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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F25B
審判 全部申し立て 2項進歩性  F25B
管理番号 1371704
異議申立番号 異議2020-700026  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-04-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-01-16 
確定日 2021-01-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6545337号発明「冷凍サイクル装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6545337号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6545337号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6545337号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成30年8月31日に出願され、令和1年6月28日にその特許権の設定登録がされ、令和1年7月17日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和2年1月16日に特許異議申立人松岡直之(以下、単に「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和2年5月8日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和2年7月13日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、特許異議申立人は、令和2年9月8日に意見書を提出した。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和2年7月13日に提出された訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、以下のとおりである(なお、下線部は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
請求項1に係る「前記冷凍機油は、ポリオールエステル油であって、水分量が300重量ppm以下であり、」を「前記冷凍機油は、ポリオールエステル油であって、水分量が300重量ppm以下、且つ、前記混合冷媒と共に175℃で504時間加熱したときの全酸価が0.12mgKOH/g以下であり、」に訂正する。

(2)訂正事項2
発明の詳細な説明の段落【0016】の「前記冷凍機油は、ポリオールエステル油であって、水分量が300重量ppm以下であり、」という記載を「前記冷凍機油は、ポリオールエステル油であって、水分量が300重量ppm以下、且つ、前記混合冷媒と共に175℃で504時間加熱したときの全酸価が0.12mgKOH/g以下であり、」に訂正する。

(3)一群の請求項について
本件訂正請求は、一群の請求項〔1-5〕に対して請求されたものである。また、明細書に係る訂正は、一群の請求項〔1-5〕について請求されたものである。

2 補正の適否について
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的
訂正後の請求項1に係る「且つ、前記混合冷媒と共に175℃で504時間加熱したときの全酸価が0.12mgKOH/g以下」という事項は、冷凍機油の特性に関する事項であるので、訂正前の請求項1「前記冷凍機油は、ポリオールエステル油であって、水分量が300重量ppm以下であり、」を訂正後に「前記冷凍機油は、ポリオールエステル油であって、水分量が300重量ppm以下、且つ、前記混合冷媒と共に175℃で504時間加熱したときの全酸価が0.12mgKOH/g以下であり、」に変更する訂正事項1に係る訂正は、冷凍機油の特性に関する事項をさらに加えて限定するものであるので、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
明細書の発明の詳細な説明の段落【0127】に「続いて、冷凍機油と金属触媒を入れたガラス容器を、100Pa以下に減圧して真空引きした後、12gの冷媒を導入して密閉した。そして、このガラス容器を、オートクレーブを用いて、175℃ で504 時間にわたって加熱した。加熱後にガラス容器を開封し、冷凍機油の全酸価と、冷凍機油中のフッ素量を測定した。」と記載され、また、段落【0129】(表1)に、全酸価が0.12mgKOH/g以下である、「試料1-1」、「試料1-3」、「試料1-5」、「試料1-7」が記載されているので、訂正事項1に係る訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
よって、訂正事項1に係る訂正は、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合する。

(2)訂正事項2
ア 訂正の目的
訂正事項2に係る訂正は、訂正事項1の特許請求の範囲の訂正に伴う明細書の訂正である。そうすると、訂正事項2に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。

イ 新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項1において検討したのと同様に、訂正事項2に係る訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
よって、訂正事項2に係る訂正は、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合する。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正により訂正された請求項1ないし5に係る発明(以下「本件発明1ないし5」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
冷媒を圧縮する圧縮機と、前記圧縮機で圧縮された冷媒を凝縮させる凝縮器と、前記凝縮器で凝縮された冷媒を減圧する減圧器と、前記減圧器で減圧された冷媒を蒸発させる蒸発器と、を備える冷凍サイクル装置であって、
前記冷媒は、ジフルオロメタン、ペンタフルオロエタン及びトリフルオロヨードメタンを含む混合冷媒であり、地球温暖化係数が750以下、且つ、25℃における蒸気圧が1.1MPa以上1.8MPa以下であり、
前記圧縮機は、密閉容器内に、圧縮機構部と、前記圧縮機構部を駆動するモータと、を備え、且つ、摺動部を潤滑する冷凍機油が充填されている密閉型電動圧縮機であり、
前記冷凍機油は、ポリオールエステル油であって、水分量が300重量ppm以下、且つ、前記混合冷媒と共に175℃で504時間加熱したときの全酸価が0.12mgKOH/g以下であり、
前記ポリオールエステル油は、下記化学式(1)で表される化合物、又は、下記化学式(2)で表される化合物、又は、これらの混合物[但し、化学式(1)及び(2)中、R^(1) は、炭素数4?9のアルキル基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。]
である冷凍サイクル装置。

【請求項2】
請求項1に記載の冷凍サイクル装置において、
前記混合冷媒は、ジフルオロメタンが20重量%以上60重量%以下、ペンタフルオロエタンが5重量%以上25重量%以下、且つ、トリフルオロヨードメタンが30重量%以上60重量%以下である冷凍サイクル装置。
【請求項3】
請求項1に記載の冷凍サイクル装置において、
前記冷凍機油は、脂環式エポキシ化合物及び脂肪族エポキシ化合物を各々0.1重量%以上2.0重量%以下含むことを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項4】
請求項3に記載の冷凍サイクル装置において、
前記脂環式エポキシ化合物は、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレートである冷凍サイクル装置。
【請求項5】
請求項3に記載の冷凍サイクル装置において、
前記脂肪族エポキシ化合物は、アルキルグリシジルエステルである冷凍サイクル装置。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし5に係る特許に対して、当審が令和2年5月8日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりであり、これは特許異議申立書に記載された特許異議申立理由と同じである。
(1)(進歩性)請求項1ないし5に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(2)(サポート要件)請求項3に係る特許は、特許請求の範囲の請求項3の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

<甲号証一覧>
甲第1号証:国際公開第2018/022888(訳文として、特表2019-527285号公報参照。)
甲第2号証:特開2017-57278号公報
甲第3号証:特開2014-105984号公報
甲第4号証:国際公開第2018/021533
甲第5号証:特開2002-129177号公報
甲第6号証:特開2010-139171号公報
以下、甲第1号証を甲1のように略記する。

2 甲号証の記載等
(1)甲1の記載及び甲1発明
甲1には、以下の記載がある。なお、()内は、訳文としての特表2019-527285号公報における該当箇所の記載を示す。(「・・・」は記載の省略を意味し、下線は当審にて付した。以下同じ。)。
「The present invention relates to compositions, methods and systems having utility in heat exchange systems, including air conditioning and refrigeration applications and in particular aspects to compositions useful in heat transfer systems of the type in which the refrigerant R-41OA would have been used, that is as a replacement of the refrigerant R-41 OA for heating and cooling applications and to retrofitting heat exchange systems, including systems designed for use with R-41OA.」(1頁11行?16行)
(【0002】
本発明は、空調及び冷凍用途を含む熱交換システムにおいて有益性を有する組成物、方法、及びシステムに関し、特定の態様では、冷媒R-410Aが使用されたであろう種類の熱伝達システムにおいて加熱及び冷却用途のための冷媒R-410Aの代替品として有用な組成物、並びにR-410Aとの使用のために設計されたシステムを含む熱交換システムの追加導入に関する。)

「The heat transfer compositions of the invention may include other components for the purpose of enhancing or providing certain functionality to the compositions. Such other components or additives may include one or more of lubricants, dyes, solubilizing agents, compatibilizers, stabilizers, antioxidants, corrosion inhibitors, extreme pressure additives and anti wear additives.」(28頁19行?23行)
(【0092】
本発明の熱伝達組成物は、ある特定の機能性を増強させるか、又はそれを組成物に提供する目的で他の成分を含んでもよい。かかる他の成分又は添加剤には、潤滑剤、染料、可溶化剤、相溶化剤、安定化剤、抗酸化剤、腐食抑制剤、極圧添加剤、及び耐摩耗剤のうちの1つ以上が含まれ得る。)

「A preferred heat transfer composition further comprises a refrigerant according to any one of the refrigerants described here, but preferably those refrigerants consisting essentially of a blend of the following three compounds, with the following percentages being based on the total weight of the following three compounds: from about 48% by weight to about 51 % by weight difluoromethane (HFC-32), from about 9.5% by weight to about 11.5% by weight pentafluoroethane (HFC-125), and from about 36.5% by weight to about 40.5% by weight trifluoroiodomethane (CF_(3)I) and from 10 to 60 wt.% of a polyol ester (POE) lubricant, based on the weight of the heat transfer composition.」(133頁19行?26行)
(【0336】
好ましい本発明の熱伝達組成物は更に、ここに記載される冷媒のうちのいずれか1つによる冷媒であるが、好ましくは、以下の3種の化合物のブレンドから本質的になる冷媒であって、以下の3種の化合物の総重量に基づく以下のパーセンテージで、約48重量%?約51重量%のジフルオロメタン(HFC-32)、約9.5重量%?約11.5重量%のペンタフルオロエタン(HFC-125)、及び約36.5重量%?約40.5重量%のトリフルオロヨードメタン(CF3I)から本質的になる冷媒と、熱伝達組成物の重量に基づいて10?60重量%のポリオールエステル(POE)潤滑剤と、を含む。)

「・・・In a particularly preferred feature of the invention, the composition of the invention has a Global Warming Potential (GWP) of not greater than about 750. 」(197頁11行?12行)
(【0542】
・・・本発明の特に好ましい特徴では、本発明の組成物は、約750以下の地球温暖化係数(GWP)を有する。)

「For the purposes of this invention, each and any of the heat transfer compositions as described herein can be used in a heat transfer system, such as an air conditioning system, a refrigeration system or a heat pump. The heat transfer system according to the present invention can comprise a compressor, an evaporator, a condenser and an expansion device, in communication with each other.
Examples of commonly used compressors, for the purposes of this invention include reciprocating, rotary (including rolling piston and rotary vane), scroll, screw, and centrifugal compressors. ・・・
Examples of commonly used expansion devices, for the purposes of this invention include a capillary tube, a fixed orifice, a thermal expansion valve and an electronic expansion valve. 」(197頁25行?198頁8行)
(【0547】
本発明の目的では、本明細書に記載される熱伝達組成物は各々いずれも、空調システム、冷凍システム、又はヒートポンプなどの熱伝達システムにおいて使用され得る。本発明による熱伝達システムには、互いに接続した圧縮機、蒸発器、凝縮器、及び拡張デバイスが含まれ得る。
【0548】
一般的に使用される圧縮機の例としては、本発明の目的では、往復動式、回転式(ローリングピストン及び回転弁を含む)、スクロール式、ねじ式、及び遠心式圧縮機が挙げられる。
・・・
【0549】
一般的に使用される拡張デバイスの例としては、本発明の目的では、キャピラリーチューブ、固定オリフィス、温度膨張弁、及び電子膨張弁が挙げられる。)

「Example 7 - Stabilizers for Refrigerant/Lubricant Thermal Stability Example
Description:
The use of additives such as stabilizers ensures that the composition of the refrigerant and lubricant are effectively unchanged through the normal operation of the equipment to which it is charged. Refrigerants and lubricants are typically tested against ASHRAE Standard 97 - "Sealed Glass Tube Method to Test the Chemical Stability of Materials for Use within Refrigerant Systems" to simulate accelerated aging. After testing, the level of halides is used to judge refrigerant stability and the total acid number (TAN) is used to judge lubricant stability. In addition, the lubricant should be clear and colorless, the metals should be shiny (unchanged), and there should be no solids present.
The following experiment is carried out to show the effect of the addition of a stabilizer on a refrigerant/lubricant composition.
Sealed Tube Test Conditions:
1. Sealed tubes contain 50% refrigerant and 50% lubricant by weight 2. Refrigerant is as set out in table 9 below
3. Lubricant is an ISO 68 POE
4. Refrigerant and Lubricant have been degassed
5. Refrigerant contains <10 ppm moisture
6. Lubricant contains <30 ppm moisture
7. Sealed tubes contain coupons of steel, copper and aluminum
8. Sealed tubes are placed in oven at 175 °C for 14 days Table 9 -
Table 9 - Composition of refrigerant


Table 10. Summary of desired outcome of experiment
The aim of the experiment is to obtain the following results:

」(280頁10行?281頁9行)
(【0780】
実施例7.冷媒/潤滑剤用の安定化剤の熱安定性の例
説明:
安定化剤などの添加剤の使用は、冷媒及び潤滑剤の組成物が、それが充填される器具の通常動作を通して事実上変わらないことを確実にする。冷媒及び潤滑剤は典型的には、加速劣化をシミュレーションするために、ASHRAE標準97-「Sealed Glass Tube Method to Test the Chemical Stability of Materials for Use within Refrigerant Systems」に対して試験される。試験後、ハロゲン化物のレベルを使用して冷媒安定性を判断し、全酸価(total acid number、TAN)を使用して潤滑剤の安定性を判断する。更に、潤滑剤は無色透明であるべきであり、金属は光沢を有する(変わっていない)べきであり、かつ固体は存在しないべきである。
【0781】
冷媒/潤滑剤組成物への安定化剤の添加の効果を示すために、以下の実験を行った。
【0782】
封管試験条件:
1.封管は、50重量%の冷媒及び50重量%の潤滑剤を含有する
2.冷媒は、以下の表9に記載される通りである
3.潤滑剤は、ISO 68 POEである
4.冷媒及び潤滑剤は脱気されている
5.冷媒は、<10ppmの水分を含有する
6.潤滑剤は、<30ppmの水分を含有する
7.封管は、鋼鉄、銅、及びアルミニウムのクーポンを含有する
8.封管を175℃のオーブンに14日間置く
【0783】
【表9】

【0784】
【表10】


以上によれば、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「熱伝達組成物が使用される圧縮機、蒸発器、凝縮器、及び拡張デバイス(例えば、キャピラリーチューブ、固定オリフィス、温度膨張弁、及び電子膨張弁)が含まれる、空調システム、冷凍システムなどの熱伝達システムであって、
熱伝達組成物は、
約48重量%?約51重量%のジフルオロメタン(HFC-32)、約9.5重量%?約11.5重量%のペンタフルオロエタン(HFC-125)、及び約36.5重量%?約40.5重量%のトリフルオロヨードメタン(CF3I)から本質的になる冷媒と、
熱伝達組成物の重量に基づいて10?60重量%のポリオールエステル(POE)潤滑剤と、を含み、
約750以下の地球温暖化係数(GWP)を有する
熱伝達システム。」

(2)甲2?甲6の記載
ア.甲2には、以下の記載がある。
「【0024】
ポリオールエステルは、4価以上のアルコールと、飽和脂肪族モノカルボン酸とのエステルが挙げられ、4?6価のアルコールと、飽和脂肪族モノカルボン酸とのエステルが好ましい。
具体的には、以下の式(4)又は(5)で示される化合物が挙げられる。
【化4】

式(4)において、・・・R^(11)?R^(14)は直鎖又は分岐の炭素数2?20のアルキル基であり、・・・R^(11)?R^(14)の炭素数が3?8であることがさらに好ましい。
・・・R^(10)は、ヒンダードアルコールから水酸基を除いた基であることがより好ましく、ペンタエリスリトールから水酸基を除いた基がさらに好ましい。
【0025】
【化5】

式(5)において、・・・R^(15)?R^(17)、及びR^(20)?R^(22)は、直鎖又は分岐の炭素数2?20のアルキル基であり、・・・R^(15)?R^(17)、及びR20?R22の炭素数が3?8であることがより好ましい。
・・・また、R^(18)、R^(19)の好適な具体例としては、ヒンダードアルコールから水酸基を除いた基であることが好ましく、ペンタエリスリトールから水酸基を除いた基がより好ましい。」

「【0079】
[飽和フッ化炭化水素化合物]
・・・具体的なメタン又はエタンのフッ化物としては、トリフルオロメタン(R23)、ジフルオロメタン(R32)、・・・、1,1,1,2,2-ペンタフルオロエタン(R125)が挙げられる。
また、飽和フッ化炭化水素化合物としては、上記アルカンのフッ化物を、さらにフッ素以外のハロゲン原子でハロゲン化したものであっても良く、例えば、トリフルオロヨードメタン(CF3I)などが例示できる。
これらの飽和フッ化炭化水素化合物は、1種を単独で用いてよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。ここで、2種以上組み合わせて用いる場合の例として、・・・。具体的には、ジフルオロメタン(R32)と1,1,1,2,2-ペンタフルオロエタン(R125)の混合冷媒であるR410A、ジフルオロメタン(R32)と1,1,1,2,2-ペンタフルオロエタン(R125)と1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R134a)の混合冷媒であるR407C等が挙げられる。」

「【0082】
[圧縮型冷凍機]
上記冷凍機油は、通常、圧縮型冷凍機に使用されるものである。圧縮型冷凍機は、少なくとも圧縮機を備える。また、圧縮型冷凍機は、圧縮機内部にモーターが内蔵されている密閉型冷凍機が好ましい。」

イ.甲3には、以下の記載がある。
「【請求項1】
圧縮機、四方弁、室外熱交換器、膨張手段、室内熱交換器を配管で接続し、冷媒が循環する空気調和機において、
前記冷媒はR32であり、冷凍機油としてポリオールエステル油を用い、
前記圧縮機と、前記室外熱交換器と、ゼオライトを原料としたドライヤと、前記圧縮機と前記室外熱交換器を仕切る仕切板と、を有する室外機を備え、
前記ドライヤを前記室内熱交換器と前記膨張手段の間に接続し、且つ、前記仕切板の前記室外熱交換器側に配置した空気調和機。
・・・
【請求項5】
前記ポリオールエステル油は式(1)、(2)、(3)、または(4)の単独または混合である(式中のR1は炭素数4?5のアルキル基又は炭素数8?12のアルキル基であり、式中のR1の少なくとも1つは炭素数4?5のアルキル基である)ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の空気調和機。
・・・
【化3】

【化4】


「【0017】
R32を用いた空気調和機にはR32との相溶性に優れ、かつ電気的特性、潤滑性、熱化学安定性の良好な冷凍機油として、エステル油が挙げられるが、エステル油は構造上水分が多く存在すると加水分解を起こし、エステル成分が分解する。本実施例では、この対応として冷凍サイクル内にゼオライト等を原料としたドライヤ5を取り付けて、冷凍サイクル内の水分を除去している。」
「【0034】
本実施例では、前記した冷凍機油に潤滑性向上剤、酸化防止剤、酸捕捉剤、消泡剤、金属不活性剤等を添加しても全く問題はない。特にポリオールエステル油は、水分共存下で加水分解に起因する劣化が生じるため、酸化防止剤、酸捕捉剤の配合は必須である。酸化防止剤としてはフェノール系である2、6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(DBPC)が好ましい。酸捕捉剤としては、脂環式エポキシ化合物、脂肪族エポキシ化合物、カルボジイミド化合物等がある。」

ウ.甲4には、以下の記載がある。
「[0103]冷凍機油が式(A)で表される化合物及びエポキシ化合物の両方を含有する場合、当該冷凍機油は、例えば酸性リン酸エステル及びエポキシ化合物を含有する従来の冷凍機油に比べて、耐摩耗性のみならず、安定性にも優れる。エポキシ化合物は、耐摩耗性及び安定性の両立の観点から、好ましくは、グリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、及び脂環式エポキシ化合物から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくは、グリシジルエーテル型エポキシ化合物及びグリシジルエステル型エポキシ化合物から選ばれる少なくとも1種である。
[0104]エポキシ化合物の含有量は、安定性の向上の観点から、冷凍機油全量基準で、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.15質量%以上、更に好ましくは0.2質量%以上である。エポキシ化合物の含有量は、潤滑性の向上の観点から、冷凍機油全量基準で、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下、更に好ましくは2.0質量%以下である。」

「[0114]本実施形態に係る冷凍機油は、冷媒と共に用いられる。冷媒としては、飽和フッ化炭化水素冷媒、不飽和フッ化炭化水素冷媒、・・・3フッ化ヨウ化メタン冷媒、・・・並びに、これらの冷媒の1種又は2種以上を含む混合冷媒が例示される。
[0115]飽和フッ化炭化水素冷媒としては、好ましくは炭素数1,3、より好ましくは1,2の飽和フッ化炭化水素が挙げられる。具体的には、ジフルオロメタン(R32)、トリフルオロメタン(R23)、ペンタフルオロエタン(R125)、・・・又はこれらの2種以上の混合物が挙げられる。」

エ.甲5には、以下の記載がある。
「【0035】また、本発明のジフルオロメタン冷媒用冷凍機油においては、下記(i)?(viii):
・・・
からなる群より選ばれる少なくとも1種のエポキシ化合物を配合することができる。これらのエポキシ化合物を用いると、冷凍機油の熱・加水分解安定性が向上するとともに、ジフルオロメタン冷媒存在下でのより高い潤滑性が得られる傾向にある。」

「【0044】このような脂環式エポキシ化合物としては、具体的には、1,2-エポキシシクロヘキサン、1,2-エポキシシクロペンタン、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、・・・等が例示できる。」

オ.甲6には、以下の記載がある。
「【請求項1】
冷凍機油を貯溜する密閉容器内に回転子と固定子とを有するモータと、
前記回転子に嵌着された回転軸と、
この回転軸を介して前記モータに連結された圧縮部とを収納する冷媒圧縮機において、
この冷媒圧縮機に封入される冷媒がR410A,R407CまたはR404Aであり、
ポリオールエステル油を基油とし、酸捕捉剤としてアルキルグリシジルエステル化合物を含有する冷凍機油
を用いた冷媒圧縮機。」

3 当審の判断
3-1 特許法第29条第2項(進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「熱伝達組成物」、「圧縮機」、「凝縮器」、「拡張デバイス(例えば、キャピラリーチューブ、固定オリフィス、温度膨張弁、及び電子膨張弁)」、「蒸発器」、「熱伝達システム」、「ポリオールエステル(POE)潤滑剤」は、それぞれ、本件発明1の「冷媒」、「圧縮機」、「凝縮器」、「減圧器」、「蒸発器」、「冷凍サイクル装置」、「ポリオールエステル油」に相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、
「冷媒を圧縮する圧縮機と、前記圧縮機で圧縮された冷媒を凝縮させる凝縮器と、前記凝縮器で凝縮された冷媒を減圧する減圧器と、前記減圧器で減圧された冷媒を蒸発させる蒸発器と、を備える冷凍サイクル装置であって、
前記冷媒は、ジフルオロメタン、ペンタフルオロエタン及びトリフルオロヨードメタンを含む混合冷媒であり、地球温暖化係数が750以下であり、
前記冷凍機油は、ポリオールエステル油である冷凍サイクル装置。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
冷媒について、本件発明1は、「25℃における蒸気圧が1.1MPa以上1.8MPa以下」であるのに対し、甲1発明は、蒸気圧が特定されていない点。
[相違点2]
圧縮機が、本件発明1は、「密閉容器内に、圧縮機構部と、前記圧縮機構部を駆動するモータと、を備え、且つ、摺動部を潤滑する冷凍機油が充填されている密閉型電動圧縮機」であるのに対し、甲1発明は、そのように特定されていない点。
[相違点3]
冷凍機油について、本件発明1は、ポリオールエステル油であって、「水分量が300重量ppm以下、且つ、前記混合冷媒と共に175℃で504時間加熱したときの全酸価が0.12mgKOH/g以下」であり、「下記化学式(1)で表される化合物、又は、下記化学式(2)で表される化合物、又は、これらの混合物」(化学式の記載は省略する。)であるのに対し、甲1発明は、ポリオールエステル(POE)潤滑剤であるものの、水分量、全酸価及び化学式が本件発明1のように特定されていない点。

イ 判断
事案の関係上、まず上記相違点3について以下検討する。
本件発明1のポリオールエステル油は、相違点3で特定されているように水分量が300重量ppm以下、且つ、前記混合冷媒と共に175℃で504時間加熱したときの全酸価(劣化の度合い)が0.12mgKOH/g以下であるのに対して、甲1発明のポリオールエステル(POE)潤滑剤は、水分量が30ppm以下、混合冷媒(甲1の【0783】参照。)と共に175°Cのオーブンで14日間(336時間)加熱したときのTAN(全酸価)が3.0mgKOH/g以下(甲1の【0782】、【0784】参照。)である。
そして、混合冷媒のトリフルオロヨードメタンが水分や酸素と反応して分解されることで生成されるフッ化水素、ヨウ化水素等の劣化物質が原因で冷凍機油が劣化し、冷凍サイクル装置の性能が低下するという課題を解決するために、本件発明1のポリオールエステル油は、甲1発明のポリオールエステル(POE)潤滑剤と比較して、多くの水分量を含みトリフルオロヨードメタンが多くの劣化物質を生成したとしても、全酸価が非常に小さい(劣化の度合いが小さい)ので、冷凍サイクル装置の性能を低下させる恐れがないものである。
これに対して、甲1発明のポリオールエステル(POE)潤滑剤は、水分量が30ppm以下で、全酸価が3.0mgKOH/g以下と限定されたものであるが、甲1に、ポリオールエステル(POE)潤滑剤に含まれる水分量に応じてトリフルオロヨードメタンが劣化物質を生成し、その劣化物質がポリオールエステル(POE)潤滑剤を劣化させるという記載や示唆もなく、また、周知な事項ともいえない。そうすると、甲1発明の全酸価が175°Cのオーブンで14日間(336時間)加熱したときに3.0mgKOH/g以下という限定を、本件発明1のごとく175℃で504時間加熱したときに0.12mgKOH/g以下まで小さくする動機は存在しないといえる。
以上から、甲1発明のポリオールエステル(POE)潤滑剤のTAN(全酸価)を本件発明1の如く175℃で504時間加熱したときに0.12mgKOH/g以下とすることは、たとえ当業者といえども容易になしうることではない。
したがって、本件発明1は、他の相違点1,2について検討するまでもなく、甲1発明及び甲2、甲3に示された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2について
本件発明2と甲1発明を対比すると、本件発明2は本件発明1を引用しているので、両者の一致点は、本件発明1との一致点に加えて、
「前記混合冷媒は、ジフルオロメタンが20重量%以上60重量%以下、ペンタフルオロエタンが5重量%以上25重量%以下、且つ、トリフルオロヨードメタンが30重量%以上60重量%以下である」点で一致し、
上記相違点1ないし3で相違する。
上記相違点3についての判断は、(1)で検討したとおりである。
よって、本件発明1と同様に、他の相違点1,2について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1発明及び甲2、甲3に示された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明3について
本件発明3と甲1発明を対比すると、本件発明3は本件発明1を引用しているので、両者の一致点は、本件発明1との一致点と同様の一致点で一致し、上記相違点1ないし3に加えて、以下の点で相違する。
[相違点4]
本件発明3の冷凍機油は、「脂環式エポキシ化合物及び脂肪族エポキシ化合物を各々0.1重量%以上2.0重量%以下含む」のに対し、甲1発明のポリオールエステル(POE)潤滑剤は、当該化合物を含むものではない点。
上記相違点3についての判断は、上記相違点3についての判断は、(1)で検討したとおりである。
よって、本件発明1と同様に、他の相違点1,2,4について検討するまでもなく、本件発明3は、甲1発明及び甲2、甲3に示された周知技術、及び甲4に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明4について
本件発明4と甲1発明を対比すると、本件発明4は本件発明3を引用しているので、両者の一致点は、本件発明3との一致点と同様の一致点で一致し、上記相違点1ないし4に加えて、以下の点で相違する。
[相違点5]
本件発明4の脂環式エポキシ化合物は、「3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレートである」のに対し、甲1発明は、当該化合物を含むものではない点。
上記相違点3についての判断は、上記相違点3についての判断は、(1)で検討したとおりである。
よって、他の相違点1,2,4,5について検討するまでもなく、本件発明4は、甲1発明及び甲2、甲3に示された周知技術、及び甲4、甲5に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)本件発明5について
本件発明5と甲1発明を対比すると、本件発明5は本件発明3を引用しているので、両者の一致点は、本件発明3との一致点と同様の一致点で一致し、上記相違点1ないし4に加えて、以下の点で相違する。
[相違点6]
本件発明4の脂環式エポキシ化合物は、「アルキルグリシジルエステルである」のに対し、甲1発明は、当該化合物を含むものではない点。
上記相違点3についての判断は、上記相違点3についての判断は、(1)で検討したとおりである。
よって、他の相違点1,2,4,6について検討するまでもなく、本件発明5は、甲1発明及び甲2、甲3に示された周知技術、及び甲4、甲6に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(6)まとめ
以上のことから、本件発明1ないし5は、甲1発明、甲2及び3に示された周知技術、及び甲4ないし6に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3-2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
(1)本件発明3について
請求項3には、「冷凍機油は、脂環式エポキシ化合物及び脂肪族エポキシ化合物を各々0.1重量%以上2.0重量%以下含む」との技術事項が特定されている。
一方、発明の詳細な説明には、「脂環式エポキシ化合物は、ポリオールエステル油に対して0.1質量%以上2.0質量%以下であることが好ましい。」(【0101】)と記載され、さらに、「酸捕捉剤としては、例えば、脂肪族エポキシ化合物、カルボジイミド系化合物等を用いることができる。」(【0104】)、「酸捕捉剤は、ポリオールエステル油に対して0.1質量%以上2.0質量%以下であることが好ましい。」(【0113】)と記載されているのであるから、請求項3に特定された「脂環式エポキシ化合物及び脂肪族エポキシ化合物を各々0.1重量%以上2.0重量%以下含む」ことは、発明の詳細な説明に記載されたものである。

(2)まとめ
以上のことから、本件発明3は、発明の詳細な説明に記載したものである。

4 特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は、令和2年9月8日提出の意見書の「(4)理由3について」において、訂正の請求により追加された「前記冷凍機油は、ポリオールエステル油であって、水分量が300重量ppm以下、且つ、前記混合冷媒と共に175℃で504時間加熱したときの全酸価が0.12mgKOH/g以下であり、」なる事項に関して、概ね以下の旨主張している。
(1)本件特許明細書の発明の詳細な説明(【0126】、【0127】)に記載された全酸価の測定方法では、ガラス容器の容積が記載されていないので、全酸価が確定できない。したがって、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
(2)本件特許明細書の発明の詳細な説明(【0129】)に記載された【表1】において、全酸価が0.12mgKOH/g以下の場合、金属触媒の変色がないことが示されているが、それらは油中水分量が全て100ppmの場合であり、油中水分量が300ppmの場合の試験結果が示されていないので、訂正の請求により追加された事項は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
しかしながら、上記主張(1)については、特許異議申立人は上記意見書中で「ガラス容器は72mL以上で220mL未満のいずれかの容積という事になる。」と主張しているところ、その主張のとおり、そのおおよその容積は推測できるのである。さらに、「このような容積の違いは圧力として4倍の差となり、冷凍機油への冷媒の溶け込みは数%(220mL)?概ね60%(72mL)の違いになると予想され、試験結果への影響は甚大である。」と主張しているが、発明の詳細な説明の【0127】に、「続いて、冷凍機油と金属触媒を入れたガラス容器を、100Pa以下に減圧して真空引きした後、12gの冷媒を導入して密閉した。そして、このガラス容器を、オートクレーブを用いて、175℃で504時間にわたって加熱した。」と記載されていることから、ガラス容器は100Pa以下に減圧されており、容積の違いによって圧力が4倍の差になることはないと考えられる。たとえ、特許異議申立人が主張するように、容積の違いによって圧力が4倍の差になるとしても、ガラス容器は72mL以上で220mL未満のいずれかの容積であるのであるから、当業者であればガラス容器の容積を試行錯誤することで、本件発明を実施することができると考えるのが妥当であるので、特許異議申立人の上記主張(1)は理由がない。
また、主張(2)については、発明の詳細な説明の【0089】に、「冷凍機油に含まれる水分量が300重量ppm以下に低減されていると、水分とR13I1やポリオールエステル油との反応量が極めて小さくなるので、R13I1やポリオールエステル油の分解を大きく抑制することができる。その結果、R13I1の分解に伴う劣化物質の生成量も極めて微量になる。そのため、冷凍サイクル装置の運転中、混合冷媒自体の劣化や冷凍機油の劣化の進行を実質的に阻止することができる。冷凍機油の水分量は、より好ましくは200重量ppm以下、更に好ましくは150重量ppm以下、特に好ましくは100重量ppm以下である。」と記載されており、水分量が300重量ppm以下が好ましいことは記載されている。そして、【表1】の「試料1-1」と「試料1-2」を比較すると、水分量が100ppmと600ppmと異なることのみで、全酸価が0.06mgKOH/gと0.18mgKOH/gと異なるのであるから、この場合において水分量を300ppmの場合、全酸化価は0.12mgKOH/g以下になることは、当業者であれば予測できることであるので、特許異議申立人の上記主張(2)についても理由がない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件発明1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】
冷凍サイクル装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、地球温暖化係数(Global Warming Potential:GWP)が小さい冷媒を用いた冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地球温暖化の防止のために、気候変動に対する種々の方策が国際的に講じられている。2015年に開催された第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)では、パリ協定が採択され、今後達成すべき長期目標が定められた。パリ協定は、世界的な平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つと共に1.5℃に抑える努力を追求する旨を目的としている。
【0003】
現在、世界の平均気温は、産業革命以前と比較して、約1℃上昇している。今後、平均気温の上昇を2℃以内に抑えるためには、大気中のCO_(2)の平均濃度を450ppm以下に抑制する必要がある。しかし、近年確認されているCO_(2)排出量の増加速度に基づくと、CO_(2)の平均濃度が今後30年でこの水準を超えると予測されている。将来的には、平均気温の上昇を抑制するために、より厳しい取り組みが必要になると予想される。
【0004】
従来、冷凍空調装置の冷媒としては、小型の装置を除いて、フッ素系冷媒が多用されている。炭素-フッ素間の結合(C-F結合)は、化合物の燃焼性を低下させるため、フッ素系冷媒によると安全性が高くなる。しかし、C-F結合は、地球放射(平均288Kの黒体放射に相当し、主に赤外光からなる。)の窓領域(大気に吸収され難い波長領域)の赤外線吸収率を増大させるし、結合エネルギが大きく、大気圏に放出された化合物を長寿命にするため、高GWP化の要因となる。
【0005】
現在、フッ素系冷媒の使用や管理は、各種の法令によって規制されている。「フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律(フロン排出抑制法)」には、規制対象機器・規制対象物質が規定されている。具体的な規制対象物質は、「特定物質の規制等によるオゾン層の保護に関する法律」に、オゾン層を破壊する物質(主に塩素・臭素を含むフッ素化合物)、「地球温暖化対策の推進に関する法律」に、温室効果を有する物質(主に水素・フッ素・炭素からなる高GWP化合物)が挙げられている。
【0006】
従来、冷凍空調装置の冷媒としては、R410A[HFC(Hydrofluorocarbon)32/HFC125(50/50重量%)]や、R404A[HFC125/HFC143a/HFC134a(44/52/4重量%)]が使用されてきた。しかし、R410Aは、GWP=1924、R404Aは、GWP=3943と高いため、近年では、よりGWPが低い代替冷媒へ、置き換えが進められている。冷媒のGWPと燃焼性とは相反する関係にあり、冷媒を低GWP化すると、燃焼性が高くなる傾向がある。
【0007】
代替冷媒としては、熱物性、低GWP、低毒性、低燃焼性等の理由から、ジフルオロメタン(HFC32)(GWP=677)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO(Hydrofluoroolefin)1234yf)(GWP=0)、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO1234ze)(GWP=1)、トリフルオロエテン(HFO1123)(GWP<1)、3,3,3-トリフルオロプロペン(HFO1243zf)(GWP=0)が知られている。
【0008】
また、HFOとHFC32、HFC125、HFC134a等との混合冷媒や、プロパン、プロピレン等のハイドロカーボンや、モノフルオロエタン(HFC161)、ジフルオロエタン(HFC152a)等の低GWPであるハイドロフルオロカーボンが知られている。また、ヨウ素、臭素、塩素等でハロゲン化して不燃性化させた低沸点化合物も知られている。
【0009】
空気調和機用の冷媒としては、ルームエアコンや業務用パッケージエアコンをはじめ、微燃性のHFC32が広く用いられている。高圧ガス保安法の冷凍保安規則の改正(2016年11月)では、HFC32、HFO1234yf、HFO1234zeが「不活性ガス」として分類された。しかし、これらの冷媒は、微燃性であるため、「特定不活性ガス」としても掲名されている。5冷凍トン以上の装置については、漏洩した冷媒を滞留させないための換気装置・設備構造が必要であるし、漏洩した冷媒が滞留し易い場所に検知警報設備の設置が必要である。
【0010】
一方、冷凍機用の冷媒としては、フロン排出抑制法との関係から、GWPが1500以下であり、HFO1234yfやHFO1234zeを含む不燃性の混合冷媒が注目されてきた。例えば、R448A(HFC32/HFC125/HFC134a/HFO1234ze/HFO1234yf)や、R449A(HFC32/HFC125/HFC134a/HFO1234yf)を用いた冷凍機の開発が進められている。しかし、R448AやR449Aは、GWPを1100?1400程度に留めないと不燃化させることができないため、低GWP化を進めるにあたって、燃焼性の抑制が必要とされている。
【0011】
このような状況下、Honeywell社によって、R466A(HFC32/HFC125/トリフルオロヨードメタンの3成分混合冷媒)が開発された。R466Aは、GWPが750以下で、低GWPと低燃焼性とを兼ね備えており、従来のR410Aに代替可能な新冷媒として期待されている。特許文献1や特許文献2には、HFC32とHFC125との混合冷媒に、トリフルオロヨードメタン(CF_(3)I)を混合し、更に炭化水素や安定剤を加える技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2018-044169号公報
【特許文献2】特許第5662294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1、2に記載されているように、R32(HFC32)等の冷媒にトリフルオロヨードメタンを混合すると、GWPを低く保ちつつ、混合冷媒の燃焼性を抑制することができるため、低GWPと低燃焼性とが両立した冷媒を得ることができる。特許文献1によると、このような冷媒と、圧縮機に用いられる潤滑剤(冷凍機油)とを、十分に相溶させることも可能であるとされている。
【0014】
しかしながら、トリフルオロヨードメタンは、水分や酸素と反応して分解し、フッ化水素、ヨウ化水素等の劣化物質を生成することが確認されている。冷媒を循環させる冷凍サイクル内に、大量の水分や酸素が持ち込まれた場合、トリフルオロヨードメタンの分解が原因で冷媒の機能が損なわれたり、生成される劣化物質が原因で冷凍機油が劣化したりする。そのため、熱力学的な冷凍サイクルや、圧縮機の運転を安定に維持できなくなり、冷凍サイクル装置の性能が低下したり、安全性が低下したりする懸念がある。
【0015】
そこで、本発明は、GWPが750以下と低く、燃焼性が低く、且つ、長期間にわたって性能や安全性が維持される冷凍サイクル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記課題を解決するために本発明に係る冷凍サイクル装置は、冷媒を圧縮する圧縮機と、前記圧縮機で圧縮された冷媒を凝縮させる凝縮器と、前記凝縮器で凝縮された冷媒を減圧する減圧器と、前記減圧器で減圧された冷媒を蒸発させる蒸発器と、を備える冷凍サイクル装置であって、前記冷媒は、ジフルオロメタン、ペンタフルオロエタン及びトリフルオロヨードメタンを含む混合冷媒であり、地球温暖化係数が750以下、且つ、25℃における蒸気圧が1.1MPa以上1.8MPa以下であり、前記圧縮機は、密閉容器内に、圧縮機構部と、前記圧縮機構部を駆動するモータと、を備え、且つ、摺動部を潤滑する冷凍機油が充填されている密閉型電動圧縮機であり、前記冷凍機油は、ポリオールエステル油であって、水分量が300重量ppm以下、且つ、前記混合冷媒と共に175℃で504時間加熱したときの全酸価が0.12mgKOH/g以下であり、前記ポリオールエステル油は、下記化学式(1)で表される化合物、又は、下記化学式(2)で表される化合物、又は、これらの混合物[但し、化学式(1)及び(2)中、R^(1)は、炭素数4?9のアルキル基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。]である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、GWPが750以下と低く、燃焼性が低く、且つ、長期間にわたって性能や安全性が維持される冷凍サイクル装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】冷凍サイクル装置であるビル用マルチエアコンの一例を示す冷凍サイクル構成図である。
【図2】冷凍サイクル装置である冷凍機の一例を示す冷凍サイクル構成図である。
【図3】密閉型電動圧縮機の一例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態に係る冷凍サイクル装置について、図を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
<冷凍サイクル装置>
本実施形態に係る冷凍サイクル装置は、冷媒が形成する熱力学的な冷凍サイクルを利用して冷却対象を冷却する能力を備えた装置である。冷凍サイクル装置は、冷却を行う能力を備える限り、冷凍サイクルと反対の熱サイクルを行う能力を備えていてもよい。冷凍サイクル装置は、例えば、空気調和機、冷凍機等の各種の冷凍空調装置に適用することができる。
【0021】
本実施形態に係る冷凍サイクル装置は、冷媒を圧縮する圧縮機と、圧縮機で圧縮された冷媒を凝縮させる凝縮器と、凝縮器で凝縮された冷媒を減圧する減圧器と、減圧器で減圧された冷媒を蒸発させる蒸発器と、を備える。圧縮機としては、密閉容器内に、圧縮機構部と、圧縮機構部を駆動するモータと、を備え、且つ、摺動部を潤滑する冷凍機油が充填されている密閉型電動圧縮機が用いられる。
【0022】
ここで、本実施形態に係る冷凍サイクル装置や、冷凍サイクル装置に用いられる圧縮機について、具体例を示して説明する。
【0023】
図1は、冷凍サイクル装置であるビル用マルチエアコンの一例を示す冷凍サイクル構成図である。
本実施形態に係る冷凍サイクル装置は、図1に示すようなビル用マルチエアコン(多室型空気調和機)等の空気調和機として適用することができる。
【0024】
図1に示すように、ビル用マルチエアコン100は、室外機1と、室内機2a,2bと、を備えている。なお、図1において、ビル用マルチエアコン100は、2台の室内機2a,2bを備えているが、ビル用マルチエアコン100は、3台以上の任意の数の室内機(2a,2b,・・・)を備えることができる。
【0025】
室外機1は、圧縮機3と、四方弁4と、室外熱交換器(凝縮器/蒸発器)5と、室外膨張弁(減圧器)6と、アキュムレータ7と、室外送風機8と、を備えている。四方弁4と、アキュムレータ7と、圧縮機3とは、冷媒配管を介して閉環状に接続されている。また、四方弁4の別の接続部には、室内機2a,2bが、冷媒配管を介して接続されている。四方弁4の残りの接続部には、室外熱交換器5、室外膨張弁6、室内機2a,2bが、この順に冷媒配管を介して接続されている。
【0026】
これらの機器や、機器同士を繋ぐ冷媒配管は、室外機1と室内機2a,2bとの間に、冷媒の循環路としての冷凍サイクルを形成している。冷凍サイクル内には、後記する所定の冷媒が封入される。また、圧縮機3には、潤滑、冷媒の密封、冷却等の目的で、後記する所定の冷凍機油が封入される。
【0027】
圧縮機3は、密閉型電動圧縮機であり、密閉容器内に、圧縮機構部と、圧縮機構部を駆動するモータとが内蔵されている。四方弁4は、圧縮機3から吐出される冷媒の冷凍サイクル内での循環方向を、熱力学的サイクルに応じて切り替えることができる。
【0028】
室外熱交換器5は、冷媒と外気との熱交換を行い、冷房運転時には凝縮器として働き、暖房運転時には蒸発器として働く。室外膨張弁6は、例えば、電子膨張弁、温度式膨張弁等で構成され、冷房運転時には減圧器として働く。アキュムレータ7は、冷媒ガスと液冷媒との気液分離を行う装置である。室外送風機8は、室外熱交換器5に外気を送風するために備えられており、冷媒と外気との熱交換を促進する。
【0029】
室内機2a,2bは、それぞれ、室内熱交換器(蒸発器/凝縮器)9a,9bと、室内膨張弁(減圧器)10a,10bと、室内送風機11a,11bと、を備えている。ビル用マルチエアコン100が2台以上の室内機(2a,2b,・・・)を備える場合、各室内機は、同様の構成に設けて、並列状の冷凍サイクルを形成するように冷媒配管で繋ぐことができる。
【0030】
室内熱交換器9a,9bは、冷媒と室内の空気との熱交換を行い、冷房運転時には蒸発器として働き、暖房運転時には凝縮器として働く。室内膨張弁10a,10bは、例えば、電子膨張弁、温度式膨張弁等で構成され、暖房運転時には減圧器として働く。室内送風機11a,11bは、室内熱交換器9a,9bに室内の空気を送風するために備えられており、冷媒と室内の空気との熱交換を促進する。
【0031】
ビル用マルチエアコン100による冷房は、次の原理で行われる。圧縮機3で断熱圧縮された高温高圧の冷媒ガスは、四方弁4を通って、室外熱交換器5に送られる。そして、冷媒ガスは、凝縮器として働く室外熱交換器5で外気との熱交換によって冷却されて高圧の液冷媒となる。高圧の液冷媒は、室外膨張弁6で減圧されて膨張し、気液二相冷媒(僅かに冷媒ガスを含む低温低圧の液冷媒)となる。気液二相冷媒は、個々の室内熱交換器9a,9bに送られる。そして、蒸発器として働く室内熱交換器9a,9bで、室内の空気との熱交換によって蒸発して熱を奪い低温低圧のガス冷媒となる。低温低圧のガス冷媒は、四方弁4を通って、アキュムレータ7に入り、蒸発しきれていない低温低圧の液冷媒が分離される。液冷媒が分離された低温低圧のガス冷媒は、圧縮機3に戻る。その後、同様のサイクルが繰り返されて冷房が続けられる。
【0032】
ビル用マルチエアコン100による暖房は、冷房時とは反対のサイクルで行われる。圧縮機3で断熱圧縮された高温高圧の冷媒ガスは、四方弁4の切り替えによって、個々の室内熱交換器9a,9bに送られる。そして、凝縮器として働く室内熱交換器9a,9bで室内の空気に熱を与え、その後、蒸発器として働く室外熱交換器5で外気から熱を奪う。このような同様のサイクルが繰り返されて暖房が続けられる。
【0033】
図2は、冷凍サイクル装置である冷凍機の一例を示す冷凍サイクル構成図である。
本実施形態に係る冷凍サイクル装置は、図2に示すような冷凍機として適用することもできる。
【0034】
図2に示すように、冷凍機200は、熱源機12と、クーラーユニット13と、を備えている。クーラーユニット13は、冷却対象を冷却する機器であり、例えば、ショーケース、冷凍室等の形態とされる。
【0035】
熱源機12は、圧縮機14と、熱源側熱交換器(凝縮器)15と、過冷却器16と、減圧器17,18と、アキュムレータ19と、熱源側送風機20と、を備えている。また、クーラーユニット13は、利用側熱交換器(蒸発器)21と、利用側送風機22と、を備えている。
【0036】
アキュムレータ19と、圧縮機14と、熱源側熱交換器15と、過冷却器16と、減圧器17と、利用側熱交換器21とは、この順に冷媒配管を介して閉環状に接続されている。また、熱源側熱交換器15の出口側においては、冷凍サイクルを構成する主冷媒配管から、過冷却冷媒回路50が分岐している。過冷却冷媒回路50は、主冷媒配管から過冷却器16に繋がり、過冷却器16の他端から圧縮機14に繋がっている。
【0037】
これらの機器や、機器同士を繋ぐ冷媒配管は、熱源機12とクーラーユニット13との間に、冷媒の循環路としての冷凍サイクルを形成している。前記のビル用マルチエアコン100と同様、冷凍サイクル内には、後記する所定の冷媒が封入される。また、圧縮機14には、後記する所定の冷凍機油が封入される。
【0038】
圧縮機14は、密閉型電動圧縮機であり、密閉容器内に、圧縮機構部と、圧縮機構部を駆動するモータとが内蔵されている。熱源側熱交換器15は、冷媒と外気との熱交換を行い、冷媒を凝縮させる凝縮器として働く。
【0039】
過冷却器16は、主冷媒配管を流れる冷媒と過冷却冷媒回路50を流れる冷媒との熱交換を行う。減圧器17,18は、例えば、キャピラリーチューブ、膨張弁等で構成される。アキュムレータ19は、冷媒ガスと液冷媒との気液分離を行う装置である。熱源側送風機20は、熱源側熱交換器15に外気を送風するために備えられており、冷媒と外気との熱交換を促進する。
【0040】
利用側熱交換器21は、冷媒とユニット内の空気との熱交換を行い、冷媒を蒸発させる蒸発器として働く。利用側送風機22は、利用側熱交換器21にユニット内の空気を送風するために備えられており、冷媒とユニット内の空気との熱交換を促進する。
【0041】
冷凍機200による冷凍は、次の原理で行われる。圧縮機14で断熱圧縮された高温高圧の冷媒ガスは、熱源側熱交換器15に送られる。そして、冷媒ガスは、凝縮器として働く熱源側熱交換器15で外気との熱交換によって冷却されて高圧の液冷媒となる。高圧の液冷媒の一部は、過冷却冷媒回路50に分流され、減圧器18で減圧されて膨張し、気液二相冷媒(冷媒ガスを含む低温低圧の液冷媒)となる。気液二相冷媒は、過冷却器16に送られる。一方、主冷媒配管を流れる主流の液冷媒は、熱源側熱交換器15から過冷却器16に直接送られる。そして、主流の液冷媒は、過冷却器16で、分流後に減圧された液冷媒との熱交換によって過冷却される。
【0042】
過冷却器16で過冷却された冷媒は、減圧器17で減圧されて膨張し、気液二相冷媒(僅かに冷媒ガスを含む低温低圧の液冷媒)となる。気液二相冷媒は、利用側熱交換器21に送られる。そして、蒸発器として働く利用側熱交換器21でユニット内の空気との熱交換によって蒸発して熱を奪い低温低圧のガス冷媒となる。低温低圧のガス冷媒は、アキュムレータ19に入り、蒸発しきれていない低温低圧の液冷媒が分離される。液冷媒が分離された低温低圧のガス冷媒は、圧縮機14に戻る。その後、同様のサイクルが繰り返されて冷凍が続けられる。
【0043】
冷凍機用の圧縮機14は、冷媒の圧縮比が10?20程度と高いため、冷媒ガスの吐出温度が高温になり易い。そのため、過冷却冷媒回路50に分流されて主流の冷媒を過冷却した冷媒は、過冷却器16から圧縮機14の中間圧部に戻され、圧縮機14が吸入した冷媒を冷却するために用いられる。圧縮機14が吸入した冷媒を冷却すると、圧縮機14の吐出温度が低下するため、正常な運転を継続することができる。
【0044】
なお、図2において、過冷却冷媒回路50は、圧縮機14に接続しており、過冷却冷媒回路50に分流された冷媒は、過冷却器16から圧縮機14の中間圧部に戻されている。しかしながら、過冷却冷媒回路50は、圧縮機14の吸入側の冷媒配管に接続し、過冷却冷媒回路50に分流された冷媒を圧縮機14の吸入側に戻してもよい。このような接続であっても、圧縮機14の吐出温度を低下させることができる。
【0045】
図3は、密閉型電動圧縮機の一例を示す縦断面図である。
本実施形態に係る冷凍サイクル装置は、冷媒を圧縮する圧縮機として、例えば、図3に示すようなスクロール式の密閉型電動圧縮機を備えることができる。密閉型電動圧縮機は、図1に示すビル用マルチエアコン100の圧縮機3や、図2に示す冷凍機200の圧縮機14として利用することができる。
【0046】
図3に示すように、密閉型電動圧縮機300は、端板に垂直に設けられた渦巻き状の固定ラップ23aを有する固定スクロール部材23と、固定ラップ23aと実質的に同一形状である渦巻き状の旋回ラップ24aを有する旋回スクロール部材24と、フレーム25と、旋回スクロール部材24を旋回運動させるクランクシャフト26と、クランクシャフト26を駆動するモータ27と、これらを内蔵する密閉容器28と、を備えている。
【0047】
固定スクロール部材23は、フレーム25にボルトで固定されている。旋回スクロール部材24には、旋回スクロール部材24の自転を規制するオルダムリングが摺動可能な状態で係合している。旋回スクロール部材24は、旋回スクロール部材24を偏心駆動させる偏心ピンが嵌め込まれた旋回軸受に支持されている。
【0048】
固定スクロール部材23と旋回スクロール部材24とは、固定ラップ23aと旋回ラップ24aとが互いに噛み合うように対向して配置されており、冷媒の圧縮を行う圧縮機構部を形成している。固定ラップ23aと旋回ラップ24aとの間には、圧縮室29が形成されている。
【0049】
クランクシャフト26は、主軸部が、転がり軸受である主軸受33に回動可能な状態で支持されている。また、副軸部が、転がり軸受である副軸受34に回動可能な状態で支持されている。クランクシャフト26の中間部には、バランスウェイトが取り付けられている。
【0050】
クランクシャフト26は、モータ27によって、一定の回転速度、又は、インバータ制御による電圧に応じた回転速度で回転が駆動される。旋回スクロール部材24は、モータの作動27によってクランクシャフト26が回転すると、固定スクロール部材23に対して偏心して旋回運動するようになっている。
【0051】
密閉型電動圧縮機300において、密閉容器28の上部には、冷媒の循環路としての冷凍サイクルから冷媒を吸い込む吸込パイプが備えられている。吸込パイプは、固定スクロール部材23の外側に設けられた圧縮室29への吸込口に連通している。旋回スクロール部材24が旋回運動すると、最も外側に位置している圧縮室29が、容積を次第に縮小しながら、圧縮機構部の中央に向かって移動していく。この動作に伴って、吸込口を通じて圧縮室29に導入されてくる冷媒が、連続的に圧縮される。
【0052】
圧縮室29は、圧縮機構部の中央まで移動すると、固定スクロール部材23に貫通して設けられた吐出口30と連通する。密閉容器28内には、固定スクロール部材23を挟んで、上方空間と下方空間とがある。圧縮室29で圧縮された冷媒ガスは、吐出口30から密閉容器28内の上方空間に放出される。上方空間に放出された冷媒ガスは、固定スクロール部材23を貫通する複数の吐出ガス通路を通じて下方空間に移動する。そして、下方空間に設けられた密閉容器28を貫通する吐出パイプ31から、冷媒の循環路としての冷凍サイクルに吐出される。
【0053】
密閉容器28内には、モータ27の下方に、冷凍機油を溜める油溜め部36が設けられている。油溜め部36の冷凍機油は、圧縮機構部の作動中に圧力差によって吸引される。そして、クランクシャフト26に設けられている油孔32を通り、旋回スクロール部材24とクランクシャフト26との摺動部や、クランクシャフト26の主軸部を支持する主軸受33の転がり軸受や、クランクシャフト26の副軸部を支持する副軸受34の転がり軸受等に供給される。
【0054】
なお、図3において、密閉型電動圧縮機300は、スクロール圧縮機とされているが、冷凍サイクル装置を構成する圧縮機としては、スクロール圧縮機の他に、例えば、スクリュー圧縮機、ロータリー圧縮機、ツインロータリー圧縮機、2段圧縮ロータリー圧縮機、ローラとベーンが一体化されたスイング式圧縮機等のいずれを用いてもよい。
【0055】
図1に示すような空気調和機(ビル用マルチエアコン)や、図2に示すような冷凍機は、冷媒の漏洩による危険性を低減する観点から、低燃焼性の冷媒を使用することが好ましい。特に、ビル用マルチエアコンは、空調能力が大きく、冷媒封入量が多いため、燃焼性がHFC32等よりも大幅に低い冷媒が適切である。ビル用マルチエアコン等の空気調和機については、GWPが750以下である冷媒、冷凍機については、GWPが1000以下である冷媒の使用が推奨される。
【0056】
そこで、本実施形態においては、低GWPと低燃焼性とを両立させることができるトリフルオロヨードメタンを、混合冷媒を組成する冷媒成分として用いる。本実施形態に係る冷凍サイクル装置は、冷媒として、トリフルオロヨードメタンを含む混合冷媒を用い、且つ、冷凍機油として、水分量が低減されている所定の油を用いるものである。
【0057】
トリフルオロヨードメタンは、低GWPと低燃焼性とを両立させることができるが、冷凍サイクル内に大量の水分が共存していると、それ自体が分解されるし、分解に伴って、フッ化水素、ヨウ化水素、フッ化カルボニル等の劣化物質を生成する。その結果、冷媒の機能の低下や、冷凍機油等の劣化を生じて、冷凍サイクル装置の正常な運転を継続することが困難になる。
【0058】
これに対し、水分量が低減されている所定の冷凍機油を用いると、トリフルオロヨードメタンの分解や、分解に伴う劣化物質の生成を防ぐことができる。混合冷媒自体の劣化・変質や、劣化物質による冷凍機油等の分解を低減することができるため、冷凍サイクル装置の冷凍能力、耐久寿命、安全性等に関し、長期信頼性を向上させることができる。
【0059】
以下、本実施形態に係る冷凍サイクル装置で使用する冷媒及び冷凍機油の詳細について説明する。
【0060】
<冷媒>
冷凍サイクル装置の冷媒としては、具体的には、ジフルオロメタン(HFC32)、ペンタフルオロエタン(HFC125)及びトリフルオロヨードメタン(R13I1)を含む混合冷媒を用いる。混合冷媒は、前記の三成分のみを冷媒成分として含んでもよいし、前記の三成分以外に他の冷媒成分を含んでもよい。混合冷媒は、添加剤が添加されていてもよいし、添加剤が添加されていなくてもよい。
【0061】
冷媒成分のうち、HFC32は、主に、高い冷凍能力やエネルギ効率を確保するために用いられる。また、HFC125は、主に、温度勾配を縮小させるために用いられる。また、R13I1は、主に、混合冷媒自体のGWPや燃焼性を低下させるために用いられる。なお、本明細書において、温度勾配とは、冷媒の相変化(蒸発・凝縮)の開始温度と終了温度との温度差を意味する。
【0062】
これらの三成分を用いると、冷凍能力やエネルギ効率に優れ、温度勾配が小さく、GWP及び燃焼性が低い混合冷媒を得ることができる。そのため、安全性や環境適合性が高く、且つ、冷凍能力や電力効率に優れた冷凍サイクル装置を得ることができる。
【0063】
冷凍サイクル装置の冷媒は、地球温暖化係数(GWP)が、750以下であり、好ましくは500以下であり、より好ましくは150以下である。GWPが750以下であると、環境性能に優れた冷媒となり、法令上の規制に対する適合性が高く、冷凍機だけでなく空気調和機にも使用可能になる。GWPは、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書(AR5)の値(100年値)が用いられる。また、AR5に記載されていない冷媒のGWPは、他の公知文献に記載された値を用いてもよいし、公知の方法を用いて算出または測定した値を用いてもよい。
【0064】
冷媒のGWPは、混合冷媒の組成比を変えることによって750以下に調整することができる。HFC32は、GWP=677、HFC125は、GWP=3500、R13I1は、GWP=0.4である。
【0065】
冷凍サイクル装置の冷媒は、25℃における飽和蒸気圧が1.1MPa以上1.8MPa以下であることが好ましい。飽和蒸気圧がこの範囲であると、R32、R410A、R404A等を用いた従来の一般的な冷凍サイクル装置に対し、システム・設計・冷媒配管の施工法等に大きな変更を加えなくとも、同等の冷凍能力、冷媒の封入性等を得ることができる。
【0066】
冷媒の飽和蒸気圧は、混合冷媒の組成比を変えることによって前記の範囲に調整することができる。25℃における飽和蒸気圧は、HFC32:約1.69MPa、HFC125:約1.38MPa、R13I1:約0.5MPaである。
【0067】
冷凍サイクル装置の冷媒は、HFC32が、好ましくは10重量%以上、より好ましくは20重量%以上80重量%以下、更に好ましくは20重量%以上60重量%以下、特に好ましくは30重量%以上50重量%以下である。また、HFC125が、好ましくは5重量%以上25重量%以下である。また、R13I1が、好ましくは30重量%以上60重量%以下である。このような組成であると、微燃性であるHFC32を含む混合冷媒を、HFC125で疑似共沸化し、R13I1で低GWP化し、且つ、少量のHFC125とR13I1とで十分に不燃性化させることができる。
【0068】
冷凍サイクル装置の冷媒は、前記の三成分以外に、他の冷媒成分として、CO_(2)、炭化水素、エーテル、フルオロエーテル、フルオロアルケン、HFC、HFO、HClFO、HClFO、HBrFO等を含んでもよい。
【0069】
なお、「HFC」は、ハイドロフルオロカーボンを示す。「HFO」は、炭素原子、フッ素原子、及び、水素原子からなるハイドロフルオロオレフィンであり、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有する。「HClFO」は、炭素、塩素、フッ素及び水素原子からなり、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有する。「HBrFO」は、炭素、臭素、フッ素及び水素原子からなり、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有する。
【0070】
HFCとしては、ジフルオロメタン(HFC32)、ペンタフルオロエタン(HFC125)、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC134)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC134a)、トリフルオロエタン(HFC143a)、ジフルオロエタン(HFC152a)、1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン(HFC227ea)、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC236fa)、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(HFC245fa)、1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン(HFC365mfc)が例示される。
【0071】
フルオロアルケンとしては、フルオロエテン、フルオロプロペン、フルオロブテン、クロロフルオロエテン、クロロフルオロプロペン、クロロフルオロブテンが例示される。フルオロプロペンとしては、3,3,3-トリフルオロプロペン(HFO1243zf)、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO1234ze)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO1234yf)、HFO1225が例示される。フルオロブテンとしては、C_(4)H_(4)F_(4)、C_(4)H_(3)F_(5)(HFO1345)、C_(4)H_(2)F_(6)(HFO1336)が例示される。
【0072】
クロロフルオロエテンとしては、C_(2)F_(3)Cl(CTFE)が例示される。クロロフルオロプロペンとしては、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(HCFO1233xf)、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(HCFO1233zd)が例示される。
【0073】
例えば、前記の三成分に対し、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、トリフルオロエテン等を冷媒成分として加えると、能力に関係する蒸気圧や効率に影響する温度勾配度合いを調整することができる。
【0074】
具体的には、前記の三成分に対してHFO1123を加えると、混合冷媒の蒸気圧が高くなる。また、前記の三成分に対してHFO1234系を加えると、混合冷媒の蒸気圧が低くなる。R466Aは蒸気圧が比較的高い冷媒であるが、HFO1234系等を加えると蒸気圧が低くなるため、R404Aの代替冷媒として用いることが可能になる。他の冷媒成分としては、前記の三成分に対し、一種を加えてもよいし、二種以上を加えてもよい。
【0075】
冷凍サイクル装置の冷媒は、安定剤、重合禁止剤等の添加剤を含むことができる。安定剤や重合禁止剤を添加すると、熱化学的安定性が低いR13I1の分解が抑制されるため、混合冷媒自体の劣化や、分解に伴う劣化物質の生成を防ぐことができる。
【0076】
安定剤としては、例えば、エポキシ系化合物、ニトロ系化合物、アミン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ピネン系化合物等が挙げられる。重合禁止剤としては、例えば、チオエーテル系化合物、アミン系化合物、ニトロソ化合物、ヒドロキシ芳香族化合物、キノン化合物等が挙げられる。
【0077】
<冷凍機油>
冷凍サイクル装置の冷凍機油としては、具体的には、ポリオールエステル油を用いる。ポリオールエステル油は、下記化学式(1)で表されるペンタエリスリトール系化合物、又は、下記化学式(2)で表されるジペンタエリスリトール系化合物、又は、これらの混合物であることが好ましい。[但し、化学式(1)及び(2)中、R^(1)は、炭素数4?9のアルキル基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。]
【0078】
【化1】

【0079】
【化2】

【0080】
R^(1)としては、直鎖状のアルキル基、及び、分枝状のアルキル基のいずれであってもよい。R^(1)の具体例としては、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、3-ペンチル基、tert-ペンチル基、ネオペンチル基、1-エチルペンチル基、イソへキシル基、2-エチルヘキシル基等が挙げられる。
【0081】
化学式(1)で表されるペンタエリスリトール系化合物、及び、下記化学式(2)で表されるジペンタエリスリトール系化合物は、R^(1)として、分枝状のアルキル基のみを有することが好ましい。これらの化合物が分枝状のアルキル基で置換されていると、エステル基が冷凍サイクル内に混入している水分等と反応し難くなるため、冷凍機油が劣化するのを効果的に抑制することができる。
【0082】
一般的な冷凍機油としては、ポリオールエステル油以外に、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油、ポリαオレフィン油、ソフト型アルキルベンゼン油等も知られている。しかし、これらの油は、前記の三成分を含む混合冷媒との相溶性が低く、冷凍サイクル内の低温部で容易に二層分離する。そのため、これらの油は、前記の三成分を含む混合冷媒と共に用いる冷凍機油として適切ではない。
【0083】
また、一般的な冷凍機油としては、ポリビニルエーテル油、ポリアルキレングリコール油等も知られている。しかし、これらの油は、R13I1の分解に伴って生成する劣化物質によってエーテル基が攻撃され易い。水分の共存下に生成するフッ化水素酸、ヨウ化水素等の強酸は、エーテル基に作用して分子を開裂させる作用を示す。そのため、これらの油は、前記の三成分を含む混合冷媒と共に用いる冷凍機油として適切ではない。
【0084】
また、ポリビニルエーテル油のような潤滑性が劣る冷凍機油は、極圧剤の添加が必要である。しかし、極圧剤として一般的に用いられているトリクレジルホスフェート等は、R13I1の分解に伴って生成する劣化物質によって分解され易いため、極圧剤としての作用を示さなくなり、圧縮機の摺動部の摩擦や摩耗が抑制されなくなる。
【0085】
これに対し、冷凍機油としてポリオールエステル油を用いると、前記の三成分を含む混合冷媒に対して高い相溶性が得られる。また、ポリオールエステル油は、摺動面に形成する油膜が破断し難い特徴があるため、極圧剤の有無にかかわらず、良好な潤滑性を得ることができる。また、ポリオールエステル油は、分枝状のアルキル基を置換することによって、相溶性、粘度等の冷凍機油として求められる性能を大きく損なうことなく、R13I1の分解によって生成する劣化物質や、冷凍サイクル内に混入している水分等との反応性を低下させることができる。
【0086】
冷凍サイクル装置の冷凍機油は、40℃における動粘度が22mm^(2)/s以上84mm^(2)/s以下であることが好ましい。動粘度がこの範囲であると、低温でも十分な相溶性が得られるため、様々な形式の密閉型電動圧縮機において支障なく使用することができる。圧縮機の形式にかかわらず、圧縮機の摺動部の潤滑性や、冷媒と相溶したときの圧縮室の密閉性を適切に確保することができる。
【0087】
冷凍機油の動粘度は、主としてポリオールエステル油の組成を変えることによって調整することができる。冷凍機油の動粘度は、ISO(International Organization for Standardization、国際標準化機構)3104、ASTM(American Society for Testing and Materials、米国材料試験協会)D445、D7042等の規格に基づいて測定することができる。
【0088】
冷凍サイクル装置の冷凍機油は、冷凍サイクル内に冷媒と共に封入された状態において、水分量が300重量ppm以下に保持されることが好ましい。一般に、冷凍機油の水分量は製造時に低減されているが、水分は、圧縮機への充填時に冷凍機油に混入したり、冷凍サイクル装置の製造時に冷凍サイクル内に侵入したりすることがある。冷凍機油に混入した水分や、冷凍サイクル内に侵入した水分は、冷凍サイクル装置の運転時には、冷媒の相ではなく、主として冷凍機油の相に局在する。
【0089】
冷凍機油に含まれる水分量が300重量ppm以下に低減されていると、水分とR13I1やポリオールエステル油との反応量が極めて小さくなるので、R13I1やポリオールエステル油の分解を大きく抑制することができる。その結果、R13I1の分解に伴う劣化物質の生成量も極めて微量になる。そのため、冷凍サイクル装置の運転中、混合冷媒自体の劣化や冷凍機油の劣化の進行を実質的に阻止することができる。冷凍機油の水分量は、より好ましくは200重量ppm以下、更に好ましくは150重量ppm以下、特に好ましくは100重量ppm以下である。
【0090】
冷凍機油の水分量は、例えば、冷凍機油の乾燥処理、冷凍機油の充填時における雰囲気の調整、冷凍機油の充填時に冷凍サイクルに施す真空引きの減圧度合(真空度等)、冷凍サイクル内への乾燥器・乾燥剤の設置等によって低減することができる。これらの水分量を低減する手段は、適宜組み合わせて用いてもよい。冷凍機油の水分量は、例えば、冷媒と相溶している冷凍機油を冷凍サイクル内から採取して測定試料として求めることができる。冷凍機油中の水分量(油中水分量)の測定は、JIS K 2275-3:2015「原油及び石油製品-水分の求め方-第3部:カールフィッシャー式電量滴定法」に準じて行うことができる。
【0091】
冷凍サイクル装置の冷凍機油は、前記の三成分を含む混合冷媒との低温側臨界溶解温度が、-10℃以下であることが好ましい。低温側臨界溶解温度が-10℃以下であると、冷凍機油と冷媒とに十分な相溶性があるため、冷凍機油と冷媒とが冷凍サイクル中で二層分離するのを防止することができる。圧縮機に戻る冷凍機油の油戻り量が改善するため、圧縮機における摺動部の潤滑性、冷媒の密封性、冷却性等を適切に保つことができる。
【0092】
低温側臨界溶解温度は、主としてポリオールエステル油の組成を変えることによって調整することができる。低温側臨界溶解温度は、JIS K 2211に規定される相溶性試験方法に準じて測定することができる。冷凍機油と冷媒とを、耐圧ガラス容器に封入し、温度を変化させて内容物の観察を行う。内容物が白濁している場合、溶液が二層に分離しており、内容物が透明である場合、相溶していると判断することができる。溶液が二層分離するときの温度を、低温側臨界溶解温度として求めることができる。
【0093】
冷凍サイクル装置の冷凍機油は、添加剤として、潤滑性向上剤、酸化防止剤、安定剤、酸捕捉剤、消泡剤、金属不活性化剤等を含むことができる。特に、銅パイプ内面の腐食を防止する観点から、ベンゾトリアゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾチアゾール等に代表される金属不活性化剤を配合することが望ましい。
【0094】
潤滑性向上剤としては、熱化学的に安定な第三級ホスフェート類からなる極圧剤、例えば、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、2-エチルヘキシルジフェニルホスフェート、トリス(2-エチルヘキシル)ホスフェート等を用いることができる。
【0095】
極圧剤は、添加剤として添加する場合、ポリオールエステル油に対して0.1質量%以上2.0質量%以下であることが好ましい。但し、ポリオールエステル油は、極圧剤を添加しなくとも潤滑性が良好であり、また、第三級ホスフェート類等のリン酸エステルは、R13I1の分解によって生成する劣化物質によって分解され易い。そのため、冷凍機油の添加剤として、極圧剤を用いなくてもよい。
【0096】
酸化防止剤としては、例えば、DBPC(2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール)等のフェノール系酸化防止剤等を用いることができる。
【0097】
安定剤としては、例えば、脂環式エポキシ化合物、モノテルペン化合物等を用いることができる。脂環式エポキシ化合物は、低温で水分と反応するため、冷凍機油に含まれる水分を、冷凍サイクル装置の運転の初期に、速やかに捕捉することができる。また、モノテルペン化合物は、酸素を捕捉して、冷凍機油の酸化劣化を抑制する作用を示す。
【0098】
脂環式エポキシ化合物としては、例えば、1,2-エポキシシクロヘキサン、1,2-エポキシシクロペンタン、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、エキソ-2,3-エポキシノルボルナン、ビス(3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、2-(7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト-3-イル)-スピロ(1,3-ジオキサン-5,3’-[7]オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン、4-(1’-メチルエポキシエチル)-1,2-エポキシ-2-メチルシクロヘキサン、4-エポキシエチル-1,2-エポキシシクロヘキサン等が挙げられる。
【0099】
脂環式エポキシ化合物としては、下記化学式(3)で表される3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレートが特に好ましい。
【0100】
【化3】

【0101】
脂環式エポキシ化合物は、ポリオールエステル油に対して0.1質量%以上2.0質量%以下であることが好ましい。
【0102】
モノテルペン化合物としては、例えば、単環式モノテルペン、多環式モノテルペン、非環式モノテルペン等が挙げられる。モノテルペン化合物としては、単環式モノテルペンが好ましい。単環式モノテルペンとしては、例えば、リモネン、α-ピネン、β-ピネン、γ-テルピネン等が挙げられる。
【0103】
モノテルペン化合物は、ポリオールエステル油に対して0.1質量%以上2.0質量%以下であることが好ましい。
【0104】
酸捕捉剤としては、例えば、脂肪族エポキシ化合物、カルボジイミド系化合物等を用いることができる。脂肪族エポキシ化合物は、低温で水分や脂肪酸等と反応するため、冷凍機油に含まれる水分や脂肪酸等を、冷凍サイクル装置の運転の初期に、速やかに捕捉することができる。一方、カルボジイミド系化合物は、高温で水分や脂肪酸等と反応するため、冷凍サイクル装置の運転中、冷凍サイクル内に残存している水分等や、新たに生じた水分、脂肪酸等を捕捉することができる。
【0105】
脂肪族エポキシ化合物としては、例えば、アルキルグリシジルエステル化合物、アルキルグリシジルエーテル化合物等が挙げられる。
【0106】
アルキルグリシジルエステル化合物としては、下記化学式(4)で表される化合物が挙げられる。[但し、化学式(4)中、R^(2)は、炭素数4?12のアルキル基を表す。]
【0107】
【化4】

【0108】
アルキルグリシジルエーテル化合物としては、下記化学式(5)で表される化合物が挙げられる。[但し、化学式(5)中、R^(3)は、炭素数4?12のアルキル基を表す。]
【0109】
【化5】

【0110】
R^(2)やR^(3)としては、直鎖状のアルキル基、及び、分枝状のアルキル基のいずれであってもよい。R^(2)やR^(3)の具体例としては、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、3-ペンチル基、tert-ペンチル基、ネオペンチル基、1-エチルペンチル基、イソへキシル基、2-エチルヘキシル基等が挙げられる。
【0111】
カルボジイミド化合物としては、下記化学式(6)で表される化合物が挙げられる。[但し、化学式(6)中、R^(4)及びR^(5)は、それぞれ独立に、アルキル基、又は、アルキル置換芳香族基であり、且つ、分子中に-CH(CH_(3))_(2)、又は、-C(CH_(3))_(3)を少なくとも2個有する置換基を表す。]
【0112】
【化6】

【0113】
酸捕捉剤は、ポリオールエステル油に対して0.1質量%以上2.0質量%以下であることが好ましい。
【0114】
冷凍サイクル装置の冷凍機油は、添加剤として、脂環式エポキシ化合物及び脂肪族エポキシ化合物のうち、少なくとも一方を含むことが好ましく、両方を含むことがより好ましく、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレートとアルキルグリシジルエステル化合物とを含むことが特に好ましい。
【0115】
脂環式エポキシ化合物は、ポリオールエステル油の加水分解で生成する脂肪酸等と反応するだけでなく、R13I1の分解に伴って生成するフッ化水素やヨウ化水素を効率的に捕捉する作用を示す。また、脂肪族エポキシ化合物は、水分等を速やかに捕捉する作用を示す。そのため、これらの添加剤を併用すると、冷凍サイクル内に冷凍機油を充填した直後から、混入している水分や、発生した劣化物質を迅速に除去することが可能になり、冷媒や冷凍機油等の劣化を確実且つ継続的に防止することができる。また、アルキルグリシジルエステル化合物は、アルキルグリシジルエーテル化合物のようにエーテル基への攻撃を受けないため、劣化物質による消耗を避けることができる。
【0116】
以上の本実施形態に係る冷凍サイクル装置によると、冷媒として、HFC32/HFC125/R13I1の三成分を含む混合冷媒を用い、且つ、冷凍機油として、水分量が低減されている所定のポリオールエステル油を用いるため、冷媒の低GWPと低燃焼性とを両立し、且つ、冷媒と冷凍機油との相溶性を確保しながら、R13I1の分解を防止することができる。R13I1の分解に起因する冷媒の機能の低下や、分解に伴って生成する劣化物質に起因する冷凍機油、添加剤等の劣化が、運転中に進行するのが大きく抑制されるため、冷凍サイクル装置の性能や安全性を長期間にわたって適切に維持することができる。
【0117】
特に、HFC32/HFC125/R13I1の三成分を含む混合冷媒は、低毒性であり、不燃性を確保しつつ、GWPを容易に750以下に低下させることができる。また、例えば、R404Aと同等の蒸気圧をはじめ、冷凍サイクル装置の形態に応じた適切な蒸気圧に調整することもできる。よって、HFC32/HFC125/R13I1の三成分を含む混合冷媒と、水分量が低減されている所定のポリオールエステル油とを用いることによって、GWPが750以下と低く、燃焼性が低く、且つ、長期間にわたって性能や安全性が維持される長期信頼性が高い冷凍サイクル装置を得ることができる。
【0118】
以上、本発明に係る冷凍サイクル装置の実施形態について説明したが、本発明は前記の実施形態に限定されるものではなく、技術的範囲を逸脱しない限り、様々な変形例が含まれる。例えば、前記の実施形態は、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。また、或る実施形態の構成の一部を他の構成に置き換えたり、或る実施形態の構成に他の構成を加えたりすることが可能である。また、或る実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、構成の削除、構成の置換をすることも可能である。
【0119】
例えば、前記の実施形態では、冷凍サイクル装置の具体例として、ビル用マルチエアコンと冷凍機を示したが、本発明に係る冷凍サイクル装置は、1台の室内機を備えるルームエアコンやパッケージエアコンに適用してもよい。また、本発明に係る冷凍サイクル装置は、冷蔵庫、冷凍庫、ヒートポンプ式給湯装置等に適用してもよい。
【実施例】
【0120】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0121】
<試験1>
HFC32、HFC125及びR13I1を含む混合冷媒と、種々の冷凍機油との組み合わせについて、混合冷媒や冷凍機油の安定性と冷凍機油に含まれる水分との関係を、加熱による加速劣化試験を行って評価した。
【0122】
冷媒としては、HFC32とHFC125とR13I1との重量比が、ビル用マルチエアコンを想定したHFC32:HFC125:R13I1=50:10:40である混合冷媒、及び、冷凍機を想定したHFC32:HFC125:R13I1=28:17:55である混合冷媒のうち、いずれかを用いた。
【0123】
なお、ビル用マルチエアコンを想定した混合冷媒は、GWP=730前後、25℃における蒸気圧が約1.46MPaである。冷凍機を想定した混合冷媒は、GWP=730前後、25℃における蒸気圧が約1.27MPaである。
【0124】
冷凍機油としては、次の(A)?(C)のいずれかを用いた。なお、各冷凍機油には、DBPCを0.3重量%配合した。また、潤滑性が劣る(C)の冷凍機油のみに対して、一般的な極圧剤であるトリクレジルホスフェート(TCP)を1.0重量%配合した。その他の添加剤は、混合冷媒と冷凍機油の熱化学的安定性を正しく評価するために、いずれの冷凍機油にも配合しなかった。
【0125】
(A)ヒンダードタイプポリオールエステル油(H-POE)(ペンタエリスリトール系の2-エチルヘキサン酸/3,5,5-トリメチルヘキサン酸の混合脂肪酸エステル油、40℃における動粘度=64.9mm^(2)/s)
(B)ヒンダードタイプポリオールエステル油(H-POE)(ペンタエリスリトール/ジペンタエリスリトール系の2-メチルブタン酸/2-エチルヘキサン酸の混合脂肪酸エステル油、40℃における動粘度=68.7mm^(2)/s)
(C)ポリビニルエーテル油(PVE)(アルコキシビニルの重合体でありアルコキシ基がエチルオキシ基及びイソブチルオキシ基である共重合体エーテル油、40℃における動粘度=66.8mm^(2)/s)
【0126】
(加速劣化試験)
加速劣化試験は、次の手順で行った。はじめに、洗浄した圧力容器(耐圧:最大20MPa、内容積:220mL)に、圧力容器と直接接触しないようにガラス容器を入れた。そして、そのガラス容器に、60gの冷凍機油と、金属触媒を入れた。冷凍機油は、水分量を100重量ppm未満、及び、600重量ppmのいずれかに調節した。冷凍機油の水分量(油中水分量)は、JIS K 2275-3:2015「原油及び石油製品-水分の求め方-第3部:カールフィッシャー式電量滴定法」に準じて測定した。金属触媒としては、アルミニウム、銅及び鉄(径:2.0mm、長さ:300mm)を、紙やすりで研磨し、アセトン及びエタノールで洗浄した後、コイル状に巻回して入れた。
【0127】
続いて、冷凍機油と金属触媒を入れたガラス容器を、100Pa以下に減圧して真空引きした後、12gの冷媒を導入して密閉した。そして、このガラス容器を、オートクレーブを用いて、175℃で504時間にわたって加熱した。加熱後にガラス容器を開封し、冷凍機油の全酸価と、冷凍機油中のフッ素量を測定した。また、金属触媒の外観を目視で観察した。冷凍機油の全酸価は、JIS K 2501:2003「石油製品及び潤滑油-中和価試験方法」に準じて測定した。冷凍機油中のフッ素量(油中フッ素量)は、燃焼式イオンクロマトグラフィーを用いて測定した。具体的には、試験油を1000℃で燃焼させて過酸化水素水で捕集したフッ素成分をイオンクロマトグラフに注入し、溶離液(Na_(2)CO_(3)/NaHCO_(3))の流量:1.5mL/minで電気伝導度検出器を用いて測定した。フッ素量は、主に熱化学的安定性が低いR13I1に由来し、混合冷媒自体の劣化や冷凍機油等の劣化の指標となる。
【0128】
次の表1に、冷媒と冷凍機油の組み合わせ、冷凍機油中の水分量、冷凍機油の全酸価、冷凍機油中のフッ素量、金属触媒の外観の評価結果を示す。
【0129】
【表1】

【0130】
表1に示すように、試料1-1?1-8は、冷凍機油がポリオールエステル油であるため、冷凍機油の全酸価は、初期値(0mgKOH/g)に対する増加が小さく、冷凍機油の劣化が十分に抑制された。また、試料1-1?1-8は、冷凍機油がポリオールエステル油であるため、冷凍機油に含まれるフッ素量は、初期値(0ppm)に対する増加が小さく、混合冷媒の劣化が十分に抑制された。R13I1は、水分との共存下、フッ素化合物を生成するところ、試料1?8では、フッ素化合物の生成量が少なく、混合冷媒が熱化学的に安定に保たれる結果となった。
【0131】
冷凍機油がポリオールエステル油である試料1-1?1-8では、冷凍機油に含まれる水分量が100重量ppmの試料と、水分量が600重量ppmの試料とを比較すると、水分量が少ないほど、全酸価の増加やフッ素量の増加が抑制されることが確認された。水分量が多い試料は、金属触媒のうち、銅と鉄に若干の変色が確認されたが、水分量が少ない試料については、金属触媒や冷凍機油に顕著な変色は生じなかった。
【0132】
これに対し、試料1-9?1-14は、冷凍機油がポリビニルエーテル油であるため、冷凍機油の全酸価の増加が大きくなり、冷凍機油の劣化が顕著に進行した。また、試料1-9?1-14は、冷凍機油がポリビニルエーテル油であるため、冷凍機油に含まれるフッ素量の増加が大きくなり、混合冷媒の劣化が顕著に進行した。R13I1が水分と反応して分解することにより、エーテル基等を攻撃するフッ化水素等の生成に伴って、大量のフッ素イオンが検出された。
【0133】
冷凍機油がポリビニルエーテル油である試料1-9?1-14では、冷凍機油に含まれる水分量が100重量ppmの試料と、水分量が600重量ppmの試料とを比較すると、水分量が少ない場合であっても、全酸価の増加やフッ素量の増加が確認された。ポリオールエステル油である試料1-1?1-8と比較すると、フッ素量が著しく増加しており、R13I1自体の分解性が高く、ポリビニルエーテル油の安定性が極端に低下し易い状態であることが確認できた。
【0134】
また、冷凍機油がポリビニルエーテル油である試料1-9?1-14では、極圧剤としてトリクレジルホスフェートを添加した試料と、添加していない試料とを比較すると、添加した試料では、全酸価の増加やフッ素量の増加が著しくなり、冷凍機油や混合冷媒の劣化がより顕著に進行することが確認された。R13I1の分解に伴って生成したフッ化水素酸やヨウ化水素が、極圧剤であるトリクレジルホスフェートと反応し、極圧剤を分解・消耗させると共に、リン酸等を生成して全酸価を増大させたと考えられる。
【0135】
また、冷凍機油がポリビニルエーテル油である試料1-9?1-14では、いずれの試料についても、金属触媒に変色を生じ、変色が認められない試料はなかった。
【0136】
<試験2>
種々の添加剤の組み合わせについて、混合冷媒や冷凍機油の安定性と冷凍機油に含まれる水分との関係を、加熱による加速劣化試験を行って評価した。
【0137】
冷媒としては、試料1-1と同様に、ビル用マルチエアコンを想定したHFC32:HFC125:R13I1=50:10:40である混合冷媒を用いた。冷凍機油としては、試料1-1と同様に、ポリオールエステル油である(A)を用いた。
【0138】
添加剤としては、酸捕捉剤である次の(X)?(Z)のいずれかを用いた。添加剤の配合量は、ポリオールエステル油に対して、0.1?2.0重量%の範囲で種々の量に変えた。
【0139】
(X)3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート
(Y)アルキルグリシジルエステル(炭素数が4?9のアルキル基を有する混合物)
(Z)2-エチルヘキシルグリシジルエーテル
【0140】
次の表2に、添加剤の組み合わせ、冷凍機油中の水分量、冷凍機油の全酸価、冷凍機油中のフッ素量、金属触媒の外観の評価結果を示す。なお、評価のための加速劣化試験は、前記の<試験1>と同様にして行った。
【0141】
【表2】

【0142】
表2に示すように、試料2-1?2-17は、添加剤(酸捕捉剤)が添加されているため、試料1-1と比較して、全酸価の増加やフッ素量の増加が概ね抑制された。添加剤が0.1?2.0重量%の範囲であると、全酸価の増加やフッ素量の増加が効果的に抑制され、添加剤の試験後の残存率も概ね高い値となっており、冷凍サイクル装置の長期信頼性が向上する可能性が確認された。特に、試料2-7?2-14は、多種類の添加剤が併用されているため、全酸価の増加やフッ素量の増加が著しく抑制される結果となった。
【0143】
但し、試料2-9は、冷凍機油に含まれる水分量が600重量ppmと多いため、全酸価の増加やフッ素量の増加は抑制されたが、添加剤の試験後の残存率は低い値となった。また、試料2-15?2-16は、添加剤が0.1?2.0重量%の有効量に達していないため、添加剤の試験後の残存率は低い値となり、全酸価の増加やフッ素量の増加が十分に抑制されなかった。
【0144】
冷凍機油に含まれる水分量が100重量ppmの試料2-15と、水分量が600重量ppmの試料2-16とを比較すると、水分量が多いほど、添加剤の試験後の残存率は低い値となり、全酸価の増加やフッ素量の増加が抑制され難くなることが確認された。また、試料2-17は、添加剤が0.1?2.0重量%の有効量を超えているため、全酸価の増加やフッ素量の増加は十分に抑制されたが、冷凍機油中に、添加剤自体の重合物と思われる析出物が多量に確認された。
【0145】
加速劣化試験の後、各試料を、核磁気共鳴分光法による分析、及び、ガスクロマトグラフィー質量分析に供した。その結果、R13I1と水分との反応に伴う分解生成物が同定された。劣化のメカニズムを考察した結果、(X)3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレートは、フッ化水素やヨウ化水素を捕捉する作用を示し、(Y)アルキルグリシジルエステルは、水分と早期に反応して、冷凍機油中の水分量を低減させる作用を示すことが分かった。
【0146】
<試験3>
乾燥器を備えた冷凍サイクル装置と、乾燥器を備えない冷凍サイクル装置のそれぞれについて、高速高負荷条件における3000時間の耐久試験を実施した。
【0147】
冷凍サイクル装置としては、スクロール式の密閉型電動圧縮機を搭載した装置であって、冷房能力が28kWのビル用マルチエアコン用の装置を用いた。圧縮機の回転速度は、6000min-1とした。モータの鉄心とコイルとの絶縁には、厚さが250μmの耐熱PETフィルム(B種、温度指数:130℃)を用いた。コイルには、ポリエステルイミド-アミドイミドのダブルコートを施した二重被覆銅線を用いた。
【0148】
冷媒としては、試料1-1と同様に、HFC32:HFC125:R13I1=50:10:40である混合冷媒を用いた。冷媒は、冷凍サイクル内に8000gを封入した。冷凍機油としては、試料2-8と同様に、ポリオールエステル油である(A)に0.5重量%の(X)と(Y)を添加した油を用いた。
【0149】
乾燥器としては、合成ゼオライトを冷凍サイクル内に配置した。乾燥器を備えた冷凍サイクル装置については、油中水分量が200重量ppm以下となるように脱水した冷凍機油を、圧縮機内に1500mL封入した。一方、乾燥器を備えない冷凍サイクル装置については、油中水分量が600重量ppmとなるように調整した冷凍機油を、圧縮機内に1500mL封入した。
【0150】
乾燥器を備えた冷凍サイクル装置、及び、乾燥器を備えない冷凍サイクル装置のそれぞれは、3000時間にわたって運転した。その後、各圧縮機を解体し、摺動部の摩耗の状態や、転がり軸受におけるフレーキングの発生の状態を調べた。
【0151】
その結果、乾燥器を備えた冷凍サイクル装置については、主軸受や副軸受の転動体、内輪や外輪の軌道面に、フレーキングは認められなかった。また、旋回スクロールや固定スクロールのラップの歯先、オルダムリング等の摺動部は、摩耗が極めて少ないことが確認された。3000時間の運転の後、冷凍機油の全酸価は0.03mgKOH/g、添加剤(X)の残存率は70%、添加剤(Y)の残存率は40%となった。冷凍機油の劣化が小さく、添加剤の消耗も小さい結果となり、長期信頼性が良好であることが確認された。
【0152】
一方、乾燥器を備えない冷凍サイクル装置については、主軸受にフレーキング痕が確認された。また、旋回スクロールや固定スクロールのラップの歯先、オルダムリング等の摺動部は、摩耗が比較的多いことが確認された。3000時間の運転の後、冷凍機油の全酸価は0.30mgKOH/g、添加剤(X)の残存率は20%、添加剤(Y)の残存率は5%となった。冷凍機油の劣化が大きく、添加剤の消耗も大きい結果となった。
【0153】
以上の結果から、HFC32/HFC125/R13I1の三成分を含む混合冷媒を使用した冷凍サイクル装置に関して、水分量が低減されている所定の冷凍機油を用いると、冷凍サイクル装置の長期信頼性を向上させることができることが確認された。なお、空気調和機だけでなく、冷凍機においても、HFC32:HFC125:R13I1=28:17:55である混合冷媒を用いた場合に、同様の効果が得られた。
【0154】
以上の油中水分量を200重量ppm以下となるように調整した<試験3>の結果や、添加剤の具体的な使用量や、冷凍機油の充填前に冷凍サイクル内に存在している初期の持ち込み量等を考慮すると、冷凍サイクルへの充填以降、冷凍機油に含まれる水分量が300重量ppm以下であれば、十分な長期信頼性を確保することができると考えられる。
【符号の説明】
【0155】
1 室外機
2 室内機
3 圧縮機
4 四方弁
5 室外熱交換器(凝縮器/蒸発器)
6 室外膨張弁(減圧器)
7 アキュムレータ
8 室外送風機
9 室内熱交換器(蒸発器/凝縮器)
10 室内膨張弁(減圧器)
11 室内送風機
12 熱源機
13 クーラーユニット
14 圧縮機
15 熱源側熱交換器(凝縮器)
16 過冷却器
17 減圧器
18 減圧器
19 アキュムレータ
20 熱源側送風機
21 利用側熱交換器(蒸発器)
22 利用側送風機
23 固定スクロール部材
23a 固定ラップ
24 旋回スクロール部材
24a 旋回ラップ
25 フレーム
26 クランクシャフト
27 モータ
28 密閉容器
29 圧縮室
30 吐出口
31 吐出パイプ
32 油孔
33 主軸受
34 副軸受
36 油溜め部
100 ビル用マルチエアコン
200 冷凍機
300 密閉型電動圧縮機
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を圧縮する圧縮機と、前記圧縮機で圧縮された冷媒を凝縮させる凝縮器と、前記凝縮器で凝縮された冷媒を減圧する減圧器と、前記減圧器で減圧された冷媒を蒸発させる蒸発器と、を備える冷凍サイクル装置であって、
前記冷媒は、ジフルオロメタン、ペンタフルオロエタン及びトリフルオロヨードメタンを含む混合冷媒であり、地球温暖化係数が750以下、且つ、25℃における蒸気圧が1.1MPa以上1.8MPa以下であり、
前記圧縮機は、密閉容器内に、圧縮機構部と、前記圧縮機構部を駆動するモータと、を備え、且つ、摺動部を潤滑する冷凍機油が充填されている密閉型電動圧縮機であり、
前記冷凍機油は、ポリオールエステル油であって、水分量が300重量ppm以下、且つ、前記混合冷媒と共に175℃で504時間加熱したときの全酸価が0.12mgKOH/g以下であり、
前記ポリオールエステル油は、下記化学式(1)で表される化合物、又は、下記化学式(2)で表される化合物、又は、これらの混合物[但し、化学式(1)及び(2)中、R^(1)は、炭素数4?9のアルキル基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。]である冷凍サイクル装置。
【化1】

【化2】

【請求項2】
請求項1に記載の冷凍サイクル装置において、
前記混合冷媒は、ジフルオロメタンが20重量%以上60重量%以下、ペンタフルオロエタンが5重量%以上25重量%以下、且つ、トリフルオロヨードメタンが30重量%以上60重量%以下である冷凍サイクル装置。
【請求項3】
請求項1に記載の冷凍サイクル装置において、
前記冷凍機油は、脂環式エポキシ化合物及び脂肪族エポキシ化合物を各々0.1重量%以上2.0重量%以下含むことを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項4】
請求項3に記載の冷凍サイクル装置において、
前記脂環式エポキシ化合物は、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレートである冷凍サイクル装置。
【請求項5】
請求項3に記載の冷凍サイクル装置において、
前記脂肪族エポキシ化合物は、アルキルグリシジルエステルである冷凍サイクル装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-12-24 
出願番号 特願2018-163601(P2018-163601)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (F25B)
P 1 651・ 121- YAA (F25B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 西山 真二  
特許庁審判長 平城 俊雅
特許庁審判官 後藤 健志
林 茂樹
登録日 2019-06-28 
登録番号 特許第6545337号(P6545337)
権利者 日立ジョンソンコントロールズ空調株式会社
発明の名称 冷凍サイクル装置  
代理人 特許業務法人磯野国際特許商標事務所  
代理人 特許業務法人磯野国際特許商標事務所  

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