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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C12G 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C12G 審判 全部申し立て 2項進歩性 C12G |
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管理番号 | 1372765 |
異議申立番号 | 異議2021-700023 |
総通号数 | 257 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-05-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-01-08 |
確定日 | 2021-04-08 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6719626号発明「ビールテイスト飲料、およびビールテイスト飲料の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6719626号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6719626号の請求項1ないし11に係る特許についての出願は、令和1年7月12日に特許出願され、令和2年6月18日に特許権の設定登録がされ、同年7月8日にその特許公報が発行され、その後、令和3年1月8日に、特許異議申立人 中川 賢治(以下「特許異議申立人」という。)により、請求項1?11に係る特許に対して、特許異議の申立てがされたものである。 第2 特許請求の範囲の記載 本件の特許請求の範囲の請求項1?11に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明11」という。まとめて、「本件特許発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下、全窒素量が40?200mg/100mL、総ポリフェノール量が30?180質量ppm、リナロールの含有量が20?1200ppb、全窒素量(mg/100mL)/総ポリフェノール量(質量ppm)が0.35?3.0であるビールテイスト飲料。 【請求項2】 全窒素量が57?178mg/100mLであり、総ポリフェノール量が52?163質量ppmである、請求項1に記載のビールテイスト飲料。 【請求項3】 原麦汁エキス(O-Ex)濃度が5?18質量%である、請求項1または2に記載のビールテイスト飲料。 【請求項4】 全窒素量(mg/100mL)/総ポリフェノール量(質量ppm)が0.5?3.0である、請求項1?3のいずれかに記載のビールテイスト飲料。 【請求項5】 窒素またはポリフェノールの少なくとも一部が麦芽由来である、請求項1?4のいずれかに記載のビールテイスト飲料。 【請求項6】 請求項1?5のいずれかに記載のビールテイスト飲料を製造する方法であって、 水および麦芽を含む原料に、酵母を添加して、アルコール発酵を行う工程を有する、ビールテイスト飲料の製造方法。 【請求項7】 ホップを配合する工程を有しない、請求項6に記載のビールテイスト飲料の製造方法。 【請求項8】 麦芽比率が40質量%以上である、請求項6または7に記載のビールテイスト飲料の製造方法。 【請求項9】 さらに、酵母が資化可能な原料からなる群から選ばれる1種以上を配合する工程を有する、請求項6?8のいずれかに記載のビールテイスト飲料の製造方法。 【請求項10】 さらに、穀物に由来するスピリッツを添加する工程を有する、請求項6?9のいずれかに記載のビールテイスト飲料の製造方法。 【請求項11】 さらに、コリアンダー、コリアンダーシードまたはこれらの抽出物を添加する工程を有する、請求項6?10のいずれかに記載のビールテイスト飲料の製造方法。」 第3 特許異議申立理由 1 進歩性 異議申立理由1A:請求項1?11に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の、刊行物に記載された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明および甲第2号証?甲第7号証、甲第13号証?甲第16号証に記載された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった技術的事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 異議申立理由1B:請求項1?11に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の、刊行物に記載された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第7号証に記載された発明および甲第3号証?甲第6号証、甲第8号証?甲第12号証、甲第13号証?甲第16号証に記載された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった技術的事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 2 サポート要件 異議申立理由2:請求項1?11に係る発明について、請求項1?11に係る発明の効果を奏することが確認されているのは全窒素量(mg/100mL)/総ポリフェノール量(質量ppm)が0.35?3.0のうち1.088?1.089のビールテイスト飲料及びその製造方法のみであり、また、原麦汁エキス(O-Ex)濃度が10?13質量%のビールテイスト飲料及びその製造方法のみであるが、請求項1?11に係る発明は、この範囲外であるビールテイスト飲料及びその製造方法を含むから、さらに、アルコール濃度は呈味に影響を及ぼすが(甲第17号証)、請求項1?11に係る発明では、アルコール濃度が特定されておらず、効果を奏しない範囲を含むから、そして、本件明細書の実施例の製造方法が一般的なものであるのに全窒素量が高濃度であり、当業者が製造、追試、効果の理解ができないから、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえず、本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 3 実施可能要件 異議申立理由3:請求項1?11に係る発明について、請求項1?11に係る発明の効果を奏することが確認されているのは全窒素量(mg/100mL)/総ポリフェノール量(質量ppm)が0.35?3.0のうち1.088?1.089のビールテイスト飲料及びその製造方法のみであり、また、原麦汁エキス(O-Ex)濃度が10?13質量%のビールテイスト飲料及びその製造方法のみであるが、請求項1?11に係る発明は、この範囲外であるビールテイスト飲料及びその製造方法を含むから、さらに、アルコール濃度は呈味に影響を及ぼすが請求項1?11に係る発明では、アルコール濃度が特定されておらず、効果を奏しない範囲を含むから、そして、本件明細書の実施例の製造方法が一般的なものであるのに全窒素量が高濃度であり、当業者が製造、追試、効果の理解ができないから、本件明細書には、請求項1?11に係る発明の全範囲において当業者が実施できるように記載されているとはいえず、本件特許は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 記 甲第1号証:J.A.Delcour 外4名,J.Inst.Brew.,Vol.90,1984年,p.67?72,<URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/j.2050-0416.1984.tb04239.x>を通じて入手 甲第2号証:国武 直之,第3章 含窒素化合物,日本醸造協会雑誌,財団法人日本醸造協会,第71巻,第9号,1976年,p.682?688<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jbrewsocjapan1915/71/9/_contents/-char/ja>を通じて入手 甲第3号証:財団法人 日本醸造協会編,醸造物の成分,平成11年12月10日,p.196?201 甲第4号証:R.T.Foster II 外2名,The Contribution of Post-Fermentation Bittering to Beer Composition and Stability,MBAA Technical Quarterly,Vol.37,No.1,2000年,p.89?95<URL:https://www.mbaa.com/publications/tq/tqPastIssues/2000/Abstracts/tq00ab24.htm>を通じて入手 甲第5号証:特開2019-92516号公報 甲第6号証:S.Hanke,Untersuchungen zum Einfluss der Hopfungstechnologie auf die Geschmacksstabilitaet und Harmonie untergaeriger Biere,ミュンヘン工科大学,2009年12月11日 <URL:https://mediatum.ub.tum.de/doc/808712/808712.pdf> 甲第7号証:国際公開第2010/084018号 甲第8号証:HACK著,カラーブックス ビール入門,株式会社保育社,平成2年8月20日,p.60 甲第9号証:稲保幸 著,世界酒大事典,株式会社柴田書店,1995年8月1日,p.137 甲第10号証:平野陽三 発行,世界のビール図鑑,株式会社ガイアブックス,2018年1月20日,p.148 甲第11号証:佐藤純一,ロシアの飲みもの,月刊言語,株式会社大修館書店,1983年,Vol.12,No.8,p.33 甲第12号証:坂口謹一郎,モスクワの酒,日本醸造協会雑誌,財団法人日本醸造協会,第57巻,第1号,1962年1月15日,p.20?25<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jbrewsocjapan1915/57/1/_contents/-char/ja>を通じて入手 甲第13号証:特開2013-138619号公報 甲第14号証:特開2016-123357号公報 甲第15号証:国際公開2014/119065号 甲第16号証:特開2018-23295号公報 甲第17号証:梶浦 英明 外2名,エタノールの味,日本味と匂学会誌,第6巻第2号,1999年8月,p.139?144 第4 当審の判断 異議申立理由1A及び異議申立理由1B(進歩性)について 1 甲号証の記載事項 (1)甲第1号証 本願の出願前頒布された刊行物である甲第1号証には、以下の記載がある。 訳文にて示す。 (1a)「ホップ無しとホップ有りのオールモルト(麦芽100%)ピルスナービールを、プロアントシアニジンフリーの麦芽(ant 13-13xRupal)と通常の麦芽(Gatinais)を用いて醸造した。タンニンフリーのホップエキスを使用した。ビールは化学的に分析され、苦味における可能な嗜好性と違いを検出するために、専門家とトレーニングを受けていない味覚パネルの両方に供された。対比較試験は、3%の有意差で、無ホップビールの苦みの評価に違いがあり、プロアントシアニジンを含まないビールの方が苦いころを示す。パネリストは渋味の違いを検出せず、どちらのビールも嗜好性に違いはなかった。ホップビールの場合、対比較試験では、苦味、渋味、嗜好の違いはみられなかった。最後に専門家とトレーニングを受けていないパネルの両方を使用して行った三点試験法において、5%の有意差で、ホップ無しとホップ有りのプロアントシアニジンフリーと通常のビールに差はみつからなかった。」(67頁 要約) (1b)「ビール醸造-各醸造用の挽いた麦芽(9kg)を45℃30リットルの醸造水ですりつぶした。30分後注入により温度は約20分で63℃まで上昇した。温度を63℃で30分間一定に保ち、その後、約10分で70℃まで上昇させた。45分後使用済み穀物を甘麦汁から分離し、熱水(70℃)を散布した。その増量と散布工程に約90分をかけた。次に、麦汁を0.5M硫酸でpH5.2に酸性化し、酸を添加する前に分析用の甘麦汁サンプルを採取した。甘麦汁の沸騰に90分をかけた。ホップありのビールの場合には、沸騰(煮沸)工程の初めにα酸(100mg/l)を添加する。総量の約10%が沸騰中に蒸発した。 麦汁(約60リットル)を約15分で8℃に冷却した。ホップありの麦汁300mlに懸濁したサッカロミセス カールスバーゲンシス90mgを添加し、麦汁を滅菌された酸素で酸化した。発酵容器を9℃で5日間維持した。その後、ビールを二酸化炭素圧力下ラガータンクへ移した。第2次発酵を9℃で7日間行った。」(67頁右欄14?34行) (1c)「Gatinais及びant13-13xRupal麦芽から生産された無ホップ及びホップ有りビールのビール分析 分析 ビール1 ビール2 ビール3 ビール4 総ポリフェノールmg/L 136 52 135 49 アントシアノーゲンmg/L 34.6 5.5 35.1 4.3 苦味価 EBCユニット 2.7 4.1 21.1 21.4 原麦汁エキス% 11.09 10.96 11.25 10.95 ・・・ 総タンパク質量g/L 4.57 4.58 4.46 4.47 ・・・ ビール1:Gatinais麦芽、無ホップ ビール2:ant13-13xRupal麦芽、無ホップ ビール3:Gatinais麦芽、ホップ有り ビール4:ant13-13xRupal麦芽、ホップ有り」(69頁表4) (2)甲第2号証 本願の出願前頒布された刊行物である甲第2号証には、以下の記載がある。 (2a)682頁の 「第1表 ビールの全窒素 (mg/l)」と題する表には、対象ビールとして、各引用文献に記載された、それぞれ、日本(各社)、日本 全麦芽ビール、アメリカ、カナダ、欧大陸諸国、英・アイルランド ポータ、アメリカ エール、カナダ エール、アイルランド スタウト、日本(各社) スタウト、日本(各社) 黒ビールについて、それぞれ、全窒素が[平均(範囲)]で、[490(400-580)]、[710(630-780)]、[470(420-590)]、[610(500-770)]、[610(370-850)]、[760(750-760)]、[480(450-500)]、[690(560-820)]、[1000(860-1090)]、[920(800-1030)]、[830(720-910)]であることが示されている。 (2b)「近年,ビール蛋白の研究にもゲルろ(決定注:原文はさんずいに戸)過法が導入されて^(401)?407)),ようやく分子量分画的な研究が現れ始めたが,まだ数値的にまとめ得べきデータがほとんど無い。一例だけ挙げると,Narziβ ら^(407))はドイツの12%淡色ビール2点について次の様に報告している。 第5表 “ビール蛋白”の分子量分布 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ mg/l 全窒素×6.25 分子量分布 ?2600 ?4600 ?1.2万 ?3万 ?6万 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ビールA 2,390 1,035 410 815 70 65 ビールB 2,530 1,360 660 205 180 120 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 (684頁右欄28?32行及び第5表) (3)甲第3号証 本願の出願前頒布された刊行物である甲第3号証には、以下の記載がある。 (3a)「(1)窒素化合物とその由来 イ 含有量 ビールの全固形分の約5%が窒素化合物である。ビールの種類によって異なるが,その範囲は約250mg/lから1,000mg/lに及ぶ^(1))。日本の主なビールの全窒素含量は,副原料使用ビールで450?600mg/l,全麦芽ビールでは700?900mg/lの範囲である。第1表に国産市販ビールの全窒素化合物の含量を示す^(2))。 ロ 由来と生成経路 ビール中の窒素化合物の由来は,原料の麦芽や副原料と発酵過程での生成がほとんどである。特にタンパク質・ペプチド・アミノ酸は,量的にはほとんどすべて大麦のタンパク質に由来する。ホップも粗タンパク13?24%を含み,その大部分は可溶性であるが,もともとホップの使用量は麦芽・副原料の1/100にすぎないから量的には問題とするに足りない^(3))。」(196頁左欄6?21行) (3b)「 第1表 国産市販ビールの全窒素化合物含量の分析例^(2)) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ビールの種類 Lager All malt AからE FからH ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 全窒素(mg/l) 550 540 450 480 500 790 720 820 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 」(196頁第1表) (4)甲第4号証 本願の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった電子的技術情報である甲第4号証には、以下の記載がある。 訳文にて示す。 (4a)「パイロット醸造 クアーズパイロット醸造所は、ライトビールとラガービールの両方を、麦芽と副原料の比率を60:40で醸造した。副原料は、精製されたでんぷん粉と米で構成されていた。ヘリオットワット大学パイロット醸造所は、100%麦芽でラガービールを醸造した。両方のパイロット醸造所でのこれらの試験における無ホップビールは、さまざまな苦味レベルになるように、パッケージされたビールに事前に異性化されたアルファ酸で発酵後にホップ処理された。両方のパイロット醸造所からのビールの一部は、ボトルを必要な時間温水に沈めることによって加熱殺菌された。」 (90頁左欄6?15行) (4b)「加熱殺菌されていない及び加熱殺菌されたホップ添加ラガービール(60:40、麦芽:副原料)の両方の物理的安定性は、ホップ無添加ビールと比較して、より大きな永続的および寒冷の混濁の発生を示した。無ホップラガーに対する、事前に異性化されたIAAを使用した発酵後のホッピングは、総ポリフェノールレベルを増加させ、おそらくポリフェノール感受性タンパク質相互作用を増加させ、ホップ添加ビールの物理的安定性を低下させた(表3参照)。」(91頁右欄1?8行) (4c)「 ビール ボトル充填 IBU^(1) IAA^(2) ポリフェノール 永続的な混濁 寒冷混濁 総混濁 タイプ ビール処理 mg/L mg/L mg/L ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ラガー 非加熱殺菌 10.8 9.5 85.6 3.32 1.94 5.26 ラガー 非加熱殺菌 1.6 0.5 62.1 2.10 0.34 2.44 ラガー 加熱殺菌 10.9 10.3 83.0 1.61 0.76 2.37 ラガー 加熱殺菌 1.4 0.5 64.5 1.54 0.27 1.81 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1-IBU=国際苦味価 3-20℃での全シグリスト角度(EBCフォルマジン単位) 2-IAA=イソ-α酸 4-0℃での全シグリスト角度(EBCフォルマジン単位) 表3 異性化ホップエキスを後発酵後添加した加熱殺菌ビールと非加熱殺菌ビールのポリフェノールと物理的安定性の比較」(92頁表3) (5)甲第5号証 本願の出願前に頒布された刊行物である甲第5号証には、以下の記載がある。 (5a)「【請求項1】 苦味価が5未満、総ポリフェノール量が30mg/L以上、総ポリフェノール量(mg/L)に対する全窒素量(mg/L)の比が0.1超3.0以下である、ビールテイスト飲料。」 (5b)「【発明が解決しようとする課題】 【0004】 ビールらしい香味の付与に用いられる原材料として、ホップが通常用いられる。一方、ビールテイスト飲料がホップ由来の苦味成分を含む場合、飲みにくいと感じられる場合があった。 【0005】 本発明は、飲みにくさを解消しつつ、ビールらしいコク及びキレを有するビールテイスト飲料の提供を目的とする。」 (5c)「【0013】 ビールテイスト飲料は、アルコール度数が1v/v%以上であるビールテイストアルコール飲料であってもよく、アルコール度数が1v/v%未満であるノンビールテイストアルコール飲料であってもよい。本実施形態に係るビールテイスト飲料は、ビールテイスト飲料としてのアルコール感を担保する観点から、アルコール度数が1v/v%以上であるビールテイストアルコール飲料であることが好ましい。ビールテイストアルコール飲料は、例えば、蒸留アルコールを添加したものであってもよく、発酵工程を介してアルコールを含むものとなったものであってもよい。なお、アルコール度数とは、ビールテイスト飲料に含まれるエタノールの含有量を意味する。」 (5d)「【0018】 本実施形態に係るビールテイスト飲料の苦味価は、5未満であればよく、飲みやすさがより改善される観点から、4.5以下、4.0以下、3.5以下、3.0以下、2.5以下又は2.0以下であってよい。ビールテイスト飲料の苦味価は、0.5以上、1.0以上又は1.5以上であってよい。」 (5e)「【0021】 本実施形態に係るビールテイスト飲料の総ポリフェノール量は、ビールらしいコク及びキレがより優れたものとなるという観点から、40mg/L以上、60mg/L以上、100mg/L以上、125mg/L以上、150mg/L以上、200mg/L以上、250mg/L以上、300mg/L以上、400mg/L以上、又は500mg/L以上であってよい。総ポリフェノール量は、3000mg/L以下、2600mg/L以下、1000mg/L以下、515mg/L以下、又は260mg/L以下であってもよい。総ポリフェノール量は、原料の種類及び使用量を調整することにより、上記範囲に適宜設定することができる。また、総ポリフェノール量は、例えば、製造工程の任意の段階におけるカテキン、ヘスペリジン、赤ワインエキス等の添加、ポリビニルポリピロリドン(Polyvinylpolypyrrolidone;PVPP)を用いた処理等により調整することもできる。 【0022】 本実施形態に係るビールテイスト飲料の全窒素量は50mg/L以上であってよい。全窒素量は、ビールらしいコクがより一層良好になるという観点から、60mg/L以上、100mg/L以上、110mg/L又は、120mg/L以上であってよく、ビールらしいキレがより一層良好になるという観点から、1000mg/L以下、500mg/L以下、又は480mg/L以下であってもよい。」 (5f)「【0024】 総ポリフェノール量(mg/L)(以下、「TPP」ともいう。)に対する全窒素量(mg/L)(以下、「TN」ともいう。)の比(TN/TPP)は、0.1超3.0以下である。TN/TPPは、2.5以下、2.0以下、1.5以下、1.0以下又は0.9以下であってもよく、0.15以上、0.2以上又は0.3以上であってもよい。TN/TPPが上記範囲内であることにより、ビールらしいコク及びキレがより一層優れたものとなる。TN/TPPは、全窒素量及び/又は総ポリフェノール量を、上記記載の方法で調整することで、上記記載の範囲に適宜設定することができる。 【0025】 本実施形態に係るビールテイスト飲料は、原料として麦原料を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。本明細書において麦原料とは、麦又は麦加工物をいう。麦としては、例えば、大麦、小麦、ライ麦、カラス麦、オート麦、ハト麦、エン麦が挙げられる。麦加工物としては、例えば、麦エキス、麦芽、モルトエキスが挙げられる。麦エキスは、麦から糖分及び窒素分を含む麦エキス分を抽出することにより得られる。麦芽は麦を発芽させることにより得られる。モルトエキスは、麦芽から糖分及び窒素分を含むエキス分を抽出することにより得られる。麦原料は、1種を単独で使用してもよく、複数種を併用してもよい。」 (5g)「【0028】 本実施形態に係るビールテイスト飲料は、原料として麦原料以外の植物原料を含んでもよい。言い換えれば、当該ビールテイスト飲料は、原料として、植物原料を使用したものであってよい。麦原料以外の植物原料としては、例えば、とうもろこし、米類、コウリャン等の穀類;馬鈴薯、サツマイモ等のイモ類;大豆、エンドウ等の豆類等が挙げられる。麦原料以外の植物原料としては、1種を単独で使用してもよく、複数種を併用してもよい。本実施形態に係るビールテイスト飲料は、原料としてスターチ、グリッツ等の澱粉原料を含んでいてもよい。本実施形態に係るビールテイスト飲料は、原料として、大豆、エンドウ及びとうもろこしからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、原料として、大豆及びエンドウからなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。本実施形態に係るビールテイスト飲料は、原料として、上記植物原料に由来するタンパク質又はその分解物(例えば、エンドウタンパク分解物)を含んでいてよい。」 (6)甲第6号証 本願の出願前に頒布された刊行物である甲第6号証には、以下の記載がある。 訳文にて示す。 (6a)「ホップ添加技術が下面発酵ビールの味の安定性と調和に及ぼす影響の調査」(タイトル) (6b)「・・・ HA0-ホップなしのビール、セントヨハン ・・・ TA0-ホップなしのビール、ヴァイエンシュテファン ・・・」(IV?VII頁) (6c)「3.1.3 ホップを添加しないビールの製造 ホップを添加しないビールの製造は、市販の淡色のピルスナー用の麦芽を張り湯比1:4で使用した。仕込み方法ホッホクルツ製法(62℃アインマイシュ)で表4の通りの温度で実施した。 表4 マッシングプロセス アインマイシェ ・・・ アプマイシェン ・・・ 濾過槽にて15分間の濾過槽静置後に濾過を実施し、(一番麦汁を加えて)全部で30Lの二番麦汁を得て、煮沸開始前の取切麦汁のエキスは、10.4%のものが得られた。ホップ添加なしで60分間煮沸後に65Lのエキス11.2%の煮上がり麦汁を得、ワールプールに送り、20分間以内で熱トルーブを除去した。・・・苦み成分は、イソフムロン濃縮液で調整し、官能検査の数時間前に瓶に添加した。」(39頁1?最下行) (6d)「表35:ホップの投与量とホップ製品を変更するための一連のテスト結果 ホップ添加 0BE ホップの種類 CO_(2)抽出物 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 麦汁 pH 5.54 色度[EBC] 8.5 エキス[GG%] 12.23 全窒素[mg/l] 1022 凝固性窒素[mg/l] 58 TBZ 45 苦味価[BE] 2 イソ-α-酸[mg/l] - α-酸[mg/l] - ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 (102頁 表35) (6e)「表40:異なる熟成ホップを使用した場合のビールの分析結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・無ホップ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ビール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 総ポリフェノール[mg/l] 122 (中略) 苦味価 - pH 4.30 原麦汁[GG%] 12.3 アルコール[容量%] 5.15 イソ-α-酸[mg/l] - α-酸[mg/l] - (後略) 」 (118頁 表40) (6f)「表48:異なるホップ投与時間でのビールの結果 ビール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・無ホップ pH・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4.30 原麦汁[GG%] 12.3 アルコール[容量%] 5.15 総ポリフェノール[mg/l] 122 (中略) 苦味価 - イソ-α-酸[mg/l] - α-酸[mg/l] - (後略) 」 (136頁 表48) (6g)「表50:シリーズAのビール分析(ヴァイエンシュテファン) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・TA0 原麦汁[質量%] 11.33 アルコール[容量%] 4.86 (中略)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ pH 4.43 色度 6.2 総ポリフェノール[mg/l] 145 (中略) イソ-α-酸[mg/l] - α-酸[mg/l] -」 (139頁 表50) (6h)「表51:シリーズAのビール分析(セントヨハン) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・HA0 原麦汁[質量%] 11.78 アルコール[容量%] 5.14 (中略)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ pH 4.66 色度 6.9 総ポリフェノール[mg/l] 163 (中略) イソ-α-酸[mg/l] 1.9 α-酸[mg/l] 0.0」 (140頁 表51) (7)甲第7号証 本願の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった電子的技術情報である甲第7号証には、以下の記載がある。 訳文にて示す。 (7a)「本発明は、麦芽汁をベースとする発酵飲料およびその製造方法に関する。」(1頁5?6行) (7b)「まず、麦芽を用意する。次いで、麦芽は麦汁に加工され、この麦汁は、最終的に、ここに記載されたプロセスパラメータの下で麦芽糖を発酵させない、または麦芽糖を発酵させない、いわゆるマルトース非資化性酵母の少なくとも1種の酵母を用いて発酵される。有利なことに、結果として得られる飲料には、麦汁の香りはもはや存在しない。マルトース非資化性酵母を使用することにより、モルトフレーバー飲料が得られる。発酵が止まるポイントによって、飲料のアルコール度数が変化することがある。該飲料は、エタノールの含有量が0.5容量%以下であることが好ましく、特に0.3容量%以下であることが好ましい。」(1頁28行?2頁3行) (7c)「好ましくは、モルトベースの麦汁は、アンホッピングされたモルトベースの麦汁である。本発明に従った工程が、ノンアルコールビールおよび苦味を有する飲料を製造するために使用される場合、麦芽ベースの麦汁は、ホップを含んでいてもよい。本発明に従ったノンアルコールビールは、40苦単位未満、好ましくは20?31苦単位、特に好ましくは26苦単位の苦味を有していてもよい。本発明に従うノンアルコールビールは、エキスの含有量が10%未満、好ましくは3?9%、特に好ましくは5?7%で製造される。」(2頁29行?3頁2行) (7d)「麦芽のみに基づく麦汁に基づく飲料の製造とは別に、麦汁は、上述のように、大麦、米および/またはトウモロコシなどの少なくとも1つの生の果実成分を含んでいてもよい。生の果実としては大麦が好ましい。」(3頁4?7行) (7e)「麦汁の製造に使用される麦芽の割合は、生の穀物の割合を添加することで減少する。本発明によれば、1%から50%から99%から50%までの生の穀物麦芽を添加することができる(生の穀物と麦芽を合わせた割合が100%となるように)。」(3頁9?11行) (7f)「したがって、本発明の好ましい実施形態では、乳酸菌の好ましい性質が知られているので、麦汁の発酵に乳酸菌を使用することができる。しかし、麦汁発酵における乳酸菌の使用には、ホップなどの微生物活性物質に対する乳酸菌の感受性について特別な配慮が必要である。したがって、本発明の好ましい実施形態では、飲料の製造にホップは使用されない。」(6頁3?8行) (7g)「本発明の飲料は、好ましくはホップされていない麦汁ベースに基づいており、これはまた、生の穀物画分を有していてもよい。このような場合には、特に大麦が有利である。」(8頁9?11行) (7h)「表2 本発明に従った飲料の調製のための1つの好ましい処方 30kg中の配合量(kg) % ローラーミルでの粉砕[mm] ピルスナー麦芽 21 70 1.7 (大麦麦芽) 大麦 4.5 15 (事前に5-8分水に浸漬) 1.0 ライ麦芽 3 10 0.7 着色麦芽 アロマ麦芽 1.5 5 1.7 メラノイジン麦芽 」 (8頁13?14行) (7i)「表3 異なる着色を有する本発明に従った飲料の調製のための1つの好ましい処方 30kg中の配合量(kg) % ローラーミルでの粉砕[mm] ピルスナー麦芽 19.5-22.5 65-75 1.7 (大麦麦芽) 大麦 3?6 10-20(事前に5-8分水に浸漬) 1.0 ライ麦芽 3 10 0.7 着色麦芽 アロマ麦芽 0-3 0-10 1.7 メラノイジン麦芽 」 (9頁21?最下行) (7j)「クワス様飲料調製のために、表3に記載のレシピにおいて、風味に応じて、1%?5%のメラノイド麦芽または着色麦芽の含有量をロースト麦芽に置き換えることができ、ライ麦芽の含有量を30%まで増加させることができ、それに対応する大麦および麦芽の含有量を減少させることができる(表5を参照のこと)。 表5 本発明に従った飲料の調製のための別の特に好ましい処方(クワス様飲料) 30kg中の配合量(kg) % ローラーミルでの粉砕[mm] ピルスナー麦芽 21 65 1.7 (大麦麦芽) 大麦 3 10 (事前に5-8分水に浸漬) 1.0 ライ麦芽 4.5 15 0.7 着色麦芽 アロマ麦芽 1.8 6 1.7 メラノイジン麦芽 ロースト麦芽 1.2 4 1.4」 (10頁4?最下行) (7k)「一態様において、麦芽-大麦麦芽ベースの発酵は、使用される様々な酵母を介して排他的に行われ、乳酸発酵によって乳酸が生成するのではなく、麦汁100mlあたり0.01ml?0.18ml、好ましくは0.9ml?0.13mlの範囲の乳酸を混合中に合成乳酸として添加されている。」(13頁21?25行) (7l)「実施例 a) 表1に示すマルトース非資化性酵母を用いてレシピに従って調製された飲料の分析値を示す。 右側の列は、それぞれの値が異なるレシピで優先的と見られる好ましい範囲を示し、左側の列は、可能性のある値または範囲を示す。例えば、アルコール含有量は、0.3容量%未満(右欄参照)であることが好ましいが、0.3容量%を超え、0.5容量%未満である場合がある(左欄参照)(例えば0.40容量%のように)。このようなアルコール含有量の増加は、濾過に6?8時間を要する場合に発生することがある。この期間中、最後の樽で二次発酵が行われ、その結果、体積が約0.1容量%増加した。 使用酵母:マルトース非資化性酵母 原麦汁: 5%-14% (7%-10%) エキス: 4%-13% (6%-9%) アルコール: <0.50vol% (<0.30vol%) pH値: 3.4-4.5 (3.4-4.1) 色: 4-90 EBC (5-40 EBC) 粘度: 1.1-1.9mPa^(*)s (1.3-1.7mPa*s) 全窒素(12%): 700-1100mg/l (800-1000mg/l) 凝固性窒素: 15-45mg/l (20-40mg/l) マグネシウム沈殿性窒素:150-280mg/l (170-260mg/l) 遊離αアミノ態窒素: 50-150mg/l (60-120mg/l) ポリフェノール類: 90-200mg/l (100mg/l-180mg/l) アントシアノゲン: 25-80mg/l 測光ヨード試料: 0.10-0.50dE」 (15頁8行?最終行) (7m)「b)サッカロマイコデス属のマルトース非資化性酵母(・・・)を用いて、表2に示す処方に従って調製された飲料の分析結果を示す。 原麦汁: 8.59% アルコール: <0.50vol% pH値: 3.9 色: 20 EBC 粘度: 1.677mPa^(*)s 全窒素(12%): 865mg/l 凝固性窒素: 26mg/l マグネシウム沈殿性窒素: 203mg/l 遊離αアミノ態窒素: 88mg/l ポリフェノール類: 117mg/l アントシアノゲン: 30mg/l 測光ヨード試料: 0.39 dE」 (16頁1?16行) (7n)「c)サッカロマイコデス属のマルトース非資化性酵母(・・・)を用いて、表2に示す処方に従って調製された飲料(1%着色モルトを含む)の分析結果を示す。 原麦汁: 8.53% アルコール: <0.50vol% pH値: 4.0 色: 11 EBC 粘度: 1.659mPa^(*)s 全窒素(12%): 933mg/l 遊離αアミノ態窒素: 92mg/l 凝固性窒素: 40mg/l マグネシウム沈殿性窒素: 242mg/l ポリフェノール類: 132mg/l アントシアノゲン: 30mg/l 測光ヨード試料: 0.16 dE」 (16頁18?33行) (8)甲第8号証 本願の出願前に頒布された刊行物である甲第8号証には、以下の記載がある。 (8a)「準ビール飲料 世界には様々なビールが存在するが、ビールに似ている準ビールとも呼ぶべき飲料もあちこちに残っている。 有名なものとしては、ソ連特産のクワスがある。主原料がライ麦麦芽、副原料が生ライ麦か砂糖、ホップはあまり加えない。家庭でつくる際にはライ麦の黒パンを使う。アルコール含量は、〇・四?〇・五%と低く、夏の飲み物として人気がある。」(60頁1?7行) (9)甲第9号証 本願の出願前頒布された刊行物である甲第9号証には、以下の記載がある。 (9a)「クヴァース Kvass 古くからロシアで飲まれているビールの1種.ライ麦が基本原料になるが,小麦,燕麦などの他,発酵させたライ・パンを用いることもあり,また家庭では,パン屑を用いることもある.香り付けは普通行わないが,果物を使うこともある.酸味があり,アルコール分は1度から2.5度程度である.わが国ではクワスともいっている.」(137頁左欄クヴァースの項1?7行) (10)甲第10号証 本願の出願前頒布された刊行物である甲第10号証には、以下の記載がある。 (10a)「液体のパン クワス ・・・ ロシアでは“kvas(クワス)”という言葉は「発酵させる(leaven)」という意味があり、すなわちビールを「発酵させる(fermented)」のと同じ状態を示す。 ・・・ 通常、アルコール度数は0.5?1.5%ほどで、甘めであり、濁りの程度はさまざまだ。通常、残り物のパンを発酵させてつくられ、使うパンはライ麦パンが最的だ。 果物と香辛料で味付けされることがあるが、ホップは使われない。・・・」(148頁下部の「液体のパン クワス」の項目) (11)甲第11号証 本願の出願前頒布された刊行物である甲第11号証には、以下の記載がある。 「 さて一方、キエフ・ルーシ以来の古い伝統をもつ庶民の飲料にはクワス KBaC[kvas決定注:aは原文ではaの上に’]がある。固くなった黒パンをくだいたものやライ麦の粉に水と麦芽を加えて軽く発酵させて作るが、ごく弱いアルコール分があり、冷やして飲むとビールに似た感じで、快い酸味と麦芽の香ばしい味が大人にも子供にも好まれている。」(33頁上欄10?14行) (12)甲第12号証 本願の出願前頒布された刊行物である甲第12号証には、以下の記載がある。 「・・・しかし,ソ連を去る一日前にシロコフ博士が約束とおりクワスの一杯つまった・・・クワスの味を満喫することができた。それは丁度うすにごりの麦酒のような外観,色は日本の麦酒より,もっと褐色で,にごりは,どうも酵母が一杯浮いているふうなにごりでその様子はドイツのワイスビヤと思えばまちがいない。香りは若い酒のもろみのようであり,糖蜜の醸酵液のようでもある。味はといえば,甘ずっぱくてホップを加えない麦酒に甘い果汁を加えたような感じである。なるほどこれはうまい。」(21頁左欄3?17行) (13)甲第13号証 本願の出願前頒布された刊行物である甲第13号証には、以下の記載がある。 (13a)「【0004】 一方で、ビールを飲んだときに感じる独特の「ふくみ香」や溜飲した後のアロマ香が近年着目され、その研究が行われている。ホップアロマ香を構成しているのがホップのルプリン粒に含まれるホップ精油である。ホップ精油について具体的な物質例を挙げると、リナロールはホップ精油に含まれる代表的なテルペン化合物であり、フローラル感を付与する物質である。その他にもモノテルペンであるミルセンやα-,β-ピネン、セスキテルペンにα-フムレンやβ-カリオフィレンなど、精油を構成する化合物は現在までに約300種以上が同定されている。 【0005】 このようにホップに由来する多様な香気成分の存在が知られているものの、飲料中の香気と化学成分に関する研究は限定的であった(非特許文献1?5参照)。すなわち、具体的香気と化学成分との対応関係は明確でなく、特に細分化した香気特徴と関連する化学成分はほとんど知られていない。」 (14)甲第14号証 本願の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった電子的技術情報である甲第14号証には、以下の記載がある。 訳文にて示す。 (14a)「【0015】 本実施形態においては、麦を発酵させて得られたアルコールに加えて、必要に応じ、さらにアルコールを添加することができる。添加するアルコールは、飲用アルコールであればよく、種類、製法、原料などは限定されない。例えば、焼酎、ブランデー、ウォッカなどの各種スピリッツ、原料用アルコールなどを1種又は2種以上を組み合わせて添加することができる。なお、麦を発酵させて得られたアルコールの濃度が高い場合は、所望のアルコール度数となるように希釈することもできることはいうまでもない。」 (14b)「【0030】 (リナロール、α-テルピネオール) リナロールとは、スズラン、ラベンダーの様な芳香を放つ化合物であり、モノテルペンアルコールの一種である。そして、α-テルピネオールとは、ライラックの様な芳香を放つ化合物であり、モノテルペンアルコールの一種である。 リナロール及びα-テルピネオールいずれもが、ビールテイスト飲料のキレを改善する効果、つまりキレを良くする効果を発揮する。ただし、α-テルピネオールの方がリナロールよりも少ない含有量(約1/2の含有量)で効果を発揮する。 【0031】 詳細には、ビールテイスト飲料中のリナロールの含有量をXppbとし、α-テルピネオールの含有量をYppbとした場合に、(X+2Y)≧200を満たすことにより、ビールテイスト飲料のキレを良くするという効果を得ることができる。なお、X=0又はY=0であっても、上記式を満たす限り、キレを良くするという効果を得ることができる。 一方、(X+2Y)が200未満の場合、リナロール及びα-テルピネオールに基づいたビールテイスト飲料のキレを改善する効果を期待できない。 【0032】 そして、ビールテイスト飲料中のリナロールの含有量をXppbとし、α-テルピネオールの含有量をYppbとした場合に、X≧200及びY≧100のうちの少なくとも一つを満たすことにより、ビールテイスト飲料のキレを良くするという効果を確実に得ることができる。つまり、X≧200を満たすことにより、リナロールに基づくビールテイスト飲料のキレを改善する効果を確実に得ることができ、Y≧100を満たすことにより、α-テルピネオールに基づくビールテイスト飲料のキレを改善する効果を確実に得ることができる。 【0033】 リナロールの含有量(X)の上限値については、特に限定されるものではないが、3000ppbを超えるとグリーンな香り(青臭い香り、ホップ臭)が強くなってしまう。よって、リナロールの含有量は3000ppb以下が好ましい。 また、α-テルピネオールの含有量(Y)の上限値についても、特に限定されるものではないが、5000ppbを超えると前記の効果が飽和してしまう。よって、α-テルピネオールの含有量は5000ppb以下が好ましい。 なお、ここで1ppbとは、詳細には1.0×10^(-9)w/vである。 【0034】 (リナロール、α-テルピネオール:由来) リナロール及びα-テルピネオールの由来は問わない。つまり、麦由来原料やホップなどの原料に由来して含有したものであると、任意添加材料として添加されたものであるとを問わず、最終製品における含有量が前記の範囲であればよい。 ただし、従来の方法によってビールテイスト飲料を製造した場合、リナロール及びα-テルピネオールの含有量を前記の範囲とするのは困難であるため、例えば、任意添加材料としてコリアンダーシードやオレンジピールを用いるのが好ましい。コリアンダーシードにはリナロールが、オレンジピールにはα-テルピネオールが豊富に含有されているとともに、いずれの香味もビールテイスト飲料に悪影響を及ぼさないからである。 なお、コリアンダーシードとは、コリアンダーの種子(植物学上では果実)である。また、オレンジピールとは、オレンジの果皮又はこの果皮を乾燥させたものである。」 (15)甲第15号証 本願の出願前頒布された刊行物である甲第15号証には、以下の記載がある。 (15a)「[0016] 麦芽はビールらしさを付与する重要な原料であるが、本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料においては、特定の16の香気成分の少なくとも1種以上が添加されることによってビールらしさが付与される。当該16の香気成分は、麦芽を原料としなくとも、原料由来の香気成分がほとんど含まれていない場合であっても、単独で添加することによってビールらしさを付与できる。」 (15b)「[0033] 本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料がリナロールを含有する場合、飲料中のリナロール含有量は、0.2?250000ppbが好ましく、32?8000ppbがより好ましく、160?1600ppbがさらに好ましい。」 (15c)「[0066][実施例1] 本発明者らは、ビールに含まれる主要香気成分を分析し、特に匂い強度の強い16成分(3-メチル-1-ブタノール、イソバレリン酸、γ-ノナラクトン、4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3-フラノン、2-アセチルチアゾール、4-ビニルグアイアコール、2-アセチル-1-ピロリン、2-プロピル-1-ピロリン、ミルセン、リナロール、β-ダマセノン、フェネチルアルコール、シス-3-ヘキセノール、3-メチル-2-ブテン-1-チオール、メチオノール、及び2-メチル-3-フランチオール)を同定した。 各成分を製造例1で製造したベース液に様々な濃度で添加し、ビールらしさについて官能評価を実施した。官能評価は、2名の専門パネルにより、香気成分無添加のベース液の評価を中心値4とした7段階評価(ビールらしさが感じられない場合を1とし、非常に強く感じられた場合を7とする。)にて行った。また、表3?5には、評価に当たり各パネルが述べたコメントも記載した。」 (15d)「[0068] [表4] ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ linalool 添加 添加量(ppb) 官能コメント ビールらしさ 評価 16 わからない 4 32 フローラル 5 160 フローラル、ホップ香 6 800 フローラル、ホップ香 6 1600 フローラル、ホップ香 6 8000 フローラル 5 16000 ラベンダー、香り強すぎる 3 (決定注:表示の関係で、項目と結果の縦横を逆に記載した。) (16)甲第16号証 本願の出願前頒布された刊行物である甲第16号証には、以下の記載がある。 (16a)「【0004】 原材料にホップを用いないビールテイスト飲料では、ホップの抗菌作用を利用できないため、微生物の殺菌が必要となる場合があり、例えば加熱工程が行われる。 そこで、原材料にホップを用いないビールテイスト飲料において、加熱工程による不快な香りがマスキングされた飲料が求められている。また、原材料にホップを用いないが優れた香味を有するビールテイスト飲料が求められている。」 (16b)「【0008】 1 ビールテイスト飲料 本発明のビールテイスト飲料は、リナロール(linalool)、2,5-ジメチル-4-ヒドロキシ-3(2H)-フラノンおよび2-アセチルピラジン(2-acetyl pyrazine)からなる群から選ばれる1以上を所定量含有し原材料にホップを使用しない飲料である。 【0009】 本明細書において、「ビールテイスト飲料」とは、ビール様の風味をもつ炭酸飲料をいう。つまり、本明細書のビールテイスト飲料は、特に断わりがない場合、酵母による発酵工程の有無に拘わらず、ビール風味を有するいずれの炭酸飲料をも包含する。本発明のビールテイスト飲料の種類としては、例えば、日本の酒税法上の名称における発泡酒、ビール、リキュール類、その他雑酒が含まれ、また、低アルコールの発酵飲料(例えばアルコール分1%未満の発酵飲料)、スピリッツ類、ノンアルコールのビールテイスト飲料、ビールテイストの清涼飲料なども含まれる。 【0010】 本発明のビールテイスト飲料のアルコール分は特に限定されないが、好ましくは0?40重量%、より好ましくは1?15重量%である。特にビールや、発泡酒といったビールテイスト飲料として消費者に好んで飲用されるアルコールと同程度の濃度、すなわち、1?7重量%の範囲であることが望ましいが、特に限定されるものではない。 【0011】 1.1 原材料 本発明のビールテイスト飲料の原材料は水、穀物、糖類、水溶性食物繊維および各種添加物等であり、ホップは含まれない。」 (16c)「【0017】 1.2 香気成分 本発明のビールテイスト飲料はリナロール、2,5-ジメチル-4-ヒドロキシ-3(2H)-フラノンおよび2-アセチルピラジンから選ばれる1以上の香気成分を含む。これらの香気成分を用いると、加熱工程などで発生する不快臭を効果的にマスキングできる。 【0018】 リナロールは3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オールであり、常温(20?25℃)で液体の化合物であり(20℃における密度:0.87g/cm^(3)以下、リナロールの質量を示す場合には20℃における質量を示す)、スズラン様のさわやかな甘い香りを有する成分であり、紅茶や緑茶などに含まれ、ホップの香気成分の1つとしても知られている。 2,5-ジメチル-4-ヒドロキシ-3(2H)-フラノンは、甘芳ばしい香りを有する成分であり、イチゴ、パイナップルなどに含まれる。 2-アセチルピラジンは、穀物様の芳ばしい香りを有する成分であり、ピーナッツ、ポップコーン、ゴマなどに含まれる。 【0019】 リナロール、2,5-ジメチル-4-ヒドロキシ-3(2H)-フラノン、2-アセチルピラジンは単独で用いられても、併せて用いられてもよい。 【0020】 原飲料に発酵液を用いたビールテイスト発酵飲料におけるリナロールの含有量は0.005質量ppm以上が好ましく、0.005?0.5質量ppmがさらに好ましく、0.01?0.5質量ppmが特に好ましい。原飲料に非発酵液を用いたビールテイスト非発酵飲料におけるリナロールの含有量は0.005質量ppm以上が好ましく、0.005?0.5質量ppmがさらに好ましく、0.01?0.5質量ppmが特に好ましい。」 (17)甲第17号証 サポート要件、実施可能要件に関する異議申立理由2,3について提出された甲第17号証には、図-1.エタノール水溶液の味の強さと題するグラフにおいて苦味、甘味、刺激感の強さとエタノール濃度の関係の結果が示され、エタノールの甘味の増強に関する効果、酸味抑制の効果の記載、図-2.ノンアルコールビールにエタノールを添加したときの味の強さと題するグラフにおいて、苦味、甘味、酸味に関し、エタノール濃度と味の強さの関係の結果が示され、エタノールがビールの「ボディ」に強く寄与することが記載されている。 2 甲号証に記載された発明 (1)甲第1号証に記載された発明 ア 甲第1号証は、オールモルトピルスナービールのホップ有り無し状況下でのプロアントシアニンフリー麦芽と通常麦芽を用いた風味と混濁安定性に関する文献であって、甲第1号証には、ホップ無しとホップ有りのオールモルト(麦芽100%)ピルスナービールを、プロアントシアニジンフリーの麦芽(ant 13-13xRupal)と通常の麦芽(Gatinais)を用いて醸造したものが分析され(摘記(1a))、摘記(1c)の表4には、通常の麦芽(Gatinais)を用いたホップ無しのビール1の分析結果として、総ポリフェノール136mg/L、アントシアノーゲン34.6mg/L、苦味価EBCユニット 2.7、原麦汁エキス11.09%、総タンパク質量4.57g/Lであることがその他の分析項目とともに示されている。 したがって、甲第1号証には、「通常の麦芽(Gatinais)を用いたホップ無しの、総ポリフェノール136mg/L、アントシアノーゲン34.6mg/L、苦味価EBCユニット 2.7、原麦汁エキス11.09%、総タンパク質量4.57g/Lであるビール」に係る発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 イ また、摘記(1b)には、甲第1号証の各ビールの醸造方法の記載として、「ビール醸造-各醸造用の挽いた麦芽(9kg)を45℃30リットルの醸造水ですりつぶした。30分後注入により温度は約20分で63℃まで上昇した。温度を63℃で30分間一定に保ち、その後、約10分で70℃まで上昇させた。45分後使用済み穀物を甘麦汁から分離し、熱水(70℃)を散布した。その増量と散布工程に約90分をかけた。次に、麦汁を0.5M硫酸でpH5.2に酸性化し、酸を添加する前に分析用の甘麦汁サンプルを採取した。甘麦汁の沸騰に90分をかけた。ホップありのビールの場合には、沸騰(煮沸)工程の初めにα酸(100mg/l)を添加する。総量の約10%が沸騰中に蒸発した。 麦汁(約60リットル)を約15分で8℃に冷却した。ホップありの麦汁300mlに懸濁したサッカロミセス カールスバーゲンシス90mgを添加し、麦汁を滅菌された酸素で酸化した。発酵容器を9℃で5日間維持した。その後、ビールを二酸化炭素圧力下ラガータンクへ移した。第2次発酵を9℃で7日間行った。」と記載され、ホップなしのビールの場合には、当然α酸を加えない無ホップの麦汁を使用することになるのであるから、摘記(1a)(1c)も考慮すると、以下の発明も記載されているといえる。 「挽いた麦芽(9kg)を45℃30リットルの醸造水ですりつぶし、30分後注入により温度は約20分で63℃まで上昇し、温度を63℃で30分間一定に保ち、その後、約10分で70℃まで上昇させ、45分後使用済み穀物を甘麦汁から分離し、熱水(70℃)を散布し、その増量と散布工程に約90分をかけ、次に、麦汁を0.5M硫酸でpH5.2に酸性化し、酸を添加する前に分析用の甘麦汁サンプルを採取し、甘麦汁の沸騰に90分をかけ、総量の約10%が沸騰中に蒸発し、麦汁(約60リットル)を約15分で8℃に冷却し、無ホップの麦汁300mlに懸濁したサッカロミセス カールスバーゲンシス90mgを添加し、麦汁を滅菌された酸素で酸化し、発酵容器を9℃で5日間維持し、その後、ビールを二酸化炭素圧力下ラガータンクへ移し、第2次発酵を9℃で7日間行って製造する通常の麦芽(Gatinais)を用いたホップ無しの、総ポリフェノール136mg/L、アントシアノーゲン34.6mg/L、苦味価EBCユニット 2.7、原麦汁エキス11.09%、総タンパク質量4.57g/Lであるビールの製造方法」に係る発明(以下「甲1製造方法発明」という。) (2)甲第7号証に記載された発明 ア 甲第7号証は、麦芽汁をベースとする発酵飲料およびその製造方法に関する文献(摘記(7a)であって、甲第7号証には、麦芽を麦汁に加工し、その麦汁が記載されたプロセスパラメータの下で麦芽糖を発酵させない、または麦芽糖を発酵させない、いわゆるマルトース非資化性酵母の少なくとも1種の酵母を用いて発酵され、結果として得られる飲料には、麦汁の香りが存在しない、モルトフレーバー飲料が得られることが記載され(摘記(7b))、摘記(7m)の表2、摘記(7n)の表3には、それぞれ、サッカロマイコデス属のマルトース非資化性酵母を用いて、表2に示す処方に従って調製された飲料の分析結果、サッカロマイコデス属のマルトース非資化性酵母を用いて、表3に示す処方に従って調製された飲料(1%着色モルトを含む)の分析結果として、それぞれ、原麦汁が8.59%、8.53%、全窒素(12%)が865mg/l、933mg/l、ポリフェノール類117mg/l、132mg/l、アントシアノゲン30mg/l、30mg/lであることがその他の分析項目とともに示されている。 したがって、甲第7号証には、以下の発明が記載されているといえる。 「サッカロマイコデス属のマルトース非資化性酵母を用いて調製された、原麦汁が8.59%、全窒素(12%)が865mg/l、ポリフェノール類117mg/l、アントシアノゲン30mg/lである飲料」に係る発明(以下「甲7A発明」という。) 「サッカロマイコデス属のマルトース非資化性酵母を用いて調製された、原麦汁が8.53%、全窒素(12%)が933mg/l、ポリフェノール類132mg/l、アントシアノゲン30mg/lである飲料」に係る発明(以下「甲7B発明」という。) イ また、製造方法の発明として、以下の発明も記載されているといえる。 「サッカロマイコデス属のマルトース非資化性酵母を用いて調製する、原麦汁が8.59%、全窒素(12%)が865mg/l、ポリフェノール類117mg/l、アントシアノゲン30mg/lである飲料の製造方法」に係る発明(以下「甲7A製造方法発明」という。) 「サッカロマイコデス属のマルトース非資化性酵母を用いて調製する、原麦汁が8.53%、全窒素(12%)が933mg/l、ポリフェノール類132mg/l、アントシアノゲン30mg/lである飲料の製造方法」に係る発明(以下「甲7B製造方法発明」という。) 3 対比・判断 異議申立理由1Aに関して (1)本件特許発明1について ア 甲1発明との対比・判断 (ア)対比 本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「ホップ無しの」は、本件特許明細書【0011】の「イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下」の技術的意味の記載から、本件特許発明1の「イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下」に相当し、甲1発明の「総ポリフェノール136mg/L」は、本件特許発明1の「総ポリフェノール量が30?180質量ppm」に該当する。 また、甲1発明の「ビール」は、本件特許明細書【0010】の「ビールテイスト飲料」の定義からみて、本件特許発明1の「ビールテイスト飲料」に該当する。 したがって、本件特許発明1は、甲1発明と、「イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下、総ポリフェノール量が30?180質量ppmであるビールテイスト飲料」の点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1-1:本件特許発明1においては、「全窒素量が40?200mg/100mL、」「および、全窒素量(mg/100mL)/総ポリフェノール量(質量ppm)が0.35?3.0である」と特定されているものの、甲1発明においては、「全窒素量」、「全窒素量(mg/100mL)/総ポリフェノール量(質量ppm)」がともに明らかでない点。 相違点2-1:本件特許発明1においては、「リナロールの含有量が20?1200ppb」と特定されているものの、甲1発明においては、リナロールの含有の有無、その含有量がともに明らかではない点。 (イ)判断 a 相違点1-1について (a)甲第1号証においては、甲1発明のビール1の分析結果及び他の記載においても、全窒素量は明記がない。 そして、甲第2号証の摘記(2b)には、684頁の第5表に「“ビール蛋白”の分子量分布」と題して2点のビールの分子量分布表示とともに 全窒素×6.25の値が示されている。 全窒素×6.25の値が、甲第2号証で述べられているビール中の総蛋白質量を示すのかどうかは明確ではない。 また、甲1発明の通常の麦芽(Gatinais)を用いたホップ無しビールの窒素量の計算に甲第2号証の計算式を参照してよいのかどうかも明確ではない(6.25という係数が一定であるのかどうかも明確ではない。) したがって、甲1発明の総タンパク質量4.57g/Lから総タンパク質量=ビール中の全窒素量×6.25の計算式を仮定して、全窒素量73.1mg/100mLや全窒素量(mg/100mL)/総ポリフェノール量(質量ppm)0.54という計算が成り立つのかどうか明らかとはいえないし、技術常識であるともいえない。 したがって、上記相違点1-1は、実質的な相違点である。 (b)また、甲第2号証摘記(2a)、甲第3号証摘記(3a)、甲第5号証摘記(5e)には、全窒素量の本件特許発明1の範囲に該当するもの、甲第4号証摘記(4c)甲第5号証摘記(5e)には、総ポリフェノール量の本件特許発明1の範囲に該当するものが、それぞれ示されているものの、オールモルトピルスナービールのホップ有り無し状況下でのプロアントシアニンフリー麦芽と通常麦芽を用いた風味と混濁安定性に関する文献において、ホップ無しの通常麦芽を用いたオールモルト(麦芽100%)ピルスナービールを分析した結果である甲1発明は、分析結果の発明として完結しており、全窒素量や全窒素量(mg/100mL)/総ポリフェノール量(質量ppm)の値に着目して、それぞれ特定の数値範囲に設定する動機付けがあるとはいえない(甲第5号証は、「総ポリフェノール量(mg/L)に対する全窒素量(mg/L)の比が0.1超3.0以下である、ビールテイスト飲料」であることを前提とするもので(摘記(5a)、全窒素量/総ポリフェノール量に着目しているものの、全窒素量(mg/100mL)/総ポリフェノール量(質量ppm)に換算して、0.01超0.30以下の範囲を特定するものである。)。 したがって、甲1発明において、「全窒素量が40?200mg/100mL」とし、かつ「全窒素量(mg/100mL)/総ポリフェノール量(質量ppm)が0.35?3.0である」とすることは、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。 b 相違点2-1について、 (a)甲第1号証においては、甲1発明のビール1の分析結果及び他の記載にも、リナロールを含有することやその含有量が20?1200質量ppmであることの明記がない。 甲第13号証には、リナロールがフローラル感を付与するテルペン化合物で、ホップ自体の香りであって、ビールに自然なホップ香を付与するものでないことが、甲第14号証には、水溶性食物繊維を含有させることを前提に、キレが悪化する課題をリナロール及びαテルピネオールの少なくとも1種の添加で解決しようとするものである。 また、甲第15号証には、プリン体濃度が非常に低いにもかかわらず「ビールらしさ」を保持している非発酵ビール様発泡性飲料に関して、ビールらしさを付与する麦芽を原料としなくてもビールらしさを付与できる16の香気成分の一つとしてリナロールが挙げられ、その場合の含有量範囲が示されている。 さらに、甲第16号証には、加熱工程における不快な香りのマスキングのために、マスキング材料の一つとしてリナロールが記載されている。 (b)甲1発明は、ホップ無しの通常の麦芽(Gatinais)を用いたオールモルト(麦芽100%)ピルスナービールを分析した結果に基づくものであって、分析結果の発明として完結しており、甲第13?16号証からリナロールが香り付与成分であることは理解でき、たまたま本件特許発明1のリナロールの含有量範囲に該当する例が存在するからといって、何ら示唆のないリナロールに着目して、その含有量を特定の数値範囲に設定する動機付けがあるとはいえない。 そして、甲第13号証のリナロールが自然なホップ香を付与するものでないことに関する記載や甲第14号証の水溶性食物繊維を含有させることを前提としたビールテイスト飲料の文献の記載や甲第15号証の非発酵ビール様発泡性飲料に関する記載や甲第16号証の加熱工程における不快な香りのマスキングにリナロール等を用いている文献の記載は、甲1発明において、リナロールの含有量を特定範囲に設定する根拠とはならないといえる。 (c)したがって、甲1発明において、甲第13?16号証記載の技術的事項を参酌しても、通常の麦芽(Gatinais)を用いたホップ無しのビールの「リナロールの含有量が20?1200質量ppb」とすることを特定するのは、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。 c 本件特許発明1の効果について 本件特許発明1は、前記第2の請求項1に特定したように、ビールテイスト飲料において、「イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下」、「全窒素量が40?200mg/100mL、総ポリフェノール量が30?180質量ppm、」「全窒素量(mg/100mL)/総ポリフェノール量(質量ppm)が0.35?3.0」「リナロールの含有量が20?1200質量ppb」であるとの構成を採用することで、本件明細書【0008】に記載される「実質的にホップを使用せず、麦芽比率を保ちながら、もったりした重い飲み口を有さず、後味のすっきりしたビールテイスト飲料が提供される」という顕著な効果を奏している。 d 特許異議申立人の主張の検討 特許異議申立人は、甲第1号証の表4のビール1の全窒素量を甲第2号証の684頁第5表の「“ビール蛋白”」「全窒素×6.25」の表示のみから、「総タンパク質量=ビール中の全窒素量×6.25」の計算式の前提をおいて、計算し、一致点、相違点を認定している。 しかしながら、上述のとおり、換算係数や計算式の前提が不明であることから、全窒素量73.1mg/100mLや全窒素量(mg/100mL)/総ポリフェノール量(質量ppm)0.54という異議申立人の計算結果に基づく甲第1号証に記載された発明の認定、一致点、相違点の認定を採用することはできない。 また、特許異議申立人は、甲第13?16号証からリナロールの添加で、ビール香の付与、キレの改善、加熱工程による不快臭のマスキングが公知であるから、甲1発明において、リナロール濃度を増大させることは容易になし得る旨主張しているが、甲第13?15号証は、無ホップビールを前提にしたものではないし、甲第16号証もホップの抗菌作用に着目したホップを用いない場合の加熱臭のマスキングの技術であり、上述のとおり、甲1発明は、分析結果として完成されたもので、リナロール濃度を増大させなければばらない動機付けがあるわけではないのであるから、上記異議申立人の論理付けを採用することはできない。 また、特許異議申立人は、甲第1号証のビール1、甲第6号証の表40、表48、表50、表51、表35、甲第3号証、甲第7号証実施例b)c)の記載をもとに、通常の麦芽を使用した、無ホップビールが本件特許発明1の構成に該当する蓋然性が高い旨主張しているが、個々の文献で示されているビールが本件特許発明1の構成の一部にたまたま該当しているからといって、個々のビールに関する情報として、本件特許発明1のビール原料組成全体や製造方法全体が記載されているわけでもないのに、個々のビールが、本件特許発明1の構成に該当する蓋然性が高いとはいえない。 さらに、特許異議申立人は、本件特許発明1の効果について、リナロールの含有量を増大させることによりビールらしい風味の弱いビールテイスト飲料の風味を改善できることは甲第13?16号証から広く知られていたこと、甲第5号証にビールテイスト飲料のコクやキレといったビールらしさを改善するために総ポリフェノール量、全窒素量を特定範囲とすることが記載されていること等を指摘して、広く知られていた技術を単に組み合わせることで得られたもので、顕著な効果でない旨主張している。 しかしながら、上述のとおり、甲第1号証に記載されたビール1に関して、何ら本件特許発明1の効果が記載も示唆もされているわけではなく、リナロールが香り付与成分であることは理解できる記載が存在するからといって、異なるものを結びつけた上でなお、甲1発明から予測される効果であると理解することはできない。 また、本願発明は、上述のとおり、ビールテイスト飲料において、「イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下」、「全窒素量が40?200mg/100mL、総ポリフェノール量が30?180質量ppm、」「全窒素量(mg/100mL)/総ポリフェノール量(質量ppm)が0.35?3.0」「リナロールの含有量が20?1200ppb」であるとの構成を採用することで構成全体として効果を奏しており、本件特許発明1において特定された数値範囲において、効果を奏するための技術的意義が本件特許明細書の一般的記載や実施例において明らかにされているのであるから、単に広く知られていた技術を組み合わせることで得られたものということはできない。 よって、上記特許異議申立人の主張は採用できない。 (ウ)小括 したがって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?7,13?16号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (2)本件特許発明2?5について 本件特許発明2?5は、いずれも、本件特許発明1において、さらに技術的限定を加えた発明であって、少なくとも上記(1)で論じたのと同様の相違点を有する(本件特許発明2と甲1発明との対比においては、相違点1-1に対応する相違点1-2が本件特許発明2においては、「全窒素量が57?178mg/100mL、」「および、全窒素量(mg/100mL)/総ポリフェノール量(質量ppm)が0.35?3.0である」と特定されているものの、甲1発明においては、「全窒素量」、「全窒素量(mg/100mL)/総ポリフェノール量(質量ppm)」がともに明らかでない点となり、本件特許発明4と甲1発明との対比においては、相違点1-1に対応する相違点1-4が本件特許発明4においては、「全窒素量が40?200mg/100mL、」「および、全窒素量(mg/100mL)/総ポリフェノール量(質量ppm)が0.5?3.0である」と特定されているものの、甲1発明においては、「全窒素量」、「全窒素量(mg/100mL)/総ポリフェノール量(質量ppm)」がともに明らかでない点となる。)。 したがって、上記(1)で論じたのと同様の理由により、本件特許発明2?5は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?7,13?16号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3)本件特許発明6について ア 甲1製造方法発明との対比・判断 (ア)対比 本件特許発明6と甲1製造方法発明を対比すると、甲1製造方法発明の「ホップ無しの」は、本件特許明細書【0011】の「イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下」の技術的意味の記載から、本件特許発明5の「イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下」に相当し、甲1製造方法発明の「総ポリフェノール136mg/L」は、本件特許発明1の「総ポリフェノール量が30?180質量ppm」に該当する。 また、甲1製造方法発明の「ビールの製造方法」は、本件特許明細書【0010】の「ビールテイスト飲料」の定義からみて、本件特許発明6の「ビールテイスト飲料を製造する方法」に該当する。 そして、甲1製造方法発明の「挽いた麦芽(9kg)を45℃30リットルの醸造水ですりつぶし、30分後注入により温度は約20分で63℃まで上昇し、温度を63℃で30分間一定に保ち、その後、約10分で70℃まで上昇させ、45分後使用済み穀物を甘麦汁から分離し、熱水(70℃)を散布し、その増量と散布工程に約90分をかけ、次に、麦汁を0.5M硫酸でpH5.2に酸性化し、酸を添加する前に分析用の甘麦汁サンプルを採取し、甘麦汁の沸騰に90分をかけ、総量の約10%が沸騰中に蒸発し、麦汁(約60リットル)を約15分で8℃に冷却し、無ホップの麦汁300mlに懸濁したサッカロミセス カールスバーゲンシス90mgを添加し、麦汁を滅菌された酸素で酸化し、発酵容器を9℃で5日間維持し、その後、ビールを二酸化炭素圧力下ラガータンクへ移し、第2次発酵を9℃で7日間行って製造する」ことは、本件特許発明5の「水および麦芽を含む原料に、酵母を添加して、アルコール発酵を行う工程を有する」ことに該当する。 したがって、本件特許発明5は、甲1製造方法発明と、「イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下、総ポリフェノール量が30?180質量ppmであるビールテイスト飲料を製造する方法であって、水および麦芽を含む原料に、酵母を添加して、アルコール発酵を行う工程を有する、ビールテイスト飲料の製造方法」の点で一致し、上記(1)のア(ア)で認定した相違点1-1?相違点2-1の点で相違する。 (イ)上記(1)の本件特許発明1に関してア(イ)(ウ)で判断したのと同様に、本件特許発明6は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?7,13?16号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4)本件特許発明7?11について 本件特許発明7?11は、本件特許発明6において、さらに技術的限定を加えた発明であって、少なくとも上記(1)で論じたのと同様の相違点を有する。 したがって、本件特許発明8の特定事項である「麦芽比率が40質量%以上である」ことに関して、甲第5号証にビールテイスト飲料のコクやキレといったビールらしさを改善するために総ポリフェノール量、全窒素量を特定範囲とすることが記載されていることを考慮し、本件特許発明9の特定事項である「さらに酵母が資化可能な原料からなる群から選ばれる1種以上を配合する工程を有する」ことに関して、甲第5号証、甲第13号証の記載を考慮し、本件特許発明10の特定事項である「さらに、穀物に由来するスピリッツを添加する工程を有する」ことに関して、甲第13号証の記載を考慮し、本件特許発明11の特定事項である「さらに、コリアンダー、コリアンダーシードまたはこれらの抽出物を添加する工程を有する」ことに関して、甲第14号証の記載を考慮してもなお、上記(1)で論じたのと同様の理由により、本件特許発明7?11は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?7,13?16号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (5)特許異議申立理由1Aの判断のまとめ 以上のとおり、本件特許発明1?11は、甲第1号証記載の発明及び甲第2?7,13?16号証記載の技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないので、異議申立理由1Aには、理由がない。 異議申立理由1Bに関して (1)本件特許発明1について ア 甲7A発明との対比・判断 (ア)対比 本件特許発明1と甲7A発明とを対比すると、甲7A発明の「全窒素(12%)が865mg/l(86.5mg/100ml)」は、本件特許発明1の「全窒素量が40?200mg/100mL」に該当し、甲7A発明の「ポリフェノール類117mg/l」は、本件特許発明1の「総ポリフェノール量が30?180質量ppm」に該当する。 また、甲7A発明の「全窒素(12%)」が「865mg/l(86.5mg/100ml)」で「ポリフェノール類117mg/l」であれば、本件特許発明1の「全窒素量(mg/100mL)/総ポリフェノール量(質量ppm)が0.35?3.0である」ことに該当するといえる。 そして、甲7A発明の「サッカロマイコデス属のマルトース非資化性酵母を用いて調製された、」「飲料」は、本件特許発明1の「ビールテイスト飲料」と、「酵母を用いて調製された飲料」の限りにおいて共通する。 したがって、本件特許発明1は、甲7A発明と、「全窒素量が40?200mg/100mL、総ポリフェノール量が30?180質量ppm、全窒素量(mg/100mL)/総ポリフェノール量(質量ppm)が0.35?3.0である酵母を用いて調製された飲料」の点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1-7A:本件特許発明1においては、「イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下」である「ビールテイスト飲料」と特定されているものの、甲7A発明においては、イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下であることも、ビールテイスト飲料であることも、ともに明らかでない点。 相違点2-7A:本件特許発明1においては、「リナロールの含有量が20?1200質量ppb」と特定されているものの、甲7A発明においては、リナロールの含有の有無、その含有量がともに明らかではない点。 (イ)判断 a 相違点1-7Aについて (a)甲第7号証においては、甲7A発明が、イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下であることも、ビールテイスト飲料であることも明記がない。 そして、甲第7号証の摘記(7c)(7g)には、一応、好ましくはホップされていない麦汁ベースに基づいて製造されるとの記載があるものの、甲7A発明自体が、ホップされていないのか、イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下であるのか不明であるとともに、様々な処方が示される甲第7号証において、一処方にすぎない甲7A発明は、プロセスパラメータの下で麦芽糖を発酵させない、または麦芽糖を発酵させない、いわゆるマルトース非資化性酵母の少なくとも1種の酵母を用いて発酵されることを前提とする飲料ではあるものの、イソα酸の含有量を0.1質量ppm以下にしなければならない動機付けもない。 (b)また、甲第7号証摘記(7j)にクワス様飲料の処方が1例として記載されているものの、異なる実施例として記載された甲7A発明をクワス様飲料にしなければならない動機付けもない上に、甲第8?12号証に記載されるように、クワスがビールに似た味を有することが知られているとしても、そのような変更を加えた場合の甲7A発明の飲料の全窒素量やポリフェノール類の量、それらの比の変化も不明である。 さらにいえば、甲第7号証摘記(7c)の「本発明に従った工程が、ノンアルコールビールおよび苦味を有する飲料を製造するために使用される場合、麦芽ベースの麦汁は、ホップを含んでいてもよい。」との記載や、甲第7号証摘記(7f)の「本発明の好ましい実施形態では、乳酸菌の好ましい性質が知られているので、麦汁の発酵に乳酸菌を使用することができる。しかし、麦汁発酵における乳酸菌の使用には、ホップなどの微生物活性物質に対する乳酸菌の感受性について特別な配慮が必要である。したがって、本発明の好ましい実施形態では、飲料の製造にホップは使用されない。」との記載からみて、ビールテイスト飲料の場合にホップを含んだ態様が示唆される一方、乳酸菌発酵を前提とした態様においてはホップ使用に留意する旨の示唆があるといえ、甲第7号証には、ビールテイスト飲料の場合に、敢えてホップを使用しないことの示唆はないといえる。 (c)したがって、甲7A発明において、「イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下」とし、かつ「ビールテイスト飲料」と特定することは、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。 b 相違点2-7Aについて (a)甲第7号証においては、甲7A発明の実施例b)の分析結果及び他の記載にも、リナロールを含有することやその含有量が20?1200質量ppbであることの明記がない。 甲第13号証には、リナロールがフローラル感を付与するテルペン化合物で、ホップ自体の香りであって、ビールに自然なホップ香を付与するものでないことが、甲第14号証には、水溶性食物繊維を含有させることを前提に、キレが悪化する課題をリナロール及びαテルピネオールの少なくとも1種の添加で解決しようとするものである。 また、甲第15号証には、プリン体濃度が非常に低いにもかかわらず「ビールらしさ」を保持している非発酵ビール様発泡性飲料に関して、ビールらしさを付与する麦芽を原料としなくてもビールらしさを付与できる16の香気成分の一つとしてリナロールが挙げられ、その場合の含有量範囲が示されている。 さらに、甲第16号証には、加熱工程における不快な香りのマスキングのために、マスキング材料の一つとしてリナロールが記載されている。 (b)甲7A発明は、プロセスパラメータの下で麦芽糖を発酵させない、または麦芽糖を発酵させない、いわゆるマルトース非資化性酵母の少なくとも1種の酵母を用いて発酵される麦芽汁をベースとする発酵飲料の一処方を分析した結果に基づくものであって、分析結果の発明として完結しており、甲第13?16号証からリナロールが香り付与成分であることは理解でき、たまたま本件特許発明1のリナロールの含有量範囲に該当する例が存在するからといって、何ら示唆のないリナロールに着目して、その含有量を特定の数値範囲に設定する動機付けがあるとはいえない。 そして、甲第13号証のリナロールが自然なホップ香を付与するものでないことに関する記載や甲第14号証の水溶性食物繊維を含有させることを前提としたビールテイスト飲料の文献の記載や甲第15号証の非発酵ビール様発泡性飲料に関する記載や甲第16号証の加熱工程における不快な香りのマスキングにリナロール等を用いている文献の記載は、甲7A発明のリナロールの含有量を特定範囲に設定する根拠とはならないといえる。 (c)したがって、甲7A発明において、甲第13?16号証記載の技術的事項を参酌しても、サッカロマイコデス属のマルトース非資化性酵母を用いて調製された飲料の「リナロールの含有量が20?1200質量ppb」とすることを敢えて特定するのは、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。 c 本件特許発明1の効果について 本件特許発明1は、前記第2の請求項1に特定したように、ビールテイスト飲料において、「イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下」、「全窒素量が40?200mg/100mL、総ポリフェノール量が30?180質量ppm、」「全窒素量(mg/100mL)/総ポリフェノール量(質量ppm)が0.35?3.0」「リナロールの含有量が20?1200質量ppb」であるとの構成を採用することで、本件明細書【0008】に記載される「実質的にホップを使用せず、麦芽比率を保ちながら、もったりした重い飲み口を有さず、後味のすっきりしたビールテイスト飲料が提供される」という顕著な効果を奏している。 d 特許異議申立人の主張の検討 特許異議申立人は、本件特許明細書の【0010】のビールテイスト飲料の説明におけるビール様の風味をもつものである点が、甲第7号証に記載された甲7A発明において明らかでないにもかかわらず、甲第7号証に示されたクワス様飲料の態様の記載や甲第8?12号証のクワスに関する記載を指摘することで、甲7A発明が、ホップを含まない本件特許発明1の「ビールテイスト飲料」に相当する旨主張しているが、甲第8?12号証のクワス飲料に関する記載でもかならずホップを加えていないわけでもなく、上述のとおり、甲第7号証には、クワス様飲料の処方が一例として記載されているものの、異なる実施例として記載された甲7A発明がクワス様飲料であるということもできないし、クワス様飲料にしなければならない動機付けもないので、異議申立人の上記主張を採用することはできない。 また、特許異議申立人は、甲7A発明がホップを使用しない発酵ビールテイスト飲料であることを前提として、ホップ香の付与やキレの改善、加熱工程による不快臭のマスキングといった風味改善のためにリナロール濃度を増大することは、甲第13?16号証の記載を組み合わせることにより当業者が容易に想到し得る旨主張している。 しかしながら、上述のとおり、甲第7号証に記載された甲7A発明は、プロセスパラメータの下で麦芽糖を発酵させない、または麦芽糖を発酵させない、いわゆるマルトース非資化性酵母の少なくとも1種の酵母を用いて発酵されることを前提とする飲料ではあり、一つの処方として確立したものであって、ホップが含有されていないかどうかは不明であるし、ホップ香の付与やキレの改善、加熱工程による不快臭のマスキングといったことが課題となっているわけでもない。 したがって、リナロールが香り付与成分であることは理解できる記載が異なる文献に存在するからといって、甲7A発明において、リナロールを含有させ、その含有量を調整する動機付けはない。 よって、上記特許異議申立人の主張は採用できない。 (ウ)小括 したがって、本件特許発明1は、甲第7A発明及び甲第3?6,8?12,13?16号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 甲7B発明との対比・判断 上記ア(ア)で検討したのと同様に、本件特許発明1と甲7B発明と、 「全窒素量が40?200mg/100mL、総ポリフェノール量が30?180質量ppm、全窒素量(mg/100mL)/総ポリフェノール量(質量ppm)が0.35?3.0である酵母を用いて調製された飲料」の点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1-7B:本件特許発明1においては、「イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下」である「ビールテイスト飲料」と特定されているものの、甲7B発明においては、イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下であることも、ビールテイスト飲料であることも、ともに明らかでない点。 相違点2-7B:本件特許発明1においては、「リナロールの含有量が20?1200質量ppb」と特定されているものの、甲7B発明においては、リナロールの含有の有無、その含有量がともに明らかではない点。 そして、上記ア(イ)で検討したのと同様に、本件特許発明1は、甲第7B発明及び甲第3?6,8?12,13?16号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ 小括 したがって、本件特許発明1は、甲第7号証に記載された発明及び甲第3?6,8?12,13?16号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (2)本件特許発明2?5について 本件特許発明2?5は、いずれも、本件特許発明1において、さらに技術的限定を加えた発明であって、少なくとも上記(1)で論じたのと同様の相違点を有する。 したがって、上記(1)で論じたのと同様の理由により、本件特許発明2?5は、甲第7号証に記載された発明及び甲第3?6,8?12,13?17号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3)本件特許発明6について ア 甲7A製造方法発明との対比・判断 (ア)対比 本件特許発明6と甲7A製造方法発明を対比すると、甲7A製造方法発明の「全窒素(12%)が933mg/l(93.3mg/100ml)」は、本件特許発明6の「全窒素量が40?200mg/100mL」に該当し、甲7A製造方法発明の「ポリフェノール類137mg/l」は、本件特許発明1の「総ポリフェノール量が30?180質量ppm」に該当する。 また、甲7A製造方法発明の「全窒素(12%)」が「933mg/l(93.3mg/100l)」で「ポリフェノール類137mg/l」であれば、本件特許発明6の「全窒素量(mg/100mL)/総ポリフェノール量(質量ppm)が0.35?3.0である」ことに該当するといえる。 そして、甲7A製造方法発明の「サッカロマイコデス属のマルトース非資化性酵母を用いて調製される、」「飲料の製造方法」は、本件特許発明6の「酵母を添加」する「ビールテイスト飲料の製造方法」と、「酵母を用いて調製される飲料を製造する方法」の限りにおいて共通する。 したがって、本件特許発明6は、甲7A製造方法発明と、「全窒素量が40?200mg/100mL、総ポリフェノール量が30?180質量ppm、全窒素量(mg/100mL)/総ポリフェノール量(質量ppm)が0.35?3.0である酵母を用いて調製される飲料を製造する方法」の点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1-7A’:本件特許発明6においては、「イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下」である「ビールテイスト飲料を製造する方法」と特定されているものの、甲7A製造方法発明においては、イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下であることも、ビールテイスト飲料を製造する方法であることも、ともに明らかでない点。 相違点2-7A’:本件特許発明6においては、「リナロールの含有量が20?1200質量ppb」と特定されているものの、甲7A製造方法発明においては、リナロールの含有の有無、その含有量がともに明らかではない点。 相違点3-7A’:本件特許発明6は、「水および麦芽を含む原料に、酵母を添加して、アルコール発酵を行う工程を有する」ことが特定されているものの、甲7A製造方法発明においては、サッカロマイコデス属のマルトース非資化性酵母を用いて調製するものの、水および麦芽を含む原料に、酵母を添加して、アルコール発酵を行う工程を有するかどうか明らかでない点。 (イ)上記(1)の本件特許発明1に関してア(イ)(ウ)で判断したのと同様に、上記相違点3-7A’について検討するまでもなく、本件特許発明6は、甲第7A製造方法発明及び甲第3?6,8?12,13?16号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (ウ)そして、上記(1)の本件特許発明1に関してイで検討したのと同様に、本件特許発明6は、甲第7B製造方法発明及び甲第3?6,8?12,13?17号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4)本件特許発明7?11について 本件特許発明7?11は、本件特許発明6において、さらに技術的限定を加えた発明であって、少なくとも上記(3)で論じたのと同様の相違点を有する。 したがって、本件特許発明8の特定事項である「麦芽比率が40質量%以上である」ことに関して、甲第5号証にビールテイスト飲料のコクやキレといったビールらしさを改善するために総ポリフェノール量、全窒素量を特定範囲とすることが記載されていることを考慮し、本件特許発明9の特定事項である「さらに酵母が資化可能な原料からなる群から選ばれる1種以上を配合する工程を有する」ことに関して、甲第5号証、甲第13号証の記載を考慮し、本件特許発明10の特定事項である「さらに、穀物に由来するスピリッツを添加する工程を有する」ことに関して、甲第13号証の記載を考慮し、本件特許発明11の特定事項である「さらに、コリアンダー、コリアンダーシードまたはこれらの抽出物を添加する工程を有する」ことに関して、甲第14号証の記載を考慮してもなお、上記(1)で論じたのと同様の理由により、本件特許発明7?11は、甲第7号証に記載された発明(甲7A製造方法発明または甲7B製造方法発明)及び甲第3?6,8?12,13?16号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 4 特許異議申立理由1の判断のまとめ 以上のとおり、本件特許発明1?11は、甲第1号証記載の発明または甲第7号証記載の発明及び甲第2号証?甲第16号証記載の技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないので、異議申立理由1には、理由がない。 異議申立理由2(サポート要件)について 特許異議申立人は、第3 2に記載のようにサポート要件について理由を述べている。 1 異議申立理由2の概要 請求項1?11に係る発明について、請求項1に特定されている「全窒素量(mg/100mL)/総ポリフェノール量(質量ppm)が0.35?3.0である」のうち、実施例により裏付けられている1.088?1.089のビールテイスト飲料及びその製造方法以外の特許請求の範囲に含まれる場合や、原麦汁エキス(O-Ex)濃度が10?13質量%のビールテイスト飲料及びその製造方法以外の特許請求の範囲に含まれる場合については、【0005】の本件特許発明の課題を解決できると当業者が認識できるといえず、アルコール濃度が特定されておらず、効果を奏しない範囲を含むから、さらに、本件明細書の実施例の製造方法が一般的なものであるのに全窒素量が高濃度であり、当業者が製造、追試、効果の理解ができないから、本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備である。 2 判断 (1)本願発明に関する特許法第36条第6項第1号の判断の前提 特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (2)本件特許発明の課題 本件特許発明の課題は、【0002】【0003】の【背景技術】の記載、【0005】の【発明が解決しようとする課題】の記載及び明細書全体の記載からみて、麦芽比率を一定以上に保ち、ホップも使用しないことを前提に、旨味や味わいが豊かで、もったりした重い飲み口を与えず、後味のすっきりしたビールテイスト飲料及び該ビールテイスト飲料を製造する方法を提供することにあるといえる。 (3) 発明の詳細な説明の記載 本件特許明細書には、【0007】の【課題を解決するための手段】、【0009】の【発明を実施するための形態】に記載された本件特許発明1の構成によって、【0008】の【発明の効果】として、実質的にホップを使用せず、麦芽比率を保ちながら、もったりした重い飲み口を有さず、後味のすっきりしたビールテイスト飲料が提供されることが記載され、「【0012】 麦芽の風味を抑えるために、原料の麦芽比率を抑えることなどによって、全窒素量および総ポリフェノール量を一定の範囲内に制御したビールテイスト飲料を提供できるが、このようなビールテイスト飲料は、苦味が目立ちやすくなる。本発明のビールテイスト飲料は、ホップに多く含まれるイソα酸の含有量が0.1質量ppm以下に制限し、かつ、一定量の4VGを含有するため、風味の優れたビールテイスト飲料となる。」との記載、「【0013】 本発明のビールテイスト飲料の全窒素量は3?120mg/100mLである。本発明における「全窒素量」とは、タンパク質、アミノ酸等の全ての窒素化合物の総量である。 全窒素量は飲み応え、味の厚み、味わい等に影響する。全窒素量を40mg/100mL以上とすることによって飲み応え、味の厚み、味わいを向上させることができる。これらをさらに向上させる観点から全窒素量は45mg/100mL以上が好ましく、50mg/100mL以上がより好ましく、55mg/100mL以上がさらに好ましく、57mg/100mL以上がさらに好ましく、65mg/100mL以上がさらに好ましく、70mg/100mL以上が特に好ましい。 他方、全窒素量が多いと、飲み口も重くなってしまう。そこで、本発明の飲料の全窒素量は200mg/100mL以下とすることによって、飲み口が軽くなる。これらを更に向上させる観点から、全窒素量は190mg/100mL以下が好ましく、180mg/100mL以下がより好ましく、178mg/100mL以下がより好ましく、170mg/100mL以下がさらに好ましく、160mg/100mL以下がさらに好ましく、150mg/100mL以下が特に好ましい。 本発明のビールテイスト飲料の全窒素量は、比較的窒素含有量が多く、酵母が資化可能な原材料の使用量を調整することによって制御できる。具体的には、窒素含有量の多い麦芽等の使用量を増やすことにより全窒素量を増加させることができる。窒素含有量の多い原料としては、例えば、麦芽、大豆、酵母エキス、エンドウ、未発芽の穀物などが挙げられる。また未発芽の穀物としては、例えば、未発芽の大麦、小麦、ライ麦、カラス麦、オート麦、ハト麦、エン麦、大豆、エンドウ等が挙げられる。・・・」との記載、「【0014】 本発明のビールテイスト飲料の総ポリフェノール量は30?180質量ppmである。 ポリフェノールとは、芳香族炭化水素の2個以上の水素がヒドロキシル基で置換された化合物をいう。ポリフェノールとしては、例えば、フラボノール、イソフラボン、タンニン、カテキン、ケルセチン、アントシアニンなどが挙げられる。 本発明における「総ポリフェノール量」とは、ビールテイスト飲料に含まれるこれらポリフェノールの総量である。 【0015】 総ポリフェノール量は飲み応え、味の厚み、味わい等に影響する。総ポリフェノール量を3質量ppm以上とすることによって飲み応え、味の厚み、味わいを向上させることができる。これらをさらに向上させる観点から総ポリフェノール量は40質量ppm以上が好ましく、50質量ppm以上がより好ましく、57質量ppm以上がさらに好ましく、60質量ppm以上がさらに好ましく、65質量ppm以上がさらに好ましく、70質量ppm以上が特に好ましい。 他方、総ポリフェノールが多い飲料は、混濁安定性が低下し、また飲み口も重くなってしまう。そこで、本発明の飲料は総ポリフェノール量を180質量ppm以下とすることによって、飲料の混濁安定性および飲み口を改良できる。これらを更に向上させる観点から、総ポリフェノール量は170質量ppm以下が好ましく、163質量ppm以下がより好ましく、155質量ppm以下がより好ましく、150質量ppm以下がさらに好ましく、140質量ppm以下がさらに好ましく、130質量ppm以下が特に好ましい。 本発明のビールテイスト飲料の総ポリフェノール量は、例えば、大麦麦芽、麦芽のハスク(穀皮)などのポリフェノール含有量の多い原材料の使用量を調整することによって制御できる。具体的には、ポリフェノール含有量の多い麦芽等の原材料の使用量を増やすことにより総ポリフェノール量を増加させることができる。」との記載、「【0016】 一般的に、ハスク(穀皮)がある麦芽等は窒素およびポリフェノールの含有量が多く、大豆、酵母エキス、小麦、小麦麦芽等は窒素の含有量が多いがポリフェノールの含有量が少ない。そこで、ビールテイスト飲料における全窒素量および総ポリフェノール量は、原料の配合割合を調整することによって、増減させることができる。以下、全窒素量および総ポリフェノール量を増減させる代表的な方法(1)?(4)を挙げる。 (1)ハスクがある麦芽等の使用量を増やすことによって、ビールテイスト飲料の全窒素量および総ポリフェノール量を増やす。 (2)大豆、酵母エキス等の使用量を増減させることによって、総ポリフェノール量を維持しながら、ビールテイスト飲料の全窒素量を増減させる。 (3)ハスクがある麦芽等の使用量を増やし大豆、酵母エキス等の使用量を減らすことによって、全窒素量を維持しながら、総ポリフェノール量を増やす。 (4)ハスクがある麦芽等の使用量を減らし大豆、酵母エキス等の使用量を増やすことによって、全窒素量を維持しながら、総ポリフェノール量を減らす。」との記載、「【0018】 本発明のビールテイスト飲料において、全窒素量が総ポリフェノール量に対して大きすぎると飲み口が重くなり、小さすぎると水っぽくなってしまう。そこで、本発明のビールテイスト飲料における全窒素量と総ポリフェノール量との割合である全窒素量(mg/100mL)/総ポリフェノール量(質量ppm)が0.2?3.0であることが好ましく、0.25?2.8であることがより好ましく、0.3?2.7であることがさらに好ましく、0.35?2.6であることがさらに好ましく、0.4?2.5であることがさらに好ましく、0.5?2.4であることが特に好ましい。」との記載、「【0019】 本発明のビールテイスト飲料のリナロールの含有量は20?1200質量ppbである。リナロールはモノテルペンアルコールの一種であり、一般的に香料として使用されている。飲料にリナロールをさらに加えることで、味わいを損なうことなくさらにスッキリさを向上させることができる。本発明のビールテイスト飲料のリナロールの含有量は30?1150質量ppbが好ましく、40?1100質量ppbがさらに好ましく、45?1050質量ppbがさらに好ましく、48?1020質量ppbが特に好ましい。 リナロールはビールテイスト飲料の後味に余韻のある味わいを付与し、また、飲みやすさ、ビールらしい味の厚み等を付与することができる。特に、イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下のビールテイスト飲料はホップ由来の特有な苦味を感じにくいため、リナロールを一定量含有するとビールらしい味の厚みを効果的に付与できる。そこで、本発明のビールテイスト飲料のリナロールの含有量は60質量ppb以上が好ましく、100質量ppb以上がさらに好ましく、150質量ppb以上がさらに好ましく、200質量ppb以上がさらに好ましく、250質量ppb以上が特に好ましい。 他方、コスメティック様のビールテイスト飲料に適さない風味を抑えるために、本発明の飲料のリナロールの含有量は900質量ppb以下が好ましく、850質量ppb以下がさらに好ましく、800質量ppb以下がさらに好ましく、750質量ppb以下がさらに好ましく、700質量ppb以下が特に好ましい。 本発明のビールテイスト飲料のリナロールの含有量は、例えば、リナロールや、リナロール含有量の多い原材料の使用量を調整することによって制御できる。」との記載があり、各パラメータの上下限の技術的意義の一般的記載や含有量の調整方法が示されているといえる。 さらに、ビールテイスト飲料の飲みやすさとビールらしい麦の味わいに関し、試験例1?4の比較によって、麦芽比率が20質量%まで低くなると、ビールらしい麦の味わいがなくなってしまうが、麦芽比率が100質量%、45質量%の試験例1と2の飲料は飲みやすさとビールらしい麦の味わいの両者を備えた飲料で、イソα酸を実質的に含有しないビールテイスト飲料において、全窒素量、総ポリフェノール量が所定の範囲内に制御すると、苦味がない飲みやすさとビールらしい麦の味わいを両立できることがわかったこと、及び試験例1?4のビールテイスト飲料は麦芽の風味が際立ち、もったりした重い飲み口となり、ビールテイスト飲料らしい後味のすっきり感が不足していたことが示され(【0057】?【0063】)、ビールテイスト飲料の官能評価に関し、実施例1?9と比較例1?6との比較によって、麦芽比率100%、70%、45%の場合いずれの場合においても、ホップを使用しない(イソα酸0.1ppm)前提で、リナロール50、400、1000μg/Lの場合において、ビールテイスト飲料らしい後味のシマリ感があり、ビールテイスト飲料として不適なコスメティック様の香りが抑制でき、本件特許発明の課題の改善が確認できたことが示されている(【0064】?【0078】)。 (4)判断 上記(3)のとおり、本件特許発明1の各構成であるパラメータに対応して、本件特許明細書には、各パラメータの上下限の技術的意義の一般的記載が存在し、各パラメータ間の技術的意議の相関記載に技術的矛盾はなく、各成分の増減手法や製造方法の記載が存在し、異なる麦芽比率に基づく、異なる全窒素量や総ポリフェノール量の範囲での本件特許発明の効果を奏した具体的検証結果の記載も存在するのであるから、本件特許発明1の構成によって、当業者であれば上記本件特許発明1の課題を解決できることを認識できるといえる。 また、本件特許発明2?11に関しても、【0025】の原麦汁エキス(O-Ex)濃度の技術的意議に関する記載、【0028】?【0032】の原材料に関する記載、【0044】?【0054】のビールテイスト飲料の製造方法に関する記載、【0022】の穀物に由来するスピリッツに関する記載、【0033】のコリアンダー、コリアンダーシートに関する記載についても併せて考慮すれば、本件特許発明1と同様に、本件特許発明2?11の構成によって、当業者であれば上記本件特許発明の課題を解決できることを認識できるといえる。 特許異議申立人は、「全窒素量(mg/100mL)/総ポリフェノール量(質量ppm)が0.35?3.0である」のうち、実施例により裏付けられている1.088?1.089のビールテイスト飲料及びその製造方法以外の特許請求の範囲に含まれる場合や、原麦汁エキス(O-Ex)濃度が10?13質量%のビールテイスト飲料及びその製造方法以外の特許請求の範囲に含まれる場合については、本件特許発明の課題を解決できると当業者が認識できないし、アルコール濃度が特定されておらず、効果を奏しない範囲を含むといえるし、本件明細書の実施例の製造方法が一般的なものであるのに全窒素量が高濃度であり、当業者が製造、追試、効果の理解ができないので、発明の詳細な説明に記載された発明といえない旨の主張をしている。 しかしながら、上述したような、各パラメータの上下限の技術的意義の一般的記載、各パラメータ間の技術的意議の相関記載や異なる麦芽比率に基づく、異なる全窒素量や総ポリフェノール量の範囲での具体的検証結果の記載を参考にした上で、さらに、全窒素量と総ポリフェノール量の比に関しては、一方のみを増減させる手法が具体的に記載されていること、全窒素量と総ポリフェノール量が飲み応え、味の厚み、味わい、飲み口の重み等に影響する同様の作用をすることが記載されていること、上記比自体の数値範囲の上下限の技術的意義の記載があることも考慮すると、実施例で示された範囲以外の上記比の範囲においても、本件特許発明の課題を解決できると当業者が認識できるといえる。 また、原麦汁エキス(O-Ex)濃度に関する実施例で示された範囲以外の範囲についても、上述の技術的意議に関する記載等を考慮することで、本件特許発明の課題を解決できると当業者が認識できるといえる。 さらに、本件特許発明は、アルコール含有量を技術思想として特定することを前提とする発明ではなく、アルコールであるエタノールの味に対して影響が一定程度存在するとしても、【0021】のアルコール度数の記載や甲第17号証をはじめとした、味への影響に関する技術常識も考慮すれば、当業者であれば、一定程度本件特許発明の課題が解決できると認識できるといえる。 さらに、本件明細書の実施例の製造方法については、全窒素量を高濃度にするための原材料の選択方法等の記載があり、本願出願時の技術常識も考慮すれば当業者が製造できないとする理由はないといえる。 したがって、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。 3 異議申立理由2の判断のまとめ 以上のとおり、本願の特許請求の範囲の記載について、請求項1?11に係る発明は、発明の詳細な説明の記載に記載されているといえるので、異議申立理由2には、理由がない。 異議申立理由3(実施可能要件)について 特許異議申立人は、前記第3 3に記載のように実施可能要件について理由を述べている。 1 異議申立理由3の概要 請求項1?11に係る発明について、本件特許発明の効果を奏することが確認されているのは全窒素量(mg/100mL)/総ポリフェノール量(質量ppm)が0.35?3.0が1.088?1.089のビールテイスト飲料及びその製造方法のみであり、また、原麦汁エキス(O-Ex)濃度が10?13質量%のビールテイスト飲料及びその製造方法のみであるが、本件特許発明1?11は、この範囲外であるビールテイスト飲料及びその製造方法を含むから、さらに、アルコール濃度が特定されておらず、効果を奏しない範囲を含むから、そして、本件明細書の実施例の製造方法が一般的なものであるのに全窒素量が高濃度であり、当業者が製造、追試、効果の理解ができないから、本件明細書には、本件特許発明1?11の全範囲において当業者が実施できるように記載されているとはいえず、発明の詳細な説明の記載が不備である。 2 判断 異議申立理由2で述べたのと同様に、前記2(3)のとおり、本件特許発明1の各構成であるパラメータに対応して、本件特許明細書には、各パラメータの上下限の技術的意義の一般的記載が存在し、各パラメータ間の技術的意議の相関記載に技術的矛盾はなく、各成分の増減手法や製造方法の記載がステップ毎に存在し、異なる麦芽比率に基づく、異なる全窒素量や総ポリフェノール量の範囲での本件特許発明の効果を奏した具体的検証結果の記載(具体的製造方法の記載もある)も存在するのであるから、本件特許発明1の構成に対応した範囲で、当業者であれば過度な試行錯誤なく実施できるように記載されているといえる。 また、本件特許発明2?11の構成に対応した場合に関しても、【0025】の原麦汁エキス(O-Ex)濃度の技術的意義に関する記載、【0028】?【0032】の原材料に関する記載、【0044】?【0054】のビールテイスト飲料の製造方法に関する各ステップ毎の記載、【0022】の穀物に由来するスピリッツに関する記載、【0033】のコリアンダー、コリアンダーシートに関する記載についても併せて考慮すれば、本件特許発明1に関する場合と同様に、本件特許発明2?11の構成に対応した場合においても、当業者であれば過度な試行錯誤なく実施できるように記載されているといえる。 特許異議申立人は、特許異議申立理由3においても、上記1のとおり「全窒素量(mg/100mL)/総ポリフェノール量(質量ppm)が0.35?3.0である」のうち、実施例により裏付けられている1.088?1.089のビールテイスト飲料及びその製造方法以外の特許請求の範囲に含まれる場合や、原麦汁エキス(O-Ex)濃度が10?13質量%のビールテイスト飲料及びその製造方法以外の特許請求の範囲に含まれる場合については、本件特許発明を当業者が実施できず、全範囲において実施できるように記載されているとはいえないし、アルコール濃度が特定されておらず、効果を奏しない範囲を含む旨主張をしている。 しかしながら、上述したような、各パラメータの上下限の技術的意義の一般的記載、各パラメータ間の技術的意議の相関記載、各ステップ毎の製造方法の記載や異なる麦芽比率に基づく、異なる全窒素量や総ポリフェノール量の範囲での製造方法を伴った具体的検証結果の記載を参考にした上で、さらに、全窒素量と総ポリフェノール量の比に関しては、一方のみを増減させる手法が具体的に記載されていること、全窒素量と総ポリフェノール量が飲み応え、味の厚み、味わい、飲み口の重み等に影響する同様の作用をすることが記載されていること、上記比自体の数値範囲の上下限の技術的意義の記載があることも考慮すると、実施例で示された範囲以外の上記比の全範囲においても、当業者が過度な試行錯誤なく実施できるように記載されているといえる。 また、原麦汁エキス(O-Ex)濃度に関する実施例で示された範囲以外の範囲についても、上述の技術的意議に関する記載等を考慮することで、当業者が過度な試行錯誤なく実施できるように記載されているといえる。 さらに、異議申立理由2でも述べたとおり、本件特許発明は、アルコール含有量を技術思想として特定することを前提とする発明ではなく、アルコールであるエタノールの味に対して影響が一定程度存在するとしても、【0021】のアルコール度数の記載や甲第17号証をはじめとした、味への影響に関する技術常識も考慮すれば、当業者であれば、発明の詳細な説明は、当業者が過度な試行錯誤なく実施できるように記載されているといえる。 そして、本件明細書の実施例の製造方法については、全窒素量を高濃度にするための原材料の選択方法等の記載があり、本願出願時の技術常識も考慮すれば当業者が製造できないとする理由はないといえる。 したがって、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。 3 異議申立理由3の判断のまとめ 以上のとおり、本願の発明の詳細な説明の記載が、請求項1?11に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものといえるので、異議申立理由3には、理由がない。 第5 むすび したがって、請求項1?11に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。 また、他に請求項1?11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2021-03-26 |
出願番号 | 特願2019-130633(P2019-130633) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
Y
(C12G)
P 1 651・ 121- Y (C12G) P 1 651・ 537- Y (C12G) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 千葉 直紀、村松 宏紀 |
特許庁審判長 |
村上 騎見高 |
特許庁審判官 |
安孫子 由美 瀬良 聡機 |
登録日 | 2020-06-18 |
登録番号 | 特許第6719626号(P6719626) |
権利者 | サントリーホールディングス株式会社 |
発明の名称 | ビールテイスト飲料、およびビールテイスト飲料の製造方法 |
代理人 | 古橋 伸茂 |
代理人 | 小林 浩 |
代理人 | 石原 俊秀 |
代理人 | 鈴木 康仁 |