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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08G
管理番号 1372761
異議申立番号 異議2020-700919  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-05-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-11-27 
確定日 2021-04-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第6705537号発明「積層体用液晶ポリエステル樹脂、液晶ポリエステル樹脂組成物、積層体および液晶ポリエステル樹脂フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6705537号の請求項1、3及び5ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

1.本件特許の設定登録までの経緯
本件特許第6705537号に係る出願(特願2019-141965号、以下「本願」ということがある。)は、令和元年8月1日(優先権主張:平成30年8月22日、特願2018-155145号)に出願人東レ株式会社(以下、「特許権者」ということがある。)によりされた特許出願であり、令和2年5月18日に特許権の設定登録(請求項の数10)がされ、特許掲載公報が令和2年6月3日に発行されたものである。

2.本件異議申立の趣旨
本件特許につき令和2年11月27日に特許異議申立人藤江桂子(以下「申立人」という。)により、「特許第6705537号の特許請求の範囲の請求項1、3及び5ないし7に記載された各発明についての特許を取り消すべきである。」という趣旨の本件特許異議の申立てがされた。
(よって、本件特許異議の申立ては、特許請求の範囲の請求項2、4及び8ないし10に記載された発明についての特許に対して申立てがされていないから、これらの特許については本件の審理の対象外である。)

第2 本件特許の特許請求の範囲に記載された事項
本件特許の特許請求の範囲には、以下のとおりの請求項1ないし10が記載されている。
「【請求項1】
ゲル浸透クロマトグラフ/光散乱法により測定される絶対分子量の分子量分布において、全ピーク面積100%に対する絶対分子量10000以下の部分の面積分率が12?40%であり、かつ絶対分子量50000以上の部分の面積分率が3?17%である積層体用液晶ポリエステル樹脂。
【請求項2】
前記液晶ポリエステル樹脂は、液晶ポリエステル樹脂の全構造単位100モル%に対して、炭素数2?4の脂肪族ジオールに由来する構造単位を3?40モル%含む、請求項1に記載の液晶ポリエステル樹脂。
【請求項3】
前記液晶ポリエステル樹脂は、液晶ポリエステル樹脂の全構造単位100モル%に対して、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位を15?80モル%、芳香族ジオールに由来する構造単位を3?20モル%、芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位を7?40モル%含む、請求項1または2に記載の液晶ポリエステル樹脂。
【請求項4】
請求項1?3のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂および溶媒を含有する液晶ポリエステル樹脂組成物であって、前記液晶ポリエステル樹脂100重量部に対し、前記溶媒を100?10000重量部含有する液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1?3のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂からなる液晶ポリエステル樹脂フィルム。
【請求項6】
支持体および樹脂層が積層された積層体であって、請求項1?3のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂からなる樹脂層の少なくとも一方の面に、支持体が積層された積層体。
【請求項7】
前記支持体が金属箔である、請求項6に記載の積層体。
【請求項8】
請求項4に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物を、支持体上に塗布した後、溶媒を除去する、積層体の製造方法。
【請求項9】
前記支持体が金属箔である、請求項8に記載の積層体の製造方法。
【請求項10】
請求項8または9に記載の方法によって得られた積層体から、支持体を除去することにより液晶ポリエステル樹脂フィルムを得る、液晶ポリエステル樹脂フィルムの製造方法。」
(以下、上記請求項1ないし10に係る発明を、項番に従い、「本件発明1」ないし「本件発明10」といい、併せて「本件発明」ということがある。)

第3 申立人が主張する取消理由
申立人は、同人が提出した本件異議申立書(以下「申立書」という。)において、下記甲第1号証ないし甲第3号証を提示し、申立書における申立人の取消理由に係る主張を当審で整理すると、概略、以下の取消理由が存するとしているものと認められる。

取消理由1:本件の請求項1、3及び5ないし7に係る各発明は、甲第1号証、甲第2号証又は甲第3号証に記載された発明であり、いずれも特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではないから、本件の請求項1、3及び5ないし7に係る発明についての特許は、特許法第29条に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
取消理由2:本件の請求項1、3及び5ないし7に係る各発明は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、いずれも当業者が容易に発明をすることができるものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件の請求項1、3及び5ないし7に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

・申立人提示の甲号証
甲第1号証:特許第5742706号公報
甲第2号証:特許第5984073号公報
甲第3号証:特開2018-104527号公報
(以下、「甲1」ないし「甲3」と略していう。)

第4 当審の判断
当審は、
申立人が主張する上記取消理由についてはいずれも理由がなく、ほかに各特許を取り消すべき理由も発見できないから、本件の請求項1、3及び5ないし7に係る発明についての特許は、いずれも取り消すべきものではなく、維持すべきもの、と判断する。
以下、各取消理由につき検討するが、事案に鑑み、取消理由1及び2につき併せて検討する。

1.各甲号証に記載された事項並びに各甲号証に記載された各発明
取消理由1及び2は、いずれも特許法第29条に係るものであるから、上記各甲号証に係る記載事項を確認し、各甲号証に記載された発明を認定する。

(1)甲1

ア.甲1に記載された事項
甲1には、「少なくともヒドロキノンを含む原料モノマーを、無水酢酸によりアセチル化し、ヘリカルリボン翼を用いて撹拌することにより脱酢酸重縮合する液晶性ポリエステル樹脂の製造方法であって、脱酢酸重縮合する工程において、酢酸留出率90%以上で減圧を開始する液晶性ポリエステル樹脂の製造方法。」(【請求項1】)及び「前記液晶ポリエステル樹脂が、下記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)から構成され、構造単位(I)が構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して65?80モル%であり、構造単位(II)が構造単位(II)および(III)の合計に対して55?85モル%であり、構造単位(IV)が構造単位(IV)および(V)の合計に対して50?95モル%であり、構造単位(II)および(III)の合計と構造単位(IV)および(V)の合計が実質的に等モルである液晶性ポリエステル樹脂である請求項1?4のいずれかの液晶性ポリエステル樹脂の製造方法。
【化1】


(【請求項5】)が記載されている。
また、甲1には、
「(実施例1)
留出管を有し、容器内壁と中心軸の無いヘリカルリボン翼との隙間が10mmである5Lの反応容器を用い、次のように重合を行った。
反応容器にp-ヒドロキシ安息香酸843質量部(54モル%)、4,4’-ジヒドロキシビフェニル341質量部(16モル%)、ヒドロキノン86質量部(7モル%)、テレフタル酸282質量部(15モル%)、イソフタル酸152質量部(8モル%)および無水酢酸1272質量部(フェノール性水酸基合計の1.10当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で剪断速度285(1/秒)で掻き下げ方向に撹拌しながら145℃で1.5時間アセチル化反応させた後、酢酸を留出させながら335℃まで4時間で昇温した。このとき酢酸留出率が理論留出量の95%に達した時点で減圧を開始し、1時間かけて133Pa(1torr)まで減圧を行い、13.3kPa(100torr)に到達した時点で撹拌剪断速度を180(1/秒)に変更し、さらに減圧させながら重縮合反応を続け、規定の撹拌トルクに到達したところで重縮合反応を終了させた。次に反応容器内を0.1MPaに窒素で加圧し、直径10mmの円形吐出口を有する口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレット化した。前記の方法で繰り返し20バッチの重合を行った。」(【0058】)
と記載されている。

イ.甲1に記載された発明
甲1には、上記記載(特に【請求項1】及び【請求項5】の記載)からみて、
「少なくともヒドロキノンを含む原料モノマーを、無水酢酸によりアセチル化し、ヘリカルリボン翼を用いて撹拌することにより脱酢酸重縮合する製造方法であって、脱酢酸重縮合する工程において、酢酸留出率90%以上で減圧を開始する製造方法によって製造された、下記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)から構成され、構造単位(I)が構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して65?80モル%であり、構造単位(II)が構造単位(II)および(III)の合計に対して55?85モル%であり、構造単位(IV)が構造単位(IV)および(V)の合計に対して50?95モル%であり、構造単位(II)および(III)の合計と構造単位(IV)および(V)の合計が実質的に等モルである液晶性ポリエステル樹脂。
【化1】


に係る発明(以下「甲1発明1」という。)及び
上記記載(特に実施例1係る記載)からみて、
「反応容器にp-ヒドロキシ安息香酸843質量部(54モル%)、4,4’-ジヒドロキシビフェニル341質量部(16モル%)、ヒドロキノン86質量部(7モル%)、テレフタル酸282質量部(15モル%)、イソフタル酸152質量部(8モル%)および無水酢酸1272質量部(フェノール性水酸基合計の1.10当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で剪断速度285(1/秒)で掻き下げ方向に撹拌しながら145℃で1.5時間アセチル化反応させた後、酢酸を留出させながら335℃まで4時間で昇温し、このとき酢酸留出率が理論留出量の95%に達した時点で減圧を開始し、1時間かけて133Pa(1torr)まで減圧を行い、13.3kPa(100torr)に到達した時点で撹拌剪断速度を180(1/秒)に変更し、さらに減圧させながら重縮合反応を続け、規定の撹拌トルクに到達したところで重縮合反応を終了させる製造方法により製造されたポリマー」
に係る発明(以下「甲1発明2」という。)が記載されているものといえる。

(2)甲2

ア.甲2に記載された事項
甲2には、
「【0090】
(実施例1)
・・(中略)・・
【0092】
この重縮合反応槽1に、p-ヒドロキシ安息香酸641質量部(60モル%)、4,4’-ジヒドロキシビフェニル173質量部(12モル%)、ハイドロキノン68質量部(8モル%)、テレフタル酸206質量部(16モル%)、イソフタル酸51質量部(4モル%)、さらにハイドロキノンの過剰添加分として更にハイドロキノン4質量部、および無水酢酸868質量部(フェノール性水酸基合計の1.09当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら145℃で1.5時間アセチル化反応させた。
【0093】
次に、留出管4を留出酢酸容器側に切り替え、4時間かけて270℃まで反応を続け、さらに2時間かけて355℃まで昇温していき、減圧装置にて減圧を開始し、2時間かけて133Pa(1torr)まで減圧を行い、規定の攪拌トルクに到達したところで重縮合反応を終了させた。
・・(中略)・・
【0096】
吐出時の液晶性ポリエステル樹脂の温度は355℃で、この温度でのμa200/μa5000の値は3.8であった。
【0097】
この液晶性ポリエステル樹脂の構造単位(I)の割合は60.2モル%であり、融点は332℃であった。」と記載されている。

イ.甲2に記載された発明
甲2には、上記ア.の記載事項からみて、
「p-ヒドロキシ安息香酸641質量部(60モル%)、4,4’-ジヒドロキシビフェニル173質量部(12モル%)、ハイドロキノン68質量部(8モル%)、テレフタル酸206質量部(16モル%)、イソフタル酸51質量部(4モル%)、さらにハイドロキノンの過剰添加分として更にハイドロキノン4質量部、および無水酢酸868質量部(フェノール性水酸基合計の1.09当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら145℃で1.5時間アセチル化反応させた後、4時間かけて270℃まで反応を続け、さらに2時間かけて355℃まで昇温していき、減圧装置にて減圧を開始し、2時間かけて133Pa(1torr)まで減圧を行い、規定の攪拌トルクに到達したところで重縮合反応を終了させる製造方法により製造された液晶性ポリエステル樹脂。」
に係る発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものといえる。

(3)甲3
ア.甲3に記載された事項
甲3には、
「融点(Tm)が300℃以上350℃以下である液晶ポリエステル樹脂100重量部に対し、無機充填材(a)を40重量部以上250重量部以下含み、下記式(1)を満たす液晶ポリエステル樹脂組成物。
(式(1)及びその説明は省略)」(【請求項1】)及び
「前記液晶ポリエステル樹脂の構造単位全量100モル%に対して、ハイドロキノン由来の構造単位を2モル%以上20モル%以下含有する、請求項1または2に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。」(【請求項3】)が記載されている。
また、甲3には、
「【0056】
[製造例2]
撹拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp-ヒドロキシ安息香酸870重量部、4,4’-ジヒドロキシビフェニル352重量部、ハイドロキノン89重量部、テレフタル酸292重量部、イソフタル酸157重量部および無水酢酸1278重量部(フェノール性水酸基合計の1.07当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら145℃で2時間反応させた後、145℃から320℃まで4時間で昇温した。その後、重合温度を325℃に保持し、1.0時間で1.0mmHgに減圧し、更に30分反応を続け、撹拌に要するトルクが20kg・cmに到達したところで重合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm^(2)(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズして液晶ポリエステル樹脂(A-2)を得た。
【0057】
この液晶ポリエステル樹脂(A-2)のTmは314℃、溶融粘度は25Pa・sであった。」と記載されている。

イ.甲3に記載された発明
甲2には、上記ア.の記載事項(【請求項1】及び【請求項3】の記載)からみて、
「液晶ポリエステル樹脂の構造単位全量100モル%に対して、ハイドロキノン由来の構造単位を2モル%以上20モル%以下含有する融点(Tm)が300℃以上350℃以下である液晶ポリエステル樹脂。」
に係る発明(以下「甲3発明1」という。)及び
「p-ヒドロキシ安息香酸870重量部、4,4’-ジヒドロキシビフェニル352重量部、ハイドロキノン89重量部、テレフタル酸292重量部、イソフタル酸157重量部および無水酢酸1278重量部(フェノール性水酸基合計の1.07当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら145℃で2時間反応させた後、145℃から320℃まで4時間で昇温した後、重合温度を325℃に保持し、1.0時間で1.0mmHgに減圧し、更に30分反応を続け、撹拌に要するトルクが20kg・cmに到達したところで重合を完了させる製造方法により製造された、Tm314℃、溶融粘度25Pa・sである液晶ポリエステル樹脂。」
に係る発明(以下「甲3発明2」という。)が記載されているものといえる。

2.本件の各発明に係る検討

(1)本件発明1について

ア.甲1に記載された発明に基づく検討

ア-1.甲1発明1に基づく検討

(ア)対比
本件発明1と甲1発明1とを対比すると、
「液晶ポリエステル樹脂」
の点で一致し、少なくとも以下の2点で相違する。

相違点a1:本件発明1では「ゲル浸透クロマトグラフ/光散乱法により測定される絶対分子量の分子量分布において、全ピーク面積100%に対する絶対分子量10000以下の部分の面積分率が12?40%であり、かつ絶対分子量50000以上の部分の面積分率が3?17%である」のに対して、甲1発明1では液晶性ポリエステル樹脂に係る絶対分子量の分子量分布及びそのピーク面積の面積分率につき特定されていない点
相違点a2:「液晶ポリエステル樹脂」につき、本件発明1では「積層体用」であるのに対して、甲1発明1では当該用途につき特定されていない点

(イ)検討
上記相違点a1につき検討すると、重合体の絶対分子量の分子量分布について、当該重合体の製造方法の概略が同一であったとしても、相違点a1に係る重合体の分子量分布に係る事項が一致するという技術常識が存するものとは認められないから、甲1発明1における「少なくともヒドロキノンを含む原料モノマーを、無水酢酸によりアセチル化し、ヘリカルリボン翼を用いて撹拌することにより脱酢酸重縮合する製造方法であって、脱酢酸重縮合する工程において、酢酸留出率90%以上で減圧を開始する製造方法」で重合体を製造するからといって、本件発明1における液晶ポリエステル樹脂に係る絶対分子量の分子量分布及びそのピーク面積の面積分率に係る規定を満たす蓋然性が高いということはできないから、上記相違点a1は実質的な相違点であると認められる。
また、甲1及び他の甲号証を検討しても、甲1発明1の「液晶性ポリエステル樹脂」が本件発明1における絶対分子量の分子量分布及びそのピーク面積の面積分率に係る規定を満たすであろうと認識できるような技術的根拠となる事項が存するものとも認められない。
してみると、上記相違点a1は、実質的な相違点であるし、各甲号証の記載に照らしても、甲1発明1において、当業者が適宜なし得たことということもできない。

(ウ)小括
したがって、上記相違点a2につき検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明1と同一であるとはいえず、また、甲1発明1に基づいて各甲号証に記載された事項を組み合わせることにより、当業者が容易に発明することができたということもできない。

ア-2.甲1発明2に基づく検討

(ア)対比
本件発明1と甲1発明2とを対比すると、甲1の記載からみて、甲1発明2における「ポリマー」は液晶性ポリエステル樹脂を意味するものと認められるから、本件発明1と甲1発明2とは、
「液晶ポリエステル樹脂」
で一致し、少なくとも以下の2点で相違する。

相違点a3:本件発明1では「ゲル浸透クロマトグラフ/光散乱法により測定される絶対分子量の分子量分布において、全ピーク面積100%に対する絶対分子量10000以下の部分の面積分率が12?40%であり、かつ絶対分子量50000以上の部分の面積分率が3?17%である」のに対して、甲1発明2ではポリマーに係る絶対分子量の分子量分布及びそのピーク面積の面積分率につき特定されていない点
相違点a4:「液晶ポリエステル樹脂」につき、本件発明1では「積層体用」であるのに対して、甲1発明1では「ポリマー」の用途につき特定されていない点

(イ)検討
上記相違点a3につき検討すると、相違点a3は上記ア-1.(ア)で示した相違点a1と同一の事項であるから、上記ア-1.(イ)で説示したとおりの理由により、上記相違点a3は、実質的な相違点であるし、各甲号証の記載に照らしても、甲1発明2において、当業者が適宜なし得たことということもできない。

(ウ)小括
したがって、本件発明1は、甲1発明2と同一であるとはいえず、また、甲1発明2に基づいて各甲号証に記載された事項を組み合わせることにより、当業者が容易に発明することができたということもできない。

ア-3.甲1に記載された発明に基づく検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明1又は甲1発明2、すなわち甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明に基づいて、たとえ各甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明することができたということはできない。

イ.甲2に記載された発明に基づく検討

(ア)対比
本件発明1と甲2発明とを対比すると、
「液晶ポリエステル樹脂」
の点で一致し、少なくとも以下の2点で相違する。

相違点b1:本件発明1では「ゲル浸透クロマトグラフ/光散乱法により測定される絶対分子量の分子量分布において、全ピーク面積100%に対する絶対分子量10000以下の部分の面積分率が12?40%であり、かつ絶対分子量50000以上の部分の面積分率が3?17%である」のに対して、甲2発明では液晶性ポリエステル樹脂に係る絶対分子量の分子量分布及びそのピーク面積の面積分率につき特定されていない点
相違点b2:「液晶ポリエステル樹脂」につき、本件発明1では「積層体用」であるのに対して、甲2発明では当該用途につき特定されていない点

(イ)検討
上記相違点b1につき検討すると、重合体の絶対分子量の分子量分布について、当該重合体の製造方法の概略が同一であったとしても、相違点a1に係る重合体の分子量分布に係る事項が一致するという技術常識が存するものとは認められないから、甲2発明における「p-ヒドロキシ安息香酸641質量部(60モル%)、4,4’-ジヒドロキシビフェニル173質量部(12モル%)、ハイドロキノン68質量部(8モル%)、テレフタル酸206質量部(16モル%)、イソフタル酸51質量部(4モル%)、さらにハイドロキノンの過剰添加分として更にハイドロキノン4質量部、および無水酢酸868質量部(フェノール性水酸基合計の1.09当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら145℃で1.5時間アセチル化反応させた後、4時間かけて270℃まで反応を続け、さらに2時間かけて355℃まで昇温していき、減圧装置にて減圧を開始し、2時間かけて133Pa(1torr)まで減圧を行い、規定の攪拌トルクに到達したところで重縮合反応を終了させる製造方法」で重合体を製造するからといって、本件発明1における液晶ポリエステル樹脂に係る絶対分子量の分子量分布及びそのピーク面積の面積分率に係る規定を満たす蓋然性が高いということはできないから、上記相違点b1は実質的な相違点であると認められる。
また、甲2及び他の甲号証を検討しても、甲2発明の「液晶性ポリエステル樹脂」が本件発明1における絶対分子量の分子量分布及びそのピーク面積の面積分率に係る規定を満たすであろうと認識できるような技術的根拠となる事項が存するものとも認められない。
してみると、上記相違点b1は、実質的な相違点であるし、各甲号証の記載に照らしても、甲2発明において、当業者が適宜なし得たことということもできない。

(ウ)甲2に記載された発明に基づく検討のまとめ
よって、上記相違点b2につき検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明、すなわち甲2に記載された発明であるということはできないものであるとともに、甲2に記載された発明に基づき、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものということもできない。

ウ.甲3に記載された発明に基づく検討

ウ-1.甲3発明1に基づく検討

(ア)対比
本件発明1と甲3発明1とを対比すると、
「液晶ポリエステル樹脂」
の点で一致し、少なくとも以下の2点で相違する。

相違点c1:本件発明1では「ゲル浸透クロマトグラフ/光散乱法により測定される絶対分子量の分子量分布において、全ピーク面積100%に対する絶対分子量10000以下の部分の面積分率が12?40%であり、かつ絶対分子量50000以上の部分の面積分率が3?17%である」のに対して、甲3発明1では液晶性ポリエステル樹脂に係る絶対分子量の分子量分布及びそのピーク面積の面積分率につき特定されていない点
相違点c2:「液晶ポリエステル樹脂」につき、本件発明1では「積層体用」であるのに対して、甲3発明1では当該用途につき特定されていない点

(イ)検討
上記相違点c1につき検討すると、甲3及び他の甲号証を検討しても、甲3発明1の「液晶ポリエステル樹脂」が本件発明1における液晶ポリエステル樹脂に係る絶対分子量の分子量分布及びそのピーク面積の面積分率に係る規定を満たすであろうと当業者が認識できるような技術的根拠となる事項が存するものとも認められず、甲3発明1の「液晶ポリエステル樹脂」が、本件発明1における液晶ポリエステル樹脂に係る絶対分子量の分子量分布及びそのピーク面積の面積分率に係る規定を満たす蓋然性が高いということはできないから、上記相違点c1は実質的な相違点であると認められ、各甲号証の記載に照らしても、甲3発明1において、当業者が適宜なし得たことということもできない。

(ウ)小括
したがって、上記相違点c2につき検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明1と同一であるとはいえず、また、甲3発明1に基づいて各甲号証に記載された事項を組み合わせることにより、当業者が容易に発明することができたということもできない。

ウ-2.甲3発明2に基づく検討

(ア)対比
本件発明1と甲3発明2とを対比すると、
「液晶ポリエステル樹脂」
で一致し、少なくとも以下の2点で相違する。

相違点c3:本件発明1では「ゲル浸透クロマトグラフ/光散乱法により測定される絶対分子量の分子量分布において、全ピーク面積100%に対する絶対分子量10000以下の部分の面積分率が12?40%であり、かつ絶対分子量50000以上の部分の面積分率が3?17%である」のに対して、甲3発明2では液晶ポリエステル樹脂に係る絶対分子量の分子量分布及びそのピーク面積の面積分率につき特定されていない点
相違点c4:「液晶ポリエステル樹脂」につき、本件発明1では「積層体用」であるのに対して、甲3発明2では「液晶ポリエステル樹脂」の用途につき特定されていない点

(イ)検討
上記相違点c3につき検討すると、重合体の絶対分子量の分子量分布について、当該重合体の製造方法の概略が同一であったとしても、相違点c3に係る重合体の分子量分布に係る事項が一致するという技術常識が存するものとは認められないから、甲3発明2における「p-ヒドロキシ安息香酸870重量部、4,4’-ジヒドロキシビフェニル352重量部、ハイドロキノン89重量部、テレフタル酸292重量部、イソフタル酸157重量部および無水酢酸1278重量部(フェノール性水酸基合計の1.07当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら145℃で2時間反応させた後、145℃から320℃まで4時間で昇温した後、重合温度を325℃に保持し、1.0時間で1.0mmHgに減圧し、更に30分反応を続け、撹拌に要するトルクが20kg・cmに到達したところで重合を完了させる製造方法により製造された、Tm314℃、溶融粘度25Pa・sである」重合体であるからといって、本件発明1における液晶ポリエステル樹脂に係る絶対分子量の分子量分布及びそのピーク面積の面積分率に係る規定を満たす蓋然性が高いということはできないから、上記相違点c3は実質的な相違点であると認められる。
また、甲3及び他の甲号証を検討しても、甲3発明2の「液晶ポリエステル樹脂」が本件発明1における絶対分子量の分子量分布及びそのピーク面積の面積分率に係る規定を満たすであろうと認識できるような技術的根拠となる事項が存するものとも認められない。
してみると、上記相違点c3は、実質的な相違点であるし、各甲号証の記載に照らしても、甲3発明2において、当業者が適宜なし得たことということもできない。

(ウ)小括
したがって、本件発明1は、甲3発明2と同一であるとはいえず、また、甲3発明2に基づいて各甲号証に記載された事項を組み合わせることにより、当業者が容易に発明することができたということもできない。

ウ-3.甲3に記載された発明に基づく検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲3発明1又は甲3発明2、すなわち甲3に記載された発明であるとはいえず、また、甲3に記載された発明に基づいて、たとえ各甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明することができたということはできない。

エ.本件発明1に係る検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第1号証、甲第2号証又は甲第3号証に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当するものでもないし、甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということもできないものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでもないから、本件の請求項1に係る発明についての特許は、特許法第29条に違反してされたものではない。

(2)本件発明3及び本件発明5ないし7について
本件発明3及び本件発明5ないし7は、いずれも本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるところ、本件発明1については、上記(1)で説示したとおりの理由により、甲第1号証、甲第2号証又は甲第3号証に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当するものでもないし、甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということもできないものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでもないから、本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明3及び本件発明5ないし7についても、甲第1号証、甲第2号証又は甲第3号証に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当するものでもないし、甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということもできない。

3.取消理由1及び2に係るまとめ
よって、本件の請求項1、3及び5ないし7に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条に違反してされたものではなく、上記取消理由1及び2は、いずれも理由がない。

第5 むすび
以上のとおり、本件特許に係る異議申立において特許異議申立人が主張する取消理由はいずれも理由がなく、本件の請求項1、3及び5ないし7に係る発明についての特許は、取り消すことができない。
ほかに、本件の請求項1、3及び5ないし7に係る発明についての特許を取り消すべき理由も発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-03-31 
出願番号 特願2019-141965(P2019-141965)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C08G)
P 1 651・ 121- Y (C08G)
P 1 651・ 113- Y (C08G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小森 勇  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 橋本 栄和
佐藤 玲奈
登録日 2020-05-18 
登録番号 特許第6705537号(P6705537)
権利者 東レ株式会社
発明の名称 積層体用液晶ポリエステル樹脂、液晶ポリエステル樹脂組成物、積層体および液晶ポリエステル樹脂フィルム  

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