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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
管理番号 1372738
異議申立番号 異議2020-700946  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-05-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-12-03 
確定日 2021-04-01 
異議申立件数
事件の表示 特許第6702526号発明「静電チャック装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6702526号の請求項1ないし13に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6702526号の請求項1ないし13に係る特許についての出願は、2019年(令和元年)11月11日(優先権主張 平成31年2月20日)に国際出願され、令和2年5月11日にその特許権の設定登録がされ、同年6月3日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、同年12月3日に特許異議申立人 金海松(以下、「特許異議申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った(以下、この特許異議の申立てを行った特許異議申立書を「特許異議申立書」という。)。

第2 本件発明
特許第6702526号の請求項1ないし13に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明13」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
基体の一主面に板状試料を静電吸着する静電チャック装置であって、
前記基体の厚さ方向の断面形状は、前記一主面の中心から前記一主面の外周に向かって次第に湾曲する凸状曲面または凹状曲面をなし、
前記一主面上の周縁部には、前記周縁部を一周するように、縦断面が略四角形状の環状突起部が設けられ、
前記一主面上の前記環状突起部に囲まれた領域には、横断面が円形または多角形状であり、かつ縦断面が略四角形状の複数の凸状突起部が設けられ、
前記一主面の中心に位置する前記凸状突起部の頂面の高さと前記環状突起部の上面の高さとの差が1μm以上かつ30μm以下であり、
前記凸状突起部は、前記板状試料と接する前記頂面、側面、および前記頂面と前記側面を連接するR面を有し、かつ、底面の直径に対する前記頂面の直径の比が0.75以上であり、
前記凸状突起部は、前記頂面と前記側面のなす角度が90°以上かつ160°以下である静電チャック装置。
【請求項2】
前記凸状突起部の前記頂面の中心線平均表面粗さRaは0.05μm以下である請求項1に記載の静電チャック装置。
【請求項3】
前記環状突起部の前記上面の中心線平均表面粗さRaは0.05μm以下である請求項1または2に記載の静電チャック装置。
【請求項4】
前記凸状突起部の前記頂面の直径は100μm以上かつ1000μm以下である請求項1?3のいずれか1項に記載の静電チャック装置。
【請求項5】
前記基体の厚さ方向の断面形状は、前記一主面の中心から前記一主面の外周に向かって次第に湾曲する凸状曲面をなし、
前記一主面上の内周部に位置する前記凸状突起部の底面の直径に対する前記頂面の直径の比は、前記一主面上の外周部に位置する前記凸状突起部の底面の直径に対する前記頂面の直径の比よりも大きい請求項1?4のいずれか1項に記載の静電チャック装置。
【請求項6】
前記内周部の面積の総和に対する前記内周部に位置する前記凸状突起部と前記板状試料との接触面積の総和の比A1は、前記外周部の面積の総和に対する前記外周部に位置する前記凸状突起部と前記板状試料との接触面積の総和の比B1よりも大きい請求項5に記載の静電チャック装置。
【請求項7】
前記外周部と前記内周部の間に中間部を有し、前記中間部に位置する前記凸状突起部の底面の直径は、前記外周部に位置する前記凸状突起部の底面の直径より大きく、かつ、前記内周部に位置する前記凸状突起部の底面の直径より小さい請求項6に記載の静電チャック装置。
【請求項8】
前記比A1と、前記比B1と、前記中間部の面積の総和に対する前記中間部に位置する前記凸状突起部と前記板状試料との接触面積の総和の比C1とは、下記の式(1)を満たす請求項6又は7に記載の静電チャック装置。
A1>C1>B1 (1)
【請求項9】
前記基体の厚さ方向の断面形状は、前記一主面の中心から前記一主面の外周に向かって次第に湾曲する凹状曲面をなし、
前記一主面上の外周部に位置する前記凸状突起部の底面の直径に対する前記頂面の直径の比は、前記一主面上の内周部に位置する前記凸状突起部の底面の直径に対する前記頂面の直径の比よりも大きい請求項1?4のいずれか1項に記載の静電チャック装置。
【請求項10】
前記外周部に位置する前記凸状突起部が前記板状試料と接触する面積の総和B22は、前記内周部に位置する前記凸状突起部が前記板状試料と接触する面積の総和A22よりも大きい請求項9に記載の静電チャック装置。
【請求項11】
前記外周部と前記内周部の間に中間部を有し、前記中間部に位置する前記凸状突起部の底面の直径は、前記内周部に位置する前記凸状突起部の底面の直径より大きく、かつ、前記外周部に位置する前記凸状突起部の底面の直径より小さい請求項10に記載の静電チャック装置。
【請求項12】
前記総和A22と、前記総和B22と、前記中間部に位置する前記凸状突起部が前記板状試料と接触する面積の総和C22が、下記の式(3)を満たす請求項10又は11に記載の静電チャック装置。
B22>C22>A22 (3)
【請求項13】
前記一主面は、酸化アルミニウム-炭化ケイ素複合焼結体、酸化アルミニウム焼結体、窒化アルミニウム焼結体または酸化イットリウム焼結体から構成される請求項1?12のいずれか1項に記載の静電チャック装置。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人は、
(1)本件発明1ないし4及び13は、特開2014-2436047号公報(以下、「甲第1号証」という。)に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、請求項1ないし4及び13に係る特許は取り消すべきものである旨主張し、
(2)本件発明1ないし4及び13について、主たる証拠として甲第1号証及び従たる証拠として特開2016-139649号公報(以下、「甲第2号証」という。)、国際公開第2016/052115号(以下、「甲第3号証」という。)、特開2003-86664号公報(以下、「甲第4号証」という。)を提出し、請求項1ないし4及び13に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1ないし4及び13に係る特許は取り消すべきものである旨主張し、
(3)本件発明1ないし4及び13について、主たる証拠として甲第3号証及び従たる証拠として甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証を提出し、請求項1ないし4及び13に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1ないし4及び13に係る特許は取り消すべきものである旨主張し、
(4)請求項1ないし13の記載は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、請求項1ないし13に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしておらず、請求項1ないし13に係る特許は取り消すべきものである旨主張し、
(5)本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、請求項1ないし13に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の要件を満たしておらず、請求項1ないし13に係る特許は取り消すべきものである旨主張する。

第4 甲各号証の記載
1 甲第1号証
特許異議申立人が異議申立書において引用した、甲第1号証には以下の事項が記載されている。(下線は当審で付与した。以下同じ。)

「【特許請求の範囲】
【請求項1】
一主面を板状試料を載置する載置面とした基材と、前記板状試料を前記載置面に静電吸着する静電吸着用内部電極とを有する静電チャック部を備えた静電チャック装置において、
前記一主面上の周縁部に環状突起部を設け、前記一主面上の前記環状突起部に囲まれた領域に前記環状突起部と同一の高さの複数の突起部を設け、
前記環状突起部の上端部及び前記複数の突起部の上端部は、前記一主面の中心部を底面とする凹面上に位置していることを特徴とする静電チャック装置。」

「【技術分野】
【0001】
本発明は、静電チャック装置に関し、さらに詳しくは、半導体ウエハや液晶装置用ガラス基板等の板状試料を静電気力により吸着固定する際に好適に用いられ、半導体製造プロセスにおける物理気相成長法(PVD)や化学気相成長法(CVD)による成膜処理、プラズマエッチング等のエッチング処理、露光処理等の各種工程においても、耐摩耗性が高く、板状試料を所望の温度に制御することが可能な静電チャック装置に関するものである。」

「【0009】
また、特許文献3に記載の静電チャック装置では、微小突起部を有する基材とウェハとの間に冷却ガスを流しているので、外周部からのガスリーク量が面内で一定とならず、均熱性が低下したり、プラズマが不安定になるという問題点があった。
また、特許文献4に記載の静電チャック装置では、内側の環状突起の高さを外側の環状突起の高さよりも高くすることで、ウェハの跳ね上げや温度の均一性を改善することができるものの、封止層の厚さが中央部と外周部とで異なることから、熱伝達が中央部と外周部で異なるという問題点があった。また、ウェハの載置面を凹状とすると、吸着や脱離の際にウェハが変形してしまい、よって、載置面とウェハの下面との接触面が摺れてパーティクルが発生し易くなるという問題点があった。
【0010】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、板状試料を吸着する際や脱離する際に該板状試料が変形する虞がなく、板状試料の温度が均一化され、しかも、パーティクルが発生し難い静電チャック装置を提供することを目的とする。」

「【0013】
この静電チャック装置では、基材の一主面上の周縁部に環状突起部を設け、この一主面上の環状突起部に囲まれた領域に環状突起部と同一の高さの複数の突起部を設け、これら環状突起部の上端部及び複数の突起部の上端部を、一主面の中心部を底面とする凹面上に位置したことにより、板状試料と環状突起部及び複数の突起部との接触が板状試料の全面にて確実に行われ、よって、板状試料を吸着する際や脱離する際に該板状試料が変形する虞がなく、この板状試料の温度が均一化される。
また、環状突起部の上端部と複数の突起部の上端部とで板状試料を密着状態で支持することにより、これらの上端部と板状試料との接触面が摺れる虞がなくなり、パーティクルが発生し難くなる。
【0014】
本発明の静電チャック装置では、前記静電チャック部の他の主面側に冷却用ベース部を設け、前記環状突起部の前記冷却用ベース部の一主面からの高さと、前記領域の中央近傍に位置する前記突起部の前記冷却用ベース部の一主面からの高さとの差は、1μm以上かつ30μm以下であることを特徴とする。
【0015】
この静電チャック装置では、環状突起部の冷却用ベース部の一主面からの高さと、この環状突起部に囲まれた領域の中央近傍に位置する突起部の冷却用ベース部の一主面からの高さとの差を1μm以上かつ30μm以下としたことにより、静電チャック部を冷却用ベース部にボルト等の固定具で固定する際においても、基材の一主面が変形したり、上に凸の状態とならず、安定した特性が得られる。また、板状試料を静電吸着した際に過剰な変形等が生じ難くなり、板状試料の破損等の不具合を防止する。」

「【0029】
静電チャック部2は、上面(一主面)が半導体ウエハ等の板状試料Wを載置する載置面とされた載置板(基材)11と、この載置板11と一体化され該載置板11を支持する支持板12と、これら載置板11と支持板12との間に設けられた静電吸着用内部電極13及び静電吸着用内部電極13の周囲を絶縁する絶縁材層14と、支持板12を貫通するようにして設けられ静電吸着用内部電極13に直流電圧を印加する給電用端子15とにより構成されている。
【0030】
そして、この載置板11の表面(一主面)11a上の周縁部には、この周縁部を一周するように、断面四角形状の環状突起部21が設けられており、さらに、この表面11a上の環状突起部21に囲まれた領域には、環状突起部21と高さが同一であり横断面が円形状かつ縦断面が略矩形状の複数の突起部22が設けられている。そして、環状突起部21の上端部21a及び複数の突起部22各々の上端部22aは、表面11aの中心点に底面が位置する凹面23上に位置している。
【0031】
次に、この静電チャック装置1について詳細に説明する。
静電チャック部2は、載置板11、支持板12、静電吸着用内部電極13、絶縁材層14及び給電用端子15が一体化された状態で、全体が、中心部を底面とする凹面状となるように曲げ加工されている。」
【0032】
静電チャック部2の主要部を構成する載置板11および支持板12は、重ね合わせた面の形状を同じくする円板状のもので、電気抵抗が1×10^(14)Ω・cm以上、かつ周波数20Hzにおける比誘電率が13以上、好ましくは18以上のセラミックスにより構成されている。
ここで、載置板11および支持板12の電気抵抗を1×10^(14)Ω・cm以上、かつ周波数20Hzにおける比誘電率を13以上と限定した理由は、これらの範囲が板状試料Wの温度が均一化され、封止用媒体の漏れ量(リーク量)が減少し、プラズマが安定化する範囲だからである。」

「【0035】
このようなセラミックスとしては、酸化アルミニウム-炭化ケイ素(Al_(2)O_(3)-SiC)複合焼結体、酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))焼結体、窒化アルミニウム(AlN)焼結体、酸化イットリウム(Y_(2)O_(3))焼結体等の機械的な強度を有し、かつ腐食性ガス及びそのプラズマに対する耐久性を有する絶縁性のセラミックスが好適である。」

「【0038】
この環状突起部21の上端部21a及び複数の突起部22それぞれの上端部22aを凹面23に位置したことにより、板状試料Wが環状突起部21及び複数の突起部22に密着状態で支持されることとなり、板状試料Wと環状突起部21及び複数の突起部22との間に隙間や摺れ等が生じなくなる。よって、パーティクルが発生し難くなる。
この環状突起部21では、板状試料Wを載置して封止した際のリーク量を外周部のそれぞれの位置で一定とするために、この上端部21aの表面粗さRaを0.001μm以上かつ0.050μm以下とすることが好ましい。」

「【0071】
次いで、静電チャック部2の載置板11の上面の所定位置にブラスト加工等の機械加工を施し、環状突起部21及び複数の突起部22を形成するとともに、環状突起部21及び複数の突起部22を除く底面部分を載置板11の表面11aとする。
以上により、静電チャック部2及び冷却用ベース部3は、有機系接着剤層4を介して接合一体化され、静電チャック部2の載置板11の表面11aに環状突起部21及び複数の突起部22が形成された本実施形態の静電チャック装置1が得られることとなる。
【0072】
本実施形態の静電チャック装置1によれば、載置板11の表面11a上の周縁部に環状突起部21が設けられ、この表面11a上の環状突起部21に囲まれた領域に環状突起部21と高さが同一の複数の突起部22が設けられ、これら環状突起部21の上端部21a及び複数の突起部22各々の上端部22aが表面11aの中心部を底面とする凹面23上に位置しているので、板状試料Wを吸着する際や脱離する際に板状試料Wが変形する虞がなく、この板状試料Wの温度を均一化することができる。
また、環状突起部21の上端部21aと複数の突起部22各々の上端部22aとで板状試料Wを密着状態で支持するので、これら上端部21a、22aと板状試料Wとの接触面が摺れる虞がなく、パーティクルを発生し難くすることができる。」

「【0075】
また、図3に示すように、環状突起部21の上端面21aに、ブラスト加工等の機械加工により微小突起部24を1つ以上設け、新たに、微小突起部24の上端部24a及び複数の突起部22各々の上端部22aを表面11aの中心点に底面が位置する凹面23上に位置することとしてもよい。
これにより、環状突起部21の上端面21aの微小突起部24を除く領域に、封止用媒体を流すことができ、板状試料Wの最外周部の温度を均一化することができる。」

「【0090】
次いで、これら載置板及び支持板を接合一体化することにより、静電チャック部を作製した後、この静電チャック部の全体の厚みを1.0mm、かつ載置板の表面を平坦面に研磨加工した。
次いで、載置板の表面を研磨加工することにより、この表面を平坦面とし、次いで、この表面にブラスト加工を施すことにより、この表面の周縁部に、幅500μm、高さ30μmの環状突起部を、この表面のうち環状突起部に囲まれた領域に直径500μm、高さ40μmの円柱状の複数の突起部を、それぞれ形成した。これにより、この表面のうちブラスト加工により掘削された領域、すなわち環状突起部及び複数の突起部を除く領域は、封止用媒体の流路となった。」

【図1】

図1の静電チャック装置1は、環状突起部21の上端部及び複数の突起部22上端部は、一主面の中心部を底面として、外周部に向かって次第に湾曲する、凹面状に位置していると認められる。

上記記載から、甲第1号証には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

「載置板の表面を平坦面に研磨加工した上で、この表面にブラスト加工を施すことにより、基材の一主面上の周縁部に断面四角形状の環状突起部と、一主面上の環状突起部に囲まれた領域に環状突起部と同一の高さの横断面が円形状かつ縦断面が略矩形状の複数の突起部を設け、
これら環状突起部の上端部及び複数の突起部の上端部を、一主面の中心部を底面とする、外周部に向かって次第に湾曲する、凹面上に位置し、
板状試料と環状突起部及び複数の突起部との接触が板状試料の全面にて確実に行われることにより、板状試料を吸着する静電チャック装置であって、
環状突起部の冷却用ベース部の一主面からの高さと、この環状突起部に囲まれた領域の中央近傍に位置する突起部の冷却用ベース部の一主面からの高さとの差を1μm以上かつ30μm以下とする。
静電チャック装置。」

2 甲第2号証
特許異議申立人が異議申立書において引用した、甲第2号証には以下の事項が記載されている。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、静電チャック装置に関する。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の静電チャック装置では、静電チャック部に載置される板状試料の温度を精度よく調整するのは容易ではなかった。例えば、板状試料の面内における温度の偏りを小さくするのは難しかった。」

「【0016】
<静電チャック部>
静電チャック部2は、上面が半導体ウエハ等の板状試料Wを載置する載置面19とされた載置板11と、載置板11と一体化され該載置板11を支持する支持板12と、載置板11と支持板12との間に設けられた静電吸着用内部電極13と、静電吸着用内部電極13の周囲を絶縁する絶縁材層14と、支持板12を貫通して設けられ静電吸着用内部電極13に直流電圧を印加する給電用端子15と、を有している。
【0017】
図1および図2に示すように、静電チャック部2の載置面19には、突起部30が複数個形成されている。複数の突起部30は、板状試料Wを支える。突起部30の形状については、後段において詳細に説明する。
【0018】
また載置面19の周縁には、周縁壁17が形成されている。周縁壁17は、突起部30と同じ高さに形成されており、突起部30とともに板状試料Wを支持する。周縁壁17は、載置面19と板状試料Wとの間に導入される冷却ガスが漏れ出すことを抑制するために設けられている。
【0019】
載置板11および支持板12は、重ね合わせた面の形状を同じくする円板状のもので、例えば、機械的な強度を有し、かつ腐食性ガス及びそのプラズマに対する耐久性を有する絶縁性のセラミック焼結体からなる。載置板11および支持板12は、例えば、酸化アルミニウム-炭化ケイ素(Al_(2)O_(3)-SiC)複合焼結体、酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))焼結体、窒化アルミニウム(AlN)焼結体、酸化イットリウム(Y_(2)O_(3))焼結体等からなる。
特に、酸化アルミニウム-炭化ケイ素(Al_(2)O_(3)-SiC)複合焼結体(アルミナとSiCとの複合材料)が好ましい。」

「【0034】
<突起部>
図1および図3に示すように、突起部30は、載置板11の上面である載置面19に、載置面19の底面19aから上方に突出して形成されている。突起部30は、概ね円筒形状または円錐台形状とされ、底面19aに沿う断面は円形状である。
なお、突起部30の形状は、円筒形状、円錐台形状に限定されず、矩形筒状、三角筒状などとしてもよい。突起部30の断面形状は、円形状に制限されず、矩形状、三角形状であってもよい。
【0035】
図3(a)に示すように、複数の突起部30は、複数の第1突起部30Aと、複数の第2突起部30Bと、複数の第3突起部30Cと、を有する。
図3(b)に示すように、第1突起部30Aの底面19aからの高さは、第1の高さH1である。第2突起部30Bの底面19aからの高さは、第1の高さH1よりも低い第2の高さH2である。第3突起部30Cの底面19aからの高さは、第2の高さH2よりも低い第3の高さH3である。
突起部30の高さH1?H3(底面19aからの高さ)は、6μm以上50μm以下が好ましく、6μm以上20μm以下がより好ましい。
【0036】
図2に示すように、複数の第1突起部30Aは、静電チャック部2を平面視したときに、中心C1を有する円環状に配列されている。複数の第1突起部30Aからなる群を第1突起部群30A1という。複数の第1突起部30Aの高さは、第1突起部群30A1の周方向で互いに等しい。
【0037】
複数の第2突起部30Bは、静電チャック部2を平面視したときに、中心C1を有する円環状に配列されている。複数の第2突起部30Bからなる円環状の第2突起部群30B1は、第1突起部群30A1に対して径方向に間隔をおいて配置されている。
複数の第2突起部30Bの高さは、第2突起部群30B1の周方向で互いに等しい。
【0038】
複数の第3突起部30Cは、静電チャック部2を平面視したときに、中心C1を有する円環状に配列されている。複数の第3突起部30Cからなる円環状の第3突起部群30C1は、第2突起部群30B1に対して径方向に間隔をおいて配置されている。
複数の第3突起部30Cの高さは、第3突起部群30C1の周方向で互いに等しい。
第1?第3突起部30A?30Cは、中心C1を有する略同心円状に配置されている。第1?第3突起部30A?30Cを略同心円状に配置することによって、板状試料Wの周方向の温度分布を均一化することができる。
【0039】
図3(a)に示すように、第1?第3突起部30A?30Cは、第1突起部30A、第2突起部30B、第3突起部30C、第2突起部30Bからなる突起部群50を一単位として配置することができる。第1?第3突起部30A?30Cは、例えば、突起部30A,30B,30C,30Bが、この順に、径方向に繰り返して配置された構成とすることができる。
第1?第3突起部30A?30Cは互いに高さが異なるため、径方向に隣り合う突起部30の高さは互いに異なる。
【0040】
以下、複数の突起部30のうち最も高い第1突起部30Aの詳しい形状について説明する。
図6(a)は、第1突起部30Aの平面図であり、図6(b)は、板状試料Wを支持する第1突起部30Aの側面図である。なお、図6(a)および図6(b)は、特徴部分を強調する目的で、実際の形状とは異なる寸法比率で図示されている。
第1突起部30Aは、先端に位置する先端部31と、略一定の傾きで先端側に向かって断面直径を小さくしていく柱部32と、柱部32と底面19aとを緩やかな曲率で接続する裾野部34と、を有している。
【0041】
先端部31は、上方に凸となる緩やかな湾曲面であり、先端部31の最先端(最上端)は頂点41である。先端部31の表面は、先端部31の周縁において柱部32と滑らかに接続される角曲面31aと、角曲面31aの内側に位置する緩曲面31bと、を含む。
【0042】
先端部31は板状試料Wと当接し、先端部31と当接した板状試料Wは、緩やかな曲面に追従して変形した状態となり得る。先端部31の頂面40は、板状試料Wと接触可能である。頂面40は、頂点41から下方に距離h1の範囲の領域である。
頂面40は、上方(第1突起部30Aの突出方向)に凸となる湾曲面である。頂面40を湾曲面とすることによって、先端部31の周縁における欠け摩耗を抑制することができる。
湾曲面とは、一定曲率の湾曲面、曲率が漸変する湾曲面、共通接線をもって接続された複数の湾曲面などである。湾曲面は、例えば球面、楕円球面などである。
【0043】
第1突起部30Aは、頂面40の下端40a(即ち、第1突起部30Aと板状試料Wの接触領域の境界)における形状が円形である。頂面40の下端40aにおける直径d1は、200μm以上、4000μm以下であることが好ましく、400μm以上、2000μm以下であることがより好ましい。
頂面40の下端40aにおける断面積は、直径d1を用いて、π×(d1/2)^(2)として表される。したがって、頂面40の下端40aにおける断面積は、0.0314mm^(2)以上、12.6mm^(2)以下であることが好ましく、0.126mm^(2)以上、3.14mm^(2)以下であることがより好ましい。
【0044】
頂面40の下端40aにおける断面積を0.0314mm^(2)以上とすることで、第1突起部30Aと板状試料Wとの接触面積を確保し、第1突起部30Aによる板状試料Wの温度制御を容易にすることができる。
また、頂面40の下端40aにおける断面積を12.6mm^(2)以下とすることで、板状試料Wに対する第1突起部30Aの接触状態のばらつきを少なくし、温度制御の精度を高めることができる。
【0045】
柱部32は、底面19a側から先端部31に向かって、断面積が漸減するように形成されている。柱部32の断面積の変化率、すなわち柱部32の周面の傾きは高さ方向に沿って一定であってもよく、変化率(傾き)が高さ方向に沿って変わってもよい。
【0046】
図7は、第2突起部30Bの側面図である。
第2突起部30Bは、先端部131と、略一定の傾きで先端側に向かって断面直径を小さくしていく柱部132と、柱部132と底面19aとを緩やかな曲率で接続する裾野部134と、を有している。
先端部131のうち板状試料Wと接触可能な領域を頂面140という。頂面140は、中央部140aと、中央部140aを囲む環状の外周部140bとを有する。
中央部140aは、第2突起部30Bの高さ方向に対して垂直な平坦面である。中央部140aは平面視において例えば円形である。
外周部140bは、凸状の湾曲面である。外周部140bを湾曲面とすることによって、先端部131の周縁における欠け摩耗を抑制することができる。外周部140bは平面視において例えば円環形である。」

「【0048】
頂面140の直径は、200μm以上、4000μm以下であることが好ましく、400μm以上、2000μm以下であることがより好ましい。頂面140の下端140cにおける断面積は、0.0314mm^(2)以上、12.6mm^(2)以下であることが好ましく、0.126mm^(2)以上、3.14mm^(2)以下であることがより好ましい。」

【図7】

上記記載から、甲第2号証には、以下の事項(以下、「甲第2号証記載事項」という。)が記載されている。

「静電チャック部2の載置面19に設けられた、突起部30Bについて、
先端部131と、略一定の傾きで先端側に向かって断面直径を小さくしていく柱部132と、柱部132と底面19aとを緩やかな曲率で接続する裾野部134と、を有し、
先端部131のうち板状試料Wと接触可能な領域である頂面140は、中央部140aと、中央部140aを囲む環状の外周部140bとを有し、
中央部140aは、第2突起部30Bの高さ方向に対して垂直な平坦面であり、中央部140aは平面視において円形であり、
外周部140bは、先端部131の周縁における欠け摩耗を抑制するために、凸状の湾曲面であり、外周部140bは平面視において円環形であること。」

3 甲第3号証
特許異議申立人が異議申立書において引用した、甲第3号証には以下の事項が記載されている。

「技術分野
[0001] 本発明は、静電チャック装置に関する。
本願は、2014年9月30日に、日本に出願された特願2014-201304号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。」

「[0006] 本発明は、上記の事情に鑑みてなされ、突起部の摩耗に伴う突起部と板状試料との間の接触面積の増加を抑制し、熱伝導特性の経時的変動をより小さくすることができる静電チャック装置の提供を目的とする。」

「[0026] 図1、図2に示すように、静電チャック部2の載置面19には、直径が板状試料Wの厚みより小さい突起部30が複数個形成されている。静電チャック装置1は、複数の突起部30が板状試料Wを支える構成になっている。突起部30の形状については、後段において詳細に説明する。
[0027] また載置面19の周縁には、周縁壁17が形成されている。周縁壁17は、突起部30と同じ高さに形成されており、突起部30とともに板状試料Wを支持する。周縁壁17は、載置面19と板状試料Wとの間に導入される冷却ガスが漏れ出すことを抑制するために設けられている。」

「[0038] 接着材4は、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の耐熱性及び絶縁性を有し後述するヒータエレメント5と同一のパターン形状のシート状またはフィルム状の接着性樹脂であり、厚みは5μm?100μmが好ましく、より好ましくは10μm?50μmである。
接着材4の面内の厚みのバラツキは10μm以内が好ましい。接着材4の面内の厚みのバラツキが10μmを超えると、静電チャック部2とヒータエレメント5との面内間隔に10μmを超えるバラツキが生じる。その結果、ヒータエレメント5から静電チャック部2に伝わる熱の面内均一性が低下し、静電チャック部2の載置面19における面内温度が不均一となるので、好ましくない。」

「[0043] 接着材6は、冷却ベース部3の上面に絶縁部材7を接着し、接着材4と同様、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の耐熱性及び絶縁性を有するシート状またはフィルム状の接着性樹脂であり、厚みは5μm?100μmが好ましく、より好ましくは10μm?50μmである。
接着材6の面内の厚みのバラツキは10μm以内が好ましい。接着材6の面内の厚みのバラツキが10μmを超えると、冷却ベース部3と絶縁部材7との間隔に10μmを超えるバラツキが生じる。その結果、冷却ベース部3による静電チャック部2の温度制御の面内均一性が低下し、静電チャック部2の載置面19における面内温度が不均一となるので、好ましくない。」

「[0047] 樹脂層8は、例えば、シリコーン系樹脂組成物を加熱硬化した硬化体またはアクリル樹脂で形成されている。樹脂層8は、流動性ある樹脂組成物を静電チャック部2と冷却ベース部3の間に充填した後に加熱硬化させることで形成することが好ましい。静電チャック部2の下面にはヒータエレメント5が設けられており、これにより凹凸が形成されている。
また、冷却ベース部3の上面及び静電チャック部2の下面は必ずしも平坦ではない。流動性の樹脂組成物を冷却ベース部3と静電チャック部2の間に充填させた後に硬化させて樹脂層8を形成することで、静電チャック部2と冷却ベース部3の凹凸に起因して樹脂層8に空隙が生じることを抑制できる。これにより、樹脂層8の熱伝導特性を面内に均一にすることが出来、静電チャック部2の均熱性を高めることが出来る。
[0048] <突起部>
図3Aは、突起部30の平面図であり、図3Bは、板状試料Wを支持する突起部30の側面図である。図3A、図3Bは、特徴部分を強調する目的で、実際の形状とは異なる寸法比率で図示されている。
突起部30は、載置板11の上面である載置面19に複数設けられており、載置面19の底面19aから上方に突出して形成されている。突起部30は、概ね円錐台形状を有しており、底面19aに沿う断面が円形状である。突起部30の形状は、円錐台形状に限定されることはない。また、突起部30の断面形状は、円形状に制限されず、矩形状、三角形状であってもよい。
突起部30は、高さH(即ち、底面19aから頂点41までの距離)が、6μm以上50μm以下に形成されていることが好ましく、6μm以上20μm以下に形成されていることがより好ましい。
[0049] 突起部30は、先端に位置する先端部31と、略一定の傾きで先端側に向かって断面直径を小さくしていく柱部32と、柱部32と底面19aとを緩やかな曲率で接続する裾野部34と、を有している。
[0050] 先端部31は、緩やかな曲面で盛り上がっており、先端部31の最先端には、頂点41が位置する。先端部31の表面は、先端部31の周縁において柱部32と滑らかに接続される角曲面31aと、角曲面31aの内側に位置する緩曲面31bと、を含む。
角曲面31aの曲率半径は1μm未満であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましい。また、緩曲面31bの曲率半径は、大きければ大きいほど好ましく、曲面となっていない平坦面であることが最も好ましい。
[0051] 先端部31は、板状試料Wと当接する。先端部31において、板状試料Wは、緩やかな曲面に追従して、変形した状態となる。先端部31において、板状試料Wと突起部30とが接触する領域を頂面40とする。」

「[0053] 頂面40の表面粗さRaは、0μm以上0.1μm以下とすることが好ましく、0μm以上0.05μm以下とすることがより好ましく、0μm以上0.03μm以下とすることがより一層好ましく、0μm以上0.015μm以下とすることが更により一層好ましい。頂面40の表面粗さRaを0μm以上0.1μm以下(より好ましくは0μm以上0.05μm以下、より一層好ましくは0μm以上0.03μm以下、更により一層好ましくは0μm以上0.015μm以下)とすることで、突起部30と板状試料Wとの摩擦を抑制できる。これにより、板状試料Wとの接触によって板状試料Wが損傷することを防止する。また、板状試料Wを静電チャックに吸着又は離脱させる際に、突起部30の摩耗が進みにくくなり、摩耗に起因するパーティクルの発生を抑制できる。」

「[0055] 本実施形態の突起部30は、頂面40の下端40a(即ち、突起部30と板状試料Wの接触領域の境界)における断面形状が円形である。頂面40の下端40aにおける断面の直径d1は、100μm以上3000μm以下であることが好ましく、200μm以上2000μm以下であることがより好ましい。頂面40の下端40aにおける断面積は、直径d1を用いて、断面積はπ×(d1/2)^(2)として表される。したがって、頂面40の下端40aにおける断面積は、7.9×10^(-3)mm^(2)以上7.1mm^(2)以下であることが好ましく、3.1×10^(-2)mm^(2)以上3.1mm^(2)であることがより好ましい。」

「[0068] 次に、突起部30を載置板11の載置面19に形成する方法を、図5A?図5Cを基に説明する。
突起部30は、例えば、砥石加工、レーザ彫刻等の機械的加工、あるいはサンドブラスト加工等を用いて行うことができる。また、仕上げとしての研磨は、微小砥粒とバフ材を用いたバフ研磨、または、微小砥粒と超音波とを用いた超音波研磨により、効率的に行うことができる。
また、突起部30の形成工程において、同様の工程を載置面19の周縁に施すことで、周縁壁17(図1、図2参照)を同時に形成できる。
本実施形態においては、サンドブラスト加工を行った後に研磨工程としてバフ研磨を行う場合について、説明する。
[0069] まず、載置板11の上面である載置面19を研磨加工して平坦面とし、さらに洗浄する。洗浄は、例えば、アセトン、イソプロピルアルコール、トルエン等の有機溶剤で脱脂を行い、その後、例えば、温水で洗浄する。
[0070] 次いで、図5Aに示すように、載置面19に所定のパターン形状のマスク51を形成する。マスク51のパターン形状は、図2に示す突起部30及び周縁壁17を平面視したときのパターンと同一とする。マスク51としては、感光性樹脂や板状マスクが好適に用いられる。
[0071] 次いで、図5Bに示すように、サンドブラスト加工を行い、マスク51によって覆われていない部分に凹部52を形成する。その結果として、マスク51によって覆われている部分が残って凸部53となる。凸部53の間であって凹部52の底には底面19aが形成される。
[0072] 次いで、マスク51を除去する。マスク51が感光性樹脂からなる場合には、例えば、塩化メチレン等の剥離液を用いてマスク51を除去できる。
[0073] 次いで、載置面19の全体に対し、微小砥粒とバフ材を用いたバフ研磨を行う。また、バフ研磨を行った後には、載置面19を洗浄する。洗浄は、例えば、アセトン等の有機溶剤で行い、脱脂する。脱脂後には、例えば、温水で洗浄する。
[0074] バフ研磨工程を経ることで、載置面19の凸部53が、図5Cに示すような突起部30となる。
前工程であるサンドブラスト工程は、載置面19の表面にダメージを与えて、マスク51の形成されていない部分を掘削するように除去する工程である。したがって、サンドブラスト工程により形成された凸部53の特に角部53a近傍には、表層部から内部に向かう表層クラックが残留している。表層クラックは、小さな応力で進行して剥離の起点となるため、パーティクル発生の原因となる。
バフ研磨を行うことで、サンドブラスト工程で形成された表層クラックを強制的に進行、剥離させ、表層クラックを除去できる。表層クラックを起点として剥離が進むことで、凸部53の上面53b及び角部53aが丸くなり、図5Cに示すように、緩曲面31b及び角曲面31aが形成される。
[0075] また、バフ研磨を載置面19の全体に行うことで、頂面40を含む突起部30の全体、及び載置面19の底面19aを同時に研磨できる。これにより、頂面40の表面粗さRaを0.03μm以下(より好ましくは0.015μm以下)とするとともに、突起部30の柱部32及び裾野部34の周面、並びに底面19aを頂面40の表面粗さに準ずる表面粗さとすることができる。頂面40は、バフ研磨工程においてバフ材が均一に当たるが、底面19aは、バフ材が届きにくい部分があるため、部分的に表面性状が粗くなる場合がある。このような部分も含めて、バフ研磨工程により、底面19aの表面粗さRaは、0.1μm以下とすることができる。」

「請求の範囲
・・・ 中 略 ・・・
[請求項5] 前記載置面が、酸化アルミニウム-炭化ケイ素複合焼結体、酸化アルミニウム焼結体、窒化アルミニウム焼結体、または酸化イットリウム焼結体からなる請求項1?4の何れか一項に記載の静電チャック装置。」

上記記載から、甲第3号証には、以下の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されている。

「静電チャック部2の載置面19には、突起部30が複数個形成され、
載置面19の周縁には、周縁壁17が形成されており、周縁壁17は、突起部30と同じ高さであり、
突起部30は、概ね円錐台形状を有しており、底面19aに沿う断面が円形状であり、
突起部30は、先端に位置する先端部31と、略一定の傾きで先端側に向かって断面直径を小さくしていく柱部32と、柱部32と底面19aとを緩やかな曲率で接続する裾野部34と、を有し、
先端部31の表面は、先端部31の周縁において柱部32と滑らかに接続される角曲面31aと、角曲面31aの内側に位置する緩曲面31bと、を含み、緩曲面31bの曲率半径は、大きければ大きいほど好ましく、曲面となっていない平坦面であることが最も好ましく、
先端部31において、板状試料Wと突起部30とが接触する領域を頂面40とする、
静電チャック装置。」

また、上記記載から、甲第3号証には、以下の事項(以下、「甲第3号証記載事項」という。)が記載されている。

「静電チャック部2の載置面19に形成された、突起部30について、
突起部30は、概ね円錐台形状を有しており、底面19aに沿う断面が円形状であり、
突起部30は、先端に位置する先端部31と、略一定の傾きで先端側に向かって断面直径を小さくしていく柱部32と、柱部32と底面19aとを緩やかな曲率で接続する裾野部34と、を有し、
先端部31の表面は、先端部31の周縁において柱部32と滑らかに接続される角曲面31aと、角曲面31aの内側に位置する緩曲面31bと、を含み、緩曲面31bの曲率半径は、大きければ大きいほど好ましく、曲面となっていない平坦面であることが最も好ましく、
突起部30を載置板11の載置面19に形成する際に、
サンドブラスト加工を行った後に研磨工程としてバフ研磨を行うことにより、
サンドブラスト工程により形成された凸部53の特に角部53a近傍に残留する、パーティクル発生の原因となる表層部から内部に向かう表層クラックを強制的に進行、剥離させ、表層クラックを除去することにより、凸部53の上面53b及び角部53aが丸くなること。」

4 甲第4号証
特許異議申立人が異議申立書において引用した、甲第4号証には以下の事項が記載されている。

「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、吸着固定装置及びその製造方法に関し、更に詳しくは、IC、LSI、VLSI等の半導体装置の製造ライン等において好適に用いられ、シリコンウエハ等の板状試料を、パーティクルの発生等の不具合が生じることなしに固定、矯正、搬送等を行うことが可能な吸着固定装置及びその製造方法に関するものである。」

「【特許請求の範囲】
【請求項1】 基体の一主面が板状試料を吸着固定する吸着固定面とされ、該吸着固定面は突起または溝が形成されて凹凸面とされ、該凹凸面の凸部の頂面が前記板状試料の保持面とされた吸着固定装置において、
前記凹凸面の凸部の頂面及び側面と、前記凹凸面の凹部の底面とは、共に研磨されていることを特徴とする吸着固定装置。
【請求項2】 前記凸部の頂面及び側面、及び前記凹部の底面の表面粗さRaは0.25S以下であることを特徴とする請求項1記載の吸着固定装置。
【請求項3】 前記凸部の周縁は、その断面形状が曲線であることを特徴とする請求項1または2記載の吸着固定装置。
【請求項4】 前記凸部の頂面の合計面積は、前記吸着固定面の全面積の0.3?20%であることを特徴とする請求項1、2または3記載の吸着固定装置。
【請求項5】 前記凸部の高さは1μm?30μmであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項記載の吸着固定装置。
【請求項6】 基体の一主面が板状試料を吸着固定する吸着固定面とされ、該吸着固定面には突起または溝が形成されて凹凸面とされ、該凹凸面の凸部の頂面が前記板状試料の保持面とされた吸着固定装置の製造方法であって、
基体の一主面に突起または溝を形成して凹凸面とする工程と、該凹凸面を、砥粒とバフ材を用いて研磨する工程とを備えたことを特徴とする吸着固定装置の製造方法。
【請求項7】 基体の一主面が板状試料を吸着固定する吸着固定面とされ、該吸着固定面には突起または溝が形成されて凹凸面とされ、該凹凸面の凸部の頂面が前記板状試料の保持面とされた吸着固定装置の製造方法であって、
基体の一主面に突起または溝を形成して凹凸面とする工程と、該凹凸面を、砥粒と超音波を用いて研磨する工程とを備えたことを特徴とする吸着固定装置の製造方法。」

「【0002】
【従来の技術】従来、IC、LSI、VLSI等の半導体装置の製造ラインをはじめ、液晶ディスプレイ(LCD)やプラズマディスプレイ(PDP)等の表示装置の製造ライン、ハイブリッドIC等の組み立てライン等においては、シリコンウエハ、ガラス基板、プリント基板等の板状試料の固定、矯正、搬送等を行う際に、この板状試料を静電チャック方式や真空チャック方式により吸着して固定する吸着固定装置が用いられている。従来より用いられている吸着固定装置としては、例えば、板状試料を吸着固定する基体の上面を吸着固定面とし、この吸着固定面にサンドブラスト法等により突起または溝を形成して凹凸面となし、この凹凸面の凸部の頂面を研磨して板状試料の保持面とするとともに、この凹凸面の凹部をヘリウム(He)等の冷却ガスの供給路とした構造の吸着固定装置が知られている。このような吸着固定装置にあっては、板状試料を吸着固定面から離脱させるためのリフトピンが、この板状試料の周辺部に対応する前記基体の裏面の位置に設けられている。
【0003】このような吸着固定装置にあっては、板状試料との接触面(凸部の頂面)が研磨されて鏡面となっていること、及び、これらの接触面の合計面積を吸着固定面に対して所定の範囲内としてあることによって、使用上十分な吸着力を確保している。また、吸着固定面に凹部を形成したことにより、シリコンウエハ等の板状試料にパーティクルを付着し難くすることができ、しかも、この板状試料を吸着固定面から容易に脱離させることができる。さらに、この凹部をヘリウム等の冷却ガスの供給路とすることで、板状試料を冷却して適切な温度に制御することができる。」

「【0007】本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、パーティクルの発生等の不具合が生じることなしに、固定、矯正、搬送等を行うことができる吸着固定装置及びその製造方法を提供することを目的とする。」

「【0011】請求項2記載の吸着固定装置は、請求項1記載の吸着固定装置において、前記凸部の頂面及び側面、及び前記凹部の底面の表面粗さRaは0.25S以下であることを特徴とする。この吸着固定装置においては、前記凸部の頂面及び側面、及び前記凹部の底面の表面粗さRaを0.25S以下とすることにより、前記凸部の頂面及び側面と、前記凹部底面が鏡面となり、吸着固定面と板状試料との間の摩擦が極めて小さくなる。これにより、吸着固定面に固定した板状試料を、リフトピン等を用いて該吸着固定面から離脱する際のパーティクルの発生をさらに防止する。」

「【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の吸着固定装置の製造方法の一実施の形態について説明する。ここでは、プラズマ発生用の高周波電極が一体化された形式の静電チャックを例にとり説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0014】
本実施形態に係る製造方法により製造される静電チャックは、基体の一主面が板状試料を吸着固定する吸着固定面とされ、該吸着固定面には突起または溝が形成されて凹凸面とされ、該凹凸面の凸部の頂面が前記板状試料の保持面とされている。
ここでは、理解を容易にするために、まず、本実施形態の吸着固定装置の製造方法により得られた静電チャックについて説明し、次いで、本実施形態の吸着固定装置の製造方法について説明する。」

「【0022】凸部15、15…は、図3及び図4に示すように、先端部が根元よりも小さい形状に形成され、凸部周縁が、断面形状が丸みを帯びた(曲線状)ように形成されており、しかも、前記凸部の頂面24及び側面25と前記凹部26の底面27との表面粗さRaが、それぞれ0.25S以下となるよう、すなわち、板状試料1を吸着する吸着面13b全域が鏡面研磨されている。また、凸部15、15…の頂面24は板状試料1の保持面とされ、吸着面13bにおいては、凸部15、15…が立設されていない部分は凹部26の底面27として残されている。」

「【0027】次に、本実施形態の静電チャックの製造方法について図5に基づき説明する。本実施形態に係る静電チャックは、吸着面13b内に形成される凹凸面の研磨以外は、従来からの公知の方法に従って製造される。凸部15、15…の形成は、例えば、砥石加工、レーザ彫刻等の機械的加工、あるいはサンドブラスト加工等を用いて行うことができる。また、凹凸面の研磨、すなわち、凸部15の頂面24及び側面25と、凹部底面26の研磨は、微小砥粒とバフ材を用いたバフ研磨、または、微小砥粒と超音波とを用いた超音波研磨により、効率的に行うことができる。
【0028】以下、吸着面13b内に凸部15、15…を形成する方法としてサンドブラスト加工を、また、凹凸面を研磨する方法として微小砥粒とバフ材を用いたバフ研磨法を用いた場合について、図3を参照しつつ説明する。
【0029】まず、図5(a)に示すように、誘電体31の上面、すなわち板状試料を吸着する吸着面31bを研磨加工して、例えば、表面粗さRaが0.25S以下の平坦面とし、この平滑となった吸着面31bを洗浄する。この洗浄は、例えば、アセトン、イソプロピルアルコール、トルエン等の有機溶剤で脱脂を行い、その後、例えば、温水で洗浄する。
【0030】次いで、この吸着面31bに所定のパターン形状のマスク32を形成する。このマスク32のパターン形状は、図1に示す凸部15、15…のパターン形状と同一とする。このマスク32としては、感光性樹脂や板状マスクが好適に用いられる。この方法は常法に従う。
【0031】次いで、図5(b)に示すように、サンドブラスト加工を行い、マスク32によって覆われていない部分に凹部33、33…を形成する。その結果として、マスク32によって覆われている部分が残って凸部34、34…となり、これらの凸部34、34間が凹部33の底面35となる。
【0032】このサンドブラスト加工に使用される砥粒としては、アルミナ、炭化珪素、ガラスビーズ等が好ましく、砥粒の粒径は、300メッシュアンダー(300メッシュを通過したもの)、かつ、1500メッシュオーバー(1500メッシュを通過しないもの)程度とすることが好ましい。その後、マスク32を除去する。この際、マスク32が感光性樹脂からなる場合には、塩化メチレン等の剥離液を用いる。
【0033】次いで、凸部34、34…の頂面及び側面と、凹部33の底面35とを、微小砥粒とバフ材を用いたバフ研磨法により、表面粗さRaが0.25S以下となるよう同時に鏡面研磨し、図5(c)に示すように、凸部15、15…の頂面24及び側面25と、凹部26の底面27が共に鏡面研磨された静電チャックを得る。
【0034】上記の微小砥粒としては、例えば、サンドブラスト加工に用いた砥粒と同一のものを使用することができるが、微小砥粒の粒径としては、800メッシュアンダー(800メッシュを通過したもの)、かつ、1500メッシュオーバー(1500メッシュを通過しないもの)程度とすることが好ましい。また、前記のバフ材としては、特に限定されるものではなく、例えば、樹脂製のバフ材を用いることができる。
【0035】このバフ研磨に際しては、段階を踏む毎に、より微小な砥粒を用いて多段階に研磨することが好ましく、例えば800メッシュの微小砥粒→1000メッシュの微小砥粒→1500メッシュの微小砥粒という具合に、段階を踏んで多段階に研磨するのが好ましい。バフ研磨法におけるその他の条件については、常法に従ってよく、例えば、前記の微小砥粒を含む研摩剤スラリーを被研摩面に注ぎながら、バフ材を用いて研磨する方法等が用いられる。研磨後、吸着面13bを洗浄する。この洗浄は、例えば、アセトン等の有機溶剤で行い、脱脂する。この脱脂後には、例えば、温水で洗浄する。
【0036】この静電チャックの製造方法にあっては、凹部33の底面35をも容易に研磨することができ、しかも、凸部34の頂面及び側面と、凹部33の底面35とを同時に研磨することができるため、研磨コストを低減することができ、もって、パーティクル発生の原因が少なく、半導体ウエハ等の板状試料1の製品歩留まりを改善し得る静電チャックを安価に提供することができる。」

【図4】

【図5】

上記記載から、甲第4号証には、以下の事項(以下、「甲第4号証記載事項」という。)が記載されている。

「静電チャックにおいて、
基体の一主面が板状試料を吸着固定する吸着固定面となり、
該吸着固定面には突起が形成されて凹凸面とされ、該凹凸面の凸部の頂面が前記板状試料の保持面とされているものであつて、
凸部は、先端部が根元よりも小さい形状に形成され、凸部周縁が、断面形状が丸みを帯びた(曲線状)ように形成されていること。」

5 甲第5号証
特許異議申立人が異議申立書において引用した、甲第5号証には以下の事項が記載されている。

「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、吸着固定装置の製造方法に関し、更に詳しくは、IC、LSI、VLSI等の半導体装置の製造ライン等において好適に用いられ、シリコンウエハ等の板状試料を、パーティクルの発生等の不具合が生じることなしに固定、矯正、搬送等を行うことが可能な吸着固定装置の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、IC、LSI、VLSI等の半導体装置の製造ラインをはじめ、液晶ディスプレイ(LCD)やプラズマディスプレイ(PDP)等の表示装置の製造ライン、ハイブリッドIC等の組み立てライン等においては、シリコンウエハ、ガラス基板、プリント基板等の板状試料の固定、矯正、搬送等を行う際に、この板状試料を静電チャック方式や真空チャック方式により吸着して固定する吸着固定装置が用いられている。
従来より用いられている吸着固定装置としては、例えば、板状試料を吸着固定する基体の上面を吸着固定面とし、この吸着固定面にサンドブラスト法等により突起または溝を形成して凹凸面となし、この凹凸面の凸部の頂面及び側面と、該凹凸面の凹部の底面とを共に研磨して前記凸部の頂面を板状試料の保持面とするとともに、この凹凸面の凹部をヘリウム(He)等の冷却ガスの供給路とした構造の吸着固定装置が知られている。
このような吸着固定装置にあっては、板状試料を吸着固定面から離脱させるためのリフトピンが、この板状試料の周辺部に対応する前記基体の裏面の位置に設けられている。」

第5 当審の判断
1 特許法第29条第1項第3号について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明1を対比する。
(ア)引用発明1は、「基材の一主面上の周縁部に断面四角形状の環状突起部と、一主面上の環状突起部に囲まれた領域に環状突起部と同一の高さの横断面が円形状かつ縦断面が略矩形状の複数の突起部を設け、」「板状試料と環状突起部及び複数の突起部との接触が板状試料の全面にて確実に行われることにより、板状試料を吸着する」「静電チャック装置」であるから、板状試料は基材の一主面上に吸着されていると認められる。
そうすると、引用発明1の「基材の一主面上の周縁部に断面四角形状の環状突起部と、一主面上の環状突起部に囲まれた領域に環状突起部と同一の高さの横断面が円形状かつ縦断面が略矩形状の複数の突起部を設け、」「板状試料と環状突起部及び複数の突起部との接触が板状試料の全面にて確実に行われることにより、板状試料を吸着する」ことは、本件発明1の「基体の一主面に板状試料を静電吸着する」ことに相当する。

(イ)引用発明1は、「環状突起部の上端部及び複数の突起部の上端部を、一主面の中心部を底面とする、外周部に向かって次第に湾曲する、凹面上に位置し」ているから、このことは、本件発明1の「前記基体の厚さ方向の断面形状は、前記一主面の中心から前記一主面の外周に向かって次第に湾曲する凸状曲面または凹状曲面をな」すことに相当する。

(ウ)引用発明1の「基材の一主面上の周縁部に断面四角形状の環状突起部」を設けることは、本件発明1の「前記一主面上の周縁部には、前記周縁部を一周するように、縦断面が略四角形状の環状突起部が設け」ることに相当する。

(エ)引用発明1の「一主面上の環状突起部に囲まれた領域に環状突起部と同一の高さの横断面が円形状かつ縦断面が略矩形状の複数の突起部を設け」ることと、本件発明1の「前記一主面上の前記環状突起部に囲まれた領域には、横断面が円形または多角形状であり、かつ縦断面が略四角形状の複数の凸状突起部」を設けることとは、前記一主面上の前記環状突起部に囲まれた領域には、横断面が円形または多角形状であり、かつ縦断面が略四角形状の複数の凸状突起部を設ける点で共通する。

(オ)引用発明1の「環状突起部の冷却用ベース部の一主面からの高さと、この環状突起部に囲まれた領域の中央近傍に位置する突起部の冷却用ベース部の一主面からの高さとの差を1μm以上かつ30μm以下とする」ことは、本件発明1の「前記一主面の中心に位置する前記凸状突起部の頂面の高さと前記環状突起部の上面の高さとの差が1μm以上かつ30μm以下であ」ることに相当する。

(カ)引用発明1の「突起部の上端部」は、本件発明1の「凸状突起部」の「頂面」に相当する。
また、引用発明1の「突起部」は「縦断面が略四角形状」であるから、本件発明1の「凸状突起部」の「側面」に相当する構成を備えていると認められる。
そうすると、引用発明1の「突起部」と本件発明1の「前記板状試料と接する前記頂面、側面、および前記頂面と前記側面を連接するR面を有」する「凸状突起部」とは、「前記板状試料と接する前記頂面および側面を有」する「凸状突起部」である点で共通する。

(キ)引用発明1の「静電チャック装置」は、本件発明1の「静電チャック装置」に対応する。

(ク)そうすると、本件発明1と引用発明1とは以下の点で一致し、また相違する。

[一致点]
「基体の一主面に板状試料を静電吸着する静電チャック装置であって、
前記基体の厚さ方向の断面形状は、前記一主面の中心から前記一主面の外周に向かって次第に湾曲する凸状曲面または凹状曲面をなし、
前記一主面上の周縁部には、前記周縁部を一周するように、縦断面が略四角形状の環状突起部が設けられ、
前記一主面上の前記環状突起部に囲まれた領域には、横断面が円形または多角形状であり、かつ縦断面が略四角形状の複数の凸状突起部が設けられ、
前記一主面の中心に位置する前記凸状突起部の頂面の高さと前記環状突起部の上面の高さとの差が1μm以上かつ30μm以下であり、
前記凸状突起部は、前記板状試料と接する前記頂面および側面を有する静電チャック装置。」

[相違点1]
本件発明1は、「前記凸状突起部」が「前記頂面と前記側面を連接するR面を有し」ているのに対して、引用発明1の突起部は、頂面と側面を連接するR面を有していない点。

[相違点2]
本件発明1は、「前記凸状突起部」は、「底面の直径に対する前記頂面の直径の比が0.75以上であ」るのに対して、引用発明1の突起部は、底面の直径に対する前記頂面の直径の比が特定されていない点。

[相違点3]
本件発明1は、「前記凸状突起部は、前記頂面と前記側面のなす角度が90°以上かつ160°以下である」のに対して、引用発明1の突起部は、頂面と側面のなす角度が特定されていない点。

イ 判断
事案に鑑み、相違点1ないし3について、まとめて判断すると、引用発明1は、突起部について、R面を有しておらず、また、R面を有する際の、底面の直径に対する突起部の上端部の直径の比や、突起部の上端部と側面のなす角度について言及されていないから、本件発明1は、引用発明1であるということはできない。

(2)請求項2ないし4及び13について
本件発明2ないし4及び13は、「前記凸状突起部は、」「前記頂面と前記側面を連接するR面を有し、かつ、底面の直径に対する前記頂面の直径の比が0.75以上であり、前記凸状突起部は、前記頂面と前記側面のなす角度が90°以上かつ160°以下である」から、上記(1)イで検討したように、引用発明1であるということはできない。

(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、凸状突起部が有するR面について、甲第1号証には明示が無いとしている(特許異議申立書第37頁8行ないし10行)。
そして、請求項1に係る発明は、マスクを用いたサンドブラストとハブ研磨を併用して凸状突起部形成しているとしている(特許異議申立書第37頁13行ないし23行)。
その上で、甲第1号証では、ブラスト加工を行っており、甲第1号証の段落【0072】の「環状突起部21の上端部21aと複数の突起部22各々の上端部22aとで板状試料Wを密着状態で支持する」との記載をもって、突起部の上端部には研磨等が施されている蓋然性が極めて高いとした上で、甲第4号証や甲第5号証の記載から、板状試料との接触面(凸部の頂面)が研磨されることは、静電チャック装置においては当然のことであるとし(特許異議申立書第37頁24行ないし第38頁21行)、その上で、甲第1号証では、請求項1に係る発明と同様の工程によって形成されるために、R面が形成されている蓋然性が極めて高いと主張している。(特許異議申立書第38頁22行ないし28行)。
しかしながら、甲第1号証の段落【0090】に「研磨加工」と明示されているように、甲第1号証では、研磨工程を行う際には、その研磨工程について明示されているから、プラスト加工を行った後の研磨工程について明示されていない、甲第1号証について、ブラスト加工を行った後に研磨工程を行うことが当然のことであるとは認められない。
加えて、特許異議申立人が主張する板状試料との接触面(凸部の頂面)が研磨されることは、甲第1号証では、段落【0090】の「研磨工程」により、載置板の表面を平坦面とすることによりすでに行われているから、この「研磨工程」に加えて、さらに、ブラスト加工の後に、研磨工程を行うことが自明であるとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

2 特許法第29条第2項について
(1)本件発明1について
ア 引用発明1との対比・判断
(ア)対比
本件発明1と引用発明1と対比すると、上記1(1)アで検討したように、本件発明1と引用発明1とは、以下の点で相違する(再掲)。

[相違点1]
本件発明1は、「前記凸状突起部」が「前記頂面と前記側面を連接するR面を有し」ているのに対して、引用発明1の突起部は、頂面と側面を連接するR面を有していない点。

[相違点2]
本件発明1は、「前記凸状突起部」は、「底面の直径に対する前記頂面の直径の比が0.75以上であ」るのに対して、引用発明1の突起部は、底面の直径に対する前記頂面の直径の比が明示されていない点。

[相違点3]
本件発明1は、「前記凸状突起部は、前記頂面と前記側面のなす角度が90°以上かつ160°以下である」のに対して、引用発明1の突起部は、頂面と側面のなす角度が明示されていない点。

(イ)判断
事案に鑑み、相違点1ないし3についてまとめて判断すると、甲2号証記載事項ないし甲第4号証記載事項にあるように、静電チャック装置において、板状試料を静電吸着する面に形成された複数の凸状突起において、パーティクルの発生を抑制するために、頂面と側面を連接するR面を備えるようにすることは公知の技術であるものの、その際に、形成された凸状突起について、底面の直径に対する頂面の直径の比が0.75以上であることや、頂面と側面のなす角度が90°以上かつ160°以下であることは、甲第2号証ないし甲第4号証には記載されておらず、このことが、本件の優先権主張日前に周知の事項であったとはいえない。
そうすると、引用発明1について、相違点1ないし3に係る本件発明1の構成を採用することが、当業者であっても容易に想到し得たことであるとはいえない。
したがって、本件発明1は、引用発明1及び甲第2号証ないし甲第4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

(ウ)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、相違点2及び相違点3について、相違点2及び3に係る形状では、板状試料との摩擦によって凸状突起部の頂面から削られることで断面積が大きくなるため、接触面積の変化量は0にはならないから、相違点2及び相違点3に係る形状を備える本件発明1の凸状突起部は、課題を解決するための顕著な効果を有しておらず、本件発明1は引用発明1の有する効果とは異質な効果を有するものではなく、また、引用発明1の有する効果と同質の効果であるが際立って優れた効果を有するものでもなく、この効果が優先権主張日の技術水準から当業者が予測できないものに該当しないとし、相違点2及び相違点3で示される数値範囲には、臨界的意義が認められない旨主張する(特許異議申立書第42頁6行ないし第43頁15行)。(1)
さらに、特許異議申立人は、特許異議申立書において、相違点2について、凸状突起部の摩擦による断面積の変化率を小さくするためには、頂面の直径と底面の直径との比を1とする円柱状が最も好ましく、1より小さい値とする理由は、本件特許の段落【0026】には記載されていないから、相違点2に係る数値は、当業者が決めることができる設計的事項に過ぎない旨主張する(特許異議申立書第43頁16行ないし第43頁26行)。(2)
しかしながら、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0091】に
「前工程であるサンドブラスト工程は、載置面11aの表面にダメージを与えて、マスク51の形成されていない部分を掘削するように除去する工程である。したがって、サンドブラスト工程により形成された凸部53の特に角部53a近傍には、表層部から内部に向かう表層クラックが残留している。表層クラックは、小さな応力で進行して剥離の起点となるため、パーティクル発生の原因となる。
バフ研磨を行うことで、サンドブラスト工程で形成された表層クラックを強制的に進行、剥離させ、表層クラックを除去できる。表層クラックを起点として剥離が進むことで、凸部53の上面53bおよび角部53aが丸くなり、図6に示すように、R面22cが形成される。」
と記載されているように、本件発明1は、パーティクル発生の原因となる、サンドブラスト工程で形成された表層クラックを除去するために、バフ研磨を行うことにより、凸状突起部の角部が丸くなるR面を有することを前提としている。そして、このバフ研磨により、凸状突起部の形状が、板状試料との摩擦によって凸状突起部の頂面から削られることで頂面の断面積が小さくなる可能性があるところ、その形状について、相違点2及び相違点3に係る形状とするものであるから、課題を解決するための顕著な効果を有するものであり、特許異議申立人の上記主張は採用できない。(1)
また、上記の通り、本件発明1は、R面を有することにより、板状試料との摩擦によって凸状突起部の頂面から削られることで頂面の断面積が小さくなる可能性があるから、その形状を相違点2に係る数値とすることが、当業者が決めることができる設計的事項に過ぎないとはいえない。(2)
したがって、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

イ 引用発明3との対比・判断
(ア)対比
本件発明1と引用発明3を対比する。
a 引用発明3は、「静電チャック装置」であって、静電チャック部2の載置面19に形成された突起部30の先端31において、板状試料Wと突起部30とが接触する領域を頂面40とするものであるから、引用発明3の「静電チャック装置」は、本件発明1の「基体の一主面に板状試料を静電吸着する静電チャック装置」に対応する。

b 引用発明3は「静電チャック部2の載置面19には、突起部30が複数個形成され、載置面19の周縁には、周縁壁17が形成されて」いるから、この「周縁壁17」を形成することと本件発明1の「前記一主面上の周縁部には、前記周縁部を一周するように、縦断面が略四角形状の環状突起部が設けられ」ることは、前記一主面上の周縁部には、前記周縁部を一周するように」設けられた「環状突起部を設け」る点で、共通する。

c また、引用発明3は、「静電チャック部2の載置面19には、突起部30が複数個形成され、載置面19の周縁には、周縁壁17が形成されて」おり、加えて、この「突起部30は、概ね円錐台形状を有しており、底面19aに沿う断面が円形状であ」るから、この「突起部30」を形成することと本件発明1の「前記一主面上の前記環状突起部に囲まれた領域には、横断面が円形または多角形状であり、かつ縦断面が略四角形状の複数の凸状突起部が設けられ」ることは、前記一主面上の前記環状突起部に囲まれた領域には、横断面が円形または多角形状であ」る「複数の凸状突起部が設け」る点で共通する。

d 引用発明3は、「突起部30は、先端に位置する先端部31と、略一定の傾きで先端側に向かって断面直径を小さくしていく柱部32と、柱部32と底面19aとを緩やかな曲率で接続する裾野部34と、を有し」ており、加えて「先端部31において、板状試料Wと突起部30とが接触する」から、この「先端部31」、「柱部32」を形成する面は、本件発明1の「前記板状試料と接する前記頂面」、「側面」に相当する。
また、引用発明は「先端部31の表面は、先端部31の周縁において柱部32と滑らかに接続される角曲面31a」を含んでいるから、この「角曲面31a」は、本件発明1の「前記頂面と前記側面を連接するR面」に相当する。

e そうすると、本件発明1と引用発明3とは以下の点で一致し、また相違する。

[一致点]
「基体の一主面に板状試料を静電吸着する静電チャック装置であって、
前記一主面上の周縁部には、前記周縁部を一周するように環状突起部が設けられ、
前記一主面上の前記環状突起部に囲まれた領域には、横断面が円形または多角形状である複数の凸状突起部が設けられ、
前記凸状突起部は、前記板状試料と接する前記頂面、側面、および前記頂面と前記側面を連接するR面を有する静電チャック装置。」

[相違点4]
本件発明1は、「前記基体の厚さ方向の断面形状は、前記一主面の中心から前記一主面の外周に向かって次第に湾曲する凸状曲面または凹状曲面をなし」、「前記一主面の中心に位置する前記凸状突起部の頂面の高さと前記環状突起部の上面の高さとの差が1μm以上かつ30μm以下であ」るのに対して、引用発明は「周縁壁17は、突起部30と同じ高さであ」る点。

[相違点5]
本件発明1は、「前記一主面上の周縁部には、前記周縁部を一周するように、縦断面が略四角形状の環状突起部が設けられ」ているのに対して、引用発明3において形成された「周縁壁17」の縦断面の形状が特定されていない点。

[相違点6]
本件発明1は、「前記一主面上の前記環状突起部に囲まれた領域には、横断面が円形または多角形状であり、かつ縦断面が略四角形状の複数の凸状突起部が設けられ」ているのに対して、引用発明3において形成された「突起部30」は、「概ね円錐台形状を有しており、底面19aに沿う断面が円形状であ」ることは特定されているものの、縦断面の形状が明示されていない点。

[相違点7]
本件発明1は、「前記凸状突起部」の「底面の直径に対する前記頂面の直径の比が0.75以上であ」るのに対して、引用発明3は、「突起部30」の底面の直径に対する「先端部31」の直径の比について特定されていない点。

[相違点8]
本件発明1は、「前記凸状突起部は、前記頂面と前記側面のなす角度が90°以上かつ160°以下である」のに対して、引用発明3は、先端部31と「柱部32」を形成する面のなす角度について特定されていない点。

(イ)判断
事案に鑑み、相違点7及び8についてまとめて判断すると、甲第1号証及び甲第2号証並びに甲第4号証には、静電チャック装置において、板状試料を静電吸着する面に形成された複数の凸状突起において、凸状突起にR面を備える際に、凸状突起の底面の直径に対する頂面の直径の比が0.75以上であることや、頂面と側面のなす角度が90°以上かつ160°以下であることは記載されておらず、このことが、本件の優先権主張日前に周知の事項であったとはいえない。
そうすると、引用発明3について、相違点7及び8に係る本件発明1の構成を採用することが、当業者であっても容易に想到し得たことであるとはいえない。
したがって、本件発明1は、引用発明3及び甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

(ウ)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、相違点7及び8について、構成G(相違点7に対応する。)及び構成H(相違点8に対応する。)は、甲第3号証に記載されていると主張する(特許異議申立書第44頁4行ないし7行)。
しかしながら、上記第4の3に示すように、甲第3号証には、「前記凸状突起部」の「底面の直径に対する前記頂面の直径の比が0.75以上であ」ることや、「前記凸状突起部は、前記頂面と前記側面のなす角度が90°以上かつ160°以下である」ことは記載されていないから、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

(2)請求項2ないし4及び13に係る発明について
本件発明2ないし4及び13は、板状試料を静電吸着する面に形成された複数の凸状突起において、凸状突起にR面を備える際に、凸状突起の底面の直径に対する頂面の直径の比が0.75以上であり、且つ頂面と側面のなす角度が90°以上かつ160°以下である静電チャック装置であるから、上記(1)で検討したように、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された事項から、当業者が容易に想到し得るものではない。

3 特許法第36条第6項第1号について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、本件特許の発明の詳細な説明に記載された表1の実施例1A、実施例2A、実施例3Aや、表2の実施例1B、実施例2B、実施例3Bについて、板状資料との接触の程度を示す比は異なっているものの、その他の点は、完全に同一であるか、わずかに異なるものにすぎないのに対して、比較例1Aや比較例1Bは、頂面の大きさと底面の大きさのいずれもが前記実施例に比べ非常に大きく、凸状突起部の個数も大きく異なると考えられるから、表1または表2に示す実施例が比較例に対して優れた温度均一性を示しているのは、本件特許の請求項1に記載された構成を満たすことによるものなのか、不明であるとし、発明の詳細な説明には、本件特許の請求項1に記載された構成を満たすことにより、優れた温度均一性を有することは記載されておらず、本件特許の請求項1に係る発明は、「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えているために、本件特許の請求項1に係る発明は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしておらず、加えて、本件特許の請求項1を引用した請求項2ないし13に係る発明も同じ理由により特許法第36条第6項第1号の要件を満たしていない旨主張している(特許異議申立書第52頁4行ないし第53頁14行)。
しかしながら、本件特許の発明の詳細な説明に
「【0017】 載置板11の載置面11a上の周縁部には、この周縁部を一周するように、断面四角形状の環状突起部21が設けられている。載置板11の載置面11a上の環状突起部21に囲まれた領域には、横断面が円形状かつ縦断面が略矩形状の複数の凸状突起部22が設けられている。そして、図2に示すように、環状突起部21の上面21aおよび複数の凸状突起部22各々の頂面22aは、載置面11aの中心11bに底面が位置する凸面または凹面23上に位置している。」
「【0018】 図1Aや1Bに示すように、載置板11の厚さ方向の断面形状は、載置面11aの中心11bから載置面11aの外周11cに向かって次第に湾曲する曲面状である凸面または凹面23をなしている。詳細には、載置板11の厚さ方向の断面形状は、載置面11aの中心11b(凸面または凹面23の中心23a)から載置面11aの外周11c(凸面または凹面23の外周23b)に向かって、冷却用ベース部3の上面(一主面)3aを基準とする高さ、すなわち上面3aからの高さ、が次第に高くなるように又は低くなるように湾曲する曲面状である、凸面または凹面23をなしている。すなわち、載置面11aは凸面または凹面23をなしている。そして、図2に示すように、環状突起部21の上面21aおよび複数の凸状突起部22各々の頂面22aは、載置面11aの中心11bに底面が位置する凸面または凹面23上に位置している。すなわち、上面21aおよび頂面22aは、凸面または凹面23の一部を形成する。」
「【0019】 載置面11aの中心11b(凸面または凹面23の中心23a)に位置する凸状突起部22の頂面22aの高さ(冷却用ベース部3の上面(一主面)3aを基準とする高さ)と環状突起部21の上面21aの高さ(冷却用ベース部3の上面(一主面)3aを基準とする高さ)との差が1μm以上かつ30μm以下であり、5μm以上かつ15μm以下であることが好ましい。必要に応じて、頂面22aの高さの方が高くても良いし、上面21aの方が高くても良い。
載置面11aの中心11bの中心に位置する凸状突起部22の頂面22aの高さと環状突起部21の上面21aの高さとの差が1μm未満では、載置板11を冷却用ベース部3に固定した場合、載置板11が凸形状になることがある。一方、載置面11aの中心11bの中心に位置する凸状突起部22の頂面22aの高さと環状突起部21の上面21aの高さとの差が30μmを超えると、板状試料Wを吸着する際に、この板状試料Wと載置板11の載置面11aの間に隙間が生じて、板状試料Wの温度を均一化する性能が低下する。」
「【0023】 凸状突起部22のR面22cは、頂面22aと側面22bを連接する面であり、曲率半径が10μm以上かつ50μm以下の面である。凸状突起部22のR面22cの曲率半径が前記の範囲内であれば、凸状突起部22の頂面22aが摩耗しても、板状試料Wと接触する面積の変化が小さい。よって、長期に使用しても板状試料Wの温度均一性が変化しない。」
「【0026】 凸状突起部22の底面22dの直径d1に対する、凸状突起部22の頂面22aの直径d2の比は0.75以上であり、0.80以上であることが好ましく、0.85以上であることがより好ましい。また、凸状突起部22の底面22dの直径d1に対する、凸状突起部22の頂面22aの直径d2の比の上限は0.95以下である。
凸状突起部22の底面22dの直径d1に対する、凸状突起部22の頂面22aの直径d2の比は0.75未満では、凸状突起部22の頂面22aが摩耗したとき、凸状突起部22の頂面22aにおける板状試料Wに接触する面積が徐々に大きくなり、長期に使用した場合、板状試料Wの面内の温度均一性が低下してしまう。」
「【0030】 凸状突起部22は、頂面22aと側面22bのなす角度θが90°以上かつ160°以下であり、90°以上かつ150°以下であることが好ましい。
頂面22aと側面22bのなす角度θが90°未満では、摩耗により、凸状突起部22の頂面22aと板状試料Wとの接触面積が小さくなるため、摩耗の速度が大きくなり、パーティキュル等が多く発生するため好ましくない。一方、頂面22aと側面22bのなす角度θが160°を超えると、摩耗により、凸状突起部22の頂面22aと板状試料Wとの板状試料Wとの接触面積が大きくなるため、長期に使用した場合に、板状試料Wの面内の温度均一性が低下する。」
と記載されているように、本件発明1は、本件特許の発明の詳細な説明に記載されたものであるといえるから、本件特許の特許請求の範囲に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、特許法第36条第6項第1号の要件を満たす。

4 特許法第36条第4項第1号について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、以下の点を上げ、本件特許の発明の詳細な説明の記載では、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない旨主張する(特許異議申立書第53頁15行ないし第58頁16行)。
(1)本件特許の発明の詳細な説明には、本件特許の請求項1に係る発明の凸状突起部の形状を規定する数値範囲について、その数値範囲の上下限の数値を境とした、従来技術に対する異質な効果や、従来技術の効果と同質の効果であるが際立って優れた効果が示されていないこと(特許異議申立書第53頁16行ないし第54頁1行)。
(2)本件特許の発明の詳細な説明の表1、表2に記載された内容から、本件特許の請求項1に係る発明の凸状突起部の形状を規定する数値範囲について、臨界的意義を認めることができないこと(特許異議申立書第54頁2行ないし18行)。
(3)本件特許の発明の詳細な説明の表1、表2に記載された、比較例1Aや比較例1Bは、本件特許発明の実施例に比べ、頂面の大きさや底面の大きさが非常に大きいから、本件特許の請求項1に係る発明の凸状突起部の形状を規定する数値範囲内で凸状突起部を形成しても、基体の載置面に吸着した板状試料の温度の均一性、並びに長時間使用による経時的な板状試料面内の温度均一性の変化が小さい静電チャック装置を提供することができないことが予想されること(特許異議申立書第54頁19行ないし第57頁11行)。
(4)本件特許の発明の詳細な説明の段落【0019】には、載置板が凸形状となることで板状試料の温度均一化する性能が低下すると記載されており、一方、本件特許の請求項1に係る発明は、「前記基体の厚さ方向の断面形状は、前記一主面の中心から前記一主面の外周に向かって次第に湾曲する」「凸状曲面」をなしているから、板状試料の温度均一化する課題の点からは、本件特許の発明の詳細な説明の記載と、本件特許の特許請求の範囲の記載は矛盾していること(特許異議申立書第57頁12行ないし第58頁9行)。
しかしながら、本件特許の発明の詳細な説明には、上記段落【0019】、【0026】、【0030】に記載されているように、本件発明1の凸状突起部の形状を規定する数値範囲について記載されている。
また、本件特許の発明の詳細な説明に記載された、表1の実施例1A、実施例2A、実施例3Aや、表2の実施例1B、実施例2B、実施例3Bは、温度均一性の評価においてAないしCの評価を得ているのであるから、その実施例の凸状突起部の形状を規定する数値範囲にある、本件発明1も同様の効果を有すると認められる。
そうすると、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであると認められる。(1)、(2)、(3)
また、本件特許の発明の詳細な説明の上記段落【0019】には、「必要に応じて、頂面22aの高さの方が高くても良いし、上面21aの方が高くても良い。」と記載した上で、「載置面11aの中心11bの中心に位置する凸状突起部22の頂面22aの高さと環状突起部21の上面21aの高さとの差が1μm未満では、載置板11を冷却用ベース部3に固定した場合、載置板11が凸形状になることがある。一方、載置面11aの中心11bの中心に位置する凸状突起部22の頂面22aの高さと環状突起部21の上面21aの高さとの差が30μmを超えると、板状試料Wを吸着する際に、この板状試料Wと載置板11の載置面11aの間に隙間が生じて、板状試料Wの温度を均一化する性能が低下する。」と記載されるように、段落【0019】の記載は、基体の厚さ方向の断面形状が、一主面の中心から一主面の外周に向かって次第に湾曲する凸状曲面または凹状曲面をなすことを前提に、凸状突起部22の頂面22aの高さと環状突起部21の上面21aの高さとの差が1μm未満である際の問題点を述べているのであるから、本件発明1とは矛盾しているとはいえない。(4)
そうすると、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、請求項1ないし13に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の要件を満たす。

第6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-03-24 
出願番号 特願2020-515275(P2020-515275)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (H01L)
P 1 651・ 537- Y (H01L)
P 1 651・ 113- Y (H01L)
P 1 651・ 121- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 湯川 洋介中田 剛史  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 小田 浩
▲吉▼澤 雅博
登録日 2020-05-11 
登録番号 特許第6702526号(P6702526)
権利者 住友大阪セメント株式会社
発明の名称 静電チャック装置  
代理人 萩原 綾夏  
代理人 佐藤 彰雄  
代理人 西澤 和純  

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