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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05B
管理番号 1372100
審判番号 不服2019-10611  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-08-08 
確定日 2021-03-08 
事件の表示 特願2016- 82522号「フィルム型ヒーター」拒絶査定不服審判事件〔平成29年10月19日出願公開、特開2017-191762号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年4月15日の出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
平成30年3月6日付けで拒絶理由の通知
平成30年5月16日に意見書及び手続補正書の提出
平成30年9月3日付けで拒絶理由の通知
平成30年11月8日に意見書及び手続補正書の提出
平成31年4月17日付けで補正の却下の決定及び拒絶査定
令和元年8月8日に拒絶査定不服審判の請求及び手続補正書の提出
令和2年6月12日付けで当審における拒絶理由の通知
令和2年8月21日に意見書及び手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、令和2年8月21日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載によれば、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「経線方向60cm、緯線方向29cmとしたフレキシブル下面外装フィルム上面上に、緯線方向一方端寄りの経線方向に延伸した導電性一側経線パターン部、および、該一側経線パターン部の経線方向10cm置き毎となる5箇所から枝別れし、当該フレキシブル下面外装フィルム上面上の、緯線方向他方端寄りとなる位置まで延伸した5本の導電性一側枝線パターン部からなる一側櫛状電極パターンを設け、当該フレキシブル下面外装フィルム上面上の、一側経線パターン部とは反対がわであって、緯線方向他方端寄りの経線方向に延伸し、前記各一側枝線パターン部先端から電気的に隔絶した導電性対峙経線パターン部、および、該対峙経線パターン部経線方向の、前記各一側枝線パターン部間の中間位置に対応する5箇所から枝別れし、当該フレキシブル下面外装フィルム上面上の、緯線方向一方端寄りの、前記一側経線パターン部近傍であって電気的に隔絶する位置まで延伸した5本の導電性対峙枝線パターン部からなる対峙櫛状電極パターンを設け、一側櫛状電極パターン一側枝線パターン部上には3mm置き毎に配した、PTC(Positive Temperature Coefficient:正温度係数)特性を有する16本のヒーター帯膜を積層し、該ヒーター帯膜上に対峙櫛状電極パターン対峙枝線パターン部を積層するよう配してヒーター回路としたものとするか、対峙櫛状電極パターン対峙枝線パターン部上には3mm置き毎に配した、PTC(Positive Temperature Coefficient:正温度係数)特性を有する16本のヒーター帯膜を積層し、該ヒーター帯膜上に一側櫛状電極パターン一側枝線パターン部を積層するよう配してヒーター回路としたものとするかすると共に、一側経線パターン部は、電流の流れ方向の断面積を、1つの一側枝線パターン部の電流の流れ方向の断面積よりも大きく設定したものとし、経線方向に等間隔を隔てて緯線噛合状に配した各一側枝線パターン部と各対峙枝線パターン部との経線方向端間に渡り、フレキシブル下面外装フィルム上面上の緯線方向3mm置き毎に配した16本のヒーター帯膜を経線状に配列し、経線方向に交互に配した各一側枝線パターン部、各対峙枝線パターン部、および、それらに経線方向に跨る各ヒーター帯膜とが、互いの交叉箇所で電気的に接続するよう積層し、当該一側櫛状電極パターンの一側経線パターン部、および、対峙櫛状電極パターンの対峙経線パターン部の適所から、夫々フレキシブル下面外装フィルム上面上より経緯方向何れかの外側に電源供給用ハーネス部を導出し、当該フレキシブル下面外装フィルム上面上の、一側櫛状電極パターンと対峙櫛状電極パターン、およびそれに積層したヒーター帯膜からなるヒーター回路上面上に、フレキシブル上面外装フィルムを積層状に一体化し、該フレキシブル下面外装フィルムとフレキシブル上面外装フィルムとの間に、前記ヒーター回路を密閉状にラミネート封止、一体化して全厚さが0.4cmにしたものとし、それら複数枚を相互に重なり合わない配置に敷き詰めてから、隣接するもの相互間を養生粘着テープで固定、設置可能にするものとしたことを特徴とするフィルム型ヒーター。」

第3 令和2年6月12日付けで通知した拒絶の理由
当審において、令和2年6月12日付けで通知した拒絶の理由は、概略以下のとおりである。
<理由:進歩性について>
本願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用例1に記載された発明、引用例2?7に記載された事項(引用例2及び3は、下記設計的事項1について、引用例4及び5は、下記設計的事項2について、引用例6及び7は、下記周知の事項について、それぞれ参照した。)に基いて、本願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
<引用例一覧>
1.特開平11-343707号公報
2.特開昭51-48843号公報
3.特開平10-223356号公報
4.特開2005-339898号公報
5.実願昭56-74786号(実開昭57-186997号)のマイクロフィルム
6.特開2016-29656号公報
7.特開2007-179776号公報

第4 引用文献
1 引用例1について
(1) 引用例1の記載
当審において通知した拒絶の理由に引用された引用文献であって、本願の出願前に頒布された引用例1には、次の記載がある(下線は、参考のため当審で付与したものである。以下同様。)。
「【0008】又、第2にポリイミドフィルム又は耐熱性ポリエチレンフィルムの下側絶縁膜にスクリーン印刷した並列回路の発熱用面抵抗体を同じ材質の上側絶縁膜により被覆して成る厚さ-約0.3mm以下のPTCヒーターを、瓦棒や折板などの金属屋根板の下面へ密着状態に貼り付け一体化すると共に、更に上記PTCヒーターの下面へ、これよりも厚肉なポリエチレンフィルムの断熱膜を密着状態に貼り付け一体化することによって、上記金属屋根板とPTCヒーター並びに断熱膜との合計3層から厚くとも約5.0mmに形成したことを特徴とするものである。」
「【0012】上記PTCヒーター(13)はキュリー点以上の温度になると、急激に抵抗が増加することにより、自己温度制御機能を発揮する定温度発熱体として、図2?4に抽出するように発熱用面抵抗体(14)とその一対の電極線(15)(16)並びにこれらを被覆する上下一対の絶縁膜(17)(18)とから成り、その設定温度は40℃?85℃、定格電圧はAC/DC5V?200V、絶縁抵抗は500VDCにて100MΩである。
【0013】即ち、PTCヒーター(13)の上記面抵抗体(14)はマンガンやニッケル、コバルト、鉄などの酸化物焼結体(セラミック)を抵抗材料又は熱素子として、その粉末ペーストが下側絶縁膜(18)へシルクスクリーン印刷されることにより、上記電極線(15)(16)も含む全体的な並列回路(等価回路)を形作っている。
【0014】そのため、PTCヒーター(13)を約0.2?0.3mmの全体厚さとして、極めて軽量・薄肉な面状に作成することができ、その並列の抵抗回路により断線事故を起すおそれがなく、安全性に富むほか、上記成分の調整を行なうことにより、その設定温度を変えることも可能である。
【0015】更に、自己温度制御機能を併せ持つので、特別なバイメタルやその他の温度測定センサーが不要となり、これらのON・OFFによる断続的な制御と異なって、連続的な抵抗値の変化による制御を行なうため、発熱温度の揺らぎが極めて小さく抑制され、局部的な温度上昇もないので、融雪用屋根材としての複合化に著しく有益である。
【0016】又、上下一対の絶縁膜(17)(18)としては何れもポリイミドフィルム(好ましくはデュポン社の商品名「KAPTON」)が採用されている。そのため、これに対する上記面抵抗体(14)のスクリーン印刷を適確に行なえるばかりでなく、-269℃の低温領域から+400℃の高温領域に至る広い温度範囲での優れた機械的・電気的・化学的特性を発揮する。但し、そのポリイミドフィルムに代えて、耐熱性に富むポリエチレンフィルムを採用してもさしつかえない。
【0017】尚、一対の電極線(15)(16)は図2から明白なように、上記面抵抗体(14)の表面に配列設置されており、その全体が下側絶縁膜(18)と一体化された上側絶縁膜(17)によって、被覆された面状態にある。(19)(20)は上記電極線(15)(16)からのリード線であり、これを通じて電圧が印加されることによって、上記面抵抗体(14)が発熱することは言うまでもない。サーモスイッチは図示省略してある。」
「【図2】


「【図3】


「【図4】


(2) 引用例1の記載事項からわかること
上記図2及び図4から、櫛状の一対の電極線(15)、(16)を発熱用面抵抗体(14)上に備えたものが看取できる。また、上記図4から、発熱用面抵抗体(14)及び電極線(15)、(16)は、上下一対の絶縁膜(17)、(18)により被覆されており、その態様はラミネートされた態様ということができる。
(3) 引用例1に記載された発明
そして、上記記載事項(1)及び(2)を総合すると、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「櫛状の一対の電極線(15)、(16)を発熱用面抵抗体(14)上に備えたPTCヒーター(13)であり、上下一対のポリイミドフィルムまたはポリエチレンフィルムからなる絶縁膜(17)、(18)によりラミネート被覆され、電極線(15)(16)からのリード線(19)(20)が導出され、これを通じて電圧が印加される、PTCヒーター。」

2 引用例2及び3について
(1) 引用例2の記載
当審において通知した拒絶の理由に引用された引用文献であって、本願の出願前に頒布された引用例2には、次の記載がある。
「本発明において、くし状の電極を設ける形態は種々のものが用いられる。たとえば、第2図に示すように面状の抵抗体4の片面にくし状の電極5および6を設ける方法、第3図に示すように面状の抵抗体7の両面にくし状の電極8および9を設ける方法、第4図に示すように面状の抵抗体10の内部にくし状の電極11および12を設ける方法、さらに図示しないが、一方のくし状の電極を面状の抵抗体の片面に設け、他方のくし状の電極を面状の抵抗体の内部に設ける方法などが用いられる。」(公報2ページ左下欄4?15行)



(2) 引用例3の記載
当審において通知した拒絶の理由に引用された引用文献であって、本願の出願前に頒布された引用例3には、次の記載がある。
「【0015】前記PTC材料の表面に前記導電回路が形成された不織布の形成は、種々の形態で可能であり、例えば、図1に示すように、PTC材料1の片面側に導電回路が形成された不織布2を形成し、裏面には無地の不織布3を設けることができる。かかる形成形態であれば、片面よりPTC材料全体にムラなく電力を供給でき、また、無地の不織布によりPTC材料を補強でき、特に、曲げ破壊強さが大きくなり、常温での大きな変形に対しても耐え得る構造とすることができる。また、図2に示すように、PTC材料1の両面に導電回路が形成された不織布2を設けることもできる。かかる形成形態であれば、図1と異なり導電方向がPTC材料の厚み方向になるためより安定した性能を得ることができる。また、該導電回路の形状としては、特に制限されず、櫛形形状、波形形状等いずれのものも使用できる。」
「【0019】実施例1
高密度ポリエチレン(商品名「3300FP」三井石油化学社製)55重量部とカーボンブラック(商品名「ダイヤブラックG」三菱化学社製)45重量部を加圧ニーダにて約10分間混練した。この混練物を熱プレス機にて加熱、加圧し、厚さ約1mmのシート状に成形し、PTC材料を作製した。一方、導電ペースト(商品名「#13」エヌ・イーケムキャット製)を用いてポリエステル繊維から成る不織布(商品名「H-8004」日本バイリーン社製)表面に図3に示す櫛形形状の電極4を形成するため、スクリーン印刷を行った。これを140℃で30分間加熱乾燥し、表裏面間の導通が得られる強固な導電回路を有する不織布を得た。 次いで、前記PTC材料の片側に前記電極が印刷された不織布をのせ、もう片側には無地の不織布をのせ熱プレス機により熱圧着させた。このようにして、図1と同様の断面を有するPTCヒーターを得た。」



(3) 引用例2及び3からわかること
上記(1)及び(2)の記載事項を踏まえると、正の抵抗温度係数を有する面状の抵抗体に櫛状の電極を設けるに際して、面状の抵抗体に対して、一方の面に対となる2つの櫛状電極を設けるか、両面のそれぞれに、対の内の一つの櫛状の電極を設けるかは、当業者が適宜選択し得る設計的事項(以下「設計的事項1」という。)であると認められる。

3 引用例4及び5について
(1) 引用例4の記載
当審において通知した拒絶の理由に引用された引用文献であって、本願の出願前に頒布された引用例4には、次の記載がある。
「【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら説明する。図1及び図2に本発明の第1の実施の形態における面状発熱体の構成を示している。図1において、面状発熱体1は、複数の面状の発熱部材3が相互に所定の間隔をあけて並列に配置された発熱部2と、電源4に接続され、発熱部2を通電する複数の面状電極5と、これらを挟んでラミネートする外層材6とを備える。ここで、発熱部2はカーボン等を主成分とする発熱部材3からなり、複数の発熱部材3がPETポリエチレンテレフタレート)などの絶縁性フィルムシート上に一定の幅、厚さ及び間隔で、短冊状に印刷されて形成される。そして、この発熱部2に対して4つの面状電極5が形成される。この場合、発熱部2の両側、つまり各発熱部材3の両端にそれぞれ一連の面状電極51(5)が1つずつ設けられ、さらにその中間(つまり、各発熱部材3上の、両側の面状電極51の間)にこれら面状電極51と平行に一連の面状電極52(5)が2つ設けられて、発熱部2が複数のブロック21、22、23により形成され、ブロック毎に発熱密度が設定される。ここで、各発熱部材3は同じ材質で、均一な幅、厚さに作られているから、電気的特性又は構造が均一であり、発熱部2は中間の各面状電極52により一部不均等に分割される。この中間の面状電極52により、発熱部2は各ブロック21、22、23毎に面状電極5 間距離が設定され、各発熱部材3 は膜圧や抵抗率に差がないから、ブロック21、22、23別に発熱量は発熱部材の長さ(電極間距離) に比例する電気抵抗とその部位での電圧降下量から計算される物理的法則に基いて変化することになる。このようにして発熱部2にブロック21、22、23別に特有の発熱密度が設定され、ブロック21、22、23別に特有の発熱部温度(到達温度)が持たされる。この実施の形態では、発熱部2は中央の大きいブロック22と、これに比較して両側の小さいブロック21、23に分割されて、発熱部2の中央のブロック22は発熱密度が低く設定され、これに比して両側のブロック21、23は発熱密度が高く設定される。このようにして、サーミスタ7等の温度検出素子の設置場所に相当するブロック21又は23の、電極51、52間距離が縮められることにより、そのブロック21又は23の発熱量が他のブロック22より任意に増加される。なお、この場合、面状発熱体1の中で相対的に電極51、52間距離が小さいブロック21 、23と電極52、52間距離が大きいブロック22との発熱密度の差が大きくなるようであれば、その大きいブロック22の各発熱部材3の幅(面積、敷設率)を拡大して、該発熱密度の差を軽減すればよい。また、このように発熱部2を複数のブロック21、22、23に分割することで、電極51、52に流れる電流が小さくて済むために、電極51、52の幅(断面積)を小さくできるので、並列に敷設された面状発熱体1の間に生じる低温部(温度ムラ)は目立ちにくくなる。」



(2)引用例5の記載
当審において通知した拒絶の理由に引用された引用文献であって、本願の出願前に頒布された引用例5には、次の記載がある。






(3) 引用例4及び5からわかること
PTCヒーターに用いる発熱用面抵抗体の態様として、引用例4には、電極(51、52)に対して、複数のヒーター帯を配置すること(図1)、引用例5には、櫛歯上の電極に複数のヒーター帯を配置すること(第4図)が記載されていて、このように、発熱用面抵抗体を構成するに際して、一つの面として構成するか、複数のヒーター帯として構成するかということは、当業者が適宜選択し得る設計的事項(以下「設計的事項2」という。)であると認められる。

4 引用例6及び7について
(1) 引用例6の記載
当審において通知した拒絶の理由に引用された引用文献であって、本願の出願前に頒布された引用例6には、次の記載がある。
「【0072】
[共通配線と対向配線の幅]
次に共通配線640と対向配線650、660(以下、区別のない場合、共通配線640と対向配線650、660をあわせて給電線と呼ぶ)の幅に関して詳細を説明する。図7は、給電線の線幅と電流と消費電力の関係を説明する説明図である。図8は、ヒータ600の回路図(図4の等価回路図)である。図9は、ヒータ600に流れる電流を示す図である。図10は、本実施例の効果を説明する説明図である。
【0073】
本実施例のように、シートPの幅サイズに応じて発熱領域を変えるヒータ600は、シートPが通過しない領域におけるヒータ600の発熱が抑制されている。そのためヒータ600は、定着処理に不要な発熱が少なく、エネルギー(電力)効率に優れているという特徴を持つ。しかしながら、このようなヒータ600において制御可能な発熱は発熱体620の発熱のみである。そのため、発熱体620以外の部分で発熱が生じた場合、その発熱は定着処理に不要な発熱となる虞がある。
【0074】
不要な発熱としては具体的には、給電線で生じる発熱が挙げられる。配線640や配線650、660などの給電線は、少なからず抵抗を持つため電流が流れることで少なからず発熱を行う。そして、給電線が発熱した場合、その発熱は定着に寄与しにくい発熱になるので、それだけ無駄に電力を消費してしまうことになる。定着に寄与しにくい発熱とは、例えば、ヒータ600の長手方向端部におけるシートPが通過しない領域の発熱である。あるいは、基板610の短手方向において発熱体620を中心とする4mmほどの領域よりも外側の領域(ニップ部Nから離れた領域)の発熱である。したがって、ヒータ600が消費する電力を効率よく定着処理に用いるためには、給電線での電力消費を抑制することが望ましい。
【0075】
給電線の電力消費を抑制する方法としては、給電線の抵抗を小さくすることが挙げることができる。なお、導線の抵抗rは下記の式であらわすことができる。
抵抗r=ρ・L/(w・t) ρ:比抵抗、L:線長さ、w:線幅、t:線厚み
ここで、線幅w以外の条件が同一である線幅の異なる2つの導線に対してそれぞれ給電を行うと、図7に示すような関係が得られる。つまり、図7で示す通り、電流と消費電力の間には、電流が大きくなるほど消費電力が大きくなっていく関係がある。また、同じ大きさの電流を流した場合について、幅が2mmの導線と幅が0.7mmの導線での消費電力を比較してみると、幅が0.7mmの導線よりも幅が2mmの導線の方が消費する電力が小さいことがわかる。
【0076】
そのためヒータ600は、給電線の幅を太くして抵抗を下げることで給電線の電力消費を抑制することが望ましい。しかしながら、単純に全ての給電線の幅を太くした場合、太い給電線を配置するためのスペースが基板610上に求められるため、基板610のサイズが大型化する虞がある。特に、もともとの寸法が短い基板610の短手方向のサイズは給電線の幅の変化による影響が顕著である。
【0077】
したがって、給電線は、適切な太さで設けられることが望ましい。そのため、給電線は、流れる電流の大きさに応じて太さが異なることが望ましい。詳細には、給電線において、大きな電流が流れる導線はその幅を太く設け、小さな電流が流れる導線はその幅を細く設けることが望ましい。」



(2) 引用例7の記載
当審において通知した拒絶の理由に引用された引用文献であって、本願の出願前に頒布された引用例7には、次の記載がある。
「【0032】
面状発熱体1は、この柔軟性基材2の柔軟性樹脂フィルム4上に銀ペーストの印刷・乾燥により形成した一対の電極5と、電極5に重なるように高分子抵抗体インクを印刷・乾燥により形成した高分子抵抗体6 を形成するとともに、上記電極5、高分子抵抗体6、及び柔軟性基材2と接着性を有するアクリル系接着剤等の接着性樹脂層7を予め形成されたポリエステルフィルム等の薄肉の電気絶縁性オーバコート材をラミネートした柔軟性被覆材8を貼り合わせて形成される。
【0033】
上記電極5は、伸び規制部3で伸びを規制した方向に沿うように対向させて幅が広い主電極5a,5bを配設し、それぞれの主電極5a,5bから交互に櫛形形状の複数の枝電極5c、5dを設けてあり、これに重なるように配設した高分子抵抗体6に枝電極5c、5dより給電することで、高分子抵抗体6 に電流が流れ、発熱するようになる。この高分子抵抗体6は高分子特性を有し、温度が上昇すると高分子抵抗体6の抵抗値が上昇し、所定の温度になるように自己温度調節機能を有するようになり、温度コントロールが不要で安全性の高い面状発熱体としての機能を有するようになる。」



(3) 引用例6及び7からわかること
櫛歯状に配置した電極線において、引用例6には、本願発明1の「一側経線パターン部」に相当する給電線の幅を太くすること(【0074】?【0077】)、引用例7には、同じく主電極を枝電極より幅を広くすること(【0033】、【図1】)が記載されている。
このように、主電極(給電線)及び枝電極からなる構成において、主電極(給電線)の断面積を枝電極より大きくすることは、本願出願前に周知の事項(以下「周知の事項」という。)である。

第5 対比
本願発明と引用発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
引用発明の「発熱用面抵抗体(14)」は、「PTCヒーター(13)」をなすものであり、その形状からみて、本願発明1の「PTC(Positive Temperature Coefficient:正温度係数)特性を有する」「ヒーター帯膜」に相当する。
そして、引用発明の「上下一対のポリイミドフィルムまたはポリエチレンフィルムからなる絶縁膜(17)、(18)によりラミネート被覆され」た「PTCヒーター」は、本願発明の「フィルム型ヒーター」に相当する。
引用発明の「リード線(19)(20)」は、「これを通じて電圧が印加される」ものであるから、本願発明の「電源供給用ハーネス部」に相当する。
引用発明の「上下一対のポリイミドフィルムまたはポリエチレンフィルムからなる絶縁膜(17)、(18)」は、フィルムからなるのでフレキシブルであることは明らかであり、上の絶縁膜を上面の外装とみれば、下の絶縁膜は、下面の外装といえるので、本願発明の「フレキシブル下面外装フィルム」及び「フレキシブル上面外装フィルム」に相当する。
そして、引用例1の図2でみて、長手方向を経線方向、短手方向を緯線方向とすると、引用発明の「下」の「絶縁膜」は、本願発明の「経線方向60cm、緯線方向29cmとしたフレキシブル下面外装フィルム」と、「経線方向、緯線方向を所定の長さとしたフレキシブル下面外装フィルム」との限りで一致する。
また、引用発明の「櫛状の」「電極線(15)」のうち、「櫛状」における長手方向をなす電極線は、その配置からみて、本願発明の「緯線方向一方端寄りの経線方向に延伸した導電性一側経線パターン部」に相当する。
さらに、引用発明の櫛状における長手方向に対して垂直方向に枝分かれしている電極線は、本願発明の「該一側経線パターン部の経線方向10cm置き毎となる5箇所から枝別れし、当該フレキシブル下面外装フィルム上面上の、緯線方向他方端寄りとなる位置まで延伸した5本の導電性一側枝線パターン部」と、「該一側経線パターン部の経線方向から枝別れし、当該フレキシブル下面外装フィルム上面上の、緯線方向他方端寄りとなる位置まで延伸した導電性一側枝線パターン部」との限りで一致する。そして、引用発明の「櫛状の」「電極線(15)」は、本願発明の「一側櫛状電極パターン」をなすものである。
また、引用発明の「櫛状の」「電極線(16)」のうち、「櫛状」における長手方向をなす電極線は、「櫛状の」「電極線(15)」との配置関係を踏まえ、また、「櫛状の一対の電極線(15)、(16)を発熱用面抵抗体(14)上に備えたPTCヒーター(13)であ」って、「櫛状の一対の電極線(15)、(16)」が互いに絶縁されていることは明らかであることから、本願発明の「一側経線パターン部とは反対がわであって、緯線方向他方端寄りの経線方向に延伸し、前記各一側枝線パターン部先端から電気的に隔絶した導電性対峙経線パターン部」に相当する。
さらに、引用発明の「櫛状」の「電極線(16)」のうち、長手方向に対して垂直方向に枝分かれしている電極線は、引用例1の図2の配置からみて、電極線(15)の枝線の略中間位置に位置しているので、本願発明の「該対峙経線パターン部経線方向の、前記各一側枝線パターン部間の中間位置に対応する5箇所から枝別れし、当該フレキシブル下面外装フィルム上面上の、緯線方向一方端寄りの、前記一側経線パターン部近傍であって電気的に隔絶する位置まで延伸した5本の導電性対峙枝線パターン部」と、「該対峙経線パターン部経線方向の、前記各一側枝線パターン部間の中間位置に対応する箇所から枝別れし、当該フレキシブル下面外装フィルム上面上の、緯線方向一方端寄りの、前記一側経線パターン部近傍であって電気的に隔絶する位置まで延伸した導電性対峙枝線パターン部」の限りで一致する。
そして、引用発明の「櫛状の」「電極線(16)」は、本願発明の「対峙櫛状電極パターン」をなすものである。
また、引用発明の「櫛状の一対の電極線(15)、(16)を発熱用面抵抗体(14)上に備えた」態様と、本願発明の「一側櫛状電極パターン一側枝線パターン部上には3mm置き毎に配した、PTC(Positive Temperature Coefficient:正温度係数)特性を有する16本のヒーター帯膜を積層し、該ヒーター帯膜上に対峙櫛状電極パターン対峙枝線パターン部を積層するよう配してヒーター回路としたものとするか、対峙櫛状電極パターン対峙枝線パターン部上には3mm置き毎に配した、PTC(Positive Temperature Coefficient:正温度係数)特性を有する16本のヒーター帯膜を積層し、該ヒーター帯膜上に一側櫛状電極パターン一側枝線パターン部を積層するよう配してヒーター回路としたものとするかする」とは、「一側櫛状電極パターン一側枝線パターン部、PTC(Positive Temperature Coefficient:正温度係数)特性を有するヒーター帯膜、対峙櫛状電極パターン対峙枝線パターン部を積層するよう配してヒーター回路とした」との限りで一致する。
さらに、引用発明において、電極線(15)、(16)と面抵抗体とが、互いの交叉箇所で電気的に接続するよう積層されていることは、明らかであり、引用例1の図2からみて、電極(15)(16)の枝分かれの間隔は、略等間隔でなされていることが看取できるから、本願発明の「経線方向に等間隔を隔てて緯線噛合状に配した各一側枝線パターン部と各対峙枝線パターン部との経線方向端間に渡り、フレキシブル下面外装フィルム上面上の緯線方向3mm置き毎に配した16本のヒーター帯膜を経線状に配列し、経線方向に交互に配した各一側枝線パターン部、各対峙枝線パターン部、および、それらに経線方向に跨る各ヒーター帯膜とが、互いの交叉箇所で電気的に接続するよう積層」することと、「経線方向に等間隔を隔てて緯線噛合状に配した各一側枝線パターン部と各対峙枝線パターン部との経線方向端間に渡り、フレキシブル下面外装フィルム上面に配したヒーター帯膜を経線状に配列し、経線方向に交互に配した各一側枝線パターン部、各対峙枝線パターン部、および、それらに経線方向に跨る各ヒーター帯膜とが、互いの交叉箇所で電気的に接続するよう積層」することの限りで一致する。
引用発明の「電極線(15)(16)からのリード線(19)(20)が導出され」る態様は、引用例1の図2において、絶縁膜(18)上で、リード線(19)(20)が導出されていることからみて、本願発明の「当該一側櫛状電極パターンの一側経線パターン部、および、対峙櫛状電極パターンの対峙経線パターン部の適所から、夫々フレキシブル下面外装フィルム上面上より経緯方向何れかの外側に電源供給用ハーネス部を導出し」た態様に相当する。
引用発明の「上下一対のポリイミドフィルムまたはポリエチレンフィルムからなる絶縁膜(17)、(18)によりラミネート被覆され」ることは、引用例1の図4を参酌するに、本願発明の「当該フレキシブル下面外装フィルム上面上の、一側櫛状電極パターンと対峙櫛状電極パターン、およびそれに積層したヒーター帯膜からなるヒーター回路上面上に、フレキシブル上面外装フィルムを積層状に一体化し、該フレキシブル下面外装フィルムとフレキシブル上面外装フィルムとの間に、前記ヒーター回路を密閉状にラミネート封止、一体化して全厚さが0.4cmにしたものとし」と、「当該フレキシブル下面外装フィルム上面上の、一側櫛状電極パターンと対峙櫛状電極パターン、およびそれに積層したヒーター帯膜からなるヒーター回路上面上に、フレキシブル上面外装フィルムを積層状に一体化し、該フレキシブル下面外装フィルムとフレキシブル上面外装フィルムとの間に、前記ヒーター回路を密閉状にラミネート封止、一体化し」たとの限りで一致する。
そして、引用例1の図2における各部材の配置と本願の図1における各部材の配置関係を踏まえると、本願発明と引用発明との間に次の一致点及び相違点が認められる。

[一致点]
「経線方向、緯線方向を所定の長さとしたフレキシブル下面外装フィルム上面上に、緯線方向一方端寄りの経線方向に延伸した導電性一側経線パターン部、および、該一側経線パターン部の経線方向から枝別れし、当該フレキシブル下面外装フィルム上面上の、緯線方向他方端寄りとなる位置まで延伸した導電性一側枝線パターン部からなる一側櫛状電極パターンを設け、当該フレキシブル下面外装フィルム上面上の、一側経線パターン部とは反対がわであって、緯線方向他方端寄りの経線方向に延伸し、前記各一側枝線パターン部先端から電気的に隔絶した導電性対峙経線パターン部、および、該対峙経線パターン部経線方向の、前記各一側枝線パターン部間の中間位置に対応する箇所から枝別れし、当該フレキシブル下面外装フィルム上面上の、緯線方向一方端寄りの、前記一側経線パターン部近傍であって電気的に隔絶する位置まで延伸した導電性対峙枝線パターン部からなる対峙櫛状電極パターンを設け、一側櫛状電極パターン一側枝線パターン部、PTC(Positive Temperature Coefficient:正温度係数)特性を有するヒーター帯膜、対峙櫛状電極パターン対峙枝線パターン部を積層するよう配してヒーター回路としたものとするかすると共に、経線方向に等間隔を隔てて緯線噛合状に配した各一側枝線パターン部と各対峙枝線パターン部との経線方向端間に渡り、フレキシブル下面外装フィルム上面に配したヒーター帯膜を経線状に配列し、経線方向に交互に配した各一側枝線パターン部、各対峙枝線パターン部、および、それらに経線方向に跨る各ヒーター帯膜とが、互いの交叉箇所で電気的に接続するよう積層し、当該一側櫛状電極パターンの一側経線パターン部、および、対峙櫛状電極パターンの対峙経線パターン部の適所から、夫々フレキシブル下面外装フィルム上面上より経緯方向何れかの外側に電源供給用ハーネス部を導出し、当該フレキシブル下面外装フィルム上面上の、一側櫛状電極パターンと対峙櫛状電極パターン、およびそれに積層したヒーター帯膜からなるヒーター回路上面上に、フレキシブル上面外装フィルムを積層状に一体化し、該フレキシブル下面外装フィルムとフレキシブル上面外装フィルムとの間に、前記ヒーター回路を密閉状にラミネート封止、一体化した、
フィルム型ヒーター。」

[相違点1]
経線方向、緯線方向を所定の長さとしたフレキシブル下面外装フィルムについて、本願発明は、「経線方向60cm、緯線方向29cmとした」としているのに対して、引用発明は、そのような特定をしていない点。

[相違点2]
一側経線パターン部の経線方向から枝別れすることについて、本願発明は、「該一側経線パターン部の経線方向10cm置き毎となる5箇所から枝別れし」た、「5本の導電性一側枝線パターン部」としているのに対して、引用発明は、枝線の枝分かれの間隔や、枝線の本数について、特定をしていない点。

[相違点3]
対峙経線パターン部経線方向の、各一側枝線パターン部間の中間位置に対応する箇所から枝別れし、フレキシブル下面外装フィルム上面上の、緯線方向一方端寄りの、前記一側経線パターン部近傍であって電気的に隔絶する位置まで延伸した導電性対峙枝線パターン部からなる対峙櫛状電極パターンを設けることについて、本願発明は、「5箇所から枝別れし」た、「5本の導電性対峙枝線パターン部」としているのに対して、引用発明は、枝分かれの箇所数や本数について、特定をしていない点。

[相違点4]
一側櫛状電極パターン一側枝線パターン部、PTC(Positive Temperature Coefficient:正温度係数)特性を有するヒーター帯膜、対峙櫛状電極パターン対峙枝線パターン部を積層することについて、本願発明は、「一側櫛状電極パターン一側枝線パターン部上には3mm置き毎に配した」、「16本のヒーター帯膜を積層し」、「該ヒーター帯膜上に対峙櫛状電極パターン対峙枝線パターン部を積層するよう配し」「とするか」、「対峙櫛状電極パターン対峙枝線パターン部上には3mm置き毎に配した」、「16本のヒーター帯膜を積層し」、「該ヒーター帯膜上に一側櫛状電極パターン一側枝線パターン部を積層するよう配し」「とする」としているのに対して、引用発明は、「櫛状の一対の電極線(15)、(16)」を「発熱用面抵抗体(14)上に備え」たと特定をしている点。

[相違点5]
一側経線パターン部と及び一側枝線パターン部との電流の流れ方向の断面積について、本願発明は、「一側経線パターン部は、電流の流れ方向の断面積を、1つの一側枝線パターン部の電流の流れ方向の断面積よりも大きく設定したものとし」としているのに対して、引用発明は、そのような特定をしていない点。

[相違点6]
フレキシブル下面外装フィルム上面に配したヒーター帯膜について、本願発明は、「フレキシブル下面外装フィルム上面上の緯線方向3mm置き毎に配した16本のヒーター帯膜」としているのに対して、引用発明は、発熱用面抵抗体である点。

[相違点7]
ヒーター回路を密閉状にラミネート封止、一体化したものについて、本願発明は、「全厚さが0.4cmにしたものとし、それら複数枚を相互に重なり合わない配置に敷き詰めてから、隣接するもの相互間を養生粘着テープで固定、設置可能にするものとしたこと」としているのに対して、引用発明は、そのような特定をしていない点。

第6 判断
1 相違点の検討
上記各相違点について検討する
(1) 相違点1について
引用発明において、経線方向、緯線方向の長さは、引用発明に求められる加熱の性能、引用発明を設置する箇所の寸法や、引用発明を現場で設置施工する際の作業性等を考慮して、当業者が適宜定め得る設計的事項である。
そして、本願発明が、経線方向60cm、緯線方向29cmとしたフレキシブル下面外装フィルムとしていることについて、令和2年8月21日提出の手続補正書により補正された本願明細書(以下「補正された本願明細書」という。)には、以下の事項が記載されている。
「【0029】
(実施例1の作用・効果)
以上のとおりの構成からなるこの発明のフィルム型ヒーター1は、図1および図2からも明確に理解できる通り、経線方向所定長(60cm)、緯線方向所定幅(29cm)の無色透明なPET(ポリエチレンテレフタレート)製フレキシブル下面外装フィルム2、およびフレキシブル上面外装フィルム3との間に、ヒーター回路4を密閉状にラミネート封止して全厚さ0.4cmのシート状のものとしたから、1枚単位の重量を大幅に軽量化し、運搬および取扱い性に優れ、床面下地材上に敷設したミラーマットなどのヒーター保護断熱シート(図示せず)上に、当該フィルム型ヒーター1の複数枚を互いに重なり合わない配置とするよう敷き詰め、ヒーター回路4より外側となるフレキシブル下・上面外装フィルム2,3の外周縁鋤く数個所を、タッカー釘などを用いて仮固定し、各電源供給用ハーネス部8を床面下地材下に貫通して床下配線し、室内壁適所に設けたコントローラーに接続し、各フィルム型ヒーター1,1,……の周囲、および各フィルム型ヒーター1,1,……の間を養生粘着テープで固定し、その上にフローリングやクッションフロアなどを施工することが可能であり、新設の床面だけでなく、既設の床面にも容易に設置することができるという大きな利点を有している。」
しかしながら、1枚単位の重量を大幅に軽量化し、運搬および取扱い性に優れ、養生粘着テープで固定し、その上にフローリングやクッションフロアなどを施工することが可能であり、新設の床面だけでなく、既設の床面にも容易に設置することができるという効果は、補正された本願明細書を参酌しても、「経線方向60cm、緯線方向29cmとした」ものと、他の寸法のものとの比較はなされておらず、格別な効果を奏しているとはいえず、また、フレキシブルヒータの寸法を、設置する現場の寸法や施工の作業性を当業者が考慮して適宜の寸法を採用することにより、PTCヒーターの軽量化、取扱い性、施工性などの効果は予測できた効果である。
そうすると、引用発明において、上記相違点1に係る本願発明の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
(2) 相違点2及び3について
相違点2及び3については、関連するので、以下に纏めて検討する。
引用例1の図2を参照すると、電極線の枝分かれは5本程度のものが記載されており、また、引用発明において、櫛状の一対の電極線(15)、(16)における、枝分かれの間隔や枝別れの本数は、PTCヒーターに求められる加熱の性能等を考慮して、当業者が適宜定め得る設計的事項である。
そして、補正された本願明細書を参酌しても、本願発明の、「該一側経線パターン部の経線方向10cm置き毎となる5箇所から枝別れし」た、「5本の導電性一側枝線パターン部」と、「5箇所から枝別れし」た、「5本の導電性対峙枝線パターン部」としたものと、他の寸法や個数のものとの比較はなされておらず、格別な効果を奏しているとは認めることができない。
そうすると、引用発明において、上記相違点2及び3に係る本願発明の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
(3) 相違点4について
引用例2の上記記載事項及び引用例3の上記記載事項を参照した、上記設計的事項1を考慮して、PTCヒーターにおいて、正の抵抗温度係数を有する面状の抵抗体に櫛状の電極線を設けるに際して、面状の抵抗体に対して、一方の面に対となる2つの櫛状の電極線を設けるか、両方の面のそれぞれに、対の内の一つの櫛状の電極線を設けるかは、当業者が適宜なし得る事項である。
そうすると、引用発明において、「櫛状の一対の電極線(15)、(16)を発熱用面抵抗体(14)上に備えたPTCヒーター」としていたものを、上記設計的事項1を考慮して、櫛状の一対の電極線のうち、一方の電極線の上に、発熱用面抵抗体を配し、その上に他方の電極線を配するようにすることは、当業者にとって、困難なことではない。さらに、各部材を配する際の積層の順序について、一方の電極線?発熱用面抵抗体?他方の電極線の配置の順序とするか、他方の電極線?発熱用面抵抗体?一方の電極線の順序とするかは、当業者が部材を積層するに際して、適宜定め得ることである。
さらに、PTCヒーターに用いる発熱用面抵抗体の態様として、引用例4には、電極(51、52)に対して、複数のヒーター帯を配置すること(図1)、引用例5には、櫛歯上の電極に複数のヒーター帯を配置すること(図4)が記載されていることを参考とした、上記設計的事項2を考慮して、発熱用面抵抗体を構成するに際して、一つの面として構成するか、複数のヒーター帯膜として構成するかということは、当業者が適宜選択し得ることであると認められる。
そして、複数のヒーター帯とするに際して、「3mm置き毎に配した」ことや、「16本のヒーター帯膜を積層」することも、PTCヒーターに求められる加熱性能等を考慮して、当業者が適宜定めた事項である。
加えて、補正された本願明細書を参酌しても、本願発明の「ヒーター帯膜」を「3mm置き毎に配した」、「16本のヒーター帯膜を積層」したものと、他の寸法や個数のものとの比較はなされておらず、格別な効果を奏していることは認めることができない。
そうすると、引用発明において、上記相違点4に係る本願発明の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
(4) 相違点5について
引用発明において、その作用・機能などからみて、「櫛状の」「電極線(15)(16)」の長手方向をなす電極線は、主電極(給電線)に相当し、「櫛状の」の「電極線(15)(16)」の長手方向に対して垂直方向に枝分かれしている電極線は、枝電極に相当する。
そして、櫛状に配置した電極線における、上記周知の事項を、櫛状の電極を有する引用発明に適用して、上記主電極(給電線)に相当する電極線の断面積を枝電極に相当する電極線より大きくすることは、当業者にとって、困難なことではない。
そうすると、引用発明において、上記相違点5に係る本願発明の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
(5) 相違点6について
相違点6に係る本願発明の「フレキシブル下面外装フィルム上面上の緯線方向3mm置き毎に配した16本のヒーター帯膜」としていることについての判断は、上記相違点4において、示したことと同様であるから、引用発明において、上記相違点6に係る本願発明の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
(6) 相違点7について
引用発明において、「上下一対のポリイミドフィルムまたはポリエチレンフィルムからなる絶縁膜(17)、(18)によりラミネート被覆され」た「PTCヒーター」の全厚さは、PTCヒーターに求められる加熱の性能、PTCヒーターの製品としての強度等を考慮して、当業者が適宜定め得る設計的事項である。
そして、補正された本願明細書を参酌しても、本願発明が「全厚さが0.4cmにしたもの」と、他の寸法のものとの比較はなされておらず、格別な効果を奏しているとは認めることができない。
なお、本願発明が、全厚さが0.4cmにしたものとしていることについて、補正された本願明細書には、以下の事項が記載されている。
「【0029】
(実施例1の作用・効果)
以上のとおりの構成からなるこの発明のフィルム型ヒーター1は、図1および図2からも明確に理解できる通り、経線方向所定長(60cm)、緯線方向所定幅(29cm)の無色透明なPET(ポリエチレンテレフタレート)製フレキシブル下面外装フィルム2、およびフレキシブル上面外装フィルム3との間に、ヒーター回路4を密閉状にラミネート封止して全厚さ0.4cmのシート状のものとしたから、1枚単位の重量を大幅に軽量化し、運搬および取扱い性に優れ、床面下地材上に敷設したミラーマットなどのヒーター保護断熱シート(図示せず)上に、当該フィルム型ヒーター1の複数枚を互いに重なり合わない配置とするよう敷き詰め、ヒーター回路4より外側となるフレキシブル下・上面外装フィルム2,3の外周縁鋤く数個所を、タッカー釘などを用いて仮固定し、各電源供給用ハーネス部8を床面下地材下に貫通して床下配線し、室内壁適所に設けたコントローラーに接続し、各フィルム型ヒーター1,1,……の周囲、および各フィルム型ヒーター1,1,……の間を養生粘着テープで固定し、その上にフローリングやクッションフロアなどを施工することが可能であり、新設の床面だけでなく、既設の床面にも容易に設置することができるという大きな利点を有している。」
しかしながら、1枚単位の重量を大幅に軽量化し、運搬および取扱い性に優れ、養生粘着テープで固定し、その上にフローリングやクッションフロアなどを施工することが可能であり、新設の床面だけでなく、既設の床面にも容易に設置することができるという効果は、「全厚さが0.4cmにした」ことによる格別な効果であるとはいえず、また、フレキシブルヒータの全厚さを、設置する現場の寸法や施工の作業性を当業者が考慮して適宜の寸法を採用することにより、予測できた効果である。
さらに、本願発明が「それら複数枚を相互に重なり合わない配置に敷き詰めてから、隣接するもの相互間を養生粘着テープで固定、設置可能にするもの」と特定しているものの、当該特定事項は、フィルム型ヒーターの使用方法を特定しているにすぎず、引用発明においても、PTCヒーターとして、設置する際に、養生粘着テープを用いれば、「それら複数枚を相互に重なり合わない配置に敷き詰めてから、隣接するもの相互間を養生粘着テープで固定、設置可能」であることは、明らかである。
そうすると、引用発明において、上記相違点7に係る本願発明の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。

2 効果について
そして、本願発明は、全体としてみても、引用発明及び周知の事項から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

3 請求人の主張について
(1) 審判請求書において、「本願発明の構成要件の一部に係わるとされたことが仮令個々バラバラに記載されていると仮定したとしても、それらを、どのようにして引用文献1に組み合わせ、寄せ集めれば、本願発明のものに想到し得ることになるということができるのであろうか。これらについての判断は、全く触れられることなく結論されている。」(「D 本願発明が特許されるべき理由 3」参照。)と主張している。
そこで検討するに、上記1で検討したとおり、各相違点に係る構成を引用発明において採用することは、それぞれ、当業者が容易に想到し得たことである。また、本願発明を全体としてみても、当業者が予測し得ない相乗効果を有するものであるとは認められないので、引用発明において、上記各相違点に係る構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであり、また、各相違点に係る構成を引用発明において採用することが、当業者にとって困難なことであるとも認められないので、上記請求人の主張は採用できない。
(2) 令和2年8月21日に提出された意見書において、「特定の大きさと厚みとするようにし、一側櫛状電極パターンにおける導電性一側枝線パターン部と、対峙櫛状電極パターンにおける対峙櫛状電極パターンとが、経線方向に等間隔を隔てて緯線噛合状に配されるようにした上、それら各一側枝線パターン部と各対峙枝線パターン部との経線方向端間に渡り、フレキシブル下面外装フィルム上面上の緯線方向3mm置き毎の感覚を置いて16本のヒーター帯膜を経線状に配列してなる特定サイズの小型、定形で極薄のフィルム型ヒーターとしたことから、本願発明の作用効果、特に段落0011(補正後に追加の段落。これは、出願当初の段落0031に記載された内容に基づくもの。)、ないし同0029(出願当初の段落0031の段落番号を繰り上げたもの。)に記載する作用効果を確実に達成するものになります。」と主張している。
しかしながら、上記1で述べたように、「フレキシブル下面外装フィルム上面上の緯線方向3mm置き毎の感覚を置いて16本のヒーター帯膜を経線状に配列してなる特定サイズの小型、定形で極薄のフィルム型ヒーターとしたこと」により、1枚単位の重量を大幅に軽量化し、運搬および取扱い性に優れ、養生粘着テープで固定し、その上にフローリングやクッションフロアなどを施工することが可能であり、新設の床面だけでなく、既設の床面にも容易に設置することができるという効果が格別な効果であることを、他の寸法や、ヒーター帯膜の個数と比較などしているところはなく、上記効果を格別な効果であるとは、補正された本願明細書の記載から認めることができず、むしろ、フレキシブルヒータの寸法を、設置する現場の寸法や施工の作業性を当業者が考慮して適宜の寸法やヒーター帯膜の数を採用することにより、当業者が予測できた効果である。

4 まとめ
したがって、本願発明は、引用発明、引用例2?7に記載された事項(引用例2及び3は、上記設計的事項1について、引用例4及び5は、上記設計的事項2について、引用例6及び7は、上記周知の事項について、それぞれ参照した。)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-12-17 
結審通知日 2020-12-22 
審決日 2021-01-07 
出願番号 特願2016-82522(P2016-82522)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 土屋 正志  
特許庁審判長 松下 聡
特許庁審判官 山田 裕介
山崎 勝司
発明の名称 フィルム型ヒーター  
代理人 佐々木 實  

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