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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 A61K
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61K
管理番号 1372987
審判番号 不服2019-16222  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-12-02 
確定日 2021-05-10 
事件の表示 特願2016-538656「新しいボツリヌス毒素製剤の長期持続作用」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 6月18日国際公開、WO2015/089452、平成28年12月28日国内公表、特表2016-540785、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成26年12月12日(優先権外国庁受理 平成25年12月12日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成30年8月31日付けで拒絶理由通知がされ、平成31年3月11日付けで手続補正がされ、令和1年7月26日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、令和1年12月2日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、令和2年2月10日に前置報告がされ、令和2年5月22日に審判請求人から前置報告に対する上申がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(令和1年7月26日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

1.本願請求項1、3-8に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の引用文献1又は2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

2.本願請求項1-11に係る発明は、以下の引用文献1-7に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特表2010-532784号公報
2.国際公開第2012/134240号
3.特表2008-514353号公報
4.特表2013-509248号公報
5.国際公開第2013/151671号
6.特表2011-530392号公報
7.特表2011-506511号公報

第3 本願発明
本願請求項1-9に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明9」という。)は、令和1年12月2日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-9に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
治療が必要な患者の状態を治療する方法に用いるための動物性タンパク質非含有ボツリヌス毒素組成物であって、
前記方法が、治療有効量の前記動物性タンパク質非含有ボツリヌス毒素組成物を局所に投与するステップを含み、
前記動物性タンパク質非含有ボツリヌス毒素組成物が、下記からなる群より選択される形態:
(i) ボツリヌス毒素、ポリソルベート20、及びメチオニンを含む液体組成物、及び
(ii) ボツリヌス毒素、ポリソルベート、及びメチオニンと、並びに、糖、糖アルコール、及びイオン化合物からなる群から選択される1つ以上の成分とを含む凍結乾燥組成物、にあり、
前記状態が、眉間線、マリオネット線、前額の深いしわ、側方眼角線、及び任意のこれらの組み合わせからなる群から選択され、及び
前記状態の症状が、少なくとも16週間効果的に軽減され、かつ動物性タンパク質含有ボツリヌス毒素組成物より長い時間、効果的に軽減されることを特徴とする、前記動物性タンパク質非含有ボツリヌス毒素組成物。
【請求項2】
前記組成物が、前記状態の少なくとも1つの症状の軽減を維持するのに効果的な、第1の治療と第2の治療の間の時間間隔で投与され、前記時間間隔が少なくとも1ヶ月である、請求項1記載の動物性タンパク質非含有ボツリヌス毒素組成物。
【請求項3】
前記ボツリヌス毒素が、ボツリヌス毒素血清A型、B型、C型、D型、E型、F型、及びG型からなる群から選択される、請求項1または2に記載の動物性タンパク質非含有ボツリヌス毒素組成物。
【請求項4】
前記動物性タンパク質非含有ボツリヌス毒素組成物が、前記患者中で動物性タンパク質含有ボツリヌス毒素組成物より長く持続する、請求項1?3のいずれかに記載の動物性タンパク質非含有ボツリヌス毒素組成物。
【請求項5】
前記状態の症状の効果的軽減が、皺縮筋及び/または鼻根筋活動と関係する中等度から重度の眉間線の外観の一時的な改善である、請求項1?4のいずれかに記載の動物性タンパク質非含有ボツリヌス毒素組成物。
【請求項6】
前記状態の症状の効果的軽減が、眼輪筋活動と関係する中等度から重度の側方眼角線の外観の一時的な改善である、請求項1?5のいずれかに記載の動物性タンパク質非含有ボツリヌス毒素組成物。
【請求項7】
治療が必要な患者の状態を治療する方法に用いるための動物性タンパク質非含有ボツリヌス毒素組成物であって、
前記方法が、治療有効量の前記動物性タンパク質非含有ボツリヌス毒素組成物を局所に投与するステップを含み、
前記動物性タンパク質非含有ボツリヌス毒素組成物が、下記からなる群より選択される形態:
(i) ボツリヌス毒素、ポリソルベート20、及びメチオニンを含む液体組成物、及び
(ii) ボツリヌス毒素、ポリソルベート、及びメチオニンと、並びに、糖、糖アルコール、及びイオン化合物からなる群から選択される1つ以上の成分とを含む凍結乾燥組成物、にあり、
前記状態が、眉間線、マリオネット線、前額の深いしわ、側方眼角線、及び任意のこれらの組み合わせからなる群から選択され、
前記状態の少なくとも1つの症状の軽減を維持するのに効果的な、第1の治療と第2の治療の間の時間間隔で投与され、かつ前記時間間隔が少なくとも16週間であり、これは、前記動物性タンパク質非含有組成物と同じ量で投与され、同じ方法で同じ部位(複数の部位を含む)に投与される動物性タンパク質含有ボツリヌス毒素組成物の時間間隔より長い、前記動物性タンパク質非含有ボツリヌス毒素組成物。
【請求項8】
前記ボツリヌス毒素が、ボツリヌス毒素血清A型、B型、C型、D型、E型、F型、及びG型からなる群から選択される、請求項7に記載の動物性タンパク質非含有ボツリヌス毒素組成物。
【請求項9】
第1の治療と第2の治療の間の時間間隔が、3ヶ月より長い、請求項7又は8に記載の動物性タンパク質非含有ボツリヌス毒素組成物。」

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、次の事項が記載されている。

(1)「【請求項1】
ボツリヌス毒素、ポリソルベート20、およびメチオニンを含む薬学的液状組成物。」

(2)「【0003】
現在、ボツリヌス毒素タンパク質のうち、血清型(serotype)AとBは、眼瞼けいれん、斜頸、多汗症などの治療だけでなく、顔面の皺除去のための用途として薬剤化がなされているが、このようなボツリヌス毒素などのタンパク質製剤の場合、薬剤化過程に多くの問題点が発生する。これはタンパク質の不安定性に起因し、例えばボツリヌス毒素のように、極めて低い濃度で薬剤化がなされているタンパク質製剤の場合、その問題が深刻である。」

(3)「【0019】
本発明の薬学的液状組成物は、ボツリヌス毒性の安定化剤として、動物由来のタンパク質であるアルブミンまたはゼラチンの代わりに、ポリソルベート20およびメチオニンまたはメチオニンとイソロイシンとの組み合わせを使用するため、ボツリヌス毒素薬剤学的組成物の投与を受ける患者が血清由来病原菌または微生物に感染する危険性を減らすことができ、安全に投与することができる。
【0020】
また、本発明の薬学的液状組成物は、液状形態であるため、患者に注射剤として投与するために便利に使用することができる。しかも、本発明の薬学的液状組成物は、界面活性剤またはアミノ酸のみを単独で使用する場合より液状状態での保管安定性が著しく、冷蔵条件でだけでなく25?37℃の室温でも長期間ボツリヌス毒素の活性が維持されるので、冷蔵条件を維持することができない非常時でも保存安定性を持つことができるという利点がある。」

(4)「【0036】
1.実験方法
(1)ボツリヌス毒素液状組成物の製造
安定化剤溶液を用いてボツリヌス毒素液を希釈し、最終的にボツリヌス毒素液の濃度を100ユニット/mLとなるようにボツリヌス毒素液状組成物を製造した。
【0037】
(2)ボツリヌス毒素の安定性実験
製造されたボツリヌス毒素液状組成物を特定の温度で保管しながら一定期間ごとに1mLサンプリングを行った。サンプリングされた液状組成物1mLに注射用水9mLを入れて10倍に希釈し、希釈されたサンプルを4週齢ICR(Institute of Cancer Research、USA)雌マウス5匹に腹腔注射した(1匹当り0.3mLずつ、すなわち3ユニット/マウス)。腹腔注射後3日間観察しながら、死亡したマウスの数およびそれによる死亡率を確認した。マウスの死亡率が50%以上であれば、ボツリヌス毒素の活性が維持されるものと評価できる。
【0038】
2.ボツリヌス毒素安定化剤の選別
多様なボツリヌス毒素安定化剤候補を含むボツリヌス毒素液状組成物を製造し、25℃または37℃の温度で保管しながら、保管期間によるボツリヌス毒素液状組成物の安定性を測定した。ボツリヌス毒素安定化剤の選別実験による25℃での安定性実験結果を表1に示し、37℃での安定性実験結果を表2に示した。表1および表2において、HSAはヒト血清アルブミン(Human Serum Albumin)を意味し、PEG8000はポリエチレングリコール8000を意味する。
【0039】
表1に示すように、25℃では、L-メチオニン(20mM)+ポリソルベート20(2mg/mL)+ボツリヌス毒素(100ユニット/mL)、HSA(5mg/mL)+ポリソルベート20(2mg/mL)+ボツリヌス毒素(100ユニット/mL)、L-イソロイシン(50mM)+ポリソルベート20(2mg/mL)+ボツリヌス毒素(100ユニット/mL)、ヒドロキシエチル澱粉(10mg/mL)+ポリソルベート20(2mg/mL)+ボツリヌス毒素(100ユニット/mL)からなる液状組成物においてボツリヌス毒素の活性が長期間維持された。また、表2に示すように、37℃では、L-メチオニン(20mM)+ポリソルベート20(2mg/mL)+ボツリヌス毒素(100ユニット/mL)、HSA(5mg/mL)+ポリソルベート20(2mg/mL)+ボツリヌス毒素(100ユニット/mL)を含む液状組成物においてボツリヌス毒素の活性が長期間維持された。
【0040】
前述した結果より、メチオニンとポリソルベート20との組み合わせは、HASとポリソルベート20との組み合わせまたはヒドロキシエチル澱粉とポリソルベート20との組み合わせを代替することが可能な安定化剤として評価される。また、イソロイシンとポリソルベート20との組み合わせも、従来の安定化剤を代替することが可能な可能性があるものと見られる。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】



(5)「【0054】
上述したように、本発明は、ボツリヌス毒素を含み、ボツリヌス毒素の安定性が改善された薬学的液状組成物であって、ジストニア、こわばった筋肉または神経疾患(例えば、片頭痛、腰痛、頸椎疾患など)の治療に使用できる。また、多汗症および皺除去などの美容目的でも使用できる。特に、本発明の薬学的液状組成物は、冷蔵条件だけでなく25?37℃の室温でも長期間ボツリヌス毒素の活性が維持されるので、流通と販売に好都合である。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、次の事項が記載されている。
引用文献2は韓国語文献であるため、摘記は、合議体による翻訳文で示すが、翻訳文は、特表2014-509644号公報(以下、「対応公表公報」という。)を参考にしたので、対応箇所も併記する。

(1)「【請求項1】
ボツリヌム毒素、ポリソルベート及びメチオニン;及び
糖、糖アルコール及びイオン化合物よりなる群から選択された1つ以上の成分を含む薬剤学的凍結乾燥製剤。」(対応公表公報の【請求項1】)

(2)「[9]
本発明によるボツリヌム毒素の凍結乾燥製剤は、ボツリヌム毒素の保管、運搬、操作時に発生することができる高温条件でもボツリヌム毒素の活性が維持されると共に、長期安定性に非常に優れている。」(対応公表公報の【0010】)

(3)「[24]<実施例1>ボツリヌム毒素凍結乾燥製剤の製造
[25]本発明のボツリヌム毒素凍結乾燥製剤は、ボツリヌム毒素、メチオニン及びポリソルベートと、糖または糖アルコール及び/またはイオン化合物を含む滅菌された調剤液を凍結乾燥して準備した。
[26]
[27](ボツリヌム毒素安定性試験)
[28]ボツリヌム毒素の安定性は、一定保管期間後に活性の持続として判断し、ボツリヌム毒素の活性の持続は、マウスLD_(50)またはマウス致死率で測定した。上記凍結乾燥製剤の剤形を40℃、相対湿度70%で30日間保管し、これを生理食塩水で溶解後、2.5 LD_(50 )IUに該当するボツリヌム毒素をマウス3匹の腹腔に注射し、2匹以上が致死に至る場合、これを安定性が持続するものと判断し、これを下記の表では、死亡率で表現した。マウスの死亡率が50%以上なら、ボツリヌム毒素の活性が維持されるものと評価されることができる。
[29]
[30](力価測定法)
[31]力価測定法は、次のように実施する。検体2バイアルに生理食塩水2.8mLをそれぞれ加えて溶かした。ここで、4.4mLを取って生理食塩水1.45mLに入れた液を検液1とした。検液1の4.4mLを生理食塩水1.45mLに入れた液を検液2とした。同一の方法で8回さらに希釈し、それぞれを検液とした。検液3から検液6までの検液を重さが17?22gのマウス(CD1、雌)に検液ごとに10匹の腹腔に匹当たり0.1mLずつ注射した後、3日後に致死率を測定し、Probit法で統計処理し、マウスLD_(50)を求め、力価を求めた。」(対応公表公報の【0024】?【0026】)

(4)「[55]次に、凍結乾燥製剤の高温での長期安定性実験を力価測定法で実施した。この際、ボツリヌム毒素+メチオニン+ポリソルベート20+リン酸ナトリウム+スクロース組合の凍結乾燥製剤の場合、ボツリヌム毒素100ユニット、メチオニン0.8mg、ポリソルベート20 0.02mg、リン酸ナトリウム(無水リン酸一水素ナトリウム0.05mg+リン酸二水素ナトリウム二水和物0.101mg)、スクロース4mgを使用し、ボツリヌム毒素+メチオニン+ポリソルベート20+塩化ナトリウム+スクロース組合の凍結乾燥製剤の場合には、ボツリヌム毒素100ユニット、メチオニン0.2mg、ポリソルベート20 0.02mg、塩化ナトリウム2mg、スクロース4mgを使用した。対照群として使用された、ヒト血清アルブミン含有凍結乾燥製剤の場合には、ヒト血清アルブミン0.5mg、塩化ナトリウム0.9mgを使用した。
[56]
【表6】

[57]
[58]
表6に示されたように、ボツリヌム毒素、メチオニン、ポリソルベート、リン酸ナトリウムまたは塩化ナトリウム及びスクロース組合の凍結乾燥製剤で安定化効果が6ヶ月程度維持されることを確認することができた。」(対応公表公報の【0041】?【0043】)

3.引用文献3
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、次の事項が記載されている。

(1)「【請求項24】
美容的欠損処置量のボツリヌス毒素A型;および
個体の美容的欠損を処置することにおいて効果的である複数の膨潤可能なミクロスフェア
を含む、個体における美容的欠損を処置するために有用な組成物。
【請求項25】
組成物が、しわを処置することにおいて効果的な注射可能な組成物である、請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
しわが、マリオネットライン、眉間のしわ、目尻のしわ、額のしわ、および、それらの組合せからなる群から選択される、請求項25に記載の組成物。」

4.引用文献4
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4には、次の事項が記載されている。

(1)「【請求項15】
麻痺剤を局所塗布する方法であって、前記方法が、
請求項1による局所塗布装置の作動蓋を押して、薬瓶ソケット中に保持された薬瓶の隔壁及び カートリッジの隔壁に針を通すことにより、流体接続を設けることと、
プランジャを押して薬剤を前記薬瓶内に押しやり、任意選択で前記薬瓶を振ることにより、再構築された麻痺剤組成物を作り出すことと、
前記プランジャを引いて、前記再構成された麻痺剤を前記カートリッジ内に引き込むことと、
前記薬瓶ソケット及び薬瓶を取り除いて分与部材を露出させることと、
前記プランジャを押して、前記再構成された麻痺剤組成物を、前記分与部材から、治療が必要とされる患者の領域上に分与することと
を含む、方法。
……
【請求項25】
治療を必要とする患者の領域が、顔面、腋窩、手のひら、手、足、腰、首、脚、鼠蹊部、腕、肘、膝、骨盤、臀部及び胴から成る群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項26】
治療を必要とする患者の領域が顔面であり、再構成された麻痺組成物が、ボツリヌス毒素A型を含み、前記再構成された麻痺組成物が、皺の現れを低減するのに利用される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
皺が、マリオネットライン、鼻唇溝、目じりの小皺、眉の小皺、眉間の皺、及びそれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項26に記載の方法。」

5.引用文献5
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5には、次の事項が記載されている。
引用文献5は英語文献であるため、摘記は、合議体による翻訳文で示す

「[000875]ボツリヌス毒素は、頭痛、片頭痛、緊張性頭痛、洞性頭痛……顔面の皺、眼瞼線、カラスの足跡、マリオネット線、鼻唇のひだ……などの、しかし、これに限らない様々な疾患、障害、及び状態を治療するために使用され得る。……

[000876]ボツリヌス毒素A型は、12歳以上の患者の本質的な眼瞼けいれん、斜視および片側顔面けいれんと、頸部ジストニア、眉間の皺及び多汗症の治療のために米国食品医薬品局(FDA)によって承認されている。……」

6.引用文献6
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献6には、次の事項が記載されている。

(1)「【0003】
患者の顔に美容注射をすることが次第に一般的になってきている。従って、例えば顔、特に患者の額にボトックス(BOTOX)(登録商標)として知られる薬品を注射し、皮下筋肉を麻痺させ、額の上の、目に見える皺を一時的に除去することが多く行われている。皺のない顔の外観を維持するため、一般にかかる注射を長くて数カ月続け、周期的に何回も繰り返さなければならない。」

7.引用文献7
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献7には、次の事項が記載されている。

(1)「【0004】
ヒトの眉間じわのライン、額のライン、およびカラスの足跡などの機能亢進によるラインは、重なり合っている皮膚をひだ状にする顔面筋の収縮によって引き起こされる。これらの筋肉の活性は、怒り、不安、恐怖、または悲しみなど否定的な顔の表情を与えかねない永続的なしわをもたらすこともある。A型ボツリヌス毒素(BTXA)またはより正確にはA型ボツリヌス毒素複合体は、これらのしわを軽減するまたは避けるために化粧品に、すなわち、審美的な目的で用いられている。血清型B型、C型、D型、E型、F型およびG型など、化粧品のためにボツリヌス毒素の他の血清型を用いることも可能である。」

第5 引用発明
引用文献1に記載された発明
上記摘記事項、特に第4 1(1)、(3)、(4)の記載からみて、引用文献1には、以下の発明が記載されているといえる。

「ボツリヌス毒素、ポリソルベート20、およびメチオニンからなる薬学的液状組成物。」(以下、「引用発明1」という。)

引用発明2に記載された発明
上記摘記事項、特に第4 2(1)?(4)の記載からみて、引用文献2には、以下の発明が記載されているといえる。

「ボツリヌム毒素、メチオニン、ポリソルベート、リン酸ナトリウム、及びスクロースからなる薬剤学的凍結乾燥製剤。」(以下、「引用発明2」という。)

第6 対比・判断
1.本願発明1について
(1)引用発明1に対して
ア 対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると、次のことがいえる。

引用発明1における「ボツリヌス毒素」、「ポリソルベート20」、「メチオニン」及び「薬学的液状組成物」は、本願発明1における「ボツリヌス毒素」、「ポリソルベート20」、「メチオニン」、「液体組成物である」「ボツリヌス毒素組成物」にそれぞれ相当する。
また、引用発明1は、上記「ボツリヌス毒素」、「ポリソルベート20」、「メチオニン」の3成分からなり、「動物性タンパク質」は含まないから、本願発明1の「動物性タンパク質非含有」との条件も満たすものである。

したがって、本願発明1と引用発明1との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「ボツリヌス毒素、ポリソルベート20、及びメチオニンを含む液体組成物である動物性タンパク質非含有ボツリヌス毒素組成物」

(相違点)
本願発明1は「治療が必要な患者の状態を治療する方法に用いるための動物性タンパク質非含有ボツリヌス毒素組成物であって、
前記方法が、治療有効量の前記動物性タンパク質非含有ボツリヌス毒素組成物を局所に投与するステップを含み、
前記状態が、眉間線、マリオネット線、前額の深いしわ、側方眼角線、及び任意のこれらの組み合わせからなる群から選択され、及び
前記状態の症状が、少なくとも16週間効果的に軽減され、かつ動物性タンパク質含有ボツリヌス毒素組成物より長い時間、効果的に軽減されることを特徴とする、前記動物性タンパク質非含有ボツリヌス毒素組成物」という構成を備えるのに対し、引用発明1はそのような構成を備えていない点。

イ 判断
上記相違点について検討すると、引用文献1にはボツリヌス毒素を皺除去などの美容目的でも使用できることが記載されており(上記第5 1(2)、(5))、また、引用文献3-7にも記載のように、ボツリヌス毒素を眉間線、マリオネット線、前額の深いしわ、側方眼角線等の治療に用いることは当業者にとって周知のことではある。
しかしながら、本願明細書の【表3】に記載されているように、本願発明は従来の動物性タンパク質含有のボツリヌス毒素組成物よりもより長い間効果的に症状を軽減するものであって、このことは単に引用発明1について室温等での保存安定性の向上が開示されているに過ぎない引用文献1の記載から予測できない効果であるから、本願発明1は、当業者であっても、引用発明1及び拒絶査定で引用された引用文献1に記載の技術的事項及び引用文献3-7に記載された上記周知技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

(2)引用発明2に対して
ア 対比
本願発明1と引用発明2とを対比すると、次のことがいえる。

引用発明2における「ボツリヌム毒素」、「ポリソルベート」、「メチオニン」、「リン酸ナトリウム」、「スクロース」及び「薬剤学的凍結乾燥製剤」は、本願発明1における「ボツリヌス毒素」、「ポリソルベート」、「メチオニン」、「イオン化合物」、「糖」、及び「凍結乾燥組成物である」「ボツリヌス毒素組成物」にそれぞれ相当する。
また、引用発明2は、上記「ボツリヌス毒素」、「ポリソルベート」、「メチオニン」、「リン酸ナトリウム」、「スクロース」の5成分からなり、「動物性タンパク質」は含まないから、本願発明1の「動物性タンパク質非含有」との条件も満たすものである。

したがって、本願発明1と引用発明2との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「ボツリヌス毒素、ポリソルベート、及びメチオニンと、並びに、糖、糖アルコール、及びイオン化合物からなる群から選択される1つ以上の成分とを含む凍結乾燥組成物」

(相違点)
本願発明1は「治療が必要な患者の状態を治療する方法に用いるための動物性タンパク質非含有ボツリヌス毒素組成物であって、
前記方法が、治療有効量の前記動物性タンパク質非含有ボツリヌス毒素組成物を局所に投与するステップを含み、
前記状態が、眉間線、マリオネット線、前額の深いしわ、側方眼角線、及び任意のこれらの組み合わせからなる群から選択され、及び
前記状態の症状が、少なくとも16週間効果的に軽減され、かつ動物性タンパク質含有ボツリヌス毒素組成物より長い時間、効果的に軽減されることを特徴とする、前記動物性タンパク質非含有ボツリヌス毒素組成物」という構成を備えるのに対し、引用発明2はそのような構成を備えていない点。

イ 判断
上記相違点について検討すると、引用文献3-7にも記載のように、ボツリヌス毒素を眉間線、マリオネット線、前額の深いしわ、側方眼角線等の治療に用いることは当業者にとって周知のことではある。
しかしながら、本願明細書の【表3】に記載されているように、本願発明は従来の動物性タンパク質含有のボツリヌス毒素組成物よりもより長い間効果的に症状を軽減するものであって、このことは単に引用発明2について高温条件下でボツリヌス毒素の活性が維持されると共に、長期安定性に優れていることが開示されているに過ぎない引用文献2の記載から予測できない効果であるから、本願発明1は、当業者であっても、引用発明2及び拒絶査定において引用された引用文献2に記載の技術的事項及び引用文献3-7に記載された上記周知技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2.本願発明2?6について
(1)引用発明1に対して
本願発明2?6は、請求項1を引用し、本願発明1の構成をさらに限定するものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明1及び拒絶査定で引用された引用文献1に記載の技術的事項及び引用文献3-7に記載された上記周知技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

(2)引用発明2に対して
本願発明2?6は、請求項1を引用し、本願発明1の構成をさらに限定するものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明2及び拒絶査定において引用された引用文献2に記載の技術的事項及び引用文献3-7に記載された上記周知技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3.本願発明7について
(1)引用発明1に対して
ア 対比
本願発明7と引用発明1とを対比すると、次のことがいえる。

引用発明1における「ボツリヌス毒素」、「ポリソルベート20」、「メチオニン」及び「薬学的液状[Wユ8]組成物」は、本願発明7における「ボツリヌス毒素」、「ポリソルベート20」、「メチオニン」、「液体組成物である」「ボツリヌス毒素組成物」にそれぞれ相当する。
また、引用発明1は、上記「ボツリヌス毒素」、「ポリソルベート20」、「メチオニン」の3成分からなり、「動物性タンパク質」は含まないから、本願発明7の「動物性タンパク質非含有」との条件も満たすものである。

したがって、本願発明7と引用発明1との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「ボツリヌス毒素、ポリソルベート20、及びメチオニンを含む液体組成物である動物性タンパク質非含有ボツリヌス毒素組成物」

(相違点)
本願発明7は「治療が必要な患者の状態を治療する方法に用いるための動物性タンパク質非含有ボツリヌス毒素組成物であって、
前記方法が、治療有効量の前記動物性タンパク質非含有ボツリヌス毒素組成物を局所に投与するステップを含み、
前記状態が、眉間線、マリオネット線、前額の深いしわ、側方眼角線、及び任意のこれらの組み合わせからなる群から選択され、
前記状態の少なくとも1つの症状の軽減を維持するのに効果的な、第1の治療と第2の治療の間の時間間隔で投与され、かつ前記時間間隔が少なくとも16週間であり、これは、前記動物性タンパク質非含有組成物と同じ量で投与され、同じ方法で同じ部位(複数の部位を含む)に投与される動物性タンパク質含有ボツリヌス毒素組成物の時間間隔より長い、前記動物性タンパク質非含有ボツリヌス毒素組成物。」という構成を備えるのに対し、引用発明1はそのような構成を備えていない点。

イ 判断
上記相違点について検討すると、引用文献1にはボツリヌス毒素を皺除去などの美容目的でも使用できることが記載されており(上記第5 1(2)、(5))、また、引用文献3-7にも記載のように、ボツリヌス毒素を眉間線、マリオネット線、前額の深いしわ、側方眼角線等の治療に用いることは当業者にとって周知のことではあるものの、「第1の治療と第2の治療の間の時間間隔で投与され、かつ前記時間間隔が少なくとも16週間」とすることに動機付けがないから、このことは、引用発明1及び拒絶査定で引用された引用文献1に記載の技術的事項及び引用文献3-7に記載された上記周知技術に基づいて当業者が容易に想到しうることではない。
また、本願明細書の【表3】に記載されているように、本願発明は従来の動物性タンパク質含有のボツリヌス毒素組成物よりもより長い間効果的に症状を軽減するものであって、このことは単に引用発明1について室温等での保存安定性の向上が開示されているに過ぎない引用文献1の記載から予測できない効果である。
よって、本願発明7は、当業者であっても、引用発明1及び拒絶査定で引用された引用文献1に記載の技術的事項及び引用文献3-7に記載された上記周知技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

(2)引用発明2に対して
ア 対比
本願発明7と引用発明2とを対比すると、次のことがいえる。

引用発明2における「ボツリヌム毒素」、「ポリソルベート」、「メチオニン」、「リン酸ナトリウム」、「スクロース」及び「薬剤学的凍結乾燥製剤」は、本願発明7における「ボツリヌス毒素」、「ポリソルベート」、「メチオニン」、「イオン化合物」、「糖」、及び「凍結乾燥組成物である」「ボツリヌス毒素組成物」にそれぞれ相当する。
また、引用発明2は、上記「ボツリヌス毒素」、「ポリソルベート」、「メチオニン」、「リン酸ナトリウム」、「スクロース」の5成分からなり、「動物性タンパク質」は含まないから、本願発明7の「動物性タンパク質非含有」との条件も満たすものである。

したがって、本願発明7と引用発明2との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「ボツリヌス毒素、ポリソルベート、及びメチオニンと、並びに、糖、糖アルコール、及びイオン化合物からなる群から選択される1つ以上の成分とを含む凍結乾燥組成物」

(相違点)
本願発明7は「治療が必要な患者の状態を治療する方法に用いるための動物性タンパク質非含有ボツリヌス毒素組成物であって、
前記方法が、治療有効量の前記動物性タンパク質非含有ボツリヌス毒素組成物を局所に投与するステップを含み、
前記状態が、眉間線、マリオネット線、前額の深いしわ、側方眼角線、及び任意のこれらの組み合わせからなる群から選択され、
前記状態の少なくとも1つの症状の軽減を維持するのに効果的な、第1の治療と第2の治療の間の時間間隔で投与され、かつ前記時間間隔が少なくとも16週間であり、これは、前記動物性タンパク質非含有組成物と同じ量で投与され、同じ方法で同じ部位(複数の部位を含む)に投与される動物性タンパク質含有ボツリヌス毒素組成物の時間間隔より長い、前記動物性タンパク質非含有ボツリヌス毒素組成物。」という構成を備えるのに対し、引用発明2はそのような構成を備えていない点。

イ 判断
上記相違点について検討すると、引用文献3-7にも記載のように、ボツリヌス毒素を眉間線、マリオネット線、前額の深いしわ、側方眼角線等の治療に用いることは当業者にとって周知のことではあるものの、「第1の治療と第2の治療の間の時間間隔で投与され、かつ前記時間間隔が少なくとも16週間」とすることに動機付けがないから、このことは、引用発明2及び拒絶査定で引用された引用文献2に記載の技術的事項及び引用文献3-7に記載された上記周知技術に基づいて当業者が容易に想到しうることではない。
また、本願明細書の【表3】に記載されているように、本願発明は従来の動物性タンパク質含有のボツリヌス毒素組成物よりもより長い間効果的に症状を軽減するものであって、このことは単に引用発明2について室温等での保存安定性の向上を開示されているに過ぎない引用文献2の記載から予測できない効果である。
よって、本願発明7は、当業者であっても、引用発明2及び拒絶査定で引用された引用文献2に記載の技術的事項及び引用文献3-7に記載された上記周知技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

4.本願発明8及び9について
(1)引用発明1に対して
本願発明8及び9は、請求項7を引用し、本願発明7の構成をさらに限定するものであるから、本願発明7と同様の理由により、当業者であっても、引用発明1及び拒絶査定で引用された引用文献1に記載の技術的事項及び引用文献3-7に記載された上記周知技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

(2)引用発明2に対して
本願発明8及び9は、上記(1)と同様に、請求項7を引用し、本願発明7構成をさらに限定するものであるから、本願発明7同様の理由により、当業者であっても、引用発明2及び拒絶査定において引用された引用文献2に記載の技術的事項及び引用文献3-7に記載された上記周知技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第7 原査定について
1.理由1(特許法第29条第1項第3号)について
審判請求時の補正により、本願の請求項1、3-6に係る発明は、状態の症状が「少なくとも16週間効果的に軽減され」との事項を有するものとなっている。
そして引用文献1,2には、「眉間線、マリオネット線、前額の深いしわ、側方眼角線、及び任意のこれらの組み合わせからなる群」から選択される患者の状態が、「少なくとも16週間効果的に軽減され」との点の記載はない。
したがって、原査定の理由1を維持することはできない。

2.理由2(特許法第29条第2項)について
審判請求時の補正により、本願の請求項1-6に係る発明は、状態の症状が「少なくとも16週間効果的に軽減され」との事項を有するものとなっている。また、本願の請求項7-9に係る発明は、第1の治療と第2の治療の間の時間間隔が「少なくとも16週間であり」との事項を有するものとなっている。
この点、上記第6において記載したとおり、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1、2及び引用文献3-7に記載される周知技術に基づいて、本願発明1?9を容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定の理由2を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-04-16 
出願番号 特願2016-538656(P2016-538656)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A61K)
P 1 8・ 113- WY (A61K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鳥居 福代  
特許庁審判長 岡崎 美穂
特許庁審判官 西村 亜希子
大久保 元浩
発明の名称 新しいボツリヌス毒素製剤の長期持続作用  
代理人 山崎 一夫  
代理人 須田 洋之  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 ▲吉▼田 和彦  
代理人 服部 博信  
代理人 市川 さつき  
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