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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
管理番号 1372709
異議申立番号 異議2019-700813  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-05-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-10-10 
確定日 2021-02-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6499442号発明「リチウムイオン電池用正極活物質及びリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6499442号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕、〔5?8〕について訂正することを認める。 特許第6499442号の請求項1?8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6499442号の請求項1?8に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成26年12月24日の出願であって、平成31年 3月22日にその特許権の設定登録がされ、同年 4月10日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1?8(全請求項)に係る特許に対し、令和1年10月10日に特許異議申立人 金澤 毅(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。
特許異議申立て後の手続きの経緯は、次のとおりである。

令和 1年12月27日付け:取消理由通知
令和 2年 3月 6日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年 4月24日 :申立人による意見書の提出
同年 6月 3日付け:取消理由通知(決定の予告)
同年 6月24日 :特許権者との応対(1)
同年 7月 1日 :特許権者との応対(2)
同年 7月20日受付(書留番号53098/1)
:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年10月30日 :申立人による意見書の提出

第2 本件訂正請求について
1 本件訂正請求の趣旨、及び訂正の内容
令和 2年 7月20日受付の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?8について訂正することを求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(なお、訂正箇所には当審が下線を付した。)。
なお、令和 2年 3月 6日にされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなされる。

(1)訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「MはMg及びAlを含む元素群から選択された少なくとも1種又は2種以上であり」と記載されているのを、「MはMg及びAlから選択された少なくとも1種又は2種であり」に訂正する。

(2)訂正事項2
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「0.5≦x≦1.0」と記載されているのを、「0.5<x<1.0」に訂正する。

(3)訂正事項3
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「粒子間の金属元素Mの変動係数(A)が0.20以下であるリチウムイオン電池用正極活物質」と記載されているのを、「粒子間の金属元素Mの変動係数(A)が0.20以下であるリチウムイオン電池用正極活物質であり、前記リチウムイオン電池用正極活物質は、Co及びMnを含む、リチウムイオン電池用正極活物質」に訂正する。

(4)訂正事項4
訂正前の特許請求の範囲の請求項5に「MはMg及びAlを含む元素群から選択された少なくとも1種又は2種以上であり」と記載されているのを、「MはMg及びAlから選択された少なくとも1種又は2種であり」に訂正する。

(5)訂正事項5
訂正前の特許請求の範囲の請求項5に「0.5≦x≦1.0」と記載されているのを、「0.5<x<1.0」に訂正する。

(6)訂正事項6
訂正前の特許請求の範囲の請求項5に「リチウムイオン電池用正極活物質の製造方法であり、」と記載されているのを、「リチウムイオン電池用正極活物質の製造方法であり、前記リチウムイオン電池用正極活物質は、Co及びMnを含み、」に訂正する。

(7)訂正事項7
訂正前の明細書の表1の実施例3における金属元素Alの変動係数が「0.14」と記載されているところを、「-」に訂正する。

(8)訂正事項8
訂正前の明細書の表1の実施例4における金属元素Mgの変動係数が「0.15」と記載されているところを、「-」に訂正する。

(9)訂正事項9
訂正前の明細書の表2の比較例12の行を削除する。

(10)訂正事項10
訂正前の明細書の段落【0034】の「実施例1?11」という記載を、「実施例1?4、9、及び参考例5?8、10?11」に訂正する。

(11)訂正事項11
訂正前の明細書の段落【0040】の「比較例10、12」という記載を、「比較例10」に訂正する。

(12)訂正事項12
訂正前の明細書の段落【0044】の「実施例1?11」という記載を、「実施例1?4、9、及び参考例5?8、10?11」に訂正する。

(13)訂正事項13
訂正前の明細書の表2の「実施例5」、「実施例6」、「実施例10」という記載を、「参考例5」、「参考例6」、「参考例10」に訂正する。

(14)訂正事項14
訂正前の明細書の表3の「実施例7」、「実施例8」、「実施例11」という記載を、「参考例7」、「参考例8」、「参考例11」に訂正する。

(15)訂正事項15
訂正前の明細書の段落【0049】の「実施例1?11」という記載を、「実施例1?4、9、及び参考例5?8、10?11」に訂正する。

(16)訂正事項16
訂正前の明細書の段落【0049】の「比較例10?13」という記載を、「比較例10?11、13」に訂正する。

(17)訂正事項17
訂正前の明細書の段落【0044】の「比較例1?13」という記載を、「比較例1?11、13」に訂正する。

(18)訂正事項18
訂正前の明細書の表1における、「金属元素Mnの変動係数」及び「金属元素Coの変動係数」の列を削除する。

(19)訂正事項19
訂正前の明細書の表2における、「金属元素Mnの変動係数」及び「金属元素Coの変動係数」の列を削除する。

(20)訂正事項20
訂正前の明細書の表3における、「金属元素Mnの変動係数」及び「金属元素Coの変動係数」の列を削除する。

2 本件訂正についての当審の判断
(1)訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無
ア 訂正事項1、4について
(ア)訂正の目的について
訂正事項1、4に係る訂正は、訂正前の請求項1、5に「MはMg及びAlを含む元素群から選択された少なくとも1種又は2種以上であり」と記載されているのを「MはMg及びAlから選択された少なくとも1種又は2種であり」として、この記載により、訂正後の請求項1、5及び請求項1、5を引用する請求項2?4、6?8に係る発明における「M」となり得る元素の種類を限定するとともに、「M」が、Mg及びAlを含まず、それ以外の元素を含む態様を包含しないことを明らかにするために記載を正すものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、また、同項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものにも該当する。

(イ)新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項1、4に係る訂正は、本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の段落【0023】の「金属元素Mは、Mg及び/又はAlであるのが好ましい。」との記載に基づいて導き出せる事項であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、しかもカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

イ 訂正事項2、5について
(ア)訂正の目的について
訂正事項2、5に係る訂正は、訂正前の請求項1、5に「0.5≦x≦1.0」と記載されているのを「0.5<x<1.0」として、「x」がとり得る数値範囲を減縮するものであるとともに、同じく訂正前の請求項1、5の「0<b<0.1」、「x+y+z+b=1.0」と上記「x」がとり得る数値範囲とが整合するものであることを明らかにするために記載を正すものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、また、同項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものにも該当する。

(イ)新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項2、5に係る訂正は、訂正前の請求項1、5、及び本件明細書の段落【0011】、【0019】、及び【0022】に記載されている「0≦x≦1.0」、「0<b<0.1」、及び「x+y+z+b=1.0」との記載からみて、bが正の値である以上、「x=1.0」となることはあり得ないことに基づいて、「x」のとり得る数値範囲から「x=1.0」の場合を除外するものであるとともに、同じく本件明細書の段落【0022】の「また、ニッケルの比率が0.5未満では、正極活物質1モルを焼成するために必要な酸素量の絶対量が少なく、金属塩中の酸化剤の効果が十分に得られない。」との記載に基づいて、「x」のとり得る数値範囲から下限境界値としての「x=0.5」の場合を単に除外するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、しかもカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないものである。
したがって、上記訂正事項2、5に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

ウ 訂正事項3、6について
(ア)訂正の目的について
訂正事項3、6に係る訂正は、訂正前の請求項1、5に係る「リチウムイオン電池用正極活物質」について、「Co及びMnを含む」ことを発明特定事項として付加することにより、訂正前の請求項1、5に記載されている「組成式:Li_(a)Ni_(x)Co_(y)Mn_(z)M_(b)O_(2)」について、y及びzがともにゼロとなる場合を除外するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

(イ)新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項3、6に係る訂正は、本件明細書の段落【0027】の「まず、Ni、Mn及びCoと、Mg及びAlを含む元素群から選択された少なくとも1種又は2種以上である金属元素Mとを含有する金属塩の水溶液を作製する。」とのリチウムイオン正極活物質の製造方法に関する記載から導き出せる事項であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、しかもカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

エ 訂正事項7、8について
(ア)訂正の目的について
訂正事項7に係る訂正は、訂正前の本件明細書の表1の実施例3について、「Liを除く全金属中の各金属の組成比」の欄の「Al」の箇所に「-」と記載され、スラリー作製時にAlが加えられないものであると解される一方で、同実施例3の「金属元素Alの変動係数」の欄には、「0.14」と記載され、スラリー作製時にAlが加えられたものであると解されることから生じている不整合を、後者を「-」と記載することにより、両者が整合することを明らかにするために正すものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
同様に、訂正事項8に係る訂正は、訂正前の本件明細書の表1の実施例4について、「Liを除く全金属中の各金属の組成比」の欄の「Mg」の箇所に「-」と記載され、スラリー作製時にMgが加えられないものであると解される一方で、同実施例4の「金属元素Mgの変動係数」の欄には、「0.15」と記載され、スラリー作製時にMgが加えられたものであると解されることから生じている不整合を、後者を「-」と記載することにより、両者が整合することを明らかにするために正すものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

(イ)新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
本件明細書の段落【0040】には、「(比較例10、12)スラリーの作製において、金属元素Mg、Alの添加量が多い以外は実施例と同様に活物質粉末を作製した。」との記載されている一方で、本件明細書の表1の比較例10について、「Liを除く全金属中の組成比」の欄の「Mg」の箇所に「0.12」と記載され、「Al」の箇所に「-」と記載されていることからすると、上記段落【0040】の記載からは、比較例10、12において、Mg、Alのいずれが添加されているかは不明なものの、実際には、表1の「Liを除く全金属中の組成比」の欄に記載されているとおりにMg、Alが添加されていると解するのが自然である。
同様に、本件明細書の段落【0034】には、「(実施例1?11)-スラリーの作製-まず、硝酸(60%水溶液)、金属ニッケル、金属コバルト、金属マンガンを用意し、さらに金属元素MとしてMg及びAlを添加して、これら5種類の金属を硝酸に溶解させた(この液を「液I」とする。)」と記載されているものの、実際には、本件明細書の表1の実施例1?4、9の「Liを除く全金属中の組成比」の欄の各元素の箇所に記載された数値の記載に従って各元素が添加されていると解するのも自然である。
そうすると、本件明細書の表1の実施例3は、Alが添加されていない例であり、実施例4はMgが添加されていない例であるといえることから、これに整合するように、上記実施例3の「金属元素Alの変動係数」の欄を「-」と記載し、上記実施例4の「金属元素Mgの変動係数」の欄を「-」と記載することは、本件明細書の記載から自明な事項にすぎず、これによって新たな技術的事項を追加するものではない。
したがって、訂正事項7、8に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、しかも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

オ 訂正事項9、11、16、17について
(ア)訂正の目的について
訂正事項9、11、16、17に係る訂正は、本件明細書に「比較例12」が記載されていることによって生じていた不整合を、これを削除することによって解消するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

(イ)新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項9、11、16、17係る訂正は、本件明細書中に記載された比較例の一つを単に削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

カ 訂正事項10、12?15について
(ア)訂正の目的について
訂正事項10、12?15は、本件明細書の表2、表3に記載されている「実施例5」、「実施例6」、「実施例10」、「実施例7」、「実施例8」、及び「実施例11」が、Li組成の点で、請求項1、5に規定する「0.9<a<1.2」を充足しないために生じていた不整合を正すために、それぞれ「参考例5」、「参考例6」、「参考例10」、「参考例7」、「参考例8」、及び「参考例11」に訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

(イ)新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項10、12?15に係る訂正は、本件明細書に記載された実施例の一部を単に参考例に訂正するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

キ 訂正事項18?20について
(ア)訂正の目的について
訂正事項18?20に係る訂正は、本件明細書の表1の実施例1に記載の「金属元素Mnの変動係数」及び「金属元素Coの変動係数」の値と、表4の実施例1の「金属元素Mnの変動係数」及び「金属元素Coの変動係数」の値とが一致しないために生じていた不整合を正すために、表1?表3に記載の「金属元素Mnの変動係数」及び「金属元素Coの変動係数」の列を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

(イ)新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項18?20に係る訂正は、本件明細書の表1?表3に記載された実験データの値の一部を単に削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(2)独立特許要件について
本件特許異議の申立ては、訂正前の全ての請求項に対してされているので、訂正事項1?20に係る本件訂正について、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

(3)一群の請求項及び明細書の訂正に関係する請求項について
ア 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1?4について、訂正前の請求項2?4はそれぞれ訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるので、本件訂正前の請求項1?4は一群の請求項である。
また、本件訂正前の請求項5?8について、訂正前の請求項6?8はそれぞれ訂正前の請求項5を直接又は間接的に引用するものであって、請求項5の訂正に連動して訂正されるものであるので、本件訂正前の請求項5?8は一群の請求項である。
そして、本件訂正請求は、上記一群の請求項ごとに訂正の請求をするものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。

イ 明細書の訂正に関係する請求項について
訂正事項7?20は、訂正前の請求項1、5における発明特定事項である「粒子間の金属元素Mの変動係数(A)が0.20以下である」、「0.9<a<1.2」、及び「リチウムイオン電池用正極活物質は、Co及びMnを含む」に関連する明細書の記載を訂正するものであり、訂正前の請求項2?4は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用し、訂正前の請求項6?8は、訂正前の請求項5を直接又間接的に引用するものであるから、訂正事項7?20と関係する請求項は訂正前の請求項1?8である。
そうすると、本件訂正請求は、訂正事項7?20と関係する請求項の全てを請求の対象としているものであるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。

3 本件訂正請求についての結言
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び第9項において準用する同法第126条第4項から第6項の規定に適合するものである。
したがって、明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕、〔5?8〕について訂正することを認める。

第3 本件発明、及び本件明細書の発明の詳細な説明の記載
1 本件発明
上記第2の3のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるから、本件訂正請求によって訂正された請求項1?8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明8」といい、総称して「本件発明」ということがある。)は、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
組成式:Li_(a)Ni_(x)Co_(y)Mn_(z)M_(b)O_(2)
(前記式において、MはMg及びAlから選択された少なくとも1種又は2種であり、0.9<a<1.2、0.5<x<1.0、0<b<0.1、x+y+z+b=1.0である。)
で表され、
粒子間の金属元素Mの変動係数(A)が0.20以下であるリチウムイオン電池用正極活物質であり、前記リチウムイオン電池用正極活物質は、Co及びMnを含む、リチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項2】
前記金属元素Mの変動係数(A)が0.15以下である請求項1に記載のリチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項3】
粒子間のNi、Co及びMnの変動係数(B)が0.15以下である請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項4】
粒子間のNi、Co及びMnの変動係数(B)が0.12以下である請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項5】
(I)リチウム塩と、
(II)Ni、Mn及びCoと、Mg及びAlを含む元素群から選択された少なくとも1種は2種以上である金属元素Mとを含有する金属塩と、
を含み、且つ、固形分の平均粒径が5μm以上であるリチウム金属塩溶液スラリーを準備する工程と、
前記リチウム金属塩溶液スラリーを噴霧乾燥することでリチウム金属塩の複合体の粉末を得る工程と、
前記粉末を焼成する工程と、
を含むリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法であり、
前記リチウムイオン電池用正極活物質は、Co及びMnを含み、
前記リチウムイオン電池用正極活物質が、組成式:Li_(a)Ni_(x)Co_(y)Mn_(z)M_(b)O_(2)
(前記式において、MはMg及びAlから選択された少なくとも1種又は2種であり、0.9<a<1.2、0.5<x<1.0、0<b<0.1、x+y+z+b=1.0である。)
で表され、
粒子間の金属元素Mの変動係数(A)が0.20以下である
リチウムイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項6】
前記噴霧乾燥を、マイクロミストドライヤーを用いて行う請求項5に記載のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項7】
前記金属塩が硝酸塩である請求項5又は6に記載のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項8】
前記リチウム塩が炭酸リチウムである請求項5?7のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法。」

2 本件明細書の発明の詳細な説明の記載
本件明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある(下線は、当審が付したものである。また、「・・・」は、記載の省略を表す。以下同様。)。

(1)「【0008】
また一般的に、Ni組成比が多くなればなるほど充放電容量が増加する傾向があるが、その反面、繰り返し充放電した時の容量維持率、いわゆるサイクル特性が悪くなる傾向もあるため、特に高容量が求められかつ高温・高電流下で充放電する必要のある電気自動車用途においてサイクル特性の改善が常に求められていた。サイクル特性の改善が求められる場合、リチウムイオン電池用正極活物質の製造プロセス中に、正極活物質(或いはその前駆体、又は、その中間体)の粉砕の工程が入ると、それによって生じる微粒子は電解液を通常粒子よりも激しく分解してしまい、このことからも特許文献1、特許文献2のリチウムイオン電池用正極活物質のサイクル特性は改善の余地があった。
【0009】
そこで、本発明は、サイクル特性が良好となるリチウムイオン電池用正極活物質及びリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法を提供することを課題とする。」

(2)「【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、このような問題を解決するため種々の検討を行った結果、所定の組成を有し、ドープされる金属元素の粒子中の存在比のばらつき、すなわち粒子間のばらつきを制御することで、サイクル特性が改善した正極活物質を得ることができることを見出した。
【0011】
上記知見を基礎にして完成した本発明は一側面において、組成式:Li_(a)Ni_(x)Co_(y)Mn_(z)M_(b)O_(2)(前記式において、MはMg及びAlを含む元素群から選択された少なくとも1種又は2種以上であり、0.9<a<1.2、0.5≦x≦1.0、0<b<0.1、x+y+z+b=1.0である。)で表され、粒子間の金属元素Mの変動係数(A)が0.20以下であるリチウムイオン電池用正極活物質である。」

(3)「【発明を実施するための形態】
【0022】
(リチウムイオン電池用正極活物質の構成)
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は、
組成式:Li_(a)Ni_(x)Co_(y)Mn_(z)M_(b)O_(2)
(前記式において、MはMg及びAlを含む元素群から選択された少なくとも1種又は2種以上であり、0.9<a<1.2、0.5≦x≦1.0、0<b<0.1、x+y+z+b=1.0である。)
で表される。
リチウムイオン電池用正極活物質における全金属に対するリチウムの比率が0.9?1.2であるが、これは、0.9未満では、安定した結晶構造を保持し難く、1.2超では電池の高容量が確保できなくなるためである。
また、ニッケルの比率が0.5未満では、正極活物質1モルを焼成するために必要な酸素量の絶対量が少なく、金属塩中の酸化剤の効果が十分に得られない。
【0023】
金属元素Mは、サイクル特性を向上させるために添加された微量元素である。金属元素Mの変動係数が後述の製造方法によって制御されているが、金属元素Mの組成M_(b)において、bが0.1以上であると、電池特性が不良となることがある。そのため、金属元素Mについて、組成M_(b):0<b<0.1に制御されている。金属元素Mは、Mg及びAlを含み、さらにZr、Ti、Fe、Zn等を含む元素群から選択される。また、金属元素Mは、Mg及び/又はAlであるのが好ましい。また、金属元素MはMgであるのがより好ましい。
【0024】
組成式:Li_(a)Ni_(x)Co_(y)Mn_(z)M_(b)O_(2)で表されたリチウムイオン電池用正極活物質において、ドープされる金属元素の粒子中の存在比のばらつき(粒子間のばらつき)を制御することで、サイクル特性が改善した正極活物質を得ることができる。特に、微量元素である金属元素は通常、変動係数が大きくなるが、本発明では当該微量元素である金属元素Mのばらつきに着目した。微量に添加されたAlやMgは、粒子中に含有、あるいは粒子をコーティングする形で存在し、電池の使用によって結晶が劣化するのを抑制する効果がある。そのため、正極活物質全体で(バルクで)ニッケル、マンガン、コバルトの主組成のばらつきが抑制されていることも好ましいが、微量元素が各粒子において均等に存在していることがより重要である。本発明は、このような微量元素の粒子間のばらつきを抑制することの重要性を見出したものであり、このような観点から、本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は、粒子間の金属元素Mの変動係数(A)が0.20以下に制御されている。ドープされる微量の金属元素Mの粒子中の存在比のばらつき(粒子間のばらつき)の指標である変動係数(A)を0.20以下に制御することにより、ドープされる微量の金属元素Mが正極活物質の各粒子間で均一に存在することができ、正極活物質のサイクル特性が良好となる。粒子間の金属元素Mの変動係数(A)は、好ましくは0.15以下であり、典型的には0.02?0.20である。なお、本発明において、金属元素Mの変動係数は、金属元素Mが一種類の元素で構成されている場合は当該一種類の元素の変動係数を示す。このため、『粒子間の金属元素Mの変動係数(A)が0.20以下』とは、当該一種類の元素の変動係数が0.20以下であることを示す。また、金属元素Mの変動係数は、金属元素Mが複数種類の元素で構成されている場合は各種類の元素の変動係数を示す。このため、『粒子間の金属元素Mの変動係数(A)が0.20以下』とは、元素の種類ごとの変動係数がいずれも0.20以下であることを示す。
【0025】
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は、粒子間のNi、Co及びMnの変動係数(B)が0.15以下であるのが好ましい。このような構成によれば、粒子間のNi、Co及びMnが正極活物質の各粒子間で均一に存在することができ、正極活物質のサイクル特性及び放電容量が良好となる。また、本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は、上述のように微量に添加されたAlやMg等の、粒子間の金属元素Mの変動係数(A)が0.20以下に制御されていると共に、このように粒子間のNi、Co及びMnの変動係数(B)が0.15以下に制御されている。粒子間のNi、Co及びMnの濃度は、微量に添加されたAlやMg等の粒子間の金属元素Mの濃度の約10倍以上であるが、本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は、これほどの濃度差のある金属元素MとNi、Co及びMnとの変動係数が同程度に制御されており、正極活物質のサイクル特性が非常に良好となる。粒子間のNi、Co及びMnの変動係数(B)は、より好ましくは0.12以下、更により好ましくは0.10以下、更により好ましくは0.05以下、更により好ましくは0.03以下であり、典型的には0.01?0.15である。」

(4)「【0031】
上記の本発明の製造方法により、サイクル特性の良好なリチウムイオン電池用正極活物質を製造できるが、これは、Ni、Co、Mn化合物を溶液に溶けた状態で混合して噴霧乾燥し、しかも従来必要であったメディアによる湿式粉砕のような工程を必要とせず、Niリッチ、Coリッチ、Mnリッチな箇所が焼成後の粉体に現われないような(すなわち電子線プローブマイクロアナライザーによって求められる金属元素Mの変動係数(A)が0.20以下となるような)、且つ、5μm以上の平均粒径を持つ固形分を有するスラリーをマイクロミストドライヤーによる微粒化のみによって噴霧することで、焼成解砕後の粉体をリチウムイオン電池用正極活物質として用いた時に良好なサイクル特性を得ることができたものである。
【0032】
なお、本発明において、『解砕』は二次粒子の凝集状態を個々の一次粒子にすること、或いは、二次粒子同士で形成された三次凝集を解すことを意味する。すなわち、『解砕』は元々の一次粒子以上二次粒子以下の粉のみの状態にすることを示す。この点で、当該『解砕』は、元々の一次粒子自体を割ったり、より微細な粒子にする『粉砕』とは異なる。粉砕を行うと、元々の一次粒子より微細な粒子が出現してしまい、正極材ではサイクル特性の悪化の原因となるため、本発明では『粉砕』ではなく『解砕』を行っている。」

(5)「【実施例】
【0033】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を提供するが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。
【0034】
(実施例1?4、9、及び参考例5?8、10?11)
-スラリーの作製-
まず、硝酸(60%水溶液)、金属ニッケル、金属コバルト、金属マンガンを用意し、さらに金属元素MとしてMg及びAlを添加して、これら5種類の金属を硝酸に溶解させた(この液を「液I」とする)。これとは別に、水に炭酸リチウムを分散させ、45Hzで撹拌混合させた。次に、この炭酸リチウムが分散された水に液Iを約2L/minで滴下し、Li、Ni、Co、Mn、Mg、Alを含むスラリーを作製した。また、平均粒径が5μm以上の炭酸リチウムを原料として使用することで、このスラリーの固形分の平均粒径を5μm以上に制御した。当該スラリーの固形分の平均粒径は、日機装株式会社製のマイクロトラック(湿式粒度分布測定装置)を用いて観察した。
【0035】
-噴霧乾燥-
上記原料混合で得られたスラリーを、三流体ノズルを有するマイクロミストドライヤーを用いて給気温度および排気温度を調節して、G/Sが2000となるように噴霧した。このときの給気温度は320℃、排気温度は165℃であった。
【0036】
-焼成・解砕-
乾燥して得られた粉末を、ローラーハースキルンを用いて900℃で2時間焼成後、750℃まで降温して当該温度で2時間焼成した。焼成後の塊を、ロールミルとパルべライザを用いて解砕し、活物質粉末を得た。
【0037】
(比較例1?3)
スラリーの作製において、金属元素Mg、Alを加えなかった以外は、実施例と同様にして活物質粉体を得た。
【0038】
(比較例4?6)
Mg、Alが均質に分散されていない活物質粉体を作製するため、以下の工程を行った。すなわち、スラリーの作製において、金属元素Mg、Alを加えずにスラリーの作製を実施例と同様に行った。続いて、実施例と同様に乾燥噴霧を行った。続いて、得られた乾燥粉にMg、Alを乾式混合した後、実施例と同様に焼成・解砕を行うことで、活物質粉末を得た。
【0039】
(比較例7?9、11、13)
スラリーの作製において、Li化合物(LiOH、Li_(2)CO_(3))、Ni化合物(NiO)、Co化合物(Co_(3)O_(4))、Mn化合物(Mn_(2)O_(3))、Mg化合物(MgO)、及びAl化合物(Al_(2)O_(3))を原料とし、溶媒中で湿式混合してスラリーを作成した。続いて、実施例と同様に噴霧乾燥、焼成・解砕を行うことで、活物質粉末を得た。
【0040】
(比較例10)
スラリーの作製において、金属元素Mg、Alの添加量が多い以外は実施例と同様に活物質粉末を作製した。」

(6)「【0041】
(評価)
-組成-
得られた正極材の粉末はXRD回折で層状構造であることを確認し、ICP及びイオンクロマトグラフ法により、Li、Ni、Mn、Co及び金属元素Mg、Alの含有量を測定した。分析結果から、製品をLi_(a)Ni_(x)Co_(y)Mn_(z)M_(b)O_(2)の化学式で表した場合の、a、x、y、z及びbを求めた。得られた各比率を表1?3に記載した。
【0042】
-変動係数-
得られた正極材の粉末について、電子線プローブマイクロアナライザー:EPMA(日本電子株式会社:JXA-8500F)を用い、粒子間の金属元素Mg、Al、及び、Ni、Mn、Coの変動係数を求めた。変動係数の具体的な算出方法としては、まず、得られた正極材の粉末に断面SEMを行って粒子の画像を取り、次に上記電子線プローブマイクロアナライザーにて元素マッピングを行った。EPMA測定時の加速電圧は15.0keV、照射電流は2.0×10^(-8)Aとした。続いて、得られたマッピング像の中で、粒径が7μm以上の粒子を20個選び出し、その中心部分の電子線プローブマイクロアナライザー強度から組成比を算出し、最後にその20点のデータから平均をとることで、金属元素金属元素Mg、Al、及び、Ni、Mn、Coの変動係数を以下の式により算出した。
金属元素Mgの変動係数=(Mg組成の標準偏差(20点分))/(Mg組成の平均値(20点分))
金属元素Alの変動係数=(Al組成の標準偏差(20点分))/(Al組成の平均値(20点分))
金属元素Niの変動係数=(Ni組成の標準偏差(20点分))/(Ni組成の平均値(20点分))
金属元素Mnの変動係数=(Mn組成の標準偏差(20点分))/(Mn組成の平均値(20点分))
金属元素Coの変動係数=(Co組成の標準偏差(20点分))/(Co組成の平均値(20点分))
なお、MgとAlとを同時に添加した場合は、各元素について上記式にて変動係数を求めた。
【0043】
図1に、マッピング像の中で、20点のデータを採取するための粒径が7μm以上の粒子の例を示す。図1の丸印で示すような周辺よりもサイズの大きい粒子の中心部分の組成を測定している。なお、Alのみが多く(あるいは少なく)検出された特異点が存在したが、これらの値が平均値±(3×標準偏差)の範囲外であった場合には外れ値と判断し、変動係数を算出する際にはこのような特異点を除外している。
【0044】
-電池特性-
電池特性評価用の電極は、活物質:バインダー:導電材=96:2:2の比率で有機溶媒であるNMP(N-メチルピロリドン)に混錬したものをAl箔に塗布し、乾燥後にプレスして作製した。これらを用いて対極をLiとした評価用の2032型コイン電池を作製し、電解液に1MのLiPF_(6)を用い、電解質にはエチレンカーボネート(EC)及びジメチルカーボネート(DMC)を体積比1:1となるように溶解したものを使用し、充電は定電流定電圧モードで電圧を4.3V、放電は定電流モードで電圧を3.0Vとして充放電を行った。初期容量と初期効率(放電量/充電量)とは0.1Cでの充放電で確認し、電池特性(サイクル特性:55℃で20サイクル充放電を繰り返した後の容量保持率)を評価した。
実施例1?4、9、及び参考例5?8、10?11及び比較例1?11、13の各試験条件及び評価結果を、表1?3に示す。また、実施例1の組成比及びそれを用いた算出された変動係数を表4に示す。なお、表4における『Sigma』は、Al、Ni、Mn、Mg、Coの各組成偏差値(20点分)を示し、変動係数は当該Sigmaを用いて以下のように算出した:
変動係数=Sigma/Average」

(7)「【0045】
【表1】



(8)「【0046】
【表2】



(9)「【0047】
【表3】



(10)「【0048】
【表4】



(11)「【0049】
(評価結果)
実施例1?4、9、及び参考例5?8、10、11は、いずれも電池特性が良好であった。
比較例1?3は、金属元素Mを含まず、電池特性が不良であった。
比較例4?9は、金属元素Mの変動係数が0.20を超えたため、電池特性が不良であった。
比較例10?11、13は、金属元素Mの組成比(M_(b))において、bが0.1以上であったため、電池特性が不良であった。」

第4 特許異議申立てについて
1 異議申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、後記する甲第1?3号証を提出し、以下の理由により、請求項1?8に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

(1)申立理由1(進歩性;取消理由として不採用)
本件特許の請求項1?8に係る発明は、甲第1?3号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)申立理由2(サポート要件;取消理由1として採用)
本件特許の請求項1?4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)申立理由3(明確性要件;取消理由2として採用)
本件特許の請求項1?8に係る発明は、特許を受けようとする発明が明確でないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(4)申立理由4(実施可能要件;取消理由3として採用)
本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許の請求項1?8に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

<証拠方法>
甲第1号証:国際公開第2013/027432号
甲第2号証:特開2013-147416号公報
甲第3号証:特開2008-147068号公報

2 令和 1年12月27日付け取消理由通知における取消理由の概要
本件訂正前の請求項1?8に係る特許に対して、当審が令和 1年12月27日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次の(1)?(6)のとおりである。

(1)取消理由1(サポート要件1)
本件請求項1に係る発明は、Co及び/又はMnを含まない態様を包含するものである点で、発明の詳細な説明において、本件請求項に係る発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているものであり、このことは、本件請求項1に係る発明に従属する本件請求項2?4に係る発明、及び本件請求項1に係る発明の発明特定事項を全て備えた本件請求項5?8に係る発明についても、同様にいえる。
したがって、本件請求項1?8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
よって、本件請求項1?8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)取消理由2(明確性要件1)
本件請求項1に係る発明におけるNiの組成比に関して、「x=1.0」の場合が含まれるのか否かが明確でないといえる。
したがって、本件請求項1に係る発明、これに従属する本件請求項2?4に係る発明、及び本件請求項1に係る発明の発明特定事項を全て備えた本件請求項5?8に係る発明は、明確でない。
よって、本件請求項1?8に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)取消理由3(実施可能要件1)
本件請求項1は、「粒子間の金属元素Mの変動係数(A)が0.20以下である」ことを発明特定事項としているところ、実施例3、実施例4、及び比較例12のように、正極活物質中に含有されないはずの元素であっても、含有される元素と同等の変動係数を示すのであれば、仮に本件明細書の段落【0031】に記載された製造方法を採用したところで、本件請求項に係る発明に係るリチウムイオン電池用正極活物質を構成する金属元素の変動係数を所定の範囲に制御することは、困難であると言わざるを得ない。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件請求項1に係る発明、これに従属する本件請求項2?4に係る発明、及び本件請求項1に係る発明の発明特定事項を全て備えた本件請求項5?8に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
よって、本件請求項1?8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(4)取消理由4(明確性要件2)
本件請求項1に係る発明における「金属元素MはMg及びAlを含む元素群から選択された少なくとも1種又は2種以上」との発明特定事項について、上記金属元素MがMgでもAlでもない態様も許容されるのか、それとも、上記金属元素Mが少なくともMg及びAlの1種又は2種を含む態様のみ許容されるのかが、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0023】及び表1?表3の記載があることよって、却って不明確なものとなっている。
したがって、本件請求項1に係る発明、これに従属する本件請求項2?4に係る発明、及び本件請求項1に係る発明の発明特定事項を全て備えた本件請求項5?8に係る発明は、明確でない。
よって、本件請求項1?8に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(5)取消理由5(サポート要件2)
本件請求項1に係る発明は、金属元素MがMgでもAlでもない態様を包含し得る点で、「発明の詳細な説明において、本件特許発明が解決しようとする課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えているものであり、このことは、本件請求項1に係る発明に従属する本件請求項2?4に係る発明、及び本件請求項1に係る発明の発明特定事項を全て備えた本件請求項5?8に係る発明についても、同様にいえる。
したがって、本件請求項1?8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
よって、本件請求項1?8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(6)取消理由6(委任省令要件)、取消理由7(サポート要件3)
ア 取消理由6
本件請求項1?8が、金属元素Mを含むことや、その変動係数を「0.20以下」とすることによっても、電池特性、すなわちサイクル特性が良好なものが得られたとは必ずしもいえないため、本件出願時の技術常識に照らしても、本件請求項1?8に係る発明がどのような技術上の意義を有するのかを理解することは、困難である。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件請求項1に係る発明、これに従属する本件請求項2?4に係る発明、及び本件請求項1に係る発明の発明特定事項を全て備えた本件請求項5?8に係る発明について、当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されたものとはいえない。
よって、本件請求項1?8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

イ 取消理由7
本件請求項1?8に係る発明には、「サイクル特性が良好となるリチウムイオン電池用正極活物質及びリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法を提供する」という課題を解決できていない態様が含まれているともいえる。
したがって、本件請求項1?8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
よって、本件請求項1?8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

3 令和 2年 6月 3日付け取消理由通知(決定の予告)における取消理由
当審が令和 2年12月27日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次の(1)、(2)のとおりである。

(1)予告取消理由6(委任省令要件)、予告取消理由7(サポート要件3)(上記2(6)の取消理由6、7と同旨)
ア 予告取消理由6
本件請求項1?8に係る発明が、金属元素Mを含むことや、その変動係数を「0.20以下」とすることによっても、電池特性、すなわちサイクル特性が良好なものが得られたとは必ずしもいえないため、本件出願時の技術常識に照らしても、本件請求項1?8に係る発明がどのような技術上の意義を有するのかを理解することは困難である。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件請求項1?8に係る発明について、当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されたものとはいえない。
よって、本件請求項1?8に係る本件特許は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

イ 予告取消理由7
本件請求項1?8に係る発明には、「サイクル特性が良好となるリチウムイオン電池用正極活物質及びリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法を提供する」という課題を解決できていない態様が含まれるともいえる。
したがって、本件請求項1?8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。
よって、本件請求項1?8に係る本件特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)予告取消理由8(実施可能要件2)
本件明細書に記載された実施例1におけるCoとMnの変動係数について、表1の記載と表4の記載とで不整合が生じていることにより、CoとMnのみならず、本件請求項1?8に係る発明の発明特定事項であるMg、Alの変動係数についても、本件明細書の段落【0042】記載の算出方法によってその値を確定できないのではないかとの疑義が生じる。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件請求項1?8に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
よって、本件請求項1?8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

4 当審の判断
(1)取消理由について
当審は、令和 2年 3月 6日提出の意見書、及び令和 2年 7月20日受付の意見書における特許権者の主張を踏まえて検討した結果、上記2の取消理由、及び上記3の予告取消理由はいずれも解消したと判断する。
その理由は以下のとおりである。

ア 予告取消理由6(委任省令要件)、予告取消理由7(サポート要件3)(取消理由6、7と同旨)について
(ア)上記第3の2(1)に摘記した本件明細書の【0008】及び【0009】の記載からすると、本件発明の解決しようとする課題は、「Ni組成比が多くなればなるほど充放電容量が増加する傾向があるが、その反面、繰り返し充放電した時の容量維持率、いわゆるサイクル特性が悪くなる傾向がある」状況においても、「サイクル特性が良好となるリチウムイオン電池用正極活物質及びリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法を提供すること」にあるといえる。

(イ)そして、上記第3の2(7)?(9)に摘記した本件明細書の表1?表3の記載によれば、本件発明1?8の発明特定事項に係る「Li組成(a)」が「0.9<a<1.2」の範囲に含まれ、かつ「Mg及びAlから選択された少なくとも1種又は2種であ」る「金属元素M」を含有し、その「変動係数(A)」が「0.20以下」、「0.15以下」又は「0.12以下」と特定される本件発明1?8の実施例となっているのは、上記表1に記載された実施例1?4、9のみであり、当該表1には、実施例1?4、9の「電池特性」を意味する「10サイクル容量維持率(%)」について、それぞれ「92.7」、「92.5」、「92.1」、「93.4」、「94.3」と記載されている。

(ウ)また、上記第3の2(11)のとおり、本件明細書の段落【0049】には、
「(評価結果)
実施例1?4、9、及び参考例5?8、10、11は、いずれも電池特性が良好であった。
比較例1?3は、金属元素Mを含まず、電池特性が不良であった。
比較例4?9は、金属元素Mの変動係数が0.20を超えたため、電池特性が不良であった。
比較例10?11、13は、金属元素Mの組成比(M_(b))において、bが0.1以上であったため、電池特性が不良であった。」
と記載されている。

(エ)ここで、上記第3の2(8)に摘記した本件明細書の表2に記載された比較例2、5、8の「10サイクル容量維持率(%)」について、それぞれ「94.6」、「94.2」、「92.4」と記載されていることから、上記(イ)の実施例1?4、9の「10サイクル容量維持率(%)」は、比較例2、5、8のものに比べて、必ずしも「良好」とはいえず、上記(ウ)のとおり、これを「実施例1?4、9・・・は、いずれも電池特性が良好であった。」と評価できるのか否かについて、以下検討する。

(オ)上記(エ)のとおり、実施例1?4、9、及び比較例2、5、8の「10サイクル容量維持率(%)」のみに着目すれば、各実施例のものは、各比較例のものに比べて、必ずしも良好とはいえない。
しかし、上記(ア)において検討した本件発明の解決しようとする課題を踏まえると、上記実施例1?4、9は、Niの「組成比(x)」が「0.80」と多い場合であって、同「組成比(x)」が「0.50」と少ない場合である比較例2、5、8よりも、「Ni組成比が多くなればなるほど充放電容量が増加する傾向があるが、その反面、繰り返し充放電した時の容量維持率、いわゆるサイクル特性が悪くなる傾向がある」例に該当する一方で、上記(エ)のとおり、同等程度の「10サイクル容量維持率(%)」を得られるものである。

(カ)そうすると、上記「10サイクル容量維持率(%)」のみならず、上記「充放電容量」に関連する「Ni組成比」も考慮して「電池特性」が良好か否かを判定することにより、上記(ウ)のとおり、「Ni組成比」が多い場合であっても、「Mg及びAlから選択された少なくとも1種又は2種であ」る「金属元素M」を含有し、その「変動係数(A)」が「0.20以下」、「0.15以下」又は「0.12以下」の範囲にある実施例1?4、9は、「いずれも電池特性が良好であった。」と評価できるといえる。また、このことは、実施例1?4、9と、他の比較例との関係においても同様である。

(キ)したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載、及び本件出願時の技術常識を踏まえれば、本件発明1?8が、金属元素Mを含まないか、含んでもその変動係数が「0.20以下」となっていない比較例に対して、当該金属元素Mを含み、その変動係数を「0.20以下」、「0.15以下」又は「0.12以下」とすることによって、「電気特性」が良好なものを得ることができるという技術上の意義を有することは、十分に理解できるといえる。

(ク)よって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1?8について、当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されたものといえるから、本件発明1?8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

(ケ)また、上記(ア)?(ク)の検討結果からすると、本件発明1?8の実施例である実施例1?4、9は、上記(ア)のとおりの本件発明が解決しようとする課題を解決できており、この点について、他に本件発明1?8が上記課題を解決できているとはいえないとする根拠は見当たらない。
したがって、この点で、本件発明1?8は、発明の詳細な説明に記載したものといえ、本件発明1?8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

イ 予告取消理由8(実施可能要件2)について
(ア)本件訂正により、本件明細書の表1における「金属元素Coの変動係数」、及び「金属元素Mnの変動係数」のデータは全て削除されたため、実施例1におけるCoとMnの変動係数について、表1の記載と表4の記載とで生じていた不整合は解消された。

(イ)そして、本件発明1?8の発明特定事項であるMg、Alの変動係数について、本件明細書の【0042】に記載された算出方法によって値を確定することについての疑義も解消されたといえる。

(ウ)したがって、この点で、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1?8について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえ、本件発明1?8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

ウ 取消理由1(サポート要件1)、取消理由5(サポート要件2)について
(ア)上記ア(ア)のとおり、本件発明の解決しようとする課題は、「Ni組成比が多くなればなるほど充放電容量が増加する傾向があるが、その反面、繰り返し充放電した時の容量維持率、いわゆるサイクル特性が悪くなる傾向がある」状況においても、「サイクル特性が良好となるリチウムイオン電池用正極活物質及びリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法を提供すること」にあるといえる。

(イ)そして、本件明細書の発明の詳細な説明の【0011】、【0024】、【0034】、及び表1?表3の記載によれば、「発明の詳細な説明において、本件発明が解決しようとする課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」として必要であると理解されるのは、組成式:Li_(a)Ni_(x)Co_(y)Mn_(z)M_(b)O_(2)(前記式において、MはMg及びAlから選択された少なくとも1種又は2種であり、0.9<a<1.2、0.5≦x<1.0、0<b<0.1、x+y+z+b=1.0である。)で表され、粒子間の金属元素Mの変動係数(A)が0.20以下であるリチウムイオン電池用正極活物質及びその製造方法であって、当該リチウムイオン電池用正極活物質は、Co及びMnを含有するものであることである。

(ウ)そうすると、本件発明1は、金属元素MがMg及びAlから選択された少なくとも1種又は2種である点と、当該リチウムイオン電池用正極活物質がCo及びMnを含有するものである点で、上記(イ)の「発明の詳細な説明において、本件発明が解決しようとする課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものではなく、このことは、本件発明1に従属する本件発明2?4、及び本件発明1の発明特定事項を全て備えた本件発明5?8についても、同様にいえる。

(エ)したがって、この点でも、本件発明1?8は、発明の詳細な説明に記載したものといえ、本件発明1?8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

エ 取消理由2(明確性要件1)について
(ア)本件訂正により、本件発明1は、「組成式:Li_(a)Ni_(x)Co_(y)Mn_(z)M_(b)O_(2)(前記式において、MはMg及びAlから選択された少なくとも1種又は2種であり、0.9<a<1.2、0.5<x<1.0、0<b<0.1、x+y+z+b=1.0である。)で表され、粒子間の金属元素Mの変動係数(A)が0.20以下であるリチウムイオン電池用正極活物質であり、前記リチウムイオン電池用正極活物質は、Co及びMnを含む、リチウムイオン電池用正極活物質。」となり、Niの組成範囲は、「x=1.0」の場合を含まないものとなったことから、「0<b<0.1」と「x+y+z+b=1.0」の両式、及びy、zが0以上の値であることからして、xが1.0未満の値となることと整合しており、本件発明1におけるNiの組成範囲に「x=1.0」の場合が含まれないことは、明確に把握できるといえる。

(イ)したがって、この点で、本件発明1、これに従属する本件発明2?4、及び本件発明1の発明特定事項を全て備えた本件発明5?8は、明確であるといえ、本件発明1?8に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

オ 取消理由3(実施可能要件1)について
(ア)本件訂正により、本件明細書の表1の実施例3についての、「Al」の組成比が「-」であり、「金属元素Alの変動係数」が「-」であるとの記載、同じく表1の実施例4についての、「Mg」の組成比が「-」であり、「金属元素Mgの変動係数」が「-」であるとの記載は整合するものとなり、訂正前の表2に記載されていた「比較例12」は削除された。

(イ)ここで、本件発明1は、「粒子間の金属元素Mの変動係数(A)が0.20以下である」ことを発明特定事項としているところ、上記(ア)のとおり、実施例3及び実施例4をはじめとする各実施例において、正極活物質中に含有されないはずの元素が、含有される元素と同等の変動係数を示すことはないことが明確に把握されることとなった。

(ウ)そうすると、本件発明に係るリチウムイオン電池用正極活物質を構成する金属元素の変動係数の制御に関する本件明細書の【0031】の記載を参照して、その製造方法を採用することにより、本件発明に係る上記金属元素の変動係数を所定の範囲に制御することは、十分に可能であるといえる。

(エ)したがって、この点でも、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1、これに従属する本件発明2?4、及び本件発明1の発明特定事項を全て備えた本件発明5?8について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえ、本件発明1?8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

カ 取消理由4(明確性要件2)について
(ア)本件訂正により、本件発明1は、「MはMg及びAlから選択された少なくとも1種又は2種であ」るとの発明特定事項を備え、金属元素Mについては、少なくともMg及びAlの1種又は2種を含む態様のみ許容されることが明確に把握されることとなった。

(イ)したがって、この点でも、本件発明1、これに従属する本件発明2?4、及び本件発明1の発明特定事項を全て備えた本件発明5?8は、明確であるといえ、本件発明1?8に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

(2)取消理由としなかった申立理由について
ア 申立理由1(進歩性)について
(ア)各甲号証の記載事項、及び甲号証に記載された発明
a 甲第1号証の記載事項
本件特許についての出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(国際公開第2013/027432号)には、リチウムイオン電池用正極活物質の製造方法(発明の名称)に関して、次の記載がある。

(a)「請求の範囲
[請求項1] リチウム塩と、金属硝酸塩とを含むリチウム金属硝酸塩溶液スラリーを準備する工程と、
前記リチウム金属硝酸塩溶液スラリーを、マイクロミストドライヤーを用いて噴霧乾燥して、リチウム金属塩の複合体の粉末を得る工程と、
前記粉末を焼成する工程と、
を含むリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法。
[請求項2]
前記金属硝酸塩に含まれる金属が、Ni、Mn及びCoから選択された1種以上である請求項1に記載のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法。
・・・
[請求項5]
前記リチウム塩が炭酸リチウムである請求項1?4のいずれかに記載のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法。」

(b)「[0008] そこで、本発明は、微小で且つバラツキが少ない粒径を有する電池特性(急速充放電特性)の良好なリチウムイオン電池用正極活物質を効率良く製造する方法を提供することを課題とする。」

(c)「[0016](リチウムイオン電池用正極活物質の構成)
本発明に係る製造方法で作製されるリチウムイオン電池用正極活物質の材料としては、一般的なリチウムイオン電池用正極用の正極活物質として有用な化合物を広く用いることができるが、特に、コバルト酸リチウム(LiCoO_(2))、ニッケル酸リチウム(LiNiO_(2))、マンガン酸リチウム(LiMn_(2)O_(4))等のリチウム含有遷移金属酸化物を用いるのが好ましい。このような材料を用いて作製されるリチウムイオン電池用正極活物質は、
組成式:Li_(x)Ni_(1-y)M_(y)O_(2)
(前記式において、MはNi、Mn及びCoから選択される1種以上であり、0.9≦x≦1.1であり、0<y≦0.7である。)
で表される。
リチウムイオン電池用正極活物質における全金属に対するリチウムの比率が0.9?1.1であるが、これは、0.9未満では、安定した結晶構造を保持し難く、1.1超では容量が低くなるためである。」

(d)「[0018](リチウムイオン電池用正極活物質の製造方法)
本発明の実施形態に係るリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法について詳細に説明する。
まず、Ni、Mn及びCoから選択された1種以上の金属を含む金属硝酸塩を準備する。金属硝酸塩としては、例えば、硝酸ニッケル、硝酸コバルト、及び、硝酸マンガン等を用いることができる。このように、硝酸塩を用いると、焼成原料中に不純物として混入してもそのまま焼成できるため洗浄工程が省けること、及び、硝酸塩が酸化剤として機能し、焼成原料中の金属の酸化を促進する働きがあるためである。また、金属硝酸塩に含まれる上記各金属を所望のモル比率となるように調整する。これにより、正極活物質中の各金属のモル比率が決定する。金属硝酸塩溶液にNiが含まれる場合、当該金属中のNiのモル比率が0.3以上であるのが好ましい。Niのモル比率が0.3未満では正極材1モルを焼成するために必要な酸素量の絶対量が少なくなるためである。また、金属硝酸塩溶液に少なくともNi及びMnが含まれる場合、含まれる金属中のNiのモル比率がMnのモル比率より大きいことが好ましい。Niのモル比率がMnのモル比率以下の場合は、Niの価数が2価となり、熱処理中にNiを酸化する必要が無くなるためである。
[0019] 次に、リチウム源として、例えば炭酸リチウムを純水に懸濁させ、その後、上記の金属の金属塩溶液を投入してリチウム金属硝酸塩溶液スラリーを調整する。
次に、リチウム金属硝酸塩溶液スラリーを、マイクロミストドライヤーで噴霧乾燥することにより、リチウム金属塩の複合体の粉末を得る。
・・・
マイクロミストドライヤーは、微粒化装置を利用した噴霧乾燥機であり、リチウム金属塩溶液スラリーを複数経路で高速気流によって薄く延ばし、それらを所定の衝突焦点で衝突させることにより衝撃波を起こし、これによって数μmのミストを形成することができる。微粒化装置としては、例えば四流体ノズルを備えたものが好ましい。四流体ノズルを備えた微粒化装置は、ノズルエッジを対称に、液体及び気体の系路が2つずつ設けられ、例えばエッジ先端での流体流動面と衝突焦点により微粒化を行う。
生成したミストはマイクロミストドライヤー内の乾燥室で乾燥されて、主に上記の式の右辺の化合物からなる微小粒径(数μm)を有するリチウム金属硝酸塩の複合体の乾燥粉末が生成する。
・・・
[0020] 次に、上記乾燥粉末を、所定の大きさの焼成容器に所定の厚みとなるように充填し、大気中などの酸化性を保持しうる雰囲気中の大気圧下で所定時間加熱保持する酸化処理及び粉砕を行うことにより正極活物質の粉体を得る。
・・・
酸化処理は、通常の静置炉の他、連続炉やその他の炉でも実施が可能である。
このように、本発明では、リチウム金属硝酸塩溶液スラリーをマイクロミストドライヤーを用いて噴霧乾燥することで、粒子の粒度分布がシャープになり、粒径のバラツキを良好に抑制することができ、通常乾燥では20?30μmの粒径であった乾燥粉末を数μmの微小粒径に形成することができる。そのため、本発明に係る製造方法で作製されたリチウムイオン電池用正極活物質を用いたリチウムイオン電池の種々の特性が良好となる。さらに、乾燥と微小粒子化とを同時に行うことができ、製造効率が良好となる。」

(e)「[0024] (実施例2)
まず、炭酸リチウム517gを純水1.06リットルに懸濁させた後、4.8リットルの金属塩溶液を投入した。ここで、金属塩溶液は、硝酸ニッケル、硝酸コバルト及び硝酸マンガンの各水和物をNi、Mn及びCoが所定の比率になるように調整し、またNi、Mn及びCoの各モル数の合計が14モルになるように調整した。
なお、炭酸リチウムの懸濁量は製品の化学式をLi_(x)Ni_(1-y)M_(y)O_(2)で表した際のx=1.0となる量であり、次式で算出されたものである。
W(g)=炭酸リチウム分子量×(Ni、Mn、Co全モル数)×0.5
=73.9×14×0.5=517
この式における「0.5」は製品(Li_(x)Ni_(1-y)M_(y)O_(2))と炭酸リチウム(Li_(2)CO_(3))とのLi含有量の比である。
また、Ni、Mn及びCoの比率は、Ni:Mn:Co=0.6:0.25:0.15になるように調整した。これは、製品の化学式をLi_(x)Ni_(1-y)M_(y)O_(2)で表した際のy=0.4に相当し、MにはMnとCoをMn:Co=0.625:0.375で調整したものである。
このように作製した炭酸リチウム懸濁液に金属の硝酸塩溶液を投入してスラリーとした。
続いて、このスラリーを藤崎電機社製マイクロミストドライヤー(MDL-100M)で噴霧乾燥し、リチウム金属硝酸塩の複合体の乾燥粉末(リチウムイオン二次電池正極材料用前駆体材料)2800gを得た。
この複合体のXRD回折から、複合体は硝酸リチウム(LiNO_(3))及び塩基性金属硝酸塩{M_(3)(NO_(3))_(2)(OH)_(4):Mは金属成分}から形成されていることを確認した。
次に、内部が縦×横=280mm×280mm、且つ、容器高さ=100mmの大きさに形成された焼成容器を準備し、この焼成容器内に複合体の高さが55mmになるように生成した複合体を充填し、空気雰囲気下で、温度870℃で12時間酸化処理した。得られた酸化物をボールミルで解砕し、リチウムイオン二次電池正極材の粉末を得た。」

(f)「[0028] (評価)
実施例1?3及び比較例1?3について、ICP法により、Li、Ni、Mn及びCoの含有量を測定し、表1に示す結果を得た。
正極材の一次粒子の大きさは、SEM観察から装置付属の測定ソフトで測定し、表1に示す結果を得た。
正極材の粉末の二次粒子の平均粒径は、日機装製のMicrotrak MT3300EX IIによって測定した。測定結果から正極材の最小径、最大径、平均径(D50)を求め、最大径/平均径、平均径/最小径の比を計算し、その常用対数値を算出し、表1に示す結果を得た。
電池特性評価用の電極は、活物質:バインダー:導電材=85:8:7の比率で有機溶媒であるNMP(N-メチルピロリドン)に混錬したものをAl箔に塗布し、乾燥後にプレスして作製した。
これらを用いて対極をLiとした評価用の2032型コイン電池を作製し、電解液に1MのLiPF_(6)を用い、電解質にはエチレンカーボネート(EC)及びジメチルカーボネート(DMC)を体積比1:1となるように溶解したものを使用し、充電は定電流定電圧モードで電圧を4.3V、放電は定電流モードで電圧を3.0Vとして充放電を行った。初期容量及び初期効率(放電量/充電量)は、0.1Cでの充放電で確認した。レート特性は、2Cでの放電容量と0.1Cでの放電容量の比で評価した。
評価結果を、表1に示す。」

(g)「[0029][表1]



(h)「[0030] 実施例1?3では、いずれも一次粒子は大きく、二次粒子が小さく、粒径のばらつき、特に最小径と平均径のばらつきが良好に抑制され、急速な充放電に適した粒度分布を示した。放電容量およびレート特性のいずれも良好であった。
比較例1?3では、一次粒子が小さく、二次粒子が大きい分布となり、粒径のばらつきが大きく、放電容量およびレート特性のいずれも悪い結果となった。」

b 甲第1号証に記載された発明
そこで、上記a(a)?(h)の記載事項を総合勘案し、特に、実施例2の「リチウムイオン二次電池正極材の粉末」に着目すると、甲第1号証には、次の発明が記載されていると認められる。

「炭酸リチウム517gを純水1.06リットルに懸濁させた後、硝酸ニッケル、硝酸コバルト及び硝酸マンガンの各水和物をNi、Mn及びCoの比率がNi:Mn:Co=0.6:0.25:0.15になるように調整し、またNi、Mn及びCoの各モル数の合計が14モルになるように調整した4.8リットルの金属塩溶液を投入して作製した炭酸リチウム懸濁液に金属の硝酸塩溶液を投入してスラリーとし、続いて、このスラリーを藤崎電機社製マイクロミストドライヤー(MDL-100M)で噴霧乾燥し、リチウム金属硝酸塩の複合体の乾燥粉末(リチウムイオン二次電池正極材料用前駆体材料)2800gを得、次に、内部が縦×横=280mm×280mm、且つ、容器高さ=100mmの大きさに形成された焼成容器を準備し、この焼成容器内に複合体の高さが55mmになるように生成した複合体を充填し、空気雰囲気下で、温度870℃で12時間酸化処理して、得られた酸化物をボールミルで解砕し、リチウムイオン二次電池正極材の粉末であって、
ICP法により測定されたLi、Ni、Mn及びCoの含有量に基づいて表される化学式がLi_(1.0)Ni_(0.6)Mn_(0.25)Co_(0.15)O_(2)であり、
一次粒子径が1.9μmであり、二次粒子平均粒径が8.6μmである、
リチウムイオン二次電池正極材の粉末。」(以下、「甲1発明」という。)

c 甲第2号証の記載事項
本件特許についての出願前に頒布された刊行物である甲第2号証(特開2013-147416号公報)には、「ニッケル複合水酸化物とその製造方法、非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法、および非水系電解質二次電池」(発明の名称)に関して、次の記載がある。

(a)「【請求項18】
一般式(4):Li_(1+u)Ni_(x)Co_(y)Al_(z)Mn_(t)M_(s)O_(2)(-0.05≦u≦0.20、x+y+z+t+s=1、0≦y≦0.3、0<z≦0.1、0.001<t≦0.05、0≦s≦0.05、Mは、Mg、Ca、Ti、V、Cr、Zr、Nb、MoおよびWからなる群より選ばれる少なくとも1種の添加元素)で表され、複数の一次粒子が凝集して形成された略球状の二次粒子からなり、層状構造を有する六方晶系の結晶構造を有するリチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物からなる非水系電解質二次電池用正極活物質であって、平均粒径が2μm?15μmであり、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90-d10)/平均粒径〕が0.60以下であり、凝集した一次粒子が焼結している外殻部と、その内側に存在する中空部とからなる中空構造を備える、ことを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質。」

(b)「【0001】
本発明は、ニッケル複合水酸化物とその製造方法、この複合水酸化物を原材料とする非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法、および、この非水系電解質二次電池用正極活物質を正極材料として用いる非水系電解質二次電池に関する。」

(c)「【0015】
本発明は、このような問題点に鑑み、均一で適度な粒径を有し、かつ、中空構造により高い比表面積を有するリチウム複合酸化物が得られる、その原材料としての、複合水酸化物を工業的規模で生産できるようにすることを目的としている。
【0016】
また、リチウムイオン二次電池における電池容量の低下を抑制でき、正極の反応抵抗を低減させることが可能な、リチウム複合酸化物からなる非水系二次電池用正極活物質を提供するとともに、このような正極活物質を用いることで、高容量で、サイクル特性に優れ、高出力が得られる非水系電解質二次電池を提供することも目的としている。」

(d)「【0049】
(1-1)複合水酸化物
(粒子の組成)
本発明の複合水酸化物は、一般式(1):Ni_(x)Co_(y)Al_(z)Mn_(t)M_(s)(OH)_(2+a)(x+y+z+t+s=1、0≦y≦0.3、0<z≦0.1、0.001<t≦0.05、0≦s≦0.05、0≦a≦0.5、Mは、Mg、Ca、Ti、V、Cr、Zr、Nb、MoおよびWからなる群より選ばれる少なくとも1種の添加元素)で表される組成を有する。
【0050】
このような組成を有する複合水酸化物を原材料として、リチウムニッケル複合酸化物を製造し、これを正極活物質として非水系電解質二次電池を構成した場合、測定される正極抵抗の値を低くできるとともに、電池性能を良好なものとすることができる。この複合水酸化物の組成比(Ni:Co:Al:Mn:M)は、得られる正極活物質においても維持される。したがって、本発明の複合水酸化物の組成比は、得ようとする正極活物質に要求される組成比と同様となるように調整される。
【0051】
なお、本発明の複合水酸化物およびこれを原材料として得られるリチウムニッケル複合酸化物において、個々の金属元素がもたらす特性やその含有量の規制については、特開2008-147068号公報や特開2004-253174号公報を含む先行技術文献により公知であるため、その説明は省略する。
【0052】
ただし、本発明の複合水酸化物において、その構成元素であるアルミニウムは、二次粒子の内部に均一に分布させてもよく、および/または、二次粒子の表面を均一に被覆させてもよい。アルミニウムは、熱安定性を向上させるために添加されるものであるが、内部および/または表面に均一に分布させることで、少量であっても粒子全体における上記効果を得ることができるばかりでなく、容量の低下を抑制できる。なお、より少量で上記効果を得るためには、粒子内部より表面におけるアルミニウム濃度を高めることが好ましい。
【0053】
また、添加元素についても、電池の耐久性や出力特性を向上させるために添加されるものであり、粒子内部および/または表面に均一に分布させることが好ましいが、容量の低下を抑制して、より少量で上記効果を得る場合には、このような添加元素を表面に存在させたり、表面における濃度を高めたりしてもよい。」

(e)「【実施例】
【0197】
(実施例1)
・・・
【0210】
[正極活物質の製造]
上記複合水酸化物を、空気(酸素:21容量%)気流中にて、700℃で6時間の熱処理を行って、複合酸化物に転換して回収した。
【0211】
Li/Me=1.06となるように水酸化リチウムを秤量し、上記複合酸化物と混合してリチウム混合物を調整した。混合は、シェーカーミキサ装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製、TURBULA TypeT2C)を用いて行った。
【0212】
得られたリチウム混合物を大気中(酸素:21容量%)にて、500℃で9時間仮焼した後、760℃で12時間焼成し、冷却した後、解砕して正極活物質を得た。
【0213】
[正極活物質の分析]
・・・
【0217】
さらに、同様にICP発光分光法により、正極活物質の組成分析を行ったところ、Li_(1.06)Ni_(0.79)Co_(0.16)Al_(0.03)Mn_(0.02)O_(2)であることが確認された。」

d 甲第3号証の記載事項
本件特許についての出願前に頒布された刊行物である甲第3号証(特開2008-147068号公報)には、「非水電解液二次電池用リチウム複合酸化物」(発明の名称)に関して、次の記載がある。

(a)「【請求項1】
次の一般式
LixNi(1-y-z-a)CoyMnzMaO2
(MはFe、V、Cr、Ti、Mg、Al、Ca、Nb及びZrからなる群より選ばれた少なくとも1種類の元素を示し、x、y、及びzは各々1.0≦x≦1.10、0.4≦y+z≦0.7、0.2≦z≦0.5、0≦a≦0.02である)で示されるリチウム複合酸化物であって、かつ上記リチウム複合酸化物の粒度分布曲線において、その累積頻度が50%の粒径を意味する平均粒径D50が3?15μmで、最小粒径が0.5μm以上、最大粒径が50μm以下の粒度分布を有する粒子であり、かつその累積頻度が10%のD10と90%のD90との関係において、D10/D50が0.60?0.90、D10/D90が0.30?0.70であることを特徴とする非水電解液二次電池用リチウム複合酸化物。」

(b)「【0012】
Mnの組成比zは0.2未満では、Liが離脱した充電状態で結晶構造が不安定になる。そのため、充放電サイクルや温度によるストレスがかかる状態では、結晶構造が不安定になる。その結果、サイクル特性及び安全性が十分ではない。一方、0.5を超えると安全性は向上するが、充放電容量が減少してしまうため、0.2≦z≦0.5の範囲内であることが好ましい。
【0013】
M(MはFe、V、Cr、Ti、Mg、Al、Ca、Nb及びZrからなる群より選ばれた少なくとも1種類の元素)は、結晶構造の安定化に寄与する作用があるが、多すぎると充放電容量が少なくなるため、0≦a≦0.02の範囲内であることが好ましい。」

(イ)本件発明1について
a 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(a)甲1発明の「リチウムイオン二次電池正極材の粉末」は、本件発明1の「リチウムイオン電池用正極活物質」に相当する。

(b)甲1発明の「リチウムイオン二次電池正極材の粉末」について、「ICP法により測定されたLi、Ni、Mn及びCoの含有量に基づいて表される化学式がLi_(1.0)Ni_(0.6)Mn_(0.25)Co_(0.15)O_(2)であ」ることは、本件発明1の「リチウムイオン電池用正極活物質」が「Co及びMnを含む」ものであることと共通するとともに、組成式:Li_(a)Ni_(x)Co_(y)Mn_(z)M_(b)O_(2)(MはMg及びAlから選択された少なくとも1種又は2種であり、0.9<a<1.2、0.5<x<1.0、0<b<0.1、x+y+z+b=1.0である)で表したとき、「0.9<a<1.2、0.5<x<1.0」の範囲に含まれる点で共通する。

(c)そうすると、本件発明1と甲1発明とは、次の点で一致する。
(一致点)
「組成式:Li_(a)Ni_(x)Co_(y)Mn_(z)M_(b)O_(2)(MはMg及びAlから選択された少なくとも1種又は2種であり、0.9<a<1.2、0.5<x<1.0)で表され、Co及びMnを含む、リチウムイオン電池用正極活物質。」

(d)一方で、本件発明1と甲1発明とは、次の点で相違する。
(相違点)
リチウムイオン電池用正極活物質について、本件発明1は、その組成式を「Li_(a)Ni_(x)Co_(y)Mn_(z)M_(b)O_(2)(MはMg及びAlから選択された少なくとも1種又は2種であり、0.9<a<1.2、0.5<x<1.0である)」で表したとき、「0<b<0.1、x+y+z+b=1.0」を充足するように、「Mg及びAlから選択された少なくとも1種又は2種であ」る金属元素Mを含有するとともに、粒子間の該金属元素Mの変動係数(A)が「0.20以下である」のに対して、甲1発明は、上記の「Mg及びAlから選択された少なくとも1種又は2種であ」る金属元素Mを含有するか否か不明で、その粒子間の変動係数(A)も不明である点。

b 相違点についての判断
そこで、上記相違点について検討する。
(a)上記(ア)c(e)に摘記した甲第2号証の【0217】には、Li_(1.06)Ni_(0.79)Co_(0.16)Al_(0.03)Mn_(0.02)O_(2)の組成を有する正極活物質が記載されており、当該正極活物質は、本件発明1の「組成式:Li_(a)Ni_(x)Co_(y)Mn_(z)M_(b)O_(2)(MはMg及びAlから選択された少なくとも1種又は2種であり、0.9<a<1.2、0.5<x<1.0、0<b<0.1、x+y+z+b=1.0である」「リチウムイオン電池用正極活物質」と組成が一致するものである。

(b)しかしながら、上記(ア)cに摘記した甲第2号証の記載を参照しても、例えば、正極活物質を構成する凝集した一次粒子について、「平均粒径が2μm?15μmであり、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90-d10)/平均粒径〕が0.60以下であ」ること(【請求項18】)や、「均一で適度な粒径を有するリチウム複合酸化物」「からなる非水系二次電池用正極活物質を提供する」こと(【0015】?【0016】)は記載されているものの、上記正極活物質に含まれるAlの粒子間の変動係数(A)、すなわち、(Al組成の標準偏差)/(Al組成の平均値)の値を特定の値以下にしようとする技術思想を読み取ることはできない。

(c)また、上記(ア)dに摘記した甲第3号証の記載を参照しても、元素Mとして、Mg及びAlの少なくとも1種又は2種が選択された場合に、それらの元素の粒子間の変動係数(A)を特定の値以下にしようとする技術思想を読み取ることはできない。

(d)そうすると、甲第2号証、及び甲第3号証の記載を参照しても、甲1発明に対して、上記相違点に係る特定事項を備えようとする動機付けを見いだすことはできないというほかない。

(e)ここで、申立人は、特許異議申立書の第21頁第16?27行において、次のように主張している。
「本件特許明細書の記載、及び甲第1号証の記載を対比すると明らかな様に、甲第1号証の甲1-5?甲1-8(当審注:【0018】?【0020】、【0024】の記載)に開示されたリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法は、本件特許明細書に開示されたリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法の要件を全て充足している。なお、「構成要件(A)について」で既述の様に、甲第1号証に記載された発明において、周知のリチウムイオン電池用正極活物質の組成を採用することは容易である。このため、当業者であれば、目的組成となるように、MgやAlの金属塩を添加し、リチウム金属硝酸塩溶液スラリーを調製できる。以上の様に、甲第1号証においても、本件特許発明に開示された製造方法が開示されており、上記本件特許明細書の記載に照らせば、甲第1号証においても、本件特許発明1の構成要件(B)(当審注:「粒子間の金属元素Mの変動係数(A)が0.20以下である」点)を充足する正極活物質を得られているものといえる。」
しかしながら、甲第1号証に記載された正極活物質は、MgやAlの如き「金属元素M」に相当する元素を含有しているか否か不明なものであるから、仮に、その製造方法が、本件明細書に記載された正極活物質の製造方法と類似しているとしても、そのことから直ちに「粒子間の金属元素Mの変動係数(A)が0.20以下である」とは到底いえない。
したがって、上記の申立人の主張は、採用することができない。

(f)よって、本件発明1は、甲第1号証?甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)本件発明2?8について
本件発明2?4は、本件特許の請求項1を直接又は間接的に引用することにより、本件発明1の発明特定事項を全て備えたものであるから、本件発明1と同様に、甲第1号証?甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件発明5は、本件発明1の「リチウムイオン電池用正極活物質」の製造方法に係るものであるが、本件発明1の発明特定事項を全て備えたものであるから、本件発明1と同様に、甲第1号証?甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
さらに、本件発明6?8は、本件特許の請求項5を直接又は間接的に引用することにより、本件発明5の発明特定事項を全て備えたものであるから、本件発明5と同様に、甲第1号証?甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

c 小括
以上のとおり、本件発明1?8は、甲第1号証?甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明1?8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。

5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由及び特許異議の申立ての理由によっては、請求項1?8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。


 
発明の名称 (54)【発明の名称】
リチウムイオン電池用正極活物質及びリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用正極活物質及びリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池用の正極活物質として、Li(Ni、Co、Mn)O_(2)があり、必要とされる電池特性に応じて様々なNi、Co、Mnの組成比が設定されている。このうち、Niの多い組成については容量、出力、安全性の3つをバランスよく満たすため、電気自動車用途への応用が始まっている。
【0003】
リチウム二次電池用の正極活物質の製造方法について、従来、種々の技術が研究されている。例えば、特許文献1には、リチウム化合物と、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、及びCuから選ばれる少なくとも1種の遷移金属化合物と、構造式中にAs、Ge、P、Pb、Sb、Si及びSnからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を有する化合物とを、液体媒体中で粉砕し、これらを均一に分散させたスラリーを調製する工程と、スラリーを噴霧乾燥する噴霧乾燥工程と、得られた噴霧乾燥体を酸素含有ガス雰囲気下、950℃以上で焼成する焼成工程とを含むリチウム二次電池正極材料用リチウム遷移金属系化合物粉体の製造方法が開示されている。
【0004】
さらに、特許文献2には、リチウム化合物と、少なくともMn、Ni、及びCoを含む1種類以上の遷移金属化合物と、焼成時の粒成長及び焼結を抑制する添加剤とを、液体媒体中で粉砕し、これらを均一に分散させたスラリーを得るスラリー調製工程と、得られたスラリーを噴霧乾燥する噴霧乾燥工程と、得られた噴霧乾燥粉体を焼成する焼成工程とを少なくとも含む製造方法により得られたリチウム含有遷移金属複合酸化物粉体Aと、層状構造を有し、Li及び遷移金属として少なくともNiとCoを含有するリチウム含有遷移金属複合酸化物粉体Bとを混合してなることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質材料の製造方法が開示されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、Li_(2)CO_(3)、MnCO_(3)、CoCO_(3)を秤量し、これにエタノールを加えてボールミルで混合し、乾燥した後、熱処理を行い、次にまたエタノールを加えてから2時間のボールミルによる粉砕を行うリチウム二次電池用正極活物質材料の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】 WO2011/083861号
【特許文献2】 特開2009-32647号公報
【特許文献3】 特開平4-106875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び2に記載の製造方法は、従来行われてきた乾式配合で製造する方法(特許文献3の実施例2等)に比べて、遷移金属化合物の表面にLi化合物が均一にコーティングされるか、遷移金属化合物とLiとが密に配合され、その結果、噴霧乾燥後の粉体を焼成したものを用いた電極について、残存Liによるゲル化発生が少なく不良品が少ないことがある。しかしながら、これらの噴霧方法においては、特許文献1の実施例1、特許文献2の実施例1にあるように、例えば、Li化合物、Ni化合物、Co化合物、Mn化合物、及び、添加材をそれぞれ個別に配合し噴霧するという方法がこれまで採られていた。この場合、Ni化合物、Co化合物、Mn化合物の粒子径が大きいものが存在するため、焼成後の活物質粉体において、粒子内部および/または粒子表面にNiリッチ、Coリッチ、Mnリッチな箇所が生じてしまっていた。これは、特にリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物のようなNi^(2+)の多い化合物と、Niリッチな部分がLiと反応して生成するような大方Ni^(3+)を有する化合物とでは、最適な焼成条件が異なる。このため、特にLiNiO_(2)やLiCoO_(2)のような、遷移金属の種類が単一のものに比べて、電池特性が最適化されていないという問題があった。これを解決するために、特許文献2などでは噴霧前に湿式粉砕を実施しているが、湿式粉砕の際に用いたメディアの表面には良好に配合されていない状態の遷移金属化合物が残っており、これらがメディアから剥がれてスラリーに入ってしまうことで、噴霧乾燥後の焼成において、やはり粒子内部および/または粒子表面にNiリッチ、Coリッチ、Mnリッチな箇所が生じてしまい、結果として電池特性が最適化されていない現象は残っており、本質的には十分に解決されているとは言えなかった。
【0008】
また一般的に、Ni組成比が多くなればなるほど充放電容量が増加する傾向があるが、その反面、繰り返し充放電した時の容量維持率、いわゆるサイクル特性が悪くなる傾向もあるため、特に高容量が求められかつ高温・高電流下で充放電する必要のある電気自動車用途においてサイクル特性の改善が常に求められていた。サイクル特性の改善が求められる場合、リチウムイオン電池用正極活物質の製造プロセス中に、正極活物質(或いはその前駆体、又は、その中間体)の粉砕の工程が入ると、それによって生じる微粒子は電解液を通常粒子よりも激しく分解してしまい、このことからも特許文献1、特許文献2のリチウムイオン電池用正極活物質のサイクル特性は改善の余地があった。
【0009】
そこで、本発明は、サイクル特性が良好となるリチウムイオン電池用正極活物質及びリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、このような問題を解決するため種々の検討を行った結果、所定の組成を有し、ドープされる金属元素の粒子中の存在比のばらつき、すなわち粒子間のばらつきを制御することで、サイクル特性が改善した正極活物質を得ることができることを見出した。
【0011】
上記知見を基礎にして完成した本発明は一側面において、組成式:Li_(a)Ni_(x)Co_(y)Mn_(z)M_(b)O_(2)
(前記式において、MはMg及びAlを含む元素群から選択された少なくとも1種又は2種以上であり、0.9<a<1.2、0.5≦x≦1.0、0<b<0.1、x+y+z+b=1.0である。)
で表され、粒子間の金属元素Mの変動係数(A)が0.20以下であるリチウムイオン電池用正極活物質である。
【0012】
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は一実施形態において、前記金属元素Mの変動係数(A)が0.15以下である。
【0013】
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は別の一実施形態において、粒子間のNi、Co及びMnの変動係数(B)が0.15以下である。
【0014】
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は更に別の一実施形態において、粒子間のNi、Co及びMnの変動係数(B)が0.12以下である。
【0015】
本発明は別の一側面において、(I)リチウム塩と、(II)Ni、Mn及びCoと、Mg及びAlを含む元素群から選択された少なくとも1種又は2種以上である金属元素Mとを含有する金属塩とを含み、且つ、固形分の平均粒径が5μm以上であるリチウム金属塩溶液スラリーを準備する工程と、前記リチウム金属塩溶液スラリーを噴霧乾燥することでリチウム金属塩の複合体の粉末を得る工程と、前記粉末を焼成する工程とを含むリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法である。
【0016】
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法は一実施形態において、前記噴霧乾燥を、マイクロミストドライヤーを用いて行う。
【0017】
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法は別の一実施形態において、前記金属塩が硝酸塩である。
【0018】
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法は更に別の一実施形態において、前記リチウム塩が炭酸リチウムである。
【0019】
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法は更に別の一実施形態において、前記リチウムイオン電池用正極活物質が、組成式:Li_(a)Ni_(x)Co_(y)Mn_(z)M_(b)O_(2)
(前記式において、MはMg及びAlを含む元素群から選択された少なくとも1種又は2種以上であり、0.9<a<1.2、0.5≦x≦1.0、0<b<0.1、x+y+z+b=1.0である。)
で表される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、サイクル特性が良好となるリチウムイオン電池用正極活物質及びリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】 実施例において、変動係数を評価するために観察する粒子を示すマッピング像である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(リチウムイオン電池用正極活物質の構成)
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は、
組成式:Li_(a)Ni_(x)Co_(y)Mn_(z)M_(b)O_(2)
(前記式において、MはMg及びAlを含む元素群から選択された少なくとも1種又は2種以上であり、0.9<a<1.2、0.5≦x≦1.0、0<b<0.1、x+y+z+b=1.0である。)
で表される。
リチウムイオン電池用正極活物質における全金属に対するリチウムの比率が0.9?1.2であるが、これは、0.9未満では、安定した結晶構造を保持し難く、1.2超では電池の高容量が確保できなくなるためである。
また、ニッケルの比率が0.5未満では、正極活物質1モルを焼成するために必要な酸素量の絶対量が少なく、金属塩中の酸化剤の効果が十分に得られない。
【0023】
金属元素Mは、サイクル特性を向上させるために添加された微量元素である。金属元素Mの変動係数が後述の製造方法によって制御されているが、金属元素Mの組成M_(b)において、bが0.1以上であると、電池特性が不良となることがある。そのため、金属元素Mについて、組成M_(b):0<b<0.1に制御されている。金属元素Mは、Mg及びAlを含み、さらにZr、Ti、Fe、Zn等を含む元素群から選択される。また、金属元素Mは、Mg及び/又はAlであるのが好ましい。また、金属元素MはMgであるのがより好ましい。
【0024】
組成式:Li_(a)Ni_(x)Co_(y)Mn_(z)M_(b)O_(2)で表されたリチウムイオン電池用正極活物質において、ドープされる金属元素の粒子中の存在比のばらつき(粒子間のばらつき)を制御することで、サイクル特性が改善した正極活物質を得ることができる。特に、微量元素である金属元素は通常、変動係数が大きくなるが、本発明では当該微量元素である金属元素Mのばらつきに着目した。微量に添加されたAlやMgは、粒子中に含有、あるいは粒子をコーティングする形で存在し、電池の使用によって結晶が劣化するのを抑制する効果がある。そのため、正極活物質全体で(バルクで)ニッケル、マンガン、コバルトの主組成のばらつきが抑制されていることも好ましいが、微量元素が各粒子において均等に存在していることがより重要である。本発明は、このような微量元素の粒子間のばらつきを抑制することの重要性を見出したものであり、このような観点から、本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は、粒子間の金属元素Mの変動係数(A)が0.20以下に制御されている。ドープされる微量の金属元素Mの粒子中の存在比のばらつき(粒子間のばらつき)の指標である変動係数(A)を0.20以下に制御することにより、ドープされる微量の金属元素Mが正極活物質の各粒子間で均一に存在することができ、正極活物質のサイクル特性が良好となる。粒子間の金属元素Mの変動係数(A)は、好ましくは0.15以下であり、典型的には0.02?0.20である。なお、本発明において、金属元素Mの変動係数は、金属元素Mが一種類の元素で構成されている場合は当該一種類の元素の変動係数を示す。このため、「粒子間の金属元素Mの変動係数(A)が0.20以下」とは、当該一種類の元素の変動係数が0.20以下であることを示す。また、金属元素Mの変動係数は、金属元素Mが複数種類の元素で構成されている場合は各種類の元素の変動係数を示す。このため、「粒子間の金属元素Mの変動係数(A)が0.20以下」とは、元素の種類ごとの変動係数がいずれも0.20以下であることを示す。
【0025】
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は、粒子間のNi、Co及びMnの変動係数(B)が0.15以下であるのが好ましい。このような構成によれば、粒子間のNi、Co及びMnが正極活物質の各粒子間で均一に存在することができ、正極活物質のサイクル特性及び放電容量が良好となる。また、本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は、上述のように微量に添加されたAlやMg等の、粒子間の金属元素Mの変動係数(A)が0.20以下に制御されていると共に、このように粒子間のNi、Co及びMnの変動係数(B)が0.15以下に制御されている。粒子間のNi、Co及びMnの濃度は、微量に添加されたAlやMg等の粒子間の金属元素Mの濃度の約10倍以上であるが、本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は、これほどの濃度差のある金属元素MとNi、Co及びMnとの変動係数が同程度に制御されており、正極活物質のサイクル特性が非常に良好となる。粒子間のNi、Co及びMnの変動係数(B)は、より好ましくは0.12以下、更により好ましくは0.10以下、更により好ましくは0.05以下、更により好ましくは0.03以下であり、典型的には0.01?0.15である。
【0026】
なお、本発明における粒子間の金属元素Mg、Al、及び、Ni、Mn、Coの変動係数は、電子線プローブマイクロアナライザー:EPMA(日本電子株式会社:JXA-8500F)を用いて求める。変動係数の具体的な算出方法としては、まず、正極材の粉末に断面SEMを行って粒子の画像を取り、次に上記電子線プローブマイクロアナライザーにて元素マッピングを行う。EPMA測定時の加速電圧は15.0keV、照射電流は2.0×10^(-8)Aとする。続いて、得られたマッピング像の中で、粒径が7μm以上の粒子を任意に20個選び出し、その中心部分の電子線プローブマイクロアナライザー強度から組成比を算出し、最後にその20点のデータから平均をとることで、金属元素金属元素Mg、Al、及び、Ni、Mn、Coの変動係数を以下の式により算出する。
金属元素Mgの変動係数=(Mg組成の標準偏差(20点分))/(Mg組成の平均値(20点分))
金属元素Alの変動係数=(Al組成の標準偏差(20点分))/(Al組成の平均値(20点分))
金属元素Niの変動係数=(Ni組成の標準偏差(20点分))/(Ni組成の平均値(20点分))
金属元素Mnの変動係数=(Mn組成の標準偏差(20点分))/(Mn組成の平均値(20点分))
金属元素Coの変動係数=(Co組成の標準偏差(20点分))/(Co組成の平均値(20点分))
なお、MgとAlとを同時に添加した場合は、各元素について上記式にて変動係数を求める。
【0027】
(リチウムイオン電池用正極活物質の製造方法)
本発明の実施形態に係るリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法について説明する。
まず、Ni、Mn及びCoと、Mg及びAlを含む元素群から選択された少なくとも1種又は2種以上である金属元素Mとを含有する金属塩の水溶液を作製する。金属塩は、硝酸塩、水酸化物、炭酸塩あるいはオキシ水酸化物等を用いることができ、なかでも硝酸塩が酸化剤としての作用が大きいためより好ましい。また、このとき、金属塩溶液に含まれる各金属を所望のモル比率となるように調整しておく。これにより、正極活物質中の各金属のモル比率が決定する。金属元素Mは、サイクル特性向上のためにドープする元素であり、Mg及びAlを含む元素群から選択された少なくとも1種又は2種以上である。金属元素Mは、必要に応じて適宜選択することができる。
【0028】
次に、リチウム源として、例えば炭酸リチウムを純水に懸濁させ、その後、上記の金属の金属塩溶液を投入してリチウム金属塩溶液スラリーを調製する。このとき、平均粒径が5μm以上のリチウム源(例えば炭酸リチウム)を原料として使用することで、スラリーの固形分の平均粒径を5μm以上に調製することができる。スラリーの固形分の平均粒径を5μm以上とすることにより、固形分の平均粒径が大きくなる。このため、当該粒子をもとにして得られる乾燥粉、焼成粉の粒径も大きくなり、焼成粉のTAP密度が向上するという効果が得られる。
【0029】
次に、リチウム金属塩溶液スラリーを噴霧乾燥することにより、リチウム金属塩の複合体の粉末を得る。噴霧乾燥には、マイクロミストドライヤーを用いるのが好ましい。マイクロミストドライヤーは、微粒化装置を利用した噴霧乾燥機であり、リチウム金属塩溶液スラリーを複数経路で高速気流によって薄く延ばし、それらを所定の衝突焦点で衝突させることにより衝撃波を起こし、これによって数μm?数十μmのミストを形成することができる。微粒化装置としては、例えば三流体ノズル或いは四流体ノズルを備えたものが好ましい。三流体ノズル或いは四流体ノズルを備えた微粒化装置は、ノズルエッジを対称に、液体及び気体の系路が2つずつ設けられ、例えばエッジ先端での流体流動面と衝突焦点により微粒化を行う。
生成したミストはマイクロミストドライヤー内の乾燥室で乾燥されて、主に上記の式の右辺の化合物からなる平均粒径が30?60μmであるリチウム金属塩の複合体の乾燥粉末が生成する。
このように、マイクロミストドライヤーを用いることによって、少なくとも以下の効果が得られる:
(1)シングルミクロン液滴の大量噴霧が可能となる。
(2)気液比を変化させることで液滴平均径のコントロールが可能となる。
(3)粒子の粒度分布がシャープになって粒径のバラツキが良好に抑制される。
(4)外部混合方式で生じていたノズル詰まりが抑制されて長時間連続噴霧が可能となる。
(5)エッジ長さの調整により容易に必要噴霧量が得られる。
(6)乾燥と粉体分散とを同時に行うことができ、製造効率が良好となる。
【0030】
次に、上記乾燥粉末を、所定の大きさの焼成容器に所定の厚みとなるように充填し、例えば大気雰囲気下で、700?1000℃×2?18時間の加熱保持を行う焼成を行うことにより正極活物質の粉体を得る。このとき、必要に応じて大気雰囲気中に酸素を吹き込んでもよい。吹き込むタイミングは任意に設定できるが、硝酸根の無くなった焼成プロセス後半において吹き込むことが特に好ましい。
【0031】
上記の本発明の製造方法により、サイクル特性の良好なリチウムイオン電池用正極活物質を製造できるが、これは、Ni、Co、Mn化合物を溶液に溶けた状態で混合して噴霧乾燥し、しかも従来必要であったメディアによる湿式粉砕のような工程を必要とせず、Niリッチ、Coリッチ、Mnリッチな箇所が焼成後の粉体に現われないような(すなわち電子線プローブマイクロアナライザーによって求められる金属元素Mの変動係数(A)が0.20以下となるような)、且つ、5μm以上の平均粒径を持つ固形分を有するスラリーをマイクロミストドライヤーによる微粒化のみによって噴霧することで、焼成解砕後の粉体をリチウムイオン電池用正極活物質として用いた時に良好なサイクル特性を得ることができたものである。
【0032】
なお、本発明において、「解砕」は二次粒子の凝集状態を個々の一次粒子にすること、或いは、二次粒子同士で形成された三次凝集を解すことを意味する。すなわち、「解砕」は元々の一次粒子以上二次粒子以下の粉のみの状態にすることを示す。この点で、当該「解砕」は、元々の一次粒子自体を割ったり、より微細な粒子にする「粉砕」とは異なる。粉砕を行うと、元々の一次粒子より微細な粒子が出現してしまい、正極材ではサイクル特性の悪化の原因となるため、本発明では「粉砕」ではなく「解砕」を行っている。
【実施例】
【0033】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を提供するが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。
【0034】
(実施例1?4、9、及び参考例5?8、10?11)
-スラリーの作製-
まず、硝酸(60%水溶液)、金属ニッケル、金属コバルト、金属マンガンを用意し、さらに金属元素MとしてMg及びAlを添加して、これら5種類の金属を硝酸に溶解させた(この液を「液I」とする)。これとは別に、水に炭酸リチウムを分散させ、45Hzで撹拌混合させた。次に、この炭酸リチウムが分散された水に液Iを約2L/minで滴下し、Li、Ni、Co、Mn、Mg、Alを含むスラリーを作製した。また、平均粒径が5μm以上の炭酸リチウムを原料として使用することで、このスラリーの固形分の平均粒径を5μm以上に制御した。当該スラリーの固形分の平均粒径は、日機装株式会社製のマイクロトラック(湿式粒度分布測定装置)を用いて観察した。
【0035】
-噴霧乾燥-
上記原料混合で得られたスラリーを、三流体ノズルを有するマイクロミストドライヤーを用いて給気温度および排気温度を調節して、G/Sが2000となるように噴霧した。このときの給気温度は320℃、排気温度は165℃であった。
【0036】
-焼成・解砕-
乾燥して得られた粉末を、ローラーハースキルンを用いて900℃で2時間焼成後、750℃まで降温して当該温度で2時間焼成した。焼成後の塊を、ロールミルとパルベライザを用いて解砕し、活物質粉末を得た。
【0037】
(比較例1?3)
スラリーの作製において、金属元素Mg、Alを加えなかった以外は、実施例と同様にして活物質粉体を得た。
【0038】
(比較例4?6)
Mg、Alが均質に分散されていない活物質粉体を作製するため、以下の工程を行った。すなわち、スラリーの作製において、金属元素Mg、Alを加えずにスラリーの作製を実施例と同様に行った。続いて、実施例と同様に乾燥噴霧を行った。続いて、得られた乾燥粉にMg、Alを乾式混合した後、実施例と同様に焼成・解砕を行うことで、活物質粉末を得た。
【0039】
(比較例7?9、11、13)
スラリーの作製において、Li化合物(LiOH、Li_(2)CO_(3))、Ni化合物(NiO)、Co化合物(Co_(3)O_(4))、Mn化合物(Mn_(2)O_(3))、Mg化合物(MgO)、及びAl化合物(Al_(2)O_(3))を原料とし、溶媒中で湿式混合してスラリーを作成した。続いて、実施例と同様に噴霧乾燥、焼成・解砕を行うことで、活物質粉末を得た。
【0040】
(比較例10)
スラリーの作製において、金属元素Mg、Alの添加量が多い以外は実施例と同様に活物質粉末を作製した。
【0041】
(評価)
-組成-
得られた正極材の粉末はXRD回折で層状構造であることを確認し、ICP及びイオンクロマトグラフ法により、Li、Ni、Mn、Co及び金属元素Mg、Alの含有量を測定した。分析結果から、製品をLi_(a)Ni_(x)Co_(y)Mn_(z)M_(b)O_(2)の化学式で表した場合の、a、x、y、z及びbを求めた。得られた各比率を表1?3に記載した。
【0042】
-変動係数-
得られた正極材の粉末について、電子線プローブマイクロアナライザー:EPMA(日本電子株式会社:JXA-8500F)を用い、粒子間の金属元素Mg、Al、及び、Ni、Mn、Coの変動係数を求めた。変動係数の具体的な算出方法としては、まず、得られた正極材の粉末に断面SEMを行って粒子の画像を取り、次に上記電子線プローブマイクロアナライザーにて元素マッピングを行った。EPMA測定時の加速電圧は15.0keV、照射電流は2.0×10^(-8)Aとした。続いて、得られたマッピング像の中で、粒径が7μm以上の粒子を20個選び出し、その中心部分の電子線プローブマイクロアナライザー強度から組成比を算出し、最後にその20点のデータから平均をとることで、金属元素金属元素Mg、Al、及び、Ni、Mn、Coの変動係数を以下の式により算出した。
金属元素Mgの変動係数=(Mg組成の標準偏差(20点分))/(Mg組成の平均値(20点分))
金属元素Alの変動係数=(Al組成の標準偏差(20点分))/(Al組成の平均値(20点分))
金属元素Niの変動係数=(Ni組成の標準偏差(20点分))/(Ni組成の平均値(20点分))
金属元素Mnの変動係数=(Mn組成の標準偏差(20点分))/(Mn組成の平均値(20点分))
金属元素Coの変動係数=(Co組成の標準偏差(20点分))/(Co組成の平均値(20点分))
なお、MgとAlとを同時に添加した場合は、各元素について上記式にて変動係数を求めた。
【0043】
図1に、マッピング像の中で、20点のデータを採取するための粒径が7μm以上の粒子の例を示す。図1の丸印で示すような周辺よりもサイズの大きい粒子の中心部分の組成を測定している。なお、Alのみが多く(あるいは少なく)検出された特異点が存在したが、これらの値が平均値±(3×標準偏差)の範囲外であった場合には外れ値と判断し、変動係数を算出する際にはこのような特異点を除外している。
【0044】
-電池特性-
電池特性評価用の電極は、活物質:バインダー:導電材=96:2:2の比率で有機溶媒であるNMP(N-メチルピロリドン)に混錬したものをAl箔に塗布し、乾燥後にプレスして作製した。これらを用いて対極をLiとした評価用の2032型コイン電池を作製し、電解液に1MのLiPF_(6)を用い、電解質にはエチレンカーボネート(EC)及びジメチルカーボネート(DMC)を体積比1:1となるように溶解したものを使用し、充電は定電流定電圧モードで電圧を4.3V、放電は定電流モードで電圧を3.0Vとして充放電を行った。初期容量と初期効率(放電量/充電量)とは0.1Cでの充放電で確認し、電池特性(サイクル特性:55℃で20サイクル充放電を繰り返した後の容量保持率)を評価した。
実施例1?4、9、及び参考例5?8、10?11及び比較例1?11、13の各試験条件及び評価結果を、表1?3に示す。また、実施例1の組成比及びそれを用いた算出された変動係数を表4に示す。なお、表4における「Sigma」は、Al、Ni、Mn、Mg、Coの各組成偏差値(20点分)を示し、変動係数は当該Sigmaを用いて以下のように算出した:
変動係数=Sigma/Average
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
【表4】

【0049】
(評価結果)
実施例1?4、9、及び参考例5?8、10、11は、いずれも電池特性が良好であった。
比較例1?3は、金属元素Mを含まず、電池特性が不良であった。
比較例4?9は、金属元素Mの変動係数が0.20を超えたため、電池特性が不良であった。
比較例10?11、13は、金属元素Mの組成比(M_(b))において、bが0.1以上であったため、電池特性が不良であった。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式:Li_(a)Ni_(x)Co_(y)Mn_(z)M_(b)O_(2)
(前記式において、MはMg及びAlから選択された少なくとも1種又は2種であり、0.9<a<1.2、0.5<x<1.0、0<b<0.1、x+y+z+b=1.0である。)
で表され、
粒子間の金属元素Mの変動係数(A)が0.20以下であるリチウムイオン電池用正極活物質であり、前記リチウムイオン電池用正極活物質は、Co及びMnを含む、リチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項2】
前記金属元素Mの変動係数(A)が0.15以下である請求項1に記載のリチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項3】
粒子間のNi、Co及びMnの変動係数(B)が0.15以下である請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項4】
粒子間のNi、Co及びMnの変動係数(B)が0.12以下である請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項5】
(I)リチウム塩と、
(II)Ni、Mn及びCoと、Mg及びAlを含む元素群から選択された少なくとも1種又は2種以上である金属元素Mとを含有する金属塩と、
を含み、且つ、固形分の平均粒径が5μm以上であるリチウム金属塩溶液スラリーを準備する工程と、
前記リチウム金属塩溶液スラリーを噴霧乾燥することでリチウム金属塩の複合体の粉末を得る工程と、
前記粉末を焼成する工程と、
を含むリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法であり、
前記リチウムイオン電池用正極活物質は、Co及びMnを含み、
前記リチウムイオン電池用正極活物質が、組成式:Li_(a)Ni_(x)Co_(y)Mn_(z)M_(b)O_(2)
(前記式において、MはMg及びAlから選択された少なくとも1種又は2種であり、0.9<a<1.2、0.5<x<1.0、0<b<0.1、x+y+z+b=1.0である。)
で表され、
粒子間の金属元素Mの変動係数(A)が0.20以下である
リチウムイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項6】
前記噴霧乾燥を、マイクロミストドライヤーを用いて行う請求項5に記載のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項7】
前記金属塩が硝酸塩である請求項5又は6に記載のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項8】
前記リチウム塩が炭酸リチウムである請求項5?7のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-02-15 
出願番号 特願2014-261306(P2014-261306)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H01M)
P 1 651・ 536- YAA (H01M)
P 1 651・ 537- YAA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小森 重樹  
特許庁審判長 中澤 登
特許庁審判官 粟野 正明
村川 雄一
登録日 2019-03-22 
登録番号 特許第6499442号(P6499442)
権利者 JX金属株式会社
発明の名称 リチウムイオン電池用正極活物質及びリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法  
代理人 アクシス国際特許業務法人  
代理人 アクシス国際特許業務法人  

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