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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1373067
審判番号 不服2019-7838  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-06-12 
確定日 2021-04-15 
事件の表示 特願2016-191501「豚サーコウイルスに対してブタを免疫化するための方法および組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 3月30日出願公開、特開2017- 60473〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成20年12月18日(パリ条約による優先権主張 2007年12月21日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2010-539780号の一部を平成28年 9月29日に新たな特許出願されたものであって、平成31年 2月 7日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、令和 1年 6月12日に拒絶査定不服審判請求がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?14に係る発明は、平成30年 9月21日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?14に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明は、次のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。
「【請求項1】
病原性PCV2感染に対してブタを防御するための免疫原性組成物であって、配列番号3のORF2タンパク質と少なくとも95%の同一性を有するORF2タンパク質をコードするキメラ豚サーコウイルスを含む、ここにおいて、キメラ豚サーコウイルスがPCV1-2ウイルスである、前記組成物。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、本願の請求項1?14に係る発明は、本願優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1?3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

1.米国特許出願公開第2005/0238662号明細書
2.J.Virol.,2004年,Vol.78,No.12,p.6297-6303
3.Database UniProtKB, [online], Accession No. Q8BCA6,<http://www.uniprot.org/uniprot/Q8BCA6.txt?version=22>, 23-OCT-2007 uploaded, [retrieved on 2017-07-24]

第4 引用文献の記載事項及び引用発明
引用文献1には、以下の事項が記載されている(英語で記載されているため、日本語訳で摘記する。下線は合議体による。)。

ア.「本発明は、豚サーコウイルスB型のゲノムのヌクレオチド配列あるいはその相同体または断片、および薬学的または獣医学的に許容できる担体を含む、ワクチン組成物に関する。本発明の一態様において、ヌクレオチド配列は、配列番号15、配列番号19、配列番号23または配列番号25あるいはそれらの相同体または断片から選択される。本発明の別の態様において、相同体は、配列番号15、配列番号19、配列番号23または配列番号25に対して少なくとも80%の配列同一性を有する。さらに、別の態様において、ワクチンはさらにアジュバントを含む。」([0021])

イ.「さらに、本発明は、以下の化合物の少なくとも1つを含むことを特徴とする、免疫原性および/またはワクチン組成物を目的とする。:
配列番号23、配列番号25のヌクレオチド配列、あるいはそれらの断片または相同体の一つ;
配列番号24、配列番号26の配列のポリペプチド、あるいはそれらの断片または修飾体の一つ;
配列番号23、配列番号25のヌクレオチド配列、あるいはそれらの断片または相同体の一つを含むベクターまたはウイルス粒子;
配列番号24、配列番号26の配列のポリペプチド、あるいはそれらの断片または修飾体の一つを発現することができる形質転換細胞;または
前記化合物の少なくとも2つの混合物。」([0302]?[0307])

ウ.「実施例2 B型PWDサーコウイルス(PCVB)のクローニング、配列決定および特徴付け
・・・・・・・・・・・・
配列表の配列番号24、配列番号26および配列番号28のアミノ酸配列は、それぞれ、B型PWDサーコウイルスのゲノムの(+)方向鎖の配列番号15の配列または(-)方向鎖の配列番号19の核酸配列から決定された3つのオープンリーディングフレーム、REPタンパク質に関する配列番号23(ORF1)、配列番号25(ORF2)および配列番号27(ORF3)の核酸配列によりコードされるタンパク質の配列を表す。」([0427]?[0430])

エ.「実施例5 PWDサーコウイルス配列の核酸フラグメントから産生されるワクチン組成物の防御効果の証明
・・・・・・・・・・・・
4)結論
実施された記録は、本発明のPWDサーコウイルスの核酸フラグメントを含む、および/またはPWDサーコウイルス、特にB型の組換えタンパク質を発現することができるワクチン組成物の3回の注射を受けた動物が、高熱を示さなかったことを明確に示している(図10参照)。さらに、これらの動物は、成長の低下を経験せず、一日平均増体量は感染していない対照動物のものと同等であった(図9参照)。それらは、特定の臨床徴候を示さなかった。
これらの結果は、本発明のPWDサーコウイルス、特にB型の核酸配列の核酸断片、および/またはこれらの核酸断片によりコードされる組換えタンパク質から調製されるワクチン組成物によって提供される、PWDまたはFPWの原因の主要病原体である本発明のPWDサーコウイルスの感染に対して子豚の効果的な防御を証明する。
特に、これらの結果は、本発明のPWDサーコウイルスのORF1およびORF2によりコードされるタンパク質が、PWDサーコウイルスの感染を妨げる効果的な防御反応を誘導する免疫原性タンパク質であることを示す。」([0442]?[0499])

オ.「実施例8 豚サーコウイルスB型(PCV-B)のORF2タンパク質により与えられる、離乳後多臓器消耗症候群(PMWS)からの豚の防御
・・・・・・・・・・・・
F.結論
豚におけるPCV-BのORF2またはPCV-BのORF1の発現は、PCV-Bサーコウイルスのチャレンジ後の体重及び体温発達で評価される顕著な強化された防御レベルをもたらした。これらの結果は、図14および15に要約される。」([0525]?[0539])

引用文献2には、以下の事項が記載されている(英語で記載されているため、日本語訳で摘記する。下線は合議体による。)。

カ.「非病原性PCV1のゲノム骨格内にクローニングされた病原性PCV2型(PCV2)の免疫原性カプシド遺伝子を有するキメラ豚サーコウイルス(PCV)は、ブタにおいてPCV2感染に対する防御免疫を誘導する。」(第6297頁、表題)

キ.「豚サーコウイルス2型(PCV2)は、PCV1が非病原性であるのに対し、ブタにおける離乳後多臓器消耗症候群(PMWS)と関連している。我々は、以前、PCV1の骨格内にクローニングされたPCV2の免疫原性カプシド遺伝子を有するキメラPCV1-2ウイルスが、PCV2カプシドタンパク質に対する抗体を誘導し、ブタにおいて弱毒化されていることを証明した。今回、我々は、弱毒化されたキメラPCV1-2が、ブタにおいて野生型PCV2チャレンジに対する防御免疫を誘導することを報告する。・・・・・・・・・・・・本研究のデータは、ブタに筋肉内投与された場合に、弱毒化されたキメラPCV1-2生ウイルスが、キメラPCV1-2感染性DNAクローンと同様に、PCV2感染に対する防御免疫を誘導し、効果的なワクチンとして役立つ可能性を示した。」(第6297頁、要約)

ク.「PMWSの主要な病原体は、豚サーコウイルス2型(PCV2)と考えられている(2、7、9、10、15、20、29)。」(第6297頁左欄第5行?第6行)

ケ.「PCV2及びキメラPCV1-2感染性DNAクローン
PCV2及びキメラPCV1-2感染性DNAクローンの構築は、以前報告されている(9、11)。元の野生型PCV2は、アイオワの農場で自然発生したPMWSブタ由来のものである(単離体40895)(10)。・・・・・・・・・・・・キメラPCV1-2感染性DNAクローンは、PCV1のゲノム骨格内に、非病原性PCV1のORF2カプシド遺伝子をPCV2のORF2カプシド遺伝子に置換することによって構築された(11)。・・・・・・・・・・・・
PCV1-2及びPCV2ウイルスストックの産生及び感染力価
PCV2及びキメラPCV1-2生ウイルスは、以前報告されている(9、11)ように、各感染性DNAクローンでPK-15細胞を形質転換して産生させた。」(第6298頁左欄第22行?第38行)

上記記載事項ア.、イ.、エ.及びオ.によると、引用文献1には、配列番号25のヌクレオチド配列を含むベクターまたはウイルス粒子を含む、PWDサーコウイルス感染に対してブタを防御するための免疫原性組成物が記載されているといえる。また、上記記載事項ウ.から、配列番号25のヌクレオチド配列は、配列番号26のORF2タンパク質をコードするヌクレオチド配列であることは明らかである。
そうすると、引用文献1には、「PWDサーコウイルス感染に対してブタを防御するための免疫原性組成物であって、配列番号26のORF2タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むベクターまたはウイルス粒子を含む、前記組成物。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

第5 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、以下のとおりとなる。
引用発明の「PWDサーコウイルス」は、PWDという疾患に関連する病原性の豚サーコウイルスであることは上記記載事項エ.から明らかであり、また、PCV2が病原性の豚サーコウイルスであることは、本願優先日前周知事項である(例えば、引用文献2の上記記載事項ク.参照)から、引用発明の「PWDサーコウイルス」は、本願発明の「病原性PCV2」に相当する。また、本願発明の配列番号3のORF2タンパク質のアミノ酸配列は、引用発明の配列番号26のORF2タンパク質のアミノ酸配列と3アミノ酸のみが異なるだけで、それ以外は同一のアミノ酸配列を有するものであり、両者の配列同一性は98.7%になるから、引用発明の「配列番号26のORF2タンパク質」は、本願発明の「配列番号3のORF2タンパク質と少なくとも95%の同一性を有するORF2タンパク質」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明とは、「病原性PCV2感染に対してブタを防御するための免疫原性組成物であって、配列番号3のORF2タンパク質と少なくとも95%の同一性を有するORF2タンパク質をコードするものを含む、前記組成物。」である点で一致し、ORF2タンパク質をコードするものが、本願発明は、キメラ豚サーコウイルスであり、ここにおいて、キメラ豚サーコウイルスがPCV1-2ウイルスであるのに対し、引用発明は、ヌクレオチド配列を含むベクターまたはウイルス粒子である点で相違する。

第6 当審の判断
以下、上記相違点について検討する。
引用文献2には、PCV2のORF2カプシド遺伝子を、PCV1のゲノム骨格内にクローニングしたキメラPCV1-2ウイルスを作製し、該キメラPCV1-2ウイルスをワクチンとして使用することが記載されており、また、該キメラPCV1-2ウイルスが、PCV2カプシドタンパク質に対する抗体を誘導し、弱毒化されていることが記載されている(上記記載事項カ.?ケ.)。
そして、引用文献1には、特にB型のPWDサーコウイルスのヌクレオチド配列、該ヌクレオチド配列によりコードされる組換えタンパク質から調製されるワクチン組成物が、PWDサーコウイルス感染に対してブタを効果的に防御できることが記載されている(上記記載事項エ.)から、B型のPWDサーコウイルスのヌクレオチド配列である、引用発明の配列番号26のORF2タンパク質をコードするヌクレオチド配列を用いて、ワクチンとして使用することができる弱毒化されたキメラウイルスを取得することを目的として、引用文献2の記載を参照して、引用発明の配列番号26のORF2タンパク質をコードするヌクレオチド配列を、PCV1のゲノム骨格内にクローニングしたキメラPCV1-2ウイルスを作製し、該キメラPCV1-2ウイルスを免疫原性組成物として使用することは、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、本願発明の「キメラ豚サーコウイルス」、「PCV1-2ウイルス」について、本願明細書には、「本発明において、ワクチン組成物は、限定はしないが、キメラサーコウイルス全体の生、弱毒化、もしくは死滅/不活化形態、キメラ豚サーコウイルスをコードする感染性核酸、またはプラスミド、ベクター、もしくは豚内にDNAを直接注入するための他の担体を含む他の感染性DNAワクチンを含む。」(【0080】)、「典型的なインビボでのアッセイは、本明細書において記載されるキメラ豚サーコウイルスなどの抗原で動物をワクチン接種することを伴い得る。」(【0118】)、「PCV1-2ワクチンおよび免疫原性組成物の使用」(【0091】)と記載されているだけで、本願発明の「キメラ豚サーコウイルス」、「PCV1-2ウイルス」を実際に作製し、そのワクチン効果を確認するなどの実施例等による具体的な記載は何ら示されていないので、本願発明が、引用文献1、2に記載されている発明に比べて格別顕著な効果を奏するとは認められない。

第7 審判請求人の主張
審判請求人は、令和 1年 7月22日付け手続補正書により補正された審判請求書において、以下のア.?ウ.の点を主張しているので、以下この点について検討する。

ア.引用文献について
引用文献1は、不活性化された全PCV2ウイルスワクチン、ORF2遺伝子を含むDNAプラスミドワクチン、及び、バキュロウイルス発現させてORF2タンパク質のサブユニットワクチンを記載している。当該文献のバキュロウイルス発現させてORF2タンパク質のサブユニットワクチンは、キメラワクチンではない。引用文献1は本願発明とは対象となる抗原が全く異なり、本願発明とはそもそも無関係であり、まして、本願発明の進歩性を否定する主引例とはなり得ない。
一方、引用文献2は、引用文献1とは異なりORF2をPCV2に対するワクチンとして使用するものではない。当該文献はむしろ、キメラPCV1-2aウイルスをPCV2ワクチンとして使用することを開示しているが、本願発明の病原性PCV2ウイルス感染に対して豚を保護する、キメラPCV1-2bウイルス又はワクチンを開示も示唆もしていない。PCV1-2a(引用文献2)とPCV1-2b(本願発明)のORF2は、ヌクレオチド配列の同一性で10%も異なる。このようなPCV1-2aとPCV1-2bのORF2の構造上の大きな相違により、当業者にとって、PCV1-2bに基づくワクチンがPCV1-2aに基づくワクチンのように、病原性PCV2感染に対してブタを防御するための免疫原性組成物として使用できるかは、実際に試行錯誤による過度の実験を行わなければ全く不明であった。
さらに、引用文献1と引用文献2に開示されているPCVワクチンは、ワクチン抗原として全く異なる、ということをご理解いただきたい。例えば、引用文献1は、全長PCV2、PCV2の読み枠2(PRF2(合議体注:「ORF2」の誤記と認められる。))を含むDNAプラスミド、並びに、PCV2のORF2に基づくバキュロウイルスで発現されたサブユニットを記載している。一方、引用文献2に開示されているのは、キメラPCV1-2全ウイルスを開示している。当業者はこのように明らかに異なる抗原を使用した場合に、上手く免疫原性組成物として機能するかを全く予想することができない。PCV1-2b(本願発明)とPCV1-2a(引用文献2)の相違、引用文献1と引用文献2と相違を考慮すれば、当業者が仮に引用文献1、2を参照したとしても、本願発明を想到できないことは明白である。

イ.本願発明の組成物の効果
実際、本願発明のキメラPCV1-2bワクチンは、最も近い先行技術と思われる引用文献2のキメラPCV1-2aと併行した比較実験において、より優れた免疫原性効果を示すものである。
本願発明の効果について、平成29年10月31日付けの意見書に添付した参考文献2(Vaccine 31 (2013) 487-494)の実験において示したPCV1-2bウイルスを含む組成物は、本願明細書に具体的に開示されている組成物であり、そして、ワクチン組成物としての効果も本願明細書に開示されている通りである。参考文献2に記載されている内容は、本願明細書に開示されている効果を単に補足的に裏付けるものであり、新しい効果を主張するものではないから、参酌されるべきである。
本願発明の免疫原性組成物が病原性PCv2(合議体注:「病原性PCV2」の誤記と認められる。)感染に対してブタを防御するのに有効であることが、本願明細書に記載されている。参考文献2の実験において、キメラPCV1-2aウイルスとPCv1-2bウイルス(合議体注:「PCV1-2bウイルス」の誤記と認められる。)の各々を含むワクチン組成物を豚に投与した。参考文献2のMaterial&Methodsの欄は、PCV1-2bサクチン(合議体注:「PCV1-2bワクチン」の誤記と認められる。)の構築に関して開示している、Vaccine 29 (2011) 221-232(平成29年10月31日付けの意見書に添付した参考文献3)を引用している。本願発明者のステファン キトゥ ウは、参考文献3の著者の一人である。参考文献2及び参考文献3の実験で使用したPCV2b株(GenBank accession no. GU799576, designated “NMB, complete genome”) は、本願明細書に記載のPCV2B-FD07(配列番号1)とヌクレオチドレベルで100%同一の配列である。PCV1-2a及びPCV1-2bキメラワクチンは各々、ゲノム型のPCV1-2a及びPCV1-2bのPRF2カプシド遺伝子(合議体注:「ORF2カプシド遺伝子」の誤記と認められる。)を、非病原性PCV1のゲノム骨格中にPCV1のORF2の代わりに挿入したものである。PCV1非病原性であるから、PCV2のPRF2カプシド(合議体注:「ORF2カプシド」の誤記と認められる。)に対する免疫応答が、防御の主要な予測因子となると理解される。驚くべきことに、本願発明のPCV-2bワクチンを接種された豚は、先行技術文献に記載のPCV1-2aワクチンを接種された豚と比較し、より強力かつより迅速な抗PCV2 IgG応答を示した。血清中、並びに排泄物及び鼻分泌物中のPCV1-2 DNAレベルは高かったにもかかわらず、PCV1-2bワクチン接種された豚は、現場条件での有意に高いELISA S/P比によって示されたように、より濃厚な液性免疫応答を有した。
本願発明のキメラPCV1-2bウイルスによるワクチン接種はさらに、キメラPCV1-2aウイルスによるワクチン接種と比較して、多量のより長い持続時間及びより高いレベルの、PCV1-2ウイルス血症の減少、並びに鼻及び排泄物への排出という結果をもたらした。いずれのワクチンも有意にPCV2ウイする血症(合議体注:「PCV2ウイルス血症」の誤記と認められる。)を減少させたが、2つのワクチン型の間には特筆すべき重要な相違点があった。具体的には、本願発明のPCV1-2bウイルスワクチンを接種した豚は、PCV1-2aウイルスワクチンを接種した豚と比較して、血清において、PCV2 DNAの濃度が著しく低い、という特徴があった。さらに、PCV1-2bウイルスワクチンを接種した豚は、攻撃(チャレンジ)から14日目(14dpc)又は21日目(21dpc)において、PCV2血症が観察されなかった。21dpc(ワクチンから49日目、49dpv)において、ワクチン接種した陽性対照の豚と比較した場合の血症の減少%は、PCV1-2aワクチン接種豚では25?44.1%の範囲でしたが、PCV1-2aワクチン接種豚では100%であった。言い換えれば、PCV1-2bワクチン接種はPCV1-2aワクチン接種と比較して、PCV2血症のまん延及び量を著しく減少させる、という優れた効果を奏する。
まとめると、参考文献2は、本願明細書に開示されている本願発明のPCV1-2bワクチン組成物が、来技術(合議体注:「従来技術」の誤記と認められる。)のPCV2aゲノタイプに基づくPCV1-2ワクチン組成物と比較して、著しく優れたPCV2b攻撃又はPCV2a-PCV2b同時攻撃に対する豚の防御効果を示すことを裏付けている。この効果は、本願発明の先行技術に対する予想外の驚くべき効果である。
参考文献2のデータはさらに、PCV2a及びPCV2bのORF2カプシド遺伝子は、生物学的に同等物でも相互に交換可能な物質でもない、ということを裏付けている。よって、引用文献2のPCV1-2aキメラのORF2を、参考文献3のPCV2bのORF2に置換する、というのは単純なことではない。そのような置換を行った場合、予想外の結果をもたらす、ということが理解されるべきである。

ウ.本願発明のワクチン組成物を含む製品の成功
本願発明のワクチン組成物を含む実際の製品も、顕著な効果を有し、成功を収めている。本願発明の範囲に含まれるワクチン組成物は、「Foster(登録商標) Gold PCV MH」として販売されている(平成30年9月21日付けの意見書に添付の参考資料1)。平成30年9月21日付けの意見書に添付の参考資料2(「Evaluation of cell mediated immunity following PCV2+MH vaccination and PcV2d challenge」)は、従来の市販品と比較して本願発明の組成物を含む製品が優れた効果を示したことを発表した、本出願後のポスターである。
「Foster(登録商標) Gold PCV MH」(以下、「PCV MH」と基シアする(合議体注:「記載する」の誤記と認められる。)場合がある)は、豚サーコウイルスタイプ1-タイプ2aキメラ(cPCV2a)、豚サーコウイルスタイプ1-タイプ2bキメラ(cPCV2b)、並びに、M.hyo成分を含む3価ワクチンである。PCV MHは、本願発明の配列番号3のORF2タンパク質をコードするキメラPCV1-2bを含む。参考資料2には、PCV MHと、市販されているPCVa(バキュロウイルス発現ORF2)の、PCV2d攻撃後の免疫応答を評価した結果が示されている。参考資料2では、PCV2の最終的なウイルス除去および免疫の長期持続のために重要な、細胞性免疫(CMI)が評価された。(参考資料2 左カラム INTRODUCTION)。参考資料2は、「(従来の)市販品のPCVaも3価ワクチンのいずれも血清学的な応答を明確に誘導した。しかしながら、3価ワクチンのみが、1または2用量後に堅個(合議体注:「堅固」の誤記と認められる。)な(robust)CMIを誘導した。」(参考文献2(合議体注:「参考資料2」の誤記と認められる。) 右カラムCONCLUSION)と結論している。
このような、本願発明を含む製品の効果(成功)も本願発明の進歩性の裏付けとして考慮されるべきと解する。

主張ア.について
引用文献1に記載されている配列番号26のORF2タンパク質のアミノ酸配列は、本願発明の配列番号3のORF2タンパク質のアミノ酸配列と3アミノ酸のみが異なるだけで、それ以外は同一のアミノ酸配列を有するORF2タンパク質であり、両者の配列同一性は98.7%という極めて高い配列同一性を有し、引用発明の「配列番号26のORF2タンパク」は、本願発明の「配列番号3のORF2タンパク質と少なくとも95%の同一性を有するORF2タンパク質」に相当するものである。そして、引用文献1には、引用文献1に記載のORF2タンパク質が抗原としてワクチン効果を有することが記載されており(上記記載事項オ.)、また、キメラPCV1-2ウイルスについては、ORF2のカプシドタンパク質が抗原としてワクチン効果を有することが記載されている(上記記載事項カ.)から、「引用文献1は本願発明とは対象となる抗原が全く異なり、本願発明とはそもそも無関係であり、まして、本願発明の進歩性を否定する主引例とはなり得ない。」という審判請求人の主張は採用できない。
引用文献2に記載されているPCV2(40895株)のORF2タンパク質のアミノ酸配列は、本願発明の配列番号3のORF2タンパク質のアミノ酸配列と15アミノ酸のみが異なるだけで、それ以外は同一のアミノ酸配列を有するORF2タンパク質であり、両者の配列同一性は93.6%となるから、「PCV1-2a(引用文献2)とPCV1-2b(本願発明)のORF2は、ヌクレオチド配列の同一性で10%も異なる」という審判請求人の主張は失当である。
本願明細書には、「本明細書において用いられる「サーコウイルス」という用語は、別段の指示がない限り、サーコウイルス科に属するサーコウイルスの任意の株を言う。例えば、本発明において、サーコウイルスは病原性豚サーコウイルスである。特定の実施形態において、病原性豚サーコウイルスは、豚サーコウイルスの低毒性/低死亡率の2A型株または豚サーコウイルスの高毒性/高死亡率の2B型株である。」と記載されており(【0050】)、本願発明の「キメラ豚サーコウイルス」には、2B型だけでなく2A型のものも含まれるものと認められる。
そして、本願発明は、「配列番号3のORF2タンパク質」だけでなく、「配列番号3のORF2タンパク質と少なくとも95%の同一性を有するORF2タンパク質」も含まれており、本願発明の配列番号3のORF2タンパク質のアミノ酸配列と最大11アミノ酸が異なり、それ以外は同一のアミノ酸配列を有するORF2タンパク質も含まれることになるが、そのようなORF2タンパク質の中には、引用文献2に記載されているPCV2(40895株)のORF2タンパク質のアミノ酸配列と4アミノ酸のみが異なるだけのORF2タンパク質も含まれており、本願発明の「配列番号3のORF2タンパク質」よりも、引用文献2に記載されているPCV2(40895株)のORF2タンパク質により構造的に近いものといえるから、「PCV1-2a(引用文献2)とPCV1-2b(本願発明)のORF2は、ヌクレオチド配列の同一性で10%も異なる。このようなPCV1-2aとPCV1-2bのORF2の構造上の大きな相違により、当業者にとって、PCV1-2bに基づくワクチンがPCV1-2aに基づくワクチンのように、病原性PCV2感染に対してブタを防御するための免疫原性組成物として使用できるかは、実際に試行錯誤による過度の実験を行わなければ全く不明であった。」という審判請求人の主張は採用できない。

主張イ.について
本願発明の「キメラ豚サーコウイルス」、「PCV1-2ウイルス」について、本願明細書には、「本発明において、ワクチン組成物は、限定はしないが、キメラサーコウイルス全体の生、弱毒化、もしくは死滅/不活化形態、キメラ豚サーコウイルスをコードする感染性核酸、またはプラスミド、ベクター、もしくは豚内にDNAを直接注入するための他の担体を含む他の感染性DNAワクチンを含む。」(【0080】)、「典型的なインビボでのアッセイは、本明細書において記載されるキメラ豚サーコウイルスなどの抗原で動物をワクチン接種することを伴い得る。」(【0118】)、「PCV1-2ワクチンおよび免疫原性組成物の使用」(【0091】)と記載されているだけで、本願発明の「キメラ豚サーコウイルス」、「PCV1-2ウイルス」を実際に作製し、そのワクチン効果を確認するなどの実施例等による具体的な記載は何ら示されていない。
審判請求人は、「本願発明の効果について、平成29年10月31日付けの意見書に添付した参考文献2(Vaccine 31 (2013) 487-494)の実験において示したPCV1-2bウイルスを含む組成物は、本願明細書に具体的に開示されている組成物であり、そして、ワクチン組成物としての効果も本願明細書に開示されている通りである。参考文献2に記載されている内容は、本願明細書に開示されている効果を単に補足的に裏付けるものであり、新しい効果を主張するものではないから、参酌されるべきである。」と主張しているが、「PCV1-2bウイルスを含む組成物は、本願明細書に具体的に開示されている組成物であ」ることの具体的根拠を審判請求人は何ら示しておらず、また、「ワクチン組成物としての効果も本願明細書に開示されている通りである」ことの具体的根拠も審判請求人は何ら示していない。
参考文献2は、本願出願後何年も経過して発表された文献であり、その記載内容は本願明細書には具体的に記載されていない特定のキメラPCV1-2bウイルスを用いて行われた実験であって、その実験結果に基づく参考文献2の記載内容を参酌することはできない。また、仮に参酌するとしても、上記「主張ア.について」で述べたように、本願発明は、「配列番号3のORF2タンパク質」だけでなく、「配列番号3のORF2タンパク質と少なくとも95%の同一性を有するORF2タンパク質」も含まれており、本願発明の「配列番号3のORF2タンパク質」よりも、引用文献2に記載されているPCV2(40895株)のORF2タンパク質により構造的に近いものといえるから、本願発明のキメラPCV1-2ウイルスが、引用文献2に記載されているキメラPCV1-2ウイルスに比べて格別顕著な効果を奏するとは認められない。
また、「本願発明のキメラPCV1-2bウイルスによるワクチン接種はさらに、キメラPCV1-2aウイルスによるワクチン接種と比較して、多量のより長い持続時間及びより高いレベルの、PCV1-2ウイルス血症の減少、並びに鼻及び排泄物への排出という結果をもたらした。」という効果は、本願明細書には何ら開示されていない効果であり、審判請求人の主張は、本願明細書の記載に基づく主張ではないから、失当である。

主張ウ.について
上記「主張イ.について」において、参考文献2について述べたことと同様に、参考資料1及び2の記載内容は本願明細書には具体的に記載されていない事項であって、その実験結果に基づく参考資料1及び2の記載内容を参酌することはできない。また、仮に参酌するとしても、参考資料2に記載の「PCV MH」は、豚サーコウイルスタイプ1-タイプ2aキメラ(cPCV2a)、豚サーコウイルスタイプ1-タイプ2bキメラ(cPCV2b)、並びに、M.hyo成分を含む3価ワクチンであり、キメラPCV1-2bウイルス以外の成分を含むものであり、しかも、「豚サーコウイルスタイプ1-タイプ2aキメラ(cPCV2a)」は、引用文献2に記載されているキメラPCV1-2ウイルスに相当するものと認められるから、参考資料1及び2の記載内容から、本願発明の効果を参酌することはできない。また、比較対照とした「市販されているPCVa(バキュロウイルス発現ORF2)」も、引用文献1、2に記載されている発明に対応するものではないので、本願発明が、引用文献1、2に記載されている発明に比べて格別顕著な効果を奏することを裏付ける証拠として、参考資料1及び2を採用することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1?2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-11-18 
結審通知日 2020-11-19 
審決日 2020-12-01 
出願番号 特願2016-191501(P2016-191501)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小倉 梢  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 高堀 栄二
大久保 智之
発明の名称 豚サーコウイルスに対してブタを免疫化するための方法および組成物  
代理人 中西 基晴  
代理人 宮前 徹  
代理人 小野 新次郎  
代理人 泉谷 玲子  
代理人 山本 修  

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