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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C11D
管理番号 1372350
審判番号 不服2019-11104  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-08-22 
確定日 2021-03-24 
事件の表示 特願2017-108562「送達粒子」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 8月31日出願公開、特開2017-149990〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2010年5月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2010年4月28日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願である特願2013-506763号の一部を平成27年4月24日に新たな特許出願とした特願2015-89636号の一部を平成29年5月31日に新たな特許出願としたものであって、平成29年6月23日に手続補正書が提出され、平成30年8月21日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内である同年11月26日に意見書が提出され、平成31年4月19日付けで拒絶査定がなされ(謄本の発送は、同月23日)、これに対し、令和元年8月22日に拒絶査定不服審判が請求され、令和2年5月20日付けで当審から拒絶理由が通知され、その指定期間内である同年8月26日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、令和2年8月26日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、単に「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「 【請求項1】
a)ポリマー、界面活性剤、ビルダー、キレート剤、移染防止剤、分散剤、酵素、酵素安定剤、触媒物質、漂白剤活性化剤、高分子分散剤、粘土質土壌除去剤、再付着防止剤、増白剤、染料ポリマー複合体;染料粘土複合体、泡抑制剤、染料、漂白剤触媒、追加の香料及び/又は香料送達系、構造弾性化剤、柔軟剤、キャリア、ヒドロトロープ、加工助剤、レオロジー変性剤、構造化体、増粘剤、顔料、水、並びにそれらの混合物の群から選択される補助剤成分と、
b)油溶性又は分散性コア材料と、前記コア材料を少なくとも部分的に取り囲む非アニオン性壁材料と、を含む、マイクロカプセル粒子であって、前記マイクロカプセル壁材料が、
第2の組成物の存在下での第1の組成物の反応生成物を含み、前記第1の組成物が、
i)油溶性又は分散性アミンアクリレート又はメタクリレートと、
ii)多官能性アクリレート又はメタクリレートモノマー又はオリゴマー、並びに
iii)可溶性酸及び開始剤と、
の反応生成物を含み、前記可溶性酸及び前記アミンアクリレートもしくはメタクリレートが、3:1?1:3のモル比であり、かつ前記壁材料の重量と比較して、ともに0.1?20%の重量パーセントを有し、前記第2の組成物が、4?12のpHで水溶性又は分散性材料からなる非アニオン性の乳化剤と、任意の水相開始剤と、を含み、前記第1の組成物及び第2の組成物の前記反応生成物によって、非アニオン性マイクロカプセル壁材料及び-5ミリボルト以上のゼータ電位を有する、マイクロカプセルの集団の形成がもたらされる、マイクロカプセル粒子と、
を含む組成物であって、
前記組成物が、洗浄組成物、布地ケア組成物、又はパーソナルケア組成物であり、
前記アミンアクリレート又はメタクリレートが、アミノアルキルアクリレート又はアミノアルキルメタクリレートであり、
前記構造化体は、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリカルボキシレート、ポリマーガム、非ガム多糖類、並びにこれらのポリマー材料の組み合わせ、ヒドロキシル含有脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪ワックス、ヒマシ油、硬化ヒマシ油及び硬化ヒマシワックス;並びにそれらの混合物からなる群から選択され、
前記コア材料が香油および分配変性剤を含み、前記分配変性剤がミリスチン酸イソプロピルである、組成物。」

第3 令和2年5月20日付けの当審拒絶理由の内容
当審において通知した拒絶理由は、以下の理由1を含むものである。
1 (サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

第4 当審の判断
1判断手法について
特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものとされている。
以下、この観点に立って、判断する。

2特許請求の範囲の記載
請求項1の記載は、上記第2に記載したとおりである。

3発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明には、本願発明に関連して、以下の事項が記載されている。
(1)「【0015】
本発明によって作製されるカプセルを、透過性特性をより良好に制御するように作製することができる。本発明によって作製されるカプセルは、時間が経つにつれて漏れることなく、液体含量を驚くほど良好に含有することが可能である。本カプセルは、類似の先行技術プロセスによって作製されるカプセルよりも低い漏れ度で作製することができる。あるいは、ある特定の用途では、透過性が所望される。壁材料の選択及び架橋時間の長さ又は架橋温度の制御により、ほとんど漏れがないか、あるいはは全く漏れのない極度に詰まったカプセルから、長期にわたる測定可能な放出速度が所望される場合に有用な測定可能な透過率を有するカプセルまで、異なる透過性特性を有するカプセルを作製することができる。」

(2)「【0081】
内相が香油であるとき、カプセルコアは、約4、若しくは約5、若しくは約7、若しくは更には約11超のClogPを有する油溶性材料、及び/又は1立方センチメートル当たり1グラム超の密度も有する材料からなる群から選択される分配変性剤を含み得る。一態様では、好適な分配変性剤は・・・ミリスチン酸イソプロピル・・・及びそれらの混合物を含む材料からなる群から選択される材料を含んでもよく・・・」

(3)「【0322】
実施例1油相の調製及び壁材料の予備反応:
50gのシダー油、0.65gのTBAEMA、及び0.52gのβ-Cで構成される第1の油相を、26gのCN997を添加する前に、約1時間混合する。後のバッチに必要となるまで溶液を混合させる。
【0323】
200gのシダー油、1.56gのVazo-52、及び0.52gのVazo-67で構成される第2の油溶液を、ジャケット付きスチール製反応器に加える。反応器を35℃で維持し、油溶液を、5.08cm(2インチ)の4先端フラットブレードミキサを用いて1000rpmで混合する。窒素ブランケットを、300cc/分の速度で反応器に適用する。溶液を45分間かけて75℃に加熱し、75℃で35分間維持し、その後75分間かけて55℃まで冷却する。55℃時点で、第1の油相を添加し、組み合わせた油を55℃で更に70分間混合する。
【0324】
水相調製
30gのColloid 351、1.1gの20% NaOH、600gの水、及び1.56gのVazo-68WSPを含有する水相を調製し、Vazoが溶解するまで混合する。水相のpHを測定し、バッチ調製に必要となるまで溶液を混合する。このバッチの水相のpHは、4.58である。
【0325】
カプセルバッチ調製
油相温度が55℃まで減少した時点で、混合を停止し、水相を漏斗を介してバッチに添加する(相の早期混合を阻止するため)。所望の寸法特性を有するエマルションを生成するのに適切な速度で混合を再開する。この特定の場合において、混合は、3000rpmで20分間、及び2000rpmで40分間行う。
【0326】
ミル加工が完了した時点で、約400rpmで稼動する7.62cm(3インチ)のプロペラを用いて混合を行う。バッチを、55℃で更に45分間維持し、その後、温度を30分間かけて75℃に上昇させ、75℃で4時間維持し、30分間かけて90℃に上昇させ、90℃で8時間維持する。加熱サイクルの完了時にバッチを室温まで冷却させる。完了したバッチは、12.2μの体積加重中央寸法を有する。
【0327】
表1の実施例2?25を同様に調製する。バッチ調製方法は、表1に提示されることを除いて、実施例1に記載の方法に類似している。必要に応じて、20% NaOH又は濃HClのいずれかを用いて、水相pHを上下に調整する。実施例6及び7において、カプセル壁形成中にエマルションが不安定であるため、バッチ全体でミル加工を続ける。実施例15及び16は、同一のカプセルであるが、実施例16では、カプセルバッチのpHをpH4に調整する。実施例19及び20は類似している。実施例20において、カプセル保持の研究条件を、最初にpH 4に調整する。実施例25は、比較目的のために示されるメラミンホルムアルデヒド壁カプセルである。
【0328】
カプセル試験データ
カプセル試験データが表1に示される。表は、カプセル漏れデータ(遊離油及び4週間のヘキサン漏れ)、各バッチのゼータ電位(カプセル表面電荷の尺度)、及び相対カプセル保持の尺度を含む。
【0329】
略語は、以下の材料に相当する:
【0330】
【表1】

【0331】
【表2ー1】

【0332】
【表2ー2】

【0333】
表1において、綿繊維上のカプセル保持は、有用にも、本明細書に記載のカプセル保持手順に従って決定するとき、少なくとも1mgの油である。本発明は、少なくとも1mgの油、又は更には少なくとも4mgの油、又は更には少なくとも8mgの油、又は更には少なくとも10mgの油のカプセル保持値を可能にする。」

4本願発明の課題
本願発明の課題は、【0015】及び明細書全体の記載からみて、「壁材料の選択及び架橋時間の長さ又は架橋温度の制御により、ほとんど漏れがないか、あるいはは全く漏れのない極度に詰まったカプセルから、長期にわたる測定可能な放出速度が所望される場合に有用な測定可能な透過率を有するカプセルまで、異なる透過性特性を有するカプセルを提供すること」にあるものと認められる。

5判断
本願明細書の実施例は、いずれも、分配変性剤としてミリスチン酸イソプロピルを含むものや他の分配変性剤を含むものに該当しない(摘記(3))から、実施例の記載に基づき、本願発明がその課題を解決することができるものであるとはいえない。
また、明細書の他の記載をみても、ミリスチン酸イソプロピルのような分配変性剤を含むものが、壁材料の選択及び架橋時間の長さ又は架橋温度の制御により、ほとんど漏れがないか、あるいはは全く漏れのない極度に詰まったカプセルから、長期にわたる測定可能な放出速度が所望される場合に有用な測定可能な透過率を有するカプセルまで、異なる透過性特性を有するカプセルを提供できることを裏付ける実験データやメカニズムは記載されていない。
以上によれば、本願発明がその課題を解決することができるものであることについて、発明の詳細な説明にはその具体例による裏付けや、具体例による裏付けによらなくてもその課題を解決できると当業者が理解できる説明などが一切記載されていない。また、そのような記載が一切無くても当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる技術常識もない。

なお、請求人は、審判請求書において、第2の油層に40gのミリスチン酸イソプロピルを加えた実験成績証明書を提示しているが、上述のとおり発明の詳細な説明には、本願発明がその課題を解決することができるものであることについて、これを裏付ける具体例を一切開示せず、具体例による裏付けによらなくてもその課題を解決できると当業者が理解できる説明もせず、それらが一切無くても当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる技術常識もないのに、特許出願後に実験データを提出して発明の詳細な説明の記載内容を記載外で補足することによって、その内容を特許請求の範囲に記載された範囲にまで拡張ないし一般化し、明細書のサポート要件に適合させることは、発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反し許されないというべきである。

よって、本願は、サポート要件に適合するものではない。

6審判請求人の主張について
(1)請求人は、審判請求書において、「確かに、本願の発明の詳細な説明には、ミリスチン酸イソプロピルを添加することによって、シェルの厚みを増大させるという直接的な記載は存在しないかもしれません。しかしながら、例えば、本明細書段落0015の記載から、本発明の課題(効果)は、「コア材料の漏れが改善される組成物を提供する」ことが窺え、分配変性剤であるミリスチン酸イソプロピルがコア材料の漏れの改善に寄与していることは当業者が推論できる事項です。そして、当該事項を実証した補足資料が当該宣言書です。当該宣言書は、ミリスチン酸イソプロピルを添加することによって、シェルの厚みを増大させるという効果のみを述べているのではなく、シェルコア材料として香油とミリスチン酸イソプロピルとを用いることで、コア材料の漏れが改善されることを実証するものです。」と主張する。
しかし、発明の詳細な説明には、シェルコア材料として香油とミリスチン酸イソプロピルとを用いることで、コア材料の漏れが改善されることについての記載は全く見当たらず、本発明の課題(効果)として「コア材料の漏れが改善される組成物を提供する」ことが窺えず、分配変性剤であるミリスチン酸イソプロピルがコア材料の漏れの改善に寄与していることは当業者が推論できる事項であるとはいえないから、当該宣誓書において実証したことは、発明の詳細な説明に基づき、本願出願時の技術常識に照らせば、本願発明が課題を解決できることを裏付けるためのものではなく、全く新しい実施例を提出して、本願発明の効果を説明するものであるから、参酌すべきものではない。
(2)また、令和2年8月26日提出の意見書において、「本願発明の課題は、段落0015の記載を含む本願明細書全体の記載から理解されるとおり、低透過性のマイクロカプセル粒子を含む組成物を提供することです。
本明細書には、段落0081のとおり、分配変性剤が香油とともに使用されること、さらにミリスチン酸イソプロピルが分配変性剤として含まれることが記載されています。
コア中に分配変性剤を組み込ませることにより、カプセル製造プロセス中に油相のバルク特性を変更させることができます。内相(油相)に香油などの比較的極性の高い材料が含まれる場合、分配変性剤を用いることにより、極性を調整することができます。これにより、水相に拡散する油の量を変更することができ、シェルの厚みを増大させることが可能となります。
し たがって、本明細書の記載および技術常識に基づいて、当業者は、本発明が、シェルの厚みを増大させたマイクロカプセル粒子、すなわち、低透過性のマイクロカプセル粒子を含む組成物を提供するという課題を解決できると認識できます。」とを主張する。
しかし、「コア中に分配変性剤を組み込ませることにより、カプセル製造プロセス中に油相のバルク特性を変更させることができます。内相(油相)に香油などの比較的極性の高い材料が含まれる場合、分配変性剤を用いることにより、極性を調整することができます。これにより、水相に拡散する油の量を変更することができ、シェルの厚みを増大させることが可能となります。」という点の根拠を示しておらず、本明細書の記載および技術常識に基づいて、当業者は、本発明が、シェルの厚みを増大させたマイクロカプセル粒子、すなわち、低透過性のマイクロカプセル粒子を含む組成物を提供するという課題を解決できると認識できるとはいえず、請求人の上記主張は採用できない。

7むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、この出願の明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではなく、この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-10-14 
結審通知日 2020-10-20 
審決日 2020-11-04 
出願番号 特願2017-108562(P2017-108562)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C11D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安孫子 由美  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 門前 浩一
瀬下 浩一
発明の名称 送達粒子  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  

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