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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1372269
審判番号 不服2020-5384  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-04-21 
確定日 2021-03-18 
事件の表示 特願2019-11219「光学フィルム」拒絶査定不服審判事件〔令和2年2月13日出願公開、特開2020-24357〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2019-11219号(以下「本件出願」という。)は,平成31年1月25日(先の出願に基づく優先権主張 平成30年8月2日)に出願された特許出願であって,その手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。
平成31年 4月25日付け:拒絶理由通知書
令和 元年 7月16日付け:意見書
令和 元年 7月16日付け:手続補正書(1)
令和 元年 8月30日付け:拒絶理由通知書
令和 元年11月 7日付け:意見書
令和 元年11月 7日付け:手続補正書(2)
令和 2年 1月27日付け:補正の却下の決定
(手続補正書(2)でした手続補正が却下された。)
令和 2年 1月27日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 2年 4月21日付け:審判請求書
令和 2年 4月21日付け:手続補正書
令和 2年 8月18日付け:上申書

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年4月21日付け手続補正書でした手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
(1) 本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の(令和元年7月16日にした手続補正後の)特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。
「 1つ以上の重合性官能基を有し,分子量が600以上である3種以上の重合性液晶化合物が配向した状態で重合した重合体からなる光学異方性層を有する光学フィルムであって,
前記光学異方性層の1mm^(2)当たりにおける実サイズが0.3μm以上50μm以下である配向欠陥の個数が下記式(1)を満たし,
逆波長分散性を有することを特徴とする,光学フィルム。
0≦配向欠陥の個数[個]≦14 (1)」

(2) 本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。なお,下線は補正箇所を示す。
「 1つ以上の重合性官能基を有し,分子量が600以上である3種以上の重合性液晶化合物が配向した状態で重合した重合体からなる光学異方性層を有する光学フィルムであって,
前記光学異方性層の1mm^(2)当たりにおける実サイズが0.3μm以上50μm以下である配向欠陥の個数が下記式(1)を満たし,
逆波長分散性を有し,
前記分子量が600以上である3種以上の重合性液晶化合物のうち2種の重合性液晶化合物が下記式(I)で表される化合物であり,
前記分子量が600以上である3種以上の重合性液晶化合物のうち主となる重合性液晶化合物は,前記分子量が600以上である3種以上の重合性液晶化合物の全量に対し90質量%以下であることを特徴とする,光学フィルム。
0≦配向欠陥の個数[個]≦14 (1)
【化1】

[式(I)中,Arは置換基を有していてもよい二価の芳香族基を表す。前記芳香族基とは,平面性を有する環状構造の基であり,該環状構造が有するπ電子数がヒュッケル則に従い[4n+2]個であるものをいう。ここでnは整数を表す。-N=や-S-等のヘテロ原子を含んで前記環状構造を形成している場合,これらヘテロ原子上の非共有結合電子対を含めてヒュッケル則を満たし,芳香族性を有する場合も含む。前記二価の芳香族基中には窒素原子,酸素原子,硫黄原子のうち少なくとも1つ以上が含まれていてよい。
G^(1)及びG^(2)はそれぞれ独立に,二価の芳香族基又は二価の脂環式炭化水素基を表す。ここで,該二価の芳香族基又は二価の脂環式炭化水素基に含まれる水素原子は,ハロゲン原子,炭素数1?4のアルキル基,炭素数1?4のフルオロアルキル基,炭素数1?4のアルコキシ基,シアノ基又はニトロ基に置換されていてもよく,該二価の芳香族基又は二価の脂環式炭化水素基を構成する炭素原子が,酸素原子,硫黄原子又は窒素原子に置換されていてもよい。
L^(1),L^(2),B^(1)及びB^(2)はそれぞれ独立に,単結合又は二価の連結基である。
k,lは,それぞれ独立に0?3の整数を表し,1≦k+lの関係を満たす。ここで,2≦k+lである場合,B^(1)及びB^(2),G^(1)及びG^(2)は,それぞれ互いに同一であってもよく,異なっていてもよい。
E^(1)及びE^(2)はそれぞれ独立に,炭素数1?17のアルカンジイル基を表し,ここで,アルカンジイル基に含まれる水素原子は,ハロゲン原子で置換されていてもよく,該アルカンジイル基に含まれる-CH_(2)-は,-O-,-S-,-Si-で置換されていてもよい。
P^(1)及びP^(2)は互いに独立に,重合性官能基を表す。]」

(3) 本件補正について
本件補正は,本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「分子量が600以上である3種以上の重合性液晶化合物」について,「2種の重合性液晶化合物が」「式(I)で表される化合物であり」,「主となる重合性液晶化合物は,前記分子量が600以上である3種以上の重合性液晶化合物の全量に対し90質量%以下である」と限定する補正である。
(当合議体注:式(I)についての説明は,省略する。以下,同様。)
また,本件補正前の請求項1に係る発明と,本件補正後の請求項1に係る発明の,産業上の利用分野及び解決しようとする課題は,同一である(本件出願の明細書の【0001】並びに【0004】及び【0005】。)。
そうしてみると,本件補正は,特許法17条の2第5項2号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)が同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。

2 独立特許要件についての当合議体の判断
(1) 引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由において引用された特開2018-77465号公報(以下「引用文献2」という。)は,先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ,そこには,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。また,事案に鑑みて,式の説明の詳細は割愛する。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,新規な化合物,該化合物を含む液晶組成物,該液晶組成物の硬化物を含む層,該層を含む光学フィルム,偏光板および光学ディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
…省略…
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
…省略…相転移温度の低下等を目的として重合性液晶化合物に添加剤を加えると,液晶化合物の分子配向が添加剤により乱され配向欠陥が生じ,所望の光学特性が得られない場合があった。また,添加剤または重合性液晶化合物が結晶として析出することによっても配向欠陥が生じ,所望の光学特性が得られない場合があった。
【0007】
そこで,本発明は,配向欠陥の発生を抑制すると共に,光学特性を損なうことなく液晶組成物の相転移温度を低下させることが可能な化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
…省略…
【発明の効果】
【0010】
本発明の化合物は,配向欠陥の発生を抑制すると共に,光学特性を損なうことなく液晶組成物のネマチック相転移温度を低下させることができる。」

イ 「【発明を実施するための形態】
【0011】
以下,本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお,本発明の範囲はここで説明する実施の形態に限定されるものではなく,本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更をすることができる。
【0012】
本発明の化合物は,次の式(A):
【化4】

で表される。式(A)で表される本発明の化合物を以下において,化合物(A)とも称する。式(A)中の記号について説明する。
【0013】
式(A)中のB^(1),E^(1)およびD^(1)は,それぞれ独立に,単結合または2価の連結基を表す。
…省略…
【0018】
式(A)中のA^(1)およびG^(1)は,それぞれ独立に,炭素数6?20の2価の芳香族炭化水素基または炭素数3?16の2価の脂環式炭化水素基を表す。
…省略…
【0031】
式(A)中のm1およびn1は,それぞれ独立に,0?3の整数を表す。
…省略…
【0032】
式(A)中のAr^(1)は,置換基を有していてもよい2価の芳香族基であり,該芳香族基中に,窒素原子,酸素原子および硫黄原子からなる群から選択される少なくとも1つの原子を含む。
…省略…
【0034】
Ar^(1)で表される芳香族基としては,例えば以下の基が挙げられる。
【0035】
【化8】

…省略…
【0073】
本発明の化合物(A)は,式(B):
【化13】

[式(B)中,
B^(2),B^(3),E^(2),E^(3),D^(2)およびD^(3)は,それぞれ独立に,単結合または2価の連結基を表し,
A^(2),A^(3),G^(2)およびG^(3)は,それぞれ独立に,炭素数6?20の2価の芳香族炭化水素基または炭素数3?16の2価の脂環式炭化水素基を表し,該芳香族炭化水素基または該脂環式炭化水素基に含まれる水素原子は,それぞれ独立に,ハロゲン原子,-R^(1),-OR^(1),シアノ基またはニトロ基で置換されていてもよく,R^(1)は上記と同義であり,該芳香族炭化水素基または該脂環式炭化水素基に含まれる炭素原子は,それぞれ独立に,酸素原子,硫黄原子または窒素原子で置換されていてもよく,
F^(2)およびF^(3)は,それぞれ独立に,炭素数1?17のアルカンジイル基を表し,該アルカンジイル基に含まれる水素原子は,それぞれ独立に,ハロゲン原子,-R^(1)または-OR^(1)で置換されていてもよく,R^(1)は上記と同義であり,該アルカンジイル基に含まれる-CH_(2)-は,それぞれ独立に,-O-,-S-,-Si-または-CO-で置換されていてもよく,
m2,m3,n2およびn3は,それぞれ独立に,0?3の整数を表し,
Ar^(2)は,置換基を有していてもよい2価の芳香族基であり,該芳香族基中に,窒素原子,酸素原子および硫黄原子からなる群から選択される少なくとも1つの原子を含み,
P^(2)はおよびP^(3)は,それぞれ独立に,水素原子または重合性基を表し,P^(2)およびP^(3)の少なくとも1つは重合性基である。]
で表される重合性液晶化合物(以下において「重合性液晶化合物(B)」とも称する)を含む液晶組成物に添加することにより,配向欠陥の発生を抑制すると共に,該液晶化合物の配向を妨げすぎることなく液晶組成物のネマチック相転移温度を低下させることができる。この理由は明らかではないが,本発明の化合物(A)と,液晶組成物に含まれる重合性液晶化合物(B)とは互いに類似する構造単位を有している。そのため,互いに相溶し,液晶組成物中で化合物(A)および重合性液晶化合物(B)の結晶が析出しにくくなり配向欠陥の発生が抑制されると考えられる。また,このような状態であることによって,重合性液晶化合物(B)の配向を妨げすぎることなくネマチック相転移温度を低下させることができると考えられる。特に,配向欠陥の発生を抑制すると共に,光学特性を損なうことなく液晶組成物の相転移温度を低下させやすい観点からは,本発明の化合物(A)のAr^(1)以外の部分であるメソゲン部分と,重合性液晶化合物(B)のAr^(2)以外の部分であるメソゲン部分とが互いに類似する構造単位を有することが好ましい。
…省略…
【0114】
本発明は,少なくとも1種の式(A)で表される化合物(A)と,少なくとも1種の式(B)で表される重合性液晶化合物(B)とを含む液晶組成物も提供する。化合物(A)と重合性液晶化合物(B)との相溶性を高めやすく,それぞれの化合物を製造しやすい観点からは,式(A)および式(B)中,B^(1)とB^(2)およびB^(3)とが同一であり,E^(1)とE^(2)およびE^(3)とが同一であり,D^(1)とD^(2)およびD^(3)とが同一であり,A^(1)とA^(2)およびA^(3)とが同一であり,G^(1)とG^(2)およびG^(3)とが同一であり,F^(1)とF^(2)およびF^(3)とが同一であり,m1とm2およびm3とが同一であり,n1とn2およびn3とが同一であり,Ar^(1)とAr^(2)とが同一であり,P^(1)とP^(2)およびP^(3)とが同一であることが好ましい。
【0115】
本発明の液晶組成物において,式(A)で表される化合物の液体クロマトグラフィーで測定した面積百分率値は,該液晶組成物に含まれる化合物(A)および重合性液晶化合物(B)の面積値の合計量に基づいて18%以下である。
…省略…
【0119】
本発明の液晶組成物に含有させ得る有機溶剤としては,化合物(A)および重合性液晶化合物(B)などを溶解し得る有機溶剤であり,重合反応に不活性な溶剤であれば特に制限されない。
…省略…
【0124】
本発明の液晶組成物の硬化物を含む層は,単独で,または,支持体等との積層体の形態で,位相差フィルム,偏光フィルム等の光学フィルムとして,使用することができる。本発明は,上記層を少なくとも有する光学フィルム,上記層を少なくとも有する位相差フィルム,上記層を少なくとも有する逆波長分散性を有する位相差フィルムも提供する。
【0125】
例えば本発明の一実施態様において,上記液晶組成物の配向状態における重合体(硬化物)から構成される位相差フィルム(以下,「本発明の位相差フィルム」ともいう)が提供される。本発明の位相差フィルムは下記式(I)の波長分散度Re(450nm)/Re(550nm)を満たすことが好ましい。
0.80≦Re(450)/Re(550)<1.00 (I)
[式(I)中,Re(λ)は波長λnmの光に対する正面位相差値を表す。]」

ウ 「【実施例】
【0167】
…省略…
【0169】
〔実施例1:式(A-1)および(A-2)で表される化合物の製造〕
下記式(A-1)で表される化合物(以下,「化合物(A-1)」という)と,下記式(A-2)で表される化合物(以下,「化合物(A-2)」という)を以下のスキームに従い合成した。
【化26】

【0170】
<工程(a)>
ジムロート冷却管および温度計を設置した100mL-四ツ口フラスコ内を窒素雰囲気とし,特許文献(特開2010-31223)を参考に合成した化合物(E-1-1)8.06g,特許文献(特開2011-207765)を参考に合成した化合物(D-1-1)4.00g,ジメチルアミノピリジン(以下,「DMAP」と略す。和光純薬工業(株)製)0.02g,ジブチルヒドロキシトルエン(以下,「BHT」と略す。和光純薬工業(株)製)0.20g,およびクロロホルム(関東化学(株)製)40gを添加し,混合した後,ジイソプロピルカルボジイミド(以下,「IPC」と略す。和光純薬工業(株)製)2.11gを滴下漏斗を用いてさらに添加し,これらを0℃で一晩反応させた。反応終了後,濾過により不溶成分を除去した。得られたクロロホルム溶液からロータリエバポレーターを用いて溶媒を留去し,留去後の溶液にアセトニトリル(和光純薬工業(株)製)20gを滴下し,固体を析出させた。続いて,析出した固体を濾過により取り出し,20gのアセトニトリルで3回洗浄した後,30℃で減圧乾燥することにより,組成物(A’)を6.46g得た。得られた組成物(A’)をHPLC測定にて分析した結果,該組成物は,上記化合物(A-1),(A-2)および(B-1)を含んでおり,上記化合物(A-1)および化合物(A-2)の合計量は化合物(A-1),(A-2)及び(B-1)の合計100%に対して20.21%であった。
【0171】
なお,上記のように組成物(A’)を上記HPLC測定条件にて分析した結果,保持時間19.4分で化合物1が得られ,保持時間20.9分で化合物2が得られた。化合物1および2のそれぞれの分子量をLC/MS分析にて測定したところ,いずれの分子量も711.83であった。この結果および上記反応スキームから,組成物(A’)に含まれる化合物1および2が上記の化合物(A-1)および(A-2)であることを同定した。
【0172】
〔製造例1:式(B-1)で表される化合物の製造〕
下記式(B-1)で表される重合性液晶化合物(以下,「化合物(B-1)」という)を以下のスキームに従い合成した。
【化27】

【0173】
<工程(b)>
ジムロート冷却管および温度計を設置した100mL-四ツ口フラスコ内を窒素雰囲気とし,特許文献(特開2010-31223)を参考に合成した化合物(E-2-1)11.02g,特許文献(特開2011-207765)を参考に合成した化合物(D-2-1)4.00g,DMAP(和光純薬工業(株)製)0.02g,BHT(和光純薬工業(株)製)0.20g,およびクロロホルム(関東化学(株)製)58gを添加し,混合した後,IPC(和光純薬工業(株)製)4.05gを滴下漏斗を用いてさらに添加し,これらを0℃で一晩反応させた。反応終了後,濾過により不溶成分を除去した。得られたクロロホルム溶液を,該溶液に含まれるクロロホルムの重量に対して3倍の重量のアセトニトリル(和光純薬工業(株)製)に滴下し,固体を析出させた。続いて,析出した固体を濾過により取り出し,20gのアセトニトリルで3回洗浄した後,30℃で減圧乾燥することにより,化合物(B-1)を11.43g得た。化合物(B-1)の収率は,化合物(D-2-1)基準で80%であった。なお,重合性液晶化合物(B-1)の極大吸収波長(λ_(max))は352nmであった。
…省略…
【0175】
〔実施例2:液晶組成物(1)の製造〕
実施例1で得た化合物(A-1),(A-2)および(B-1)を含む組成物(A’)5mgと,上記製造例1で得た重合性液晶化合物(B-1)995mgとを混合し,液晶組成物(1)を得た。得られた液晶組成物(1)を用いて上記の測定条件でHPLC分析を行い,化合物(A-1),(A-2)および(B-1)の合計量に基づく化合物(A-1)および(A-2)の面積百分率値を測定した。
【0176】
〔実施例3および4:液晶組成物(2)および(3)の製造〕
実施例1で得た組成物(A’)と重合性液晶化合物(B-1)との混合割合を表1に示すようにそれぞれ変更したこと以外は実施例2と同様にして,液晶組成物(2)および(3)を得た。
【0177】
〔比較例1〕
製造例1で得た重合性液晶化合物(B-1)を比較例1とした。
【0178】
〔比較例2〕
実施例1で得た組成物(A’)を比較例2とした。
…省略…
【0180】
【表1】

【0181】
〔光配向膜形成用組成物の調製〕
下記成分を混合し,得られた混合物を80℃で1時間攪拌することにより,光配向膜形成用組成物を得た。
次の式で示される光配向性材料(5部):
【化28】

溶剤(95部):シクロペンタノン
【0182】
〔光学フィルム(位相差フィルム)の製造〕
以下のように光学フィルムを製造した。シクロオレフィンポリマーフィルム(COP)(ZF-14,日本ゼオン株式会社製)を,コロナ処理装置(AGF-B10,春日電機株式会社製)を用いて出力0.3kW,処理速度3m/分の条件で1回処理した。コロナ処理を施した表面に,前記光配向膜形成用組成物をバーコーター塗布し,80℃で1分間乾燥し,偏光UV照射装置(SPOT CURE SP-7;ウシオ電機株式会社製)を用いて,100mJ/cm^(2)の積算光量で偏光UV露光を実施した。得られた配向膜の膜厚をレーザー顕微鏡(LEXT,オリンパス株式会社製)で測定したところ,100nmであった。
続いて,バイアル管に,実施例2で得た液晶組成物(1)を投入し,表2に記載の組成に従い重合開始剤,レベリング剤,重合禁止剤および溶剤を仕込み,カルーセルを用いて80℃で30分撹拌し,液晶組成物含有混合溶液(1)を得た。
なお,表2に示す重合開始剤,レベリング剤および重合禁止剤の量は,実施例2で得た液晶組成物(1)100質量部に対する仕込み量である。また,溶剤の配合量は,液晶組成物(1)の質量%が溶液全量に対して13%となるように設定した。
【0183】
【表2】

【0184】
重合開始剤:2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)ブタン-1-オン(イルガキュア369;BASFジャパン社製)
レベリング剤:ポリアクリレート化合物(BYK-361N;ビックケミージャパン製)
重合禁止剤:BHT(和光純薬工業(株)製)
溶剤:N-メチルピロリドン(NMP;関東化学(株)製)
【0185】
得られた液晶組成物含有混合溶液(1)を,配向膜上にバーコーターを用いて塗布し,120℃で1分間乾燥した後,高圧水銀ランプ(ユニキュアVB-15201BY-A,ウシオ電機株式会社製)を用いて,紫外線を照射(窒素雰囲気下,波長:365nm,波長365nmにおける積算光量:1000mJ/cm^(2))することにより光学フィルム(1)を作成した。
また,上記液晶組成物(1)に代えて実施例3,4,比較例1および2の組成物をそれぞれ用いたこと以外は上記と同様にして,光学フィルム(2)?(5)を作成した。
【0186】
〔配向欠陥の評価〕
得られた光学フィルムを10cm四方に切り出し,偏光顕微鏡(LEXT,オリンパス社製)を用いて目視にて画面上の配向欠陥の個数を確認し,次の評価基準に従い評価した。結果を表3に示す。
(配向欠陥の評価基準)
1:全面に配向欠陥が発生(>100個)
2:11?100個
3:1?10個
4:欠陥なし
【0187】
〔光学特性Re(450)/Re(550)の測定〕
上記で作成した光学フィルムを測定試料とし,測定機(王子計測機器社製「KOBRA-WR」)を用いて,波長450nmおよび波長550nmの光に対する正面位相差値を測定し,Re(450)/Re(550)を算出した。得られた結果を表3に示す。
【0188】
【表3】

【0189】
表1に示すとおり,実施例2?4の本発明の液晶組成物は,実施例1で得た化合物(A)を含むことにより低減されたネマチック相転移温度を有していた。さらに,実施例2?4の液晶組成物から得た光学フィルム(1)?(3)においては,表3に示すとおり,配向欠陥が見られなかった。また,Re(450)/Re(550)の値は式(I):0.80≦Re(450)/Re(550)<1.00を満足するものであり,実施例1の化合物を添加することによる逆波長分散性への悪影響は見られなかった。
一方で,実施例1で得た化合物(A)を含まない比較例1の組成物では,得られる光学フィルムに配向欠陥が見られないものの,組成物のネマチック相転移温度が高かった。また,実施例1で得た化合物(A)を所定量超えて含む比較例2の組成物では,ネマチック相転移温度の低下は見られるものの,得られる光学フィルムに配向欠陥が生じた。これらの結果から,本発明の化合物を所定の量で添加することにより,配向欠陥が抑制されると共に,液晶化合物の配向を妨げすぎることなく相転移温度を低下させることができ,逆波長分散性を維持したままフィルム成膜時の乾燥温度を下げることができることが確認された。」

(2) 引用発明
ア 引用文献2の【0180】【表1】に記載された「実施例4」の「液晶組成物(3)」は,【0175】及び【0176】の記載からみて,「化合物(A-1),化合物(A-2)及び重合性液晶化合物(B-1)を含む組成物(A’)495mgと,重合性液晶化合物(B-1)505mgとを混合して得たものであ」る。また,【0170】の記載からみて,「組成物(A’)は,化合物(A-1)及び化合物(A-2)の合計量が化合物(A-1),化合物(A-2)及び重合性液晶化合物(B-1)の合計100%に対して20.21%であ」る。
(当合議体注:「組成物(A’)」,「重合性液晶化合物(B-1)」及び「液晶組成物(3)」の製造方法の詳細は,【0169】?【0176】に記載のとおりであるが,本件補正後発明との対比には直接関係しないため,その記載を省略する。以下,同様である。)

イ 引用文献2の【0188】【表3】に記載された「光学フィルム(3)」は,【0182】?【0185】の記載からみて,「シクロオレフィンポリマーフィルムのコロナ処理を施した表面に光配向膜形成用組成物を塗布乾燥し偏光UV露光を実施して配向膜を得」,「液晶組成物(3),重合開始剤,レベリング剤,重合禁止剤及び溶剤からなる液晶組成物含有混合溶液を,配向膜上に塗布乾燥した後,紫外線を照射することにより作成した」ものである。そして,【0186】?【0188】【表3】の記載からみて,「光学フィルム(3)」は,「10cm四方に切り出し,偏光顕微鏡を用いて目視にて画面上の配向欠陥の個数を確認したところ,欠陥はなく」,「波長450nmの光に対する正面位相差値Re(450)及び波長550nmの光に対する正面位相差値Re(550)を測定し,Re(450)/Re(550)を算出したところ0.82であ」る。

ウ そうしてみると,引用文献2には,次の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「 シクロオレフィンポリマーフィルムのコロナ処理を施した表面に光配向膜形成用組成物を塗布乾燥し偏光UV露光を実施して配向膜を得,
液晶組成物(3),重合開始剤,レベリング剤,重合禁止剤及び溶剤からなる液晶組成物含有混合溶液を,配向膜上に塗布乾燥した後,紫外線を照射することにより作成した光学フィルム(3)であって,
液晶組成物(3)は,化合物(A-1),化合物(A-2)及び重合性液晶化合物(B-1)を含む組成物(A’)495mgと,重合性液晶化合物(B-1)505mgとを混合して得たものであり,
組成物(A’)は,化合物(A-1)及び化合物(A-2)の合計量が化合物(A-1),化合物(A-2)及び重合性液晶化合物(B-1)の合計100%に対して20.21%であり,
光学フィルム(3)は,10cm四方に切り出し,偏光顕微鏡を用いて目視にて画面上の配向欠陥の個数を確認したところ,欠陥はなく,波長450nmの光に対する正面位相差値Re(450)及び波長550nmの光に対する正面位相差値Re(550)を測定し,Re(450)/Re(550)を算出したところ0.82であり,
化合物(A-1)は,次の式で表され,
化合物(A-2)は,次の式で表され,
重合性液晶化合物(B-1)は,次の式で表される,
光学フィルム(3)。



(3) 対比
ア 光学フィルム
引用発明の「光学フィルム(3)」は,「液晶組成物(3),重合開始剤,レベリング剤,重合禁止剤及び溶剤からなる液晶組成物含有混合溶液を,配向膜上に塗布乾燥した後,紫外線を照射することにより作成した」ものである。また,引用発明の「光学フィルム(3)」は,「10cm四方に切り出し,偏光顕微鏡を用いて目視にて画面上の配向欠陥の個数を確認したところ,欠陥はなく,波長450nmの光に対する正面位相差値Re(450)及び波長550nmの光に対する正面位相差値Re(550)を測定し,Re(450)/Re(550)を算出したところ0.82であ」る。加えて,上記「液晶組成物含有混合溶液」は,材料として「化合物(A-1)」,「化合物(A-1)」及び「重合性液晶化合物(B-1)」を含む。
ここで,引用発明の「重合性液晶化合物(B-1)」は,その式からみて,2つの重合性官能基を有する重合性液晶化合物であり,分子量は1112.3である。また,引用発明の「化合物(A-1)」及び「化合物(A-2)」は,その式からみて,1つの重合性官能基を有する重合性液晶化合物であり,分子量は711.8である(当合議体注:「化合物(A-1)」及び「化合物(A-2)」については,「液晶化合物」とは称されていない。しかしながら,「重合性液晶化合物(B-1)」との構造の類似性等を勘案すると,引用発明の「液晶組成物含有混合溶液」においては,「液晶化合物」として機能すると認められる。)。加えて,引用発明の「光学フィルム(3)」は,上記の製造工程及び光学特性からみて,「化合物(A-1)」,「化合物(A-2)」及び「重合性液晶化合物(B-1)」が配向した状態で重合した重合体からなる光学異方性層を有するといえる。

そうしてみると,引用発明の「化合物(A-1)」,「化合物(A-2)」及び「重合性液晶化合物(B-1)」は,いずれも,本件補正後発明の,「1つ以上の重合性官能基を有し,分子量が600以上である」とされる「重合性液晶化合物」に相当する。また,引用発明の「光学フィルム(3)」は,本件補正後発明の,「1つ以上の重合性官能基を有し,分子量が600以上である3種以上の重合性液晶化合物が配向した状態で重合した重合体からなる光学異方性層を有する」とされる「光学フィルム」に相当する。
(当合議体注:「化合物(A-1)」,「化合物(A-1)」の分子量が,「600以上」を満たすことは,引用文献2の【0171】のHPLC測定結果とも符合する。)

イ 逆波長分散性
引用発明の「光学フィルム(3)」は,「波長450nmの光に対する正面位相差値Re(450)及び波長550nmの光に対する正面位相差値Re(550)を測定し,Re(450)/Re(550)を算出したところ0.82であ」る。
そうしてみると,引用発明の「光学フィルム(3)」は,本件補正後発明の「光学フィルム」における,「逆波長分散性を有し」という要件を満たす。

ウ 主となる重合性液晶化合物
引用発明の「液晶組成物(3)」は,「化合物(A-1),化合物(A-2)及び重合性液晶化合物(B-1)を含む組成物(A’)495mgと,重合性液晶化合物(B-1)505mgとを混合して得たものであり」,「組成物(A’)は,化合物(A-1)及び化合物(A-2)の合計量が化合物(A-1),化合物(A-2)及び重合性液晶化合物(B-1)の合計100%に対して20.21%であ」る。
上記の組成からみて,引用発明の「化合物(A-1)」,「化合物(A-2)」及び「重合性液晶化合物(B-1)」のうち,最も分量の多い「重合性液晶化合物(B-1)」の分量は,「化合物(A-1)」,「化合物(A-2)」及び「重合性液晶化合物(B-1)」の全量に対して90質量%と計算される。
(当合議体注:「重合性液晶化合物(B-1)」の分量は,505mg+495mg×(1-0.2021)≒900mgと計算され,また,全量は505mg+495mg=1000mgであるから,900mg÷1000mg=90質量%と計算される。この値は,引用文献2の【0180】【表3】の「(A-1)及び(A-2)の面積百分率値[%]」の値とも符合する。)
そうしてみると,引用発明の「光学フィルム(3)」は,本件補正後発明の「光学フィルム」における,「前記分子量が600以上である3種以上の重合性液晶化合物のうち主となる重合性液晶化合物は,前記分子量が600以上である3種以上の重合性液晶化合物の全量に対し90質量%以下である」という要件を満たす。

(4) 一致点及び相違点
ア 一致点
本件補正後発明と引用発明は,次の構成で一致する。
「 1つ以上の重合性官能基を有し,分子量が600以上である3種以上の重合性液晶化合物が配向した状態で重合した重合体からなる光学異方性層を有する光学フィルムであって,
逆波長分散性を有し,
前記分子量が600以上である3種以上の重合性液晶化合物のうち主となる重合性液晶化合物は,前記分子量が600以上である3種以上の重合性液晶化合物の全量に対し90質量%以下である,光学フィルム。」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は,以下の点で相違する,又は一応相違する。
(相違点1)
「光学フィルム」が,本件補正後発明は,「前記光学異方性層の1mm^(2)当たりにおける実サイズが0.3μm以上50μm以下である配向欠陥の個数が下記式(1)を満たし」ているのに対して,引用発明は,一応,これが明らかではない点。
(当合議体注:「下記式(1)」は,「0≦配向欠陥の個数[個]≦14」である。)

(相違点2)
「光学フィルム」が,本件補正後発明は,「前記分子量が600以上である3種以上の重合性液晶化合物のうち2種の重合性液晶化合物が下記式(I)で表される化合物であ」るのに対して,引用発明の「化合物(A-1)」,「化合物(A-2)」及び「重合性液晶化合物(B-1)」のうち,本件補正後発明の「下記式(I)で表される化合物」に該当する化合物は,「重合性液晶化合物(B-1)」のみである点。

(5) 判断
事案に鑑みて,相違点2,相違点1の順に検討する。
ア 相違点2について
引用文献2の【0114】には,「本発明は,少なくとも1種の式(A)で表される化合物(A)と,少なくとも1種の式(B)で表される重合性液晶化合物(B)とを含む液晶組成物も提供する。」と記載されている。そうしてみると,引用発明の「液晶組成物(3)」において,「式(B)で表される重合性液晶化合物(B)」を1種類のみならず,例えば,もう1種類追加することは,引用文献2の上記記載が示唆する事項の範囲内といえる。ただし,引用文献2に記載された「式(B)で表される重合性液晶化合物(B)」(引用文献2の【0073】)は,必ずしも本件補正後発明の「式(I)」の要件を満たすとは限らない(メソゲンが長い場合もある。)。しかしながら,引用文献2の【0073】には,「本発明の化合物(A)は,式(B)…を含む液晶組成物に添加することにより,配向欠陥の発生を抑制すると共に,該液晶化合物の配向を妨げすぎることなく液晶組成物のネマチック相転移温度を低下させることができる。この理由は明らかではないが,本発明の化合物(A)と,液晶組成物に含まれる重合性液晶化合物(B)とは互いに類似する構造単位を有している。そのため,互いに相溶し,液晶組成物中で化合物(A)および重合性液晶化合物(B)の結晶が析出しにくくなり配向欠陥の発生が抑制されると考えられる。…特に,配向欠陥の発生を抑制すると共に,光学特性を損なうことなく液晶組成物の相転移温度を低下させやすい観点からは,本発明の化合物(A)のAr^(1)以外の部分であるメソゲン部分と,重合性液晶化合物(B)のAr^(2)以外の部分であるメソゲン部分とが互いに類似する構造単位を有することが好ましい。」と記載されている。このような記載に接した当業者ならば,引用発明の「液晶組成物(3)」に「式(B)で表される重合性液晶化合物(B)」をもう1種類追加するに際しては,引用発明の「重合性液晶化合物(B-1)」と類似するもの(Ar^(2)以外の部分であるメソゲン部分が類似し,望ましくはAr^(2)以外は同一であるもの)を選択すると考えられる。
そうしてみると,引用発明において,相違点2に係る本件補正後発明の構成を採用することは,引用文献2の記載が示唆する範囲を超えないものである。

イ 相違点1について
引用発明の「光学フィルム(3)」は,「偏光顕微鏡を用いて目視にて画面上の配向欠陥の個数を確認したところ,欠陥はな」かったものである。偏光顕微鏡の倍率等は不明であるが,観察手段が偏光顕微鏡であることを勘案すると,「1mm^(2)当たりにおける実サイズが0.3μm以上50μm以下である配向欠陥の個数」はなかったと理解するのが自然である。そして,前記アで述べたとおり「液晶組成物(3)」の組成を変更した場合においても,この点は変わらないと考えられる。
仮にそうでないとしても,引用文献2の【0007】に記載の課題や【0073】の記載に接した当業者ならば,配向欠陥が発生しないよう「液晶組成物(3)」の組成を選択して「光学フィルム(3)」を製造すると理解され,引用発明において,相違点1に係る本件補正後発明の構成を採用することも,引用文献2の記載が示唆する範囲を超えないものである。

(6) 発明の効果について
発明の効果に関して,本件出願の明細書の【0007】には,「本発明によれば,向上した膜強度を有する光学フィルムを提供することができる。また,本発明によれば,向上した加工性を有する光学フィルムを提供することができる。」と記載されている。
しかしながら,引用発明の「光学フィルム(3)」は,「10cm四方に切り出し,偏光顕微鏡を用いて目視にて画面上の配向欠陥の個数を確認したところ,欠陥はな」かったのであるから,上記効果は,引用発明も奏する効果である。

(7) 上申書について
審判請求人は,上申書において,「令和2年4月21付提出の手続補正書に記載の請求項1?3の「分子量が600以上である3種以上の重合性液晶化合物」を実施例等の記載に基づいて「分子量が600以上である3種の重合性液晶化合物」に限定する補正の準備があることを付言致します。」としている。
しかしながら,引用文献2の【0114】には,「本発明は,少なくとも1種の式(A)で表される化合物(A)と,少なくとも1種の式(B)で表される重合性液晶化合物(B)とを含む液晶組成物も提供する。」と記載されている。
引用発明の「液晶組成物(3)」において,「化合物(A-1)及び化合物(A-2)」を1種とし,引用発明の「重合性液晶化合物(B-1)」を2種とすることは,引用文献2の記載が示唆する範囲を超えないものである。
(当合議体注:引用文献2の【0035】には,(Ar-1)や(Ar-8)等,【0169】?【0171】に記載のスキームに倣って合成したとしても,「化合物(A-1)」と「化合物(A-2)」が同一となり得る選択肢も示されている。)

(8) 小括
本件補正後発明は,先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(引用文献2に記載された発明)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

3 補正の却下の決定のむすび
本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,前記[補正の却下の決定の結論]に記載のとおり,決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり,本件補正は却下されたので,本件出願の請求項1に係る発明は,前記「第2」[理由]1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
本願発明に対する原査定の拒絶の理由は,[A](新規性)本願発明は,先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない,又は[B](進歩性)本願発明は,先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて,先の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,という理由を含むものである。
引用文献2:特開2018-77465号公報

3 引用文献2及び引用発明
引用文献2の記載及び引用発明は,前記「第2」[理由]2(1)及び(2)に記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は,前記「第2」[理由]2で検討した本件補正後発明から,前記「第2」[理由]1(3)で述べた限定事項を除いたものである。また,本願発明の構成を全て具備し,これにさらに限定を付したものに相当する本件補正後発明は,前記「第2」[理由]2(3)?(8)で述べたとおり,引用文献2に記載された発明に基づいて,先の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。あるいは,上記限定事項が相違点2に係る本件補正後発明の構成であることを考慮すると,本願発明は,引用文献2に記載された発明である。
そうしてみると,本願発明は,引用文献2に記載された発明である,あるいは,引用文献2に記載された発明に基づいて,先の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法29条1項3号に該当するから,あるいは,同条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-01-08 
結審通知日 2021-01-12 
審決日 2021-01-28 
出願番号 特願2019-11219(P2019-11219)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 沖村 美由吉川 陽吾  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 河原 正
樋口 信宏
発明の名称 光学フィルム  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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