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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 A23D |
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管理番号 | 1372730 |
異議申立番号 | 異議2020-700937 |
総通号数 | 257 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-05-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-12-02 |
確定日 | 2021-03-26 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6704203号発明「ケーキ用油脂組成物および該ケーキ用油脂組成物が配合されたケーキ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6704203号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6704203号の請求項1に係る特許についての出願は、平成25年9月30日の出願であって、令和2年5月14日に特許権の設定登録がされ、令和2年6月3日にその特許公報が発行され、令和2年12月2日に、その請求項1に係る発明の特許に対し、川端 慶子(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 特許第6704203号の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 液状油脂を75?95質量%、レシチンを0.01?1質量%、構成脂肪酸の68?87質量%がステアリン酸、及び11?30質量%がパルミチン酸であるグリセリンモノ脂肪酸エステルであるグリセリンモノ脂肪酸エステルを0.4?7質量%、並びにプロピレングリコール脂肪酸エステルを3?15質量%含有するケーキ用油脂組成物(ただし、油中水型乳化組成物を除く)を原料として配合し、水以外の全ての原料をミキシングし、ミキシング停止後に加水して調整した生地を焼成して製造することを特徴とするバウムクーヘンの製造方法。」 第3 申立理由の概要及び証拠方法 特許異議申立人は、証拠方法として以下の甲第1号証?甲第15号証を提出して、以下の申立理由を主張している。 (証拠方法) 甲第1号証:特開2005-48号公報(以下「甲1」という。) 甲第2号証:特開2011-72271号公報(以下「甲2」という。) 甲第3号証:特開昭54-139612号公報(以下「甲3」という。) 甲第4号証:特開昭61-78344号公報(以下「甲4」という。) 甲第5号証:特開昭59-98651号公報(以下「甲5」という。) 甲第6号証:特開2006-20610号公報(以下「甲6」という。) 甲第7号証:特開昭55-64755号公報(以下「甲7」という。) 甲第8号証:関西スイーツの公式ホームページ、「第2回関西スイーツ勉強会「バウムクーヘン編」II-2、[online]、2011年9月15日、[令和2年7月3日検索],インターネットURL: https://www.kansaisweets.com/archives/853(以下「甲8」という。) 甲第9号証:特開2009-153477号公報(以下「甲9」という。) 甲第10号証:特開2006-230224号公報(以下「甲10」という。) 甲第11号証:特開平1-218537号公報(以下「甲11」という。) 甲第12号証:日高 徹著、「食品用乳化剤 第2版」、(1991年3月1日)、株式会社 幸書房発行、p.104?107、176?181、184?186(以下「甲12」という。) 甲第13号証:竹林やゑ子著、「洋菓子材料の調理科学」、(2001年7月31日)、株式会社柴田書店発行、p.188?193(以下「甲13」という。) 甲第14号証:特開2006-230224号公報(以下「甲14」という。甲10と同一の書証である。) 甲第15号証:特開2007-236345号公報(以下「甲15」という。) (申立理由の概要) 申立理由1(進歩性) 本件発明は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲1に記載された発明及び甲1?甲9及び甲13に記載された技術的事項に基いて、または、甲10に記載された発明及び甲9?甲13に記載された技術的事項に基いて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件発明に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 第4 当審の判断 1 甲1?甲15の記載 (1)甲1の記載 甲1a「【請求項1】 食用油脂(A)50?85重量部、乳化剤(B)10?30重量部、保湿剤(C)0.1?10重量部を含有する油脂組成物であり、かつ下記であるベーカリー製品用油脂組成物。 1)食用油脂(A)を構成する全脂肪酸残基に対して不飽和脂肪酸残基が75%以上であること。 2)(A)/(B)の比率が6.5以下であること。」 甲1b「【0007】 【発明が解決しようとする課題】 本発明はパンを中心とするベーカリー製品にあって、製品保存中の老化防止効果を向上させるとともに、従来の老化防止技術に見られる食感の低下、特に、ねとつき等の発現に伴う口どけ感の低下を抑制し得るベーカリー製品用油脂組成物を提供することを目的とする。」 甲1c「【0033】 【実施例】 実施例1?5、比較例1?5 本発明における実施例1?5及び比較例1?4の油脂組成物の組成を表1及び表2に示し た。 ・・・・・ 【0036】 実施例1?5及び比較例1?3における油脂組成物についての食用油脂と乳化剤の配合比率及び針入度の測定結果を表3に示す。 ・・・・・ 【0038】 【表1】 ![]() 【0039】 ナタネ白絞油;不飽和脂肪酸残基93% 市販植物性ショートニング;不飽和脂肪酸残基71% 市販植物性ショートニングはナタネ油、硬化ナタネ油、パーム油、硬化パーム油からなるものを使用した。 ・・・・・ 【0043】 上記実施例1?5及び比較例1?4、及び油脂組成物無添加配合である比較例5について製パン評価を行った。 【0044】 ・・・評価を行ったパン配合(中種配合、本捏配合)を表4に示す。 【0045】 【表4】 ![]() ・・・・・ 【0047】 ・・・・・ (製パン) 1.中種生地調製条件 縦型ミキサー(関東ミキサー、10コート)、フックを用い、中種配合材料をミキサーに入れ、低速3分、中高速2分で混捏し、捏上温度を25℃とし、中種生地とした。次に、これを発酵(中種発酵)させた。この時の条件は下記の通りである。 中種発酵温度 26.5℃ 中種発酵相対湿度 80% 中種発酵時間 2時間30分 中種発酵終了温度 29.0℃ 2.本捏生地調製条件 縦型ミキサー(関東ミキサー、10コート)に、中種配合生地を入れ、本捏配合材料(マーガリン、油脂組成物、キサンタンガム以外の材料)を添加し、低速3分、中高速3分で混捏後、残った材料(マーガリン、油脂組成物、キサンタンガム)を添加し、低速3分、中高速3分、高速7分で混捏し、本捏生地とした。本捏生地の捏上温度は29℃とした。 【0048】 次に、混捏でダメージを受けた生地を回復させるために、27.0℃にてフロアータイムを20分とり、この後60gの生地に分割した。分割での生地ダメージをとるために、ベンチタイムを27.0℃で20分とり、モルダーで成型した。天板に成型した生地をのせ、発酵(ホイロ)を行った。ホイロの条件は下記の通りである。 ホイロ温度 38℃ 相対湿度 80% ホイロ時間 45分 上記条件にて調製したパン生地を170℃のオーブンで13分間焼成した。焼成後、室温(20℃)において45分間冷却後、ビニール袋に入れ、密閉し、更に20℃において3日間保存を行い、パンサンプルとした。 <パン官能評価> パンを喫食した際の柔らかさ、しっとり感、口どけ感について10名のパネラーによるモナディック評価を行った。 ◎;10名中8名以上が良好であると判断した。 ○;10名中5?7名が良好であると判断した。 △;10名中3?4名が良好であると判断した。 ×;10名中8名以上が良好ではないと判断した。 【0049】 これらの結果を表5に示す。 【0050】 【表5】 ![]() 【0051】 上記の如く、本発明の油脂組成物を添加することにより、老化が抑制され、かつ口どけ感も向上することがわかった。」 (2)甲2の記載 甲2a「【0012】 ・・・・・ 油相中のTAGの含有量は0.5?50質量%(以下、単に「%」と記載する)・・ ・・・・・ 【0015】 本発明で用いる有機酸モノアシルグリセロールは、モノアシルグリセロール(グリセリン脂肪酸モノエステル、以下「MAG」と記載する)・・・ ・・・・・ 【0016】 本発明で使用するMAGは、グリセリンと脂肪酸のモノエステルであり、更に有機酸がエステル結合した前記「有機酸MAG」を除いたものである。また、脂肪酸は飽和のものを用いることが乳化安定性の点から好ましい。MAG中の脂肪酸が結合する位置は、α、β-位のいずれでもよく、好ましくはα位に飽和脂肪酸が結合しているものを用いるのがよい。更に、MAGの全脂肪酸残基に対して、炭素数14?22の鎖長の飽和脂肪酸残基が60%以上であることが好ましく、更に90%以上であることが、焼成後のパンの食感向上、老化防止の点から好ましい。 炭素数14?22の飽和脂肪酸としては、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸等の飽和脂肪酸が挙げられる。・・・」(決定注:下線は当審が付与。以下同様。) 甲2b「【0036】 【表2】(表を省略) ・・・・・ *10:エキセルT-95(花王(株))MAG含量95%、構成脂肪酸組成:C14 1.8%、C16 28%、C18 66.5%、C20 1.9%、その他 1.8% ・・・・・」 (3)甲3の記載 甲3a「2.特許請求の範囲 植物性油脂に、該油脂に対してプロピレングリコールモノステアレート6.0?12.0%(対植物性油脂,重量%,以下同じ),グリセリンモノステアレート1.0?3.0%及び大豆レシチン0.1?1.0%からなる乳化剤混合物を加え、完全に溶融するまで加熱した後、急冷捏和を行ない該乳化剤混合物のα型結晶を析出せしめ、次いで、該乳化剤混合物のβ型結晶融解温度以上で且つインターメデイエイト型結晶融解温度を越えない温度まで再び加熱し、該温度領域に1時間以上100時間以内保持して該乳化剤混合物のインターメデイエイト型結晶を析出せしめ、さらに室温まで放冷して該乳化剤混合物のβ’型結晶を析出せしめることを特徴とするケーキ用流動状油脂の製造法。」(特許請求の範囲) 甲3b「そこで、長期間流動性があり、かつ分離を起こさず、更にボリユーム,キメ,ツヤの優れたケーキを製造する性能すなわち、ケーキ性が良好であり、かつ良好なケーキ性を長期間保持することが可能な流動性油脂が、ケーキ製造業者らによつて望まれていた。 本発明の目的はかかる油脂の製造法を提供することである。」(2頁右上欄5?12行) 甲3c「本発明のケーキ用流動状油脂が、長期に渡つて安定であるのは、油脂中に分散している乳化剤混合物の結晶がβ’型とインターメデイエイト型を等量含み、結晶の粗大化を困難にしていることに起因しているものと推測される。 前記の組成を有しない乳化剤混合物では、このような安定性を保持することができず、本発明の乳化剤の種類と量の組合せにより始めて本発明の目的が達成されるものである。」(3頁左上欄10?18行) 甲3d「実施例1. プロピレングリコールモノステアレート(以下PGMSと略す)60Kg、グリセリンモノステアレート(以下MGSと略す)10Kg及び大豆レシチン(以下SLEと略す)1Kgからなる乳化剤混合物を、米油929Kgに加え、これを、60℃に加温し、溶解、混合した。その後これを急冷捏和装置、ボテーターにて、20℃まで冷却捏和し、然る後、35℃にて48時間保持し、次いで、22℃の室温中で放冷した。 ・・・・・ 実施例2. PGMS120Kg,MGS30Kg及びSLE10Kgからなる乳化剤混合物を大豆油850Kgに加え、これを、60℃に加温し、溶解,混合した。その後これを、ボテーターにて22℃まで冷却捏和し、然る後、39℃にて80時間保持し、次いで20℃の室温中で放冷した。 ・・・・・ 実施例3. PGMS90Kg,MGS20Kg及びSLE5Kgからなる乳化剤混合物を、コーン油885Kgに加え、これを60℃に加温し、溶解,混合した。その後これを、ボテーターにて21℃まで冷却捏和し、然る後、39℃にて2時間保持し、次いで20℃の室温中で放冷した。」(3頁左上欄1行?4頁左上欄5行) (4)甲4の記載 甲4a「2.特許請求の範囲 液体ショートニングを製造するに際し、プロピレングリコールモノ脂肪酸エステルを5%以上配合し、その脂肪酸組成がステアリン酸:パルミチン酸=80:20?40:60になるように配合することを特徴とする長期安定性に優れた液体ショートニング組成物。」(特許請求の範囲) 甲4b「〔問題点を解決するための手段〕 本発明者らはこの現象を熟慮し、PGEの脂肪酸組成の特定の範囲内において液体ショートニングの性能が低下することなく、保管中の性能安定性が改善されることを見い出した。 PGEの脂肪酸組成の比率はステアリン酸/バルミチン酸=80/20?40/60が良く、好ましくは80/20?50/50の範囲が良い。 〔作 用〕 PGEのステアリン酸の比率が80%より大きくなるとプロピレングリコールモノステアレートの結晶性が大きくなり、40%より小さくなるとPGEの配合量に対する液体ショートニングの性能が低くなり不経済である。 プロピレングリコールモノパルミテートの配合比率が増すと性能安定性が良くなる理由としては、プロピレングリコールモノパルミテートの溶媒効果によるものと推定される。つまり、油脂への溶解性がブロピレングリコールモノステアレートより高いプロピレングリコールモノパルミテートが低温においても油脂中に溶解し、プロピレングリコールモノステアレートの溶媒として働くためと考えられる。」(2頁右上欄2行?左下欄4行) (5)甲5の記載 甲5a「2.特許請求の範囲 常温で液状の油脂100重量部に対して、プロピレングリコール脂肪酸エステル4?16重量部、レシチン0.01?2重量部、ショ糖脂肪酸エステル0.01?2重量部およびグリセリン脂肪酸エステル0.01?6重量部を配合してなり、かつ上記乳化剤の総量が8?18重量部である製菓用流動状ショートニング。」(特許請求の範囲) 甲5b「本発明は、室温以下の低温においても流動性が良好であり、また優れた製菓性能を有する製菓用流動状ショートニングに関する。」(1頁左下欄13?15行) 甲5c「 実施例2 65℃に加熱した大豆油50Kgにプロピレングリコールモノステアレート5.0Kg,グリセリンモノステアレート0.25Kgを溶解した。これにレシチン0.5Kg,ショ糖ステアレート(HLB2)0.2Kg、グリセリンクエン酸モノステアレート1.0Kgの三者を65℃で混合溶融後添加した。その後コンビネーターを用いて20℃まで急冷捏和して製品を得た。」(3頁左上欄3?10行) (6)甲6の記載 甲6a「【請求項1】 生地にイカ墨が混入されていることを特徴とする、バウムクーヘン。」 甲6b「【0028】 <7>生地調製 1.粉類は全4種類のものを合わせて3回ふるった。卵は湯煎で30℃にした。バターは湯煎で60℃にした。 2.ミキサーボールにショートニング、加工油脂、上白糖、トレハロースを入れ、中速で混合し、ついで最高速に変えて、攪拌時間を7分に設定し、30秒経過後卵1200gを入れ、1分経過後約600g入れ、2分経過後約300g入れ、その後高速に変えて残量を入れた。その後低速に変えて1.の粉類を入れ、粉類が生地に混ざった後、中速に変えて混合した。 3.2.の生地に、<6>のイカ墨ペーストを入れ、手で混合した。 【0029】 <8>煤焼、成型 1.オーブンの皿に<7>の生地を流し入れ、生地を40℃まで温め、煤焼を行った(オーブンは348℃でスタートさせた)。 2.麺棒に、賠償した生地を20?23回巻いて、バウムクーヘンとした。」 (7)甲7の記載 甲7a「2.特許請求の範囲 炭素数22の飽和脂肪酸のモノグリセライド0.5?3%、プロピレングリコールモノステアレート6?10%、及び液状油87?93.5%からなるバームクーヘン用シヨートニング。」(特許請求の範囲) (8)甲8の記載 甲8a「クラブハリエ 「バームクーヘン」 ・・・・・ 【原材料の表示】 卵、砂糖、コーンスターチ、ショートニング、バター、小麦粉、生クリーム、食塩、リキュール、寒天、乳化剤、ベーキングパウダー、香料」 (9)甲9の記載 甲9a「【0072】 〔バウムクーヘンの製造方法〕 砂糖、薄力粉、コーンスターチ、食塩、還元糖、膨張剤(ベーキングパウダー)の混合物にα化デンプンを混ぜ合わせ、さらに全卵を加えて均一に混ぜ合わせた。全卵を加えて均一に混ぜ合わせた後、70℃程度で溶かした各油中水型乳化組成物を加えて、比重0.70前後になるまで混ぜ合わせたてた。比重0.70前後になった後、生クリームと水を混ぜ合わせることで、バウムクーヘンの生地を調製した。得られた各生地を、湯煎で生地温度が30℃になるように調整した後、生地90gをオーブンにて、焼成温度、上火210℃、下火150℃で焼成した。生地の焼成を7回繰り返し、7層に焼き上げることで、バウムクーヘンを製造した。」 (10)甲10の記載 甲10a「【請求項1】 油脂と食品用乳化剤を含有するショートニングであって、前記ショートニング100質量%中、食品用乳化剤が以下の(a)?(d); (a)ジグリセリン飽和脂肪酸エステル1?25質量%、 (b)グリセリン有機酸飽和脂肪酸エステル0.1?5質量%、 (c)レシチン0.05?5質量%、並びに (d)グリセリンモノ飽和脂肪酸エステルおよび/またはソルビタン飽和脂肪酸エステル0.05?5質量% からなり、且つ(a)、(b)、(c)および(d)の合計量が5?30質量%であることを特徴とするケーキ用流動状ショートニング。」 甲10b「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 本発明は、特にバタースポンジケーキ、パウンドケーキなど油脂を多量に配合したケーキ類生地をオールインミックス法で製造する際に用いられ、ケーキの生地の起泡性を向上させ、ソフトな食感のケーキを作ることができる、ケーキ用流動状ショートニングを提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明者らは、上記課題に対して鋭意・検討を行った結果、油脂と食品用乳化剤からなる油脂組成物において、食品用乳化剤としてジグリセリン飽和脂肪酸エステル、グリセリン有機酸飽和脂肪酸エステル、レシチン、並びにグリセリンモノ飽和脂肪酸エステルおよび/またはソルビタン飽和脂肪酸エステルを組み合わせることにより、上記課題が解決されることを見いだし、この知見に基づいて本発明をなすに至った。」 甲10c「【0014】 本発明の油脂組成物100質量%中の(a)ジグリセリン飽和脂肪酸エステルの含有量は約1?25質量%が好ましく、より好ましくは約3?20質量%である。(a)ジグリセリン飽和脂肪酸エステルは、ケーキ生地の起泡性を向上させる機能と共に、ケーキ生地中の気泡を安定化させる機能を併せ持つ。一方、ジグリセリン不飽和脂肪酸エステルではこのような作用は得られない。 ・・・・・ 【0018】 本発明の油脂組成物100質量%中のグリセリン有機酸飽和脂肪酸エステルの含有量は約0.1?5質量%が好ましく、より好ましくは約0.3?1質量%である。グリセリン有機酸飽和脂肪酸エステルは、ジグリセリン飽和脂肪酸エステルのケーキ生地の起泡性を向上させる機能を保護し、結果としてソフトな食感のケーキを作る作用を有する。一方、グリセリン有機酸不飽和脂肪酸エステルではこのような作用は得られない。 ・・・・・ 【0020】 本発明の油脂組成物100質量%中のレシチンの含有量は約0.05?5質量%が好ましく、より好ましくは約0.1?2質量%である。レシチンは、ショートニング中の乳化剤の結晶の粗大化を抑制し、結晶の分離や沈殿を抑制する機能を有する。 ・・・・・ 【0024】 本発明の油脂組成物100質量%中の(d)グリセリンモノ飽和脂肪酸エステルおよび/またはソルビタン飽和脂肪酸エステルの含有量は約0.05?5質量%が好ましく、より好ましくは約0.3?3質量%である。グリセリンモノ飽和脂肪酸エステルおよび/またはソルビタン飽和脂肪酸エステルは本発明のショートニング中に微細結晶の形で配合され、油脂組成物中の(a)ジグリセリン飽和脂肪酸エステルおよび(b)グリセリン有機酸飽和脂肪酸エステルの結晶の分離や沈殿を抑制する機能を有する。 ・・・・・ 【0033】 本発明になる流動状ショートニングは、スポンジケーキ、ロールケーキ、バタースポンジケーキ、パウンドケーキ、マドレーヌ、バウムクーヘン、カステラ、蒸しケーキなどのケーキ類を製造する際の起泡剤として、またケーキに配合される油脂の一部または全部の代替として生地に添加して用いられる。」 甲10d「【実施例】 【0035】 流動状ショートニングの作製 (1)流動状ショートニング作製用原材料 〔実施例1?5〕 1)油脂として、菜種油(吉原製油社)を用いた。 2)ジグリセリン飽和脂肪酸エステルとして、ジグリセリンモノパルミチン酸エステル(製品名:ポエムDP-100,モノエステル体含量 約85質量%,構成脂肪酸中のパルミチン酸含量約90質量%以上;理研ビタミン社)またはジグリセリンモノステアリン酸エステル(製品名:ポエムDS-100A,モノエステル体含量 約80質量%,構成脂肪酸中のC16?18脂肪酸含量約90質量%以上;理研ビタミン社)を用いた。 3)グリセリン有機酸飽和脂肪酸エステルとして、グリセリンコハク酸ステアリン酸エステル(製品名:ポエムB-10;理研ビタミン社)またはグリセリンジアセチル酒石酸ステアリン酸エステル(製品名:ポエムW-10;理研ビタミン社)を用いた。 4)レシチンは、レシチンDX(製品名;日清オイリオ社)を用いた。 5)グリセリン飽和脂肪酸エステルとして、グリセリンモノステアリン酸エステル(製品名:エマルジーMS,モノエステル体含量 約90質量%以上;理研ビタミン社)を用いた。 6)ソルビタン飽和脂肪酸エステルとして、ソルビタントリステアリン酸エステル(製品名:ポエムS-65V;理研ビタミン社)を用いた。 ・・・・ 【0037】 (2)流動状ショートニングの配合 上記原材料を配合して流動状ショートニング(製剤1?10)を作製した。配合組成を表1および表2に示した。この内、製剤1?5は本発明に係る実施例1?5である。・・・ 【0038】 【表1】 ![]() ・・・・・ 【0042】 〔バタースポンジケーキの作製と評価〕 (1)ケーキ生地の配合(配合組成を表3(決定注:表2の誤記と認める。)に示した。) 【表2】 ![]() 【0043】 (2)ケーキの作り方 上記の配合で総仕込量を804gとして、5コート縦型ミキサー(型式:万能混合攪拌機5DMr;品川工業所社)の中に砂糖、全卵、流動状ショートニングを入れ、ワイヤーホイッパーで低速にて攪拌し、軽く混合した。これに製菓用サラダ油、水および薄力粉とベーキングパウダーを篩に通したものを加え、低速で1分間混合し、ついで高速で4分間ホイップした。得られたケーキ生地の比重(g/mL)を表4(決定注:表3の誤記と認める。)に示した。 得られたケーキ生地を側面と底面に紙を敷いた7号丸型に600g採り、約20cm位上から2?3回落として大きな気泡を抜き、約170℃の電気オーブンで35分間焼成した。 【0044】 【表3】 ![]() 【0045】 (3)ケーキの評価 得られたケーキを1時間室温で冷却した後ポリエチレン製袋に密封し、室温にて1日間保存した。評価直前にケーキを切り分け、パネラー15名による官能試験により、ケーキの内相、ソフトさ、口どけについて評価した。各項目の評価基準を以下に示した。 【0046】 評価基準: a)内相 3点 きめが粗く、且つ均一である 2点 きめが粗いが、均一性に乏しい 1点 きめが細かい b)ソフトさ 3点 ソフトである 2点 ふつう 1点 硬い c)口どけ 3点 良い 2点 ふつう 1点 悪い 【0047】 上記a)?c)の3項目について、パネラーの評価点の平均値により下記の基準を設け、評価結果を記号で示した。評価結果を表5(決定注:表4の誤記と認める。)に示した。 ○ 2.5以上 △ 1.5以上、2.5未満 × 1.5未満 【0048】 【表4】 ![]() 【0049】 表4の結果から、本発明に従う製剤1?5を添加することにより、内相、食感に優れたケーキが得られることが明らかである。一方、本発明に従う流動状ショートニングを構成する要件を欠いた乳化剤、ジグリセリン不飽和脂肪酸エステル、テトラグリセリン飽和脂肪酸エステル、ヘキサグリセリン飽和脂肪酸エステルまたはグリセリン有機酸不飽和脂肪酸エステルを配合した製剤6?9ではケーキの内相、ソフトさ、口どけのいずれにおいても満足できる結果は得られなかった。」 (11)甲11の記載 甲11a「実施例2 実施例1において、「ポエムH-100」の代わりに「エマルジーMS」(理研ビタミン(株)製、モノステアリン含量約70%、モノパルミチン含量約30%、残存脂肪酸塩0.03%)を使用した以外は実施例1と同様の操作を行った。」(4頁右上欄9?14行) (12)甲12の記載 甲12a「 4.4.2 食品の起泡 ・・・・・ モノグリセリドは,溶融して冷却固化した直後はα結晶であるが,短時間に安定なβ結晶になることは前述した.α結晶の方が水に分散しやすく性能も良いが,その差が最も端的に現われるのが起泡力である.・・・ ・・・・・ いかにしてモノグリセリドのα結晶を安定化するかは,起泡性乳化剤の大きな課題である. ・・・・・ ・・モノグリセリドにプロピレングリコールエステル(PGエステル)を配合することで,α結晶が安定に保つことを見出した.・・・ステアリン酸モノグリセリドに,30モル%以下のステアリン酸PGエステルを混融したときは,放置すると結晶の転移が起こり,融点が上昇する.ところが,30モル%以上添加すると融点変化がなく,α結晶が安定に保たれていることがわかる.」(104頁下から4行?107頁表4.4下1行) (13)甲13の記載 甲13a「■オールイン法 ケーキ製造の方法には,油脂を撹拌してクリーミングすることによって膨化させるシュガーバッター法と,油脂の乳化分散法を利用して作るオールイン法がある. ・・・・・ この方法で行うとき,○1各材料を油脂の乳化力で分散させ,○2小麦粉のグルテンを少なくするように注意しなければならない. ・・・・・ ○2グルテンを作らないようにする ハイレシオケーキのように比較的水分が多いものは,抵抗が少ないので,撹拌しやすい.といって,撹拌しすぎると,小麦粉のグルテンが生成して強く細かい網目構造ができてしまう.焼いているときはよく膨張するが,冷えるにしたがって低くへこみ,ケーキは収縮して,見るからに見苦しいケーキになる.」(決定注:○数字は、丸付きの数字を表す。)(191頁下から10行?192頁10行) (14)甲14の記載 甲14a「【0014】 本発明の油脂組成物100質量%中の(a)ジグリセリン飽和脂肪酸エステルの含有量は約1?25質量%が好ましく、より好ましくは約3?20質量%である。(a)ジグリセリン飽和脂肪酸エステルは、ケーキ生地の起泡性を向上させる機能と共に、ケーキ生地中の気泡を安定化させる機能を併せ持つ。一方、ジグリセリン不飽和脂肪酸エステルではこのような作用は得られない。 ・・・・・ 【0018】 本発明の油脂組成物100質量%中のグリセリン有機酸飽和脂肪酸エステルの含有量は約0.1?5質量%が好ましく、より好ましくは約0.3?1質量%である。グリセリン有機酸飽和脂肪酸エステルは、ジグリセリン飽和脂肪酸エステルのケーキ生地の起泡性を向上させる機能を保護し、結果としてソフトな食感のケーキを作る作用を有する。一方、グリセリン有機酸不飽和脂肪酸エステルではこのような作用は得られない。」 (15)甲15の記載 甲15a「【0013】 本発明の油脂組成物100質量%中の(a)グリセリン乳酸飽和脂肪酸エステルおよび/またはグリセリン酢酸飽和脂肪酸エステルの含有量は約5?12質量%が好ましく、より好ましくは約6?10質量%である。グリセリン乳酸飽和脂肪酸エステル、グリセリン酢酸飽和脂肪酸エステルは、ケーキ生地の起泡性を向上させる機能と共に、ケーキ生地中の気泡を安定化させる機能を併せ持つ。一方、グリセリン乳酸不飽和脂肪酸エステル、グリセリン酢酸不飽和脂肪酸エステルではこのような作用は得られない。」 2 甲1を主引用例とする場合 (1)甲1に記載された発明 甲1は、「食用油脂(A)50?85重量部、乳化剤(B)10?30重量部、保湿剤(C)0.1?10重量部を含有する油脂組成物であり、かつ下記であるベーカリー製品用油脂組成物。1)食用油脂(A)を構成する全脂肪酸残基に対して不飽和脂肪酸残基が75%以上であること。2)(A)/(B)の比率が6.5以下であること。」(甲1a)に関し記載するものであって、その具体例の油脂組成物として、【表1】に記載の実施例5の油脂組成物を用い、【表4】の実施例5に記載のパン配合(中種配合、本捏配合)で、【0047】?【0048】に記載の製パン、すなわち、パンの製造方法に従い、パンを製造したことが記載されている(甲1c)。 そうすると、甲1には、実施例5の油脂組成物を用いたパンの製造方法として、 「食用油脂(A)として、ナタネ白絞油83.0重量%、乳化剤(B)として、グリセリン脂肪酸モノエステル(エキセルT-95:花王(株)製)7.0重量%、プロピレングリコールモノベヘン酸エステル(PGMB:花王(株)製)7.0重量%、大豆レシチン(日清レシチンDx:日清オイリオ(株)製)0.5重量%、保湿剤(C)として、キサンタンガム(ビストップ D-3000:三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)2.5重量%からなる油脂組成物を本捏配合材料の一つとして用い、 中種生地の調製として、縦型ミキサー(関東ミキサー、10コート)、フックを用い、中種配合材料である小麦粉、イースト、砂糖、卵、イーストフード、ドリーマンソフト及び水をミキサーに入れ、低速3分、中高速2分で混捏し、捏上温度を25℃とし、中種生地とし、次に、これを発酵(中種発酵)させ、この時の条件は、中種発酵温度26.5℃、中種発酵相対湿度80%、中種発酵時間2時間30分、中種発酵終了温度29.0℃であり、 本捏生地の調製として、縦型ミキサー(関東ミキサー、10コート)に、上記調製された中種配合生地を入れ、本捏配合材料(小麦粉、液糖、牛乳、水)を添加し、低速3分、中高速3分で混捏後、残った材料(マーガリン、上記油脂組成物、キサンタンガム)を添加し、低速3分、中高速3分、高速7分で混捏し、本捏生地とし、次に、27.0℃にてフロアータイムを20分とり、この後60gの生地に分割し、ベンチタイムを27.0℃で20分とり、モルダーで成型し、天板に成型した生地をのせ、発酵(ホイロ)を行い(ホイロの条件は、ホイロ温度38℃、相対湿度80%、ホイロ時間45分)、上記条件にて調製したパン生地を170℃のオーブンで13分間焼成する、パンの製造方法」 の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 (2)本件発明と甲1発明との対比 ア 甲1発明の「ナタネ白絞油83.0重量%」について、ナタネ白絞油は液状油脂であるから、本件発明の「液状油脂を75?95質量%」に相当する。 イ 甲1発明の「大豆レシチン(日清レシチンDx:日清オイリオ(株)製)0.5重量%」は、本件発明の「レシチンを0.01?1質量%」に相当する。 ウ 甲1発明の「グリセリン脂肪酸モノエステル(エキセルT-95:花王(株)製)7.0重量%」について、グリセリン脂肪酸モノエステルの構成脂肪酸の種類及び割合が明らかでないから、本件発明の「構成脂肪酸の68?87質量%がステアリン酸、及び11?30質量%がパルミチン酸であるグリセリンモノ脂肪酸エステルであるグリセリンモノ脂肪酸エステルを0.4?7質量%」とは、グリセリンモノ脂肪酸エステルを0.4?7質量%である点で共通する。 エ 甲1発明の「プロピレングリコールモノベヘン酸エステル(PGMB:花王(株)製)7.0重量%」は、本件発明の「プロピレングリコール脂肪酸エステルを3?15質量%」に相当する。 オ 甲1発明の「油脂組成物」は、「食用油脂(A)として、ナタネ白絞油83.0重量%、乳化剤(B)として、グリセリン脂肪酸モノエステル(エキセルT-95:花王(株)製)7.0重量%、プロピレングリコールモノベヘン酸エステル(PGMB:花王(株)製)7.0重量%、大豆レシチン(日清レシチンDx:日清オイリオ(株)製)0.5重量%、保湿剤(C)として、キサンタンガム(ビストップ D-3000:三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)2.5重量%からなる」「油脂組成物」であり、油中水型乳化組成物ではないことから、本件発明の「油脂組成物(ただし、油中水型乳化組成物を除く)」に相当する。 カ 甲1発明の「本捏生地の調製として・・上記調製された中種配合生地を入れ、本捏配合材料(小麦粉、液糖、牛乳、水)を添加し、低速3分、中高速3分で混捏後、残った材料(マーガリン、上記油脂組成物、キサンタンガム)を添加し、低速3分、中高速3分、高速7分で混捏し、本捏生地とし、次に、27.0℃にてフロアータイムを20分とり、この後60gの生地に分割し、ベンチタイムを27.0℃で20分とり、モルダーで成型し、天板に成型した生地をのせ、発酵(ホイロ)を行い(ホイロの条件は、ホイロ温度38℃、相対湿度80%、ホイロ時間45分)、上記条件にて調製したパン生地を170℃のオーブンで13分間焼成する、パンの製造方法」と、本件発明の「ケーキ用油脂組成物・・を原料として配合し、水以外の全ての原料をミキシングし、ミキシング停止後に加水して調整した生地を焼成して製造する・・バウムクーヘンの製造方法」とは、前記ア?オで述べたことを踏まえ、さらに、パンとバウムクーヘンとはベーカリー製品である点で共通することを踏まえると、ベーカリー製品用油脂組成物(ただし、油中水型乳化組成物を除く)を原料として配合し、ミキシングし、調整した生地を焼成して製造するベーカリー製品の製造方法である点で共通する。 キ そうすると、本件発明と甲1発明とは、 「液状油脂を75?95質量%、レシチンを0.01?1質量%、グリセリンモノ脂肪酸エステルを0.4?7質量%、並びにプロピレングリコール脂肪酸エステルを3?15質量%含有するベーカリー製品用油脂組成物(ただし、油中水型乳化組成物を除く)を原料として配合し、ミキシングし、調整した生地を焼成して製造するベーカリー製品の製造方法」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点(甲1発明)1:油脂組成物中のグリセリン脂肪酸モノエステルが、本件発明では、構成脂肪酸の68?87質量%がステアリン酸、及び11?30質量%がパルミチン酸であるのに対し、甲1発明では、「エキセルT-95:花王(株)製」と記載されているのみで、その構成脂肪酸の種類及び質量%は明らかでない点 相違点(甲1発明)2:ベーカリー製品の製造方法が、本件発明では、水以外の全ての原料をミキシングし、ミキシング停止後に加水して調整した生地を焼成するのに対し、甲1発明では、中種配合生地(水を含む)、小麦粉、液糖、牛乳及び水を添加して混捏後、マーガリン、油脂組成物、キサンタンガムを添加して混捏し調整した生地を焼成する点 相違点(甲1発明)3:ベーカリー製品が、本件発明では、バウムクーヘンであるのに対し、甲1発明では、パンである点 (3)判断 ア 相違点について 相違点(甲1発明)1について検討する。 (ア)甲1発明の「グリセリン脂肪酸モノエステル(エキセルT-95:花王(株)製)」について 甲2の【表2】(【0036】)の下には「*10:エキセルT-95(花王(株))MAG含量95%、構成脂肪酸組成:C14 1.8%、C16 28%、C18 66.5%、C20 1.9%、その他 1.8%」(甲2b)と記載され、さらに、「【0015】・・(グリセリン脂肪酸モノエステル、以下「MAG」と記載する)・・【0016】本発明で使用するMAGは、グリセリンと脂肪酸のモノエステルであり・・脂肪酸は飽和のものを用いることが乳化安定性の点から好ましい。・・MAGの全脂肪酸残基に対して、炭素数14?22の鎖長の飽和脂肪酸残基が60%以上であることが好ましく・・炭素数14?22の飽和脂肪酸として・・パルミチン酸、ステアリン酸・・等の飽和脂肪酸が挙げられる」(甲2a)及び「【0012】・・質量%(以下、単に「%」と記載する)」(甲2a)と記載されている。 これらの記載より、甲1発明の「グリセリン脂肪酸モノエステル(エキセルT-95:花王(株)製)」は、グリセリン脂肪酸モノエステル含量95質量%で、その構成脂肪酸は、C16(炭素数16の鎖長の飽和脂肪酸であるパルミチン酸)28質量%、及び、C18(炭素数18の鎖長の飽和脂肪酸であるステアリン酸)66.5質量%を含むものであることが分かる。 ここで、甲1発明の「グリセリン脂肪酸モノエステル(エキセルT-95:花王(株)製)」の上記「C16(炭素数16の鎖長の飽和脂肪酸であるパルミチン酸)28質量%」は、本件発明の「構成脂肪酸の・・11?30質量%がパルミチン酸である」に相当する。 また、甲1発明の「グリセリン脂肪酸モノエステル(エキセルT-95:花王(株)製)」の上記「C18(炭素数18の鎖長の飽和脂肪酸であるステアリン酸)66.5質量%」と、本件発明の「構成脂肪酸の68?87質量%がステアリン酸」とは、構成脂肪酸の種類がステアリン酸である点で共通するものの、その組成(質量%)が、本件発明では、68?87質量%であるのに対し、甲1発明では、66.5質量%である点で、両者は相違する。 (イ)甲1発明の「グリセリン脂肪酸モノエステル(エキセルT-95:花王(株)製)」の上記「C18(炭素数18の鎖長の飽和脂肪酸であるステアリン酸)66.5質量%」において、その組成を「66.5質量%」に代えて「68?87質量%」とすることの容易想到性について a 甲1には、甲1発明の「グリセリン脂肪酸モノエステル」において、その構成脂肪酸の、C18(炭素数18の鎖長の飽和脂肪酸であるステアリン酸)の組成(質量%)をどのくらいにすると良いかについての実施の態様等の記載や示唆はない。 本件発明は、食した時にしっとりした食感(以下「しとり感」という。)が良好なケーキを得ることができ、且つ、焼成前の生地に優れた起泡性を与えるケーキ用油脂組成物が配合されたバウムクーヘンの製造方法を提供する(【0007】)という課題の下、用いるケーキ用油脂組成物として、液状油脂を75?95質量%、レシチンを0.01?1質量%、グリセリンモノ脂肪酸エステルを0.4?7質量%、並びにプロピレングリコール脂肪酸エステルを3?15質量%含有するケーキ用油脂組成物(ただし、油中水型乳化組成物を除く)という、本件発明に係る構成を採用することにより、当該課題を解決したものである。 他方、甲1発明は、「製品保存中の老化防止効果を向上させるとともに、従来の老化防止技術に見られる食感の低下、特に、ねとつき等の発現に伴う口どけ感の低下を抑制し得るベーカリー製品用油脂組成物を提供すること」(甲1b)を課題とするものであって、甲1発明には、食した時にしとり感が良好で、且つ、焼成前の生地に優れた起泡性を与える油脂組成物としようという動機付けはない。 そして、甲1発明は、当該課題を解決すべく、「食用油脂(A)50?85重量部、乳化剤(B)10?30重量部、保湿剤(C)0.1?10重量部を含有し、かつ、1)食用油脂(A)を構成する全脂肪酸残基に対して不飽和脂肪酸残基が75%以上、2)(A)/(B)の比率が6.5以下である油脂組成物」(甲1a)を用いたパンの製造方法であって、甲1発明の「グリセリン脂肪酸モノエステル(エキセルT-95:花王(株)製)」は、上記油脂組成物における「乳化剤(B)」を構成する一つであり、「乳化剤(B)」については「(A)/(B)の比率が6.5以下」といった、食用油脂(A)との比率が特定されているにとどまり、「乳化剤(B)」の構成する構成脂肪酸の組成(質量%)について、特定はなされていない。 それ故、甲1発明の、油脂組成物における「乳化剤(B)」を構成する一つである「グリセリン脂肪酸モノエステル(エキセルT-95:花王(株)製)」において、その構成脂肪酸の一つである「C18(炭素数18の鎖長の飽和脂肪酸であるステアリン酸)66.5質量%」に注目し、その組成「66.5質量%」を増加させようという動機付けがあるとも認められない。 b また、甲3?9及び13には、以下に示すように、甲1発明の、油脂組成物における「乳化剤(B)」を構成する一つである「グリセリン脂肪酸モノエステル(エキセルT-95:花王(株)製)」において、その構成脂肪酸の一つである「C18(炭素数18の鎖長の飽和脂肪酸であるステアリン酸)66.5質量%」に注目し、その組成「66.5質量%」を所定の範囲内である「68?87質量%」とすることを導き出す記載や示唆を認めることができない。 甲3は、「ケーキ用流動状油脂の製造法」(甲3a)に関し記載するもので、長期間流動性があり、かつ分離を起こさず、更にボリューム、キメ、ツヤの優れたケーキを製造することが可能な流動状油脂の製造法を提供することを課題とするものであり(甲3b)、該流動状油脂の具体例として、実施例1?3には、プロピレングリコールモノステアレート、グリセリンモノステアレート及び大豆レシチンからなる乳化剤混合物を、植物性油脂に加え、加熱、溶解、混合後、急冷捏和し、α型結晶、インターメディエイト型結晶及びβ’型を析出せしめて、流動状油脂を製造したことが記載されている(甲3c、甲3d)。 甲3の前記課題は、甲1発明における課題、すなわち「製品保存中の老化防止効果を向上させるとともに、従来の老化防止技術に見られる食感の低下、特に、ねとつき等の発現に伴う口どけ感の低下を抑制し得るベーカリー製品用油脂組成物を提供すること」(甲1b)と異なるものである。 加えて、甲3の前記課題の解決について、甲3には「本発明のケーキ用流動状油脂が、長期に渡って安定であるのは、油脂中に分散している乳化剤混合物の結晶がβ’型とインターメディエイト型を等量含み、結晶の粗大化を困難にしていることに起因しているものと推測される。前記の組成を有しない乳化剤混合物では、このような安定性を保持することができず、本発明の乳化剤の種類と量の組合せにより始めて本発明の目的が達成されるものである」(甲3c)と記載されており、「本発明の乳化剤の種類と量の組合せ」、すなわち、植物性油脂に対してプロピレングリコールモノステアレート6.0?12.0%、グリセリンモノステアレート1.0?3.0%及び大豆レシチン0.1?1.0%からなる乳化剤混合物の組合わせにより課題が解決されるものであって、この内のグリセリンモノステアレートのみに着目し、グリセリンモノステアレートの構成脂肪酸であるステアリン酸を特定量用いれば、甲3の課題を解決できるというものでもない。 しかも、甲1発明のグリセリン脂肪酸モノエステル「エキセルT-95(花王(株))」は、「MAG含量95%、構成脂肪酸組成:C14 1.8%、C16 28%、C18 66.5%、C20 1.9%、その他 1.8%」(甲2b)であるが、甲3にはグリセリンモノステアレートの構成脂肪酸組成を特定のものとする技術思想は認められない。 そうすると、甲1発明の、油脂組成物における「乳化剤(B)」を構成する一つである「グリセリン脂肪酸モノエステル(エキセルT-95:花王(株)製)」において、甲3のグリセリンモノステアレートの記載に基づき、その構成脂肪酸の一つである「C18(炭素数18の鎖長の飽和脂肪酸であるステアリン酸)66.5質量%」に注目し、その組成「66.5質量%」を増加させた所定の範囲内にしようという動機付けがあるとは認められない。 甲4は、「液体ショートニングを製造するに際し、プロピレングリコールモノ脂肪酸エステルを5%以上配合し、その脂肪酸組成がステアリン酸:パルミチン酸=80:20?40:60になるように配合することを特徴とする長期安定性に優れた液体ショートニング組成物」(甲4a)に関し記載するものであって、プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル(PGE)の脂肪酸組成がステアリン酸:パルミチン酸=80:20?40:60において液体ショートニングの性能が低下することなく、保管中の性能安定性が改善されることを見い出したことに基づくものである(甲4b)。 これは、「プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル」の脂肪酸組成に関するものであって、「グリセリン脂肪酸モノエステル」の脂肪酸組成に関するものではない。 したがって、甲1発明の、油脂組成物における「グリセリン脂肪酸モノエステル(エキセルT-95:花王(株)製)」において、甲4の「プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル」の脂肪酸組成の記載に基づき、その構成脂肪酸の一つである「C18(炭素数18の鎖長の飽和脂肪酸であるステアリン酸)66.5質量%」に注目し、その組成「66.5質量%」を増加させた所定の範囲内にしようという動機付けがあるとは認められない。 甲5は、「常温で液状の油脂100重量部に対して、プロピレングリコール脂肪酸エステル4?16重量部、レシチン0.01?2重量部、ショ糖脂肪酸エステル0.01?2重量部およびグリセリン脂肪酸エステル0.01?6重量部を配合してなり、かつ上記乳化剤の総量が8?18重量部である製菓用流動状ショートニング」(甲5a)に関し記載するものであって、これは、室温以下の低温においても流動性が良好であり、また優れた製菓性能を有する製菓用流動状ショートニングであり(甲5b)、その具体例として、実施例2には、大豆油50Kg、プロピレングリコールモノステアレート5.0Kg、グリセリンモノステアレート0.25Kg、レシチン0.5Kg、ショ糖ステアレート(HLB2)0.2Kg、グリセリンクエン酸モノステアレート1.0Kgを配合して製造された製菓用流動状ショートニング(甲5c)が記載されている。 甲5の「室温以下の低温においても流動性が良好であり、また優れた製菓性能を有する製菓用流動状ショートニング」(甲5b)を提供する課題は、甲1発明における課題「製品保存中の老化防止効果を向上させるとともに、従来の老化防止技術に見られる食感の低下、特に、ねとつき等の発現に伴う口どけ感の低下を抑制し得るベーカリー製品用油脂組成物を提供すること」(甲1b)と異なるものである。 したがって、甲1発明の、油脂組成物における「グリセリン脂肪酸モノエステル(エキセルT-95:花王(株)製)」において、甲5の製菓用流動状ショートニングの記載に基づき、その構成脂肪酸の一つである「C18(炭素数18の鎖長の飽和脂肪酸であるステアリン酸)66.5質量%」に注目し、その組成「66.5質量%」を増加させた所定の範囲内にしようという動機付けがあるとは認められない。 甲6には、バウムクーヘンの製造において、原材料としてショートニングを使用することが記載されている(甲6b)。 甲7には、バウムクーヘン用ショートニングが記載されている(甲7a)。 甲8には、バウムクーヘンの原材料としてショートニングを使用することが記載されている(甲8a)。 甲9には、バウムクーヘンの製造方法において、生クリームと水以外の原料をミキシングし、ミキシング後に生クリームと水を混ぜ合わせて調製したバウムクーヘンの生地を焼成することが記載されている(甲9a)。 甲13には、ケーキ製造を、油脂の乳化分散性を利用して作るオールイン法で行う時、小麦粉のグルテンを作らないようすべきであること、なぜなら、比較的水分が多いものは、攪拌しすぎると、小麦粉のグルテンが生成して強く細かい網目構造ができ、焼成後冷えるに従い低くへこみ、ケーキは収縮し、見苦しいケーキになるからであることが記載されている(甲13a)。 c そうすると、甲1発明に甲1?9及び13の記載を組み合わせたとしても、甲1発明の「グリセリン脂肪酸モノエステル(エキセルT-95:花王(株)製)」の前記「C18(炭素数18の鎖長の飽和脂肪酸であるステアリン酸)66.5質量%」において、その組成を「66.5質量%」に代えて「68?87質量%」とすることについては、甲1?9及び13のいずれにも記載も示唆もなく、本件出願当時の技術常識であったとも認められず、他に動機付けられるものもない。 したがって、甲1発明において、本件発明の相違点(甲1発明)1に係る構成を採用することは、当業者といえども、甲1?9及び13の記載から容易に想到し得る技術的事項であるとはいえない。 イ 本件発明の効果について 本件発明の効果は、本件明細書の段落【0010】の記載及び実施例(【0030】?【0047】)の記載より理解されるように、食した時にしとり感が良好なバウムクーヘンを提供することができ、且つ、焼成前の生地に優れた起泡性を与えて、ミキシング時間を短縮させ、バウムクーヘンの生産性を向上させることができることであり、そのような効果は、甲1?9及び13の記載から当業者が予測し得たものとはいえない。 (4)小括 したがって、相違点(甲1発明)2及び相違点(甲1発明)3を検討するまでもなく、本件発明は、甲1に記載された発明及び甲1?9及び13に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。 3 甲10を主引用例とする場合 (1)甲10に記載された発明 甲10は、「油脂と食品用乳化剤を含有するショートニングであって、前記ショートニング100質量%中、食品用乳化剤が以下の(a)?(d); (a)ジグリセリン飽和脂肪酸エステル1?25質量%、 (b)グリセリン有機酸飽和脂肪酸エステル0.1?5質量%、 (c)レシチン0.05?5質量%、並びに (d)グリセリンモノ飽和脂肪酸エステルおよび/またはソルビタン飽和脂肪酸エステル0.05?5質量% からなり、且つ(a)、(b)、(c)および(d)の合計量が5?30質量%であることを特徴とするケーキ用流動状ショートニング」(甲10a)に関し記載するものであって、実施例には、ケーキ用流動状ショートニング100質量%の配合として、【表1】(甲10d【0038】)に記載の、製剤1(ケーキ用流動状ショートニング100質量%の配合として、菜種油92.7質量%、ジグリセリンモノパルミチン酸エステル6.0質量%、グリセリンコハク酸ステアリン酸エステル0.5質量%、レシチン0.3質量%、グリセリンモノステアリン酸エステル0.5質量%)、及び、製剤2(ケーキ用流動状ショートニング100質量%の配合として、菜種油91.0質量%、ジグリセリンモノパルミチン酸エステル5.0質量%、ジグリセリンモノステアリン酸エステル2.0質量%、グリセリンジアセチル酒石酸ステアリン酸エステル0.2質量%、レシチン0.8質量%、グリセリンモノステアリン酸エステル1.0質量%)の各配合で作製されたケーキ用流動状ショートニングを用いて、【表2】(甲10d【0042】)に記載のケーキ生地の配合[流動状ショートニング(製剤1?9)30質量部、薄力粉100質量部、砂糖100質量部、全卵120質量部、製菓用サラダ油30質部、ベーキングパウダー2質量部及び水20質量部]で、段落【0043】に記載の「ケーキの作り方」に従ってケーキを製造したこと(実施例1では製剤1を使用、実施例2では製剤2を使用)が記載されている(甲10d) ここで、ケーキ用流動状ショートニング中のグリセリンモノステアリン酸エステルについて、甲10の実施例の「(1)流動状ショートニング作製用原材料」には、「5)グリセリン飽和脂肪酸エステルとして、グリセリンモノステアリン酸エステル(製品名:エマルジーMS、モノエステル体含有 約90質量%以上;理研ビタミン社)を用いた」(甲10d【0035】)と記載されている。 そうすると、甲10には、まず、実施例1(製剤1を使用)のケーキの製造方法として、 「流動状ショートニング100質量%の配合として、菜種油92.7質量%、ジグリセリンモノパルミチン酸エステル6.0質量%、グリセリンコハク酸ステアリン酸エステル0.5質量%、レシチン0.3質量%、グリセリンモノステアリン酸エステル(製品名:エマルジーMS、モノエステル体含有 約90質量%以上;理研ビタミン社)0.5質量%を配合した流動状ショートニング30質量部、薄力粉100質量部、砂糖100質量部、全卵120質量部、製菓用サラダ油30質量部、ベーキングパウダー2質量部及び水20質量部のケーキ生地の配合で、総仕込量を804gとして、5コート縦型ミキサー(型式:万能混合攪拌機5DMr;品川工業所社)の中に砂糖、全卵、流動状ショートニングを入れ、ワイヤーホイッパーで低速にて攪拌し、軽く混合し、これに製菓用サラダ油、水および薄力粉とベーキングパウダーを篩に通したものを加え、低速で1分間混合し、ついで高速で4分間ホイップし、得られたケーキ生地を側面と底面に紙を敷いた7号丸型に600g採り、約20cm位上から2?3回落として大きな気泡を抜き、約170℃の電気オーブンで35分間焼成する、ケーキの製造方法。」 の発明(以下、「甲10発明1」という。)が記載されているといえる。 また、甲10には、実施例2(製剤2を使用)のケーキの製造方法として、 「流動状ショートニング100質量%の配合として、菜種油91.0質量%、ジグリセリンモノパルミチン酸エステル5.0質量%、ジグリセリンモノステアリン酸エステル2.0質量%、グリセリンジアセチル酒石酸ステアリン酸エステル0.2質量%、レシチン0.8質量%、グリセリンモノステアリン酸エステル(製品名:エマルジーMS、モノエステル体含有 約90質量%以上;理研ビタミン社)1.0質量%を配合した流動状ショートニング30質量部、薄力粉100質量部、砂糖100質量部、全卵120質量部、製菓用サラダ油30質量部、ベーキングパウダー2質量部及び水20質量部の配合で、総仕込量を804gとして、5コート縦型ミキサー(型式:万能混合攪拌機5DMr;品川工業所社)の中に砂糖、全卵、流動状ショートニングを入れ、ワイヤーホイッパーで低速にて攪拌し、軽く混合し、これに製菓用サラダ油、水および薄力粉とベーキングパウダーを篩に通したものを加え、低速で1分間混合し、ついで高速で4分間ホイップし、得られたケーキ生地を側面と底面に紙を敷いた7号丸型に600g採り、約20cm位上から2?3回落として大きな気泡を抜き、約170℃の電気オーブンで35分間焼成する、ケーキの製造方法。」 の発明(以下、「甲10発明2」という。)が記載されているといえる。 (2)本件発明と、甲10発明1又は甲10発明2との対比 ア 本件発明と甲10発明1との対比 (ア)甲10発明1の「菜種油92.7質量%」について、菜種油は液状油脂であるから、本件発明の「液状油脂を75?95質量%」に相当する。 (イ)甲10発明1の「レシチン0.3質量%」は、本件発明の「レシチンを0.01?1質量%」に相当する。 (ウ)甲10発明1の「グリセリンモノステアリン酸エステル(製品名:エマルジーMS、モノエステル体含有 約90質量%以上;理研ビタミン社)0.5質量%」について、グリセリンモノステアリン酸エステルの詳細な構成脂肪酸の種類及び割合が明らかでないから、本件発明の「構成脂肪酸の68?87質量%がステアリン酸、及び11?30質量%がパルミチン酸であるグリセリンモノ脂肪酸エステルであるグリセリンモノ脂肪酸エステルを0.4?7質量%」とは、グリセリンモノ脂肪酸エステルを0.4?7質量%である点で共通する。 (エ)甲10発明1の「流動状ショートニング」は、「菜種油92.7質量%、ジグリセリンモノパルミチン酸エステル6.0質量%、グリセリンコハク酸ステアリン酸エステル0.5質量%、レシチン0.3質量%、グリセリンモノステアリン酸エステル(製品名:エマルジーMS、モノエステル体含有 約90質量%以上;理研ビタミン社)0.5質量%を配合した」油脂組成物であり、油中水型乳化組成物ではないことから、本件発明の「油脂組成物(ただし、油中水型乳化組成物を除く)」に相当する。 (オ)甲10発明1の「流動状ショートニング30質量部、薄力粉100質量部、砂糖100質量部、全卵120質量部、製菓用サラダ油30質量部、ベーキングパウダー2質量部及び水20質量部のケーキ生地の配合で、総仕込量を804gとして、5コート縦型ミキサー(型式:万能混合攪拌機5DMr;品川工業所社)の中に砂糖、全卵、流動状ショートニングを入れ、ワイヤーホイッパーで低速にて攪拌し、軽く混合し、これに製菓用サラダ油、水および薄力粉とベーキングパウダーを篩に通したものを加え、低速で1分間混合し、ついで高速で4分間ホイップし、得られたケーキ生地を側面と底面に紙を敷いた7号丸型に600g採り、約20cm位上から2?3回落として大きな気泡を抜き、約170℃の電気オーブンで35分間焼成する、ケーキの製造方法」と、本件発明の「ケーキ用油脂組成物・・を原料として配合し、水以外の全ての原料をミキシングし、ミキシング停止後に加水して調整した生地を焼成して製造する・・バウムクーヘンの製造方法」とは、前記(ア)?(エ)で述べたことを踏まえ、さらに、ケーキとバウムクーヘンとはケーキ類である点で共通することを踏まえると、ケーキ類用油脂組成物(ただし、油中水型乳化組成物を除く)を原料として配合し、ミキシングし、調整した生地を焼成して製造するケーキ類の製造方法である点で共通する。 (カ)そうすると、本件発明と甲10発明1とは、 「液状油脂を75?95質量%、レシチンを0.01?1質量%、グリセリンモノ脂肪酸エステルを0.4?7質量%含有するケーキ類用油脂組成物(ただし、油中水型乳化組成物を除く)を原料として配合し、ミキシングし、調整した生地を焼成して製造するケーキ類の製造方法」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点(甲10発明1)1:油脂組成物中のグリセリン脂肪酸モノエステルが、本件発明では、構成脂肪酸の68?87質量%がステアリン酸、及び11?30質量%がパルミチン酸であるのに対し、甲10発明1では、「グリセリンモノステアリン酸エステル(製品名:エマルジーMS、モノエステル体含有 約90質量%以上;理研ビタミン社)」と記載されているのみで、その詳細な構成脂肪酸の種類及び質量%は明らかでない点 相違点(甲10発明1)2:油脂組成物が、本件発明では、プロピレングリコール脂肪酸エステルを3?15質量%含有するに対し、甲10発明1では、プロピレングリコール脂肪酸エステルは含有されていない点 相違点(甲10発明1)3:ケーキ類の製造方法が、本件発明では、水以外の全ての原料をミキシングし、ミキシング停止後に加水して調整した生地を焼成するのに対し、甲10発明1では、砂糖、全卵、流動状ショートニングを攪拌し、軽く混合し、これに製菓用サラダ油、水および薄力粉とベーキングパウダーを加え、混合し、ホイップして調整した生地を焼成する点 相違点(甲10発明1)4:ケーキ類が、本件発明では、バウムクーヘンであるのに対し、甲10発明1では、ケーキである点 イ 本件発明と甲10発明2との対比 甲10発明2は、甲10発明1と、流動状ショートニング100質量%の配合において、以下の点でのみ相違する発明である。 (ア)菜種油の配合割合が、甲10発明1では92.7質量%であるのに対し、甲10発明2では91.0質量%である点 (イ)ジグリセリン飽和脂肪酸エステルとしての配合が、甲10発明1では、ジグリセリンモノパルミチン酸エステル6.0質量%であるのに対し、甲10発明2では、ジグリセリンモノパルミチン酸エステル5.0質量%及びジグリセリンモノステアリン酸エステル2.0質量%である点 (ウ)グリセリン有機酸飽和脂肪酸エステルとしての配合が、甲10発明1では、グリセリンコハク酸ステアリン酸エステル0.5質量%であるのに対し、甲10発明2では、グリセリンジアセチル酒石酸ステアリン酸エステル0.2質量%である点 (エ)レシチンの配合割合が、甲10発明1では0.3質量%であるのに対し、甲10発明2では0.8質量%である点 (オ)グリセリンモノステアリン酸エステルの配合割合が、甲10発明1では0.5質量%であるのに対し、甲10発明2では1.0質量%である点 これらの点に関し、本件発明との対比で検討を要する点は、(ア)、(エ)及び(オ)の点であるが、これらの点の甲10発明2の各成分の配合割合(質量%)は、いずれも、本件発明で特定されている各質量%の範囲内である。 したがって、本件発明と甲10発明2との一致点及び相違点は、本件発明と甲10発明1との一致点及び相違点と同じである。 (3)判断 ア 相違点について (ア)相違点(甲10発明1)1について 甲10発明1の「グリセリンモノステアリン酸エステル(製品名:エマルジーMS、モノエステル体含有 約90質量%以上;理研ビタミン社)」について、甲11には、「「エマルジーMS」(理研ビタミン(株)製、モノステアリン含量約70%、モノパルミチン含量約30%、残存脂肪酸塩0.03%)」(甲11a)と記載されている。 この記載より、甲10発明1の「グリセリンモノステアリン酸エステル(製品名:エマルジーMS、モノエステル体含有 約90質量%以上;理研ビタミン社)」は、グリセリン脂肪酸モノエステル体含有約90質量%以上で、その構成脂肪酸は、モノステアリン酸含量約70%及びモノパルミチン酸含量約30%及び残存脂肪酸塩0.03%を含むものであることが分かる。 ここで、上記「モノステアリン酸含量約70%」は、本件発明の「構成脂肪酸の68?87質量%がステアリン酸」に相当し、また、上記「モノパルミチン含量約30%」は、本件発明の「構成脂肪酸の・・11?30質量%がパルミチン酸」に相当する。 そうすると、相違点(甲10発明1)1は、実質的な相違点とは認められない。 (イ)相違点(甲10発明1)2について a 甲10には、甲10発明1の「流動状ショートニング」が、プロピレングリコール脂肪酸エステルを含み、その含有量がどのくらいか、についての記載や示唆はない。 b 甲10発明1は、「バタースポンジケーキ、パウンドケーキなど油脂を多量に配合したケーキ類生地をオールインミックス法で製造する際に用いられる、ケーキの生地の起泡性を向上させ、ソフトな食感のケーキを作ることができる、ケーキ用流動状ショートニングを提供すること」(甲10b)を課題とするものである。 甲10発明1は、当該課題を解決すべく発明した、「油脂と食品用乳化剤を含有するショートニングであって、前記ショートニング100質量%中、食品用乳化剤が以下の(a)?(d); (a)ジグリセリン飽和脂肪酸エステル1?25質量%、 (b)グリセリン有機酸飽和脂肪酸エステル0.1?5質量%、 (c)レシチン0.05?5質量%、並びに (d)グリセリンモノ飽和脂肪酸エステルおよび/またはソルビタン飽和脂肪酸エステル0.05?5質量% からなり、且つ(a)、(b)、(c)および(d)の合計量が5?30質量%であることを特徴とするケーキ用流動状ショートニング」(甲10a)の具体例である。 甲10発明1において、前記「(a)ジグリセリン飽和脂肪酸エステル」に該当する「ジグリセリンモノパルミチン酸エステル」は、「ケーキ生地の起泡性を向上させる機能と共に、ケーキ生地中の起泡を安定化させる機能を併せ持つ」(甲10c【0014】)もの、前記「(b)グリセリン有機酸飽和脂肪酸エステル」に該当する「グリセリンコハク酸ステアリン酸エステル」は、(a)の「ジグリセリン飽和脂肪酸エステルのケーキの生地の起泡性を向上させる機能を保護し、結果としてソフトな食感のケーキを作る作用を有する」(甲10c【0018】)ものであり、甲10発明1においては、この2つの成分が、ケーキの生地の起泡性の向上及び安定化に関与するものと理解される。 一方、甲10発明1において、前記「(d)グリセリンモノ飽和脂肪酸エステルおよび/またはソルビタン飽和脂肪酸エステル」に該当する「グリセリンモノステアリン酸エステル」は、ケーキ用流動状「ショートニング中に微細結晶の形で配合され、油脂組成物中の(a)ジグリセリン飽和脂肪酸エステルおよび(b)グリセリン有機酸飽和脂肪酸エステルの結晶の分離や沈殿を抑制する機能を有する」(甲10c【0024】)ものであり、ケーキの生地の起泡性の向上及び安定化に直接関与しているものではなく、(a)ジグリセリン飽和脂肪酸エステルおよび(b)グリセリン有機酸飽和脂肪酸エステルの機能である、ケーキの生地の起泡性の向上及び安定化に、補助的に関与するものと理解される。 ところで、甲12には、モノグリセリドのα結晶の安定化が、起泡性乳化剤の課題であり、モノグリセリドにプロピレングリコールエステルを配合することで,α結晶が安定に保たれることが記載されている(甲12a)。 甲10発明1において、モノグリセリドは、前記「(d)グリセリンモノ飽和脂肪酸エステルおよび/またはソルビタン飽和脂肪酸エステル」に該当する「グリセリンモノステアリン酸エステル」であり、これは前述のように、ケーキの生地の起泡性の向上及び安定化に直接関与しているものではなく、(a)ジグリセリン飽和脂肪酸エステルおよび(b)グリセリン有機酸飽和脂肪酸エステルの機能である、ケーキの生地の起泡性の向上及び安定化に、補助的に関与するものと理解されるものである。 それ故、甲10発明1において、この「グリセリンモノステアリン酸エステル」のα結晶を安定化させて起泡性を向上させる目的で、プロピレングリコール脂肪酸エステルを配合させようという動機付けがあるとは認められない。 しかも、甲10発明1の流動状ショートニングにおける「食品用乳化剤」は、 「(a)ジグリセリン飽和脂肪酸エステル1?25質量%、 (b)グリセリン有機酸飽和脂肪酸エステル0.1?5質量%、 (c)レシチン0.05?5質量%、並びに (d)グリセリンモノ飽和脂肪酸エステルおよび/またはソルビタン飽和脂肪酸エステル0.05?5質量%‘からなり’、且つ(a)、(b)、(c)および(d)の合計量が5?30質量%」というものであり、これら(a)?(d)が必須の成分であり、それらからなるものであるから、甲10発明1において、(a)?(d)以外の成分であるプロピレングリコール脂肪酸エステルを追加する、又は、(a)?(c)いずれかの成分とプロピレングリコール脂肪酸エステルとを置換する、という動機付けはない。 c また、前記2(3)ア(ア)b(b)で述べたように、甲9には、バウムクーヘンの製造方法において、生クリームと水以外の原料をミキシング後に生クリームと水を混ぜ合わせて生地を調製すること(甲9a)、及び、甲13には、ケーキ製造の際、グルテンを作らないよう水分を多くしないこと(甲13a)が記載されているにすぎず、プロピレングリコール脂肪酸エステルに関し記載するものではないから、甲10発明1において、プロピレングリコール脂肪酸エステルを配合させようとすることを導き出す記載や示唆を認めることができない。 d そうすると、甲10発明1に甲9?13の記載を組み合わせたとしても、甲10発明1において、プロピレングリコール脂肪酸エステルを配合させようとすることについては、甲9?13のいずれにも記載も示唆もなく、本件出願当時の技術常識であったとも認められず、他に動機付けられるものもない。 したがって、甲10発明1において、本件発明の相違点(甲10発明1)2に係る構成を採用することは、当業者といえども、甲9?13の記載から容易に想到し得る技術的事項であるとはいえない。 イ 本件発明の効果について 本件発明の効果は、前記2(3)イで述べたように、食した時にしとり感が良好なバウムクーヘンを提供することができ、且つ、焼成前の生地に優れた起泡性を与えて、ミキシング時間を短縮させ、バウムクーヘンの生産性を向上させることができることであり、そのような効果は、甲9?13の記載から当業者が予測し得たものとはいえない。 (4)小括 したがって、相違点(甲10発明1)3及び相違点(甲10発明1)4を検討するまでもなく、かつ、本件発明と甲10発明2との相違点は、本件発明と甲10発明1との相違点と同じであり、前記(3)で述べたとおりであるので、本件発明は、甲10に記載された発明及び甲9?13に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。 4 特許異議申立書21頁3行?下から5行における「(3-3)本件特許発明1におけるグリセリンモノ脂肪酸エステルの構成脂肪酸について」の主張について 特許異議申立人は、本件特許権者が令和1年6月3日に提出した上申書における、パルミチン酸含量が11質量%未満であるグリセリンモノ脂肪酸エステルE(ステアリン酸69.6質量%、オレイン酸16.4質量%、パルミチン酸8.8質量%)を使用した製造例Bのバウムクーヘンの評価につき、構成脂肪酸中のステアリン酸含量が同等であってもパルミチン酸含量が11質量%よりも少なくなると、本件発明の効果が得られない旨の本件特許権者の主張に対し、製造例Bに含まれる上記グリセリンモノ脂肪酸エステルの中には、全構成脂肪酸中にオレイン酸が16.4質量%含まれており、乳化剤の構成脂肪酸に不飽和脂肪酸が多く含まれる場合、食感等が劣るものになると考えられる(甲14、甲15)から、パルミチン酸が11質量%よりも少なくなると本件発明の効果が得られないことが示されているとはいえず、本件発明におけるパルミチン酸の数値範囲に臨界的意義が存在しない旨を主張している。 しかしながら、前記2及び3で述べたように、甲1を主引用例とする場合、甲1発明の「グリセリン脂肪酸モノエステル(エキセルT-95:花王(株)製)」中のパルミチン酸含量は、本件発明の「構成脂肪酸の・・11?30質量%がパルミチン酸である」に相当し相違点ではないから検討は不要であり、また、甲10を主引用例とする場合も、甲10発明1の「グリセリンモノステアリン酸エステル(製品名:エマルジーMS、モノエステル体含有 約90質量%以上;理研ビタミン社)」のパルミチン酸含量は、本件発明の「構成脂肪酸の・・11?30質量%がパルミチン酸である」に相当し相違点ではなく検討は不要であるから、特許異議申立人の前記主張については、検討を要しない。 5 まとめ 以上より、本件発明に係る特許は、甲1に記載された発明及び甲1?甲9及び甲13に記載された技術的事項に基いて、または、甲10に記載された発明及び甲9?甲13に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいず、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではないから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものではない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2021-03-12 |
出願番号 | 特願2013-204740(P2013-204740) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(A23D)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 田中 晴絵 |
特許庁審判長 |
大熊 幸治 |
特許庁審判官 |
関 美祝 齊藤 真由美 |
登録日 | 2020-05-14 |
登録番号 | 特許第6704203号(P6704203) |
権利者 | 日清オイリオグループ株式会社 |
発明の名称 | ケーキ用油脂組成物および該ケーキ用油脂組成物が配合されたケーキ |