• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A21D
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A21D
審判 全部申し立て 2項進歩性  A21D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A21D
管理番号 1372674
異議申立番号 異議2020-700165  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-05-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-03-10 
確定日 2021-02-04 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6573496号発明「製パン用組成物、製パン用ミックス粉、パン類の製造方法及びパン類」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6573496号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6573496号の請求項1、3ないし5に係る特許を維持する。 特許第6573496号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立を却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6573496号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成27年7月22日に出願され、令和1年8月23日にその特許権の設定登録がされ、同年9月11日に特許掲載公報が発行された。
その後、当該特許に対し、令和2年3月10日に石井宏司(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたところ、その後の手続の経緯の概要は次のとおりである。

令和2年 7月27日付け 取消理由通知
同年 9月 8日 訂正請求書、意見書の提出(特許権者)
同年10月16日付け 特許法第120条の5第5項の通知書
同年11月19日 意見書の提出(異議申立人)

第2 訂正請求について
1.訂正の内容
令和2年9月8日提出の訂正請求書により請求された訂正(以下、「本件訂正」という。)は、訂正前の一群の請求項〔1-5〕に対してされたものであり、その内容は、以下の訂正事項1?5のとおりである。

(1)訂正事項1
請求項1に、請求項2の内容を追加する。すなわち、請求項1の「かつ前記成分(b)と成分(c)の配合比(質量比)は(b):(c)=1:0.25?1:2.5である、」との記載を、「前記成分(b)と成分(c)の配合比(質量比)は(b):(c)=1:0.25?1:2.5であり、かつ、前記成分(b)の含有量は、製パン用組成物の原料全量中40質量%未満である、」に訂正する。

(2)訂正事項2
請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
請求項3の「請求項1又は2」との記載を、「請求項1」に訂正する。

(4)訂正事項4
請求項4の「請求項1?3のいずれかに」との記載を、「請求項1又は3に」に訂正する。

(5)訂正事項5
請求項5の「請求項1?3のいずれかに」との記載を、「請求項1又は3に」に訂正する。

2.訂正の適否
(1)一群の請求項ごとに訂正を請求することについて
訂正前の請求項1?5について、請求項2?5は、請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1?5に対応する、訂正後の請求項1?5は、特許法施行規則第45条の4に規定する関係を有する一群の請求項であって、本件訂正の請求は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してされたものである。

(2)訂正事項1
訂正事項1に係る訂正は、請求項1の成分(b)について、その含有量を「製パン用組成物の原料全量中40質量%未満」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
そして、成分(b)の含有量が製パン用組成物の原料全量中40質量%未満であることは、請求項2及び願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の【0019】及び実施例に記載されているから、訂正事項1に係る訂正は、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正である。
また、上記のとおり、訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、カテゴリーを変更するものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(3)訂正事項2
訂正事項2に係る訂正は、請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものであって、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことが明らかである。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(4)訂正事項3
訂正事項3に係る訂正は、訂正事項2により請求項2が削除されたことに伴い、請求項3が引用する請求項を「請求項1又は2」から「請求項1」に減縮する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものであって、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことが明らかである。
したがって、訂正事項3に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(5)訂正事項4
訂正事項4に係る訂正は、訂正事項2により請求項2が削除されたことに伴い、請求項4が引用する請求項を「請求項1?3」から「請求項1又は3」に減縮する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものであって、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことが明らかである。
したがって、訂正事項4に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(6)訂正事項5
訂正事項5に係る訂正は、訂正事項2により請求項2が削除されたことに伴い、請求項5が引用する請求項を「請求項1?3」から「請求項1又は3」に減縮する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものであって、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことが明らかである。
したがって、訂正事項5に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

3.訂正請求について小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明5」といい、本件発明1?5を合わせて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

【請求項1】
以下の成分:
(a)グルテン(還元処理グルテンを除く)、
(b)難消化性澱粉を40質量%以上含む食品用素材、及び
(c)大豆由来食品用素材
を含む製パン用組成物であって、
前記成分(a)?(c)の合計含有量が、前記製パン用組成物の原料全量中80質量%以上であり、
成分(a)と成分(b)及び(c)との配合比(質量比)が(a):(b)+(c)=1:1?1:2.5であり、
前記成分(b)と成分(c)の配合比(質量比)は(b):(c)=1:0.25?1:2.5であり、かつ、
前記成分(b)の含有量は、製パン用組成物の原料全量中40質量%未満である、
製パン用組成物。

【請求項2】(削除)

【請求項3】
請求項1に記載の製パン用組成物と、成分(d)として、前記成分(b)に含まれる難消化性澱粉以外の不溶性食物繊維及び/又は難消化性デキストリンとを含む、製パン用組成物。

【請求項4】
請求項1又は3に記載の製パン用組成物を30質量%以上と、穀粉とを含む、製パン用ミックス粉。

【請求項5】
請求項1又は3に記載の製パン用組成物又は請求項4に記載の製パン用ミックス粉を用いる、パン類の製造方法。

第4 取消理由通知書に記載した取消理由について
1.取消理由の概要
当審が令和2年7月27日付けの取消理由通知書により通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

本件特許の請求項1、3及び5に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものである。

そして、引用文献として特開2013-226087号公報(甲第1号証)が挙げられている。

2.当審の判断
上記1.のとおり、取消理由の対象である請求項は、請求項1、3及び5であり、請求項2に係る発明には取消理由が通知されていないところ、上記第2の1.(1)のとおり、本件訂正により、請求項1に請求項2の内容が追加され、本件発明1は、訂正前の請求項2に記載された発明特定事項を含む発明となったから、本件発明1は、取消理由が通知されていない発明となった。
また、上記第2の1.(2)?(5)のとおり、請求項2は、削除され、本件発明3?5は、請求項2の内容が追加された請求項1を直接的又は間接的に引用して限定する物の発明又はそれを用いる製造方法の発明となったから、本件発明1と同様に、取消理由が通知されていない発明となった。
以上のとおり、本件発明2は削除され、本件発明1、3?5は、いずれも、取消理由が通知されていない発明であるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。

第5 取消理由通知で採用しなかった異議申立人が主張する取消理由について
1.取消理由通知で採用しなかった異議申立人が主張する取消理由
取消理由通知で採用しなかった異議申立人が主張する取消理由の概略は、以下のとおりである。
なお、異議申立人は、甲第1号証に基づく新規性進歩性欠如の取消理由を、訂正前の請求項2に係る発明である本件発明に対して主張していない。

(1)新規性進歩性
本件特許の請求項1?5に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された甲第2号証に記載された発明であるか、少なくとも、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するか、同法同条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものである(特許異議申立書第25頁下から7行?第34頁第4行)。

(2)明確性
本件特許の請求項1?5に係る発明は、「成分(a)?(c)の合計含有量が、製パン用組成物の原料全量中80質量%以上」であることが特定されているが、本件明細書を検討しても、「製パン用組成物の原料」に含まれる成分として、成分(a)?(c)以外に何が含まれるのか不明確である。特に、本件明細書【0032】では「副材料」として例示される成分は、【0026】では原料中に含まれていてもよい材料として記載され、実施例では、製パン用組成物に含まれる任意成分として扱われたり、製パン時に混合される副原料として扱われたりと一貫性がなく、技術常識を考慮しても不明確である。
したがって、本件特許の請求項1?5に係る発明の特許請求の範囲の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であり、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願についてされたものである(特許異議申立書第34頁第6行?第35頁第13行)。

(3)サポート要件
本件特許の請求項1?5に係る発明は、製パン用組成物における成分(a)?(c)の配合割合が特定されているから、当該配合割合は、課題を解決するために必要なものであるところ、発明の詳細な説明には、配合割合とその効果について、本件明細書【0024】、【0025】に一応の説明が記載されている。
しかし、成分(b)の「難消化性澱粉を40質量%以上含む食品素材」とは、難消化性澱粉以外はどのような構成でも許容されるから、成分(b)が一定の効果を発揮すると当業者が合理的に推認することは困難である。また、仮に、課題を解決するための成分(b)の寄与がもっぱら難消化性澱粉によるものだとしても、成分(b)中の難消化性澱粉の含有量は40?100質量%の範囲で許容される中、成分(a)?(c)の割合を特定することに技術的な意味があると当業者が推認することはできない。
同様に、成分(c)の「大豆由来食品用素材」は、大豆由来であるという以上に何ら制約を受けないから、成分(c)が一定の効果を発揮すると当業者が合理的に推認することはできず、また、成分(a)?(c)の割合を特定することに技術的な意味があると当業者が推認することもできない。
そして、実施例でも、成分(b)、(c)としては、特定の市販材料が使用されたにとどまり、成分(b)、(c)について課題を解決することができると当業者は理解できない。
また、成分(d)と課題を解決することとの関連も見出せない。
したがって、本件特許の請求項1?5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明でなく、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願についてされたものである(特許異議申立書第35頁第14行?第40頁第17行)。

2.判断
(1)新規性進歩性
ア 証拠及び証拠の記載事項

甲第2号証:特表2007-520205号公報(平成18年7月26日提 出の誤訳訂正書により訂正された特許請求の範囲と明細書全文)
甲第2の2号証:特表2007-520205号公報について平成23年2 月17日に発行された特許法第17条の2の規定による補正の掲載
甲第3号証:特開2015-80442号公報
甲第4号証:特開2011-211929号公報
甲第5号証:「小麦粉?その原料と加工品?」、平成19年2月28日改訂 第4版発行、日本麦類研究会、第258頁
甲第6号証:特開平11-127765号公報
甲第7号証:Bakers Production Manual (a special issue of Baking & Sn ack),May 2004, Sosland Publishing Co.

(ア)甲第2号証及び甲第2の2号証(以下、あわせて「甲2」という。)の記載事項
甲2には、以下の事項が記載されている。

(2a)「【0002】
(発明の背景)
(発明の分野)
本発明は、一般的に、類似のより伝統的なベーカリー製品およびドウ(dough)と比較して高蛋白質および低炭水化物の含有物を有する、改善されたベーカリー生成物(特に小麦含有ベーカリー製品およびドウ)に関する。本発明による生成物は、第1の蛋白質原料を、第2の蛋白質性成分および場合によりある量のレジスタントスターチと共に含む。」(【0002】)

(2b)「【0003】
(先行技術の説明)
高蛋白質食餌の人気上昇は、食品、特に典型的には多大な量の炭水化物を含有するベーカリー生成物のための高蛋白質、そして結果的に低炭水化物の代替物に対する需要を増大させた。生成物の組成中の粉を蛋白質源で置き換えることによりこれらの生成物中の炭水化物の濃度を低減するために、多くの試みがなされてきた。この方法は高蛋白質、低炭水化物生成物を提供するという課題を解決したが、一般的には、得られる生成物は伝統的なベーカリー生成物の取り扱い特性、塊の容積(loaf volume)、粒状穀物感、テクスチャーまたは香味を有していない。
【0004】
例えば、活性小麦グルテンをパンのドウの製造において大量に使用すれば、ドウは過度に強固で固く(bucky)なり、混合、分割、シート化および成型の間に取り扱いが困難になる。さらにまた、ダイズ蛋白質のような蛋白質が高濃度であることは香味に悪影響を及ぼし、許容できない嵩および粒状穀物感特性を与える場合がある。」(【0003】?【0004】)

(2c)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、伝統的なベーカリー生成物に近似した高蛋白質、低炭水化物のベーカリー生成物が当該分野で真に望まれている。ベーカリー生成物は伝統的なベーカリー生成物と同様のドウの取り扱い、機械処理容易性、塊の容積、粒状穀物感および香味の特性を示さなければならない。」(【0005】)

(2d)「【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記問題点を克服し、伝統的なベーカリー生成物と同様のドウの取り扱い特性、塊の容積、粒状穀物感および香味の特性を示す高蛋白質、低炭水化物のベーカリー生成物を提供する。本明細書においては、「高蛋白質、低炭水化物ベーカリー生成物」という用語は、より伝統的な型の生成物と比較してより高い蛋白質量および低減された炭水化物量を含有する組成物を指す。「ベーカリー生成物」という用語は例えば膨化または未膨化の伝統的な粉ベースの生成物、例えば焼白パン(white pan bread)または全粒小麦パン(例えばスポンジおよびドウパン(dough bread))、ケーキ、プレッツェル、マフィン、ドーナッツ、ブラウニー、クッキー、パンケーキ、ビスケット、ロール、クラッカー、パイクラスト、ピザクラスト、ハンバーガーバンズ(bun)、ピタパンおよびトルティヤを包含するが、これらに限定されない。
【0007】
ある量の粉(特に小麦粉)を含むことのほかに、本発明の好ましいベーカリー生成物(ドウを含む)は蛋白質少なくとも約70重量%を含む第1の蛋白質性成分約1?150ベーカーズパーセント(baker’s percent)(好ましくは約5?60ベーカーズパーセント)および下記:
小麦蛋白質単離生成物約0.5?100ベーカーズパーセント;
小麦蛋白質濃縮生成物約0.5?100ベーカーズパーセント;
失活(devitalized)小麦グルテン生成物約0.5?100ベーカーズパーセント;
分画小麦蛋白質生成物約0.5?約20ベーカーズパーセント;
脱アミド化小麦グルテン生成物約0.5?20ベーカーズパーセント;
加水分解小麦蛋白質生成物約0.5?30ベーカーズパーセント;および、
上記成分(a)?(f)の何れかの組み合わせ;
よりなる群から選択される第2の蛋白質性成分(好ましくは第1の成分とは異なるもの)を含む。」(【0006】?【0007】)

(2e)「【0008】
本明細書においては、「ベーカーズパーセント」という用語は生成物中に存在する粉の重量を100%としたときに粉を基にした重量パーセントを意味する。」(【0008】)

(2f)「活性小麦グルテンは少なくとも約82重量%(Nx6.25、乾燥ベース)の蛋白質含有量を有する小麦蛋白質濃縮物の1つの型である。活性小麦グルテンはフラッシュ乾燥法で製造される粘弾性蛋白質である。」(【0011】)

(2g)「【0016】
好ましくは、本発明の高蛋白質ベーカリー生成物は第1の蛋白質性成分約1?150ベーカーズパーセント、より好ましくは5?60ベーカーズパーセントを含む。好ましい第1の蛋白質性成分は蛋白質少なくとも約70重量%、より好ましくは蛋白質少なくとも約82重量%を含む(6.25xN、乾燥ベース)。例示される好ましい第1の蛋白質性成分は活性小麦グルテン、ダイズ蛋白質濃縮物、ダイズ蛋白質単離物、ホエイ蛋白質、カゼイン酸ナトリウム、無脂肪の乾燥乳、乾燥卵白、小麦蛋白質単離物、小麦蛋白質濃縮物、脱活性小麦グルテン、分画小麦蛋白質、脱アミド化小麦グルテン、加水分解小麦蛋白質およびこれらの混合物を包含する。」(【0016】)

(2h)「【0030】
本発明による好ましい生成物は、レジスタントスターチ約5?120ベーカーズパーセント、より好ましくは約20?90ベーカーズパーセントを含む。」(【0030】)

(2i)「(実施例30)
低炭水化物全粒小麦パン
本実施例は低炭水化物全粒パンの調製に関係した。特に成分はレジスタントスターチ生成物と小麦蛋白質単離生成物を含んだ。成分の全リストは以下の通り。
【0141】
【表30】

^(1)MGP Ingredientsより入手可能。FiberStar70は米国特許5,855,946に従って小麦澱粉から生成される。(例えば)これら2つの特許に従って、ジャガイモ、トウモロコシ、タピオカ、米、サゴ、サツマイモ、ヤエナリ(Mungbean)、オート麦、大麦、ライ麦、ライコムギ、サトウモロコシ、バナナならびに他の植物性原料のいずれか(ロウ質、部分的ロウ質、および高アミロース変異体を含む(「ロウ質」とは少なくとも95重量%のアミロペクチンおよび少なくとも約40重量%のアミロースの高アミロースを含有することを意図する))から作られたレジスタントスターチと同様に、米国特許6,299,907に従って小麦澱粉より作られた他のレジスタントスターチを使用してよい。これらの澱粉を化学的、物理的もしくは遺伝子的に改変した形態もまた使用できる。改変技術としては、1)21CFR172.892に従った、化学物質および/または酵素で処理;2)退化(再結晶)、熱水分処理、部分的ゲル化、徐冷およびローストのような物理的結合;3)交雑、転位、転座および形質転換のような遺伝子工学または染色体工学を含む遺伝的改変;および4)上記の組み合わせを含有する。
^(2)MGP Ingredientsより入手可能。
【0142】
本混合物の比率および成分は変更してよい。例えば、レジデントスターチ生成物のベーカーズパーセントは好ましくは約50?約90、より好ましくは約60?約80の範囲である。別の実施例については、小麦蛋白質単離生成物のベーカーズパーセントは好ましくは約20?約60の範囲である。
【0143】
パンをベーキングするための従来製造法により、このパンを作製した。以下の一般的な製造法は以下の通り。
1.低速で1分間混合、次に高速で5分間混合
2.ドウ温度、76°F、パンドウスケーリングファクター:2.00
3.1時間発酵、112/108°F
4.410°Fで24分間ベーキング」(【0140】?【0143】)

(イ)甲第3号証(以下、「甲3」という。)の記載事項
甲3には、以下の事項が記載されている。

(3a)「【0025】
本発明に用いる小麦蛋白は、小麦粉より抽出した蛋白画分の製剤である。また、本発明においては、本発明のパン用穀粉組成物の一成分である、上述の小麦粉に含まれる蛋白質は、本発明で規定する小麦蛋白ではない。本発明の小麦蛋白は、小麦粉として配合されるものではなく、小麦粉より抽出した蛋白画分の製剤として配合されるものである。
本発明に用いる小麦蛋白は、蛋白質の含有量が60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、75質量%以上であることがさらに好ましい。
本発明に用いる小麦蛋白中、小麦蛋白質以外の残部は、糖質、灰分、水分等で構成される。
本発明に用いる小麦蛋白としては、市販品を用いることができる。例えば、グリコ栄養食品社製のA-グルシリーズ(A-グルWP、A-グルG、A-グルK等)やファイングルVP、理研ビタミン社製のエマソフトシリーズ(エマソフトEX-100、エマソフトEX-95、エマソフトA-2000、エマソフトVE等)が挙げられる。」(【0025】)

(3b)「活性グルテン2:
A-グルG、グリコ栄養食品社製(粗蛋白質含有率 75質量%)」(【0095】)

(ウ)甲第4号証(以下、「甲4」という。)の記載事項
甲4には、以下の事項が記載されている。

(4a)「【0019】
本発明の食品組成物を製造するのに用いるグルテンとしては、例えば市販のグルテン粉等を利用できる。例えば、グルテン含量が50質量%以上、好ましくは55質量%以上、より好ましくは60質量%以上の市販品を使用できる。具体的な市販品としては、例えば、グリコ栄養食品株式会社製のA-グルK(グルテン含量75%)、A-グルG(グルテン含量75%)、A-グルWP(グルテン含量80%)、ファイングルVP(グルテン含量60%)が挙げられる。」(【0019】)

(エ)甲第5号証(以下、「甲5」という。)の記載事項
甲5には、以下の事項が記載されている。

(5a)「小麦粒のたん白質は水、アルコール、塩水等への溶解性から5種ほどに分類されるが、このうち最も重要なものは胚乳中にあるグルテン(gluten)を形成するたん白質で、これが全たん白質の85%程度を占める。」(第258頁下から4行?下から2行)

(オ)甲第6号証(以下、「甲6」という。)の記載事項
甲6には、以下の事項が記載されている。

(6a)「また、本発明で使用される小麦蛋白は、小麦から得られるグルテン、グリアジン、グルテニン等の蛋白質のことであり、一般に市販されている小麦粉の加工品から得られる蛋白質も充分使用し得る。」(【0014】)

(カ)甲第7号証(以下、「甲7」という。)の記載事項
甲7には、以下の事項が記載されている。

(7a)「CARB-CUTTING IMPROVER(炭水化物低減改良剤)
American Ingredients Co.の新しいドウ改良剤であるCarb Magicは、酵母で膨らませた焼成食品の炭水化物低減に役立ちます。この配合成分は、ドウの耐性、ボリュームの向上、より細やかな内相、収量を増やし、保存期間を延長する吸収の増加と同時に、甘味を提供します。推奨される使用レベルは、小麦粉重量ベースで2%から2.5%です。Web www.AmericanIngredients.com」(第71頁左欄第1段落)

イ 甲2に記載された発明
甲2には、伝統的なベーカリー製品と比較して高蛋白質および低炭水化物の含有物を有する、改善されたベーカリー生成物(特に小麦含有ベーカリー製品)に関し、第1の蛋白質原料を、第2の蛋白質性成分および場合によりある量のレジスタントスターチと共に含むものが記載され(摘記2a)、具体的には、(実施例30)として、低炭水化物全粒小麦パンの調製が記載されている(摘記2i)。
そして、実施例30の低炭水化物全粒小麦パンの調製のための成分は、特にレジスタントスターチ生成物と小麦蛋白質単離生成物を含むこと、成分の全リストは以下のとおりであることが記載されている(摘記2i)。

そうすると、甲2には、以下の発明が記載されているといえる。(以下、「甲2発明」という。)

(甲2発明)「全粒小麦粉 100.0重量%(粉重量ベース)
活性小麦グルテン 60.0重量%(粉重量ベース)
FiberStar 70 70.0重量%(粉重量ベース)
Arise 5000 36.0重量%(粉重量ベース)
ダイズ繊維 40.0重量%(粉重量ベース)
圧縮イースト 36.7重量%(粉重量ベース)
塩 5.8重量%(粉重量ベース)
植物油 18.4重量%(粉重量ベース)
スクラロース 0.024重量%(粉重量ベース)
プロピオン酸カルシウム 0.8重量%(粉重量ベース)
DATEM 0.8重量%(粉重量ベース)
EMG(エトキシ化モノ-ジグリセリド) 1.1重量%(粉重量ベース)
ナトリウムステロイルラクチレート 0.8重量%(粉重量ベース)
アスコルビン酸 0.046重量%(粉重量ベース)
スクロース 0.8重量%(粉重量ベース)
水(可変) 232.6重量%(粉重量ベース)
を含む低炭水化物全粒小麦パン調製用組成物」

ウ 本件発明1と甲2発明の対比
甲2発明の「低炭水化物全粒小麦パン調製用組成物」は、本件発明1の「製パン用組成物」に相当し、甲2発明の「活性小麦グルテン」は、甲2に、「フラッシュ乾燥法で製造される粘弾性蛋白質である」と記載されているように(摘記2f)、還元処理されたグルテンではないから、本件発明1の「(a)グルテン(還元処理グルテンを除く)」に相当する。
そして、甲2発明の「FiberStar 70」は、レジスタントスターチであるところ(摘記2i、表30脚注1)、本件明細書【0016】には、難消化性澱粉は、レジスタントスターチとも呼ばれると記載されているから、甲2発明の「FiberStar 70」は、本件発明1の「(b)難消化性澱粉を40質量%以上含む食品用素材」に相当する。
さらに、甲2発明の「ダイズ繊維」は、本件発明1の「(c)大豆由来食品用素材」に相当する。
また、甲2発明は、成分(a)(活性小麦グルテン)を60.0重量%、成分(b)(FiberStar 70)を70.0重量%、成分(c)(ダイズ繊維)を40.0重量%含むから、これらの配合比(質量比)である(a):(b)+(c)は、60.0:(70.0+40.0)=1:1.83であり、(b):(c)は、70.0:40.0=1:0.57である。
そうすると、甲2発明は、本件発明1の「成分(a)と成分(b)及び(c)との配合比(質量比)が(a):(b)+(c)=1:1?1:2.5であり、前記成分(b)と成分(c)の配合比(質量比)は(b):(c)=1:0.25?1:2.5」を満たす。
以上によれば、本件発明1と甲2発明は、
「以下の成分:
(a)グルテン(還元処理グルテンを除く)、
(b)難消化性澱粉を40質量%以上含む食品用素材、及び
(c)大豆由来食品用素材
を含む製パン用組成物であって、
成分(a)と成分(b)及び(c)との配合比(質量比)が(a):(b)+(c)=1:1?1:2.5であり、
前記成分(b)と成分(c)の配合比(質量比)は(b):(c)=1:0.25?1:2.5である、
製パン用組成物。」
の点で一致し、以下の点で相違する(以下、「相違点1」、「相違点2」という。)。

(相違点1)
本件発明1は、「前記成分(a)?(c)の合計含有量が、前記製パン用組成物の原料全量中80質量%以上」であるのに対し、甲2発明は、「前記成分(a)?(c)の合計含有量が、前記製パン用組成物の原料全量中80質量%以上」であるか不明な点

(相違点2)
本件発明1は、「前記成分(b)の含有量は、製パン用組成物の原料全量中40質量%未満」であるのに対し、甲2発明は、「前記成分(b)の含有量は、製パン用組成物の原料全量中40質量%未満」であるか不明な点

エ 相違点1の判断(新規性)
甲2発明は、組成物全体の重量が、全粒小麦粉を100.0とした粉重量ベースで、100.0+60.0+70.0+36.0+40.0+36.7+5.8+18.4+0.024+0.8+0.8+1.1+0.8+0.046+0.8+232.6=603.87であり、そのうち、活性小麦グルテン(成分(a)に相当)が60.0、FiberStar 70(成分(b)に相当)が70.0、ダイズ繊維(成分(c)に相当)が40.0含まれるから、成分(a)?(c)の合計含有量は、60.0+70.0+40.0=170.0となる。
そうすると、組成物の原料全量中の成分(a)?(c)の合計含有量は、170.0/603.87×100=28.15重量%であり、80質量%以上ではないといえる。
したがって、甲2発明は、「前記成分(a)?(c)の合計含有量が、前記製パン用組成物の原料全量中80質量%以上」ではなく、相違点1は、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲2発明ではなく、甲2に記載された発明とはいえない。

オ 相違点1の判断(進歩性)
甲2には、上記イで述べたように、伝統的なベーカリー製品と比較して高蛋白質および低炭水化物の含有物を有する、改善されたベーカリー生成物(特に小麦含有ベーカリー製品)に関し、第1の蛋白質原料を、第2の蛋白質性成分および場合によりレジスタントスターチと共に含むものが記載され(摘記2a)、その具体例として甲2発明が記載されている(摘記2i)。
甲2には、従来から、炭水化物の濃度を低減するために、粉を蛋白質源で置き換える試みがされてきたが、活性小麦グルテンやダイズ蛋白質を大量に使用すると、取り扱い特性、容積、粒状穀物感、テクスチャー、香味などに問題があったために(摘記2b)、高蛋白質、低炭水化物のベーカリー生成物であって、伝統的なベーカリー生成物と同様の取り扱い特性、容積、粒状穀物感、テクスチャー、香味などの特性を示すベーカリー生成物の提供を課題とし(摘記2c)、課題を解決するための手段として、ある量の粉(特に小麦粉)を含むことのほかに、第1の蛋白質性成分と第2の蛋白質性成分を含むものが記載されている(摘記2d)。
そして、第1の蛋白質性成分の例示として、活性小麦グルテン(成分(a)に相当)、ダイズ蛋白質濃縮物(成分(c)に相当)、ダイズ蛋白質単離物(成分(c)に相当)などが記載され(摘記2g)、好ましくは、レジスタントスターチ(成分(b)に相当)を含むことが記載されている(摘記2h)。
そうすると、甲2発明は、小麦粉などの炭水化物を低減した組成物の提供を課題としていても、課題を解決するためには、ある量の小麦粉などの炭水化物を含むことが前提であり、小麦粉の他に、成分(a)や(c)などの第1の蛋白質性成分、第2の蛋白質性成分、及び、好ましくは成分(b)を含む組成物が記載されているといえる。
そして、甲2には、甲2発明の組成物は、その比率を変更してもよいことが記載されているところ(摘記2i)、成分(a)及び(c)などの第1の蛋白質性成分の含有量は、約1?150ベーカーズパーセントであり(摘記2d、2g)、成分(b)の含有量は約5?120ベーカーズパーセントであるから(摘記2h)、成分(a)?(c)の合計含有量は、最大でも150+120=270ベーカーズパーセントであるといえる。ここで、上記「ベーカーズパーセント」とは、粉の重量を100%としたときに粉を基にした重量%を意味するから(摘記2e)、成分(a)?(c)の合計含有量は、粉100重量%に対して、最大でも270重量%であり、粉100重量%を含む組成物中の成分(a)?(c)の合計含有量は、最大でも270/(100+270)=73重量%であって、粉と成分(a)?(c)の他に、第2の蛋白質性成分も必須の成分として含まれることを考慮すれば、組成物全量中の(a)?(c)の合計含有量は73重量%をさらに下回り、80質量%以上とすることは、当業者が容易に行うことではないといえる。
そうすると、甲2発明において、「前記成分(a)?(c)の合計含有量が、前記製パン用組成物の原料全量中80質量%以上」とすることは、当業者が容易に行うことということはできない。
したがって、相違点1は、当業者が容易に想到することができたものではなく、その他に、甲3?7の記載(摘記3a?7a)を検討しても、相違点1を、当業者が容易に想到することができたものといえる理由は見当たらない。

一方、本件明細書には、本件発明1は、成分(a)?(c)の合計含有量を組成物の原料全量中、80質量%以上とすることにより、十分に糖質含有量の低いパンを提供できることが記載され(【0023】)、上記合計含有量が75%では、生地形成、食味・食感でやや劣るのに対し(【0048】)、80質量%以上であると、生地形成、生地の扱いやすさも食味・食感もよく総合評価で満足できることが記載されており(【0045】)、これらの効果は、甲2?7の記載からは予測し得ないような優れたものといえる。

したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明及び甲2?7に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

カ 異議申立人の主張
異議申立人は、以下の(ア)?(ウ)の点を挙げて、本件発明1は、甲2に記載された発明であり、また、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであると主張している。

(ア)甲2発明(実施例30の表30)の原料全量は、成分(a)?(c)の合計170.0重量%にArise^( )5000の36.0重量%を含めた206.0重量%であるから、原料全量中の(a)?(c)の合計含有量は、170.0/206.0×100=82.52重量%であり、したがって、本件発明1は甲2発明である(特許異議申立書第19頁第9?14行)。
(イ)甲2には、小麦粉とは別に、成分(a)?(c)を含む原料を「製パン用組成物」としてあらかじめ混合した組成物を製造することは記載されていないが、主原料のうちの小麦粉以外の成分(a)?(c)をあらかじめ混合して用いるか、小麦粉も含めて全原料を混合して用いるかは当業者が必要に応じて適宜選択する単なる設計事項であり、それにより予想外の効果を奏するわけでもないから、本件発明1は、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書第30頁第15?26行)。
(ウ)甲2に実施の態様として記載された実施例31、74、71、72も、実施例30と同様に本件発明1と同一である(特許異議申立書第19頁第15行?第23頁の上の表、第30頁第8?14行)。

以下、上記主張を検討する。
上記(ア)の主張について、上記オで述べたように、甲2には、課題を解決するためには、ある量の小麦粉などの炭水化物を含むことを前提として、小麦粉の他に、成分(a)や(c)などの第1の蛋白質性成分、第2の蛋白質性成分、及び、好ましくは成分(b)を含む組成物が記載されているから、組成物の原料全量には、当然、小麦粉の量も含まれるというべきである。
したがって、甲2発明(実施例30の表30)の原料全量が、小麦粉を含まない量である、成分(a)?(c)の合計170.0重量%に、Arise^( )5000の36.0重量%を含めた206.0重量%であるということはできず、上記主張(ア)は、採用することができない。

また、上記(イ)の主張について、甲2には、小麦粉とは別にして、成分(a)?(c)を含む原料を「製パン用組成物」としてあらかじめ混合した組成物は記載されておらず、そのような発明を認定することはできないし、甲2発明の組成物全体の中から特に、小麦粉以外の成分を取り出した組成物とする動機付けも見出せない。そして、本件発明1は、成分(a)?(c)の合計含有量が、組成物の原料全量中80質量%以上であることにより、優れた効果を奏するものであることは、上記オのとおりである。
したがって、上記主張(イ)は、採用することができない。

そして、上記(ウ)の主張について、甲2に実施の態様として記載された実施例31、74、71、72も、実施例30と同様に、成分(a)?(c)に相当する成分の合計含有量が、組成物の原料全量中の80質量%以上ではなく、本件発明1とは、相違点1の点で相違し、相違点1は、当業者が容易に想到することができたものではないことは、上記オのとおりである。
したがって、上記主張(ウ)は、採用することができない。

よって、異議申立人の主張は、いずれも採用することができない。

新規性進歩性の小括
以上のとおり、本件発明1は、甲2に記載された発明ではなく、甲2?7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明1を直接的又は間接的に引用して限定する物の発明又はそれを用いる製造方法の発明である本件発明3?5も、同様に、甲2に記載された発明ではなく、甲2?7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
したがって、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものではなく、この理由により、本件特許を取り消すことはできない。

(2)明確性
異議申立人は、本件発明における「製パン用組成物の原料」に含まれる成分として、成分(a)?(c)以外に何が含まれるのか不明確であると主張するが、本件発明1は、成分(a)?(c)を含む製パン用組成物であって、製パン用組成物の原料全量中の(a)?(c)の含有量や配合比が特定された製パン用組成物の発明であるから、製パン用組成物の原料に含まれる成分としては、成分(a)?(c)以外の成分は任意であると特定されているのであり、何が含まれるのか不明確であるということはない。
また、異議申立人が指摘する本件明細書【0032】、【0026】、実施例の記載について検討しても、上記のとおり、本件発明1において成分(a)?(c)以外の成分は任意であるところ、【0026】には、当該任意の成分として、一般的にパン類に用いられる材料を含んでも良いこととその例示が記載され、【0032】には、本件発明1の製パン用組成物を用いてパン類を製造するにあたり、本開示の効果を妨げない範囲で、一般的にパン類用生地原料に使用されている副材料を適宜含有してもよいこととその例示が記載されている。
そうすると、上記【0026】は、本件発明1の製パン用組成物に含まれていても良い任意成分について記載されており、【0032】は、本件発明1の製パン用組成物とは別に用いても良い副材料について記載されており、これらの記載は明確で、例示されている材料が重複するからといって、一貫性がないということはない。
そして、実施例においても、例えば、表1をみると、実施例1は、成分(a)?(c)の合計((a)+(b)+(c))は90、任意成分合計は10、製パン用組成物は100と記載されているから、任意成分の欄に記載された砂糖、脱脂粉乳、コーンスターチ、イーストフードは、成分(a)?(c)以外に製パン用組成物に含まれる任意成分であり、上記【0026】に例示された成分の具体例であることが明らかである。また、表1の実施例1の列において、100の製パン用組成物の下に記載されているイースト、乳化剤、食塩、全卵、マーガリンは、製パン用組成物とは別に用いる材料であり、上記【0032】に例示された、製パン用組成物とは別に用いても良い副材料の具体例であることが明らかである。
したがって、上記【0026】、【0032】及び実施例の記載を検討しても、一貫性がないということはなく、本件発明1の範囲を不明確にするということもない。本件発明1を引用する本件発明3?5についても同様である。
よって、本件発明の特許請求の範囲の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確ということはなく、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願についてされたものではないから、この理由により、本件特許を取り消すことはできない。

(3)サポート要件
異議申立人は、本件発明における成分(b)の「難消化性澱粉を40質量%以上含む食品素材」は、難消化性澱粉以外はどのような構成でも許容されるから、成分(b)が一定の効果を発揮すると当業者が合理的に推認することは困難であり、同様に、成分(c)の「大豆由来食品用素材」も、大豆由来であるという以上に何ら制約を受けないから、成分(c)が一定の効果を発揮すると当業者が合理的に推認することはできないと主張している。
しかし、本件明細書の【0015】には、成分(b)の難消化性澱粉を含む食品用素材には、馬鈴薯、甘藷、小麦、米、タピオカ、トウモロコシ等由来のものがあり、特に限定されないこと、【0016】には、難消化性澱粉を含む食品素材の、難消化性成分の含有量は40質量%以上であり、コスト面を考慮した場合40質量%以上85質量%以下がさらに好ましいことが記載され、【0053】?【0057】には、実施例14?17として、成分(b)の種類を代えた具体例が記載され、実施例14?17の結果から、成分(b)の由来は限定されず、小麦、タピオカ、トウモロコシのいずれでも良いことがわかったと記載されているから、当業者であれば、成分(b)の由来によらず、難消化性澱粉を40質量%以上含む食品素材であれば、本件発明の解決しようとする課題を解決できると認識できるといえる。
また、成分(c)の大豆由来食品用素材についてみても、本件明細書の【0022】には、全脂大豆粉、脱脂大豆粉、豆乳粉、おから等が挙げられるが、特に限定されないことが記載され、【0058】?【0061】には、成分(c)の大豆由来食品用素材の種類を代えた具体例が記載され、実施例22?27の結果から、大豆由来食品用素材の種類によらず、良好な評価が得られたと記載されているから、その種類によらず、大豆由来食品用素材であれば、本件発明の解決しようとする課題を解決できると認識できるといえる。
さらに、成分(d)の「成分(b)に含まれる難消化性澱粉以外の不溶性食物繊維及び/又は難消化性デキストリン」について、本件明細書の【0028】には、不溶性食物繊維は、腸の蠕動運動の活発化作用や整腸作用等があること、【0029】には、難消化性デキストリンは、食後血糖の上昇抑制作用等があることが記載されているから、本件明細書には、成分(d)を添加することの技術的意義が記載されており、そして、【0053】?【0057】には、実施例19?21として、成分(d)を含む具体例が記載され、実施例19?21の結果から、成分(d)を含有しても良いことが示されたと記載されているから、当業者であれば、成分(d)を含む本件発明3は、課題を解決できると認識できるといえる。
したがって、本件発明は、発明の詳細な説明に、当業者が本件発明の解決しようとする課題を解決することができると認識できるように記載されているといえる。
よって、本件発明が、発明の詳細な説明に記載したものではないということはなく、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願についてされたものではないから、この理由により、本件特許を取り消すことはできない。

3.小括
以上のとおり、取消理由通知で採用しなかった異議申立人が主張する取消理由によっても、本件特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された理由によっては、本件請求項1、3?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に、本件請求項1、3?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件請求項2に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、異議申立人による特許異議の申立てのうち、請求項2に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分:
(a)グルテン(還元処理グルテンを除く)、
(b)難消化性澱粉を40質量%以上含む食品用素材、及び
(c)大豆由来食品用素材
を含む製パン用組成物であって、
前記成分(a)?(c)の合計含有量が、前記製パン用組成物の原料全量中80質量%以上であり、
成分(a)と成分(b)及び(c)との配合比(質量比)が(a):(b)+(c)=1:1?1:2.5であり、
前記成分(b)と成分(c)の配合比(質量比)は(b):(c)=1:0.25?1:2.5であり、かつ
前記成分(b)の含有量は、製パン用組成物の原料全量中40質量%未満である、
製パン用組成物。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
請求項1に記載の製パン用組成物と、成分(d)として、前記成分(b)に含まれる難消化性澱粉以外の不溶性食物繊維及び/又は難消化性デキストリンとを含む、製パン用組成物。
【請求項4】
請求項1又は3に記載の製パン用組成物を30質量%以上と、穀粉とを含む、製パン用ミックス粉。
【請求項5】
請求項1又は3に記載の製パン用組成物又は請求項4に記載の製パン用ミックス粉を用いる、パン類の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-01-22 
出願番号 特願2015-144869(P2015-144869)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (A21D)
P 1 651・ 536- YAA (A21D)
P 1 651・ 537- YAA (A21D)
P 1 651・ 121- YAA (A21D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 太田 雄三  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 井上 千弥子
瀬良 聡機
登録日 2019-08-23 
登録番号 特許第6573496号(P6573496)
権利者 昭和産業株式会社
発明の名称 製パン用組成物、製パン用ミックス粉、パン類の製造方法及びパン類  
代理人 渡邊 薫  
代理人 渡邊 薫  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ