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審決分類 審判 査定不服 (159条1項、163条1項、174条1項で準用) 特許、登録しない。 H01C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01C
管理番号 1372491
審判番号 不服2020-7911  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-06-09 
確定日 2021-03-26 
事件の表示 特願2017-188313「電子部品」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 4月25日出願公開、特開2019- 67793〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2017年9月28日の出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
令和 1年 7月22日付け:拒絶理由通知書
令和 1年10月23日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 3月 4日付け:拒絶査定
令和 2年 6月 9日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 令和2年6月9日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和2年6月9日にされた手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正
令和2年6月9日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするもので、請求項1について、
本件補正前に、
「【請求項1】
互いに対向している一対の端面と、一対の前記端面を連結している4つの側面と、を有し、半導体セラミックスからなる素体と、
一対の前記端面及び4つの前記側面を覆うように配置され、電気絶縁性を有する薄膜層と、
一対の前記端面側のそれぞれに配置されている第1外部電極及び第2外部電極と、
前記素体内に配置されている内部導体と、を備え、
前記薄膜層は、一対の前記端面及び4つの前記側面のそれぞれの表面形状に沿って形成されている非晶質ガラスコート層であり、
前記第1外部電極及び前記第2外部電極のそれぞれは、前記薄膜層上に配置されていると共に前記内部導体と電気的に接続されている第1電極層と、前記第1電極層を覆うように配置されている第2電極層と、を有し、
前記第2電極層の熱伝導率は、前記第1電極層の熱伝導率よりも低い、電子部品。」とあったところを、
本件補正により、
「【請求項1】
互いに対向している一対の端面と、一対の前記端面を連結している4つの側面と、を有し、半導体セラミックスからなる素体と、
一対の前記端面及び4つの前記側面を覆うように配置され、電気絶縁性を有する薄膜層と、
一対の前記端面側のそれぞれに配置されている第1外部電極及び第2外部電極と、
前記素体内に配置されている内部導体と、を備え、
前記薄膜層は、一対の前記端面及び4つの前記側面のそれぞれの表面形状に沿って形成されている非晶質ガラスコート層であり、
前記第1外部電極及び前記第2外部電極のそれぞれは、前記薄膜層上に配置されていると共に前記内部導体と電気的に接続されている第1電極層と、前記第1電極層を覆うように配置されている第2電極層と、を有し、
前記第2電極層の熱伝導率は、前記第1電極層の熱伝導率よりも低く、
前記第1電極層は、前記素体の前記端面の全域を覆うように前記薄膜層上に直接配置されており、
前記第2電極層は、前記素体の前記端面と前記側面の一部とを覆うように配置され、前記側面においてのみ前記薄膜層上に直接配置されている、電子部品。」とするものである。なお、下線は補正箇所を示す。
(当審注:本件補正前の請求項1、および本件補正の請求項1には「第1電極層の熱電導率」と記載されているが、「熱電導率」とは一般的な用語ではなく明細書中において用語の説明もなく、また明細書の段落[0031]を参照すれば、「第1電極層20の熱伝導率」と記載されていることから、上記記載は「第1電極層の熱伝導率」の誤記と認め、本件補正前の請求項1、および本件補正の請求項1を上記のように認定した。以下、同様。)

上記の補正は、第1電極層について、「前記第1電極層は、前記素体の前記端面の全域を覆うように前記薄膜層上に直接配置されて」いることを限定すると共に、第2電極層について、「前記素体の前記端面と前記側面の一部とを覆うように配置され、前記側面においてのみ前記薄膜層上に直接配置されて」いることを限定したものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、上記補正事項は出願当初の明細書に記載されており、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。

そこで、特許請求の範囲の減縮を目的とする本件補正の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)否かについて以下検討する。

2.引用文献
(1)特表2015-506103号公報
原査定の拒絶の理由で引用された特表2015-506103号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

ア.「【0006】
さらに、電気的構成素子は電気絶縁性の不動態層を有する。不動態層は、好適には、基体とは異なる材料を有するものとする。不動態層は、直接基体上に、とくに、基体の1つ又は複数の外面に直接配置し、したがって、基体と直接接触する。好適には、不動態層は電気的構成素子の基体を包囲又は包被する。不動態層は、例えば、ガラス及び/又はセラミック材料を含む、又はガラス及び/又はセラミック材料から構成する。有利にも、不動態層は、電気的構成素子を機械的及び/又は化学的な影響、例えば、腐食から保護することができる。」

イ.「【0009】
外部接点は、好適には、金属、例えば銀又は銅を含むものとする。さらに、外部接点は、付加的にガラスを、例えば、1%?5%の割合で含むことができる。これにより、外部接点の基体に対して又は不動態層に対して良好な焼結を生ずることができる。外部接点は、例えば、基体上及び/又は不動態層上に塗布した金属ボール又は金属ペーストとすることができる。好適には、外部接点は基体との直接接触がなく、すなわち、外部接点は基体に直接接触しない。外部接点により、金属質接点構造は外部と電気的に接触することができる。」

ウ.「【0010】
他の実施形態によれば、外部接点を可撓性金属複合層によって掩蔽及び包被する。可撓性金属複合層は、例えば、外部接点における金属質接点構造又は不動態層に直接接触しないすべての外面を掩蔽することができる。とくに、可撓性金属複合層は導電性を有するよう構成する。可撓性金属複合層は、好適には、合成材料、例えばポリマーを含むものとする。可撓性金属複合層はエポキシ硬化剤を含むことができる。さらに、可撓性金属複合層は、好適には、例えば、銅又は銀のような金属を含むものとする。合成材料には、例えば、粒子の形態として存在する金属を混入させる。さらに、可撓性金属複合層は、混入したポリマーに関連するものとすることができる。可撓性金属複合層により、金属質接点構造は、外部接点を介して外部と電気的接触をすることができる。」

エ.「【0014】
他の実施形態によれば、可撓性金属複合層は、不動態層の部分領域に直接接触する。例えば、可撓性金属複合層は、不動態層の部分領域を掩蔽する。例えば、可撓性金属複合層は、電気的構成素子の稜線部を越えて広がる複数の側面にわたり少なくとも部分的に掩蔽することができる。とくに、可撓性金属複合層が不動態層を掩蔽するとき有利であり、この場合、電気的構成素子は、支持体又は他の電気的構成素子に連結できる。」

オ.「【0015】
他の実施形態によれば、金属質接点構造を基体内に埋設する。例えば、金属質接点構造は、少なくとも1個の内部電極を有する。さらに、金属質接点構造は複数の内部電極を有することができる。1個又は複数個の内部電極は、基体の接点として作用する。不動態層を貫通して延びる複数の内部電極を有する場合、不動態層は、各内部電極につき1個の開口を設けると好適である。例えば、1個又は複数個の内部電極は、不動態層における1個又は複数個の開口に端部を貫通させ、開口又は開口に配置した外部接点まで達するようにする。これにより1個又は複数個の内部電極は外部接点に直接接触し、この場合、電気的構成素子が可撓性金属複合材料を介して外部と電気的接触し、外部接点及び1個又は複数個の内部電極を生ずることができる。内部電極は、例えば、銀-パラジウム、銅若しくはニッケルのような金属を有する、又はこのような金属から構成する。」

カ.「【0032】
図1は第1実施形態による電気的構成素子1の部分横断面図を示す。セラミックチップ、例えば、当業者には既知の型番2220として構成した電気的構成素子1は、直方体として形成し、またセラミック材料を有する基体2を備える。代案として、他の型番のものとすることもできる。図示の実施形態において、セラミック材料は、バリスタセラミック、とくに、ZnO-Biセラミックとする。代案として、NTC若しくはPTCセラミック、さらにサーミスタセラミック、又は誘電性コンデンサセラミックに係わるセラミック材料の場合、電気的構成素子1は、それぞれバリスタ、サーミスタ、又はコンデンサとして構成される。」

キ.「【0033】
電気的構成素子1は、さらに、金属質接点構造3を有し、この接点構造3は複数の銀-パラジウムを含有する内部電極を含む。代案として、内部電極31は、他の金属、例えばニッケル及び/又は銅も含むか、又はこれら他の金属によって構成する。金属質接点構造3は基体2と直接的に接触し、したがって、金属質接点構造3は基体2と直接接触関係にあると言える。例えば、多層構成素子に関する電気的構成素子1では、内部電極31は、異なるセラミック層に押付けられ、また焼結され、個別のセラミック層により構成される基体2に直接接触する。」

ク.「【0034】
さらに、電気的構成素子1は、電気絶縁性のガラスによる不動態層5を有する。図示の実施形態の代案として、不動態層5はセラミック材料をも含む、又はセラミック材料、好適には、基体の材料とは異なるセラミック材料で構成することができる。電気絶縁性の不動態層5は、基体2上に直接塗布すると好適である。有利にも、不動態層5は電気的構成素子1を機械的及び/又は化学的な影響から保護する。不動態層5は、不動態層5まで達する内部電極31のための開口4を有し、この開口4に内部電極3が貫通し、これにより金属質接点構造3を外部接点6に接続できる。外部接点6は、銀を含む金属ペーストにより形成し、この金属ペーストは、不動態層5を設けた基体2にスクリーン印刷法、浸漬法、又はスパッタ法により塗布する。金属ペーストは、他の実施形態によれば、他の金属、例えば銅を含むものとすることができる。」

ケ.「【0035】
さらに、可撓性金属複合層7により外部接点6を掩蔽及び包被する。可撓性金属複合層7は銀-ポリマーペーストにより形成する。代案として、可撓性金属複合層7は、さらに他の1つ若しくは複数の金属をも含むポリマー、又は他の1つ若しくは複数の金属を含むポリマーにより構成することができる。例えば、金属複合層は、金属粒子が異なる形態及び/又は大きさにすることができ、金属粒子はポリマー内に分散させ、導電性を示すことができるようにする。可撓性金属複合層7により、熱力学的応力で生ずる亀裂、とくに、基体2、不動態層5及び金属複合層7間の境界面に発生しそうな亀裂を回避、又は少なくとも軽減できるようになる。これにより、例えば、500℃よりも高い高温に起因して、不動態化する電気的構成素子、例えば不動態化するバリスタをもたらす製造方法における技術的困難性を排除することができる。このような高温は、例えば、金属質接点構造を不動態層に貫通接触するための製造方法に必須である。」

「【図1】



・上記カには、「電気的構成素子1は、」「バリスタ」「として構成される」ことが記載されており、バリスタとして構成された電気的構成素子1であるといえる。

・上記カには、「電気的構成素子1は、」「直方体として形成し、またセラミック材料を有する基体2を備える。」「セラミック材料は、バリスタセラミック、とくに、ZnO-Biセラミックとする。」ことが記載されており、直方体として形成し、ZnO-Biセラミックを有する基体2といえる。

・上記クには、「電気的構成素子1は、電気絶縁性のガラスによる不動態層5を有する。」及び「不動態層5は、基体2上に直接塗布する」と記載されており、また、上記アには、「不動態層は電気的構成素子の基体を包囲又は包被する」と記載されているから、電気絶縁性のガラスによる不動態層5であって、基体2上に直接塗布して基体2を包囲又は包被しているといえる。

・上記キには、「電気的構成素子1は、さらに、金属質接点構造3を有し、」「この接点構造3は」「内部電極を含む」ことが記載されており、また、上記オには、「金属質接点構造を基体内に埋設する」ことが記載されているから、基体2内に埋設され内部電極を含む金属質接点構造3といえる。

・上記クには、「金属質接点構造3を外部接点6に接続」「外部接点6は、銀を含む金属ペーストにより形成し、この金属ペーストは、不動態層5を設けた基体2に」「塗布する」ことが記載されており、上記イには、「外部接点は、」「不動態層に対して良好な焼結を生ずることができる。」こと、及び「不動態層上に塗布した」「金属ペーストとすることができる。」ことが記載されているから、銀を含む金属ペーストにより形成された外部接点6であって、不動態層上に塗布して焼結し金属質接点構造に接続されるといえる。

・上記ケには、「可撓性金属複合層7により外部接点6を掩蔽及び包被する。可撓性金属複合層7は銀-ポリマーペーストにより形成する」と記載されており、上記エには、「可撓性金属複合層は、不動態層の部分領域に直接接触する。」こと、及び「電気的構成素子の稜線部を越えて広がる複数の側面にわたり少なくとも部分的に掩蔽する」ことが記載されており、更に上記ウには、「可撓性金属複合層により、金属質接点構造は、外部接点を介して外部と電気的接触をすることができる。」と記載されているから、銀-ポリマーペーストにより形成された可撓性金属複合層7であって、外部接点6を掩蔽及び包被すると共に、電気的構成素子の稜線部を越えて広がる複数の側面にわたり少なくとも部分的に掩蔽して不動態層の部分領域に直接接触し、外部接点を介して金属質接点構造を外部と電気的接触させるといえる。

上記アないしケの記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「バリスタとして構成された電気的構成素子1であって、
直方体として形成し、ZnO-Biセラミックを有する基体2と、
電気絶縁性のガラスであって、基体2上に直接塗布して基体2を包囲又は包被している不動態層5と、
基体2内に埋設され内部電極を含む金属質接点構造3と、
銀を含む金属ペーストにより形成され、不動態層上に塗布して焼結し金属質接点構造に接続される外部接点6と、
外部接点6を掩蔽及び包被すると共に、電気的構成素子の稜線部を越えて広がる複数の側面にわたり少なくとも部分的に掩蔽して不動態層の部分領域に直接接触し、外部接点を介して金属質接点構造を外部と電気的接触させる銀-ポリマーペーストにより形成された可撓性金属複合層7と、
を有する電気的構成素子。」

(2)特開2009-177085号公報
原査定の拒絶の理由で引用された特開2009-177085号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

ア.「【0013】
図1は、一実施形態に係るセラミック素子を示す斜視図である。図2は、図1のセラミック素子のII-II線に沿う端面図である。図1及び図2に示すセラミック素子1は、直方体状のセラミック素体2と、セラミック素体2の外部に設けられた下地電極16と下地電極16の外表面を覆うめっき層18,20とを有する外部電極4と、セラミック素体2の外表面を覆う保護層6とから構成されるものである。」

イ.「【0029】
ステップ17(S17):保護層の形成
S16で得られたセラミック素体2を、バレル回転式RF(高周波)スパッタ装置に入れ、SiO_(2)をターゲットとしてスパッタを行う。スパッタは、例えば、バレル径200mm、奥行200mmのバレル回転式RFスパッタ装置を用いて、回転数20rpmにて行うのが好ましい。このようなスパッタを行うことにより、セラミック素体2の表面に、保護層6を形成する。」

上記アおよびイによれば、引用文献2には以下の技術事項が記載されていると認められる。
「直方体状のセラミック素体2と、セラミック素体2の外部に設けられた下地電極16と下地電極16の外表面を覆うめっき層18,20とを有する外部電極4と、セラミック素体2の外表面を覆う保護層6とから構成されるセラミック素子1において、SiO_(2)をターゲットとしてスパッタを行うことにより、セラミック素体2の表面に、保護層6を形成する。」

3.対比
本願補正発明と引用発明1とを対比する。

(1)本願明細書の段落[0046]には、電子部品としてNTCサーミスタやバリスタ、PTCサーミスタが例示されていることから、引用発明1の「バリスタとして構成された電気的構成素子1」は、本願補正発明の「電子部品」に相当する。

(2)引用発明1の「ZnO-Biセラミック」は半導体セラミックスであるから、引用発明1の「ZnO-Biセラミックを有する基体2」は、本願補正発明の「半導体セラミックスからなる素体」に相当する。また、引用発明1の「直方体として形成」された「基体2」は、基体2が6面有しているといえるから、本願補正発明の「互いに対向している一対の端面と、一対の前記端面を連結している4つの側面」とを有する「素体」に相当する。

(3)引用発明1の「電気絶縁性の」「不動態層5」が「基体2上に直接塗布して基体2を包囲又は包被」することは、基体2の外周に沿って不動態層を塗布し基体2を全体的に覆っているといえるから、本願補正発明の「一対の前記端面及び4つの前記側面を覆うように配置され」「一対の前記端面及び4つの前記側面のそれぞれの表面形状に沿って形成され」る「電気絶縁性を有する」「層」に相当する。更に、引用発明1の「ガラス」は、通常ガラスはアモルファスであるから、本願補正発明の「非晶質ガラスコート層」に相当する。
ただし、本願補正発明が電気絶縁性を有する「薄膜層」であるのに対し、引用発明1の電気絶縁性の「不動態層5」は、薄膜であるか否か不明な点で相違する。

(4)引用発明1の「基体2内に埋設され内部電極を含む金属質接点構造3」は、本願補正発明の「素体内に配置されている内部導体」に相当する。

(5)引用発明1の「不動態層上に塗布して焼結し金属質接点構造に接続される外部接点6」は、外部接点6を不動態層上に配置するとともに、金属を含む外部接点と金属質接点構造とを接続するものであり、両者を電気的に接続しているといえるから、本願補正発明の「層上に配置されていると共に前記内部導体と電気的に接続されている第1電極層」に相当する。

(6)引用発明1の「外部接点6を掩蔽及び包被する」「可撓性金属複合層7」は、本願補正発明の「第1電極層を覆うように配置されている」「第2電極層」に相当する。
また、「可撓性金属複合層7」が「外部接点を介して金属質接点構造を外部と電気的接触させる」ことは、内部電極を含む金属質接点構造と外部とを「外部接点6」「可撓性金属複合層7」を介して電気的に接続することといえ、「外部接点6」「可撓性金属複合層7」は基体2の外部に設けられた電極であるといえるから、引用発明1の「外部接点6」「可撓性金属複合層7」は、外部電極といえる。更に、引用文献1の図1を参照すれば、「外部接点6」「可撓性金属複合層7」は基体の端面に備えられており、バリスタにおいて外部電極を基体の両端面に備えることは技術常識であるから、引用文献1に記載の「外部接点6」「可撓性金属複合層7」も基体の両端面に備えられていると認められ、引用発明1の「外部接点6」「可撓性金属複合層7」は、本願補正発明の「一対の前記端面側のそれぞれに配置されている第1外部電極及び第2外部電極」に相当する。

(7)引用発明1の「外部接点6」を「銀を含む金属ペーストにより形成」し、「可撓性金属複合層7」を「銀-ポリマーペーストにより形成」することは、ポリマーペーストが金属ペーストより熱伝導率が低いことは明らかであるから、「可撓性金属複合層7」の熱伝導率は「外部接点6」よりも低いといえ、本願補正発明の「第2電極層の熱伝導率は、前記第1電極層の熱伝導率よりも低」いことに相当する。

(8)引用発明1の「不動態層上に塗布して焼結し金属質接点構造に接続される」「外部接点6」は、引用文献1の図1を参照すれば外部接点6が基体の端面に設けられていることが見て取れるから、本願補正発明の「前記第1電極層は、前記素体の前記端面の前記層上に直接配置されて」いることに相当する。また、引用発明1の「外部接点6を掩蔽及び包被すると共に、電気的構成素子の稜線部を越えて広がる複数の側面にわたり少なくとも部分的に掩蔽して不動態層の部分領域に直接接触」する「可撓性金属複合層7」は、引用文献1の図1を参照すれば可撓性金属複合層7が基体の端面と側面の一部とに設けられており、本願補正発明の「前記第2電極層は、前記素体の前記端面と前記側面の一部とを覆うように配置され、前記側面において前記層上に直接配置されて」いることに相当する。
ただし、本願補正発明は「第1電極層」が「端面の全域」を覆っているのに対し、引用発明1の「外部接点6」は端面に備えられているものの、端面の全域を覆うことについて特定されていない点で相違する。また、上記相違に伴い、本願補正発明は「第2電極層」が「側面においてのみ」薄膜層上に直接配置されているのに対し、引用発明1の「可撓性金属複合層7」は側面において不動態層に直接接触しているものの、側面においてのみ直接接触することについて特定されていない点で相違する。

そうすると、本願補正発明と引用発明1とは、
「互いに対向している一対の端面と、一対の前記端面を連結している4つの側面と、を有し、半導体セラミックスからなる素体と、
一対の前記端面及び4つの前記側面を覆うように配置され、電気絶縁性を有する層と、
一対の前記端面側のそれぞれに配置されている第1外部電極及び第2外部電極と、
前記素体内に配置されている内部導体と、を備え、
前記層は、一対の前記端面及び4つの前記側面のそれぞれの表面形状に沿って形成されている非晶質ガラスコート層であり、
前記第1外部電極及び前記第2外部電極のそれぞれは、前記層上に配置されていると共に前記内部導体と電気的に接続されている第1電極層と、前記第1電極層を覆うように配置されている第2電極層と、を有し、
前記第2電極層の熱伝導率は、前記第1電極層の熱伝導率よりも低く、
前記第1電極層は、前記素体の前記端面の前記層上に直接配置されており、
前記第2電極層は、前記素体の前記端面と前記側面の一部とを覆うように配置され、前記側面において前記層上に直接配置されている、電子部品。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本願補正発明が電気絶縁性を有する「薄膜層」であるのに対し、引用発明1の電気絶縁性の「不動態層5」は、薄膜であるか否か不明な点。

(相違点2)
本願補正発明は「第1電極層」が「端面の全域」を覆っているのに対し、引用発明1の「外部接点6」は端面に備えられているものの、端面の全域を覆うことについて特定されていない点。

(相違点3)
本願補正発明は「第2電極層」が「側面においてのみ」薄膜層上に直接配置されているのに対し、引用発明1の「可撓性金属複合層7」は側面において不動態層に直接接触しているものの、側面においてのみ直接接触することについて特定されていない点。

4.相違点についての判断

(1)相違点1について
引用文献1に記載の発明において、不動態層をどのように形成するかは、保護性能、作業性等を考慮して適宜選択し得るものである。そして、引用文献2に記載のように、セラミック素子においてスパッタを行うことによりセラミック素体2の表面に保護層(SiO_(2))を形成することは周知技術であるから、引用文献1に記載の発明において、スパッタを行うことにより不動態層を形成し薄膜とすることで相違点1に係る構成とすることは当業者が容易になし得たことである。

(2)相違点2、相違点3について
引用文献1の段落[0013]を参照すれば、外部接点6は、少なくとも内部電極3が貫通する不動態層の開口部分に設けられればよいものであり、端面全域に設けることで技術的な不都合はない。よって、外部接点6を基体の端面の一部に設けるか全域を覆うように設けるかは、当業者であれば適宜選択し得るものである。また、引用文献1の段落[0034],[0055]には、外部接点6を、不動態層を設けた基体に浸漬法により塗布することが開示されており、この場合、外部接点6は基体の端面の全域を覆うように不動態層上に設けることができるものと認められる。
よって、引用文献1に記載の発明において、外部接点6を基体の端面の全域を覆うように設けて相違点2に係る構成とすることは当業者が容易になし得たことである。
また、外部接点6を基体の端面の全域を覆うよう不動態層上に設けた場合、可撓性金属複合層7は基体の端面においては不動態層と直接接触せず、側面においてのみ不動態層と直接接触することとなる。
よって、引用文献1に記載の発明において、可撓性金属複合層7を側面においてのみ不動態層に直接接触するように設けて相違点3に係る構成とすることは当業者が容易になし得たことである。

(3)請求人の主張
請求人は審判請求書にて、「引用発明1では、外部接点6は、素体の端面の全域を覆うように不動態層5上に直接配置されている構成とはなっていません。」「引用発明1では、可撓性複合層7は、側面においてのみ不動態層5上に直接配置されている構成とはなっていません。」と主張している。
また、効果として「本願発明1では、第1電極層が端面の全域を覆うように薄膜層上に直接配置されているため、内部導体と第1電極層との接続を確実なものとしつつ、薄膜層と第1電極層との接合強度を高めることができます。そのため、本願発明1では、第1電極層が剥離することを抑制できます。また、本願発明1では、第1電極層において熱を分散し得るため、局所的に熱が集中することを抑制できます。また、本願発明1では、第2電極層が側面においてのみ薄膜層上に直接配置されているため、上記のように配置されている第1電極層を、薄膜層と第2電極層とによって、確実に覆うことができます。これにより、熱伝導率が比較的高い第1電極層が薄膜層と第2電極層とに覆われるため、電子部品が回路基板等に実装された場合に、回路基板等で発生した熱が素体に伝わることを抑制できます。」と主張している。
しかしながら、上記(2)で判断したように、外部接点6を基体の端面の全域を覆うよう不動態層上に設けることは当業者であれば適宜なし得るものであって、外部接点6を不動態層を設けた基体に浸漬法により塗布した場合には、外部接点6は基体の端面の全域を覆うように不動態層上に設けられるものと認められる。また、その場合、可撓性金属複合層7は、側面においてのみ不動態層に直接接触することとなる。更に、請求人の主張する効果について、出願当初の明細書には記載されておらず、上記構成を採用することにより得られる普通の効果であって格別なものではない。
よって、請求人の審判請求書での主張は採用することができない。

(4)したがって、本願補正発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本件補正の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明
令和2年6月9日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし5に係る発明は、令和1年10月23日にされた手続補正の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「【請求項1】
互いに対向している一対の端面と、一対の前記端面を連結している4つの側面と、を有し、半導体セラミックスからなる素体と、
一対の前記端面及び4つの前記側面を覆うように配置され、電気絶縁性を有する薄膜層と、
一対の前記端面側のそれぞれに配置されている第1外部電極及び第2外部電極と、
前記素体内に配置されている内部導体と、を備え、
前記薄膜層は、一対の前記端面及び4つの前記側面のそれぞれの表面形状に沿って形成されている非晶質ガラスコート層であり、
前記第1外部電極及び前記第2外部電極のそれぞれは、前記薄膜層上に配置されていると共に前記内部導体と電気的に接続されている第1電極層と、前記第1電極層を覆うように配置されている第2電極層と、を有し、
前記第2電極層の熱伝導率は、前記第1電極層の熱伝導率よりも低い、電子部品。」

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載の周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特表2015-506103号公報
引用文献2:特開2009-177085号公報

3.引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし2及びその記載事項は、前記「第2[理由]2.引用文献」に記載したとおりである。

4.対比・判断
本願発明は、前記「第2[理由]1.本件補正」で検討した本願補正発明から、第1電極層について「前記第1電極層は、前記素体の前記端面の全域を覆うように前記薄膜層上に直接配置されて」いるとの限定事項を削除すると共に、第2電極層について「前記素体の前記端面と前記側面の一部とを覆うように配置され、前記側面においてのみ前記薄膜層上に直接配置されて」いるとの限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに上記限定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2[理由]3.対比、4.判断、5.むすび」に記載したとおり、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について検討するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-01-13 
結審通知日 2021-01-19 
審決日 2021-02-03 
出願番号 特願2017-188313(P2017-188313)
審決分類 P 1 8・ 56- Z (H01C)
P 1 8・ 121- Z (H01C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 晃洋西間木 祐紀多田 幸司  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 赤穂 嘉紀
清水 稔
発明の名称 電子部品  
代理人 黒木 義樹  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 三上 敬史  

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