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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05K
管理番号 1373076
審判番号 不服2019-16660  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-12-09 
確定日 2021-04-15 
事件の表示 特願2018- 90468「多層プリント配線板の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 8月16日出願公開、特開2018-129548〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成20年(2008年)11月21日(優先権主張 平成19年11月22日)を国際出願日とする特願2009-542598号の一部を、平成25年11月13日に新たな特許出願とした特願2013-235320号の一部を、平成28年7月21日に新たな特許出願とした特願2016-143098号の一部を、平成30年5月9日に更に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成31年 2月26日付け:拒絶理由通知
平成31年 4月24日 :意見書、手続補正書の提出
令和 1年 9月 4日付け:拒絶査定
令和 1年12月 9日 :審判請求書の提出
令和 2年 2月 5日 :手続補正書(方式)の提出
令和 2年 7月28日付け:拒絶理由通知(当審)
令和 2年 9月25日 :意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明
令和2年9月25日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「プラスチックフィルム上に無機充填材を35質量%以上含有する熱硬化性樹脂組成物層を形成した接着フィルムであって、
前記プラスチックフィルムは離型層付きプラスチックフィルムであり、該離型層付きプラスチックフィルムは離型層を含む総厚みが20?50μmであり、
前記無機充填材は平均粒径が3μm以下であり、
前記熱硬化性樹脂組成物層は熱硬化して絶縁層となる層であり、該絶縁層は厚みが15?100μmであり、
当該接着フィルムは、前記熱硬化性樹脂組成物層を熱硬化して絶縁層とした状態において、プラスチックフィルム上から炭酸ガスレーザーを照射して、該絶縁層にビアの開口率(底径/トップ径)が70%以上であるトップ径が70μm以下のブラインドビアを形成するためのものであり、
前記プラスチックフィルムは、該プラスチックフィルム上から前記炭酸ガスレーザーを照射して、前記絶縁層に前記ブラインドビアを形成する際に、該ブラインドビアの周辺の絶縁層表面を保護するためのものである、
前記接着フィルム。」

第3 拒絶の理由
令和2年7月28日付けで当審が通知した拒絶理由は、概略、次のとおりのものである。

この出願の請求項1ないし4に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された以下の引用文献1ないし2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2007-291368号公報
引用文献2:特開2001-196743号公報

第4 引用文献の記載事項、引用発明等
1 引用文献1
(1)令和2年7月28日付けの当審の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2007-291368号公報)には、次の記載がある。なお、下線は当審で付与した。

「【0001】
本発明は、多層プリント配線板等の絶縁層形成に好適な樹脂組成物に関する。
(中略)
【0010】
本発明によれば、多層プリント配線板の絶縁層形成に好適なシアネートエステル樹脂を含有する樹脂組成物であって、熱膨張率が低く、かつスミアの除去が容易である有機絶縁層を形成可能な樹脂組成物が提供される。
(中略)
【0038】
本発明の接着フィルムは、当業者に公知の方法、例えば、有機溶剤に樹脂組成物を溶解した樹脂ワニスを調製し、この樹脂ワニスを、ダイコーターなどを用いて、支持体である支持フィルムに塗布し、更に加熱、あるいは熱風吹きつけ等により有機溶剤を乾燥させて樹脂組成物層を形成させることにより製造することができる。
(中略)
【0042】
本発明における支持フィルムは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(以下「PET」と略称することがある。)、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミドなどからなるフィルム、更には離型紙や銅箔、アルミニウム箔等の金属箔などを挙げることができる。なお、支持フィルム及び後述する保護フィルムには、マッド処理、コロナ処理の他、離型処理が施してあってもよい。
(中略)
【0045】
次に、上記のようにして製造した接着フィルムを用いて多層プリント配線板を製造する方法の一例を説明する。
【0046】
まず、接着フィルムを、真空ラミネーターを用いて回路基板の片面または両面にラミネートする。回路基板に用いられる基板としては、例えば、ガラスエポキシ基板、金属基板、ポリエステル基板、ポリイミド基板、BTレジン基板、熱硬化型ポリフェニレンエーテル基板等が挙げられる。なお、ここで回路基板とは、上記のような基板の片面又は両面にパターン加工された導体層(回路)が形成されたものをいう。また導体層と絶縁層とを交互に積層してなる多層プリント配線板において、該多層プリント配線板の最外層の片面又は両面がパターン加工された導体層(回路)となっているものも、ここでいう回路基板に含まれる。なお導体層表面には、黒化処理等により予め粗化処理が施されていてもよい。
(中略)
【0049】
接着フィルムを回路基板にラミネートした後、室温付近に冷却してから、支持フィルムを剥離する場合は剥離し、熱硬化することにより回路基板に絶縁層を形成することができる。熱硬化の条件は、樹脂組成物中の樹脂成分の種類、含有量などに応じて適宜選択すればよいが、好ましくは150℃?220℃で20分?180分、より好ましくは160℃?200℃で30?120分の範囲で選択される。
(中略)
【0055】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
ビスフェノールAジシアネートのプレポリマー(ロンザジャパン(株)製「BA230S75」、シアネート当量約232、不揮発分75質量%のメチルエチルケトン(以下MEKと略す)溶液)40重量部、アントラセン型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製「YX8800」、エポキシ当量約178)の不揮発分50質量%のMEK溶液40重量部、ビフェニル骨格含有フェノキシ樹脂溶液(ジャパンエポキシレジン(株)製「YL6954BH30」、不揮発分30質量%のMEKとシクロヘキサノンとの混合溶液)20重量部、硬化触媒としてコバルト(II)アセチルアセトナート(以下Co(II)acacと略す)(東京化成(株)製)の1質量%のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)溶液4質量部、および球形シリカ((株)アドマテックス製「SOC2」、平均粒子径0.5μm)40質量部を混合し、高速回転ミキサーで均一に分散して、熱硬化性樹脂組成物ワニス(不揮発分中のシリカ含量は40質量%)を作製した。次に、かかる樹脂組成物ワニスをポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ38μm、以下PETフィルムと略す)上に、乾燥後の樹脂組成物層の厚みが40μmとなるようにダイコーターにて均一に塗布し、80?120℃(平均100℃)で6分間乾燥した(樹脂組成物層中の残留溶媒量:約1質量%)。次いで、樹脂組成物層の表面に厚さ15μmのポリプロピレンフィルムを貼り合わせながらロール状に巻き取った。ロール状の接着フィルムを幅507mmにスリット(slit)し、507×336mmサイズのシート状の接着フィルムを得た。
(中略)
【0064】
<ビアホールの残渣評価>
実施例1?3および比較例1?4で得られた接着フィルムについて、以下に従ってビアホールの残渣評価を行った。
(1)回路基板の作製
ガラス布基材エポキシ樹脂両面銅張積層板[銅箔の厚さ18μm、基板厚み0.8mm、松下電工(株)製R5715ES]の両面にエッチングにより回路パターンを形成し、さらにマイクロエッチング剤(メック(株)製CZ8100)で粗化処理を行い、回路基板を作製した。
【0065】
(2)接着フィルムのラミネート
各実施例および各比較例で作製した接着フィルムを、バッチ式真空加圧ラミネーターMVLP-500(商品名、名機(株)製)を用いて、上記(1)で作製した回路基板の両面にラミネートした。ラミネートは、30秒間減圧して気圧を13hPa以下とし、その後30秒間、圧力0.74MPaでプレスすることにより行った。
【0066】
(3)樹脂組成物層の硬化
ラミネートされた接着フィルムからPETフィルムを剥離し、170℃、30分の硬化条件で樹脂組成物層を硬化して、絶縁層を形成した。
【0067】
(4)ビアホール形成
松下溶接システム(株)製CO_(2)レーザー加工機(YB-HCS03T04)を使用し、周波数1000Hzでパルス幅13μ秒、ショット数3の条件で絶縁層を加工して、絶縁層表面における直径が60μm、絶縁層底面における直径が50μmのビアホールを形成した。」

(2)上記記載並びに当業者の技術常識を考慮すると、以下のことがいえる。

ア 引用文献1段落【0038】、【0042】、【0056】によれば、引用文献1には、厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)上に平均粒子径0.5μmである球形シリカを40質量%含有する厚さ40μmの熱硬化性樹脂組成物層を形成した接着フィルムが記載されており、同段落【0042】の「支持フィルム及び後述する保護フィルムには、マッド処理、コロナ処理の他、離型処理が施してあってもよい。」との記載から、上記「ポリエチレンテレフタレートフィルム」に離型処理を施こすことは当然想定されているといえる。

イ 引用文献1段落【0001】、【0010】、【0049】、【0066】によれば、樹脂組成物層は、熱硬化することにより多層プリント配線板の絶縁層を形成する層であるといえる。

ウ 引用文献1段落【0065】ないし【0067】によれば、引用文献1には、回路基板の両面にラミネートした接着フィルムからPETフィルムが剥離された後、樹脂組成物層が硬化されて絶縁層が形成され、CO_(2)レーザー加工機を使用し、絶縁層を加工して、絶縁層表面における直径が60μm、絶縁層底面における直径が50μmのビアホールが形成されることが記載されている。

エ 上記アの点を踏まえれば、上記イ及びウで述べた「樹脂組成物層」が「熱硬化性樹脂組成物層」であることは明らかである。

(3)上記アないしエから、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「離型処理を施こされた厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)上に平均粒子径0.5μmである球形シリカを40質量%含有する厚さ40μmの熱硬化性樹脂組成物層を形成した接着フィルムにおいて、
前記熱硬化性樹脂組成物層は、熱硬化することにより多層プリント配線板の絶縁層を形成する層であり、
回路基板の両面にラミネートした接着フィルムからPETフィルムが剥離された後、前記熱硬化性樹脂組成物層が硬化されて絶縁層が形成され、CO_(2)レーザー加工機を使用し、絶縁層を加工して、絶縁層表面における直径が60μm、絶縁層底面における直径が50μmのビアホールが形成される、
接着フィルム。」

2 引用文献2の記載
(1)当審の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに、次の事項が記載されている。なお、下線は当審が付与した。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、導体回路層と絶縁層とを交互に積み上げたビルドアップ方式の多層プリント配線板の製造法において、接着フィルムを用いて歩留まり良く、簡便に表面平滑性に優れた多層プリント配線板の製造する方法に関するものである。
(中略)
【0006】接着フィルムは離型層付きベースフィルムを支持体として、所定の有機溶剤に溶解した樹脂ワニスを離型層上に塗布後、加熱及び/又は熱風吹き付けにより溶剤を乾燥させて常温固形の熱硬化性樹脂組成物とする公知慣用の方法で作製することができる。支持ベースフィルムとしては、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、さらには離型紙や銅箔、アルミニウム箔の如き金属箔などが挙げられる。支持ベースフィルムの厚みとしては10?100μmが一般的である。離型層としては、樹脂ワニスの特性に合わせて公知慣用のシリコーン系、非シリコーン系が使用でき、厚みとしては3μm以下が一般的である。常温固形の熱硬化性樹脂組成物の厚みはラミネートされる内層回路基板の導体厚以上で、導体厚+(10?120)μmの範囲であるのが一般的である。常温固形の熱硬化性樹脂組成物と支持ベースフィルムとからなる本発明の接着フィルムは、そのまま又は樹脂組成物の他の面に離形保護フィルムをさらに積層し、ロール状に巻きとって貯蔵される。
(中略)
【0008】次に、支持ベースフィルムの付いた状態で該樹脂組成物を熱硬化する。これにより硬化中樹脂表面にほこりや異物が付着する事がなく、従来の異物付着の問題が解消された上に、クリーンオーブン等の高価な設備が不要となった。その後、支持ベースフィルム付きで、あるいは無しでレーザー及び/又はドリルにより穴開けを行う。熱硬化の条件は樹脂によって異なるが100?200℃で10?90分の範囲で選択される。中でもやや低温から高温へのステップキュアが仕上がりの面から好ましい。熱硬化は次の穴開け工程での穴形状の均一性と、導電性ペースト使用の場合には、ペースト中に含まれる有機溶剤等への耐性のために必須である。穴開けには、市販の炭酸ガス、UV-YAG、エキシマ等のレーザー穴開け機及び/又はドリル穴開け機を使用して、公知慣用の方法で所定の位置に行える。穴開け後ジェットスクラブの如き機械的処理や、ソフトエッチング等の化学的処理により穴内を洗浄しても良い。本発明の接着フィルムは支持ベースフィルムに離型層を有していることにより、熱硬化性樹脂組成物の熱硬化後に容易に剥離できる。
(中略)
【0013】
【接着フィルム製造例】液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(油化シェルエポキシ(株)製エピコート828EL)20部、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(東都化成(株)製YDBー500)20部、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(大日本インキ化学(株)製エピクロンNー673)20部、末端エポキシ化ポリブタジエンゴム(ナガセ化成工業(株)製デナレックスR-45EPT)15部とをメチルエチルケトンに攪拌しながら加熱溶解させ、そこへ臭素化フェノキシ樹脂ワニス(不揮発分40重量%、東都化成(株)製YPBー40ーPXM40)50部、エポキシ硬化剤として2、4ージアミノー6ー(2ーメチルー1ーイミダゾリルエチル)ー1、3、5ートリアジン・イソシアヌル酸付加物4部、さらに微粉砕シリカ2部、三酸化アンチモン4部、炭酸カルシウム5部を添加し樹脂組成物ワニスを作製した。そのワニスを厚さ25μmのシリコーン離型層付きポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋メタライシング(株)製セラピールBK)上に、乾燥後の樹脂厚みが70μmとなるようにダイコーターにて塗布、80?120℃で乾燥し接着フィルムを得た。
(中略)
【0015】
【実施例2】1)パターン加工された510x340mmのガラスエポキシ両面回路基板に(板厚0.4mm、導体厚35μm)、製造例1で得られた接着フィルムを507x336mmのサイズで樹脂側をパターン面にして基板両面に枚葉した。次にモートン・インターナショナル・インコーポレーティド製バキューム・アプリケータ725により真空度1ミリバール、温度80℃、15秒プレスで両面同時にラミネートした。
2)130℃で30分熱硬化した後、市販の炭酸ガスレーザー及びドリル穴開け機により所定の位置に穴開けを行った。レーザービア径は150μm、スルーホール径は200μmであった。その後、ジェットスクラブ処理により穴内部を洗浄した。
3)レーザービア及びスルーホール内に、市販の銀ペーストをスクリーン印刷により充填した。印刷は片面印刷後130℃で10分熱硬化し、さらに裏面を同様に印刷した。
4)170℃で30分熱硬化後、支持ベースフィルム剥離した。剥離は非常に軽く容易に行えた。
5)樹脂組成物表面を過マンガン酸塩のアルカリ性酸化剤で粗化処理し、6)無電解及び電解銅メッキしサブトラクティブ法に従って4層プリント配線板を得た。」

(2)上記引用文献2段落【0001】、【0006】、【0008】、【0013】の記載によれば、引用文献2には、次の技術事項(以下、「引用文献2の技術事項1」という。)が記載されている。

「多層プリント配線板の製造に使用される接着フィルムの支持ベースフィルムとして、離型層の厚みが3μ以下である離型層付きポリエチレンテレフタレートフィルムを用いること。」

(3)上記引用文献2段落【0008】、【0015】の記載によれば、引用文献2には、次の技術事項(以下、「引用文献2の技術事項2」という。)も記載されている。

「支持ベースフィルムが付いた状態で樹脂組成物を熱硬化した後、炭酸ガスレーザーにより穴開けして、支持ベースフィルムを剥離すること。」

第5 対比・判断
(1)本願発明と引用発明を対比する。

ア 本願明細書段落【0036】の「本発明でいう、「プラスチックフィルム」としては、ポリエチレンテレフタレート(以下「PET」と略称することがある。)、・・・等のポリエステル、・・などが挙げられる。中でも、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレートフィルム、・・等)が好ましく、安価なポリエチレンテレフタレートフィルムが特に好ましい。」との記載によれば、本願発明の「プラスチックフィルム」はポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを含むから、引用発明の「ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)」は本願発明の「プラスチックフィルム」に相当する。
そして、本願明細書段落【0015】の「本発明において、無機充填材としては、例えば、シリカ、・・等が挙げられる。中でも、・・・シリカが好ましい。またシリカは球状のものが好ましい。」との記載によれば、本願発明の「無機充填材」は球状のシリカを含むから、引用発明の「球形シリカ」は本願発明の「無機充填材」に相当する。
さらに、引用発明の「熱硬化性樹脂組成物層」は「球形シリカ」を「40質量%」含有するから、本願発明の「無機充填材を35質量%以上含有する熱硬化性樹脂組成物層」に含まれる。
よって、引用発明の「離型処理を施こされた厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)上に平均粒子径0.5μmである球形シリカを40質量%含有する厚さ40μmの熱硬化性樹脂組成物層を形成した接着フィルム」は、本願発明の「プラスチックフィルム上に無機充填材を35質量%以上含有する熱硬化性樹脂組成物層を形成した接着フィルム」に相当する。
ただし、「プラスチックフィルム」に関し、本願発明は、「離型層付き」であり、「離型層を含む総厚みが20?50μm」であるのに対し、引用発明ではその旨の特定はなされていない点で相違する。

イ 引用発明の「球形シリカ」は「平均粒子径0.5μm」であるから、本願発明の「無機充填材は平均粒径が3μm以下」に含まれる。

ウ 引用発明において、「熱硬化性樹脂組成物層」は「厚さ40μm」であるから、「熱硬化性樹脂組成物層」を「熱硬化」して形成した「絶縁層」の厚さも40μm程度であるといえ、本願発明の「絶縁層は厚みが15?100μm」に含まれる。
よって、引用発明の「前記熱硬化性樹脂組成物層は、熱硬化することにより多層プリント配線板の絶縁層を形成する層であり」は、本願発明の「前記熱硬化性樹脂組成物層は熱硬化して絶縁層となる層であり、該絶縁層は厚みが15?100μmであり」に相当する。

エ 引用発明では、「接着フィルム」の「熱硬化性樹脂組成物層」が硬化されて「絶縁層」を形成し、「CO_(2)レーザー加工機を使用し、絶縁層を加工して、絶縁層表面における直径が60μm、絶縁層底面における直径が50μmのビアホールが形成される」のであるから、熱硬化性樹脂組成物層を備える「接着フィルム」は、「樹脂組成物層が硬化されて絶縁層が形成され、CO_(2)レーザー加工機を使用し、絶縁層を加工して、絶縁層表面における直径が60μm、絶縁層底面における直径が50μmのビアホール」を「形成するために使用できるもの」であるといえる。
ここで、引用発明の「CO_(2)レーザー加工機を使用し」は、本願発明の「炭酸ガスレーザーを照射して」に相当する。
そして、引用発明の「ビアホール」は「絶縁層表面における直径が60μm、絶縁層底面における直径が50μm」であるから、底面における直径/表面における直径は約83%であって、引用発明の「ビアホール」と、本願発明の「ブラインドビア」とは、ともに「ビア」である点で共通するから、引用発明の「絶縁層表面における直径が60μm、絶縁層底面における直径が50μmのビアホール」と本願発明の「ビアの開口率(底径/トップ径)が70%以上であるトップ径が70μm以下のブラインドビア」とは、「ビアの開口率(底径/トップ径)が70%以上であるトップ径が70μm以下のビア」である点で共通する。
よって、引用発明の「回路基板の両面にラミネートした接着フィルムからPETフィルムが剥離された後、前記熱硬化性樹脂組成物層が硬化されて絶縁層が形成され、CO2レーザー加工機を使用し、絶縁層を加工して、絶縁層表面における直径が60μm、絶縁層底面における直径が50μmのビアホールが形成される」ことと、本願発明の「当該接着フィルムは、前記熱硬化性樹脂組成物層を熱硬化して絶縁層とした状態において、プラスチックフィルム上から炭酸ガスレーザーを照射して、該絶縁層にビアの開口率(底径/トップ径)が70%以上であるトップ径が70μm以下のブラインドビアを形成するためのものであ」ることとは、「当該接着フィルムは、前記熱硬化性樹脂組成物層を熱硬化して絶縁層とした状態において、炭酸ガスレーザーを照射して、該絶縁層にビアの開口率(底径/トップ径)が70%以上であるトップ径が70μm以下のビアを形成するためのものであ」る点で共通する。
ただし、本願発明は、「プラスチックフィルム上から炭酸ガスレーザーを照射」して「ブラインドビア」を形成するのに対し、引用発明ではその旨の特定はなされていない点で相違する。
また、本願発明は、「プラスチックフィルムは、該プラスチックフィルム上から前記炭酸ガスレーザーを照射して、前記絶縁層に前記ブラインドビアを形成する際に、該ブラインドビアの周辺の絶縁層表面を保護するためのものである」のに対し、引用発明ではその旨の特定はなされていない点で相違する。

(2)したがって、本願発明と引用発明との間には、次の一致点、相違点がある。

(一致点)
「プラスチックフィルム上に無機充填材を35質量%以上含有する熱硬化性樹脂組成物層を形成した接着フィルムであって、
無機充填材は平均粒径が3μm以下であり、
前記熱硬化性樹脂組成物層は熱硬化して絶縁層となる層であり、該絶縁層は厚みが15?100μmであり、
当該接着フィルムは、前記熱硬化性樹脂組成物層を熱硬化して絶縁層とした状態において、炭酸ガスレーザーを照射して、該絶縁層にビアの開口率(底径/トップ径)が70%以上であるトップ径が70μm以下のビアを形成するためのものである、
前記接着フィルム。」

(相違点1)
「プラスチックフィルム」に関し、本願発明は、「離型層付き」であり、「離型層を含む総厚みが20?50μm」であるのに対し、引用発明ではその旨の特定はなされていない点。

(相違点2)
本願発明は、「プラスチックフィルム上から炭酸ガスレーザーを照射」して「ブラインドビア」を形成するためのものであるのに対し、引用発明ではその旨の特定はなされていない点。

(相違点3)
本願発明は、「プラスチックフィルムは、該プラスチックフィルム上から前記炭酸ガスレーザーを照射して、前記絶縁層に前記ブラインドビアを形成する際に、該ブラインドビアの周辺の絶縁層表面を保護するためのものである」のに対し、引用発明ではその旨の特定はなされていない点。

(3)上記各相違点について検討する。
ア 相違点1について
引用発明の「ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)」は「厚さ38μm」である。
そして、上記「第4」「2」「(2)」でも述べたとおり、引用文献2には、「多層プリント配線板の製造に使用される接着フィルムの支持ベースフィルムとして、離型層の厚みが3μ以下の離型層付きポリエチレンテレフタレートフィルムを用いること。」の技術事項1が記載されている。
そして、引用文献1と引用文献2とは、いずれもポリエチレンテレフタレートフィルム及び熱硬化性樹脂組成物層を備えた「接着フィルム」に係わるものであり、さらに、引用発明の「ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)」は「離型処理を施こされ」たものであることから、引用発明に離型層の厚みが3μm以下の離型層付きポリエチレンテレフタレートフィルムを採用し、相違点1に係る構成とすることは当業者が容易になし得たことである。

イ 相違点2について
引用文献1段落【0064】ないし【0067】を参酌すると、接着フィルムを回路基板の両面にラミネートし、接着フィルムからPETフィルムを剥離し、樹脂組成物層を硬化して、絶縁層を形成し、CO_(2)レーザー加工機を使用し、絶縁層を加工して、ビアホールを形成することが記載されていることから、引用発明は、回路基板の両面に形成された絶縁層の部分を貫通するビア、即ち、ブラインドビアを形成することも想定されていることは明らかである。
また、本願発明における「プラスチックフィルム上から炭酸ガスレーザーを照射」するという特定は、絶縁層にビアの開口率(底径/トップ径)が70%以上であるトップ径が70μm以下のブラインドビアを形成するための一工程を特定しているに過ぎず、当該ブラインドビアの形成に特に適した形状、構造、組成などの物としての接着フィルムを特定するための意味を有しているとは認められない。
よって、「プラスチックフィルム上から炭酸ガスレーザーを照射」し「ブラインドビア」を形成することは実質的な相違ではない。

仮に、「プラスチックフィルム上から炭酸ガスレーザーを照射」することが実質的な相違であるとしても、以下の理由から、当業者が適宜なし得た事項にすぎない。

a 支持ベースフィルムが付いた状態で樹脂組成物を熱硬化した後、炭酸ガスレーザーにより穴開けして、支持ベースフィルムを剥離することは、普通に行われている技術事項(引用文献2の技術事項2(上記「第4」「2」「(3)」)、必要であれば他にも、例えば、本願優先日前に頒布された刊行物である特開2000-022297号公報(段落【0016】、【0030】、【0031】、【0035】、【0036】、【0046】、【0047】を参照)、特開2001-284376号公報(段落【0015】を参照)、特開2003-218273号公報(段落【0042】ないし【0046】、【0086】ないし【0089】を参照)、国際公開2006/118141号(段落[0016]、[0039]、[0040]を参照)。
また、当該普通に行われている技術事項を用いることで、ホール周辺の絶縁層表面への影響を抑制できることは明白といえる(上記特開2000-022297号公報(段落【0009】、【0010】、【0014】、【0016】、【0031】、【0035】、【0036】、【0055】を参照)、特開2001-284376号公報(段落【0015】を参照))。

b ここで、引用発明において、PETフィルム上からCO_(2)レーザー加工機を照射した場合について検討する。
本願明細書には、「ブラインドビア」に関し、以下の記載がある。(下線は、当審が付与。)
(a)「【0007】
絶縁層に無機充填材が多く含有される場合、ブラインドビア(ビアホール)の形成に課題が生じる。ブラインドビアの形成には、例えば、UV-YAGレーザーを使用する方法が考えられるが、UV-YAGレーザーは無機充填材の加工性は良好であるものの、コストや加工速度の観点から、必ずしも満足のいくものではない。一方、炭酸ガスレーザーは加工速度やコストの面でUV-YAGレーザーより優れるものの、無機充填材を多く含有する絶縁層に炭酸ガスレーザーを照射してブラインドビアを形成した場合には加工性が低下し、ビア底径がトップ径に比べて小さく、テーパの強い形状となり、ブラインドビアの導通信頼性を低下させる要因となる。ビア底径をトップ径に近い形状とするには、強いエネルギーで加工を行えばよいが、炭酸ガスレーザーのエネルギーを高くした場合、絶縁層表面に加わるダメージが増大し、孔周辺の凹凸の程度が大きくなり、微細配線化に不都合になるなどの問題があることが分かった。かかる問題は、無機充填材を35質量%以上含有する絶縁層に、ブラインドビアの孔径(トップ径)が100μm以下となるような高密度のプリント配線板を製造する際に顕在化する。一方、上記2つの文献に記載のレーザー加工は、孔径(トップ径)が100μmを超えるビアを形成する加工であるため、大きな問題とはならない。
(中略)
【0042】
照射する炭酸ガスレーザーには、一般に9.3?10.6μmの波長のレーザーが使用される。また、ショット数は、形成すべきブラインドビアの深さ、孔径によっても異なるが、通常1?5ショットの間で選択される。ブラインドビアの加工速度を速め、多層プリント配線板の生産性を向上させる観点から、ショット数は少ない方が好ましく、ショット数は1又は2が好ましい。ショット数を少なくするためには、炭酸ガスレーザーのエネルギーを一定値以上に高く設定するのが好ましく、特に、絶縁層中に無機充填材を35質量%以上含有する本発明においては加工性が低下する傾向にあるため、炭酸ガスレーザーのエネルギーは好ましくは1mJ以上に設定され、より好ましくは2mJ以上に設定される。
【0043】
炭酸ガスレーザーのエネルギーが低すぎると、加工性の低下により、ビア底の径がトップ径に比べて小さい、テーパの強い形状となり、導通信頼性を低下させる要因となる。特にトップ径が小さなブラインドビアでは、ビア底径がトップ径に比べ小さくなりすぎると、導通信頼性の低下が顕著な問題となるため、トップ径とビア底径の差を小さくするのが好ましい。すなわち、トップ径が100μm以下のブラインドビアではその開口率(底径/トップ径)が70%以上であるのが好ましい。
【0044】
一方、炭酸ガスレーザーのエネルギーが高すぎるとブラインドビアの下地導体層がダメージを受けやすくなる。従って、ショット数や形成すべきプラインドビアの深さ等にもよるが、炭酸ガスレーザーのエネルギーの上限は5mJ以下が好ましく、4.5mJ以下がより好ましく、4mJ以下がさらに一層好ましく、3.5mJ以下がとりわけ好ましい。
【0045】
なお、複数のショットで加工する場合、連続的なショットであるバーストモードは孔内に加工熱がこもるため、無機充填材と熱硬化性樹脂組成物の加工性に差が生じやすく、ビアのテーパが大きくなる傾向にあるため、時間的間隔を持たせた複数ショットである、サイクルモードが好ましい。
【0046】
炭酸ガスレーザーのパルス幅は特に限定されず、28μsのミドルレンジから4μs程度の短パルスまで広い範囲で選択可能であるが、一般的に高エネルギーの場合、短パルスの方がビア加工形状に優れるとされている。
【0047】
なお、炭酸ガスレーザーのエネルギーとは、1ショットあたりの絶縁層表面でのレーザーのエネルギー値であり、炭酸ガスレーザー装置における、発振機の出力、コリメーションレンズ(エネルギー調整用レンズ)、マスク径によって調整することができる。マスク径は、実際には、加工するブラインドビアの径に応じて選択される。エネルギー値は、レーザー加工を行う台座上に、測定器(パワーセンサ)を置いて、加工される回路基板の絶縁層表面高さにおけるエネルギーを実測することにより測定することができる。なお、市販されている炭酸ガスレーザー装置には測定装置が装備されており、照射対象表面におけるエネルギーを容易に測定することができる。市販されている炭酸ガスレーザー装置としては、例えば、三菱電機(株)ML605GTWII、日立ビアメカニクス(株)LC-Gシリーズ、松下溶接システム(株)基板穴あけレーザ加工機などが挙げられる。
(中略)
【0073】
表1、表3から分かるように、プラスチックフィルム上から炭酸ガスレーザーにより形成されたブラインドビアは、1mJを超える高エネルギーでも、ビア表面付近の樹脂ダメージが少なく、デスミア後、ビア周辺絶縁層も均一な粗面であった。また、高いエネルギーの炭酸ガスレーザーを使用することで、ショット数も少なく、テーパの小さい(すなわち、開口率が大きい)良好なビア形状の加工が可能となっており、本発明の方法が、ビア形成の高速化に適した方法であることが分かる。
【0074】
一方、プラスチックフィルムを剥離後、絶縁層に直接炭酸ガスレーザーを照射させてブラインドビアを形成した比較例(表2及び表4)では、炭酸ガスレーザーのエネルギーが低い場合(比較例1、3)、トップ径に対してビア底径がより小さくなっており(すなわち、開口率が小さくなっており)、特にシリカ含有量の多い絶縁層ではテーパの大きい(開口率が小さい)形状が顕著となった(比較例3)。また、1mJを超える高エネルギー加工(比較例2、4)では、ビア周辺絶縁層の樹脂ダメージが大きいため、ファインパターン形成の際に支障をきたす三日月状のダメージがビア周辺に顕著に観察される(白矢印で表示)とともに、デスミア後にビアトップ径の広がりも顕著となっている。」

また、本願明細書には、「プラスチックフィル」に関し、以下の記載がある。(下線は当審が付与。)
(b)
「【0036】
本発明でいう、「プラスチックフィルム」としては、ポリエチレンテレフタレート(以下「PET」と略称することがある。)、ポリエチレンナフタレート(以下「PEN」と略称することがある。)等のポリエステル、ポリカーボネート(以下「PC」と略称することがある。)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル系樹脂、環状ポリオレフィン、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエーテルサルファイド(PES)、ポリエーテルケトン、ポリイミドなどが挙げられる。中でも、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム等)が好ましく、安価なポリエチレンテレフタレートフィルムが特に好ましい。また、プラスチックフィルムは、ブラックカーボン等のレーザー吸収性成分を含むものを使用してもよい。なお、接着フィルムの支持フィルムに使用するプラスチックフィルムには、熱硬化性樹脂組成物層の加熱硬化後にプラスチックフィルムを剥離可能とするために、その熱硬化性樹脂組成物層の被形成面に離型層を設けた、離型層付きプラスチックフィルムを使用するのが好ましい。離型層に使用する離型剤としては、熱硬化性樹脂組成物層を熱硬化した後にプラスチックフィルムが剥離可能であれば特に限定されず、例えば、シリコーン系離型剤、アルキッド樹脂系離型剤等が挙げられる。なお、市販されている離型層付きプラスチックフィルムを用いてもよく、好ましいものとしては、例えば、アルキッド樹脂系離型剤を主成分とする離型層を有するPETフィルムである、リンテック(株)製のSK-1、AL-5、AL-7などが挙げられる。また、プラスチックフィルムの熱硬化性樹脂組成物層の被形成面にはマッド処理、コロナ処理を施してあってもよく、離型層を有する場合、当該処理面上に離型層が形成される。
【0037】
本発明において、プラスチックフィルムの厚み(離型層付きプラスチックフィルムの場合は離型層も含む総厚み)は、20?50μmの範囲が好ましく、20?45μmの範囲がより好ましく、23?40μmの範囲がより好ましい。プラスチックフィルムの厚みが20μm未満では、絶縁層の回路上の平坦性が低下する傾向となり、50μmを越えると、コスト高の傾向となり、好ましくない。またプラスチックフィルムの厚みがこの範囲内であれば、ビア周辺の絶縁層表面のダメージ抑制等の本発明の効果がより顕著に発揮される。なお、離型層付きプラスチックフィルムにおける離型層の厚みは通常0.05?2μm程度である。」

上記各記載によれば、絶縁層中に無機充填材が35質量%以上含有される場合、絶縁層にビア底径がトップ径に近いブラインドビアを形成するには、所望の高エネルギーの炭酸ガスレーザーを照射するところ、「プラスチックフィルム」自体の形状、構造、組成等を特定なものに設定する必要性はないといえる。

c 引用発明では、平均粒子径0.5μmである球形シリカを40質量%含有する厚さ40μmの熱硬化性樹脂組成物層を形成した接着フィルムからPETフィルムを剥離し、CO_(2)レーザー加工機を使用して、絶縁層表面における直径が60μm、絶縁層底面における直径が50μmのビアホールを形成するものであり、引用文献1段落【0067】には、本願明細書段落0047において炭酸ガスレーザ装置の一つとして開示されている「松下溶接システム(株)製CO_(2)レーザー加工機(YB-HCS03T04)」をCO_(2)レーザー加工機として使用することも記載されている。
そして、上記aで挙げた、特開2000-022297号公報(段落【0047】ないし【0051】、【表1】を参照)、特開2003-218273号公報(段落【0086】ないし【0092】を参照)、国際公開2006/118141号(段落[0040]を参照)に記載されているように、PETフィルム上から炭酸ガスレーザを照射し、絶縁層にビアホールを形成する際、炭酸ガスレーザーのレーザ条件を適宜設定し、絶縁層にビア底径がトップ径に近いビアホールを形成することは通常行われている技術事項である。
してみると、上記「b」の点も踏まえれば、引用発明において、PETフィルムを剥離せず、PETフィルム上からCO_(2)レーザー加工機を照射したとしても、絶縁層にビアの開口率(底径/トップ径)が70%以上であるトップ径が70μm以下のブラインドビアが形成される蓋然性は高いといえる。

d よって、aないしcからすれば、「プラスチックフィルム上から炭酸ガスレーザーを照射」することが実質的な相違であるとしても、絶縁層にビアを形成する際「プラスチックフィルム上」から炭酸ガスレーザーを照射することは、当業者が適宜なし得る事項である。

ウ 相違点3について
上記イのaで述べたように、支持ベースフィルムが付いた状態で炭酸ガスレーザーにより穴開けすることは普通に行われている技術事項であり、該技術事項を用いた際には、ホール周辺の絶縁層表面への影響を抑制できることは明白であるから、上記引用発明においても、プラスチックフィルム上から炭酸ガスレーザーを照射すれば、ホール周辺の絶縁層表面への影響を抑制できることは当業者が当然予測し得た事項に過ぎない。
よって、引用発明において、CO_(2)レーザー加工機を使用して絶縁層にビアホールを形成する際に、ビアホール周辺の絶縁層表面への影響を抑制するためにPETフィルムを利用することは格別なこととは認められず、当業者であれば容易になし得たことである。

エ 審判請求人の主張について
請求人は令和2年9月25日付け意見書(「(3)」「(3-2)」「(iii)」を参照)において、
「引用文献2の発明は、本願発明よりも大口径の穴をレーザ/ドリルで行う発明であり、かつ、フィルム越しの穴加工の目的は、異物や導電性ペーストの付着の問題を解消することにあり、当業者には、該プラスチックフィルムによってビア開口周囲を保護するという発想が全くありません。
よって、当業者が本願発明の実施例で用いた市販の離型層付きプラスチックフィルムを手にしたとしても、本願発明における・・・微細なブラインドビアをレーザー加工するためには、当業者は、引用文献2の発明を参照しようとはせず、引用文献1の発明に従って、プラスチックフィルを剥離してから穴加工を行います。
従って、上記拒絶理由通知書で挙げられた上記の「相違点2」は、「実質的な相違ではない」ということはなく、当業者が予期できないビア周囲の保護効果を伴う実質的な相違ですから、当業者が引用文献1、2の発明から本願発明に想到することは容易ではありません。」
と主張している。

しかし、上記「イ」で述べたように、本願発明の「プラスチックフィルム上から炭酸ガスレーザーを照射」するという特定は、実質的な相違ではない。
そして、仮に、「プラスチックフィルム上から炭酸ガスレーザーを照射」するという特定が物の発明である「接着フィルム」について何らかの特定をしているとしても、上記「イ」で述べたように、当業者が適宜なし得た事項である。
また、上記「ウ」で述べたように、引用発明においても「ビア周囲の保護」のためにPETフィルムを利用することは当業者が容易になし得たことである。
よって、請求人の上記主張は採用できない。

(4)小括
以上から、本願発明は、引用発明、引用文献2の技術事項1及び普通に行われている技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2021-01-29 
結審通知日 2021-02-02 
審決日 2021-02-26 
出願番号 特願2018-90468(P2018-90468)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 原田 貴志  
特許庁審判長 五十嵐 努
特許庁審判官 山本 章裕
畑中 博幸
発明の名称 多層プリント配線板の製造方法  
代理人 高島 一  
代理人 鎌田 光宜  
代理人 田村 弥栄子  
代理人 當麻 博文  
代理人 土井 京子  

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