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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E04B
審判 全部申し立て 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降)  E04B
管理番号 1372704
異議申立番号 異議2020-700088  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-05-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-02-19 
確定日 2021-02-24 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6562360号発明「建物ユニット及び建物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6562360号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-20〕について訂正することを認める。 特許第6562360号の請求項1ないし20に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6562360号は、2015年(平成27年)7月1日(優先権主張 2014年(平成26年)7月9日)を国際出願日とする出願であって、令和1年8月2日にその特許権の設定登録がされ、令和1年8月21日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許について、令和2年2月19日に、特許異議申立人 齋藤 貴広(以下、「申立人」という。)より、特許異議申立書(以下、「申立書」という。)が提出され、請求項1ないし20に対して特許異議の申立てがされた。

その後の経緯は、以下のとおりである。
令和 2年 4月30日付け: 取消理由通知
令和 2年 7月 9日: 特許権者による意見書の提出及び訂正
の請求
(以下、「1次訂正請求」という。)
令和 2年 8月31日: 申立人による意見書の提出
令和 2年 9月25日付け: 取消理由通知(決定の予告)
令和 2年11月27日: 特許権者による意見書の提出及び訂正
の請求
(以下、「本件訂正請求」という。)
令和 3年 1月 7日: 申立人による意見書の提出

なお、1次訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。


第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。以下同様。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「建築現場以外で予め組み立てられた1つ又は複数のユニットと、建築現場以外で予め前記ユニットに設置され、かつ、室外機に接続される設備と、屋内側に凹むように構成され、かつ、前記室外機が設置される凹部とを有し、前記ユニットは、4つの外側面を有する建築構造体を有し、」と記載されているのを、「建築現場以外で予め組み立てられた、一の階を構成する第1ユニット及び前記第1ユニットの上方の階を構成する第2ユニットと、建築現場以外で予め前記第1ユニット及び前記第2ユニットの少なくとも一方に設置され、かつ、室外機に接続される設備とを有し、前記第1ユニットには、前記室外機が設置される凹部が設けられ、前記第1ユニット及び前記第2ユニットの各々は、4つの外側面を有する建築構造体を有し、」に訂正する(請求項1の記載を引用する訂正後の請求項2ないし20も、同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「前記4つの外側面のうち前記一の外側面以外の3つの外側面の少なくとも一つには内壁下地材が取り付けられている」と記載されているのを、「前記4つの外側面のうち前記一の外側面以外の3つの外側面の少なくとも一つには内壁下地材が取り付けられており、前記第1ユニットは、当該第1ユニットの建築構造体の骨組みを構成する第1の柱を有し、前記第2ユニットは、当該第2ユニット建築構造体の骨組みを構成する第2の柱を有し、前記第1の柱は、前記第2の柱の直下に位置し、前記凹部は、前記第1ユニットにおける前記一の外側面のうち少なくとも上部と対向する一対の側壁とを残して屋内側に凹ませるように設けられており、前記上部と前記一対の側壁とには、前記第1の柱が存在し、前記3つの外側面のうち前記対向する一対の側壁の少なくとも一方に対応する外側面に取り付けられた前記内壁下地材は、一枚の壁面を構成する一続きの下地材である」に訂正する(請求項1の記載を引用する訂正後の請求項2ないし20も、同様に訂正する)。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項10に「前記建物ユニットは、複数階の各々の階を構成する前記ユニットを複数個積み上げて構成されており、前記凹部は、最上階以外の階に設けられている」と記載されているのを、「前記建物ユニットは、前記第1ユニット及び前記第2ユニットを積み上げて構成されている」に訂正する(請求項10の記載を引用する訂正後の請求項11ないし20も、同様に訂正する)。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項19に「建築現場以外で予め組み立てられた1つ又は複数のユニットと、建築現場以外で予め前記ユニットに設置され、かつ、室外機に接続される設備とを有する建物ユニットと、前記建物ユニットをコアとして建築現場で施工された建築構造体と、前記建物ユニットを建築現場に設置することによって、屋内側に凹むように構成され、かつ、前記室外機が設置される凹部が設けられる」と記載されているのを、「請求項1?17のいずれか1項に記載の建物ユニットと、前記建物ユニットをコアとして建築現場で施工された建築構造体とを備え、前記凹部には、前記室外機が設置されている」に訂正する(請求項19の記載を引用する訂正後の請求項20も、同様に訂正する)。

2 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無、及び一群の請求項について

(1) 訂正事項1について
ア 訂正目的、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、
(ア)訂正前の請求項1における、「建築現場以外で予め組み立てられた1つ又は複数のユニット」について、「1つ又は複数のユニット」を、「一の階を構成する第1ユニット及び前記第1ユニットの上方の階を構成する第2ユニット」と限定し、
(イ)訂正前の請求項1における、「建築現場以外で予め前記ユニットに設置され、かつ、室外機に接続される設備」について、「室外機に接続される設備」を設置する「前記ユニット」を、「前記第1ユニット及び前記第2ユニットの少なくとも一方」と限定し、
(ウ)訂正前の請求項1における、「屋内側に凹むように構成され、かつ、前記室外機が設置される凹部」について、凹部が「屋内側に」凹むことに関する記載を請求項1の後半部に移して具体化する(後記(2)ア(イ)を参照)とともに、「室外機が設置される凹部」を設ける対象を「前記第1ユニット」と限定し、
(エ)訂正前の請求項1における、「前記ユニットは、4つの外側面を有する建築構造体を有し」について、「4つの外側面を有する建築構造体」を有する「前記ユニット」を、「前記第1ユニット及び前記第2ユニットの各々」と限定する、
という内容であるから、訂正前の請求項1に係る発明を限定したものと認めることができる。
そして、同訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、同法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定にも適合するものである。

イ 新規事項の有無
(ア)訂正事項1の上記ア(ア)に示した限定に関して、願書に添付した明細書の段落【0019】には、「建物ユニット1は、例えば2階建て以上の住宅の一部を構成する住宅ユニットであり、複数階の各々の階を構成する単位ユニットを複数個積み上げて構成されている。本実施の形態における建物ユニット1は、2階建て住宅の一部を構成するものであり、図1?図3に示すように、第1ユニット11及び第2ユニット12の2つの単位ユニットを積み重ねることによって構成されている。」と記載されている。また、願書に添付した明細書の段落【0022】には、「第1ユニット11は、複数階のうちの一の階を構成する単位ユニットであり、本実施の形態では、建物ユニット1の1階部分を構成する下ユニットである。第2ユニット12は、複数階のうちの他の階を構成するユニットであり、本実施の形態では、建物ユニット1の2階部分を構成する上ユニットである。つまり、第2ユニット12は、第1ユニット11の上方の階を構成する単位ユニットであり、本実施の形態では、第1ユニット11の直上階を構成するユニットである。」と記載されている。
そのため、訂正事項1において、上記ア(ア)に示した限定を行った点は、願書に添付した特許請求の範囲、明細書及び図面に記載された事項の範囲内で行ったものと認めることができる。

(イ)訂正事項1の上記ア(イ)に示した限定に関して、願書に添付した明細書の段落【0036】には、「建物ユニット1は、水廻り設備、空調設備及び電気設備等の設備(住宅設備)を有しており、これらの設備は、工場等の建築現場以外の場所で建物ユニット1に予め設置される。なお、建物ユニット1は、これらの設備の少なくとも1つを有していればよい。」と記載されている。また、願書に添付した明細書の段落【0043】及び【0044】には、「より具体的には、図4、図5及び図7に示すように、1階部分を構成する第1ユニット11に、第1給湯管(下給湯管)34a、第1給水管(下給水管)35a及び第1排水管(下排水管)36aが設置されている。一方、図4、図6及び図7に示すように、2階部分を構成する第2ユニット12には、トイレ31、ユニットバス32、洗面台33、第2給湯管(下給湯管)34b、第2給水管(下給水管)35b及び第2排水管(下排水管)36bが設置されている。なお、図4に示すように、本実施の形態では、第2ユニット12には洗濯機37が設置されており、洗濯機37には第2給水管35bが配管接続されている。」、及び、「これらの水廻り設備は、工場において予め建築構造体11a又は12aに組み込まれている。また、水廻り設備は、建築現場における現場施工により、給水管35を介して上水道に配管接続されるとともに、排水管36を介して下水道に配管接続される。なお、建物ユニット1は、これらの水廻り設備の少なくとも1つを有していればよい。また、これら以外に、キッチン等の他の水廻り設備を有していてもよい。」と記載されている。
そのため、訂正事項1において、上記ア(イ)に示した限定を行った点は、願書に添付した特許請求の範囲、明細書及び図面に記載された事項の範囲内で行ったものと認めることができる。

(ウ)訂正事項1の上記ア(ウ)に示した限定に関して、願書に添付した明細書の段落【0060】には、「図3?図5に示すように、建物ユニット1は、屋内側に凹むように構成された凹部16を有する。凹部16は、住宅の最上階以外の階に設けられ、本実施の形態では、1階部分を構成する第1ユニット11に設けられている。」と記載されている。
そのため、訂正事項1において、上記ア(ウ)に示した限定を行った点は、願書に添付した特許請求の範囲、明細書及び図面に記載された事項の範囲内で行ったものと認めることができる。

(エ)訂正事項1の上記ア(エ)に示した限定に関して、願書に添付した明細書の段落【0024】には、「第1ユニット11は、例えば木造軸組構法による建築構造体(軸組構造体)11aを有する。第2ユニット12は、第1ユニット11と同様に、例えば木造軸組構法による建築構造体(軸組構造体)12aを有する。」と記載されている。また、願書に添付した明細書の段落【0030】には、「一例として、図1及び図3に示すように、建築構造体11a及び12aの4つの外側面のうち、後述する凹部16が形成された一の外側面には外壁下地材13aが取り付けられており、それ以外の3つの外側面には内壁下地材13bが取り付けられている。」と記載されている。
そのため、訂正事項1において、上記ア(エ)に示した限定を行った点は、願書に添付した特許請求の範囲、明細書及び図面に記載された事項の範囲内で行ったものと認めることができる。

(オ)小括
したがって、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した特許請求の範囲、明細書及び図面に記載された事項の範囲内で、訂正前の請求項1についてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。

(2) 訂正事項2について
ア 訂正目的、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2は、
(ア)訂正前の請求項1における「1つ又は複数のユニット」について、「第1ユニット」が「当該第1ユニットの建築構造体の骨組みを構成する第1の柱」を有し、「第2ユニット」が「当該第2ユニット建築構造体の骨組みを構成する第2の柱」を有し、「前記第1の柱は、前記第2の柱の直下に位置」することを限定し、
(イ)訂正前の請求項1において、請求項1の前半に記載されていた、「屋内側に凹むように構成され」た「凹部」について、該「凹部」が「前記第1ユニットにおける前記一の外側面のうち少なくとも上部と対向する一対の側壁とを残して屋内側に凹ませるように設けられて」いること、及び、「凹部」を凹ませる際に残される「前記上部と前記一対の側壁とには、前記第1の柱が存在」することを限定し、
(ウ)訂正前の請求項1において、「前記一の外側面以外の3つの外側面の少なくとも一つ」に取り付けられている「内壁下地材」について、「前記3つの外側面のうち前記対向する一対の側壁の少なくとも一方に対応する外側面」に取り付けられていること、及び、「一枚の壁面を構成する一続きの下地材」であることを限定する、
という内容であるから、訂正前の請求項1に係る発明を限定したものと認めることができる。
また、同訂正事項2は、訂正前の請求項1に係る発明を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、同法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定にも適合するものである。

イ 新規事項の有無
(ア)訂正事項2の上記ア(ア)に示した限定に関して、願書に添付した明細書の段落【0024】には、「第1ユニット11は、例えば木造軸組構法による建築構造体(軸組構造体)11aを有する。第2ユニット12は、第1ユニット11と同様に、例えば木造軸組構法による建築構造体(軸組構造体)12aを有する。建築構造体11a及び12aは、複数の柱や梁等の建材からなる軸組と、根太等の建材からなる床組とによって構成されており、工場等の建築現場以外の場所において予め組み立てられている。」と記載されている。
また、願書に添付した図面の図5及び図6には、次の図が示されており、1階部分を構成する第1ユニット11と2階部分を構成する第2ユニット12とについて、壁の中に存在し斜線を付された大きめの部材は柱であると理解でき、当該部材に着目すると、第1ユニット11の四隅の柱は第2ユニット12の四隅の柱の直下に存在する様子を看て取ることができる。



そのため、訂正事項2において、上記ア(ア)に示した限定を行った点は、願書に添付した特許請求の範囲、明細書及び図面に記載された事項の範囲内で行ったものと認めることができる。

(イ)訂正事項2の上記ア(イ)に示した限定に関して、願書に添付した明細書の段落【0060】には、「図3?図5に示すように、建物ユニット1は、屋内側に凹むように構成された凹部16を有する。凹部16は、住宅の最上階以外の階に設けられ、本実施の形態では、1階部分を構成する第1ユニット11に設けられている。また、凹部16は、第1ユニット11の外側面の一部を凹ませるように設けられている。具体的には、凹部16は、第1ユニット11の外側面のうち上部18aと対向する一対の側壁18bとを残してそれ以外の部分を凹ませるように設けられている。」と記載されている。
また、願書に添付した図面の図5には、上記(ア)に示した図示があり、壁の中に存在し斜線を付された大きめの部材に着目すると、第1ユニット11で凹部を凹ませる際に残された上部と側壁とのうち、側壁の中に柱が存在する様子を看て取ることができる。
そのため、訂正事項2において、上記ア(イ)に示した限定を行った点は、願書に添付した特許請求の範囲、明細書及び図面に記載された事項の範囲内で行ったものと認めることができる。

(ウ)訂正事項2の上記ア(ウ)に示した限定に関して、願書に添付した明細書の段落【0030】には、「一例として、図1及び図3に示すように、建築構造体11a及び12aの4つの外側面のうち、後述する凹部16が形成された一の外側面には外壁下地材13aが取り付けられており、それ以外の3つの外側面には内壁下地材13bが取り付けられている。」と記載されている。
また、願書に添付した図面の図5及び図6には、上記(ア)に示した図示があり、平面図において左右方向に対向する一対の側壁に着目すると、当該一対の側壁のうち、建物の外側に面する以外の面には、内壁下地材を示す図番「13(13b)」が付された様子を看て取ることができる。
そして、同図5及び図6において、左右方向に対向する一対の側壁は、平面図において第1ユニット11及び第2ユニット12の短辺をなす側壁であり、各々の側壁において、建物の内側に面して取り付けた内壁下地材が、一枚の壁面とならず隙間を生じて隔離されたものとなるような構造は、特段設けられていない。
そのため、訂正事項2において、上記ア(ウ)に示した限定を行った点は、願書に添付した特許請求の範囲、明細書及び図面に記載された事項の範囲内で行ったものと認めることができる。

(エ)小括
したがって、訂正事項2に係る訂正は、願書に添付した特許請求の範囲、明細書及び図面に記載された事項の範囲内で、訂正前の請求項1についてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。

(3) 訂正事項3について
ア 訂正目的、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3は、訂正前の請求項10において、「積み上げ」ることで「前記建物ユニット」を構成する、「複数階の各々の階を構成する前記ユニット」の「複数個」を、訂正事項1により訂正された請求項1に記載される「前記第1ユニット及び前記第2ユニット」と限定するものである。
また、訂正事項3は、訂正前の請求項10における「前記凹部は、最上階以外の階に設けられている」との記載を削除するものであるが、当該記載については、訂正事項1により訂正された請求項1において、「一の階を構成する第1ユニット及び前記第1ユニットの上方の階を構成する第2ユニット」のうち、「第1ユニット」に「凹部」が設けられることが特定されていることから、重複する記載を省略したものと、認めることができる。
そのため、訂正事項3は、訂正前の請求項10に係る発明を限定したものと認めることができる。
また、同訂正事項3は、訂正前の請求項10に係る発明を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、同法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定にも適合するものである。

イ 新規事項の有無
上記(1)ア(ア)及び(ウ)に示した訂正事項1による限定について、上記(1)イ(ア)及び(ウ)において判断したのと同じ理由で、訂正事項3において限定した構成は、願書に添付した特許請求の範囲、明細書及び図面に記載された事項の範囲内であると認めることができる。
したがって、訂正事項3に係る訂正は、願書に添付した特許請求の範囲、明細書及び図面に記載された事項の範囲内で、訂正前の請求項10についてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。

(4) 訂正事項4について
ア 訂正目的、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
請求項19は「建物」の発明であるところ、訂正事項4は、
(ア)請求項19に係る「建物」が有する「建物ユニット」について、訂正前には、「建築現場以外で予め組み立てられた1つ又は複数のユニットと、建築現場以外で予め前記ユニットに設置され、かつ、室外機に接続される設備とを有する建物ユニット」であり、「前記建物ユニットを建築現場に設置することによって、屋内側に凹むように構成され、かつ、前記室外機が設置される凹部が設けられる」とのみ特定されていたところ、「請求項1?17のいずれか1項に記載の建物ユニット」とすることで、訂正事項1及び2により訂正された請求項1に係る「建物ユニット」の全ての構成を有するものに限定し、
(イ)請求項19に係る「建物」において、「建物ユニット」の「前記凹部」に「室外機が設置されている」ことを限定する、
という内容であるから、訂正前の請求項19に係る発明を限定したものと認めることができる。
また、同訂正事項4は、訂正前の請求項19に係る発明を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、同法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定にも適合するものである。

イ 新規事項の有無
(ア)訂正事項4の上記ア(ア)に示した限定は、訂正事項1及び2について上記(1)イ及び上記(2)イで判断したのと同様の理由で、願書に添付した特許請求の範囲、明細書及び図面に記載された事項の範囲内で行ったものと認めることができる。

(イ)訂正事項4の上記ア(イ)に示した限定に関して、願書に添付した図面の図3、図8、図13及び図14Fに、建物を構成する建物ユニットの凹部に室外機を設置した様子が示されている。
そのため、訂正事項4において、上記ア(イ)に示した限定を行った点は、願書に添付した特許請求の範囲、明細書及び図面に記載された事項の範囲内で行ったものと認めることができる。

(ウ)小括
したがって、訂正事項4に係る訂正は、願書に添付した特許請求の範囲、明細書及び図面に記載された事項の範囲内で、訂正前の請求項19についてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。

(5)一群の請求項、及び独立特許要件について
訂正前の請求項1ないし18及び20について、請求項2ないし18及び20は、請求項1を直接又は間接的に引用しているから、訂正事項1及び2によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正がされるものである。また、訂正前の請求項19及び20について、請求項20は、請求項19を引用しているから、訂正事項4によって記載が訂正される請求項19に連動して訂正がされるものである。そして、訂正前の請求項1ないし18及び20と、請求項19及び20とは、共通する請求項20を介して一体として特許請求の範囲の一部を形成するように連関している。
そのため、請求項1ないし20は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に該当する。
訂正事項1ないし4は、一群の請求項である訂正前の請求項1ないし20について、特許請求の範囲を減縮するものであるから、本件訂正は、一群の請求項[1?20]に対して請求されたものである。
そして、本件においては、訂正前の請求項1ないし20について特許異議の申立てがされているから、訂正事項1ないし4により特許請求の範囲の減縮が行われていても、訂正後の請求項1ないし20に係る発明について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

3 申立人の主張
申立人は、訂正事項2における「内壁下地材」が「一枚の壁面を構成する一続きの下地材」であるとの限定と同内容の限定を含む1次訂正請求に関し、令和2年8月31日付け意見書において、技術常識的に継目が存在する可能性が高い下地材に対して、【図5】及び【図6】において内壁下地材を示す13bの部材が一本線で示されていることのみを根拠として、継目が存在しないことを導出できないから、新規事項の追加である旨を主張していた(第3頁第14行?第22行)。
しかしながら、訂正事項2は、当該内壁下地材について、「一枚の壁面を構成する一続きの下地材」であると特定しているところ、広辞苑第六版には、「一続き」について、「個々のものが切れ目なく続き、一つのまとまりをなしているさま。また、その連なり。」と記載されており、広辞苑の当該記載を参照しても、「一続きの下地材」は、個々の下地材の連なりと解することができる。その一方、訂正事項2において、「一続きの下地材」の中に継目が存在しないことまでは、特定されていない。そして、願書に添付した図面の図5及び図6において、内壁下地材を示す図番「13(13b)」が付された、左右方向に対向する一対の側壁に着目すると、平面図において第1ユニット11及び第2ユニット12の短辺をなす各々の側壁について、建物の内側に面して取り付けた内壁下地材13bが、一枚の壁面とならず隙間を生じて隔離されたものとなるような構造は、特段設けられていないことは、先に2(2)イ(ウ)に指摘したとおりである。
なお、申立人は、本件訂正請求に対する令和3年1月7日付け意見書においては、本件訂正が訂正要件を満たさない旨の主張はしていない。
したがって、申立人の主張を考慮しても、本件訂正が訂正要件を満たすか否かについて、上記2と異なる判断をすべき事情を見いだすことはできない。

4 まとめ
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-20〕について訂正を認める。


第3 本件訂正発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし20に係る発明(以下、各々を「本件訂正発明1」等といい、請求項1ないし20に係る発明をまとめて「本件訂正発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし20に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
建物の一部を構成する建物ユニットであって、
建築現場以外で予め組み立てられた、一の階を構成する第1ユニット及び前記第1ユニットの上方の階を構成する第2ユニットと、
建築現場以外で予め前記第1ユニット及び前記第2ユニットの少なくとも一方に設置され、かつ、室外機に接続される設備とを有し、
前記第1ユニットには、前記室外機が設置される凹部が設けられ、
前記第1ユニット及び前記第2ユニットの各々は、4つの外側面を有する建築構造体を有し、
前記設備は、前記4つの外側面で囲まれる空間内に設置されており、
前記4つの外側面のうち前記凹部が形成された一の外側面には外壁下地材が取り付けられており、
前記4つの外側面のうち前記一の外側面以外の3つの外側面の少なくとも一つには内壁下地材が取り付けられており、
前記第1ユニットは、当該第1ユニットの建築構造体の骨組みを構成する第1の柱を有し、
前記第2ユニットは、当該第2ユニット建築構造体の骨組みを構成する第2の柱を有し、
前記第1の柱は、前記第2の柱の直下に位置し、
前記凹部は、前記第1ユニットにおける前記一の外側面のうち少なくとも上部と対向する一対の側壁とを残して屋内側に凹ませるように設けられており、
前記上部と前記一対の側壁とには、前記第1の柱が存在し、
前記3つの外側面のうち前記対向する一対の側壁の少なくとも一方に対応する外側面に取り付けられた前記内壁下地材は、一枚の壁面を構成する一続きの下地材である
建物ユニット。

【請求項2】
前記設備には、空調設備が含まれており、
前記凹部内に設置される前記室外機には、前記空調設備と冷媒管によって接続された空調室外機が含まれている
請求項1に記載の建物ユニット。

【請求項3】
前記設備には、水廻り設備が含まれており、
前記凹部内に設置される前記室外機には、貯湯タンクが含まれており、
前記貯湯タンクは、前記水廻り設備と配水管によって接続されている
請求項2に記載の建物ユニット。

【請求項4】
前記設備には、電気設備が含まれており、
前記凹部内に設置される前記室外機には、前記電気設備と電気配線によって接続された蓄電装置が含まれている
請求項1?3のいずれか1項に記載の建物ユニット。

【請求項5】
前記凹部内には、当該建物ユニットに組み込まれた前記設備に接続された全ての前記室外機が配置される
請求項1?4のいずれか1項に記載の建物ユニット。

【請求項6】
前記凹部には、ファンが設けられている
請求項1?5のいずれか1項に記載の建物ユニット。

【請求項7】
前記ファンは、前記凹部の上部に設けられている
請求項6に記載の建物ユニット。

【請求項8】
前記ファンは、屋外側に向けて送風を行う
請求項6又は7に記載の建物ユニット。

【請求項9】
前記ファンは、常時換気の排気ファンである
請求項6?8のいずれか1項に記載の建物ユニット。

【請求項10】
前記建物は、2階建て以上であり、
前記建物ユニットは、前記第1ユニット及び前記第2ユニットを積み上げて構成されている
請求項1?9のいずれか1項に記載の建物ユニット。

【請求項11】
前記凹部には、屋内に通じる扉が設けられている
請求項1?10のいずれか1項に記載の建物ユニット。

【請求項12】
前記凹部を閉じるように、通気性を有する目隠し部材が設けられている
請求項1?11のいずれか1項に記載の建物ユニット。

【請求項13】
前記設備を操作するための操作盤、分電盤及び情報盤が集約収納された収納室を有し、
前記収納室は、前記凹部の横に設けられている
請求項1?12のいずれか1項に記載の建物ユニット。

【請求項14】
前記ユニットは、木造軸組構法によって構成されている
請求項1?13のいずれか1項に記載の建物ユニット。

【請求項15】
前記ユニットは、さらに、建築現場以外で予め設置された水廻り設備を備え、
前記水廻り設備には、バス、トイレ、洗面台及びキッチンの少なくとも1つが含まれている
請求項1?14のいずれか1項に記載の建物ユニット。

【請求項16】
前記ユニットは、さらに、建築現場以外で予め設置された空調設備を備える
請求項1?15のいずれか1項に記載の建物ユニット。

【請求項17】
前記ユニットは、さらに、建築現場以外で予め設置された電気設備を備える
請求項1?16のいずれか1項に記載の建物ユニット。

【請求項18】
運搬されて建築現場に設置された請求項1?16のいずれか1項に記載の建物ユニットと、
前記建物ユニットをコアとして建築現場で施工された建築構造体とを備える
建物。

【請求項19】
請求項1?17のいずれか1項に記載の建物ユニットと、
前記建物ユニットをコアとして建築現場で施工された建築構造体とを備え、
前記凹部には、前記室外機が設置されている
建物。

【請求項20】
前記凹部の下には、基礎が設けられていない
請求項18又は19に記載の建物。」


第4 証拠一覧、異議申立理由の概要、取消理由の概要、及び証拠の記載
1 証拠一覧
(1)申立人により、申立書とともに提出された証拠は、以下のとおりである。

甲第1号証: 登録実用新案第3038195号公報
(1997年(平成9年)6月6日発行)
甲第2号証: 特開2000-54530号公報
(2000年(平成12年)2月22日公開)
甲第3号証: 特開平9-125523号公報
(1997年(平成9年)5月13日公開)
甲第4号証: 特開平4-360933号公報
(1992年(平成4年)12月14日公開)

(2)その他の証拠(当審が職権により探知)は、以下のとおりである。

文献1: 特許第4974707号公報
(2012年(平成24年)7月11日発行)
文献2: 特公平7-122289号公報
(1995年(平成7年)12月25日公告)
文献3: 特開平6-158728号公報
(1994年(平成6年)6月7日公開)

2 異議申立理由、及び取消理由の概要
(1)申立人による異議申立理由
申立人による異議申立理由の要旨は、次のとおりである。

(甲第1号証を主たる引用例とした進歩性)
本件特許の請求項1ないし10に係る発明、及び請求項12ないし19に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件特許の請求項11に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明、及び甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件特許の請求項20に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明、及び甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件特許の請求項1ないし20に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)令和2年9月25日付けの取消理由(決定の予告)
当審が令和2年9月25日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。

(文献1を主たる引用例とした進歩性)
本件特許の請求項1ないし13に係る発明、及び請求項15ないし20に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された文献1に記載された発明、及び文献2に示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件特許の請求項14に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された文献1に記載された発明、文献2に示される周知技術、及び文献3に示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件特許の請求項1ないし20に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

3 証拠に記載された事項
事案に鑑み、(1)文献1、(2)文献2、(3)文献3、(4)甲第1号証、(5)甲第2号証、(6)甲第3号証、(7)甲第4号証の順に、証拠の記載を確認すると、各証拠の記載は以下のとおりである。

(1)文献1
ア 文献1の記載
文献1には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付加した。以下、同様。)。

(ア)技術分野、背景技術、及び、発明が解決しようとする課題
「【技術分野】
【0001】
本発明は、複数階からなる建物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年では、住宅用のエネルギ関連設備として、例えば自然冷媒ヒートポンプ式電気給湯設備や燃料電池設備などが普及しつつある。これらの設備機器は、省エネルギ化により地球の環境保全を実現していく上でも今後益々普及が促進されると考えられる。こうした実情において、自然冷媒ヒートポンプ式電気給湯設備や燃料電池設備などの設備機器は、ガス給湯器などこれまでの設備機器に比べて体格が大きいため、建物の側方等に設置する場合において建物の外観とマッチングせず、建物の見栄えが損なわれる等の問題が生じている。
【0003】
住宅の室外側に住宅用設備機器を設置するための先行技術として、例えば特許文献1が開示されている。同特許文献1では、住宅の外壁を形成する外装ユニット内に、室外側に設置する住宅用設備機器を集合させて一体に組み込み設置している。より具体的には、空調機、給湯器、換気ユニットのいずれを組み合わせて設置することとしている。
【特許文献1】特開平11-141049号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1では、外装ユニット内に設備機器を収容する構成からして、設置対象となる設備機器は比較的小型なものに限られ、ヒートポンプ式電気給湯設備等の比較的大型の設備機器を設置することは困難である。ゆえに、こうした比較的大型の設備機器を建物側方に設置する上で改善の余地が残されている。
【0005】
本発明は、比較的大型の屋外設備機器であっても好適に設置することができ、しかも設備設置状態での建物の見栄えの低下を抑制することができる建物を提供することを主たる目的とするものである。」

(イ)課題を解決するための手段
「【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するのに有効な手段等につき、必要に応じて作用、効果等を示しつつ説明する。なお以下では、理解を容易にするため、発明の実施形態において対応する構成例を括弧書き等で適宜示すが、この括弧書き等で示した具体的構成に限定されるものではない。
【0007】
本発明の建物(建物10,40)は、複数階からなる建物であり、下階部分(一階部分11,41)の外壁面よりも外方に張り出すようにして上階部分(二階部分12,42)に張り出し部(張り出し部15,45)を設けるとともに、前記下階部分において前記張り出し部の下方となる外壁を無窓構成とし、さらに、前記張り出し部の下方において同張り出し部の屋外側縁部よりも屋外側へ出ない範囲で屋外設備機器用の設備設置スペース(設備設置スペースSA)を設定したことを特徴とする。例えば、前記張り出し部の底面と地上面との間に前記設備設置スペースが設けられているとよい。
【0008】
上記構成の建物によれば、建物の側方において張り出し部の下方に設けられた設備設置スペースは、張り出し部の平面寸法に応じて任意に変更でき、かつ下階部分の高さを有するスペースであるため、比較的背の高い大型の屋外設備機器、例えばエネルギ資源に関する設備(ヒートポンプ式電気給湯設備や燃料電池設備など)を設置する場合にも好適なる設置が可能となる。また、設備設置スペースに対面する外壁は無窓構成となっているため、当該設置スペースに背の高い屋外設備機器を設置してもそれに起因して視界や採光の妨げが生じるといった不都合も生じない。その結果、比較的大型の屋外設備機器であっても好適に設置することができ、しかも設備設置状態での建物の見栄えの低下を抑制することができる。
【0009】
また、前記下階部分において前記張り出し部の下方にアルコーブ(アルコーブ46)を設けた建物では、そのアルコーブの天井面と地上面との間に前記設備設置スペースが設けられているとよい。なお、アルコーブは、建物の外壁の一部に設けられた凹所のことである。本構成では、下階部分における外壁面よりも奥まった場所に設備設置スペースが設けられるため、比較的目立たないようにして設備設置スペースが設定できる。
【0010】
前記下階部分には、同下階部分の階高とほぼ同じ高さを有する隔壁パネル(隔壁パネル21,31,51)が、前記設備設置スペースを囲むようにして設けられているとよい。この場合、隔壁パネルによって、設備設置スペースに設置される屋外設備機器を完全に覆い隠すことが可能となる。
【0011】
前記隔壁パネルが、前記張り出し部の外壁面とほぼ面一で設けられているとよい。これにより、張り出し部の外壁面と隔壁パネルの外面とが連続し、建物全体としての一体感を生じさせることができる。したがって、建物の見栄えが向上する。
【0012】
なおここで、隔壁パネルの外面には、建物の外壁面と同じ外装材が取り付けられているとよい。これにより、設備設置スペース(及び同スペースに設けられた屋外設備機器)の存在を一層目立たなくすることができ、建物の外観向上が可能となる。また、隔壁パネルによる包囲スペース内に、人が通ることのできる通路スペース(通路スペースSB)が設けられているとよい。この場合、通路スペースを使い屋外設備機器のメンテナンス等を行うことができる。
【0013】
また、前記隔壁パネルに、開閉動作可能な開閉体(メンテナンス用扉32)が設けられ、その開閉体の開放に伴い前記設備設置スペースへのアクセスが可能となっているとよい。この場合、開閉体の開閉動作によって、設備設置スペースへの外部からのアクセスが可能となり、屋外設備機器のメンテナンス等を容易に行うことができる。
【0014】
前記開閉体に、その開閉を許可又は阻止するためのオートロック装置(オートロック装置36)を設け、前記設備設置スペース内に設置された屋外設備機器が運転状態にある場合に、前記オートロック装置をロック状態(施錠状態)に保持するとよい。なお、オートロック装置は、屋外設備機器の運転状態に応じてロック/アンロックが切り換えられる電気施錠装置である。
【0015】
上記構成によれば、屋外設備機器の運転中は、オートロック装置がロック状態に保持されるため、屋外側から設備設置スペースへのアクセスが禁じられた状態のままとなる。したがって、屋外設備機器へのアクセスが不可となり、その付近にいる人等の安全性が確保される。
【0016】
前記隔壁パネルには、前記設備設置スペース内の換気を行う換気設備(ルーバ34A,34B及び換気ファン35)が設けられているとよい。換気設備は、設備設置スペース内に屋外空気を取り込むとともに、当該スペース内の空気を屋外に排出するものであればよい。例えば、屋外設備機器としてヒートポンプ式電気給湯設備等を設置する場合、設備設置スペース内に熱がこもることも考えられる。この点、隔壁パネルに換気設備を設けることにより、熱のこもりが抑制できる。
【0017】
前記換気設備は、前記設備設置スペース内に設置された屋外設備機器の運転状況に応じて作動されるものであるとよい。例えば、屋外設備機器の運転開始に伴い換気設備を稼働させる。又は、屋外設備機器の運転負荷増加に伴い換気設備を稼働させる。この場合、設備設置スペース内が好適なる熱環境に保持できる。
【0018】
前記張り出し部の底面部には、前記設備設置スペースに設置される屋外設備機器から延びる配線や配管等を収容する収容部(収容部23)が設けられているとよい。これにより、屋外設備機器から延びる配線や配管等の収まりを改善することができる。特に、屋外設備機器が何らかの態様(電気的な接続や、気体又は液体の流通経路を含む)で建物の上階部分に接続される場合には、本構成が特に有効であると考えられる。
【0019】
ユニット式建物(ユニット式建物10,40)において、前記上階部分及び前記下階部分において各々対応させて建物ユニット(建物ユニットU1,U2)を設置するとともに、前記上階部分に、前記下階部分の建物ユニットに対して余剰となる付属ユニット(付属ユニットUF)を設け、その付属ユニットにより前記張り出し部を形成するとよい。これにより、強固な構成の張り出し部が構築できる。
【0020】
なお、上記のように付属ユニットによって張り出し部が構成される建物において、付属ユニットとそれに隣接する建物ユニットとによって一つの居室が形成されるとよい。すなわち、建物ユニット内に形成される居室が、付属ユニット分だけ拡張されるとよい。
【0021】
また、ユニット式建物において、前記上階部分及び前記下階部分において各々対応させて建物ユニットを設置するとともに、前記上階部分に、前記下階部分の建物ユニットよりも床面積が大きい大型ユニットを設け、その大型ユニットにより前記張り出し部を形成するとよい。これにより、やはり強固な構成の張り出し部が構築できる。」

(ウ)第1の実施形態
「【0022】
(第1の実施形態)
以下、本発明を具体化した第1の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、鉄骨ラーメンユニット工法にて構築された2階建てユニット式建物に具体化しており、そのユニット式建物10の外観を図1?図3に示す。なお図1には、建物10以外に、同建物10に付随する敷地内の外構等を併せ示し、図2、図3には、それら外構等を取り除いて建物10のみを示している。
【0023】
図1等において、敷地内には基礎Kが設けられ、その基礎K上に建物10が建てられている。建物10は、大別して一階部分11と二階部分12と屋根部分13とから構成されている。一階部分11の側方には、例えば建物10の敷地境界部に沿って外構としてのフェンスFが設置されている。
【0024】
建物10の一階部分11と二階部分12とを比較すると、二階部分12はその一部が一階部分11の外壁面よりも外方に張り出して張り出し部15となっている。張り出し部15は、建物10において玄関(図示略)とは異なる建物側面に設けられており、この意味からすれば、比較的目立たない場所に設けられている。
【0025】
また、建物10において張り出し部15と同じ建物側面には、その張り出し部15の外壁に窓16が設けられるとともに、一階部分11に窓17が設けられている。ここで特に、一階部分11の窓17は、張り出し部15の真下位置から外れた位置に設けられている。換言すれば、一階部分11において張り出し部15の真下位置の外壁(図2に示す破線枠X部分)には窓が設けられていない構成となっている。
【0026】
建物10は複数の建物ユニットが結合されて構築されたものであり、一階/二階の各部分11,12においてユーザの要望に合った間取りを実現すべく各々所定個数の建物ユニットが使用されて建物10が構築されている。建物ユニットの構成については周知であるため、図示による詳細な説明は割愛することとし、ここでは建物ユニットの構成を簡単に説明する。すなわち、建物ユニットは、四隅に設けられた柱と、各柱の上端部及び下端部を四辺に連結する各4本の天井大梁、床大梁とを有してなり、これらにより直方体状の骨格(フレーム)が形成されている。
【0027】
図4は建物ユニットの配置を示す平面図であり、(a)は一階部分11における建物ユニットの配置を、(b)は二階部分12における建物ユニットの配置を示す。また、図5は、建物10において骨組構造の一部を示す側面図である。
【0028】
図4に示すように、一階部分11は、いずれも同じ大きさ(床面積)を有する6つの建物ユニットU1を用いて構築されている。また、二階部分12は、一階部分11の建物ユニットU1と同じ大きさ(床面積)の6つの建物ユニットU2と、その建物ユニットU2よりも床面積が小さくかつ一階部分11の建物ユニットU1に対して余剰となる付属ユニットUFとを用いて構築されている。本実施形態において、一階部分11の6つの建物ユニットU1と、二階部分12の同じく6つの建物ユニットU2とは建物10の基本構造部分をなすものであるが、これらの個数や大きさ等は、一階部分11よりも二階部分12が外方にはみ出さないことを条件に任意である。
【0029】
上記のように構築される一階部分11と二階部分12とによれば、各々6つずつの建物ユニットU1,U2が上下に対応して設けられるとともに、付属ユニットUFが一階部分11(各建物ユニットU1)よりも外方に張り出して設けられることとなる。図5には、付属ユニットUFが張り出して設けられた状態を示しており、この付属ユニットUFにより張り出し部15が構成されるようになっている。付属ユニットUFは、二階部分12において隣接する建物ユニットU2に結合支持されるが、一階部分11の建物ユニットU1には結合支持されない構造となっている。
【0030】
各建物ユニットU1,U2は、必ずしもユニットごとに区画された空間部(居室)を形成するものではなく、隣接する各ユニットを跨ぐようにして空間部(居室)を形成することも可能となっている。この場合、付属ユニットUFについても同様であり、本実施形態では、付属ユニットUFとそれに隣接する建物ユニットU2によって1つの居室が形成されるようになっている。図4には、その居室空間を破線枠Yで示している。
【0031】
なお、図5に示すように、付属ユニットUFの天井大梁b1は、屋根勾配と同じ勾配角度で斜め方向に設けられている。これにより、付属ユニットUFを設けても、屋根の軒先部分の高さを抑えることができる。つまり、付属ユニットUFを取り付けていない建物と比較して、屋根の軒先部分の屋根高さをほぼ同じにすることが可能となる。このため、斜線制限(北側斜線制限等)のかかる場所でも敷地境界の比較的近くまで建物を建てることが可能となる。
【0032】
建物10において、二階部分12の張り出し部15の下方は、ヒートポンプ式電気給湯設備や燃料電池設備といった屋外設備機器Eを設置するための設備設置スペースSAとなっている(図4のハッチング部分参照)。すなわち、設備設置スペースSAは、張り出し部15の屋外側縁部よりも屋外側へ出ない範囲で、張り出し部15の底面と地上面(例えば、コンクリート製の叩き)との間に設けられている。例えば、ヒートポンプ式電気給湯設備は高さが2mほどの大きさを有し、ガス給湯器などに比べて体格が大きいものとなっている。この点、設備設置スペースSAは一階部分11の高さを有するスペースであるため、その大型の屋外設備機器Eであっても余裕を持って設置可能となっている。その設置状態が図1に示されている。
【0033】
設備設置スペースSAに対面する外壁、すなわち一階部分11において張り出し部15の下方の外壁(図2に示す破線枠X部分)には窓が設けられていない。そのため、比較的大型の屋外設備機器Eが設置された場合にも邪魔にならず、窓を通じての視界や採光が妨げられる等の不都合が生じないものとなっている。
【0034】
また、一階部分11において張り出し部15の下方には、設備設置スペースSAを囲むようにして隔壁パネル21が設けられている。隔壁パネル21は、例えば、透明又は半透明のポリカーボネート樹脂等からなるパネル体を枠体に組み付けて構成されるものである。隔壁パネル21は、一階部分11の階高とほぼ同じ高さを有しており、その上部には屋根が設けられている。図4に示すように、隔壁パネル21は、二階部分12の張り出し部15の外壁面よりも屋外側に張り出して設けられ、例えばその側面部には出入り口21aが設けられている。隔壁パネル21の内側には人の通行が可能な通路スペースSBが確保されている。この通路スペースSBを使って、屋外設備機器Eのメンテナンス等を行うことができるようになっている。
【0035】
ここで、二階部分12の張り出し部15には、屋外設備機器Eから延びるダクトや電気配線等を収容するための収容部が一体的に設けられていてもよい。すなわち、図6に示すように、二階部分12の張り出し部15の下方にはその底面部に沿って収容部23が設けられている。この収容部23は、屋外設備機器Eからすれば、直上に設けられることとなり、その収容部23内に、屋外設備機器Eから延びるダクトD等が収容されるようになっている。図示の構成例では、屋外設備機器Eから延びるダクトDが建物の二階部分12に導かれる構成において、そのダクトDの中途部分が収容部23内に収容されている。
【0036】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0037】
建物10において、二階部分12に張り出し部15を設けるとともに、その張り出し部15の下方となる一階外壁を無窓構成とし、さらに、張り出し部15の下方に屋外設備機器用の設備設置スペースSAを設定した。かかる構成において、設備設置スペースSAは、張り出し部15の平面寸法に応じて任意に変更でき、かつ一階部分11の高さを有するスペースであるため、ヒートポンプ式電気給湯設備や燃料電池設備など、比較的背の高い大型の屋外設備機器Eを設置する場合にもその設置が可能となる。また、設備設置スペースSAに対面する外壁は無窓構成となっているため、当該設置スペースに背の高い屋外設備機器Eを設置してもそれに起因して屋内側からの視界や採光が妨げられるといった不都合も生じない。その結果、比較的大型の屋外設備機器Eであっても好適に設置することができ、しかも設備設置状態での建物の見栄えの低下を抑制することができる。
【0038】
一階部分11に、設備設置スペースSAを囲むようにして隔壁パネル21を設けたため、その隔壁パネル21によって屋外設備機器Eを完全に覆い隠すことが可能となる。ゆえに、外観の向上を一層図ることができる。
【0039】
張り出し部15の底面部に収納部23を設けた構成によれば、屋外設備機器Eから延びる配線や配管等の収まりを改善することができる。
【0040】
ユニット式建物10において、二階部分12に付属ユニットUFを設けることで張り出し部15を形成したため、強固な構成の張り出し部15が構築できる。付属ユニットUFとそれに隣接する建物ユニットU2とによって一つの居室を形成する構成によれば、二階部分12において部分的に居室を拡張することができる。」

(エ)第3の実施形態
「【0055】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について、上述した第1の実施形態との相違点を中心に説明する。本実施形態におけるユニット式建物40の外観を図9?図11に示す。
【0056】
建物40は、大別して一階部分41と二階部分42と屋根部分43とから構成されている。建物40の二階部分42には、その一部が一階部分41の外壁面よりも外方に張り出して張り出し部45が形成されている。建物40では、上述した第1の実施形態の建物10との相違点として、一階部分41において張り出し部45の下方にアルコーブ46が設けられており、そのアルコーブ46により設備設置スペースSAが形成されている。アルコーブ46は、平面形状が矩形状をなす凹所であり、地上面から一階/二階の境界部までの上下方向範囲で設けられている。なお、張り出し部45には窓47が設けられ、一階部分41において張り出し部45の真下位置から外れた位置には窓48が設けられている。換言すれば、一階部分41において張り出し部45の真下位置の外壁(アルコーブ46の外壁部分)には窓が設けられていない構成となっている。
【0057】
図12は、建物40における建物ユニットの配置を示す平面図であり、(a)は一階部分41における建物ユニットの配置を、(b)は二階部分42における建物ユニットの配置を示す。図12におけるユニット配置は図4に等しいが、一階部分41において建物ユニットU1の1つ(建物ユニットU1a)にアルコーブ46が設けられている点が相違している。
【0058】
建物ユニットU1aは、本来存在する4つの床大梁の1つを無くし、その部位にアルコーブ46を形成した構造となっている。この場合、基礎Kは、アルコーブ部分を迂回するようにして一部屋内側に凹んだ形状で設けられている。
【0059】
また、一階部分42において張り出し部45の下方には、設備設置スペースSAを囲むようにして隔壁パネル51が設けられている。隔壁パネル51は、例えば、透明又は半透明のポリカーボネート樹脂等からなる透明パネルを枠体に組み付けて構成されるものであり、その上部には屋根が設けられている。ただし、隔壁パネル51は、一階部分11の外壁パネルと同じ外装材を用いて構成されるものであってもよい。
【0060】
図12に示すように、隔壁パネル51は、一階部分31の外壁面よりも屋外側に張り出すようにして設けられ、その内側には人の通行が可能な通路スペースSBが確保されている。この通路スペースSBを使うことで、屋外設備機器Eのメンテナンス等を行うことができるようになっている。
【0061】
以上第3の実施形態においても、上記第1の実施形態と同様に、比較的大型の屋外設備機器Eであっても好適に設置することができ、しかも設備設置状態での建物の見栄えの低下を抑制することができる。
【0062】
上記のごとくアルコーブ46を設けた建物40において、第2の実施形態のごとく、隔壁パネル51の正面部に開閉体(メンテナンス用扉)を設け、その開閉体の開放に伴い設備設置スペースSAへのアクセスが可能となる構成を採用することも可能である。またこの場合、前記同様、開閉体(メンテナンス用扉)にオートロック装置を設けたり、隔壁パネルに換気設備(ルーバや換気ファン)を設けたりすることも可能である。」

(オ)変形例
「【0063】
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施されても良い。
【0064】
上記第1,第2の実施形態では、ユニット式建物10において、二階部分12の建物ユニットU2の桁面に付属ユニットUFを結合させたが(図4参照)、これを変更し、同じく建物ユニットU2の妻面に付属ユニットUFを結合させる構成であってもよい。この場合、図13に示すように張り出し部15が設けられることとなる。第3の実施形態のユニット式建物40においても同様である。
【0065】
二階部分12,42の建物ユニットU2において、複数の付属ユニットUFを横並びで連続設置することも可能である。また、張り出し部15,45を複数箇所に分けて設けることも可能である。
【0066】
上記実施形態では、例えば建物10において、二階部分12の建物ユニットU2に付属ユニットUFを設けることで張り出し部15を形成したが、これを変更する。例えば、二階部分12に、一階部分11の建物ユニットU1よりも床面積が大きい大型ユニットを設け、その大型ユニットにより張り出し部を形成してもよい。
【0067】
上記実施形態では、本発明をユニット式建物に具体化した事例について説明したが、他の構造の建物にも適用できる。例えば、鉄骨軸組み工法にて建造される建物や、在来木造方向にて建造される建物に本発明を具体化することも可能である。」

(カ)図面
文献1には、以下の【図4】、及び第3の実施形態に関する【図10】ないし【図12】がある。

「【図4】





【図12】



(キ)上記(カ)の図10ないし図12より、建物40の1階の建物ユニットの一つである建物ユニットU1a、並びに、建物ユニットU1aの上に結合される建物ユニットU2及び付属ユニットUFについて、次のことが看てとれる。
a 建物ユニットU1aの上に結合される建物ユニットU2及び付属ユニットUFが、張り出し部45を形成していること
b 建物ユニットU1a、並びに、建物ユニットU2及び付属ユニットUFが、4つの側面を有すること
c 建物ユニットU1aには、張り出し部45の真下位置の建物40の外壁となる、平面図で見て長辺をなす1側面に、アルコーブ46が形成されていること
d 建物ユニットU1aの、アルコーブ46が形成される側面を挟んで対向する、平面図で見て短辺をなす2側面のうちの1側面は、建物40の内側に面すること

(ク)図12a及び図12bより、建物ユニットU1a及びU2の四隅に示された四角の記号は、段落【0026】に記載される「四隅に設けられた柱」を示すことが、技術常識からみて明らかであることを勘案すると、次のことも看て取れる。
a 建物ユニットU1aの四隅に設けられた柱は、建物ユニットU1aの上に位置する建物ユニットU2の四隅に設けられた柱の直下に位置すること
b 建物ユニットU1aにおいて、アルコーブ46が形成される側面は、建物ユニットU1aの四隅に設けられた柱のうち2つの柱より内側の略全域に亘って、屋内側に凹んでいること

(ケ)段落【0030】及び図4bを参酌すれば、図10ないし図12に示される第3の実施形態の建物40について、次の事項が理解できる。
a 建物40の内部には、区画された空間部(居室)である居室空間が形成されていること
b 付属ユニットUFとそれに隣接する建物ユニットU2によって、1つの居室空間Yを形成すること
c 建物40の、アルコーブ46には、屋外設備機器Eが設置されていること

イ 文献1に記載された発明
上記アより、アルコーブを設けた第3の実施形態の建物40について、建物ユニットU1aとその上に結合される建物ユニットU2及びUFとの組み合わせに着目すると、文献1には、次の発明(以下、「文献1発明」という。)が記載されていると認められる。

「基礎K上に建てられ、二階部分42と一階部分41とを有し、二階部分42の建物側面に、一階部分41の外壁面よりも外方に張り出す張り出し部45が設けられており、建物の内部には区画された空間部(居室)である居室空間が形成される、建物40において、
直方体状の骨格を形成する四隅に設けられた柱を有する建物ユニットである、一階部分41の建物ユニットU1a、並びに、建物ユニットU1aの上に結合される二階部分42の建物ユニットU2及び付属ユニットUFであって、
建物ユニットU1a、並びに、建物ユニットU2及び付属ユニットUFは、4つの側面を有し、建物ユニットU1aの四隅に設けられた柱は、建物ユニットU1aの上に位置する建物ユニットU2の四隅に設けられた柱の直下に位置し、
建物ユニットU1aには、張り出し部45の真下位置の建物40の外壁となる、平面図で見て長辺をなす1側面に、平面形状が矩形状の凹所となるアルコーブ46が、地上面から一階/二階の境界部までの上下方向範囲で形成されており、
建物ユニットU1aの、アルコーブ46が形成される側面を挟んで対向する、平面図で見て短辺をなす2側面のうちの1側面は、建物40の内側に面しており、
建物ユニットU1aは、本来存在する4つの床大梁の1つを無くし、その部位にアルコーブ46を形成した構造であり、建物ユニットU1aにおいて、アルコーブ46が形成される側面は、建物ユニットU1aの四隅に設けられた柱のうち2つの柱より内側の略全域に亘って、屋内側に凹んでおり、
建物ユニットU1aの上に結合される建物ユニットU2及び付属ユニットUFは、4つの側面を有し、二階部分42に張り出し部45を形成し、
建物ユニットU1aの上に結合される建物ユニットU2及び付属ユニットUFは、付属ユニットUFとそれに隣接する建物ユニットU2によって1つの居室空間Yを形成し、
建物ユニットU1aの下の基礎Kは、アルコーブ46部分を迂回するように、一部屋内側に凹んだ形状で設けられ、
凹所となるアルコーブ46は、ヒートポンプ式電気給湯設備や燃料電池設備といった屋外設備機器Eを設置するための、設備設置スペースSAを形成し、
設備設置スペースSAには、大型の屋外設備機器Eであっても余裕を持って設置可能であり、屋外設備機器Eから電気的な接続や気体又は液体の流通経路を含む接続のために延びるダクトや電気配線等を収容するための収容部を、二階部分42の張り出し部45に設けてもよく、
設備設置スペースSAを囲むようにして半透明のポリカーボネート樹脂等からなる透明パネルを枠体に組み付けて構成される隔壁パネル51を設けてよく、隔壁パネル51の内側には、人の通行が可能な通路スペースSBを確保して、屋外設備機器Eのメンテナンス等を行うことができるようにしてよく、隔壁パネル51にはルーバや換気ファンといった換気設備を設けることも可能である、
建物ユニットU1a、並びに、建物ユニットU1aの上に結合される建物ユニットU2及び付属ユニットUF。」

(2)文献2
文献2には、次の事項が記載されている。
ア 産業上の利用分野、及び、従来の技術(第2欄第1行-第3欄第3行)
「産業上の利用分野
この発明は、在来木造住宅のユニット構法に関するものである。
従来の技術
我が国における木造住宅に対する需要は根強いものがあるが、一般にこの種の木造住宅をユニット化したものは非常に少なく、ほとんど現場で在来工法によって施工されている。すなわち、施工業者が木造住宅の注文を受けると、まず設計者が注文主の要望に応じて間取りその他の設計を行ない、現場では、その設計に従って施工する。浴室、トイレ、キッチンといった水回りの機能設備についても同様である。
尚、上記機能設備については、そのような浴室、トイレ、洗い場、キッチン等の機能設備を組込んだ設備ユニットと、居間、寝室等の一般の居室ユニットを工場生産し、現場に設置されたこれらユニット間のフリースペース部分を現場施工するようにしたものが考えられている(特公昭51-39011号公報参照)。」

イ 課題を解決するための手段(第3欄第28行-第39行)
「課題を解決するための手段
上記の目的を達成するため、この発明では、浴室、トイレ、洗い場、キッチン等の設備機器を予め装備した設備付き居室ユニットを工場生産して現場へ設置し、この設備付き居室ユニットをコアとして、その他の玄関、居室などを在来工法によってその設備付き居室ユニットの平面部を作業床としながら現場施工して、それら設備付き居室ユニットと現場施工部分とを一体の構造体とすることを特徴とするものである。
上記において、設備付き居室ユニットは車輛による運搬を考慮し、複数の分割ユニットに分割して運搬し、これを現場で接合することが考えられる。」

ウ 実施例(第3欄第40行-第4欄第9行)
「実施例
第1図及び第2図はこの発明の実施例を示し、第1図は本発明の設備付き居室ユニット(1)をコアとして建築した改良型在来工法住宅の平面図、第2図はその設備付き居室ユニット(1)の横断平面図である。設備付き居室ユニット(1)は、トイレ(2)、浴室(3)、洗面台(4)と洗濯機を設置するスペースを備えた洗い場(5)、および、キッチン(6)と食堂の一部(7)を備えた方形に形成されている。このような設備付き居室ユニット(1)は、あらかじめ工場で生産されるが、道路交通法では、その運搬物の幅が約2.5メートル以内となるよう定められており、また、ある程度狭い道路でも運搬できるよう、トイレ(2)及び浴室(3)からなる第1の分割ユニットA、洗い場(5)からなる第2の分割ユニットB、キッチン(6)からなる第3の分割ユニットC、及び、食堂の一部(7)からなる第4の分割ユニットDに分割して製作し、これらを個別に現場まで運搬して互いに接合する。第1図では、この設備付き居室ユニット(1)へ、玄関(8)、居間(9)及び寝室(10)等を在来工法によって建築したものである。」

(3)文献3
文献3には、次の事項が記載されている。
「【0009】所定に裁断した垂直材と水平材とを用いて工場内において、所定の大きさの軸組みによる骨組みを成形し、これら骨組みによって、底部や天部あるいは側部の四面に形成された空間部に、それぞれに見合う各パネルを装着して箱形のユニットを形成する。
【0010】そして、このユニットの内部には、工場内において内装仕上材や電気,ガス配設等の必要設備を設置させると、一ブロックにおける建造物ができ上がる。
【0011】このユニットの一ブロックずつを、現場における基礎上やすでに載置されたユニット上へ据え付け、更に、隣り合う該ユニットを連結手段により結合することにより木造建築物が構築される。
【0012】
【実施例】次に本発明に関する木造建築物の構築方法の一実施例を図面に基づいて説明する。
【0013】図3においてAは建築物で、木造軸組みによる骨組みbの工程と、所定の被覆材1,2,3を装着してユニットcを形成する工程と、該ユニットcに内外装や必要設備を施す工程とを経て、工場において一連のライン製造により行なわれるたものを、現場において組み付ける。」

(4)甲第1号証
ア 甲第1号証の記載
甲第1号証には、次の事項が記載されている。

(ア)従来の技術、考案が解決しようとする課題、及び課題を解決するための手段
「【考案の属する技術分野】
本考案は、建築物の水廻りの部分を全て含むウエットエリア・ユニットに関する。
【0002】
【従来の技術】
建築物における水廻りとは、一般的に、浴室、トイレ(便所)、洗面化粧台、台所等のことである。この水廻りの部分の施工は、様々な業種の各工事施工会社の作業員が、建設現場において、設備配管工事、配線工事、各種器具の取付け工事、及び内装工事などをそれぞれ別々に行っている。つまり、従来の建築物の工事では、建築物の水廻り工事を完成させるのに多種多様の工事が必要であり、また各工事においてそれぞれの専門的な知識と経験を持った業者が必要となっており、そのため各工事の工期も長くかかっていた。また、従来より、グラスファイバー等の素材により浴槽、トイレ及び洗面化粧台を一体成形したバス・ユニットが存在している。
【0003】
【考案が解決しようとする課題】
しかしながら、このような従来からのバス・ユニットは、浴槽、トイレ及び洗面化粧台の据え付けが一度にできるというものに過ぎず、浴槽、トイレ及び洗面化粧台をそれぞれ据え付ける手間が省けるという程度の効果しかなく、台所などを含む水廻り全体の工事や、配管工事、電気配線工事及び内装工事などを簡略化できるものとはなっていはいない。また、この従来からのバス・ユニットは、そのユニット自体に強度がないため、そのユニットにより建築物の構造体を形成するという効果は全く期待できない。
【0004】
本考案はこのような従来技術の課題に着目してなされたもので、建築現場での水廻りの施工工事を大幅に簡略化できると共に、ユニットを建築物の構造体としても使用できるようにしたウエットエリア・ユニットを提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
このような課題を解決するための本考案によるウエットエリア・ユニットは、住宅などの建築物に設置される水廻り設備であって、浴室、洗面化粧台、便所及び台所を構成する部分が互いに組み合わせられて一つのユニットとして構成されており、さらに、このユニットには、そのユニットを構成する各部分に必要な排水配管工事、給水配管工事、電気配線工事、及び内装工事が、生産工場内で予め行われており、このユニットの壁部には、ユニット外部の給排水配管に接続するための接続部及びユニット外部から電力の供給を受けるための接続部が形成されている、ことを特徴としている。
【0006】
さらに、本考案によるウエットエリア・ユニットでは、前記のユニットの壁部は、建築物の構造体となることができるように、生産工場内で予め鉄骨で補強されているのがよい。
【0007】
以上のように、本考案によるウエットエリアユニットは、建築物における従来の水廻り工事を簡略化するために、トイレ、浴室、洗面化粧台及び台所などの水廻り設備機器を一つのユニット内に納めた物を工場で予め生産し、しかもそれら設備機器に必要な給排水配管工事及び電気配線工事の全て、さらにその内装工事までをも生産工場等で予め行ってしまう、という製品である。
【0008】
さらにまた、本考案によるウエットエリアユニットは、それ自体、壁部(外郭)骨組みを鉄骨等で補強する事により、コンクリート構造物・木造構造物を問わずそのまま搬入でき、建築物の構造体の一部として使用計算できるようにしている。特に、本考案のユニットをコンクリート工事を伴う構造物に使用した場合には、ウエットエリアユニット自体に建築構造的強度があるため、このウエットエリア・ユニットをコンクリート型枠の代用品として使用して、ウエットエリア・ユニットの上部等に生コンクリートを直接流し込む事が出来る。そのため、ホテルやマンションなどのように共通の間取りを有する多数の部屋又は住宅を含む共同住宅などのコンクリート建造物の施工工事にこのウエットエリア・ユニットを使用すれば、その施工工事の効率化の効果は計り知れないものがある。」

(イ)考案の実施の形態
「【0009】
【考案の実施の形態】
以下、図面を参照して本考案の実施形態を説明する。図1は本実施形態によるホテルの部屋を示す間取り図である。この間取り図の中のAで示す部分が、本実施形態によるウエットエリア・ユニットである。このウエットエリア・ユニットは、図2に拡大して示すように、浴槽1を含む浴室、便器2を含むトイレ、洗面化粧台3を含む脱衣所、及び炊事場4を含む台所(キッチン)が、一つのユニットとして纏められて構成されている。このユニットの四方を囲む壁部5は鉄骨により補強されて、建築物の構造体としての強度が持たせられている。
【0010】
また、図3及び図4は図2のユニットを示す斜視図である。図3?4の斜視図及び図5に示すように、このユニットには、浴槽1、便器2、洗面化粧台3、及び炊事場4とユニット外部の下水道とを互いに連結するための排水管7が、生産工場内で予め備え付けられている。また、図3?4の斜視図に示すように、このユニットには、浴槽1、便器2、洗面化粧台3、及び炊事場4と水道とを互いに連結するための給水管8が、生産工場内で予め備え付けられている。さらに、図3?4の斜視図及び図6に示すように、このユニットには、前記浴室、トイレ、及び台所とホテル全体の排気を行うための排気口9(この排気口9は、ボイラーのためのボイラー・スペースをも兼ねている)とを互いに連結するための排気管10が、生産工場内で予め備え付けられている。
【0011】
また、図7に示すように、このユニットには、前記浴槽1、便器2、洗面化粧台3、及び炊事場4に必要な電気器具・電気設備類を駆動及び制御するための電気配線が、生産工場内で予め備え付けられている。また、図示してはいないが、このユニットには、前記浴室、トイレ、脱衣所、及び台所のために必要な内装工事(内壁への壁紙の貼付けなど)が、生産工場内で予め施工されている。
【0012】
さらにまた、このユニットの壁部5には、ユニット外部との間で給排水を行うための配管の接続部11、12(図3参照)や、ユニット外部から電力の供給を受けるための電気配線の接続部13(図7参照)などが、生産工場内で予め形成されている。
【0013】
以上のように、本実施形態によれば、浴室、トイレ、脱衣所及び台所などの水廻り設備機器を一つに纏めたユニットを工場で予め生産し、しかもそれら設備機器に必要な配管(排水管、給水管)工事、電気配線工事、及び内装工事を、生産工場内で予め行っているので、建築現場でこれらの色々な工事を行う必要がなくなるため、現場での工事が極めて簡略化できるようになる。また、本実施形態では、ユニットの壁部5の骨組みを鉄骨で補強しているので、このユニットを建築物の構造体の一部としても使用できるようになる。」

(ウ)図面








(エ)上記(イ)の段落【0009】及び【0010】の説明を踏まえると、上記(ウ)の図3、図5及び図7より、ウエットエリア・ユニットは、浴槽1を含む浴室、便器2を含むトイレ、洗面化粧台3を含む脱衣所、及び炊事場4を含む台所と、ボイラーのためのボイラー・スペースを兼ねた排気口9とを有することが、看て取れる。
また、上記図5及び図7より、ウエットエリア・ユニットの四方を囲む壁部5は、ボイラー・スペースを兼ねた排気口9に、ウエットエリア・ユニットの外側からアクセスできる扉を備えることが、看て取れる。
上記図3及び図5より、ボイラー・スペースを兼ねた排気口9には、電気温水器370Lが配置されることが、看て取れる。

イ 甲第1号証に記載された発明
上記アより、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「ホテルやマンションなど共通の間取りを有する建造物に使用される、水廻り設備機器を一つに纏めて工場で予め生産されるウエットエリア・ユニットであって、
四方を囲む壁部5が鉄骨により補強されて、建築物の構造体としての強度が持たせられており、
ウエットエリア・ユニットは、浴槽1を含む浴室、便器2を含むトイレ、洗面化粧台3を含む脱衣所、及び炊事場4を含む台所と、ボイラーのためのボイラー・スペースを兼ねた排気口9とを有し、
四方を囲む壁部5は、ボイラー・スペースを兼ねた排気口9に、ウエットエリア・ユニットの外側からアクセスできる扉を備え、ボイラー・スペースを兼ねた排気口9には、電気温水器370Lが配置され、
水廻り設備機器に必要な配管工事、電気配線工事、及び内装工事を、生産工場内で予め行っている、
ウエットエリア・ユニット。」


(5)甲第2号証
甲第2号証には、次の記載がある。

ア 明細書
「【0014】
【発明の実施の形態】以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1に示すように、本発明に係る第1実施形態の建物1は、基礎2の上に配置された1階部分3と、この1階部分3の上に設けられた2階部分4、および2階部分4の上部に設けられた屋根部分5を備えて建てられている。このような建物1の外壁6面には凹部6Aが形成され、この凹部6A内に空調設備用の室外機7が設置されている。」

イ 図面






(6)甲第3号証
甲第3号証には、次の記載がある。

ア 明細書
「【0014】
【発明の実施の形態】以下に、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態の玄関ユニット10は、図1に示すように、ユニット式建物1に使用されている。このユニット式建物1は、基礎2の上に配置されるとともに、直方体状となっている複数の下階建物ユニット3と上記玄関ユニット10とを有する下階部4と、この下階部4の上に載置され、直方体状の複数の上階建物ユニット5と側面台形状の台形ユニット6とを有する上階部7とを備えて構成されている。また、上階建物ユニット5および台形ユニット6の上方には屋根8が設けられている。
【0015】前記玄関ユニット10には、図1,2に示すように、凹み部10Aが形成されており、また、玄関ユニット10の骨組み11は、図2に示すように、四隅に立設された4本の柱12と、これらの柱12の上端間同士および下端間同士を結合する各4本の上梁13、下梁14とを有している。上梁13は、互いに対向する各2本の長辺上梁13Aと短辺上梁13Bとで、下梁14は、互いに対向する各2本の長辺下梁14Aと短辺下梁14Bとでそれぞれ形成されている。
【0016】2本の長辺下梁14Aのうち、凹み部10Aの形成された1つの側面15の長辺下梁14Aの一部は、凹み部10A間にわたる欠損部分16となっている。従って、この長辺下梁14Aは第1,2の下梁部材17,18で形成されていることになる。」

イ 図面






(7)甲第4号証
甲第4号証には、次の記載がある。

ア 明細書
「【0015】
【実施例】図1は本発明が適用されたユニット建物の一例を示す模式図、図2はオーバーハングユニットの一例を示す模式図である。
【0016】ユニット建物10は、図1に示すごとく、基礎11上に下階ユニット12を据付け、下階ユニット12の上に上階ユニット13を搭載したものである。下階ユニット12と上階ユニット13は、柱と床梁と天井梁とを箱形に接合した標準サイズの骨組構造体であり、工場で生産された後、建築現場に輸送されて据付けられたものである。
【0017】然るに、ユニット建物10は、図1に示す如く、上階ユニット13の桁側側面部にオーバーハングユニット20を接合してある。」

イ 図面





第5 当審の判断
上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は全て認められたので、以下では、本件訂正発明1ないし20について、判断する。

1 先の取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
(1)本件訂正発明1について
ア 対比
本件訂正発明1と文献1発明とを対比する。

(ア)文献1発明において、「基礎K上に建てられ、二階部分42と一階部分41とを有し、二階部分42の建物側面に、一階部分41の外壁面よりも外方に張り出す張り出し部45が設けられており、 建物の内部には区画された空間部(居室)である居室空間が形成される、建物40」は、本件訂正発明1における「建物」に相当する。
(イ)文献1発明において、「一階部分41の建物ユニットU1a」及び「建物ユニットU1aの上に結合される二階部分42の建物ユニットU2及び付属ユニットUF」は、「建物40」における建物ユニット及び付属ユニットであるから、本件訂正発明1における「建物の一部を構成する建物ユニット」に相当する。また、文献1発明における、「一階部分41の建物ユニットU1a」及び「建物ユニットU1aの上に結合される二階部分42の建物ユニットU2及び付属ユニットUF」は、それぞれ建築現場以外で予め組み立てられることが明らかであるから、本件訂正発明1における、「建築現場以外で予め組み立てられた、一の階を構成する第1ユニット及び前記第1ユニットの上方の階を構成する第2ユニット」にも相当する。
(ウ)文献1発明において、「建物ユニットU1a」に「平面形状が矩形状の凹所となるアルコーブ46」が形成される構成は、本件訂正発明1において、「前記第1ユニット」に「凹部」が設けられる構成に相当する。
(エ)文献1発明における「ヒートポンプ式電気給湯設備や燃料電池設備といった屋外設備機器E」は、本件訂正発明1における「室外機」に相当するから、文献1発明において、「凹所となるアルコーブ46」が「ヒートポンプ式電気給湯設備や燃料電池設備といった屋外設備機器Eを設置するための、設備設置スペースSAを形成」する構成は、本件訂正発明1において、「凹部」に「室外機が設置される」構成に相当する。
(オ)文献1発明において、「建物ユニットU1a」並びに「建物ユニットU2及び付属ユニットUF」が、「直方体状の骨格を形成する四隅に設けられた柱を有する建物ユニット」であり、「4つの側面を有」する構成は、本件訂正発明1において、「前記第1ユニット及び前記第2ユニットの各々」が「4つの外側面を有する建築構造体」を有し、「第1ユニット」が「第1ユニットの建築構造体の骨組みを構成する第1の柱」を有し、「第2ユニット」が「第2ユニット建築構造体の骨組みを構成する第2の柱」を有する構成に相当する。
(カ)文献1発明において、「建物ユニットU1aの四隅に設けられた柱は、建物ユニットU1aの上に位置する建物ユニットU2の四隅に設けられた柱の直下に位置」する構成は、本件訂正発明1において、「前記第1の柱は、前記第2の柱の直下に位置」する構成に相当する。
(キ)文献1発明において、「建物ユニットU1aにおいて、アルコーブ46が形成される側面は、建物ユニットU1aの四隅に設けられた柱より内側の略全域に亘って、屋内側に凹んで」いる構成と、本件訂正発明1において、「前記凹部は、前記第1ユニットにおける前記一の外側面のうち少なくとも上部と対向する一対の側壁とを残して屋内側に凹ませるように設けられて」いる構成とは、「前記凹部は、前記第1ユニットにおける前記一の外側面を、屋内側に凹ませるように設けられており、屋内側に凹ませずに残した部分には、前記第1の柱が存在」する構成という点で、共通する。

以上より、文献1発明と本件訂正発明1とは、
「建物の一部を構成する建物ユニットであって、
建築現場以外で予め組み立てられた、一の階を構成する第1ユニット及び前記第1ユニットの上方の階を構成する第2ユニットとを有し、
前記第1ユニットには、室外機が設置される凹部が設けられ、
前記第1ユニット及び前記第2ユニットの各々は、4つの外側面を有する建築構造体を有し、
前記第1ユニットは、当該第1ユニットの建築構造体の骨組みを構成する第1の柱を有し、
前記第2ユニットは、当該第2ユニット建築構造体の骨組みを構成する第2の柱を有し、
前記第1の柱は、前記第2の柱の直下に位置し、
前記凹部は、前記第1ユニットにおける前記一の外側面を、屋内側に凹ませるように設けられており、
屋内側に凹ませずに残した部分には、前記第1の柱が存在する、
建物ユニット。」
という点で一致し、以下の点で一応相違する。

<相違点1>
室外機に接続される設備に関し、
本件訂正発明1においては、「室外機に接続される設備」が「建築現場以外で予め前記第1ユニット及び前記第2ユニットの少なくとも一方に設置され」ること、及び、「前記設備は、前記4つの外側面で囲まれる空間内に設置されて」いることが特定されているのに対し、
文献1発明においては、「ヒートポンプ式電気給湯設備や燃料電池設備といった屋外設備機器E」から、「電気的な接続や気体又は液体の流通経路を含む接続」が行われる対象となる設備機器を、建築現場以外で予め「建物ユニットU1a」又は「建物ユニットU2及び付属ユニットUF」の少なくとも一方の、4つの側面で囲まれる空間内に設置することは、特定されていない点。

<相違点2>
外壁下地材に関し、
本件訂正発明1においては、「前記4つの外側面のうち前記凹部が形成された一の外側面には外壁下地材が取り付けられて」いると特定されているのに対し、
文献1発明においては、「凹所となるアルコーブ46が形成」されるのは、「建物ユニットU1a」の「4つの側面」のうち、「建物40の外壁」となる「1側面」であるものの、外壁となる側面に「外壁下地材」を取り付けるとは特定されていない点。

<相違点3>
第1ユニットの一の外側面を屋内側に凹ませる範囲に関し、
本件訂正発明1においては、「前記一の外側面のうち少なくとも上部と対向する一対の側壁とを残して」凹ませることが特定されているのに対し、
文献1発明においては、凹ませる範囲が、「地上面から一階/二階の境界部までの上下方向範囲」、かつ「建物ユニットU1aの四隅に設けられた柱のうち2つの柱より内側の略全域に亘って」であり、「少なくとも上部と対向する一対の側壁と」を残した範囲ではない点。

<相違点4>
内壁下地材に関し、
本件訂正発明1においては、「前記4つの外側面のうち前記一の外側面以外の3つの外側面の少なくとも一つ」に「内壁下地材が取り付けられて」いることが特定されているとともに、「前記3つの外側面のうち前記対向する一対の側壁の少なくとも一方に対応する外側面に取り付けられた前記内壁下地材」は、「一枚の壁面を構成する一続きの下地材である」ことが特定されているのに対し、
文献1発明においては、建物ユニットU1aの、「アルコーブ46が形成される側面を挟んで対向する、平面図で見て短辺をなす2側面のうちの1側面」は、「建物40の内側に面して」いるものの、建物40の内側に面する当該1側面に「内壁下地材」を取り付けること、及び、当該1側面に取り付けた「内壁下地材」が「一枚の壁面を構成する一続きの下地材である」ことは特定されておらず、建物ユニットU2及び付属ユニットUFについても、「内壁下地材」に関する特定はされていない点。

イ 相違点についての判断
事案に鑑み、まず上記相違点3について判断する。
文献1では、段落【0005】に記載されるように、「比較的大型の屋外設備機器であっても好適に設置すること」も課題としており、文献1発明において、「二階部分42」に「張り出し部45」を設けるようにした「建物40」について、「建物ユニットU1a」の「張り出し部45の真下位置の建物40の外壁となる、平面図で見て長辺をなす1側面」に形成する「平面形状が矩形状の凹所となるアルコーブ46」の形成範囲が「地上面から一階/二階の境界部までの上下方向範囲」とされているのも上記課題を踏まえたものと理解できる。
かような文献1発明において、「建物ユニットU1a」に設ける「凹所となるアルコーブ46」の形成範囲を、「一の外側面のうち少なくとも上部と対向する一対の側壁と」を残した範囲とし、「設備設置スペースSA」について、「二階部分42」の「張り出し部45」の底面より手前の高さ位置に、「建物ユニットU1a」の「1側面」の「上部」が残ることによって設備設置スペースの高さを減少させてしまうような構成をあえて採用する動機付けが当業者にあったということができない。また、文献1には、段落【0058】に「建物ユニットU1aは、本来存在する4つの床大梁の1つを無くし、その部位にアルコーブ46を形成した構造となっている。」と記載されている一方、アルコーブ46を形成する箇所で天井大梁を無くすことについて記載されていないが、上記のとおり、設備設置スペースの高さを減少させてしまう構成をあえて採用する動機付けが認められない以上、天井大梁に関する説明がないことをもって、「地上面から一階/二階の境界部までの上下方向範囲で」設けられている「凹所」である「アルコーブ46」について、「一階/二階の境界部」より下の上部を凹ませずに残すことが、記載あるいは示唆されているということもできない。

文献2及び3には、上記第4の3(2)及び(3)に摘記した事項が記載されているが、いずれも建物の一部を形成するユニットに予め設備を備えることに関するものであり、文献1発明における「建物ユニットU1a」の「凹所」である「アルコーブ46」について、相違点3に係る本件訂正発明1の構成を記載あるいは示唆するものではない。

なお、甲第1号証ないし甲第4号証には、上記第4の3(4)ないし(7)に示した事項が記載されているが、いずれの証拠も、「二階部分42」に「張り出し部45」を設けた「建物40」を前提とした文献1発明の「建物ユニットU1a」における「アルコーブ46」について、相違点3に係る本件訂正発明1の構成を、記載あるいは示唆するものではない。

したがって、文献1発明において、上記相違点3に係る本件訂正発明1の構成に至ることは、文献2及び文献3に記載される事項を考慮しても、当業者が容易に想到できたものではない。

そして、相違点3が想到容易でないから、その余の相違点1及び2並びに相違点4について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、文献1発明及び文献2ないし3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。
よって、本件訂正発明1に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由によって、取り消されるべきものではない。

(2)本件訂正発明2ないし20について
本件訂正発明2ないし20は、本件訂正発明1の構成を全て含んでいるから、上記(1)において本件訂正発明1について判断したと同様の理由により、文献1発明及び文献2ないし3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。
よって、本件訂正発明2ないし20に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由によって、取り消されるべきものではない。

(3)申立人の主張について
本件訂正発明1と文献1発明との上記相違点3に関し、申立人は令和3年1月7日付け意見書において、「文献1の段落【0058】の「建物ユニットU1aは、本来存在する4つの床大梁の1つを無くし、その部位にアルコープ46を形成した構造となっている。」という記載からも、「建物ユニットU1aのアルコープ46では、床梁は撤去されているが、柱の上部間を構造的に繋ぐ骨組みとなる天井梁は、そのまま残されている。」として、文献1発明において、「1階の建物ユニットU1aの設備設置スペースSAの周囲が、・・・特許権者が主張している「凹部を形成する際に凹ませずに残した第1ユニットの上部と一対の側壁とは、第1ユニットの第1建築構造体の基本骨格をなす部分になっており、その凹部は、第1ユニットの基本骨格の内側に凹ませて形成された構造」になっているのは、明らかである。」と主張している(同意見書第4頁下から10行-下から5行、及び第5頁第4行-第11行)。当該申立人の主張は、文献1発明における「アルコーブ46」の周囲は、「凹部を形成する際に凹ませずに残した」ものとして、「柱」、「天井梁」及び「上部と一対の側壁と」を有する旨の主張であるから、上記相違点3に係る構成に相当する構成を文献1発明が有しており、相違点3は相違点ではない趣旨の主張と解される。
しかしながら、上記(1)に検討したとおり、文献1発明においては、「建物ユニットU1a」の「平面形状が矩形状の凹所となるアルコーブ46」が、「地上面から一階/二階の境界部までの上下方向範囲で形成されて」いることで、設備設置スペースの高さが確保されているものであり、文献1のその余の記載を検討しても、建物ユニットU1aの1側面に「凹所」となる「アルコープ46」を形成する際に、「上部と一対の側壁と」を残すこと、当該1側面のうち柱と天井梁の部分とを残すことは、記載されていないから、相違点3が相違点ではない旨をいう申立人の主張は、採用することができない。
そして、相違点3の容易想到性については、申立人の主張を検討しても、上記(1)イと異なる判断をすべき事情を見いだすことはできない。
したがって、申立人の主張を考慮しても、本件訂正発明1ないし20に係る特許は、上記(1)及び(2)に判断したとおり、取消理由通知に記載した取消理由によって、取り消されるべきものではない。

2 先の取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった異議申立理由について
(1)本件訂正発明1について
ア 対比
本件訂正発明1と甲1発明とを対比する。

(ア)甲1発明における、「ホテルやマンションなど共通の間取りを有する建造物に使用される」「ウエットエリア・ユニット」は、本件訂正発明1における、「建物の一部を構成する建物ユニット」に相当する。
(イ)甲1発明において、「ウエットエリア・ユニット」が「工場で予め生産される」構成と、本件訂正発明1において、「建物ユニット」が「建築現場以外で予め組み立てられた、一の階を構成する第1ユニット及び前記第1ユニットの上方の階を構成する第2ユニット」を有する構成とは、「建築現場以外で予め組み立てられたユニット」を有する点で、共通する。
(ウ)甲1発明において、「ボイラーのためのボイラー・スペースを兼ねた排気口9」に配置される「電気温水器370L」は、本件訂正発明1における「室外機」に相当する。
(エ)甲1発明における「水廻り設備機器」が、「電気温水器370L」と接続されることは明らかであることを踏まえると、甲1発明において「ウエットエリア・ユニット」が「水廻り設備機器を一つに纏めて工場で予め生産される」構成と、本件訂正発明1において「建物ユニット」が「建築現場以外で予め前記第1ユニット及び前記第2ユニットの少なくとも一方に設置され、かつ、室外機に接続される設備」を有する構成とは、「建物ユニット」が「建築現場以外で予め前記ユニットに設置され、かつ、室外機に接続される設備」を有する点で共通する。
(オ)甲1発明において、「ウエットエリア・ユニット」が「ボイラーのためのボイラー・スペースを兼ねた排気口9」を有し、「ボイラー・スペースを兼ねた排気口9」に「電気温水器370Lが配置」される構成と、本件訂正発明1において、「前記第1ユニットには、前記室外機が設置される凹部が設けられ」る構成とは、「前記ユニットには、前記室外機が設置されるスペースが設けられ」るという点で、共通する。
(カ)甲1発明において、「ウエットエリア・ユニット」が、「四方を囲む壁部5が鉄骨により補強されて、建築物の構造体としての強度が持たせられて」いる構成と、本件訂正発明1において、「前記第1ユニット及び前記第2ユニットの各々は、4つの外側面を有する建築構造体を有」する構成とは、「前記ユニットは、4つの外側面を有する建築構造体を有」する点で、共通する。
(キ)甲1発明において、「ウエットエリア・ユニット」が「四方を囲む壁部5」の内側に「浴槽1を含む浴室、便器2を含むトイレ、洗面化粧台3を含む脱衣所、及び炊事場4を含む台所」を有して、「水廻り設備機器」を備える構成は、本件訂正発明1において、「前記設備は、前記4つの外側面で囲まれる空間内に設置されて」いる構成に相当する。

以上をまとめると、甲1発明と本件訂正発明1とは、
「建物の一部を構成する建物ユニットであって、
建築現場以外で予め組み立てられたユニットと、
建築現場以外で予め前記ユニットに設置され、かつ、室外機に接続される設備とを有し、
前記ユニットには、室外機が設置されるスペースが設けられ、
前記ユニットは、4つの外側面を有する建築構造体を有し、
前記設備は、前記4つの外側面で囲まれる空間内に設置されている、
建物ユニット。」
という点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点A>
「建物ユニット」と「設備」及び「室外機」の配置について、
本件訂正発明1では、「建物ユニット」が「一の階を構成する第1ユニット及び前記第1ユニットの上方の階を構成する第2ユニット」を有するとともに、「室外機に接続される設備」は「前記第1ユニット及び前記第2ユニットの少なくとも一方」に設置され、「室外機」は「第1ユニット」に設けられる「凹部」に設置されると特定されているのに対し、
甲1発明では、「ウエットエリア・ユニット」は「一の階を構成する第1ユニット及び前記第1ユニットの上方の階を構成する第2ユニット」を有しておらず、階の異なる複数のユニットの「少なくとも一方」に設置される「水廻り設備機器」が下方の階のユニットに設置される「電気温水器370L」と「接続」されてはいない点。

<相違点B>
「建物ユニット」の各「ユニット」の構造に関し、
本件訂正発明1では、「第1ユニット」及び「第2ユニット」の「各々」が「4つの外側面を有する建築構造体」を有するとともに、「前記第1ユニットは、当該第1ユニットの建築構造体の骨組みを構成する第1の柱を有し、前記第2ユニットは、当該第2ユニット建築構造体の骨組みを構成する第2の柱を有し、前記第1の柱は、前記第2の柱の直下に位置」すると特定されているのに対し、
甲1発明では、「ウエットエリア・ユニット」の「壁部5」が「鉄骨」で補強されるものの、「ウエットエリア・ユニット」は「一の階を構成する第1ユニット及び前記第1ユニットの上方の階を構成する第2ユニット」を有しておらず、「第1ユニット」と「第2ユニット」とが有する「柱」の関係も特定されていない点。

<相違点C>
「室外機」を設置する箇所の構造に関し、
本件訂正発明1では、「第2ユニット」の下に位置する「第1ユニット」に設けられる「凹部」であり、「前記凹部は、前記第1ユニットにおける前記一の外側面のうち少なくとも上部と対向する一対の側壁とを残して屋内側に凹ませるように設けられており、前記上部と前記一対の側壁とには、前記第1の柱が存在」するのに対して、
甲1発明では、「電気温水器370L」が配置される箇所は、「ウエットエリア・ユニットの外側からアクセスできる扉」を備えた「ボイラー・スペースを兼ねた排気口9」である点。

<相違点D>
「壁下地材」に関し、
本件訂正発明1では、「前記4つの外側面のうち前記凹部が形成された一の外側面には外壁下地材が取り付けられており、前記4つの外側面のうち前記一の外側面以外の3つの外側面の少なくとも一つには内壁下地材が取り付けられて」いるとともに、「前記3つの外側面のうち前記対向する一対の側壁の少なくとも一方に対応する外側面に取り付けられた前記内壁下地材は、一枚の壁面を構成する一続きの下地材である」と特定されているのに対し、
甲1発明では、壁下地材をどうするかは特定されていない点。

イ 相違点についての判断
事案に鑑み、まず上記相違点Cについて判断する。
甲1発明において、「ボイラー・スペースを兼ねた排気口9」を構成するうえでは、ウエットエリア・ユニットの一区画を割り当てればよく、「ウエットエリア・ユニットの外側からアクセスできる扉」を設けるには当該箇所の壁を取り除いて扉を設置すれば足りることからすれば、甲1発明において、当該「排気口9」の構造を変更し、相違点Cに係る本件訂正発明1の構成の如く、「第2ユニット」の下に位置する「第1ユニット」における「前記一の外側面のうち少なくとも上部と対向する一対の側壁とを残して屋内側に凹ませるように設け」た「凹部」とし、「凹部」としない「前記上部と前記一対の側壁とには、前記第1の柱が存在」するように構成する動機付けがあるということはできない。
甲第2号証、甲第3号証、及び甲第4号証には、上記第4の3(5)ないし(7)に摘記した事項が記載されているが、甲第2号証は空調設備用の室外機を設けるための外壁の凹部に関するものであり、甲第3号証はユニット式建物の玄関ユニットに関するものであり、甲第4号証はユニット建物の上階ユニットに付加するオーバーハングユニットに関するものであるから、いずれも甲1発明における「ウエットエリア・ユニット」の「ボイラー・スペースを兼ねた排気口9」の構造を、変更することを示唆するものではない。
したがって、甲1発明において、上記相違点Cに係る本件訂正発明1の構成に至ることは、甲第2号証ないし甲第4号証に記載される事項を考慮しても、当業者が容易に想到できたものではない。
そして、相違点Cが想到容易でないから、その余の相違点A及びB並びに相違点Eについて検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲1発明及び甲第2号証ないし甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。
よって、本件訂正発明1に係る特許は、申立人が申し立てる特許異議申立理由によって、取り消されるべきものではない。

(2)本件訂正発明2ないし20について
本件訂正発明2ないし20は、本件訂正発明1が有する構成を全て有するものであるから、上記(1)において本件訂正発明1について判断したと同様の理由により、甲1発明及び甲第2号証ないし甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。
よって、本件訂正発明2ないし20に係る特許は、申立人が申し立てる特許異議申立理由によって、取り消されるべきものではない。

(3)申立人の主張について
本件訂正発明1と甲1発明との上記相違点Cに関し、申立人は申立書において、甲1発明における「排気口9」は、本件訂正発明1における「一の外側面」を「屋内側に凹ませるように設け」た「凹部」に相当し、また甲第2号証に記載された、空調設備用の室外機7を設置するための建物1の外壁6面に設けた凹部6Aの構成を、甲1発明の「排気口9」に採用することは容易である旨を主張している(申立書第11頁第1行-第13頁第13行、及び第17頁第1行-第14行)。
しかしながら、甲1発明の「ボイラー・スペースを兼ねた排気口9」に、「ウエットエリア・ユニットの外側からアクセスできる扉」が設けられているからといって、当該「ボイラー・スペースを兼ねた排気口9」を、ウエットエリア・ユニットの「一の外側面」を「屋内側に凹ませるように設け」た「凹部」であるということはできないし、甲1発明における「ボイラー・スペースを兼ねた排気口9」の構造を、甲第2号証に記載される空調設備用の室外機7を設置するための建物1の外壁6面に設けた凹部6Aに変更する動機付けがあるということもできないから、申立人の当該主張について検討しても、上記相違点Cの容易想到性について、上記(1)イと異なる判断をすべき事情は見いだせない。
したがって、申立人の主張を考慮しても、本件訂正発明1ないし20に係る特許は、上記(1)及び(2)に判断したとおり、申立人が申し立てる特許異議申立理由によって、取り消されるべきものではない。


第6 むすび
以上のとおり、本件訂正発明1ないし20に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件訂正発明1ないし20に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の一部を構成する建物ユニットであって、
建築現場以外で予め組み立てられた、一の階を構成する第1ユニット及び前記第1ユニットの上方の階を構成する第2ユニットと、
建築現場以外で予め前記第1ユニット及び前記第2ユニットの少なくとも一方に設置され、かつ、室外機に接続される設備とを有し、
前記第1ユニットには、前記室外機が設置される凹部が設けられ、
前記第1ユニット及び前記第2ユニットの各々は、4つの外側面を有する建築構造体を有し、
前記設備は、前記4つの外側面で囲まれる空間内に設置されており、
前記4つの外側面のうち前記凹部が形成された一の外側面には外壁下地材が取り付けられており、
前記4つの外側面のうち前記一の外側面以外の3つの外側面の少なくとも一つには内壁下地材が取り付けられており、
前記第1ユニットは、当該第1ユニットの建築構造体の骨組みを構成する第1の柱を有し、
前記第2ユニットは、当該第2ユニット建築構造体の骨組みを構成する第2の柱を有し、
前記第1の柱は、前記第2の柱の直下に位置し、
前記凹部は、前記第1ユニットにおける前記一の外側面のうち少なくとも上部と対向する一対の側壁とを残して屋内側に凹ませるように設けられており、
前記上部と前記一対の側壁とには、前記第1の柱が存在し、
前記3つの外側面のうち前記対向する一対の側壁の少なくとも一方に対応する外側面に取り付けられた前記内壁下地材は、一枚の壁面を構成する一続きの下地材である
建物ユニット。
【請求項2】
前記設備には、空調設備が含まれており、
前記凹部内に設置される前記室外機には、前記空調設備と冷媒管によって接続された空調室外機が含まれている
請求項1に記載の建物ユニット。
【請求項3】
前記設備には、水廻り設備が含まれており、
前記凹部内に設置される前記室外機には、貯湯タンクが含まれており、
前記貯湯タンクは、前記水廻り設備と配水管によって接続されている
請求項2に記載の建物ユニット。
【請求項4】
前記設備には、電気設備が含まれており、
前記凹部内に設置される前記室外機には、前記電気設備と電気配線によって接続された蓄電装置が含まれている
請求項1?3のいずれか1項に記載の建物ユニット。
【請求項5】
前記凹部内には、当該建物ユニットに組み込まれた前記設備に接続された全ての前記室外機が配置される
請求項1?4のいずれか1項に記載の建物ユニット。
【請求項6】
前記凹部には、ファンが設けられている
請求項1?5のいずれか1項に記載の建物ユニット。
【請求項7】
前記ファンは、前記凹部の上部に設けられている
請求項6に記載の建物ユニット。
【請求項8】
前記ファンは、屋外側に向けて送風を行う
請求項6又は7に記載の建物ユニット。
【請求項9】
前記ファンは、常時換気の排気ファンである
請求項6?8のいずれか1項に記載の建物ユニット。
【請求項10】
前記建物は、2階建て以上であり、
前記建物ユニットは、前記第1ユニット及び前記第2ユニットを積み上げて構成されている
請求項1?9のいずれか1項に記載の建物ユニット。
【請求項11】
前記凹部には、屋内に通じる扉が設けられている
請求項1?10のいずれか1項に記載の建物ユニット。
【請求項12】
前記凹部を閉じるように、通気性を有する目隠し部材が設けられている
請求項1?11のいずれか1項に記載の建物ユニット。
【請求項13】
前記設備を操作するための操作盤、分電盤及び情報盤が集約収納された収納室を有し、
前記収納室は、前記凹部の横に設けられている
請求項1?12のいずれか1項に記載の建物ユニット。
【請求項14】
前記ユニットは、木造軸組構法によって構成されている
請求項1?13のいずれか1項に記載の建物ユニット。
【請求項15】
前記ユニットは、さらに、建築現場以外で予め設置された水廻り設備を備え、
前記水廻り設備には、バス、トイレ、洗面台及びキッチンの少なくとも1つが含まれている
請求項1?14のいずれか1項に記載の建物ユニット。
【請求項16】
前記ユニットは、さらに、建築現場以外で予め設置された空調設備を備える
請求項1?15のいずれか1項に記載の建物ユニット。
【請求項17】
前記ユニットは、さらに、建築現場以外で予め設置された電気設備を備える
請求項1?16のいずれか1項に記載の建物ユニット。
【請求項18】
運搬されて建築現場に設置された請求項1?16のいずれか1項に記載の建物ユニットと、
前記建物ユニットをコアとして建築現場で施工された建築構造体とを備える
建物。
【請求項19】
請求項1?17のいずれか1項に記載の建物ユニットと、
前記建物ユニットをコアとして建築現場で施工された建築構造体とを備え、
前記凹部には、前記室外機が設置されている
建物。
【請求項20】
前記凹部の下には、基礎が設けられていない
請求項18又は19に記載の建物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-02-12 
出願番号 特願2016-532424(P2016-532424)
審決分類 P 1 651・ 832- YAA (E04B)
P 1 651・ 121- YAA (E04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 新井 夕起子  
特許庁審判長 長井 真一
特許庁審判官 森次 顕
有家 秀郎
登録日 2019-08-02 
登録番号 特許第6562360号(P6562360)
権利者 パナソニックIPマネジメント株式会社
発明の名称 建物ユニット及び建物  
代理人 道坂 伸一  
代理人 寺谷 英作  
代理人 寺谷 英作  
代理人 道坂 伸一  
代理人 新居 広守  
代理人 新居 広守  

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