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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B65D 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B65D 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B65D 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B65D |
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管理番号 | 1372486 |
審判番号 | 不服2020-2569 |
総通号数 | 257 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-05-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-02-26 |
確定日 | 2021-03-26 |
事件の表示 | 特願2018-164602「包装体」拒絶査定不服審判事件〔平成30年11月22日出願公開、特開2018-184222〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 この出願(以下「本願」という。)は、平成27年10月27日を出願日とする特願2015-210967号の一部を平成29年3月15日に新たな特許出願とした特願2017-49937号の一部を平成30年9月3日に新たな特許出願としたものであって、その主な手続は以下のとおりである。 令和元年6月21日付け 拒絶理由通知 同年8月23日 意見書の提出 同年11月20日付け 拒絶査定 令和2年2月26日 本件拒絶査定不服審判の請求及び手続補正書の提出 同年8月28日付け 拒絶理由通知 同年10月29日 意見書の提出 第2.本願発明 本願の特許請求の範囲の請求項1?5に係る発明(以下「本願発明1」等という。)は、令和2年2月26日付け手続補正書の特許請求の範囲に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 電子レンジで加熱される物体である被加熱物を収容可能な包装体であって、 最外層、最内層、および、前記最内層に積層されると共に前記最外層と前記最内層との間に位置する印刷層を含むシートを備え、 前記最内層を構成する材料は無延伸ポリプロピレンを含み、 前記印刷層は、その外面に絵柄およびテキストの少なくとも一方が印刷される層であって、且つ、光沢層を含み、 前記光沢層はパールインキを含む 包装体。 【請求項2】 前記光沢層の面積は前記光沢層が設けられる前記シートの面積よりも狭い 請求項1に記載の包装体。 【請求項3】 前記光沢層の面積は前記光沢層が設けられる前記シートの面積の2分の1未満の範囲に含まれる 請求項1または2に記載の包装体。 【請求項4】 前記光沢層は不連続である部分を含む 請求項1?3のいずれか一項に記載の包装体。 【請求項5】 前記シートにより構成される袋と、 前記袋の内部に収容される前記被加熱物とを備える 請求項1?4のいずれか一項に記載の包装体。」 第3.当審で通知した拒絶理由の概要 当審において令和2年8月28日付けで通知した拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)の概要は次のとおりである。 1)本願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 2)本願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 3)本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 4)本願は、明細書の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 5)本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) 1.分割要件(特許法第44条第1項)について 本願は、適法に分割されたものではないから、本願について特許法第44条第2項本文の規定は適用されない。 よって、本願の出願日は、現実の出願日である平成30年9月3日である。 2.理由1(特許法第29条第1項第3号)、及び理由2(特許法第29条第2項)について 本願発明1?5は、引用発明1であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。 本願発明1?5は、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 3.理由3(特許法第36条第6項第2号)について 請求項1に記載された「パールインキ」は不明確である。 4.理由4(特許法第36条第4項第1号)について 上記3.に示したように、「パールインキ」がどのようなものであるのか不明なため、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明1?5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。 5.理由5(特許法第36条第6項第1号)について 発明の詳細な説明の記載からは、請求項1で「前記光沢層はパールインキを含む」とすることにより、発明の課題が解決できるといえるものではないから、特許請求の範囲の請求項1?5の記載は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものではない。 <引用文献等一覧> 引用文献1:特開2017-105545号公報 参考文献1:日本規格協会、「JIS工業用語大辞典 第5版」、97頁の「アルミニウムペースト」の項、2001年3月30日 参考文献2:特開2006-137474号公報 参考文献3:特開平8-276917号公報 第4.当審の判断 1.分割要件(特許法第44条第1項)について 本願の願書の記載によれば、本願は、特許法第44条第1項の規定による特許出願(いわゆる分割出願。)として出願をしようとするものであるから、まず、本願が適法に分割されたものであるか否かを検討する。 (1)特許法第44条第1項は、「特許出願人は、次に掲げる場合に限り、二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。」、同条第2項本文は、「前項の場合は、新たな特許出願は、もとの特許出願の時にしたものとみなす。」と規定している。 分割出願が、同条第2項本文の適用を受けるためには、分割出願に係る発明が、もとの特許出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「原出願の当初明細書等」という。)に記載されていること、又はこれらの記載から自明であることが必要である。 (2)本願のもとの特許出願である特願2017-49937号(以下「本件原出願」という。)の出願当初の特許請求の範囲の記載は、以下のとおりである。 「【請求項1】 電子レンジで加熱される物体である被加熱物を収容可能な包装体であって、 シートと、 前記シートに設けられる印刷層とを備え、 前記印刷層は光沢層および絵柄層を含み、 前記光沢層は少なくともインキ剤を含み、 前記インキ剤は少なくともアルミペーストおよび希釈剤を含み、 前記光沢層における前記アルミペーストの重量比は4.7%?37.2%の範囲に含まれる 包装体。 【請求項2】 前記印刷層の外側に設けられた最外層をさらに含み、 前記最外層は前記印刷層を視認できる材料により構成されている 請求項1に記載の包装体。 【請求項3】 前記光沢層上に前記絵柄層が積層されていない 請求項1または2に記載の包装体。 【請求項4】 前記シートにより構成される袋と、 前記袋の内部に収容される前記被加熱物とを備える 請求項1?3のいずれか一項に記載の包装体。」 本件原出願の請求項1には、 「前記光沢層は少なくともインキ剤を含み、 前記インキ剤は少なくともアルミペーストおよび希釈剤を含み、 前記光沢層における前記アルミペーストの重量比は4.7%?37.2%の範囲に含まれる」 との発明特定事項が記載されていたが、本願発明1?5には上記発明特定事項の記載はなく、「前記光沢層はパールインキを含む」ことが記載されている。 ここで、塗料に関する技術常識を鑑みれば、「パールインキ」には、アルミペーストを含有したパール色のインキ剤以外に、薄板状の雲母(マイカ)粒子の表面に二酸化チタンをコーティングしたパール顔料を用いた、アルミペーストを含まないパールインキもよく知られている。 そうすると、本願発明1?5は、光沢層に含まれるインキについて、アルミペースト及び希釈剤を含有することを必須の構成要件としないものである。 (3)本件原出願の当初明細書等によれば、 「【発明が解決しようとする課題】 【0004】 包装体の美観は高いことが好ましい。美観を高める手段の1つとして、高い輝度を有するインキ剤を含む光沢層をシートに設けることが考えられる。光沢層に含まれるインキ剤としては、一般的にアルミペーストを含む金インキまたは銀インキが使用される。しかし、その光沢層を含む包装体が電子レンジで加熱される場合、光沢層に含まれるアルミペーストがマイクロ波に反応してスパークし、包装体が劣化するおそれがある。 【0005】 本発明の目的は美観が高く、電子レンジにより加熱された場合でも劣化しにくい包装体を提供することである。」 と記載されているから、「高い輝度を有する光沢層により美観を高めること」、及び「光沢層に含まれるアルミペーストがマイクロ波に反応してスパークせず包装体が劣化しにくいこと」を解決すべき課題としていることが理解できる。 ここで、上記課題は、高い輝度を有する光沢層により美観を高めるために、一般的にアルミペーストを含む金インキまたは銀インキが使用されることに起因して、光沢層に含まれるアルミペーストがマイクロ波に反応してスパークしてしまうという課題が生じるものであるから、「高い輝度を有する光沢層により美観を高めること」と「光沢層に含まれるアルミペーストがマイクロ波に反応してスパークせず包装体が劣化しにくいこと」という2つの課題は、一体不可分の課題であると解される。 そして、その課題解決手段について、本件原出願の当初明細書等には、 「【課題を解決するための手段】 【0006】 (1)電子レンジで加熱される物体である被加熱物を収容可能な包装体であって、シートと、前記シートに設けられる印刷層とを備え、前記印刷層は光沢層および絵柄層を含み、前記光沢層は少なくともインキ剤を含み、前記インキ剤は少なくともアルミペーストおよび希釈剤を含み、前記光沢層における前記アルミペーストの重量比は4.7%?37.2%の範囲に含まれる、包装体。」 と記載され、さらに、 「【0020】 光沢層50はインキ剤51により構成される。インキ剤51の色は金である。インキ剤51は少なくともアルミペーストおよび希釈剤を含む。一例では、インキ剤51は着色剤および溶剤をさらに含む。希釈剤の一例は樹脂である。光沢層50は第1の袋シート11Aの印刷層42Aに塗布されたインキ剤51により構成される塗膜である。」 と記載されているから、アルミペーストを必須の成分とするものである。 そして、そのアルミペーストについて、本件原出願の当初明細書等には、 「【0028】 第1の評価試験の結果について説明する。 光沢層50におけるアルミペーストの重量比が高い試料番号1?4のサンプルシートが加熱された場合、光沢層50にスパークが発生した。このため、品質評価において「B」に該当すると評価されたと考えられる。光沢層50におけるアルミペーストの重量比が試料番号1?4のサンプルシートよりも低い試料番号5?20のサンプルシートが加熱された場合、光沢層50にスパークが発生していない。このため、品質評価において「A」に該当すると評価されたと考えられる。このように、第1の評価試験の結果によれば、光沢層50におけるアルミペーストの重量比が電子レンジにより加熱された後の包装体1の品質と高い相関を有することが確認できる。 ・・・ 【0031】 試料番号5および14の結果に示されるとおり、光沢層50におけるインキ剤51の塗布量が相対的に低い試料番号5の輝度評価の結果は光沢層50におけるインキ剤51の塗布量が相対的に高い試料番号14と同じ結果である。これにより、光沢層50におけるアルミペーストの重量比と光沢層50により得られる輝度とが高い相関を有することが確認できる。」 と記載されていることから、光沢層が、高い輝度を有しつつ、アルミペーストがマイクロ波に反応してスパークしないようにするためには、光沢層におけるアルミペーストの重量比を特定の範囲とすることが不可欠であることが理解できる。 すなわち、本件原出願の当初明細書等は、光沢層に含まれるインキについて、アルミペーストを含有することを前提として、光沢層におけるアルミペーストの重量比を、上記特定の範囲とはしない場合には課題が残されていることを明確に示して、上記特定の範囲とはしないことを除外していると解される。 (4)したがって、本件原出願の当初明細書等のいかなる部分を参酌しても、光沢層に含まれるインキについて、アルミペーストを含有し、かつ、光沢層におけるアルミペーストの重量比を、上記特定の範囲とすることを必須の構成要件とはしない技術思想(上位概念たる技術思想)は、一切開示されていないと解するのが相当である。 (5)よって、光沢層に含まれるインキについて、アルミペーストを含有することを必須の構成要件とせず、光沢層におけるアルミペーストの重量比を、上記特定の範囲とすることを必須の構成要件としない発明は、本件原出願の当初明細書等に記載されたものでない。 また、光沢層に含まれるインキについて、アルミペーストを含有することを必須の構成要件とせず、光沢層におけるアルミペーストの重量比を、上記特定の範囲とすることを必須の構成要件としないことが、本件原出願の当初明細書等の記載から自明であるともいえない。 (6)以上のとおり、本願は、適法に分割されたものではないから、本願について特許法第44条第2項本文の規定は適用されない。 よって、本願の出願日は、現実の出願日である平成30年9月3日である。 (7)審判請求人の主張について 審判請求人は、令和2年10月29日付けの意見書(以下「意見書」という。)において、以下のように主張している。 「(2)本願の分割要件違反に対する意見 本願請求項1に係る発明は、令和2年2月26日付にて提出されました手続補正書の請求項1に記載されている事項によって特定され、次のとおりとなっております。 ・・・ したがって、本願請求項1に係る発明の各要件は、本件原出願の出願当初明細書等に開示された事項であると考えます。このため、本件原出願の出願当初明細書等に接した当業者が、本願請求項1に係る発明にまで想到すること、ならびに、当該発明が出願当初明細書に記載された課題を解決できることは自明であると考えます。 ・・・ そして、上述しましたように、本願請求項1?5の各構成要件は本件原出願の出願当初明細書等に開示された構成要件であり、且つ、それらの構成要件を含む本願請求項1?5に係る発明が、課題を解決できることは、本件原出願の出願当初明細書等に接した当業者には自明です。 したがいまして、分割は、適法になされたものであることから、本願の出願日は、平成27年10月27日です。」(意見書 (2)) しかしながら、上記(3)?(7)で述べたとおり、本件原出願の当初明細書等には、光沢層に含まれるインキについて、アルミペーストを含有し、かつ、光沢層におけるアルミペーストの重量比を、特定の範囲とすることを必須の構成要件とはしない技術思想(上位概念たる技術思想)は、一切開示されていないから、光沢層に含まれるインキについて、アルミペーストを含有することを必須の構成要件とせず、光沢層におけるアルミペーストの重量比を、特定の範囲とすることを必須の構成要件としない発明は、本件原出願の当初明細書等に記載されたものでない。 よって、審判請求人の主張は、採用することができない。 2.理由1(特許法第29条第1項第3号)、及び理由2(特許法第29条第2項)について (1)引用文献の記載 ア.上記1.で述べたとおり、本願の出願日は、現実の出願日である平成30年9月3日である。 そして、引用文献1(本件原出願の公開公報である特開2017-105545号公報)の公開日は、平成29年6月15日であるから、本願出願前に出願公開されたものである。 イ.引用文献1には、以下の記載がある。 (ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 電子レンジで加熱される物体である被加熱物を収容可能な包装体であって、 シートと、 前記シートに設けられる印刷層とを備え、 前記印刷層は光沢層および絵柄層を含み、 前記光沢層は少なくともインキ剤を含み、 前記インキ剤は少なくともアルミペーストおよび希釈剤を含み、 前記光沢層における前記アルミペーストの重量比は4.7%?37.2%の範囲に含まれる 包装体。 【請求項2】 前記印刷層の外側に設けられた最外層をさらに含み、 前記最外層は前記印刷層を視認できる材料により構成されている 請求項1に記載の包装体。 【請求項3】 前記光沢層上に前記絵柄層が積層されていない 請求項1または2に記載の包装体。 【請求項4】 前記シートにより構成される袋と、 前記袋の内部に収容される前記被加熱物とを備える 請求項1?3のいずれか一項に記載の包装体。」 (イ)「【0018】 図3は第1の袋シート11Aの層構造の一例を示す。なお、図3は第1の袋シート11Aのうちの光沢層50が設けられた部分の断面である。 第1の袋シート11Aは積層シートであり、例えば最外層41、中間層42、および、最内層43を含む。最外層41を構成する材料の一例は透明な材料である。透明な材料の一例はポリエチレンテレフタレートである。中間層42は例えば印刷層42A、第1接着層42B、延伸ナイロン層42C、および、第2接着層42Dを含む。印刷層42Aは最外層41の内側に設けられる。一例では、印刷層42Aの外面に絵柄および商品説明のテキスト等が印刷される。第1接着層42Bは印刷層42Aの内側に設けられる。延伸ナイロン層42Cは第1接着層42Bの内側に設けられる。第2接着層42Dは延伸ナイロン層42Cの内側に設けられる。各接着層42B、42Dを構成する材料の一例はドライラミネート接着剤である。最内層43は第2接着層42Dの内側に設けられる。最内層43を構成する材料の一例は無延伸ポリプロピレンである。なお、各シート11A?11Cは実質的に同一の層構造を有する。 【0019】 光沢層50は第1の袋シート11Aに設けられる。光沢層50は第1の袋シート11Aの印刷層42Aに含まれ、最外層41により覆われる。すなわち、光沢層50は第1の袋シート11A内に設けられる。図1に示されるとおり、光沢層50の面積は光沢層50が設けられる第1の袋シート11Aの面積よりも狭い。一例では、光沢層50の面積は第1の袋シート11Aの面積の2分の1以上である。 【0020】 光沢層50はインキ剤51により構成される。インキ剤51の色は金である。インキ剤51は少なくともアルミペーストおよび希釈剤を含む。一例では、インキ剤51は着色剤および溶剤をさらに含む。希釈剤の一例は樹脂である。光沢層50は第1の袋シート11Aの印刷層42Aに塗布されたインキ剤51により構成される塗膜である。」 (ウ)「【0040】 ・インキ剤51の色は任意に変更可能である。第1の例では、インキ剤51の色は銀である。この変形例によれば、インキ剤51の色が金である場合と実質的に同じ効果が得られる。第2の例では、インキ剤51の色はパールである。第3の例では、インキ剤51の色は輝度を有するその他の色である。」 (エ)「【図3】 ![]() 」 ウ.上記イ.(ア)?(エ)を総合すると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。 「電子レンジで加熱される物体である被加熱物を収容可能な包装体であって、 最外層、最内層、および、前記最内層に積層されると共に前記最外層と前記最内層との間に位置する印刷層を含むシートを備え、 前記最内層を構成する材料は無延伸ポリプロピレンを含み、 前記印刷層は、その外面に絵柄およびテキストの少なくとも一方が印刷される層であって、且つ、光沢層を含み、 前記光沢層は少なくともインキ剤を含み、 前記インキ剤は少なくともアルミペーストおよび希釈剤を含み、 前記光沢層における前記アルミペーストの重量比は4.7%?37.2%の範囲に含まれ、 前記インキ剤の色はパールである 包装体。」 (2)本願発明1について 本願発明1と引用発明1を対比すると、引用発明1の「電子レンジで加熱される物体である被加熱物を収容可能な包装体」は本願発明1の「電子レンジで加熱される物体である被加熱物を収容可能な包装体」に相当し、以下同様に、「最外層、最内層、および、前記最内層に積層されると共に前記最外層と前記最内層との間に位置する印刷層を含むシート」は「最外層、最内層、および、前記最内層に積層されると共に前記最外層と前記最内層との間に位置する印刷層を含むシート」に、「前記最内層を構成する材料は無延伸ポリプロピレンを含」む態様は「前記最内層を構成する材料は無延伸ポリプロピレンを含」む態様に、「前記印刷層は、その外面に絵柄およびテキストの少なくとも一方が印刷される層であって、且つ、光沢層を含」む態様は「前記印刷層は、その外面に絵柄およびテキストの少なくとも一方が印刷される層であって、且つ、光沢層を含」む態様に、「包装体」は「包装体」に、それぞれ相当する。 引用発明1の「前記インキ剤の色はパールである」ことは、インキ剤がパールインキであることを意味するから、光沢層に含まれるインキ剤の色がパールであるという引用発明1の態様は、本願発明1の「前記光沢層はパールインキを含む」態様に相当する。 以上のとおり、本願発明1と引用発明1は、全ての点で一致し、相違点はない。 よって、本願発明1は、引用発明1であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。 また、本願発明1と引用発明1の間に相違点があるとしても、それは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。 よって、本願発明1は、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 3.理由5(特許法第36条第6項第1号)について (1)本願明細書の段落【0004】には、本願発明が解決しようとする課題について、「包装体の美観は高いことが好まし」く、「美観を高める手段の1つとして、高い輝度を有するインキ剤を含む光沢層をシートに設ける」ことが行われ、「光沢層に含まれるインキ剤としては、一般的にアルミペーストを含む金インキまたは銀インキが使用される」が、「その光沢層を含む包装体が電子レンジで加熱される場合、光沢層に含まれるアルミペーストがマイクロ波に反応してスパークし、包装体が劣化するおそれがある。」と記載されている。 そうすると、本願発明は、「高い輝度を有する光沢層により美観を高めること」、及び「光沢層に含まれるアルミペーストがマイクロ波に反応してスパークせず包装体が劣化しにくいこと」を解決すべき課題としていることが理解できる。 ここで、上記課題は、高い輝度を有する光沢層により美観を高めるために、一般的にアルミペーストを含む金インキまたは銀インキが使用されることに起因して、光沢層に含まれるアルミペーストがマイクロ波に反応してスパークしてしまうという課題が生じるものであるから、「高い輝度を有する光沢層により美観を高めること」と「光沢層に含まれるアルミペーストがマイクロ波に反応してスパークせず包装体が劣化しにくいこと」という2つの課題は、一体不可分の課題であると解される。 (2)上記課題を解決する手段について、本願明細書には、「本願発明者が実施した試験によれば、光沢層50におけるアルミペーストの重量比が4.7?37.2%の範囲に含まれる場合、包装体1が電子レンジにより加熱されたときにスパークが発生しないことが確認された。包装体1によれば、光沢層50におけるアルミペーストの重量比が37.2%であるため、電子レンジにより加熱された場合でも劣化しにくい。」(段落【0032】)、及び「本願発明者が実施した試験によれば、光沢層50におけるアルミペーストの重量比が18.6?37.2%の範囲に含まれる場合、より高い輝度がユーザーに与えられることが確認された。包装体1によれば、光沢層50におけるアルミペーストの重量比が37.2%であるため、より高い美観を有する。」(段落【0033】)と記載されている。 そうすると、本願発明は、光沢層に含まれるインキについて、アルミペーストを含有することを前提として、光沢層におけるアルミペーストの重量比を特定の範囲とすることで上記課題を解決するものであることが理解できる。 (3)一方、本願発明1は、アルミペーストについて何ら特定されていない。 ここで、本願発明1の「パールインキ」について、本願明細書には文言の記載がないものの、「パール」については、 「【0041】 ・インキ剤51の色は任意に変更可能である。第1の例では、インキ剤51の色は銀である。この変形例によれば、インキ剤51の色が金である場合と実質的に同じ効果が得られる。第2の例では、インキ剤51の色はパールである。第3の例では、インキ剤51の色は輝度を有するその他の色である。」 との記載がある。 また、インキ剤51について、本願明細書には、 「【0021】 光沢層50はインキ剤51により構成される。インキ剤51の色は金である。インキ剤51は少なくともアルミペーストおよび希釈剤を含む。一例では、インキ剤51は着色剤および溶剤をさらに含む。希釈剤の一例は樹脂である。光沢層50は第1の袋シート11Aの印刷層42Aに塗布されたインキ剤51により構成される塗膜である。」 と記載されているから、色をパールとした、少なくともアルミペースト及び希釈剤を含むインキ剤51により光沢層50が構成されるものもあると一応理解できる。 一方、塗料に関する技術常識を鑑みれば、「パールインキ」には、上述の色をパールとした、少なくともアルミペースト及び希釈剤を含むインキ剤以外に、薄板状の雲母(マイカ)粒子の表面に二酸化チタンをコーティングしたパール顔料を用いた、アルミペーストを含まないパールインキもよく知られているから、本願発明1の「パールインキ」という発明特定事項は、アルミペーストを含まないインキをも含むものであることが明らかである。 よって、本願発明1は、光沢層にアルミペーストを含まないものを含む発明である。 (4)そうすると、本願発明1がアルミペーストを含まない場合、「光沢層に含まれるアルミペーストがマイクロ波に反応してスパークせず包装体が劣化しにくいこと」という上記課題が生じないことが明らかであるから、本願発明1は、そもそも、アルミペーストを含有することを前提とする発明が解決しようとする課題を解決できるものとは認識できない。 そして、アルミペーストを含まない包装袋における上記課題以外の課題は、本願明細書には記載も示唆もない。 よって、本願発明1は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものではない。 (5)また、本願発明1がアルミペーストを含む場合についても、本願発明1は、光沢層におけるアルミペーストの重量比が特定されていないから、発明の詳細な説明において「光沢層に含まれるアルミペーストがマイクロ波に反応してスパークせず包装体が劣化しにくいこと」という上記課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであることが明らかであるから、この場合も、本願発明1は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものではない。 (6)そして、本願明細書には、光沢層にアルミペーストが含まれるか否かに関係なく上記課題が生じること、及び光沢層におけるアルミペーストの重量比を特定することなく課題を解決できることについての記載も示唆もされていない。 このことは、段落【0023】?【0039】に記載された実施例において作成された試料全てが、光沢層におけるアルミペーストの重量比を調整したものであることと整合する。 (7)以上のとおり、本願発明1は、発明の詳細な説明に記載した発明であるとはいえず、請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 第5.むすび 以上のとおり、本願発明1は、引用発明1であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものである。 また、本願発明1は、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 さらに、本願の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 したがって、その余の請求項、及びその余の理由について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2021-01-12 |
結審通知日 | 2021-01-19 |
審決日 | 2021-02-02 |
出願番号 | 特願2018-164602(P2018-164602) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(B65D)
P 1 8・ 537- WZ (B65D) P 1 8・ 113- WZ (B65D) P 1 8・ 536- WZ (B65D) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 矢澤 周一郎 |
特許庁審判長 |
井上 茂夫 |
特許庁審判官 |
横溝 顕範 森藤 淳志 |
発明の名称 | 包装体 |
代理人 | 黒木 義樹 |
代理人 | 鈴木 洋平 |
代理人 | 阿部 寛 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 上村 勇太 |