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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A41D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A41D
管理番号 1371737
異議申立番号 異議2019-700272  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-04-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-04-09 
確定日 2021-03-16 
異議申立件数
事件の表示 特許第6404413号発明「マスク用耳ゴム及びマスク」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6404413号の請求項1?6に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第6404413号の請求項1?6に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成29年7月13日に出願され、平成30年9月21日に特許権の設定登録(特許掲載公報発行日:同年10月10日)がされたものであって、本件特許異議の申立てに係る主な手続の経緯は以下のとおりである。

平成31年4月9日
特許異議申立人 近藤千賀子(以下「申立人」という。)による
本件特許に対する特許異議の申立て
令和元年5月30日付け
取消理由通知
同年6月17日付け
手続中止通知
令和2年11月13日付け
手続中止解除通知
同年12月11日
特許権者による意見書の提出
令和3年1月28日
申立人による意見書(以下「申立人意見書」という。)の提出

なお、令和元年6月17日付けの手続中止通知は、本件特許に対して請求された無効審判事件2019-800042を先に審理するために、本件特許異議申立事件の手続を中止することを通知したものであり、令和2年11月13日付けの手続中止解除通知は、無効審判事件2019-800042の審決が確定したため、本件特許異議申立事件の手続中止を解除することを通知したものである。


第2.本件特許発明
本件特許は、無効審判事件2019-800042において、令和元年10月15日付けで訂正請求書が提出されている。
そして、無効審判事件2019-800042の審決において当該訂正が認められ、当該審決が確定したから、本件特許の請求項1?6は、当該訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?6に記載された、次のとおりのものである。
なお、訂正特許請求の範囲の請求項1?6に係る発明を、以下「本件訂正発明1」などという。

「【請求項1】
マスク本体部の左右に備えられるマスク用耳ゴムであって、
複数のゴム紐が編み込まれてなり、
前記ゴム紐の周囲を個々に巻回するように繊維状部材が巻かれていることを特徴とするマスク用耳ゴム。
【請求項2】
マスク本体部の左右に備えられるマスク用耳ゴムであって、
複数のゴム紐が束ねられて形成された組が3?15組で編み込まれてなり、
前記ゴム紐の周囲を個々に巻回するようにポリエステルの繊維状部材が巻かれており、
幅5?7mmの扁平な帯状であることを特徴とするマスク用耳ゴム。
【請求項3】
前記繊維状部材は、捲縮された繊維からなることを特徴とする請求項1に記載のマスク用耳ゴム。
【請求項4】
前記組を形成する複数のゴム紐が捻られてまとめられていることを特徴とする請求項2に記載のマスク用耳ゴム。
【請求項5】
複数のゴム紐が、前記マスク用耳ゴムの長さ方向に対して斜めに配置されるように編み込まれてなることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のマスク用耳ゴム。
【請求項6】
請求項1?5のいずれか一項に記載のマスク用耳ゴムを備えたマスク。」


第3.当審の判断
1.令和元年5月30日付け取消理由通知について
(1)訂正前の本件特許の請求項2、4?6に係る発明に対して、当審が特許権者に通知した令和元年5月30日付けの取消理由の要旨は、次のとおりである。

ア.本件特許の請求項2、4?6に係る発明は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

イ.本件特許の請求項2、4?6に係る発明は、刊行物1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1.実公平7-2635号公報(甲第1号証)

(2)刊行物の記載
刊行物1には、以下の記載がある。
ア.「【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】熱加塑性合成繊維を伸縮性かさ高加工法にてS方向(右方向)に仮撚してからなる右仮撚糸と、Z方向(左方向)に仮撚してなる左仮撚糸とを、同じ撚り数とし適テンションのもとでバランスを取りながら一本若しくは複数本を同数平行に揃えて一本の平衡糸とし、平衡糸任意本数を編組したことを特徴とする伸縮自在な組紐。」
(第1ページ第1欄第1?8行)

イ.「【考案の詳細な説明】
(産業上の利用分野)
本考案はゴム糸を用いなくても伸縮を可能としソフトに働く伸縮自在な組紐に関するものである。
・・・
(考案が解決しようとする問題点)
このようにゴムの弾性による伸縮力を用いたゴム紐を直接人体に触れさせて使用した場合、時間の経過と共にゴム紐が人体に食い込むような状態となって苦痛となる。特に風邪を引いてマスクをした場合、マスクの紐が掛けている内にだんだん耳に食い込む状態となり途中ではずしてしまうのが常である。そのために食い込まないような耳に苦痛を与えないようなゴム紐が考えられているのが、結果的には多少苦痛が緩和するのみで余り効果なく使用上非常に不都合を感じていた。
・・・
(作用)
このような組紐を用いると、組紐自体の伸縮性によって、伸びたまゝとならず自由に伸び縮みが出来、長時間用いてもゴム糸のように食い込むことがないし又、一般的には平組紐とするため人体への接触面も広くビロードのような風合を有するためソフトな感触を与える。
(実施例)
以下本考案の一実施例を図面について説明する。
図中(1)は右仮撚糸であって、熱加塑性合成繊維(通常ウーリー加工糸)を伸縮性かさ高加工法にてS方向(右方向)に仮撚してチーズにしたものである。
(2)は左仮撚糸であって、熱加塑性合成繊維(通常ウーリー加工糸)を伸縮性かさ高加工法にてZ方向(左方向)に右仮撚糸(1)と同じ撚り数で仮撚してチーズにしたものである。
(3)は特殊ボビンワインダー(図では省略)のテンション調整装置であって、ボビン(4)に巻取る右仮撚糸(1)及び左仮撚糸(2)のテンションを調整自在としている。
(5)は平衡糸全体であって、特殊ボビンワインダーを用い前記テンション調整装置(3)にてテンションを調整しながら一本若しくは複数本の右仮撚糸(1)と左仮撚糸(2)を同数同じ状態の適テンションでバランスを取りながら平行に揃えて案内環(6)を通して一本とし、バランスの崩れを防ぐためボビン(4)に巻取っている。
(7)は伸縮自在でビロードの様な感触を持つ組紐であって、任意数の平衡糸(5)を公知の平型製組機械に掛けて編組し製造したものである。(参考資料1参照)
使用に当たって、第5図に示す如くマスク(8)の掛紐に組紐(7)を用いると、組紐(7)の伸縮性によって伸びて耳に掛けることが出来、時間が過ぎても組紐(7)が耳に食い込むことが無くソフトに作用している。
そして使用し終わってマスクを取ると、組紐(7)の伸縮性によって縮み、元の状態に戻どる。
(考案の効果)
上述の如く本考案は、撚糸であっても平行に揃えて一本とし、互いに捩れを相殺しているため一方向への絡み付きがなく、組紐全体に伸縮性を持たせたことによって、ゴムを用いなくても伸縮を自在に行なえ且つ、ゴムによる締付(食い込み)が全くなくソフトにタッチし長時間使用しても耳が少しでも痛くならないと共に、ビロードのような風合を持つため使用時の感触がよく快的な気分で用いることが出来る等多くの特長があり実用上非常に優れた考案である。」
(第1ページ第1欄第9行?第2ページ第4欄第23行)

ウ.「【第2図】



エ.「【第3図】



オ.「【第4図】



カ.「【第5図】



上記ア.?カ.によれば、マスク(8)に用いられる組紐(7)の具体的構成が記載されており、本件特許の訂正後の請求項2の記載ぶりに沿って整理すると次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているといえる。
「マスク(8)の掛紐に用いられ、伸縮性によって伸びて耳に掛ける組紐(7)であって、一本若しくは複数本の伸縮性かさ高加工法により仮撚した右仮撚糸(1)と左仮撚糸(2)とが同数平行に揃えられて一本とされた平衡糸(5)が、任意本数、平型製組紐機に掛けられて編組されて平組紐とした組紐(7)。」

(3)本件訂正発明
本件訂正発明1?6は、上記第2.に示したとおりのものである。

(4)本件訂正発明2について
ア.対比
本件訂正発明2と引用発明1を対比する。
引用発明1の「伸縮性によって伸びて耳に掛ける組紐(7)」と、本件訂正発明2の「耳ゴム」とは、「伸縮性耳紐」である点で共通する。
また、引用発明1の組紐(7)が「マスク(8)の掛紐に用いられ」ることは、組紐(7)の取付け態様からみて、本件訂正発明2の耳ゴムが「マスク用」であって「マスク本体部の左右に備えられる」ことに相当する。
引用発明1の「伸縮性かさ高加工法により仮撚した右仮撚糸(1)と左仮撚糸(2)」のそれぞれと、本件訂正発明2の「ゴム紐」とは、「伸縮性紐」である点で共通する。
また、引用発明1の「平衡糸(5)」は、本件訂正発明2の「組」に相当する。
そして、引用発明1の平衡糸(5)が、「一本若しくは複数本」の右仮撚糸(1)と左仮撚糸(2)とが「同数平行に揃えられて一本とされた」ものであることは、本件訂正発明2の組が、複数のゴム紐が「束ねられて形成された」ものであることに相当する。

引用発明1の平衡糸(5)が、「任意本数、平型製組紐機に掛けられて編組され」ることは、「所定本数で編み込まれ」ることの限りにおいて、本件訂正発明2の「3?15組で編み込まれ」ることと一致する。

引用発明1の「平組紐」は、本件訂正発明2の「扁平な帯状であること」に相当する。

以上のことから、本件訂正発明2と引用発明1との一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「マスク本体部の左右に備えられるマスク用伸縮性耳紐であって、複数の伸縮性紐が束ねられて形成された組が、所定本数で編み込まれてなり、扁平な帯状であるマスク用伸縮性耳紐。」

<相違点1>
伸縮性耳紐とこれを構成する伸縮性紐について、本件訂正発明2では、「耳ゴム」とこれを構成する「ゴム紐」であるのに対し、引用発明1では、「組紐(7)」とこれを構成する「右仮撚糸(1)」及び「左仮撚糸(2)」である点。

<相違点2>
編み込む組数について、本件訂正発明2は、「3?15組」であるのに対して、引用発明1は、任意本数である点。

<相違点3>
ゴム紐について、本件訂正発明2は、「前記ゴム紐の周囲を個々に巻回するようにポリエステルの繊維状部材が巻かれ」たものであるのに対して、引用発明1は、右仮撚糸(1)と左仮撚糸(2)がそのようなものであるのか不明な点。

イ.相違点についての検討
事案に鑑み、まず<相違点3>について検討する。
刊行物1には、右仮撚糸(1)と左仮撚糸(2)について、周囲を個々に巻回するようにポリエステルの繊維状部材が巻かれたものとすることの記載も示唆もない。
しかも、刊行物1には、
「(従来の技術)
現在組紐は、・・・丸ゴム組の場合には芯材にゴム糸を用い他の糸で被覆しており、・・・いずれの場合もゴムを用いゴムの弾性をそのまゝ利用しているのが現状である。
(考案が解決しようとする問題点)
このようにゴムの弾性による伸縮力を用いたゴム紐を直接人体に触れさせて使用した場合、時間の経過と共にゴム紐が人体に食い込むような状態となって苦痛となる。・・・」
(第1ページ第1欄第13行?第2欄第11行)
と記載されており、従来技術として、ゴム糸の芯材を他の糸で被覆したものには問題があることが指摘されているから、ゴム紐の周囲を個々に巻回するようにポリエステルの繊維状部材が巻かれてものを用いることにつき、阻害事由があるといえる。

そして、本件訂正発明2は、上記<相違点3>に係る構成により、「耳ゴム200の質感を柔らかいものとすることができ、より装着感を向上させることができる。」(段落【0042】)という格別の作用・効果を奏するものである。

よって、引用発明1において、右仮撚糸(1)と左仮撚糸(2)を、ゴム紐の周囲を個々に巻回するようにポリエステルの繊維状部材が巻かれたものに変更することは、当業者が容易になし得たものであるということはできない。

ウ.申立人の主張について
申立人は、以下のように主張している。
「・・・そうすると、甲第1号証には、本件請求項2に係る発明の構成が記載されているといえ、若しくは、甲第1号証に記載の発明により当業者が容易に想到できたものである。」
(特許異議申立書3 (4-3)II)請求項2について)

そこで検討すると、引用発明1(甲第1号証に記載された発明)は、上記イ.に示したとおり、従来技術であるゴム糸の芯材を他の糸で被覆したものには問題があることから、右仮撚糸(1)と左仮撚糸(2)として、熱加塑性合成繊維(通常ウーリー加工糸)を伸縮性かさ高加工法にて仮撚したもの(上記(2)イ.)を用いているのだから、これをゴム紐の周囲を個々に巻回するようにポリエステルの繊維状部材が巻かれてものに変更することには阻害事由がある。
よって、申立人の上記主張は、採用することができない。

エ.以上のとおり、<相違点3>は、実質的な相違点であるから、本件訂正発明2は、引用発明1であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号の発明に該当し、特許を受けることができない発明とはいえない。
また、引用発明1において、本件訂正発明2の<相違点3>に係る構成を備えることは、当業者が容易に想到することができたものではないから、<相違点1>及び<相違点2>について検討するまでもなく、本件訂正発明2は、引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえない。

(5)本件訂正発明4?6について
本件訂正発明4?6は、本件訂正発明2の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件訂正発明4?6についても同様に、特許法第29条第1項第3号の発明に該当し、特許を受けることができない発明とはいえず、また、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえない。

(6)小括
以上のとおり、本件訂正発明2、4?6は、特許法第29条第1項第3号の発明に該当し、特許を受けることができない発明とはいえず、また、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえなから、その特許は、特許法第113条第2号に該当せず、当審が通知した取消理由によっては、取り消すことはできない。


2.申立理由について
(1)申立人が申立てた理由の要旨は、以下のとおりである。
なお、申立理由1-1は、取消理由として通知されている。
ア.申立理由1-1
本件特許の請求項2、4?6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

イ.申立理由1-2
本件特許の請求項1、3、5、6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

ウ.申立理由2-1
本件特許の請求項1、3、6に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

エ.申立理由2-2
本件特許の請求項1、3、6に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

甲第1号証:実公平7-2653号公報(刊行物1)
甲第2号証:実公昭51-31880号公報
甲第3号証:特開2005-139578号公報

以下、甲第1号証等を「甲1」などという。

(2)申立理由1-2について
ア.甲1について
甲1に記載された事項、及び甲1に記載された発明(「引用発明1」)は、上記1.(2)に示したとおりのものである。

イ.本件訂正発明1について
(ア)対比
本件訂正発明1と引用発明1を対比する。
引用発明1の「伸縮性によって伸びて耳に掛ける組紐(7)」と、本件訂正発明1の「耳ゴム」とは、「伸縮性耳紐」である点で共通する。
また、引用発明1の組紐(7)が「マスク(8)の掛紐に用いられ」ることは、組紐(7)の取付け態様からみて、本件訂正発明1の耳ゴムが「マスク用」であって「マスク本体部の左右に備えられる」ことに相当する。
引用発明1の「伸縮性かさ高加工法により仮撚した右仮撚糸(1)と左仮撚糸(2)」のそれぞれと、本件訂正発明1の「ゴム紐」とは、「伸縮性紐」である点で共通する。

引用発明1の平衡糸(5)が、「任意本数、平型製組紐機に掛けられて編組され」ることは、「複数の伸縮性紐が編み込まれてなる」ことの限りにおいて、本件訂正発明1の「複数のゴム紐が編み込まれてな」ることと一致する。

以上のことから、本件訂正発明1と引用発明1との一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「マスク本体部の左右に備えられるマスク用伸縮性耳紐であって、複数の伸縮性紐が編み込まれてなる、マスク用伸縮性耳紐。」

<相違点1-1>
伸縮性耳紐とこれを構成する伸縮性紐について、本件訂正発明1では、「耳ゴム」とこれを構成する「ゴム紐」であるのに対し、引用発明1では、「組紐(7)」とこれを構成する「右仮撚糸(1)」及び「左仮撚糸(2)」である点。

<相違点1-2>
ゴム紐について、本件訂正発明1では、「前記ゴム紐の周囲を個々に巻回するように繊維状部材が巻かれ」たものであるのに対して、引用発明1は、右仮撚糸(1)と左仮撚糸(2)がそのようなものであるのか不明な点。

(イ)相違点についての検討
事案に鑑み、まず<相違点1-2>について検討する。
上記1.(4)イ.で述べたとおり、引用発明1には、ゴム紐の周囲を個々に巻回するように繊維状部材が巻かれてものを用いることにつき、阻害事由があるといえる。

そして、本件訂正発明1は、上記<相違点1-2>に係る構成により、「耳ゴム200の質感を柔らかいものとすることができ、より装着感を向上させることができる。」(段落【0042】)という格別の作用・効果を奏するものである。

よって、引用発明1において、右仮撚糸(1)と左仮撚糸(2)を、ゴム紐の周囲を個々に巻回するように繊維状部材が巻かれたものに変更することは、当業者が容易になし得たものであるということはできない。

(ウ)申立人の主張について
申立人は、以下のように主張している。
「ここで、甲第1号証には、C)項の構成、「前記ゴム紐の周囲を個々に巻回するように繊維状部材が巻かれている」ことについては直接的な記載がありません。
・・・
したがって、甲第1号証に記載された発明の「平衡糸(1)(図4)」に、甲第3号証に記載の発明、すなわち、「芯糸の周囲を鞘糸としての繊維状部材で巻いた」構成を組み合わせることは、甲第1号証に記載の発明も甲第3号証に記載の発明も同じ技術分野に属し、且つ課題も共通するものであることから当業者にとって容易であり、・・・
そして、この構成の「マスク用耳ゴム」は、本件請求項1に係る特許発明と同じ課題を解決し、同じ作用効果を得ることができるといえます。そうしてみますと、請求項1に係る発明は甲第1号証に記載の発明に甲第3号証に記載の発明を組み合わせることにより当業者が容易に想到できたものであると存じます。」
(申立人意見書7ページ12行?9ページ3行)

そこで検討すると、上記1.(4)イ.に示したとおり、引用発明1には、ゴム紐の周囲を個々に巻回するようにポリエステルの繊維状部材が巻かれてものに変更すること、すなわち甲3に記載されているような「芯糸の周囲を鞘糸としての繊維状部材で巻いた」構成を組み合わせることの阻害事由がある。
よって、申立人の上記主張は、採用することができない。

(エ)以上のとおり、引用発明1において、本件訂正発明1の<相違点1-2>に係る構成を備えることは、当業者が容易に想到することができたものではないから、<相違点1-1>について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえない。

ウ.本件訂正発明3、5、6について
本件訂正発明3、5、6は、本件訂正発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件訂正発明3、5、6についても同様に、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえない。

エ.小括
以上のとおり、本件訂正発明1、3、5、6は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえなから、その特許は、特許法第113条第2号に該当せず、申立理由1-2によっては、取り消すことはできない。

(3)申立理由2-1及び申立理由2-2について
ア.甲2について
甲2には、以下の記載がある。
(ア)「実用新案登録請求の範囲
スフ糸又は綿糸等にて芯ゴム糸1を被覆した伸縮性被覆ゴム紐3に於て、その外周面に複数条の、伸縮性かさ高加工法による旋回性ナイロン加工糸4,4と、複数条の極細糸よりなる伸縮性かさ高加工法による非施回性ナイロン加工糸5,5・・・を組紐状に被覆したことを特徴とするゴム紐。」
(第1ページ左欄第12?18行)

(イ)「以下本考案の構成を図面に示す実施例によつて説明すると、一本又は複数本を以て適宜太さとした芯ゴム1は、その外周面をスフ糸又は綿糸2等によつて二重に被覆して公知の伸縮性被覆ゴム紐3を構成する。」
(第1ページ左欄第32?36行)

(ウ)「次に叙述の如き構成による本案の効果につき説明すると、・・・外観及び肌に当る感触が悪く、且ほつれ易い欠点があり、外部に露出する部分(例えばマスク等に使用するゴム紐)等に使用するには不適当であった。
本案はウーリーナイロン糸と極めて細いナイロンクリンプ糸と組紐状に組合わされるので、表面の玉形状の突出が抑えられて、平滑なゴム紐が形成され、ウーリーナイロン糸の表面の風合は確実に保持されると共にゴム紐の外観並びに肌に当る感触は良好で、豪華な感じとなり、ゴム紐のほつれがないので寿命は長く、且気持よく使用出来る等の実用的効果を有するものである。」
(第1ページ右欄第8?24行)

(エ)「




上記(ア)?(エ)によれば、甲2には、マスク等に使用するゴム紐の具体的構成が記載されており、本件特許の訂正後の請求項1の記載ぶりに沿って整理すると次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているといえる。
「マスク等に使用するゴム紐であって、一本又は複数本を以て適宜太さとした芯ゴム糸1を、スフ糸又は綿糸等にて被覆した伸縮性被覆ゴム紐3の外周面に、複数条の伸縮性かさ高加工法による旋回性ナイロン加工糸4,4と、複数条の極細糸よりなる伸縮性かさ高加工法による非施回性ナイロン加工糸5,5を組紐状に被覆した、ゴム紐。」

イ.本件訂正発明1について
(ア)対比
本件訂正発明1と引用発明2を対比する。
引用発明2の「ゴム紐」は、「マスク等に使用する」ものであるのだから、マスク本体部の左右に備えられることは明らかである。よって、引用発明2の「マスク等に使用するゴム紐」は、本件訂正発明1の「マスク本体部の左右に備えられるマスク用耳ゴム」に相当する。

引用発明2の「芯ゴム糸1」は、本件訂正発明1の「ゴム紐」に相当する。
また、引用発明2の「芯ゴム糸1」が「一本又は複数本を以て適宜太さとした」ものであることは、「ゴム紐が複数ある」ことの限りにおいて、本件訂正発明1の「複数のゴム紐が編み込まれてな」ることと一致する。
また、引用発明2の「伸縮性かさ高加工法による旋回性ナイロン加工糸4,4と、複数条の極細糸よりなる伸縮性かさ高加工法による非施回性ナイロン加工糸5,5」が、芯ゴム糸1を被覆しているスフ糸又は綿糸等を介しているにせよ、1本又は複数本の芯ゴム糸1の周囲を「組紐状に被覆」している態様は、「ゴム紐の周囲を巻回するように繊維状部材が巻かれている」ことの限りにおいて、本件訂正発明1の「前記ゴム紐の周囲を個々に巻回するように繊維状部材が巻かれている」態様と一致する。

以上のことから、本件訂正発明1と引用発明2との一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「マスク本体部の左右に備えられるマスク用耳ゴムであって、
ゴム紐が複数あり、
ゴム紐の周囲を巻回するように繊維状部材が巻かれている、マスク用耳ゴム。」

<相違点2-1>
マスク用耳ゴムを構成するゴム紐について、本件訂正発明1では、「複数のゴム紐が編み込まれてなり、前記ゴム紐の周囲を個々に巻回するように繊維状部材が巻かれている」ものであるのに対して、引用発明2では、編み込みについて不明である点。

(イ)相違点についての検討
甲2には、芯ゴム糸1を一本又は複数本を以て適宜太さとすることは、記載(上記ア.(イ))されている。しかしながら、引用発明2の芯ゴム糸1を複数本として編み込んだ場合、その周囲をスフ糸又は綿糸等で被覆して伸縮性被覆ゴム紐3を構成し、さらにその外周面に旋回性ナイロン加工糸4,4と非施回性ナイロン加工糸5,5を被覆したものは、ゴム紐の周囲を「個々に」巻回するように繊維状部材が巻かれたものとはならない。
また、引用発明2の芯ゴム糸1を1本とした場合は、ゴム紐の周囲を「個々に」巻回するように繊維状部材が巻かれたものといえるものの、そのような引用発明2のゴム紐は、それだけでマスク用のゴム紐として完成しているものであるから、さらにゴム紐を複数編み込むことは、全体の太さが過大となってマスク用耳ゴムとして成立しないことが明らかである。
すなわち、引用発明2には、周囲を個々に巻回するように繊維状部材が巻かれれたゴム紐を複数編み込むことにつき、阻害事由があるといえる。

そして、本件訂正発明1は、上記<相違点2-1>に係る構成により、「耳ゴム200の質感を柔らかいものとすることができ、より装着感を向上させることができる。」(段落【0042】)という格別の作用・効果を奏するものである。

よって、引用発明2において、繊維状部材が巻かれたゴム紐を複数編み込んだものに変更することは、当業者が容易になし得たものであるということはできない。

(ウ)申立人の主張について
申立人は、以下のように主張している。
「請求項1に係る発明と甲第2号証に記載された発明とを対比してみますと、・・・
また、第1欄第33行から第2欄7行に「一本又は複数本を以て適宜太さとした芯ゴム1は、その外周をスフ糸又は綿糸2等によって二重に被覆して公知の伸縮性被覆ゴム紐3を構成する。」と記載され、図には、ゴム紐3は、芯ゴム1の外周をスフ糸又は綿糸2等によって編み込んで二重に被覆したことが示されていることから、
B)複数のゴム紐が編み込まれてなり、
の構成が開示されているといえます。」
(申立人意見書9ページ4?20ページ)

そこで検討すると、上記(ア)及び(イ)で述べたとおり、本件訂正発明1の「ゴム紐」に相当するものは、甲2発明の「芯ゴム糸1」であって、甲2には、「芯ゴム糸1」を編み込むことにつき、記載も示唆もない。
また、申立人の主張は、甲2発明の「スフ糸又は綿糸2等」が本件訂正発明1の「ゴム紐」に相当する等、甲2発明の「芯ゴム糸1」以外のものが本件訂正発明1の「ゴム紐」に相当する旨を主張しているとも解されるが、そのような相当関係の場合、甲2発明は、ゴム紐の周囲を「個々に」巻回するように繊維状部材が巻かれているものとならない。
よって、申立人の上記主張は、採用することができない。

(エ)以上のとおり、<相違点2-1>は、実質的な相違点であるから、本件訂正発明1は、引用発明2であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号の発明に該当し、特許を受けることができない発明とはいえない。
また、引用発明2において、本件訂正発明1の<相違点2-1>に係る構成を備えることは、当業者が容易に想到することができたものではないから、本件訂正発明1は、引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえない。

ウ.本件訂正発明3、6について
本件訂正発明3、6は、本件訂正発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件訂正発明3、6についても同様に、特許法第29条第1項第3号の発明に該当し、特許を受けることができない発明とはいえず、また、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえない。

エ.小括
以上のとおり、本件訂正発明1、3、6は、特許法第29条第1項第3号の発明に該当し、特許を受けることができない発明とはいえず、また、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえなから、その特許は、特許法第113条第2号に該当せず、申立理由2-1及び申立理由2-2によっては、取り消すことはできない。


第4.むすび
以上のとおり、本件訂正発明1?6に係る特許は、申立人の主張する申立理由、及び取消理由通知の取消理由によって取り消すことができない。
また、他に本件訂正発明1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-03-02 
出願番号 特願2017-137332(P2017-137332)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (A41D)
P 1 651・ 121- Y (A41D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 木原 裕二  
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 森藤 淳志
横溝 顕範
登録日 2018-09-21 
登録番号 特許第6404413号(P6404413)
権利者 大王製紙株式会社
発明の名称 マスク用耳ゴム及びマスク  
代理人 荒船 博司  
代理人 荒船 良男  

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