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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  D01F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  D01F
管理番号 1372736
異議申立番号 異議2020-700979  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-05-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-12-16 
確定日 2021-03-29 
異議申立件数
事件の表示 特許第6709639号発明「潜在濃染性ポリエステル繊維、濃染性ポリエステル繊維、及び濃染性ポリエステル繊維の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6709639号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許6709639号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成28年3月10日に出願され、令和2年5月27日にその特許権の設定登録がされ、令和2年6月17日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和2年12月16日に特許異議申立人特許業務法人朝日奈特許事務所(以下「申立人」という。)が、本件特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
特許6709639号の請求項1?3に係る発明(以下「本件発明1」等という。また、本件発明1?3を総称して、「本件発明」ということがある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
リン化合物とアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物とに由来する生成粒子を含有する潜在濃染性ポリエステル繊維であって、前記生成粒子の平均粒子径が0.19?0.5μmであることを特徴とする、潜在濃染性ポリエステル繊維。
【請求項2】
単繊維の表面において微細孔が形成されている濃染性ポリエステル繊維であって、前記微細孔の個数は、前記単繊維表面における5μm×5μmサイズの領域中に10個以上であり、前記微細孔の長軸が0.5?0.9μm、かつ短軸が0.4?0.6μmであり、及び前記微細孔の深さが100?400nmであることを特徴とする、濃染性ポリエステル繊維。
【請求項3】
請求項2に記載の濃染性ポリエステル繊維を製造する方法であって、
ジカルボン酸成分とジオール成分とをエステル化反応させて、ポリエステルオリゴマーを生成する工程と、
前記ポリエステルオリゴマーに、リン化合物とアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物とを添加し、次いで重縮合反応を行ってポリエステル樹脂組成物を得る工程と、
前記ポリエステル樹脂組成物を紡糸してポリエステル繊維を得る工程と、
前記ポリエステル繊維をアルカリ減量させる工程と、を含むことを特徴とする、濃染性ポリエステル繊維の製造方法。」

第3 申立理由の概要
申立人は、以下の甲第1号証及び甲第2号証(以下「甲1」等という。また、甲1等に記載された発明を「甲1発明」等という。)を提出して、大要、次の申立理由を主張している。

1. 申立理由1(甲1を主引用例とする新規性及び進歩性)
(1) 本件発明1
本件発明1は、甲1発明である。
また、本件発明1と甲1発明との間に相違点があったとしても、当該相違点は設計的事項である。
(2) 本件発明2
本件発明2は、甲1発明である。
また、本件発明2と甲1発明との間に相違点があったとしても、当該相違点は設計的事項である。
(3) 本件発明3
本件発明3は、甲1発明である。
また、本件発明3と甲1発明との間に相違点があったとしても、当該相違点は設計的事項である。

2. 申立理由2(甲2を主引用例とする新規性及び進歩性)
(1) 本件発明1
本件発明1は、甲2発明、及び、甲1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。
(2) 本件発明2
本件発明2は、甲2発明である。
また、本件発明2と甲2発明との間に相違点があったとしても、当該相違点は設計的事項である。
(3) 本件発明3
本件発明3は、甲2発明、及び、甲1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

第4 文献の記載
1. 甲1
甲1には、以下の事項が記載さている。
「【0021】
(内部析出粒子)
本発明のポリエステル組成物は、下記一般式(I)で表されるリン化合物と、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を、あらかじめ反応させることなく、個別にポリエステル組成物製造段階に添加し、ポリエステル組成物の合成反応中にアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物とリン化合物が反応することで形成される微粒子を含有することが好ましい。これを反応槽内部で反応することによって形成される微粒子であることから、以下「内部析出粒子」と称することがある。」
「【0024】
(アルカリ金属・アルカリ土類金属)
本発明で使用するアルカリ金属元素とアルカリ土類金属元素に関しては、Li,Na,Mg,Ca,Sr,Baが好ましく、特にCa,Sr,Baが好ましく用いられる。そのなかでもCaが最も好ましく用いられる。また、本発明にかかるアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物としては、上記リン化合物と反応して含金属リン化合物を形成するものであれば特に限定されない。具体的には、有機カルボン酸との塩が好ましく、なかでも酢酸塩は反応により副生する酢酸を容易に除去できるので、特に好ましく用いられる。前記アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属化合物は1種のみに単独で使用しても、2種以上併用してもよい。」
「【0027】
(金属化合物添加時期)
上記のアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物のポリエステル組成物の製造工程中への添加時期は、エステル化反応工程、重縮合反応工程の中の任意の段階を選択することができる・・・
【0028】
(リン化合物)
本発明にかかるリン化合物に関しては、下記化学式(I)で表される化合物である必要がある。
【0029】
【化3】

【0030】
上記化学式(I)中、Arは未置換もしくは置換された6?20個の炭素原子を有するアリール基を表し、R^(1)は水素原子、OH基、OR^(2)基を表す。R^(2)は未置換もしくは置換された1?20個の炭素原子を有する炭化水素基を表す。」
「【0033】
このような化学式(I)の化合物としては、例えばフェニルホスホン酸、・・・が例示されるが、中でもフェニルホスホン酸がもっとも好ましく用いられる。上記のリン化合物は溶媒に溶解させた状態で使用されることが望ましい。このときの溶媒としては、公知の溶媒から適切なものを選択することができるが、対象のポリエステルの原料として使用するグリコールを使用することが最も好ましい。・・・
【0034】
(リン添加時期)
上記リン化合物のポリエステル中への添加時期は、前述のアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物の添加前若しくは添加後のどちらでも良い。・・・」
「【0040】
(溶融紡糸)
本発明のポリエステル繊維の繊度は単糸0.1?1dtexであることが肝要である。単糸が1dtexを超えると布帛とした際に柔軟な風合いを得ることはできず、0.1dtex未満の場合は製糸工程が不安定となる。好ましくは0.3?0.8dtexである。
本発明の、リン化合物並びにアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属化合物を添加したポリエステル繊維の製造方法としては、従来公知の方法を用いることができる。すなわち、該ポリエステルを押出機にて溶融後、紡糸口金から吐出し、冷却風により冷却固化させた後、ゴデッドローラーを介してワインダーに巻き取る。巻取り速度は2000?5000m/min、好ましくは2500?4000m/minとし、一旦巻き取ったものを別途延伸しても良いし、ゴデッドローラー間で延伸しても良い。
【0041】
(繊維表面への凹凸付与)
本発明のポリエステル繊維は、繊維表面に微細な凹凸構造が付与されており、凹凸部形状は、凹部短軸が0.1?1μm、長軸が0.5?10μmであることが必要である。凹部の短軸が0.1μm未満、および長軸が0.5μm未満では凹部が小さすぎる為深色効果は得られず、短軸が1μmを超える場合や長軸が10μmを超える場合は、微細構造とはいえずこの場合も深色効果は得ることはできない。短軸は0.2?0.8μm、長軸は0.6?8μmの範囲であることが好ましい。・・・
【0042】
該凹凸部を付与する方法としては塩基性化合物と接触させて減量する方法が好ましい。この塩基性化合物との接触には、繊維を必要に応じて延伸加熱処理又は仮撚加工などの処理に供した後、又は更に布帛にした後に、例えば塩基性化合物の水溶液で処理することにより容易に行うことができる。・・・」
「【実施例】【0044】
次に、本発明を実施例によって本発明を更に具体的に説明する。なお、実施例中の評価、測定は次のとおり実施した。
【0045】
(1) 短軸方向及び長軸方向における凹部の平均長さ
アルカリ減量したポリエステル繊維布帛を操作型電子顕微鏡にて4000倍の倍率で観察し、凹部の形状の内長手方向を長軸、短い方を短軸として計測し、20個の平均値として求めた。
【0046】
(2) 凹部の個数
倍率4000倍で、繊維軸と直角方向から走査型電子顕微鏡による側面写真を撮影し、該側面写真における繊維幅両端から10%の長さを除いた繊維表面上の任意の20ヶ所において、図1に示す如く、繊維軸と直角方向に、上記10%の長さを除いた繊維幅の80%の長さに存在する、短軸方向における長さが0.1?1μm、長軸方向における長さが0.5?10μmの凹部の個数を数えて長さ10μm当たりに換算し、この20ヶ所における平均値を凹部の個数とした。
【0047】
(3) 深色性
色の深みを示す尺度として深色度(K/S)を用いた。染色した布帛の分光反射率を、島津製作所製RC-330型自記分光光度計にて測定し、下記のクベルカ・ムンクの指揮により求めた。この値が大きいほど深色効果が大きい事を示す。K/S=(1-R)2/2R
なお、Rは反射率、Kは吸収計数、Sは散乱計数を示す。
【0048】
(4) 外観
染色した布帛を色斑を目視にて3段階で判定した。○;均一に染色されている、△;一部に濃淡が淡くみられる、×;濃淡がみられる。
【0049】
(5) 風合い
染色した布帛の、風合いを触感にて○、△、×の3段階で評価し、○を良とした。
【0050】
実施例1
エステル化反応槽にて、テレフタル酸86部とエチレングリコール40部とを、常法に従ってエステル化反応させオリゴマーを得た。このオリゴマーに、テレフタル酸86部とエチレングリコール40部を65分間かけて連続的に供給し、245℃にてエステル化反応を行った。ついで三酸化アンチモン0.045部を添加して20分後、追加供給したテレフタル酸とエチレングリコールとから生成されるオリゴマー量と等モル量のオリゴマーを重縮合反応槽へ送液した。送液終了後直ちに酢酸カルシウムをポリマー中の酸成分に対して1.0モル%を重縮合反応槽に添加した。さらに5分後にフェニルホスホン酸をポリマー中の酸成分に対して1.25モル%を重縮合反応槽に添加した。その後290℃まで昇温し、0.03kPa以下の高真空化にて重縮合反応を行い、固有粘度が0.64dL/gのポリエステルチップを得た。
固有粘度は100℃、60分間でオルトクロロフェノールに溶解した希薄溶液を、35℃でウベローデ粘度計を用いて測定した値から求めた。
このチップを140℃にて6時間乾燥し、孔径0.20mm(円形)、72ホールの紡糸口金を使用し、溶融温度280℃、引き取り速度3000m/minで溶融紡糸後、90℃の予熱後引き続いて1.7倍に延伸し、130℃で熱セットすることにより44dtexのポリエステル繊維を得た。
得られたポリエステル繊維を平織りに製織し、70g/m^(2)の織布を得。得られた織布を濃度が3.5重量%の水酸化ナトリウム水溶液中沸騰温度下で処理して、減量率が20重量%の布帛を得た。
このアルカリ減量後の布帛を、Dianoix Black HG-FS(三菱化学製)15%owfを用いて130℃で60分間染色した後、水酸化ナトリウム1g/L及びハイドロサルファイト1g/Lを含む水溶液にて70℃で20分間還元洗浄して黒染布帛を得た。得られた黒染布帛の物性を表1に示す。」
「【0055】
【表1】


【図1】





上記【0021】、【0041】、【0042】、【0050】の記載を踏まえると、甲1に記載された実施例1に係る工程で得られた、固有粘度が0.64dL/gのポリエステルチップを140℃にて6時間乾燥し、孔径0.20mm(円形)、72ホールの紡糸口金を使用し、溶融温度280℃、引き取り速度3000m/minで溶融紡糸後、90℃の予熱後引き続いて1.7倍に延伸し、130℃で熱セットすることにより得られたポリエステル繊維は、アルカリ減量する前のものであるから、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物が反応することで形成される、内部析出粒子を有するものであることは明らかである。
【0046】の記載や【図1】の図示から、甲1には、単繊維の表面において凹部が形成されていることが理解できる。

上記甲1に記載された実施例1に着目して、以上の摘記事項及び認定事項を総合すると、甲1には、アルカリ減量前であって内部析出粒子を有する以下の甲1-1発明、及び、アルカリ減量後の以下の甲1-2発明が記載されている。
(1) 甲1-1発明
「フェニルホスホン酸と酢酸カルシウムとにより反応して形成される内部析出粒子を含有するポリエステル繊維」

(2) 甲1-2発明
「単繊維の表面において凹部形成されているポリエステル繊維であって、前記凹部の個数は、倍率4000倍で、繊維軸と直角方向から走査型電子顕微鏡による側面写真を撮影し、該側面写真における繊維幅両端から10%の長さを除いた繊維表面上の任意の20ヶ所において、繊維軸と直角方向に、上記10%の長さを除いた繊維幅の80%の長さに存在する、短軸方向における長さが0.1?1μm、長軸方向における長さが0.5?10μmの凹部の個数を数えて長さ10μm当たりに換算し、この20ヶ所における平均値を凹部の個数としたときに、12個/10μmである、ポリエステル繊維」

2. 甲2
甲2には、以下の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は優れた鮮明性、深色性を示し、耐磨耗性に優れ、ドライタッチな風合いを有する、生産性に優れたポリエステル繊維に関するものである。更に詳しくは、極めて優れた分散度で分散した、特定の構造を有する、アルカリ水溶液に可溶な塩を含有するポリエステル繊維をアルカリ減量して得られる、繊維表面に独特の形態の凹凸を持った、全く新規なミクロクレーター構造を有するポリエステル繊維に関するものである。」
「【0011】
【課題を解決するための手段】すなわち、本発明の第一は、繊維の側面全体を3000倍の倍率で見た時、糸幅を3等分した両側端部は、独立した孔がほとんど観測されず、多数の小さな畝が連なって筋状を呈しており、繊維の表面を8000倍の倍率で見た時、不規則な凹凸と共に繊維軸方向に0.001?5.0μm、繊維軸と直交する方向に0.001?3.0μm、最大深さ0.01?0.5μmの、大きさと深さの異なる孔が存在しており、繊維の横断面中、含まれる一次粒子の数が50?3000個/μm^(2)であることを特徴とするポリエステル繊維であり、本発明の第二は、一次粒子の長軸方向の両端の距離が1?100nm、その幅が0.001?15nmであることを特徴とする請求項1記載のポリエステル繊維であり、本発明の第三は、一次粒子が凝集し生成した二次凝集粒子が繊維横断面10μm^(2)当たり、3?1000個であることを特徴とする請求項2記載のポリエステル繊維である。」
「【0015】本発明のポリエステル繊維は、繊維の側面全体を3000倍の倍率で見た時、糸幅を3等分した両側端部は、独立した孔がほとんど観測されず、多数の小さな畝が連なって筋状を呈しており、繊維の表面を8000倍の倍率で見た時、不規則な凹凸と共に繊維軸方向に0.001?5.0μm、繊維軸と直交する方向に0.001?3.0μm、最大深さ0.01?0.5μmの、大きさと深さの異なる孔が存在しており、繊維の横断面中、含まれる一次粒子の数が50?3000個/μm^(2)であることを特徴とするポリエステル繊維であり、この表面構造を達成することで、優れた鮮明性、深色性を示し、耐磨耗性に優れ、ドライタッチな風合いを有する繊維となる。上記の表面構造によってこれらの特徴を発現する理由については定かではないが、不規則な凹凸がある構造が、可視光が当たる面積を広くし、更に微小な孔が存在することで、凹凸に入った可視光が更にその孔内で繰り返し反射し、可視光が染料に吸収される割合を増やして鮮明深色性が向上されるものと考えている。・・・」
「【0016】繊維の側面全体を3000倍の倍率で見た時に糸幅を3等分した両側端部に観察される多数の小さな畝は、繊維の表面を8000倍の倍率で見た時に見える不規則な凹凸を斜めから見た状態に相当し、その畝は凹凸と共に存在する孔よりも大きい。また、孔の大きさは繊維軸方向に0.001?5.0μm、繊維軸と直交する方向に0.01?3.0μmである。孔の大きさの測定は、繊維の表面を走査型電子顕微鏡で観察し(×8000倍)、任意の5か所の25μm^(2)の面に観察される孔の繊維軸方向、繊維軸と直交する方向の大きさを測定し、その平均値を算出する。繊維軸方向には0.001μmより小さい場合や5.0μmより大きい場合は鮮明深色性の効果が小さい。好ましくは、鮮明深色性、耐摩擦性、ドライタッチの観点から、繊維軸方向に0.1?3.0μm、繊維軸と直交する方向に0.01?1.0μmである。
【0017】孔の最大の深さは0.01?0.5μmである。孔の最大深さの測定は、繊維の断面を透過型電子顕微鏡で観察し(倍率は、繊維の外周の凹凸の大きさが肉眼にて十分判別できる値に設定する)、繊維の外周を観察し、最も深い部分の深さを測定する。0.01μmより浅いと、鮮明深色性やドライタッチの風合いが十分達せされず、0.5μmより深いと耐摩擦性が大きく低下し、毛羽が発生したりする。好ましくは、鮮明深色性、耐摩擦性、ドライタッチのバランスがよい点で、0.01?0.2μm、特に好ましくは、0.01?0.1μmである。
【0018】本発明のポリエステル繊維は、微粒子を繊維に含有させてアルカリ減量で微粒子を溶出させる方法を用いて製造される。微粒子は、一次粒子や一次粒子が凝集し生成した二次粒子から構成される。本発明のポリエステル繊維は、繊維内部に存在する一次粒子の長軸方向の両端の距離が1?100nm、その幅が0.001?15nmであり、繊維の横断面中、一次粒子の数が50?3000個/μm^(2)のアルカリ水溶液に可溶な微粒子を含有するポリエステル繊維をアルカリ水溶液中、その2重量%以上を溶出させる方法により好適に製造される。一次粒子の長軸方向、幅方向の大きさは、一つ一つの一次粒子が確認できる程度に拡大した繊維の断面写真(透過型電子顕微鏡による)を取り、5か所の1μm^(2)の面に観察される個々の一次粒子の長軸方向及びその幅の平均値から求める。一次粒子の長軸方向の両端の距離が100nmを越えたり、一次粒子の幅が15nmを越えると本発明のポリエステル繊維を得ることができない。鮮明深色性の観点から、長軸方向の両端の距離は、好ましくは1?50nm、その幅は好ましくは、0.5?12nmである。また、一次粒子の数は、50?3000個/μm^(2)であり、50個/μm^(2)未満では鮮明深色性の効果が低く、3000個/μm^(2)を越える場合は、紡糸時、紡口パックのフィルターに微粒子が詰まり、安定な紡糸ができなくなる。鮮明深色性と紡糸安定性の観点から好ましくは、50?1000個/μm^(2)である。更に、好ましい微粒子の形態は、二次凝集粒子が存在し、その二次凝集粒子の数が繊維横断面10μm^(2)当たり、3?1000個である。特に好ましくは繊維横断面10μm^(2)当たり、20?700個である。ここで、二次凝集粒子とは、一次粒子が識別できる程度に拡大された電子顕微鏡写真で見て、隣接する一次粒子の重心間距離が一次粒子の長軸の長さ以内に少なくとも4個存在する粒子群を言う。この二次粒子は一次粒子が凝集して生成したものであるが、その大きさが隣接する一次粒子の重心間距離が一次粒子の長軸の長さ以内のものであるため、二次粒子の最大長は100nm、好ましくは50nm未満であり、二次粒子であっても十分に細かい粒子群である。
【0019】このように、ある程度の大きさを持った二次粒子の存在した繊維をアルカリ減量することによって、深い大きな孔が形成される。また、同時には微細な一次粒子が存在するために、浅い小さな孔が多くでき、大きな孔と小さな孔が部分的に繋がることで、畝状の凹凸と孔が共存する本発明の特有の表面構造が形成されるのである。
【0020】以上のような、凹凸を有する繊維を作るための前駆体となる繊維としては、特に制限はないが、好ましくは式(1)で示されるホスホン酸塩を0.01?3重量%を含み、全カルボン酸成分の85モル%以上がテレフタル酸で構成されたポリエステル繊維である。
(O=PR(OR’)(O^(-)))_(n)・M ・・・式(1)
ここで、R、R’は、水素原子または、炭素数が1?7までの1価の有機基を示し、Mはアルカリ金属、またはアルカリ土類金属を示し、nはMのイオンの価数に相当する自然数である。本発明のポリエステル繊維は、このポリエステル繊維をアルカリ性水溶液中、その2重量%以上を溶出することで得ることができる。」
「【0023】これらのホスホン酸塩のポリマーへの添加方法としては、重合過程で固体のまま、あるいは溶剤に溶かして添加する方法、ポリエステルチップにブレンドする方法等、特に制限はない。好ましくは、テレフタル酸を主体とするジカルボン酸または、そのエステル形成性誘導体と少なくとも1種のグリコールエステルおよびその低重合体を生成させる第1段階の反応及び、該反応生成物を重縮合させる第2段階の反応とによって合成されたポリエステルからなる繊維を製造するに当たり、該ポリエステルの合成が完了するまでの任意の段階で、水または有機溶剤中でO=PR(OR’)_(2)と金属塩を完全に、または部分的に反応させて得られる式(1)で示されたホスホン酸塩を含む溶液を添加し、その後ポリエステルの重合を完結させる方法である。この方法は、重合の途中でO=PR(OR’)_(2)と金属塩を水または有機溶剤中で完全に、または部分的に反応させて得られるホスホン酸塩を溶液状態、あるいは部分的に溶液から析出したまま重合系に添加するものである。この場合、重合が終了するまでに、ホスホン酸塩の生成反応が実質的に完結してもよく、未反応のものが残ってもよい。生成したホスホン酸塩はその重合過程のいずれかの段階で、あるいは、重合が終了しポリマーが冷却されポリマー層から相分離する形で、微粒子として析出するのである。」
「【0026】こうして得られたポリエステルは公知の方法によって繊維化される。形態については、中空部のない中実繊維であっても、中空繊維であってもよい。また、断面構造は、丸、それ以外の異形糸や、鞘芯糸、サイドバイサイドの一部に用いられてもよい。紡糸方法としては、巻き取り速度1500m/min程度で未延伸糸を、2?3.5倍程度、延撚する通常法、あるいは、紡糸-延撚工程を直結した直延法、5000m/min以上の巻き取り速度の高速紡糸方法を適用することができる。
【0027】本発明のポリエステル繊維は、紡糸した繊維から、精練、熱セット、仮撚加工等を施した後、または布帛にした後、アルカリ性水溶液中、その2重量%以上を溶出して得られる。ここで用いるアルカリ水溶液に用いるアルカリ化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、次亜塩素酸ナトリウム等が挙げられる。好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムである。」
「【0029】
【実施例】以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、言うまでもなく実施例のみに本発明は限定されるものでない。尚、実施例中の主な測定値は以下の方法で測定した。
(1)鮮明度(鮮明性を表す尺度)の評価
得られたポリエステル繊維の一口編地を、スコアロール400を2g/L含む温水を用いて、70℃、20分間精練処理した。次に、5重量%の水酸化ナトリウム水溶液に精練した編地を加え、沸騰状態で重量減少率が20%になるまで、アルカリ減量を行った。
【0030】減量後、ミケロンポリエステルレッドFL(三井東圧社製)を用い、ニッカサンソルト7000(日華化学社製)0.5g/L、酢酸0.25mL/Lと酢酸ナトリウム1g/Lを加え、浴比1:50で130℃、60分間染色を行った。この場合、染料濃度を2、4、8、16%owfの4点変えて染色を行った。染色後、常法により還元洗浄を行い、乾燥後測色した。
【0031】スガ試験機社製カラーコンピュータ(SMー4)を用い、染料濃度を変えて得られた4種の染色物の色濃度C^(*)と鮮明度B^(*)を測定した。測定結果を縦軸にB^(*)、横軸にC^(*)を取り、縦軸、横軸の目盛りをそれぞれ2?6、9?15とするグラフを作成した。この際に縦軸と横軸の長さをそれぞれ12cm、20cmとした。得られた4点のデータをプロットして得られる曲線は、右上に凸となる形状を示すが、この曲線(縦軸の目盛り、横軸の目盛り)から(2、9)の点までがもっとも長くなる距離(単位:cm)を鮮明度と定義する。鮮明度は数字が大きいほど鮮明性が高いことを示す。こうして得られる鮮明度は、人が見て感じる鮮明性と極めてよい相関がある。
(2)深色度(深色性を表す尺度)の評価
(1)と同様に精練とアルカリ減量を行った一口編地をスミカロンブラックSーBF(住友化学社製)を用い、(1)と同じ処方の染色助剤を使用して染色を行った。染色後、常法により、還元洗浄を行い、乾燥後測色した。本発明においては、このL値を深色度と定義する。深色度は数字が小さいほど深色性が高いことを示す。こうして得られる深色度は、人が見て感じる深色性と極めてよい相関がある。
(3)耐磨耗性の評価
(2)で得られた染色物を学振式摩擦試験機を用い、当て布として、JIS-L-0803記載の呼番号10番のポリエステル繊維の平織物を用い、700gの加重を掛けて200回摩擦した。処理前後の染色物の退色度を1?5級(級が高いほど良い)で評価した。
(4)ドライタッチの評価
固定した5名が(2)の染色物をさわって、ドライタッチを1?5級(級が高いほど良い)で評価した。
【0032】
【実施例1】テレフタル酸ジメチル1294部、エチレングリコール777部、エステル交換触媒として、酢酸カルシウム1水和塩1.04部を仕込み、150℃から240℃に徐々に加熱し、3時間を要してメタノールを留出しつつ、エステル交換反応を行った。ついで、予めフェニルホスホン酸ジメチル6.32部と酢酸カルシウム1水和塩2.30部をエチレングリコール90部中、120℃で4時間反応させて得られた溶液(以下、ホスホン酸誘導体と金属塩をエチレングリコールで反応させた溶液をA液と呼ぶ)を添加し、更に重縮合触媒として三酸化アンチモン0.64部を添加した。30分間攪拌した後、徐々に減圧していき、最終的には0.1Torrで、290℃、2時間40分反応を行い、ηsp/c=0.73の改質ポリエステルをチップ形態で得た。A液をガスクロマトグラフィーとNMRを用いて分析したところ、仕込んだフェニルホスホン酸ジメチルに対し、フェニルホスホン酸モノメチルのカルシウム塩が78%含まれていることがわかった。 得られたポリマーチップを160℃で100L/minの窒素気流下、20時間乾燥させた後、24個の丸断面の孔を持つ紡口を用い、紡糸温度290℃、紡糸速度1500m/minで未延伸糸を作成した。次いで、得られた未延伸糸をホットロール80℃、ホットプレート160℃、延伸倍率3.2倍、延伸速度800m/minで延撚を行い、50d/24fの延伸糸を得た。強度は4.5g/d、伸度は38%であった。この繊維のNMR分析により、フェニルホスホン酸モノメチルのカルシウム塩が、0.5重量%含まれていることがわかった。
【0033】得られた染色物の鮮明度、深色度は、19.3、17.3であり、極めて優れた鮮明深色性を示した。これらの鮮明深色性はバッチ数を重ねてもほとんど変化はなかった。また、耐摩擦性、ドライタッチは共に5級であった。染色後の糸の表面と輪切りした断面を走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡を用いて観察した。繊維の側面全体を3000倍の倍率で見た時、糸幅を3等分した両側端部は、独立した孔がほとんど観測されず、多数の小さな畝が連なって筋状を呈していた。8000倍で観察すると繊維の表面には、繊維軸方向に0.01?3μm、繊維軸と直交する方向に0.01?0.4μm、最大深さ0.05?0.4μmの大きさと深さの異なる孔が実質的に独立することなく互いに繋がった連続した孔が認められた。こうした孔はほぼ繊維全面を覆っていた。また、断面写真を拡大したところ、針状の一次粒子が微分散していることが認められた。一次粒子は長軸方向に1?40nm、その幅は4.5nmであった。二次凝集粒子が繊維横断面10(μm)^(2)あたり、123個であった。これらを表1にまとめて記載する。」
「【0046】
【表1】


上記甲2に記載された実施例1に着目して、以上の摘記事項を総合すると、甲2には、アルカリ減量前の一次粒子及び二次粒子を有する以下の甲2-1発明、及び、アルカリ減量後の以下の甲2-2が記載されている。

(1) 甲2-1発明
「フェニルホスホン酸ジメチルと酢酸カルシウムとにより反応して生成した、長軸両端長さが1?40nmで幅が0.01?10nmである一次粒子と、一次粒子が凝集して生成したものであって、最大長は100nm、好ましくは50nm未満である二次粒子を含有するポリエステル繊維。」

(2) 甲2-2発明
「単繊維の表面において、繊維軸方向に0.01?3μm、繊維軸と直交する方向に0.01?0.4μm、最大深さ0.05?0.4μmの大きさと深さの異なる孔が実質的に独立することなく互いに繋がって連続し、ほぼ繊維全面を覆っているポリエステル繊維。」

第5 当審の判断
1. 本件発明1について
(1) 甲1-1発明に基づく新規性及び進歩性
ア. 対比
本件発明1と甲1-1発明とを対比する。
甲1-1発明の「フェニルホスホン酸」、「酢酸カルシウム」は、本件発明1の「リン化合物」、「アルカリ金属及びアルカリ土類金属化合物」」に、それぞれ相当する。
甲1-1発明の内部析出粒子は、「フェニルホスホン酸と酢酸カルシウムとにより反応して形成」、すなわち「フェニルホスホン酸と酢酸カルシウム」に由来して生成されるものであるといえる。
甲1-1発明の「ポリエステル繊維」は、アルカリ減量によって、単繊維表面から取り除かれて凹部を生成するための「内部析出粒子」があり、また、当該凹部によって、「深色効果」が生じるものであり、かつ、本件発明1の「潜在濃染性」とは「本発明の潜在濃染性ポリエステル繊維は、特定サイズの生成粒子を含有する。この生成粒子は、リン化合物とアルカリ土類金属化合物とに由来するか、又は、リン化合物とアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物とに由来する。なお、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物を、単に金属化合物と称する場合がある。本発明において、潜在濃染性とは、ポリエステル繊維に対してアルカリ減量処理を施して生成粒子を脱落させ、単繊維表面に微細孔を形成することで発現する濃染性をいう。」(本件特許明細書【0013】)という記載を踏まえると、甲1-1発明の「ポリエステル繊維」もアルカリ減量処理によって、内部析出粒子が脱落し、深色効果を得る(甲1の【0041】、【0042】)のであるから、本件発明1の「潜在濃染性ポリエステル繊維」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1-1発明とは、以下の一致点1で一致し、相違点1で相違する。

<一致点1>
「リン化合物とアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物とに由来する生成粒子を含有する、潜在濃染性ポリエステル繊維」

<相違点1>
本件発明1は「生成粒子の平均粒子径が0.19?0.5μm」であるのに対し、甲1-1発明の内部析出粒子の寸法が特定されていない点。

イ. 判断
(ア) 新規性について
上記相違点1は、生成粒子の平均粒子径についての相違点であるから、形式的な相違点ではなく、実質的な相違点である。よって、本件発明1は、甲1-1発明であるとはいえない。

(イ) 進歩性について
甲1には、甲1-1発明において、内部析出粒子の寸法を、平均粒子径が0.19?0.5μmとすることの記載はないし、示唆する記載もない。
そして、甲1-1発明は、上記相違点1に係る本件発明1の構成を備えることで、「・・・平均粒子径が上記範囲であると、アルカリ減量処理により濃染性ポリエステル繊維を得た場合に、・・・適切なサイズ及び深さを有する微細孔を、高密度(特定範囲の個数)で形成し得る生成粒子となり、またポリエステル繊維を紡糸する際に溶融ポリマーをろ過するフィルターが目詰まりすることもなく、圧力の上昇又は糸切れの発生を抑制することができる」(本件特許明細書の【0015】)という格別な作用効果を奏する。
よって、甲1-1発明において、上記相違点1に係る本件発明1の構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲1-1発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえない。

(2) 甲2-1発明に基づく進歩性
ア. 対比
本件発明1と甲2-1発明とを対比する。
甲2-1発明の「フェニル干す本酸ジメチル」と「酢酸カルシウム」とは、本件発明1の「リン化合物」、「アルカリ金属及びアルカリ土類金属化合物」」に、それぞれ相当する。
甲2-1発明の「ポリエステル繊維」は、アルカリ減量により単繊維表面から取り除かれて凹部を生成するための、「一次粒子」及び「二次粒子」があり、また、当該凹部によって、「深色効果」が生じるものであり、かつ、本件発明の「潜在濃染性」とは、上記(1)ア.に示したとおりのものであるから、甲2の【0018】及び【0018】、【0019】の記載を踏まえると甲2-1発明の「ポリエステル繊維」は、本件発明1の「潜在濃染性ポリエステル繊維」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲2-1発明とは、以下の一致点2で一致し、相違点2で相違する。

<一致点2>
「リン化合物とアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物とに由来する生成粒子を含有する、潜在濃染性ポリエステル繊維」

<相違点2>
本件発明1は「生成粒子の平均粒子径が0.19?0.5μm」であるのに対し、甲2-1発明は、一次粒子の長軸両端長さが1?40nmで幅が0.01?10nmであり、二次粒子の最大長は100nm、好ましくは50nm未満である点。

イ. 判断
(ア) 進歩性について
上記相違点2について検討する。
本件発明1の生成粒子の平均粒子径の0.19?0.5μmは、190?500nmであるところ、甲2-1発明の二次粒子の最大長は100nm、好ましくは50nm未満であり、最大長の100nmを超えて、190?500nmの粒子径のものに換える動機付けがない。
また、甲2にも、その動機付けを示唆する記載はない。
そして、本件発明1は、上記相違点2に係る本件発明1の構成を備えたことで、上記(1)イ.(イ)に示した作用効果を奏する。
よって、甲2-1発明において、上記相違点2に係る本件発明1の構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲2-1発明及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえない。

(3) 小括
上記(1)及び(2)において示したとおり、本件発明1は、特許法第29条第1項第3号に規定された発明に該当せず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるともいえない。

2. 本件発明2について
(1) 甲1-2発明に基づく新規性及び進歩性
ア. 対比
本件発明2と甲1-2とを対比する。
本件特許明細書の「本発明の濃染性ポリエステル繊維は、単繊維表面に特定サイズ及び深さを有する微細孔が特定個数存在するため、染色時の濃染性に優れる。」(【0011】)という記載から、甲1-2発明の「ポリエステル繊維」も、表面に凹部が形成されていて、深みのある染色性を示すものであるから、甲1-2発明の「ポリエステル繊維」は、本件発明2の「濃染性ポリエステル繊維」に相当する。
甲1-2発明の「凹部」は、本件発明2の「微細孔」に相当する。
そうすると、本件発明2と甲1-2発明とは以下の一致点3で一致し、相違点3で相違する。

<一致点3>
「単繊維の表面において微細孔が形成されている濃染性ポリエステル繊維であって、濃染性ポリエステル繊維。」

<相違点3>
本件発明1の「微細孔」は、「前記単繊維表面における5μm×5μmサイズの領域中に10個以上であり、前記微細孔の長軸が0.5?0.9μm、かつ短軸が0.4?0.6μmであり、及び前記微細孔の深さが100?400nmである」のに対し、甲1-2発明の「凹部」は、「個数は、倍率4000倍で、繊維軸と直角方向から走査型電子顕微鏡による側面写真を撮影し、該側面写真における繊維幅両端から10%の長さを除いた繊維表面上の任意の20ヶ所において、繊維軸と直角方向に、上記10%の長さを除いた繊維幅の80%の長さに存在する、短軸方向における長さが0.1?1μm、長軸方向における長さが0.5?10μmの凹部の個数を数えて長さ10μm当たりに換算し、この20ヶ所における平均値を凹部の個数としたときに、12個/10μm」であって、深さが明らかではない点。

イ. 判断
(ア) 新規性について
上記相違点3は、「微細孔」の個数や形状についての実質的な相違点であって、形式的な相違点ではないから、本件発明1は、甲1-2発明であるとはいえない。

(イ) 進歩性について
上記相違点3について検討する。
甲1には、「凹部」の深さを、「100?400nm」とすることの記載はないし、示唆する記載もなく、甲1-2発明において、「凹部」の深さを「100?400nm」とする動機付けがない。また、甲2には、「・・・繊維の表面には、繊維軸方向に0.01?3μm、繊維軸と直交する方向に、0.04μm、最大深さ0.05?0.4μmの大きさと深さの異なる孔が実質的に独立することなく互いに繋がった連続した孔が認められた」(【0033】)との記載があるけれども、甲1に記載された「凹部」が、上記の甲2に記載された「繊維軸方向に0.01?3μm、繊維軸と直交する方向に、0.04μmであって、大きさと深さの異なる孔が実質的に独立することなく互いに繋がった連続した孔」であるとの記載もないし、示唆する記載もない。
そして、本件発明2は、「凹部」の深さを「100?400nm」とすることで、「入射光の多重散乱を促進するために、微細孔の深さが100?400nmであり、・・・微細孔の深さが100nm未満では多重散乱を促進することができない。また、微細孔の深さが400nmを超えると微細孔生成に必要な生成粒子径が粗大になってしまい、単繊維表面に微細孔を高密度に存在させることができない」(本件特許明細書【0024】)という、格別な作用効果を奏する。
よって、甲1-2発明において、上記相違点3に係る本件発明2の構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
したがって、本件発明2は、甲1-2発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。

(2) 甲2-2発明に基づく新規性及び進歩性
ア. 対比
本件発明2と甲2-2発明とを対比する。
甲2-2発明の「ポリエステル繊維」は、本件発明2の「濃染性ポリエステル繊維」に相当する。
甲2-2発明の「孔」は、本件発明2の「微細孔」に相当する。
そうすると、本件発明2と甲2-2発明とは以下の一致点4で一致し、相違点4で相違する。

<一致点4>
「単繊維の表面において微細孔が形成されている濃染性ポリエステル繊維であって、濃染性ポリエステル繊維。」

<相違点4>
本件発明2の「微細孔」は、「前記単繊維表面における5μm×5μmサイズの領域中に10個以上であり、前記微細孔の長軸が0.5?0.9μm、かつ短軸が0.4?0.6μmであり、及び前記微細孔の深さが100?400nmである」のに対し、甲2-2発明の「孔」は、「単繊維の表面において、繊維軸方向に0.01?3μm、繊維軸と直交する方向に0.01?0.4μm、最大深さ0.05?0.4μmの大きさと深さの異なる孔が実質的に独立することなく互いに繋がって連続し、ほぼ繊維全面を覆っている」ものである点。

イ. 判断
(ア) 新規性について
上記相違点4は、「微細孔」の個数や形状についての実質的な相違点であって、形式的な相違点ではない。よって、本件発明2は、甲2-2発明であるとはいえない。

(イ) 進歩性について
上記<相違点4>について検討する。
甲2には、「孔」を、上記相違点4に係る本件発明2の構成、すなわち、「前記単繊維表面における5μm×5μmサイズの領域中に10個以上であり、前記微細孔の長軸が0.5?0.9μm、かつ短軸が0.4?0.6μmであり、及び前記微細孔の深さが100?400nm」とすることの記載はないし、示唆する記載もない。甲2は、「孔」の「最大深さ」が「0.05?0.4μm」であるが、そのときの甲2の「孔」は、「大きさと深さの異なる孔が実質的に独立することなく互いに繋がって連続し、ほぼ繊維全面を覆っている」ものであるから、甲2発明の「孔」を、上記相違点4に係る本件発明2の構成である、「単繊維表面における5μm×5μmサイズの領域中に10個以上であり」、「長軸が0.5?0.9μm、かつ短軸が0.4?0.6μm」とすることの阻害事由が、甲2発明には存在するといえる。
よって、甲2-2発明において、上記相違点4に係る本件発明2の構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
したがって、本件発明2は、甲2-2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3) 小括
上記(1)及び(2)において示したとおり、本件発明2は、特許法第29条第1項第3号に規定された発明であるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるともいえない。

3. 本件発明3について
本件発明3は、本件発明2を引用するものであるところ、本件発明2は、上記2.に示したとおり、甲1-2発明あるいは甲2-2発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に規定された発明に該当せず、甲1-2発明あるいは甲2-2発明から当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるともいえない。
したがって、本件発明2の全て構成を包含し、かつ、構成を付加し限定した発明である本件発明3も、同様に、特許法第29条第1項第3号に規定された発明であるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるともいえない。

第6 むすび
したがって、本件特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-03-16 
出願番号 特願2016-47042(P2016-47042)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (D01F)
P 1 651・ 121- Y (D01F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 斎藤 克也  
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 村山 達也
久保 克彦
登録日 2020-05-27 
登録番号 特許第6709639号(P6709639)
権利者 日本エステル株式会社 ユニチカトレーディング株式会社
発明の名称 潜在濃染性ポリエステル繊維、濃染性ポリエステル繊維、及び濃染性ポリエステル繊維の製造方法  

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