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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1372003
審判番号 不服2020-2077  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-02-17 
確定日 2021-03-30 
事件の表示 特願2018- 30431「ナノ粒子を含む二成分熱電材料及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 6月14日出願公開、特開2018- 93220、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年11月21日(パリ条約による優先権主張平成23年12月1日、米国)に出願された特許出願(特願2012-255200号)の一部を、平成30年2月23日に特許法第44条第1項の規定による新たな特許出願としたものであって、同年3月23日付けで手続補正がされるとともに上申書が提出され、平成31年2月13日付けで拒絶理由通知がされ、令和1年5月17日付けで手続補正がされるとともに意見書が提出され、同年10月8日付けで拒絶査定(原査定)がされた。
これに対し、令和2年2月17日に拒絶査定不服審判の請求がされ、同年4月2日付けで手続補正書(方式)が提出され、審判請求書の請求の理由が補正がされた。その後当審において、同年9月30日付けで拒絶理由通知がされ、令和3年1月5日付けで手続補正がされるとともに意見書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願請求項1-7に係る発明(以下、それぞれ順に「本願発明1」-「本願発明7」という。)は、令和3年1月5日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-7に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1-7は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
均一に分散したMOナノ粒子及び半導体材料として元素Bi及びTeを含むマトリックスを含む熱電材料の製造方法であって、
アルカリ性水性混合物中で不活性雰囲気下でTe金属粉末を還元剤と反応させることにより、Teの還元された化合物を調製すること、
前記Teの還元された化合物のアルカリ性水性混合物をMOナノ粒子と混合すること、
前記MOナノ粒子とTeの還元された化合物のアルカリ性水性混合物を、ハロゲン化物、アルコキシド、カルボキシレート又はこれらの混合物の少なくとも1種の形態であるBi化合物と混合して熱電材料の沈殿を得ること
を含み、前記式中、Mは2族元素及び12族元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である、方法。
【請求項2】
前記熱電材料の沈殿を、水溶液及び有機溶液からなる群より選ばれる少なくとも1種により洗浄することをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
洗浄した沈殿を乾燥させ、次いで この洗浄した沈殿をプレス成形し、そして 圧縮した洗浄した沈殿を焼結して、MOナノ粒子を含む焼結した熱電材料を形成すること、をさらに含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記還元剤が、ホウ化水素ナトリウムである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記Bi化合物がハロゲン化物の形態である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記Bi化合物がアルコキシドの形態である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記Bi金属化合物がカルボキシレートの形態である、請求項1記載の方法。」

第3 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2008-147625号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【特許請求の範囲】
・・・
【請求項25】
コア材料を含有している複数のコア粒子を提供すること;
それぞれの前記コア粒子の表面を官能化すること;
それぞれの前記コア粒子の官能化された表面上に、シェル材料を含有しているシェルを成長させて、複数のコア-シェル粒子を提供すること;及び
前記コア-シェル粒子を一体化して、ナノ複合材料にすること、
を含む、ナノ複合材料の製造方法。
【請求項26】
熱電デバイスで使用するための熱電材料を製造する方法である、請求項25に記載の方法。
・・・
【請求項30】
前記シェル材料が、半導体である、請求項25に記載の方法。
【請求項31】 前記シェル材料が、カルコゲニドである、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記シェル材料が、テルル化物である、請求項31に記載の方法。」

「【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電材料及びデバイス、特にコア-シェル粒子を用いる均一ナノ複合熱電材料、及びそれらの製造方法に関する。」

「【0031】
コア-シェルナノ粒子の製造
コア-シェルナノ粒子は、官能化シリカナノ粒子を製造し、そして熱電シェル、例えばBi_(2)Te_(3)又はPbTeシェルを、コアの官能化表面上に成長させることによって合成した。単分散シリカナノ粒子は、アルコール、水及びアンモニア中での、アルコキシシランの熱分解及び縮合反応によって製造した。シリカナノ粒子の続く表面改質は、ω末端トリアルコキシオルガノシランを使用して達成した。
【0032】
効果的な手法を開発して、周囲条件においてNaHTeをBi^(3+)及びPb^(2+)錯体と反応させることによって、水性媒体中でBi_(2)Te_(3)及びPbTeナノ構造体を合成した。同様な手法を用いて、Bi_(2)Te_(3)シェルを、3-メルカプトプロピル基で官能化したシリカコア上に形成した。ここで、これらの有機配位子は、Bi^(3+)イオンと錯体を生成することができる。この手法は、PbTeシェル及び他のテルル化物シェルを製造するためにも使用することができる。3-メルカプトプロピル改質シリカ粒子及びBi^(3+)源を含有する溶液を、水性媒体中のNaHTeと反応させ、シリカコア及びテルル化ビスマスシェルを有する熱電コア-シェル粒子を素早く生成した。
【0033】
例1-MPS官能化シリカコアを用いたコア-シェルナノ粒子の製造
シリカコアの製造:
ストーバー法に従って、エタノール、水及びアンモニアの混合物中においてTEOSを反応させることによって、シリカ球を製造した。反応体の比、反応時間、及び温度を調節することによって、様々な寸法のシリカ球を得た。典型的に、約200nmのシリカ粒子の合成のためには、2mLの30%アンモニア、3mLの蒸留した50mLエタノール、及び1.5mLのTEOSを混合し、室温で12時間にわたって混合した。遠心分離によって粒子を収集し、少なくとも3回にわたってエタノール又は蒸留水中に再分散させて、全ての過剰な反応体を除去した。その後、シリカ粒子溶液を一晩にわたってMPS又はAPSと反応させ、遠心分離し、少なくとも5回にわたってエタノール中に再分散させて、未反応のMPSを除去した。最後に、官能化したシリカ球を、後の使用のために蒸留水に再分散させた。得られた粒子は少なくとも数ヶ月にわたって安定であった。
【0034】
Bi-EDTA錯体及びNaHTeの製造:
Bi0.1202gのEDTA、15mLの蒸留水、1mLの5%アンモニア、及び0.032gの硝酸ビスマス5水和物を超音波下で混合し、透明な溶液を得た。その後、Bi-EDTA錯体溶液のpHを、塩酸を使用して8?9に調節した。テルル化水素ナトリウム(NaHTe)を、水素化ホウ素ナトリウムとテルルとを2:1のモル比で水中において反応させることによって製造した。典型的に、80mgの水素化ホウ素ナトリウム、1mLの蒸留水、及び127mgのTe粉末を、0℃のフラスコ中で8時間にわたって反応させた。透明な上澄みから得られたNaHTeを、後の使用のために分離した。
【0035】
Bi-EDTA錯体溶液を、官能化シリカ粒子を含有している溶液に滴下して加えた。その後、混合物を70℃に加熱して、粒子表面へのビスマスの錯化を促進した。その後、NaHTe溶液を、窒素雰囲気において粒子含有溶液に加えた。生成されたままのナノ粒子を収集し、蒸留水及びエタノールで洗浄し、そして後の使用のために乾燥した。
【0036】
図4(A)及び(B)はそれぞれ、直径450nm及び240nmの、MPS官能化SiO_(2)ナノ粒子の代表的なSEM画像を示している。これらの図では、図中のバーが3μmを示している。20nm?500nmに調節可能な直径を有する単分散シリカ粒子は、単に反応体濃度及び反応条件を調節することによって製造できる。MPSによるこれらの粒子の官能化は、SEM画像によって示されるように、それらの寸法及び分散性に影響を与えない。これらの粒子のFTIRスペクトルは、共有結合性の有機部分の存在を確認した。これは、官能化粒子の製造がうまくいったことを示す。NaHTeを、Bi-EDTA錯体及びMPS改質シリカ粒子を含有している混合物に添加すると、それぞれ官能化粒子の表面及び溶液中において、Bi_(2)Te_(3)の不均一及び均一成長が開始した。結果として、コア-シェル粒子及び均一Bi_(2)Te_(3)ナノ粒子の両方が同時に生成した。」

「【0041】
例2:ポリ(アクリル酸)官能化シリカ粒子
コア-シェル熱電粒子を合成する他の手法は、コアとして、ポリ(アクリル酸)官能化シリカ粒子を使用して開発された。これは、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-塩化メチルモルフォリン(DMT-MM)を用いて、ポリ(アクリル酸)(PAA)とアミン官能化シリカ粒子を共有結合させることによって達成された。コア材料としてこれらのカルボキシル基末端シリカ球を用いて、シリカコア上の均一で高い被覆率の熱電材料シェルを得た。窒素又は水素雰囲気において穏やかな温度で粒子をアニール処理して、よく結晶化したBi_(2)Te_(3)シェルを有するコア-シェルSiO_(2)@Bi_(2)Te_(3)粒子を生成した。
【0042】
テトラエチルオルトシリケート(TEOS、98%)、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APS、95%)、ポリ(アクリル酸)(PAA)、ポリビニルピロリドン(10,000、PVP)、アンモニア(28?30%)、エタノール(200プルーフ)、窒化ビスマス5水和物(98%)、水素化ホウ素ナトリウム(98%)、テルル(99.8%)は、Aldrichから購入した。4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-塩化メチルモルフォリン(DMT-MM、98.0%)、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA、99.0%)は、Flukaから入手した。全ての化学種は受け取ったままで使用した。高純度水は、Milipore Milli-Q UV systemから入手した。
【0043】
シリカコアの製造及び表面官能化:
第1の例でのようにして、ストーバー法に従って、エタノール、水及びアンモニアの混合物中においてTEOSを反応させることによって、シリカ球を製造した。典型的に、これらの実験のために使用した約200nmのシリカ粒子の合成のためには、50mLのエタノール、2mLの30%アンモニア、及び1.5mLのTEOSを混合し、室温で12時間にわたって撹拌した。遠心分離によって粒子を収集し、少なくとも3回にわたってエタノール又は蒸留水中に再分散させて、全ての過剰な反応体を除去した。
【0044】
その後、シリカ粒子溶液を、60μLのAPSと一晩にわたって反応させ、遠心分離し、少なくとも5回にわたってエタノール中に再分散させて、未反応のAPSを除去した。その後、71mgのDMT-MM及び18mgのPAAを、アミノ官能化シリカ球溶液に加え、室温で12時間にわたって撹拌した。その後、溶液を遠心分離し、少なくとも5回にわたってエタノール中に再分散させて、過剰な反応体を除去した。
【0045】
第1の例において示したようにして、Bi-EDTA錯体及びNaHTeを製造した。
【0046】
コア-シェルナノ粒子の製造:
Bi-EDTA錯体溶液を、官能化シリカ粒子を含有している溶液に滴下して加えた。その後、混合物を70℃まで加熱して、粒子表面へのビスマスの錯化を促進した。その後、溶液中の等モル量のNaHTeを、窒素雰囲気において粒子含有溶液に加えた。生成したままのコア-シェルナノ粒子を収集し、蒸留水及びエタノールで洗浄し、そして後の使用のために乾燥した。製造したままのコア-シェル粒子を、300?400℃で窒素又は水素雰囲気(10H_(2)、90%N_(2)(体積比))において1?6時間にわたって処理した。」

「【0056】
図13は、PbTeシェル及び炭素コアを有する粒子の製造のための他の例の概略を表している。初めに、例えば上記のようにして、水熱法を使用して、コロイド状の多糖球150をグルコースから製造した。多糖球の炭化は、炭素球(152)をもたらす。続く酸化処理は、表面層154で示される炭素球上のCOOH基をもたらす。官能化表面は、球表面にPbイオンを吸着させて、表面層156を生成する。その後、NaHTeによる還元を行って、PbTeシェル(158)を生成する。この方法は、炭素コア/PbTeシェルのナノ粒子をもたらした。
【0057】
実験的に、4gのグルコースを100mLの蒸留水に溶解し、そして190℃で4時間にわたって水熱処理することによって、炭素球を製造した。暗い茶色の沈殿物を遠心分離によって分離し、3サイクルの遠心分離/洗浄/水及びアルコール中での再分散によって清浄化した。製造したままの糖の球を900℃で4時間にわたってN_(2)雰囲気において炭化した。その後、硝酸を使用して115℃で1時間にわたって、炭素球を酸化した。」

「【0066】
シェル材料の例
ここでは、熱電ナノ複合材料において使用できるシェル材料の例について説明する。しかしながら、これらの例は限定を意味しておらず、他のシェル材料を使用でき、またこれらのシェル材料は、熱電ナノ複合材料以外の用途において使用されるナノ粒子のためにも使用できる。ナノ粒子は、複数の材料の組み合わせ、例えば混合物、多層構造等を含むことができる。
【0067】
シェル材料は半導体(例えばnタイプ又はpタイプのドープされた半導体)、又は他の導電体であってよい。シェル材料は、ビスマス-テルル化合物、及び他の半導体材料、他の導電体、例えば金属若しくは半金属、又は有意のバルク熱電効果を有する他の材料を含むことができる。有利には、シェル内における量子サイズ効果は、シェル材料のバルク熱電特性を変更できる。
【0068】
シェル材料の例としては、任意の従来のバルク熱電材料(すなわち、バルクにおいて有意の熱電特性を有する材料)を挙げることができる。シェル材料のために使用することができる材料としては、テルル化物、例えばテルル化鉛(例えばPbTe)、テルル化ビスマス(例えばBi_(2)Te_(3))、テルル化アンチモン(例えばSb_(2)Te_(3))、テルル化スズ(例えばSnTe)、テルル化ランタン(例えばLa_(2)Te_(3))、(Sn,Pb)Teのような他のテルル化物等;ビスマス-アンチモン化合物(ビスマス-アンチモン合金、又はアンチモン化ビスマスとして言及されることもある);他のアンチモン化物、例えばアンチモン化亜鉛(例えばZnSb、Zn_(4)Sb_(3))等;TAGS((TeGe)_(1-x)(AgSbTe)_(x)(xは約0.2)の形の合金);ケイ素ゲルマニウム合金(Si,Ge);CoSb合金、例えばCoSb_(3)(アンチモン化コバルトとしても言及される)、及びCeFeCoSb合金を挙げることができる。シェル材料は、方コバルト鉱材料、例えばCoSb_(3)(上記記載)、LaFe_(3)CoSb_(12)、及びCeFe_(3)CoSb_(12)を含むこともできる。
【0069】
例えばシェル材料は、任意の半導体カルコゲニドであってよい。ここで、「カルコゲニド」という用語は、硫化物、セレン化物、テルル化物、及び半導体アンチモン化物に言及している。
【0070】
シェル材料は、導電性材料、例えば半導体又は金属であってよい。シェル材料は、無機材料、又は有機材料、例えば導電性ポリマー又は有機半導体であってよい。
【0071】
シェル材料は、熱電デバイスの典型的な作動温度範囲に基づいて選択することができる。例えば、300K>T>500Kの温度範囲では、nタイプシェル材料は、Bi_(2)Te_(3)又はBi_(2)Se_(3)であってよく、pタイプシェル材料は、Bi_(2)Te_(3)又はSb_(2)Te_(3)であってよい。500K>T>700Kの温度範囲では、nタイプシェル材料は、BiでドープされたPbTe又はSnTeであってよく、pタイプシェル材料は、PbTe又はSnTeであってよい。しかしながら、これらの及び任意の他の例は、限定的なものではない。例えば、大きな温度勾配があり、それによって熱電材料が露出されるかもしれない異なる温度範囲に応じて異なる材料を選択する場合、熱電材料は、異なる組成の層、例えば異なるシェル材料を含有している異なる組成の層を有することもできる。
【0072】
例えばAg、Au、Co、Cu、Fe、Ni、Pd若しくはPt又は他の金属(例えば遷移金属)、又はそれらの合金を含むシェル材料を用いることによって、半導体ナノ構造ネットワークに代えて又はこれに加えて、金属ナノ構造ネットワークを使用することもできる。例えば、金属ナノ構造は、ナノ複合材料のnタイプ領域において使用できる。
【0073】
コア材料の例 ここでは、熱電ナノ複合材料において使用することができるコア材料の例を示す。しかしながら、これらの例は限定をすることを意図するものではなく、他のコア材料が使用でき、また、そのようなコア材料は、熱電ナノ複合材料以外の用途においても使用できる。
【0074】
熱電材料に関して、コア材料は、シェル材料よりも実質的に小さい熱伝導性、少なくとも10分の1以下の熱伝導性、又は100分の1以下の熱伝導性、又は更に大きい桁数で小さい熱伝導性を有することができる。小さい熱伝導性を有する材料は典型的に、導電性も低く、従ってコア材料は、シリカのような電気的絶縁体であってよい。コア材料は、誘電体のような電気的絶縁体であってよい。例えばコア材料は、無機酸化物、例えばシリカ、アルミナ等であってよい。
【0075】
コア材料の例としては、無機の非金属材料、例えば電気的絶縁体を挙げることができ、この電気的絶縁体としては、金属元素と非金属元素との無機化合物、例えばアルミニウムと酸素との無機化合物(例えば酸化アルミニウム又はアルミナ、Al_(2)O_(3))、カルシウムと酸素との無機化合物(例えば酸化カルシウム、CaO)、ケイ素と窒素との無機化合物(例えば窒化ケイ素、Si_(3)N_(4))、ケイ素と酸素との無機化合物(シリカ、SiO_(2))、及びケイ素と炭素との無機化合物(例えば炭化ケイ素)等を挙げることができる。コア材料は、ガラスであってよい。コア材料の他の例としては、絶縁性無機酸化物を挙げることができる。
【0076】
コア材料の例としては、シリカ(SiO_(2))、アルミナ(Al_(2)O_(3))、SnO_(2)、ZnO、LaCoO_(4)、NaCoO_(4)、(ZnO)_(x)(In_(2)O_(3))_(y)、酸化イットリウム(例えばY_(2)O_(3))、酸化ジルコニウム(例えばジルコニアZrO_(2))、安定化ジルコニア、例えばイットリア安定化ジルコニア(YSZ)、La_(2)O_(3)安定化YSZ、酸化チタン(例えばTiO_(2))、酸化セリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、他の酸化物材料、例えばここで他に示された1又はそれよりも多くの酸化物の混合酸化物を包含する混合酸化物を挙げることができる。他のコア材料の例としては、カーボンナノチューブ、多糖、炭素、フラーレン、例えばC_(60)、電気的に絶縁性のポリマーを包含するポリマー、及び空隙又は多孔質コア材料中の気体(例えば空気、窒素、不活性ガス)を挙げることができる。
【0077】
しかしながら、他の酸化物、窒化物、酸窒化物、炭化物、ケイ素化物、ホウ素化物等の、他の熱伝導性が比較的小さい材料を使用できることも理解すべきである。コア材料は導電性であってもよい。
【0078】
コア材料の例としては、非導電性材料、及び導電性が小さい材料も挙げることができる。他の例では、コア材料は、例えば導電性を改良するために、導電性無機酸化物、例えばZnO、又は熱電セラミックであってよい。他の例としては、空気(例えばコア内の気泡又は他の空隙)、又は多孔質材料、例えば多孔質Bi_(2)Te_(3)を挙げることができる。
【0079】
本発明のいくつかの例では、コア材料は、シェル材料よりも小さい熱伝導性を有し、またいくつかの例では、コア材料は、シェル材料よりも有意に小さい熱伝導性を有する。
【0080】
Bi_(2)Te_(3)をシェル材料として有するコア-シェルナノ粒子の代表的な例としては、Bi_(2)Te_(3)/SiO_(2)、Bi_(2)Te_(3)/PbTe、Bi_(2)Te_(3)/ZnO、Bi_(2)Te_(3)/カーボンナノチューブ、Bi_(2)Te_(3)/炭素、及びBi_(2)Te_(3)/空気を挙げることができる(これらの例では、コア材料は「/」の後に示されている)。
【0081】
コア材料は、フォノン散乱を増加させ且つ熱伝導性を低下させるための欠陥、重い原子、又は他の特徴を含むこともある。
【0082】
コア材料は、シェル材料と同様な格子構造を有する材料を含有することもできる。例えばコア-シェル粒子は、CdTeコア及びPbTeシェルを有することができる。
【0083】
コアは、熱電材料を含むことができる。熱電ナノ複合材料の例は、シェルが第1の熱電材料を含有しており、且つコアが第2の熱電材料を含有しているコア-シェルナノ粒子を含む。1又は複数の効果、例えばシェル及び/又はコアでの量子サイズ効果、フォノン散乱等によって、第1又は第2の熱電材料のバルク試料で得られる熱電特性を超えて、熱電特性を改良することができる。熱電特性は、粒子間空隙を含む追加のナノ複合材料成分によって、更に促進することができる。」

したがって、上記引用文献1には、段落【0076】に記載された、コア材料をZnOとした場合として、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「官能化ZnOナノ粒子を製造し、そして熱電シェル、例えばBi_(2)Te_(3)シェルを、コアの官能化表面上に成長させる方法であって、
MPS官能化したZnOナノ粒子を得て、
Bi-EDTA錯体溶液を得て、pHを調節し、
水素化ホウ素ナトリウム、蒸留水、及びTe粉末を反応させて、テルル化水素ナトリウム(NaHTe)を得て、後の使用のために分離し、
Bi-EDTA錯体溶液を、官能化ZnOナノ粒子を含有している溶液に滴下して加え、その後、混合物を加熱して、粒子表面へのビスマスの錯化を促進し、その後、NaHTe溶液を、窒素雰囲気において粒子含有溶液に加える、方法。」

2.引用文献2について
また、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2010-114419号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0030】
本発明の前記ナノコンポジット熱電変換材料は、4つの製造方法のいずれかによって得ることができる。
第1の製造方法は、本発明のナノコンポジット熱電変換材料を製造するために、
熱電変換材料の第1原料物質の塩、および分散材を含む水スラリーが投入された溶媒に、還元剤を滴下することにより、水分が表面に存在する前記分散材が前記第1原料物質に分散された第1複合粒子を生成する第1工程、
前記第1複合粒子および熱電変換材料の第2原料物質の塩が投入された溶媒に、還元剤を滴下することにより、前記第1原料物質および第2原料物質との化合物に前記分散材が分散された熱電変換材料を生成する第2工程、
を含む液相合成による製造方法である。
【0031】
前記第1の製造方法によれば、分散材の表面に吸着した水分子と熱電変換材料の塩とが微細領域で反応することが可能となり、実験的に解明されていないが、分散材と熱電変換材料の母相との界面に極微小な反応生成物(熱電変換物質の酸化物と推定される。)が不規則に形成されることにより、前記界面に0.1nm以上の表面粗さを形成することが可能になると考えられる。
【0032】
前記熱電変換材料の第1原料物質の塩としては、例えば、Bi、Sb、Ag、Pb、Ge、Cu、Sn、As、Se、Te、Fe、Mn、Co、Siから選択される少なくとも1種以上の元素の塩、例えばCoおよびNi、Sn又はGeの塩、例えば前記元素のハロゲン化物、例えば塩化物、フッ化物、臭素化物、好適には塩化物や、硫酸塩、硝酸塩などが挙げられ、前記熱電変換材料の第2原料物質の塩としては、前記元素のうち第1原料物質以外の元素、例えばSbの塩、例えば前記元素のハロゲン化物、例えば塩化物、フッ化物、臭素化物、好適には塩化物や、硫酸塩、硝酸塩などが挙げられる。」

したがって、上記引用文献2には、「二成分主族半導体材料を含む熱電材料の製造方法において、酸化された金属化合物がハロゲン化物の形態である構成」という技術的事項が記載されていると認められる。

2.引用文献3、4について
(1)引用文献3について
また、原査定で周知技術を示す文献として引用された引用文献3(特開2004-87537号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0072】
次に、本発明の第1の実施の形態に係るp型熱電変換材料の製造方法について説明する。本発明に係る結晶配向セラミックスの製造方法は、原料調製工程と、成形工程と、焼結工程とを備えている。
【0073】
初めに、原料調製工程について説明する。原料調製工程は、化1の式に示すコバルト層状酸化物のCoO_(2)層と格子整合性を有する「結晶面A」を備えた第1粉末を含む原料を調製する工程である。
【0074】
本実施の形態においては、第1粉末として、その発達面が結晶面Aからなる異方形状粉末が用いられる。特に、第1粉末は、その発達面が結晶面Aからなる板状粉末が好ましい。また、第1粉末は、化1の式に示すコバルト層状酸化物と同一組成を有するものであっても良く、あるいは、コバルト層状酸化物の前駆体であっても良い。さらに、第1粉末は、1種類の化合物からなるものであっても良く、あるいは、2種以上の化合物の混合物であっても良い。
【0075】
また、第1粉末がコバルト層状酸化物の前駆体である場合、第1粉末と、第2粉末とを所定の比率で混合する。「第2粉末」とは、前駆体である第1粉末と反応して化1の式に示すコバルト層状酸化物となる化合物をいう。第2粉末の組成及び配合比率は、合成しようとするp型熱電変換材料の組成、及び、反応性テンプレートとして使用する第1粉末の組成に応じて定まる。また、第2粉末の形態については、特に限定されるものではなく、水酸化物、酸化物粉末、複合酸化物粉末、炭酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩などの塩、アルコキシド等を用いることができる。
【0076】
例えば、第1粉末として、Co(OH)_(2)、CoO、Co_(3)O_(4)及び/又はCoO(OH)からなる板状粉末を用いる場合には、第2粉末として、Ca等のアルカリ土類金属元素を含有する第2化合物、アルカリ金属元素又はBi(以下、これらを「第3元素」という。)を含有する第3化合物、及びCu又は元素C(以下、これらを「第4元素」という。)を含有する第4化合物を用いる。
・・・
【0080】
第3化合物は、焼成によって第3元素を含む酸化物を形成し得るものであればよく、第3元素を含有する酸化物、水酸化物、塩、アルコキシド等、種々の化合物を用いることができる。
【0081】
Naのみを含有する第3化合物としては、具体的には、炭酸ナトリウム(Na_(2)CO_(3))、硝酸ナトリウム(NaNO_(3))、ナトリウムイソプロポキシド(Na(OC_(3)H_(7)))等が好適な一例として挙げられる。
【0082】
Kのみを含有する第3化合物としては、具体的には、炭酸カリウム(K_(2)CO_(3))、酢酸カリウム(CH_(3)COOK)、硝酸カリウム(KNO_(3))、カリウムイソプロポキシド(K(OC_(3)H_(7)))等が好適な一例として挙げられる。
【0083】
Biのみを含有する第3化合物としては、具体的には、酸化ビスマス(Bi_(2)O_(3))、硝酸ビスマス(Bi(NO_(3))_(3))、塩化ビスマス(BiCl_(3))、水酸化ビスマス(Bi(OH)_(3))、ビスマストリイソプロポキシド(Bi(OC_(3)H_(7))_(3))、Bi金属単体等が好適な一例として挙げられる。」

(2)引用文献4について
また、原査定で周知技術を示す文献として引用された引用文献4(特開2007-21670号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0041】
また、本発明のコアシェル型ナノ粒子は、1分子中に親水基を1残基以上および疎水基を有する有機化合物が表面に付着していることが好ましい。コアシェル型ナノ粒子の表面に所定の有機化合物が付着していることにより、コアシェル型ナノ粒子の凝集を防ぐことが可能となるからである。なお、コアシェル型ナノ粒子の表面とは、コアシェル型ナノ粒子のシェル部の表面を意味するものである。また、上述したように、本発明においては、シェル部の構成材料としてInSbが用いられる。
・・・
【0048】
上記所定の有機化合物として具体的には、分散媒中でコアシェル型ナノ粒子のシェル部の構成材料であるInSbに配位して安定化する有機化合物が用いられる。このような有機化合物としては、例えばオクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン等のアミノアルカン類;パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸等の高級脂肪酸;高級アルコール類;などを好ましいものとして挙げることができる。上述したように、所定の有機化合物の親水基がアミノ基、カルボキシル基または水酸基であることが好ましいからである。
【0049】
高級アルコール類としては、1分子中に長鎖アルキル基を1残基以上および水酸基を2残基以上有するものであることが好ましく、例えば長鎖アルキル-1,2-ジオール等が挙げられる。後述する「4.コアシェル型ナノ粒子の製造方法」に記載するように、ホットソープ法によりコアシェル型ナノ粒子を合成する際に、シェル部前駆体としてアンチモンアルコキシドを用いた場合は、長鎖アルキル-1,2-ジオール等を用いることにより、アンチモンアルコキシドを安定化させることができるからである。」

「【0072】
本発明に用いられるシェル部前駆体としては、上述したシェル部の構成元素を含むものであり、上記コア部微粒子を被覆することが可能なものであれば特に限定されるものではない。本発明においては、InSbでコア部微粒子を被覆するため、シェル部前駆体としてはInを含む化合物とSbを含む化合物とを用いればよい。このInを含む化合物としては、Inを含む有機金属化合物を用いることができ、例えば、インジウムアセチルアセトナート、酢酸インジウム、シクロペンタジエニルインジウム、インジウムアルコキシド、塩化インジウム等が挙げられる。また、Sbを含む化合物としては、Sbを含む有機金属化合物を用いることができ、例えばSbアルコキシド、酢酸アンチモン、トリフェニルアンチモン、トリメチルシリルアンチモン等が挙げられる。また、このようにシェル部前駆体が2種以上用いられる場合、その混合比としては、例えば目的とする化合物の化学量論比に基づいて設定すればよい。」

「【0086】
この微量の元素がドープされたInSbをシェル部とするコアシェル型ナノ粒子は、元素の種類によってn型半導体形成材料にもp型半導体形成材料にもなるため、半導体形成材料として有用である。添加される所定の元素を含む化合物としては、ドープされる元素の種類によって異なるが、n型半導体形成材料となるコアシェル型ナノ粒子を作製する場合は、例えばSeもしくはTeのトリブチルホスフィン溶液、ジイソプロピルテルライド、テルルアルコキシド等が用いられる。一方、p型半導体形成材料となるコアシェル型ナノ粒子を作製する場合、添加される所定の元素を含む化合物としては、例えば酢酸亜鉛、コバルトカルボニル、塩化カドニウム等が用いられる。」

(4)引用文献3、4に記載された周知技術
したがって、「例えば、上記引用文献3、4に記載されているように、「熱電材料を製造する際に、酸化された金属化合物がアルコキシドの形態である。」という構成は、周知技術であると認められる。

第4 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

ア 引用発明における「熱電材料、例えばBi_(2)Te_(3)シェルを、成長させる方法」は、本願発明1における「熱電材料を形成する、方法」に対応する。
また、Znは、「12族元素」であるから、本願発明1と引用発明とは、「MOナノ粒子及び半導体材料として元素Bi及びTeを含む熱電材料の製造方法であって」、「前記式中、Mは12族元素である」点で共通する。

イ 本願発明1における「アルカリ性水性混合物中で不活性雰囲気下でTe金属粉末を還元剤と反応させることにより、Teの還元された化合物を調製すること」と、引用発明における「水素化ホウ素ナトリウム、蒸留水、及びTe粉末を反応させて、テルル化水素ナトリウム(NaHTe)を得て、後の使用のために分離し」とを対比する。
引用発明における「水素化ホウ素ナトリウム」、「Te粉末」、「テルル化水素ナトリウム(NaHTe)」は、それぞれ本願発明1における「還元剤」、「Te金属粉末」、「Teの還元された化合物」に相当する。
したがって、本願発明1と引用発明とは、「Te金属粉末を還元剤と反応させることにより、Teの還元された化合物を調製すること」を含む点で一致する。

ウ したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
<一致点>
「MOナノ粒子及び半導体材料として元素Bi及びTeを含む熱電材料の製造方法であって、
Te金属粉末を還元剤と反応させることにより、Teの還元された化合物を調製すること
を含み、前記式中、Mは12族元素である、方法。」

<相違点>
<相違点1>
熱電材料の製造方法について、本願発明1は、「均一に分散したMOナノ粒子及び半導体材料として元素Bi及びTeを含むマトリックスを含む」という構成を備えるのに対し、引用発明は、「官能化ZnOナノ粒子を製造し、そして熱電シェル、例えばBi_(2)Te_(3)シェルを、コアの官能化表面上に成長させる方法」であって、本願発明1の上記のような構成を備えていない点。

<相違点2>
「Teの還元された化合物を調製すること」について、本願発明1は、「アルカリ性水性混合物中で不活性雰囲気下」で反応させるという構成を備えるのに対し、引用発明はそのような構成を備えていない点。

<相違点3>
本願発明1は、「前記Teの還元された化合物のアルカリ性水性混合物をMOナノ粒子と混合すること」、「前記MOナノ粒子とTeの還元された化合物のアルカリ性水性混合物を、ハロゲン化物、アルコキシド、カルボキシレート又はこれらの混合物の少なくとも1種の形態であるBi化合物と混合して熱電材料の沈殿を得ること」という構成を備えるのに対し、引用発明はそのような構成を備えていない点。

(2)相違点についての判断
ア 事案に鑑み、上記相違点1について、先に検討する。
引用発明は、「官能化ZnOナノ粒子を製造し、そして熱電シェル、例えばBi_(2)Te_(3)シェルを、コアの官能化表面上に成長させる方法」であって、官能化したナノ粒子を得て、コア粒子の官能化表面にビスマスを錯化させ、その後、Te化合物(NaHTe)を加えてビスマスと反応させ、コア粒子表面上で熱電シェルを成長させる方法であり、引用発明に基づいて、相違点1に係る本願発明1の「均一に分散したMOナノ粒子及び半導体材料として元素Bi及びTeを含むマトリックスを含む」という構成を採用することは、阻害要因がある。
しかも、相違点1に係る本願発明1の上記構成は、上記引用文献2-4には記載されていない。
よって、引用発明において、引用文献2-4に記載された技術的事項に基づき、相違点1に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。

イ したがって、上記相違点2、3について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明、引用文献2-4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2.本願発明2-7について
本願発明2-7も、本願発明1の「均一に分散したMOナノ粒子及び半導体材料として元素Bi及びTeを含むマトリックスを含む」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2-4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は、請求項1、2、5、6、9に係る発明について、上記引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、請求項1-6、9に係る発明について、上記引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものであり、また、上記請求項7、8に係る発明について、上記引用文献1、2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

しかしながら、令和3年1月5日付け手続補正により補正された請求項1-7は、それぞれ「均一に分散したMOナノ粒子及び半導体材料として元素Bi及びTeを含むマトリックスを含む」という構成を有するものとなっており、上記のとおり、本願発明1-7は、上記引用文献1に記載された発明及び上記引用文献2-4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について
1.特許法第36条第6項第2号について
当審では、請求項1の記載は、「元素Bi及びTe」のBiとTe各々と、「還元された化合物の形態の少なくとも1種の金属」、「ハロゲン化物、アルコキシド、カルボキシレート又はこれらの混合物の少なくとも1種の形態である少なくとも1種の酸化された金属化合物」、「主族金属の少なくとも2種の異なる金属化合物」との対応関係が明確でないので、請求項1及び請求項1を引用する請求項2?9に係る発明は、明確でなく、また、請求項5に記載の「還元された金属化合物」との用語は、請求項5が引用する請求項1に記載されておらず、請求項5に記載の「請求項1記載の」は「請求項2記載の」の誤記であるのか明確でなく、請求項5に記載の「テルル金属の混合物」は、「テルル金属と他の金属と」との混合物を意味するのか、「テルル金属とアルカリ性水性媒体」との混合物を意味するのか、あるいは他の意味であるのか明確でないとの拒絶の理由を通知している。

しかしながら、令和3年1月5日付けの補正において、請求項1は、
「均一に分散したMOナノ粒子及び半導体材料として元素Bi及びTeを含むマトリックスを含む熱電材料の製造方法であって、
アルカリ性水性混合物中で不活性雰囲気下でTe金属粉末を還元剤と反応させることにより、Teの還元された化合物を調製すること、
前記Teの還元された化合物のアルカリ性水性混合物をMOナノ粒子と混合すること、
前記MOナノ粒子とTeの還元された化合物のアルカリ性水性混合物を、ハロゲン化物、アルコキシド、カルボキシレート又はこれらの混合物の少なくとも1種の形態であるBi化合物と混合して熱電材料の沈殿を得ること
を含み、前記式中、Mは2族元素及び12族元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である、方法。」と補正され、
補正前の請求項5は、「前記還元剤が、ホウ化水素ナトリウムである、請求項1記載の方法。」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1-7は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2-4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-03-10 
出願番号 特願2018-30431(P2018-30431)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (H01L)
P 1 8・ 121- WY (H01L)
P 1 8・ 537- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田邊 顕人  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 恩田 春香
▲吉▼澤 雅博
発明の名称 ナノ粒子を含む二成分熱電材料及びその製造方法  
代理人 鶴田 準一  
代理人 青木 篤  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 南山 知広  
代理人 三橋 真二  
代理人 胡田 尚則  

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