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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  H02K
管理番号 1372757
異議申立番号 異議2020-700969  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-05-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-12-10 
確定日 2021-04-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第6707860号発明「回転電機およびその製造方法」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6707860号の請求項1,5,7,8,14?16に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯の概略
特許第6707860号の請求項1,5,7,8,14?16に係る特許(以下「本件特許」という。)についての手続の経緯は,概ね,次のとおりである。すなわち,平成27月12月25日に出願され(特願2015-255437号),令和2年5月25日に特許権の設定登録がされ,令和2年6月10日に特許掲載公報が発行されたところ,これに対し,令和2年12月10日に特許異議申立人久門享より,特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1,5,7,8,14?16に係る発明(以下,本件特許に係る発明を請求項の番号に従って,「本件発明1」などという。)は,特許請求の範囲の請求項1,5,7,8,14?16に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。
【請求項1】
複数のスロットが形成されている固定子鉄心と,
前記複数のスロットのうちの一対のスロット間で巻装されており,前記一対のスロットに収容される一対のコイルサイドと前記一対のコイルサイドと一体に形成され前記一対のコイルサイドの同一側端部をそれぞれ接続する一対のコイルエンドとを有する単位コイルを複数含む固定子コイルと,
を備える固定子と,
前記固定子に対して移動可能に支持されている可動子鉄心と,
前記可動子鉄心に設けられている少なくとも一対の可動子磁極と,
を備える可動子と,
を具備する毎極毎相スロット数の小数点以下が0.5となる分数スロット構成の回転電機であって,
前記固定子コイルに含まれる前記複数の単位コイルは,
一つの前記単位コイルまたは前記一対のコイルサイド間のコイルピッチが異なる複数の前記単位コイルを備え,前記一つまたは複数の単位コイルが同心状に巻装され電気的に直列接続されている第一極コイルと,
一つの前記単位コイルまたは前記一対のコイルサイド間のコイルピッチが異なる複数の前記単位コイルを備え,前記一つまたは複数の単位コイルが同心状に巻装され電気的に直列接続されており,前記第一極コイルが前記一対の可動子磁極のうちの一方の極性の可動子磁極に対向するときに当該一対の可動子磁極のうちの他方の極性の可動子磁極に対向する第二極コイルと,
に,前記一対の可動子磁極に対向するスロット単位で振り分けられており,
前記一対の可動子磁極に対向する隣接する前記第一極コイルおよび前記第二極コイルは,電気的に直列接続されて極対コイルが構成されており,前記固定子コイルは,一つの前記極対コイル,または,直列接続および並列接続のうちの少なくとも一方により電気的に接続されている複数の前記極対コイルを有する相コイルを複数備え,
前記複数の相コイルを構成する各前記極対コイルは,前記複数のスロットの占有状態に関して,一の前記単位コイルの前記一対のコイルサイドが前記一対のスロットに収容されたときに当該一対のコイルサイドが当該一対のスロットの全体を占有するフルコイルと,
一の前記単位コイルの前記一対のコイルサイドが前記一対のスロットに収容されたときに当該一対のコイルサイドのうちの一方のコイルサイドが当該一対のスロットのうちの一方のスロットの半分を占有し当該一対のコイルサイドのうちの他方のコイルサイドが当該一対のスロットのうちの他方のスロットの半分を占有するハーフコイルと,
の二種類の前記単位コイルを備え,
各前記極対コイルは,当該極対コイルを構成する前記複数の単位コイルの前記一対のコイルサイド間のコイルピッチがそれぞれ異なり,一つの前記ハーフコイルを備え,
各前記極対コイルは,巻始め側の前記第一極コイルから巻終り側の前記第二極コイルへ引き回す極コイル間接続部を介して連続して巻進められて前記第一極コイルを構成する前記一つまたは複数の単位コイルおよび前記第二極コイルを構成する前記一つまたは複数の単位コイルが直列接続されており,
各前記極対コイルは,前記第一極コイルを構成する一の前記単位コイルであって巻始めの前記単位コイルの一の前記コイルサイドから引き出される第一コイル引出部と,前記第二極コイルを構成する一の前記単位コイルであって巻終りの前記単位コイルの一の前記コイルサイドから引き出される第二コイル引出部とからなる一対のコイル引出部を備え,
各前記相コイルは,各前記一対のコイル引出部を介して,当該相コイルを構成する前記一つまたは複数の極対コイルが電気的に接続されており,
前記スロットの深さ方向を第二方向とし,前記第二方向のうちのスロット開口部側からスロット底部側に向かう方向を第二方向スロット底部側とするとき,
各前記極対コイルを構成する前記複数の単位コイルの各巻進行方向は,いずれも前記第二方向スロット底部側である回転電機。
【請求項5】
各前記極対コイルは,前記第二極コイルに前記ハーフコイルを備え,
前記固定子に対する前記可動子の移動方向を第一方向とし,前記第一方向のうちの前記第二極コイル側から前記第一極コイル側に向かう方向を第一方向第一極コイル側とするとき,
前記第一コイル引出部は,前記第一極コイルを構成する前記一つまたは複数の単位コイルのうちの前記一対のコイルサイド間のコイルピッチが最小の前記単位コイルの前記第一方向第一極コイル側の前記コイルサイドから引き出され,
前記第二コイル引出部は,前記第二極コイルを構成する前記一つまたは複数の単位コイルのうちの前記一対のコイルサイド間のコイルピッチが最小の前記単位コイルの前記第一方向第一極コイル側の前記コイルサイドから引き出されている請求項1?請求項4のいずれか一項に記載の回転電機。
【請求項7】
前記毎極毎相スロット数は,1.5であり,
各前記極対コイルは,前記第一極コイルに前記ハーフコイルを備え,
前記固定子に対する前記可動子の移動方向を第一方向とし,前記第一方向のうちの前記第二極コイル側から前記第一極コイル側に向かう方向を第一方向第一極コイル側とするとき,
前記第一コイル引出部は,前記第一極コイルを構成する前記ハーフコイルの前記第一方向第一極コイル側の前記コイルサイドから引き出され,
前記第二コイル引出部は,前記第二極コイルを構成する一つの前記フルコイルの前記第一方向第一極コイル側の前記コイルサイドから引き出されている請求項1?請求項4のいずれか一項に記載の回転電機。
【請求項8】
複数のスロットが形成されている固定子鉄心と,
前記複数のスロットのうちの一対のスロット間で巻装されており,前記一対のスロットに収容される一対のコイルサイドと前記一対のコイルサイドと一体に形成され前記一対のコイルサイドの同一側端部をそれぞれ接続する一対のコイルエンドとを有する単位コイルを複数含む固定子コイルと,
を備える固定子と,
前記固定子に対して移動可能に支持されている可動子鉄心と,
前記可動子鉄心に設けられている少なくとも一対の可動子磁極と,
を備える可動子と,
を具備する毎極毎相スロット数の小数点以下が0.5となる分数スロット構成の回転電機であって,
前記固定子コイルに含まれる前記複数の単位コイルは,
一つの前記単位コイルまたは前記一対のコイルサイド間のコイルピッチが異なる複数の前記単位コイルを備え,前記一つまたは複数の単位コイルが同心状に巻装され電気的に直列接続されている第一極コイルと,
一つの前記単位コイルまたは前記一対のコイルサイド間のコイルピッチが異なる複数の前記単位コイルを備え,前記一つまたは複数の単位コイルが同心状に巻装され電気的に直列接続されており,前記第一極コイルが前記一対の可動子磁極のうちの一方の極性の可動子磁極に対向するときに当該一対の可動子磁極のうちの他方の極性の可動子磁極に対向する第二極コイルと,
に,前記一対の可動子磁極に対向するスロット単位で振り分けられており,
前記一対の可動子磁極に対向する隣接する前記第一極コイルおよび前記第二極コイルは,電気的に直列接続されて極対コイルが構成されており,前記固定子コイルは,一つの前記極対コイル,または,直列接続および並列接続のうちの少なくとも一方により電気的に接続されている複数の前記極対コイルを有する相コイルを複数備え,
前記複数の相コイルを構成する各前記極対コイルは,前記複数のスロットの占有状態に関して,一の前記単位コイルの前記一対のコイルサイドが前記一対のスロットに収容されたときに当該一対のコイルサイドが当該一対のスロットの全体を占有するフルコイルと,
一の前記単位コイルの前記一対のコイルサイドが前記一対のスロットに収容されたときに当該一対のコイルサイドのうちの一方のコイルサイドが当該一対のスロットのうちの一方のスロットの半分を占有し当該一対のコイルサイドのうちの他方のコイルサイドが当該一対のスロットのうちの他方のスロットの半分を占有するハーフコイルと,
の二種類の前記単位コイルを備え,
各前記極対コイルは,当該極対コイルを構成する前記複数の単位コイルの前記一対のコイルサイド間のコイルピッチがそれぞれ異なり,一つの前記ハーフコイルを備え,
各前記極対コイルは,巻始め側の前記第一極コイルから巻終り側の前記第二極コイルへ引き回す極コイル間接続部を介して連続して巻進められて前記第一極コイルを構成する前記一つまたは複数の単位コイルおよび前記第二極コイルを構成する前記一つまたは複数の単位コイルが直列接続されており,
各前記極対コイルは,前記第一極コイルを構成する一の前記単位コイルであって巻始めの前記単位コイルの一の前記コイルサイドから引き出される第一コイル引出部と,前記第二極コイルを構成する一の前記単位コイルであって巻終りの前記単位コイルの一の前記コイルサイドから引き出される第二コイル引出部とからなる一対のコイル引出部を備え,
各前記相コイルは,各前記一対のコイル引出部を介して,当該相コイルを構成する前記一つまたは複数の極対コイルが電気的に接続されており,
前記スロットの深さ方向を第二方向とし,前記第二方向のうちのスロット底部側からスロット開口部側に向かう方向を第二方向スロット開口部側とするとき,
各前記極対コイルを構成する前記複数の単位コイルの各巻進行方向は,いずれも前記第二方向スロット開口部側である回転電機。
【請求項14】
前記毎極毎相スロット数は,1.5であり,
各前記極対コイルは,前記第二極コイルに前記ハーフコイルを備え,
前記固定子に対する前記可動子の移動方向を第一方向とし,前記第一方向のうちの前記第一極コイル側から前記第二極コイル側に向かう方向を第一方向第二極コイル側とするとき,
前記第一コイル引出部は,前記第一極コイルを構成する一つの前記フルコイルの前記第一方向第二極コイル側の前記コイルサイドから引き出され,
前記第二コイル引出部は,前記第二極コイルを構成する前記ハーフコイルの前記第一方向第二極コイル側の前記コイルサイドから引き出されている請求項8?請求項11のいずれか一項に記載の回転電機。
【請求項15】
前記ハーフコイルの前記一対のコイルサイドのうちの一方のコイルサイドであって前記スロット底部側に配設される前記コイルサイドが占有するスロットの半分に相当する部位を第一ハーフスロット部位とし,当該一対のコイルサイドのうちの他方のコイルサイドであって前記スロット開口部側に配設される前記コイルサイドが占有するスロットの半分に相当する部位を第二ハーフスロット部位とし,前記第一ハーフスロット部位および前記第二ハーフスロット部位の両方を備える前記ハーフコイルを両側占有ハーフコイルとし,
各前記極対コイルを構成する前記複数の単位コイル間をそれぞれ接続する各渡り線の一端側の端部であって前記スロット底部側に配設される端部を第一渡り線端部とし,当該渡り線の他端側の端部であって前記スロット開口部側に配設される端部を第二渡り線端部とするとき,
前記両側占有ハーフコイルの前記第一ハーフスロット部位内の一点を始点とし前記第二ハーフスロット部位内の一点を終点とする第一ベクトルと,各前記渡り線の前記第一渡り線端部を始点とし前記第二渡り線端部を終点とする第二ベクトルとのなす角が,いずれも機械角90°より小さい鋭角である請求項5?請求項7,請求項12?請求項14のうちのいずれか一項に記載の回転電機。
【請求項16】
請求項5?請求項7のいずれか一項に従属する請求項15に記載の回転電機の製造方法であって,
前記第一方向のうちの前記第一極コイル側から前記第二極コイル側に向かう方向を第一方向第二極コイル側とし,前記複数の相コイルを前記第一方向第二極コイル側に順に位相が遅れるように相順に配設するときに,
前記複数の相コイルのうちの一の前記相コイルを前記複数のスロットに装着する第一装着工程と,
前記複数の相コイルのうちの残りの一の前記相コイルであって前記第一装着工程で装着された前記相コイルと比べて,電気角360°を相数で除した相間最小位相差分,位相が進む前記相コイルを,前記第一装着工程で装着された前記相コイルに対して,前記相間最小位相差分,前記第一方向第一極コイル側にずらして,前記複数のスロットに装着する第二進相装着工程と,
前記複数の相コイルがすべて前記複数のスロットに装着されるまで,直近で装着した前記相コイルと比べて前記相間最小位相差分,位相が進む前記相コイルを,直近で装着した前記相コイルに対して,前記相間最小位相差分,前記第一方向第一極コイル側にずらして,前記複数のスロットに装着する第三進相装着工程と,
を備える回転電機の製造方法。

第3 特許異議申立ての理由の概要
特許異議申立人は,甲第1号証?甲第5号証(以下,証拠の番号に従って「甲1」などという。)を提出し,請求項1,5,7,8,14?16に係る特許は,下記の理由により取り消すべき旨主張している。
1 本件発明1,5は,甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
2 本件発明7は,甲1に記載された発明及び甲2,4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
3 本件発明8は,甲1に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
4 本件発明14は,甲1に記載された発明及び甲3,4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
5 本件発明15は,甲1に記載された発明及び甲2,5に記載された事項に基いて,甲1に記載された発明及び甲2,4,5に記載された事項に基いて,又は,甲1に記載された発明及び甲3,4,5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
6 本件発明16は,甲1に記載された発明及び甲2,5に記載された事項に基いて,又は,甲1に記載された発明及び甲2,4,5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(証拠方法)
甲1:特開昭59-86445号公報
甲2:特開2010-246243号公報
甲3:特開2005-224052号公報
甲4:特開昭56-125943号公報
甲5:特開2002-345191号公報

第4 特許異議申立ての理由についての判断
1 甲1について
(1) 甲1に記載された事項
甲1には以下の事項が記載されている(下線は当審にて付与した。)。
・「〔発明の技術的背景〕
三相交流回転電機では電機子鉄心の周上に沿って複数のスロットを設け,これに電機子巻線を巻装している。」(2頁左上欄5?8行)
・「さらに,電機子巻線の巻き方には,分数スロット巻と整数スロット巻がある。すなわち,毎極毎相のスロット数qがq=m+b/c(但し,b/cは既約分数)で表わされる場合が分数スロット巻であり,一方,q=mで表わされる場合が整数スロット巻である。」(2頁左上欄19行?右上欄4行)
・「本発明は,上記のb/c=1/2の場合に関し,具体的には,30スロット4極,42スロット4極,45スロット6極,60スロット8極,90スロットl2極,63スロット6極等の三相電機子巻線に関する。
このような単層鎖巻でかつ分数スロット巻の三相電械子巻線の一例を図面を用いて説明する。すなわち,第1図は,45スロット6極の三相電機子巻線の展開接続図であり,この場合,毎極毎相のスロット数qはq=2+1/2(n=1)となる。U,V,Wの3相のうちたとえばU相について着目すると,1個(n=1)のコイルで形成される第1のコイル群(例えばコイルU_(1))と2個のコイルを同心的に連続巻きした第2のコイル群(例えばコイルU_(2),U_(3))とを交互に隣接して電機子鉄心の周上に連続配置している。そして各コイルを図示するように配列順(U_(1),U_(2),U_(3),U_(4),…U_(9))に直列接続し,外部への引出し線をコイルU_(1)の巻き始め位置に接続している。
他のV相,W相も上記と同様な構成である。ただし,V相の外部への引出線を上記U相のコイルU_(1)より電気角で480°位相が離れたコイルに接続し,このコイルをV_(1)と設定している。なお,ここで言う電気角とは1磁極ピッチ(360°/極数)を180°として表わした角度であり,たとえば第1図の場合1スロット間は24°となり,全周は1080°となる。さらに,W相の引出し線を上記コイルU_(1)より電気角で240°位相が離れたコイルに接統している。そして,各相毎に直列接続された各相の終端コイルU_(9),V_(9),W_(9)の端末X,Y,ZはY結線されている。
なお,各相(U,V,W)の互いに隣接する第2のコイル群の内側のコイルどうしは,片方のスロットを共用するので,コイルの巻数が他のコイルの巻数の約半分に設定されている。」(2頁右上欄14行?右下欄10行)
・「


(2) 甲1に記載された発明について
ア 甲1に記載された事項(前記(1))から次のことがわかる。すなわち,
(ア) コイルU_(1)?U_(9),V_(1)?V_(9),W_(1)?W_(9)が,45スロットのうちの一対のスロット間(例えば,コイルU_(1)はスロット1,7の間)で巻装されており,一対のスロットに収容される一対のコイルサイドと一対のコイルサイドと一体に形成され一対のコイルサイドの同一側端部をそれぞれ接続する一対のコイルエンドとを有しており,これらのコイルU_(1)?U_(9),V_(1)?V_(9),W_(1)?W_(9)が接続されたコイルにより電機子が構成されている。
(イ) 45スロット6極の三相電機子であるから,当該三相交流回転電機は,電機子に対して移動可能に支持されている可動子鉄心と,可動子鉄心に設けられている三対の可動子磁極と,を備える可動子を具備していることは明らかである。
(ウ) コイルU_(1)?U_(9),V_(1)?V_(9),W_(1)?W_(9)は,1個のコイルU_(1),U_(4),U_(7),V_(1),V_(4),V_(7),W_(1),W_(4),W_(7)で形成される第1のコイル群と,2個のコイルU_(2),U_(3),コイルU_(5),U_(6),コイルU_(8),U_(9),コイルV_(2),V_(3),コイルV_(5),V_(6),コイルV_(8),V_(9),コイルW_(2),W_(3),コイルW_(5),W_(6),コイルW_(8),W_(9)を同心的に連続巻きした第2のコイル群と,を構成している。
第2のコイル群のうち,外側のコイルU_(2),U_(5),U_(8),V_(2),V_(5),V_(8),W_(2),W_(5),W_(8)のコイルピッチは7コイルピッチであり,内側のコイルU_(3),U_(6),U_(9),V_(3),V_(6),V_(9),W_(3),W_(5),W_(9)のコイルピッチは5コイルピッチであることから,第2のコイル群は,コイルピッチが異なる複数のコイルを備えていることがわかる。
また,三つの第1のコイル群及び第2のコイル群が,交互に直列に接続されて,6極の電機子巻線を構成していることから,一つの第1のコイル群及び第2のコイル群が一対の可動子磁極に対向し,第1のコイル群が一対の可動子磁極のうちの一方の磁性の可動子磁極に対向するときに,第2のコイル群が当該一対の可動子磁極のうちの他方の可動子磁極に対向するように,第1のコイル群及び第2のコイル群がスロット単位で振り分けられていることは技術的に明らかである。
(エ) 隣接する第1のコイル群及び第2のコイル群は,電気的に直列接続されており,U?W相の三相を構成するコイルは,交互に直列接続された第1のコイル群及び第2のコイル群を有し,電機子を構成するコイルはこのようなU?W相の三相を構成するコイルを備えるものである。
(オ) コイルU_(1),U_(2),U_(4),U_(5),U_(7),U_(8),V_(1),V_(2),V_(4),V_(5),V_(7),V_(8),W_(1),W_(2),W_(4),W_(5),W_(7),W_(8)は,スロットの占有状態に関して,一対のコイルサイドが一対のスロットに収容されたときに当該一対のコイルサイドが当該一対のスロットの全体を占有している。
また,各相(U,V,W)の互いに隣接する第2のコイル群の内側のコイルどうしは,片方のスロットを共用するので,コイルの巻数が他のコイルの巻数の約半分に設定されていることから,コイルU_(3),U_(6),U_(9),V_(3),V_(6),V_(9),W_(3),W_(6),W_(9)は,一対のコイルサイドが一対のスロットに収容されたときに当該一対のコイルサイドのうちの一方のコイルサイドが当該一対のスロットのうちの一方のスロットの半分を占有し当該一対のコイルサイドのうちの他方のコイルサイドが当該一対のスロットのうちの他方のスロットの半分を占有していることがわかる。
そして,U?W相の三相を構成するコイルを構成する隣接する第1のコイル群及び第2のコイル群は,上記のような,スロットの全体を占有しているコイルとスロットの半分を占有しているコイルの二種類のコイルを備えているといえる。
(カ) 第1のコイル群U_(1),U_(4),U_(7),V_(1),V_(4),V_(7),W_(1),W_(4),W_(7)のコイルピッチは6コイルピッチであり,第2のコイル群のコイルピッチは前記(ウ)のとおりであることから,各第1のコイル群及び第2のコイル群は,当該第1のコイル群及び第2のコイル群を構成するコイルU_(1)?U_(9),V_(1)?V_(9),W_(1)?W_(9)の前記一対のコイルサイド間のコイルピッチがそれぞれ異なっていることがわかる。
また,各第1のコイル群及び第2のコイル群は,一つのスロットの半分を占有するコイルU_(3),U_(6),U_(9),V_(3),V_(6),V_(9),W_(3),W_(6),W_(9)を備えている。
(キ) 各コイルを配列順(U_(1),U_(2),U_(3),U_(4),…U_(9))に直列接続し,外部への引出し線をコイルU_(1)の巻き始め位置に接続しているものであることから,第1のコイル群が巻始め側で第2のコイル群が巻終り側であるといえ,各第1のコイル群及び第2のコイル群は,巻始め側の第1のコイル群から巻終り側の第2のコイル群へ引き回す線を介して連続して巻進められて第1のコイル群を構成するコイルU_(1),U_(4),U_(7),V_(1),V_(4),V_(7),W_(1),W_(4),W_(7)及び第2のコイル群を構成する2個のコイルU_(2),U_(3),コイルU_(5),U_(6),コイルU_(8),U_(9),コイルV_(2),V_(3),コイルV_(5),V_(6),コイルV_(8),V_(9),コイルW_(2),W_(3),コイルW_(5),W_(6),コイルW_(8),W_(9)が直列接続されていることがわかる。
(ク) 各第1のコイル群及び第2のコイル群は,第1のコイル群を構成するコイルU_(1),U_(4),U_(7),V_(1),V_(4),V_(7),W_(1),W_(4),W_(7)の一のコイルサイドから引き出される引出し線と,第2のコイル群を構成するコイルU_(3),U_(6),U_(9),V_(3),V_(6),V_(9),W_(3),W_(6),W_(8),W_(9)の一のコイルサイドから引き出される引出し線とからなる一対の引出し線を備えていることがわかる。
(ケ) U?W相を構成するコイルは,各第1のコイル群及び第2のコイル群の一対の引出し線を介して,当該相を構成するコイルを構成する第1の群及び第2の群が電気的に接続されていることがわかる。
そうすると,甲1には以下の発明が記載されていると認められる(以下「甲1発明」という。)。
(甲1発明)
「45スロットが形成されている電機子鉄心と,
前記45スロットのうちの一対のスロット間で巻装されており,前記一対のスロットに収容される一対のコイルサイドと前記一対のコイルサイドと一体に形成され前記一対のコイルサイドの同一側端部をそれぞれ接続する一対のコイルエンドとを有するコイルU_(1)?U_(9),V_(1)?V_(9),W_(1)?W_(9)を含む電機子を構成するコイルと,
を備える電機子と,
前記電機子に対して移動可能に支持されている可動子鉄心と,
前記可動子鉄心に設けられている三対の可動子磁極と,
を備える可動子と,
を具備する45スロット6極,毎極毎相スロット数2.5の分数スロット巻の三相交流回転電機であって,
前記電機子を構成するコイルに含まれる前記コイルU_(1)?U_(9),V_(1)?V_(9),W_(1)?W_(9)は,
1個の前記コイルU_(1),U_(4),U_(7),V_(1),V_(4),V_(7),W_(1),W_(4),W_(7)で形成される第1のコイル群と,
前記一対のコイルサイド間のコイルピッチが異なる2個の前記コイルU_(2),U_(3),コイルU_(5),U_(6),コイルU_(8),U_(9),コイルV_(2),V_(3),コイルV_(5),V_(6),コイルV_(8),V_(9),コイルW_(2),W_(3),コイルW_(5),W_(6),コイルW_(8),W_(9)を同心的に連続巻きし,前記第1のコイル群が前記一対の可動子磁極のうちの一方の極性の可動子磁極に対向するときに当該一対の可動子磁極のうちの他方の極性の可動子磁極に対向する第2のコイル群と,
に,前記一対の可動子磁極に対向するスロット単位で振り分けられており,
前記一対の可動子磁極に対向する隣接する前記第1のコイル群及び前記第2のコイル群は,電気的に直列接続されており,前記電機子を構成するコイルは,交互に直列接続された前記第1のコイル群及び前記第2のコイル群を有する,U?W相の三相を構成するコイルを備え,
前記三相を構成するコイルを構成する各前記一対の可動子磁極に対向する隣接する前記第1のコイル群及び第2のコイル群は,前記スロットの占有状態に関して,一の前記コイルの前記一対のコイルサイドが前記一対のスロットに収容されたときに当該一対のコイルサイドが当該一対のスロットの全体を占有するコイルU_(1),U_(2),U_(4),U_(5),U_(7),U_(8),V_(1),V_(2),V_(4),V_(5),V_(7),V_(8),W_(1),W_(2),W_(4),W_(5),W_(7),W_(8)と,
一の前記コイルの前記一対のコイルサイドが前記一対のスロットに収容されたときに当該一対のコイルサイドのうちの一方のコイルサイドが当該一対のスロットのうちの一方のスロットの半分を占有し当該一対のコイルサイドのうちの他方のコイルサイドが当該一対のスロットのうちの他方のスロットの半分を占有するコイルU_(3),U_(6),U_(9),V_(3),V_(6),V_(9),W_(3),W_(6),W_(9)と,
の二種類の前記コイルを備え,
各前記一対の可動子磁極に対向する隣接する前記第1のコイル群及び第2のコイル群は,当該第1のコイル群及び第2のコイル群を構成する前記コイルU_(1)?U_(9),V_(1)?V_(9),W_(1)?W_(9)の前記一対のコイルサイド間のコイルピッチがそれぞれ異なり,一つの前記スロットの半分を占有するコイルU_(3),U_(6),U_(9),V_(3),V_(6),V_(9),W_(3),W_(6),W_(9)を備え,
各前記一対の可動子磁極に対向する隣接する前記第1のコイル群及び第2のコイル群は,巻始め側の前記第1のコイル群から巻終り側の前記第2のコイル群へ引き回す線を介して連続して巻進められて前記第1のコイル群を構成する前記コイルU_(1),U_(4),U_(7),V_(1),V_(4),V_(7),W_(1),W_(4),W_(7)及び前記第2のコイル群を構成する前記2個のコイルU_(2),U_(3),コイルU_(5),U_(6),コイルU_(8),U_(9),コイルV_(2),V_(3),コイルV_(5),V_(6),コイルV_(8),V_(9),コイルW_(2),W_(3),コイルW_(5),W_(6),コイルW_(8),W_(9)が直列接続されており,
各前記一対の可動子磁極に対向する隣接する前記第1のコイル群及び第2のコイル群は,前記第1のコイル群を構成する前記コイルU_(1),U_(4),U_(7),V_(1),V_(4),V_(7),W_(1),W_(4),W_(7)の一の前記コイルサイドから引き出される引出し線と,前記第2のコイル群を構成する前記コイルU_(3),U_(6),U_(9),V_(3),V_(6),V_(9),W_(3),W_(6),W_(8),W_(9)の一の前記コイルサイドから引き出される引出し線とからなる一対のコイル引出部を備え,
各前記三相を構成するコイルは,各前記一対のコイル引出部を介して,当該相を構成するコイルを構成する前記第1の群及び第2の群が電気的に接続されている三相交流回転電機。」

2 甲2?4について
(1) 甲2に記載された事項
・「【請求項1】
複数本の導線を巻枠に巻き付けてコイルを形成し,このコイルをコイル受け治貝に落とし込むようにしたパラ巻線方法において,
少なくとも1つのコイルを形成して,次の極のコイルを形成する際,前記巻枠の軸方向に対する前記複数本の導線の配列順序を逆転させることを特徴とするパラ巻線方法。」
・「【0013】
したがって,本発明の目的は,並列して巻線された複数本の導線が,ステータコアのスロットに挿入されて回転電機に使用されたとき,複数本の導線のインダクタンスがほぼ均ー化されて,優れた性能の回転電機が得られるようにしたパラ巻線方法を提供することにある。」
・「【0064】
図13は,上記の態様で巻線操作を進行させることにより,巻枠49の段部48aの下方から上方に至るまで導線Wを巻き付けて,1つの極のコイル巻線が終了した状態を示している。この状態で,払い落とし用エアシリンダ52が作動し(図1参照),ロッド50を介して払い落し板51が下降し,巻枠49に巻き付けられたコイルをコイル受け治具80のガイド棒82の所定の間隙に落とし込む。このとき,ロッド50の下降に伴い,傾動機構69が作動して,後方巻枠48が前方巻枠47に向けて内側定の間隙に落し込まれる(ステップS6)。
【0065】
こうして,1つの極のコイル巻線が終了した後は,インデックステーブル83を回動させることにより,コイル受け治具80を所定角度回動させ,コイルを落とし込むべき,ガイド棒82の間隙を変えて,次の極のコイルの巻線操作が準備される(ステップS7)。
【0066】
次いで,上記コイルが最後の極か否かが判断され(ステップS8),最後の極でない場合には,図9に示したように,支軸111を中心にガイドノズル109を回動させ,反対側のロック装置118にガイドノズル109を保持させる。その結果,ガイドノズル109の導出口121のスリット方向が上下反対となり,導出口121から導出される導線Wの配列が上下反対になる(ステップS9)。
【0067】
その状態で,上記と同様な操作によって次の極のコイル巻線を行う。このとき,図20の矢印で示すように,フライヤ60の回転方向が前の極とは反対となり,反対回りに巻線されてコイルが形成される。また,前記のように,ガイドノズル109の導出口121のスリット方向が上下反対となるため,巻枠49に巻き付けられる導線Wの配列が上下反対になる。こうして,1極のコイル巻線が終了する毎に,ガイドノズル109が反転して,ガイドノズル109の導出口121のスリット方向が上下反対とされ,かつ,フライヤ60の回転方向も反対にされて,複数極のコイル巻線が行われる。
【0068】
そして,ステップS8において,最後の極であると判断された場合には,巻線工程が終了する(ステップS10)。
【0069】
図14には,こうして全ての極に対するコイル巻線が終了し,形成されたコイルCがコイル受け治具80のガイド棒81の所定の間隙に落とし込まれた状態が示されている。この実施形態の場合は,コイル受け治具80がコイル挿入治具をなしているので,このコイル挿入治具をコイル挿入装置に移動して,ステータコアへのコイル挿入を行う。コイル受け治具80がトランスファーツールの場合には,コイル受け治具80に保持されたコイルを,コイル挿入治具に移してコイル挿入を行うことになる。
【0070】
図21は,このコイル挿入治具をコイル挿入装置に移動して,コイル挿入を行う状態を示す模式図であり,(a)は平面図,(b)は側面図である。図21において,160はコイル挿入治具であり,基台167上に設置された筒状のホルダ161と,その中心部に上下移動可能に配置されたストリッパ162と,ホルダ161の内周に基端部を固定して配置された複数本の固定ブレード163と,ストリッパ162に基端部を固定して配置された同じく複数本の可動ブレード164と,各ブレード163,164の基部側の外周に配置されたウェッジガイド165と,ホルダ161の外周に取付けられたコイル受け166とで構成されている。勿論,これは一例であって,他の構造のコイル挿入治具を用いることも可能である。
【0071】
前述した方法で巻線されたコイルCは,下方から上方に向けて1?8のターンをなして,ブレード163,164の所定の間隙に落とし込まれて保持されている。そして,ブレード163,164の上端部外周に,ステータコア170がその内歯を対応するブレード163,164に嵌合させて装着されている。
【0072】
図22は,コイルCをステータコア170のスロットに挿入した状態を示す模式図であり,(a)は平面図,(b)は側面図である。すなわち,図21の状態で,ストリッパ162が上昇し,コイルCがストリッパ162によって押し上げられ,ブレード163,164の間隙を通して,ステータコア170の対応するスロットに挿入される。このとき,同図(b)に示すように,各極のコイルは,最上部のターン8がスロットの最も外周側(奥側)に入り,最下部のターン1がスロットの最も内周側(開口側)に挿入される。
【0073】
図23は,ステータコア170に挿入されたコイルCのコイルエンドを成形した状態を示し,(a)は平面図,(b)は側面図である。すなわち,コイルエンドは,ステータコア170の外周側に寄せてコンパクトな形状となるように成形される。なお,同図(b)は,巻線されたときの1?8のターンの配置を示している。
【0074】
図24は,こうしてステータコア170のスロットにコイルを挿入した状態を示す部分拡大図である。この図に示すように,コイルは,対応する各スロットに,内径側が1のターンで外径側が8のターンとなるように配列されて挿入される。そして,例えば1つの相の1つの極のコイルC1は,スロット2とスロット45との間に挿入されており,同じ相の次の極のコイルC2は,スロット44とスロット39との間に挿入されている。そして,コイルC1とコイルC2とは,コイルC1のスロット2に挿入された1のターンから,コイルC2のスロット44に挿入された8のターンに至る渡り線Waを介して連結されている。
【0075】
前述したように,1極のコイル巻線が終了する毎に,ガイドノズル109が反転して,導出口121のスリット方向が上下反対とされて巻線操作が進むので,スロット内における各ターンの配列順序は変わらないが,各ターンを構成する導線Wの配列順序は,コイルC1とコイルC2とで反対になっている。その結果,図24のスロット2の拡大図並びにスロット44の拡大図に示されるように,スロット2では,導線Wの番号の小さいものが外径側に寄って挿入され,スロット44では,導線Wの番号の大きいものが外径側に寄って挿入される。
【0076】
前述したように,スロットに挿入された導線のインダクタンスは,ステータコアのスロット内での径方向の位置によって変化することが知られている。このため,パラ巻きされたコイルを挿入したステータコアでは,複数本の導線によってインダクタンスが異なることとなり,そのことがモータ等の回転電機の性能の低下につながっていた。
【0077】
しかしながら,図24の拡大図に示すように,同じ相のコイルでも,隣接する極どうしのコイル,例えばコイルC1,コイルC2で,導線Wの配列順序を反転させることにより,導線Wのスロットの径方向の位置が,1つのターンの中で番号の小さいものが外径側に寄って挿入されたり,番号の大きいものが外径側に寄って挿入されたりして変わることになる。その結果,1つの相の全ての極を連続して巻線した場合,パラ巻きされた個々の導線Wのスロットの径方向の位置は,全体として平均化されて,個々の導線W毎の偏りがなくなることになる。その結果,パラ巻きされる個々の導線Wのインダクタンスに偏りがなくなり,結果としてより優れた性能を発揮する回転電機を得ることができる。」
・「


・「


・「


・「


(2) 甲3に記載された事項
・「【0032】
マグネットコイル4は,まず,巻始端41から最初の磁極歯2aに巻始められ,途中で切断されることなく,次に隣り合う磁極歯2bに巻き付けられる。同様にして,マグネットコイル4は,時計回りに切断されることなく,次々と隣り合う磁極歯2c?2hを順々に渡りながら,最後の磁極歯2iに至るまで巻回され,そこから巻終端42が引き出されている。
【0033】
この例において,マグネットコイル4は,その巻回方向が,最初の磁極歯2aを1番目とした場合,次の2番目の磁極歯2bを含む偶数番の各磁極歯2d,2f,2hが,1番目の磁極歯2aを含む奇数番の磁極歯2c,2e,2g,2iに対してそれぞれ逆方向に巻回されている。
【0034】
図1および図2(a)に示すように,各磁極歯2a?2iの間には,各磁極歯2a?2iの間に掛け渡されるマグネットコイル4の渡り線4a?4iが引き回されている。各渡り線4a?4iのうち,巻始端41および各渡り線4b,4d,4f,4hは固定子鉄心10の一方の端面(図1では,紙面手前側)に引き出されている。残りの巻終端42および各渡り線4a,4c,4e,4g,4iは,固定子鉄心10の他方の面(図1では,紙面裏側)に引き出されている。」
・「


(3) 甲4に記載された事項
・「第1図は4極18溝の場合電極子巻線の展開接続図で一極一相の溝数q=1+1/2である。図においてU相のみに着目すると鎖巻コイルはU_(1),U_(2),U_(3),U_(4)の4個で構成され,溝番号#2と#5にまたがつて納められているコイルU_(1)と,溝番号#6と#10にまたがつて納められているコイルU_(2)で一対極を形成する。尚一般には(A+1)個のコイルで一対極を構成する。同様にコイルU_(3)とコイルU_(4)とでもう一対極を形成し,合計2対極即ち4極を形成している。同様にV相のコイルはU相のコイルの巻き始めである#2の溝より電気角120°,溝間隔で720:18=120:S,即ちS=3従つて#2の溝より3溝へだてて#5の溝より巻き始めコイルV_(1)とコイルV_(2)で一対極,コイルV_(3)とコイルV_(4)とで一対極合計2対極即ち4極を形成する。以下W相も同様で説明は省略する。再びU相に説明を戻してコイルはピツチの短いコイルU_(1),U_(3)とピツチの長いコイルU_(2),U_(4)とから成り,短いピツチのコイルU_(1),U_(3)は隣り合う相の同様短かいピツチのコイル辺と同じ溝に納められる。この場合コイルピッチは3,一般的には(m-1)×qのコイルピツチとなつている。但しmは相数。他の相も同様である。この様に同じ溝に2個のコイル辺が納められる溝は#2,#5,#8,#11,#14,#17で,これらの溝に納められるコイルは他のコイルの断面積の1/2の断面積にする必要があり,従つて巻数が1/2になつている。他の溝には1個の溝に1個のコイル辺を入れてある単層鎖巻となつている。」(2頁左上欄9行?右上欄19行)
・「


(4) 甲5に記載された事項
・「【請求項5】 前記位相巻き線の各々は,次のパターン,即ち,
開始スロットを通って内側に進み,
前記開始スロットから反時計回りに4つ目のスロットに相当する第2のスロットを通って外側に進み,
前記開始スロットを通って内側に進み,
前記開始スロットから時計回りに4つ目のスロットに相当する第3のスロットを通って外側に進み,
前記開始スロットから時計回りに1つ目のスロットに相当する第4のスロットを通って内側に進み,
前記開始スロットから時計回りに5つ目のスロットに相当する第5のスロットを通って外側に進む,パターンに従って前記ステーター(66)内で巻かれている,請求項2に記載のブラシレスモーター(36)。」
・「


・「



3 本件発明1についての検討
(1) 対比
ア 本件発明1と甲1発明とを,その機能に照らして対比すると,甲1発明の「45スロット」,「電機子鉄心」,「コイルU_(1)?U_(9),V_(1)?V_(9),W_(1)?W_(9)」,「電機子を構成するコイル」,「電機子」は,それぞれ,本件発明1の「複数のスロット」,「固定子鉄心」,「単位コイル」,「固定子コイル」,「固定子」に相当する。
イ 甲1発明の「可動子鉄心」,「三対の可動子磁極」,「可動子」は,それぞれ,本件発明1の「可動子鉄心」,「少なくとも一対の可動子磁極」,「可動子」に相当する。
ウ 甲1発明の「三相交流回転電機」は,本件発明1の「回転電機」に相当し,甲1発明の「三相交流回転電機」は「45スロット6極,毎極毎相スロット数2.5の分数スロット巻」であるから,本件発明1と同じく,「毎極毎相スロット数の小数点以下が0.5となる分数スロット構成」である。
エ 甲1発明の「第1のコイル群」を形成する「1個の前記コイルU_(1),U_(4),U_(7),V_(1),V_(4),V_(7),W_(1),W_(4),W_(7)」は,「一対のスロット間で巻装されており,前記一対のスロットに収容される一対のコイルサイドと前記一対のコイルサイドと一体に形成され前記一対のコイルサイドの同一側端部をそれぞれ接続する一対のコイルエンドとを有する」もので,同心状に巻装され電気的に直列接続されているといえ,甲1発明の「第1のコイル群」は,本件発明1の「第一極コイル」と同じく,「一つの前記単位コイルまたは前記一対のコイルサイド間のコイルピッチが異なる複数の前記単位コイルを備え,前記一つまたは複数の単位コイルが同心状に巻装され電気的に直列接続されている」ものであるから,甲1発明の「第1のコイル群」は,本件発明1の「第一極コイル」に相当する。
また,甲1発明の「第2のコイル群」は「前記一対のコイルサイド間のコイルピッチが異なる2個の前記コイルU_(2),U_(3),コイルU_(5),U_(6),コイルU_(8),U_(9),コイルV_(2),V_(3),コイルV_(5),V_(6),コイルV_(8),V_(9),コイルW_(2),W_(3),コイルW_(5),W_(6),コイルW_(8),W_(9)を同心的に連続巻きし,前記第1のコイル群が前記一対の可動子磁極のうちの一方の極性の可動子磁極に対向するときに当該一対の可動子磁極のうちの他方の極性の可動子磁極に対向する」ものであり,本件発明1の「第二極コイル」と同じく,「一つの前記単位コイルまたは前記一対のコイルサイド間のコイルピッチが異なる複数の前記単位コイルを備え,前記一つまたは複数の単位コイルが同心状に巻装され電気的に直列接続されており,前記第一極コイルが前記一対の可動子磁極のうちの一方の極性の可動子磁極に対向するときに当該一対の可動子磁極のうちの他方の極性の可動子磁極に対向する」ものであるから,甲1発明の「第2のコイル群」は,本件発明1の「第二極コイル」に相当する。
そして,甲1発明の「前記電機子を構成するコイルに含まれる前記コイルU_(1)?U_(9),V_(1)?V_(9),W_(1)?W_(9)」は,「第1のコイル群」と「第2のコイル群」とに,「一対の可動子磁極に対向するスロット単位で振り分けられて」いるものであるから,本件発明1と同じく,「前記固定子コイルに含まれる前記複数の単位コイル」は,「第一極コイル」と「第二極コイル」とに,「一対の可動子磁極に対向するスロット単位で振り分けられて」いるといえる。
オ 甲1発明の「前記一対の可動子磁極に対向する隣接する前記第1のコイル群及び前記第2のコイル群」は,「電気的に直列接続されて」いるものであるから,本件発明1の「極対コイル」に相当する。
また,甲1発明の「電機子を構成するコイル」(固定子コイル)は「U?W相の三相を構成するコイル」を備えるところ,この「U?W相の三相を構成するコイル」は「交互に直列接続された前記第1のコイル群及び前記第2のコイル群を有する」ことから,甲1発明は,本件発明1と同じく,「前記固定子コイルは,一つの前記極対コイル,または,直列接続および並列接続のうちの少なくとも一方により電気的に接続されている複数の前記極対コイルを有する」ものである。
よって,甲1発明の「U?W相の三相を構成するコイル」は,本件発明1の「相コイル」に相当し,甲1発明は,本件発明1と同じく,「相コイル」を複数備えるものである。
カ 甲1発明の「コイルU_(1),U_(2),U_(4),U_(5),U_(7),U_(8),V_(1),V_(2),V_(4),V_(5),V_(7),V_(8),W_(1),W_(2),W_(4),W_(5),W_(7),W_(8)」,「コイルU_(3),U_(6),U_(9),V_(3),V_(6),V_(9),W_(3),W_(6),W_(9)」は,それぞれ,本件発明1の「フルコイル」,「ハーフコイル」に相当し,甲1発明の「前記三相を構成するコイルを構成する各前記一対の可動子磁極に対向する隣接する前記第1のコイル群及び第2のコイル群」は,本件発明1の「前記複数の相コイルを構成する各前記極対コイル」と同じく,「フルコイル」と「ハーフコイル」との「二種類の前記単位コイル」を備えるものである。
そして,甲1発明の「各前記一対の可動子磁極に対向する隣接する前記第1のコイル群及び第2のコイル群」は,本件発明1の「各前記極対コイル」と同じく,「当該極対コイルを構成する前記単位コイルの前記一対のコイルサイド間のコイルピッチがそれぞれ異なり,一つの前記ハーフコイル」を備えるものである。
キ 甲1発明の「巻始め側の前記第1のコイル群から巻終り側の前記第2のコイル群へ引き回す線」は,本件発明1の「極コイル間接続部」に相当し,甲1発明の「各前記一対の可動子磁極に対向する隣接する前記第1のコイル群及び第2のコイル群」は,本件発明1の「各前記極対コイル」と同じく,「巻始め側の前記第一極コイルから巻終り側の前記第二極コイルへ引き回す極コイル間接続部を介して連続して巻進められて前記第一極コイルを構成する前記一つまたは複数の単位コイル及び前記第二極コイルを構成する前記一つまたは複数の単位コイルが直列接続されて」いるものである。
ク 甲1発明の「前記第1のコイル群を構成する前記コイルU_(1),U_(4),U_(7),V_(1),V_(4),V_(7),W_(1),W_(4),W_(7)の一の前記コイルサイドから引き出される引出し線」,「前記第2のコイル群を構成する前記コイルU_(3),U_(6),U_(9),V_(3),V_(6),V_(9),W_(3),W_(6),W_(8),W_(9)の一の前記コイルサイドから引き出される引出し線」は,それぞれ,本件発明1の「第一コイル引出部」,「第二コイル引出部」に相当し,甲1発明の「各前記一対の可動子磁極に対向する隣接する前記第1のコイル群及び第2のコイル群」は,本件発明1の「各前記極対コイル」と同じく,「第一コイル引出部」と,「第二コイル引出部」とからなる「一対のコイル引出部」を備え,「各前記相コイルは,各前記一対のコイル引出部を介して,当該相コイルを構成する前記一つまたは複数の極対コイルが電気的に接続されて」いるものである。
ケ そうすると,本件発明1と甲1発明とは,以下の点で一致し,相違する。
(一致点)
「複数のスロットが形成されている固定子鉄心と,
前記複数のスロットのうちの一対のスロット間で巻装されており,前記一対のスロットに収容される一対のコイルサイドと前記一対のコイルサイドと一体に形成され前記一対のコイルサイドの同一側端部をそれぞれ接続する一対のコイルエンドとを有する単位コイルを複数含む固定子コイルと,
を備える固定子と,
前記固定子に対して移動可能に支持されている可動子鉄心と,
前記可動子鉄心に設けられている少なくとも一対の可動子磁極と,
を備える可動子と,
を具備する毎極毎相スロット数の小数点以下が0.5となる分数スロット構成の回転電機であって,
前記固定子コイルに含まれる前記複数の単位コイルは,
一つの前記単位コイルまたは前記一対のコイルサイド間のコイルピッチが異なる複数の前記単位コイルを備え,前記一つまたは複数の単位コイルが同心状に巻装され電気的に直列接続されている第一極コイルと,
一つの前記単位コイルまたは前記一対のコイルサイド間のコイルピッチが異なる複数の前記単位コイルを備え,前記一つまたは複数の単位コイルが同心状に巻装され電気的に直列接続されており,前記第一極コイルが前記一対の可動子磁極のうちの一方の極性の可動子磁極に対向するときに当該一対の可動子磁極のうちの他方の極性の可動子磁極に対向する第二極コイルと,
に,前記一対の可動子磁極に対向するスロット単位で振り分けられており,
前記一対の可動子磁極に対向する隣接する前記第一極コイルおよび前記第二極コイルは,電気的に直列接続されて極対コイルが構成されており,前記固定子コイルは,一つの前記極対コイル,または,直列接続および並列接続のうちの少なくとも一方により電気的に接続されている複数の前記極対コイルを有する相コイルを複数備え,
前記複数の相コイルを構成する各前記極対コイルは,前記複数のスロットの占有状態に関して,一の前記単位コイルの前記一対のコイルサイドが前記一対のスロットに収容されたときに当該一対のコイルサイドが当該一対のスロットの全体を占有するフルコイルと,
一の前記単位コイルの前記一対のコイルサイドが前記一対のスロットに収容されたときに当該一対のコイルサイドのうちの一方のコイルサイドが当該一対のスロットのうちの一方のスロットの半分を占有し当該一対のコイルサイドのうちの他方のコイルサイドが当該一対のスロットのうちの他方のスロットの半分を占有するハーフコイルと,
の二種類の前記単位コイルを備え,
各前記極対コイルは,当該極対コイルを構成する前記複数の単位コイルの前記一対のコイルサイド間のコイルピッチがそれぞれ異なり,一つの前記ハーフコイルを備え,
各前記極対コイルは,巻始め側の前記第一極コイルから巻終り側の前記第二極コイルへ引き回す極コイル間接続部を介して連続して巻進められて前記第一極コイルを構成する前記一つまたは複数の単位コイルおよび前記第二極コイルを構成する前記一つまたは複数の単位コイルが直列接続されており,
各前記極対コイルは,前記第一極コイルを構成する一の前記単位コイルであって巻始めの前記単位コイルの一の前記コイルサイドから引き出される第一コイル引出部と,前記第二極コイルを構成する一の前記単位コイルであって巻終りの前記単位コイルの一の前記コイルサイドから引き出される第二コイル引出部とからなる一対のコイル引出部を備え,
各前記相コイルは,各前記一対のコイル引出部を介して,当該相コイルを構成する前記一つまたは複数の極対コイルが電気的に接続されている回転電機。」
(相違点1)
本件発明1は,「前記スロットの深さ方向を第二方向とし,前記第二方向のうちのスロット開口部側からスロット底部側に向かう方向を第二方向スロット底部側とするとき」,「各前記極対コイルを構成する前記複数の単位コイルの各巻進行方向は,いずれも前記第二方向スロット底部側である」のに対し,甲1発明は,極対コイルを構成する「第1のコイル群」及び「第2のコイル群」に関し,「コイルU_(1)?U_(9),V_(1)?V_(9),W_(1)?W_(9)」の各巻進行方向は不明である点。
(2) 判断
ア 相違点1について検討するに,甲1発明は,本件発明1と同様に毎極毎相スロット数の小数点以下が0.5なる分数スロット構成の回転電機に係る発明であるが,甲1には,「コイルU_(1)?U_(9),V_(1)?V_(9),W_(1)?W_(9)」の巻進行方向に関する記載,示唆は特段なく,甲1発明が巻進行方向に着目したものであるとは認められない。
また,甲2には,特定のパラ巻線方法に関する技術が開示され,当該特定のパラ巻線方法によるコイル巻線をステータコアのスロットに挿入した点が記載されているところ(前記2(1)),スロットの深さ方向を第二方向とし,第二方向のうちのスロット開口部側からスロット底部側に向かう方向を第二方向スロット底部側とすると,隣接する極どうしのコイルの各巻進行方向は,いずれも第二方向スロット底部側である,といえる態様で,コイル巻線がスロットに挿入されていることがわかる。
しかしながら,それにとどまり,甲2には,毎極毎相スロット数の小数点以下が0.5なる分数スロット構成の回転電機の固定子における,複数の単位コイルのコイルピッチがそれぞれ異なり,一つのハーフコイルを備え,巻始め側の極コイルから巻終り側の極コイルへ引き回す極コイル間接続部を介して連続して巻進められて巻始め側の極コイルを構成する単位コイル及び巻終り側の極コイルを構成する単位コイルが直列接続されている極対コイルに関する記載,示唆は特段認められないから,巻進行方向に着目したものであるとは認められない甲1発明において,甲2に記載された事項を採用すべき事情は認められない。
また,甲1において,甲1発明が背景技術として記載されていることも踏まえれば,甲1発明において,第1のコイル群及び第2のコイル群のコイルの各巻進行方向をスロットの深さ方向のスロット底部側とすること,すなわち,相違点1に係る構成を採用する動機付けは特段認められない。
そして,本件発明1は,相違点1に係る構成を備えることにより,「毎極毎相スロット数の小数点以下が0.5となる分数スロット構成の回転電機において,同心状に巻装された固定子コイルを備えることができる。そのため,本発明に係る回転電機では,固定子コイルを相コイル単位で組み付けることが可能であり,二層重巻で巻装された固定子コイルを備える回転電機と比べて,固定子コイルの組み付け作業の作業効率が向上する。」(【0009】)といった格別な効果を奏するものである。
イ 以上のとおりであるから,本件発明1は,甲1発明及び甲2に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

4 本件発明5及び7についての検討
(1) 本件発明5は,本件発明1を特定するための事項を全て含むものであるから,その余の事項を検討するまでもなく,本件発明5は,本件発明1と同様の理由により,甲1発明及び甲2に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
(2) 本件発明7は,本件発明1を特定するための事項を全て含むものであるから,その余の事項を検討するまでもなく,本件発明3は,本件発明1と同様の理由により,甲1発明及び甲2,4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

5 本件発明8についての検討
(1) 対比
本件発明8と甲1発明とを,本件発明1と甲1発明との相当関係(前記3(1))を参考に,その機能に照らして対比すると,本件発明8と甲1発明とは,本件発明1と甲1発明と同じ点(前記3(1)ケ)で一致し,以下の点で相違する。
(相違点2)
本件発明1は,「前記スロットの深さ方向を第二方向とし,前記第二方向のうちのスロット底部側からスロット開口部側に向かう方向を第二方向スロット開口部側とするとき」,「各前記極対コイルを構成する前記複数の単位コイルの各巻進行方向は,いずれも前記第二方向スロット開口部側である」のに対し,甲1発明は,極対コイルを構成する「第1のコイル群」及び「第2のコイル群」に関し,「コイルU_(1)?U_(9),V_(1)?V_(9),W_(1)?W_(9)」の各巻進行方向は不明である点。
(2) 判断
ア 相違点2について検討するに,既に述べたとおり(前記3(2)ア),甲1発明は,本件発明1と同様に毎極毎相スロット数の小数点以下が0.5なる分数スロット構成の回転電機に係る発明であるが,甲1には,「コイルU_(1)?U_(9),V_(1)?V_(9),W_(1)?W_(9)」の巻進行方向に関する記載,示唆は特段なく,甲1発明が巻進行方向に着目したものであるとは認められない。
また,甲3には,マグネットコイル4を,巻始端41から最初の磁極歯2aに巻始め,最後の磁極歯2iに至るまで巻回される点が記載されているところ(前記2(2)),スロットの深さ方向を第二方向とし,第二方向のうちのスロット底部側からスロット開口部側に向かう方向を第二方向スロット開口部側とすると,コイルの巻進行方向は,第二方向スロット底部側である,といえる態様で,マグネットコイル4が巻回されていることがわかる。
しかしながら,それにとどまり,甲3には,毎極毎相スロット数の小数点以下が0.5なる分数スロット構成の回転電機の固定子における,複数の単位コイルのコイルピッチがそれぞれ異なり,一つのハーフコイルを備える極対コイルに関する記載,示唆は特段認められないから,甲3に記載された事項が,相違点2に係る構成と同様であるとしても,巻進行方向に着目したものであるとは認められない甲1発明において,甲3に記載された事項を採用すべき事情は認められない。
また,甲1において,甲1発明が背景技術として記載されていることも踏まえれば,甲1発明において,第1のコイル群及び第2のコイル群のコイルの各巻進行方向をスロットの深さ方向のスロット開口部側とすること,すなわち,相違点2に係る構成を採用する動機付けは特段認められない。
そして,本件発明8は,相違点2に係る構成を備えることにより,「毎極毎相スロット数の小数点以下が0.5となる分数スロット構成の回転電機において,同心状に巻装された固定子コイルを備えることができる。そのため,本発明に係る回転電機では,固定子コイルを相コイル単位で組み付けることが可能であり,二層重巻で巻装された固定子コイルを備える回転電機と比べて,固定子コイルの組み付け作業の作業効率が向上する。」(【0009】)といった格別な効果を奏するものである。
イ 以上のとおりであるから,本件発明8は,甲1発明及び甲3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

6 本件発明14?16について
(1) 本件発明14は,本件発明8を特定するための事項を全て含むものであるから,その余の事項を検討するまでもなく,本件発明14は,本件発明8と同様の理由により,甲1発明及び甲3,4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
(2) 本件発明15は,本件発明5,7,14を特定するための事項を全て含むものであるから,その余の事項を検討するまでもなく,本件発明15は,本件発明5,7,14と同様の理由により,甲1発明及び甲2,5に記載された事項に基いて,甲1発明及び甲2,4,5に記載された事項に基いて,又は,甲1発明及び甲3,4,5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
(3) 本件発明16は,
本件発明16は,本件発明5,7を特定するための事項を全て含むものであるから,その余の事項を検討するまでもなく,本件発明16は,本件発明5,7と同様の理由により,甲1発明及び甲2,5に記載された事項に基いて,又は,甲1発明及び甲2,4,5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

第5 むすび
以上のとおり,本件特許(請求項1,5,7,8,14?16に係る特許)は,特許法29条2項の規定に違反してされたものとは認められないから,特許異議申立ての理由により取り消すことはできない。
また,他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-03-26 
出願番号 特願2015-255437(P2015-255437)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (H02K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 安池 一貴  
特許庁審判長 小川 恭司
特許庁審判官 柿崎 拓
窪田 治彦
登録日 2020-05-25 
登録番号 特許第6707860号(P6707860)
権利者 アイシン精機株式会社
発明の名称 回転電機およびその製造方法  
代理人 木村 群司  
代理人 小林 脩  
代理人 山本 喜一  

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