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審決分類 |
審判 一部申し立て 2項進歩性 C09J 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載 C09J |
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管理番号 | 1372729 |
異議申立番号 | 異議2019-700313 |
総通号数 | 257 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-05-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-04-19 |
確定日 | 2021-03-25 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6419863号発明「(メタ)アクリル酸エステル共重合体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6419863号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6419863号の請求項1、2に係る特許についての出願は、平成24年2月28日に特許出願された特願2012-042174号の一部を、平成27年9月25日に新たな特許出願とした特願2015-187678号の一部を、平成29年1月11日に特願2017-002700号として新たに特許出願したものであって、平成30年10月19日に特許権の設定登録がされ、同年11月7日にその特許公報が発行され、その請求項1に係る発明の特許に対し、平成31年4月19日に笹井栄治(以下「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされ、令和元年6月26日付けで取消理由が通知され、同年8月20日に特許権者より意見書が提出され、同年9月10日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年11月12日に特許権者から意見書が提出され、同年11月28日付けで「特許第6419863号の請求項1に係る特許を取り消す。」との異議の決定がされ、その謄本は同年12月10日に送達された。 そして、令和2年1月8日、特許権者により上記異議の決定の取消しを求める訴え(令和2年(行ケ)第10001号 特許取消決定取消請求事件)が知的高等裁判所に提起され、令和3年2月8日、同裁判所より 「1 特許庁が異議2019-700313号事件について令和元年11月28日にした決定を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。」 との判決が言渡され、この判決はその後確定した。 第2 本件特許発明1 本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明1」という)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1に記載された、以下の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 (メタ)アクリル酸エステル共重合体であって、 (A-a)(メタ)アクリル酸エステル、 (A-b)カルボキシル基および炭素-炭素二重結合を有する重合性化合物、 (A-c)グリシジル基および炭素-炭素二重結合を有する重合性化合物、 及び (A-d)水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル を構成モノマーとして含み、 (メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)を構成するモノマーの全量を100質量%としたとき、上記(A-b)の配合量b(質量%)と上記(A-c)の配合量c(質量%)とが、下記式: 10≦b+40c≦26 (但し、4≦b≦14、0.05≦c≦0.45) を満たし、 化粧シートの粘着剤層に用いる粘着剤組成物用であることを特徴とする、 (メタ)アクリル酸エステル共重合体。」 第3 取消理由の概要 本件特許発明1に対して、当審が令和元年9月10日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は次のとおりである。 「本件特許の請求項1に係る発明は、本件出願日前に日本国内又は外国において頒布された以下の引用例1、2、又は3に記載された発明に基いて、本件出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、本件特許の請求項1に係る発明に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものである。」 取消理由通知において引用した刊行物の一覧は、以下のとおりである。 引用例1:特公昭58-021940号公報(特許異議申立人が提出した甲第1号証) 引用例2:特開平08-088206号公報 引用例3:特開2005-327789号公報 第4 引用例の記載事項と引用例に記載された発明 1 引用例の記載事項 (1) 引用例1の記載事項 摘記1a:請求項1 「 で表わされるエステルと、 で表わされるエステルとの少なくとも一方から主としてなる85?99.5重量部の第1成分と;この第1成分に共重合可能でありかつカルボキシル基を有するエチレン型不飽和化合物単量体からなる0.5?15重量部の第2成分と;前記第1成分及び/又は前記第2成分に共重合可能であって、 からなる群より選ばれた少なくとも1つの官能基を有するエチレン型不飽和化合物単量体からなり、かつ前記第1成分と前記第2成分との合計量100重量部に対して0.5?15重量部の割合を占める第3成分との共重合体を主として含有し、この共重合体中のカルボキシル基の10%以上がアルカリ金属と反応せしめられていることを特徴とする接着剤組成物。」 摘記1b:1頁右欄6行目乃至8行目 「本発明は、例えば可塑化ポリ塩化ビニルシート上に積層して使用するに好適な接着剤組成物に関するものである。」 摘記1c:2頁左欄13行目乃至右欄7行目 「即ち、本発明によれば、上記共重合体において、第3成分のエポキシ基、水酸基、アミド基又はN-メチロールアミド基からなる官能基が、隣接する共重合体中の第3成分のエポキシ基、水酸基、アミド基、N-メチロールアミド基又は第2成分のカルボキシル基と架橋反応し、分子間に複雑な架橋構造を形成することにより、凝集力が向上し、収縮も防止されるものと考えられる。 このように接着強度又は凝集力、耐収縮性に優れている上に、更に、上記共重合体中のカルボキシル基が所定量だけアルカリ金属で中和せしめられていることが、耐ガソリン性の向上に大きく寄与しており、例えば自動車の外装用として好適な接着剤組成物を提供できる。 この場合、アルカリ金属で中和されたカルボキシル基は、隣接する共重合体中のカルボキシル基等によるカルボニル基(>C=O)と静電的に引き合って結合していると思われ、これも凝集力向上に寄与している。 このような顕著な作用効果を得る上で、本発明による接着剤組成物の各成分の割合を上述した範囲に限定することが必須不可欠である。 即ち、まず第1成分としてのアクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルが85重量部未満であると、接着成分が少なくなりすぎて接着力に乏しくなり、また99.5重量部を越えると、第2成分の割合(即ちカルボキシル基の量)が少なくなりすぎて耐ガソリン性や凝集力、耐収縮性が劣化するからである。 また第3成分の量が、第1及び第2成分の合計量100重量部に対して0.5重量部未満であると、架橋が少なくなって凝集力が出なくなり、また15重量部を越えると、逆に架橋が多すぎて粘着性及び接着性が低下するからである。 更に、重要なことは、共重合体中のカルボキシル基の10%以上がアルカリ金属と反応(中和)せしめられていることである。このカルボキシル基の反応比率が10%未満であると、耐ガソリン性又は耐油性が著しく低下して使用不能となるからである。その反応比率は20%以上であるのが望ましく、30%以上が更に望ましい」 摘記1d:2頁右欄41行?3頁左欄8行 「また第3成分は、第1及び/又は第2成分(特に第1成分)と共重合可能でありかつ架橋性の官能基(エポキシ基、水酸基、アミド基及びN-メチロールアミド基の少なくとも1種)を有するものであって、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、8-ヒドロキシエチルメタクリレート、8-ヒドロキシアクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド等が挙げられる。これは1種のみ、又は2種以上併用して第1成分と共重合させることができる。」 摘記1e:3頁左側13行目乃至24行目 「なお本発明による接着剤組成物は第1?第3成分の共重合体を主成分とするものであるが、この共重合体に粘着付与性樹脂(粘着付与剤)を更に添加し、これら混合物によって接着剤組成物を構成するのが望ましい。即ち、粘着付与性樹脂の添加によって接着力が更に向上し、耐ガソリン性も良好に保持される。このために粘着付与性樹脂は。上述の共重合体からなる接着剤組成物100重量部に対して50重量部以下の割合で添加するのが望ましい。添加量が50重量部を越えると、共重合体の割合が低下して凝集力や耐収縮性が劣化するからである。」 摘記1f:第4頁右欄下から2行?第5頁右欄14行 「次に、本発明の実施例による接着剤組成物を説明する。この組成物を得るには、3l容量の3つ口フラスコに冷却器及び温度計を取付け、そのフラスコに酢酸エチル692gを加え、次いで例えば下記表5に示す組成のモノマー混合物を加え、反応系内をN_(2)ガスで置換しながら徐々に80℃にまで昇温してから反応を2時間行った。 また残りのモノマーを2時間かけて滴下し、更に3時間反応させた。反応終了後、エタノール308gを加えて希釈した。この架橋ポリマーの性状及び性能は、固形分40.7%、粘度400cps、ピール(g/2cm)1400AFであった。またエチルアルコールにKOHを溶解させて得た20重量%の水酸化カルシウム(当審注:「カルシウム」は「カリウム」の誤記と認められる)のエタノール溶液を上記架橋ポリマーに添加して反応させ、ポリマー中のカルボキシル基を所定量中和せしめて最終的な接着剤ポリマーに調製した。この接着剤ポリマーの性能を下記表-6に示した。但、表-5における化合物の略記号(後記の各表においても同じ)については、n-BAはノルマルブチルアクリレート、EAはエチルアクリレート、GAM(当審注:「GAM」は「GMA」の誤記と認められる)はグリシジルメタクリレートである。 摘記1g:5頁左側37行目乃至7頁左側5行目 「また上述の実施例に比べ、反応性単量体の種類を様々に変えた場合について説明すると、下記表-7にポリマーを構成するモノマー系を示し、下記表-8には生成した架橋ポリマーの性状及び性能を示し、更に下記表-9にはこのポリマーのカルボキシル基をアルカリ金属で中和した場合の性能を示した。なお表-7において、化合物名の略記号については、MMAはメチルメタクリレート、MEAはメトキシエチルアクリレート、EEAはエトキシエチルアクリレート、MAAはメタクリル酸、HEMAはβ-ヒドロキシエチルメタクリレート、N-MAMはN-メチロールアクリルアミドである。 これらの結果から、第1?第3成分を適度に配合して得られた架橋ポリマー中のカルボキシル基を所定量中和せしめることによって、特に凝集力を大幅に改善し、耐ガソリン性を向上させることができる。」 (2) 引用例2の記載事項 摘記2a:請求項1 「【請求項1】支持フイルム上に粘着剤層を設けてなり、この粘着剤層が、非イオン界面活性剤を含むゲル分率が50%以上の水エマルジヨン型粘着剤からなることを特徴とする半導体ウエハに付着した異物の除去用粘着テ?プ。」 摘記2b:段落0007?0008 「【0007】 【発明が解決しようとする課題】しかるに、上記提案の方法では、粘着テ?プを貼り付け剥離操作したのちに、半導体ウエハ上に糊残りを生じやすく、これが新たな汚染源となることから、ウエハの洗浄という所期の目的を十分に果たせない問題があつた。 【0008】本発明は、このような事情に鑑み、ウエツト洗浄方式に比べて有用な粘着テ?プを用いたドライ洗浄方式において、特定の粘着テープを用いることにより、剥離操作後の糊残りを少なくし、半導体ウエハに付着した異物を高い除去率で吸着除去する一方、上記糊残りがかりに生じたとしてもこれを水洗によって簡単に洗浄除去することを目的としている。」 摘記2c:段落0022 「【0022】架橋性官能基を有する共重合性モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、イタコン酸などのカルボキシル基含有モノマー、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル、N-メチロ?ルアクリルアミドなどのヒドロキシ基含有モノマー、アクリルアミド、メタクリルアミドなどのアミド基含有モノマー、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルなどのエポキシ基含有モノマー、N、N-ジメチルアミノエチルアクリレ?トなどのアミノ基含有モノマーなどが挙げられる。これらのモノマーは、粘着剤のゲル分率や粘着力を調整するために用いられるものであり、一般には、主モノマーである(メタ)アクリル酸アルキルエステル100重量部に対して、0.1?30重量部、好ましくは2?10重量部の割合で用いられる。」 摘記2d:段落0030 「【0030】実施例1 イオン交換水200部に、非イオン界面活性剤としてポリオキシエチレンノニルフエニルエ?テル1部を加え、これにさらに、アクリル酸n-ブチル80部、アクリロニトリル10部、アクリル酸5部、アクリル酸2-ヒドロキシエチル5部、アクリル酸グリシジル5部、重合開始剤として過酸化硫酸アンモニウム0.2部を加え、80℃に昇温し、撹拌しながら乳化重合させることにより、数平均分子量97万のアクリル系ポリマーと上記の非イオン界面活性剤を含むアクリル系の水エマルジヨン型粘着剤を調製した。」 (3) 引用例3の記載事項 摘記3a:請求項1 「【請求項1】 基材と、該基材上に剥離可能に積層されてなる粘接着剤層とからなり、 該粘接着剤層が、常温感圧接着性でありかつ熱硬化性を有し、熱硬化前の粘接着剤層の弾性率が1.0×10^(3)?1.0×10^(4)Paであり、熱硬化前の粘接着剤層の120℃における溶融粘度が100?200Pa・秒であり、熱硬化前の粘接着剤層を120℃で温度一定とした場合に、溶融粘度が最小値に達するまでの時間が60秒以下であることを特徴とするダイシング・ダイボンド兼用粘接着シート。」 摘記3b:段落0016 「【0016】 本発明は、上記したいわゆる「スタック型半導体装置」において、スタック時に発生するボンディングワイヤーの損傷を低減するとともに、半導体チップ同士を接着する接着剤層の厚みの精度不良に起因する半導体装置の高さのバラツキ、基板から最上層の半導体チップの表面までの高さのバラツキ、および最上層の半導体チップの傾き等を解消することを目的としている。」 摘記3c:段落0035 「【0035】 特に(メタ)アクリル酸グリシジル単位と、少なくとも1種類の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単位を含むが好ましい。この場合、共重合体中における(メタ)アクリル酸グリシジルから誘導される成分単位の含有率は通常は0?80質量%、好ましくは5?50質量%である。グリシジル基を導入することにより、後述する熱硬化性成分としてのエポキシ樹脂との相溶性が向上し、また硬化後のTgが高くなり耐熱性も向上する。また(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等を用いることが好ましい。また、アクリル酸ヒドロキシエチル等の水酸基含有モノマーを導入することにより、被着体との密着性や粘着物性のコントロールが容易になる。」 摘記3d:段落0073 「【0073】 ・・・(中略)・・・ 「粘接着剤層」 粘接着剤の組成を以下に示す。これらは実施例および比較例に共通である。 (A)粘着成分:アクリル酸ブチル55質量部と、メタクリル酸10質量部と、メタクリル酸グリシジル20質量部と、アクリル酸2-ヒドロキシエチル15質量部とを共重合してなる重量平均分子量約800、000、ガラス転移温度-28℃の共重合体」 2 引用例に記載された発明 (1)引用例1に記載された発明 引用例1の請求項1(摘記1a)には、所定の共重合体を含む接着剤組成物が記載され、表5(摘記1f)には、当該共重合体の具体例として、「2-エチルヘキシルアクリレート399重量部、n-ブチルアクリレート105重量部、エチルアクリレート140重量部、アクリル酸47.5重量部、グリシジルメタクリレート3.5重量部」を重合したものが記載されている。そして、当該共重合体は(メタ)アクリル酸エステルを共重合したものであるから、(メタ)アクリル酸エステル共重合体といえる。 そうすると、引用例1には、「2-エチルヘキシルアクリレート399重量部、n-ブチルアクリレート105重量部、エチルアクリレート140重量部、アクリル酸47.5重量部、グリシジルメタクリレート3.5重量部を重合した(メタ)アクリル酸エステル共重合体」(以下、この発明を「引用例1発明」という)が記載されていると認められる。 (2)引用例2に記載された発明 引用例2の請求項1(摘記2a)には、所定の粘着剤層を有する粘着テープが記載され、段落0030(摘記2d)には、粘着剤が含むアクリル系ポリマーの具体例として、「アクリル酸n-ブチル80部、アクリロニトリル10部、アクリル酸5部、アクリル酸2-ヒドロキシエチル5部、アクリル酸グリシジル5部」を重合したものが記載されている。当該共重合体は(メタ)アクリル酸エステルを共重合したものであるから、(メタ)アクリル酸エステル共重合体といえる。 そうすると、引用例2には、「アクリル酸n-ブチル80部、アクリロニトリル10部、アクリル酸5部、アクリル酸2-ヒドロキシエチル5部、アクリル酸グリシジル5部を重合した(メタ)アクリル酸エステル共重合体」(以下、この発明を「引用例2発明」という)が記載されていると認められる。 (3)引用例3に記載された発明 引用例3の請求項1(摘記3a)には、所定の粘接着剤層を有する接着シートが記載され、段落0073(摘記3d)には、粘接着剤が含む共重合体の具体例として、「アクリル酸ブチル55質量部と、メタクリル酸10質量部と、メタクリル酸グリシジル20質量部と、アクリル酸2-ヒドロキシエチル15質量部とを共重合してなる」ものが記載されている。当該共重合体は(メタ)アクリル酸エステルを共重合したものであるから、(メタ)アクリル酸エステル共重合体といえる。 そうすると、引用例3には、「アクリル酸ブチル55質量部と、メタクリル酸10質量部と、メタクリル酸グリシジル20質量部と、アクリル酸2-ヒドロキシエチル15質量部とを共重合してなる(メタ)アクリル酸エステル共重合体」(以下、この発明を「引用例3発明」という)が記載されていると認められる。 第5 当審の判断 1 取消理由について (1)引用例1発明を主とした場合 ア 本件特許発明1と引用例1発明との対比 引用例1発明の「2-エチルヘキシルアクリレート」、「n-ブチルアクリレート」、「エチルアクリレート」はいずれも、本件特許発明1の「(A-a)(メタ)アクリル酸エステル」に相当する。引用例1発明の「アクリル酸」は、本件特許発明1の「(A-b)カルボキシル基および炭素-炭素二重結合を有する重合性化合物」に相当する。引用例1発明の「グリシジルメタクリレート」は、本件特許発明1の「(A-c)グリシジル基および炭素-炭素二重結合を有する重合性化合物」に相当する。 引用例1発明において、(メタ)アクリル酸エステル共重合体を構成するモノマーの全量を100質量%としたとき、アクリル酸の配合量bは6.8(47.5/(399+105+140+47.5+3.5)×100)であるから、本件特許発明1の「(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)を構成するモノマーの全量を100質量%としたとき、上記(A-b)の配合量b(質量%)」が、「4≦b≦14」を満たすとの規定に適合する。 してみると、本件特許発明1と引用例1発明とは、 「(メタ)アクリル酸エステル共重合体であって、 (A-a)(メタ)アクリル酸エステル、 (A-b)カルボキシル基および炭素-炭素二重結合を有する重合性化合物、 (A-c)グリシジル基および炭素-炭素二重結合を有する重合性化合物を構成モノマーとして含み、 (メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)を構成するモノマーの全量を100質量%としたとき、上記(A-b)の配合量b(質量%)が、4≦b≦14を満たす(メタ)アクリル酸エステル共重合体。」 である点において一致し、以下の点において相違が認められる。 (相違点1) 本件特許発明1は、共重合体が「(A-d)水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル」を構成モノマーとして含むのに対し、引用例1発明の共重合体は当該モノマーを含まない点 (相違点2) 本件特許発明1は、「(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)を構成するモノマーの全量を100質量%としたとき、上記(A-b)の配合量b(質量%)と上記(A-c)の配合量c(質量%)とが、下記式:10≦b+40c≦26(但し0.05≦c≦0.45)」であるのに対し、引用例1発明の共重合体は当該cが0.5(3.5/(399+105+140+47.5+3.5)×100)、b+40cが26.8である点 (相違点3) 本件特許発明1の共重合体は「化粧シートの粘着剤層に用いる粘着剤組成物用である」のに対し、引用例1発明の共重合体は当該用途に用いることが記載されていない点 イ 相違点1の容易想到性 (ア) 相違点1は、引用例1発明の共重合体が、本件特許発明1とは異なり、d成分を構成モノマーとして含まないというものであるところ、上記引用例1の摘記1dのとおり、引用例1には、第1成分(a成分)及び第2成分(b成分)又はそのいずれか(特に第1成分)と共重合させる第3成分として、「架橋性の官能基(エポキシ基、水酸基、アミド基及びN-メチロールアミド基の少なくとも1種)を有するもの」が挙げられている。 そこで、引用例1発明における第3成分である、エポキシ基を有するモノマー(c成分)の一部を水酸基を有するモノマー(d成分)に置換することにより、2種を併用することが、当業者が容易に想到し得たか否かについて検討する。 (イ)まず、引用例1の摘記1a、1b、1cのとおり、引用例1発明は、可塑化ポリ塩化ビニルシート上に積層して使用するのに好適な接着剤組成物に関する発明であり、共重合体中のカルボキシル基の10%以上をアルカリ金属と反応(中和)させることにより、耐ガソリン性及び耐油性を向上させることを目的とするものである。 そうすると、化粧シートの粘着剤層に用いる粘着剤組成物用の化合物の発明である本件特許発明1と引用例1発明とでは、技術分野や発明が解決しようとする課題が必ずしも一致するものではないから、もともと引用例1発明に本件特許発明1の課題を解決するための改良を加える動機付けが乏しいというべきである。 (ウ)また、摘記1dのとおり、引用例1には、第3成分として選択し得る4種のモノマーの例示として8つのモノマーが挙げられているほか、4種のモノマーの1種のみ又は2種以上を併用して第1成分と共重合させることができる旨が記載されている。そうすると、引用例1発明における第3成分は、上記の各モノマーのうち1種のみを選択する場合のほか、2種ないし4種のモノマーを併用する場合もあり得るということになるから、その組合せは、異なる官能基に属するモノマーを併用する場合に限ったとしても多数存在する。 そして、証拠(引用例1)によれば、引用例1には、エポキシ基を有するモノマー(c成分)と水酸基を有するモノマー(d成分)を組み合わせた合成例は記載されておらず、また、d成分を構成モノマーとして含むことによる効果等に関する具体的な記載もされていないものと認められる。そうすると、引用例1には、引用例1発明の技術思想として、複数の組合せの中からエポキシ基を有するモノマー及び水酸基を有するモノマーの2種を選択すべきである旨や、水酸基を有するモノマーを選択することによって特定の効果が得られる旨が開示されているものとはいえない。 これらの事情を併せ考慮すると、引用例1に接した当業者が、引用例1発明の第3成分として、複数の組合せの中から敢えてエポキシ基を有するモノマー及び水酸基を有するモノマーの2種を選択する理由に乏しいというべきである。 (エ) 以上のとおり、本件特許発明1と引用例1発明とでは技術分野や発明が解決しようとする課題が必ずしも一致するものではないから、もともと引用例1発明に本件特許発明1の課題を解決するための改良を加える動機付けが乏しいことに加え、引用例1の記載内容からすると当業者が複数の組合せの中から敢えてエポキシ基を有するモノマー及び水酸基を有するモノマーの2種を選択する理由に乏しいことからすれば、引用例1に接した当業者において、相違点1に係る本件特許発明1の構成に至る動機付けがあったということはできない。 したがって、引用例1発明において、構成モノマーとしてd成分を含ませることを、本件出願時における当業者が容易に想到し得たということはできない。 ウ 相違点2の容易想到性 上記イのとおり、相違点1について容易想到であるということはできないが、事案に鑑み、相違点2の容易想到性についても検討する。 (ア) 相違点2は、(メタ)アクリル酸エステル共重合体を構成するモノマーの全量を100質量%としたときのb成分の配合量b及びc成分の配合量cの値が、本件特許発明1は「10≦b+40c≦26(但し0.05≦c≦0.45)」であるのに対し、引用例1発明の共重合体においてはcが0.5、b+40cが26.8であるというものである。 そこで、引用例1発明における上記b及びcの値を変更し、本件特許発明1における数値範囲内に調整することを、当業者が容易に想到し得たか否か否かについて検討する。 (イ) まず、上記イ(イ)のとおり、本件特許発明1と引用例1発明とでは技術分野や発明が解決しようとする課題が必ずしも一致するものではないというべきである。 (ウ) また、引用例1の摘記1gのとおり、引用例1発明の実施例には、引用例1発明における第3成分を、N-メチロールアクリルアミドからアクリルアミドに量比を変えることなく置き換えた場合に、ピール(g/2cm)が「1025FA」から「675AF」になり(なお、「ピール」とは、剥離に要する力をいう。)、凝集力が「ずれ0.6mm」から「ずれ16mm」になった例が示されている(表-8の実施例6、7)。 このことからすれば、架橋性官能基であるエポキシ基、水酸基、アミド基及びN-メチロールアミド基は、その種類に応じて異なる粘着力や凝集力を示すものと考えられるから、各モノマーは、粘着力や凝集力の点で等価であるとはいえないというべきである(なお、表-8の実施例7における凝集力の数値(「ずれ16mm」)については、他の実施例における数値と比較すると、「ずれ1.6mm」の誤記である可能性もあるといえるが、誤記であったとしても、実施例6とは3倍弱の違いが生じているのであるから、結論を左右しない。)。 そうすると、当業者において、各モノマーを同量の別のモノマーに置き換えたり、水酸基を有するモノマー(d成分)を導入した分だけグリシジルメタクリレート(c成分)の配合量を減少させて第3成分全体の配合量を維持したりすることが、自然なことであるとか、容易なことであるなどということはできない。 (エ) さらに、引用例1の摘記1aによれば、引用例1発明においては、第3成分(グリシジルメタクリレートはこれに当たる。)を第1成分及び第2成分の合計量100重量部に対して0.5?15重量部とするとされているから、第1成分ないし第3成分の合計量を100質量%としたときの第3成分の配合量は、0.5?13.0質量%となる(0.5/(100+0.5)×100?15/(100+15)×100)。 そうすると、引用例1発明において、グリシジルメタクリレートの配合量を本件特許発明1における数値範囲内である0.45質量%以下とするためには、第3成分の配合量の下限値とされている値である0.5質量%を下回る量まで減少させる必要があるところ、引用例1の記載をみても、このような調整を行うべき技術的理由を見いだすことはできない。 (オ) 以上のとおり、本件特許発明1と引用例1発明とでは技術分野や発明が解決しようとする課題が必ずしも一致するものではないこと、各モノマーは粘着力や凝集力の点で等価ではなく、当業者が各モノマーを置き換えたり配合量を維持したりすることは自然又は容易なことではないこと、当業者がグリシジルメタクリレートの配合量を第3成分の配合量の下限値未満に減少させる技術的理由は見いだされないことからすれば、引用例1発明に接した当業者において、相違点2に係る本件特許発明1の構成に至る動機付けがあったということはできない。 したがって、引用例1発明におけるb成分の配合量b及びc成分の配合量cの値を変更し、本件特許発明1における数値範囲内に調整することを、本件出願時における当業者が容易に想到し得たということはできない。 エ 引用例1発明を主とした場合のまとめ 以上検討したところによれば、引用例1発明について、本件出願時における当業者が、相違点1に係る本件特許発明1の構成に至ることを容易に想到し得たということはできず、また、相違点2に係る本件特許発明1の構成に至ることを容易に想到し得たということもできないから、相違点3について判断するまでもなく、本件特許発明1は、引用例1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 (2)引用例2発明を主とした場合 ア 本件特許発明1と引用例2発明との対比 引用例2発明の「アクリル酸n-ブチル」は、本件特許発明1の「(A-a)(メタ)アクリル酸エステル」に相当する。引用例2発明の「アクリル酸」は、本件特許発明1の「(A-b)カルボキシル基および炭素-炭素二重結合を有する重合性化合物」に相当する。引用例2発明の「アクリル酸グリシジル」は、本件特許発明1の「(A-c)グリシジル基および炭素-炭素二重結合を有する重合性化合物」に相当する。引用例2発明の「アクリル酸2-ヒドロキシエチル」は、本件特許発明1の「(A-d)水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル」に相当する。 引用例2発明において、(メタ)アクリル酸エステル共重合体を構成するモノマーの全量を100質量%としたとき、アクリル酸の配合量bは4.8(5/(80+10+5+5+5)×100)であるから、本件特許発明1の「(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)を構成するモノマーの全量を100質量%としたとき、上記(A-b)の配合量b(質量%)」が、「4≦b≦14」を満たすとの規定に適合する。 してみると、本件特許発明1と引用例2発明とは、 「(メタ)アクリル酸エステル共重合体であって、 (A-a)(メタ)アクリル酸エステル、 (A-b)カルボキシル基および炭素-炭素二重結合を有する重合性化合物、 (A-c)グリシジル基および炭素-炭素二重結合を有する重合性化合物、 及び (A-d)水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル を構成モノマーとして含み、 (メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)を構成するモノマーの全量を100質量%としたとき、上記(A-b)の配合量b(質量%)が、4≦b≦14を満たす(メタ)アクリル酸エステル共重合体。」 である点において一致し、以下の点において相違が認められる。 (相違点4) 本件特許発明1は、「(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)を構成するモノマーの全量を100質量%としたとき、上記(A-b)の配合量b(質量%)と上記(A-c)の配合量c(質量%)とが、下記式:10≦b+40c≦26(但し0.05≦c≦0.45)」であるのに対し、引用例2発明の共重合体は当該cが4.8(5/(80+10+5+5+5)×100)、b+40cが196.8である点 (相違点5) 本件特許発明1の共重合体は「化粧シートの粘着剤層に用いる粘着剤組成物用である」のに対し、引用例2発明の共重合体は当該用途に用いることが記載されていない点 イ 相違点4の容易想到性 (ア) 相違点4は、(メタ)アクリル酸エステル共重合体を構成するモノマーの全量を100質量%としたときのb成分の配合量b及びc成分の配合量cの値が、本件特許発明1は「10≦b+40c≦26(但し0.05≦c≦0.45)」であるのに対し、引用例2発明はcが4.8、b+40cが196.8であるというものである。 そこで、引用例2発明における上記b及びcの値を変更し、本件特許発明1における数値範囲内に調整することを、当業者が容易に想到し得たか否かについて検討する。 (イ) まず、刊行物2の摘記2a、2bのとおり、引用例2発明は、半導体ウエハに付着した異物の除去用粘着テープの発明であり、剥離操作後の糊残りを少なくし、半導体ウエハに付着した異物を高い除去率で吸着除去する一方、上記糊残りが生じたとしてもこれを水洗によって簡単に洗浄除去することを目的とするものである。 そうすると、化粧シートの粘着剤層に用いる粘着剤組成物用の化合物の発明である本件特許発明1と引用例2発明とでは、技術分野や発明が解決しようとする課題が必ずしも一致するものではないから、もともと引用例2発明に本件特許発明1の課題を解決するための改良を加える動機付けが乏しいというべきである。 (ウ) また、引用例2発明は、アクリル酸n-ブチル(a成分)80部、アリロニトリル10部、アクリル酸(b成分)5部、アクリル酸2-ヒドロキシエチル(d成分)5部、アクリル酸グリシジル(c成分)5部が重合された(メタ)アクリル酸エステル共重合体であるところ、相違点4に係る本件特許発明1の構成に至るためには、4.8質量%であるアクリル酸グリシジルの配合量を、10分の1以下である0.45質量%以下に変更する必要がある。 しかしながら、引用例2の摘記2cには、架橋性官能基を有する共重合性モノマーとして、5種のモノマー(カルボキシル基含有モノマー、ヒドロキシ基含有モノマー、アミド基含有モノマー、エポキシ基含有モノマー及びアミノ基含有モノマー)が例示された上、これらのモノマーが、粘着剤のゲル分率や粘着力を調整するために用いられる旨や、一般には(メタ)アクリル酸アルキルエステル100重量部に対して0.1?30重量部、好ましくは2?10重量部の割合で用いられる旨は記載されているものの(段落【0022】)、アクリル酸グリシジルに着目した記載や、その配合量を10分の1以下にすることによって奏される特定の効果等に関する記載は存しない。 そうすると、引用例2発明において、アクリル酸グリシジルの配合量を本件特許発明1における数値範囲内に調整するためには、上記5種のモノマーの中からアクリル酸グリシジルに着目し、かつ、その配合量を10分の1以下とする調整を行う必要があるところ、引用例2の記載をみても、このような調整を行うべき技術的理由を見いだすことはできない。 (エ) 以上のとおり、本件特許発明1と引用例2発明とでは技術分野や発明が解決しようとする課題が必ずしも一致するものではないから、もともと引用例2発明に本件特許発明1の課題を解決するための改良を加える動機付けが乏しいことに加え、当業者が5種のモノマーの中からアクリル酸グリシジルに着目してその配合量を10分の1以下とする調整を行う技術的理由は見いだされないことからすれば、引用例2に接した当業者において、相違点4に係る本件特許発明1の構成に至る動機付けがあったということはできない。 したがって、引用例2発明におけるb成分の配合量b及びc成分の配合量cの値を変更し、本件特許発明1における数値範囲内に調整することを、本件出願時における当業者が容易に想到し得たということはできない。 ウ 引用例2発明を主とした場合のまとめ 以上検討したところによれば、引用例2発明について、本件出願時における当業者が、相違点4に係る本件特許発明1の構成に至ることを容易に想到し得たということはできないから、相違点5について判断するまでもなく、本件特許発明1は、引用例2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 (3)引用例3を主引例とした場合 ア 本件特許発明1と引用例3発明との対比 引用例3発明の「アクリル酸ブチル」は、本件特許発明1の「(A-a)(メタ)アクリル酸エステル」に相当する。引用例3発明の「メタクリル酸」は、本件特許発明1の「(A-b)カルボキシル基および炭素-炭素二重結合を有する重合性化合物」に相当する。引用例3発明の「メタクリル酸グリシジル」は、本件特許発明1の「(A-c)グリシジル基および炭素-炭素二重結合を有する重合性化合物」に相当する。引用例3発明の「アクリル酸2-ヒドロキシエチル」は、本件特許発明1の「(A-d)水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル」に相当する。 引用例3発明において、(メタ)アクリル酸エステル共重合体を構成するモノマーの全量を100質量%としたとき、メタクリル酸の配合量bは10(10/(55+10+20+15)×100)であるから、本件特許発明1の「(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)を構成するモノマーの全量を100質量%としたとき、上記(A-b)の配合量b(質量%)」が、「4≦b≦14」を満たすとの規定に適合する。 してみると、本件特許発明1と引用例3発明とは、 「(メタ)アクリル酸エステル共重合体であって、 (A-a)(メタ)アクリル酸エステル、 (A-b)カルボキシル基および炭素-炭素二重結合を有する重合性化合物、 (A-c)グリシジル基および炭素-炭素二重結合を有する重合性化合物、 及び (A-d)水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルを構成モノマーとして含み、 (メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)を構成するモノマーの全量を100質量%としたとき、上記(A-b)の配合量b(質量%)が、4≦b≦14を満たす(メタ)アクリル酸エステル共重合体。」 である点において一致し、以下の点において相違が認められる。 (相違点6) 本件特許発明1は、「(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)を構成するモノマーの全量を100質量%としたとき、上記(A-b)の配合量b(質量%)と上記(A-c)の配合量c(質量%)とが、下記式:10≦b+40c≦26 (但し0.05≦c≦0.45)」を満たすのに対し、引用例3発明の共重合体は当該cが20(20/(55+10+20+15)×100)、b+40cが810である点 (相違点7) 本件特許発明1の共重合体は「化粧シートの粘着剤層に用いる粘着剤組成物用である」のに対し、引用例3発明の共重合体は当該用途に用いることが記載されていない点 イ 相違点6の容易想到性 (ア) 相違点6は、(メタ)アクリル酸エステル共重合体を構成するモノマーの全量を100質量%としたときのb成分の配合量であるb及びc成分の配合量であるcの値が、本件特許発明1は「10≦b+40c≦26(但し0.05≦c≦0.45)」であるのに対し、引用例3発明はcが20、b+40cが810であるというものである。 そこで、引用例3発明における上記b及びcの値を変更し、本件特許発明1における数値範囲内に調整することを、当業者が容易に想到し得たか否かについて検討する。 (イ) まず、引用例3の摘記3a、3bのとおり、引用例3発明は、ダイシング・ダイボンド兼用粘接着シートの発明であり、スタック時に発生するボンディングワイヤーの損傷を低減するとともに、半導体チップ同士を接着する接着剤層の厚みの精度不良に起因する半導体装置の高さのばらつき、基板から最上層の半導体チップの表面までの高さのばらつき、最上層の半導体チップの傾き等を解消することを目的とするものである。 そうすると、化粧シートの粘着剤層に用いる粘着剤組成物用の化合物の発明である本件特許発明1と引用例3発明とでは、技術分野や発明が解決しようとする課題が必ずしも一致するものではないから、もともと引用例3発明に本件特許発明1の課題を解決するための改良を加える動機付けが乏しいというべきである。 (ウ) また、引用例3発明は、アクリル酸ブチル(a成分)55質量部、メタクリル酸(b成分)10質量部、メタクリル酸グリシジル(c成分)20質量部、アクリル酸2-ヒドロキシエチル(d成分)15質量部が共重合された(メタ)アクリル酸エステル共重合体であるところ、相違点6に係る本件特許発明1の構成に至るためには、20質量%であるメタクリル酸グリシジルの配合量を、40分の1以下である0.45質量%以下に減少させる必要がある。 しかしながら、引用例3摘記3cのとおり、引用例3においては、共重合体中における(メタ)アクリル酸グリシジルから誘導される成分単位の含有率について、通常は0?80質量%であり、好ましくは5?50質量%であるとされているのであるから(段落【0035】)、上記のような配合量の変更は、グリシジル基含有モノマーにつき、好ましいとされている配合量の下限値である5質量%の10分の1以下とする調整をすることとなる。また、引用例3には、グリシジル基含有モノマーに着目した記載や、その配合量を40分の1以下にすることによって奏される特定の効果等に関する記載は存しないし、(メタ)アクリル酸グリシジルの含有量を0質量%付近に設定している合成例も見当たらない。 そうすると、引用例3発明において、メタクリル酸グリシジルの配合量を本件特許発明1における数値範囲内に調整するためには、a成分ないしd成分のモノマーの中からc成分の(メタ)アクリル酸グリシジルのみに着目し、かつ、その配合量を好ましいとされている範囲の下限値である5質量%の10分の1以下とする調整を行う必要があるところ、引用例3の記載をみても、このような調整を行うべき技術的理由を見いだすことはできない。 (エ) 以上のとおり、本件特許発明1と引用例3発明とでは技術分野や発明が解決しようとする課題が必ずしも一致するものではないから、もともと引用例3発明に本件特許発明1の課題を解決するための改良を加える動機付けが乏しいことに加え、当業者がメタクリル酸グリシジルのみに着目してその配合量を好ましいとされている範囲の下限値の10分の1以下とする調整を行うべき技術的理由は見いだされないことからすれば、引用例3に接した当業者において、相違点6に係る本件特許発明1の構成に至る動機付けがあったということはできない。 したがって、引用例3発明におけるb成分の配合量b及びc成分の配合量cの値を変更し、本件特許発明1における数値範囲内に調整することを、当業者が容易に想到し得たということはできない。 ウ 引用例3発明を主とした場合のまとめ 以上検討したところによれば、引用例3発明について、本件出願時における当業者が、相違点6に係る本件特許発明1の構成に至ることを容易に想到し得たということはできないから、相違点7について判断するまでもなく、本件特許発明1は、引用例3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 (4)小括 以上検討したところによれば、本件特許発明1は、引用例1?3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 2 取消理由に採用しなかった特許異議の申立理由について 申立人は、特許異議申立書において、証拠として甲第1号証(引用例1)を提出して、本件特許発明1は、引用例1に記載された発明と実質的に同一であり、引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、取り消されるべきものである旨主張している。 以下、上記申立理由について検討する。 申立人は異議申立書8?9頁において、引用例1の摘記1fには、実施例1?5として、2EHA(2-エチルヘキシルアクリレート)が399.0重量部、n-BA(ノルマルブチルアクリレート)が105.0重量部、EA(エチルアクリレート)が140.0重量部、AA(アクリル酸)が47.5重量部、GMA(グリシジルメタクリレート)3.5重量部含まれたものが記載されており、摘記1gには、実施例10として、2EHAが175重量部、n-BAが329重量部、MAが140重量部、AAが49重量部、HEMAが7重量部含有されたものが記載されており、引用例1の第2頁右欄8行目?第3頁左欄8行目には、「グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、β-ヒドロキシエチルメタクリレート、β-ヒドロキシアクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド等が挙げられる。これは1種のみ、又は2種以上併用して第1成分と共重合させることができる。」と記載されているのであるから、引用例1においては、GMAとHEMAを併用してもよいこと、そして、これらを併用する場合、含有量については、1種のみを含有させる場合に比べて減らす必要があり、通常は半分の量含有させることとなるとから、引用例1には、実質的に (メタ)アクリル酸エステル共重合体であって、 (A-a)(メタ)アクリル酸エステル、644重量部 (A-b)カルボキシル基および炭素-炭素二重結合を有する重合性化合物、47.5あるいは49重量部 (A-c)グリシジル基および炭素-炭素二重結合を有する重合性化合物 1.75重量部、及び (A-d)水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル 3.5重量部 を構成モノマーとして含む化粧シートの粘着剤層に用いる粘着剤組成物用である(メタ)アクリル酸エステル共重合体(以下、申立人主張の(メタ)アクリル酸エステル共重合体、とする。)が記載されていると主張している。 しかしながら、GMAとHEMAを併用してよいとの記載が存在することをもって、引用例1にGMAとHEMAを併用したものが実質的に記載されているとは認められないし、GMAとHEMAを併用する際に、含有量をそれぞれ一種のみを含有させる場合の半分としたものが開示されているともいえない。 してみれば、申立人主張の(メタ)アクリル酸エステル共重合体は引用例1に実質的に記載されているとは認められず、本件特許発明1は、引用例1に記載された発明と実質的に同一でないから、引用例1に記載された発明であるとはいえない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠、並びに当審で通知した取消理由によっては、本件特許発明1についての特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許発明1についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2021-03-17 |
出願番号 | 特願2017-2700(P2017-2700) |
審決分類 |
P
1
652・
121-
Y
(C09J)
P 1 652・ 113- Y (C09J) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 佐藤 貴浩 |
特許庁審判長 |
天野 斉 |
特許庁審判官 |
古妻 泰一 門前 浩一 |
登録日 | 2018-10-19 |
登録番号 | 特許第6419863号(P6419863) |
権利者 | リケンテクノス株式会社 |
発明の名称 | (メタ)アクリル酸エステル共重合体 |
代理人 | 浅野 真理 |
代理人 | 永井 浩之 |
代理人 | 朝倉 悟 |
代理人 | 小島 一真 |
代理人 | 佐藤 泰和 |
代理人 | 中村 行孝 |