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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08J
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08J
管理番号 1372690
異議申立番号 異議2019-700515  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-05-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-06-26 
確定日 2021-02-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6443998号発明「高吸水性樹脂」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6443998号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?9〕について訂正することを認める。 特許第6443998号の請求項9に係る特許を維持する。 特許第6443998号の請求項1ないし8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 主な手続の経緯等

特許第6443998号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、2014年(平成26年)4月28日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2013年(平成25年)4月30日 2014年(平成26年)4月28日(大韓民国))を国際出願日とする出願であって、平成30年12月7日にその特許権の設定登録(請求項の数9)がされ、特許掲載公報が同年同月26日に発行され、その後、その特許に対し、令和1年6月26日に特許異議申立人 株式会社日本触媒(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされた。
当審において、令和1年9月30日付けで取消理由を通知したところ、同年12月27日に、特許権者から意見書及び訂正請求書が提出され、令和2年2月12日付けで申立人に対して特許法第120条の5第5項の規定に基づく通知をしたところ、同年3月18日に、申立人から意見書の提出がされた。
当審において、令和2年5月29日付けで取消理由<決定の予告>を通知したところ、同年10月2日に特許権者から意見書が提出されると共に訂正請求書が提出された。
さらに、当審において、令和2年11月20日付けで取消理由を通知したところ、同年11月30日に特許権者から意見書が提出されると共に訂正請求書(以下、当該訂正請求書による訂正請求を「本件訂正請求」という。)が提出されたものである。
なお、令和1年12月27日提出の訂正請求書及び令和2年10月2日提出の訂正請求書は取り下げられたものとみなされる。(特許法第120条の5第7項)

第2 訂正の適否についての判断

1 請求の趣旨
本件訂正請求は、「特許第6443998号の特許請求の範囲を、本請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?9について訂正することを求める」ことを請求の趣旨とするものである。

2 訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、訂正箇所を分かりやすく対比するために、当審において訂正箇所に下線を付与した。

(1)訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1ないし8を削除する。

(2)訂正事項2
訂正前の請求項9において、「水溶性エチレン系不飽和単量体、重合開始剤、および内部架橋剤を含む単量体組成物に熱重合または光重合を行って含水ゲル状重合体を形成する段階;
前記含水ゲル状重合体を乾燥する段階;
前記乾燥された重合体を粉砕する段階;および
粉砕された重合体に表面架橋剤を添加して表面架橋反応を遂行する段階を含む
請求項1に記載の高吸水性樹脂を製造する方法であって、」とあるのを、請求項1を引用しない独立形式に改め、「酸性基を含み少なくとも一部が中和された水溶性エチレン系不飽和単量体の架橋重合体を含む粉末形態のベース樹脂を、表面架橋させた架橋重合体を含み、
生理食塩水に対する遠心分離保水能(CRC)が28g/g以上であり、
生理食塩水に対する0.7psiの加圧吸水能(AUP)が22g/g以上であり、
溶液透過度(SFC)が25×10^(-7)cm^(3)*sec/g?50×10^(-7)cm^(3)*sec/gであり、
ゲル強度が7,500乃至10,800Paである高吸水性樹脂の製造方法であって、
水溶性エチレン系不飽和単量体、重合開始剤、および内部架橋剤を含む単量体組成物に熱重合または光重合を行って含水ゲル状重合体を形成する段階;
前記含水ゲル状重合体を乾燥する段階;
前記乾燥された重合体を粉砕する段階;および
粉砕された重合体に表面架橋剤を添加して表面架橋反応を遂行する段階を含み、」へ訂正(以下、「訂正事項2における前段部分の訂正」という。)するとともに、訂正前の請求項9において、「前記表面架橋剤は、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす物質、およびδ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たす物質を2種以上含み、」とあるのを、「前記表面架橋剤は、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種、およびδ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含み、」に訂正(以下、「訂正事項2における後段部分の訂正」という。)する。

(3)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2?9は、訂正請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、訂正前の請求項1?9は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。そして、訂正事項1及び2は、訂正前の一群の請求項1?9に対するものである。
よって、本件訂正請求は、一群の請求項〔1?9〕に対して請求されたものである。

3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1ないし8を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1は、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下、単に「本件特許明細書等」ともいう。)に記載した事項の範囲内のものであるし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2における前段部分の訂正は、訂正前の請求項9が請求項1の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消して、請求項1の記載を引用しない独立形式請求項へ改めるための訂正であるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであり、訂正事項2における後段部分の訂正は、訂正前の請求項9においては、異なるハンセン溶解度パラメータによって定義される2種類の物質の組合せについて何ら限定はなかったが、訂正後には、「前記表面架橋剤は、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種、およびδ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含み、」と訂正することで、その組合せを具体的に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そうすると、請求項9に係る訂正事項2は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、請求項9に係る訂正事項2は、本件特許明細書等の段落【0085】及び【0106】の記載からみて、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)まとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?9〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1?9に係る発明は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、請求項の数字に合わせて、請求項1?9に係る発明を「本件発明1」?「本件発明9」といい、これらを併せて「本件発明」という。)。

「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
酸性基を含み少なくとも一部が中和された水溶性エチレン系不飽和単量体の架橋重合体を含む粉末形態のベース樹脂を、表面架橋させた架橋重合体を含み、
生理食塩水に対する遠心分離保水能(CRC)が28g/g以上であり、
生理食塩水に対する0.7psiの加圧吸水能(AUP)が22g/g以上であり、
溶液透過度(SFC)が25×10^(-7)cm^(3)*sec/g?50×10^(-7)cm^(3)*sec/gであり、
ゲル強度が7,500乃至10,800Paである高吸水性樹脂の製造方法であって、
水溶性エチレン系不飽和単量体、重合開始剤、および内部架橋剤を含む単量体組成物に熱重合または光重合を行って含水ゲル状重合体を形成する段階;
前記含水ゲル状重合体を乾燥する段階;
前記乾燥された重合体を粉砕する段階;および
粉砕された重合体に表面架橋剤を添加して表面架橋反応を遂行する段階を含み、
前記内部架橋剤は、炭素数2乃至20のポリオールのジ(メタ)アクリレート、および炭素数2乃至20のポリオールのポリ(メタ)アクリレートからなる群より選択される1種以上を含み、
前記表面架橋剤は、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種、およびδ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含み、
前記表面架橋反応の段階が、最大反応温度190℃?200℃、総反応時間0.5?1時間で行われ、
前記表面架橋反応の段階が、温度が180℃まで達するまで20?40分、その後180℃以上で25分以上維持して行われる高吸水性樹脂を製造する方法。」

第4 特許異議の申立ての理由及び取消理由の概要
1 特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由
令和1年6月26日に申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)には、下記(1)の証拠方法とともに、概略、次の(2)?(11)の申立理由を主張している。

(1)証拠方法
甲第1号証 :国際公開第2012/102407号
甲第2号証 :国際公開第2005/075070号
甲第3号証 :特開2006-116535号公報
甲第4号証 :特開平11-302391号公報
甲第5号証 :特許第3768235号公報
甲第6号証 :国際公開第2008/120742号
甲第7号証 :国際公開第2009/113679号
甲第8号証 :特開2005-344103号公報
甲第9号証 :特表2009-531158号公報
甲第10号証 :特開2003-105092号公報
甲第11号証 :特開平8-57310号公報
甲第12号証 :特開2000-302876号公報
甲第13号証 :Modern Superabsorbent Polymer Technology (1998) p.58-60、p.171-172
甲第14号証 :国際公開第2012/102407号の実施例4を追試した実験成績証明書
甲第15号証 :国際公開第2005/075070号の実施例9、11を追試した実験成績証明書
甲第16号証 :欧州不織布産業協会(EDANA)規格;WSP241.2
甲第17号証 :欧州不織布産業協会(EDANA)規格;WSP242.2

各甲号証の記載については、特許異議申立書の記載に従った。
甲第1号証から甲第17号証については、それぞれ「甲1」から「甲17」という。

(2)申立理由1-1(特許法第29条第1項第3号:甲1に基づく新規性)
本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、下記の本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証に記載された発明であるから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)申立理由1-2(特許法第29条第1項第3号:甲2に基づく新規性)
本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、下記の本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された甲第2号証に記載された発明であるから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(4)申立理由1-3(特許法第29条第1項第3号:甲3に基づく新規性)
本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、下記の本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された甲第3号証に記載された発明であるから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(5)申立理由1-4(特許法第29条第1項第3号:甲4に基づく新規性)
本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、下記の本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された甲第4号証に記載された発明であるから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(6)申立理由1-5(特許法第29条第1項第3号:甲6ないし10に基づく新規性)
本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、下記の本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された甲第6ないし10号証の何れかに記載された発明であるから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(7)申立理由2-1(特許法第29条第2項:甲5に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、下記の本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された甲第5号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(8)申立理由2-2(特許法第29条第2項:甲1ないし4及び甲6ないし10、それぞれに基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、下記の本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1ないし4及び6ないし10号証に記載されたいずれかの発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(9)申立理由3(特許法第36条第6項第2号:明確性)
請求項1の「ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす物質、およびδ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たす物質を含む2種以上の混合液」の記載は明確でなく、また、請求項9の「ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす物質、およびδ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たす物質を2種以上含み」の記載も明確でない。
また、請求項1を引用する請求項3における「水溶性エチレン系不飽和単量体」、請求項4の「トリメチロールトリアクリレート」が明確でなく、さらに、併用する表面架橋剤の使用量及び比率の特定が欠如する本件発明1及び9は明確でないから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(10)申立理由4(特許法第36条第6項第1号:サポート要件)
本件発明1及び9において表面架橋剤の種類及び量、表面架橋剤の使用量およびその比率、表面処理溶液について特定されておらず、本件発明1及び9が発明の詳細な説明に記載されていることの根拠となる実施例の欄に記載された実験結果から拡張ないし一般化できるとはいえず、サポート要件を充足しないから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件発明9の「温度が180℃までに達する時間20?40分」であることは、発明の詳細な説明の実施例では該当しておらず、サポート要件を充足しないから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(11)申立理由5(特許法第36条第4項第1号:実施可能要件)
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載には、請求項1及び9のハンセン溶解度パラメータによって定義される特定の表面架橋剤について、1,3-プロパンジオールとプロピレングリコールとの組み合わせを利用したものしか記載されておらず、実施例以外の表面架橋剤の組み合わせの場合に同様の効果が奏されるとはいえないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確且つ十分に記載されておらず、実施可能要件を充足しないから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

2 取消理由
当審合議体が令和2年11月20日付けで通知した取消理由は、概略、以下のとおりである。

「取消理由(甲2に基づく新規性進歩性)
本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である下記の甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか又は本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、該発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
甲2:国際公開第2005/075070号」

第5 当審合議体の判断

1 取消理由について
本件訂正により、上記取消理由の対象となる請求項が削除されたので、上記取消理由には理由がない。

2 上記取消理由において採用しなかった申立理由について
上記取消理由が甲2に基づく取消理由であったことから、まず、甲2に関する申立理由から検討する。
(1)申立理由1-2及び申立理由2-2の一部(甲2に基づく新規性及び進歩性)について
ア 甲2の記載事項及び甲2に記載された発明
(ア)甲2には、以下の記載がある。
「[0312] [合成例1:吸水性樹脂の合成]
48.5重量%苛性ソーダ水溶液を4.95g/秒、アクリル酸を6.12g/秒、30重量%ポリエチレングリコールジアクリレート(数平均分子量523)水溶液(I)を0.0672g/秒、20重量%アクリル酸水溶液97.9重量部に2-ヒドロキシメチル-2-メチルプロピオフェノンを0.989重量部、ジエチレントリアミン5酢酸3ナトリウムを1.08重量部溶解した溶液 (II)を0.0758g/秒、水を5.23g/秒の流量になるよう設定して、連続的にミキサーに供給し混合をおこなった。このときの単量体水溶液温度は95℃であった。さらに3重量%過硫酸ナトリウム水溶液を0.223g/秒の流量で加えたのち、約100℃に保温された1.7m/分の速度で走行する有効長(モノマー供給口からベルト末端までの距離)3.2mのエンドレスベルト上に4.9mmの厚さになるよう連続的に供給した。ベルト上に供給された単量体水溶液は速やかに重合し、水蒸気を発しながら膨張し、重合開始から約1分後に収縮した。収縮した含水重合体をベルト末端で回収し、ミートチョッパーに導き、連続的に細断した。細断した含水重合体を180℃に調温した熱風乾燥機で40分間乾燥した後、ロールミルで粉砕した。次いで粉砕物を目開き850μmのJIS標準篩と目開き150μmのJIS標準篩で分級し、850μmを通過し150μmを通過しない吸水性樹脂(ベースポリマー)を得た。
[0313] [実施例9]
上記合成例1で得た吸水性樹脂の粉体100重量部に、1,4-ブタンジオール0.34重量部、プロピレングリコール0.56重量部、水3.0重量部、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート (花王 (株)社製)0.0010重量部の混合液からなる表面処理剤を混合した。その後、混合物を210℃で30分間加熱処理することにより、表面が架橋された粒子状吸水剤(10)を得た。粒子状吸水剤の物性を表3に示す。」

「[0315] [実施例11]
ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレートの量を0.0020重量部とした以外は、上記実施例9と同様の操作を行い、粒子状吸水剤(12)を得た。粒子状吸水剤の物性を表3に示す。 」

「[0320] [表3]



(イ)甲2には、段落[0312]、[0315]、[0320]の表3の記載からみて、甲2の実施例9及び11として記載されている粒子状吸水剤を製造する方法として、以下の発明(以下、「甲2実施例9製法発明」、「甲2実施例11製法発明」という。)が認定できる。

<甲2実施例9製法発明>
「表面が架橋された粒子状吸水剤を製造する方法であって、48.5重量%苛性ソーダ水溶液を4.95g/秒、アクリル酸を6.12g/秒、30重量%ポリエチレングリコールジアクリレート(数平均分子量523)水溶液(I)を0.0672g/秒、20重量%アクリル酸水溶液97.9重量部に2-ヒドロキシメチル-2-メチルプロピオフェノンを0.989重量部、ジエチレントリアミン5酢酸3ナトリウムを1.08重量部溶解した溶液 (II)を0.0758g/秒、水を5.23g/秒の流量になるよう設定して、連続的にミキサーに供給し混合し、このときの単量体水溶液温度は95℃であり、さらに3重量%過硫酸ナトリウム水溶液を0.223g/秒の流量で加えたのち、約100℃に保温された1.7m/分の速度で走行する有効長(モノマー供給口からベルト末端までの距離)3.2mのエンドレスベルト上に4.9mmの厚さになるよう連続的に供給し、ベルト上に供給された単量体水溶液は速やかに重合し、水蒸気を発しながら膨張し、重合開始から約1分後に収縮し、収縮した含水重合体をベルト末端で回収し、ミートチョッパーに導き、連続的に細断し、細断した含水重合体を180℃に調温した熱風乾燥機で40分間乾燥した後、ロールミルで粉砕し、次いで粉砕物を目開き850μmのJIS標準篩と目開き150μmのJIS標準篩で分級し、850μmを通過し150μmを通過しない吸水性樹脂(ベースポリマー)を得た吸水性樹脂の粉体100重量部に、1,4-ブタンジオール0.34重量部、プロピレングリコール0.56重量部、水3.0重量部、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート (花王 (株)社製)0.0010重量部の混合液からなる表面処理剤を混合し、その後、混合物を210℃で30分間加熱処理することにより得られた、CRC1が30(g/g)、AAP2が26(g/g)、SFCが43×10^(-7)(cm^(3)*s*g^(-1))である、表面が架橋された粒子状吸水剤(10)の製造方法。」

<甲2実施例11製法発明>
「表面が架橋された粒子状吸水剤を製造する方法であって、48.5重量%苛性ソーダ水溶液を4.95g/秒、アクリル酸を6.12g/秒、30重量%ポリエチレングリコールジアクリレート(数平均分子量523)水溶液(I)を0.0672g/秒、20重量%アクリル酸水溶液97.9重量部に2-ヒドロキシメチル-2-メチルプロピオフェノンを0.989重量部、ジエチレントリアミン5酢酸3ナトリウムを1.08重量部溶解した溶液 (II)を0.0758g/秒、水を5.23g/秒の流量になるよう設定して、連続的にミキサーに供給し混合し、このときの単量体水溶液温度は95℃であり、さらに3重量%過硫酸ナトリウム水溶液を0.223g/秒の流量で加えたのち、約100℃に保温された1.7m/分の速度で走行する有効長(モノマー供給口からベルト末端までの距離)3.2mのエンドレスベルト上に4.9mmの厚さになるよう連続的に供給し、ベルト上に供給された単量体水溶液は速やかに重合し、水蒸気を発しながら膨張し、重合開始から約1分後に収縮し、収縮した含水重合体をベルト末端で回収し、ミートチョッパーに導き、連続的に細断し、細断した含水重合体を180℃に調温した熱風乾燥機で40分間乾燥した後、ロールミルで粉砕し、次いで粉砕物を目開き850μmのJIS標準篩と目開き150μmのJIS標準篩で分級し、850μmを通過し150μmを通過しない吸水性樹脂(ベースポリマー)を得た吸水性樹脂の粉体100重量部に、1,4-ブタンジオール0.34重量部、プロピレングリコール0.56重量部、水3.0重量部、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート (花王 (株)社製)0.0020重量部の混合液からなる表面処理剤を混合し、その後、混合物を210℃で30分間加熱処理することにより得られた、CRC1が31(g/g)、AAP2が25(g/g)、SFCが42×10^(-7)(cm^(3)*s*g^(-1))である、表面が架橋された粒子状吸水剤(12)の製造方法。」

イ 本件発明9と甲2実施例9製法発明との対比
本件発明9と甲2実施例9製法発明と対比する。
甲2実施例9製法発明の「48.5重量%苛性ソーダ水溶液を4.95g/秒、アクリル酸を6.12g/秒、30重量%ポリエチレングリコールジアクリレート(数平均分子量523)水溶液(I)を0.0672g/秒、20重量%アクリル酸水溶液97.9重量部に2-ヒドロキシメチル-2-メチルプロピオフェノンを0.989重量部、ジエチレントリアミン5酢酸3ナトリウムを1.08重量部溶解した溶液 (II)を0.0758g/秒、水を5.23g/秒の流量になるよう設定して、連続的にミキサーに供給し混合し、このときの単量体水溶液温度は95℃であり、さらに3重量%過硫酸ナトリウム水溶液を0.223g/秒の流量で加えたのち、約100℃に保温された1.7m/分の速度で走行する有効長(モノマー供給口からベルト末端までの距離)3.2mのエンドレスベルト上に4.9mmの厚さになるよう連続的に供給し、ベルト上に供給された単量体水溶液は速やかに重合」する工程部分が、本件発明9の「水溶性エチレン系不飽和単量体、重合開始剤、および内部架橋剤を含む単量体組成物に熱重合または光重合を行って含水ゲル状重合体を形成する段階」に相当する。
甲2実施例9製法発明の「含水重合体を180℃に調温した熱風乾燥機で40分間乾燥」する工程部分が、本件発明9の「含水ゲル状重合体を乾燥する段階」に相当する。
甲2実施例9製法発明の乾燥後の含水重合体を「ロールミルで粉砕」する工程部分が、本件発明9の「乾燥された重合体を粉砕する段階」に相当する。
甲2実施例9製法発明の「吸水性樹脂の粉体100重量部に、1,4-ブタンジオール0.34重量部、プロピレングリコール0.56重量部、水3.0重量部、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート (花王 (株)社製)0.0010重量部の混合液からなる表面処理剤を混合し、その後、混合物を210℃で30分間加熱処理する」工程部分が、本件発明9の「粉砕された重合体に表面架橋剤を添加して表面架橋反応を遂行する段階」に相当する。
甲2実施例9製法発明の「ポリエチレングリコールジアクリレート(数平均分子量523)」は内部架橋剤といえるから、甲2実施例9製法発明は、本件発明9の「前記内部架橋剤は、炭素数2乃至20のポリオールのジ(メタ)アクリレート、および炭素数2乃至20のポリオールのポリ(メタ)アクリレートからなる群より選択される1種以上を含み」を満足する。
甲2実施例9製法発明の「1,4-ブタンジオール0.34重量部、プロピレングリコール0.56重量部、水3.0重量部、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート (花王 (株)社製)0.0010重量部の混合液からなる表面処理剤」中の「1,4-ブタンジオール」又は「プロピレングリコール」が、本件発明9における「ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤」といえるが、「水」は「表面架橋剤」とはいえないので、甲2実施例9製法発明と本件発明9とは、前記表面架橋剤は、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす物質のうちの少なくとも1種を含む」限りにおいて、一致している。
甲2実施例9製法発明の「表面が架橋された粒子状吸水剤(10)」は、本件発明9の「高吸水性樹脂」に相当する。
甲2実施例9製法発明の「表面が架橋された粒子状吸水剤(10)」の「CRC1」は、甲2の段落[0227]?[0229]から、本件発明9の「生理食塩水に対する遠心分離保水能(CRC)」と同じものといえるので、甲2実施例9製法発明の「表面が架橋された粒子状吸水剤(10)」は、本件発明9の「生理食塩水に対する遠心分離保水能(CRC)が28g/g以上」を満足する。
甲2実施例9製法発明の「表面が架橋された粒子状吸水剤(10)」の「AAP2」は、甲2の段落[0230]?[0234]の記載から、本件発明9の「生理食塩水に対する0.7psiの加圧吸水能(AUP)」と同じものといえるので、甲2実施例9製法発明の「表面が架橋された粒子状吸水剤(10)」は、本件発明9の「生理食塩水に対する0.7psiの加圧吸水能(AUP)が22g/g以上」を満足する。
甲2実施例9製法発明の「表面が架橋された粒子状吸水剤(10)」のSFCは43×10^(-7)(cm^(3)*s*g^(-1))であるから、本件発明9の「表面が架橋された粒子状吸水剤(10)」は「溶液透過度(SFC)が25×10^(-7)cm^(3)*sec/g?50×10^(-7)cm^(3)*sec/g」を満足している。
そうすると、本件発明9と甲2実施例9製法発明との一致点及び相違点はそれぞれ次のとおりである。

<一致点>
「酸性基を含み少なくとも一部が中和された水溶性エチレン系不飽和単量体の架橋重合体を含む粉末形態のベース樹脂を、表面架橋させた架橋重合体を含み、
生理食塩水に対する遠心分離保水能(CRC)が28g/g以上であり、
生理食塩水に対する0.7psiの加圧吸水能(AUP)が22g/g以上であり、
溶液透過度(SFC)が25×10^(-7)cm^(3)*sec/g?50×10^(-7)cm^(3)*sec/gである高吸水性樹脂の製造方法であって、
水溶性エチレン系不飽和単量体、重合開始剤、および内部架橋剤を含む単量体組成物に熱重合または光重合を行って含水ゲル状重合体を形成する段階;
前記含水ゲル状重合体を乾燥する段階;
前記乾燥された重合体を粉砕する段階;および
粉砕された重合体に表面架橋剤を添加して表面架橋反応を遂行する段階を含み、
前記内部架橋剤は、炭素数2乃至20のポリオールのジ(メタ)アクリレート、および炭素数2乃至20のポリオールのポリ(メタ)アクリレートからなる群より選択される1種以上を含み、
前記表面架橋剤は、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含む、
高吸水性樹脂を製造する方法。」

<相違点2-1>
高吸水性樹脂の特性に関し、本件発明9は、「ゲル強度が7,500乃至10,800Paである」と特定するのに対し、甲2実施例9製法発明は、この点を特定しない点。
<相違点2-2>
ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含む表面架橋剤に関し、本件発明9は、さらに「ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含み」と特定するのに対し、甲2実施例9製法発明は、この点を特定しない点。
<相違点2-3>
表面架橋反応の段階に関し、本件発明9は、「最大反応温度190℃?200℃、総反応時間0.5?1時間で行われ、」「温度が180℃まで達するまで20?40分、その後180℃以上で25分以上維持して行われる」と特定するのに対し、甲2実施例9製法発明は、「210℃で30分間加熱処理することにより得られた」ものである点。

事案に鑑み、相違点2-2から検討する。
甲2実施例9製法発明において表面架橋させている表面処理剤中の表面架橋剤に相当する成分は、「1,4-ブタンジオール」及び「プロピレングリコール」であって、ともに、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤であって、「ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤」は用いられていない。そして、甲2の記載を精査しても、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤を甲2実施例9製法発明の表面処理剤に追加することに関する記載もなく、示唆もされていない。
また、申立人の提出したいずれの証拠をみても、表面架橋剤として、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含む表面架橋剤に加えて「ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含」むものを用いることについて記載ないし示唆されているものはない。
してみれば、甲2実施例9製法発明において、相違点2-2に係る発明特定事項を満たすようにすることは、当業者といえども容易に想到し得たこととはいえない。

上記のとおり、本件発明9と甲2実施例9製法発明との間には上記相違点2-1ないし2-3が存在し、少なくとも相違点2-2は実質的な相違点であるから、本件発明9は、甲2実施例9製法発明ではない。
また、相違点2-1及び2-3について検討するまでもなく、本件発明9は、甲2実施例9製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件発明9と甲2実施例11製法発明との対比
甲2実施例11製法発明は、甲2実施例9製法発明の表面処理剤に配合されているポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレートの配合量を0.0020重量部としたものであって、得られた粒子状吸収剤の物性値が変化したものである。
そこで、本件発明9と甲2実施例11製法発明とを対比すると、上記イでの検討のとおり、上記イの一致点で一致し、上記イの相違点2-1ないし2-3で相違する。そしてその判断も上記イのとおりである。
よって、本件発明9は、甲2実施例11製法発明ではなく、また、甲2実施例11製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

以上のことから、甲2に基づく申立理由1-2及び2-2の一部には理由がない。

(2)申立理由1-1及び申立理由2-2の一部(甲1に基づく新規性進歩性)について
ア 甲1に記載された発明
甲1には、その実施例4として記載されている吸水性樹脂粉末の製造方法として、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

<甲1発明>
「中和率73モル%のアクリル酸部分中和ナトリウム塩水溶液、重合開始剤(過硫酸ナトリウム0.12g/L-アスコルビン酸0.005g(対単量体1モル))、及び内部架橋剤を含む単量体水溶液(a)に、30分間静置水溶液重合を行って含水ゲル状架橋重合体(a)を形成する重合工程;上記含水ゲル状架橋重合体(a)を乾燥する乾燥工程;上記操作で得られた吸水性樹脂乾燥物を粉砕する粉砕工程;及び、粉砕された吸水性樹脂粒子(b)に表面架橋剤溶液(4)を添加して表面架橋を行う表面架橋工程;を含む吸水性樹脂粉末(4)の製造方法であって、前記内部架橋剤がポリエチレングリコールジアクリレート(平均n数9)を含み、前記表面架橋剤が溶融エチレンカーボネート及びプロピレングリコールを含み、前記表面架橋工程が201℃にて40分間行われたものであり、
得られた吸水性樹脂粉末(4)のCRCが30.2g/g、AAPが23.8g/g、SFCが45[×10^(-7)cm^(3)×sec/g]である、
吸水性樹脂粉末(4)の製造方法。」

イ 本件発明9と甲1発明と対比・判断
本件発明9と甲1発明とを対比すると、本件発明9と甲1発明との一致点及び相違点はそれぞれ次のとおりである。

<一致点>
「酸性基を含み少なくとも一部が中和された水溶性エチレン系不飽和単量体の架橋重合体を含む粉末形態のベース樹脂を、表面架橋させた架橋重合体を含み、
生理食塩水に対する遠心分離保水能(CRC)が28g/g以上であり、
生理食塩水に対する0.7psiの加圧吸水能(AUP)が22g/g以上であり、
溶液透過度(SFC)が25×10^(-7)cm^(3)*sec/g?50×10^(-7)cm^(3)*sec/gである高吸水性樹脂の製造方法であって、
水溶性エチレン系不飽和単量体、重合開始剤、および内部架橋剤を含む単量体組成物に熱重合または光重合を行って含水ゲル状重合体を形成する段階;
前記含水ゲル状重合体を乾燥する段階;
前記乾燥された重合体を粉砕する段階;および粉砕された重合体に表面架橋剤を添加して表面架橋反応を遂行する段階を含む高吸水性樹脂を製造する方法であって、
前記内部架橋剤は、炭素数2乃至20のポリオールのジ(メタ)アクリレート、および炭素数2乃至20のポリオールのポリ(メタ)アクリレートからなる群より選択される1種以上を含み、
前記表面架橋剤は、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含む、
高吸水性樹脂を製造する方法。」

<相違点1-1>
高吸水性樹脂の特性に関し、本件発明9は、「ゲル強度が7,500乃至10,800Paである」と特定するのに対し、甲1発明は、この点を特定しない点。
<相違点1-2>
ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含む表面架橋剤に関し、本件発明9は、さらに「ハンセン溶解度パラメータによって定義される」「δ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含み」と特定するのに対し、甲1発明は、この点を特定しない点。
<相違点1-3>
表面架橋反応の段階に関し、本件発明9は、「最大反応温度190℃?200℃、総反応時間0.5?1時間で行われ、」「温度が180℃まで達するまで20?40分、その後180℃以上で25分以上維持して行われる」と特定するのに対し、甲1発明は、「201℃で40分間加熱処理することにより得られた」ものである点。

事案に鑑み、相違点1-2から検討する。
甲1の記載を精査しても、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤を甲1発明の表面架橋剤溶液に追加することに関する記載もなく、示唆もされていない。
また、申立人の提出したいずれの証拠をみても、表面架橋剤として、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含む表面架橋剤に加えて「ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含」むものを用いることについて記載ないし示唆されているものはない。
してみれば、甲1発明において、相違点1-2に係る発明特定事項を満たすようにすることは、当業者といえども容易に想到し得たこととはいえない。

上記のとおり、本件発明9と甲1発明との間には上記相違点1-1ないし1-3が存在し、少なくとも相違点1-2は実質的な相違点であるから、本件発明9は、甲1発明ではない。
また、相違点1-1及び1-3について検討するまでもなく、本件発明9は、甲1に記載の発明から容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、甲1に基づく申立理由1-1及び申立理由2-2の一部には、理由がない。

(3)申立理由1-3及び申立理由2-2の一部(甲3に基づく新規性進歩性)について
ア 甲3に記載された発明
甲3には、その実施例3として、参考例3で製造された吸水性樹脂を表面架橋させた粒子状吸水剤の製造方法として、以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認める。

<甲3発明>
「アクリル酸、アクリル酸ナトリウム水溶液、および脱イオン水を混合して得られた75モル%の中和率を有するアクリル酸ナトリウムの水溶液5500g(単量体濃度38質量%)に、ポリエチレングリコールジアクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数9)7.5gを溶解し反応液とし、この反応液を脱気したのち、反応器に、上記反応液を供給し、反応液を30℃に保ちながら系を窒素ガス置換し、反応液を撹拌しながら、過硫酸ナトリウムの10質量%水溶液28.3g及びL-アスコルビン酸の1質量%水溶液1.5gを添加し、およそ1分後に重合が開始し、重合開始後17分で重合ピーク温度86℃を示し、重合を開始して40分後に含水ゲル状重合体を取り出し、得られた含水ゲル状重合体を50メッシュ(目の大きさ300μm)の金網上に広げ、160℃で60分間熱風乾燥し、乾燥物をロールミルを用いて粉砕し、さらに目開き600μmの金網で分級、調合することにより、不定形破砕状の吸水性樹脂(c)を得、得られた吸水性樹脂(c)100質量部に、エチレンカーボネート0.2質量部、1,3-プロパンジオール0.3質量部と、水3質量部とからなる表面架橋剤水溶液3.5質量部を噴霧混合し、この混合物を、パドル型混合加熱処理機を用いてその上部空間の気体を外気と置換しながら、粉体温度200℃で45分間加熱処理して表面架橋された粒子状吸水剤(3)を得る製造方法であって、
得られた粒子状吸水剤(3)の無加圧下吸水倍率が30g/g、4.8kPaでの加圧下吸収倍率が25g/gである、
粒子状吸水剤(3)の製造方法。」

イ 本件発明9と甲3発明と対比・判断
本件発明9と甲3発明とを対比する。
甲3発明で利用されている表面架橋剤であるエチレンカーボネートは、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)及びδ_(tot)が、それぞれ、「21.7」、「28.7」であり、1,3-プロパンジオールは、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)及びδ_(tot)が、それぞれ、「13.5」及び「31.7」であることを踏まえると、本件発明9と甲3発明との一致点及び相違点はそれぞれ次のとおりである。

<一致点>
「酸性基を含み少なくとも一部が中和された水溶性エチレン系不飽和単量体の架橋重合体を含む粉末形態のベース樹脂を、表面架橋させた架橋重合体を含み、
生理食塩水に対する遠心分離保水能(CRC)が28g/g以上であり、
生理食塩水に対する0.7psiの加圧吸水能(AUP)が22g/g以上である高吸水性樹脂の製造方法であって、
水溶性エチレン系不飽和単量体、重合開始剤、および内部架橋剤を含む単量体組成物に熱重合または光重合を行って含水ゲル状重合体を形成する段階;
前記含水ゲル状重合体を乾燥する段階;
前記乾燥された重合体を粉砕する段階;および
粉砕された重合体に表面架橋剤を添加して表面架橋反応を遂行する段階を含む高吸水性樹脂を製造する方法であって、
前記内部架橋剤は、炭素数2乃至20のポリオールのジ(メタ)アクリレート、および炭素数2乃至20のポリオールのポリ(メタ)アクリレートからなる群より選択される1種以上を含み、
前記表面架橋剤は、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))1/2を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含む
高吸水性樹脂を製造する方法。」

<相違点3-1>
高吸水性樹脂の特性に関し、本件発明9は、「溶液透過度(SFC)が25×10^(-7)cm^(3)*sec/g?50×10^(-7)cm^(3)*sec/gであり」及び「ゲル強度が7,500乃至10,800Paである」と特定するのに対し、甲3発明は、この点を特定しない点。
<相違点3-2>
ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含む表面架橋剤に関し、本件発明9は、さらに「ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含む」と特定するのに対し、甲3発明は、この点を特定しない点。
<相違点3-3>
表面架橋反応の段階に関し、本件発明9は、「最大反応温度190℃?200℃、総反応時間0.5?1時間で行われ、」「温度が180℃まで達するまで20?40分、その後180℃以上で25分以上維持して行われる」と特定するのに対し、甲3発明は、「200℃で45分間加熱処理することにより得られた」ものである点。

事案に鑑み、相違点3-2から検討する。
甲3の記載を精査しても、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤を甲3発明の表面架橋剤水溶液に追加することに関する記載もなく、示唆もされていない。
また、申立人の提出したいずれの証拠をみても、表面架橋剤として、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含む表面架橋剤に加えて「ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含」むものを用いることについて記載ないし示唆されているものはない。
してみれば、甲3発明において、相違点3-2に係る発明特定事項を満たすようにすることは、当業者といえども容易に想到し得たこととはいえない。

上記のとおり、本件発明9と甲3発明との間には上記相違点3-1ないし3-3が存在し、少なくとも相違点3-2は実質的な相違点であるから、本件発明9は、甲3発明ではない。
また、相違点1-1及び1-3について検討するまでもなく、本件発明9は、甲3に記載の発明から容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、甲3に基づく申立理由1-3及び申立理由2-2の一部には、理由がない。

(4)申立理由1-4及び申立理由2-2の一部(甲4に基づく新規性進歩性)について
ア 甲4に記載された発明
甲4には、その実施例4として、製造例4で得られた粒子混合物を表面架橋させた吸水剤(4)の製造方法として、以下の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認める。

<甲4発明>
「71.3モル%の中和率を有するアクリル酸ナトリウム塩の水溶液5500g(単量体濃度39重量%)に内部架橋剤としてポリエチレングリコールジアクリレートを0.085モル%溶解させ窒素ガスで30分脱気後、内容量10Lでシグマ型羽根を2本有するジャケット付きステンレス製双腕型ニーダーに蓋を付けた反応器に該水溶液を供給し、20℃の温度に保ちながら反応系の窒素置換を続け、次いで羽根を回転させながら過硫酸ナトリウム3.5gとL-アスコルビン酸0.08gをそれぞれ10重量%水溶液として添加したところ1分後に重合が開始し、20分後に反応系はピーク温度に達し、その際生成した含水ゲル重合体は約5mmのサイズに細分化されており、その後更に攪拌を続け重合を開始して60分後に含水ゲル重合体を取り出し、得られた含水ゲル重合体の細粒化物を目開き300μm(50メッシュ)の金網上に広げ、170℃で70分間熱風乾燥した。乾燥物を卓上両用型粉砕機FDS型(株式会社みやこ物産製)で粉砕し、更に850μmメッシュで分級して、固形分96重量%の不定形破砕状の架橋ポリアクリル酸塩粒子(B)を得、次いで、この破砕状架橋ポリアクリル酸塩粒子(B)を目開き850μmおよび150μmのふるいを用いて分級し、実質850?150μmの粉末(B1)および150μm未満の微粉末(B2)を得、得られた粒子径150μm未満の架橋ポリアクリル酸塩微粒子(B2)200gを西日本試験機製作所製5Lモルタルミキサー(5L容器は70℃のバスで保温)に入れ、該モルタルミキサーの攪拌羽根を60Hz/100Vで高速回転(自転運動285rpm/惑星運動125rpm)させながら、90℃に加熱した温水300gをロートより一気に注入し、架橋ポリアクリル酸塩微粒子(B2)と水とは10秒以内に混合され3分間モルタルミキサー中で高速攪拌し、得られた含水ゲル状造粒物(粒子径約1-3mm)を取り出し、目開き300μmの金網上に載せ、熱風乾燥機において含水率が5重量%未満になるまで乾燥させ、次いで、この乾燥造粒物を卓上両用型粉砕機で粉砕し、実質850μm未満、150μm以上に分級する事で吸水倍率30g/gの架橋ポリアクリル酸塩微粒子の造粒粒子(E)を得、次いで、架橋ポリアクリル酸塩微粒子の造粒粒子(E)を8重量%、実質850?150μmの1次粒子(B1)を92重量%、の比率で均一になるまで混合し、固形分96重量%の粒子混合物(F)を得、得られた粒子混合物(F)500gに対して、1.4-ブタンジオール/プロピレングリコール/水/イソプロパノール=0.32/0.50/2.73/0.45(重量%/対吸水性樹脂粉末)からなる架橋剤を混合し、粉砕機能を有する混合機中で、粉砕助材としてのパチンコ玉(28個/合計153g)と共に、オイル温度210℃のバス中で30分、加熱攪拌することで吸水剤(4)を得る、表面架橋された吸水剤(4)を得る製造方法であって、
得られた吸水剤(4)の吸水倍率が28g/g、加圧下吸収倍率が25g/gである、
吸水剤(4)の製造方法。」

イ 本件発明9と甲4発明と対比・判断
本件発明9と甲4発明とを対比する。
甲4発明で使用されている表面架橋剤である1,4-ブタンジオールは、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)及びδ_(tot)が、それぞれ、「11.0」、「28.9」であり、プロピレングリコールは、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)及びδ_(tot)が、それぞれ、「10.4」及び「29.1」であることを踏まえると、本件発明9と甲4発明との一致点及び相違点はそれぞれ次のとおりである。

<一致点>
「酸性基を含み少なくとも一部が中和された水溶性エチレン系不飽和単量体の架橋重合体を含む粉末形態のベース樹脂を、表面架橋させた架橋重合体を含み、
生理食塩水に対する遠心分離保水能(CRC)が28g/g以上であり、
生理食塩水に対する0.7psiの加圧吸水能(AUP)が22g/g以上である高吸水性樹脂の製造方法であって、
水溶性エチレン系不飽和単量体、重合開始剤、および内部架橋剤を含む単量体組成物に熱重合または光重合を行って含水ゲル状重合体を形成する段階;
前記含水ゲル状重合体を乾燥する段階;
前記乾燥された重合体を粉砕する段階;および
粉砕された重合体に表面架橋剤を添加して表面架橋反応を遂行する段階を含む高吸水性樹脂を製造する方法であって、
前記内部架橋剤は、炭素数2乃至20のポリオールのジ(メタ)アクリレート、および
炭素数2乃至20のポリオールのポリ(メタ)アクリレートからなる群より選択される1種以上を含み、
表面架橋剤は、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含む
高吸水性樹脂を製造する方法。」

<相違点4-1>
高吸水性樹脂の特性に関し、本件発明9は、「溶液透過度(SFC)が25×10^(-7)cm^(3)*sec/g?50×10^(-7)cm^(3)*sec/gであり」及び「ゲル強度が7,500乃至10,800Paである」と特定するのに対し、甲4発明は、この点を特定しない点。
<相違点4-2>
ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含む表面架橋剤に関し、本件発明9は、さらに「ハンセン溶解度パラメータによって定義される」「δ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含む」と特定するのに対し、甲4発明は、この点を特定しない点。
<相違点4-3>
表面架橋反応の段階に関し、本件発明9は、「最大反応温度190℃?200℃、総反応時間0.5?1時間で行われ、」「温度が180℃まで達するまで20?40分、その後180℃以上で25分以上維持して行われる」と特定するのに対し、甲4発明は、「粉砕機能を有する混合機中で、粉砕助材としてのパチンコ玉(28個/合計153g)と共に、オイル温度210℃のバス中で30分、加熱攪拌する」ものである点。

事案に鑑み、相違点4-2から検討する。
甲4の記載を精査しても、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤を甲4発明の表面架橋を行うための混合物に追加することに関する記載もなく、示唆もされていない。
また、申立人の提出したいずれの証拠をみても、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含む表面架橋剤に加えて「ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含」むものを用いることについて記載ないし示唆されているものはない。
してみれば、甲4発明において、相違点4-2に係る発明特定事項を満たすようにすることは、当業者といえども容易に想到し得たこととはいえない。

上記のとおり、本件発明9と甲4発明との間には上記相違点4-1ないし4-3が存在し、少なくとも相違点4-2は実質的な相違点であるから、本件発明9は、甲4発明ではない。
また、相違点4-1及び4-3について検討するまでもなく、本件発明9は、甲4に記載の発明から容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、甲4に基づく申立理由1-4及び申立理由2-2の一部には、理由がない。

(5)申立理由2-1(甲5に基づく進歩性)について
ア 甲5に記載された発明
甲5には、その例2に表面架橋されたヒドロゲル形成吸収性重合体である試料2-1の製造方法として、以下の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されていると認める。

<甲5発明>
「Nalco Chemical Co., Naperville Illから入手した、表面架橋していない、部分的に中和された粒子状ポリアクリル酸ナトリウムヒドロゲル形成吸収性重合体(Nalco 1180;ロット番号NCGLG3C920E)を使用し、このヒドロゲル形成吸収性重合体の20.0グラムアリコートを、2個の予め計量した150×15mmの使い捨てポリスチレン製のペトリ皿中に等分し、各ペトリ皿中の重合体を、粒子同士が一般的に重ならない様に、底全体に広げ、Pre Valスプレーガン(Precision Valve Corp;Yonkers, N.Y.)を使用し、炭酸エチレン(1,3-ジオキソラン-2-オン、Aldrich cat. no. E2,625-8)の50重量%水溶液2.0gを粒子上に堆積させ、2個のペトリ皿中の粒子の露出した表面上に、総塗布量の約半分をスプレーし、これによって、粒子同士が一般的にシート状構造に付着し、次いで、塗布量の残りの半分を塗布し、処理したヒドロゲル形成吸収性重合体を番号20米国標準試験篩(850ミクロン開口部)に移し、重合体の固まりが篩を通過する様に、へらおよびプラスチックスプーンを使用して穏やかに圧力をかけ、シート状構造を壊し、容器に集め、粒子状重合体をtarredガラスビーカーに移し、時計皿を被せ、次いでこの試料を予め加熱し、195℃に予め設定したDespatch LFD強制空気オーブン中に入れ、1時間後に取り出し、乾燥箱中のDrieriteの上におき、常温に冷却してから再度計量し、加熱による重量損失は12.2%であって、粒子の固まりをへらで穏やかに崩し、No. 20篩に戻し、穏やかに振動させることにより、粒子の大部分が篩を通過するので、これを容器に集め、次いで表面処理した重合体をtarredびんに移し、この表面処理手順を繰り返すが、50%炭酸エチレン水溶液の添加百分率を変え、オーブン温度を185℃に下げ、20.0グラムアリコートのそれぞれを、2個のポリスチレン製のペトリ皿中に等分し、炭酸エチレン溶液を堆積させ、表面処理した試料を1時間加熱する、表面架橋されたヒドロゲル形成吸収性重合体を得る製造方法であって、
得られたヒドロゲル形成吸収性重合体ゲル容積が38.2g/g、PUPが30.6g/g、SFCが44×10^(-7)cm^(3)×sec/gである、
表面処理されたヒドロゲル形成吸収性重合体の製造方法。」

イ 本件発明9と甲5発明と対比・判断
本件発明9と甲5発明とを対比する。

<一致点>
「酸性基を含み少なくとも一部が中和された水溶性エチレン系不飽和単量体の架橋重合体を含む粉末形態のベース樹脂を、表面架橋させた架橋重合体を含み、
生理食塩水に対する遠心分離保水能(CRC)が28g/g以上であり、
生理食塩水に対する0.7psiの加圧吸水能(AUP)が22g/g以上であり、
溶液透過度(SFC)が25×10^(-7)cm^(3)*sec/g?50×10^(-7)cm^(3)*sec/gである高吸水性樹脂の製造方法であって、
粉砕された重合体に表面架橋剤を添加して表面架橋反応を遂行する段階を含む高吸水性樹脂を製造する方法であって、
高吸水性樹脂を製造する方法。」

<相違点5-1>
高吸水性樹脂の特性に関し、本件発明9は、「溶液透過度(SFC)が25×10^(-7)cm^(3)*sec/g?50×10^(-7)cm^(3)*sec/gであり」及び「ゲル強度が7,500乃至10,800Paである」と特定するのに対し、甲5発明は、この点を特定しない点。
<相違点5-2>
表面架橋を行うための表面架橋剤に関し、本件発明9は、「ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種、およびδ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含み」と特定するのに対し、甲5発明は、この点を特定しない点。
<相違点5-3>
表面架橋反応の段階に関し、本件発明9は、「最大反応温度190℃?200℃、総反応時間0.5?1時間で行われ、」「温度が180℃まで達するまで20?40分、その後180℃以上で25分以上維持して行われる」と特定するのに対し、甲5発明は、「195℃に予め設定したDespatch LFD強制空気オーブン中に入れ、1時間後に取り出」し、「再度、1時間加熱する」ものである点。
<相違点5-4>
表面架橋を行う前の高吸水性樹脂に関し、本件発明9は、
「水溶性エチレン系不飽和単量体、重合開始剤、および内部架橋剤を含む単量体組成物に熱重合または光重合を行って含水ゲル状重合体を形成する段階;
前記含水ゲル状重合体を乾燥する段階;
前記乾燥された重合体を粉砕する段階;」
を特定すると共に、「前記内部架橋剤は、炭素数2乃至20のポリオールのジ(メタ)アクリレート、および炭素数2乃至20のポリオールのポリ(メタ)アクリレートからなる群より選択される1種以上を含み、」と特定しているのに対し、甲5発明は、この点を特定しない点。

事案に鑑み、相違点5-2から検討する。
甲5の記載を精査しても、表面架橋剤に関し、「ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種、およびδ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含」むものを用いることに関する記載もなく、示唆もされていない。
また、申立人の提出したいずれの証拠をみても、表面架橋剤として、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種、およびδ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含」むものを用いることについて記載ないし示唆されているものはない。
してみれば、甲5発明において、相違点5-2に係る発明特定事項を満たすようにすることは、当業者といえども容易に想到し得たこととはいえない。

上記のとおりであるから、相違点5-1、5-3及び5-4について検討するまでもなく、本件発明9は、甲5に記載の発明から容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、甲5に基づく申立理由2-1には、理由がない。

(6)申立理由1-5及び申立理由2-2の一部(甲6に基づく新規性進歩性)について
ア 甲6に記載された発明
甲6には、その実施例2に製造例1で得られた高吸水性樹脂を表面架橋させた高吸水性樹脂の製造方法として、以下の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されていると認める。

<甲6発明>
「内部架橋剤としてポリエチレングリコールジアクリレート(平均n数(平均重合度)9)を0.06モル%(対単量体)を含む75モル%が中和されたアクリル酸部分ナトリウム塩水溶液(濃度38質量%)を、単量体水溶液(1)として、得られた単量体水溶液(1)を定量ポンプで連続フィードを行い、輸送管の途中で窒素ガスを連続的に吹き込み、酸素濃度を0.5ppm以下にし、次に、単量体水溶液(1)に、さらに過硫酸ナトリウム/L-アスコルビン酸=0.14(g)/0.005(単量体mol)をラインミキシングで連続混合して、両端に堰を有する平面スチールベルトに厚み約30mmで供給して、連続的に30分間静置水溶液重合を行い、こうして得られた含水ゲル状架橋重合体(2)を孔径7mmのミートチョッパーで約1mmに細分化し、これを連続通風バンド乾燥機の移動する多孔板上に厚みが50mmとなるように広げて載せ、185℃で30分間乾燥し乾燥重合体を得、当該乾燥重合体の全量を3段ロールミル(ロールギャップが上から1.0mm/0.55mm/0.42mm)に連続供給することで粉砕した後、目開き850μmおよび150μmの金属篩網を有する篩い分け装置で分級して、粒径850?150μmが約98質量%の粒子状吸水性樹脂(3)(CRC=35g/g)を得、得られた吸水性樹脂(3)を高速連続混合機(タービュライザー、1000rpm)に1500kg/hrで連続供給して、吸水性樹脂100質量部に対して、1,4-ブタンジオール0.3質量部、プロピレングリコール0.5質量部、純水2.7質量部の混合液からなる表面処理剤溶液をスプレーで噴霧し混合し、次いで、得られた混合物をパドルドライヤーにより連続的に198℃にて40分間加熱処理した後、同様のパドルドライヤーを用いて60℃まで強制冷却し(冷却工程)、さらに、篩い分け装置で850μm通過物を分級し、目開き850μmの篩網の上に残留する物は再度粉砕した後、上記850μm通過物と混合することで、全量が850μm通過物である整粒された製品としての吸水性樹脂(A)を得る製造方法であって、
得られた吸水性樹脂(A)のCRCが30.5g/g、AAPが25.1g/g、SFCが32×10^(-7)×cm^(3)・s/gである、
吸水性樹脂(A)の製造方法。」

イ 本件発明9と甲6発明と対比・判断
本件発明9と甲6発明とを対比する。
甲6発明で利用されている表面架橋剤である1,4-ブタンジオールは、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)及びδ_(tot)が、それぞれ、「11.0」、「28.9」であり、プロピレングリコールは、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)及びδ_(tot)が、それぞれ、「10.4」及び「29.1」であることを踏まえると、本件発明9と甲6発明との一致点及び相違点はそれぞれ次のとおりである。

<一致点>
「酸性基を含み少なくとも一部が中和された水溶性エチレン系不飽和単量体の架橋重合体を含む粉末形態のベース樹脂を、表面架橋させた架橋重合体を含み、
生理食塩水に対する遠心分離保水能(CRC)が28g/g以上であり、
生理食塩水に対する0.7psiの加圧吸水能(AUP)が22g/g以上であり、
溶液透過度(SFC)が25×10^(-7)cm^(3)*sec/g?50×10^(-7)cm^(3)*sec/gである高吸水性樹脂の製造方法であって、
水溶性エチレン系不飽和単量体、重合開始剤、および内部架橋剤を含む単量体組成物に熱重合または光重合を行って含水ゲル状重合体を形成する段階;
前記含水ゲル状重合体を乾燥する段階;
前記乾燥された重合体を粉砕する段階;および
粉砕された重合体に表面架橋剤を添加して表面架橋反応を遂行する段階を含む高吸水性樹脂を製造する方法であって、
前記内部架橋剤は、炭素数2乃至20のポリオールのジ(メタ)アクリレート、および炭素数2乃至20のポリオールのポリ(メタ)アクリレートからなる群より選択される1種以上を含み、
前記表面架橋剤は、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含む
高吸水性樹脂を製造する方法。」

<相違点6-1>
高吸水性樹脂の特性に関し、本件発明9は、「溶液透過度(SFC)が25×10^(-7)cm^(3)*sec/g?50×10^(-7)cm^(3)*sec/gであり」及び「ゲル強度が7,500乃至10,800Paである」と特定するのに対し、甲6発明は、この点を特定しない点。
<相違点6-2>
ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含む表面架橋剤に関し、本件発明9は、さらに「ハンセン溶解度パラメータによって定義される」「δ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含み」と特定するのに対し、甲6発明は、この点を特定しない点。
<相違点6-3>
表面架橋反応の段階に関し、本件発明9は、「最大反応温度190℃?200℃、総反応時間0.5?1時間で行われ、」「温度が180℃まで達するまで20?40分、その後180℃以上で25分以上維持して行われる」と特定するのに対し、甲6発明は、「パドルドライヤーにより連続的に198℃にて40分間加熱処理した後、同様のパドルドライヤーを用いて60℃まで強制冷却」するものである点。

事案に鑑み、相違点6-2から検討する。
甲6の記載を精査しても、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤を甲6発明の表面処理剤溶液に追加することに関する記載もなく、示唆もされていない。
また、申立人の提出したいずれの証拠をみても、表面架橋剤として、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含む表面架橋剤に加えて「ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含」むものを用いることについて記載ないし示唆されているものはない。
してみれば、甲6発明において、相違点6-2に係る発明特定事項を満たすようにすることは、当業者といえども容易に想到し得たこととはいえない。

上記のとおり、本件発明9と甲6発明との間には上記相違点6-1ないし6-3が存在し、少なくとも相違点6-2は実質的な相違点であるから、本件発明9は、甲6発明ではない。
また、相違点6-1及び6-3について検討するまでもなく、本件発明9は、甲6に記載の発明から容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、甲6に基づく申立理由1-5及び申立理由2-2の一部には、理由がない。

(7)申立理由1-5及び申立理由2-2の一部(甲7に基づく新規性進歩性)について
ア 甲7に記載された発明
甲7には、その実施例1として、以下の発明(以下、「甲7発明」という。)が記載されていると認める。

<甲7発明>
「モノマーとしての75モル%が中和されたアクリル酸部分ナトリウム塩と、内部架橋剤としてのポリエチレングリコールジアクリレート(ポリエチレングリコール鎖中のエチレン鎖の重合度の平均数で示されるエチレンオキシドの平均付加モル数nが9である。)とを含んだ水溶液が、モノマー溶液として準備され、このモノマー溶液において、モノマー濃度は、38質量%に調整され、内部架橋剤の濃度は、モノマーに対して0.06モル%となるように調整され、次に、このモノマー溶液を定量ポンプで連続フィードしつつ、窒素ガスを連続的に吹き込むことにより、このモノマー溶液の酸素濃度が0.5ppm以下に調整され、次に、モノマー溶液に、過硫酸ナトリウム及びL-アスコルビン酸が、モノマー1モルに対して過硫酸ナトリウム/L-アスコルビン酸の質量が0.14g/0.005gとなるようにラインミキシングで混合され、次に、その両側に堰を有する平面スチールベルトにその厚みが約25mmとなるように、モノマー溶液を供給して、水溶液重合が95℃で30分間実施されて、含水状態にある重合ゲルが得られ(重合工程)、次に、この重合ゲルが粉砕されて、更にこの粉砕された重合ゲルが孔径7mmのミートチョッパーで約1mmに細分化され、これをバンド乾燥機の多孔板上に薄く拡げて載せて、180℃で30分間熱風乾燥して、重合ゲルの乾燥物としての粒子状吸水性樹脂が得られ(乾燥工程)、次に、この乾燥物が粉砕されて、粒子状の乾燥物が得られた。この粒子状の乾燥物の全量が、3段ロールミル(ロールギャップの構成は、上から1.0mm/0.55mm/0.42mm)に連続供給されて更に粉砕され(粉砕工程)、その後、目開き850μmの金属篩網及び目開き150μmの金属篩網を有する分級装置で分級されて(分級工程)、粒子状吸水性樹脂が得られ、この粒子状吸水性樹脂の約98質量%が、その粒径が150μmから850μmである粒子状吸水性樹脂であり、次に、表面処理剤溶液が準備され、この表面処理剤溶液は、1,4-ブタンジオール、プロピレングリコール及び純水からなり、粒子状吸水性樹脂100質量部に対して、1,4-ブタンジオールが0.30質量部、プロピレングリコールが0.50質量部、純水が2.70質量部となるように調整され、次に、この粒子状吸水性樹脂を高速連続混合機(タービュライザー/1000rpm)に1000kg/時間で連続供給して、上記表面処理剤溶液がスプレーで噴霧されて、この表面処理剤溶液と粒子状吸水性樹脂とが混合され、次に、この表面処理剤溶液が混合された粒子状吸水性樹脂が、200℃に調整されたパドルドライヤーで40分間加熱され(表面架橋工程)、その後、パドルドライヤー(溝型攪拌式乾燥機)を用いて60℃に冷却され(冷却工程)、冷却(冷却工程)後、目開き850μmの金属篩網及び目開き150μmの金属篩網を用いて分級されて、その粒径が150μmから850μmである製品としての粒子状吸水剤1が得られる製造方法であって、
得られた粒子状吸水剤1のCRCが30.5g/g、AAPが25.1g/g、SFCが32×10^(-7)×cm^(3)・s/gである、
粒子状吸水剤1の製造方法。」

イ 本件発明9と甲7発明と対比・判断
本件発明9と甲7発明とを対比する。
甲7発明で利用されている表面処理剤溶液に配合されている表面架橋剤である1,4-ブタンジオールは、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)及びδ_(tot)が、それぞれ、「11.0」、「28.9」であり、プロピレングリコールは、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)及びδ_(tot)が、それぞれ、「10.4」及び「29.1」であることを踏まえると、本件発明9と甲7発明との一致点及び相違点はそれぞれ次のとおりである。

<一致点>
「酸性基を含み少なくとも一部が中和された水溶性エチレン系不飽和単量体の架橋重合体を含む粉末形態のベース樹脂を、表面架橋させた架橋重合体を含み、
生理食塩水に対する遠心分離保水能(CRC)が28g/g以上であり、
生理食塩水に対する0.7psiの加圧吸水能(AUP)が22g/g以上であり、
溶液透過度(SFC)が25×10^(-7)cm^(3)*sec/g?50×10^(-7)cm^(3)*sec/gである高吸水性樹脂の製造方法であって、
水溶性エチレン系不飽和単量体、重合開始剤、および内部架橋剤を含む単量体組成物に熱重合または光重合を行って含水ゲル状重合体を形成する段階;
前記含水ゲル状重合体を乾燥する段階;
前記乾燥された重合体を粉砕する段階;および
粉砕された重合体に表面架橋剤を添加して表面架橋反応を遂行する段階を含む高吸水性樹脂を製造する方法であって、
前記内部架橋剤は、炭素数2乃至20のポリオールのジ(メタ)アクリレート、および炭素数2乃至20のポリオールのポリ(メタ)アクリレートからなる群より選択される1種以上を含み、
前記表面架橋剤は、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含む
高吸水性樹脂を製造する方法。」

<相違点7-1>
高吸水性樹脂の特性に関し、本件発明9は、「溶液透過度(SFC)が25×10^(-7)cm^(3)*sec/g?50×10^(-7)cm^(3)*sec/gであり」及び「ゲル強度が7,500乃至10,800Paである」と特定するのに対し、甲7発明は、この点を特定しない点。
<相違点7-2>
ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含む表面架橋剤に関し、本件発明9は、さらに「ハンセン溶解度パラメータによって定義される」「δ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含み」と特定するのに対し、甲7発明は、この点を特定しない点。
<相違点7-3>
表面架橋反応の段階に関し、本件発明9は、「最大反応温度190℃?200℃、総反応時間0.5?1時間で行われ、」「温度が180℃まで達するまで20?40分、その後180℃以上で25分以上維持して行われる」と特定するのに対し、甲7発明は、「200℃に調整されたパドルドライヤーで40分間加熱され(表面架橋工程)、その後、パドルドライヤー(溝型攪拌式乾燥機)を用いて60℃に冷却され」るものである点。

事案に鑑み、相違点7-2から検討する。
甲7の記載を精査しても、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤を甲7発明の表面処理剤溶液に追加することに関する記載もなく、示唆もされていない。
また、申立人の提出したいずれの証拠をみても、表面架橋剤として、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含む表面架橋剤に加えて「ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含」むものを用いることについて記載ないし示唆されているものはない。
してみれば、甲7発明において、相違点7-2に係る発明特定事項を満たすようにすることは、当業者といえども容易に想到し得たこととはいえない。

上記のとおり、本件発明9と甲7発明との間には上記相違点7-1ないし7-3が存在し、少なくとも相違点7-2は実質的な相違点であるから、本件発明9は、甲7発明ではない。
また、相違点7-1及び7-3について検討するまでもなく、本件発明9は、甲7に記載の発明から容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、甲7に基づく申立理由1-5及び申立理由2-2の一部には、理由がない。

(8)申立理由1-5及び申立理由2-2の一部(甲8に基づく新規性進歩性)について
ア 甲8に記載された発明
甲8には、その製造例2として、以下の発明(以下、「甲8発明」という。)が記載されていると認める。

<甲8発明>
「断熱材である発泡スチロールで覆われた、内径80mm、容量1リットルのポリプロピレン製容器に、アクリル酸185.4g、ポリエチレングリコールジアクリレート(分子量523)0.942g(0.07モル%:対アクリル酸)、および、1.0質量%ジエチレントリアミン5酢酸・5ナトリウム水溶液1.13gを混合した溶液(A)と、48.5質量%水酸化ナトリウム水溶液148.53gと50℃に調温したイオン交換水159.71gを混合した溶液(B)を、マグネチィックスターラーで攪拌しながら(A)に(B)を開放系ですばやく加えて混合し、中和熱と溶解熱で液温が約100℃まで上昇した単量体水溶液が得られ、得られた単量体水溶液に3質量%の過硫酸ナトリウム水溶液4.29gを加え、数秒攪拌した後に、ホットプレート(NEO HOTPLATE H1-1000、(株)井内盛栄堂製)により表面温度を100℃まで加熱された、内面にテフロン(登録商標)を貼り付けた底面250×250mmのステンレス製バット型容器中に開放系で注ぎ、単量体水溶液がバットに注がれて間もなく重合は開始し、水蒸気を発生して上下左右に膨張発泡しながら重合は進行し、その後、底面よりもやや大きなサイズにまで収縮し、この膨張収縮は約1分以内に終了し、4分間重合容器中に保持した後、含水重合体を取り出し、得られた含水重合体を、ダイス径9.5mmのミートチョッパー(ROYAL MEAT CHOPPER VR400K、飯塚工業株式会社製)により粉砕し、細分化された含水重合体を得、この細分化された含水ゲル状架橋重合体を50メッシュの金網上に広げ、180℃で50分間熱風乾燥を行い、乾燥物をロールミルを用いて粉砕し、さらに目開き850μmと目開き150μmのJIS標準篩で分級することにより、質量平均粒子径450μmの不定形破砕状の吸水性樹脂(2)を得、 得られた吸水性樹脂(2)100質量部に1,4-ブタンジオール0.4質量部、プロピレングリコール0.6質量部、純水3.0質量部の混合液からなる表面処理剤を均一に混合した後、混合物を200℃で30分間加熱処理し、その粒子を目開き850μmのJIS標準篩を通過するまで解砕し、次に、この粒子に前記ペイントシェーカーテスト1を行い、こうして、表面が架橋された吸水性樹脂粒子(B)が得られる製造方法であって、
得られた吸水性樹脂粒子(B)のCRCが31g/g、AAPが26g/g、SFCが26×10^(-7)×cm^(3)・s/gである、
吸水性樹脂粒子(B)の製造方法。」

イ 本件発明9と甲8発明と対比・判断
本件発明9と甲8発明とを対比する。
甲8発明で利用されている表面処理剤溶液に配合されている表面架橋剤である1,4-ブタンジオールは、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)及びδ_(tot)が、それぞれ、「11.0」、「28.9」であり、プロピレングリコールは、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)及びδ_(tot)が、それぞれ、「10.4」及び「29.1」であることを踏まえると、本件発明9と甲8発明との一致点及び相違点はそれぞれ次のとおりである。

<一致点>
「酸性基を含み少なくとも一部が中和された水溶性エチレン系不飽和単量体の架橋重合体を含む粉末形態のベース樹脂を、表面架橋させた架橋重合体を含み、
生理食塩水に対する遠心分離保水能(CRC)が28g/g以上であり、
生理食塩水に対する0.7psiの加圧吸水能(AUP)が22g/g以上であり、
溶液透過度(SFC)が25×10^(-7)cm^(3)*sec/g?50×10^(-7)cm^(3)*sec/gである高吸水性樹脂の製造方法であって、
水溶性エチレン系不飽和単量体、重合開始剤、および内部架橋剤を含む単量体組成物に熱重合または光重合を行って含水ゲル状重合体を形成する段階;
前記含水ゲル状重合体を乾燥する段階;
前記乾燥された重合体を粉砕する段階;および
粉砕された重合体に表面架橋剤を添加して表面架橋反応を遂行する段階を含む高吸水性樹脂を製造する方法であって、
前記内部架橋剤は、炭素数2乃至20のポリオールのジ(メタ)アクリレート、および炭素数2乃至20のポリオールのポリ(メタ)アクリレートからなる群より選択される1種以上を含み、
前記表面架橋剤は、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含む
高吸水性樹脂を製造する方法。」

<相違点8-1>
高吸水性樹脂の特性に関し、本件発明9は、「溶液透過度(SFC)が25×10^(-7)cm^(3)*sec/g?50×10^(-7)cm^(3)*sec/gであり」及び「ゲル強度が7,500乃至10,800Paである」と特定するのに対し、甲8発明は、この点を特定しない点。
<相違点8-2>
ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含む表面架橋剤に関し、本件発明9は、さらに「ハンセン溶解度パラメータによって定義される」「δ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含み」と特定するのに対し、甲8発明は、この点を特定しない点。
<相違点8-3>
表面架橋反応の段階に関し、本件発明9は、「最大反応温度190℃?200℃、総反応時間0.5?1時間で行われ、」「温度が180℃まで達するまで20?40分、その後180℃以上で25分以上維持して行われる」と特定するのに対し、甲8発明は、「200℃で30分間加熱処理し、その粒子を目開き850μmのJIS標準篩を通過するまで解砕し、次に、この粒子に前記ペイントシェーカーテスト1を行い」との特定である点。

事案に鑑み、相違点8-2から検討する。
甲8の記載を精査しても、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤を甲8発明の表面処理剤溶液に追加することに関する記載もなく、示唆もされていない。
また、申立人の提出したいずれの証拠をみても、表面架橋剤として、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含む表面架橋剤に加えて「ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含む」ものを用いることについて記載ないし示唆されているものはない。
してみれば、甲8発明において、相違点8-2に係る発明特定事項を満たすようにすることは、当業者といえども容易に想到し得たこととはいえない。

上記のとおり、本件発明9と甲8発明との間には上記相違点8-1ないし8-3が存在し、少なくとも相違点8-2は実質的な相違点であるから、本件発明9は、甲8発明ではない。
また、相違点8-1及び8-3について検討するまでもなく、本件発明9は、甲8に記載の発明から容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、甲8に基づく申立理由1-5及び申立理由2-2の一部には、理由がない。

(9)申立理由1-5及び申立理由2-2の一部(甲9に基づく新規性進歩性)について
ア 甲9に記載された発明
甲9には、その実施例1として、以下の発明(以下、「甲9発明」という。)が記載されていると認める。

<甲9発明>
「シグマ型羽根を2本有する内容積10リットルのジャケット付きステンレス型双腕型ニーダーに蓋を付けて形成した反応器中で、アクリル酸436.4g、37質量%アクリル酸ナトリウム水溶液4617.9g、純水381.0g、ポリエチレングリコールジアクリレート(分子量523)11.40gを溶解させて反応液とし、次にこの反応液を窒素ガス雰囲気下で、20分間脱気し、続いて、反応液に10質量%過硫酸ナトリウム水溶液38.76g及び0.1質量%L-アスコルビン酸水溶液24.22gを攪拌しながら添加したところ、およそ25秒後に重合が開始し、そして、生成したゲルを粉砕しながら、25?95℃で重合を行い、重合が開始して30分後に含水ゲル状架橋重合体を取り出し、得られた含水ゲル状架橋重合体は、その径が約5mm以下に細分化され、この細分化された含水ゲル状架橋重合体を50メッシュの金網上に広げ、180℃で50分間熱風乾燥を行い、乾燥物をロールミルを用いて粉砕し、さらに目開き710μmと目開き175μmのJIS標準篩で分級することにより、質量平均粒子径(D50)341μm、粒度分布の対数標準偏差(σζ)0.33の不定形破砕状の吸水性樹脂粒子(1)を得、得られた吸水性樹脂粒子(1)100質量部に1,4-ブタンジオール0.384質量部、プロピレングリコール0.632質量部、純水3.39質量部、過硫酸ナトリウム0.1質量部の混合液からなる表面架橋剤を均一に混合した後、混合物を212℃で加熱処理し、加熱時間を35分としたものをさらに、これらの粒子をそれぞれ目開き710μmのJIS標準篩を通過するまで解砕し、次に、これら粒子に上記ペイントシェーカーテスト1を行って、表面が架橋された吸水性樹脂粒子(1-35)を得る製造方法であって、
得られた吸水性樹脂粒子(1-35)のCRCが29.7g/g、AAPが26.4g/g、SFCが37×10^(-7)×cm^(3)・s/gである、
吸水性樹脂粒子(1-35)の製造方法。」

イ 本件発明9と甲9発明と対比・判断
本件発明9と甲9発明とを対比する。
甲9発明で利用されている表面処理剤溶液に配合されている表面架橋剤である1,4-ブタンジオールは、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)及びδ_(tot)が、それぞれ、「11.0」、「28.9」であり、プロピレングリコールは、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)及びδ_(tot)が、それぞれ、「10.4」及び「29.1」であることを踏まえると、本件発明9と甲9発明との一致点及び相違点はそれぞれ次のとおりである。

<一致点>
「酸性基を含み少なくとも一部が中和された水溶性エチレン系不飽和単量体の架橋重合体を含む粉末形態のベース樹脂を、表面架橋させた架橋重合体を含み、
生理食塩水に対する遠心分離保水能(CRC)が28g/g以上であり、
生理食塩水に対する0.7psiの加圧吸水能(AUP)が22g/g以上であり、
溶液透過度(SFC)が25×10^(-7)cm^(3)*sec/g?50×10^(-7)cm^(3)*sec/gである高吸水性樹脂の製造方法であって、
水溶性エチレン系不飽和単量体、重合開始剤、および内部架橋剤を含む単量体組成物に熱重合または光重合を行って含水ゲル状重合体を形成する段階;
前記含水ゲル状重合体を乾燥する段階;
前記乾燥された重合体を粉砕する段階;および
粉砕された重合体に表面架橋剤を添加して表面架橋反応を遂行する段階を含む高吸水性樹脂を製造する方法であって、
前記内部架橋剤は、炭素数2乃至20のポリオールのジ(メタ)アクリレート、および炭素数2乃至20のポリオールのポリ(メタ)アクリレートからなる群より選択される1種以上を含み、
前記表面架橋剤は、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含む
高吸水性樹脂を製造する方法。」

<相違点9-1>
高吸水性樹脂の特性に関し、本件発明9は、「ゲル強度が7,500乃至10,800Paである」と特定するのに対し、甲9発明は、この点を特定しない点。
<相違点9-2>
ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含む表面架橋剤に関し、本件発明9は、さらに「ハンセン溶解度パラメータによって定義される」「δ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含み」と特定するのに対し、甲9発明は、この点を特定しない点。
<相違点9-3>
表面架橋反応の段階に関し、本件発明9は、「最大反応温度190℃?200℃、総反応時間0.5?1時間で行われ、」「温度が180℃まで達するまで20?40分、その後180℃以上で25分以上維持して行われる」と特定するのに対し、甲9発明は、「212℃で、加熱時間35分で処理」との特定である点。

事案に鑑み、相違点9-2から検討する。
甲9の記載を精査しても、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤を甲9発明の混合液からなる表面架橋剤に追加することに関する記載もなく、示唆もされていない。
また、申立人の提出したいずれの証拠をみても、表面架橋剤として、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含む表面架橋剤に加えて「ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たすδ表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含む」ものを用いることについて記載ないし示唆されているものはない。
してみれば、甲9発明において、相違点9-2に係る発明特定事項を満たすようにすることは、当業者といえども容易に想到し得たこととはいえない。

上記のとおり、本件発明9と甲9発明との間には上記相違点9-1ないし9-3が存在し、少なくとも相違点9-2は実質的な相違点であるから、本件発明9は、甲9発明ではない。
また、相違点9-1及び9-3について検討するまでもなく、本件発明9は、甲9に記載の発明から容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、甲9に基づく申立理由1-5及び申立理由2-2の一部には、理由がない。

(10)申立理由1-5及び申立理由2-2の一部(甲10に基づく新規性進歩性)について
ア 甲10に記載された発明
甲10には、その実施例3として、以下の発明(以下、「甲10発明」という。)が記載されていると認める。

<甲10発明>
「シグマ型羽根を2本有する内容積10リットルのジャケット付きステンレス型双腕型ニーダーに蓋を付けて形成した反応器中で、71モル%の中和率を有するアクリル酸ナトリウムの水溶液5500g(単量体濃度41重量%、モノマーの平均分子量87.7)にポリエチレングリコールジアクリレート(n=9)8.05gを溶解させて反応液とし、次にこの反応液を窒素ガス雰囲気下で、30分間脱気し、続いて、反応液に10重量%過硫酸ナトリウム水溶液30.8gおよび1重量%L-アスコルビン酸水溶液2.57gを攪拌しながら添加したところ、およそ1分後に重合が開始し、生成したゲルを粉砕しながら、20?95℃で重合を行い、重合が開始して30分後に含水ゲル状架橋重合体(2)を取り出し、得られた含水ゲル状架橋重合体(2)を50メッシュ(目開き300μm)の金網上に広げ、180℃で50分間熱風乾燥し、次いで、ロールミルを用いて粉砕し、さらに目開き850μmのJIS標準篩で分級することで大部分の粒子が850μm以下の範囲にある吸水性樹脂粉末(B)を得、得られた吸水性樹脂粉末(B)100gに1,4-ブタンジオール0.384g、プロピレングリコール0.6g、水3.28g、および24重量%水酸化ナトリウム水溶液0.3g(固形分0.072g)の混合液からなる表面処理剤を混合した後、混合物を212℃で30分間加熱処理することにより、吸水剤(3)を得る製造方法であって、
得られた吸水剤(3)の無加圧下の吸水倍率29.5g/g、加圧下の吸水倍率が25.3g/g、SFCが45×10^(-7)×cm^(3)・s/gである、
吸水剤(3)の製造方法。」

イ 本件発明9と甲10発明と対比・判断
本件発明9と甲10発明とを対比する。
甲10発明で利用されている表面処理剤に配合されている表面架橋剤である1,4-ブタンジオールは、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)及びδ_(tot)が、それぞれ、「11.0」、「28.9」であり、プロピレングリコールは、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)及びδ_(tot)が、それぞれ、「10.4」及び「29.1」であることを踏まえると、本件発明9と甲10発明との一致点及び相違点はそれぞれ次のとおりである。

<一致点>
「酸性基を含み少なくとも一部が中和された水溶性エチレン系不飽和単量体の架橋重合体を含む粉末形態のベース樹脂を、表面架橋させた架橋重合体を含み、
生理食塩水に対する遠心分離保水能(CRC)が28g/g以上であり、
生理食塩水に対する0.7psiの加圧吸水能(AUP)が22g/g以上であり、
溶液透過度(SFC)が25×10^(-7)cm^(3)*sec/g?50×10^(-7)cm^(3)*sec/gである高吸水性樹脂の製造方法であって、
水溶性エチレン系不飽和単量体、重合開始剤、および内部架橋剤を含む単量体組成物に熱重合または光重合を行って含水ゲル状重合体を形成する段階;
前記含水ゲル状重合体を乾燥する段階;
前記乾燥された重合体を粉砕する段階;および
粉砕された重合体に表面架橋剤を添加して表面架橋反応を遂行する段階を含む高吸水性樹脂を製造する方法であって、
前記内部架橋剤は、炭素数2乃至20のポリオールのジ(メタ)アクリレート、および炭素数2乃至20のポリオールのポリ(メタ)アクリレートからなる群より選択される1種以上を含み、
前記表面架橋剤は、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含む
高吸水性樹脂を製造する方法。」

<相違点10-1>
高吸水性樹脂の特性に関し、本件発明9は、「ゲル強度が7,500乃至10,800Paである」と特定するのに対し、甲10発明は、この点を特定しない点。
<相違点10-2>
ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含む表面架橋剤に関し、本件発明10は、さらに「ハンセン溶解度パラメータによって定義される」「δ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含み」と特定するのに対し、甲10発明は、この点を特定しない点。
<相違点10-3>
表面架橋反応の段階に関し、本件発明9は、「最大反応温度190℃?200℃、総反応時間0.5?1時間で行われ、」「温度が180℃まで達するまで20?40分、その後180℃以上で25分以上維持して行われる」と特定するのに対し、甲10発明は、「212℃で30分間加熱処理」との特定である点。

事案に鑑み、相違点10-2から検討する。
甲10の記載を精査しても、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤を甲10発明の混合液からなる表面処理剤に追加することに関する記載もなく、示唆もされていない。
また、申立人の提出したいずれの証拠をみても、表面架橋剤として、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含む表面架橋剤に加えて「ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含む」ものを用いることについて記載ないし示唆されているものはない。
してみれば、甲10発明において、相違点10-2に係る発明特定事項を満たすようにすることは、当業者といえども容易に想到し得たこととはいえない。

上記のとおり、本件発明9と甲10発明との間には上記相違点10-1ないし10-3が存在し、少なくとも相違点10-2は実質的な相違点であるから、本件発明9は、甲10発明ではない。
また、相違点10-1及び10-3について検討するまでもなく、本件発明9は、甲10に記載の発明から容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、甲10に基づく申立理由1-5及び申立理由2-2の一部には、理由がない。

(11)申立理由3(明確性)について
明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。

イ 判断
本件発明9に関して、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎としても、特許請求の範囲の記載は第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
なお、申立人が指摘する記載不備の点は、本件訂正により存在しないものとなっている。
よって、申立理由3には、理由がない。

(12) 申立理由4(サポート要件)について
ア サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。

イ 本件特許の特許請求の範囲に記載された発明
本件特許の特許請求の範囲は、上記第3に記載のとおりである。

ウ 本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載
本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
(ア)「【0001】
本発明は、初期吸水性に優れて時間経過後にも加圧時に水分がにじみ出ない高吸水性樹脂に関するものである。」
(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、高吸水性樹脂の表面処理を通じて物性に優れながら特に初期吸水性に優れ、長時間経過後にも加圧状態で水分がほとんどにじみ出なくて吸水能に優れた高吸水性樹脂を提供しようとする。」
(ウ)「【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、生理食塩水に対する遠心分離保水能(CRC)が28g/g以上であり、生理食塩水に対する0.7psiの加圧吸水能(AUP)が22g/g以上であり、溶液透過度(SFC)が20×10^(-7)cm^(3)*sec/g以上であり、ゲル強度が7,000乃至11,000Paである高吸水性樹脂を提供する。
【0012】
本発明で、前記高吸水性樹脂は、酸性基を含み少なくとも一部が中和された水溶性エチレン系不飽和単量体を炭素数2乃至20のポリオールのジ(メタ)アクリレート、および炭素数2乃至20のポリオールのポリ(メタ)アクリレートからなる群より選択される1種以上の内部架橋剤で重合させた粉末形態のベース樹脂を、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす物質、δ_(H)が4<δ_(H)<6(J/cm^(3))^(1/2)を満たす物質、およびδ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たす物質からなる群より選択される1種以上で表面架橋させた架橋重合体を含むことができる。
・・・
【0015】
本発明で、前記δ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす物質は、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、プロピレングリコール、1,2-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-1,3-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、トリプロピレングリコール、およびグリセロールからなる群より選択される1種以上であり得る。前記δ_(H)が4<δ_(H)<6(J/cm^(3))^(1/2)を満たす物質は、エチレンカーボネートおよびプロピレンカーボネートからなる群より選択される1種以上であり得る。また、前記δ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たす物質は、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、およびグリセロールからなる群より選択される1種以上であり得る。
・・・
【0024】
本発明者は、初期吸水性に優れ、長時間経過後にも加圧状態で水分がほとんどにじみ出なく吸水能に優れた高吸水性樹脂に対する研究を繰り返す過程で、高吸水性樹脂の遠心分離保水能(CRC)、加圧吸水能(AUP)、溶液透過度(SFC)、およびゲル強度を全て同時に所定の範囲で最適化する場合に、最終おむつでの物性向上が可能であり、これによって超薄型技術が適用されたおむつを生産することができるのを確認して本発明を完成した。
【0025】
ここに発明の一実施形態によれば、初期吸水性に優れ、長時間経過後にも加圧状態で水分がほとんどにじみ出なく吸水能に優れた高吸水性樹脂が提供される。本発明の高吸水性樹脂は、生理食塩水に対する遠心分離保水能(CRC)が28g/g以上であり、生理食塩水に対する0.7psiの加圧吸水能(AUP)が22g/g以上であり、溶液透過度(SFC)が20×10^(-7)cm^(3)*sec/g以上であり、ゲル強度が7,000乃至11,000Paである。
【0026】
特に、本発明の高吸水性樹脂は、後述されるように、内部架橋剤としてポリエチレングリコールジアクリレートなどのようにポリオールに二つ以上の(メタ)アクリレート基が結合された架橋剤を用いて重合を行い、表面架橋剤の種類および/または表面架橋温度条件を特定範囲で最適化して適用することによって、優れた保水能を有し溶液透過度に優れた特性を示すことができる。これにより、本発明の特定パラメータ物性を満たす高吸水性樹脂は、多様な衛生用品だけでなく、園芸用土壌保水剤、土木、建築用止水材、育苗用シート、食品流通分野の鮮度保持剤、および湿布用などの材料に広く使用可能である。
・・・
【0038】
また、前記高吸水性樹脂のゲル強度は7,000乃至11,000Pa、好ましくは7,500乃至10,800Pa、さらに好ましくは7,800乃至10,500Paであり得る。本発明の高吸水性樹脂は、前記遠心分離保水能(CRC)、加圧吸水能(AUP)、溶液透過度(SFC)が同時に優れた程度にシナジー効果を発揮することができるようにゲル強度範囲を最適化して保水能および溶液透過度に優れた高吸水性樹脂を製造することができる。
【0039】
一方、本発明の高吸水性樹脂は、酸性基を含み少なくとも一部が中和された水溶性エチレン系不飽和単量体を特定の内部架橋剤で重合させた粉末形態のベース樹脂を特定の表面架橋剤で表面架橋させた架橋重合体を含むことができる。特に、前記架橋重合体の架橋密度は前記加圧吸水能(AUP)数値に影響を与える要素であり得るので、本発明による方法によってベース樹脂を表面架橋させることが好ましい。
・・・
【0046】
一方、発明の他の実施形態によれば、前述のような高吸水性樹脂を製造する方法が提供される。前記高吸水性樹脂の製造方法は、水溶性エチレン系不飽和単量体、重合開始剤、および内部架橋剤を含む単量体組成物に熱重合または光重合を行って含水ゲル状重合体を形成する段階;前記含水ゲル状重合体を乾燥する段階;前記乾燥された重合体を粉砕する段階;および粉砕された重合体に表面架橋剤を添加して表面架橋反応を遂行する段階を含む。
【0047】
特に、本発明では前述のように内部架橋剤としてポリエチレングリコールジアクリレートなどを用いて重合を行い、表面架橋剤の種類および/または表面架橋温度条件を特定範囲で最適化して適用することによって、保水能に優れ溶液透過度に優れた特性を有する高吸水性樹脂を製造することができる。このように製造された高吸水性樹脂の遠心分離保水能(CRC)、加圧吸水能(AUP)、溶液透過度(SFC)、およびゲル強度を全て同時に最適化する複合的な物性結合でシナジー効果を提供することができる。
【0048】
本発明の高吸水性樹脂の製造工程で、前記内部架橋剤としては前述のような特定の架橋剤を使用することができる。これについては前述したので、追加的な説明は省略する。これに加えて、前述のように、表面架橋剤としてはハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす物質およびδ_(H)が4<δ_(H)<6(J/cm^(3))^(1/2)を満たす物質およびδ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たす物質からなる群より選択される1種以上の物質を使用して表面架橋反応を遂行することができる。
【0049】
前記高吸水性樹脂の製造方法によれば、向上した通液性を有しながらも保水能または加圧吸水能の低下なく物性が向上した高吸水性樹脂を製造することができる。
・・・
【0083】
その次に、粉砕された重合体にハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす物質およびδ_(H)が4<δ_(H)<6(J/cm^(3))^(1/2)を満たす物質およびδ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たす物質からなる群より選択される1種以上の物質を使用して表面架橋反応を遂行する。
【0084】
表面架橋は、粒子内部の架橋結合密度と関連して高吸水性高分子粒子の表面付近の架橋結合密度を増加させる段階である。一般に、表面架橋剤は高吸水性樹脂粒子の表面に塗布される。したがって、この反応は高吸水性樹脂粒子の表面上で起こり、これは粒子内部には実質的に影響を与えず、粒子の表面上での架橋結合性は改善させる。したがって、表面架橋結合された高吸水性樹脂粒子は内部でより表面付近でさらに高い架橋結合度を有する。
【0085】
本発明によれば、前記表面架橋剤としてハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす物質、δ_(H)が4<δ_(H)<6(J/cm^(3))^(1/2)を満たす物質、およびδ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たす物質からなる群より選択される物質を単独で使用するか、2つ以上の物質を組み合わせて使用することもできる。
【0086】
前記δ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす物質の例としては、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、プロピレングリコール、1,2-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-1,3-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、トリプロピレングリコール、およびグリセロールなどが挙げられる。また、前記4<δ_(H)<6(J/cm^(3))^(1/2)を満たす物質の例はエチレンカーボネート、プロピレンカーボネートが挙げられる。前記δ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たす物質の例はエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、およびグリセロールが挙げられる。しかし、本発明がこれに限定されるのではなく、前記パラメータの範囲を満たす物質であれば下記表1に記載されていない物質でも可能である。
【0087】
ハンセン溶解度パラメータ(Hansen solubility parameter)は一つの物質が他の物質に溶解されて溶液を形成する場合を予測する方法の一種であって、チャールズハンセン(Charles Hansen)によって提案された。これは、例えば「INDUSTRIAL SOLVENTS HANDBOOK」(pp.35-68、Marcel Dekker、Inc.、1996年発行)や、「DIRECTORY OF SOLVENTS」(pp.22-29、Blackie Academic & Professional、1996年発行)などに記載されているパラメータである。
【0088】
通常溶解度パラメータを計算するためには、凝集エネルギー(cohesive energy)を求めなければならず、ハンセン溶解度パラメータでは溶解度定数に影響を与える凝集エネルギーを下記の三つに分類して求める。
【0089】
δ_(D):非極性分散エネルギーによって発生する溶解度定数(単位:(J/cm^(3))^(1/2))
δ_(P):双極子極性エネルギーによって発生する溶解度定数(単位:(J/cm^(3))^(1/2))
δ_(H):水素結合エネルギーによって発生する溶解度定数(単位:(J/cm^(3))^(1/2))
δ_(tot):((δ_(D))^(2)+(δ_(P))^(2)+(δ_(H))^(2))^(1/2)
前記のようなパラメータを求めて、二つの物質のハンセン溶解度パラメータの差で二つの物質の溶解度の類似性を計算することができる。例えば、AとBの二つの物質に対してそれぞれのハンセン溶解度パラメータ値がそれぞれAの場合(δ_(DA)、δ_(PA)、δ_(HA))、Bの場合(δ_(DB)、δ_(PB)、δ_(HB))であると仮定する時、二つの物質のハンセン溶解度パラメータ値の差(Ra)は以下の式で計算できる。
・・・
【0091】
架橋剤として使用されるいくつかの物質に対してDr.Hansenグループで開発したHSPiP(Hansen Solubility Parameters in Practice、3rd edition version 3.1 published by Hansen-Solubility.com)プログラムによって計算されたハンセン溶解度パラメータ値は下記表1に示す通りである。
【0092】
【表1】

・・・
【0096】
前記表面架橋剤が添加された重合体粒子に対して約180℃以上または180乃至約190℃で20分以上または20分乃至40分間加熱させることによって表面架橋結合反応が行われる。前記表面架橋工程は、好ましくは約180乃至約190℃の温度で約30乃至約40分間加熱して遂行することができる。特に、本発明の表面架橋工程条件は最大反応温度190乃至200℃、総反応時間0.5乃至1時間、180℃以上の反応温度25分以上を維持しながら遂行することができる。例えば、表面架橋反応段階は、常温から180度まで到達時間が10分乃至50分、好ましくは20分乃至40分で遂行した後に、180度以上で滞留時間30分乃至50分、好ましくは35分乃至45分で遂行することができる。架橋反応温度が180度未満である場合、反応時間が多く必要になることがあり、200度を超過する場合、製品が炭化されながら臭いが発生することがある。また、架橋反応時間が20分未満で過度に短い場合、十分な表面架橋反応が行われず、表面架橋反応時間が60分を超過する場合、過度な表面架橋反応時間によって、重合体粒子の損傷による物性低下が発生することがある。
【0097】
表面架橋反応のための昇温手段は特に限定されない。熱媒体を供給するか、熱源を直接供給して加熱することができる。この時、使用可能な熱媒体の種類としてはスチーム、熱風、熱い油のような昇温した流体などを使用することができるが、本発明がこれに限定されるのではなく、また供給される熱媒体の温度は熱媒体の手段、昇温速度および昇温目標温度を考慮して適切に選択することができる。一方、直接供給される熱源としては電気による加熱、ガスによる加熱方法が挙げられるが、前述の例に本発明が限定されるのではない。
【0098】
前記のように本発明の製造方法によって得られた高吸水性樹脂は、保水能と加圧吸水能などの物性が低下しないとともに向上した通液性を有し得る。」
(エ)「【発明の効果】
【0100】
本発明によれば、高吸水性樹脂の遠心分離保水能(CRC)、加圧吸水能(AUP)、溶液透過度(SFC)、およびゲル強度を全て同時に優れた範囲で最適化することによって、最終おむつでの物性向上が可能であり、これによって超薄型技術が適用されたおむつを製造するすることができる。
【0101】
特に、本発明の高吸水性樹脂は、一定時間が経過しても水分がにじみ出る量(リウェット量、content of rewetting)が少なく、安らかで着用感に優れた衛生用品の製造に適用することができる。」
(オ)「【実施例】
【0103】
実施例1
アクリル酸100g、架橋剤としてポリエチレングリコールジアクリレート(Mw=523)0.5g、50%苛性ソーダ(NaOH)81.1gおよび水97.5gを混合してモノマー水溶液を製造した。
【0104】
その後、前記モノマー水溶液800gを0.26%アスコルビン酸溶液56.4gと、2.1%過硫酸ナトリウム溶液57.4gを混合して0.7%過酸化水素溶液56.2gと共に連続で重合を行いながらニーディングを行うことができる重合反応器の供給部を通じて投入して重合を実施した。この時、重合器の温度は80℃で維持し、重合の最高温度は110℃、重合時間は1分15秒である。その後、継続してニディンを実施して20分間重合とニディンを実施した。その後、生成された重合体の大きさは0.2cm以下に分布された。この時、最終形成された含水ゲル重合体の含水率は51重量%であった。
【0105】
その次に、前記含水ゲル重合体に対して180℃温度の熱風乾燥機で30分間乾燥し、乾燥された含水ゲル重合体をピンミル粉砕機で粉砕した。その後、ふるい(sieve)を用いて粒度(平均粒径大きさ)が150μm未満である重合体と粒度150μm乃至850μmの重合体を分級した。
【0106】
その後、製造されたベースポリマーに対して1,3-プロパンジオール0.5重量%およびプロピレングリコール0.5重量%を含む表面処理溶液を噴射して高吸水性樹脂の表面を処理した。また、前記表面を処理する段階で、分級された含水ゲル状重合体を一つの表面架橋反応器に供給し、180℃以上の温度で40分間含水ゲル重合体の表面架橋反応を行った。この時、ベースポリマー(Resin)の温度を直接モニターした値を表2に示した。
【0107】
前記表面処理後、ふるい(sieve)を用いた工程を通じて平均粒径大きさ150乃至850μmの表面処理された高吸水性樹脂を得た。前記高吸水性樹脂の製品に150μm以下の含量は2%未満であった。
【0108】
実施例2?4および比較例1?4
下記表2に示したような反応時間、反応温度、昇温条件などを異にしたことを除いては、実施例1と同様な方法で高吸水性樹脂を製造した。
【0109】
試験例
前記実施例1?4および比較例1?4により製造された高吸水性樹脂に対して次のような方法で物性評価を遂行し、測定された物性値は下記表2に示す通りである。
【0110】
(1)粒度評価
実施例1?4および比較例1?3に使用されたベースポリマーおよび高吸水性樹脂の粒度は、ヨーロッパ不織布産業協会(European Disposables and Nonwovens Association、EDANA)規格EDANA WSP 220.2方法により測定を行った。
【0111】
(2)遠心分離保水能(CRC、Centrifuge Retention Capacity)
ヨーロッパ不織布産業協会(European Disposables and N onwovens Association、EDANA)規格EDANA WSP 241.2により実施例1?4および比較例1?4の吸水性樹脂に対して、無荷重下吸収倍率による保水能を測定した。
・・・
【0127】
【表2】

【0128】
上記表2に示したように、本発明による実施例1?4の高吸水性樹脂は比較例1?4に比べて向上した通液性および優れた吸水性を示し、超薄型技術が適用されたおむつなどを生産することができる。」

エ サポート要件の検討
上記ウの(ア)及び(イ)の記載から、本件発明9は、「高吸水性樹脂の表面処理を通じて物性に優れながら特に初期吸水性に優れ、長時間経過後にも加圧状態で水分がほとんどにじみ出なくて吸水能に優れた高吸水性樹脂を提供」(上記ウ(イ))することを発明が解決しようとする課題としていると認められ、「本発明者は、初期吸水性に優れ、長時間経過後にも加圧状態で水分がほとんどにじみ出なく吸水能に優れた高吸水性樹脂に対する研究を繰り返す過程で、高吸水性樹脂の遠心分離保水能(CRC)、加圧吸水能(AUP)、溶液透過度(SFC)、およびゲル強度を全て同時に所定の範囲で最適化する場合に、最終おむつでの物性向上が可能であり、これによって超薄型技術が適用されたおむつを生産することができるのを確認して本発明を完成した。ここに発明の一実施形態によれば、初期吸水性に優れ、長時間経過後にも加圧状態で水分がほとんどにじみ出なく吸水能に優れた高吸水性樹脂が提供される。」、「本発明の高吸水性樹脂は、後述されるように、内部架橋剤としてポリエチレングリコールジアクリレートなどのようにポリオールに二つ以上の(メタ)アクリレート基が結合された架橋剤を用いて重合を行い、表面架橋剤の種類および/または表面架橋温度条件を特定範囲で最適化して適用することによって、優れた保水能を有し溶液透過度に優れた特性を示すことができる。」、「本発明によれば、前記表面架橋剤としてハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす物質、δ_(H)が4<δ_(H)<6(J/cm^(3))^(1/2)を満たす物質、およびδ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たす物質からなる群より選択される物質を単独で使用するか、2つ以上の物質を組み合わせて使用することもできる。」(上記ウ(ウ)の段落【0085】)と記載されていて、具体的な実施例1?4においては、表面架橋剤として、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)及が10.45であるプロピレングリコールとハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(tot)が、31.7である1,3-プロパンジオールを共に含んだものにより表面架橋されていて、得られた高吸水性樹脂は、CRC、AUP、SFCおよびゲル強度を全て同時に所定の範囲のものとなっている。
確かに、実施例1?4の高吸水性樹脂が、高吸水性樹脂の表面処理を通じて物性に優れながら特に初期吸水性に優れ、長時間経過後にも加圧状態で水分がほとんどにじみ出なくて吸水能に優れた高吸水性樹脂であるかどうか、明確には確認されていないが、本件出願時の当業者は、CRC、AUP、SFCが所定範囲にあることで、初期吸水性に優れた高吸水性樹脂といえることを理解できるし、上記本件特許明細書の記載を踏まえれば、ゲル強度をさらに所定の数値範囲をすることで、本件発明の課題が解決できるものと理解でき、その高吸水性樹脂が、本件発明9に記載の製造方法で得られることが理解できる。
なお、CRC、AUP、SFC及びゲル強度が所定範囲にあることで、初期吸水性に優れた高吸水性樹脂といえることについては、特許権者が令和1年12月27日に提出した乙1の実験成績証明書(以下に添付)においても確認できる。



そうすると、本件発明9が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるので、特許請求の範囲の記載は、サポート要件を満足するといえる。

オ 申立人の主張の検討
(ア)表面架橋剤について
申立人は、本件発明に表面架橋剤の種類と量、表面架橋剤の使用量及びその比率、表面処理液について特定されていないから、サポート要件を充足しない旨主張するが、上記検討のとおり、当業者であれば、本件発明9により本件発明9の解決しようとする課題を解決できると認識するので、請求人の主張は失当であって採用できない。
(イ)「温度が180度までに達する時間20?40分」について
申立人は、本件発明9の「温度が180℃までに達する時間20?40分」であることは、発明の詳細な説明の実施例に該当しておらず、サポート要件を充足しない旨主張するが、発明の詳細な説明で実施例が記載される段落【0106】には記載がないものの、当業者であれば、当該実施例において「温度が180℃までに達する時間20?40分」で表面架橋を行っているものと理解する。
してみれば、申立人の上記主張は失当であって採用できない。

カ まとめ
よって、申立理由4には理由がない。

(13) 申立理由5(実施可能要件)について
本件特許明細書の発明の詳細な説明【0103】?【0127】の実施例、特に【0107】?【0108】及び表2には、本件発明9の発明特定事項を満たす高吸水性樹脂が、本件発明9で特定される製造方法に従って得られていることが記載されているし、当該製造方法で製造された高吸水性樹脂が使用可能であることは当業者に自明である。
そうすると、当業者は、発明の詳細な説明の記載に基づいて、本件発明9を、過度の試行錯誤を要することなく実施することができるといえる。
よって、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満足するから、申立理由5には理由がない。

第6 むすび

以上のとおりであるから、本件特許の請求項9に係る特許は、令和2年11月20日付けで当審において通知した取消理由及び申立人が特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
さらに、他に本件特許の請求項9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項1ないし8に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】
酸性基を含み少なくとも一部が中和された水溶性エチレン系不飽和単量体の架橋重合体を含む粉末形態のベース樹脂を、表面架橋させた架橋重合体を含み、
生理食塩水に対する遠心分離保水能(CRC)が28g/g以上であり、
生理食塩水に対する0.7psiの加圧吸水能(AUP)が22g/g以上であり、
溶液透過度(SFC)が25×10^(-7)cm^(3)*sec/g?50×10^(-7)cm^(3)*sec/gであり、
ゲル強度が7,500乃至10,800Paである高吸水性樹脂の製造方法であって、
水溶性エチレン系不飽和単量体、重合開始剤、および内部架橋剤を含む単量体組成物に熱重合または光重合を行って含水ゲル状重合体を形成する段階;
前記含水ゲル状重合体を乾燥する段階;
前記乾燥された重合体を粉砕する段階;および
粉砕された重合体に表面架橋剤を添加して表面架橋反応を遂行する段階を含み、
前記内部架橋剤は、炭素数2乃至20のポリオールのジ(メタ)アクリレート、および炭素数2乃至20のポリオールのポリ(メタ)アクリレートからなる群より選択される1種以上を含み、
前記表面架橋剤は、ハンセン溶解度パラメータによって定義されるδ_(p)がδ_(p)<12(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種、およびδ_(tot)がδ_(tot)>31(J/cm^(3))^(1/2)を満たす表面架橋剤のうちの少なくとも1種を含み、
前記表面架橋反応の段階が、最大反応温度190℃?200℃、総反応時間0.5?1時間で行われ、
前記表面架橋反応の段階が、温度が180℃まで達するまで20?40分、その後180℃以上で25分以上維持して行われる
高吸水性樹脂を製造する方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-02-05 
出願番号 特願2016-511674(P2016-511674)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08J)
P 1 651・ 536- YAA (C08J)
P 1 651・ 537- YAA (C08J)
P 1 651・ 113- YAA (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岩田 行剛飛彈 浩一  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 大畑 通隆
大島 祥吾
登録日 2018-12-07 
登録番号 特許第6443998号(P6443998)
権利者 エルジー・ケム・リミテッド
発明の名称 高吸水性樹脂  
代理人 特許業務法人池内アンドパートナーズ  
代理人 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK  
代理人 特許業務法人池内アンドパートナーズ  

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