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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1372627
審判番号 不服2019-13570  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-10-10 
確定日 2021-03-31 
事件の表示 特願2016-544677「波長変換式半導体発光デバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 7月16日国際公開、WO2015/104604、平成29年 1月19日国内公表、特表2017-502524〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2014年12月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2014年1月8日、米国)を国際出願日とする出願であって、以降の手続は次のとおりである。
平成30年 9月 3日付け:拒絶理由通知(同年同月11日発送)
平成31年 3月 8日 :手続補正、意見書提出
令和 元年 6月 4日付け:拒絶査定(同年同月11日謄本送達)
同年10月10日 :審判請求、手続補正
令和 2年 6月 1日付け:拒絶理由通知(同年同月2日発送)
同年 8月31日 :手続補正、意見書提出

2 本願発明
令和2年8月31日の手続補正(以下「本件補正」という。)によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「【請求項1】
第1のピーク波長を持つ光を発するように構成された発光デバイスと、
前記発光デバイスの上に配置され、前記発光デバイスによって発せられた光を吸収して第2のピーク波長を持つ光を発するように構成された波長変換層であり、
波長変換材料と、
前記波長変換材料よりも高い熱伝導率を有する複数の透明粒子と、
当該波長変換層の重量のうちの15%以下を有する接着材料であり、前記透明粒子は当該接着材料よりも高い熱伝導率を有する、接着材料と、
の混合物を有する波長変換層と、
前記波長変換層を介して前記発光デバイスに機械的に接続された、過渡電圧を抑圧するためのチップと、
前記発光デバイスの第1及び第2のコンタクト及び前記チップの第1及び第2のコンタクトを露出させる開口を有する誘電体層と、
前記誘電体層上に形成された第1及び第2の導電パッドであり、当該第1の導電パッドは、前記発光デバイスの前記第1のコンタクトを前記チップの前記第1のコンタクトに電気的に接続するように構成され、当該第2の導電パッドは、前記発光デバイスの前記第2のコンタクトを前記チップの前記第2のコンタクトに電気的に接続するように構成される、第1及び第2の導電パッドと、
を有する構造体。」

3 当審における拒絶の理由
令和2年6月1日付けで当審が通知した拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)のうち、理由2は次のとおりである。
本件補正前の請求項1?8に係る発明は、その優先日前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献
1 特表2013-511836号公報
2 特表2010-519757号公報
3 国際公開第2011/093454号
4 特開2013-4905号公報
5 特開2012-107096号公報
6 特開2003-268201号公報
7 特開2013-201273号公報
8 特開2012-151436号公報
9 特開2007-150229号公報

4 当審の判断
(1)引用文献に記載された発明
ア 引用文献1には以下の記載がある(下線は当審で付加。以下同様。)。
(ア)
「【0003】
活性領域によって発される光の波長は、活性領域によって発される光の経路に蛍光体又は染料などの波長変換材料を配置することによってシフトされ得る。波長変換材料は、活性領域によって発される光を吸収し、そして、活性領域によって発される光のピーク波長より通常長い異なるピーク波長で光を発する。
・・・(中略)・・・
【0006】
本発明の目的は、発光材料と前記発光材料から熱を排出するように配置される熱的結合材料とを含む装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施例において、装置は、n型領域及びp型領域の間に配置される発光層を含む半導体構造を含む。発光性材料は、前記発光層によって発される光の経路に位置される。熱的結合材料は、透明材料内に配置される。前記熱的結合材料は、前記透明材料の熱伝導率よりも大きい熱伝導率を有する。前記熱的結合材料は、前記発光性材料から熱を排出するように位置される。
・・・(中略)・・・
【0009】
図1に例示される蛍光体による波長変換は、例えば、より長い波長の光子の放射におけるエネルギー損失、蛍光体の有限変換効率、及び装置から抽出されない光子の再吸収などが原因により、熱を生成し得る。図1の装置からの熱の排出は、透明材料の低熱伝導率が原因により、装置への乏しい熱的結合により妨げられ得る。例えば、シリコーン透明材料は、多くの場合、約0.1乃至0.2W/m-℃の熱伝導率を有する。波長変換からの過度の熱は、透明材料における有機化学種の分解を生じさせるのに十分高い動作温度を生じさせ得、このことは、透明材料を黄色化させ得る、又は装置故障さえも生じさせ得る。加えて、特定の蛍光体の量子効率は、高温において低下させられ、このことは、装置によって発される光の色点におけるシフト又は光出力における低下を望ましくないほどに生じさせ得る。
【0010】
本発明の実施例において、熱的結合材料は、波長変換材料内及びその周囲の熱を取り除くために、半導体発光装置において配置される。波長変換材料からの熱は、熱的結合材料を介して、発光装置へ及び発光装置が接続されるヒートシンク又はマウントへ排出される。
【0011】
熱的結合材料は、透明ホスト材料に配置され得る。適切なホスト材料の1つの例は、可視光に関して1.4及び1.55の間の屈折率を有するシリコーンである。透明ホスト材料の更なる例は、有機又は無機材料を含み、例えば、シリコーンポリマ、エポキシ、アクリルポリマ、ポリカーボネート、光学的ガラス、カルコゲニドガラス、及びこれらの混合物を含む。高屈折率透明ホストも使用され得、例えば、屈折率が、米国特許第6、870、311号に記載されるようにナノ粒子の追加によって置換されている、シリコーン、エポキシ及びソルゲルなどの高屈折率ガラス及び材料などである。
【0012】
熱的結合材料は、ホスト材料の屈折率に近い又は一致する屈折率を有し得る。熱的結合材料の屈折率は、ホスト材料の屈折率とはある実施例において10%未満だけ相違し、別のある実施例において1%未満だけ相違する。
【0013】
熱的結合材料の熱伝導率は、ホスト材料の熱伝導率を超える。例えば、熱的結合材料は、ある実施例において0.5W/m-℃より高い熱伝導率を、別のある実施例において1W/m-℃より高い熱伝導率を、そして更に別のある実施例において5W/m-℃より高い熱伝導率を、有し得る。
【0014】
適切な熱的結合材料の例は、アルミニウム/シリコン混合酸化物、シリカ、非結晶性シリカ、SiC、AlN、ダイヤモンド、非活性化蛍光体粒子、Ceドーピングの無いYAG、及びこれらの混合物、を含む。YAGなどの非活性化蛍光体粒子は、発光装置により発される光の波長変換性のものではない。
【0015】
熱的結合材料は、例えば、ある実施例において、当該熱的結合材料が組み合わせられる蛍光体の中央値粒子サイズより大きい中央値粒子サイズを有する粉末などであり得、ある実施例において1μmより大きく、ある実施例において5μmより大きく、ある実施例において1μm乃至50μmの間にあり、ある実施例において1μm乃至10μmの間にあり、そして、ある実施例において10μm乃至50μmの間にある。粉末蛍光体は、多くの場合、1μm乃至10μmの間の粒子サイズを有する。熱的結合材料は、球形の粉末であり得る、又は球形粒子に近いものであり得る。ある実施例において、熱的結合材料は、熱的結合材料粒子のほとんどの割合がそれぞれに最も近い隣接粒子と接触し、クモの巣状のもの(ウェッブ:web)を形成するように、位置される。熱は、ウェッブに沿って、発光装置へと排出されるまで伝導される。」

(イ)
「【0016】
本発明の実施例は、以下に例証される。これらの実施例はIII-窒化物薄膜フリップチップ装置を例証するものの、本発明の実施例は、成長基板が完成品装置の一部として残る従来型のフリップチップ装置、コンタクト部が半導体構造の反対側に形成される垂直型装置、光が半導体構造の同一又は反対側に形成されるコンタクト部を通じて抽出される装置、及び、例えば、AlInGaP及びAlGaAs装置などの他の材料系から作製される装置などの、他の装置と使用され得る。
【0017】
例示される薄膜フリップチップ装置は、最初に成長基板に半導体構造を成長させることによって形成される。
・・・(中略)・・・
【0021】
LED50は、n及びpインターコネクトにより支持部へ接合され、このn及びpインターコネクト部は、ハンダ、Au、Au/Sn又は他の金属などのいずれかの適切な材料であり得、(複数の)材料の多重層を含み得る。ある実施例において、インターコネクト部は、少なくとも1つの金層を含み、LED及びマウント54の間の接合は、超音波ボンディングによって形成される。
【0022】
LEDダイを支持部へ接合した後に、半導体層が成長された基板の全て又は一部は、除去され得る。ホスト基板を除去した後にも維持されている半導体構造は、例えばフォトエレクトロケミカルエッチングなどにより、薄化され得る。半導体表面は、例えば、フォトニック結晶構造などを用いて、粗化又はパターン化され得る。LED50は、この場合、支持部又は支持部が装着される個別構造であり得るマウント部54へ取り付けられ得る。例えば、ESD保護回路又は従来型シリコン集積回路として形成される他の回路などであり得る任意追加的な装置52は、マウント部54へ取り付け得る又はマウント部54へ一体化され得る。
【0023】
以下に記載される実施例において、熱的結合材料及び、通常蛍光体である1つ又は複数の波長変換材料は、III-窒化物LEDと組み合わせられ得る。より多くの又はより少ない波長変換材料が使用され得、顔料又は量子ドットなどの非波長変換材料が使用され得る。波長変換材料は、単色着色光又は白色光を形成するために、LEDからの光の全てを変換し得る、又は、波長変換材料は、LEDによって発される特定の光が覆われていない構造から抜け出るように構成され得る。ある実施例において、非変換光及び波長変換光は、白色光を形成するために組み合わせられる。例えば、青色発光LEDは、黄色発光蛍光体と組み合わせられ得る、又は青色発光LEDは、赤色発光蛍光体及び黄色又は緑色発光蛍光体と組み合わせられ得る。他の色の光を発する他の蛍光体は、所望な色点を達成するために加えられ得る。
【0024】
蛍光体はよく知られているものであり、いずれかの適切な蛍光体が使用され得る。適切な赤色放射蛍光体の例は、 ・・・(中略)・・・を含む。
・・・(中略)・・・
【0025】
適切な黄色/緑色発光蛍光体の例は、 ・・・(中略)・・・を含む。
・・・(中略)・・・
【0026】
図2に示される実施例において、熱的結合材料56は、粉末蛍光体58a・58bと混合され、透明ホスト材料60において配置される。混合物は、液体又はスラリーの形態でLED50の上に配置され得、その後キュアされ得る。例えば、混合物は、本文書において参照として組み込まれ、名称が"Overmolded Lens Over LED Die"とされる米国特許第7、344、902号において記載されるように、LED50の上にモールドされ得る。又は、蛍光体及び熱的結合材料を含むフィルムが、LEDとは別に形成され、そして、LED50の上に配置され得る。LED上に蛍光体及びホスト材料の混合物を形成する他の例は、ラミネート加工、すなわちフィルムとして別に形成されたこのような混合物を糊付けすること、このような混合物をスクリーン印刷すること、又はこのような混合物をナイフエッジ堆積させること、を含む。代替的な実施例において、1つの種類の粉末蛍光体58aのみが混合物において存在し得る。
【0027】
・・・(中略)・・・
【0028】
図2及び3の装置において、蛍光体及び熱的結合材料の合計体積は、ある実施例において、蛍光体、熱的結合材料、及びホスト材料の全体積の少なくとも30%であり得、ある実施例において蛍光体、熱的結合材料、及びホスト材料の全体積の少なくとも60%であり得る。黄色又は緑色放射蛍光体:赤色放射蛍光体:透明材料:熱的結合材料の重量による比率は、ある例において3.67:1.33:7:3であり、ある例において3.67:1.33:8:2であり、ある例において3.67:1.33:5:5である。」

(ウ)図2は以下のものである。


イ 上記ア(ア)、(イ)の記載とともに上記ア(ウ)の図2を参照すると、熱的結合材料56が粉末蛍光体58a・58bと混合され、透明ホスト材料60において配置された混合物はLED50上及び任意追加的な装置52上にかけて一体的にモールドされている。

ウ 以上を総合すると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「装置であって、
LED50、任意追加的な装置52、マウント部54、波長変換材料、熱的結合材料56、及び透明ホスト材料60を含み、
LED50が、支持部又は支持部が装着される個別構造であり得るマウント部54へ取り付けられ、
ESD保護回路又は従来型シリコン集積回路として形成される他の回路などであり得る任意追加的な装置52が、マウント部54へ取り付けられ又はマウント部54へ一体化され、
波長変換材料が、単色着色光又は白色光を形成するために、LED50からの光の全てを変換し得る、又は、波長変換材料は、LEDによって発される特定の光が覆われていない構造から抜け出るように構成され得るものであり、
波長変換材料は粉末蛍光体58a・58bであり、蛍光体はよく知られているものであり、いずれかの適切な蛍光体が使用され得るものであり、赤色放射蛍光体又は黄色/緑色放射発光蛍光体であり、
熱的結合材料56は、粉末蛍光体58a・58bと混合され、透明ホスト材料60において配置され、混合物は、液体又はスラリーの形態でLED50の上に配置され得、その後キュアされ得、混合物はLED50上及び任意追加的な装置52上にかけて一体的にモールドされており、
黄色又は緑色放射蛍光体:赤色放射蛍光体:透明ホスト材料:熱的結合材料の重量による比率は、ある例において3.67:1.33:7:3であり、ある例において3.67:1.33:8:2であり、ある例において3.67:1.33:5:5であり、
熱的結合材料56の熱伝導率は、透明ホスト材料60の熱伝導率を超えるものであり、熱的結合材料56は、波長変換材料内及びその周囲の熱を取り除くために、半導体発光装置において配置され、波長変換材料からの熱は、熱的結合材料56を介して、発光装置へ及び発光装置が接続されるヒートシンク又はマウントへ排出されるものである、
装置。」

(2)対比
ア 本願発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「LED50」、「波長変換材料」、「熱的結合材料56」、「透明ホスト材料60」及び「装置」は、それぞれ、本願発明の「第1のピーク波長を持つ光を発するように構成された発光デバイス」、「波長変換材料」、「複数の透明粒子」、「接着材料」及び「構造体」に相当する。

(イ)引用発明においては、「熱的結合材料56は、粉末蛍光体58a・58bと混合され、透明ホスト材料60において配置され、混合物は、液体又はスラリーの形態でLED50の上に配置され得、その後キュアされ得、混合物はLED50上及び任意追加的な装置52上にかけて一体的にモールドされて」おり、また、「粉末蛍光体58a・58b」である「波長変換材料が、単色着色光又は白色光を形成するために、LED50からの光の全てを変換し得る、又は、波長変換材料は、LEDによって発される特定の光が覆われていない構造から抜け出るように構成され得るものであ」るから、当該「LED50上及び任意追加的な装置52上にかけて一体的にモールドされて」いる「混合物」と、本願発明の「前記発光デバイスの上に配置され、前記発光デバイスによって発せられた光を吸収して第2のピーク波長を持つ光を発するように構成された波長変換層であり、波長変換材料と、前記波長変換材料よりも高い熱伝導率を有する複数の透明粒子と、当該波長変換層の重量のうちの15%以下を有する接着材料と、の混合物を有する波長変換層」とは、「前記発光デバイスの上に配置され、前記発光デバイスによって発せられた光を吸収して第2のピーク波長を持つ光を発するように構成された波長変換層であり、波長変換材料と、複数の透明粒子と、接着材料と、の混合物を有する波長変換層」である点で一致する。

(ウ)引用発明においては、「LED50が、支持部又は支持部が装着される個別構造であり得るマウント部54へ取り付けられ、ESD保護回路又は従来型シリコン集積回路として形成される他の回路などであり得る任意追加的な装置52が、マウント部54へ取り付けられ又はマウント部54へ一体化され」ており、また、「混合物はLED50上及び任意追加的な装置52上にかけて一体的にモールドされて」いるから、当該「ESD保護回路又は従来型シリコン集積回路として形成される他の回路などであり得る任意追加的な装置52」は、本願発明の「前記波長変換層を介して前記発光デバイスに機械的に接続された、過渡電圧を抑圧するためのチップ」とは、「前記波長変換層を介して前記発光デバイスに機械的に接続された、付加的なチップ」である点で一致する。

(エ)引用発明の「熱的結合材料56の熱伝導率は、透明ホスト材料60の熱伝導率を超えるものであ」ることは、本願発明の「前記透明粒子は当該接着材料よりも高い熱伝導率を有する」ことに相当する。

(オ)よって、両者は以下の点で一致する。
「 第1のピーク波長を持つ光を発するように構成された発光デバイスと、
前記発光デバイスの上に配置され、前記発光デバイスによって発せられた光を吸収して第2のピーク波長を持つ光を発するように構成された波長変換層であり、
波長変換材料と、
複数の透明粒子と、
接着材料であり、前記透明粒子は当該接着材料よりも高い熱伝導率を有する、接着材料と、
の混合物を有する波長変換層と、
前記波長変換層を介して前記発光デバイスに機械的に接続された、付加的なチップと、
を有する構造体。」

(カ)一方、両者は以下の各点で相違する。
《相違点1》
本願発明は、「前記波長変換材料よりも高い熱伝導率を有する複数の透明粒子」を備えるのに対し、引用発明は「複数の透明粒子」に対応する構成は備えるものの、当該透明粒子が、「前記波長変換材料よりも高い熱伝導率を有する」ものであることまでは特定されていない点。

《相違点2》
本願発明は、「当該波長変換層の重量のうちの15%以下を有する接着材料」を備えるのに対し、引用発明は「接着材料」に対応する構成は備えるものの、当該接着材料が、「当該波長変換層の重量のうちの15%以下を有する」ものであることまでは特定されていない点。

《相違点3》
本願発明は、「過渡電圧を抑圧するためのチップ」を備えるのに対し、引用発明は「付加的なチップ」に対応するものは備えるものの、「過渡電圧を抑圧するための」ものであることまでは特定されていない点。

《相違点4》
本願発明は、「前記発光デバイスの第1及び第2のコンタクト及び前記チップの第1及び第2のコンタクトを露出させる開口を有する誘電体層と、前記誘電体層上に形成された第1及び第2の導電パッドであり、当該第1の導電パッドは、前記発光デバイスの前記第1のコンタクトを前記チップの前記第1のコンタクトに電気的に接続するように構成され、当該第2の導電パッドは、前記発光デバイスの前記第2のコンタクトを前記チップの前記第2のコンタクトに電気的に接続するように構成される、第1及び第2の導電パッドと」を備えるのに対し、引用発明は、そのような構成を備えない点。

(3)判断
上記各相違点について検討する。
ア 相違点1について
引用発明においては、「波長変換材料からの熱は、熱的結合材料を介して、発光装置へ及び発光装置が接続されるヒートシンク又はマウントへ排出されるものである」から、「熱的結合材料」は「波長変換材料」よりも熱伝導率が高いものといえ、仮にそうでなくても、「熱的結合材料」を「波長変換材料」よりも熱伝導率が高いものとすることは当業者が適宜になしえたことである。

イ 相違点2について
引用発明においては、「色又は緑色放射蛍光体:赤色放射蛍光体:透明ホスト材料:熱的結合材料の重量による比率は、ある例において3.67:1.33:7:3であり、ある例において3.67:1.33:8:2であり、ある例において3.67:1.33:5:5であ」ることからすると、「透明ホスト材料」が少なくとも33重量%程度を占めるものが例示されてはいる。しかしながら、引用文献1の他の記載を見ても、前記各材料の配合比を、上記の例示された値に限定する旨の記載はない。
ところで、引用文献1には、「熱的結合材料」が伝熱する作用について、「熱的結合材料は、熱的結合材料粒子のほとんどの割合がそれぞれに最も近い隣接粒子と接触し、クモの巣状のもの(ウェッブ:web)を形成するように、位置される。熱は、ウェッブに沿って、発光装置へと排出されるまで伝導される」(段落【0015】)と記載されているから、より高い密度で熱的結合材料粒子が存在すると、隣接粒子との接触が増し、当該「ウェッブに沿っ」た放熱経路が増加することで、より放熱が良好なものとなることは当業者に明らかである。
そして、引用発明においては、より放熱が良好なものが好ましいことは当然であるから、前記例示された値よりもより大きな比率で「熱的結合材料」を配合させることは当業者が適宜になしえたことである。ここで、一般に、樹脂を粒子状固形物と混合して成型するに当たり、当該樹脂配合量として15重量%以下の値は、例えば、以下の引用文献4、引用文献5及び引用文献6にも記載されているように通常採用される程度のものであるから、引用発明において、前記のとおり「熱的結合材料」の配合比を増加させる一方、樹脂である「透明ホスト材料」の配合比を相対的に低下させて15重量%以下とすることに何ら困難はない。

引用文献4(特開2013-4905号公報)
当審拒絶理由において引用され、本願の優先日前に日本国内において頒布された特開2013-4905号公報には、次の記載がある。
「【0109】
また、熱硬化性シリコーン樹脂組成物の熱伝導率を例えば、0.4以上3.0以下の範囲のように高くするためには、白色顔料としてアルミナ及びチタニアの少なくとも一方を樹脂成形体用材料全体量に対して40重量部以上90重量部以下添加することが好ましい」
ここで、「90重量部」添加することにより、樹脂は10重量部程度となる。

引用文献5(特開2012-107096号公報)
当審拒絶理由において引用され、本願の優先日前に日本国内において頒布された特開2012-107096号公報には、次の記載がある。
「【0103】
(実施例1)
トリアリルイソシアヌレート 24.0g、白金-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体のキシレン溶液(白金3重量%含有)0.06gを混合し、攪拌、真空脱泡したものをA液とした。また、合成例1で調製した反応物B-1 36.0g、1-エチニルシクロヘキサノール 0.06g、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン 1.5gを混合し、攪拌、脱泡したものをB液とした。
【0104】
A液、B液、及び酸化亜鉛であるLPZINC-5(堺化学工業製)582gを混合させたものを、3本ペイントロールにて発熱を抑えロールを冷却ながら混合し、硬化性樹脂組成物を得た。得られた組成物は半固体状であったため、プレス容器に充填しプレスする方法により、タブレット状に加工して成形に用いた。
【0105】
(実施例2?9)
(A)成分及び(B)成分の配合比率を表1に示す割合にして組成物1及び組成物2を作成した。組成物1?2及びその他配合剤の配合比率を表2に示す割合に変更した以外は実施例1と同様にして、評価を行った。
【0106】
・・・(中略)・・・
【0108】
(評価方法)
以下の評価を実施し表2に結果を示した。
・・・(中略)・・・
【0113】
【表2】


ここで、上記表2中において、樹脂である「(A)成分+(B)成分」の割合(wt%)がいずれも15%を下回っていることがわかる。

引用文献6(特開2003-268201号公報)
当審拒絶理由において引用され、本願の優先日前に日本国内において頒布された特開2003-268201号公報には、次の記載がある。
「【0006】すなわち本発明は
(1) エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤、無機充填材を必須成分として含み、無機充填材が平均粒子径15?30μmであり且つ(a)平均粒子径20?30μmの球状シリカおよび(b)平均粒子径0.1?0.05μmの球状シリカを(b)/(a+b)が0.005?0.1(重量比)であり、(a+b)が無機充填材成分の90重量%以上含有することを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂成形材料、(2) 無機充填材が全原料成分中90重量%以上である(1)項記載の半導体封止用エポキシ樹脂成形材料、(3) (1)または(2)項記載の半導体封止用エポキシ樹脂成形材料で封止されてなる半導体装置である。
【0007】
・・・(中略)・・・
【0015】
【表1】


ここで、上記段落【0006】及び表1の記載から、樹脂成分が合計して5wt%以下となっていることがわかる。

ウ 相違点3について
引用発明における、「ESD保護回路又は従来型シリコン集積回路として形成される他の回路などであり得る任意追加的な装置52」は、「ESD保護回路」、いわゆる静電保護回路である場合にあっては、過渡的な電圧がLEDに印可されないように抑圧されるものといえるから、実質的に「過渡電圧を抑圧するためのチップ」であるといえる。また、次の引用文献2にも記載されているように、「過渡電圧を抑圧するためのチップ」である「TVSチップ」は周知のものであって、引用発明における「任意追加的な装置52」として当該TVSチップを採用することは当業者が適宜になしえたことである。

引用文献2(特表2010-519757号公報)
当審拒絶理由において引用され、本願の優先日前に日本国内において頒布された特表2010-519757号公報には、次の記載がある。
「【0130】
図46Aから46Dは、LEDダイ及び他のタイプの半導体チップ(例えば一時的な電圧抑制器(TVS)又は光検出器)にわたってレンズをモールドすることを例示する。
【0131】
図46Aは、LED282の電力導線間に接続されるTVSチップ284及びLED282を示す、サブマウント280の部分を上から見下ろした図である。サブマウント280上の金属トレースは、示されていない。例えば静電放電(ESD)により電圧サージがあると、TVSチップ284の回路は、LED282をバイパスするためにグランドに一時的な電圧を短絡させる。さもなければ、LED282は、損傷を受ける。TVS回路は、よく知られている。出願人の知識では、従来技術のTVS回路は、LEDのために用いられる一部のレンズで封入されていない。図46Aに示されるサブマウント280は、LED及びTVSダイの多くの組合せがマウントされるウェーハの一部である。サブマウント・ウェーハは、LED/TVS対を単一化するために、後でのこ引きされるだろう。
【0132】
図46Bは、サブマウント280の側面図である。図43B及び他の図に示されるものと類似のモールドは、蛍光体粒子を含む液体シリコーンで満たされるくぼみを持つ。サブマウント・ウェーハ及びモールドが接合されるので、各LED/TVSの対が単一のくぼみのシリコーン内にあり、当該シリコーンは硬化される。サブマウント・ウェーハはモールドから分離され、図46Cの構造体と結果としてなる。モールドされた蛍光体レンズ286は、両方のチップを封入する。使用される蛍光体のタイプ、蛍光体の密度及びレンズ286の形状は、所望の色温度特性により決定される。一つの実施例において、レンズ286の蛍光体は、青色LED282によって付勢されるとき、暖かい白色光を発生させるための赤い蛍光体及びYAGの混合物である。」

エ 相違点4について
(ア)引用文献1においては、LED50を外部の電気的回路に接続する点に関して、「LED50は、n及びpインターコネクトにより支持部へ接合され、 ・・・(中略)・・・。ある実施例において、インターコネクト部は、少なくとも1つの金層を含み、LED及びマウント部54の間の接合は、超音波ボンディングによって形成される。」(段落【0021】)との記載があるのみで、マウント部54における具体的配線構造の記載はないものの、「n及びpインターコネクト」がともにマウント部54に接合されること、及び慣用される技術からすると、マウント部54は電気的絶縁物によって構成されていることは明らかである。
また、上記のとおり、引用文献1には、マウント54における具体的配線構造の記載はないことから、引用発明に係る「装置」においては、電気的絶縁物によって構成されるマウントについての、公知の配線構造を適宜採用できることは当然である。

(イ)ところで、引用発明における「ESD保護回路」「であり得る」「任意追加的な装置52」や、上記ウで示した「TVSチップ」が、保護回路構成のために、少なくとも2個の電極を備えることは明らかである。また、一般に、LED及び保護素子をマウント等に実装するにあたっては、当該LED及び保護素子がそれぞれ備える各2個の電極を、互いに接続するように構成すること、及び、LED及び保護素子を含む発光装置を配線基板等に実装するにあたって、発光装置の実装側の面であるマウント裏面等上に導電性のパッドを設けるとともに、当該パッドを用いて、LED及び保護素子間の電気的接続を行うことは、例えば、以下の引用文献7、引用文献8、及び引用文献9にも記載されているように、周知の技術である。

(ウ)そして、引用発明に係る「装置」を他の配線基板等に実装することは、当然になされることであるから、引用発明に上記各周知技術を適用して、マウント部54の裏面上に導電性のパッドを設けるとともに、LED50及び任意追加的な装置52がそれぞれ備える各2個の電極から当該導電性のパッドに至る経路を、マウント部54を貫通して設けて、当該導電性のパッドによりLED50及び任意追加的な装置52がそれぞれ備える各2個の電極を、互いに電気的に接続することは、当業者が適宜になしえたことである。
ここで、上記のように、素子が載置されたマウントを貫通して、外部電極となるパッドと、前記素子のコンタクト電極を電気的に接続すること自体は、例えば、以下の周知文献1及び2にも記載されているように、通常用いられる構成であって、当業者に自明とも言えるものである。
この際、前記(ア)のとおり、引用発明のマウント部54は、電気的絶縁物によって構成されているから、本願発明の「誘電体層」に相当するものと言える。

引用文献7(特開2013-201273号公報)
当審拒絶理由において引用され、本願の優先日前に日本国内において頒布された特開2013-201273号公報には、次の記載がある。
「【0058】
(第3の実施形態)
図8(a)?図8(c)は、第3の実施形態に係る半導体発光素子の構成を例示する模式的図である。
・・・(中略)・・・
【0059】
整流素子部70は、第1電極71と、第2電極72と、整流部73と、を含む。
・・・(中略)・・・
【0060】
第1電極71は、第1金属縁部61に電気的に接続されている。これにより、第1電極71は、第1金属縁部61、第1端子部51、及び、第1導電性ピラー41を介して、第1半導体層10に電気的に接続される。第2電極72は、第2金属縁部62に電気的に接続されている。これにより、第2電極72は、第2金属縁部62、第2端子部52、及び、第2導電性ピラー42を介して、第2半導体層20に電気的に接続される。
【0061】
・・・(中略)・・・
【0064】
図9は、第3の実施形態に係る半導体発光素子の構成を例示する等価回路図である。
図9に表したように、発光部15は、例えば、発光ダイオードである。整流部73は、例えば、ダイオードである。半導体発光素子130において、整流部73は、上記のように電気的に接続されることにより、発光部15と逆方向に並列に接続される。
【0065】
整流部73の順方向降下電圧は、例えば、発光部15において許容される最大の逆方向の電圧(以下、逆方向耐電圧)よりも低い。また、整流部73の逆方向耐電圧は、動作時に発光部15に印加する順方向電圧よりも高い。
【0066】
整流部73は、ESD(Electrostatic Discharge:静電気放電)などに起因して半導体発光素子130に逆方向の過電圧(発光部15の逆方向耐電圧を超える電圧)が印加された場合に導通する。整流部73は、導通した場合に、発光部15に加わる逆方向の電圧の最大値を、整流部73の順方向電圧以下にする。これにより、半導体発光素子130においては、逆方向の過電圧から発光部15が保護される。従って、半導体発光素子130では、信頼性をさらに向上させることができる。」

ここで、図8は次のものである。



引用文献8(特開2012-151436号公報)
当審拒絶理由において引用され、本願の優先日前に日本国内において頒布された特開2012-151436号公報には、次の記載がある。
「【0077】
バイパスカソードパッド41cとバイパスアノードパッド41dは、LEDチップ5に過大な逆電圧が印加されることを回避するためのバイパス機能素子を実装するためのものであり、本実施形態においては、バイパス機能素子としてツェナーダイオード6が実装されている。バイパスカソードパッド41cは、円形状とされており、バイパスアノードパッド41dは、矩形状部分とこの矩形状部分につながる円形部分とを有している。
【0078】
・・・(中略)・・・
【0094】
アノードパッド41aは、全厚アノード貫通配線44aを介してアノード実装電極43aにつながっている。このため、LEDチップ5からの熱は、全厚アノード貫通配線44aを通じてアノード実装電極43a、さらには半導体発光装置A1が実装されたたとえば回路基板へと伝えられる。これは、LEDチップ5の放熱を促進し、LEDチップ5の発光効率を高めるのに適している。
【0095】
また、カソードパッド41bは、表面側カソード貫通配線45a、カソード中継配線42a、および裏面側カソード貫通配線45bを介してカソード実装電極43bにつながっている。このため、LEDチップ5からの熱は、表面側カソード貫通配線45a、カソード中継配線42a、および裏面側カソード貫通配線45bを通じてカソード実装電極43b、さらには半導体発光装置A1が実装されたたとえば回路基板へと伝えられる。これは、LEDチップ5の放熱を促進し、LEDチップ5の発光効率を高めるのに適している。
【0096】
・・・(中略)・・・
【0098】
バイパスカソードパッド41cは、バイパスカソード貫通配線44cを介してアノード実装電極43aにつながっている。これは、LEDチップ5に過大な逆電圧が印加されるのを回避するために、一時的な大電流をスムーズに流すのに適している。」

ここで、図2は次のものである。


引用文献9(特開2007-150229号公報)
当審拒絶理由において引用され、本願の優先日前に日本国内において頒布された特開2007-150229号公報には、次の記載がある。
「【0027】
本発明の光源は、上記本発明の発光素子収納用パッケージと、発光素子および保護素子の搭載部にそれぞれ搭載され、配線導体に接続された発光素子および保護素子を具備していることから、上記本発明の発光素子収納用パッケージによって発光素子から出る光の利用効率を損なうことなく、また発光素子から出る熱を効率良く外部へ伝導させて、発光素子の発光効率の低下を抑制でき、高い発光効率を有し、かつ長期にわたる安定動作が可能な光源となる。
【0028】
本発明の発光装置は、上記本発明の光源と、光源が搭載され、光源を駆動する電気配線を有する駆動部と、光源から出射される光を反射する光反射手段とを含むことから、高い発光効率を有し、かつ長期にわたる安定動作が可能な発光装置となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
・・・(中略)・・・
【0044】
次に、本発明のパッケージの第二の実施形態について説明する。図2は本発明の第二の実施形態によるパッケージの一例を示し、図2(a)はパッケージの平面図、図2(b)はパッケージの断面図である。図2において、絶縁基体1、発光素子3、発光素子3の搭載部1c、保護素子4、保護素子4の搭載部1d、配線導体5については、前述の第一の発明と同じであるため、詳細な説明は省略する。
【0045】
・・・(中略)・・・
【0046】
保護素子4の搭載部は、反射部材2の光反射面2aより外側の位置に設けられ、反射部材2は、その下面に保護素子4の搭載部1dを覆うように凹部8が形成される。そして、保護素子4および発光素子3を搭載部1dに実装した後に、反射部材2が絶縁基体1に半田、Agロウ等のロウ材やエポキシ樹脂接合材等の接合材により接合される。
【0047】
本実施の形態例においても、保護素子4の搭載部1dは絶縁基体1の一主面上に設けられるので、発光素子3から放射状に絶縁基体1の他主面側に向けて放熱される放熱経路を凹部8が遮ることがない。したがって、絶縁基体1の放熱効率を損なうことがない。
【0048】
絶縁基体1にはその内部に配線導体5が形成されて発光素子3の搭載部1cおよび保護素子4の搭載部1dに導出されているので、保護素子4の電極を接続するボンディングワイヤ等の線路導体を通すために、反射部材2の側壁部を貫通する孔や切り欠き部を必要としない。このため、光反射面2aの内側に反射部材2と熱膨張係数の異なる透光性部材6を充填した場合でも、熱膨張差による反射部材2の変形が発生せず、うねりを持たない安定した光反射面2aを形成することができ、発光素子3から出る光を効率良く外部へ取り出し、配光分布も安定させることが可能である。」

ここで、図2は次のものである。


上記図2を参照すると、配線導体5cが、「発光素子収納用パッケージと、発光素子および保護素子の搭載部にそれぞれ搭載され、配線導体に接続された発光素子および保護素子を具備している」「光源」を実装するための外部電極となることは明らかであり、当該配線導体5cにより、発光素子3と保護素子4とが電気的に接続されることが見て取れる。

周知文献1(再公表特許WO2011/108664号)
本願の優先日前に日本国内において頒布された再公表特許WO2011/108664号には、次の記載がある。
「【0002】
従来、発光ダイオードの構造についてさまざまな形態が知られている(例えば、特許文献1?3を参照)。図1は、従来の発光ダイオードの構造の例を説明するための断面図である。図1(a)において、発光素子9の発する光は集光方向zに取り出される。この発光ダイオードは、サファイア基板1、N+型半導体2、N型半導体3、活性層4、P型半導体5、導電反射膜6、及びフリップチップ電極7、8からなる発光素子9を備えている。また、発光素子を実装するパッケージ基板10、外部と接続するための電極11、傾斜した側壁12、蛍光体13、及びキャップ14を備えている。P型及びN型半導体層の間の活性層において発光する光の進む方向を、図中p、qで示す。活性層で発生する光のうち集光方向zへ向かう光は、そのまま放出される(p)。集光方向zとは反対側へ向かう光は、反射膜6により反射されて集光方向zへ向かう(q)。P型半導体の電極は、導電反射膜経由でフリップチップ電極7へ接続されている。N型半導体の電極は、N+型半導体を経由してフリップチップ電極8に接続される。図1は断面図であるのでフリップチップ電極は2つのみ表わされている。上記発光素子のパッケージは、図1(b)に示すように、マザーボード340に設けられた電極65上に搭載される。白色用の発光ダイオードの場合には、特に静電気等の高電圧サージに弱いため、除電された環境で取扱う必要がある。静電気対策のために、発光ダイオードのパッケージ内にサージ吸収素子が実装される場合も多い。」

ここで、図1は次のものである。


周知文献2(再公表特許WO2013/042662号)
本願の優先日前に日本国内において頒布された再公表特許WO2013/042662号には、次の記載がある。
「【0053】
図7で示すように、LED装置12aには2個のLEDダイ50が含まれる。LEDダイ50はサファイア基板52、半導体層53、p側突起電極54a及びn側突起電極54bからなる。図1で示したLEDダイ30との主な違いは平面サイズである。LEDダイ30が0.8mm×0.4mmであるのに対し、LEDダイ50の平面サイズは0.3mm×0.3mmである。その他の事項は図1と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0054】
LEDダイ50はサブマウント基板55上にフリップチップ実装されている。サブマウント基板55は、板材55dの上面に実装電極55aが、下面に接続電極55cがそれぞれ形成され、実装電極55aと接続電極55cとがスルーホール55bで接続されている。接続電極55cの下面には半田21b及び半田22bが付いている。2個のLEDダイ50はサブマウント基板55上で直列接続されており、半田21b側の接続電極55cがLED装置12aのアノード、半田22b側の接続電極55cがLED装置12aのカソードとなる。すなわち実装基板11(図1参照)のプラス側の金属板(銅板11a)に半田21b側の接続電極55cが接続され、マイナス側の金属板(銅板11c)に半田22b側の接続電極55cが接続される。このようにしてLED装置12aの順方向電圧を高くし、扱い易くしている。」

ここで、図7は次のものである。


(エ)上記(ウ)で説示した、当業者が適宜になし得た構成にあっては、マウント部54が、相違点4にかかる「誘電体層」に相当するものとなるが、これとは別に、一般に、装置の実装面側に誘電体層を設けるとともに、当該誘電体層に設けられた、素子電極に至る開口を介して導電性のパッドを設けることは、例えば引用文献3のほか、以下の周知文献3及び周知文献4にも記載されているとおり周知技術である。引用発明におけるLED等の素子実装構造を当該周知技術のものに置換することも、当業者が容易になしえたことであり、この際、上記(イ)及び(ウ)と同様に、LED及び保護素子を含む発光装置を配線基板等に実装するにあたって、発光装置の実装側の誘電体層上に導電性のパッドを設けるとともに、当該パッドを用いて、LED及び保護素子がそれぞれ備える各2個の電極の電気的接続を行うことに何ら困難はない。

引用文献3(国際公開第2011/093454号)
当審拒絶理由において引用され、本願の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2011/093454号には、次の記載がある。
「[0042](第2実施形態)
図26には本発明の第2実施形態に係る製造方法によって製造された発光装置が示され、図27乃至図32には第2実施形態に係る製造方法の工程が示されている。
[0043] この実施形態に係る発光装置20は、その基本的構成が図1に示した第1実施形態に係る発光装置10と同じであるので、同一の構成には同一の符号を付すことで詳細な説明を省略する。
[0044] この発光装置20は、発光素子3を樹脂封止する封止部材5の下面5aの略全面に保護膜25が形成されている点で、先の発光装置10の構成とは異なる。前記保護膜25は、シリコーン樹脂で形成された柔軟性のある封止部材5を補強する目的で形成され、この保護膜25によって封止部材5の下面に形成されるN外部接続電極23nとP外部接続電極23pを安定化させることができる。また、保護膜25は発光装置20の発光効率を向上させる目的も持っているため反射性を有する必要がある。これらの条件を満足させるために、保護膜25としてはシリコーン樹脂またはエポキシ樹脂にガラスフィラーを混入して強度を高め、また酸化チタンを混入させて反射率を高めている。なお、保護膜25の形成方法としては、スクリーン印刷や、金属マスクを用いたマスク印刷等により、必要な部分に広く形成することが望ましい。
[0045] 前記保護膜25の下面には下地電極膜26が設けられている。また、下地電極膜26の端部が発光素子3の素子電極であるN電極3a及びP電極3bの下面に届く位置まで延びており、保護膜25から素子電極であるN電極3a及びP電極3bに移る位置には段差部27a,27bが設けられている。また、下地電極膜26は、前記発光素子3のN電極3a側のN電極下地膜26aと、P電極3b側のP電極下地膜26bとに切断部分8で分離されている。なお、下地電極膜26に用いられる材料は、下地電極としての機能を備えていれば良いので、導電性が良く、またエッチング性の良いチタン・タングステン合金(TiW)が好ましい。
[0046] 前記N電極下地膜26aには全面にニッケル(Ni)層21aと金(Au)層22aがメッキ形成され、3層構造のN外部接続電極23nを形成している。同様にP電極下地膜26bの全面にもニッケル(Ni)層21bと金(Au)層22bがメッキ形成され、3層構造のP外部接続電極23pを形成している。なお、本実施形態ではP外部接続電極23pが発光素子3のP電極3bと広い面積で接続しているので、P外部接続電極23pからの放熱効果が大きい。」

ここで、図26は次のものである。


周知文献3(特開2012-124443号公報)
本願の優先日前に日本国内において頒布された特開2012-124443号公報には、次の記載がある。
「【0029】
図1により本発明の第1実施形態におけるLED装置10(半導体発光装置)の構造を説明する。図1は本実施形態のLED装置10の断面図である。LED装置10において、接続電極17は上面でLED素子18のバンプ電極14と接続している。LED素子18は2個のバンプ電極14の上に半導体層13とサファイア基板12が積層している。LED素子18の側面及びバンプ電極14を除く底面(下面)は、反射剤を含む封止部材11で封止されている。LED素子18及び封止部材11の上面には蛍光体層15が形成され、蛍光体層15に透明樹脂層16が積層している。封止部材11とバンプ電極14の下部の高さは一致しており、バンプ電極14を含む封止部材11の底面に接続電極17が形成されている。
【0030】
封止部材11において反射剤は酸化チタンであり、バインダはシリコーン樹脂である。同様に蛍光体層15は蛍光体粒子をシリコーン樹脂に混練したものであり、透明樹脂層16もシリコーン樹脂である。接続電極17は電解メッキ法で形成したメッキ電極である。LED素子18は青色発光ダイオードである。
【0031】
接続電極17は図の上から、メッキ用共通電極で使ったTiW、電解メッキ法で形成したCu,Ni,Auが積層し10μm程度の厚さになる。サファイア基板12は厚さが80?120μm、半導体層13は厚さが7μm程度であり、バンプ電極14は電解メッキ法で形成すれば厚さが10?30μm程度になる。LED素子18から下方向に出射した光を効率良く上方に向けるには、LED素子18の下面に設けた封止部材11の厚さが30μm以上あることが好ましい。蛍光体層15及び透明樹脂層16は厚さが100μm程度である。」

ここで、図1は次のものである。封止部材11が、相違点4に係る「誘電体層」に相当する。


周知文献4(特開2012-227470号公報)
本願の優先日前に日本国内において頒布された特開2012-227470号公報には、次の記載がある。
「【0045】
まず図9と図10によりLED装置41の構造を説明する。図9は本実施形態におけるLED装置41の断面図である。LED素子41の上面に接着層43を介して蛍光体シート11が接着している。図7で示した第3実施形態のLED装置31と同様に蛍光体シート11の端部にはダム材36があり、接着材のフィレット43aは下に凸な形状をしている。白色反射部材47はフィレット43aの側部だけではなく、LED素子46の突起電極48,49の周囲にも充填されている。白色反射部材47の底部には突起電極48,49と接続するメッキ電極53,54(接続電極)がある。
【0046】
LED素子46は、サファイア基板44の下に半導体層45を備え、半導体層45の下に配線51,52があり、配線51,52がそれぞれ突起電極48,49と接続している。なお絶縁膜は図示していない。
【0047】
図10はLED装置41において白色反射部材47を充填する前の底面図である。半導体層45が占める領域の外側にはフィレット43a及びダム材36が見える。半導体層45の底面には、コの字状の配線51と直線状の配線52がある。半導体層45の底面の端部では配線51,52と突起電極48,49がそれぞれ接続している。配線51は図示していない絶縁膜の開口部を介してp型半導体層と接続している。同様に配線52は図示していない絶縁膜の開口部を介してn型半導体層と接続している。
【0048】
以上のようにp型半導体層及びn型半導体層の接続部(絶縁膜の開口部)がLED素子46の底面で分散していても、配線51,52を使うことにより接続部を相互に接続し、底面端部にメッキ電極53,54と接続する突起電極48,49を形成できる。このとき白色反射部材47は配線51,52とメッキ電極53,54の層間絶縁膜として機能する。」

ここで、図9は次のものである。白色反射部材47が、相違点4に係る「誘電体層」に相当する。


(オ)上記(ア)?(エ)のとおり、引用発明において相違点4に係る構成を備えることは、当業者が適宜になし得たことである。


(4)小括
よって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-10-21 
結審通知日 2020-10-27 
審決日 2020-11-10 
出願番号 特願2016-544677(P2016-544677)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小濱 健太  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 野村 伸雄
近藤 幸浩
発明の名称 波長変換式半導体発光デバイス  
代理人 大貫 進介  
代理人 伊東 忠重  
代理人 伊東 忠彦  

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