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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C03C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C03C
管理番号 1372756
異議申立番号 異議2020-700644  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-05-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-08-27 
確定日 2021-04-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第6728644号発明「ガラス材及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6728644号の請求項1?5に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6728644号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成27年11月17日(優先権主張 平成27年2月19日)に特許出願され、令和2年7月6日にその特許権の設定登録がされ、令和2年7月22日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1?5に係る特許に対して、令和2年8月27日に特許異議申立人安藤宏(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。

2 本件発明
本件特許の請求項1?5の特許に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」?「本件発明5」といい、まとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
モル%で、Tb_(2)O_(3) 25?48%(ただし25%は含まない)、SiO_(2) 0?45%(ただし45%を含まない)、B_(2)O_(3) 0?25%(ただし25%を含まない)、P_(2)O_(5) 1?50%、SiO_(2)+B_(2)O_(3)+P_(2)O_(5) 1?75%(ただし75%を含まない)、Ga_(2)O_(3) 0?6%を含有することを特徴とするガラス材。
【請求項2】
さらに、モル%で、Al_(2)O_(3) 0?70%を含有することを特徴とする請求項1に記載のガラス材。
【請求項3】
磁気光学素子として用いられることを特徴とする請求項1または2に記載のガラス材。
【請求項4】
ファラデー回転素子として用いられることを特徴とする請求項3に記載のガラス材。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか一項に記載のガラス材を製造するための方法であって、ガラス原料塊を浮遊させて保持した状態で、前記ガラス原料塊を加熱融解させて溶融ガラスを得た後に、前記溶融ガラスを冷却する工程を備えることを特徴とする、ガラス材の製造方法。」

3 申立理由の概要
申立人は、以下の甲第1号証?甲第6号証を提出し、本件発明1?5に係る特許は、以下の理由により、取り消すべきものである旨を主張する。

(1)申立理由1
甲第1号証の実施例17又は18のガラスを甲第1号証に記載された発明とした場合に、本件発明1?5は、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2号証?甲第6号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(2)申立理由2
本件発明の課題は、発明の詳細な説明の段落【0008】の記載からみて、従来よりも大きいファラデー効果を示すガラス材を提供することであるといえる。そして、発明の詳細な説明では、実施例1?7において、Tb_(2)O_(3)、SiO_(2)、B_(2)O_(3)、P_(2)O_(5)及びAl_(2)O_(3)のみから選択される所定の3成分、4成分又は5成分の系であるガラス材が、比較例1のガラス材に比べて良好なベルデ定数であったことが示されている。
しかしながら、大部分の割合が任意の成分で占められた態様を含む本件発明1を満たす全てのガラス材が、安定的に製造でき、且つ上記課題を解決できるか否かは、発明の詳細な説明で明らかにされていない。また、Ga_(2)O_(3)を0モル%超6モル%以下で含有する場合の本件発明1のガラス材が、安定的に製造でき、且つ上記課題を解決できるか否かも、発明の詳細な説明で明らかにされていない。
したがって、本件発明1及びこれを引用する本件発明2?5は、発明の詳細な説明において、当業者が発明の課題を解決することを認識できるように記載された範囲を超えるものといえる。
よって、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(証拠方法)
甲第1号証 特開平10-297933号公報
甲第2号証 特公昭51-46524号公報
甲第3号証 特公平1-35322号公報
甲第4号証 特公平4-24301号公報
甲第5号証 特開2012-17254号公報
甲第6号証 特開2014-196236号公報

4 甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明について
(1)甲第1号証の記載事項
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 モル%でTb_(2)O_(3)が25?50%、SiO_(2)が5?40%、B_(2)O_(3)が5?45%、Ga_(2)O_(3)が5?35%、さらにP_(2)O_(5)が0?7%、GeO_(2)が0?20%、またMgO、CaO、SrOおよびBaOがそれぞれ0?6%で、(MgO+CaO+SrO+BaO)が0?6%、La_(2)O_(3)が0?6%、Gd_(2)O_(3)が0?6%、Yb_(2)O_(3)が0?6%、Dy_(2)O_(3)が0?15%、〔Tb_(2)O_(3)+La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3)+Dy_(2)O_(3)〕が25?60%およびZrO_(2)が0?8%からなる組成のファラデー回転素子用ガラス。」

イ 「【0004】
【発明が解決しようとする課題】大きなベルデ定数を持たせるためにはより多くのテルビウム原子をガラス中に導入しなければならない。例えば、特公昭51-46524号公報においては、Tb_(2)O_(3)が10?30モル%のガラス組成物が開示されている。しかし、さらに高濃度のTb_(2)O_(3)を含む安定なガラスについては十分な情報がない。Tb_(2)O_(3)の含有量が多ければ多いほどガラス形成能が低下し、製造上十分安定に得られるガラス組成物はほとんど存在していない。本発明の目的はより高濃度のTb_(2)O_(3)を含む実用上十分に安定なガラス組成物を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】SiO_(2)-B_(2)O_(3)を基礎とするガラスは一般的なガラス、たとえば理化学用ガラスや光学ガラスにおいて使用され、あらゆる点において信頼性が高い。そこで本発明者らはSiO_(2)-B_(2)O_(3)系において、よりTb_(2)O_(3)含有量の多いガラス組成系を探索することがもっと適切であると判断して鋭意研究した結果、Ga_(2)O_(3)の使用が予想外の効果を奏することを発見して本発明に到達した。

ウ 「【0008】ここで、Tb_(2)O_(3)は25%よりも少ないと十分なベルデ定数が得られない。50%を超えるとガラス化が困難になる。好ましい範囲は30?45%である。SiO_(2)は5%よりも少ないとガラス化が困難で、40%を超えると溶融温度が高くなり、作業が困難になる。好ましくは10?35%の範囲である。B_(2)O_(3)は5%よりも少ないと溶融温度が高くなり、結果としてガラス化が困難になる。45%を超えるとガラスとしての安定性が低下する。好ましい範囲は10?40%である。Ga_(2)O_(3)は5%よりも少ないとガラス形成能にほとんど寄与しない。35%を超えると溶融温度が高くなり好ましくない。好ましくは7?30%の範囲である。また、P_(2)O_(5)をこのガラス系に導入するとガラス形成能力はより高められる。しかし、7%を超えるとガラス化が困難になる。より好ましくは1?7%の範囲である。GeO_(2)も同様にガラスの形成能力を高める働きをするが、20%を超えるとガラスが得られない。より好ましいのは1?20%の範囲で使用することである。」

エ 「【0013】
【実施例】以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)表1に示した実施例1の組成物を通常の方法でガラス化した。すなわち、それぞれの原料化合物として、SiO_(2)、H_(3)BO_(3)、Ga_(2)O_(3)、Tb_(4)O_(7)をガラス重量100gとなるように所定の割合で秤量し、それらを混合後、白金製るつぼを用い、1450℃の電気炉中で約2時間溶融した。溶融中に適時かくはんを行い、融液を均質化した。その後、鋳型に流し込んで成形し、さらに650℃の電気炉中でアニールしてガラスを得た。ここでSb_(2)O_(3)を還元剤として0.5重量%添加した。得られたガラスの安定性を確認するために示差熱分析による結晶化温度の測定を行った。また、ベルデ定数の測定も行った。その結果を表2に示した。
【0014】
【表1】

【0015】
【表2】

・・・
【0017】(実施例2?21)表1に示した実施例2?21までのガラスを実施例1と同様の方法にて作成した。得られたガラスは示差熱分析によって結晶化度を測定し、実施例1と同様にガラスの安定性を確認した。実施例2及び3で得られたガラスについてはベルデ定数を測定した。その結果を表2に示した。」

(2)甲第1号証に記載された発明について
上記(1)ア及びエの記載事項を、実施例17のガラスに注目して整理すると、甲第1号証には、
「モル%でTb_(2)O_(3)が35%、SiO_(2)が15%、B_(2)O_(3)が18%、Ga_(2)O_(3)が7%、P_(2)O_(5)が5%、GeO_(2)が15%、Gd_(2)O_(3)が5%からなる組成のファラデー回転素子用ガラス。」
の発明(以下、「甲1発明A」という。)が記載されているといえる。
また、上記(1)ア及びエの記載事項を、実施例18のガラスに注目して整理すると、甲第1号証には、
「モル%でTb_(2)O_(3)が45%、SiO_(2)が10%、B_(2)O_(3)が18%、Ga_(2)O_(3)が7%、P_(2)O_(5)が5%、GeO_(2)が15%からなる組成のファラデー回転素子用ガラス。」
の発明(以下、「甲1発明B」という。)が記載されているといえる。

5 申立理由1に対する判断
(1)本件発明1について
ア 甲1発明Aとの対比・判断
(ア)本件発明1と甲1発明Aとの対比
甲1発明Aの「ファラデー回転素子用ガラス」は、本件発明1の「ガラス材」に相当する。
また、甲1発明Aの「モル%でTb_(2)O_(3)が35%、SiO_(2)が15%、B_(2)O_(3)が18%、Ga_(2)O_(3)が7%、P_(2)O_(5)が5%、GeO_(2)が15%、Gd_(2)O_(3)が5%からなる組成」は、Tb_(2)O_(3)含有量、SiO_(2)含有量、B_(2)O_(3)含有量、及び、P_(2)O_(5)の含有量について、本件発明1の「モル%で、Tb_(2)O_(3) 25?48%(ただし25%は含まない)、SiO_(2) 0?45%(ただし45%を含まない)、B_(2)O_(3) 0?25%(ただし25%を含まない)、P_(2)O_(5) 1?50%」「を含有する」という規定を満足する。
さらに、甲1発明Aの上記組成から「SiO_(2)+B_(2)O_(3)+P_(2)O_(5)」を算出すると、38%(=15%+18%+5%)になるから、甲1発明Aの上記組成は、本件発明1の「SiO_(2)+B_(2)O_(3)+P_(2)O_(5) 1?75%(ただし75%を含まない)」「を含有する」という規定を満足する。
したがって、本件発明1と甲1発明Aとは、
「モル%で、Tb_(2)O_(3) 25?48%(ただし25%は含まない)、SiO_(2) 0?45%(ただし45%を含まない)、B_(2)O_(3) 0?25%(ただし25%を含まない)、P_(2)O_(5) 1?50%、SiO_(2)+B_(2)O_(3)+P_(2)O_(5) 1?75%(ただし75%を含まない)を含有するガラス材。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点1>
本件発明1のGa_(2)O_(3)含有量は「0?6モル%」であるのに対して、甲1発明AのGa_(2)O_(3)含有量は「7モル%」である点。

(イ)相違点の検討
甲第1号証には、上記4(1)イによれば、ガラス中のTb_(2)O_(3)含有量を多くしてベルデ定数を大きくする際のガラス形成能の低下を防止するために、Ga_(2)O_(3)含有量に着目したことが記載されている。
加えて、甲第1号証には、上記4(1)ウによれば、Ga_(2)O_(3)がガラス形成能に寄与する成分であることや、Ga_(2)O_(3)含有量の好ましい範囲が7?30モル%であること、さらに、上記4(1)エによれば、実施例として、Ga_(2)O_(3)含有量が7モル%以上としたガラスのみが記載されている。
これら記載事項を併せ考えると、甲第1号証には、Tb_(2)O_(3)によるガラス形成能の低下を防止するために、Ga_(2)O_(3)含有量を7?30モル%の範囲内で調整することが示されているといえ、当該含有量を7モル%未満とする動機付けがあるとはいえないから、甲第2号証?甲第6号証に記載された技術的事項を参酌したとしても、甲1発明Aにおいて、Ga_(2)O_(3)含有量を0?6モル%とすることは、当業者といえども容易に想到し得たことではない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明(甲1発明A)、及び、甲第2号証?甲第6号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

イ 甲1発明Bとの対比・判断
(ア)本件発明1と甲1発明Bとの対比
甲1発明Bの「ファラデー回転素子用ガラス」は、本件発明1の「ガラス材」に相当する。
また、甲1発明Bの「モル%でTb_(2)O_(3)が45%、SiO_(2)が10%、B_(2)O_(3)が18%、Ga_(2)O_(3)が7%、P_(2)O_(5)が5%、GeO_(2)が15%からなる組成」は、Tb_(2)O_(3)含有量、SiO_(2)含有量、B_(2)O_(3)含有量、及び、P_(2)O_(5)の含有量について、本件発明1の「モル%で、Tb_(2)O_(3) 25?48%(ただし25%は含まない)、SiO_(2) 0?45%(ただし45%を含まない)、B_(2)O_(3) 0?25%(ただし25%を含まない)、P_(2)O_(5) 1?50%」「を含有する」という規定を満足する。
さらに、甲1発明Bの上記組成から「SiO_(2)+B_(2)O_(3)+P_(2)O_(5)」を算出すると、33%(=10%+18%+5%)になるから、甲1発明Bの上記組成は、本件発明1の「SiO_(2)+B_(2)O_(3)+P_(2)O_(5) 1?75%(ただし75%を含まない)」「を含有する」という規定を満足する。
したがって、本件発明1と甲1発明Bとは、
「モル%で、Tb_(2)O_(3) 25?48%(ただし25%は含まない)、SiO_(2) 0?45%(ただし45%を含まない)、B_(2)O_(3) 0?25%(ただし25%を含まない)、P_(2)O_(5) 1?50%、SiO_(2)+B_(2)O_(3)+P_(2)O_(5) 1?75%(ただし75%を含まない)を含有するガラス材。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点2>
本件発明1のGa_(2)O_(3)含有量は「0?6モル%」であるのに対して、甲1発明BのGa_(2)O_(3)含有量は「7モル%」である点。

(イ)相違点の検討
上記相違点2は、上記ア(イ)において検討した相違点1と同じ事項であるから、当該相違点1の検討と同様、甲1発明Bにおいて、Ga_(2)O_(3)含有量を0?6モル%とすることは、当業者といえども容易に想到し得たことではない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明(甲1発明B)、及び、甲第2号証?甲第6号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(2)本件発明2?5について
本件発明2?5は、本件発明1を引用するものであって、本件発明1の特定事項の全てを含むものであるから、上記(1)に示した理由と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2号証?甲第6号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(3)小括
以上で検討したとおりであるから、申立理由1に理由はない。

6 申立理由2に対する判断
(1)サポート要件の判断手法について
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるから、以下、この観点に立って検討する。

(2)サポート要件適合性の判断
発明の詳細な説明の段落【0002】?【0008】の記載からみて、本件発明の課題は、従来よりも大きいファラデー効果を示すガラス材を提供することといえる。
そして、発明の詳細な説明の実施例1?7には、無容器浮遊法によって作製された、Tb_(2)O_(3)、SiO_(2)、B_(2)O_(3)、P_(2)O_(5)及びAl_(2)O_(3)のみから選択される所定の3成分、4成分又は5成分の系であって、Tb_(2)O_(3)含有量が33モル%(実施例2)?48モル%(実施例1)の範囲にあるガラス材が具体的に記載され、さらに、当該実施例1?7のガラス材が、比較例1のTb_(2)O_(3)含有量が20モル%であるガラス材に比べて良好なベルデ定数であったことも具体的に記載されているから、上記実施例1?7に記載されたガラス組成の範囲であれば、当業者において、ガラス材を安定的に製造でき、本件発明の課題を解決できると認識できる。
次に、本件発明1のガラス組成の数値範囲の限定理由についてみてみると、発明の詳細な説明には、ファラデー効果に関して、Tb_(2)O_(3)は、ベルデ定数の絶対値を大きくしてファラデー効果を高める成分であり、当該効果を高めるために、Tb_(2)O_(3)含有量を25モル%超とすること(段落【0020】)、並びに、SiO_(2)、B_(2)O_(3)、P_(2)O_(5)及びGa_(2)O_(3)は、ベルデ定数の向上に寄与しない成分であり、これらの含有量が多すぎると十分なファラデー効果が得られにくくなるため、SiO_(2)含有量を45モル%未満、B_(2)O_(3)含有量を25モル%未満、P_(2)O_(5)含有量を50モル%以下、Ga_(2)O_(3)含有量を6モル%以下とすること(段落【0023】?【0025】、【0033】)が記載されている。そして、発明の詳細な説明には、ベルデ定数の絶対値を小さくする成分については記載されていないし、そのような技術常識が存在する証拠もないから、当業者において、これら数値範囲を満たすガラス組成であれば、ガラスのファラデー効果が向上することを理解できる。
また、発明の詳細な説明には、ガラス形成能に関して、ガラス化困難な組成であっても容易にガラス化することが可能となる無容器浮遊法を用いてガラス材を作製すること(段落【0010】、【0016】)を前提として、Tb_(2)O_(3)の含有量が多すぎると、ガラス化が困難になる傾向があるため、その上限値を48モル%以下とすること(段落【0020】)、SiO_(2)及びP_(2)O_(5)は、ガラス骨格となり、ガラス化範囲を広げる成分であって、SiO_(2)含有量を0モル%以上、P_(2)O_(5)含有量を1モル%以上とすること(段落【0023】、【0025】)、並びに、B_(2)O_(3)及びGa_(2)O_(3)は、ガラス形成能を高める成分であって、B_(2)O_(3)含有量を0モル%以上、Ga_(2)O_(3)含有量を0モル%以上とすること(段落【0024】、【0033】)が記載されている。また、ガラス骨格成分を含まないガラス組成であっても、無容器浮遊法によってガラス化できることは、本件特許に係る出願時の技術常識(例えば、NEW GLASS, 2009, Vol.24, No.4, p.34-44を参照)といえるから、当業者において、これら数値範囲を満たすガラス組成であれば、無容器浮遊法を用いて、ガラス材を安定的に製造できることも理解できる。
そして、ガラス成分の上記数値範囲は、ガラス材が安定的に製造でき、良好なベルデ定数であることが確認されている実施例1?7の記載から当業者が認識できる範囲のものといえる。
これに対して、本件発明1では、「モル%で、Tb_(2)O_(3) 25?48%(ただし25%は含まない)、SiO_(2) 0?45%(ただし45%を含まない)、B_(2)O_(3) 0?25%(ただし25%を含まない)、P_(2)O_(5) 1?50%、SiO_(2)+B_(2)O_(3)+P_(2)O_(5) 1?75%(ただし75%を含まない)、Ga_(2)O_(3) 0?6%を含有する」とのガラス組成と、ガラス化したことを示す「ガラス材」であることが特定されているから、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載及び技術常識により、当業者において、ガラス材が安定的に製造でき、本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
また、本件発明1を引用する本件発明2?5についても、同様の理由により、当業者において、ガラス材が安定的に製造でき、本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。

(3)申立人の主張について
申立人は、上記3(2)のとおり、本件発明1に包含される、大部分の割合が任意の成分で占められたガラス材やGa_(2)O_(3)を0モル%超6モル%以下で含有ガラス材では、ガラス材を安定的に製造でき、且つ、本件発明の課題を解決できるか否かが明らかでない旨を主張している。
しかしながら、本件発明1のガラス組成であれば、当該ガラス組成の大部分の割合が任意の成分であっても、ガラス材を安定的に製造でき、本件発明の課題を解決できることは、上記(2)で検討したとおりである。
また、Ga_(2)O_(3)は、上記(2)で検討したとおり、ガラス形成能を高め、ベルデ定数の向上に寄与しない成分であるため、その含有量が0モル%超6モル%以下であっても、Ga_(2)O_(3)を含有しない実施例と同様に、ガラス材を安定的に製造でき、本件発明の課題を解決できると、当業者であれば認識できる範囲のものである。
よって、申立人の上記主張は採用できない。

(4)小括
以上で検討したとおりであるから、申立理由2に理由はない。

7 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-03-30 
出願番号 特願2015-224405(P2015-224405)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C03C)
P 1 651・ 537- Y (C03C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 有田 恭子  
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 宮澤 尚之
金 公彦
登録日 2020-07-06 
登録番号 特許第6728644号(P6728644)
権利者 日本電気硝子株式会社
発明の名称 ガラス材及びその製造方法  

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