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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D21H
審判 全部申し立て 2項進歩性  D21H
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  D21H
管理番号 1371734
異議申立番号 異議2020-700877  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-04-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-11-16 
確定日 2021-03-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第6701550号発明「ペーパータオルのロール体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6701550号の請求項1?6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6701550号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成27年12月24日に出願され、令和2年5月11日にその特許権の設定登録がされ、令和2年5月27日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和2年11月16日に、特許異議申立人赤松智信(以下「申立人」という。)が、特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?6の各々に係る発明(以下「本件特許発明1」等という)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?6に各々記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】 坪量が19.0g/m^(2)以上25.0g/m^(2)以下である単一シートを2枚積層したペーパータオルが、巻密度0.50m/cm^(2)以上0.80m/cm^(2)以下、巻き硬さ10mm未満で20m以上40m以下巻回され、
前記ペーパータオルの吸水性TWAが170g/m^(2)以上220g/m^(2)以下であり、
前記ペーパータオルの乾燥時の縦方向引張り強さDMDと乾燥時の横方向引張り強さDCDの幾何平均GMTが、12.0N/25mm以上22.0N/25mm以下である、ペーパータオルのロール体。
【請求項2】
巻き硬さが4mm以上8mm以下である、請求項1に記載のペーパータオルのロール体。
【請求項3】
単一シートを2枚積層したペーパータオルの一方の表面がエンボス凸部を有し、他方の表面に前記エンボス凸部の裏面で構成されるエンボス凹部を有する、請求項1又は2に記載のペーパータオルのロール体。
【請求項4】
前記エンボス凸部及び前記エンボス凹部を形成するエンボス加工のエンボス面積率が10%以上25%以下、エンボスエッジ率が0.3mm/mm^(2)以上0.6mm/mm^(2)以下である、請求項3に記載のペーパータオルのロール体。
【請求項5】
一方の前記単一シートの前記エンボス凸部が、他方の前記単一シートの前記エンボス凹部に入り込んだ状態で糊付けされている、請求項3又は4に記載のペーパータオルのロール体。
【請求項6】
前記単一シートは、叩解処理したパルプ繊維に乾燥紙力増強剤及び湿潤紙力増強剤を添加し、抄紙して得られる、請求項1?5のいずれか一項に記載のペーパータオルのロール体。」

第3 申立理由の概要
申立人は本件特許異議申立書に以下の甲第1号証?甲第9号証(以下「甲1」等という。また、甲1に記載された発明を、以下「甲1発明」という。)を提出して、大要、次の申立理由を主張している。
1. 申立理由1(進歩性)
本件特許発明1?6は、甲1発明と甲8及び甲9に記載された事項に基づき、又は甲1発明と甲2?4、8、9に記載された事項に基づき、当業者が容易になし得た発明であり進歩性を欠如している。

2. 申立理由2(実施可能要件、サポート要件、明確性)
(1) エンボス面積率が不明確(明確性実施可能要件)
エンボスは立体的なものなので、エンボス凸部の面積は一義的には決まらず、エンボス凸部の面積に基づくエンボス面積率も一義的には決まらない。本件特許発明4及び本件特許発明4を引用する本件特許発明5、6は、エンボス面積率が一義的に決まらないことから不明確である(特許法第36条第6項第2号)。また、当業者は、エンボス面積率を理解できないので、本件特許発明4及び本件特許発明4を引用する本件特許発明5、6を実施できない(特許法第36条第4項第1号)。

(2) エンボスエッジ率が不明確(明確性実施可能要件)
エンボスは立体的なものなので、エンボス凸部のエッジの長さは一義的には決まらず、エンボス凸部のエッジの長さに基づくエンボスエッジ率も一義的には決まらない。本件特許発明4及び本件特許発明4を引用する本件特許発明5、6は、エンボスエッジ率が一義的に決まらないことから不明確である(特許法第36条第6項第2号)。また、当業者は、エンボスエッジ率を理解できないので、本件特許発明4及び本件特許発明4を引用する本件特許発明5、6を実施できない(特許法第36条第4項第1号)。

(3) エンボスエッジ率と効果の関係が理解できない(サポート要件)
当業者は、本件特許の効果を奏するエンボスエッジ率の範囲が、あらゆる形状のエンボスにおいて、同一であるとは理解できないので、本件特許発明4及び本件特許発明4を引用する本件特許発明5、6は、サポート要件を満たさない(特許法第36条第6項第1号)。

(4) エンボスエッジ率の調整方法が不明(実施可能要件)
当業者は、エンボスを平面視した際の形状、エンボス一個あたりの面積、単位面積あたりのエンボスの個数の各々をどのように調整して、所定のエンボスエッジ率の範囲とすればよいのかを、理解することができないので、本件特許発明4及び本件特許発明4を引用する本件特許発明5、6を実施できない。(特許法第36条第4項第1号)

(5) 規定された巻き硬さの範囲全体で効果を奏するとは理解できない(サポート要件)
当業者は、巻き硬さが実施例1(巻長:23m)の5.8mmより大きい場合にも、巻長を20m以上にできるとは理解できず、実施例3(TWA:178g/m^(2))の4.2mmより小さい場合にも、TWAを170g/m^(2)以上にできるとは理解できないので、本件特許発明1?6は、サポート要件を満たさない(特許法第36条第6項第1号)。

(6) 規定されたGMTの範囲全体で実施可能であるとは理解できない(実施可能要件)
当業者は、どのようにして、GMTが22.0N/25mm、またはその値に近いペーパータオルを得ることができるのか理解できない。
本件特許明細書は、本件特許発明1?6を実施できる程度に記載されておらず、実施可能要件を満たさない(特許法第36条第4項第1号)。

< 引 用 文 献 等 一 覧>
甲第1号証:特開2010-68972号公報
甲第2号証:特開2013-208298号公報
甲第3号証:特開2014-45808号公報
甲第4号証:米国特許出願公開第2014/0117135号明細書
甲第5号証:紙加工便覧編集委員会、「最新 紙加工便覧」、株式会社 テックタイムス
昭和63年8月20日発行、893-898ページ
甲第6号証:特開昭61-33628号公報
甲第7号証:特開2010-202990号公報
甲第8号証:特開2005-287725号公報
甲第9号証:特開2013-202206号公報

第4 文献の記載
1. 甲1
(1) 甲1に記載された事項
申立人が提出した甲1には、次の記載がある。
ア. 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプ又は古紙配合パルプを叩解して抄紙してなり乾燥紙力増強剤を含む坪量19g/m^(2)以上23g/m^(2)以下の単一シートを2枚重ねたペーパータオルであって、
前記単一シートはそれぞれエンボス加工されて糊付けされ、
保水量が190g/m2以上、GMTが11.3以上であるペーパータオル。
【請求項2】
前記一方の単一シートのエンボス凸部は、前記他の単一シートのエンボス凹部に入り込んだ状態で糊付けされている請求項1記載のペーパータオル。
【請求項3】
前記エンボス凸部のエンボス面積は、5?30%である請求項1又は2記載のペーパータオル。
【請求項4】
請求項1?3のいずれかに記載のペーパータオルを巻芯の周りに巻回してなるペーパータオルのロール体であって、
625gの荷重下で、前記ロール体の径の変形量が12mm以下、巻径100?120mm、巻長11.0?12.0mであるペーパータオルのロール体。
【請求項5】
前記ロール体を構成する前記ペーパータオルには、前記ロール体の軸方向に沿ってミシン目が形成され、
前記ミシン目の切断強度が11.8?21.6N/100mmである請求項4に記載のペーパータオルのロール体。」
イ. 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、キッチンペーパー等のペーパータオル及びそのロール体に関する。
【背景技術】
【0002】
キッチンペーパー等の家庭で広く用いられている使い捨てペーパータオルは、重ね合わせたシート間に空隙を生じさせるエンボス加工が施され、吸水性や吸油性を高めている・・・」
ウ. 「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらのペーパータオル(特にキッチンペーパー)の用途として、油汚れの拭き取りなど、力のかかる使用がされる場合があるが、シートの破れやヘタリが生じて、吸水性が発揮されないことがあった。
このような場合、エンボス加工を施すと吸水性や吸油性は向上するが、強度が低下する傾向にある。一方、強度を重視してエンボス加工を弱めると、エンボス効果が低下し、吸水性や紙厚の低下を招く。又、紙厚の低下によりロールに巻き取った際の巻き径の縮小(見栄えの悪化)等が起きる。また、シートの抄紙時の原料パルプの叩解の度合いを高めることも強度向上につながるが、吸収性やシートの風合いが低下する。
これらに対し、シートの坪量を増やすことが解決策となるが、原料価格の高騰や省資源化志向の高まりにより、坪量の増大は難しい。
そこで、本発明は、坪量を抑えつつ、強度と吸水性に優れたペーパータオル及びそのロール体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明のペーパータオルは、パルプ又は古紙配合パルプを叩解して抄紙してなり乾燥紙力増強剤を含む坪量19g/m^(2)以上23g/m^(2)以下の単一シートを2枚重ねたペーパータオルであって、前記単一シートはそれぞれエンボス加工されて糊付けされ、保水量が190g/m^(2)以上、GMTが11.3以上である。
【0006】
前記一方の単一シートのエンボス凸部は、前記他の単一シートのエンボス凹部に入り込んだ状態で糊付けされていることが好ましい。
前記エンボス凸部のエンボス面積は、5?30%であることが好ましい。
【0007】
本発明のペーパータオルのロール体は、前記ペーパータオルを巻芯の周りに巻回してなり、625gの荷重下で、前記ロール体の径の変形量が12mm以下、巻径100?120mm、巻長11.0?12.0mである。」
エ. 「【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、坪量を抑えつつ、強度と吸水性に優れたペーパータオル及びそのロール体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明の実施形態に係るペーパータオルは、パルプ又は古紙配合パルプを叩解して抄紙してなり乾燥紙力増強剤を含む坪量19g/m^(2)以上23g/m^(2)以下の単一シートを2枚重ねたペーパータオルであって、前記単一シートはそれぞれエンボス加工されて糊付けされ、前記単一シートのエンボス凸部が糊付けされ、保水量が190g/m^(2)以上、GMTが11.3以上である。
【0011】
(単一シート)
ペーパータオルに用いる単一シートは、パルプ又は古紙配合パルプを叩解処理したものを抄紙してなる。リファイナー等により、原料パルプに叩解処理を施すと、パルプが毛羽立ち、シートの強度が向上する。但し、叩解処理だけではシートの紙厚が低下し、吸水性も低下するため、抄紙時に乾燥紙力増強剤を内添することで、強度と吸水性をともに向上させる。
このような構成により、単一シートの坪量を19g/m^(2)以上、23g/m^(2)以下の範囲にすることができ、省資源化が図られる。
乾燥紙力増強剤としては、カチオン化でんぷん、ポリアクリルアミド、カルボキシメチルセルロース等を用いることができるが、カチオン化でんぷんが好ましい。又、必要に応じ、乾燥紙力増強剤以外の湿潤紙力増強剤を内添してもよい。湿潤紙力増強剤としては、ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂やメラミン樹脂等が用いられる。
又、乾燥時にクレープ率を20%以上に増加させると、単一シートの強度と吸水性を向上させるので好ましい。ここで、クレープ率(%)={(ドライヤースピード)-(リールスピード)}/(ドライヤースピード)×100で表される。リールスピードはロールへの巻取り速度である。更に、N(針葉樹)材を高配合とすることにより紙力及び吸収性の向上に寄与する結果が得られる。
【0012】
(エンボス加工)
単一シートはエンボス加工され、一方の表面にエンボス凸部を有し、反対面にはエンボス凸部の裏側で構成されるエンボス凹部を有している。エンボス加工は公知の方法で行うことができ、例えば、ほぼ相補的な形状の雄(凸)エンボスロールと雌(凹)エンボスロールとがほぼぴったりと噛み合う「マッチした」エンボスロールにより加工してもよい。これに代えて、雄(凸)エンボスロールと雌(凹)エンボスロールの形状が同一でなく、両者が噛み合った際にシートにせん断力を与える、いわゆる「マッチしていない」エンボスロールにより加工してもよい。
各単一シートにおいて、エンボス凸部のエンボス面積率は、5?30%であることが好ましく、14?25%であることが更に好ましい。エンボス面積率が5%未満であると、吸水性が低下し、30%を超えると強度が低下する場合がある。なお、エンボス凸部のエンボス面積率は、シート上に施されたエンボス部の面積を測定し、その面積率として算出することができる。
【0013】
(単一シートの積層)
エンボス加工された2枚の単一シートは、一方の単一シートのエンボス凸部が他の単一シートの所定部位に糊付けされてペーパータオルとなる。
特に、一方の単一シートのエンボス凸部が、他の単一シートのエンボス凹部に入り込んだ状態で糊付けされている(いわゆるネステッド(nested)エンボス)ことが好ましい。ネステッドエンボスとすると、2枚の単一シート間に空間が保持され、吸水性や嵩高さを向上させることができる。
なお、各単一シートの糊付けに用いる糊の濃度を従来より高濃度(例えば、1.5倍以上)とすると、ペーパータオルの強度(特にGMT)が向上するので好ましい。糊付けに用いる糊としては特に制限されないが、例えば、ポリビニルアルコール、澱粉系等が例示される。
【0014】
(ペーパータオルの特性)
以上のようにして得られたペーパータオルは、保水量が190g/m^(2)以上、GMTが11.3以上であり、坪量が少ないにもかかわらず、強度と吸水性に優れている。
保水量(TWA(Total Water Absorbency))は、以下のようにして求める。まず、得られたペーパータオルを76×76mmの正方形の試験片に切断し、乾燥重量(W_(1))を測定する。その後、この試験片を蒸留水中に2分間浸漬した後、試験片の1つの角部が上側の頂部となるようにし、この頂部と隣接する2つの角部とを支持して展伸した状態(RH100%)で吊るし、30分放置後の重量(W_(2))を測定する。(W_(2) -W_(1))の値を算出し、この値をペーパータオル1m^(2)当りに換算したものを保水量(TWA)とする。
【0015】
GMTは、以下のようにして求める。まず、得られたペーパータオルの縦方向(機械方向、MD方向、繊維方向)に沿い、幅25mmの短冊状の試験片Aを切り出す。同様に、縦方向と直角な横方向に沿い、幅25mmの短冊状の試験片Bを切り出す。各試験片の引張強度(単位はN/25mm)を、JIS-P8113(紙及び板紙引張特性の試験方法)に従って測定する。試験片Aについて得られた「乾燥縦引張強度」と、試験片Bについて得られた「乾燥横引張強度」に対し、GMT=√(乾燥縦引張強度×乾燥横引張強度)によってGMTを算出する。
【0016】
(ペーパータオルのロール体)
上記したペーパータオルを、巻芯の周りに巻回してロール体が得られる。巻芯としては特に制限されず、紙芯等を用いることができる。
本発明のロール体は、625gの荷重下で、ロール体の径の変形量が12mm以下であり、巻長(ロールを展開したときの全長)11.0?12.0m、巻径(ロール体の外径)100?120mmである。変形量が12mmを超えるものは、つぶれやすく、ペーパータオルの強度も低くなる。625gの荷重下で、ロール体の径の変形量が7?9mmであることが好ましい。
ロール体の径の変形量は、図1に示す測定装置10を用いて測定する。測定装置10は、ベース部2と、支持棒4a、4bと、移動錘乗せ板6と、625gの錘8とを備える。2本の支持棒4a、4bは、ベース部2から垂直に立上り、矩形状の移動錘乗せ板6の両端には各支持棒4a、4bの挿通孔が設けられている。そして、ベース部2部上にあって各支持棒4a、4bの間にロール体20を載置し、ロール体2の上から移動錘乗せ板6に各支持棒4a、4bを挿通し、移動錘乗せ板6をロール体2の上面に載せる。この状態での移動錘乗せ板6の高さを初期高さh1とする。さらに移動錘乗せ板6に錘8を乗せると、錘8の重さによって移動錘乗せ板6が各支持棒4a、4bを通して摺動しつつ、ロール体2を変形させて沈み込むので、このときの高さh2を測定し、(h2-h1)をロール体の径の変形量として求める。ここで、加工工程におけるロールのハンドリング性やロール変形等の管理の為に625gの錘が適している。」
オ. 「【実施例】
【0018】
以下、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明は勿論これらの例に限定されるものではない。
【0019】
針葉樹クラフトパルプ(N-BKP)と広葉樹クラフトパルプ(L-BKP)とからなる紙料をリファイナーで叩解処理し、更に乾燥紙力増強剤(カチオン化デンプン)を表1の割合で添加し、さらに湿潤紙力増強剤(ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂)を所定量添加し、表1に示す坪量の単一シートをティシュ抄紙機により製造した。
次に、エンボス加工機により、この単一シートにエンボス加工を施した。エンボス凸部の面積率が14.0%又は24.0%となるよう、エンボス加工機のエンボスロールを設定した。シート上に施されたエンボス部の面積を測定して面積率として算出した。
エンボス加工した単一シートのうち、1枚の単一シートのエンボス凸部に水溶性糊(ポリビニルアルコール)を塗布し、このエンボス凸部が、他の単一シートのエンボス凹部に入り込んだ状態(ネステッドエンボス)で糊付けした。糊の原液に所定量の水を加え、表1に示す希釈率で希釈して用いた。このようにして得られた表1に示す各ペーパータオルを、それぞれ実施例1?3とする。
このようにして得られたペーパータオルの幅方向に、所定の切断強度でミシン目を入れ、巻芯の周りに巻回してロール体を得た。なお、ミシン刃の抜き間隔7%のミシン刃を使用した。ここで、抜き間隔とは、ミシン刃の全幅に対する、ミシン刃の切断部分の幅(切断幅)の合計長さの割合をいう。
【0020】
得られたペーパータオルについて、上記した方法で、それぞれ保水量、GMT及びミシン目の切断強度を測定した。又、ロール体について、上記した方法でロール体の径の変形量を測定した。
結果を表1及び図2に示す。
なお、表1において、市販品1,2は、市場で入手可能な2プライのキッチンタオルである。又、市販品1のエンボスを観察したところ、ピン-トウ-ピン(キッチンタオルを構成する2枚のそれぞれのエンボス凸部同士が互いに接触するように重ね合わされる)加工されていることが判明した。又、従来品は、ペーパータオルの製造の際、パルプに乾燥紙力増強剤を添加せず、又、クレープ率を20%未満としたこと以外は、実施例1?3とまったく同様にして製造した。」
カ. 「【0021】
【表1】



キ. 【図1】




(2) 甲1発明
特に【0021】の【表1】に示された実施例1?3に着目して、上記(1)に示した摘記事項等を総合すると、甲1には、次の甲1発明が記載されている。
「坪量が19.4g/m^(2)以上22.8g/m^(2)以下である
単一シートを2枚積層したペーパータオルが、
ペーパータオルのロール体の径の変形量が8mm又は9mmで、
11m以上12m以下巻回され、
前記ペーパータオルの保水量が190g/m^(2)以上210g/m^(2)以下であり、
前記ペーパータオルの強度(GMT)が、11.3N/25mm以上11.5N/25mm以下である、
ペーパータオルのロール体」

2. 甲8
(1) 甲8に記載された事項
申立人が提出した甲8には、次の記載がある。
ア.「【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれにエンボスを付与した2枚のペーパーシートを貼り合わせ、ロール状に巻いたロール状衛生薄葉紙において、
前記ロール状衛生用紙は、ロール密度が80?110kg/m^(3)であり、かつ紙厚×巻長さ/ロール断面積の値が70?87%であることを特徴とするロール状衛生薄葉紙。
【請求項2】
前記ロール状衛生用紙は、巻長さをロール断面積で割った値として定まる巻密度が0.56?0.72×10^(4)m^(-1)である請求項1記載のロール状衛生薄葉紙。」
イ. 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にクッション感、厚み感に優れたトイレットペーパーなどロール状に巻かれた衛生薄葉紙に関する。
【背景技術】
【0002】
トイレットペーパー、キッチンペーパーなどの衛生薄葉紙には、風合い、拭き取りやすさ、吸水性など、消費者の要求に応じて、1枚重ね(1プライ)又は2枚重ね(2プライ)のペーパーシートを紙管にロール状に巻いたものや、更にふんわり感や厚み感を出すために、ペーパーシートに凹凸状のエンボス加工を施したものが提供されている。製品形状は、前記トイレットペーパーの場合は、通常1プライで約60m前後、2プライで約30m前後の薄葉紙を、外径38?45mm程度の紙管に巻き付け、外径約110mm前後とするのが一般的である。」
ウ. 「【0011】
上記請求項2記載の本発明では、巻密度を0.56?0.72×10^(4)m^(-1)としてある。巻密度を上記数値範囲とすることにより、クッション感、厚み感、柔らかさを有しながら、変形を起こし難くなる。
【0012】
請求項3に係る本発明として、前記2枚のペーパーシートは、一方側のペーパーシートの凸部が他方側のペーパーシートの凹部に接着されている請求項1、2いずれかに記載のロール状衛生薄葉紙が提供される。
【0013】
上記請求項3記載の本発明においては、一方側のペーパーシートの凸部が他方側のペーパーシートの凹部に接着されたラミネート構造、すなわち「Nested(ネステッド)方式」と呼ばれる貼り合わせ構造を採用する。ネステッド方式は、前述したTipToTip方式と比べると、ペーパーシート間を繋ぐ支柱部分(凸部と凹部との接合部分)が格段に多くなり、巻き圧や時間経過によってもエンボスが潰れ難い。エンボスが潰れ難いため、使用時においても、嵩高性、柔らかさ、クッション感などの感触が残ったままとなる。また、凹凸の程度が小さく、エンボスがきっちりと画成されるため、滑らかな感じとなる。また、2枚のペーパーシート間に形成される間隙を利用することにより吸水量が向上できるため、例えば温水便座用としても好適に使用可能となる。」
エ. 「【0029】
前記ロール状衛生薄葉紙1においては、巻長さをロール断面積で割った値として定まる巻密度が0.56?0.72×10^(4)m^(-1)であることが望ましい。巻密度が上記数値範囲の場合には、クッション感、厚み感、柔らかさを有しながら、変形を起こし難くなる。前記巻密度が、0.56×10^(4)m^(-1)未満の場合には、ロールが変形することとなり、0.72×10^(4)m^(-1)を超える場合にはエンボスが潰れてしまうこととなる。なお、前記巻密度の調整は、紙管に巻き取る際の薄葉紙に加える引張力を調節することにより行うことができる。」
オ. 「【0039】
【表1】




第5 当審の判断
1. 申立理由1(進歩性)について
(1) 本件特許発明1について
ア. 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
上記第4の1.(1)エ.に摘記した甲1の「保水量(TWA(Total Water Absorbency))は、以下のようにして求める。まず、得られたペーパータオルを76×76mmの正方形の試験片に切断し、乾燥重量(W_(1))を測定する。その後、この試験片を蒸留水中に2分間浸漬した後、試験片の1つの角部が上側の頂部となるようにし、この頂部と隣接する2つの角部とを支持して展伸した状態(RH100%)で吊るし、30分放置後の重量(W_(2))を測定する。(W_(2) -W_(1))の値を算出し、この値をペーパータオル1m2当りに換算したものを保水量(TWA)とする。」(【0014】)という記載と、本件特許明細書に記載された「ペーパータオルの吸水性TWA:Total Water Absorvency」についての、「吸水性は、以下の測定方法に従って求めることができる。まず、ペーパータオルを76mm×76mmの正方形に切断してサンプルを作製し、乾燥重量を測定する。次に、このサンプルを蒸留水中に2分間浸漬した後、水蒸気飽和状態(RH100%)の容器中で、サンプルの1つの角部が上側の頂部となるようにし、この頂部と隣接する2つの角部とを支持して展伸した状態で吊るし、30分放置して水切り後の重量を測定する。そして、測定値をサンプル1m^(2)あたりの吸水性(g/m^(2))に換算する。」(【0027】)という記載から、甲1発明の「保水量」は、本件特許発明の「吸水性(TWA)」と同義である。
甲1には、「ペーパータオルの強度(GMT)」について、上記第4の1.(1)エ.に摘記した「GMTは、以下のようにして求める。まず、得られたペーパータオルの縦方向(機械方向、MD方向、繊維方向)に沿い、幅25mmの短冊状の試験片Aを切り出す。同様に、縦方向と直角な横方向に沿い、幅25mmの短冊状の試験片Bを切り出す。各試験片の引張強度(単位はN/25mm)を、JIS-P8113(紙及び板紙引張特性の試験方法)に従って測定する。試験片Aについて得られた「乾燥縦引張強度」と、試験片Bについて得られた「乾燥横引張強度」に対し、GMT=√(乾燥縦引張強度×乾燥横引張強度)によってGMTを算出する。」(【0015】)という記載がある。そして、本件特許明細書には、本件特許発明1の「幾何平均GMT」について、「本発明が適用されるペーパータオルは、JIS P 8113(紙及び板紙 引張り特性の試験方法)に準拠して、幅25mmの試験片について測定される乾燥時の縦方向引張り強さ(DMD・・・)と横方向引張り強さ(DCD・・・)の幾何平均GMT・・・が、好ましくは、11.0N/25mm以上22.0N/25mm以下となり、より好ましくは、12.0N/25mm以上20.0N/25mm以下となる。・・・」(【0028】)という記載があるから、甲1発明の「ペーパータオルの強度(GMT)」は、本件特許発明1の「前記ペーパータオルの乾燥時の縦方向引張り強さDMDと乾燥時の横方向引張り強さDCDの幾何平均GMT」と同義である。
甲1には、甲1発明の「ペーパータオルのロール体の径の変形量」について、上記第4.1(1)エ.に摘記したように「ロール体の径の変形量は、図1に示す測定装置10を用いて測定する。測定装置10は、ベース部2と、支持棒4a、4bと、移動錘乗せ板6と、625gの錘8とを備える。2本の支持棒4a、4bは、ベース部2から垂直に立上り、矩形状の移動錘乗せ板6の両端には各支持棒4a、4bの挿通孔が設けられている。そして、ベース部2部上にあって各支持棒4a、4bの間にロール体20を載置し、ロール体2の上から移動錘乗せ板6に各支持棒4a、4bを挿通し、移動錘乗せ板6をロール体2の上面に載せる。この状態での移動錘乗せ板6の高さを初期高さh1とする。さらに移動錘乗せ板6に錘8を乗せると、錘8の重さによって移動錘乗せ板6が各支持棒4a、4bを通して摺動しつつ、ロール体2を変形させて沈み込むので、このときの高さh2を測定し、(h2-h1)をロール体の径の変形量として求める。ここで、加工工程におけるロールのハンドリング性やロール変形等の管理の為に625gの錘が適している。」(【0016】)と記載され、上記第4.1(1)キ.に摘記したように図1に測定装置が図示されている。そして、本件特許明細書には、本件特許発明1の「巻き硬さ」について、上記甲1の図1と同様な測定装置(本件特許の【図2】)の図示とともに「この巻き硬さは、本発明のペーパータオルのロール体に625gの荷重を掛けた際のペーパータオルのロール体の変形量として規定することができ、この巻き硬さは、図2に示す測定装置10を用いて測定される。測定装置10は、ベース部2と、支持棒4a,4bと、移動錘乗せ板6と、625gの錘8とを備える。2本の支持棒4a,4bは、ベース部2から垂直に立ち上り、矩形状の移動錘乗せ板6の両端には各支持棒4a,4bへの挿通孔が設けられている。そして、ベース部2上、各支持棒4a,4bの間にペーパータオルのロール体20を載置し、ペーパータオルのロール体20の上から移動錘乗せ板6に各支持棒4a,4bを挿通し、移動錘乗せ板6をロール体20の上面に載せる。この状態での移動錘乗せ板6の高さを初期高さh_(1)とする。さらに移動錘乗せ板6に錘8を乗せると、錘8の重さによって移動錘乗せ板6が各支持棒4a,4bを通して摺動しつつ、ロール体20を変形させて沈み込むので、このときの高さh_(2)を測定し、(h_(2)-h_(1))をロール体の径の変形量として求める。」(【0033】)という記載がある。そうすると、甲1発明の「ペーパータオルのロール体の径の変形量」は、本件特許発明1の「巻き硬さ」と同義である。

そうすると、本件特許発明1と甲1発明は、以下の点で一致し、かつ、相違する。

<一致点>
坪量が19.0g/m^(2)以上25.0g/m^(2)以下である単一シートを2枚積層したペーパータオルが、
巻き硬さ10mm未満で巻回され、
前記ペーパータオルの吸水性TWAが170g/m^(2)以上220g/m^(2)以下であり、
ペーパータオルのロール体。

<相違点1>
本件特許発明1の「ペーパータオルのロール体」は、「単一シートを2枚積層したペーパータオル」が、「巻密度0.50m/cm^(2)以上0.80m/cm^(2)以下」で巻回されたものであるのに対して、甲1発明の「ペーパータオルのロール体」の「巻密度」は、不明である点。

<相違点2>
本件特許発明1の「ペーパータオルのロール体」は、「単一シートを2枚積層したペーパータオル」が、「20m以上40m以下巻回され」たものであるのに対し、甲1発明の「ペーパータオルのロール体」は、「単一シートを2枚積層したペーパータオルが」、「11以上12m以下巻回され」たものである点。

<相違点3>
本件特許発明1は、「前記ペーパータオルの乾燥時の縦方向引張り強さDMDと乾燥時の横方向引張り強さDCDの幾何平均GMTが、12.0N/25mm以上22.0N/25mm以下」であるのに対して、甲1発明のGMTは、11.3N/25mm以上11.5N/25mm以下である点。

イ. 相違点についての検討
(ア) 相違点1について
上記第3の1.に示したように、本件特許発明1の特許法第29条第2項についての申立理由は、甲1発明と甲8及び甲9に記載された事項に基づき、又は甲1発明と甲2?4,8、9に記載された事項に基づき、当業者が容易になし得た発明であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
そこで検討する。上記第4の2.(1)ア.に摘記した記載があるから、甲8には、「ロール状衛生薄葉紙」において、「巻密度が0.56?0.72×104m^(-1)」すなわち「0.56?0.72m/cm^(2)」と本件特許発明1に特定された「巻密度」の数値範囲「0.50m/cm^(2)以上0.80m/cm^(2)以下」のものが甲8には記載されている。
一方、甲8には、上記第4の2.(1)オ.に摘記したとおりの、【0039】【表1】が記載され、当該【表1】中に記載された実施例1及び2のそれぞれの「乾燥引張強度(縦)」と「乾燥引張強度(横)の値から幾何平均GMTを計算できる。
・実施例1について計算すると、
「乾燥引張強度(縦)」×「乾燥引張強度(横)」
=352(CN/25mm)×226(CN/25mm)
=79552(CN/25mm)^(2)
幾何平均GMT=√ 「乾燥引張強度(縦)」×「乾燥引張強度(横)」
=√79552(CN/25mm)^(2)
=282(CN/25mm)
=2.82(N/25mm)
である。
・実施例2の機械平均GMTについて同様に計算すると、2.90(N/25mm)である。
よって、甲8の【表1】記載に記載されたすべての実施例(実施例1及び2)の幾何平均GMTは、本件特許発明1に特定された「12.0以上22.0以下」よりも小さい値である。
したがって、甲1発明において、甲8に記載された上記事項を適用することで、上記請求項1に係る本件特許発明1の構成を備えたものにすることは、甲1発明において、「巻密度」が、甲8に記載された 「0.56?0.72m/cm^(2)」を適用することで、本件特許発明1に特定された範囲内ものとすることができても、甲8に記載された幾何平均GMTが本件特許発明1に特定されたものよりも小さくなるのであるから、甲1発明に甲8に記載された事項を適用することには、この点、阻害事由があるといえる。
また申立人は、幾何平均GMTについて、「甲9には、2プライのペーパータオル1枚のDMDTが24.1N/25mm、DCDTが10.2N/25mmの実施例1が記載されている。本件特許発明1のGMTはDMDTとDCDTの幾何平均であるから、甲9の実施例1のGMTは15.7N/25mmである。」(申立人が令和2年11月25日に提出した手続補正書28ページ16?20行)と主張している。しかし、甲1発明は、「ペーパータオルのロール体」であるのに対し、甲9に記載されたものは、「ペーパータオルを1枚ずつポップアップ式に連続して引き出せる」(甲9、【請求項1】)ようにしたものであって、両者はペーパータオルを取り出す際の基本的な構成が相違し、その際のペーパータオル自体への力のかかり具合等が大きく異なることは明らかであるから、甲1発明に、甲9に記載された事項を適用することには阻害事由が存在するといえる。
さらに、申立人は「例えば、甲2?4に示すように、ペーパータオルの分野において、巻長を20m以上とすることは十分に想定されており、特に巻長を8.8?30mとすることは、カールの発生を抑制する観点でも好ましいことが知られている」(申立人が令和2年11月25日に提出した手続補正書28ページ9?14行)と主張する。しかし、甲2?4には、ペーパータオルのロール体の巻密度を、本件特許発明1に特定されたものとすることの、記載はないし、示唆する記載もない。
そうすると、その他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明と甲8及び甲9に記載された事項に基づき、又は甲1発明と甲2?4、8、9に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2) 本件特許発明2?6について
本件特許発明1を直接的あるいは間接的に引用して本件特許発明1の特定事項の全てを包含する本件特許発明2?6は、本件特許発明1が、上記(1)に示したように、甲1発明と甲8及び甲9に記載された事項に基づき、又は甲1発明と甲2?4、8、9に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、同様に、甲1発明と甲8及び甲9に記載された事項に基づき、又は甲1発明と甲2?4、8、9に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3) 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1?6は、甲1発明と甲8及び甲9に記載された事項に基づき、又は甲1発明と甲2?4、8、9に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるとはいえない。

2. 申立理由2について
(1) エンボス面積率が不明確(明確性実施可能要件)について
本件特許明細書には「・・・上記のエンボス凸部のエンボス面積率は、シート上に施されたエンボス部の面積・・・を測定し、その面積率として算出することができる」(【0022】)と記載されているから、申立人が主張するような「エンボス凸部の頂面の面積、底面の面積も一義的には決まらない」といった「エンボス面積率が一義的に決まらない」ようなものは、本件特許の「エンボス凸部」に該当しない。
したがって、本件特許4及び本件特許4を引用する本件特許5及び6が、第三者に不測の不利益をもたらすほど、明確ではないとまではいえないから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たしている。
また、本件特許の「エンボス面積率」とは、上記本件特許明細書段落【0022】により算出できるものをいうのであるから、本件特許明細書における発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないとまではいえないから、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号の要件を満たしている。

(2) エンボスエッジ率が不明確(明確性実施可能要件)について
本件特許明細書には「・・・上記エンボスエッジ率は、単位面積当たりのエンボス凸部の各辺の総計により求められ、・・・により計算される」(【0023】)と記載されているから、申立人が主張するような「エンボス凸部のエッジの長さは一義的には決まらず、エンボス凸部のエッジの長さに基づくエンボスエッジ率も一義的には決まらない」ようなものは、本件発明の「エンボス凸部」に該当しないといえる。
よって、本件特許発明4及び本件特許発明4を引用する本件特許発明が明確ではないとはいえないから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たしている。
また、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものものではないとまではいえないから、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号の要件を満たしている。

(3) エンボスエッジ率と効果の関係が理解できない(サポート要件)について
本件特許発明4は、「ペーパータオルの吸水性TWA」、「幾何平均GMT」、「巻回され」た長さ、「巻密度」、「巻き堅さ」が特定されていて、その範囲内のものは、「巻き硬さを10mm未満とした実施例のペーパータオルのロール体では、ペーパータオルの吸水性が良好なものとなり、強度も好適に維持された。また、実施例のペーパータオルでは、10mm以上の巻き硬さ、0.5m/cm^(2)以上0.80m/cm^(2)以下の巻密度と対応して、ロール体に巻き皺やロール変形が生じなかった」ものであり、「ペーパータオルのロール体がロール変形を生じにくいことで、ペーパータオルホルダーへの掛け替え時にも装填しやすいものとなった」ものであるから、本件特許発明4は、本件特許発明の課題を解決するものであるといえる。
よって、本件特許発明4と本件特許発明4を引用する本件特許発明5及び6は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるといえるから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしている。

(4) エンボスエッジ率の調整方法が不明(実施可能要件)について
上記(2)に示したように、本件特許明細書には、エンボスエッジ率の算出方法が記載されているから、エンボスの形状等を適宜選択することで、エンボス凸部の辺長を決定でき、かつ当該辺長を、エッジで囲まれた面積で除することにより算出できるものと理解できる。そうすると、本件特許明細書には本件特許発明4及び本件特許発明4を引用する本件特許発明5、6を当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものものではない、とまではいえないから、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号の要件を満たしている。

(5) 規定された巻き硬さの範囲全体で効果を奏するとは理解できない(サポート要件)について
本件特許明細書の【0037】【表1】の「比較例」をみると、巻き硬さが10.6の場合に、巻長が23mであるから、巻き硬さが10をわずかに下回るようなものでは、巻長が23mよりも若干大きくなると考えられる。そうすると、巻き硬さが10.0mmよりもわずかに下回る程度のものであっても、巻長を20m以上にできることが当業者には理解できるから、申立人の主張は失当である。
また、本件特許明細書の「・・・本発明のペーパータオルのロール体は、巻き硬さが10mm未満であり、4mm以上8mm以下であることが好ましい。巻き硬さは、ペーパータオルの紙質の影響を受け、巻き取り工程におけるロールワインダーの張力、及びエンボスロールのニップ圧力により調整することができる。巻き硬さを上記のように設定することにより、20mを超える巻長のペーパータオルのロール体であっても、巻き皺やロール変形の発生を防止することができる」(【0032】)という記載から、当業者は、巻き硬さが実施例3の4.2mmより小さな値でも、「ペーパータオルの紙質」の選択や、「巻き取り工程におけるロールワインダーの張力、及びエンボスロールのニップ圧力により調整すること」で、巻き皺やロール変形が発生することなしに、20mを超える巻長にすることが、当業者には理解できる。
そうすると、本件特許発明1?6において規定された巻き硬さの範囲全体で効果を奏するとは理解できない旨、の申立人の主張は失当である。

(6) 規定されたGMTの範囲全体で実施可能であるとは理解できない(実施可能要件)について
申立人は、「当業者は、どのようにして、GMTが22.0N/25mm、またはその値に近いペーパータオルを得ることができるのか理解できない。」旨主張する。しかし、本件特許明細書には、【実施例】【0035】において、GMTが本件特許発明1で特定される範囲である「12.0N/25mm以上22.0N/25mm以下」に含まれる実施例1?3の実施例が記載されている。また、本件特許明細書には、「本発明においては、各単一シートの糊付けに用いる糊の濃度を従来のものよりも高濃度(例えば、1.5倍以上)とすることが好ましく、これにより、ペーパータオルの強度(特にGMT)が向上することが知られている。糊付けに用いる糊としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリビニルアルコールや澱粉系糊等を挙げることができる。」(【0025】)と記載されている。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、実施例として、本件特許発明1に含まれる「ペーパータオルのロール体」が記載されているといえ、さらにGMTを増大させる手法についても記載があるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が、本件特許発明1及び本件特許発明1を引用する本件特許発明2?6の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないとまではいえないから、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号の要件を満たしている。

第6 むすび
したがって、本件特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許発明1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する
 
異議決定日 2021-02-24 
出願番号 特願2015-251209(P2015-251209)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (D21H)
P 1 651・ 537- Y (D21H)
P 1 651・ 536- Y (D21H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 堀内 建吾  
特許庁審判長 森藤 淳志
特許庁審判官 久保 克彦
藤井 眞吾
登録日 2020-05-11 
登録番号 特許第6701550号(P6701550)
権利者 日本製紙クレシア株式会社
発明の名称 ペーパータオルのロール体  
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