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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01F
管理番号 1372353
審判番号 不服2019-17442  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-12-24 
確定日 2021-03-24 
事件の表示 特願2017-240070「多層シードパターンインダクタ、その製造方法及びその実装基板」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 5月17日出願公開、特開2018- 78311〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成27年8月26日(パリ条約による優先権主張2014年9月22日、韓国)に出願した特願2015-166452号の一部を平成29年12月14日に新たな特許出願としたものであって、平成30年1月29日に手続補正がなされ、平成31年3月27日付けで拒絶理由通知がされ、令和1年6月21日に意見書が提出され、同年9月18日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年12月24日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、手続補正がなされたものである。

第2.令和1年12月24日の手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
令和1年12月24日の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を補正するものであって、具体的には請求項1の記載を以下のとおりに補正するものである。
なお、〈本件補正による請求項1〉における下線は補正箇所を表している。
〈本件補正前の請求項1〉
「【請求項1】
磁性材料を含む磁性体本体と、
前記磁性体本体の内部に埋め込まれた内部コイル部と
を含み、
前記内部コイル部は、複数層で形成されたシードパターンと、前記シードパターンの表面全体を被覆して形成された表面メッキ層とを含む
多層シードパターンインダクタ。」

〈本件補正による請求項1〉
「【請求項1】
磁性材料を含む磁性体本体と、
前記磁性体本体の内部に埋め込まれた内部コイル部と
を含み、
前記内部コイル部は、複数層で形成されたシードパターンと、前記シードパターンの表面全体を被覆して形成された表面メッキ層とを含み、
前記表面メッキ層は、前記シードパターンを被覆し等方的に形成された第1の表面メッキ層と、前記第1の表面メッキ層の上面に配置され幅方向より厚み方向の方が大きい第2の表面メッキ層とを含む多層シードパターンインダクタ。」

2.本件補正に対する判断
本件補正による請求項1に係る補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「表面メッキ層」を「前記シードパターンを被覆し等方的に形成された第1の表面メッキ層と、前記第1の表面メッキ層の上面に配置され幅方向より厚み方向の方が大きい第2の表面メッキ層とを含む」と限定するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正による請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。
そこで、本件補正による請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

(1)引用文献の記載、引用発明等
ア.引用文献1に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の原出願の出願日前に頒布された刊行物である、特開2001-267166号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「平面コイルの製造方法、平面コイルおよびトランス」について、図面と共に以下の記載がある。なお、下線は当審で付与した。

「【0003】 ところで、平面コイルとしては、幅が細くかつ厚い、いわゆるハイアスペクト導体線条が狭い間隔で配列したものが要求されるようになってきている。導体線条をハイアスペクトパターンとすることにより、直流抵抗が小さくなる。本出願人は、細幅で厚い、断面マッシュルーム状のハイアスペクト導体線条を有する平面コイルおよびその製造方法を、特開平11-204337号および特開平11-204361号公報で提案している。」

「【0013】 【課題を解決するための手段】 上記目的は、下記(1)?(10)の本発明によって達成される。
(1)絶縁基板に下地導体層を形成する下地導体層形成工程、前記下地導体層の表面が螺旋状に露出するようにレジストパターンを形成するレジストパターン形成工程、前記下地導体層を下地として電気めっきを行うことにより、断面がほぼ矩形の中心導体を形成する第1の電気めっき工程、前記レジストパターンを剥離するレジストパターン剥離工程、前記中心導体を下地として電気めっきを行うことにより表面導体層を形成し、前記中心導体とこれを被覆する前記表面導体層とからなるコイル導体線条を完成させる第2の電気めっき工程を有する平面コイルの製造方法。・・・(以下、中略)・・・
【0014】【作用および効果】 本発明では、図1(C)に示すように、まず、第1の電気めっき工程において、レジストパターン11を利用することにより、断面がほぼ矩形の中心導体41を形成する。次いで、図1(E)に示すように、第2の電気めっき工程において中心導体41を下地として表面導体層42を形成し、コイル導体線条4を完成させる。これにより、以下に示す効果が実現する。
【0015】 本発明では、中心導体41の断面形状がほぼ矩形となるので、第2の電気めっき工程において中心導体41の角部に電界が集中する。そのため、最終的に得られるコイル導体線条4の断面が矩形に近くなり、その結果、コイル導体線条の占積率が高くなる。例えば、コイル導体線条が最も密に配列されている領域においては、占積率を70%以上とすることができ、90%以上とすることもできる。
【0016】 本発明では、コイル導体線条4の例えば1/3以上の厚さまで中心導体41を形成し、レジストパターンを除去して隣り合う中心導体41間に溝を設けた後、この溝を埋めるように表面導体層42を等方性ないし異方性成長させる。したがって、上記特開平11-204361号公報に記載された方法に比べ、コイル導体線条のアスペクト比が同じであっても、異方性成長する導体の厚さは小さい。前述したように、異方性成長の度合いはめっき条件およびコイルのパターンに影響されるが、本発明では異方性成長する導体の厚さがコイル導体線条の全厚に比べ小さいため、コイル導体線条の断面形状および寸法ならびに隣り合うコイル導体線条間の距離が、めっき条件およびコイルのパターンに影響されにくい。したがって、製造条件のマージンが広くなる。また、大面積の絶縁基板を使って多数の平面コイルを同時に形成することが可能となる。また、1つの平面コイル内においてコイル導体線条の配列密度が一定でない場合でも、コイル導体線条の厚さをほぼ一定にできる。
【0017】また、隣り合う中心導体41間に存在する溝の幅および中心導体41の寸法精度はレジストパターン11のパターニング精度で決定され、レジストパターンの寸法精度はフォトマスクの寸法精度とほぼ同じとなる。そのため、前記溝および中心導体41の寸法精度は極めて正確である。したがって、この点からも、コイル導体線条の断面形状および寸法ならびに隣り合うコイル導体線条間の距離を正確にできる。
【0018】 また、本発明では、隣り合うコイル導体線条間の距離を正確に制御できるので、この距離が小さくなるように設計しても、生産時にコイル導体線条同士の接触によるショートが生じにくい。したがって、コイル導体線条の占積率を高くすることができる。
【0019】 なお、本発明は、隣り合うコイル導体線条間の距離が大きい場合も有効である。例えば、ターン数の少ない高周波用コイルでは、線間距離が一般的に大きいため、上記第2の電気めっき工程において表面導体層の成長は等方的となる。しかし、本発明では、従来の製法において使用する下地導体層よりも厚い中心導体をあらかじめ形成しておくため、表面導体層が等方的に成長した場合でも、最終的に得られるコイル導体線条のアスペクト比は、従来の製法において等方的に成長した場合より高くなる。コイル導体線条の周囲長が同じ場合において高周波用コイルのQ値を高くするためには、コイル導体線条を貫く磁束を少なくすればよいので、アスペクト比を高くできる本発明は、Q値向上に有効である。」

上記段落【0003】によれば、引用文献1に記載された発明は、直流抵抗を小さくするために平面コイルの導体線条をハイアスペクトパターンとすることを前提としているものである。
上記段落【0014】、【0016】によれば、平面コイル(導体線条4)は、まず断面ほぼ矩形の中心導体41をめっきにより形成し、当該中心導体41を下地として当該中心導体41を被覆する表面導体層42をめっきにより等方性ないし異方性成長させて形成するものである。

上記の記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「めっきにより形成した、中心導体、及び当該中心導体を下地として当該中心導体を被覆する表面導体層からなるハイアスペクトパターンの平面コイル。」

イ.引用文献2に記載された技術事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の原出願の出願日前に頒布された刊行物である、特開2004-253684号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「高密度インダクタおよびその製造方法」について、図面と共に以下の記載がある。なお、下線は当審で付与した。

「【0042】 図1aは、本実施の形態に係る高密度インダクタの背面側斜視図であり、図1bは、図1aに示す同インダクタのAA断面図であり、図2は、図1bにおける要部拡大図である。これらの図に示すように、本実施の形態に係る高密度インダクタ20は、当該インダクタ20の中央部分に配置されたコイル22と、当該コイル22を封止するためのコア部材とを有している。またインダクタ20の背面側には一対の接続用端子24、26が設けられており、図示しないプリント基板等への表面実装を可能にしている。
【0043】 ここでコイル22は、配線層28をその厚み方向に複数積層させた形態からなり(本実施の形態においては4段)高いアスペクト比を達成するとともに、内径から外径に至るまで一定のピッチになるよう渦巻状に形成されている。なおこのようなコイル22は半導体等の製造に用いられる薄膜プロセスによって形成することが可能である。以下、前記薄膜プロセスを用いてコイル22を形成する手順を説明する。
【0044】 図3a?図3oは、コイルを形成するための第1の方法を示す製造工程図である。まず図3aに示すように、コイル22を形成するための土台となる基板30の表面に絶縁層32を形成し、次いで図3bに示すように前記絶縁層32の上層に後述するメッキ析出用の下地電極膜34を蒸着またはスパッタ等によって堆積させる。そして下地電極膜34を形成させた後は、図3cに示すように前記下地電極膜34の上層にレジスト(感光性樹脂)36を一定の厚みで塗布する。なお前記レジスト36の塗布厚みはコイル22を構成する各配線層28に対応する寸法に設定すればよく、さらに塗布厚みを一定にする目的から、前記レジスト36をスピンコートによって塗布することが望ましい。
【0045】 このようにレジスト36を一定の厚みで塗布した後は、このレジスト36の表面にステッパ装置等によって紫外線を照射し、その後フォトエッチングによってコイル22の平面形状となる溝部38をレジスト36に形成する。この状態を図3dに示す。その後、基板30をメッキ液に浸漬させるとともに、前記下地電極膜34を片側電極として電圧を印加すれば、図3eに示すように下地電極膜34が底部に露出する溝部38にはメッキが析出され、前記溝部38はメッキ部材40によって埋められる。そして溝部38がメッキ部材40によって埋められた後、溝部38を形成するレジスト36を除去すれば、コイル22の平面形状を有した配線層28が形成される。
【0046】 次いで配線層28の上層に新たな配線層を形成する手順を説明する。なお本実施の形態では、積層される配線層は全て同一の厚みに設定されることから同一の番号を付与して説明を行うものとする。
【0047】 まず図3gに示すように、基板30に最下層となる配線層28を形成した後は、再び下地電極膜34の上層にレジスト36を図3cと同様に塗布する。なお図3cと異なるのはレジスト36の塗布高さであり、図3gにおいてはレジスト36の膜厚を配線層28を2段に積層させた際の高さに対応するように設定すればよい。こうしてレジスト36をあらかじめ設定した高さまで塗布した後は、図3d?図3fと同様、図3h?図3jに示すように、フォトエッチングによって溝部38が形成されたレジスト36を用いて新たな配線層28(2層目)を形成すればよい。
【0048】 こうして新たな配線層28を形成した後は、図3kに示すように新たにレジストを塗布し、その高さは配線層28を3段に積層させた際の高さに対応するように設定すればよく、そして図3d?図3fや、図3h?図3jと同様、図3lから図3mに示すように、フォトエッチングによって溝部38が形成されたレジスト36を用いて新たな配線層28(3層目)を形成すればよく、さらに図3nに示すようにレジスト36の除去後は、図3oに示すように露出する下地電極膜34をエッチング等で除去すればよい。」

「【0069】 まず図5aに示すように、基板30上に上述した方法を用いてコイル22を形成した後は、前記基板30を切断し前記コイル22が一列に配置されたコイルバー46を形成する。ここで基板30からコイルバー46を切り出した状態を図5bに示すとともに、図6aに、コイルバー46上に形成されたコイル22単体の拡大図を示す。
【0070】 そして基板30からコイルバー46を切り出した後は、図5cおよび図6bに示すように、コイルバー46を裏返すとともに、当該コイルバー46の下方に配置されたコア部材の一部となる(切り出し前の)Eコア48に対しコイル22を挿入する。ここで前記Eコア48は、透磁率の高いフェライトで構成されており、その中央部にはコイル22を取り込むだけの内径および深さを備えた凹部50が形成されるとともに、当該凹部50の中央部には、コイル22の中央部を挿通できるだけの外径を有したボス52が形成されている。なおボス52の外径は、コイル22に発生する磁束53が十分通過できるだけの径に設定される(磁束経路は図1bを参照)。
【0071】 そしてこのように形成されたEコア48内にコイル22を挿入する際、前記凹部50内に熱硬化性の接着剤をあらかじめ充填させておき、この充填された前記接着剤の中に前記コイル22を浸漬させるようにする。当該コイル22を接着剤に浸漬させるようコイルバー46をEコア48に貼り合わせた状態を図5dおよび図6cに示す。そしてコイルバー46をEコア48に貼り合わせた状態で真空加熱を行えば、接着剤中の気泡を外部に抜き出すことができるとともに前記接着剤を硬化させることが可能になる。
【0072】 前記接着剤を硬化させ、コイルバー46をEコア48に貼り合わせた後は、図5eおよび図6dに示すように基板30の背面側から研磨を行い、コイル22の端面を露出させる。そして研磨によりコイル22の端面を露出させた後は、図5fおよび図6eに示すようにコイル22の端面が露出する研磨面に絶縁部材を塗布し、スペーサ層54を形成するとともに、このスペーサ層54にエッチング等によってコイル22の両端部に該当する位置に穴56を形成する。
【0073】 スペーサ層54に穴56を形成した後は、当該穴56から露出するコイル22の端面にニッケルメッキ等を施し、酸化被膜の発生を防止する。そしてこの上層に図5gおよび図6fに示すように半田ボール58を搭載し、その後リフロー工程を通過させることで前記半田ボール58を溶融させ、溶融後の半田によって穴56を埋め、電極取出部を形成する。
【0074】 このようにスペーサ層54に形成された穴56に半田を埋め込み、コイル22への導通を図った後は、図5hおよび図6gに示すように、Eコア48と同様、コア部材を構成するフェライト製のカバー60をスペーサ層54の上層に貼り合わせる。なおカバー60に形成された一対の窪み62は、その端面から半田が埋め込まれた穴56に達するまでの寸法(図6gのC寸法を参照)に設定されている。なお、この窪み62の内側はあらかじめメッキやスパッタ等でCu/Niあるいは半田などの金属膜を付けておく。そして図5iおよび図6hに示すように、前記窪み60に半田を埋め込み、リフロー工程に投入することで接続用端子24、26を形成し、Eコア48とカバー58とによって封止されたコイル22への電気的導通を図れるようにし、その後は図5jに示すようにカッター等によって個片化を行い、本発明に係る高密度インダクタ20を形成する。」

上記の記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献2には、以下2つの技術事項が記載されている。
・「複数のメッキ部材からなる配線層を積層して高アスペクト比のコイルを形成する」こと。
・「コイルをコア部材(フェライトEコアとフェライト製カバー)で封止する」こと。

(2)対比・判断
ア.本願補正発明と引用発明との対比
引用発明の「中心導体」は、めっきにより形成され、表面導体層の下地となるのものであるから、本願補正発明の「シードパターン」に相当する。
また、引用発明の「表面導体層」は、めっきにより形成され、中心導体(本願補正発明の「シードパターン」に相当)を被覆するものであるから、本願補正発明の「シードパターンの表面全体を被覆して形成された表面メッキ層」に相当する。
そして、引用発明の「平面コイル」は、上記のとおり本願補正発明の「シードパターン」及び「表面メッキ層」に相当する構成を備えているから、本願補正発明の「コイル部」に相当する。
但し、コイル部について、本願補正発明は「磁性体本体内部に埋め込まれ」ている「内部」コイルであるのに対し、引用発明はそもそも「磁性体本体」の特定がなく、該磁性体本体内部に埋め込まれている「内部」コイルについての特定もない点で相違する。
また、コイル部について、本願補正発明のシードパターンが「複数層で形成された」ものであるのに対し、引用発明はその旨の特定がない点で相違する。
更に、引用発明の「平面コイル」は、上記のとおり本願補正発明の「シードパターン」に相当する「中心導体」を備えているから、本願補正発明の「シードパターンインダクタ」に相当する。
但し、シードパターンインダクタについて、本願補正発明の表面メッキ層が「前記シードパターンを被覆し等方的に形成された第1の表面メッキ層と、前記第1の表面メッキ層の上面に配置され幅方向より厚み方向の方が大きい第2の表面メッキ層とを含む」のに対し、引用発明はその旨の特定がない点で相違する。

そうすると、本願補正発明と引用発明とは、以下の点で一致ないし相違する。

<一致点>
「コイル部は、シードパターンと、前記シードパターンの表面全体を被覆して形成された表面メッキ層を含む、
シードパターンインダクタ。」

<相違点1>
本願補正発明は「磁性材料を含む磁性体本体」を含むのに対し、引用発明はその旨の特定がない。
<相違点2>
コイル部について、本願補正発明は「磁性体本体内部に埋め込まれ」ている「内部」コイルであるのに対し、引用発明はその旨の特定がない。
<相違点3>
シードパターンについて、本願補正発明は「複数層で形成」されるのに対し、引用発明はその旨の特定がない。
<相違点4>
本願補正発明の「表面メッキ層」が「前記シードパターンを被覆し等方的に形成された第1の表面メッキ層と、前記第1の表面メッキ層の上面に配置され幅方向より厚み方向の方が大きい第2の表面メッキ層とを含む」のに対し、引用発明はその旨の特定がない。

イ.相違点についての判断
(ア)相違点1及び相違点2についての判断
インダクタにおいてコア(磁性体)を使用するか否かは、当該インダクタの所望の特性に応じて当業者が選択し得ることである。そして、引用発明は、ハイアスペクトパターンのコイルを形成することが目的であるから、コア(磁性体)の使用が制限されるものではない。よって、引用発明においてコア(磁性体)を使用して相違点1の構成にすることは、当業者が適宜なし得た事項である。
また、コイルを磁性体本体に埋め込むことは、例えば引用文献2(上記「(1)」の「イ.」を参照)に記載されているように、インダクタの構成として普通に行われていることである。よって、引用発明において相違点2の構成を採用することは、当業者が容易になし得たことである。

(イ)相違点3についての判断
引用文献2(上記「(1)」の「イ.」を参照)には、複数のメッキ部材からなる配線層を積層して高アスペクト比のコイルを形成することが記載されている。引用発明及び引用文献2に記載された発明は、共にメッキによって形成された配線について高アスペクト比を得るためのものであるから、引用発明において(めっきにより形成した)中心導体を形成するにあたり、所定の厚み(アスペクト比)を得るために、引用文献2に記載された技術事項を採用し相違点3の構成にすることは、当業者が容易になし得たことである。

(ウ)相違点4についての判断
特開2014-80674号公報(特に、段落【0001】、【0048】から【0053】を参照。以下、「引用文献A」という。)には、下地金属膜の上面および側面を覆う第1ノンフレームめっき層を等方的にめっき成長させて得、第1ノンフレームめっき層を覆い幅方向より厚み方向が大きい第2ノンフレームめっき層を異方的にめっき成長させて得ることにより、高アスペクトなめっきパターンを形成することが記載されている。引用発明及び引用文献Aに記載された発明は、共にメッキによって形成された配線について高アスペクト比を得るためのものであるから、引用発明において(下地である)中心導体を被覆する(めっきにより形成した)表面導体層を形成するにあたり、高アスペクト比を得るために、引用文献Aに記載された技術事項を採用して相違点4の構成にすることは、当業者が容易になし得たことである。

そして、本願補正発明の作用効果も、引用発明、引用文献2に記載された技術事項及び引用文献Aに記載された技術事項から当業者が容易に予測できる範囲のものである。

(3)まとめ
以上によれば、本願補正発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献2及び引用文献Aに記載された技術事項により当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成30年1月29日の手続補正書の請求項1に記載されたとおりのものであり、上記「第2.」の「1.」の〈本件補正前の請求項1〉の欄に転記したとおりのものである。

2.引用文献の記載、引用発明等
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1および2の記載事項、引用発明、引用文献2に記載された技術事項は上記「第2.」の「2.(1)」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記「第2.」で検討した本願補正発明から、「表面メッキ層」に関して「前記シードパターンを被覆し等方的に形成された第1の表面メッキ層と、前記第1の表面メッキ層の上面に配置され幅方向より厚み方向の方が大きい第2の表面メッキ層とを含む」との、上記相違点4に関する構成を省くものである。
そうすると、本願発明と引用発明とを比較すると、上記相違点1ないし3で相違する。
しかしながら、上記「第2.」の「2.(2)」に記載したとおり、相違点1ないし3に係る構成は、引用発明及び引用文献2に記載された技術事項から当業者が容易になし得たものである。
よって、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである
したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

4.令和2年5月1日の上申書について
審判請求人は上申書において、請求項1を
「磁性材料を含む磁性体本体と、
前記磁性体本体の内部に埋め込まれた内部コイル部と
を含み、
前記内部コイル部は、複数層で形成されたシードパターンと、前記シードパターンの表面全体を被覆して形成された表面メッキ層とを含み、
前記シードパターンの厚さは、前記内部コイル部の厚さの70%以上である、多層シードパターンインダクタ。」
とする補正案を提示している。
しかしながら、上記「第2」のとおり、手続補正を却下し、上記「1.」ないし「3.」のとおり原査定の拒絶の理由で特許にすることができないから、拒絶の理由を通知して補正の機会を与えることはできない。

第4.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-10-13 
結審通知日 2020-10-20 
審決日 2020-11-04 
出願番号 特願2017-240070(P2017-240070)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01F)
P 1 8・ 575- Z (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 崇大須藤 竜也  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 赤穂 嘉紀
山田 正文
発明の名称 多層シードパターンインダクタ、その製造方法及びその実装基板  
代理人 龍華国際特許業務法人  

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