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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G02B 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B |
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管理番号 | 1372239 |
審判番号 | 不服2020-3015 |
総通号数 | 257 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-05-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-03-04 |
確定日 | 2021-03-17 |
事件の表示 | 特願2017-171699「光学撮像レンズ及びそのプラスチック材料、画像取込装置並びに電子装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 4月 5日出願公開、特開2018- 55091〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続等の経緯 特願2017-171699号(以下「本件出願」という。)は、平成29年9月7日(パリ条約の例による優先権主張 平成28年9月7日(以下「本件優先日」という。) 台湾、平成29年8月16日 台湾)を出願日とする特許出願である。 そして、本件出願の手続等の経緯は、概略、以下のとおりである。 平成30年11月26日付け:拒絶理由通知書 令和 元年 5月 1日 :手続補正書 令和 元年 5月 1日 :意見書 令和 元年10月30日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) 令和 2年 3月 4日 :審判請求書 令和 2年 3月 4日 :手続補正書 第2 補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和2年3月4日にした手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 補正の内容 (1)本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の(令和元年5月1日にした手続補正後の)特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。 「 物体側から像側へ、 プラスチック材料で製造され且つ前記プラスチック材料に均一に混合される少なくとも1つの長波長吸収成分を含み、屈折力を有し、その物体側表面及び像側表面の少なくとも一方の表面が非球面である少なくとも6つの光学レンズを含み、 前記長波長吸収成分を含む前記光学レンズは、 波長650nm?700nmでの平均透過率をT6570とし、 波長400nm?650nmでの平均透過率をT4065とし、 最大厚さをTKmaxとし、最小厚さをTKminとすると、 T6570≦30%、 61.9%≦T4065、及び、 1.0<TKmax/TKminの条件を満たす光学撮像レンズ。」 (2)本件補正後の特許請求の範囲 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。なお、下線は補正箇所を示す。 「 物体側から像側へ、 プラスチック材料で製造され且つ前記プラスチック材料に均一に混合される少なくとも1つの長波長吸収成分を含み、屈折力を有し、その物体側表面及び像側表面の少なくとも一方の表面が非球面である少なくとも7つの光学レンズを含み、 前記長波長吸収成分を含む前記光学レンズは、 波長650nm?700nmでの平均透過率をT6570とし、 波長400nm?650nmでの平均透過率をT4065とし、 最大厚さをTKmaxとし、最小厚さをTKminとすると、 T6570≦30%、 61.9%≦T4065、及び、 1.0<TKmax/TKmin≦2.18の条件を満たす光学撮像レンズ。」 2 本件補正について (1)新規事項違反 本件補正により、請求項1に記載された発明の「光学撮像レンズ」は、「プラスチック材料で製造され且つ前記プラスチック材料に均一に混合される少なくとも1つの長波長吸収成分を含み、屈折力を有し、その物体側表面及び像側表面の少なくとも一方の表面が非球面である」光学レンズを、「少なくとも6つ」含むものから、「少なくとも7つ」含むものとなった。また、本件補正により、前記「光学レンズ」は、「最大厚さをTKmaxとし、最小厚さをTKminと」したとき、「1.0<TKmax/TKminの条件を満たす」ものから、「1.0<TKmax/TKmin≦2.18の条件を満たす」ものになった。 しかしながら、本件出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「出願当初明細書等」という。)には、「プラスチック材料で製造され且つ前記プラスチック材料に均一に混合される少なくとも1つの長波長吸収成分を含み、屈折力を有し、その物体側表面及び像側表面の少なくとも一方の表面が非球面である少なくとも7つの光学レンズを含」み、かつ、前記「光学レンズ」が「1.0<TKmax/TKmin≦2.18の条件を満たす」ような「光学撮像レンズ」は開示されていない。 すなわち、「光学レンズ」の「TKmax/TKmin」に関して、本件出願の願書に最初に添付した明細書の【0018】には、「本発明の光学撮像レンズによると、長波長吸収成分を含む光学レンズは、最大厚さがTKmaxであり、最小厚さがTKminであり、1.0<TKmax/TKmin≦2.0の条件を満たしてよい。」と記載されている(当合議体注:上限値は「2.18」はではなく「2.0」であり、そこには、「2.18」を上限値とするような技術的思想は記載されていない。)。また、【0118】には、「光学レンズ」の「TKmax/TKmin」の上限値が「2.18」である「第8実施形態の光学撮像レンズ」が開示されているが、この実施形態は、「プラスチック材料で製造され且つ前記プラスチック材料に均一に混合される少なくとも1つの長波長吸収成分を含み、屈折力を有し、その物体側表面及び像側表面の少なくとも一方の表面が非球面である少なくとも7つの光学レンズを含」むものではない(当合議体注:レンズの総枚数は8枚であるが、「1.0<TKmax/TKmin≦2.18の条件を満たす」とともに、「プラスチック材料で製造され且つ前記プラスチック材料に均一に混合される少なくとも1つの長波長吸収成分を含み、屈折力を有し、その物体側表面及び像側表面の少なくとも一方の表面が非球面である」光学レンズは、「第1光学レンズ810」、「第2光学レンズ820」、「第3光学レンズ830」、「第4光学レンズ840」、「第6光学レンズ860」、「第8光学レンズ880」の6つの光学レンズにとどまるから、「少なくとも7つの光学レンズを含み」という要件を満たさない。)。加えて、明細書の【0106】には、「光学レンズ」の枚数が7枚である「第7実施形態の光学撮像レンズ」が開示されているが、「第6光学レンズ760」及び「第7光学レンズ770」の「TKmax/TKmin」は、それぞれ「2.53」及び「3.16」であり、「TKmax/TKmin≦2.18」の条件を満たさない(当合議体注:請求項1に係る発明は、レンズの総枚数が7枚である態様を含むものであるが、出願当初明細書等には、「TKmax/TKmin≦2.18」の条件を満足するとともに、「光学撮像レンズ」としての光学性能が担保された発明が記載されているとはいえない。)。 さらにすすんで検討すると、本件補正後の請求項9に係る発明の「前記長波長吸収成分を含む前記光学レンズは」、さらに「光軸上の厚さをCTaとすると」、「CTa≦1.00mmの条件を満たす」ものであるが、このような発明もまた、出願当初明細書等に記載されているとはいえない。 そうしてみると、本件補正は、当業者によって、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるということができない。 したがって、本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるということができないから特許法17条の2第3項の規定に違反してされたものである。 ところで、本件補正は、「光学撮像レンズ」に含まれる「光学レンズ」の数を「少なくとも6つ」から「少なくとも7つ」に限定し、また、「TKmax/TKmin」の範囲を「1.0<TKmax/TKmin」から「1.0<TKmax/TKmin≦2.18」に限定したものと考えることができる。 そこで、事案に鑑みて、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)が、特許法17条の2第6項において準用する、同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。 3 独立特許要件についての判断(進歩性) (1)引用文献1の記載 原査定の拒絶の理由において引用された、国際公開第2015/111316号(以下「引用文献1」という。)は、本件優先日前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ、そこには、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。 ア 「技術分野 [0001] 本発明は、撮像光学系,撮像光学装置及びデジタル機器に関するものである。更に詳しくは、被写体の光学像を所定の面上に形成する撮像光学系と、その撮像光学系及び撮像素子(例えば、CCD(Charge Coupled Device)型イメージセンサ,CMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)型イメージセンサ等の固体撮像素子)で被写体の映像を取り込んで電気的な信号として出力する撮像光学装置と、その撮像光学装置を搭載したデジタルカメラ,スマートフォン(高機能携帯電話)等の画像入力機能付きデジタル機器と、に関するものである。」 イ 「発明が解決しようとする課題 [0006] しかしながら、特許文献1に記載されているような赤外吸収型樹脂フィルターを用いた撮像光学系よりも、よりコストが低く、低背化の可能な赤外線吸収機能を有する撮像光学系が望まれる。 [0007] 本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであって、その目的は、低背化による広い視野角にも対応可能な高性能の赤外線吸収機能を有する低コストの撮像光学系、それを備えた撮像光学装置及びデジタル機器を提供することにある。 ・・・中略・・・ 発明の効果 [0011] 本発明によれば、赤外線吸収材料を含んだ樹脂材料製の非球面レンズと、赤外線を反射する赤外カットコートと、を所定の条件で有することにより、色シェーディングを抑える構成になっているため、低背化による広い視野角にも対応可能な高性能の赤外線吸収機能を有する低コストの撮像光学系び撮像光学装置を実現することができる。その高性能の撮像光学系又は撮像光学装置をデジタル機器(例えばデジタルカメラ)に用いることによって、デジタル機器に対して上記高性能の画像入力機能を低コストかつコンパクトに付加することが可能となる。また、フィルターレスにすることも可能であるため、更なる低背化にも対応可能である。」 ウ 「発明を実施するための形態 [0013] 本発明は、前述の技術的課題を解決するために、以下に説明するような構成を有する撮像光学系,撮像光学装置及びデジタル機器等を提供するものである。 ・・・中略・・・ [0014] 本発明の一態様に係る撮像光学系は、物体側から像側へ順に配置される複数のレンズを備え、前記複数のレンズのうちの少なくとも1枚のレンズは、赤外線を吸収する赤外線吸収材料を含んだ樹脂材料製の非球面レンズであること、また、前記複数のレンズのうちの少なくとも1枚、又はレンズとセンサーとの間にあるフィルターに、赤外カットコートが施されていることを特徴としている。更に具体的には、複数のレンズと、少なくとも1枚の多層膜と、を有する撮像光学系であって、前記複数のレンズのうちの少なくとも1枚のレンズが、赤外線を吸収する赤外線吸収材料を含んだ樹脂材料製の非球面レンズであり、前記多層膜が、赤外線を反射する赤外カットコート(いずれかのレンズに成膜された多層膜、又はレンズとは別に設けられた基板に成膜された多層膜からなっている。)である。 ・・・中略・・・ [0016] 低背の撮像光学系では、撮像素子の像面周縁における光線入射角(CRA:Chief Ray Angle)が通常30度程度となる。このため、透過する赤外線量に入射角依存性を持つ反射型の赤外線カットフィルターが撮像光学装置に用いられる場合には、像面周縁において、可視光をカットすることになる、あるいは像面中心部において赤外線カットが不十分となり、いわゆる色ムラが画像に生じてしまう。本発明に係る撮像光学系では、これの主な対策として、赤外線吸収材料の添加されたレンズを用いている。 ・・・中略・・・ [0021] 赤外線吸収材料を含むレンズは、中心部と周辺部とで肉厚差が少ないことが好ましい。4から6枚で構成される携帯端末用レンズの場合には、物体側から3枚目のレンズに赤外線吸収材料を含むことが好ましい。 [0022] 次に、上述の撮像光学系OPが組み込まれた画像入力機能付きデジタル機器DUを説明する。図1は、デジタル機器DUの概略構成例を示すブロック図である。デジタル機器DUは、例えば、図1に示すように、撮像機能のために、撮像部30、画像生成部31、画像データバッファ32、画像処理部33、駆動部34、制御部35、記憶部36及びインタフェース部(I/F部)37を備える。デジタル機器DUとして、例えば、デジタルスチルカメラ、ビデオカメラ、監視カメラ(モニタカメラ)、携帯電話機や携帯情報端末(PDA)等の携帯端末、パーソナルコンピュータ及びモバイルコンピュータが挙げられ、これらの周辺機器(例えば、マウス、スキャナ及びプリンタ等)が含まれてもよい。特に、本実施形態の撮像光学系OPは、携帯電話機や携帯情報端末(PDA)等の携帯端末に搭載する上で充分にコンパクト化及び低背化されており、この携帯端末に好適に搭載される。 ・・・中略・・・ [0024] 図3に、撮像光学系OPの例を、レンズ構成(レンズ断面形状,レンズ配置等),光路等で示す。撮像光学系OPは、図3に示すように、物体側から順に、複数のレンズ(第1?第5レンズL1?L5)からなるレンズ群LN(ST:絞り,AX:光軸)と、必要に応じて配置されるIRカットフィルターFLと、で構成される。撮像素子SRとしては、例えば複数の画素を有するCCD型イメージセンサー,CMOS型イメージセンサー等の固体撮像素子が用いられる。撮像光学系OPは、撮像素子SRの光電変換部である受光面(すなわち撮像面)SS上に被写体の光学像IMが形成されるように設けられているので、撮像光学系OPによって形成された光学像IMは、撮像素子SRによって電気的な信号に変換される。」 エ 「実施例 [0042] 以下、本発明を実施した撮像光学系の構成等を、実施例1?12(EX1?12)及び比較例1?4(CX1?4)のコンストラクションデータ等を挙げて更に具体的に説明する。ここで挙げる撮像光学系OPの例(EX1?12,CX1?4)は、図3に示す撮像光学系OPにおいて、赤外線吸収材料の添加量を変化させた数値例である。 ・・・中略・・・ [0046] 撮像光学系OP(図3)は、物体側から順に、レンズ群LNと、IRカットフィルターFLと、から構成されている。レンズ群LNは、物体側から順に、絞りSTと、正の第1レンズL1と、負の第2レンズL2と、正の第3レンズL3と、正の第4レンズL4と、負の第5レンズL5と、から構成されており、全てのレンズはプラスチック材料から形成されており、レンズ面は全て非球面である。近軸の面形状で各レンズを見た場合、第1レンズL1は物体側に凸の正メニスカスレンズであり、第2レンズL2は像側に凹の負メニスカスレンズであり、第3レンズL3は物体側に凸の正の平凸レンズであり、第4レンズL4は像側に凸の正メニスカスレンズであり、第5レンズL5は両凹の負レンズである。 ・・・中略・・・ [0048]・・・中略・・・また、図5?20のグラフに、実施例1?12(EX1?12)及び比較例1?4(CX1?4)の600?700nmの波長領域を含む分光特性(Total特性)を示す。 ・・・中略・・・ [0050] 実施例1は、吸収材A(BASF社製のLumogen IR765;M_600nm=0.098%,M_700nm=0.018%,Y=0.600)を、第1レンズL1に0.030%、第2レンズL2に0.015%、第3レンズL3に0.033%、第4レンズL4に0.005%添加した。」 オ 「[請求項1] 複数のレンズと、多層膜と、を有する撮像光学系であって、 前記複数のレンズのうちの少なくとも1枚のレンズが、赤外線を吸収する赤外線吸収材料を含んだ樹脂材料製の非球面レンズであり、 前記多層膜が、赤外線を反射する赤外カットコートであり、 前記赤外線吸収材料を含んだレンズが、全体として以下の条件式(1)を満足し、かつ、2割像高、4割像高、6割像高、8割像高に対する光路において以下の条件式(2A)を満足し、 前記赤外カットコートが以下の条件式(3A)を満足することを特徴とする撮像光学系; M_700nm≦ΣDCn・Mn≦M_600nm …(1) Y×ΣDCn・Mn≦ΣDn・Mn≦(1/Y)×ΣDCn・Mn …(2A) T1_50%λ-10≦T2_50%λ …(3A) ただし、赤外線吸収材料を含んだレンズの枚数はk枚であり、Σはnについて物体側から1枚目からk枚目までの総和を表すものとし、 DCn:物体側からn枚目のレンズの光線中心の厚み(物理的光路長、mm)、 Mn:物体側からn枚目のレンズに含まれる赤外線吸収材料の重量パーセント濃度(%)、 M_600nm:1mm厚の透明基板に赤外線吸収材料を含ませた場合に、T1_50%λが600nmとなるような、赤外線吸収材料の重量パーセント濃度(ただし、赤外線吸収材料の吸収特性で600nmの吸収係数が0に近くM_600nmが計算できない場合にはM_600nmは無限大とする。)、 M_700nm:1mm厚の透明基板に赤外線吸収材料を含ませた場合に、T1_50%λが700nmとなるような、赤外線吸収材料の重量パーセント濃度(ただし、赤外線吸収材料の吸収特性で700nmの吸収係数が0に近くM_700nmが計算できない場合にはM_700nmは0とする。)、 T1_50%λ:赤外線を吸収するレンズの中心光線に対する合計内部透過率が600?700nmの範囲で50%となる波長(nm)、 Dn:物体側からn枚目のレンズの厚み(物理的光路長、mm)、 Y=2×√(λ_0.9Kpeak-λ_0.3Kpeak) λ_0.9Kpeak:添加する赤外線吸収材料の吸収係数の吸収ピークについて、その吸収ピークでの波長よりも小さい波長であって、吸収ピーク値の90%の値となる波長(μm)、 λ_0.3Kpeak:添加する赤外線吸収材料の吸収係数の吸収ピークについて、その吸収ピークでの波長よりも小さい波長であって、吸収ピーク値の30%の値となる波長(μm)、 T2_50%λ:入射角度30°のときの赤外カットコートの透過率が600?700nmの範囲で50%となる波長(nm)、 である。」 カ 「[図3] 」 キ 「[図5] 」 (2)引用発明 引用文献1には、請求項1に係る発明として、次の「撮像光学系」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。なお、式の説明が長いので、その記載を省略するが、前記(1)オに記載のとおりである。 「 複数のレンズと、多層膜と、を有する撮像光学系であって、 前記複数のレンズのうちの少なくとも1枚のレンズが、赤外線を吸収する赤外線吸収材料を含んだ樹脂材料製の非球面レンズであり、 前記多層膜が、赤外線を反射する赤外カットコートであり、 前記赤外線吸収材料を含んだレンズが、全体として以下の条件式(1)を満足し、かつ、2割像高、4割像高、6割像高、8割像高に対する光路において以下の条件式(2A)を満足し、 前記赤外カットコートが以下の条件式(3A)を満足することを特徴とする撮像光学系。 M_700nm≦ΣDCn・Mn≦M_600nm …(1) Y×ΣDCn・Mn≦ΣDn・Mn≦(1/Y)×ΣDCn・Mn …(2A) T1_50%λ-10≦T2_50%λ …(3A)」 (3)対比 本件補正後発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。 ア 光学レンズ 引用発明の「前記複数のレンズのうちの少なくとも1枚のレンズ」は、「赤外線を吸収する赤外線吸収材料を含んだ樹脂材料製の非球面レンズであ」る。 ここで、技術常識を勘案すると、引用発明でいう「樹脂」とは、「プラスチック」のことである。また、本件出願の明細書の【0016】から【0018】の記載からみて、本件補正後発明でいう「長波長」とは、「赤外光」のことである。そして、引用発明において、「赤外線吸収材料」が「樹脂材料」に均一に混合されていること、及び引用発明の「レンズ」が光学的な「屈折力」を有することは、自明である。 そうしてみると、引用発明の「樹脂材料」、「赤外線吸収材料」及び「非球面レンズ」は、それぞれ本件補正後発明の「プラスチック材料」、「長波長吸収成分」及び「光学レンズ」に相当する。また、引用発明の「非球面レンズ」は、本件補正後発明の「光学レンズ」における「プラスチック材料で製造され且つ前記プラスチック材料に均一に混合される少なくとも1つの長波長吸収成分を含み、屈折力を有し、その物体側表面及び像側表面の少なくとも一方の表面が非球面である」という要件を満たす。 イ 光学撮像レンズ 引用発明の「撮像光学系」は、「複数のレンズと、多層膜と、を有する」。 ここで、技術常識を勘案すると、引用発明の「複数のレンズ」は、物体側から像側へ配置されたものである([0014]の記載からも確認できる。)。 そうしてみると、引用発明の「撮像光学系」は、本件補正後発明の「光学撮像レンズ」に相当する。また、引用発明の「撮像光学系」と、本件補正後発明の「光学撮像レンズ」は、「物体側から像側へ」、「光学レンズを含」む点で共通する。 (4)一致点及び相違点 ア 一致点 本件補正後発明と引用発明は、次の構成で一致する。 「物体側から像側へ、 プラスチック材料で製造され且つ前記プラスチック材料に均一に混合される少なくとも1つの長波長吸収成分を含み、屈折力を有し、その物体側表面及び像側表面の少なくとも一方の表面が非球面である光学レンズを含む、光学撮像レンズ。」 イ 相違点 本件補正後発明と引用発明は、以下の点で相違する。 (相違点1) 「光学撮像レンズ」が、本件補正後発明は、「プラスチック材料で製造され且つ前記プラスチック材料に均一に混合される少なくとも1つの長波長吸収成分を含み、屈折力を有し、その物体側表面及び像側表面の少なくとも一方の表面が非球面である少なくとも7つの光学レンズを含み、」という要件を満たすものであるのに対し、引用発明は、上記下線を付した「少なくとも7つ」という要件を満たすものであると特定されたものではない点。 (相違点2) 「光学レンズ」が、本件補正後発明は、「波長650nm?700nmでの平均透過率をT6570とし」、「波長400nm?650nmでの平均透過率をT4065とし」たとき、「T6570≦30%」及び「61.9%≦T4065」の条件を満たすのに対し、引用発明は、これが明らかではない点。 (相違点3) 「光学レンズ」が、本件補正後発明は、「最大厚さをTKmaxとし、最小厚さをTKminとすると」、「1.0<TKmax/TKmin≦2.18の条件を満たす」のに対し、引用発明は、このように特定されたものではない点。 (5)判断 相違点についての判断は以下のとおりである。 ア 相違点1について 引用発明の「撮像光学系」は、「デジタルカメラ,スマートフォン(高機能携帯電話)等の画像入力機能付きデジタル機器」に搭載されることを考慮したものである([0001])。 ここで、上記のようなデジタル機器において、レンズの枚数を7枚まで増やして性能を高めることは、例えば、特開2014-102408号公報の【0001】?【0011】の記載並びに図1、3、5、7、9、11、13、15、17、19及び21等から理解されるように、本件優先日前の当業者における技術水準にすぎない。そして、引用発明の「撮像光学系」は、「前記複数のレンズのうちの少なくとも1枚のレンズが、赤外線を吸収する赤外線吸収材料を含んだ樹脂材料製の非球面レンズであ」るところ、上記公報に記載のレンズは、7枚全てにプラスチック材料が採用され(【0051】)、かつ、全ての面に適切な非球面が形成されており(【0049】)、その全てに赤外線吸収材料を含めてもいっこうに差し支えないものである。 そうしてみると、引用発明の「撮像光学系」において、相違点1に係る本件補正後発明の構成を具備したものとすることは、本件優先日前の技術水準を前提とする当業者が容易に発明をすることができたことである。 イ 相違点2について 引用発明において、「赤外線を吸収する赤外線吸収材料を含んだ樹脂材料製の非球面レンズ」([0016])を実現する際に、相違点2に係る本件補正後発明の条件を満たす程度の透過率特性とすることは、相違点2に係る要件が非常に緩やかであることを勘案すると、当業者が自然に設計可能な範囲内のものである。 ウ 相違点3について 引用発明の「非球面レンズ」の赤外線吸収量は、光路長に比例したものとなるから、肉厚の差は少ない方が好ましいといえるところ(引用文献1の[0021])、最大厚さと最小厚さの比を2.18以下に抑えることは、国際公開第2014/080561号の[0002]?[0008]及び[0091]?[0095]等(特に、[0093])の記載からも確認されるとおり、当業者が設計可能な範囲内のものにすぎない。 なお、肉厚の差があれば、最大厚さと最小厚さの比は、必然的に1を超えることとなる。 (6)発明の効果について 本件出願の明細書には、発明の効果に関する明示的な記載がない。ただし、明細書の【0006】には、「赤外光を遮断することで、画像の色の歪みを避け、またレンズの小型化に有利であり、これによりモバイル製品の薄型化の傾向に符合し、且つマルチ光学レンズに適用されるレンズが使用素子の数の減少に有利であり、薄型化及び高画質の要求を満たすことに寄与するという赤外光遮断の技術を如何に改善するかは、関連業者の目標となっている。」と記載されているから、本件補正後発明の効果は、この目標を達することと理解するのが自然である。 しかしながら、このような効果は、引用発明が奏する効果であるか、少なくとも、前記(5)ア?ウで述べたとおり創意工夫する当業者が期待する範囲内の事項である。 (7)審判請求人の主張について 審判請求人は、審判請求書の「4.4-2 進歩性」において、『引用文献1は、本願請求項1に係る発明が備える「少なくとも7つの光学レンズを含み」、「T6570≦30%、61.9%≦T4065、及び、1.0<TKmax/TKmin≦2.18の条件を満たす」との発明特定事項を開示していない』と主張する。 しかしながら、上記(5)で述べたのと同様の理由により、審判請求人の主張は採用できない。 (8)小括 本件補正後発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、本件優先日前の当業者が容易に発明をすることができたものである。 4 補正の却下の決定のむすび 本件補正は、特許法17条の2第3項の規定に違反してされたものであり、あるいは、同条6項において準用する同法126条7項の規定に違反してされたものであるので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 よって、前記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 以上のとおり、本件補正は却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2」[理由]1(1)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、以下の理由2を含むものである。 理由2.(進歩性)本願発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2015/111316号(引用文献1)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 3 当合議体の判断 (1)引用文献及び引用発明 引用文献1の記載及び引用発明は、前記「第2」[理由]3(1)及び(2)に記載したとおりである。 (2)対比及び判断 前記前記「第2」[理由]3で検討した本件補正後発明は、本願発明の「光学レンズ」の枚数、及び、「最大厚さをTKmaxとし、最小厚さをTKminと」したときの「TKmax/TKmin」の範囲に関し、特許請求の範囲を限定的減縮するものであるから、本願発明の範囲には、本件補正後発明が含まれる。 ここで、本願発明の範囲に含まれる本件補正後発明は、前記「第2」[理由]3(3)?(8)に記載したとおり、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 そうしてみると、本願発明も、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
|
審理終結日 | 2020-10-01 |
結審通知日 | 2020-10-06 |
審決日 | 2020-10-30 |
出願番号 | 特願2017-171699(P2017-171699) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B) P 1 8・ 561- Z (G02B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 藤岡 善行 |
特許庁審判長 |
樋口 信宏 |
特許庁審判官 |
福村 拓 関根 洋之 |
発明の名称 | 光学撮像レンズ及びそのプラスチック材料、画像取込装置並びに電子装置 |
代理人 | 服部 雅紀 |