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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01B
管理番号 1372008
審判番号 不服2020-11079  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-08-07 
確定日 2021-03-30 
事件の表示 特願2019- 57634「ワイヤーハーネスの配索構造」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 7月11日出願公開,特開2019-114553,請求項の数(6)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成28年11月11日に出願された特願2016-220186号(以下「原出願」という。)の一部を平成30年7月5日に新たな特許出願(特願2018-128316号)とし,さらに,その一部を平成31年3月26日に新たな特許出願としたものであって,その手続の経緯は以下のとおりである。

平成31年 3月26日 :上申書の提出
令和 2年 2月19日付け:拒絶理由通知書
令和 2年 4月 8日 :意見書,手続補正書の提出
令和 2年 5月11日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 2年 8月 7日 :審判請求書,手続補正書の提出(以下この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
1 (進歩性)本願請求項1-6に係る発明は,以下の引用文献1に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開平10-012047号公報

第3 本件補正について
本件補正は,特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
本件補正における,請求項1において「前記電線が前記配索対象部材の長手方向に沿って延びるように,前記電線が固定された前記外装部材が前記配索対象部材に配置され」との事項を追加する補正は,外装部材についてその配置位置を限定するものであるので,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。そして,当該配置位置については,当初明細書の段落【0016】,図1,8等に記載されているから,新規事項を追加するものではない。
また,本件補正における,請求項1において「前記配索対象部材は長手方向に直交する断面における外面が円形である棒状の部材であり」との事項を追加する補正は,配索対象部材についてその形状を限定するものであるので,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。そして,当該形状については,当初明細書の段落【0016】等に記載されているから,新規事項を追加するものではない。
さらに,本件補正における,請求項1において「における外面が円形である部分」との事項を追加する補正は,外装部材についてその配置位置を限定するものであるので,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。そして,当該形状については,当初明細書の段落【0056】,図8等に記載されているから,新規事項を追加するものではない。
また,本件補正における,請求項1において「円形状に湾曲しつつ接している」との事項を追加する補正は,外装部材について,その配置さらた際の位置及び形状を限定するものであるので,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。そして,当該形状については,当初明細書の段落【0056】,図8等に記載されているから,新規事項を追加するものではない。
そして,「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように,補正後の請求項1-6に係る発明は,独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願請求項1-6に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明6」という。)は,令和2年8月7日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-6に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
シート状に形成された外装部材と,
前記外装部材の一方主面側に配設されて前記一方主面に固定された少なくとも1本の電線と,
前記電線の配索対象となる配索対象部材と,
を備え,
前記電線が前記配索対象部材の長手方向に沿って延びるように,前記電線が固定された前記外装部材が前記配索対象部材に配置され,
前記配索対象部材は長手方向に直交する断面における外面が円形である棒状の部材であり,
前記外装部材は,前記配索対象部材における外面が円形である部分の周りにその表面に沿って円形状に湾曲しつつ接している領域を有し,
前記外装部材の主面上において前記電線と前記外装部材とが前記電線の延在方向に沿って間隔をあけた複数箇所で固定されている,ワイヤーハーネスの配索構造。
【請求項2】
請求項1に記載のワイヤーハーネスの配索構造であって,
前記配索対象部材はリンフォースメントである,ワイヤーハーネスの配索構造。
【請求項3】
請求項2に記載のワイヤーハーネスの配索構造であって,
前記外装部材には前記外装部材の幅方向一端部と他端部とが重なるように前記リンフォースメントの周囲全体に巻回されている部分が存在する,ワイヤーハーネスの配索構造。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のワイヤーハーネスの配索構造であって,
前記外装部材のうち前記電線の延在方向に沿った一部の領域が,前記配索対象部材の周りにその表面に沿って曲げられている領域であり,前記外装部材のうち前記電線の延在方向に沿った他の少なくとも一部の領域はフラットな状態とされている,ワイヤーハーネスの配索構造。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のワイヤーハーネスの配索構造であって,
前記外装部材が前記配索対象部材の周りにその表面に沿って曲げられている領域において,前記外装部材が前記電線より前記配索対象部材側に位置する,ワイヤーハーネスの配索構造。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のワイヤーハーネスの配索構造であって,
前記外装部材が前記配索対象部材の周りにその表面に沿って曲げられている領域において,前記外装部材が前記電線より外側に位置する,ワイヤーハーネスの配索構造。」

第5 引用文献,引用発明等
1 引用文献1について
(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付加した。以下同じ。)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 複数本の被覆電線を集束してなるワイヤーハーネスの一部分を,被覆電線毎若しくは任意本数の被覆電線の組に分離するとともに,該分離部分を扁平基板に設けた接着面に接着して形成したことを特徴とする扁平部分を有するワイヤーハーネス。
【請求項2】 前記扁平基板を合成樹脂製とし,薄肉のヒンジを設けて屈曲できるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の扁平部分を有するワイヤーハーネス。」

「【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は,扁平部分を有するワイヤーハーネス及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
複数本の被覆電線を集束してなるワイヤーハーネスを,被覆電線毎若しくは任意本数の被覆電線の組に分離し,該分離部分を扁平形状に形成したものは,実開平5-46608号公報,特公平6-4396号公報及び実公平7-13380号公報に開示されている。これらは,ワイヤーハーネスの配索スペースや相手方部品の形状に応じ,ワイヤーハーネスを部分的に扁平形状として配索の作業性を高めるようにしたものである。」

「【0011】
請求項2に記載の本発明のワイヤーハーネスは,扁平基板が薄肉のヒンジにより屈曲することができる。従って,配索スペースの立体形状に順応できるから,配索スペースを有効に利用できる効果を有する。」

「【0015】
扁平基板11は,ホリプロピレン樹脂やアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂等の合成樹脂製の基板12の片面に両面テープ13を貼付して,接着面14(尚,図面においては,接着面14の厚み方向の寸法は誇張されている。)を設けたものである。この扁平基板11は,接着面14が上面になるように上記固定治具2の固定面3に固定されている。ワイヤーハーネス15は,複数本の被覆電線16をポリ塩化ビニル製のテープ17で巻いたり,コルゲートチューブ18に通したりして集束したものである。このワイヤーハーネス15の途中において,テープ17若しくはコルゲートチューブ18の一部分を取り除いて,被覆電線16を露出させる。そして,各被覆電線16毎に上記電線保持治具4の保持部5の又部6に挟むとともに,ワイヤーハーネス15の両端部分を保持して,固定治具2の固定面3の上方に緊張状に架け渡す。続いて,固定治具2を上昇させると,扁平基板11の接着面14に,電線保持治具4間に架け渡された被覆電線16が接着する。」

「【0018】
図3は,扁平基板11の変形例を示したもので,基板12の長手方向の中央に薄肉のヒンジ21が形成されている。上記のように被覆電線16を接着した後,ヒンジ21により扁平基板11を屈曲させることができる。従って,図4(a),(b)に示すように相手部品の形状に合わせて屈曲したり,扁平状態のまま配索できる。また,上記ヒンジ21は,複数設けたり,長手方向に対して直角に設けたりすることもできる。」

















(2)上記(1)から,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「複数本の被覆電線16を集束してなるワイヤーハーネスの一部分を,被覆電線16毎若しくは任意本数の被覆電線16の組に分離するとともに,該分離部分を扁平基板11に設けた接着面14に接着して形成し,前記扁平基板11を合成樹脂製とし,薄肉のヒンジ21を設けて屈曲できるようにしたことを特徴とする,扁平部分を有するワイヤーハーネスであって,
扁平基板11は,ホリプロピレン樹脂やアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂等の合成樹脂製の基板12の片面に両面テープ13を貼付して,接着面14を設けたものであり,
複数本の被覆電線16が扁平基板11の接着面14に接着され,
基板12の長手方向の中央に薄肉のヒンジ21が形成されており,
被覆電線16を接着した後,ヒンジ21により扁平基板11を屈曲させることができ,
相手部品の形状に合わせて屈曲させて配索することができる,
ワイヤーハーネス。」

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。
ア 引用発明の「扁平基板11」は,「合成樹脂製」の薄板状のものであるので,本願発明1の「シート状に形成された外装部材」である点で一致する。

イ 本願発明1の「前記外装部材の一方主面側に配設されて前記一方主面に固定された少なくとも1本の電線」と引用発明の「複数本の被覆電線16」とを対比する。
引用発明の「扁平基板11」の「接着面14」は,本願発明1の「外装部材の一方主面」に相当する。
また,引用発明の「複数本の被覆電線16」は,本願発明1の「少なくとも1本の電線」に相当する。
そして,引用発明において,「複数本の被覆電線16が扁平基板11の接着面14に接着され」るものであり,「複数本の被覆電線16」は「扁平基板11の接着面14」側に配置され,「扁平基板11の接着面14」に固定されるといえるので,本願発明1と引用発明とは「前記外装部材の一方主面側に配設されて前記一方主面に固定された少なくとも1本の電線」を有する点で一致する。

ウ 引用発明の「扁平基板11」は「相手部品の形状に合わせて屈曲させて配索することができる」ものであるので,当該「相手部品」は本願発明1の「配索対象部材」に相当する。
したがって,本願発明1と引用発明とは「前記電線の配索対象となる配索対象部材」を有する点で一致する。

エ 本願発明1の「前記電線が前記配索対象部材の長手方向に沿って延びるように,前記電線が固定された前記外装部材が前記配索対象部材に配置され」ることと引用発明の「複数本の被覆電線16」,「扁平基板11」,「相手部品」と含む構成とを対比する。
引用発明において,「複数本の被覆電線16」が固定された「扁平基板11」が「相手部品」に対して「配索」されるものであるので,本願発明1と引用発明とは,後記の点で相違するものの,「前記電線が固定された前記外装部材が前記配索対象部材に配置され」る点で一致する。

オ 引用発明の「数本の被覆電線16」が固定された「扁平基板11」は本願発明1の「ワイヤーハーネス」に相当する。
したがって,引用発明の「数本の被覆電線16」が固定された「扁平基板11」を「相手部品の形状に合わせて屈曲させて配索」された構造は,本願発明1の「ワイヤーハーネスの配索構造」に対応する。

したがって,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。
<一致点>
「シート状に形成された外装部材と,
前記外装部材の一方主面側に配設されて前記一方主面に固定された少なくとも1本の電線と,
前記電線の配索対象となる配索対象部材と,
を備え,
前記電線が固定された前記外装部材が前記配索対象部材に配置された,
ワイヤーハーネスの配索構造。」

<相違点>
(相違点1)
本願発明1は「前記電線が前記配索対象部材の長手方向に沿って延びるように」外装部材が配置されているのに対し,引用発明では「相手部品」の形状が特定されておらず,「数本の被覆電線16」が「相手部品」の長手方向に沿って延びていることについて特定されていない点。

(相違点2)
本願発明1は「前記配索対象部材は長手方向に直交する断面における外面が円形である棒状の部材であ」るのに対し,引用発明では「相手部品」の形状が特定されていない点。

(相違点3)
本願発明1は「前記外装部材は,前記配索対象部材における外面が円形である部分の周りにその表面に沿って円形状に湾曲しつつ接している領域を有」するのに対し,引用発明は当該事項について特定されていない点。

(相違点4)
本願発明1は「前記外装部材の主面上において前記電線と前記外装部材とが前記電線の延在方向に沿って間隔をあけた複数箇所で固定されている」ものであるのに対し,引用発明は当該事項について特定されていない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み,最初に上記相違点4について検討する。
引用発明において,「扁平基板11は,ホリプロピレン樹脂やアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂等の合成樹脂製の基板12の片面に両面テープ13を貼付して,接着面14を設けたものであり,複数本の被覆電線16が扁平基板11の接着面14に接着され」るものであることから,引用文献1の図1等も参照すれば,引用発明は「基板12の片面に」配置された「両面テープ13」により,「複数本の被覆電線16が扁平基板11の接着面14に」複数本の被覆電線16の延在方向全面に,すなわち,間隔を有せずに「接着され」るものであるといえる。
当該引用発明において,「基板12の片面に両面テープ13を貼付」る際に,両面テープを間隔を空けて複数配置することにより,「複数本の被覆電線16」を「扁平基板11の接着面14に」間隔をあけた複数箇所で接着するように変更する動機は認められない。引用発明において,両面テープを基板12に一様に貼り付けることに替えて,小さくされた複数の両面テープを用意して基板12に貼り付けることは,工数を増やすことになるため,当業者が想到する上で阻害要因となる。
したがって,当業者といえども,引用発明から,相違点4に係る,「前記外装部材の主面上において前記電線と前記外装部材とが前記電線の延在方向に沿って間隔をあけた複数箇所で固定されている」との構成を容易に想到することができたとはいえない。

(3)小括
上記(1),(2)のとおりであるから,他の相違点については検討するまでもなく,本願発明1は当業者であっても引用発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2-6について
本願発明2-6は,本願発明1の発明特定事項を全て含み,さらに限定したものであるから,本願発明1が,引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえないことから,本願発明2-6も,引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

第7 原査定について
1 理由1(特許法第29条第2項)について
本願発明1-6は「前記外装部材の主面上において前記電線と前記外装部材とが前記電線の延在方向に沿って間隔をあけた複数箇所で固定されている」ものであり,上記第6で判断したとおり,当業者であっても,拒絶査定において引用された引用文献1に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。したがって,原査定の理由1を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-03-10 
出願番号 特願2019-57634(P2019-57634)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 和田 財太  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 ▲吉▼澤 雅博
井上 和俊
発明の名称 ワイヤーハーネスの配索構造  
代理人 有田 貴弘  
代理人 有田 貴弘  
代理人 吉竹 英俊  
代理人 有田 貴弘  
代理人 吉竹 英俊  
代理人 吉竹 英俊  

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