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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C08L |
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管理番号 | 1372253 |
審判番号 | 不服2019-6177 |
総通号数 | 257 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-05-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-05-13 |
確定日 | 2021-03-18 |
事件の表示 | 特願2014-208640「フッ素ゴム組成物を用いたシール材を具備するシール構造」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月16日出願公開、特開2016- 79200〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成26年10月10日を出願日とする出願であって、平成30年2月23日付けで拒絶理由が通知され、同年4月25日に意見書及び手続補正書が提出され、同年7月12日付けで拒絶理由が通知され、同年9月11日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成31年2月5日付けで補正の却下の決定により平成30年9月11日提出の手続補正書が却下されるとともに拒絶査定がなされ、これに対し、令和1年5月13日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年7月12日に審査官との面接審査がなされ、令和2年3月31日付けで当審による拒絶理由が通知され、同年7月3日に意見書が提出されたものである。なお、令和2年3月31日付けの拒絶理由に対する意見書の提出に関して、同年5月30日に拒絶理由通知書の指定期間の延長を希望する上申書が提出され(同年6月4日付け応対記録を参照)、同年6月1日付けで指定期間の延長を認める旨を通知した。 第2 本願発明 請求項1及び2に係る発明は、令和1年5月13日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 フッ素が含有され、単量体単位としてパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)が含まれたフッ素ゴムを含み、架橋成形した後の動的粘弾性試験(圧縮歪み:10%、25℃、周波数100Hz)において、損失正接tanδが0.67以上であるフッ素ゴム組成物が選定されてなる、架橋成形した、粘着効果のあるシール材を具備するシール構造であって、 該シール材の外表面と、被接触体の外表面とが接着剤を介すことなく直接接触しており、該シール材と該被接触体との間で、前記シール材自身の、前記被接触体に対して押し付けられた際に生ずる粘着効果によって密閉性が保たれていることを特徴とするシール構造。 【請求項2】 前記パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)がパーフルオロ(メチルビニルエーテル)である 請求項1に記載のシール構造。」 (以下、請求項1及び2に係る発明を、順に「本願発明1」等といい、これらをまとめて「本願発明」ということがある。) 第3 当審が通知した拒絶理由の概要 当審が令和2年3月31日付けで通知した拒絶理由は、以下のとおりである。 「(実施可能要件)この出願は、明細書の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 ・請求項 1及び2」 そして、その概要は、次のとおりである。 「(エ)・・・発明の詳細な説明には、tanδ要件を満たすために具体的にどのようにゴム組成物を選定すれば良いのか、その選定の具体的な内容については特に明記されていないし、その選定のための指針・指標となるような記載についても一切記載されていない。」 「(カ)してみると、ゴム組成物の架橋成形後の試料がtanδ要件を満たすためには、架橋成形前のゴム組成物において、さらには、当該ゴム組成物を架橋するに際して、具体的にどのような成分をどのように設定すれば良いのかという点について、たとえ当業者が技術常識を考慮したとしても不明であるといわざるを得ない。」 「(キ)更に、発明の詳細な説明には、実施例及び比較例が記載されているが、これらを対比したとしても、使用するフッ素ゴム自体が相違するのみならず、架橋剤や架橋助剤などの種類も相違し、架橋系の点でも相違するもの同士であり、それらの間にtanδ要件を満たす、あるいは、満たさないことの何らの傾向も見当たらないし、本願発明1のゴム組成物において、tanδ要件を満足させるための具体的な手法や条件についても全く不明であるといわざるを得ない。また、それらの間の粘着性の差異についても、必ずしもtanδ要件を満たさないことに起因するともいえない。 (ク)そもそも、実施例1?5で用いられたフッ素ゴムは、(当審注:中略)それらのフッ素ゴムの単量体の比率や商品名が具体的にどのようなものであるのかが不明である。かかる実施例1?5の記載では、たとえ当業者であっても、実施例1?5の近傍はもとより、実施例1?5自体すら、その記載のとおりに再現してシール材を製造し、本願発明1のシール構造とすることは不可能であると解される。」 第4 当審の判断 当審は、令和2年7月3日提出の意見書によっても、本願明細書の発明の詳細な説明は、本願発明1及び2を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないから、本願は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしておらず、拒絶すべきものと判断する。以下にその理由を述べる。 1 実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)について 特許法第36条第4項第1号は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。 一 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。」と定めている。 これは、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が、物の発明では、その物を作り、かつ、その物を使用することについて、明細書に記載した事項と出願時の技術常識とに基づき、過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その発明を実施することができる程度に、発明の詳細な説明を記載しなければならないことを意味するものである。 そこで、この点について以下に検討する。 2 発明の詳細な説明に記載された事項 令和1年5月13日に提出された手続補正書により補正された発明の詳細な説明には、以下のとおりの記載がある。 (1)「【発明が解決しようとする課題】 【0010】 上記したように、例えば300℃の高温環境下においてもシール性が長期にわたって維持されるシール材が依然として強く求められているところ、フッ素樹脂表面に化成処理を施して接着剤を塗布するような方法にあっては、使用する接着剤にも高い耐熱性が要求されることとなり、コストの増加につながり、課題が残る。 【0011】 なお、フッ素ゴムは、耐熱性が高いという特徴を生かして高温領域において使用されることが多い。このような高温領域においてフッ素ゴムをシール材として使用する際には、対象材料にも当然高い耐熱性が要求され、特によく用いられている素材としてポリテトラフルオロエチレン樹脂等のフッ素樹脂が挙げられる。 しかしながら、高温において安定であるというフッ素樹脂の特性に基づいてシール性を維持することは非常に困難であった。 【0012】 そこで本発明は、例えば300℃の環境下においても接着剤等を介在させることなく、シール性が長期にわたって維持されるシール材を提供できるフッ素ゴム組成物、及び、該フッ素ゴム組成物を用いたシール材を具備するシール構造を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0013】 本発明は、フッ素が含有され、単量体単位としてパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)が含まれたフッ素ゴムを含み、架橋成形した後の動的粘弾性試験(圧縮歪み:10%、25℃、周波数100Hz)において、損失正接tanδが0.67以上であるフッ素ゴム組成物が選定されてなる、架橋成形した、粘着効果のあるシール材を具備するシール構造であって、該シール材の外表面と、被接触体の外表面とが接着剤を介すことなく直接接触しており、該シール材と該被接触体との間で、前記シール材自身の、前記被接触体に対して押し付けられた際に生ずる粘着効果によって密閉性が保たれていることを特徴とするシール構造である。 【0014】 本発明者は、架橋成形した後の動的粘弾性試験(圧縮歪み:10%、25℃、周波数100Hz)の損失正接tanδが0.67以上であると、300℃という高温下にあってもシール性を維持できるシール材を与えるフッ素ゴム組成物が提供できることを見出した。 【0015】 また、前記フッ素ゴムには、単量体単位としてパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)が含まれていることが望ましく、該パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)がパーフルオロ(メチルビニルエーテル)であることが望ましい。 【0016】 そして本発明は、前記フッ素ゴム組成物を架橋成形したシール材を具備するシール構造であって、該シール材の外表面と、被接触体の外表面とが接触しており、該シール材と該被接触体との間で密閉性が保たれていることを特徴とするシール構造である。 【0017】 前記フッ素ゴム組成物を架橋成形してシール材とすることにより、ポリテトラフルオロエチレンのような難接着性の材料を、対象材料である被接触体とした場合にも、300℃といった高温環境下において接着剤等を介在させることなくシール性を発現できる。 【発明の効果】 【0018】 本発明のフッ素ゴム組成物は、架橋成形して高温環境下におけるシール性を確保できるシール材を与えることができる効果がある。 【0019】 また、本発明のシール構造は、フッ素ゴム組成物の架橋成形物であるシール材と被接触体との間の密閉性に優れているという効果がある。」 (2)「【発明を実施するための形態】 【0020】 本発明のフッ素ゴム組成物に含まれるフッ素ゴムとしては、単量体単位としてフッ素が含まれたビニリデンフルオライド(VDF)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、テトラフルオロエチレン(TFE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、さらにはパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)等が例示される。またフッ素ゴムの単量体単位としてフッ素を含まない単量体単位が含有されていても構わない。特に単量体単位としてはPAVEが含まれていることが望ましい。 【0021】 前記パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)は、一般式(1)で表されるフッ素含有単量体単位であり、中でもRf=CF_(3)であるパーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)であることが望ましい。 CF_(2)=CFORf(1) (式1中、Rfは炭素数1?12の直鎖又は分岐したフルオロアルキル基) 【0022】 本発明において前記フッ素ゴムは、単量体単位が1種である単独重合体としてのフッ素ゴムであってもよいし、2種以上を用いた共重合体としてのフッ素ゴムであってもよい。 【0023】 2種の単量体単位を使用する二元系フッ素ゴムとしては、VDF-HFP系、VDF-PAVE系、あるいはTFE-PAVE系等が例示される。 【0024】 3種の単量体単位を使用する三元系フッ素ゴムとしては、VDF-TFE-HFE系、あるいはVDF-PAVE-TFE系等が例示される。 【0025】 本発明において前記フッ素ゴムを架橋成形する際に用いられる架橋剤、あるいは、必要であればさらに架橋反応を開始させる架橋助剤や架橋反応を促進する架橋促進剤は、架橋系、架橋するフッ素ゴムの種類(たとえば(共)重合組成、架橋性基の有無や種類など)、又は、得られるシール材の具体的用途や使用形態、さらに混練条件などに応じて、適宜選択することができる。 【0026】 前記フッ素ゴムを架橋する際の架橋系としては、たとえば過酸化物架橋系、ポリオール架橋系、ポリアミン架橋系、オキサゾール架橋系、チアゾール架橋系、イミダゾール架橋系、又はトリアジン架橋系等が例示される。一般的には過酸化物架橋系やポリオール架橋系は、フッ素ゴム組成物を架橋成形した際の耐熱性に優れ、有効な架橋系であるとされている。 【0027】 本発明のフッ素ゴム組成物には、さらに必要に応じてその他の成分を配合してもよい。例えば、カーボンブラック等の充填剤、受酸剤、加工助剤、粘着付与剤、老化防止剤、難燃剤、あるいはフッ素を含まないポリマー等の各種添加剤を配合することができる。架橋成形後の動的粘弾性試験(圧縮歪み:10%、25℃、周波数100Hz)において、損失正接tanδが0.67以上であればこれら添加剤に特に制限はない。 【0028】 なお、前記した損失正接tanδは、温度の上昇に従って増加する傾向があることが分かっている。このため、25℃におけるtanδが0.67以上であれば、300℃近くに達した時点でのtanδはさらに大きくなり、粘着性が一層増大することとなる。本発明は特にこの点に注目したものである。すなわち、25℃におけるtanδが0.67以上であると、300℃近くにおいても十分な粘着性を有するものとなり、弾性体としてのゴムの圧縮による密閉性の維持だけでなく、被接触体との粘着性に基づく密閉性の維持を図ることが可能となる。つまり、シール材として長期間使用した際に、弾性が喪失してしまったとしても、自身のもつ粘着性によって密閉性能を維持することができるため、耐久性が飛躍的に増大する。 【0029】 前記フッ素ゴム組成物は、例えば上記ゴム配合物をオープンロール等で混練して目的の形状に成形したのち、一次架橋(例えば、約150?200℃×5?10分)を行い、ついでポスト加硫(二次架橋)(例えば、約150?230℃×1?24時間)を行うことでゴム部品(シール材)とすることができる。」 (3)「【0030】 本発明のフッ素ゴム組成物の効果を、実施例及び比較例を用いて以下に説明する。 【0031】 本実施例及び比較例に用いた材料は、以下の通りである。 〔フッ素ゴム〕 (A-1)三元系(VDF-TFE-PAVE系) (A-2)三元系(VDF-TFE-PMVE系) (A-3)二元完全フッ素化系(TFE-PMVE系) (A-4)二元完全フッ素化系(TFE-PMVE系) (A-5)二元系(VDF-HFP系) (A-6)二元系(VDF-HFP系) (A-7)二元系(VDF-HFP系) (A-8)三元系(VDF-HFP-TFE系) 【0032】 〔架橋剤〕 (B-1)日本化成株式会社製TAIC(トリアリルイソシアヌレート:純度100%) (B-2)東京材料株式会社製ZISNETF(トリアジン系架橋剤) 【0033】 〔架橋助剤〕 (C-1)日油株式会社製パーヘキサ25B(2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン) (C-2)近江化学工業株式会社製カルビット(水酸化カルシウム) 【0034】 〔受酸剤〕 (D-1)協和化学工業株式会社製キョーワマグ#150(酸化マグネシウム) 【0035】 〔充填剤〕 (E-1)Cancarb社製N990(カーボンブラック) (E-2)CallFillers社製オースチンブラック(瀝青炭) (E-3)堺化学工業株式会社製亜鉛華#3(酸化亜鉛) 【0036】 〔その他の成分〕 (F-1)株式会社イムペックスケミカルズ謙信洋行製カルナバワックス 【0037】 表1,表2に記載された組成のフッ素ゴム組成物をオープンロールで30分間混練して目的の形状に成形したのち、表に記載した条件で一次架橋を行い、ついで二次架橋を行うことで各実施例及び比較例にかかるシール材を作製した。 【0038】 【表1】 【0039】 【表2】 【0040】 架橋成形した各実施例の試料について、tanδは島津製作所製動的粘弾性測定装置EHF-TV05kNM-040を使用し、圧縮歪み:10%、25℃、周波数100Hzにおけるtanδを測定した。 硬さ(デュロメータA)はJISK6253-3に準拠して測定した。 引張強さ及び伸びはJISK6251(ダンベル状3号形)に準拠して測定した。 【0041】 〔性能試験〕 密閉性能 内径φ1.5mm、太さφ1.5mmのOリングを製作し、300℃にて50時間経過後の100kPa圧力差下での空気漏れがないか調べた。結果は下記のように分類し表3,表4に示す。 〇:空気漏れしていない。 △:ごく微量の空気漏れが発生している。 ×:空気漏れが発生しておりOリングとしての機能をはたしていない。 【0042】 粘着性 厚さ2.0mmの試料を作成し、280℃にて24時間経過後の20%圧縮時のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂とのタック性を調べた。結果は下記のように分類し表3,表4に示す。 〇:PTFE剥離時に試料がPTFE樹脂に粘着し、タック性(粘着性)が見られた。 △:〇ほどではないが、試料がある程度PTFE樹脂に対してタック性が確認できた。 ×:タック性が全く確認できなかった。 【0043】 【表3】 【0044】 【表4】 【0045】 上記のように、架橋成形後の動的粘弾性試験(圧縮歪み:10%、25℃、周波数100Hz)において、損失正接tanδが0.67以上である実施例1?5にあっては、300℃においてもシール性が維持されていることが確認された。これに対して、tanδが0.67に満たない比較例1?4においては密閉性能が維持されていないことが確認された。 【0046】 また、実施例1?5のフッ素ゴム組成物に関しては、280℃においてPTFE樹脂に対する粘着性が確認され、シール材とした際にPTFE樹脂のようなシール性を維持することの困難な材料に対しても接着剤等を介すことなく自身の粘着性をもってシール性を維持できる可能性があることが確認された。 (4)「【0047】 なお、本発明における高温環境下における粘着性を利用した密閉性能の向上には、前記フッ素ゴムのフッ素含有量が71質量%以上であることが好ましい。そして、前記フッ素ゴム組成物中にはフッ素ゴムが64質量%以上含まれていることが好ましい。前記フッ素ゴムにはPAVEであることが好ましく、特にPMVEが含まれていることが好ましい。また、シール材としての密閉性能の維持のためには、前記フッ素ゴムのJISK6300-1:2013に準拠したムーニー粘度(ML1+10(121℃))が67以上であることが好ましい。」 3 令和2年7月3日提出の意見書で引用された特許第6006828号公報(以下、「参考文献1」という。)に記載された事項 参考文献1には、以下の事項が記載されている。 (1)「【請求項1】 洗濯機用の防振ゴムであって、 周波数30Hzでの動的粘弾性の温度分散測定において、損失係数が最大となる時の温度が-10℃以上40℃以下であり、 周波数30Hzでの損失係数が、-10℃以上40℃以下の全温度範囲において0.4以上であり、 圧縮永久歪みが、30%以下である、防振ゴム。 【請求項2】 ポリマー成分を含有し、 前記ポリマー成分は、実質的にブチル系ゴムからなり、 粘着付与樹脂をさらに含有し、 前記粘着付与樹脂の配合量は、ポリマー成分100質量部に対して10質量部以上60質量部以下である、請求項1に記載の防振ゴム。 【請求項3】 前記ブチル系ゴムは、ハロゲン化ブチルゴムである、請求項2に記載の防振ゴム。」(特許請求の範囲の請求項1?3) (2)「【0023】 また、防振ゴムにおいて、周波数30Hzでの損失係数が、-10℃以上40℃以下の全温度範囲において0.4以上であり、0.45以上であることが好ましい。周波数30Hzでの損失係数が、0℃以上40℃以下の全温度範囲において0.5以上であることが好ましく、0.6以上であることがより好ましい。防振性の観点から、損失係数は高いほど好ましい。 【0024】 ここで、「損失係数(tanδ)」とは、防振材料の防振特性の評価指標の一つであり、例えばJIS K 6394(加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの動的性質試験方法/小型試験装置)に準拠して測定される値である。損失係数の値が大きいと、振動を低減する効果が高い。」 (3)「【0027】 ポリマー成分は、ゴム材料であれば特に限定されないが、ブチル系ゴムを主成分とすることが好ましい。なお、「主成分」とは、ポリマー成分全体の50質量%以上であることを意味する。 【0028】 ブチル系ゴムは、ハロゲン化ブチルゴム、レギュラーブチルゴムなどを含み、ハロゲン化ブチルゴムであることが好ましい。ハロゲン化ブチルゴムは、クロロブチルゴム、臭素化ブチルゴムなどを含み、クロロブチルゴムであることが好ましい。また、ポリマー成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよいが、好ましくは1種のハロゲン化ゴムを用いることが好ましい。つまり、ポリマー成分は、ハロゲン化ブチルゴムを主成分とし、残部が不可避的不純物からなることが好ましい。」 (4)「【0041】 [実施例1] 表1は、サンプル1?10の各成分の配合量及び評価結果を示す。表2は、表1における各成分を具体的に示している。 【0042】 (サンプル1?6) 下記の表1及び表2に示す配合となるように、ポリマー成分、粘着付与樹脂、充填剤、加硫剤、加硫促進剤、及び加工助剤を混練り機で混練することによって、サンプル1?6のゴム組成物をそれぞれ製造した。次に、サンプル1?6のゴム組成物のそれぞれについて、160℃で30分加熱することにより加硫して、サンプル1?6の防振ゴムを製造した。サンプル1?6の防振ゴムは、ポリマー成分としてのハロゲン化ブチルゴムと、粘着付与樹脂と、充填剤と、加工助剤と、加硫剤と、加硫促進剤とを含み、残部が不可避的不純物からなっていた。 【0043】 (サンプル7?9) 表1及び表2に示す配合となるように、ポリマー成分、充填剤、加硫剤、加硫促進剤、加工助剤及び軟化剤を混練り機で混練することによって、サンプル7?9のゴム組成物をそれぞれ製造した。次に、サンプル7?9のゴム組成物のそれぞれについて、成形機で160℃で30分加熱することにより加硫して、サンプル7?9の防振ゴムを製造した。 【0044】 (サンプル10) 表1及び表2に示す配合となるように、ポリマー成分、粘着付与樹脂、充填剤、加硫剤、加硫促進剤、及び加工助剤を混練り機で混練することによって、サンプル10のゴム組成物をそれぞれ製造した。次に、サンプル10のゴム組成物のそれぞれについて、160℃で30分加熱することにより加硫して、サンプル10の防振ゴムを製造した。 【0045】 (損失係数) サンプル1?10の防振ゴムについて、JISK6394にしたがって、株式会社ユービーエム社製の動的粘弾性測定装置Rheogel-E4000を使用して損失係数を測定した。測定条件としては、試験片として長さ15mm、幅5mm、厚み2mmのものを使用し、試験間隔(上下のチャックの間隔)10mm、初期歪み(平均歪み)10%(1mm)、振幅±0.02%(±2μm)、周波数30Hzで上下方向へ歪みをかけて行った。その結果を表1、図3及び図4に示す。」 (5)「【0050】 【表1】 【0051】 【表2】 」 (6)「【0059】 [実施例2] 表4は、サンプル2、11及び12の各成分の配合量及び評価結果を示す。なお、表4におけるサンプル2は、表1におけるサンプル2と同様である。サンプル11及び12における各成分を表2に具体的に示している。 【0060】 (サンプル11及び12) 表2及び表4に示す配合となるように、ポリマー成分、粘着付与樹脂、充填剤、加硫剤、加硫促進剤、及び加工助剤を混練り機で混練することによって、サンプル11のゴム組成物を製造した。また、表2及び表4に示す配合となるように、ポリマー成分、粘着付与樹脂、充填剤、加硫剤、及び加硫促進剤を混練り機で混練することによって、サンプル12のゴム組成物を製造した。次に、サンプル11及び12のゴム組成物のそれぞれについて、160℃で30分加熱することにより加硫して、サンプル11及び12の防振ゴムを製造した。なお、サンプル11は、加硫剤として硫黄系加硫剤を用い、サンプル12は加硫剤として樹脂加硫剤を用い、サンプル11及び12において酸化亜鉛は加硫促進剤とした。 【0061】 (評価方法) サンプル11及び12について、実施例1と同様に、防振性、加工性、及び圧縮永久歪みを測定した。その結果を表4に示す。表4の加工性において、「Z」は、未加硫ゴムが粘着し、作業が困難なものであることを示す。 【0062】 【表4】 」 4 実施可能要件についての判断 (1)本願発明1について ア 本願発明1の技術的内容と発明された背景 本願発明1は、第2に記載したとおりのものであって、要するに、単量体単位としてパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)が含まれたフッ素ゴムを含むフッ素ゴム組成物が選定されてなる、架橋成形した、粘着効果のあるシール材を具備するシール構造において、フッ素ゴム組成物を「架橋成形した後の動的粘弾性試験(圧縮歪み:10%、25℃、周波数100Hz)において、損失正接tanδが0.67以上である」という物性に係る要件(以下、「tanδ要件」という。)を発明特定事項として有するものであり、これにより、上記シール構造は、「該シール材の外表面と、被接触体の外表面とが接着剤を介すことなく直接接触しており、該シール材と該被接触体との間で、前記シール材自身の、前記被接触体に対して押し付けられた際に生ずる粘着効果によって密閉性が保たれている」というものである。なお、上記フッ素ゴム組成物は、フッ素ゴムを含むこと以外は、他の成分及びそれらの含有量が任意であり、上記フッ素ゴム組成物を架橋成形する条件も任意である。 そして、本願発明がなされた技術的な背景として、発明の詳細な説明には、自動車工業におけるエンジンの燃費向上のために、300℃といった高温環境下でも機能劣化が生じない高い耐熱性を有し、シール性が長期にわたって維持されるシール材が求められており、他分野においても耐熱性を高めた安全性の高い部品が要求されていること、フッ素樹脂表面を化成処理して接着剤を塗布すると、接着剤にも高い耐熱性が要求されてコストの増加となり、フッ素ゴムをシール材に用いると、被接触体であるフッ素樹脂とのシール性を維持することが困難であったことが記載されている(上記2(1)の【0007】?【0012】)。 イ tanδ要件について ここでは、本願発明1のうち、tanδ要件に関する実施可能要件について検討する。 (ア)本願が、上記1で述べたように実施可能要件の規定を満たすためには、発明の詳細な説明に記載された事項と出願時の技術常識とに基づき、過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、当業者が、本願発明1におけるtanδ要件を満たすフッ素ゴム組成物を調製することができなければならない。 そこで、tanδ要件を満たすフッ素ゴム組成物を調製することができるか否かについて、以下に検討する。 (イ)一般に、当業者の技術常識によれば、フッ素ゴム組成物を架橋成形した後の動的粘弾性試験(圧縮歪み:10%、25℃、周波数100Hz)における損失正接tanδの値は、フッ素ゴム組成物の構成成分であるフッ素ゴムの種類及び使用量、架橋剤(架橋系)の種類及び使用量、架橋助剤の種類及び使用量、架橋促進剤の種類及び使用量、フッ素ゴム以外にゴム組成物に含まれる充填剤などその他の成分の種類及び使用量や、架橋条件など、様々な要因により影響を受けるものであると認められる。例えば、フッ素ゴムについては、単量体単位の種類及び含有割合、架橋剤(架橋系)の種類や架橋条件の違い、官能基の種類など、架橋するフッ素ゴムの種類、フッ素ゴムのムーニー粘度や分子量などによって、架橋成形した後のフッ素ゴム組成物のtanδの値が変わるものと解される。 そして、フッ素ゴムやその他の成分から構成されるフッ素ゴム組成物は、上記の各要因が総合的に組み合わされ、複雑に関連及び影響し合った結果として、架橋成形した後のフッ素ゴム組成物のtanδの値が定まるものであると認められる。また、上記の各要因とtanδの値との間に単純な相関関係があるといった技術常識も見当たらないと認められる。 (ウ)そうすると、tanδ要件を満足するフッ素ゴム組成物を調製することができるためには、tanδ要件を満足するための上記(イ)で述べたフッ素ゴム組成物の構成成分であるフッ素ゴムの種類及び使用量、架橋剤(架橋系)の種類及び使用量、架橋助剤の種類及び使用量、架橋促進剤の種類及び使用量、フッ素ゴム以外にゴム組成物に含まれる充填剤などその他の成分の種類及び使用量、架橋条件などが、発明の詳細な説明に記載されていることが必要であるといえる。 (エ)そこで、上記(イ)の各構成成分について、当業者がtanδ要件を満足するフッ素ゴム組成物を調製し、該フッ素ゴム組成物を架橋成形することができるように、発明の詳細な説明に記載されているかを検討する。 (オ)本願発明1の「フッ素ゴム組成物」は、「単量体単位としてパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)が含まれたフッ素ゴム」を必須成分とするものである。 発明の詳細な説明には、フッ素ゴム組成物に含まれるフッ素ゴムの単量体単位として、「ビニリデンフルオライド(VDF)、ヘキサフルオロプロピレン(HEP)、テトラフルオロエチレン(TFE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、さらにはパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)等が例示され・・・PAVEが含まれていることが望ましい」(上記2(2)の段落【0020】)、「前記パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)は・・・パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)であることが望ましい」(上記2(2)の段落【0021】)と記載されているが、当該望ましいことの意味が、上記PAVEやその一態様である上記PMVEの単量体単位が含まれたフッ素ゴムを用いれば、自ずとtanδ要件を満たすことを意味するのかどうかは判然としない。 同じく「フッ素ゴム」に関して、発明の詳細な説明には、「本発明における高温環境下における粘着性を利用した密閉性能の向上には、前記フッ素ゴムのフッ素含有量が71質量%以上であることが好ましい。そして、前記フッ素ゴム組成物中にはフッ素ゴムが64質量%以上含まれていることが好ましい。前記フッ素ゴムにはPAVEであることが好ましく、特にPMVEが含まれていることが好ましい。また、シール材としての密閉性能の維持のためには、前記フッ素ゴムのJIS K 6300-1:2013に準拠したムーニー粘度(ML1+10(121℃))が67以上であることが好ましい。」(上記2(4)の【0047】)とも記載され、好ましいフッ素ゴムのフッ素含有量、フッ素ゴムの単量体単位、及びフッ素ゴムのムーニー粘度が示されているが、当該好ましいことの意味が、当該好ましいフッ素ゴムのフッ素含有量、フッ素ゴムの単量体単位、及びフッ素ゴムのムーニー粘度を有するフッ素ゴム組成物を架橋成形すれば、自ずとtanδ要件を満たすことを意味するのかどうかは判然としない。 よって、フッ素ゴムのフッ素含有量、フッ素ゴムの単量体、フッ素ゴムのムーニー粘度のそれぞれを上記した具体的な内容とすれば、tanδ要件を満たすのか、それとも、上記した全てを上記した具体的な内容とすれば、tanδ要件を満たすのか、いずれにしても明らかでない。 (カ)架橋剤(架橋系)、架橋助剤及び架橋促進剤に関して、発明の詳細な説明には、「架橋系、架橋するフッ素ゴムの種類(たとえば(共)重合組成、架橋性基の有無や種類など)、又は、得られるシール材の具体的用途や使用形態、さらに混練条件などに応じて、適宜選択できることが記載され(【0025】)、また、架橋剤(架橋系)に関して、「過酸化物架橋系、ポリオール架橋系、ポリアミン架橋系、オキサゾール架橋系、チアゾール架橋系、イミダゾール架橋系、又はトリアジン架橋系等が例示される。一般的には過酸化物架橋系やポリオール架橋系は、フッ素ゴム組成物を架橋系成形した際の耐熱性に優れ、有効な架橋系であるとされている」(【0026】)と記載されている。 しかしながら、発明の詳細な説明には、上記「有効な架橋系」であることの意味が、過酸化物架橋系やポリオール架橋系を用いれば、自ずとtanδ要件を満たすことを意味するのかどうかは判然とせず、フッ素ゴム組成物がtanδ要件を満たすために、架橋剤(架橋系)、架橋助剤及び架橋促進剤をどのように選択すればよいのかについて何ら具体的に記載されていない。 (キ)また、発明の詳細な説明には、「カーボンブラック等の充填剤、受酸剤、加工助剤、粘着付与剤、老化防止剤、難燃剤、あるいはフッ素を含まないポリマー等の各種添加剤を配合することができる」ことが記載されているが(【0027】)、フッ素ゴム組成物がtanδ要件を満たすために、上記添加剤をどのように選択すればよいのかについて何ら具体的に記載されていない。 (ク)更に、発明の詳細な説明には、架橋成形に関して、「例えば上記ゴム組成物をオープンロール等で混練して目的の形状に成形したのち、一次架橋(例えば、約150?200℃×5?10分)を行い、ついでポスト加硫(二次架橋)(例えば、約150?230℃×1?24時間)を行うことでゴム製品(シール材)とすることができる」と記載されているが(【0029】)、上記「ゴム製品(シール材)とすることができる」ことが、任意のフッ素ゴム組成物を架橋成形した後にtanδ要件を満たす架橋条件であるかは判然とせず、tanδを満たすために架橋条件をどのように選択すればよいのかについて何ら具体的に記載されていない。 (ケ)ここで、意見書等において、技術的に合理的な説明がなされていたり、また、本願出願時の技術常識が示されたりすることにより、上記で示した全ての事項について、tanδ要件を満たすための記載がなくても、実施可能要件を満たす場合があるともいえる。しかしながら、意見書等をみても、このような説明はなされていない。 (コ)そして、発明の詳細な説明には、実施例1?5及び比較例1?4が記載されており、一見すると、tanδ要件を満たす具体例が記載されているといえる。ここで、上記具体例についてみてみるが、実施例1?5で用いられたフッ素ゴムは、(A-1)がVDF-TFE-PAVE系の三元系であり、(A-2)がVDF-TFE-PMVE系の三元系であり、(A-3)及び(A-4)がTFE-PMVE系の二元完全フッ素化系であることまでは理解できる。しかしながら、それらのフッ素ゴムの単量体単位の比率や商品名は記載されておらず、また、(A-1)は、「PAVE」の名称は記載されておらずアルキル基の長さが不明であるから、具体的な化合物が明らかとはいえない。かかる実施例1?5の記載では、tanδ要件を満たすために具体的なフッ素ゴムの単量体単位とその割合が明らかであるとはいえず、フッ素ゴム組成物を調製し、架橋成形して、実施例1?5のシール材を製造して再現し、本願発明1のシール構造とすることは、たとえ当業者であっても不可能であると解される。 また、実施例1?5及び比較例1?4を対比しても、使用するフッ素ゴムがすべて相違するのみならず、架橋剤や架橋助剤などの種類も相違し、架橋系の点でも相違するもの同士であり、これらの実施例と比較例の記載から、tanδ要件を満たすための傾向も見いだせない。そうすると、実施例1?5の5つの具体例のみがtanδ要件を満たすことが示されているだけであって、本願発明1のフッ素ゴム組成物において、tanδ要件を満足させるための具体的な手法や条件も不明であるといわざるを得ない。また、単にtanδ要件を満たす5つの実施例の粘着性が「○」であり、これを満たさない4つの比較例の粘着性が「×」という記載があるからといって、それらの間の粘着性の差異についても、必ずしもtanδ要件に起因するともいえない。 なお、請求人は、審判請求書において、実施例1?5のフッ素ゴム(A-1)?(A-4)について、三元系(VDF-TFE-PAVE系)、三元系(VDF-TFE-PMVE系)、二元完全フッ素化系(TFE-PMVE系)、二元完全フッ素化系(TFE-PMVE系)を架橋成形した試料のうち、tanδが0.67以上であるものを実施例としたと解釈されるべきである旨を述べ、また、令和2年7月3日提出の意見書において、実施例1?5のフッ素ゴム(A-1)?(A-4)を使用した場合に必ず損失正接tanδが0.67以上となるわけではない旨をそれぞれ述べ、実施例1?5に記載された三元系(VDF-TFE-PAVE系)、三元系(VDF-TFE-PMVE系)、二元完全フッ素化系(TFE-PMVE系)、二元完全フッ素化系(TFE-PMVE系)のフッ素ゴムを用いてフッ素ゴム組成物を使用しただけではtanδ要件を満たさないことを説明している。 これらの請求人の説明は、単にフッ素ゴムの種類だけではtanδ要件を満たすことにはならないと解することができるといえ、このことからも、当業者といえども、発明の詳細な説明の記載を基に、実施例1?5及び比較例1?4を再現実験したり、これらの成分の種類や使用量、架橋条件等を参考にして本願発明のシール構造を製造したりすることはできないものと解される。 (サ)また、tanδ要件を満たすためのフッ素ゴム組成物の具体的な成分やその割合、及び架橋条件が、本願出願時の技術常識であるともいえない。 (シ)そうすると、発明の詳細な説明には、架橋成形した後のフッ素ゴム組成物がtanδ要件を満たすために、具体的にどのようにして、フッ素ゴム及びその他の成分を選定してフッ素ゴム組成物を調製すればよいのか、当該フッ素ゴム組成物をどのような条件で架橋成形すればよいのかについては明記されていないし、また、上記(オ)?(ク)で述べたように、発明の詳細な説明には、フッ素ゴム組成物や架橋成形について好ましい内容が記載されているが、好ましい記載から何を選定してそして組み合わせたらよいのかの指針や指標となるような内容も一切記載されていない。そして、これらのことが本願出願時の技術常識であるとはいえない。 そうすると、当業者は、本願出願時の技術常識を参酌しても、tanδ要件を満たす本願発明1におけるシール材及びシール構造を製造することはできず、フッ素ゴム等のフッ素ゴム組成物の構成成分の種類及び使用量を種々変更したり、架橋条件を種々変更したりして、架橋成形したフッ素ゴム組成物を得て、本願発明1の動的粘弾性試験を行ってtanδを確認することを逐一繰り返さなければならず、これは当業者に過度の試行錯誤を強いるものであることは明らかである。 したがって、発明の詳細な説明は、本願発明1を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。 (2)本願発明2について 本願発明2は、本願発明1を引用し、「上記パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)がパーフルオロ(メチルビニルエーテル)である」ことを更に特定した発明である。いくら本願発明2のように、フッ素ゴムの単量体単位の一部分を特定したとしても、本願発明1について上記(1)で述べたように、発明の詳細な説明には、架橋成形した後のフッ素ゴム組成物がtanδ要件を満たすために、具体的にどのように、フッ素ゴム組成物を構成するフッ素ゴム及びその他の成分を選定すればよいのかについては特に明記されていないし、その選定や組み合わせのための指針や指標となるような内容も一切記載されていない。 そうすると、かかる発明の詳細な説明の記載では、当業者は、本願出願時の技術常識を参酌しても、tanδ要件を満たす本願発明2におけるシール材及びシール構造を製造することはできず、フッ素ゴム等のフッ素ゴム組成物の構成成分の種類及び使用量を種々変更したり、架橋条件を種々変更したりして、架橋成形したフッ素ゴム組成物を得て、本願発明2の動的粘弾性試験を行ってtanδを確認することを逐一繰り返さなければならず、これは当業者に過度の試行錯誤を強いるものである。 したがって、発明の詳細な説明は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。 (3)請求人の主張について ア 請求人は、令和2年7月3日に提出した意見書において、tanδが0.67以上であるフッ素ゴム組成物は、実施例1?5に記載されているし、シール構造とは別の技術分野となる防振ゴム分野では、JIS K 6394〔加硫ゴム及び熱可塑性ゴム・動的性質の求め方〕において損失正接が明確に規定されており、試験方法についてもJIS6385において広く知られている(当審注:中略)、本願の記載事項に接したことを大前提とすれば、当業者であれば、事実上、市販されているA-1からA-4に対応するフッ素ゴムを表1に沿って調整し、損失正接の望ましい数値については、上記規格等に開示されている公知の知識に基づいて得る旨を述べる(令和2年7月3日に提出した意見書の4.及び5.)。 しかしながら、上記4(2)キで述べたように、実施例1?5で用いられたフッ素ゴムは、その単量体単位の比率や商品名が開示されておらず、かかる実施例の記載では、tanδ要件を満たすフッ素ゴム組成物を調製することはできない。また、上記JIS K 6389及びJIS6385は、損失正接の定義及び試験方法が記載されたものにすぎず、フッ素ゴム組成物を調製し、架橋成形した後の損失正接tanδが0.67以上となるためのフッ素ゴム組成物の調製方法や架橋条件については何ら記載されていない。 そうすると、当業者といえども、実施例1?5や上記JISの規定を基に、tanδ要件を満たすフッ素ゴム組成物を調製することはできない。 イ 請求人は、令和2年7月3日に提出した意見書において、参考文献1を提示し、参考文献1には損失正接tanδを得るためのフッ素ゴム組成物が開示されており、これらの技術常識に基づけば、損失正接tanδが0.67以上であるフッ素ゴム組成物を作製可能である旨を述べる。 しかしながら、参考文献1には、上記3(1)?(6)のとおり、ブチル系ゴムであるポリマー成分を主成分とする防振ゴムが記載されており、上記ブチル系ゴムは、クロロブチルゴム、臭素化ブチルゴムなどのハロゲン化ブチルゴムであって本願発明で特定されるフッ素ゴムでなく、参考文献1には、他に、tanδ要件を満たすフッ素ゴム組成物について記載されていないから、参考文献1に基づいて、本願発明1のフッ素ゴム組成物を調製し、tanδが0.67以上であるシール材を製造することができるとはいえない。 ウ これらのことから、当業者が、過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、tanδ要件を満たすフッ素ゴム組成物を調製することはできないから、上記主張を採用することはできない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本願発明1及び2を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえず、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていない。 したがって、本願は、特許法第49条第4号に該当し、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2021-01-07 |
結審通知日 | 2021-01-12 |
審決日 | 2021-01-28 |
出願番号 | 特願2014-208640(P2014-208640) |
審決分類 |
P
1
8・
536-
Z
(C08L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 尾立 信広、海老原 えい子 |
特許庁審判長 |
佐藤 健史 |
特許庁審判官 |
近野 光知 橋本 栄和 |
発明の名称 | フッ素ゴム組成物を用いたシール材を具備するシール構造 |
代理人 | 松浦 喜多男 |
代理人 | 岩田 康利 |
代理人 | 山本 優 |