人の主張を是認できるものではない。 (イ)本件発明4?7について 本件発明4?7は、本件発明1に従属するものであり、甲2?甲5は、フェノール樹脂等を炭素原料とした活性炭や、活性炭によりクロロホルムを吸着除去することなどが記載されているにとどまるものであるから、上記(ア)での新規性、容易想到性の検討と同様に、本件発明4?7は、甲1、4、5に記載された発明であるとも、甲1?甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。 よって、上記申立理由は、理由がない。 (2)特許法第36条第4項第1号 ア 申立理由の概要 本件発明1に係る活性炭の「下記通水試験方法におけるクロロホルム通水量が71L/g以上である」における「通水試験方法」は、「粒子径53?180μmの活性炭2.0gを充填したカラムに試験用水を通過させて、カラム通過前後のクロロホルム濃度を測定し、破過点までの総ろ過水量(L)から活性炭1g当たりのクロロホルム通水量(L/g)を求めてクロロホルム通水量とする。」と特定されている。 しかし、活性炭の通水吸着性能は、その粒子径に依存することが技術常識であるところ、本件発明1の具体的な例は、乳鉢で「粒子径が180μm以下」に粉砕した活性炭を使用した試験であって、その「平均」粒子径(つまり活性炭サンプルの粒子径分布)がどのようなものであるか不明であるから、実施例の活性炭の「優れた通水吸着性能を有する」効果が、本件発明1により特定される物性によるものであるのか、それ以外の要因に基づくものか検証することはできない。 そうすると、「通水試験方法」の結果のみから、訂正前の請求項1に係る活性炭が、「優れた通水吸着性能を有する」という技術上の意義には疑問があり、本件明細書中に、本件発明1に係る通水試験方法についての開示が十分にされていないから、訂正前の請求項1?3に係る発明は、実施可能要件を満たしていない。 イ 申立理由の検討 本件明細書の「実施例」には、通水試験について次の記載がある。 「【0042】 ・・・ 水蒸気賦活を20分間行って活性炭を得た。 粉砕工程2:得られた活性炭の粒子径が180μm以下となるまで乳鉢で粉砕した。 洗浄工程:粉砕した活性炭を5.0%の塩酸(60℃)で洗浄した後、温水(60℃)洗浄して活性炭1を製造した。」 「【0059】 [通水試験] 微粉による圧力損失を低減させるため、活性炭の粒径を53?180μmの範囲内に調整した活性炭2.0gをカラム(直径15mm)に充填し、JIS S 3201(2010年:家庭用浄水器試験法)に準じて通水試験を行った。・・・」 上記の記載によると、粒子径が180μmとなるまで乳鉢で粉砕した活性炭を、通水試験において微粉の影響を排除するために、粒子径を53?180μmの範囲内に調整した活性炭を試験に用いるものである。 そして、本件明細書には、上記の通水試験は、実施例及び比較例においてすべて同様に行ったことが記載されているから、通水試験の結果から、低密度の紙フェノール樹脂積層体を用いた場合に、本件発明に係る実施例の活性炭が「優れた通水吸着性能を有する」という効果を奏するという技術的意義を理解できるものである。 また、当業者であれば、上記のとおり、通水試験の詳細が記載されているから、発明の詳細な説明の記載は、本件発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。 よって、上記申立理由は、理由がない。 第4 むすび 以上のとおりであるから、当審で通知した取消理由並びに特許異議申立ての理由及び証拠によっては、訂正後の本件請求項1、2、4?7に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1、2、4?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 そして、本件請求項3に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、同請求項3に係る特許に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 密度1.3g/cm^(3)以下の紙フェノール樹脂積層体を炭化処理した後、ガス賦活処理して得られた活性炭であって、 BET比表面積が697m^(2)/g以上、991m^(2)/g以下、 全細孔容積が0.25cm^(3)/g以上、0.80cm^(3)/g以下、 平均細孔径が1.8nm以上、4.0nm以下、 下記通水試験方法におけるクロロホルム通水量が71L/g以上である活性炭。 通水試験方法:粒子径53?180μmの活性炭2.0gを充填したカラムに試験用水を通過させて、カラム通過前後のクロロホルム濃度を測定し、破過点までの総ろ過水量(L)から活性炭1g当たりのクロロホルム通水量(L/g)を求めてクロロホルム通水量とする。 試験用水:クロロホルム濃度0.06mg/Lの蒸留水 空間速度(SV):500h^(-1) クロロホルム濃度測定方法:ヘッドスペースガスクロマトグラフ 破過点:カラム流入水に対するカラム流出水のクロロホルムの水中濃度が20%を越えた時点 【請求項2】 下記平衡試験方法におけるクロロホルム平衡吸着量が4.5mg/g以上である請求項1に記載の活性炭。 平衡試験方法:下記所定量の活性炭と攪拌子を入れた100mLの三角フラスコにクロロホルム溶液を満水充填し、密栓した後、20℃で14時間攪拌した後、三角フラスコ内容物をろ別し、ろ過液を上記クロロホルム濃度測定方法でクロロホルムの平衡濃度(mg/L)、及び活性炭1g当たりのクロロホルム平衡吸着量(mg/g)を求めると共に吸着等温線を作成し、平衡濃度0.06mg/Lにおける平衡吸着量(mg/g)とする。 試験溶液:濃度0.06mg/Lのクロロホルム溶液 三角フラスコの質量:クロロホルム溶液の充填前後で三角フラスコの質量を測定 活性炭粒径:粒子径180μm以下 各試験における活性炭量:0.013g、0.026g、0.065g、0.130g、0.260g 吸着等温線:前記活性炭の各所定量で前記平衡濃度と前記平衡吸着量を測定し、その結果に基づいて前記吸着等温線を作成する 【請求項3】(削除) 【請求項4】 密度1.3g/cm^(3)以下の紙フェノール樹脂積層体を不活性ガス雰囲気下、500℃以上、1000℃以下、1分以上、10時間以下の条件で炭化処理した後、昇温速度1℃/分以上、100℃/分以下で400℃以上、1500℃以下まで加熱し、該加熱温度で0.1時間以上、10時間以下保持し、水蒸気、空気、炭酸ガス、酸素、燃焼ガス、およびこれらの混合ガスよりなる群から選択される賦活ガスを供給してガス賦活処理することを特徴とする請求項1、または2に記載の活性炭の製造方法。 【請求項5】 前記ガス賦活処理後に、洗浄処理、乾燥処理、粉砕処理、及び加熱処理よりなる群から選ばれる少なくとも1つを行うものである請求項4に記載の活性炭の製造方法。 【請求項6】 前記炭化処理して得られる前記紙フェノール樹脂積層体の炭化物の細孔径1?10μmの細孔容積が、0.15cm^(3)/g以上である請求項4または5に記載の活性炭の製造方法。 【請求項7】 請求項4?6のいずれかに記載の製造方法で得られた浄水器用活性炭。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2020-12-28 |
出願番号 | 特願2018-183141(P2018-183141) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
YAA
(C01B)
P 1 651・ 121- YAA (C01B) P 1 651・ 537- YAA (C01B) P 1 651・ 113- YAA (C01B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 廣野 知子 |
特許庁審判長 |
宮澤 尚之 |
特許庁審判官 |
末松 佳記 後藤 政博 |
登録日 | 2019-06-21 |
登録番号 | 特許第6542968号(P6542968) |
権利者 | 株式会社MCエバテック 関西熱化学株式会社 |
発明の名称 | 活性炭、及び該活性炭の製造方法 |
代理人 | 特許業務法人アスフィ国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人アスフィ国際特許事務所 |
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