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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 A23L 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A23L |
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管理番号 | 1372755 |
異議申立番号 | 異議2020-700890 |
総通号数 | 257 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-05-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-11-20 |
確定日 | 2021-04-07 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6694707号発明「ノンアルコールビールテイスト飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6694707号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 |
理由 |
1 手続の経緯 特許第6694707号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成27年12月18日に出願され、令和2年4月22日にその特許権の設定登録がされ、令和2年5月20日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和2年11月20日に特許異議申立人 萩原 真紀 は、特許異議の申立てを行った。 2 本件特許発明 特許第6694707号の請求項1?6に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、請求項順に「本件特許発明1」、……、「本件特許発明6」といい、まとめて「本件特許発明」ともいう。)。 「【請求項1】 甘味物質を含まないノンアルコールビールテイスト飲料であって、苦味物質および酸味料を含み、前記苦味物質の含有量が5?20ppmであり、前記酸味料に対する前記苦味物質の含有量比(苦味物質/クエン酸換算の酸味料)が0.017?0.040であり、糖質の含有量が3.0g/100mL以下であり、pHが3.8以下である、ノンアルコールビールテイスト飲料。 【請求項2】 前記苦味物質が、ホップ由来成分である、請求項1記載のノンアルコールビールテイスト飲料。 【請求項3】 前記酸味料が、アスコルビン酸、クエン酸、グルコン酸、コハク酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、リンゴ酸、アジピン酸、およびリン酸からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1または2記載のノンアルコールビールテイスト飲料。 【請求項4】 前記苦味物質の含有量が7.5?12.5ppmである、請求項1?3いずれか記載のノンアルコールビールテイスト飲料。 【請求項5】 甘味物質を含まないノンアルコールビールテイスト飲料の調製において、苦味物質を酸味料に対して0.017?0.040の含有量比(苦味物質/クエン酸換算の酸味料)で配合することを特徴とする、前記酸味料に由来する突出した酸味を抑制する方法。 【請求項6】 甘味物質を含まないノンアルコールビールテイスト飲料の製造方法であって、苦味物質を酸味料に対して0.017?0.040の含有量比(苦味物質/クエン酸換算の酸味料)で配合する工程を含む、前記酸味料に由来する突出した酸味を抑制したノンアルコールビールテイスト飲料の製造方法。」 3 申立理由の概要 特許異議申立人は、以下の甲第1号証?甲第4号証を提出し、次の理由A?理由Bを主張している。 甲第1号証:特開2015-122970号公報 甲第2号証:特許第5834164号公報 甲第3号証:財団法人 日本醸造協会 編集発行「醸造物の成分」,平成11年12月10日発行,250?272頁及び奥付 甲第4号証:国際公開第2015/132974号 (以下、それぞれを略して「甲1」、「甲2」、……、「甲4」という。) 理由A:本件特許発明1?3、5及び6は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するものであり、その特許は同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取消されるべきものである。 理由B:本件特許発明1?6は、甲4に記載された発明及び甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 4 文献の記載 (1)甲1の記載事項及び甲1に記載された発明 ア 甲1の記載事項 甲1には、以下の事項が記載されている。 記載事項(甲1-1) 「【課題】麦芽臭が抑制され、かつかつ良好なビアテイストを奏し酸味の良好なエタノール低含有のビアテイスト飲料を提供すること。 【解決手段】次の成分(A)及び(B); (A)プロリン、及び (B)炭素数3?7のアルコール 0.0001?0.5質量% を含有し、成分(A)と成分(B)との質量比〔(B)/(A)〕が0.005?1000であり、且つ、pH3?4である、エタノール含有量が1質量%未満の麦芽エキス含有ビアテイスト飲料。」(【要約】) 記載事項(甲1-2) 「【0001】 本発明は、ビアテイスト飲料に関する。」 記載事項(甲1-3) 「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 ……。 本発明の課題は、麦芽臭が抑制され、かつ良好なビアテイストを奏し酸味の良好なエタノール低含有のビアテイスト飲料を提供することにある。」 記載事項(甲1-4) 「【発明の効果】 【0008】 本発明によれば、麦芽臭が抑制され、かつかつ良好なビアテイストを奏し酸味の良好なエタノール低含有のビアテイスト飲料を提供することができる。」 記載事項(甲1-5) 「【0009】 本明細書において「ビアテイスト飲料」とは、酵母等で発酵させて醸造された通常のビール飲料のような味わい、香りを有する飲料をいう。」 記載事項(甲1-6) 「【0064】 7.官能評価 各ビアテイスト飲料を専門パネル5名が試飲し、麦芽臭、酸味について、プロリン0.025質量%でpH3.5の炭酸水の麦芽臭を5(麦芽臭が強い)、酸味を5(酸味がかなり強い)とし、下記の基準にて評価し、その後協議により最終スコアを決定した。 【0065】 麦芽臭の評価基準 評点5:麦芽臭が強い 4:麦芽臭がやや強い 3:麦芽臭がわずかにある 2:麦芽臭がほとんどない 1:麦芽臭がない 【0066】 酸味の評価基準 評点5:酸味がかなり強い 4:酸味が強い 3:酸味がやや強い 2:酸味がほとんどない 1:酸味を感じない …… 【0068】 実施例1?29及び比較例1?2 表1に示す各成分を混合溶解し、酸味料で所定のpHに調整した。次に4℃に冷却した炭酸ガス容量比3.1の炭酸水及びイオン交換水で全量100質量部(炭酸ガスの容量比2.0又は2.5となるように炭酸水及びイオン交換水で適宜調整)とし、耐熱耐圧性PETボトルに充填した(ポストミックス方式)。さらに65℃20分間加熱殺菌した。得られたビアテイスト飲料の分析結果及び評価結果を表1に併せて示す。 【0069】 ![]() 」 イ 甲1に記載された発明 上記アに示した記載事項(甲1-6)より、実施例26に係る発明として、甲1には次の発明が記載されているといえる。 「麦芽エキスとして「モルトエキストラクトパウダー100ライト(モルダ社製(ドイツ))」、1,2-プロパンジオール、ホップエキスパウダーとして「ホップエキスパウダーQ(日本粉末薬品社製)」を混合溶解し、酸味料(クエン酸)で所定のpHに調整し、次に4℃に冷却した炭酸ガス容量比3.1の炭酸水及びイオン交換水で全量100質量部(炭酸ガスの容量比2.0又は2.5となるように炭酸水及びイオン交換水で適宜調整)することで、「モルトエキストラクトパウダー100ライト(モルダ社製(ドイツ))」0.5質量%、1,2-プロパンジオール0.2質量%、クエン酸0.06質量%、ホップエキスパウダーとして「ホップエキスパウダーQ(日本粉末薬品社製)」0.1質量%、炭酸水76質量%及び水バランス量とし、とし、耐熱耐圧性PETボトルに充填(ポストミックス方式)し、さらに65℃20分間加熱殺菌することにより得られるビアテイスト飲料であって、酸味料0.06質量%、エタノール0.0質量%を含有し、pH3.5であるビアテイスト飲料」(以下、「甲1発明」という。)、及び 「麦芽エキスとして、「モルトエキストラクトパウダー100ライト(モルダ社製(ドイツ))」、1,2-プロパンジオール、ホップエキスパウダーとして「ホップエキスパウダーQ(日本粉末薬品社製)」を混合溶解し、酸味料(クエン酸)で所定のpHに調整し、次に4℃に冷却した炭酸ガス容量比3.1の炭酸水及びイオン交換水で全量100質量部(炭酸ガスの容量比2.0又は2.5となるように炭酸水及びイオン交換水で適宜調整)することで、「モルトエキストラクトパウダー100ライト(モルダ社製(ドイツ))」0.5質量%、1,2-プロパンジオール0.2質量%、クエン酸0.06質量%、ホップエキスパウダーとして「ホップエキスパウダーQ(日本粉末薬品社製)」0.1質量%、炭酸水76質量%及び水バランス量とし、耐熱耐圧性PETボトルに充填(ポストミックス方式)し、さらに65℃20分間加熱殺菌することによって、酸味料0.06質量%、エタノール0.0質量%を含有し、pH3.5であるビアテイスト飲料を調製または製造する方法」(以下、「甲1’発明」という。) (2)甲2の記載事項 甲2には、以下の事項が記載されている。 記載事項(甲2-1) 「【0003】 このような消費者ニーズに応えるべく、例えば、非重合体カテキン類及び麦芽エキスを一定量配合し、非重合体カテキン類とカリウムとの量比、並びに非重合体カテキン類とアルコールとの量比を一定に制御することにより、苦味及び後味のキレを改善し、渋味の抑制されたビール風味飲料が提案されている(特許文献1)。 一方、カプサイシンと炭素数3?5の脂肪族1価アルコールをそれぞれ一定量組み合わせて添加することにより、非アルコール飲料にアルコール感を付与できることが報告されている(特許文献2)。 また、難消化性デキストリンと特定の炭素数3?7の脂肪族アルコールとを含有させることで、麦芽臭やホップ由来の生臭みを低減できることが報告されており(特許文献3、4)、更にプロパノールやグリセロールにより、ノンアルコール飲料に対して酒らしい風味を付与する技術や、呈味を改善する技術が報告されている(特許文献5、6)。」 記載事項(甲2-2) 「【0006】 エタノール含有量が低い麦芽エキス含有飲料は、防腐等の観点から、一般的なビール飲料に比してpHが低く抑えられている。今般、麦芽エキスを含有する飲料において、pHを4以下に制御したところ、口中において未熟な穀物様の不快な呈味が過度に感じられることが判明した。 本発明は、口中における未熟な穀物様の不快な呈味が抑制され、かつ酸味の良好なエタノール低含有の麦芽エキス含有飲料に関する。」 記載事項(甲2-3) 「【0076】 実施例11?37 表2に示す各成分を混合溶解し、酸味料で所定のpHに調整した。次に4℃に冷却した炭酸ガス容量比3.1の炭酸水及びイオン交換水で全量100質量部(炭酸ガスの容量比2.0又は2.5となるように炭酸水及びイオン交換水で適宜調整)とし、耐熱耐圧性PETボトルに充填した(ポストミックス方式)。さらに65℃20分間加熱殺菌した。得られた麦芽エキス含有飲料の分析結果及び評価結果を、実施例1及び比較例1?2の結果とともに表2に併せて示す。 【0077】 【表2】 ![]() 」 (3)甲3の記載事項 甲3には、以下の事項が記載されている。 記載事項(甲3-1) 「1 ホップ苦味質成分 (1)苦味質成分とその由来 イ 含有量 第2表にビール中の苦味成分を示す。例1は,1960年代から80年代末までに報告されたものをMOLLがまとめたものから抜粋した^(14))。例2は,ドイツを代表するビールである“ピルスナー”の最近のデータから抜粋した^(15))。」(250頁右欄7?13行) 記載事項(甲3-2) 「 ![]() 」(250頁左欄下部) (4)甲4の記載事項及び甲4に記載された発明 ア 甲4の記載事項 甲4には、以下の事項が記載されている。 記載事項(甲4-1) 「(57)要約:発明の課題は、血中中性脂肪の上昇抑制効果を有し、低カロリーでありながら、ビールらしい風味、即ち、「のどにグッとくる飲み応え」及び「飲んだ後のキレの良さ」が適度にバランスされた非発酵ビール風味飲料を提供することである。課題の解決手段は、難消化性デキストリンを10g/l以上含有し、pH3.0?4.0である非発酵ビール風味飲料である。」(書誌事項頁右下欄10?18行) 記載事項(甲4-2) 「 本発明は非発酵ビール風味飲料に関し、特に、非発酵ビール風味アルコール飲料及び非発酵ビール風味炭酸飲料に関する。」(段落[0001]) 記載事項(甲4-3) 「単離したイソα酸を苦味物質として用いることができる。また、イソα酸はホップに含有されており、ホップまたはホップエキスとして用いることもできる。ホップまたはホップエキスとは、ホップの葉やその磨砕物、これらを水や熱湯で抽出した抽出液、抽出液の濃縮物や乾燥物を指す。 本発明の非発酵ビール風味飲料に含まれるイソα酸の量は、濃度0.001g/l以上である。イソα酸の濃度が0.001g/l未満になると、難消化性デキストリンを含んだ非発酵ビール風味飲料の後味がべたつき、重くなる。好ましくは、イソα酸の濃度は0.005?0.08g/l、より好ましくは0.01?0.03g/lである。イソα酸の濃度が0.08g/lを超えると、非発酵ビール風味飲料の風味が悪くなることがある。」(段落[0060]?段落[0061]) 記載事項(甲4-4) 「比較例 難消化性デキストリンの配合 表1に掲げる配合物(単位はg)を混合し1Lになるように水でメスアップし、1時間煮沸を行った後、蒸発分の水を追加し、清澄化のため珪藻土濾過およびフィルター濾過を実施し、液中に炭酸ガスを吹き込む事で炭酸ガスを2.9ガスボリュームとなるように溶解させた。 …… 難消化性デキストリンは松谷化学社製「ファイバーソル2」(商品名)を使用した(以降のデータも同じ)。ファイバーソル2における難消化デキストリン含量は90%である。大豆タンパク質分解物については飲み応え感付与及び泡保持目的、カラメルは着色目的、リン酸はpH調整目的で、それぞれ配合した。ホップはBarth-Haas Group社製の「CO2 Hop Extract」(商品名)を用いて、表に記載のイソα酸含量(g/l)になるように調整した。」(段落[0067]?段落[0069]) 記載事項(甲4-5) 「実施例7 麦糖化液配合による効果 表16及び17に掲げる配合物を混合し1Lになるように水でメスアップし、1時間煮沸を行った後、蒸発分の水を追加し、清澄化のため珪藻土濾過およびフィルター濾過を実施し、液中に炭酸ガスを吹き込む事で炭酸ガスを2.9ガスボリュームとなるように溶解させた。麦糖化液については大麦麦芽を麦芽由来の酵素を用いて糖化反応させた上で濾過したものを使用した(但し大麦を酵素にて糖化したものでもよい)。 [表16] ![]() [表17] ![]() 麦糖化液は濾過後エキス分(不揮発性成分)15重量%のものを指定量添加した(最終エキス分0.5重量%、1.5重量%分になるように添加)。ホップはBarth-Haas Groupの「CO2 Hop Extract」(商品名)を用いて、最終イソα酸0.02g/Lになるように調整した。 得られた飲料の評価を下表に示した。評価はビール類専門パネル3人により各9点満点の評価を平均した。官能評価時は香りによる影響を避けるためノーズクリップを鼻に付けた状態で実施した。対照区に比べ、試験区である単糖、2糖類、およびアセスルファムKで「バランスの良さ」、「飲んだ後のキレの良さ」の評価が上昇している事が確認された。またこれらの低分子糖および甘味料を用いたサンプルのエネルギーを確認したところ、アセスルファムKをはじめとする甘味料で非常に低いエネルギー量となり、これは肥満やメタボリックシンドロームを気にする方々のエネルギー摂取量を低減できる配合である事が確認された。 [表18] ![]() [表19] ![]() 」(段落[0101]?段落[0107]) イ 甲4に記載された発明 上記アに示した記載事項(甲4-4)及び記載事項(甲4-5)より、甲4には、特許請求の範囲に対応した実施例7における試験区1?6に対する対照区に係る発明として、次の発明が記載されているといえる。 「難消化性デキストリン12.8g、大豆タンパク質分解物2g、カラメル0.3g、リン酸0.7g、ホップ0.02gを混合し1Lになるように水でメスアップし、1時間煮沸を行った後、蒸発分の水を追加し、清澄化のため珪藻土濾過およびフィルター濾過を実施し、液中に炭酸ガスを吹き込む事で炭酸ガスを2.9ガスボリュームとなるように溶解させ、ホップはBarth-Haas Groupの「CO2 Hop Extract」(商品名)を用いて、最終イソα酸0.02g/Lになるように調整することにより得られる、pH3.5である飲料」(以下、「甲4発明」という。)、及び 「難消化性デキストリン12.8g、大豆タンパク質分解物2g、カラメル0.3g、リン酸0.7g、ホップ0.02gを混合し1Lになるように水でメスアップし、1時間煮沸を行った後、蒸発分の水を追加し、清澄化のため珪藻土濾過およびフィルター濾過を実施し、液中に炭酸ガスを吹き込む事で炭酸ガスを2.9ガスボリュームとなるように溶解させ、ホップはBarth-Haas Groupの「CO2 Hop Extract」(商品名)を用いて、最終イソα酸0.02g/Lになるように調整することによって、pH3.5である飲料を調製または製造する方法」(以下、「甲4’発明」という。) 5 当審の判断 (1)理由Aについて ア 本件特許発明1について (ア)対比 本件特許発明1を甲1発明と対比する。 甲1発明には、人工甘味料、糖アルコール、天然甘味料及び糖類のいずれも配合されておらず、エタノールは含有されていないと認められ、また、甲1発明にいう「ビアテイスト飲料」は、本件特許発明1における「ビールテイスト飲料」と特に異なる定義はなされておらず、同義と認められるので、甲1発明は、本件特許発明1における「甘味物質を含まないノンアルコールビールテイスト飲料」に該当する。 甲1発明には、ホップエキスパウダーとして「ホップエキスパウダーQ(日本粉末薬品社製)」0.1質量%が配合されており、「ホップエキスパウダーQ」の成分等は示されていないが、ホップエキスパウダーとされることから、当然、ホップに含有される苦味物質を含むものと認められるので、甲1発明は苦味物質を含むものと認められる。 甲1発明にはクエン酸が配合されており、クエン酸は、本件特許請求の範囲の請求項3及び本件特許明細書の段落0017の記載からみて、本件特許発明1における酸味料に該当するので、甲1発明は酸味料を含むものと認められる。 甲1発明には、麦芽エキスとして「モルトエキストラクトパウダー100ライト(モルダ社製(ドイツ))」0.5質量%が配合されており、その成分等は示されていないが、麦芽エキスが糖質を含むものであることは技術常識であり、甲1発明には他に糖質を含むものは配合されていないことから、甲1発明における糖質の含有量は、本件特許発明1における「糖質が3.0g/100mL以下」に該当することは明らかである。 甲1発明のpHは3.5であり、本件特許発明1における「pHが3.8以下」に該当する。 したがって、本件特許発明1と甲1発明とは、 「甘味物質を含まないノンアルコールビールテイスト飲料であって、苦味物質及び酸味料を含み、糖質の含有量が3.0g/100mL以下であり、pHが3.8以下である、ノンアルコールビールテイスト飲料」である点で一致し、 本件特許発明1は、「前記苦味物質の含有量が5?20ppmであり」とされる一方、甲1発明ではその特定がされていない点(以下、「相違点(1-1-1)」という。)、及び 本件特許発明1は、「前記酸味料に対する前記苦味物質の含有量比(苦味物質/クエン酸換算の酸味料)が0.017?0.040であり」とされる一方、甲1発明では、酸味料に対する苦味物質の含有量比は特定されていない点(以下、「相違点(1-1-2)」という。)で相違する。 (イ)相違点の検討 まず、相違点(1-1-1)について検討する。 甲1発明には、ホップエキスパウダーとして「ホップエキスパウダーQ(日本粉末薬品社製)」0.1質量%が配合されているが、甲1には「ホップエキスパウダーQ」の成分等を示す記載はない。 記載事項(甲2-3)の表2の脚注には「4)ホップ:ホップエキスパウダーQ(日本粉末薬品社製)α酸+イソα酸2.0質量%」との記載があるものの、甲1と甲2の作成時期は異なっており、当業界において、天然物由来の製品は、同じ商標であっても、その原料の生産地及び生産時期等によって含有される成分の種類及び含有量等が異なることがあると認められることから、甲1に記載された「ホップエキスパウダーQ(日本粉末薬品社製)」が、記載事項(甲2-3)に記載された「ホップエキスパウダーQ(日本粉末薬品社製)」と、成分の種類及び量などの異ならない同一性を有するものである根拠を見出すことはできず、甲1発明に配合される「ホップエキスパウダーQ(日本粉末薬品社製)」が、α酸及びイソα酸を合計で2.0質量%含有するものとすることはできない。 仮に、甲1に記載された「ホップエキスパウダーQ(日本粉末薬品社製)」が、記載事項(甲2-3)に記載された「ホップエキスパウダーQ(日本粉末薬品社製)」と、成分の種類及び含有量などの異ならない同一性を有するものであるとしても、記載事項(甲3-1)及び記載事項(甲3-2)に示されるように、ホップ由来苦味成分には、α酸及びイソα酸の他にも、β酸由来の苦味成分などが含有されていることが技術常識である。 したがって、記載事項(甲2-3)の表2に示された実施例26の飲料における「ホップエキスパウダーQ(日本粉末薬品社製)」の配合量が、甲1発明における「ホップエキスパウダーQ(日本粉末薬品社製)」の配合量と等しく、かつ、記載事項(甲2-3)の表2に示された実施例26の飲料におけるα酸及びイソα酸の分析値又は測定値が0.0020質量%すなわち20ppmであるとの計算上の仮定をおいても、甲1発明において、α酸及びイソα酸並びにβ酸由来の苦味成分なども含めたすべての苦味物質の含有量が20ppmであるとすることはできない。 したがって、相違点(1-1-1)は実質的な相違点であり、相違点(1-1-2)について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明であるとすることはできない。 イ 本件特許発明2?4について 本件特許発明2?4は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて、その発明特定事項とする発明であり、さらに技術的限定を加えたものであるので、上記アに示したとおり、本件特許発明1が甲1発明であるとすることはできない以上、本件特許発明2?4もまた、甲1発明であるとすることはできない。 ウ 本件特許発明5について (ア)対比 本件特許発明5を甲1’発明と対比する。 甲1’発明におけるビアテイスト飲料には、人工甘味料、糖アルコール、天然甘味料及び糖類のいずれも配合されておらず、エタノールは含有されていないと認められ、また、甲1’発明にいう「ビアテイスト飲料」は、本件特許発明5における「ビールテイスト飲料」と特に異なる定義はなされておらず、同義と認められるので、甲1’発明におけるビアテイスト飲料は、本件特許発明5における「甘味物質を含まないノンアルコールビールテイスト飲料」に該当する。 甲1’発明においては、ホップエキスパウダーとして「ホップエキスパウダーQ(日本粉末薬品社製)」0.1質量%が配合されており、「ホップエキスパウダーQ」の成分等は示されていないが、ホップエキスパウダーとされることから、当然、ホップに含有される苦味物質を含むものと認められるので、甲1’発明は苦味物質を配合するものと認められる。 甲1’発明においてはクエン酸が配合されており、クエン酸は、本件特許請求の範囲の請求項3及び本件特許明細書の段落0017の記載からみて、本件特許発明1における酸味料に該当するので、甲1’発明は酸味料を配合するものと認められる。 したがって、本件特許発明5と甲1’発明とは、 調製されるものが「甘味物質を含まないノンアルコールビールテイスト飲料」である点で一致し、 本件特許発明5では、「苦味物質を酸味料に対して0.017?0.040の含有量比(苦味物質/クエン酸換算の酸味料)で配合する」とされる一方、甲1’発明では、配合される苦味物質の酸味料に対する含有量比は特定されていない点(以下、「相違点(5-1-1)」という。)、及び 本件特許発明5では、「前記酸味料に由来する突出した酸味を抑制する」とされる一方、甲1’発明ではその特定がされていない点(以下、「相違点(5-1-2)」という。)で相違する。 (イ)相違点の検討 まず、相違点(5-1-1)について検討する。 甲1’発明において配合される酸味料は0.06質量%であるが、甲1には、配合される苦味物質の含有量及び配合された苦味物質の酸味料に対する含有量比は記載されていない。 甲1’発明においてビアテイスト飲料の原料には、ホップエキスパウダーとして「ホップエキスパウダーQ(日本粉末薬品社製)」0.1質量%が配合されているが、甲1には「ホップエキスパウダーQ」の成分等を示す記載はない。 記載事項(甲2-3)の表2の脚注には「4)ホップ:ホップエキスパウダーQ(日本粉末薬品社製)α酸+イソα酸2.0質量%」との記載があるものの、甲1と甲2の作成時期は異なっており、当業界において、天然 物由来の製品は、同じ商標であっても、その原料の生産地及び生産時期等によって含有される成分の種類及び含有量等が異なることがあると認められることから、甲1に記載された「ホップエキスパウダーQ(日本粉末薬品社製)」が、記載事項(甲2-3)に記載された「ホップエキスパウダーQ(日本粉末薬品社製)」と、成分の種類及び量などの異ならない同一性を有するものである根拠を見出すことはできず、甲1’発明においてビアテイスト飲料に配合された「ホップエキスパウダーQ(日本粉末薬品社製)」が、α酸及びイソα酸を合計で2.0質量%含有するものとすることはできない。 仮に、甲1に記載された「ホップエキスパウダーQ(日本粉末薬品社製)」が、記載事項(甲2-3)に記載された「ホップエキスパウダーQ(日本粉末薬品社製)」と、成分の種類及び含有量などの異ならない同一性を有するものであるとしても、記載事項(甲3-1)及び記載事項(甲3-2)に示されるように、ホップ由来苦味成分には、α酸及びイソα酸の他にも、β酸由来の苦味成分などが含有されており、しかも、その含有量は一定ではなく、その含有量の変動範囲も一定ではないことが技術常識である. したがって、記載事項(甲2-3)の表2に示された実施例26の飲料における「ホップエキスパウダーQ(日本粉末薬品社製)」の配合量が、甲1発明における「ホップエキスパウダーQ(日本粉末薬品社製)」の配合量と等しく、かつ、記載事項(甲2-3)の表2に示された実施例26の飲料におけるα酸及びイソα酸の分析値又は測定値が0.0020質量%すなわち20ppmであるとの計算上の仮定をおいても、技術常識に照らして、甲1’発明において製造されたビアテイスト飲料における、α酸及びイソα酸並びにβ酸由来の苦味成分なども含めたすべての苦味物質の含有量の範囲が明らかであるとはいえない。 以上のとおり、甲1’発明において製造されたビアテイスト飲料におけるすべての苦味物質の含有量の範囲が、技術常識に照らしても明らかであるとはいえない以上、甲1’発明において配合される酸味料が0.06質量%であることによっても、配合される苦味物質の酸味料に対する含有量比(苦味物質/クエン酸換算の酸味料)が0.017?0.040の範囲にあるとすることはできない。 したがって、甲1’発明が、相違点(5-1-1)に係る「苦味物質を酸味料に対して0.017?0.040の含有量比(苦味物質/クエン酸換算の酸味料)で配合する」ものであるとすることはできず、相違点(5-1-1)は実質的な相違点である。 次に、相違点(5-1-2)について検討する。 甲1には、相違点(5-1-2)に係る「前記酸味料に由来する突出した酸味を抑制する」ことについての記載はない。 また、甲1’発明により製造されるビアテイスト飲料は、酸味料に由来する突出した酸味の抑制されたものであることが、技術常識から明らかであるといえる根拠も見出さない。 したがって、甲1’発明が、相違点(5-1-2)に係る「前記酸味料に由来する突出した酸味を抑制する」ものであるとすることはできず、相違点(5-1-2)は実質的な相違点である。 よって、本件特許発明5は甲1’発明であるとすることはできない。 エ 本件特許発明6について (ア)対比 本件特許発明6を甲1’発明と対比する。 甲1’発明において製造されるビアテイスト飲料には、人工甘味料、糖アルコール、天然甘味料及び糖類のいずれも配合されておらず、エタノールは含有されていないと認められ、また、甲1’発明にいう「ビアテイスト飲料」は、本件特許発明5における「ビールテイスト飲料」と特に異なる定義はなされておらず、同義と認められるので、甲1’発明において製造されるビアテイスト飲料は、本件特許発明6において製造される「甘味物質を含まないノンアルコールビールテイスト飲料」に該当する。 甲1’発明においては、ホップエキスパウダーとして「ホップエキスパウダーQ(日本粉末薬品社製)」0.1質量%が配合されており、「ホップエキスパウダーQ」の成分等は示されていないが、ホップエキスパウダーとされることから、当然、ホップに含有される苦味物質を含むものと認められるので、甲1’発明は苦味物質を配合するものと認められる。 甲1’発明においてはクエン酸が配合されており、クエン酸は、本件特許請求の範囲の請求項3及び本件特許明細書の段落0017の記載からみて、本件特許発明1における酸味料に該当するので、甲1’発明は酸味料を配合するものと認められる。 したがって、本件特許発明6と甲1’発明とは、 製造されるものが「甘味物質を含まないノンアルコールビールテイスト飲料」である点で一致し、 本件特許発明6では、「苦味物質を酸味料に対して0.017?0.040の含有量比(苦味物質/クエン酸換算の酸味料)で配合する工程を含む」とされる一方、甲1’発明では、配合される苦味物質の酸味料に対する含有量比は特定されていない点(以下、「相違点(6-1-1)」という。)、及び 本件特許発明6では、「前記酸味料に由来する突出した酸味を抑制した……飲料」の製造方法とされる一方、甲1’発明ではその特定がされていない点(以下、「相違点(6-1-2)」という。)で相違する。 (イ)相違点の検討 まず、相違点(6-1-1)について検討する。 甲1’発明において配合される酸味料は0.06質量%であるが、甲1には、配合された苦味物質の含有量及び配合された苦味物質の酸味料に対する含有量比は記載されていない。 甲1’発明においてビアテイスト飲料の原料には、ホップエキスパウダーとして「ホップエキスパウダーQ(日本粉末薬品社製)」0.1質量%が配合されているが、甲1には「ホップエキスパウダーQ」の成分等を示す記載はない。 記載事項(甲2-3)の表2の脚注には「4)ホップ:ホップエキスパウダーQ(日本粉末薬品社製)α酸+イソα酸2.0質量%」との記載があるものの、甲1と甲2の作成時期は異なっており、当業界において、天然物由来の製品は、同じ商標であっても、その原料の生産地及び生産時期等によって含有される成分の種類及び含有量等が異なることがあると認められることから、甲1に記載された「ホップエキスパウダーQ(日本粉末薬品社製)」が、記載事項(甲2-3)に記載された「ホップエキスパウダーQ(日本粉末薬品社製)」と、成分の種類及び量などの異ならない同一性を有するものである根拠を見出すことはできず、甲1’発明においてビアテイスト飲料に配合された「ホップエキスパウダーQ(日本粉末薬品社製)」が、α酸及びイソα酸を合計で2.0質量%含有するものとはいえない。 仮に、甲1に記載された「ホップエキスパウダーQ(日本粉末薬品社製)」が、記載事項(甲2-3)に記載された「ホップエキスパウダーQ(日本粉末薬品社製)」と、成分の種類及び含有量などの異ならない同一性を有するものであるとしても、記載事項(甲3-1)及び記載事項(甲3-2)に示されるように、ホップ由来苦味成分には、α酸及びイソα酸の他にも、β酸由来の苦味成分などが含有されており、しかも、その含有量は一定ではなく、その含有量の変動範囲も一定ではないことが技術常識である。 したがって、記載事項(甲2-3)の表2に示された実施例26の飲料における「ホップエキスパウダーQ(日本粉末薬品社製)」の配合量が、甲1発明における「ホップエキスパウダーQ(日本粉末薬品社製)」の配合量と等しく、かつ、記載事項(甲2-3)の表2に示された実施例26の飲料におけるα酸及びイソα酸の分析値又は測定値が0.0020質量%すなわち20ppmであるとの計算上の仮定をおいても、技術常識に照らして、甲1’発明において製造されたビアテイスト飲料における、α酸及びイソα酸並びにβ酸由来の苦味成分なども含めたすべての苦味物質の含有量の範囲が明らかであるとはいえない。 以上のとおり、甲1’発明において製造されたビアテイスト飲料におけるすべての苦味物質の含有量の範囲が、技術常識に照らしても明らかであるとはいえない以上、甲1’発明において配合される酸味料が0.06質量%であることによっても、苦味物質の酸味料に対する含有量比(苦味物質/クエン酸換算の酸味料)が0.017?0.040の範囲にあるとすることはできない。 したがって、甲1’発明が、相違点(6-1-1)に係る「苦味物質を酸味料に対して0.017?0.040の含有量比(苦味物質/クエン酸換算の酸味料)で配合する工程を含む」ものであるとすることはできず、相違点(6-1-1)は実質的な相違点である。 次に、相違点(6-1-2)について検討する。 甲1には、相違点(6-1-2)に係る「前記酸味料に由来する突出した酸味を抑制した……飲料」についての記載はない。 また、甲1’発明により製造されるビアテイスト飲料が、酸味料に由来する突出した酸味を抑制したものであることが、技術常識から明らかであるといえる根拠も見出さない。 したがって、甲1’発明が、相違点(6-1-2)に係る「前記酸味料に由来する突出した酸味を抑制した……飲料」の製造方法であるとすることはできず、相違点(6-1-2)は実質的な相違点である。 よって、 本件特許発明6は甲1’発明であるとすることはできない。 オ 小括 以上のとおり、異議申立人の主張する理由Aには、理由がない。 (2)理由Bについて ア 本件特許発明1について (ア)対比 本件特許発明1を甲4発明と対比する。 甲4発明に配合されるカラメルは、記載事項(甲4-4)からみて、着色目的で配合されているものであるので、本件特許明細書の発明の詳細な説明(段落0011)にいう「甘味物質として認識される物質」とはいえず、また、甲4発明におけるカラメルの配合量は0.3g/Lであって少量であるので、本件特許明細書の発明の詳細な説明(段落0011)にいう甘味物質を「実質的に含まない」に該当するといえる。 したがって、甲4発明は、甘味物質及びエタノールを含まないものといえ、また、甲4発明は、甲4の特許請求の範囲に対応した実施例7における試験区1?6に対する対照区に係るものではあるものの、記載事項(甲4-1)及び記載事項(甲4-2)に記載された「非発酵ビール風味飲料」に関するものと認められ、この「非発酵ビール風味飲料」は、本件特許発明1における「ビールテイスト飲料」と同義と認められるので、甲4発明は、本件特許発明1における「甘味物質を含まないノンアルコールビールテイスト飲料」に該当する。 甲4発明には、ホップが配合されていることから、当然、ホップに含有される苦味物質を含むものと認められるので、甲4発明は苦味物質を含むものと認められる。 甲4発明にはリン酸が配合されており、リン酸は、本件特許請求の範囲の請求項3及び本件特許明細書の段落0017の記載からみて、本件特許発明1における酸味料に該当するので、甲4発明は酸味料を含むものと認められる。 甲4発明には糖質を含むことの明らかなものは配合されておらず、また、カラメルが配合されてはいるものの、その配合量は0.3g/L、すなわち0.03g/100mLであって、仮にカラメルに糖質に該当するものが含まれているとしても、甲4発明における糖質の含有量は、本件特許発明1における「糖質が3.0g/100mL以下」に該当することは明らかである。 甲4発明のpHは3.5であり、本件特許発明1における「pHが3.8以下」に該当する。 したがって、本件特許発明1と甲4発明とは、 「甘味物質を含まないノンアルコールビールテイスト飲料であって、苦味物質及び酸味料を含み、糖質の含有量が3.0g/100mL以下であり、pHが3.8以下である、ノンアルコールビールテイスト飲料」である点で一致し、 本件特許発明1は、「前記苦味物質の含有量が5?20ppmであ」るとされる一方、甲1発明ではその特定がされていない点(以下、「相違点(1-4-1)」という。)、及び 本件特許発明1は、「前記酸味料に対する前記苦味物質の含有量比(苦味物質/クエン酸換算の酸味料)が0.017?0.040であ」るとされる一方、甲4発明では、苦味物質の酸味料に対する含有量比は特定されていない点(以下、「相違点(1-4-2)」という。)で相違する。 (イ)相違点の検討 まず、相違点(1-4-1)について検討する。 甲4発明について、記載事項(甲4-5)には「ホップはBarth-Haas Groupの「CO2 Hop Extract」(商品名)を用いて、最終イソα酸0.02g/Lになるように調整した。」と記載されているものの、記載事項(甲3-1)及び記載事項(甲3-2)に示されるように、ホップ由来苦味成分には、イソα酸の他にも、α酸、β酸由来の苦味成分などが含有されていることが技術常識であるから、甲4発明において、イソα酸の他に、α酸及びβ酸由来の苦味成分なども含めたすべての苦味物質の含有量は、20ppmを超えると認められ、5?20ppmの範囲にあるとは認められない。 記載事項(甲4-5)の[表18]には、甲4発明の評価は、「バランスの良さ」が△、「飲んだ後のキレの良さ」が○、「コメント」が「酸っぱい、苦味残る、水っぽい、バランス悪い、後半苦味」であるのに対して、甲4発明とリン酸及びホップの配合量が同じである試験区1の評価は、「バランスの良さ」が◎、「飲んだ後のキレの良さ」が◎、「コメント」が「バランス良い、キレ良い、調和、マイルド」であることが示されていることからも、甲4発明の苦味物質の含有量を5?20ppmに変更すれば高い評価の飲料が得られることが甲4に示されているとはいえず、また、ノンアルコールビールテイスト飲料の分野において、苦味物質の含有量を5?20ppmにすれば高い評価の飲料が得られることが技術常識であるといえる根拠は見出せないから、甲4発明において、苦味物質の含有量を変更して、相違点(1-4-1)に係る「前記苦味物質の含有量が5?20ppmであ」るものとする動機づけがあるとはいえない。 次に、相違点(1-4-2)について検討する。 甲4発明について、記載事項(甲4-5)には「ホップはBarth-Haas Groupの「CO2 Hop Extract」(商品名)を用いて、最終イソα酸0.02g/Lになるように調整した。」と記載されているものの、記載事項(甲3-1)及び記載事項(甲3-2)に示されるように、ホップ由来苦味成分には、イソα酸の他にも、α酸、β酸由来の苦味成分などが含有されており、しかも、α酸、β酸由来の苦味成分などの含有量は一定ではなく、その含有量の変動範囲も一定ではないことが技術常識であるといえるから、甲4発明において、イソα酸の他に、α酸及びβ酸由来の苦味成分なども含めたすべての苦味物質の含有量の範囲は、技術常識に照らしても明らかであるとはいえない。 甲4発明におけるリン酸の配合量は0.7g/Lであるが、上記のとおり、甲4発明において、イソα酸の他に、α酸及びβ酸由来の苦味成分なども含めたすべての苦味物質の含有量の範囲が、技術常識に照らしても明らかであるとはいえない以上、甲4発明におけるリン酸の配合量が0.7g/Lであることによっても、苦味物質の酸味料に対する含有量比(苦味物質/クエン酸換算の酸味料)が0.017?0.040の範囲にあるとすることはできない。 記載事項(甲4-5)の[表18]には、甲4発明の評価は、「バランスの良さ」が△、「飲んだ後のキレの良さ」が○、「コメント」が「酸っぱい、苦味残る、水っぽい、バランス悪い、後半苦味」であるのに対して、甲4発明とリン酸及びホップの配合量が同じである試験区1の評価は、「バランスの良さ」が◎、「飲んだ後のキレの良さ」が◎、「コメント」が「バランス良い、キレ良い、調和、マイルド」であることが示されていることからも、甲4発明の苦味物質の酸味料に対する含有量比(苦味物質/クエン酸換算の酸味料)を0.017?0.040に変更すれば高い評価の飲料が得られることが甲4又は甲1に示されているとはいえず、また、ノンアルコールビールテイスト飲料の分野において、苦味物質の酸味料に対する含有量比(苦味物質/クエン酸換算の酸味料)を0.017?0.040にすれば高い評価の飲料が得られることが技術常識であるといえる根拠は見出せないから、甲4発明において、酸味料に対する苦味物質の含有量比を変更して、相違点(1-4-2)に係る「前記酸味料に対する前記苦味物質の含有量比(苦味物質/クエン酸換算の酸味料)が0.017?0.040であ」るものとする動機づけがあるとはいえない。 したがって、本件特許発明1は、甲4発明及び甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に想到することができたものとすることはできない そして、本件特許発明1は、本件特許明細書に記載されるとおり、甘味物質を配合しない場合にみられる突出した酸味を抑制し、良好な風味を実現したノンアルコールビールテイスト飲料という、当業者の予想し得ない効果を奏するものである。 よって、本件特許発明1は、甲4発明及び甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 イ 本件特許発明2?4について 本件特許発明2?4は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて、その発明特定事項とする発明であり、さらに技術的限定を加えたものであるので、上記アに示したとおり、本件特許発明1が甲4発明及び甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない以上、本件特許発明2?4もまた、甲4発明及び甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 ウ 本件特許発明5について (ア)対比 本件特許発明5を甲4’発明と対比する。 甲4’発明における飲料に配合されるカラメルは、記載事項(甲4-4)からみて、着色目的で配合されているものであるので、本件特許明細書の発明の詳細な説明(段落0011)にいう「甘味物質として認識される物質」とはいえず、また、甲4発明におけるカラメルの配合量は0.3g/Lであって少量であるので、本件特許明細書の発明の詳細な説明(段落0011)にいう甘味物質を「実質的に含まない」に該当するといえる。 したがって、甲4’発明における飲料は、甘味物質及びエタノールを含まないものといえ、また、甲4’発明は、甲4の特許請求の範囲に対応した実施例7における試験区1?6に対する対照区に係るものではあるものの、記載事項(甲4-1)及び記載事項(甲4-2)に記載された「非発酵ビール風味飲料」に関するものと認められ、この「非発酵ビール風味飲料」は、本件特許発明5における「ビールテイスト飲料」と同義と認められるので、甲4’発明における飲料は、本件特許発明5における「甘味物質を含まないノンアルコールビールテイスト飲料」に該当する。 甲4’発明における飲料には、ホップが配合されていることから、当然、ホップに含有される苦味物質を含むものと認められるので、甲4’発明では苦味物質が配合されるものと認められる。 甲4’発明における飲料にはリン酸が配合されており、リン酸は、本件特許請求の範囲の請求項3及び本件特許明細書の段落0017の記載からみて、本件特許発明5における酸味料に該当するので、甲4’発明では酸味料が配合されるものと認められる。 したがって、本件特許発明5と甲4’発明とは、 調製されるものが「甘味物質を含まないノンアルコールビールテイスト飲料」である点で一致し、 本件特許発明5では、「苦味物質を酸味料に対して0.017?0.040の含有量比(苦味物質/クエン酸換算の酸味料)で配合する」とされる一方、甲4’発明では、配合される苦味物質の酸味料に対する含有量比は特定されていない点(以下、「相違点(5-4-1)」という。)、及び 本件特許発明5では、「前記酸味料に由来する突出した酸味を抑制する」とされる一方、甲4’発明ではその特定がされていない点(以下、「相違点(5-4-2)」という。)で相違する。 (イ)相違点の検討 まず、相違点(5-4-1)について検討する。 甲4には、配合された苦味物質の含有量及び配合された苦味物質の酸味料に対する含有量比は記載されていない。 甲4’発明について、記載事項(甲4-5)には「ホップはBarth-Haas Groupの「CO2 Hop Extract」(商品名)を用いて、最終イソα酸0.02g/Lになるように調整した。」と記載されているものの、記載事項(甲3-1)及び記載事項(甲3-2)に示されるように、ホップ由来苦味成分には、イソα酸の他にも、α酸、β酸由来の苦味成分などが含有されており、しかも、α酸、β酸由来の苦味成分などの含有量は一定ではなく、その含有量の変動範囲も一定ではないことが技術常識であるといえるから、甲4’発明において配合された、イソα酸の他に、α酸及びβ酸由来の苦味成分なども含めたすべての苦味物質の含有量の範囲は、技術常識に照らしても明らかであるとはいえない。 甲4’発明において配合されるリン酸の配合量は0.7g/Lであるが、上記のとおり、甲4’発明において配合されるすべての苦味物質の含有量の範囲が技術常識に照らしても明らかであるとはいえない以上、甲4’発明において配合されるリン酸の配合量が0.7g/Lであることによっても、配合される苦味物質の酸味料に対する含有量比(苦味物質/クエン酸換算の酸味料)が0.017?0.040の範囲にあるとすることはできない。 記載事項(甲4-5)の[表18]には、甲4発明の評価は、「バランスの良さ」が△、「飲んだ後のキレの良さ」が○、「コメント」が「酸っぱい、苦味残る、水っぽい、バランス悪い、後半苦味」であるのに対して、甲4発明とリン酸及びホップの配合量が同じである試験区1の評価は、「バランスの良さ」が◎、「飲んだ後のキレの良さ」が◎、「コメント」が「バランス良い、キレ良い、調和、マイルド」であることが示されていることからも、甲4’発明において配合される苦味物質の酸味料に対する含有量比(苦味物質/クエン酸換算の酸味料)を0.017?0.040に変更すれば高い評価の飲料が得られることが甲4又は甲1に示されているとはいえず、また、ノンアルコールビールテイスト飲料の分野において、配合される苦味物質の酸味料に対する含有量比(苦味物質/クエン酸換算の酸味料)を0.017?0.040にすれば高い評価の飲料が得られることが技術常識であるといえる根拠は見出せないから、甲4’発明において、配合される苦味物質の酸味料に対する含有量比を変更して、相違点(5-4-1)に係る「前記酸味料に対する前記苦味物質の含有量比(苦味物質/クエン酸換算の酸味料)が0.017?0.040であ」るものとする動機づけがあるとはいえない。 次に、相違点(5-4-2)について検討する。 甲4には、相違点(5-4-2)に係る「前記酸味料に由来する突出した酸味を抑制する」ことについての記載はない。 また、甲4’発明により調製される飲料は、酸味料に由来する突出した酸味の抑制されたものであることが、技術常識から明らかであるといえる根拠も見出さない。 したがって、甲4’発明が、甲4の記載及び技術常識に照らして、相違点(5-4-2)に係る「前記酸味料に由来する突出した酸味を抑制する」ものであるとすることはできず、相違点(5-4-2)は実質的な相違点であり、甲4’発明において、相違点(5-4-2)に係る「前記酸味料に由来する突出した酸味を抑制する」ことを特定事項として加えることを、当業者が容易に想到することができたものとすることはできない。 したがって、本件特許発明5は、甲4’発明及び甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に想到することができたものとすることはできない そして、本件特許発明5は、本件特許明細書に記載されるとおり、ノンアルコールビールテイスト飲料に甘味物質を配合しない場合にみられる突出した酸味を抑制するという、当業者の予想し得ない効果を奏するものである。 よって、本件特許発明5は、甲4’発明及び甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 エ 本件特許発明6について (ア)対比 本件特許発明6を甲4’発明と対比する。 甲4’発明における飲料に配合されるカラメルは、記載事項(甲4-4)からみて、着色目的で配合されているものであるので、本件特許明細書の発明の詳細な説明(段落0011)にいう「甘味物質として認識される物質」とはいえず、また、甲4発明におけるカラメルの配合量は0.3g/Lであって少量であるので、本件特許明細書の発明の詳細な説明(段落0011)にいう甘味物質を「実質的に含まない」に該当するといえる。 したがって、甲4’発明における飲料は、甘味物質及びエタノールを含まないものといえ、また、甲4’発明は、甲4の特許請求の範囲に対応した実施例7における試験区1?6に対する対照区に係るものではあるものの、記載事項(甲4-1)及び記載事項(甲4-2)に記載された「非発酵ビール風味飲料」に関するものと認められ、この「非発酵ビール風味飲料」は、本件特許発明6における「ビールテイスト飲料」と同義と認められるので、甲4’発明における飲料は、本件特許発明6における「甘味物質を含まないノンアルコールビールテイスト飲料」に該当する。 甲4’発明における飲料には、ホップが配合されていることから、当然、ホップに含有される苦味物質を含むものと認められるので、甲4’発明では苦味物質が配合されるものと認められる。 甲4’発明における飲料にはリン酸が配合されており、リン酸は、本件特許請求の範囲の請求項3及び本件特許明細書の段落0017の記載からみて、本件特許発明6における酸味料に該当するので、甲4’発明では酸味料が配合されるものと認められる。 したがって、本件特許発明6と甲4’発明とは、 製造されるものが「甘味物質を含まないノンアルコールビールテイスト飲料」である点で一致し、 本件特許発明6では、「苦味物質を酸味料に対して0.017?0.040の含有量比(苦味物質/クエン酸換算の酸味料)で配合する」とされる一方、甲4’発明では、配合される苦味物質の酸味料に対する含有量比は特定されていない点(以下、「相違点(6-4-1)」という。)、及び 本件特許発明6では、製造されるものについて「前記酸味料に由来する突出した酸味を抑制した」とされる一方、甲4’発明ではその特定がされていない点(以下、「相違点(6-4-2)」という。)で相違する。 (イ)相違点の検討 まず、相違点(6-4-1)について検討する。 甲4には、配合された苦味物質の含有量及び配合された苦味物質の酸味料に対する含有量比は記載されていない。 甲4’発明について、記載事項(甲4-5)には「ホップはBarth-Haas Groupの「CO2 Hop Extract」(商品名)を用いて、最終イソα酸0.02g/Lになるように調整した。」と記載されているものの、記載事項(甲3-1)及び記載事項(甲3-2)に示されるように、ホップ由来苦味成分には、イソα酸の他にも、α酸、β酸由来の苦味成分などが含有されており、しかも、α酸、β酸由来の苦味成分などの含有量は一定ではなく、その含有量の変動範囲も一定ではないことが技術常識であるといえるから、甲4’発明において配合された、イソα酸の他に、α酸及びβ酸由来の苦味成分なども含めたすべての苦味物質の含有量の範囲は、技術常識に照らしても明らかであるとはいえない。 甲4’発明において配合されるリン酸の配合量は0.7g/Lであるが、上記のとおり、甲4’発明において配合されるすべての苦味物質の含有量の範囲が技術常識に照らしても明らかであるとはいえない以上、甲4’発明において配合されるリン酸の配合量が0.7g/Lであることによっても、配合される苦味物質の酸味料に対する含有量比(苦味物質/クエン酸換算の酸味料)が0.017?0.040の範囲にあるとすることはできない。 記載事項(甲4-5)の[表18]には、甲4発明の評価は、「バランスの良さ」が△、「飲んだ後のキレの良さ」が○、「コメント」が「酸っぱい、苦味残る、水っぽい、バランス悪い、後半苦味」であるのに対して、甲4発明とリン酸及びホップの配合量が同じである試験区1の評価は、「バランスの良さ」が◎、「飲んだ後のキレの良さ」が◎、「コメント」が「バランス良い、キレ良い、調和、マイルド」であることが示されていることからも、甲4’発明において配合される苦味物質の酸味料に対する含有量比(苦味物質/クエン酸換算の酸味料)を0.017?0.040に変更すれば高い評価の飲料が得られることが甲4又は甲1に示されているとはいえず、また、ノンアルコールビールテイスト飲料の分野において、配合される苦味物質の酸味料に対する含有量比(苦味物質/クエン酸換算の酸味料)を0.017?0.040にすれば高い評価の飲料が得られることが技術常識であるといえる根拠は見出せないから、甲4’発明において、配合される苦味物質の酸味料に対する含有量比を変更して、相違点(6-4-1)に係る「前記酸味料に対する前記苦味物質の含有量比(苦味物質/クエン酸換算の酸味料)が0.017?0.040であ」るものとする動機づけがあるとはいえない。 次に、相違点(6-4-2)について検討する。 甲4には、相違点(6-4-2)に係る「前記酸味料に由来する突出した酸味を抑制した」ことについての記載はない。 また、甲4’発明により製造される飲料は、酸味料に由来する突出した酸味の抑制されたものであることが、技術常識から明らかであるといえる根拠も見出さない。 したがって、甲4’発明が、甲4の記載及び技術常識に照らして、相違点(6-4-2)に係る「前記酸味料に由来する突出した酸味を抑制した」ものであるとすることはできず、相違点(6-4-2)は実質的な相違点であり、甲4’発明において、相違点(6-4-2)に係る「前記酸味料に由来する突出した酸味を抑制した」ことを特定事項として加えることを、当業者が容易に想到することができたものとすることはできない。 したがって、本件特許発明6は、甲4’発明及び甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に想到することができたものとすることはできない。 そして、本件特許発明6は、本件特許明細書に記載されるとおり、甘味物質を配合しない場合にみられる突出した酸味を抑制したノンアルコールビールテイスト飲料を製造するという、当業者の予想し得ない効果を奏するものである。 よって、本件特許発明6は、甲4’発明及び甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 オ 小括 以上のとおり、異議申立人の主張する理由Bには、理由がない。 6 むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許発明1?6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許発明1?6に係る特許を取消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2021-03-26 |
出願番号 | 特願2015-247324(P2015-247324) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Y
(A23L)
P 1 651・ 121- Y (A23L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 藤井 美穂、布川 莉奈 |
特許庁審判長 |
瀬良 聡機 |
特許庁審判官 |
黒川 美陶 村上 騎見高 |
登録日 | 2020-04-22 |
登録番号 | 特許第6694707号(P6694707) |
権利者 | サントリーホールディングス株式会社 |
発明の名称 | ノンアルコールビールテイスト飲料 |
代理人 | 細田 芳徳 |