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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 A23L 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A23L |
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管理番号 | 1371743 |
異議申立番号 | 異議2020-700998 |
総通号数 | 256 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-04-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-12-22 |
確定日 | 2021-03-23 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6716616号発明「粒状大豆たんぱく加工食品を含む液状調味料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6716616号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許第6716616号は平成30年1月19日に出願され、令和2年6月12日に特許権の設定登録がなされ、同年7月1日にその特許公報が発行され、その後、請求項1?3に係る特許に対して、同年12月22日に特許異議申立人 高橋雅和(以下、「申立人」という。)から特許異議の申立てがなされたものである。 第2 本件請求項1?3に係る発明 本件請求項1?3に係る発明(以下、「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 前処理済粒状大豆たんぱく加工食品の製造方法であって、前処理として、醤油と乳酸を配合し、塩分濃度を4?12%(w/v)に調整することで得られる前処理液に粒状大豆たんぱく加工食品を浸漬する工程を含むことを特徴とする、前処理済粒状大豆たんぱく加工食品の製造方法。 【請求項2】 前処理液のpHが3.0?5.5である、請求項1記載の製造方法。 【請求項3】 請求項1の製造方法で製造された前処理済粒状大豆たんぱく加工食品を具材として配合する、液状調味料の製造方法。」 第3 異議申立ての理由についての検討 1 申立人の異議申立ての理由について 申立人の異議申立ての理由は、概要以下のとおりである。 甲第1号証:特許第6612035号公報 甲第2号証:島田淳子他、日本家政学会誌、41巻3号、197?203頁 (1990) 甲第3号証:特開2012-39953号公報 甲第4号証:特開2017-74040号公報 甲第5号証:特開2013-42725号公報 (以下、甲第1?5号証を「甲1」?「甲5」という。) ・申立ての理由1 本件発明1?3は、甲1に記載された発明及び甲1?5に記載された技術的事項から当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 よって、本件発明1?3に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 ・申立ての理由2 本件発明1?3は発明の詳細な説明に記載したものでなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものである。 よって、本件発明1?3に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 2 申立ての理由1について (1)甲1の公知性について 甲1に係る特許公報は、令和元年11月27日すなわち本件特許出願の後に発行されたものである。このため、甲1をその証拠の一つとして本件発明が進歩性を有さないということはできない。 したがって、その余の記載を検討するまでもなく、申立ての理由1には理由がない。 (2)甲1特許出願に係る公開公報に基づく検討 しかし、甲1特許出願は、平成28年8月22日に公開されており(特開2016-149967号公報。以下「甲1A」という。)、申立ての理由1を「本件発明1?3は、甲1Aに記載された発明及び甲1A並びに2?5に記載された技術的事項から当業者が容易に発明することができたものであるから…」と読み替えて、以下検討する。 (3)甲1Aの記載事項 ア 「【請求項1】 大豆たんぱく質含有原料及び前記大豆たんぱく質含有原料と乾燥質量換算で同量またはそれよりも少量のおからの混合物を組織化して得られる粒状の大豆加工品素材に、酢酸を含むpHが3.0以上6.0以下の調味液を含有させてなり、水分量が50質量%以上80質量%以下である肉そぼろ風のチルド食品であって、容器内に非密閉状態で収容されていることを特徴とする容器入りの肉そぼろ風チルド食品。 … 【請求項8】 請求項1乃至7のいずれか1項に記載の食品の製造方法であって、 前記粒状の大豆加工品素材と、加熱された前記調味液とを常圧下で混ぜ合わせて所定時間保持することで、前記素材に前記調味液を浸透させる調味工程と、 調味された前記素材を前記容器に非密閉状態で充填する充填工程と、 前記容器内に充填された状態の前記素材を殺菌する殺菌工程と を含むことを特徴とする容器入りの肉そぼろ風チルド食品の製造方法。」 イ 「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 ところで、従来、大豆たんぱく質やおからを配合した大豆加工食品は、肉使用加工食品の嵩増し、保形性向上、ドリップ防止などの用途で利用されてきた。しかしながら、この種の大豆加工食品は、あくまで食肉使用食品の一部として添加する用途が主体であったため、当該食品自体をそのまま食べる用途には必ずしも適していない。 【0007】 そして上述の背景から、大豆加工食品自体が食肉のような食べ応えのある食感を有し、そのまま食べても美味しく、様々な調味を施すことができ、かつ、大豆特有の風味も感じられるような大豆加工食品の開発が求められている。また、即食性があって手軽な「チルド食品」の形態で上記品質を満足した食品を提供することも、現代の食生活におけるニーズとして存在する。そして本発明者らは、このような大豆加工チルド食品として、粒状の食肉を調味液で味付けして汁気が少なくなるまで加熱処理した「肉そぼろ」のような食品を新規かつ具体的に実現したいと考えている。また、できれば上記の新規大豆加工チルド食品を非密閉容器内に収容した製品形態で実現したいとも考えている。 【0008】 本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、チルド食品に求められる好適な微生物耐性を有し、かつ肉そぼろに近い好適な風味、香味、食感を有するためそのままでも美味しく手軽に食べることができる容器入りの肉そぼろ風チルド食品を提供することにある。また、本発明の別の目的は、上記の優れた容器入りの肉そぼろ風チルド食品を確実にかつ効率よく製造することができる方法を提供することにある。」 ウ 「【0022】 本発明の容器入りの肉そぼろ風チルド食品は、粒状の大豆加工品素材に調味液を含有させてなるものである。本発明において「肉そぼろ」とは、粒状の食肉(鶏肉、豚肉、牛肉、羊肉等の畜肉、魚肉、エビ肉など)を調味液で味付けして汁気が少なくなるまで炒った食品であって、そのまま食べることができるものを指している。また、本発明において「肉そぼろ風」の食品とは、食肉以外の素材(大豆加工品素材)を主体として用いているにもかかわらず、食肉を用いて調理した肉そぼろに近い風味、香味、食感を有する食品のことを意味している。 … 【0025】 本発明において「粒状の大豆加工品素材」とは、大豆たんぱく質含有原料を主体とする原料を組織化し、成形及び乾燥することにより粒状に仕上げた、いわゆる「粒状大豆たんぱく質」のことを指す。上記「粒状大豆たんぱく質」には、粒の大きさと色とによりビーフタイプ、ポークタイプ、チキンタイプなどの市販品があり、本発明ではいずれも使用することができる。ちなみに、5訂食品成分表では、粒状大豆たんぱく質のたんぱく質割合は46.3%とされている。」 エ 「【0034】 本発明において使用される調味液は、有機酸類の一種である酢酸を少なくとも含む酸性調味液とする必要があり、そのpHについては3.0以上6.0以下の範囲内に設定される。その理由は、調味液のpHをこの範囲内に設定することで、本発明の肉そぼろ風チルド食品に、好適な風味、香味、食感を付与しつつ好適な品質保持性も付与しやすくなるからである。また、酢酸は有機酸のなかでも制菌力が高いため、微生物を制御して品質保持性を付与する際に好適だからである。pHが3.0未満であると、品質保持性には優れるものの酸味が強くなりすぎてしまい、風味、香味、食感のバランスが悪くなってしまう。逆にpHが6.0超であると、酸味が気にならなくなる反面、品質保持性が低下してしまい、別に保存料などを添加する必要が生じる。ここで、調味液のpHは3.2以上5.0以下が好ましく、3.5以上3.9以下がより好ましい。なお、この範囲内において、調味液のpHの値を下げると硬くてしまった食感となり、pHの値を上げると柔らかい食感となる傾向がある。 【0035】 本発明において使用される調味液において、酢酸は主として食酢に由来するものである。食酢としては、例えば、穀物酢、米酢、米黒酢、りんご酢、醸造アルコールを原料に製造される醸造酢や、合成酢等が挙げられる。これらの食酢は、単独で用いてもよいほか、2種以上併用してもよい。ここで、本発明の調味液における酢酸濃度は、例えば0.1質量%以上1.0質量%以下に設定され、好ましくは0.2質量%以上0.6質量%以下に設定される。 【0036】 上記の調味液には、酢酸以外の有機酸(クエン酸、リンゴ酸、酒石酸など)が含まれていてもよい。また、上記の調味液に配合されうる糖類としては、砂糖、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、水あめ、異性化糖、転化糖、キシリトール、ソルビトール、パラチノース等といった甘味料がある。同様に発酵調味料類の好適例としては醤油やみりん等がある。醤油の具体例としては、濃口醤油、淡口醤油、たまり醤油、再仕込醤油、白醤油等がある。エキス類としては、肉エキス、魚介エキス、酵母エキス、野菜エキス等がある。 【0037】 調味液に配合されうるその他の成分としては、香料、香辛料(ニンニク、唐辛子、胡椒、山椒等)、酒類(日本酒、紹興酒、焼酎、ワイン等)、増粘剤(グアガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、ジェランガム、アラビアガム、モナトウガム、トラガントガム等)、油脂(大豆油、菜種油、サフラワー油、コーン油、ひまわり油、米油、綿実油、パーム油、オリーブ油、ヤシ油、落花生油、ごま油等)などがある。ただし、油脂についてはもともと大豆に多く含まれているため、積極的に配合しなくてもよい。 【0038】 本発明の肉そぼろ風チルド食品における必須成分ではないが、粒状の大豆加工品素材中におけるおからの質量比が比較的多いときには、保形性の低下による問題を解消するべく、食品中に所定量のカルシウムを含有させておくことがよい。… 【0039】 食品中のカルシウムは、例えば、乳酸カルシウム、リン酸カルシウム、塩化カルシウム、グルコン酸カルシウム、L-グルタミン酸カルシウム、ソルビン酸カルシウム等に由来するが、なかでも乳酸カルシウムに由来するものであることがよい。」 オ 「【実施例】 【0047】 以下、本実施形態の容器入りの肉そぼろ風チルド食品(以下「大豆そぼろ製品」とも呼ぶ。)及びその製造方法をより具体化した実施例を示す。 【0048】 <試験1> 試験1では、粒状の大豆加工品素材の原料混合物として、大豆たんぱく質含有原料とおからとの好適な配合比率(乾燥質量換算)、食品中の水分量を比較検討するための評価試験の結果を表1に示す(図1参照)。 【0049】 まず、表1に示す原料配合量に従い、大豆たんぱく質含有原料である脱脂大豆と、おから粉末とをいろいろな比率で配合して原料混合物を作製し、粒状の大豆加工品素材のサンプルを何種類か作製した(試験例1?8)。具体的には、公知の二軸エクストルーダーを用い、高温・高圧条件下(100℃?200℃、1kg/cm^(2)?100kg/cm^(2))にて原料混合物の混練・溶融を行い、ダイから押し出すことにより、原料混合物を肉様に組織化させた。このような組織化工程の後、公知の条件で成形工程及び乾燥工程を行い、直径1mm?5mm程度の粒状の大豆加工品素材を得た。 【0050】 なお、ここでは粒状の大豆加工品素材に対するおからの質量比(W/W、乾燥質量換算)を、0質量%、10質量%、20質量%、30質量%、40質量%、50質量%、60質量%、70質量%の8段階に設定した。具体的にいうと、試験例1では脱脂大豆1000kgとおから粉末0kgとを配合し、試験例2では脱脂大豆900kgとおから粉末100kgとを配合し、試験例3では脱脂大豆800kgとおから粉末200kgとを配合し、試験例4では脱脂大豆700kgとおから粉末300kgとを配合し、試験例5では脱脂大豆600kgとおから粉末400kgとを配合し、試験例6では脱脂大豆500kgとおから粉末500kgとを配合し、試験例7では脱脂大豆400kgとおから粉末600kgとを配合し、試験例8では脱脂大豆300kgとおから粉末700kgとを配合し、各々合計で1000kgとした。 【0051】 一方、表1に示す原料配合量に従い、高酸度醸造酢24kg、果糖ぶどう糖液糖96kg、食塩48kg、淡口醤油12kg、グリシン6kg、水814kgを配合し、合計で1000kgの調味液を作製した。ちなみに、この調味液における酢酸濃度%(W/W)は0.40質量%、pHは3.7、塩分(NA)は5.0%であった。 【0052】 そして、粒状の大豆加工品素材と調味液とを用いて、以下のような手順で大豆そぼろ製品を製造した。まず、粒状の大豆加工品素材を釜のような調理用器具内に収容した後、その調理用器具内に95℃に加熱された調味液を注ぎ込んだ。そして、常圧下で粒状の大豆加工品素材と調味液とを混ぜ合わせて所定時間保持(ここでは30分保持)した。これにより、素材に調味液を浸透させて素材に味を付けた(調味工程)。次に充填工程を行い、調味された素材を所定の容器に非密閉状態で充填した。具体的には、従来公知の発泡ポリスチレン製の蓋付き納豆容器を流用し、調味された素材を従来公知の充填機を用いて上記の納豆容器内に充填した。なお、このとき容器本体に対して蓋を完全にシールせず、通気性を保持するようにした。次に、従来公知の加熱装置を用いて殺菌工程を行い、容器内に充填された状態の素材を60℃?70℃、60分の条件で殺菌した。殺菌工程の後、容器内に充填された素材をチルド温度に冷却して保管を行った。以上の工程を経て、容器入りの大豆そぼろ製品のサンプルを8種類得た。 【0053】 表1には、試験例1?8について、「素材に対する調味液量%(W/W、混合加熱前)」、「大豆そぼろ製品の水分量%(W/W)」、「大豆そぼろ製品のカルシウム量%(W/W)」、「大豆そぼろ製品の油脂量%(W/W)」、「大豆そぼろ製品のpH」、「大豆そぼろ製品の塩分量%(W/W)(NA)」を測定した結果が記されている。その結果、素材に対する調味液量は150質量%?230質量%となり、おからの配合量が多くなるほど高い値を示した。大豆そぼろ製品の水分量は61質量%?70質量%となり、おからの配合量が多くなるほど高い値を示した。大豆そぼろ製品のカルシウム量はいずれも0質量%であった。大豆そぼろ製品の油脂量は1.20質量%?1.41質量%となり、おからの配合量が多くなるほど高い値を示した。大豆そぼろ製品のpHはいずれも4.8であった。大豆そぼろ製品の酸度は4.2?4.7となり、おからの配合量が少なくなるほど高い値を示した。 【0054】 この試験1では、各試験例のサンプルの「肉様の食感」、「大豆特有の風味」、「保形性」及び「調味液の浸透性」の各項目について5段階(5:好ましい、4:やや好ましい、3:ふつう、2:やや好ましくない、1:好ましくない)で評価するとともに、「その他、香味、食感の特徴」についても評価した。そして、これらの評価結果に基づいて5段階で「総合評価」を行った。 【0055】 表1に示すように、「肉様の食感」及び「保形性」に関しては、おから粉末の配合量が多くなるほど悪化する傾向があることが認められた。逆に、「大豆特有の風味」及び「調味液の浸透性」に関しては、おから粉末の配合量が少なくなるほど好適化する傾向があることが認められた。 【0056】 「その他、香味、食感の特徴」に関していうと、例えば、おから粉末を全く含まない試験例1(比較例1)のサンプルでは、肉様の食感は感じられるが、大豆特有の風味が強いという特徴があった。また、おから粉末を比較的多く含む試験例7、8(比較例2、3)のサンプルでは、いずれも食感、保形性の点で問題があった。即ち、これらのサンプルでは、脱脂大豆よりもおから粉末を多く含むことから、保形性が悪化して粒形状を維持できず、調味時に崩れやすかった。また、粒形状を維持できたとしても、弾力性のある食肉の食感とは全く異なっていた。とりわけこの傾向は試験例8のサンプルにおいて顕著であり、製品として使用できないものとなった。従って、これらのサンプルでは総合評価が「2以下」となり、低い評価となった。 【0057】 これに対して、比較的少量のおから粉末を含む試験例2のサンプルでは、肉様の食感が感じられたことに加え、風味が改善する傾向も一応見られたため、総合評価が「3」となった。また、脱脂大豆と同量のおから粉末を含む試験例6のサンプルでは、風味は好ましいが食感及び保形性が劣るものとなったため、総合評価が「3」となった。その点、適量のおから粉末を含む試験例3?5のサンプルでは、好適な風味、香味、食感のバランスがよかったため、総合評価が「4以上」となった。なかでも、試験例4の総合評価が最も高く、「5」となった。以上の結果から、上記混合物中におけるおから粉末の質量比(乾燥質量換算)の好適範囲は10質量%?50質量%であり、最適範囲は20質量%?30質量%であることが実証された。 … 【0076】 <結論> 以上の結果を総合すると、本実施形態の上記実施例の容器入りの肉そぼろ風チルド食品によれば、チルド食品に求められる好適な微生物耐性を有し、かつ肉そぼろに近い好適な風味、香味、食感を有するためそのままでも美味しく手軽に食べることができる容器入りの肉そぼろ風チルド食品を提供することができる。また、本実施形態の製造方法によると、上記の優れた容器入りの肉そぼろ風チルド食品を確実にかつ効率よく製造することができる。なお、本発明は上記実施形態に限定されず、発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて適宜変更してもよい。」 カ 「【図1】 」 (4)甲2の記載事項 ア 「2.試料および実験方法 (1) 試 料 押し出し成型により調製した粒状組織化大豆タンパク質(textured soy protein,以下TSPと略す.日本たばこ産業(株)中央研究所で調製)を7日間透析し(0.01M塩酸水溶液:2日間,脱イオン水:5日間),凍結乾燥して試料とした.…試料の直径は約1mm,長さは約3?4mmで,水戻しにより挽肉様になる試料である. … (3) 調味液への浸漬 調味料あるいは配合調味料の材料である食塩(塩化ナトリウム,関東化学試薬1級),ショ糖(関東化学試薬1級),醤油(キッコーマン,本醸造濃口醤油),酢酸(関東化学試薬特級)および乳酸(関東化学試薬特級)の0.1,0.5および1.0M水容液を調味液とした.ただし,醤油液濃度はモール法で測定した食塩濃度とした.TSP1.0gに各調味液100mlを加えて2分間脱気後,20℃で,ショ糖,食塩,醤油には1,3,6,24および48時間,酢酸および乳酸にはさらに72および120時間浸漬した.また,蒸留水で同様の処理をして対照とした. pH2.0の酢酸,乳酸,クエン酸(関東化学試薬特級)およびリン酸(関東化学試薬特級)水溶液,pH1.0?8.0(1.0間隔)の塩酸および水酸化ナトリウム水溶液にも,TSPを72時間浸漬した. 浸漬後,目皿付き遠沈管(穴の直径0.8mm)を用いて,2,000×g,2分間遠心分離し,目皿上に残ったTSPを調味液浸漬試料として,以下の測定に供した. (4) 保水性の測定 調味液浸漬試料の重量より試料初重量を差し引き,試料初重量で除した値,すなわち単位重量あたりのTSP中に保たれた調味液重量を求めて保水性とした.測定は2回繰り返した.」(197頁右欄5行?198頁右欄3行) イ 「3.結果および考察 … (2) 調味液浸漬による保水性の変化 水あるいは調味液浸漬による試料の吸水膨潤が,調味料の種類により影響を受けるか否かを検討することとし,おもな調味料の成分である食塩,ショ糖および酢酸を選んだ.また,日常よく用いられる醤油も試料とし,食塩濃度をそろえることにより醤油中に含まれる微量成分の影響を考察できるようにした.タンパク質の物性への影響が考えられる酸については,醤油中の1成分でもあり配合調味料にも用いられる乳酸を加えた. 試料の保水性はFig.3に0.5Mの例で示したように,浸漬により経時的に増大し,水,ショ糖,食塩および醤油は6?12時間で,また,酢酸および乳酸はやや遅れて48?72時間で平衡に達した.そこで,平衡状態となった保水性の値を試料の保水性とした.対照の保水性は0.84であり,Quinnらの報告に比べて低かったが,保水性には組織化の程度が影響することから,本研究で用いたTSPの組織化が弱いことによるものと考えられる.試料の保水性は調味料の種類および濃度に依存した(Table 2).TSPのショ糖水溶液の保水性は,濃度上昇により高くなった.他の調味液に比べ,ショ糖溶液は濃度上昇に伴い比重が増加することから,保水性の値を比重で除し,TSPに保たれた水溶液の体積を算出した.その結果,0.1,0.5,1.0Mと濃度上昇に伴い体積は0.82,0.82,0.77cm^(3)となり,いずれの濃度においても対照の0.84cm^(3)より低く,とくに1.0Mでは著しく吸水が妨げられた.TSPの食塩および醤油水溶液の保水性は,ともに対照より大きく濃度上昇により大きくなった.また,醤油液の保水性はいずれの濃度においても,食塩によるものより大きく,醤油に含まれる食塩以外の成分の影響が示唆された.酸浸漬によるTSPの保水性は,他の調味液および対照に比べて著しく高く,濃度依存性もあり,TSPのタンパク質に対する酸変性を含む水素イオン濃度の影響が示唆された. そこで,塩酸および水酸化ナトリウム水溶液を用いてTSPの保水性のpH依存曲線を作成した(Fig.4).その結果,保水性は,大豆タンパク質の等電点付近のpH5.0で極小値をとり,それより酸性側およびアルカリ性側に移るにしたがって増大し,pH2.0に極大値がみられた.この傾向は吉岡らの結果と同じであった. 酢酸および乳酸調味液のpHはおのおの2.37?2.89および1.68?2.19の範囲にあったが,これらに浸漬したTSPの保水性は,同じpHにおける塩酸水溶液による値より大きかった.このことより,TSPの保水性には水素イオン濃度のみでなく陰イオン成分も関与することが示唆された.そこで,酢酸,乳酸,クエン酸およびリン酸のpH2.0水溶液に対するTSPの保水性を測定した(Table 3).その結果,同じpHでも,保水性は陰イオンの種類によって異なり,乳酸>酢酸>リン酸>クエン酸>塩酸の順であった.したがって,各陰イオンとTSPとの相互作用は異なることが認められた. 以上のように,TSPの保水性は調味料の種類により影響を受けることが認められた.この保水性の相違はTSPのテクスチャーにも影響すると考え,TSPのかたさを測定した. (3) 調味液浸漬によるかたさの変化 保水性が平衡に達したTSPのかたさはTable 4に示すように,一部ショ糖浸漬を除くいずれの試料も,水浸漬よりやわらかく,調味料濃度の増加に伴い軟化した.醤油浸漬試料は食塩浸漬試料よりもやわらかく,濃度依存性も大きく,醤油中の食塩以外の成分の影響が示唆された.中谷らは,醤油を用いて煮た大豆のかたさが食塩に比べ大きいことを報告しており,これは本結果と逆の傾向にあった.この理由としては,本研究のTSPが高温高圧により変性を受けたものであること,および大豆の軟化には野菜の軟化同様ペクチンが関与することが考えられる.酸の中では,乳酸のほうが軟化程度が大きかった. かたさは保水性と相関の高いことが食肉タンパク質について報告されているが,本試料においてはFig.5に示すように,相関が認められ,2本の回帰直線が求められた.すなわち,水,ショ糖,食塩および醤油あるいは0.1Mの酢酸の群,およびおもに酸類からなる群の2群に分かれ,相関係数はそれぞれR=-0.90(p<0.0005)およびR=-0.92(p<0.025)であった. 以上,TSPのかたさも保水性と同じように調味料の種類により影響を受け,かたさは保水性と密接に関連することが認められた.これらの結果は調味料浸漬後のTSPの内部構造と関係があると考え,走査型電子顕微鏡による割断面の観察を行った.」(199頁左欄1行?201頁左欄末行) (5)甲1Aに記載された発明 甲1Aの試験1、及び試験1で使用される「粒状の大豆加工品素材」とは【0025】(上記(3)ウ)の記載から「粒状大豆たんぱく質」を意味すると解されることからみて、甲1Aには以下の「甲1A発明」が記載されていると認められる。 「粒状大豆たんぱく質と、醤油と酢酸を含むpHが3.7で塩分5%の加熱された調味液とを常圧下で混ぜ合わせて所定時間保持することで、粒状大豆たんぱく質に調味液を浸透させる調味工程を有する、粒状大豆たんぱく質の調味加工方法」 (6)本件発明1 ア 本件発明1と甲1A発明の対比 本件発明1と甲1A発明とは以下の点で一致する。 「前処理済粒状大豆たんぱく加工食品の製造方法であって、前処理として、醤油と有機酸を配合し、塩分濃度を5%(w/v)に調整することで得られる前処理液に粒状大豆たんぱく加工食品を浸漬する工程を含むことを特徴とする、前処理済粒状大豆たんぱく加工食品の製造方法。」 そして、両者は以下の点で相違する。 相違点:前処理の処理液中の有機酸において、本件発明1は乳酸を用いるのに対し、甲1A発明は酢酸を用いる点。 イ 判断 (ア)甲1Aには「本発明において使用される調味液は、有機酸類の一種である酢酸を少なくとも含む酸性調味液とする必要があり」(【0034】、上記(3)エ)、「上記の調味液には、酢酸以外の有機酸(クエン酸、リンゴ酸、酒石酸など)が含まれていてもよい。」(【0036】、上記(3)エ)という記載があり、甲1Aの記載からは、酢酸を他の酸に置換することも、追加しうる酸として乳酸を選択することも想起できない。 仮に甲1A発明に乳酸を導入できるとしても、本件発明1は、 「酢酸を用いた(4)は、総合的な嗜好は比較的良好であったが、風味や保形性においてやや劣っていた。」(【0024】) 「きな粉様異味の評価では、…。(3)、(5)は、(1)(2)ほどではないものの概ね良好な評価であった。(4)は、評点Dのパネラーも存在し、(3)(5)よりやや異味が強く感じられる結果となった。」(【0034】) 「具材感の評価では、(3)が最も好ましいと感じる人数が多く、(1)(2)(4)も比較的好ましい結果となった。」(【0035】) という確認された効果から、酢酸を用いるよりも乳酸を用いる方が優れた結果が得られると認識できる。特に、「きな粉様異味」については、甲各号証には認識がない。 よって、本件発明1は、甲1A発明及び他の甲各号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明することができたものとはいえない。 (イ)申立人は、申立ての理由1において、以下のとおり主張する。 「甲第2号証には、…粒状組織化大豆タンパク質の保水性は、酸浸漬により著しく大きくなり、乳酸>酢酸>醤油の順であること、また、酢酸、乳酸、クエン酸、およびリン酸のpH2の水溶液に対する粒状組織化大豆タンパク質の保水性では、乳酸>酢酸>リン酸>クエン酸の順であること、また、粒状組織化大豆タンパク質のかたさも酸類で著しく軟化し、酸の中では乳酸での軟化程度が大きかったことが記載されている。… 別の観点から、乳酸の選択は必然的である。乳酸は、醤油に爽やかな酸味や味の伸びや深みを与えてくれる酸として醤油となじみが深い酸であるからである。… そうすると、甲第1号証と甲第2号証は、粒状大豆たんぱく質を浸漬調味することによるテクスチャー(保水性、浸透性、食感等)の変化に関連する技術である点で共通し、しかも保水性等の向上という課題や作用、機能も共通するから、テクスチャー向上のために、甲第1号証に記載の粒状大豆タンパク質を浸漬する酸性調味液の有機酸として乳酸を用いることは、甲第2号証の記載から当業者であれば容易に想到し得たことである。」 しかし、甲2の記載をもってしても、甲1A発明において、酢酸に変えて、あるいは加えて乳酸を採用する動機付けを見いだすことはできず、また、本件発明1によって奏される効果を予測することはできない。 (7)本件発明2?3 本件発明2?3は、本件発明1を更に限定するものである。したがって、本件発明1が甲1A発明及び他の甲各号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明することができたものとはいえないことに鑑みると、本件発明2?3も甲1A発明及び他の甲各号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明することができたものとはいえない。 (8)まとめ よって、申立ての理由1には、理由がない。 3 申立ての理由2について (1)その1 ア 申立人は、申立ての理由2において、以下のとおり主張する。 「本件明細書には、醤油と乳酸のみからなり塩分濃度を8%、pHを4に調整することで得られる前処理液に粒状大豆たんぱく質加工食品を浸漬する工程を含む態様の本件発明しか記載されていない。… 仮に、本件発明1?3の全般にわたり、甲第1および2号証の記載から予測できない効果が奏されているとして進歩性が認められるのであれば、当業者でも予測できない効果であるのであるから、醤油と乳酸のみからなり塩分濃度を8%、pHを4に調整した前処理液以外の本件発明1の前処理液を用いた場合には、本件出願時の技術常識を参酌しても、その効果が予測できない、すなわちその課題が解決されることを当業者が認識できない部分が含まれていることになる。 したがって、本件発明1?3には、その課題を解決できることを当業者が認識できない部分が包含されているから、発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。」 イ 本件発明の解決しようとする課題は、「風味や味のバランスがよく、大豆由来のきな粉様の異味も抑えられ、さらに食感も適当である」(【0007】)ことにあると認められる。 この点に関し、本件発明の詳細な説明には、本件発明の塩分濃度及びpHの規定に関し、「前処理液において、上記範囲よりも食塩濃度が低いか、pHが高すぎる場合には、品質保持性の面でリスクを生じる恐れがある。一方で、食塩濃度が高いか、pHが低すぎると、塩味や酸味が強くなり過ぎて食味に影響を及ぼす場合がある。」(【0014】)と記載されており、「本発明における前処理液は、食塩濃度12%(w/v)以下の液であることが好ましい。より具体的には、醤油、乳酸と水を混合し、好ましくは食塩濃度が4%(w/v)以上12%(w/v)以下、より好ましくは5%(w/v)以上、10%(w/v)以下となるように調整する。また、有機酸を加える場合は、混合後の液のpHが3.0以上5.5以下、より好ましくは3.2以上5.0以下とすることが好ましい。」(【0013】)とすることの根拠が示されており、実施例ではその代表的な値である「塩分濃度を8%、pHを4」として、本件発明の優位な作用効果が確認されている。 そうすると、当業者は、本件発明に係る前処理液の「塩分濃度を4?12%(w/v)」、「pHが3.0?5.5」とすることで本件発明の課題を解決できることは、本件発明の詳細な説明の記載から理解することができる。 したがって、申立人の上記主張を採用することはできない。 (2)その2 ア また、申立人は、申立ての理由2において、以下の点も主張する。 「きな粉様異味の評価の結果を示す【表3】の(6)では、最高のAと最低のDに評価が真二つに分かれており、同様に具材感の評価の結果を示す【表4】の(1)でも、最高のアと最低のオを評価しており、パネラーの評価にバラツキが大きい。味覚、食感および硬さに関する評価でこのようなバラツキのあるパネラーによって、【表2】の各官能評価が行われており、その評価が平均値で示されている。この平均値で示された結果を根拠とする本件発明の効果は信ぴょう性が低いといわざるを得ない。」 イ しかし、パネラーの評価がばらついていることをもって、その評価の信ぴょう性が低いとする根拠がない。本件明細書【0021】では「すべての評価は、12名の訓練された社内パネラーによって行った。」と述べられており、係る「社内パネラー」の評価の信ぴょう性が低い根拠は何ら見いだせない。また、バラツキがあるからといってそれが信ぴょう性が低い根拠とはならず、申立人はバラツキがあることと信ぴょう性が低いことの関連性について何ら説明しない。 したがって、申立人の上記主張を採用することはできない。 (3)まとめ よって、申立ての理由2には、理由がない。 4 まとめ 以上のことから、申立人が主張する申立ての理由にはいずれも理由がなく、これらの申立の理由によっては本件発明に係る特許を取り消すことはできない。 第4 むすび 以上のとおりであるから、異議申立ての理由によっては、本件請求項1?3に係る発明の特許を取り消すことはできない。また、他に当該特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2021-03-12 |
出願番号 | 特願2018-7229(P2018-7229) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(A23L)
P 1 651・ 537- Y (A23L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 吉森 晃、玉井 真人、千葉 直紀、松本 淳 |
特許庁審判長 |
村上 騎見高 |
特許庁審判官 |
関 美祝 大熊 幸治 |
登録日 | 2020-06-12 |
登録番号 | 特許第6716616号(P6716616) |
権利者 | ヤマサ醤油株式会社 |
発明の名称 | 粒状大豆たんぱく加工食品を含む液状調味料 |