• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C01B
管理番号 1372741
異議申立番号 異議2021-700025  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-05-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-01-13 
確定日 2021-04-02 
異議申立件数
事件の表示 特許第6723717号発明「活性炭」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6723717号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

本件特許第6723717号の請求項1?10に係る特許(以下、それぞれ「本件特許1」?「本件特許10」という。)についての出願(特願2015-203127)は、平成27年10月14日に特許出願されたものであって、令和2年6月26日にその特許権の設定登録がされ、同年7月15日にその特許掲載公報が発行された。
その後、令和3年1月13日に、本件特許1?10を対象として特許異議申立人である特許業務法人森脇特許事務所により本件特許異議の申立てがされた。

第2 特許請求の範囲の記載(本件発明)

本件特許の特許請求の範囲の記載は、次のとおりである(以下、請求項1?10に記載された発明をそれぞれ「本件発明1」?「本件発明10」といい、まとめて「本件発明」という。)。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面の一端から他端まで達する貫通孔を有する円筒形状の活性炭において、
植物由来活性炭であり、
前記貫通孔が、底面から反対側の底面まで達する貫通孔であり、
細孔容積が0.30?1.40cc/gであり、且つ、細孔径30nm以下の範囲の細孔容積が0.29?1.37cc/gであり、
BET比表面積が、900?2000m^(2)/gである、活性炭。
【請求項2】
前記貫通孔が1個である、請求項1に記載の活性炭。
【請求項3】
外径Dが1.8?10mmである、請求項1又は2に記載の活性炭。
【請求項4】
前記貫通孔の直径dが、外径Dの0.2?0.6倍である、請求項1?3のいずれかに記載の活性炭。
【請求項5】
JIS K 1474に準拠して測定した充填密度における圧力損失が、空塔速度LV=1.0m/sにおいて8kPa/m以下である、請求項1?4のいずれかに記載の活性炭。
【請求項6】
請求項1?5のいずれかに記載の活性炭の製造方法であって、
メジアン径が5?150μmの植物系炭素物質100重量部に対して、7?40重量部のバインダーを混練成形する工程と、炭化処理及び賦活処理する工程とを備え、
前記炭化処理は、窒素ガス雰囲気又は窒素ガス以外の不活性ガス雰囲気下、500?800℃で行われ、
前記賦活処理は、水蒸気雰囲気、二酸化炭素雰囲気、酸素雰囲気又はこれらの混合ガス雰囲気下、800?1100℃で行われる、製造方法。
【請求項7】
請求項1?5のいずれかに記載の活性炭からなる溶剤吸着剤。
【請求項8】
請求項1?5のいずれかに記載の活性炭からなる脱臭剤。
【請求項9】
請求項1?5のいずれかに記載の活性炭、又は請求項7に記載の溶剤吸着剤を用いて溶剤を吸着することを特徴とする、溶剤吸着方法。
【請求項10】
請求項1?5のいずれかに記載の活性炭、又は請求項8に記載の脱臭剤を用いて溶剤を吸着することを特徴とする、脱臭方法。」

第3 特許異議申立理由の概要

特許異議申立人が主張する特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。
1 特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)
(1) 本件発明1?10は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(主たる引用発明は下記(2)の甲1に記載された発明)に基いて、その出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件特許1?10は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当するため、取り消すべきものである。
(2) 証拠一覧
特許異議申立人が提出した甲第1?8号証(以下、単に「甲1」などという。)は、以下のとおりである。
・甲1:特開2012-180273号公報
・甲2:北川睦夫ら著、活性炭工業 効果的な応用と経済性の研究、重化 学工業通信社、昭和49年11月20日初版発行、p.42、4 6
・甲3:特開2009-292670号公報
・甲4:白石稔ら著、高比表面積活性炭の微細組織、炭素 TANSO、 1992年、No.155、p.295-300
・甲5:特開2009-131837号公報
・甲6:特開平08-224468号公報
・甲7:特開2007-331986号公報
・甲8:特開平9-59658号公報

2 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)
(1) 特許請求の範囲の請求項3、5、6に係る特許を受けようとする発明(本件発明3、5、6)は、下記(2)の指摘事項により、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、当該請求項3、5、6の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合しない。
したがって、本件特許3、5、6は、同号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当するため、取り消すべきものである。
(2) 具体的な指摘事項
サポート要件違反に関して特許異議申立人が主張する具体的な指摘事項は、おおよそ次のとおりである。
ア 特許請求の範囲の請求項3には「外径Dが1.8?10mmである」と記載されているが、発明の詳細な説明に記載された実施例の最小外径D及び圧力損失の数値からすると、上記請求項3記載の数値範囲(外径Dの下限値)まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
イ 特許請求の範囲の請求項5には「圧力損失が、空塔速度LV=1.0m/sにおいて8kPa/m以下である」と記載されているが、圧力損失が全く生じないことは物理的にあり得ず、下限値が存在するはずであるから、上記請求項5記載の数値範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
ウ 特許請求の範囲の請求項6には「前記賦活処理は、水蒸気雰囲気、二酸化炭素雰囲気、酸素雰囲気又はこれらの混合ガス雰囲気下、800?1100℃で行われる」と記載されているが、発明の詳細な説明に記載された実施例の賦活処理条件からすると、上記請求項6記載の数値範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。また、当該請求項6には、「7?40重量部のバインダーを混錬成形」された植物由来の活性炭に対して高い温度での賦活に耐えうる強度を維持するための特別な方法について記載がない。

第4 進歩性欠如に係る特許異議申立理由について

1 甲1に記載された発明(甲1発明)
甲1には、中空活性炭(発明の名称)について記載され、その【請求項1】には、「複数の貫通孔を備えた成型原料を同一反応炉内において連続的に炭化・乾留及び賦活することにより得られたことを特徴とする中空活性炭。」が記載されている。
そして、その実施例として、以下のような具体例が記載されている。
「【0033】(実施例)
表1は、製造条件の異なる種々の活性炭サンプルについて、仕上がり形状、ベンゼン吸着量、強度、圧力損失を調べた結果を示している。・・・
【0034】
表1に示す各サンプルA?Lの詳細は、以下の通りである。
[粉末原料](本発明)
・・・
D オガ粉:竹粉=1:1(重量比)、成型原料の寸法が、底面外径D1=15mmφ、底面内径=6mmφ、長さL=15mmのペレット状中空炭
・・・
【0038】
(結果)
【表1】


そうすると、上記表1の具体例Dに着目すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「複数の貫通孔を備えた成型原料を同一反応炉内において連続的に炭化・乾留及び賦活することにより得られたことを特徴とする中空活性炭であって、
具体的には、原材料が、オガ粉:竹粉=1:1(重量比)、仕上げ形状の寸法が、底面外径D1=9.6mmφ、底面内径D2=3.9mmφ、長さL=10mmのペレット状中空炭であるもの。」

2 本件発明1について
(1) 本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は、次の一致点及び相違点を有するものと認められる。
・一致点
「断面の一端から他端まで達する貫通孔を有する円筒形状の活性炭において、
植物由来活性炭であり、
前記貫通孔が、底面から反対側の底面まで達する貫通孔である、活性炭」
・相違点
本件発明1の活性炭は、「細孔容積が0.30?1.40cc/gであり、且つ、細孔径30nm以下の範囲の細孔容積が0.29?1.37cc/gであり、BET比表面積が、900?2000m^(2)/gである」という発明特定事項(以下、「発明特定事項A」という。)を有するのに対して、甲1発明は、そのような事項を有していない点
(2) 相違点についての検討
特許異議申立人は、甲2?8を周知技術を示す証拠として提出して、上記相違点に係る本件発明1の発明特定事項A(細孔容積及びBET比表面積に関する構成)は、一般に活性炭としてよく知られている材料の性状にすぎない旨主張するので、この点に留意しながら、上記相違点について検討をする。
確かに、甲2(特に、「表2.8 各細孔区分における活性炭の比表面積および細孔容積」、「表2.9 粒状炭の表面積、細孔容積、平均細孔半径」などを参酌した。)、甲3(特に、【0002】、【0049】(実施例5)などを参酌した。)、甲4(特に、「Table1 Properties of samples studied」、「2.1試料」などを参酌した。)、甲5(特に、【0006】などを参酌した。)、甲7(特に、【0025】などを参酌した。)、甲8(特に、【0013】などを参酌した。)には、活性炭の細孔容積ないしBET比表面積についての記載を認めることができる。しかしながら、これらの証拠に記載された活性炭は中実のものであり、甲1発明(本件発明1)とは、形態が異なるものであって、賦活の進み方などにおいて違いが生じることが予想されることから、これらの証拠は、甲1発明に係る活性炭の細孔容積及びBET比表面積を、本件発明1の上記発明特定事項Aのようなものとすることについて、直接かつ具現可能な事項として教示するものとはいえない。
また、甲6(特に、【請求項1】、【0019】、【実施例】などを参酌した。)には、甲1発明(本件発明1)と同じ円筒形状の、円筒ペレット状炭素系吸着剤が記載され、その【0019】に、「該炭素系吸着剤の比表面積は通常 100?1800m^(2)/g、好ましくは 500?1800m^(2)/gの範囲にある。」という記載を認めることができるものの、その【実施例】をみると、ヤシ殻炭粉末を原料としたものは、比表面積が900m^(2)/g(本件発明1の下限値)には及ばず、実際に900m^(2)/gを超える比表面積を実現し得たものは、原料としてフェノール系樹脂粉末を用いたもののみである。そうである以上、甲6は、上記【0019】に記載された広範な比表面積の数値範囲のうちの、本件発明1の発明特定事項Aにおける比表面積の数値範囲と重複する範囲について、植物由来の原料(植物系炭素物質)を用いて具現することができることを教示するとは言い難い。
他方、本件発明1は、原料となる植物系炭素物質のメジアン系と、バインダー添加量を最適化することによりはじめて、従来の円筒形状の活性炭では実現できなかったBET比表面積などの性状(発明特定事項A)を具現したものである(本件明細書の【0006】、【0028】、【0029】などを参照した。)。
以上を考え合わせると、上記相違点に係る本件発明1の構成(発明特定事項A)を、上記甲2?8に記載された事項(周知技術)に基づいて当業者が容易に想到し得たものということはできない。
(3) 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲1発明及び甲2?8に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 本件発明2?10について
本件発明2?5は、本件発明1に係る活性炭をさらに限定したものであるし、本件発明7?10は、当該本件発明1?5に係る活性炭からなる溶剤吸着材若しくは脱臭剤、又は、それらを用いた溶剤吸着方法若しくは脱臭方法であるし、本件発明6は、本件発明1に係る活性炭の製造方法であって、最終的に本件発明1に係る活性炭とすることを要件とするものであるから、これらの発明はいずれも、実質的に本件発明1の発明特定事項を有するものと解することができる。
したがって、本件発明2?10は、本件発明1と同様の理由により、容易想到のものとは認められない。

4 まとめ
以上のとおりであるから、進歩性欠如に関する特許異議申立理由には、理由がない。

第5 サポート要件違反に係る特許異議申立理由について

1 特許請求の範囲の請求項3に記載された「外径Dが1.8?10mmである」について
(1) まず、本件発明が解決しようとする課題についてみると、本件明細書の【0006】?【0008】からみて、当該課題は、次のとおりのものと解することができる。
すなわち、本件発明は、(i)特許文献1(上記甲6に同じ)に記載されたものは、強度を上げるために多種のバインダーを混合する必要があり、また、原料中のバインダー量が多いため、賦活が進みにくく、比表面積が増加しにくいものであって、比表面積を増加させるためには、より高い温度で賦活する必要があり、それに耐えうる強度を維持するため、主原料を樹脂粉末にしなければ製造できない等の問題があったこと、及び、(ii)特許文献2(上記甲1に同じ)に記載されたものは、強度を上げるためには、製品外径を大きくせざるを得ず、結果的に中空形状のメリットが全く生かされない問題があったことにかんがみてなされたものであって、外径が小さくても実用に耐える強度を有し(成形しやすく)、比表面積を向上させることができる中空活性炭を提供することを目的とするものであることが分かる。
(2) 次に、本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌して、当業者において上記の課題が解決できると認識できる範囲についてみてみると、上記課題に関係する成形性(強度)及び比表面積の向上に関し、【0027】?【0031】には、次の記載を認めることができる(下線は当審が付したもの)。
「【0027】
本発明において、主原料として使用する多孔性物質としては、特に制限されず、木炭、竹炭、ヤシ殻等の植物系炭素物質;褐炭、歴青炭等の鉱物系炭素物質;ゼオライト、シリカ等の無機多孔性物質等が挙げられる。なかでも、得られる中空ペレット活性炭が外径が小さくて実用に耐える強度を有しやすく(成形しやすく)、より環境に配慮できる観点から、炭素物質(植物系炭素物質又は鉱物系炭素物質)が好ましく、植物系炭素物質がより好ましい。・・・
【0028】
本発明において、主原料として使用する多孔性物質のメジアン径は、5?150μm、好ましくは6?90μm、より好ましくは7?50μmである。多孔性物質のメジアン径が5μm未満では、多孔質性物質としての機能を有している物質の割合が少なく、粉末状態からスラリー状態に近くなるため非常に成形が困難である。また、多孔性物質のメジアン径が150μmをこえると、バインダーとの接触効率が低下して固まりにくくなるため、やはり成形が困難になる。仮に成形できたとしても、炭化・賦活工程で割れやすく、製造に耐える硬さを有していない。・・・
【0029】
本発明においては、主原料として使用する多孔性物質の粒子径は、後述する混練及び成形において大きな影響を与えるため、メジアン径で管理する。メジアン径とは粒度分布において、頻度の累積が50%になる粒子径を意味する。通常、粒度分布にはある程度の偏りがあるため、平均粒子径では、対象となる粒子群の真の粒度分布及び粒子径を示しているとは言えない。上記のメジアン径の範囲では、バインダーとのなじみがよくなるため、樹脂系バインダーを添加せずとも(又は樹脂系バインダーの添加量を少なくしても)、十分に成形が可能であり、さらにバインダー添加量を低減することができるとともに、比表面積を大きくすることが可能である。これにより、成形時の圧密が高くなるため、成形品の強度が高くなり、従来のペレット状活性炭と同程度の小さい外径でも、中空ペレット活性炭の成形が可能である。この点は、従来は外径を大きくしなければ中空活性炭の成形ができなかったことと比較して優れた効果である。・・・
【0031】
上記の多孔性物質とバインダーとの使用量としては、多孔性物質100重量部に対して、バインダーは7?40重量部、好ましくは10?35重量部、より好ましくは13?30重量部である。バインダーの使用量が7重量部未満では、粘結力が低いため成形が困難である。また、バインダーの使用量が40重量部をこえると、粘度が高く粘りが出てくるため、やはり成形が困難である。」
そして、当該記載に接した当業者は、上記成形性(強度)及び比表面積を向上させるには、主原料として使用する多孔性物質として植物系炭素物質を用い、そのメジアン径を所定の範囲に管理することが重要であって、これにより、樹脂系バインダーに頼らず、少ないバインダー添加量とすることができるため、所望の成形性(強度)及び比表面積が実現できるということを理解することができる。
(3) さらに、発明の詳細な説明の【実施例】をみると、原料として使用する多孔性物質として植物系炭素物質であるヤシ殻粉末を用い、そのメジアン径を所定範囲に管理し、バインダーとしてピッチを用いて(樹脂系バインダーを用いず)、その添加量を所定範囲に抑えて得た円筒形状の活性炭(下記【表1】、【表2】などを参酌した。)や、さらに、外径、内径、賦活処理条件などを異ならせた成型品(下記【表3】などを参酌した。)についても検証されており、実際に、種々の外径のものにおいて、成形が可能であったこと、及び、所望の比表面積を得ることができたことを認めることができ、ひいては、上記の課題を解決することができると当業者において認識することができるといえる。
【表1】

【表2】

【表3】

(4) 以上の発明の詳細な説明の記載によれば、上記(3)のとおり、本件発明の課題解決に至る機序を理解することができ、上記(4)のとおり、特に、植物系炭素物質のメジアン径を所定範囲に管理することにより、樹脂系バインダーを用いずにバインダー添加量を低減でき、賦活処理条件などを厳しくしても、相応の外径において、成形性(強度)を担保しながら比表面積の向上を図ることができ、もって上記課題を解することができることを、当業者において認識することができるといえる。そして、本件発明3が規定する外径Dの下限値(1.8mm)近傍においても、当該機序に従い、さらに、内径dや賦活処理処理条件などにも配慮すれば、同様に、本件発明の課題を解決できると当業者において認識することができると解するのが合理的である。
(5) そうである以上、確かに、上記実施例において実際に検証された外径Dの最小値は、上記【表3】記載の3.0mmであるが、特に、本件発明3が規定する下限値(1.8mm)において成形性等の問題が生じることを示す証拠が見当たらない以上、本件発明3についても、上記の発明の詳細な説明の記載に基づいて、当業者において課題解決できる範囲内のものと考えるのが相当である。
したがって、当該本件発明3に係る請求項3の記載はサポート要件に適合するものである。
なお、上記実施例における圧力損失の数値自体は、上記課題に係る特性と直接関係しないから、特許異議申立人が指摘する圧力損失と関係づけてサポート要件違反と判断することは妥当でない。

2 特許請求の範囲の請求項5に記載された「圧力損失が、空塔速度LV=1.0m/sにおいて8kPa/m以下である」について
確かに、特許異議申立人が指摘するとおり、本件特許の特許請求の範囲の請求項5においては、圧力損失の下限値が特定されておらず、また、圧力損失が全く生じないことは物理的にあり得ないため、下限値が存在することもそのとおりである。しかしながら、逆に、そうである以上、物理的にあり得ない範囲は当然に排除されていると解すべきであるから、当該下限値が特定されていないことをもって、ただちに当該請求項5の記載がサポート要件に適合しないということはできない。

3 特許請求の範囲の請求項6に記載された「前記賦活処理は、水蒸気雰囲気、二酸化炭素雰囲気、酸素雰囲気又はこれらの混合ガス雰囲気下、800?1100℃で行われる」について
特許異議申立人が指摘するとおり、発明の詳細な説明に記載された実施例の賦活処理条件は特定の条件においてのみ検証され、「7?40重量部のバインダーを混錬成形」された植物由来の活性炭に対して高い温度での賦活に耐えうる強度を維持するための特別な方法について、仮に記載がないとしても、請求項6に係る発明はあくまで、本件発明1の活性炭の製造方法であって、最終的に本件発明1の活性炭とすることを要件としているから、この要件を満たしていない製造方法は、当然に排除されていると解するのが相当である。
したがって、当該排除後の製造方法は、本件発明1の活性炭を製造しうるものであって、本件発明の課題を解決することができるものと解されるから、請求項6の記載がサポート要件に適合しないということはできない。

4 まとめ
以上のとおりであるから、サポート要件違反に関する特許異議申立理由には、理由がない。

第6 結び

以上の検討のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許1?10を取り消すことはできない。
また、他にこれらの特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-03-23 
出願番号 特願2015-203127(P2015-203127)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C01B)
P 1 651・ 537- Y (C01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 廣野 知子  
特許庁審判長 菊地 則義
特許庁審判官 日比野 隆治
後藤 政博
登録日 2020-06-26 
登録番号 特許第6723717号(P6723717)
権利者 大阪ガスケミカル株式会社
発明の名称 活性炭  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ