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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G07D
管理番号 1372272
審判番号 不服2020-6440  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-05-13 
確定日 2021-03-18 
事件の表示 特願2015-226225号「ATMブース」拒絶査定不服審判事件〔平成29年6月1日出願公開、特開2017-97454号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年11月19日の出願であって、令和1年8月26日付けで拒絶理由が通知され、同年10月31日に意見書及び手続補正書が提出され、令和2年2月17日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、令和2年5月13日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に、明瞭でない記載の釈明を目的として手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?6に係る発明は、令和2年5月13日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
設置面から略垂直方向に立ち上がる一対の側面板と、
前記側面板同士の間に配置され、背面から正面手前側方向に向かって摺動するスライド棚と、
前記側面板同士の間に配置され、背面から正面手前側方向に向かって引き出す引出式袖パネルと、
前記側面板と前記引出式袖パネルとの間であって、前記スライド棚の下側に形成された収容機器の収容スペースの開口と、を有する
ことを特徴とするATMブース。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献5、6に記載された周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2001-76207号公報
引用文献5:特開2008-59394号公報
引用文献6:特開2011-7302号公報

第4 引用文献の記載等
1 引用文献1
(1)引用文献1の記載事項(下線は当審が付与。以下同様。)
「【請求項1】 現金払い出し装置を、当該装置を用いた金融サ-ビスを専門に提供しない場所に設置するためのキャビネットであって、当該場所で当該サ-ビスを提供するための、当該現金払い出し装置が具備していない複数の補助手段を備えたことを特徴とする現金払い出し装置用キャビネット。」

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は現金払い出し装置用キャビネット、特に現金自動預払機(ATM)や現金自動支払機(CD)、それも主としてコンビニエンスストア等に設置される簡易小型の現金払い出し装置をセット配置するためのキャビネットおよびそのキャビネットを備えた現金払い出しシステムに関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、前記した現金払い出し装置は、装置内に多くの現金が収納されていることから防犯対策として種々の防犯基準が設けられており、この防犯基準はその現金払い出し装置の設置環境に応じて多岐に亘っている。
【0003】近時は金融業界のサ-ビスの一環として、前記したATMやCD等の現金払い出し装置を時間や場所を問わず利用できるように、銀行等以外の場所、例えばコンビニエンスストアやガソリンスタンド内に設置することが考えられている。しかしながら、これらの場所では、現金払い出しのための専用施設をもっていないため、現金の払い出しに必要な様々な機能を装置にもたせる必要があり、一方で、設置スペ-スが非常に制限されているという問題がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記した実情に鑑みてなされたもので、主としてコンビニエンスストア等の金融サ-ビスを専門に提供していない場所に現金払い出し装置を設置するについて、他の周辺機器や部材も一括して収納でき、ある程度のセキュリティ要件も満たし、コンパクトで設置のためのスペ-スも小さくて済み、設置コストも大幅に節減でき、しかもその設置は単独状態でなし得ることとした現金払い出し装置用キャビネットおよびそのキャビネットを備えた現金払い出しシステムを提供することを目的としている。」

「【0006】
【作用】上記したキャビネットを提供することにより、現金払い出し装置そのものには修正を加える必要はなく、コンパクトで設置スペ-スを取らず、堅牢で防犯基準もクリアし、メンテナンス性にも優れ、使い勝手のよい現金払い出しシステムの実現が可能となり、設置場所のいかんに関わらず、金融サ-ビスの提供が可能となるのである。」

「【0008】これらの図にあって1・1は側面パネルを示し、この側面パネル1・1は相互に対向して平行状態とされている。この一対の側面パネル1・1間の後端部分には背面パネル2が配備され、上端部分には天面パネル3が、下端部分にはトレ-4が配備されて全体としてボックス形状を構成している。
【0009】前記したトレ-4の裏面には粘着フィルム5が貼装され、設置状態での滑りやグラ付きを防止するとともにトレ-4との組合わせで強度の耐震性を発揮し、かつ移動時の床面保護も同時に図っている。巾木40は、現金払い出し装置をキャビネットに格納して設置した際に、装置をキャビネットに固定するために用いられる。この巾木40は、このキャビネット用にだけ作られた専用の解除手段(例えば、レンチやドライバ等)によってのみ外すことのできる特殊な固定手段(例えば、特殊な形状のボルトやネジ)で固着できるように構成することができる。これにより、一定の水準の防犯基準を維持できる。また、全体の略中程には角パイプ製の中間フレ-ム6が設けられ中間室7と下室8とを区分し、さらに上方寄りには中板9を配して上室10を形成している。11は下室8の下部に配される角パイプ製の下段フレ-ムである。
【0010】前記した中間室7の前面の左右には各々前面パネル12・12が配備され、その前面パネル12・12の一方にはセキュリティ上の問題が生じた場合にこれをセキュリティ会社等に通報するための非常用押釦スイッチ13が、他の一方には装置の操作上の問題が生じた場合にこれを銀行や保守を行うサ-ビス会社等に連絡するための電話機14が各々備えられている。また、パネル33は電話機14の上方に備えられ、取引銀行等を表示する表示パネルである。連絡箱34は非常用押釦スイッチ13の下方に設けられた忘れ物等の一時保管用連絡箱で、この連絡箱34は前方に向けて傾動することで使用されるようになっている。典型的には、例えば、現金払い出し装置の利用者が忘れ物の他人のカ-ドを見つけた場合に、そのカ-ドを連絡箱34の挿入口に入れておくことで、後に銀行やサ-ビス会社等がその連絡箱34の鍵を解除することで忘れ物を取得し、持ち主への連絡など必要な事後処理を行うといった態様で利用される。
【0011】さらに、前記した上室10内には二つの冷却ファン15・15が設けられ、その上室10の前面にはサインパネル16がステ-17によって上方へ向け開閉自在に備えられている。図中18・18はそのサインパネル16を抑えるS型カムロックである。
【0012】また、天面パネル3には天井から導かれるケ-ブルを引き入れるためのダクトが左右に設けられ、このダクトは不使用時に塞ぎ板19・19によって閉じられるものとなっている。
【0013】一方、中間室7には角パイプ製の支柱20が介在され、例えばATM21がその操作用の前面を露呈してセットされる。そして、このATM21の周囲は、紙幣やコインの入れ込みを防止するため、合成ゴム製でその端縁に密閉性を強化したシ-ルパックやスポンジ製の目地パック等のパック手段22・23が施されている。パック手段は、その目的を達成するものであれば、その材質を問わない。
【0014】さらに、前記したATM21の左右で前面パネル12・12の下端部分にはバッグ等の手荷物を置けるテ-ブル24・24が配置され、加えて中間室7から上室10に至る左右にはプライバシ-を守るため、片面プラスト加工したアクリル製のガ-ドパネル25・25が設けられている。
【0015】そして、下室8の前面には現金払い出し装置の開閉扉26が設けられており、この開閉扉26の周囲にもスポンジ製の目地パック等のパック手段27が施されている。この開閉扉26の左右には一方側に機器収納抽斗28が、他方にはセキュリティ装置収納抽斗29が形成されている。なお、図中35は抽斗28・29の摺動をガイドするガイドレ-ルである。」

「【0018】
【発明の効果】本発明に係る現金払い出し装置用キャビネットは上述のように種々の機能を一括して収容するように構成されている。そのために、専用施設以外の例えばコンビニエンスストア向けの現金払い出し装置用の製品としてコンパクトで設置スペ-スもとらず、防犯基準もクリアして、メンテナンス等も含めて使い勝手のよいものとなっている。また、キャビネット部分だけを変更すればカスタマイズが容易に行えるので、設置場所に応じた機能の提供を柔軟に行うことができ、専用施設以外でも十分に効を奏する現金払い出しシステムとすることができる。」

また、以下の図面が示されている。

(2)引用文献1からの認定事項
上記(1)の各記載事項から、「現金払い出し装置用キャビネット」に関し、次の事項が認定できる。

段落【0008】の「これらの図にあって1・1は側面パネルを示し、この側面パネル1・1は相互に対向して平行状態とされている。」との記載及び【図5】等から、設置面から略垂直方向に立ち上がる相互に対向して平行状態とされている側面パネル1、1を有すること。


・段落【0009】の「全体の略中程には角パイプ製の中間フレ-ム6が設けられ中間室7と下室8とを区分し、さらに上方寄りには中板9を配して上室10を形成している。」との記載における「全体」は高さ方向の全体を意味してることが明らかであること、及び段落【0011】の「その上室10の前面にはサインパネル16がステ-17によって上方へ向け開閉自在に備えられている。」との記載から、高さ方向の全体の略中程には角パイプ製の中間フレ-ム6が設けられ中間室7と下室8とを区分し、さらに上方寄りには中板9を配して上室10を形成し、その上室10の前面にはサインパネル16がステ-17によって上方へ向け開閉自在に備えられていること。
・【図3】及び【図5】をから、上室10が、側面パネル1、1同士の間に形成されていること。
以上の点から、高さ方向の全体の略中程には角パイプ製の中間フレ-ム6が設けられ中間室7と下室8とを区分し、さらに前記中間室7の上方寄りには中板9を配して上室10を形成し、この上室10は、前記側面パネル1、1同士の間に形成され、前面にはサインパネル16がステ-17によって上方へ向け開閉自在に備えられていること。


・段落【0015】の「下室8の前面には現金払い出し装置の開閉扉26が設けられており、この開閉扉26の周囲にもスポンジ製の目地パック等のパック手段27が施されている。この開閉扉26の左右には一方側に機器収納抽斗28が、他方にはセキュリティ装置収納抽斗29が形成されている。」との記載、及び【図1】及び【図5】から、下室8には、一方の側面パネル1とセキュリティ装置収納抽斗29の間に機器収納抽斗28が、他方の側面パネル1と機器収納抽斗28の間にセキュリティ装置収納抽斗29が配置されていること。
・段落【0015】の「図中35は抽斗28・29の摺動をガイドするガイドレ-ルである。」との記載、及び【図4】から、機器収納抽斗28及びセキュリティ装置収納抽斗29は、ガイドレ-ル35により背面から正面手前側方向に向かって摺動可能であること。
以上の点から、下室8には、一方の側面パネル1とセキュリティ装置収納抽斗29の間に機器収納抽斗28が、他方の側面パネル1と機器収納抽斗28の間にセキュリティ装置収納抽斗29が、各々ガイドレ-ル35により背面から正面手前側方向に向かって摺動可能に形成されること。


・段落【0009】の「巾木40は、現金払い出し装置をキャビネットに格納して設置した際に、装置をキャビネットに固定するために用いられる。」との記載、並びに【図1】及び【図2】から、現金払い出し装置の格納スペースの開口を有すること。
・【図1】及び【図5】から、該開口は、機器収納抽斗28とセキュリティ装置収納抽斗29の間であって、上室の下側に形成されること。
以上の点から、機器収納抽斗28とセキュリティ装置収納抽斗29との間であって、上室の下側に形成された現金払い出し装置の格納スペースの開口を有すること。

(3)引用文献1に記載された発明
上記(1)及び(2)から、「現金払い出し装置用キャビネット」に関し、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載さていると認められる。
「現金払い出し装置を、当該装置を用いた金融サ-ビスを専門に提供しない場所に設置するための現金払い出し装置用キャビネットであって、
設置面から略垂直方向に立ち上がる相互に対向して平行状態とされている側面パネル1、1を有し、
高さ方向の全体の略中程には角パイプ製の中間フレ-ム6が設けられ中間室7と下室8とを区分し、さらに前記中間室7の上方寄りには中板9を配して上室10を形成し、この上室10は、前記側面パネル1、1同士の間に形成され、前面にはサインパネル16がステ-17によって上方へ向け開閉自在に備えられており、
前記下室8には、一方の側面パネル1とセキュリティ装置収納抽斗29の間に機器収納抽斗28が、他方の側面パネル1と機器収納抽斗28の間にセキュリティ装置収納抽斗29が、各々ガイドレ-ル35により背面から正面手前側方向に向かって摺動可能に形成され、
前記機器収納抽斗28と前記セキュリティ装置収納抽斗29との間であって、前記上室の下側に形成された現金払い出し装置の格納スペースの開口を有する
現金払い出し装置用キャビネット。」

2 引用文献5
(1)引用文献5の記載事項
「【0001】
本発明はスライドレール機構の改良に関し、例えば各種機器の筐体内に収納したユニット類を複数のレールから成る多段引出し機構によって筐体の開口部から引き出し自在に構成する場合における引出し作業性、メンテナンス作業性を高めたスライドレール機構、及びそれを用いた金銭取扱い装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
機械装置、電気機器、電子機器等の筐体内に各種ユニット、部品等を装備する場合には、通常、これらのユニット等のメンテナンス、交換作業に際しての作業性向上のために筐体の適所に設けた開口部からユニット類を引き出し自在に構成することが多い。
ユニット類を筐体内外に引出し式に出入れ自在に構成する場合には、通常、筐体側とユニット側(ユニット設置棚)に夫々スライドレールを設け、各スライドレール同士を係合させる機構を採用することが多い。
【0003】
図5(a)及び(b)は特願2006-116078に係るスライドレール機構を備えた金銭取扱い装置の構成、及び動作を示す側部縦断面図であり、図6(a)(b)及び(c)はスライドレール機構の収納状態、中間状態、及び引出し状態を示す斜視図である。
スライドレール機構1は、例えば各種機器の筐体20内に収納されたユニット30を筐体の前面、或いは背面に設けた開放部から内外へ出入れ自在に支持するための手段である。
筐体20は、例えば食券販売機を構成しており、前面と背面に夫々開放部を備えた筐体本体21と、前面開放部を開閉するために筐体本体に軸支された前面扉22と、背面開放部を開閉するために筐体本体に軸支された背面扉23と、を備えている。
ユニット30は、例えば紙幣ユニットであり、前面扉22に設けた紙幣挿入口、及び紙幣払出口に夫々装着される紙幣挿入部31及び紙幣払出部32を有している。紙幣ユニット30は多段式のスライドレール機構1によって後方へ向けて進退自在に支持されており、破線で示すように背面側開放部から引き出すことができるように構成されている。金庫が満杯になった場合、その他のメンテナンスが必要となった場合には、操作者は背面扉23を開放し、紙幣ユニット30を引き出して紙幣の回収等の必要な作業を行う。
【0004】
スライドレール機構1は、筐体本体21の内壁に固定された固定ベース2と、第1のレール4によって固定ベース2に対して収納・引出し方向へ進退自在にガイドされた第1の可動ベース3と、第2のレール12によって第1の可動ベース3に対して収納・引出し方向へ進退自在にガイドされる第2の可動ベース11と、第2の可動ベース11上に搭載されたユニット30と、を備えている。第2の可動ベース11の後端部に設けた取手11aを把持して手動操作によって収納位置(最奥位置)から背面側外方へ引出したり、引出し位置から筐体本体内の収納位置に押し込むことにより、ユニット30を収納位置と引出し位置との間で進退させる。
【0005】
第1のレール4は、固定ベース2の両側壁の内側面に固定されたレール片4aと、第1の可動ベース3の両側壁の外側面に固定されたレール片4bとから構成されている。第2のレール12は、第1の可動ベース3の両側壁の内側面に固定されたレール片12aと、第2の可動ベース11の両側壁の外側面に固定されたレール片12bとから構成されている。第2のレール12のスライド抵抗(レール内に設けたローラの転がり抵抗)は、第1のレール4のスライド抵抗よりも小さくなっている。
第2の可動ベース11の奥部には両側方へ突出した被係合部15が設けられている。また、第1の可動ベース3の中間位置には被係合部15と係合可能な位置関係にある係合部5が両側方へ突設されている。なお、被係合部15及び係合部5は、必ずしも両側方に設けなくとも良く、ベースの大きさや搭載重量に応じて片側方のみで足りる場合もある。
係合部5と被係合部15は、第1可動ベース3及び第2の可動ベース11が図6(a)に示した収納位置にある時には離間した位置関係にあり、第2の可動ベース11が(b)のように引出し位置へ単独で移動する過程で被係合部15が係合部5に係合することにより停止状態にあった第1の可動ベース3を連動して(c)に示した引出し位置に移動させるように構成されている。」

(2)引用文献5に記載された事項
上記(1)の記載事項から、引用文献5には、次の事項が記載さていると認められる。
「金銭取扱い装置において、機械装置、電気機器、電子機器等の筐体内に各種ユニットのメンテナンス、交換作業に際しての作業性向上を図るための構成として、
ユニット30を筐体の前面に設けた開放部から内外へ出入れ自在に支持するための手段であるスライドレール機構1を設け、
前記スライドレール機構1は、筐体本体21の内壁に固定された固定ベース2と、第1のレール4によって前記固定ベース2に対して収納・引出し方向へ進退自在にガイドされた第1の可動ベース3と、第2のレール12によって前記第1の可動ベース3に対して収納・引出し方向へ進退自在にガイドされる第2の可動ベース11と、前記第2の可動ベース11上に搭載されたユニット30と、を備えていること。」

3 引用文献6
(1)引用文献6の記載事項
「【0002】
金融機関などに設置されている現金自動預払機は、その筐体の内部に複数の機能がユニット化されて収納されている。これらのユニットは、それぞれ引き出し自在に筐体に設置されていて、メンテナンス時には個別に筐体から引き出し、作業終了後に、再び元の位置に収納することができるように構成されている。
【0003】
図9は現金自動預払機を背面側から見た部分斜視図であり、図10はユニットの取付位置の調整例を示す図である。
現金自動預払機は、その筐体100の接客面側に、通帳口、カード口、紙幣口、硬貨口、表示・入力装置などが設けられ、内部には、カードを読み取るユニット、通帳を印字したり明細票を発行したりするユニット、紙幣および硬貨の入出金を行うユニットなどが収納されている。これらのユニットの中で、比較的頻繁に筐体から引き出してメンテナンスを要するユニットについては、現金自動預払機の背面側から容易に引き出すことができるように構成されている。」

「【0019】
現金自動預払機は、その筐体10の内部に複数のユニット11が収容されている。これらのユニット11は、メンテナンスのために、筐体10の背面側から引き出し自在に装着されている。そのため、それぞれのユニット11は、筐体10の内部のフレームなどに固定された1対の伸縮自在なスライドレール12に搭載されている。詳しくは、スライドレール12には、図2に示す搭載台13が搭載されており、その搭載台13にユニット11が搭載されている。
【0020】
点検、修理、または紙幣などの補充のときには、スライドレール12に搭載された状態で、ユニット11を引き出して必要な作業を行い、その作業が終了した後は、ユニット11をその収納位置まで戻すことになる。
【0021】
伸縮自在なスライドレール12に搭載されている搭載台13と筐体10内の棚板14との間には、・・・」

(2)引用文献6に記載された事項
【図3】から、棚板14の上部に伸縮自在なスライドレール12を設け点が看取できることを併せみると、上記(1)の各記載事項から、引用文献6には、次の事項が記載さていると認められる。
「現金自動預払機において、その筐体の内部にカードを読み取るユニット、通帳を印字したり明細票を発行したりするユニット、紙幣および硬貨の入出金を行うユニットなどの複数の機能がユニット化されて収納されているユニットをメンテナンス時には個別に筐体から引き出し、作業終了後に、再び元の位置に収納することができるように、それぞれ引き出し自在にする構成として、
棚板14の上部に伸縮自在なスライドレール12を設け、前記伸縮自在なスライドレール12には、搭載台13が搭載されており、その搭載台13にユニット11が搭載されていること。」

第5 対比
本願発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。
1 後者の「設置面から略垂直方向に立ち上がる相互に対向して平行状態とされている側面パネル1、1」は、前者の「設置面から略垂直方向に立ち上がる一対の側面板」に相当する。

2 後者の「前記下室8には、一方の側面パネル1とセキュリティ装置収納抽斗29の間に機器収納抽斗28が、他方の側面パネル1と機器収納抽斗28の間にセキュリティ装置収納抽斗29が、各々ガイドレ-ル35により背面から正面手前側方向に向かって摺動可能に形成され」との構成における「機器収納抽斗28」及び「セキュリティ装置収納抽斗29」と、前者の「前記側面板同士の間に配置され、背面から正面手前側方向に向かって引き出す引出式袖パネル」とは「背面から正面手前側方向に向かって引き出す引出式袖」の点で共通する。

3 後者の「現金払い出し装置」は、前者の「収容機器」に相当し、後者の「格納スペースの開口」は、前者の「収容スペースの開口」に相当するから、後者の「前記機器収納抽斗28と前記セキュリティ装置収納抽斗29との間であって、前記上室の下側に形成された現金払い出し装置の格納スペースの開口を有する」ことと、前者の「前記側面板と前記引出式袖パネルとの間であって、前記スライド棚の下側に形成された収容機器の収容スペースの開口と、を有する」こととは、「収容機器の収容スペースの開口と、を有する」の点で共通する。

4 後者の「現金払い出し装置用キャビネット」は、前者の「ATMブース」に相当する。

したがって、本願発明と引用発明は、以下の構成において一致する。
「設置面から略垂直方向に立ち上がる一対の側面板と、
背面から正面手前側方向に向かって引き出す引出式袖パネルと、
収容機器の収容スペースの開口と、を有する
ATMブース。」

本願発明と引用発明は、以下の点で相違する。
[相違点1 ]
本願発明は、「前記側面板同士の間に配置され、背面から正面手前側方向に向かって摺動するスライド棚」を有するのに対し、
引用発明は、「前記側面パネル1、1同士の間に形成され、前面にはサインパネル16がステ-17によって上方へ向け開閉自在に備えられ」「前記中間室7の上方寄りには中板9を配して」「形成」した「上室10」を有する点。
[相違点2 ]
本願発明は、「引出式袖パネル」が「前記側面板同士の間」に配置されるのに対し、
引用発明は、「機器収納抽斗28」が「一方の側面パネル1とセキュリティ装置収納抽斗29の間」に、「セキュリティ装置収納抽斗29」が「他方の側面パネル1と機器収納抽斗28の間」に配置される点。
[相違点3 ]
「収容機器の収容スペースの開口」に関し、
本願発明は、「前記側面板と前記引出式袖パネルとの間であって、前記スライド棚の下側に形成され」ているのに対し、
引用発明は、「前記機器収納抽斗28と前記セキュリティ装置収納抽斗29の間であって、前記上室の下側に形成され」ている点。

第6 判断
1 相違点1について
(1)引用文献1の段落【0003】には「これらの場所では、現金払い出しのための専用施設をもっていないため、現金の払い出しに必要な様々な機能を装置にもたせる必要があり、一方で、設置スペ-スが非常に制限されているという問題がある。」と記載され、段落【0004】には「主としてコンビニエンスストア等の金融サ-ビスを専門に提供していない場所に現金払い出し装置を設置するについて、他の周辺機器や部材も一括して収納でき、ある程度のセキュリティ要件も満たし、コンパクトで設置のためのスペ-スも小さくて済み、設置コストも大幅に節減でき、しかもその設置は単独状態でなし得ることとした現金払い出し装置用キャビネットおよびそのキャビネットを備えた現金払い出しシステムを提供することを目的としている。」と記載さているように、引用発明は、現金の払い出しに必要な様々な機能を装置にもたせる必要があり、一方で、設置スペ-スが非常に制限されている問題があるなかで、他の周辺機器や部材も一括して収納できることが課題として含まれている。
この課題に照らせば、引用発明の「中間室7の上方寄りには中板9を配して」「形成」した「上室10」における「中板9」、すなわち、「上室10」の下面を構成していることが明らかである「中板9」を、周辺機器や部材等を置く棚として活用することは、当業者であれば想定し得ることである。

(2)また、上記「第4 2(2)」及び「第4 3(2)」で述べたように、
引用文献5には「金銭取扱い装置において、機械装置、電気機器、電子機器等の筐体内に各種ユニットのメンテナンス、交換作業に際しての作業性向上を図るための構成として、
ユニット30を筐体の前面に設けた開放部から内外へ出入れ自在に支持するための手段であるスライドレール機構1を設け、
前記スライドレール機構1は、筐体本体21の内壁に固定された固定ベース2と、第1のレール4によって前記固定ベース2に対して収納・引出し方向へ進退自在にガイドされた第1の可動ベース3と、第2のレール12によって前記第1の可動ベース3に対して収納・引出し方向へ進退自在にガイドされる第2の可動ベース11と、前記第2の可動ベース11上に搭載されたユニット30と、を備えていること。」(以下「引用文献5に記載された事項」という。)が記載され、
引用文献6には、「現金自動預払機において、その筐体の内部に複数の機能がユニット化されて収納されているユニットをメンテナンス時には個別に筐体から引き出し、作業終了後に、再び元の位置に収納することができるように、それぞれ引き出し自在にする構成として、
棚板14の上部に伸縮自在なスライドレール12を設け、前記伸縮自在なスライドレール12には、搭載台13が搭載されており、その搭載台13にユニット11が搭載されていること。」(以下「引用文献6に記載された事項」という。)が記載されている。
ここで、引用文献5に記載された事項の「第2の可動ベース11」及び引用文献6に記載された事項の「搭載台13」は、本願発明の「摺動するスライド棚」に相当するから、引用文献5,6から、各種ユニットのメンテナンス等のために、固定ベース若しくは棚板上に摺動するスライド棚を設けることは、従来周知の技術(以下「周知技術」という。)といえる。

(3)さらに、引用文献1の段落【0006】の【作用】の記載、及び段落【0018】の【発明の効果】の記載を参照すると、引用発明は、メンテナンス等も含めて使い勝手のよいことを作用効果としていること、及び引用発明は、機器収納抽斗28及びセキュリティ装置収納抽斗29が背面から正面手前側方向に向かって摺動可能に形成されていることを考慮すると、上記(1)で述べたように、周辺機器や部材等を置く棚として活用することが想定されている、引用発明の「上室10」の下面を構成している「中板9」において、該「中板9」に置かれた周辺機器や部材等のメンテナンス等も含めて使い勝手をよくするために、上記周知技術を適用できる動機付けも充分にあるといえる。

(4)上記(1)で述べたように、引用発明の「上室10」の「中板9」を周辺機器や部材等を置く棚として活用することは想定できるところ、該周辺機器や部材等は、載置される対象という意味で、上記周知技術の「各種ユニット」に対応し、引用発明の「中板9」は、機能的に上記周知技術の「固定ベース若しくは棚板」に対応する。
また、引用発明の「前面にはサインパネル16がステ-17によって上方へ向け開閉自在に備えられ」との構成から、上記の「中板9」に置かれた該周辺機器や部材等は上室の背面からサインパネル16が備えられた正面手前側方向に向かって出されることが自然である。
したがって、引用発明の「前記側面パネル1、1同士の間に形成され、前面にはサインパネル16がステ-17によって上方へ向け開閉自在に備えられ」「前記中間室7の上方寄りには中板9を配して」「形成」した「上室10」の構成において、「上室10」の「中板9」において、該「中板9」に置かれた周辺機器や部材等のメンテナンス等も含めて使い勝手をよくするために、上記周知技術を適用して「上室10」の「中板9」上に上室の背面からサインパネル16が備えられた正面手前側方向に向かって摺動するスライド棚を設けることは、当業者であれば適宜なし得ることである。
よって、上記相違点1に係る本願発明の構成は、当業者が容易になし得たものといえる。

2 相違点2について
本願発明の「引出式袖パネル」に相当する引用発明の「一方の側面パネル1とセキュリティ装置収納抽斗29の間に」配置される「機器収納抽斗28」と「他方の側面パネル1と機器収納抽斗28の間に」配置される「セキュリティ装置収納抽斗29」は、【図1】及び【図5】を参照すると、「側面パネル1、1」同士の間に配置されているともいえるから、相違点2は実質的な相違点とはいえない。
仮に、本願発明の「側面板同士の間」が何も介在しない「間」という意味に解したとしても、引用発明の「機器収納抽斗28」又は「セキュリティ装置収納抽斗29」のいずれかを省くことで、「セキュリティ装置収納抽斗29」又は「機器収は納抽斗28」を「一方の側面パネル1」又は「他方の側面パネル1」同士の間に配置される構成にすることは、当業者であれば容易になし得ることである。

3 相違点3について
上記相違点1で検討したとおり、引用発明の「上室10」の「中板9」にスライド棚を設ける構成にすれば、引用発明の「現金払い出し装置の格納スペースの開口」は「セキュリティ装置収納抽斗29と機器収納抽斗28との間であって、」スライド棚の下側に形成されることになる。さらに、【図1】及び【図5】を参照すると、引用発明の「格納スペースの開口」は「一方の側面パネル1」と「セキュリティ装置収納抽斗29」との間又は、「他方の側面パネル1」と「機器収納抽斗28」との間に配置されているともいえる。
仮に、本願発明の「前記側面板と前記引出式袖パネルとの間」が何も介在しない「間」という意味に解したとしても、引用発明の「機器収納抽斗28」又は「セキュリティ装置収納抽斗29」のいずれかを省くことで、「格納スペースの開口」を「一方の側面パネル1」と「セキュリティ装置収納抽斗29」との間又は「他方の側面パネル1」と「機器収納抽斗28」との間に形成することは、当業者であれば適宜なし得ることである。
よって、上記相違点3に係る本願発明の構成は、当業者が容易になし得たものといえる。

4 そして、本願発明の作用効果も、引用発明及び上記周知技術から当業者が予測し得る範囲のものであって、格別なものとはいえない。

5 請求人の主張について
(1)請求人は、令和2年5月13日付けの審判請求書(「3.(d)」の項)で、
「引用文献5および6には、スライドレール機構に固定されて摺動するユニットが開示されているものの、「スライド棚」は示唆されておりません。加えて、いずれのユニットも背面手前側方向に向かって引き出す構造を開示したものであり、これらの引用文献には、正面手前側方向にスライドして引き出す棚という技術的思想そのものが示唆されておりません。
」と主張する。

(2)検討
上記「1」で述べたように、引用文献5及び引用文献6には、本願発明の「スライド棚」に相当する「第2の可動ベース11」及び「搭載棚13」が記載さている。さらに、引用文献5には、「第2の可動ベース11」に搭載された「ユニット30」を「筐体の前面に設けた開放部から内外へ出入れ自在に支持するための手段であるスライドレール機構1を設け」ることが記載されている。加えて、引用発明は「上室10の前面にはサインパネル16がステ-17によって上方へ向け開閉自在に備えられて」いるから、上室10内に格納された周辺機器や部材等の取り出し方向は、正面手前側方向となるのが自然である。
したがって、引用発明に上記周知技術を適用した場合には、スライド棚を正面手前側方向にスライドして引き出すように構成することに技術的に困難性はないものである。
よって、請求人の上記主張は採用できない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用発明(引用文献1に記載された発明)及び引用文献5、6に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2021-01-07 
結審通知日 2021-01-12 
審決日 2021-01-28 
出願番号 特願2015-226225(P2015-226225)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井出 和水  
特許庁審判長 佐々木 一浩
特許庁審判官 島田 信一
出口 昌哉
発明の名称 ATMブース  
代理人 特許業務法人湘洋内外特許事務所  

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