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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61B
管理番号 1371951
審判番号 不服2018-9885  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-19 
確定日 2021-03-10 
事件の表示 特願2016-201061「改良された圧縮性と運搬性とを有する、医療デバイス用固定アンカー」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 3月 9日出願公開、特開2017- 47228〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22(2010)年6月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 平成21(2009)年6月17日 (US) アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2012-516067号の一部を、平成28年10月12日に新たな特許出願としたものであって、平成30年3月14日付けで拒絶すべき旨の査定がされた。以後の経緯は以下の通りである。

平成30年7月19日 拒絶査定不服審判の請求、同時に手続補正書の提出
同年11月29日 上申書の提出
令和1年10月 3日付け 拒絶理由通知
令和2年 2月28日 意見書および手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1?12に係る発明は、上記令和2年2月28日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項10に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。

【請求項10】
「デバイス取り付け部と、圧縮ベアリング部と、バーブ部とを有するフレキシブルなアンカーを含む医療用固定デバイスであって、
該医療用固定デバイスを抑制状態に維持するため該医療用固定デバイスの周囲に配置された除去可能な抑制部をさらに含み、
該デバイス取り付け部が医療デバイスと連結し、
該圧縮ベアリング部が該デバイス取り付け部と該バーブ部との間に配置されて、
該フレキシブルなアンカーが拡張状態と圧縮状態とを有し、
該圧縮状態が該除去可能な抑制部によって維持され、
該圧縮状態中は、該圧縮ベアリング部が該除去可能な抑制部と接触し、かつ、該バーブ部と該デバイス取り付け部とが互いに一直線上に並び、
該拡張状態中は、該バーブ部が血管壁と結合し、
該圧縮ベアリング部は、該医療用固定デバイスが抑制状態にある間、該バーブ部の全体が該抑制部に実質的に平行に延在するように該バーブ部と該除去可能な抑制部との間を分離させるように構成されている、医療用固定デバイス。」

第3 当審が通知した拒絶の理由
令和1年10月3日付けで当審が通知した拒絶理由のうち、その理由3は、本願の特許請求の範囲の請求項1?12に係る発明は、その優先権主張の日前に日本国内または外国において頒布された引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献 特開平8-299456号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献の記載
引用文献には、「フック付きの体内容人工装具を再捕捉する方法及び装置」について、図1?39とともに、以下の事項が記載されている。

A 「【請求項1】 その先端に管状のシースを有する供給装置によって、血管の中に供給されて該血管の中に配備されるようになされた血管用体内人工装具であって、
基端及び先端を有する、細長い管状の移植片と、
基端、先端、及び、長手方向の軸線を有すると共に、前記移植片に取り付けられた、弾性的に膨張可能なアンカーアセンブリであって、前記管状の移植片を開放した状態で支持する膨張位置と、当該アンカーアセンブリが実質的に収縮した横断面形状を有し、これにより、当該血管用体内人工装具が半径方向に収縮して前記供給装置のシースの中に収容されることを可能とする、半径方向に収縮した状態との間で、半径方向に膨張及び収縮可能な、弾性的に膨張可能なアンカーアセンブリと、
前記アンカーアセンブリに取り付けられて、半径方向外方に突出するようになされた、少なくとも1つのフックとを備え、該フックは、前記アンカーアセンブリがその膨張位置にある時には、前記移植片の半径方向外方に位置し、また、前記アンカーアセンブリが収縮した状態にある時には、前記供給シースの半径方向内方に位置して該供給シースの中に収容されることが可能であるように、前記アンカーアセンブリに取り付けられていることを特徴とする、血管用体内人工装具。
【請求項2】 請求項1の血管用体内人工装具において、前記フックは、その半径方向外方の状態と半径方向内方の状態との間で、運動可能であることを特徴とする、血管用体内人工装具。
【請求項3】 請求項2の血管用体内人工装具において、前記フックは、前記アンカーアセンブリと前記供給シースとの間の、基端方向及び先端方向における相対的な運動に応答して、それぞれの状態の間で運動可能であることを特徴とする、血管用体内人工装具。
【請求項4】 請求項3の血管用体内人工装具において、
前記アンカーアセンブリが、少なくとも1つのフックサポートを有しており、
各々のフックサポートの先端には、フックが形成されており、
各々のフックサポートは、カム要素を有しており、該カム要素は、前記シースと協働するように該シースに係合し、前記シースが前記アンカーに対して相対的に運動すると、前記フックサポートを半径方向に動かすことを特徴とする、血管用体内人工装具。
【請求項5】請求項4の血管用体内人工装具において、前記カム要素は、前記フックの基端側で前記フックサポートによって担持された、少なくとも1つの横方向の伸長部を有しており、各々の横方向の伸長部は、前記シースが、前記フックに向かって先端側へ前進した時に、前記シースの先端に係合するように配列されており、各々の横方向の伸長部は、前記シースに係合することに応答して、関連するフックサポートを半径方向内方に押圧するように形成されていることを特徴とする、血管用体内人工装具。
・・・」

B 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、管状の体内人工装具を、患者の体内の所定の箇所に定置し且つ固定するための、装置及び方法に関する。」

C 「【0005】
【発明が解決しようとする課題】移植片を定置して、腹部大動脈瘤を補強することに関連する、困難性及び危険性は、広範囲の手術を必要とすることなく、患者の血管の中に経皮的に挿入することのできる、体内人工装具を用いることによって、大幅に低減することができる。そのような装置、並びに、これら装置を経皮的に定置するための供給装置が、上述の米国特許出願に開示されている。そのような装置は、1又はそれ以上のアンカーに取り付けられた可撓性を有する細長い管状の移植片を有する、体内人工装具を備えており、上記アンカーは、上記可撓性の移植片を支持して、該移植片を、血管の中の配備位置に保持し、移植片がその配備位置から移動する危険性を減少させる。上記単数又は複数のアンカーは、患者の血管の中に経皮的に挿入することのできる、直径が減少した薄型の形態と、血管の中に配備されて血管の管腔の内側面に十分に係合し、移植片アセンブリがその配備位置から移動する危険性を減少させる、膨張した状態との間で、半径方向に収縮可能及び膨張可能である。移動する危険性を更に減少させるために、装置には、1又はそれ以上のフックを設けることができ、該フックは、アンカーが膨張した時に、血管壁に係合することができる。そのようなフックを用いることが非常に望ましいと考えられるが、そのようなフックは、装置が供給可能な形態に収縮した時に、ある困難性を示すことがある。半径方向外方に伸長しなければならない上記フックは、上記供給装置の一部に拘束されたり、あるいは、装置が半径方向に収縮する際に、互いに絡まったりすることがある。これにより、患者の血管内に装置を配置することが困難になる場合がある。いずれかのフックが絡まると、装置が適正に膨張する機能を阻害することがあり、また、供給装置によって最初に装置を位置決めしたりあるいは再位置決めする機能を阻害することがある。
【0006】上述の係属特許出願に記載されているように、供給装置は、可撓性を有する細長いカテーテル状の装置を備えており、該カテーテル状の装置は、その先端(患者の中に挿入される端部)に、管状のシースを有している。体内人工装具は、半径方向に収縮すると、上記供給装置のシースの中に収容することができる。次に、供給装置が、経皮的、あるいは、外科的なアクセスにより、患者の中に挿入され、意図する定置部位まで案内される。次に、体内人工装具は、上記シースから放出されて、その配備された形態まで膨張することができる。係属出願シリアルNo.08/147,498に更に記載されているように、上記装置は、供給シースから単に部分的に放出され、その体内人工装具が、その意図した位置にあることを、医師が検証することを可能とする。意図した位置にある場合には、体内人工装具を完全に解放することができる。意図した位置にない場合には、体内人工装具を上記シースの中へ引き戻して、シースを再位置決めし、体内人工装具を意図した位置で再度解放するか、あるいは、患者から完全に取り除くことができる。
【0007】従って、フックを用いて、該フックを血管壁に確実に係合させるが、そのようなフックを血管壁から容易に離脱させるか、あるいは、血管壁に再係合させることができ、その際に、フックが、他のフックあるいは装置の他の部分と絡まったりせず、また、体内人工装具の配備及び再位置決めを阻害しないという利点をもたらす、体内人工装具及び該体内人工装具用の供給装置を提供することが望まれる。本発明の一般的な目的は、特に、そのような装置及び該装置を使用する技術を提供することである。」

D「【0017】移植片アセンブリは、カテーテル状の供給装置によって、供給することができ、該供給装置は、管状の外側のシースと、該シースを貫通する内側の位置決め部材とを備えている。上記シースの先端は、管状のポッドを有するように、形成することができる。体内人工装具は、その薄型の形態まで圧縮され、上記ポッドの開放された先端の中へ装填される。供給装置は、血管の如き、患者の体腔の中に挿入することができ、次に、患者の脈管系を通って、意図する配備部位まで前進することができる。位置決め部材は、ガイドワイヤを収容するようになされた、管腔を有している。供給装置及び移植片アセンブリが、意図する配備部位まで前進すると、シースが後退する間に、位置決め部材は、静止した状態に保持される。シースが後退してアンカーを徐々に露出させると、アンカーは、弾性的に膨張する。フックも同様に、体腔の壁部に向かって、半径方向外方に膨張して、該壁部に係合する。そのインプラントが部分的に配備された状態で、放射線不透過性の造影液体を、シースの管腔を通して注入し、該インプラントの位置を判定すると共に、アンカーが、適正且つ堅固に血管壁に係合しているか否かを判定することができる。
【0018】本発明の重要な特徴の1つは、フックをアンカーに取り付けるための構造である。本発明の1つの特徴においては、上記フックは、該フックが、アンカーの残りの部分から半径方向外方に突出しなければならない、膨張し、配備された装置の意図した形態と、フックが、互いに寄り集まって、体内人工装具の他の部品と共に、シースの中へ引っ込んで、管内供給を可能とする、装置の収縮した薄型の形態との間で、広範囲の半径方向の運動を行うことが重要である。本発明の1つの特徴によれば、装置がその薄型の形態まで収縮している時には、フックは、ポッドの管腔の直径の半径方向内方に、好ましくは、アンカーの半径方向内方に位置するように、配列される。また、フックは、ポッドの中へ引き込まれる際に、ポッドに拘束されないように、また、フック同士が絡まり合わないように、アンカーに取り付けられて該アンカーに対して支持される。本発明の別の特徴においては、ポッドの先端は、フックに嵌合する形状になされ、これにより、フックは、ポッドの中へ引き込まれないが、シースに係合し、フックの鋭利な端部を保護して、鋭利な端部が露出されないようにし、これにより、体内人工装具の定置、再位置決め、あるいは、取り外しを行う際の、損傷又は困難性を生じないようになされている。」

E「【0030】体内人工装具と血管壁との間の係合の確実性は、少なくとも1つの、好ましくは、複数のフック(参照符号24で示す)を、少なくとも1つのアンカー、好ましくは、上流側(先端側)のアンカー14Rに設けることにより、向上させることができる。図11、図12、及び、図25乃至図27に更に詳細に示すように、フックは、フックサポート26の先端に形成されている。これらフックサポートは、アンカー14の主ワイヤと同じ材料から形成されている。上記フックサポートは、フック24が腎臓側の屈曲部20Rを越えて位置するように、アンカー部分18に沿って固定されている。フック部分26は、上述の特許出願に詳細に記載されているように、好ましくは2つの接合部において、アンカー部分18に溶接される。フック24は、管壁の中に入って、装置が埋め込まれた後の移動を阻止するように、鋭利であり、半径方向外方に伸長するのが好ましい。図1は、各々の腎臓側の屈曲部20Rに関連して1つのフックが設けられていることを示しているが、フックの数をより少なくすることができる。」

F「【0036】本発明の重要な特徴は、アンカー14を含む体内人工装具10が、薄型の形態まで収縮することのできる構造に関するものであり、体内人工装具10は、上記薄型の形態において、細い管状の供給装置の中へ挿入されて該供給装置によって搬送されることが可能となり、その際に、フック24は、互いに絡まることはなく、装置が半径方向に収縮したり膨張したりする機能を阻害しない。本発明の重要な特徴は、体内人工装具の少なくとも一方の端部の半径方向外方へフック24を配置する、装置の機能に関する。その装置が収縮している場合で体内人工装具の他の部分の半径方向内方にフックを引っ張っているように前記装置が依然として配備されている時に、これらフックは、体内人工装具と共に配置される。そのような機能は、装置が完全に配備されて供給装置から解放される前に、装置の位置を血管の中で調節することを可能とする。図1、図7、図11及び図12は、フックをその配備された形態と収縮した形態との間に位置させることのできる構成の一実施例を、更に詳細に示している。この実施例においては、フックサポート26には、横方向に伸長する要素が設けられており、これら要素は、体内人工装具10の概ね接線方向に、且つ、フック24が伸長している半径方向外方の方向に対して概ね直交する方向に伸長しているものと考えることができる。後に詳細に述べるように、体内人工装具10が、管状の供給装置の中へ引き込まれる時には、上記横方向の伸長部が、管状の供給装置に係合し、供給装置の対応する開口の内周の中で該内周から隔置された位置まで、フック24を半径方向内方へ引っ張る。
【0037】図6、図7、図11及び図12に示す特定の実施例においては、参照符号52、54でその全体を示す上記横方向の伸長部は、図11に最も良く示すS字形状の形態を有するように、フックサポート26を成形することによって、上記フックサポート26に直接形成することができる。フックサポート26の下方端は、参照符号56(図12)で示すように、ワイヤ部分18の一方に溶接されている。ワイヤ部分26は、中心線58を有するものと考えることができる。フック24とアンカーの屈曲部20Rとの間のフックサポート26の部分は、それぞれがS字形状のパターンを形成するように配列された第1の、第2の及び第3の脚部60、62、64を含む、S字形状の形態に曲げられている。これら脚部60、62、64は、中心線58を含む単一の平面に実質的に存在することができ、該平面は、関連するアンカー14の外縁部に対して概ね接線方向に伸長している。脚部60、62、64は、一連の屈曲部66、68、70、72によって形成されている。屈曲部72から先端側へ伸長しているフックサポート26の部分は、屈曲部66の基端側にあるサポート26の部分に整合するように、中心線58に沿って配置されている。例えば、屈曲部66、68、70、72を形成する角度A、B、C及びDはそれぞれ、135°、90°、90°、135°とすることができる。しかしながら、上記屈曲部によって形成される上記角度、上記脚部の長さ、並びに、上記横方向の伸長部52、54の範囲は、体内人工装具の種々の寸法及び用途に応じて変化するものであることを理解する必要がある。」

G 【図22】より、フックサポートおよびフックが半径方向に収縮した状態にある状態で、4つのフックのうち、左から2つめのフックの全体が、シースのポッド84とほぼ平行に配置されていることが看取できる。

H 軸方向断面図である【図23】のFig.23Dより、フックサポートおよびフックが半径方向に収縮した状態で、フック24の全体が、シースのポッド84とほぼ平行に配置されていることが看取できる。

I 端面図である【図24】のFig.24Dより、フックサポートおよびフックが半径方向に収縮した状態で、フック24の全体が、シースのポッド84のほぼ半径方向に配置されていることが看取できる。

a 摘記事項Aの「【請求項1】 その先端に管状のシースを有する供給装置によって、血管の中に供給されて該血管の中に配備されるようになされた血管用体内人工装具であって、・・・当該血管用体内人工装具が半径方向に収縮して前記供給装置のシースの中に収容されることを可能とする、半径方向に収縮した状態との間で、半径方向に膨張及び収縮可能な、弾性的に膨張可能なアンカーアセンブリと、前記アンカーアセンブリに取り付けられて、半径方向外方に突出するようになされた、少なくとも1つのフックとを備え、該フックは、前記アンカーアセンブリがその膨張位置にある時には、前記移植片の半径方向外方に位置し、また、前記アンカーアセンブリが収縮した状態にある時には、前記供給シースの半径方向内方に位置して該供給シースの中に収容されることが可能である・・・前記アンカーアセンブリに取り付けられて、半径方向外方に突出するようになされた、少なくとも1つのフックとを備え、
・・・
【請求項4】 請求項3の血管用体内人工装具において、
前記アンカーアセンブリが、少なくとも1つのフックサポートを有しており、
各々のフックサポートの先端には、フックが形成されており、
各々のフックサポートは、カム要素を有しており、該カム要素は、前記シースと協働するように該シースに係合し、前記シースが前記アンカーに対して相対的に運動すると、前記フックサポートを半径方向に動かすことを特徴とする、血管用体内人工装具。」との記載からみて、フックはカム要素を有するフックサポートを介して血管用体内人工装具のアンカーアセンブリに取り付けられていることから、当該フックサポートが取り付けられる部分を備えていることは明らかといえることも踏まえると、引用文献には、「血管用体内人工装具のアンカーアセンブリに取り付けられる部分と、カム要素と、フックとを有するフレキシブルなフックサポートおよびフックであって、
該フックサポートおよびフックを半径方向内方に位置する状態に維持するため該フックサポートおよびフックの周囲に配置された運動可能なシースをさらに含み、
該アンカーアセンブリに取り付けられる部分が血管用体内人工装具と連結し、
該カム要素が該アンカーアセンブリに取り付けられる部分と該フック部との間に配置されて、
該フックサポート及びフックが半径方向外方に位置する状態と半径方向内方に位置する状態とを有」することが記載されているといえる。

b 摘記事項Aの「【請求項4】・・・
各々のフックサポートは、カム要素を有しており、該カム要素は、前記シースと協働するように該シースに係合し、前記シースが前記アンカーに対して相対的に運動すると、前記フックサポートを半径方向に動かすことを特徴とする、血管用体内人工装具。」との記載から、引用文献には「半径方向内方に位置する状態が運動可能なシースによって維持され、
該半径方向内方に位置する状態中は、カム要素が該運動可能なシースと接触する」ことが記載されているといえる。

c 摘記事項Eの「【0030】体内人工装具と血管壁との間の係合の確実性は、少なくとも1つの、好ましくは、複数のフック(参照符号24で示す)を、少なくとも1つのアンカー、好ましくは、上流側(先端側)のアンカー14Rに設けることにより、向上させることができる。・・・フック24は、管壁の中に入って、装置が埋め込まれた後の移動を阻止するように、鋭利であり、半径方向外方に伸長するのが好ましい。・・・」との記載から、引用文献には「半径方向外方に位置する状態中は、フックが血管壁と結合」することが記載されているといえる。

d 摘記事項Aの「・・・【請求項5】請求項4の血管用体内人工装具において、前記カム要素は、前記フックの基端側で前記フックサポートによって担持された、少なくとも1つの横方向の伸長部を有しており、各々の横方向の伸長部は、前記シースが、前記フックに向かって先端側へ前進した時に、前記シースの先端に係合するように配列されており、各々の横方向の伸長部は、前記シースに係合することに応答して、関連するフックサポートを半径方向内方に押圧するように形成されていることを特徴とする、血管用体内人工装具。」との記載を踏まえ、摘記事項Fの「【0036】・・・図1、図7、図11及び図12は、フックをその配備された形態と収縮した形態との間に位置させることのできる構成の一実施例を、更に詳細に示している。この実施例においては、フックサポート26には、横方向に伸長する要素が設けられており、これら要素は、体内人工装具10の概ね接線方向に、且つ、フック24が伸長している半径方向外方の方向に対して概ね直交する方向に伸長しているものと考えることができる。後に詳細に述べるように、体内人工装具10が、管状の供給装置の中へ引き込まれる時には、上記横方向の伸長部が、管状の供給装置に係合し、供給装置の対応する開口の内周の中で該内周から隔置された位置まで、フック24を半径方向内方へ引っ張る。」との記載を読めば、引用文献には「カム要素は、フックサポート及びフックが半径方向内方に位置する状態にある間、該フックと該運動可能なシースとの間を分離させるように構成されている」ということが記載されているといえる。

e 図示内容G、軸方向断面からみた図示内容H、端面方向からみた図示内容Iからみて、引用文献には、フックサポートおよびフックが半径方向に収縮した状態で、フック24の全体は、シースのポッド部84にほぼ平行に配置されていることが開示されているといえる。

2 引用発明
引用文献の上記摘記事項A?F及び上記認定事項a?eを、図面も参照しつつ、本願発明に対応させて整理すると、引用文献には以下の発明(以下「引用発明」という。) が記載されているといえる。

「血管用体内人工装具のアンカーアセンブリに取り付けられる部分と、カム要素と、フックとを有するフレキシブルなフックサポートおよびフックであって、
該フックサポートおよびフックを半径方向に収縮した状態に維持するため該フックサポートおよびフックの周囲に配置された運動可能なシースをさらに含み、
該血管用体内人工装具のアンカーアセンブリに取り付けられる部分が血管用体内人工装具と連結し、
該カム要素が該血管用体内人工装具のアンカーアセンブリに取り付けられる部分と該フック部との間に配置されて、
該フックサポートおよびフックが半径方向外方に位置する状態と半径方向内方に位置する状態とを有し、
該半径方向内方に位置する状態が該運動可能なシースによって維持され、 該半径方向内方に位置する状態中は、該カム要素が該運動可能なシースと接触し、
該半径方向外方に位置する状態中は、該フックが血管壁と結合し、
該カム要素は、該フックサポートおよびフックが半径方向に収縮した状態で、フックの全体をシースのポッド部にほぼ平行に配置することにより、該フックと該運動可能なシースとの間を分離させるように構成されている、フックサポートおよびフック。」

第5 対比
本願発明と引用発明(以下、それぞれを「前者」、「後者」といい、それらを併せて「両者」ということがある。)とを、その用語の意味、機能に基いて対比すると、後者における「血管用体内人工装具のアンカーアセンブリに取り付けられる部分」は、前者における「デバイス取り付け部」に相当し、以下同様に、「カム要素」は「圧縮ベアリング部」に、「フック」は「バーブ部」に、「フックサポートおよびフック」は「アンカー」ないし「医療用固定デバイス」に、「半径方向に収縮した状態」は「抑制状態」に、「運動可能な」は「除去可能な」に、「シース」は「抑制部」に、「血管用体内人工装具」は「医療デバイス」に、「半径方向外方に位置する状態」は「拡張状態」に、「半径方向内方に位置する状態」は「圧縮状態」に、「シースのポッド部84にほぼ平行に配置する」は「抑制部に実質的に平行に延在する」に、それぞれ相当する。

そうすると、本願発明は引用発明と次の点で相違し、その余の点で一致する。

(相違点)
フレキシブルなアンカーの圧縮状態において、本願発明では、バーブ部とデバイス取り付け部とが互いに一直線上に並ぶのに対して、引用発明では、フックとアンカーアセンブリに取り付けられる部分とがどのような位置関係であるのか明らかでない点。

第6 相違点の検討
相違点について検討する。
引用文献において、フックサポートおよびフックが半径方向に収縮した状態すなわち本願発明の圧縮状態における、フックとアンカーアセンブリに取り付けられた部分との位置関係は、【図22】?【図24】に図示されるが、いずれを参照しても両者の正確な位置関係は明らかとはいえない。しかしながら、フレキシブルなフックサポートおよびフックが半径方向に収縮した状態において、フックとアンカーアセンブリとがどのような位置関係となるかは、アンカーアセンブリおよびフックサポートの形状や構造および材料、その両者の取り付け方、シースにより当該両者がどのように半径方向に収縮されるか等の様々な要因により変化するものと考えられるところ、フックサポートおよびフックが半径方向に収縮した状態における、フックとアンカーアセンブリに取り付けられる部分との位置関係として、どのような関係とするかは、「フックが、他のフックあるいは装置の他の部分と絡まったりせず、また、体内人工装具の配備及び再位置決めを阻害しないという利点をもたらす、体内人工装具及び該体内人工装具用の供給装置を提供することが望まれる。」(【0007】)との目的にかなう範囲において、適宜決定される設計的事項といえる。そして、その具体例として、引用文献の摘記事項F「・・・屈曲部72から先端側へ伸長しているフックサポート26の部分は、屈曲部66の基端側にあるサポート26の部分に整合するように、中心線58に沿って配置されている。・・・」、【図11】、【図12】にも開示されているように、フックとアンカーアセンブリに取り付けられる部分との位置関係を、一直線上に並ぶように構成することも例示されている。
してみると、フックサポートおよびフックが半径方向に収縮した状態において、フックとアンカーアセンブリに取り付けられる部分とが互いに一直線上に並ぶように構成すること、すなわち上記相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者にとって容易になし得ることといえる。
そして、本願発明において、圧縮状態中はバーブ部とデバイス取り付け部とが互いに一直線に並ぶこととした技術的意義について、明細書の記載を検討しても、本願発明の課題解決手段である、バーブ部と抑制手段との干渉を防ぐために、圧縮状態でバーブと抑制手段との間を分離する(本願明細書【0011】、【0012】)こととの関係において、引用文献の記載から予測し得る範囲を超えるような特別な技術的意義や格別に有利な効果を見出すことはできない。
したがって、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2020-09-30 
結審通知日 2020-10-06 
審決日 2020-10-19 
出願番号 特願2016-201061(P2016-201061)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮下 浩次  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 内藤 真徳
井上 哲男
発明の名称 改良された圧縮性と運搬性とを有する、医療デバイス用固定アンカー  
代理人 蛯谷 厚志  
代理人 出野 知  
代理人 青木 篤  
代理人 胡田 尚則  
代理人 三橋 真二  

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