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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G03B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G03B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G03B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G03B
管理番号 1372651
異議申立番号 異議2019-700888  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-05-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-11-08 
確定日 2021-01-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6507548号発明「波長変換素子、光源装置、プロジェクター」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6507548号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔11-14〕について訂正することを認める。 特許第6507548号の請求項1-10、12-14に係る特許を維持する。 特許第6507548号の請求項11に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6507548号(請求項の数14。以下「本件特許」という。)の請求項1から請求項14に係る発明は、平成26年9月26日にした特許出願(以下「本件特許出願」という。)に係る発明である。そして、平成31年4月12日にその特許権の設定の登録がされ、令和元年5月8日にその特許掲載公報が発行された。
特許異議申立人は、令和元年11月8日に、請求項1から請求項14に係る特許について特許異議の申立てをした。
審判長は、令和2年2月21日付けで、請求項1から請求項14に係る特許について取消理由の通知(以下「1次取消理由」という。)をした。これに対して、特許権者は、同年4月24日に、特許請求の範囲の訂正(以下「第1次訂正」という。)を請求するとともに、意見書を提出した。
審判長は、同年6月25日付けで、第1次訂正の請求について訂正拒絶理由の通知をした。これに対して、特許権者は、同年7月30日に、意見書を提出した。
さらに審判長は、同年9月28日付けで、請求項11から請求項14に係る特許について取消理由(以下「本件取消理由」という。)の通知(決定の予告)をした。これに対して、特許権者は、同年11月26日に、特許請求の範囲の訂正(以下「本件訂正」という。)を請求するとともに、意見書を提出した。

なお、本件訂正の請求がされたので、特許法第120条の5第7項の規定により、第1次訂正の請求は取り下げられたものとみなす。


第2 訂正の適否
1 本件訂正
(1)訂正事項
本件訂正の請求の趣旨は、特許第6507548号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項11?14について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は次のとおりである。

訂正事項1
特許請求の範囲の請求項11を削除する。

訂正事項2
特許請求の範囲の請求項12に「請求項1から11のいずれか一項」と記載されているものを「請求項1から10のいずれか一項」に訂正する。(請求項12の記載を引用する請求項13、14も同様に訂正する。)

(2)本件訂正前後の特許請求の範囲の記載
本件訂正前(本件特許の特許権の設定の登録の時をいう。以下同じ。)及び本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1から請求項14の記載は、以下のとおりである。下線は、訂正箇所を示すために当合議体が付した。

ア 本件訂正前
「【請求項1】
基板と、
前記基板の一面側に設けられた反射部と、
前記反射部の前記基板とは反対側に設けられる中間層と、
前記中間層の前記反射部とは反対側に設けられ、励起光の照射により蛍光を発する波長変換層と、を備え、
前記中間層は、前記波長変換層の屈折率よりも低い屈折率を有し、
前記波長変換層は、複数の結晶粒界を含み、
前記波長変換層と前記中間層との間の界面に対して、臨界角以上の角度で入射した前記蛍光は、前記界面において全反射され、
前記結晶粒界に対して、臨界角以上の角度で入射した前記蛍光は、前記結晶粒界において全反射される、
ことを特徴とする波長変換素子。
【請求項2】
前記反射部が、前記基板の一面の略全体を覆うように形成されている
請求項1に記載の波長変換素子。
【請求項3】
前記中間層は、前記蛍光の波長以上の厚みを有する、
請求項1または2に記載の波長変換素子。
【請求項4】
前記中間層の厚みが1μm以上である、
請求項1から3のいずれか一項に記載の波長変換素子。
【請求項5】
前記中間層が接着材で構成されている、
請求項1から4のいずれか一項に記載の波長変換素子。
【請求項6】
前記中間層の熱伝導率が前記波長変換層の熱伝導率よりも高い、
請求項1から5のいずれか一項に記載の波長変換素子。
【請求項7】
前記界面が凹凸を有する、
請求項1から6のいずれか一項に記載の波長変換素子。
【請求項8】
前記反射部が、前記励起光を透過するとともに前記蛍光を反射するダイクロイックミラーである、
請求項1から7のいずれか一項に記載の波長変換素子。
【請求項9】
前記波長変換層は、屈折率が互いに異なる複数の材料を含む、
請求項1から8のいずれか一項に記載の波長変換素子。
【請求項10】
前記基板が、前記基板の前記一面と交差する回転軸を中心として回転可能とされている、
請求項1から9のいずれか一項に記載の波長変換素子。
【請求項11】
前記波長変換層の屈折率よりも低い屈折率を有する低屈折率層を有し、
前記基板の一面上に前記反射部、前記中間層、前記低屈折率層及び前記波長変換層がこの順に積層され、
前記中間層の屈折率が前記低屈折率層の屈折率未満である、
請求項1から10のいずれか一項に記載の波長変換素子。
【請求項12】
励起光を射出する発光素子と、
請求項1から11のいずれか一項に記載の波長変換素子と、を備える
ことを特徴とする光源装置。
【請求項13】
前記基板の前記一面の法線と平行な方向から見たとき、前記波長変換素子の前記界面は、前記波長変換層に前記励起光が照射される領域と重なる領域に設けられている、
請求項12に記載の光源装置。
【請求項14】
請求項12または13に記載の光源装置と、
前記光源装置からの光を画像情報に応じて変調する光変調装置と、
前記光変調装置からの変調光を投射画像として投射する投射光学系と、を備える
ことを特徴とするプロジェクター。」

イ 本件訂正後
「【請求項1】
基板と、
前記基板の一面側に設けられた反射部と、
前記反射部の前記基板とは反対側に設けられる中間層と、
前記中間層の前記反射部とは反対側に設けられ、励起光の照射により蛍光を発する波長変換層と、を備え、
前記中間層は、前記波長変換層の屈折率よりも低い屈折率を有し、
前記波長変換層は、複数の結晶粒界を含み、
前記波長変換層と前記中間層との間の界面に対して、臨界角以上の角度で入射した前記蛍光は、前記界面において全反射され、
前記結晶粒界に対して、臨界角以上の角度で入射した前記蛍光は、前記結晶粒界において全反射される、
ことを特徴とする波長変換素子。
【請求項2】
前記反射部が、前記基板の一面の略全体を覆うように形成されている
請求項1に記載の波長変換素子。
【請求項3】
前記中間層は、前記蛍光の波長以上の厚みを有する、
請求項1または2に記載の波長変換素子。
【請求項4】
前記中間層の厚みが1μm以上である、
請求項1から3のいずれか一項に記載の波長変換素子。
【請求項5】
前記中間層が接着材で構成されている、
請求項1から4のいずれか一項に記載の波長変換素子。
【請求項6】
前記中間層の熱伝導率が前記波長変換層の熱伝導率よりも高い、
請求項1から5のいずれか一項に記載の波長変換素子。
【請求項7】
前記界面が凹凸を有する、
請求項1から6のいずれか一項に記載の波長変換素子。
【請求項8】
前記反射部が、前記励起光を透過するとともに前記蛍光を反射するダイクロイックミラーである、
請求項1から7のいずれか一項に記載の波長変換素子。
【請求項9】
前記波長変換層は、屈折率が互いに異なる複数の材料を含む、
請求項1から8のいずれか一項に記載の波長変換素子。
【請求項10】
前記基板が、前記基板の前記一面と交差する回転軸を中心として回転可能とされている、
請求項1から9のいずれか一項に記載の波長変換素子。
【請求項11】
(削除)
【請求項12】
励起光を射出する発光素子と、
請求項1から10のいずれか一項に記載の波長変換素子と、を備える
ことを特徴とする光源装置。
【請求項13】
前記基板の前記一面の法線と平行な方向から見たとき、前記波長変換素子の前記界面は、前記波長変換層に前記励起光が照射される領域と重なる領域に設けられている、
請求項12に記載の光源装置。
【請求項14】
請求項12または13に記載の光源装置と、
前記光源装置からの光を画像情報に応じて変調する光変調装置と、
前記光変調装置からの変調光を投射画像として投射する投射光学系と、を備える
ことを特徴とするプロジェクター。」

2 本件訂正についての当合議体の判断
本件訂正前の請求項12から請求項14は、本件訂正前の請求項11の記載を引用して記載されているから、本件訂正前の請求項11から請求項14は、一群の請求項である。
したがって、本件訂正は、本件訂正前の請求項11から請求項14について請求項ごとにする訂正の請求であり、かつ、本件訂正前の請求項11から請求項14からなる一群の請求項ごとにする訂正の請求であるから、特許法120条の5第3項及び第4項の規定に従ってされたものである。その他の訂正要件についての判断は、以下のとおりである。
なお、これらの請求項は、いずれも特許異議の申立てがされた請求項であるから、本件訂正に特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法126条7項の要件(独立特許要件)が課されることはない。


(1)訂正事項1
訂正事項1は、本件訂正前の請求項11を削除する訂正であるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正である。そして、請求項を削除する訂正であることから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであることが明らかであるし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも明らかである。

(2)訂正事項2
訂正事項2は、本件訂正前の請求項12が「請求項1から11のいずれか一項」を引用していたものを「請求項1から10のいずれか一項」を引用するようにして、引用請求項数を削減する訂正であるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正である。そして、引用請求項数を削減する訂正であることから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであることが明らかであるし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも明らかである。

3 訂正の適否についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり、また、同条9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔11-14〕について訂正することを認める。


第3 本件特許に係る発明
前記第2のとおり、本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1から請求項14は、本件訂正後の特許請求の範囲(前記第2の1(2)イ)の記載のとおりである。そして、本件特許の請求項1から請求項14に係る発明(以下、それぞれ、請求項の番号に従って「本件発明1」などといい、本件発明1から本件発明10及び本件発明12から本件発明14を併せて「本件発明」という。)は、各請求項に記載された事項によって特定されるとおりのものである(本件発明11は、削除された請求項11に係るものであるから、存在しない。)。
なお、本件発明2から本件発明10、本件発明12から本件発明14は、いずれも本件発明1の構成を全て含む。


第4 本件取消理由について
1 本件取消理由の概要
請求項11及び請求項11を直接または間接的に引用する請求項12-14の記載は不明確であり、請求項11-14に係る特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2 当合議体の判断
本件訂正前の請求項11が本件訂正により削除された結果、本件取消理由は、その対象が存在しないものとなった。
したがって、本件特許の請求項1から請求項10、請求項12から請求項14に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできない。


第5 本件取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立理由の概要
申立理由1:本件訂正前の請求項1,2,5,6,9,10,12,13に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明であって、特許法29条1項3号に該当するから、請求項1,2,5,6,9,10,12,13に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものである。
申立理由2:本件訂正前の請求項1-7,9,10,12-14に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1-7,9,10,12-14に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
申立理由3:本件特許は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1,2,7及びこれらを直接又は間接的に引用する請求項3-6,8-14の記載が、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
申立理由4 : 本件特許の発明の詳細な説明は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2,7及びこれらを直接又は間接的に引用する請求項3-6,8-14に係る発明を当業者が実施できるように記載されておらず、特許法36条4項1号の要件を満たしていない。

(1)引用文献の一覧
下記の甲第1号証から甲第15号証は、特許異議申立人が特許異議申立書に添付して提出した書証(文献)である。以下では、これらの文献を、それぞれ書証番号を用いて「甲1文献」などという。

甲第1号証:特開2012-243618号公報
甲第2号証:特開2012-185980号公報
甲第3号証:特開2012-62459号公報
甲第4号証:特開2011-12215号公報
甲第5号証:「屈折率データ」[online] 、[令和元年10月11日検索]、インターネット< URL:http://wwl.tiki.ne.jp/~uri-works/tmp/>
甲第6号証:守吉 佑介ほか 著、「セラミックスの焼結」、内田老鶴圃出版、1995年12月15日第1版発行
甲第7号証:「LuAG:Ce」「技術パラメータ」の項目[online] 、[令和元年10月11日検索]、インターネット
甲第8号証:特開2012-62444号公報
甲第9号証:特開2012-211229号公報
甲第10号証:特開2014-17262号公報
甲第11号証:特開2012-84274号公報
甲第12号証:特開2015-119046号公報
甲第13号証:特開2016-62966号公報
甲第14号証:特開2012-243624号公報
甲第15号証:特開2014-153527号公報

(2)引用文献に記載された発明等
ア 甲1文献
甲1文献には、以下の記載がある。下線は、当合議体が付した。

「【0048】
また、上述した本発明の光源装置において、蛍光体層2、接合層17は、固定されていてもよいが、蛍光体層2、接合層17を移動可能に構成することもできる。例えば、図7(a), (b)に示すように(図 7(a)は全体の正面図、図7(b)は蛍光体層2の平面図である)、蛍光体層2、接合層17、放熱基板6を回転軸Xの周りに回転させる(モーター4等によって回転させる)反射型蛍光回転体1として構成することもできる。すなわち、反射型蛍光回転体1は、蛍光体層2と放熱基板6を接合層17で接合したものをモーター4等と連結することで実現できる。ここで、放熱基板6が、励起光および蛍光の反射面として機能している。なお、放熱基板6の形状は、円盤状や四角形などが考えられる。また回転の安定性を確保するために、円盤の一部を切り欠いたり、逆におもりをつけた 形状とすることも可能である。このように、固体光源5に対して蛍光体層2、接合層17を回転させることで、励起光が当たる場所を分散させ、光照射部での発熱を抑えることができる。この蛍光回転体1を用いることで、そもそも蛍光体の発熱を抑えることが出来るため、より一層の高輝度が可能となる。」

「【図7】
(a)


(b)



したがって、甲1文献には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。

「光源装置において、光照射部での発熱を抑えるために、蛍光体層2、接合層17、放熱基板6を回転軸Xの周りに回転させるようにした反射型蛍光回転体1。」

イ 甲2文献
甲2文献には、以下の記載がある。下線は、当合議体が付した。

「【0035】
図1および2に示すように、本発明の波長変換素子1は、放熱部材3上に波長変換部材2を接合してなるものである。本実施形態では、波長変換部材2と放熱部材3の間に反射層4が形成されており、さらに、波長変換部材2と反射層4の間に保護層5が形成されている。
【0036】
波長変換部材2は、発光素子(図示せず)から出射された励起光の一部を透過する一方、一部を吸収し、励起光よりも波長の長い蛍光を出射する部材である。
【0037】
波長変換部材2は無機材料からなる。具体的には、無機蛍光体粉末とガラス粉末を含む混合粉末の焼結体からなる。
【0038】
無機蛍光体粉末は、励起光の波長に応じて適宜選択することができる。無機蛍光体粉末の具体例としては、酸化物蛍光体、窒化物蛍光体、酸窒化物蛍光体 、塩化物蛍光体、酸塩化物蛍光体、硫化物蛍光体、酸硫化物蛍光体、ハロゲン化物蛍光体、カルコゲン化物蛍光体、アルミン酸塩蛍光体、ハロリン酸塩化物蛍光体、YAG系化合物蛍光体が挙げられる。これらの無機蛍光体粉末は2種以上を複合して使用してもよい。」

「【0066】
保護層5としては、全光線透過率が80%以上、特に90%以上であることが好ましい。これにより、保護層5における光の吸収ロスを低減し、光源の発光強度の低下を抑制できる。具体的には、保護層5としては、SiO_(2)およびAl_(2)O_(3)などが挙げられる。保護層5の厚みは例えば0.01?500μm、特に0.1?300μmであることが好ましい。保護層5の厚みが小さすぎる場合は、反射層4の酸化抑制効果が得られにくくなる。一方、保護層5の厚みが大きすぎる場合は、膜応力が大きくなったり、波長変換部材2において発生した熱が放熱部材3に伝導しにくくなる傾向がある 。」

「【0073】
<変形例>
実施形態1では、波長変換部材2として、無機蛍光体粉末とガラス粉末を含む混合粉末の焼結体を用いる場合について説明した。本発明はこの構成に限定されず、波長変換部材2として、例えば、透光性YAG多結晶体や、透光性YAG単結晶を用いてもよい。
【0074】
本発明の波長変換素子は、LEDやLD等の発光素子と組み合わせることにより、例えばプロジェクター用光源として使用することができる。」

「【図2】



したがって、甲2文献には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。

「放熱部材3上に波長変換部材2を接合してなる波長変換素子1であって、波長変換部材2と放熱部材3の間に反射層4が形成され、波長変換部材2と反射層4の間に保護層5が形成され (【0035】、【図1】) 、
波長変換部材2は、励起光の一部を吸収し、励起光よりも波長の長い蛍光を出射するものであり、 (【0036】)
波長変換部材2は、透光性YAG多結晶体であり (【0073】) 、
保護層5は、SiO_(2)およびAl_(2)O_(3)などであり、厚みは例えば0.01?500μm、特に0.1?300μmであることが好ましく、保護層5の厚みが小さすぎる場合は、反射層4の酸化抑制効果が得られにくくなり、保護層5の厚みが大きすぎる場合は、膜応力が大きくなったり、波長変換部材2において発生した熱が放熱部材3に伝導しにくくなったりする傾向がある (【0066】) 、波長変換素子1。」

ウ 甲5文献
甲5文献には、以下の記載がある。
「二酸化珪素(ホワイトカーボン)の屈折率1.44?1.50,酸化アルミニウム(アルミナ)の屈折率1.76」

エ 甲7文献
甲7文献には、以下の記載がある。
「YAG:Ceの屈折率 1.82」

2 申立理由1,2について
ア 本件発明1と甲2発明の対比
本件発明1と甲2発明を対比すると、以下のとおりである。
(ア)甲2発明の「放熱部材3」は、本件発明1の「基板」に、「反射層4」は「反射部」に、「保護層5」は「中間層」に、「波長変換素子1」は「波長変換素子」に、それぞれ相当する。また、甲2発明の「波長変換部材2 」は「励起光の一部を吸収し、励起光よりも波長の長い蛍光を出射する」ものであるから、本件発明1の「励起光の照射により蛍光を発する波長変換層」に相当する。

(イ)甲2発明の「波長変換部材2と放熱部材3の間に反射層4が形成され、波長変換部材2と反射層4の間に保護層5が形成され」ていることは、要は、「放熱部材3」、「反射層4」、「保護層5」、「波長変換部材2」の順に積層されていることを意味するから、本件特許発1明の「基板と、前記基板の一面側に設けられた反射部と、前記反射部の前記基板とは反対側に設けられる中間層と、前記中間層の前記反射部とは反対側に設けられ、励起光の照射により蛍光を発する波長変換層と、を備え」ることに相当する。

(ウ)甲2発明の「保護層5」は、「SiO_(2)」や「Al_(2)O_(3)」からなり、「SiO_(2)」の屈折率は1.44?1.50程度、「Al_(2)O_(3)」の屈折率 は1.76程度であることが技術常識として知られている(甲5文献)。また、甲2発明の「波長変換部材2」は、「透光性YAG多結晶体」からなり、その屈折率は、1.82程度であることが同様に知られている(甲7文献)。したがって、甲2発明において、「保護層5」は「波長変換部材2」の屈折率よりも低い屈折率を有すると考えられるから、甲2発明は、本件特許発明1の「前記中間層は、前記波長変換層の屈折率よりも低い屈折率を有し」に相当する構成を備える。

(エ)甲2発明の「波長変換部材2」は、多結晶セラミックスである「透光性YAG多結晶体」からなり、一般的な焼結多結晶体において結晶粒界を完全に排除することは困難であり、裏を返せば、一般的な焼結多結晶体において、結晶粒界が存在することは技術常識であるから、「透光性YAG多結晶体」は複数の結晶粒界を含むものと認められる。したがって、甲2発明は、本件発明1の「前記波長変換層は、複数の結晶粒界を含み」に相当する構成を備える。

(オ)屈折率の高い層と低い層の界面に対して、臨界角以上の角度で入射した光が、当該界面において全反射されるというのは、臨界角の定義であるから、甲2発明の「波長変換部材2」と「保護層5」の界面においても、臨界角以上の角度で入射した光が、当該界面において全反射されるのは自明なことである。したがって、甲2発明は、本件発明1の「前記波長変換層と前記中間層との間の界面に対して、臨界角以上の角度で入射した前記蛍光は、前記界面において全反射され」に相当する構成を備える。

(力)蛍光体(波長変換層)の「結晶粒界」において「蛍光」が「全反射される」状態となるためには、粒界の界面が発生する蛍光の波長に対して十分大きな面積を有し、また、界面と垂直方向に十分な厚みを有することなどの条件が満たされることが必要とされるものと認められる。
ここで、甲2発明の「波長変換部材2」が上記のような条件を満たすものであるかどうかは不明であるから、甲2発明は、本件発明1の「前記結晶粒界に対して、臨界角以上の角度で入射した前記蛍光は、前記結晶粒界において全反射される」に相当する構成を備えているとはいえない。

イ 判断
本件発明1と甲2発明を対比すると、両者は、
「基板と、
前記基板の一面側に設けられた反射部と、
前記反射部の前記基板とは反対側に設けられる中間層と、
前記中間層の前記反射部とは反対側に設けられ、励起光の照射により蛍光を発する波長変換層と、を備え、
前記中間層は、前記波長変換層の屈折率よりも低い屈折率を有し、前記波長変換層は、複数の結晶粒界を含み、
前記波長変換層と前記中間層との間の界面に対して、臨界角以上の角度で入射した前記蛍光は、前記界面において全反射される、
ことを特徴とする波長変換素子。」
の点で一致し、
本件発明1が、
「前記結晶粒界に対して、臨界角以上の角度で入射した前記蛍光は、前記結晶粒界において全反射される」
ものであるのに対し、甲2発明はそのような構成を有していない点で相違する。

ウ 相違点についての判断
本件発明1の「前記結晶粒界に対して、臨界角以上の角度で入射した前記蛍光は、前記結晶粒界において全反射される」点は、甲1文献並びに甲3文献から甲15文献のいずれにも記載されていないし、示唆されてもいない。
そうすると、上記相違点に係る本件発明1の構成は、甲1文献から甲15文献に記載されているとも、甲1文献から甲15文献に記載された発明に基づいて、当業者が容易に思い付くものであるともいうことはできない。

したがって、本件特許の請求項1に係る特許は、特許法29条1項又は特許法29条2項の規定に違反してされたものであるということはできない。

(3)本件発明2から本件発明10、本件発明12から本件発明14について
本件発明2から本件発明10、本件発明12から本件発明14は、いずれも本件発明1の構成を全て含むから、少なくとも本件発明1と甲2発明との上記相違点において甲2発明と相違する。そして、上記のとおり、上記相違点に係る本件発明1の構成は、甲1文献から甲15文献に記載された発明に基づいて当業者が容易に思い付くものであるということはできないから、上記相違点に係る本件発明2から本件発明10、本件発明12から本件発明14の構成も同様である。
そうすると、本件発明2から本件発明10、本件発明12から本件発明14は、甲1文献から甲15文献に記載された発明であるとも、それらの発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことはできない。
したがって、本件特許の請求項2から請求項10、請求項12から請求項14に係る特許は、特許法29条1項又は特許法29条2項の規定に違反してされたものであるということはできない。

3 申立理由3について
申立理由3は、
(1)本件請求項1の「結晶粒界」につき、蛍光を全反射させる「結晶粒界」がどのようなものであるのかが明確でない。
(2)本件請求項2の「略全体」とはどの程度の範囲であるのかが不明である。
(3)本件請求項7の「凹凸を有する」界面とはどのように特定されるのかが不明である。
というものであるが、これらの記載はいずれも、それぞれの文言の有する一般的な意味と技術常識を踏まえて解釈すれば、技術思想を把握することができない程度に不明瞭であるということはできず、特段不明瞭なものではない。

4 申立理由4について
申立理由4は、
(1)「略全体」とはどの程度の範囲であるのかが不明であって、当業者が発明を実施することができない。
(2)「凹凸を有する」界面の凹凸形状の大きさが特定されておらず、当業者が発明を実施することができない。
というものであるが、これらの記載はいずれも、それぞれの文言の有する一般的な意味と技術常識を踏まえて解釈すれば十分に理解に足りるものであって、当業者が発明を実施することができない程に不明瞭なものではない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本件異議申立理由もしくは本件取消理由によっては、本件特許の請求項1から請求項10、請求項12から請求項14に係る特許を取り消すべきであるということはできない。そして、本件異議申立理由もしくは本件取消理由の他に、本件特許の請求項1から請求項10、請求項12から請求項14に係る特許を取り消すべきであるとする理由を発見しない。
また、本件特許の請求項11に係る特許についての特許異議の申立ては、本件訂正により請求項11が削除された結果、申立ての対象が存在しないものとなった。したがって、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、却下するべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の一面側に設けられた反射部と、
前記反射部の前記基板とは反対側に設けられる中間層と、
前記中間層の前記反射部とは反対側に設けられ、励起光の照射により蛍光を発する波長変換層と、を備え、
前記中間層は、前記波長変換層の屈折率よりも低い屈折率を有し、
前記波長変換層は、複数の結晶粒界を含み、
前記波長変換層と前記中間層との間の界面に対して、臨界角以上の角度で入射した前記蛍光は、前記界面において全反射され、
前記結晶粒界に対して、臨界角以上の角度で入射した前記蛍光は、前記結晶粒界において全反射される、
ことを特徴とする波長変換素子。
【請求項2】
前記反射部が、前記基板の一面の略全体を覆うように形成されている
請求項1に記載の波長変換素子。
【請求項3】
前記中間層は、前記蛍光の波長以上の厚みを有する、
請求項1または2に記載の波長変換素子。
【請求項4】
前記中間層の厚みが1μm以上である、
請求項1から3のいずれか一項に記載の波長変換素子。
【請求項5】
前記中間層が接着材で構成されている、
請求項1から4のいずれか一項に記載の波長変換素子。
【請求項6】
前記中間層の熱伝導率が前記波長変換層の熱伝導率よりも高い、
請求項1から5のいずれか一項に記載の波長変換素子。
【請求項7】
前記界面が凹凸を有する、
請求項1から6のいずれか一項に記載の波長変換素子。
【請求項8】
前記反射部が、前記励起光を透過するとともに前記蛍光を反射するダイクロイックミラーである、
請求項1から7のいずれか一項に記載の波長変換素子。
【請求項9】
前記波長変換層は、屈折率が互いに異なる複数の材料を含む、
請求項1から8のいずれか一項に記載の波長変換素子。
【請求項10】
前記基板が、前記基板の前記一面と交差する回転軸を中心として回転可能とされている、
請求項1から9のいずれか一項に記載の波長変換素子。
【請求項11】
(削 除)
【請求項12】
励起光を射出する発光素子と、
請求項1から10のいずれか一項に記載の波長変換素子と、を備える
ことを特徴とする光源装置。
【請求項13】
前記基板の前記一面の法線と平行な方向から見たとき、前記波長変換素子の前記界面は、
前記波長変換層に前記励起光が照射される領域と重なる領域に設けられている、
請求項12に記載の光源装置。
【請求項14】
請求項12または13に記載の光源装置と、
前記光源装置からの光を画像情報に応じて変調する光変調装置と、
前記光変調装置からの変調光を投射画像として投射する投射光学系と、を備える
ことを特徴とするプロジェクター。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-01-07 
出願番号 特願2014-196411(P2014-196411)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (G03B)
P 1 651・ 113- YAA (G03B)
P 1 651・ 537- YAA (G03B)
P 1 651・ 121- YAA (G03B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 村川 雄一  
特許庁審判長 岡田 吉美
特許庁審判官 中塚 直樹
岸 智史
登録日 2019-04-12 
登録番号 特許第6507548号(P6507548)
権利者 セイコーエプソン株式会社
発明の名称 波長変換素子、光源装置、プロジェクター  
代理人 大浪 一徳  
代理人 佐藤 彰雄  
代理人 松沼 泰史  
代理人 松沼 泰史  
代理人 松本 裕幸  
代理人 松本 裕幸  
代理人 大浪 一徳  
代理人 佐藤 彰雄  

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