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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B29C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B29C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B29C
管理番号 1372766
異議申立番号 異議2021-700079  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-05-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-01-22 
確定日 2021-04-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第6731782号発明「成形品の外観不良を抑制するプロセス用離型フィルム、その用途、及びそれを用いた樹脂封止半導体の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6731782号の請求項1ないし24に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6731782号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし24に係る特許についての出願は、平成28年5月16日の出願であって、令和2年7月9日にその特許権の設定登録(請求項の数24)がされ、同年同月29日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和3年1月22日に特許異議申立人 岩崎 勇(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし24)がされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし24に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、これらを併せて「本件特許発明」という場合がある。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし24に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
離型層Aと、耐熱樹脂層Bと、を含む積層フィルムであるプロセス用離型フィルムであって、
前記離型層Aの水に対する接触角が、90°から130°であり、
前記耐熱樹脂層Bが、高分子系帯電防止剤を含有する層B1を含み、
前記積層フィルムの120℃での引張弾性率が75MPaから500MPaであり、170℃での引張弾性率が85MPaから500MPaである、上記プロセス用離型フィルム。
【請求項2】
前記積層フィルムの横(TD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率が3%以下である、請求項1に記載のプロセス用離型フィルム。
【請求項3】
前記積層フィルムの横(TD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率と縦(MD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率の和が6%以下である、請求項1又は2に記載のプロセス用離型フィルム。
【請求項4】
前記積層フィルムの横(TD)方向の23℃から170℃までの熱寸法変化率が4%以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルム。
【請求項5】
前記積層フィルムの横(TD)方向の23℃から170℃までの熱寸法変化率と縦(MD)方向の23℃から170℃までの熱寸法変化率の和が7%以下である、請求項1から4のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルム。
【請求項6】
前記耐熱樹脂層Bが、高分子系帯電防止剤を含有する層B1と、接着剤を含有する接着層B2とを含んでなる、請求項1から5のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルム。
【請求項7】
前記耐熱樹脂層Bが、高分子系帯電防止剤、及び接着剤を含有する層B3を含んでなる、請求項1から5のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルム。
【請求項8】
前記耐熱樹脂層Bの横(TD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率が3%以下である、請求項1から7のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルム。
【請求項9】
前記耐熱樹脂層Bの横(TD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率と縦(MD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率の和が6%以下である、請求項8に記載のプロセス用離型フィルム。
【請求項10】
前記耐熱樹脂層Bの横(TD)方向の23℃から170℃までの熱寸法変化率が3%以下である、請求項1から7のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルム。
【請求項11】
前記耐熱樹脂層Bの横(TD)方向の23℃から170℃までの熱寸法変化率と縦(MD)方向の23℃から170℃までの熱寸法変化率の和が5%以下である、請求項10に記載のプロセス用離型フィルム。
【請求項12】
前記離型層Aが、フッ素樹脂、4-メチル-1-ペンテン(共)重合体、及びポリスチレン系樹脂からなる群より選ばれる樹脂を含む、請求項1から11のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルム。
【請求項13】
前記耐熱樹脂層Bが、延伸フィルムを含んでなる、請求項1から12のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルム。
【請求項14】
前記延伸フィルムが、延伸ポリエステルフィルム、延伸ポリアミドフィルム、及び延伸ポリプロピレンフィルムからなる群より選ばれる、請求項13に記載のプロセス用離型フィルム。
【請求項15】
前記耐熱樹脂層BのJISK7221に準じて示差走査熱量測定(DSC)によって測定した第1回昇温工程での結晶融解熱量20J/g以上、100J/g以下である、請求項1から14のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルム。
【請求項16】
前記離型層Aの表面固有抵抗値が1×10^(13)Ω/□以下である、請求項1から15のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルム。
【請求項17】
前記積層フィルムが、更に離型層A’を有し、かつ、該離型層Aと、前記耐熱樹脂層Bと、前記離型層A’と、をこの順で含み、
該離型層A’の水に対する接触角が、90°から130°である、請求項1から16のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルム。
【請求項18】
前記離型層A及び前記離型層A’の少なくとも一方が、フッ素樹脂、4-メチル-1-ペンテン(共)重合体、及びポリスチレン系樹脂からなる群より選ばれる樹脂を含む、請求項17に記載のプロセス用離型フィルム。
【請求項19】
前記離型層A‘の表面固有抵抗値が1×10^(13)Ω/□以下である、請求項17または18に記載のプロセス用離型フィルム。
【請求項20】
熱硬化性樹脂による封止プロセスに用いる、請求項1から19のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルム
【請求項21】
半導体封止プロセスに用いる、請求項1から20のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルム。
【請求項22】
繊維強化プラスチック成形プロセス、またはプラスチックレンズ成形プロセスに用いる、請求項1から20のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルム。
【請求項23】
樹脂封止半導体の製造方法であって、
成形金型内の所定位置に、樹脂封止される半導体装置を配置する工程と、
前記成形金型内面に、請求項1から21のいずれか一項に記載の半導体封止プロセス用離型フィルムを、前記離型層Aが前記半導体装置と対向するように配置する工程と、
前記成形金型を型締めした後、前記半導体装置と、前記半導体封止プロセス用離型フィルムとの間に封止樹脂を注入成形する工程と、
を有する、上記樹脂封止半導体の製造方法。
【請求項24】
樹脂封止半導体の製造方法であって、
成形金型内の所定位置に、樹脂封止される半導体装置を配置する工程と、
前記成形金型内面に、請求項17から19のいずれか一項に記載の半導体封止プロセス用離型フィルムを、前記離型層A’が前記半導体装置と対向するように配置する工程と、
前記成形金型を型締めした後、前記半導体装置と、前記半導体封止プロセス用離型フィルムとの間に封止樹脂を注入成形する工程と、
を有する、上記樹脂封止半導体の製造方法。」

第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和3年1月22日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。

1 申立理由1(甲第1号証を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし24に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明、甲第5号証又は甲第6号証に記載された技術的事項及び甲第3号証にみられる周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし24に係る特許は同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

2 申立理由2(甲第2号証を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし24に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明、甲第5号証又は甲第6号証に記載された技術的事項及び甲第4号証にみられる周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし24に係る特許は同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

3 申立理由3(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし24に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

4 申立理由4(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし24に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

5 証拠方法
甲第1号証:特開2010-6079号公報
甲第2号証:特開2009-101680号公報
甲第3号証:特開2012-6213号公報
甲第4号証:再公表特許W02010/032683号
甲第5号証:特開2009-241388号公報
甲第6号証:特開2014-69385号公報
甲第7号証:特開2014-24206号公報
甲第8号証:特開2009-102458号公報
甲第9号証:松尾,化学と教育 41巻 10号(1993年),667-671
甲第10号証:増野,成形加工 第26巻 第12号 2014,556-560
なお、甲号証の記載は、おおむね特許異議申立書の記載に従った。
以下、順に「甲1」のようにいう。

第4 当審の判断
1 申立理由1(甲1を主引用文献とする進歩性)について
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、おおむね次の事項が記載されている。下線は当審において付与した。以下同様。
「【請求項1】
基材フィルムの表面に、ポリアルキレンジオキシチオフェン系、ポリアニリン系又はポリピロール系導電性高分子、光開始剤、及びバインダーからなる光硬化型コーティング剤が光硬化された帯電防止層が形成され、該帯電防止層の表面に付加型シリコーン樹脂からなる離型層が形成されていることを特徴とする帯電防止性を有する離型フィルム。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電防止性を有する離型フィルムに関し、詳しくは帯電防止剤による離型剤の硬化阻害を抑制でき、安定した離型性と優れた帯電防止性を有する離型フィルムに関する。
【0002】
離型フィルムは、ポリウレタン樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等のキャスト製膜用工程フィルムや粘着製品の粘着剤層の保護フィルムとして利用されている。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、帯電防止層の表面に離型層を形成した場合であっても、硬化阻害を抑制でき、剥離性に優れると共に、優れた帯電防止性を有する離型フィルムを提供することを目的とする。」
「【0009】
本発明の帯電防止性を有する離型フィルムにおける基材フィルムとしては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂などのポリエステル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、アセテート樹脂、ポリスチレン樹脂、塩化ビニル樹脂などの合成樹脂のフイルムなどが挙げられる。これらの内、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂などのポリエステル樹脂フィルム、ポリエーテルイミド樹脂のフィルム、ポリプロピレン樹脂のフィルム(CPP、OPP)が好ましく、特にポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムが好ましい。基材フィルムは、単層であってもよいし、同種又は異種の2層以上の多層であってもよい。
基材フィルムの厚みは、特に制限ないが、通常10?300μmであればよく、好ましくは20?200μmである。」
「【実施例】
【0019】
以下に、本発明の実施例を示す。なお、本発明は、この例によって何ら制限されるものではない。
(実施例1)
ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート及びN-ビニルピロリドンを質量比で45:20:10の割合で含有する(メタ)アクリル系モノマーを75質量部と酢酸ブチル20質量部及びイソプロピルアルコール30質量部含有するバインダー溶液125質量部と、ポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルフォネート(PEDT/PSS)の導電性高分子を1.3質量%の割合で含有する水溶液を15.5質量部、α-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルメタノンの光開始剤を0.2質量部混合し、さらに、(メタ)アクリル系モノマー及び導電性高分子の合計量が2.5質量%になるようにイソプロピルアルコールで希釈した光硬化型コーティング剤を調製した。
【0020】
この光硬化型コーティング剤を、厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの表面に乾燥後の厚みが0.3μmとなるようにマイヤーバーで均一に塗布し、塗工層を形成した。次いで、60℃の乾燥機で1分間加熱し、直ちにフュージョンHバルブ240W/cmの1灯取付けコンベア式紫外線照射機により、コンベアスピード10m/分の条件で紫外線照射し、塗工層を硬化させ、帯電防止層付きPETフィルムを作製した。さらに、熱硬化型シリコーン樹脂(信越化学(株)製、商品名「KS-847H」)100質量部、硬化剤(信越化学(株)製、商品名「CAT-PL-50T」)1質量部をトルエンで希釈し、固形分1.1質量%の剥離剤溶液を調製した。この剥離剤溶液を帯電防止層付きPETフィルムの帯電防止層の表面に、乾燥後の厚さが0.1μmとなるように均一に塗布し、次に130℃の乾燥機で1分間乾燥し、離型層を形成し、帯電防止性を有する離型フィルムを作製した。」

イ 甲1発明
甲1に記載された事項を請求項1に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明>
「付加型シリコーン樹脂からなる離型層と、基材フィルムと、を含む離型フィルムであって、
前記基材フィルムが、ポリアルキレンジオキシチオフェン系、ポリアニリン系又はポリピロール系導電性高分子、光開始剤、及びバインダーからなる光硬化型コーティング剤が光硬化された帯電防止層を含む、
上記離型フィルム。」

(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明における「付加型シリコーン樹脂からなる離型層」は、本件特許発明1の「離型層A」に相当する。
甲1発明における「基材フィルム」について、甲1の段落【0009】には、特に好ましいものとして、「ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム」が記載されており、一方、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0051】には、耐熱樹脂層Bに含有させる結晶性樹脂として、・・・具体的には、ポリエチレンテレフタレート・・・を用いることが好ましい。」と記載されていることから、甲1発明における「基材フィルム」は、本件特許発明1でいうところの一定程度の耐熱性を有する材料から作成されているといえる。 そうすると、甲1発明における「基材フィルム」は、本件特許発明1の「耐熱樹脂層B」に相当する。
甲1発明における「離型フィルム」は、基材フィルム、帯電防止層及び離型層を含むものであるから、本件特許発明1の「積層フィルム」に相当する。
甲1発明における「離型フィルム」は、甲1の段落【0002】の記載によると、工程フィルムとして用いられることを前提としているものであるといえるから、本件特許発明1の「プロセス用離型フィルム」に相当する。
甲1発明における「ポリアルキレンジオキシチオフェン系、ポリアニリン系又はポリピロール系導電性高分子、光開始剤、及びバインダーからなる光硬化型コーティング剤が光硬化された帯電防止層」は、本件特許発明1の「高分子系帯電防止剤を含有する層」に相当する。

したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「離型層Aと、耐熱樹脂層Bと、を含む積層フィルムであるプロセス用離型フィルムであって、
前記耐熱樹脂層Bが、高分子系帯電防止剤を含有する層B1を含む、
上記プロセス用離型フィルム。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1-1>
離型層Aの水に対する接触角について、本件特許発明1においては、「90°から130°」であると特定されるのに対し、甲1発明においては、そのような特定がない点。
<相違点1-2>
積層フィルムの引張弾性率に関し、本件特許発明1においては、「120℃での引張弾性率が75MPaから500MPaであり、170℃での引張弾性率が85MPaから500MPaである」と特定されるのに対し、甲1発明においては、そのような特定がない点。

イ 相違点についての判断
事案に鑑み、まず相違点1-2について判断する。
甲1発明は、キャスト製膜用工程フィルムや粘着製品の粘着剤層の保護フィルムにおける離型剤の硬化阻害の抑制や安定した離型性等を課題とするものであって、120℃での引張弾性率を75MPaから500MPa、170℃での引張弾性率を85MPaから500MPaとすることの動機付けとなる記載は甲1になく、甲3、甲5、甲6にも、120℃及び170℃での引張弾性率を特定することに関する記載はない。
したがって、甲1発明において、相違点1-2に係る特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことではない。
そして、本件特許発明1は、上記相違点1-2に係る特定事項を備えることで、成形品の外観不良が極めて効果的に抑制される(本件特許の発明の詳細な説明の段落【0017】等を参照。)という、甲1発明及び甲3、甲5、甲6に記載された事項から予測できない顕著な効果を奏するものである。
したがって、相違点1-1について判断するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明及び甲3、5、6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

なお、特許異議申立人は、甲5の図5には、積層フィルムの120℃での引張弾性率が75MPaから500MPaであり、170℃での引張弾性率が85MPaから500MPaであることが開示、示唆されている旨主張している。
しかしながら、甲5の図5は、甲5の段落【0044】の記載のとおり、6ナイロン及びエチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)の弾性率を示したものであるが、当該弾性率が「引張弾性率」であるか否か不明である。さらに、甲5の図5は、6ナイロン及びエチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)自体の弾性率を示していると解されることから、積層フィルムの弾性率ではないと解される。
そうすると、甲5の図5から、積層フィルムの120℃での引張弾性率が75MPaから500MPaであり、170℃での引張弾性率が85MPaから500MPaである点について読み取ることはできない。

また、特許異議申立人は、甲6の請求項1、段落【0016】には、積層フィルムの120℃での引張弾性率が75MPaから500MPaであり、170℃での引張弾性率が85MPaから500MPaであることが開示、示唆されている旨主張している。
しかしながら、甲6の上記記載は175℃での引張弾性率であって、120℃及び170℃での引張弾性率については記載がない。さらに、甲6の積層フィルムは、金型成形に用いられるものである(甲6の段落【0001】ないし【0006】、【0012】、【0016】、【0055】、【0056】等を参照。)から、甲6に記載された事項を金型成形に用いられる積層フィルムではない甲1発明に適用する動機付けがない。

よって、特許異議申立人の前記主張はいずれも採用できない。

ウ まとめ
以上のことから、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明、甲第5号証又は甲第6号証に記載された技術的事項及び甲第3号証にみられる周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件特許発明2ないし22について
本件特許発明2ないし22は、請求項1を直接的又は間接的に引用するものであって、請求項1に記載された特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に、甲第1号証に記載された発明、甲第5号証又は甲第6号証に記載された技術的事項及び甲第3号証にみられる周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件特許発明23ないし24について
本件特許発明23は、本件特許発明1ないし21のプロセス用離型フィルムを使用した樹脂封止半導体の製造方法であり、本件特許発明24は、本件特許発明17ないし19のプロセス用離型フィルムを使用した樹脂封止半導体の製造方法であるから、本件特許発明1ないし21と同様に、甲第1号証に記載された発明、甲第5号証又は甲第6号証に記載された技術的事項及び甲第3号証にみられる周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)申立理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立理由1によっては、本件特許の請求項1ないし24に係る特許を取り消すことはできない。

2 申立理由2(甲2を主引用文献とする進歩性)について
(1)甲2に記載された事項等
ア 甲2に記載された事項
甲2には、おおむね次の事項が記載されている。
「【請求項1】
基材上に樹脂層を設けてなる離型用シートであって、樹脂層が、炭素数2?4のオレフィン成分85?99質量%と酸成分1?15質量%とからなる酸変性ポリオレフィン樹脂を含有することを特徴とする離型用シート。
…(中略)…
【請求項9】
基材に帯電防止処理が施されていることを特徴とする請求項1?8のいずれかに記載の離型用シート。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、離型用シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
離型用シートは工業的に広く用いられており、例えば、粘着シート、粘着テープなどの粘着材料の粘着・接着面保護材料または工程材料、プリント配線板、フレキシブルプリント配線板、多層プリント配線板等の製造のための工程材料、液晶ディスプレー用部品である偏光板や位相差板の保護材料、さらには、シート状構造体の成形用途などが挙げられる。」
「【0012】
本発明は、これらの問題を鑑み、製造が容易で、被着体への離型層の移行がなく、また廃棄時の環境負荷が少ない離型用シートを提供しようとするものである。」
「【発明の効果】
【0015】
本発明の離型用シートは、ぬれ性を有しながらも良好な離型性を備えている。しかも離型性を発現するにあたって、ワックス類や低分子量のシリコーン化合物、界面活性剤などの離型剤を必要としない。このため、剥離の際に被着体を汚染することがない。また、フッ素などハロゲン元素を含む離型剤を用いなくて済むので、廃棄時の環境への負荷も少ない。さらに、帯電防止処理された基材を使用した場合には、被着体と離型用シートを剥離する際の静電気発生を低減できるため、大気中の塵や埃等の吸着による製品の品質低下や粘着力低下を抑制することができる。
【0016】
本発明の離型用シートは、粘着材料や液晶ディスプレー用部品などの保護材料や、プリント配線板を製造する際の工程材料、イオン交換膜やセラミックグリーンシートなどのシート状構造体成形用途などに好適である。」
「【0042】
基材に用いることのできる樹脂材料としては、例えば熱可塑性樹脂として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリ乳酸(PLA)などのポリエステル樹脂、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、6-ナイロン、ポリ-m-キシリレンアジパミド(MXD6ナイロン)等のポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアクリルニトリル樹脂、ポリイミド樹脂、これらの樹脂の複層体(例えば、ナイロン6/MXD6/ナイロン6、ナイロン6/エチレン-ビニルアルコール共重合体/ナイロン6)や混合体等が挙げられる。樹脂材料は延伸処理されていてもよい。また、樹脂材料が公知の添加剤や安定剤、例えば帯電防止剤、可塑剤、滑剤、酸化防止剤などを含んでいてもよく、その他の材料と積層する場合の密着性を良くするために、表面に前処理としてコロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、薬品処理、溶剤処理等を施しておいてもよい。また、シリカ、アルミナ等が蒸着されていてもよく、バリア層や易接着層、帯電防止層、紫外線吸収層、接着層などの他の層が積層されていてもよい。」
「【0047】
基材に帯電防止処理を施す場合には、その表面固有抵抗値が10^(10)Ω/□以下であることが望ましい。表面固有抵抗値が、10^(10)Ω/□よりも大きい場合、帯電防止性が十分でないため、静電気を帯びやすく、大気中の塵や埃が付着することにより、製品に欠陥が生じたり、粘着剤の粘着力が低下する可能性がある。
【0048】
帯電防止処理された基材を得る方法は、基材を構成する樹脂等に帯電防止材料を練りこむ方法、基材上に帯電防止材料を含む層を積層する方法があり、帯電防止材料を含む層を積層する方法が、より低コストで帯電防止処理できるので好ましい。帯電防止層を積層する場合、基材と樹脂層の間、基材の樹脂層と反対側のどちらか一方に積層されていればよく、また、基材の両面に積層されていてもよい。基材と樹脂層の間に帯電防止層を積層した場合、被着体から離型シートを剥離したときに大気中の塵や埃の付着を防止するのに効果的であり、基材の樹脂層と反対側に帯電防止層を積層した場合、被着体に離型シートを積層した状態での運搬・工程フィルムとしての使用において大気中の塵や埃の付着を防止するのに効果的である。剥離後の被着体の汚染の防止の観点から、基材と樹脂層の間に帯電防止層が積層されていることがより好ましい。」
「【0050】
帯電防止処理に使用できる帯電防止材料としては、ポリアニリン系、ポリピロール系およびチオフェン系などの導電性高分子、カーボンブラックやケッチェンブラックなどの導電性カーボン、酸化スズ、アンチモンドープ酸化スズ、酸化スズドープインジウムなどの酸化スズ系超微粒子が挙げられる。これらの帯電防止材料を、単体もしくはバインダー樹脂と混合した組成物として、樹脂材料等に練りこむ、または、単体もしくはバインダー樹脂と混合した組成物の液状物として基材の表面に塗工することにより、帯電防止処理することができる。なかでも、透明性に優れることから検査工程における異物の把握が容易になるという点で、酸化スズ系超微粒子の使用が好ましい。」

イ 甲2発明
甲2に記載された事項を請求項9に関して整理すると、甲2には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。
<甲2発明>
「炭素数2?4のオレフィン成分85?99質量%と酸成分1?15質量%とからなる酸変性ポリオレフィン樹脂を含有する樹脂層と、基材と、を含む離型用シートであって、
前記基材に帯電防止処理が施されている
上記離型用シート。」

(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲2発明を対比する。
甲2発明における「炭素数2?4のオレフィン成分85?99質量%と酸成分1?15質量%とからなる酸変性ポリオレフィン樹脂を含有する樹脂層」は、甲2の段落【0020】等の記載によると、離型性を備えるために設けられたものであるから、本件特許発明1の「離型層A」に相当する。
甲2発明における「基材」について、甲2の段落【0042】には、「ポリエチレンテレフタレート」が記載されており、一方、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0051】には、耐熱樹脂層Bに含有させる結晶性樹脂として、・・・具体的には、ポリエチレンテレフタレート・・・を用いることが好ましい。」と記載されていることから、甲2発明における「基材」は、本件特許発明1でいうところの一定程度の耐熱性を有する材料から作成されているといえる。そうすると、甲2発明における「基材」は、本件特許発明1の「耐熱樹脂層B」に相当する。
甲2発明における「離型用シート」は、基材上に樹脂層が積層されているものであるから、本件特許発明1の「積層フィルム」に相当する。
甲2発明における「離型用シート」は、甲2の段落【0002】の記載によると、工程材料や成形用途として用いられることを前提としているものであるといえ、また、段落【0039】の「離型用シート」の厚みの記載によると、「シート」は「フィルム」状であることは明らかであるから、本件特許発明1の「プロセス用離型フィルム」に相当するといえる。
甲2発明における「帯電防止処理」は、甲2の段落【0048】ないし【0050】の記載によると、高分子系帯電防止剤を用いることが好ましいとされているから、甲2発明の「プロセス用離型フィルム」には、「高分子系帯電防止剤を含有する層」が形成されているといえる。

したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「離型層Aと、耐熱樹脂層Bと、を含む積層フィルムであるプロセス用離型フィルムであって、
前記耐熱樹脂層Bが、高分子系帯電防止剤を含有する層B1を含む、
上記プロセス用離型フィルム。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点2-1>
離型層の水に対する接触角について、本件特許発明1においては、「90°から130°」であると特定されるのに対し、甲2発明においては、そのような特定がない点。
<相違点2-2>
積層フィルムの引張弾性率に関し、本件特許発明1においては、「120℃での引張弾性率が75MPaから500MPaであり、170℃での引張弾性率が85MPaから500MPaである」と特定されるのに対し、甲2発明においては、そのような特定がない点。

イ 相違点についての判断
事案に鑑み、まず相違点2-2について判断する。
甲2発明は、粘着シートなどの粘着材料の粘着・接着面保護材料や工程材料、シート状構造体の成形に用いられ、製造が容易で被着体への離型層の移行がなく廃棄時の環境負荷を少なくすること等を課題とするものであって、120℃での引張弾性率を75MPaから500MPa、170℃での引張弾性率を85MPaから500MPaとすることの動機付けとなる記載は甲2になく、甲4ないし6にも、120℃及び170℃での引張弾性率を特定することに関する記載はない。
したがって、甲2発明において、相違点2-2に係る特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことではない。
そして、本件特許発明1は、上記相違点2-2に係る特定事項を備えることで、成形品の外観不良が極めて効果的に抑制される(本件特許の発明の詳細な説明の段落【0017】等を参照。)という、甲2発明及び甲4ないし6に記載された事項から予測できない顕著な効果を奏するものである。
したがって、相違点2-1について判断するまでもなく、本件特許発明1は、甲2発明及び甲4ないし6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

なお、特許異議申立人は、甲5の図5、及び甲6の請求項1、段落【0016】には、積層フィルムの120℃での引張弾性率が75MPaから500MPaであり、170℃での引張弾性率が85MPaから500MPaであることが開示、示唆されている旨主張しているが、上記1(2)イでの判断と同様に、特許異議申立人の前記主張は採用できない。

ウ まとめ
以上のことから、本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明、甲第5号証又は甲第6号証に記載された技術的事項及び甲第4号証にみられる周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件特許発明2ないし22について
本件特許発明2ないし22は、請求項1を直接的又は間接的に引用するものであって、請求項1に記載された特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に、甲第2号証に記載された発明、甲第5号証又は甲第6号証に記載された技術的事項及び甲第4号証にみられる周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件特許発明23ないし24について
本件特許発明23は、本件特許発明1ないし21のプロセス用離型フィルムを使用した樹脂封止半導体の製造方法であり、本件特許発明24は、本件特許発明17ないし19のプロセス用離型フィルムを使用した樹脂封止半導体の製造方法であるから、本件特許発明1ないし21と同様に、甲第2号証に記載された発明、甲第5号証又は甲第6号証に記載された技術的事項及び甲第4号証にみられる周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)申立理由2についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立理由2によっては、本件特許の請求項1ないし24に係る特許を取り消すことはできない。

3 申立理由3(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
本件特許発明1ないし22は、「プロセス用離型フィルム」という物の発明である。
本件特許発明23ないし24は、「樹脂封止半導体の製造方法」という方法の発明である。
発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、物の発明にあっては、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産でき、かつ、使用できる程度の記載があることを要し、方法の発明にあっては、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用できる程度の記載があることを要する。

(2)実施可能要件の判断
・請求項1ないし22について
本件特許の発明の詳細な説明の段落【0078】ないし【0082】には、本件特許発明のプロセス用離型フィルムの製造方法が記載されており、段落【0083】ないし【0096】、図3、図4A及び図4Bには、当該プロセス用離型フィルムを使用した樹脂封止半導体の製造方法が記載されている。さらに、段落【0098】ないし【0120】に具体的な実施例が記載されている。
したがって、これらの記載を参酌すれば、当業者が過度の試行錯誤を要することなく請求項1ないし22に係る発明を生産し、かつ、使用できるものといえる。

・請求項23ないし24について
本件特許の発明の詳細な説明の段落【0083】ないし【0096】、図3、図4A及び図4Bには、本件特許発明のプロセス用離型フィルムを使った樹脂封止半導体の製造方法が記載されており、段落【0104】、【0117】に具体的な実施例が記載されている。
したがって、これらの記載を参酌すれば、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、請求項23ないし24に係る発明を使用できるものといえる。

したがって、本件特許の発明の詳細な説明には、本件特許発明1ないし22について、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、かつ、使用することができる程度の記載があるといえ、本件特許発明23ないし24について、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用できる程度の記載があるといえるから、実施可能要件を充足する。

なお、特許異議申立人は、本件特許の発明の詳細な説明には、プロセス用離型フィルムにおいて、基材上に直接離型層を形成する態様について、具体的な効果を示していないため、当業者は、本件特許発明の実施に際し、実施例以外の構成、すなわち、接着層を用いないプロセス用離型フィルムを実施するにあたり、過度の試行錯誤が求められ、発明を容易に実施できない旨主張している。
しかしながら、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0078】ないし【0082】には、共押出し形成法、塗布法等でプロセス用離型フィルムを製造できる旨の記載があるから、接着層を用いないプロセス用離型フィルムについても、当業者が過度の試行錯誤を要することなく生産でき、かつ使用できるものといえる。

また、特許異議申立人は、本件特許の発明の詳細な説明には、実施例以外の構成、例えば、実施例とは異なる層構成、樹脂組成について実施するに際し、当業者に過度の試行錯誤が求められ、発明を容易に実施できない旨主張している。
しかしながら、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0024】ないし【0077】の記載、及び【0098】ないし【0120】に記載された具体的な実施例を参酌すれば、当業者が適切な層構成を選択し得ること、適切な樹脂組成を選択し得ることが理解できることから、実施例とは異なる層構成、樹脂組成のプロセス用離型フィルムについても、当業者が過度の試行錯誤を要することなく生産でき、かつ使用できるものといえる。

よって、特許異議申立人の前記主張はいずれも採用できない。

(3)申立理由3についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立理由3によっては、本件特許の請求項1ないし24に係る特許を取り消すことはできない。

4 申立理由4(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)サポート要件についての判断
本件特許の発明の詳細な説明の段落【0008】、【0011】の記載によると、本件特許発明が解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、「樹脂封止後の成形品を、金型構造や離型剤によることなく容易に離型でき、かつ皺や欠け、形状異常(異物付着等)等の外観不良のない成形品を得ることができるプロセス用離型フィルムを提供する」こと、又は「半導体チップ等を樹脂封止等して得られる成形品を容易に離型できるとともに、皺や欠け、形状異常(異物付着等)などの外観不良のない成形品を、高い生産性で製造すること」である。

本件特許の発明の詳細な説明の段落【0017】、【0018】の記載、【0098】ないし【0120】に記載された具体的な実施例に鑑みれば、プロセス用離型フィルムが、「耐熱樹脂層として高分子系帯電防止剤を含有する層を含み、120℃での引張弾性率が75MPaから500MPaであり、170℃での引張弾性率が75MPaから500MPa」を満たすものであれば、当業者は上記発明の課題を解決できると認識する。

そして、本件特許発明1ないし24は、「耐熱樹脂層Bが、高分子系帯電防止剤を含有する層B1を含み、積層フィルムの120℃での引張弾性率が75MPaから500MPaであり、170℃での引張弾性率が85MPaから500MPaである」との特定事項を含んでいる。

したがって、本件特許発明1ないし24は、本件特許の発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、本件特許発明1ないし24は、サポート要件を満足する。

なお、特許異議申立人は、本件特許の発明の詳細な説明において、効果について説明されている態様は、接着層を含む5層構造のプロセス用離型フィルムのみであって、本件特許発明の3層のみからなる構造を含むプロセス用離型フィルムは、上記発明の課題を解決できない可能性があり、3層のみからなる構造を含むプロセス用離型フィルムにまで、拡張ないし一般化できない旨主張している。
しかしながら、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0017】、【0018】の記載、及び【0078】ないし【0082】に記載された具体的な実施例に鑑みれば、3層のみからなるプロセス用離型フィルムであったとしても、樹脂組成や層構成を適宜設定し、耐熱樹脂層として高分子系帯電防止剤を含有する層を含むものであって、120℃での引張弾性率が75MPaから500MPa、かつ、170℃での引張弾性率が75MPaから500MPaであるとの特定事項を満たしていれば、当業者は上記発明の課題を解決できると認識できる。

また、特許異議申立人は、離型層に含まれる樹脂に応じて、水に対する接触角は大きく相違するから、本件特許発明を実施するにあたり、離型層は如何なる成分の組合わせを必要とするのか、出願時の技術常識に照らしても当業者は理解できず、プロセス用離型フィルムの離型層の水に対する接触角を90°から130°とした本件特許発明にまで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない旨主張している。
しかしながら、離型層における樹脂成分等を適宜調整して水に対する接触角を調整することは、甲3ないし4に記載されているように、一般的に行うことであって技術常識であるといえる。
そうすると、プロセス用離型フィルムの離型層の水に対する接触角を90°から130°とすることは、上記技術常識に鑑みれば、樹脂成分等を適宜調整することで設定可能であるから、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できる範囲内のものといえる。

さらに、特許異議申立人は、プロセス用離型フィルムの引張弾性率は積層数、接着層の有無、離型層の樹脂組成等に応じて変わるものであるが、発明の詳細な説明においては、特定の実施例しか本件特許発明の引張弾性率を満たすことを確認していないため、本件特許発明にまで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない旨主張している。
しかしながら、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0017】、【0018】の記載、及び【0098】ないし【0120】に記載された具体的な実施例に鑑みれば、耐熱樹脂層として高分子系帯電防止剤を含有する層を含むものであって、120℃での引張弾性率が75MPaから500MPa、かつ、170℃での引張弾性率が75MPaから500MPaであるとの条件を満たしていれば、当業者は上記発明の課題を解決できると認識できる。

よって、特許異議申立人の前記主張はいずれも採用できない。

(3)申立理由4についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立理由4によっては、本件特許の請求項1ないし24に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
上記第4のとおり、本件特許の請求項1ないし24に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし24に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-03-29 
出願番号 特願2016-98224(P2016-98224)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B29C)
P 1 651・ 536- Y (B29C)
P 1 651・ 537- Y (B29C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 池ノ谷 秀行  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 大畑 通隆
岩田 健一
登録日 2020-07-09 
登録番号 特許第6731782号(P6731782)
権利者 三井化学東セロ株式会社
発明の名称 成形品の外観不良を抑制するプロセス用離型フィルム、その用途、及びそれを用いた樹脂封止半導体の製造方法  
代理人 特許業務法人浅村特許事務所  

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