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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1372218
審判番号 不服2019-13058  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-10-01 
確定日 2021-04-06 
事件の表示 特願2015- 50688「光学フィルムの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 8月12日出願公開、特開2016-146152、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年3月13日(優先権主張 平成26年12月12日、平成27年1月29日)を出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年10月31日付け :拒絶理由通知書
平成31年 2月 5日 :意見書、手続補正書の提出
令和 元年 7月19日付け :拒絶査定(以下、「原査定」という。)
令和 元年10月 1日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 2年10月 6日付け :拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」とい
う。)通知書
令和 2年11月25日 :意見書、手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定(令和元年7月19日付け拒絶査定)の概要は、次のとおりである。
本願請求項1ないし7に係る発明は、以下の引用文献AないしHに基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
A.特開2008-209598号公報
B.特開2005-106945号公報
C.特開2009-223129号公報
D.特開2011-039332号公報
E.国際公開第2010/032882号
F.特開2008-250056号公報
G.特開2009-083344号公報
H.特開2008-140305号公報

第3 当審拒絶理由の概要
本願請求項1ないし5に係る発明は、以下の引用文献1ないし7に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2008-209598号公報(原査定の文献A)
2.特開2005-106945号公報(原査定の文献B)
3.特開2010-282023号公報
4.特開2009-20288号公報
5.特開2009-223129号公報(原査定の文献C)
6.特開2011-039332号公報(原査定の文献D)
7.特開2008-140305号公報(原査定の文献H)

第4 本願発明
本願請求項1ないし4に係る発明は、令和2年11月25日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものであると認められるところ、請求項1ないし4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明4」という。)は、以下のとおりの発明である(補正箇所に下線を付した)。

「 【請求項1】 画像表示パネルの表面に配置される光学フィルムの製造方法であって、
可視光域で透光性である透光性フィルム材による基材に設けられた粗面に、塗工液を塗工して乾燥、硬化させることにより、前記粗面に直接、コレステリック液晶による拡散反射層を作製する拡散反射層作製工程を備え、
前記基材は、フィラーを含有した樹脂により形成され、前記フィラーの一部が表面から突出することにより前記粗面が形成されており、前記拡散反射層を設ける前の単体でヘイズ値が80以下5以上であり、
前記粗面は、算術平均粗さRaが0.01μm以上1μm以下である
光学フィルムの製造方法。
【請求項2】 前記拡散反射層作製工程は、波長が200nm以上450nm以下の波長域の電磁波を、25mJ/cm^(2)以上800mJ/cm^(2)以下の積算光量により照射することによって 前記塗工液を硬化させる
請求項1に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項3】 さらに近赤外線を吸収するドットによるドットパターンを作製するドットパターンの作製工程を備える
請求項1又は請求項2に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項4】 近赤外線を吸収するドットによるドットパターンが作製されたドットパターンフィルムと積層する積層工程を備える
請求項1又は請求項2に記載の光学フィルムの製造方法。」

第5 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
(1)引用文献1記載事項
下記の引用文献1には、次の事項が記載されている(下線は、強調のために当審で付加したものである。以下、同様。)。

「【0006】 本発明の光学フィルムは、ディスプレイ装置に直接手書きしてデータ入力することができ、作業スペースが低減出来ることに加えて、軽量で、価格が安く、大面積化が容易で、量産可能であり、かつ広い読取角度を有する読取性能に優れる。」

「【0007】 本発明の光学フィルム1は、図1に示すように、可視光を透過し、赤外線又は紫外線を拡散反射する基材9上に、赤外線又は紫外線を吸収する層3がパターン印刷されてなるものであり、具体的な形態としては、下記形態(1-A)、(1-B)及び(2)などが挙げられる。図2に示す、透明基板10上に、赤外線又は紫外線を拡散反射するコレステリック構造を有する液晶材料からなる湾曲した層4が設けられ、その上に赤外線又は紫外線を吸収する層3がパターン印刷されてなる光学フィルム(1-A)。図3に示す、透明基板10上に、赤外線又は紫外線を吸収する層3がパターン印刷されてなり、その上に赤外線又は紫外線を拡散反射するコレステリック構造を有する液晶材料からなる湾曲した層4が設けられてなる光学フィルム(1-B)。図4に示す、赤外線及び紫外線並びに可視光を拡散する光拡散フィルム11の一方の面に、赤外線又は紫外線を吸収する層3がパターン印刷されてなる光学フィルム(2)。」

「【0010】 前記形態(1-A)及び(1-B)において、コレステリック構造を有する液晶材料(以下、コレステリック液晶材料と言うことがある)からなる湾曲した層とは、形成された層を透明基板に直交する面で切断した断面が、走査型電子顕微鏡で観察した場合に、一定の繰返し周期からなる多層構造を含むよう形成され、かつ該多層構造の各層面の少なくとも一部が彎曲して非平坦平面をなす様な層構造のことである。また、該多層構造を構成する該液晶材料のらせん軸(下記定義参照。該層面と直交する軸でもある。)と透明基材の表面の法線とがなす傾き角は、少なくとも0?45°の範囲内で分布を有すると好ましい。
ここで、コレステリック(カイラルネマチック)構造を有する液晶は、その液晶分子が、各液晶分子の軸は多層構造の各層面内に存在すると共に、該層面内に於いて特定の方向に一様に配向する。且つ、該液晶分子軸の配向方向は層厚み方向の函数として順次変化し、該コレステリック構造の厚み方向に向かって進むに從がって順次回転する結果、回転軸が該多層膜の厚み方向を向き、該多層膜の層面内に於いて特定の方向に向かって回転する、一定周期の螺旋(らせん)構造(コレステリック構造)を有する。斯かる回転軸は又、螺旋軸とも呼称される。これに起因する特徴的な光学的性質を発現する。そのコレステリック構造の特徴は、らせんの向きに対応し、かつらせんピッチに対応した波長の円偏光を反射するという波長選択反射性を有することである。選択反射波長λ(ピーク波長λ nm)は、一般に次式で与えられる。
λ=p・n・cosθ
p:コレステリック液晶のらせんピッチ(nm)
n:液晶のらせん軸に直交する面内の平均屈折率
θ:光の入射角(面の法線からの角度)
また、該選択反射波長λ(ピーク波長λ)の帯域幅Δλ(nm)は、一般に次式で与えられる。
λ=p・Δn・cosθ
p:コレステリック液晶のらせんピッチ(nm)
Δn:液晶のらせん軸に直交する面内の複屈折率
θ:光の入射角(面の法線からの角度)
コレステリック構造を有する液晶は、このような波長選択反射性能を有し、取り扱いが容易であり、そして加工性に優れていることから工業的に広く適用することができるとされている。しかし、選択反射波長λに関する上記の式から、コレステリック構造を有する液晶は入射角が増加すると反射される光の波長が減少するため、反射波長が所定の波長から逸脱する、すなわち読取角度が制限されることがわかる。本発明の光学フィルムにおいては、コレステリック構造を有する液晶のらせん軸と、透明基材の表面の法線とのなす傾き角が少なくとも0?45°の範囲内で分布を有することで、上記のような読取角度の制限を解消して、より広い読取角度を得るものである。」

「【0013】 以下、本発明の光学フィルムに用いられるコレステリック構造を発現する液晶材料について説明する。なお、本発明において、赤外線及び紫外線の波長は特に限定されないが、通常好ましく用いられるのは、特に800?2500nmの近赤外領域又は200?400nmの紫外線からなる光である。以下、一部、赤外線を中心に説明する。なお、一般に、「液晶」は、狭義には流動性を有する状態のものを指すが、本願発明の明細書中においては、流動性を有する液晶材料を架橋、冷却等の手段により、液晶の持つ光学特性、屈折率、異方性等の所望の性能を維持する状態で固化させ、非流動状態としたものも「液晶」と呼称することにする。
【0014】 本発明において、層を形成した後は、流動性が発現しないように液晶材料を固定化させる必要がある。そのため、重合性のネマチック液晶に重合性のカイラル剤を混合した重合性のカイラルネマチック液晶材料(重合性モノマー又は重合性オリゴマー)、又は高分子コレステリック液晶材料を好ましく使用することができる。本発明においては、前記の重合性液晶材料の中でも、架橋可能な重合性モノマー又は重合性オリゴマーを用いることが好ましく、重合性官能基としてアクリレート構造を有しているとさらに好ましい。なお、通常、このようなコレステリック構造を呈する液晶材料は、例えば、高反射波長域を赤外線領域に持っていくと、可視光線領域においては、数μm程度の厚みで70%程度以上の可視光線透過率を得る。一方、赤外線領域においては5?50%程度の高反射率を得ることが一般的である。また、前記の重合性液晶材料がコレステリック相を呈する温度範囲については特に制限はなく、コレステリック相の状態で架橋により固定化できれば良いが、コレステリック相を呈する温度が30?140℃の範囲にある材料は、印刷時の乾燥工程と、液晶の相転移を同時に行えるため好ましい。」

「【0050】 本発明の光学フィルムは、ディスプレイ装置の前面に対向して着脱可能に装着するようにすることもできる。このようにすれば、一つのディスプレイ装置のみならず、別のディスプレイ装置にも装着することができるようになる。また、ディスプレイ装置側には装着のための加工を施さないようにして光学フィルムを装着することができるようにするために、光学フィルム自体が、ディスプレイ装置に対する装着手段を備えていると好ましい。なお、この装着手段とは、光学フィルムと一体に設けられたものであっても、別体に設けられたものであっても良い。なお、前面に対向して装着するとは、ディスプレイ装置の前面に対して、間隙を置かずに密着して装着する形態、間隙を介して隔離状態で装着する形態の何れをも包含する。このような装着手段として、例えばバックル状のものをディスプレイ装置のコーナ部に引っ掛けるようなものや、ディスプレイ装置の端部を挟み込むようなものなどが挙げられるが、簡単で好適な具体的態様としては、ディスプレイ装置の前面に装着するような場合において、ディスプレイ装置に接触する接触面側に設けられ、ディスプレイ装置に貼り付けるための接着性又は粘着性を有する貼着具が挙げられる。また、貼着具としては、光学フィルムに一体的に取り付けられた接着性又は粘着性を有するものや、接触面に直接塗装された接着剤や粘着剤などをも含むものが挙げられる。」

「【0052】 次に、実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
実施例1 末端に重合可能なアクリロイル基を持ち、ネマチック-アイソトロピック転移温度が110℃付近であるモノマー(前記化合物(11)で示される分子構造を有するもの)100重量部と、末端に重合可能なアクリロイル基を持つカイラル剤(上記化学式(12)で示される分子構造を有するもの)3.0重量部、光重合開始剤(ビーエーエスエフ社製、ルシリンTPO)を4重量部、レベリング剤(ビックケミー社製、BYK-361)0.3重量部とを、メチルイソブチルケトンに溶解させた赤外線反射インキを調製した。
この液晶溶液を、125μmのPET基板上にグラビア印刷法にて直接塗工し、紫外線照射により硬化し、赤外線拡散反射基材を作製した。
一方、ペンタエリスリトールトリアクリレート100重量部に、フタロシアニン系色素(日本触媒社製、IR-12)2重量部、光重合開始剤(ビーエーエスエフ社製、ルシリンTPO)4重量部をシクロヘキサノンに溶解させた赤外線吸収インキを調製し、グラビア印刷によりドット状にパターン印刷し、光学フィルムを得た。
この光学フィルムに、赤外線を照射して、その反射光を画像として検知したところ、40°まで読み取ることが可能であり、広い読取角度を有していた。」

(2)引用発明について
したがって、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「 光学フィルムは、ディスプレイ装置に直接手書きしてデータ入力することができ、
光学フィルム1は、可視光を透過し、赤外線又は紫外線を拡散反射する基材9上に、赤外線又は紫外線を吸収する層3がパターン印刷されてなるものであり、
透明基板10上に、赤外線又は紫外線を拡散反射するコレステリック構造を有する液晶材料からなる湾曲した層4が設けられ、その上に赤外線又は紫外線を吸収する層3がパターン印刷されてなる光学フィルムであり、
コレステリック構造を有する液晶材料からなる湾曲した層とは、一定の繰返し周期からなる多層構造を含むよう形成され、かつ該多層構造の各層面の少なくとも一部が彎曲して非平坦平面をなす様な層構造であり、
該多層構造を構成する該液晶材料のらせん軸と透明基材の表面の法線とがなす傾き角は、少なくとも0?45°の範囲内で分布を有すると好ましく、
コレステリック構造を有する液晶は、その液晶分子が、各液晶分子の軸は多層構造の各層面内に存在すると共に、該層面内に於いて特定の方向に一様に配向し、
コレステリック構造の特徴は、らせんの向きに対応し、かつらせんピッチに対応した波長の円偏光を反射するという波長選択反射性を有することであり、
赤外線及び紫外線の波長は特に限定されないが、通常好ましく用いられるのは、特に800?2500nmの近赤外領域又は200?400nmの紫外線からなる光であり、
コレステリック相の状態で架橋により固定化できれば良いが、コレステリック相を呈する温度が30?140℃の範囲にある材料は、印刷時の乾燥工程と、液晶の相転移を同時に行え、
光学フィルムは、ディスプレイ装置の前面に対向して着脱可能に装着するようにすることもでき、
末端に重合可能なアクリロイル基を持ち、ネマチック-アイソトロピック転移温度が110℃付近であるモノマー100重量部と、末端に重合可能なアクリロイル基を持つカイラル剤3.0重量部、光重合開始剤を4重量部、レベリング剤0.3重量部とを、メチルイソブチルケトンに溶解させた赤外線反射インキを調製し、
この液晶溶液を、125μmのPET基板上にグラビア印刷法にて直接塗工し、紫外線照射により硬化し、赤外線拡散反射基材を作製し、
ペンタエリスリトールトリアクリレート100重量部に、フタロシアニン系色素2重量部、光重合開始剤4重量部をシクロヘキサノンに溶解させた赤外線吸収インキを調製し、グラビア印刷によりドット状にパターン印刷し、光学フィルムを得る、
光学フィルムの製造方法。」

2 引用文献2について
引用文献2には、次の事項が記載されている。

「【0034】 本発明は、特定の波長の光を明度が高く反射することが可能なコレステリック液晶積層フィルム、そのコレステリック液晶積層フィルムの製造方法、およびそれを用いた投影スクリーンに関するものである。以下、それぞれについて詳しく説明する。」

「【0043】 1.基材
まず、本発明に用いられる基材について説明する。本発明に用いられる基材は、後述する偏光選択反射層が上に形成されるものであり、偏光選択反射層のコレステリック液晶構造を、複数の異なる配向状態とする配向調整手段を有するものである。本発明においては、偏光選択反射層の配向調整手段を有していれば、その種類等は特に限定されるものではなく、例えば図3(a)に示すように、上記配向調整手段が、基材1の表面の凹凸であって、その表面の凹凸により、偏光選択反射層2中のコレステリック液晶分子5の螺旋軸Lの方向を調整するものであってもよい。また、配向調整手段が、基材のラビングの方向やラビングの有無等であって、これらにより偏光選択反射層中のコレステリック液晶構造の配向状態を調整するものであってもよい。」

3 周知技術について
引用文献3(請求項1、図1、実施例1-10、表1などを参照。)、引用文献4(請求項1、図2、実施例1ないし8、表2などを参照。)に記載されているように、光学フィルムにおいて、フィラーを含有した樹脂により基材を形成し、前記フィラーの一部が表面から突出することにより粗面が形成することは、周知技術である。
また、光学フィルムの表面の算術平均粗さとして、「算術平均粗さRaが0.01μm以上1μm以下」という範囲は、例えば、引用文献3(特に、実施例1ないし10、表1を参照)、引用文献5(特に、段落【0129】を参照)、引用文献6(特に、段落【0171】ないし段落【0172】を参照)に記載されているように、この出願の出願前における光学フィルム(の基材)の表面粗さとして一般的に用いられている範囲のものである。

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「光学フィルム」は、「ディスプレイ装置の前面に対向して着脱可能に装着するようにすることもでき」るものであり、ディスプレイ装置は画像表示パネルといいうるものであるから、引用発明の「光学フィルムの製造方法」は、本願発明1の「画像表示パネルの表面に配置される光学フィルムの製造方法」に相当する。

イ 引用発明は、「透明基板10上に、赤外線又は紫外線を拡散反射するコレステリック構造を有する液晶材料からなる湾曲した層4が設けられ、その上に赤外線又は紫外線を吸収する層3がパターン印刷されてなる光学フィルムであり」、「コレステリック相の状態で架橋により固定化できれば良いが、コレステリック相を呈する温度が30?140℃の範囲にある材料は、印刷時の乾燥工程と、液晶の相転移を同時に行え」、「末端に重合可能なアクリロイル基を持ち、ネマチック-アイソトロピック転移温度が110℃付近であるモノマー100重量部と、末端に重合可能なアクリロイル基を持つカイラル剤3.0重量部、光重合開始剤を4重量部、レベリング剤0.3重量部とを、メチルイソブチルケトンに溶解させた赤外線反射インキを調製し、この液晶溶液を、125μmのPET基板上にグラビア印刷法にて直接塗工し、紫外線照射により硬化し、赤外線拡散反射基材を作製し」ている。
ここで、PET基板は、可視光領域で透光性である透光性フィルム材による基材といいうるものである。
また、引用発明のコレステリック相の形成においては「コレステリック相を呈する温度が30?140℃の範囲にある材料は、印刷時の乾燥工程と、液晶の相転移を同時に行え」ること、上記「液晶溶液」を「PET基板上にグラビア印刷法にて直接塗工し」、「硬化し」、「赤外線拡散反射基材を作製」していることから、引用発明は、PET基板(可視光領域で透光性である透光性フィルム材による基材)の表面に塗工液を塗工して乾燥、硬化させることにより、前記表面に直接、コレステリック液晶による拡散反射層を作製する拡散反射層作製工程を含む。
したがって、引用発明は、本願発明1の「可視光域で透光性である透光性フィルム材による基材に設けられた粗面に、塗工液を塗工して乾燥、硬化させることにより、前記粗面に直接、コレステリック液晶による拡散反射層を作製する拡散反射層作製工程」と「可視光域で透光性である透光性フィルム材による基材の表面に、塗工液を塗工して乾燥、硬化させることにより、前記表面に直接、コレステリック液晶による拡散反射層を作製する拡散反射層作製工程」を備えている点で共通している。

(2)一致点・相違点
したがって、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「 画像表示パネルの表面に配置される光学フィルムの製造方法であって、
可視光域で透光性である透光性フィルム材による基材の表面に、塗工液を塗工して乾燥、硬化させることにより、前記表面に直接、コレステリック液晶による拡散反射層を作製する拡散反射層作製工程を備えた、
光学フィルムの製造方法。」

[相違点1] 「可視光域で透光性である透光性フィルム材による基材」の表面について、本願発明1は、「粗面が設けられ」ているのに対し、引用発明には、「粗面が設けられ」ているとの特定がされていない点。

[相違点2] 本願発明1は、「基材に設けられた粗面に」、塗工液を塗工して乾燥、硬化させることにより、コレステリック液晶による拡散反射層を作製しているのに対して、引用発明は、「基材の表面に」、塗工液を塗工して乾燥、硬化させることにより、コレステリック液晶による拡散反射層を作製している点。

[相違点3] 「前記基材」の「粗面」について、本願発明1は、「フィラーを含有した樹脂により形成され、前記フィラーの一部が表面から突出することにより前記粗面が形成されて」いるのに対して、引用発明には、そのような特定がされていない点。

[相違点4] 「前記基材」について、本願発明1は「前記拡散反射層を設ける前の単体でヘイズ値が80以下5以上である」のに対して、引用発明には、ヘイズ値が特定されていない点。

[相違点5] 「前記基材」の「粗面」について、本願発明1は、「算術平均粗さRaが0.01μm以上1μm以下である」のに対して、引用発明には、算術平均粗さRaが特定されていない点。

(3)判断
事案に鑑みて、相違点5より検討を行う。そして、「粗面」に関する相違点1ないし3について、併せて検討を行う。
上記第5 2.を参照すれば、引用文献2には、偏向選択反射層のコレステリック液晶構造を複数の異なる配向状態とする配向調整手段として、基材の表面の凹凸により偏向選択反射層中のコレステリック液晶分子の螺旋軸の方向を調整すること、配向調整手段が基材のラビングの方向やラビングの有無であってもよいことが記載されている。
ここで、引用文献2に記載された発明における「基材の表面の凹凸」や「基材のラビング」が施された面が、「粗面」といえることは、明らかである。
したがって、引用文献2には基材の「表面の凹凸」又は「ラビング」による粗面を設けることによりコレステリック液晶分子の螺旋軸の方向を調整することが記載されている。
そして、上記第5 3.を参照すると、「粗面」を有した基材の形成方法として、フィラーを含有した樹脂により基材を形成し、前記フィラーの一部が表面から突出することにより粗面が形成することは周知技術である。
しかしながら、基材に設けられた粗面に塗工液を塗工して直接コレステリック液晶による拡散反射層を作成する際の、粗面の表面粗さがどの程度であるのか、すなわち、本願発明1の相違点5について、引用文献1-7のいずれにも何ら記載されておらず、当該技術的事項は本願優先日前において、周知技術であったともいえない。
そして、上記第5 3.を参照すると、光学フィルムの表面粗さとして、「算術平均粗さRaが0.01μm以上1μm以下」という範囲は、一般的な数値範囲であり、本願優先日前において公知又は周知技術であるが、この表面粗さの数値を直ちに、コレステリック液晶による拡散反射層を作成するための「基材」の「粗面」の表面粗さに採用することができるとはいえない。 さらに、本願明細書の段落【0033】-段落【0034】には、「【0033】 ここで粗面Mは、粗さが荒すぎると、画像表示パネル2の表示画面が、にじんだように見て取られて、これにより表示画面の鮮明度が低下して画質が劣化する。これとは逆に、粗面Mに十分な粗さが確保されていない場合、近赤外領域での拡散反射の効率が低下することになり、この実施形態に係る電子ペン入力システムでは、撮像結果におけるドットパターンと背景とで十分な輝度比を確保できなくなり、入力座標の位置検出精度が低下することになる。【0034】 これにより粗面Mの粗さは、算術平均粗さRaが0.01μm以上1μm以下、より好 ましくは0.01μm以上0.5μm以下であることが望ましい。またこの粗さは、十点平均粗さRzが0.05μm以上3μm以下、より好ましくは、0.1μm以上1.5μm以下であることが望ましい。なおこれら算術平均粗さRa及び十点平均粗さRzは、JIS B 0601(1994)による。」と記載されており、本願発明1は、当該技術的事項により、表示画面の鮮明度の低下と十分な輝度の確保とを両立させるという格別な効果を有している。
したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明、引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2. 本願発明2-4について
本願発明2-4も、相違点5に係る本願発明1の構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2-7に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第7 原査定について
本願発明1ないし4は、上記相違点5に係る本願発明1の構成を備えるものとなり、上記引用文献AないしHには、相違点5に係る構成は記載されておらず、本願優先日前において周知技術でもないから、上記引用文献AないしHに基づいて、当業者が容易に発明することができたものではない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-03-16 
出願番号 特願2015-50688(P2015-50688)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 菅原 浩二  
特許庁審判長 稲葉 和生
特許庁審判官 林 毅
太田 龍一
発明の名称 光学フィルムの製造方法  
代理人 正林 真之  
代理人 林 一好  
代理人 芝 哲央  

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