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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1373079
審判番号 不服2019-17178  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-12-19 
確定日 2021-04-13 
事件の表示 特願2015-114059「高い耐ひっかき性を有する光学部材およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月21日出願公開,特開2015-230486〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2015-114059号(以下「本件出願」という。)は,平成27年6月4日(パリ条約による優先権主張 平成26年6月6日 ドイツ)を出願日とする外国語書面出願であって,その手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。
平成30年11月 1日付け:拒絶理由通知書
平成31年 4月 8日付け:意見書
平成31年 4月 8日付け:手続補正書
令和 元年 8月 7日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 元年12月19日付け:審判請求書

2 本願発明
本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成31年4月8日にされた手続補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定されるとおりの,次のものである。
「 高い耐引っかき性を有する光学部材(1)であって,可視スペクトル範囲において透明な基板(10),並びに該基板(10)に成膜された,多層の反射防止コーティング(2)を備えており,該反射防止コーティング(2)は,それぞれ交互に設けられた,第1の屈折率を有する層と,より高い第2の屈折率を有する層とを有しており,より高い屈折率を有する層は,ケイ素及び少なくとも1つの別の元素の窒化物又は酸窒化物を含んでおり,且つ第1の屈折率を有する層は,ケイ素及び少なくとも1つの別の元素の酸化物を含んでおり,前記第1の屈折率を有する層内のケイ素のモル分率は,前記別の元素のモル分率を上回っており,前記多層の反射防止コーティング(2)の最上位層は,前記第1の屈折率を有する層であり,前記反射防止コーティング(2)上に,有機フッ素鎖状分子の層(3)が配置されており,前記分子は端部側で,前記光学部材の表面に結合されており,前記有機フッ素鎖状分子の層(3)は,単分子層である,ことを特徴とする,高い耐ひっかき性を有する光学部材。」

3 原査定の理由
原査定の拒絶の理由は,概略,本願発明は,本件出願の優先権主張の日(以下「本件優先日」という。)前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明に基づいて,本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
引用文献1:特開2012-171866号公報
引用文献2:特表2011-510904号公報
(当合議体注:引用文献1は主引用例,引用文献2は副引用例である。)

第2 当合議体の判断
1 引用文献の記載及び引用発明
(1) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由において引用された引用文献1(特開2012-171866号公報)は,本件優先日前に頒布された刊行物であるところ,そこには,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は一般に,反射防止コーティングまたは反射防止コーティングを備えた担体に関する。詳細には本発明は,引っかき傷または他の損耗に対する高い耐性を有する反射防止コーティングに関する。
【背景技術】
【0002】
反射防止コーティングは今日,透明基板,例えば窓ガラスの透過率を改善するか,または他方では障害となる,基板での反射を減衰するために多方面で使用されている。
…省略…
【0005】
米国特許出願公開第2005/0074591A1号から,耐摩耗性反射防止コーティングを有する透明基板が公知である。その反射防止コーティングは,交互に高い屈折率および低い屈折率を有する4つの層から構成される。低屈折性層は,酸化ケイ素(SiO_(2))からなり,高屈折性層は,窒化ケイ素(Si_(3)N_(4))または酸化スズ(SnO_(2))からなる。
【0006】
その際,積層体(Schichtstapel)の最上層は,低屈折性層から形成されている。この場合の欠点は,低屈折性酸化ケイ素層が,高屈折性材料と比較して,特にSi_(3)N_(4)と比較して,非常に軟らかいことである。したがってよりによって最上層が,依然としてすぐに損耗してしまう。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって本発明の課題は,反射防止層の耐摩耗性をさらに改善することである。
…省略…
【0033】
本発明による反射防止コーティングの層系は,反射防止層系が機械的負荷にさらされるあらゆる所で使用することができる。製造は,従来のスパッタリング技術によっても行うことができ,また機械的安定性をさらに改善するためには,HiPiMS技術でも行うことができる。可能な用途は,航空機を含む車両分野における窓ガラス,ガラスまたはガラスセラミック製の調理台表面(Kochflaechen)または同様の家庭電化製品での使用,家電領域,例えば,電子ディスプレイおよびタッチスクリーンのカバーでの使用,さらに,平坦であるか,または僅かにカーブしている表面を有し得る時計用ガラスのための使用でもある。」

ウ 「【発明を実施するための形態】
【0037】
図1に示されているコーティング基板3を備えた製品1の例は,合計4層を備えた反射防止コーティング5に基づく。典型的には,基板3は,ディスクまたはプレート形状であり,その場合,反射防止コーティング5が,基板3の面31に蒸着されている。
【0038】
反射防止コーティング5においては,より高い屈折率を有する層とより低い屈折率を有する層とが交互に積層されている。この場合,層52,54は,アルミニウム分を有する酸化ケイ素から構成されていて,ケイ素に対するアルミニウムの物質量の比は,0.05より大きく,好ましくは0.08より大きいが,ケイ素の物質量は,アルミニウムの物質量に比べて多いようになっている。好ましくはケイ素に対するアルミニウムの物質量の比は,約0.075?0.125,より好ましくは約0.1である。これらの層52,54は,酸化ケイ素を主に含有するので,低屈折率層として作用する。
【0039】
これに対して,層51,53は,より高い屈折率を有する層であり,同様にアルミニウム分を有する窒化ケイ素からなる。好ましくは,アルミニウムとケイ素の物質量の比は全ての層において実質的に同じである。
【0040】
可能な限り高い機械的安定性を得るために,出発層として,機械的により安定な成分,したがって窒化ケイ素,またはアルミニウムドーピングされた窒化ケイ素を,薄層として使用する。それというのも,この層が,他の交互層系の成長を決定するからである。その後,薄いアルミニウムドーピングされたSiO_(2)層を,続いて,外部に対する耐性をもたらす厚いアルミニウムドーピングされたSi_(3)N_(4)コーティングを続ける。次の,比較的薄いアルミニウムドーピングされたSiO_(2)層は,所望の反射防止が可能であると同時にこの層が場合によって除去されても,他の系が光学的に目立って見えることのないように堆積させる。
【0041】
4層を有するこの種の層構造は,非常に安定性があることが判明しており,ガラス基板,例えばホウケイ酸ガラスの反射率を可視スペクトル領域において1%未満まで低下させることができる。加えて,4層を有する層系は,依然として安価に製造することができる。」

エ 図1



(2) 引用発明
引用文献1の【0037】には【図1】とともに,「反射防止コーティング5が」「蒸着されている」「コーティング基板3を備えた製品1」が記載されている。また,上記「反射防止コーティング5」は,【0038】?【0040】及び【図1】から理解される層構成を具備し,「引っかき傷または他の損耗に対する高い耐性を有」し,「電子ディスプレイ及びタッチスクリーンのカバーで」「使用することができる」(【0001】及び【0033】)。
そうしてみると,引用文献1には,次の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。なお,「SiO_(2)層」及び「Si_(3)N_(4)コーティング」は,それぞれ「酸化ケイ素層」及び「窒化ケイ素層」と表記し,また,【図1】の符号を付して記載した。
「 反射防止コーティング5が蒸着されているコーティング基板3を備えた製品1であって,
反射防止コーティング5は,より高い屈折率を有する層とより低い屈折率を有する層とが交互に積層されていて,可能な限り高い機械的安定性を得るために,出発層として,アルミニウムドーピングされた窒化ケイ素層51を,薄層として使用し,その後,薄いアルミニウムドーピングされた酸化ケイ素層52を,続いて,外部に対する耐性をもたらす厚いアルミニウムドーピングされた窒化ケイ素層53を続け,次の,比較的薄いアルミニウムドーピングされた酸化ケイ素層54は,所望の反射防止が可能であり,
引っかき傷または他の損耗に対する高い耐性を有し,電子ディスプレイ及びタッチスクリーンのカバーで使用することができる,
製品1。」

(3) 引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由において引用された引用文献2(特表2011-510904号公報)は,本件優先日前に頒布された刊行物であるところ,そこには,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,判断等に活用した箇所を示す。また,段落の先頭の半角スペースは全角スペースに置き換えて表記した。
ア 「【技術分野】
【0002】
本発明は,アルカリアルミノケイ酸塩ガラスに関する。詳細には,本発明は,保護カバープレートに使用するための高強度のダウンドローアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品に関する。さらに詳細には,本発明は,高強度の携帯電子装置におけるカバープレートとして使用するための,高強度のダウンドローアルカリアルミノケイ酸塩の両疎媒性ガラスに関する。
【背景技術】
【0003】
携帯情報端末,携帯電話またセル方式の携帯電話,時計,ノート型パソコンおよびノートブックなどの携帯電子装置は,カバープレートを包含していることが多い。少なくともカバープレートの一部分は,使用者がディスプレイを見ることができるように,透明になっている。一部の用途では,カバープレートは,タッチ反応式である。頻繁に触れることから,これらのカバープレートは高強度および耐擦傷性でなくてはならない。
…省略…
【0006】
しかしながら,このアルカリアルミノケイ酸塩ガラス(およびすべての競合するカバーガラス物品)には,メディア/電子装置のためのカバーガラスなどの用途における使用に関し,幾つかの重要な問題が存在する。重要な問題の1つは,指紋によって表面に運ばれる油およびグリースに関して,移動の予防ができないこと,およびその除去の困難さである。油およびグリースの除去の困難さは,装置を使用するときに,カバーガラス表面に繰り返し指紋が付けられるタッチスクリーンなどの用途において,特に重要である。付けられた指紋,ならびに他の起源に起因する汚れは,例えば装置が使用されていない場合など,特に暗色または黒色背景が現れるときに,スクリーン上に現れる。これは,画質に影響を与え(その外見を悪化させる),顧客にその装置の否定的認識を生み出しうる,指紋/汚れによる光学干渉に関する懸念を生じる。指紋油およびグリースには,埃,化粧品,およびローションが含まれる。
【0007】
2つ目の重要な問題は,ディスプレイ表面上の反射に起因して生じうる,ギラギラした光である。ギラギラする光は,操作者の視野に対して垂直ではない光の反射に起因して生じる。ギラギラする光の存在は,装置の使用において,より良好な視界のために,装置を傾け,スクリーン・アングルを継続的に調節する必要を生じる。視角を絶えず変化させなければならないことは,使用者にとって厄介であり,不満を生じる。さらには,反射防止(「AR」)コーティングされていない表面の傾きは指紋をギラギラする光でネゲートすることから,反射防止(「AR」)特性を含む任意のディスプレイ表面は,指紋をさらに顕在化するであろう。よって,「防指紋」または「洗浄しやすい」コーティングの必要性は,反射防止表面にとって重要性が高い。」

イ 「【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は,1つの実施の形態では,水および油によるガラス表面の濡れが最小限に抑えられるように(油と水の両方についての親和性を欠いた両疎媒性物質),カバーガラスにある程度の疎水性および疎油性(すなわち両疎媒性)を与えるフッ素末端基を有する外部コーティングを有する,透明な,耐損傷性の,化学的に強化された保護カバーガラス(カバープレートまたはカバースクリーンとも呼ばれる)からなる製品に関する。コーティング製品は,ガラスの圧縮面DOLによって付与される,擦傷,摩耗,および他の耐損傷性を有し,加えて,指からガラスへの油(指紋)の移動を最小限に抑え,さらには,布で拭き取ることによる,油/指紋の除去を簡単にすることができる,フッ素末端基によって付与される,防指紋,防汚特性を有する。
…省略…
【0011】
本発明は、少なくとも約0.3mmの厚さ、少なくとも約200MPaの表面圧縮応力、約20?70μmの深さおよび両疎媒性の吸着されたフッ素系の表面層を有する表面圧縮層を有するアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品を提供する。
【0012】
吸着されたフッ素系の表面層は、例えばフッ素含有モノマーなど、ガラスの末端OH基の水素をフッ素系部分と交換することにより、末端がフッ素化された基を有するガラスを形成することにより、形成される。例えば、限定はしないが、交換は、下記反応に従って行うことができる:
【化1】


【0013】
ここで、R_(F)は、C_(1)-C_(22)アルキルペルフルオロカーボンまたはC_(1)-C_(22)アルキルパーフルオロポリエーテル、好ましくはC_(1)-C_(10)アルキルペルフルオロカーボン、さらに好ましくはC_(1)-C_(10)アルキルパーフルオロポリエーテルであり;nは1?3の範囲の整数であり;Xはガラスの末端OH基と交換することができる加水分解性基である。Xはフッ素以外のハロゲンまたはアルコキシ基(-OR)であることが好ましく、ここで、Rは1?6の炭素原子の直鎖または分岐鎖炭化水素であり、例えば、限定はしないが、-CH_(3)、-C_(2)H_(5)、-CH(CH_(3))_(2)の炭化水素が挙げられる。一部の実施の形態では、n=2または3であり、好ましくは3である。好ましいハロゲンは塩素である。好ましいアルコキシシランはトリメトキシシラン、R_(F)Si(OMe)_(3)である。本発明の実施に使用することができる追加のペルフルオロカーボン部分としては、(R_(F))_(3)SiCl、R_(F)-C(O)-Cl、R_(F)-C(O)-NH_(2)、およびガラスのヒドロキシル(OH)基と交換可能な末端基を有する他のペルフルオロカーボン部分が挙げられる。本明細書では「ペルフルオロカーボン」、「フッ化炭素」およびパーフルオロポリエーテルとは、本明細書に記載される炭化水素基を有する化合物を意味し、ここで、実質的にすべてのC-H結合はC-F結合に転換されている。
【0014】
別の実施の形態では,吸着されたフッ素系の表面層はフッ素末端の分子鎖の組織化単分子層からなる。さらなる実施の形態では,吸着されたフッ素系の表面層は,薄いフッ素ポリマーコーティングからなる。最後の実施の形態では,吸着されたフッ素系の表面層はスート微粒子に付着したペンダントフッ化炭素基を有するシリカスート微粒子からなる。
【0015】
さらなる実施の形態では,本発明は,例えば,限定はしないが,反射防止SiO_(2)またはF-SiO_(2)(フッ素ドープシリカまたは溶融シリカ)層などの反射防止層を有し,さらに,水および油によるガラス表面の濡れが最小限に抑えられるように,カバーガラスにある程度の疎水性および疎油性(すなわち両疎媒性)を与えるフッ素末端基を有する外部コーティングを有する,透明な,耐損傷性の化学的に強化された保護カバーガラスで構成される製品に関する。耐摩耗性は,本明細書に記載の両疎媒性材料の最終コーティングを施用することにより,反射防止物品に与えられる。両疎媒性の材料をコーティングした製品は,ガラスの圧縮面DOLによって与えられる擦傷,摩耗,およびその他の損傷への耐性を有し,さらには,指からガラスへの油および汗(指紋)の移動を最小限に抑え,布を用いる拭き取り手段によって油/指紋の除去を簡単にするフッ素末端基によって付与される,防指紋,防汚特性を有する。ARコーティングは,基本的な化学強化された塩基ガラスよりも低い摩耗/擦傷耐性を有しうる。ARコーティングした化学強化ガラスを両疎媒性の材料でコーティングすると,ARコーティングガラスに摩耗耐性の特性が付与され,したがって,ARコーティングされたガラスが,塩基ガラスの性能を取り戻すことを可能にすると共に,ARコーティングされたガラスに防指紋,防汚特性を与える。好ましい実施の形態では,ARコーティングの外部(最も外側)層はSiO_(2)含有層,例えばF-SiO_(2),溶融シリカまたはシリカである。」

ウ 「【発明を実施するための形態】
【0019】
…省略…
【0020】
図1を参照すると,図は,本発明の特定の実施の形態を説明する目的であって,本発明をそれらに限定することは意図されていないことが理解されよう。
【0021】
一般に,耐損傷性および両疎媒性の特性が増強され,それによって,最小限の指紋付着を示し,指紋除去が簡単な耐擦傷性表面を提供する,透明な,保護カバーガラス物品が開示される。
【0022】
図1は,少なくとも0.3mmの厚さ,少なくとも200MPaの表面圧縮応力を有する表面圧縮応力層104,および中間ガラス層106を有する,アルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品100を明確に例証している。表面圧縮層104は,典型的には下記のイオン交換法を通じて達成される,20?70μmの範囲の厚さを有する。表面圧縮層104およびイオン交換していない中間層ガラス部分106に加えて,物品100は両疎媒性の吸着されたフッ素系の表面層102を有する。
【0023】
吸着されたフッ素系の表面層またはコーティングは数多くの方法で達成することができ,(1)フッ素系のモノマーで交換した-OH基末端化した活性表面部位;(2)フッ素末端の分子鎖の組織化単分子層;(3)薄いフッ素ポリマーコーティング;(4)フッ素末端基を有するようにあらかじめ生成または処理されているシリカスート微粒子からなる群より選択することができる。コーティングは,浸漬,蒸着重合,噴霧,ローラーを用いた施用,または他の適切な方法によって,表面に適用することができる。浸漬または噴霧が好ましい。コーティングの施用後,25?150℃の範囲の温度,好ましくは40?100℃で1?4時間の範囲の時間,40?95%の水分を含む雰囲気下で「硬化」させる。
…省略…
【0060】
化学強化された,反射防止性の両疎媒性ガラスは,現在市販されるカバーガラスに対し,次の利点を有する。
【0061】
1.フッ素含有両疎媒性付与部分で処理する前に塩基ガラスに施用される反射防止コーティングは,反射に起因する光学干渉を提示する働きをし,従ってギラギラする光を排除する。反射防止コーティングは多目的であり,その性能は光学干渉(または可視化)の角度を調整することを含み,よって,この効果を増進する多層コーティングを構造化することにより,「プライバシー」効果のための選択肢を提供する。
【0062】
2. 反射防止コーティングをフッ素含有部分で処理した後,得られる表面は無極性であり,異質な微粒子および油と処理したガラス表面の間の水素結合(すなわちファン・デル・ワールス力)を最小限に抑える。得られた処理表面は,非常に低い表面エネルギーおよび低い摩擦係数を有する。最終的な「コーティング」としてのフッ素-含有部分の設置の硬化および性能は,ギラギラする光の排除が,任意の顕著な指紋が光学干渉の唯一の源であり,これらを拭き取ることができることを意味することから,抗反射コーティングおよび表面の追加の利益である。
【0063】
3. 指紋除去は,典型的には,湿式または乾燥条件のいずれかの下,表面を布で拭き取ることによって行われる。これらの布は,しばしば再利用され,表面を擦傷する埃および微粒子を含む。フッ素化された表面は,指紋除去の容易さを促進する一方で,汚れを最小限に抑え,ガラスの破損による,即時または時期尚早の故障につながりうる,損傷を生じる事象の数および頻度を低減する。
【0064】
4.ガラスの耐擦傷性もまた改善される。高硬度の化学強化ガラス,およびその高い圧縮面DOL(例えば30?80μmの深さ)は,損傷の防止および,拭き取りの繰り返しから生じるかもしれない損傷に由来する故障の防止の作用をする。その後,片方が両疎媒性のコーティングでコーティングされ,他の半分がコーティングされていない,ガラス物品を使用して,耐擦傷性を測定した。擦傷は,上述のように行った。次に,物品の両側の両領域についてヘイズを測定し,ここでヘイズは光学的透明度の尺度であり,言い換えれば,散光および透過光のすべての合計に対する散光である。試験結果は,コーティングされていないガラスではμ_(K)=0.25,コーティングされたガラスではμ_(K)=0.05であることを示し,したがって,両疎媒性のコーティングの存在に起因して,動摩擦における80%の低下を示した。動摩擦係数μ_(K)も測定した。コーティングされていない側に対し,摩擦の80%の低下がコーティングされた側に見られた。
…省略…
【0071】
図6は,コーティングガラスおよび非コーティングのガラスを使用して,150番の紙やすりを用いた摩耗によって生じるヘイズ(光学的透明度の欠如)を例証している。ガラスサンプルの一方を両疎媒性のコーティングでコーティングし,50/50硬化(50/50=50℃および50%水分で2時間硬化を行い,次にすすいで,結合していないコーティングを除去する)し,他の半分はコーティングしなかった。次に,サンプルを,コーティングおよび非コーティングの両方の表面を摩耗させた。データは,それぞれ,コーティングされていない表面が?9.8%のヘイズを有し,コーティングされた表面は?1.76%のヘイズを有することを示唆している。よって,コーティングは,コーティングされていない表面に損傷を与えることによって生じるヘイズの75%の低下を表わす。」

エ 図1


(当合議体注:図面の傾きを補正した。)

オ 図6



2 対比及び判断
(1) 対比
本願発明と引用発明を対比すると以下のとおりとなる。
ア 光学部材(1)
引用発明の「製品1」は,「反射防止コーティング5が蒸着されているコーティング基板3を備え」,「反射防止コーティング5は,より高い屈折率を有する層とより低い屈折率を有する層とが交互に積層されていて」,「引っかき傷または他の損耗に対する高い耐性を有し,電子ディスプレイ及びタッチスクリーンのカバーで使用することができる」。
上記の「引っかき傷または他の損耗に対する高い耐性」からみて,引用発明の「製品1」は,高い耐引っかき性を有する部材と理解される。また,「反射防止コーティング5が蒸着されているコーティング基板3」の構成からみて,引用発明の「反射防止コーティング5」は,「コーティング基板3」に成膜された多層のものである。加えて,「電子ディスプレイ及びタッチスクリーンのカバーで使用することができる」ことからみて,引用発明の「コーティング基板3」が,可視スペクトル範囲において透明な光学部材であることは明らかである。
そうしてみると,引用発明の「コーティング基板3」,「反射防止コーティング5」及び「製品1」は,それぞれ本願発明の「基板(10)」,「反射防止コーティング(2)」及び「光学部材(1)」に相当する。
また,引用発明の「製品1」は,本願発明の「光学部材(1)」における,「高い耐引っかき性を有する」及び「可視スペクトル範囲において透明な基板(10),並びに該基板(10)に成膜された,多層の反射防止コーティング(2)を備えており」という要件を満たす。
(当合議体注:引用発明の「反射防止コーティング5」の層数は,4層であり,通常は,「多層の」とはいいがたいものである。しかしながら,本願発明は,このような態様の「反射防止コーティング(2)」をも発明の範囲に含むものである(【0019】,【0034】及び【図1】)。したがって,引用発明の「反射防止コーティング5」は,本願発明でいう「多層の」という要件を満たすといえる。)

イ 反射防止コーティング(2)
引用発明の「反射防止コーティング5」は,「より高い屈折率を有する層とより低い屈折率を有する層とが交互に積層されていて,可能な限り高い機械的安定性を得るために,出発層として,アルミニウムドーピングされた窒化ケイ素層51を,薄層として使用し,その後,薄いアルミニウムドーピングされた酸化ケイ素層52を,続いて,外部に対する耐性をもたらす厚いアルミニウムドーピングされた窒化ケイ素層53を続け,次の,比較的薄いアルミニウムドーピングされた酸化ケイ素層54は,所望の反射防止が可能であ」る。
引用発明の「アルミニウムドーピングされた酸化ケイ素層」及び「アルミニウムドーピングされた窒化ケイ素層」が,「第1の」及び「第2の」と称しうる,互いに異なる屈折率を有すること並びに後者の屈折率が前者の屈折率より高いことは,技術常識である。同様に,引用発明の「アルミニウムドーピングされた窒化ケイ素層」が,ケイ素及びアルミニウムの窒化物を含むこと,引用発明の「アルミニウムドーピングされた酸化ケイ素層」が,ケイ素及びアルミニウムの酸化物を含んでおり,ケイ素のモル分率がアルミニウムのモル分率を上回っていることも,技術常識である。
(当合議体注:これらの事項は,引用文献1の【0038】及び【0039】の記載からも確認できる事項である。)
そして,上記の層構成からみて,引用発明の「反射防止コーティング5」は,「アルミニウムドーピングされた酸化ケイ素層」と「アルミニウムドーピングされた窒化ケイ素層」とがそれぞれ交互に設けられたものである。また,引用発明の「反射防止コーティング5」の最上位層は,「アルミニウムドーピングされた酸化ケイ素層」である。
そうしてみると,引用発明の「アルミニウムドーピングされた酸化ケイ素層」及び「アルミニウムドーピングされた窒化ケイ素層」は,それぞれ本願発明の「第1の屈折率を有する層」及び「第2の屈折率を有する層」に相当する。また,引用発明の「反射防止コーティング5」は,本願発明の「反射防止コーティング(2)」における,「それぞれ交互に設けられた,第1の屈折率を有する層と,より高い第2の屈折率を有する層とを有しており,より高い屈折率を有する層は,ケイ素及び少なくとも1つの別の元素の窒化物又は酸窒化物を含んでおり,且つ第1の屈折率を有する層は,ケイ素及び少なくとも1つの別の元素の酸化物を含んでおり,前記第1の屈折率を有する層内のケイ素のモル分率は,前記別の元素のモル分率を上回っており,前記多層の反射防止コーティング(2)の最上位層は,前記第1の屈折率を有する層であり」という要件を満たす。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明と引用発明は,次の構成で一致する。
「 高い耐引っかき性を有する光学部材(1)であって,可視スペクトル範囲において透明な基板(10),並びに該基板(10)に成膜された,多層の反射防止コーティング(2)を備えており,該反射防止コーティング(2)は,それぞれ交互に設けられた,第1の屈折率を有する層と,より高い第2の屈折率を有する層とを有しており,より高い屈折率を有する層は,ケイ素及び少なくとも1つの別の元素の窒化物又は酸窒化物を含んでおり,且つ第1の屈折率を有する層は,ケイ素及び少なくとも1つの別の元素の酸化物を含んでおり,前記第1の屈折率を有する層内のケイ素のモル分率は,前記別の元素のモル分率を上回っており,前記多層の反射防止コーティング(2)の最上位層は,前記第1の屈折率を有する層である,高い耐ひっかき性を有する光学部材。」

イ 相違点
本願発明と引用発明は,次の点で相違する。
(相違点)
「光学部材」が,本願発明は,「前記反射防止コーティング(2)上に,有機フッ素鎖状分子の層(3)が配置されており,前記分子は端部側で,前記光学部材の表面に結合されており,前記有機フッ素鎖状分子の層(3)は,単分子層である」のに対して,引用発明は,この構成を具備しない点。

(3) 判断
相違点について判断する。
引用文献2の【0003】,【0006】,【0007】,【0010】,【0014】,【0015】,【0022】,【0023】,【0060】?【0064】及び【0071】の記載からは,[A]反射防止層を有し,さらに,カバーガラスに両疎媒性を与えるフッ素末端基を有する外部コーティングを有する,透明な,耐損傷性の化学的に強化された保護カバーガラスで構成される製品に関して,[B]反射防止コーティングした化学強化ガラスを両疎媒性の材料でコーティングすると,反射防止コーティングガラスに摩耗耐性の特性が付与され,したがって,反射防止コーティングされたガラスが,塩基ガラスの性能を取り戻すことを可能にするとともに,反射防止コーティングされたガラスに防指紋,防汚特性を与えること,そして,[C]フッ素系の表面層又はコーティングとして,フッ素末端の分子鎖の組織化単分子層が挙げられることが把握できる(以下「引用文献2記載技術」という。)。
ここで,引用発明の「製品1」は,「引っかき傷または他の損耗に対する高い耐性を有し,電子ディスプレイ及びタッチスクリーンのカバーで使用することができる」とされている。
そうしてみると,当業者が,引用発明1の「製品1」を「電子ディスプレイ及びタッチスクリーンのカバー」とするに際して,「引っかき傷または他の損耗に対する高い耐性」を改善するために,引用発明1の「反射防止コーティング5」の上に「フッ素末端の分子鎖の組織化単分子層」(当合議体注:フッ素化アルキルトリメトキシシラン等を用いて,フッ素末端の分子鎖を反射防止コーティングの表面に結合させることにより得られる。)を設けることは,当業者における通常の創意工夫の範囲内の事項である。

(4) 請求人の主張について
請求人は,審判請求書において,本件出願の明細書の【0060】?【0063】を引用し,反射防止コーティングありで有機フッ素鎖状分子の層を用いた本願発明の効果は,反射防止コーティングなしで有機フッ素鎖状分子の層を用いた場合の効果に比べて,予測できない顕著なものであると主張する。なお,【0061】の【表1】は次のものであり,本願発明の「基板(10)」が,ホウケイ酸ガラスのような強化ガラスの場合の測定結果である。



しかしながら,引用文献2の【0015】には,「ARコーティングは,基本的な化学強化された塩基ガラスよりも低い摩耗/擦傷耐性を有しうる。ARコーティングした化学強化ガラスを両疎媒性の材料でコーティングすると,ARコーティングガラスに摩耗耐性の特性が付与され,したがって,ARコーティングされたガラスが,塩基ガラスの性能を取り戻すことを可能にすると共に,ARコーティングされたガラスに防指紋,防汚特性を与える。好ましい実施の形態では,ARコーティングの外部(最も外側)層はSiO_(2)含有層,例えばF-SiO_(2),溶融シリカまたはシリカである。」と記載されている。上記の記載に接した当業者ならば,ARコーティングした化学強化ガラスを両疎媒性の材料でコーティングすると,ARコーティングガラスに摩耗耐性の特性が付与されることに気付くといえる。また,ARコーティングは,化学強化ガラスよりも低い摩耗耐性を有するのだから,ARコーティングありの場合の方が,ARコーティングなしの場合よりも,顕著な効果が得られることにも気付くといえる。
そうしてみると,請求人が主張する効果は,当業者が予測できなかったものであるということができない。また,請求人が主張する効果は,当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるということもできない。

第3 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて,本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は拒絶すべきものである。

よって,結論とおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-11-06 
結審通知日 2020-11-11 
審決日 2020-11-27 
出願番号 特願2015-114059(P2015-114059)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 大思清水 督史  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 河原 正
樋口 信宏
発明の名称 高い耐ひっかき性を有する光学部材およびその製造方法  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 上島 類  
代理人 二宮 浩康  
代理人 前川 純一  
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