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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02C |
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管理番号 | 1373083 |
審判番号 | 不服2020-1112 |
総通号数 | 258 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-06-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-01-27 |
確定日 | 2021-04-12 |
事件の表示 | 特願2017-522049「光学パラメータを決定するための装置および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年4月28日国際公開,WO2016/062363,平成29年11月9日国内公表,特表2017-533469〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 事案の概要 1 手続等の経緯 特願2017-522049号(以下「本件出願」という。)は,2015年(平成27年)9月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2014年10月23日 ドイツ)を国際出願日とする出願であって,その手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。 平成29年 7月 7日付け:手続補正書 平成31年 1月22日付け:拒絶理由通知書 平成31年 4月22日付け:意見書 平成31年 4月22日付け:手続補正書 令和 元年 9月19日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) 令和 2年 1月27日付け:審判請求書 令和 2年 1月27日付け:手続補正書 令和 2年 8月 4日付け:上申書 2 本願発明 本件出願の請求項1に係る発明は,令和2年1月27日にした手続補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定されるとおりの,次のものである(以下「本願発明」という。)。 「 眼鏡(4)が使用位置でユーザ(2)の頭部上に配置された状態でユーザ(2)の光学パラメータを決定するための装置(10)において, 光投影を用いてユーザ(2)の頭部のおよび/またはユーザの前記眼鏡(4)の部分領域をマーキングするように設計されて配置される少なくとも1つの投影機器(12)と, ユーザ(2)の頭部のおよび/またはユーザの前記眼鏡(4)の少なくともマーキングされた前記部分領域の画像データを生成するように設計されて配置される少なくとも1つの画像記録機器(11)と, データ処理機器であって, 前記生成された画像データを使用して頭部のおよび/または前記眼鏡(4)のマーキングされた前記部分領域のユーザデータを決定するように設計されるユーザデータ決定機器であり,前記ユーザデータが頭部のおよび/または前記眼鏡(4)の前記部分領域のポイントの三次元空間における空間情報を含む,ユーザデータ決定機器と, 前記ユーザデータを使用してユーザ(2)の光学パラメータを決定するように設計されるパラメータ決定機器と, を有するデータ処理機器と, を有し, 前記投影機器(12)は,ユーザの頭部上および/または眼鏡(4)上の特定の個々のポイントが前記光投影によって前記画像データ中でマーキングされるように設計されて配置され, 前記投影機器(12)は,前記画像データ中で以下のユーザポイント,すなわち, 瞳中心点(PMR,PML) 外側側頭フレームポイント(ATR,ATL) 内側鼻フレームポイント(INR,INL) 瞳の上側の内側フレームポイント(IOR,IOL),および/または, 瞳の下側の内側フレームポイント(IUR,IUL) のうちの少なくとも1つが意図的にマーキングされるように設計されて配置される装置(10)。」 (当合議体注:令和2年1月27日にした手続補正では,請求項1は補正されていない。) 3 原査定の理由 原査定の拒絶の理由は,本願発明は,本件出願の優先権主張の日(以下「本件優先日」という。)前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明に基づいて,本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,という理由を含むものである。 引用文献1:特表2008-536149号公報 第2 当合議体の判断 1 引用文献1の記載及び引用発明 (1) 引用文献1の記載 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特表2008-536149号公報)は,本件優先日前に,日本国内又は外国において,頒布された刊行物であるところ,そこには,以下の記載がある。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は,ユーザの光学パラメータを決定する装置,ユーザの光学パラメータを決定する方法,および上記方法を実行するコンピュータプログラムプロダクトに関する。 【背景技術】 【0002】 個々に最適化された眼鏡レンズの導入により,視力誤差を有するユーザの要求条件を処理し,例えば,個々に最適化された視力範囲を有する眼鏡レンズを提供できる。 …省略… 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 本発明の目的は,簡単の方法でユーザの光学パラメータを正確に決定する可能性を提供することである。 【課題を解決するための手段】 …省略… 【0009】 本発明の1つの態様によれば,光学パラメータを決定するための本発明による装置は, ユーザの頭部の少なくとも小部分の画像データを生成するように設計され位置付けされた少なくとも2つの画像記録ユニットと, データユ処理ユニットと,を備え,このデータ処理ユニットは, 頭部の少なくとも1つの小部分または頭部の系の少なくとも1つの小部分のユーザデータと,生成された画像データに基づいて着装位置においてユニットの上に置かれるユーザの対の眼鏡を決定するように設計されたユーザデータ決定ユニットであって,ユーザデータは,頭部の小部分または系の小部分の所定の点の3次元空間の位置情報を含む,ユーザデータ決定ユニットと, ユーザデータに基づいてユーザの光学パラメータの少なくとも一部を決定するように設計されたパラメータ決定ユニットと,を有し, 本発明による装置はさらに, ユーザの決定された光学パラメータの少なくとも一部を出力するように設計されたデータ出力ユニットを備える。 …省略… 【0012】 有利には,頭部の少なくとも小部分または頭部の系の少なくとも1つの小部分および装着位置の小部分上に位置するユーザの対の眼鏡の表示は,2次元画像データに基づいて,本発明による装置を使用して決定される。ユーザデータの3次元空間内での相互の位置関係は,この3次元表示に基づいて容易に決定でき,ユーザの光学パラメータはそれら位置関係から決定できる。 【0013】 詳細には,対の眼鏡および/または眼鏡レンズの着装位置を記述するのに必要なユーザの複数の光学パラメータは,有利には,正確におよび容易に決定できる。 【0014】 さらに,可能な限り多く重なる小部分の画像データ,詳細にはユーザの頭部の同一小部分の画像データは,2つの画像記録ユニットにより生成され,画像記録ユニットは,ユーザの少なくとも1つの瞳孔が第1画像データ内に完全に画像化されるように,設計され位置付けされる。さらに,ユーザの瞳孔が完全に画像化されている生成画像データだけを使用して,ユーザデータを決定する。詳細には,ユーザの同一瞳孔は,2つ以上の画像記録ユニットによって生成される画像データ内に完全に画像化される。さらに,ユーザの両方の瞳孔は,いずれにせよ,2つの画像記録ユニットの画像データ内に画像化できる。 …省略… 【0018】 本発明のさらなる好ましい実施形態においては,ユーザデータは以下の点,すなわち, ユーザの基準系の水平面(ユーザの水平面はユーザの両方の瞳孔と交差し,ユーザの視界の所定のゼロラインに平行に走る)と,眼鏡の眼鏡レンズ縁部および/または眼鏡フレーム縁部との交点, ユーザの基準系の垂直面(ユーザの垂直面は,ユーザの水平面に垂直におよびユーザの視界の所定のゼロラインに平行に走り,ユーザの瞳孔と交差する)と,眼鏡の眼鏡レンズ縁部および/または眼鏡フレーム縁部との交点, 少なくとも1つの瞳孔中心点, ボックス系(boxing system)における寸法に従うユーザの少なくとも1つの眼鏡レンズの境界, 対の眼鏡の眼鏡フレームのブリッジ中心点, の少なくとも1つの位置情報を含む。 …省略… 【0023】 本発明による装置に光学パラメータは,好ましくは,以下の値,すなわち, 瞳孔間距離 単眼瞳孔間距離 基準点必要条件に従うおよび/または眼の回転点必要条件に従う角膜頂点距離 単眼中心距離 中心点座標 レンズ距離またはボックスレンズ距離 中心点の分散 レンズ高さおよび幅またはボックスレンズ高さおよび幅 レンズ中心距離またはボックスレンズ中心距離 眼鏡レンズ広角度 湾曲角度 研磨高さ,の値の1つを含む。 …省略… 【0029】 好ましくは,動作中は,ユーザの瞳孔の1つの位置またはユーザの鼻の付け根の位置は,所定の基準点にほぼ一致する。 …省略… 【0039】 特に好ましい実施形態においては,動作位置では,画像記録ユニットの1つは,その有効光軸がユーザの鼻の付け根に少なくともほぼ交差するように位置決めされる。言い換えると,本発明の装置の動作状態では,好ましくは,ユーザは,画像記録ユニットの少なくとも1つの有効光軸がユーザの鼻の付け根に少なくともほぼ交差するように位置合わせおよび/またはユーザ自身を位置合わせできる。 …省略… 【0053】 本発明のさらなる態様によれば,ユーザの光学パラメータを決定する装置は, ユーザの頭部の少なくとも小部分の画像データを生成するように設計され,配置された少なくとも1つの画像記録ユニットと, ユーザの頭部の少なくとも小部分上に所定のパターンデータを投射するように設計され,配置される少なくとも1つのパターン投射ユニットと, データ処理ユニットと,を備え, このデータ処理ユニットは, 生成された画像データに基づき,頭部の少なくとも小部分または頭部の系の少なくとも小部分および着装位置における小部分上に位置する対の眼鏡のユーザデータを決定するように設計され,投射パターンデータを考慮し,ユーザデータが頭部の小部分または系の小部分の所定の点の3次元空間における位置情報を含む,ユーザデータ決定ユニットと, ユーザデータに基づきユーザの光学パラメータの少なくとも一部を決定するように設計された,パラメータ決定ユニットと,を有し, さらに光学パラメータを決定する装置は, ユーザの決定された光学パラメータの少なくとも一部を出力するように設計された,データ出力ユニット,を備える。 【0054】 好ましくは,装置は高性能の1つの画像記録ユニットおよび高性能の1つのパターン投射ユニットを備え,頭部の小部分または系の小部分の3次元ユーザデータもまた,有利には,本発明の前述の態様と同様に,本発明のこの態様により生成できる。有利には,3次元ユーザデータは1つの画像記録ユニットだけの画像データに基づいて生成されてもよい。好ましくは,3次元データは位相測定三角測量の原理を用いて生成される。この目的のために,パターンデータは,頭部または頭部の小部分に重ね合わせられ,および/またはパターン投射ユニットを用いて頭部の上に投射される。画像記録ユニットは,2次元空間における頭部の少なくとも小部分の画像データを生成する。頭部の小部分の表面構造,すなわち3次元座標は,強度パターンによる投射パターンデータの位相情報によって間接的に生成される。 【0055】 結果的に,本発明のこの態様により,3次元ユーザパターンを生成できる。ユーザの光学パラメータは,本発明の前述の態様と同様に,3次元ユーザデータに基づいて決定でき,1つの画像記録ユニットだけが使用される。 【0056】 パターン投射ユニットは,例えば,市販のビデオプロジェクタなどの典型的プロジェクタである。投射パターンデータは,例えばストリップパターンまたはバイナリ正弦波パターンである。パターンデータはユーザ頭部の少なくとも1つの小部分上に投射され,画像データは,画像記録ユニットを用いてその投射パターンから生成される。画像データは,画像記録ユニットによって,このように照射されたユーザ頭部の小部分から,三角測量角度において生成される。三角測量角度は,画像記録ユニットの有効光軸とパターン投射ユニットの投射角度との間の角度に一致する。」 イ 「【発明を実施するための最良の形態】 【0064】 図1は本発明の好ましい実施形態による装置10の概略斜視図を示す。装置10は筐体および/または柱状体12形状の構造ユニットを備え,柱状体12上に上部カメラ14の形状の第1画像記録ユニットと,測部カメラ116の形状の第2画像記録ユニットとが配置されている。さらにモニター18の形状のデータ出力ユニットが柱状体12に組み込まれている。好ましくは,上部カメラ14は,例えば図1に示されるとおり,柱状体12内部に,少なくとも部分的にモニター18と同一高さに置かれる。動作位置においては,上部カメラ14および側部カメラ16は,上部カメラ14の有効光軸20が側部カメラ16の有効光軸22と交点24で交差するように位置決めされる。有効光軸20,22の交点24は,好ましくは,鼻の付け根の点である(図2を参照)。 【0065】 上部カメラ14は,好ましくは,部分反射ミラー26の背後の中心に配置される。上部カメラ14の画像データは部分反射ミラー26を通して生成される。上部カメラ14および側部カメラ16の画像データ(以下では画像を称される)は,好ましくは,モニター18に出力される。さらに,3つのランプ28が装置10の円柱体12上に配置される。ランプ28は,例えば蛍光灯などの発光ロッドであってもよい。ランプ28はそれぞれが1つ以上の電球,ハロゲンランプ,LED等を含むこともできる。 【0066】 図1に示される本発明の装置10の好ましい実施形態においては,上部カメラ14の有効光軸20はユーザ30のゼロ目視方向に平行に位置決めされる。ゼロ目視方向は主位置におけるユーザの眼の目視軸に一致する。側部カメラ16は,側部カメラ16の有効光軸22が上部カメラ14の有効光軸20と交点24で約30°の交差角度で交差するように配置される。 …省略… 【0073】 本発明にさらなる実施形態によれば,例えば,側部カメラ16は,例えば典型的なプロジェクタなどのパターン投射ユニットに置き換えてもよく,3次元ユーザデータは位相測定三角測量などの典型的な方法に基づいて決定されてもよい。 …省略… 【0082】 瞳孔中心点58,60は,好ましくは,ユーザデータ位置決めユニット(図示せず)により自動的に決定される。この目的のために,ランプ28のために個々の眼54,56の角膜上に発生する反射現象82を用いる。なぜなら,図1に示される本発明の装置10の実施形態によれば,例えば3つのランプ28が配置され,3つの反射現象82が特定の眼54,56について画像化される。反射現象82は各眼54,56に対して,角膜上の特定のランプの目視軸の貫通点上に直接発生する。ランプ目視軸(図示せず)は,網膜上の中心に結像する特定ランプ28の位置と,対応する眼54,56の特定の瞳孔中心点58,60との間の接続直線である。ランプ目視軸(図示せず)の延長線は光の眼回転点(図示せず)を通過する。好ましくはランプ28は,それらランプが円錐形側面上に配置され,円錐形の頂点が右眼54または左眼56のそれぞれの瞳孔中心点58または60に置かれるように位置決めされる。円錐形の対称軸,円錐形の頂点から延びる上部カメラ14の有効光軸20に平行に位置し,3つのランプ28はまた,円錐形頂点と特定のランプ28の接続直線が円錐形頂点だけと交差するように位置決めされる。 【0083】 右眼54または左眼56のそれぞれの瞳孔中心点58または60は,右眼54または左眼56の対する反射現象82に基づき決定できる。」 ウ 図1 (2) 引用発明 引用文献1の【0053】?【0056】には,次の「ユーザの光学パラメータを決定する装置」の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。 「 ユーザの頭部の少なくとも小部分の画像データを生成するように設計され,配置された少なくとも1つの画像記録ユニットと, ユーザの頭部の少なくとも小部分上に所定のパターンデータを投射するように設計され,配置される少なくとも1つのパターン投射ユニットと, データ処理ユニットと,を備え, データ処理ユニットは, 生成された画像データに基づき,頭部の少なくとも小部分又は頭部の系の少なくとも小部分及び着装位置における小部分上に位置する対の眼鏡のユーザデータを決定するように設計され,投射パターンデータを考慮し,ユーザデータが頭部の小部分又は系の小部分の所定の点の3次元空間における位置情報を含む,ユーザデータ決定ユニットと, ユーザデータに基づきユーザの光学パラメータの少なくとも一部を決定するように設計された,パラメータ決定ユニットと,を有し, ユーザの決定された光学パラメータの少なくとも一部を出力するように設計された,データ出力ユニット,を備える光学パラメータを決定する装置であって, 投射パターンデータは,ストリップパターンであり,パターンデータはユーザ頭部の少なくとも1つの小部分上に投射され,画像データは,画像記録ユニットによって,照射されたユーザ頭部の小部分から,三角測量角度において生成され,三角測量角度は,画像記録ユニットの有効光軸とパターン投射ユニットの投射角度との間の角度に一致する, 光学パラメータを決定する装置。」 2 対比及び判断 (1) 対比 本願発明と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。 ア 装置(10) 引用発明の「光学パラメータを決定する装置」は「データ処理ユニット」「を備え」るところ,「データ処理ユニット」は,「生成された画像データに基づき,頭部の少なくとも小部分又は頭部の系の少なくとも小部分及び着装位置における小部分上に位置する対の眼鏡のユーザデータを決定するように設計され」た「ユーザデータ決定ユニットと」,「ユーザデータに基づきユーザの光学パラメータの少なくとも一部を決定するように設計された,パラメータ決定ユニットと,を有し」ている。 上記の構成からみて,引用発明の「光学パラメータを決定する装置」は,「眼鏡」が「着装位置」で「ユーザ」の「小部分上に位置する」状態で「ユーザの光学パラメータ」「を決定する」ための装置といえる。また,上記「小部分」とは,「頭部の少なくとも小部分又は頭部の系の少なくとも小部分」のことである。 そうしてみると,引用発明の「眼鏡」,「着装位置」,「ユーザ」,「頭部」,「光学パラメータ」及び「光学パラメータを決定する装置」は,それぞれ本願発明の「眼鏡(4)」,「使用位置」,「ユーザ(2)」,「頭部」,「光学パラメータ」及び「装置(10)」に相当する。また,引用発明の「光学パラメータを決定する装置」は,本願発明の「装置(10)」における,「眼鏡(4)が使用位置でユーザ(2)の頭部上に配置された状態でユーザ(2)の光学パラメータを決定するための」という要件を満たす。 イ 投影機器(12) 引用発明の「光学パラメータを決定する装置」は,「ユーザの頭部の少なくとも小部分上に所定のパターンデータを投射するように設計され,配置される少なくとも1つのパターン投射ユニット」「を備え」,「投射パターンデータは,ストリップパターンであ」る。 上記の構成からみて,引用発明の「パターン投射ユニット」は,「ストリップパターン」を用いて「ユーザの頭部の少なくとも小部分上」を「投射するように設計され,配置される少なくとも1つの」ものである。また,引用発明の「ストリップパターン」が,光の投影によるものであることは,技術常識である。 そうしてみると,引用発明の「ストリップパターン」(による光の投影),「小部分」,「投射」,「設計」,「配置」及び「パターン投射ユニット」は,それぞれ本願発明の「光投影」,「部分領域」,「マーキング」,「設計」,「配置」及び「投影機器(12)」に相当する。また,引用発明の「パターン投射ユニット」は,本願発明の「投影機器(12)」における,「光投影を用いてユーザ(2)の頭部のおよび/またはユーザの前記眼鏡(4)の部分領域をマーキングするように設計されて配置される少なくとも1つの」という要件を満たす。 ウ 画像記録機器(11) 引用発明の「光学パラメータを決定する装置」は,「ユーザの頭部の少なくとも小部分の画像データを生成するように設計され,配置された少なくとも1つの画像記録ユニット」「を備え」,「画像データは,画像記録ユニットによって,照射されたユーザ頭部の小部分から,三角測量角度において生成され」る。 上記の構成からみて,引用発明の「画像記録ユニット」は,「ユーザの頭部の」「照射された」「小部分の画像データを生成するように設計され,配置された少なくとも1つの」ものである。また,上記「照射」とは,前記イで述べた「投射」のことである。 そうしてみると,引用発明の「画像データ」,「生成」及び「画像記録ユニット」は,それぞれ本願発明の「画像データ」,「生成」及び「画像記録機器(11)」に相当する。また,引用発明の「画像記録ユニット」は,本願発明の「画像記録機器(11)」における,「ユーザ(2)の頭部のおよび/またはユーザの前記眼鏡(4)の少なくともマーキングされた前記部分領域の画像データを生成するように設計されて配置される少なくとも1つの」という要件を満たす。 エ データ処理機器 引用発明の「データ処理ユニット」は,「生成された画像データに基づき,頭部の少なくとも小部分又は頭部の系の少なくとも小部分及び着装位置における小部分上に位置する対の眼鏡のユーザデータを決定するように設計され,投射パターンデータを考慮し,ユーザデータが頭部の小部分又は系の小部分の所定の点の3次元空間における位置情報を含む,ユーザデータ決定ユニットと」,「ユーザデータに基づきユーザの光学パラメータの少なくとも一部を決定するように設計された,パラメータ決定ユニットと」,「を有し」ている。 上記の構成からみて,引用発明の「ユーザデータ決定ユニット」は,「生成された画像データ」を使用して「頭部の」「小部分のユーザデータを決定するように設計され」たものである。ここで,上記「頭部の」「小部分」が「照射」(投射)されたものであることは,前記ウで述べたとおりである。また,上記の構成からみて,引用発明の「ユーザデータ」は,「頭部の小部分」「の所定の点の3次元空間における位置情報を含む」ものである。加えて,引用発明の「パラメータ決定ユニット」は,「ユーザデータ」を使用して「ユーザの光学パラメータの少なくとも一部を決定するように設計され」たものである。 そうしてみると,引用発明の「所定の点」,「3次元空間」,「位置情報」,「ユーザデータ」,「ユーザデータ決定ユニット」,「パラメータ決定ユニット」及び「データ処理ユニット」は,それぞれ本願発明の「ポイント」,「三次元空間」,「空間情報」,「ユーザデータ」,「ユーザデータ決定機器」,「パラメータ決定機器」及び「データ処理機器」に相当する。また,引用発明の「ユーザデータ決定ユニット」は,本願発明の「ユーザデータ決定機器」における,「前記生成された画像データを使用して頭部のおよび/または前記眼鏡(4)のマーキングされた前記部分領域のユーザデータを決定するように設計されるユーザデータ決定機器であり,前記ユーザデータが頭部のおよび/または前記眼鏡(4)の前記部分領域のポイントの三次元空間における空間情報を含む」という要件を満たす。加えて,引用発明の「パラメータ決定ユニット」は,本願発明の「パラメータ決定機器」における,「前記ユーザデータを使用してユーザ(2)の光学パラメータを決定するように設計される」という要件を満たす。さらに,引用発明の「データ処理ユニット」は,本願発明の「データ処理機器」における,「ユーザデータ決定機器と」,「パラメータ決定機器と」,「を有する」という要件を満たす。 オ 装置(10)の全体構成 上記ア?エの対比結果からみて,引用発明の「光学パラメータを決定する装置」は,本願発明の「装置(10)」における,「投影機器(12)と」,「画像記録機器(11)と」,「データ処理機器と」,「を有し」という要件を満たす。 (2) 一致点及び相違点 ア 一致点 本願発明と引用発明は,次の構成で一致する。 「 眼鏡(4)が使用位置でユーザ(2)の頭部上に配置された状態でユーザ(2)の光学パラメータを決定するための装置(10)において, 光投影を用いてユーザ(2)の頭部のおよび/またはユーザの前記眼鏡(4)の部分領域をマーキングするように設計されて配置される少なくとも1つの投影機器(12)と, ユーザ(2)の頭部のおよび/またはユーザの前記眼鏡(4)の少なくともマーキングされた前記部分領域の画像データを生成するように設計されて配置される少なくとも1つの画像記録機器(11)と, データ処理機器であって, 前記生成された画像データを使用して頭部のおよび/または前記眼鏡(4)のマーキングされた前記部分領域のユーザデータを決定するように設計されるユーザデータ決定機器であり,前記ユーザデータが頭部のおよび/または前記眼鏡(4)の前記部分領域のポイントの三次元空間における空間情報を含む,ユーザデータ決定機器と, 前記ユーザデータを使用してユーザ(2)の光学パラメータを決定するように設計されるパラメータ決定機器と, を有するデータ処理機器と, を有する, 装置(10)。」 イ 相違点 本願発明と引用発明は,次の点で相違する。 (相違点) 「投影機器(12)」が,本願発明は「ユーザの頭部上および/または眼鏡(4)上の特定の個々のポイントが前記光投影によって前記画像データ中でマーキングされるように設計されて配置され」,「前記画像データ中で以下のユーザポイント,すなわち, 瞳中心点(PMR,PML) 外側側頭フレームポイント(ATR,ATL) 内側鼻フレームポイント(INR,INL) 瞳の上側の内側フレームポイント(IOR,IOL),および/または, 瞳の下側の内側フレームポイント(IUR,IUL) のうちの少なくとも1つが意図的にマーキングされるように設計されて配置される」のに対して,引用発明は,このように特定されたものではない点。 (3) 判断 引用発明の「光学パラメータを決定する装置」において,「投射パターンデータは,ストリップパターンであり,パターンデータはユーザ頭部の少なくとも1つの小部分上に投射され,画像データは,画像記録ユニットによって,照射されたユーザ頭部の小部分から,三角測量角度において生成され,三角測量角度は,画像記録ユニットの有効光軸とパターン投射ユニットの投射角度との間の角度に一致する」。ここで,引用発明の「パターン投射ユニット」及び「画像記録ユニット」に関して,引用文献1の【0054】には,「装置は高性能の1つの画像記録ユニットおよび高性能の1つのパターン投射ユニットを備え,頭部の小部分または系の小部分の3次元ユーザデータもまた,有利には,本発明の前述の態様と同様に,本発明のこの態様により生成できる。」と記載されている。そうしてみると,当業者ならば,引用発明の「パターン投射ユニット」及び「画像記録ユニット」を具体化するに際して,引用文献1の【0009】?【0052】に記載された実施形態を参考にするといえる。そして,引用文献1の【0018】には,「ユーザデータは以下の点…ユーザの基準系の水平面(ユーザの水平面はユーザの両方の瞳孔と交差し,ユーザの視界の所定のゼロラインに平行に走る)と,眼鏡の眼鏡レンズ縁部および/または眼鏡フレーム縁部との交点…の少なくとも1つの位置情報を含む。」と記載されている。また,【0039】には,「特に好ましい実施形態においては,動作位置では,画像記録ユニットの1つは,その有効光軸がユーザの鼻の付け根に少なくともほぼ交差するように位置決めされる。言い換えると,本発明の装置の動作状態では,好ましくは,ユーザは,画像記録ユニットの少なくとも1つの有効光軸がユーザの鼻の付け根に少なくともほぼ交差するように位置合わせおよび/またはユーザ自身を位置合わせできる。」とも記載されている。 これら記載を参考にする当業者ならば,例えば,「ユーザの基準系の水平面(ユーザの水平面はユーザの両方の瞳孔と交差し,ユーザの視界の所定のゼロラインに平行に走る)と,眼鏡の眼鏡レンズ縁部および/または眼鏡フレーム縁部との交点」を測定しやすいように,引用発明の「パターン投射ユニット」及び「画像記録ユニット」を配置し,「ストリップパターン」を「投射」すると理解されるところ,このようにしてなるものは,相違点に係る本願発明の要件を満たすものとなる。 (当合議体注:本願発明でいう「瞳中心点(PMR,PML)」,「外側側頭フレームポイント(ATR,ATL)」及び「内側鼻フレームポイント(INR,INL)」を交差して「ストリップパターン」を「投射」するように「パターン投射ユニット」を配置し,これを「三角測量」できるように,「画像記録ユニットの有効光軸」の高さを眼の高さに合わせるといえる。) そうしてみると,引用発明において,相違点1に係る本願発明の構成を採用することは,引用文献1の記載が示唆する範囲内の事項である。 (4) 発明の効果について 本件出願の明細書には,発明の効果に関する明示的な記載はない。 ただし,本件出願の明細書の【0011】には,発明が解決しようとする課題として,「本発明は,ユーザの光学パラメータを決定する改善された可能性を与えるという目的に基づいている。」と記載されており,本願発明の効果は,この課題を解決することと,理解可能である。 しかしながら,このような効果は,引用発明から予測可能な効果にとどまり,また,顕著なものとも認められない。 (5) 請求人の主張について 審判請求人は,令和2年8月4日付の上申書(3)3-2)において,[A]本願発明の技術的特徴は,部分領域に光投影によってマーキングすることに関するものではなく,より限定的に特定された内容を有し,すなわち,ユーザの頭部上および/または眼鏡(4)上の特定の個々のポイントが光投影によって画像データ中でマーキングされるように設計されて配置されたものであり,個々のポイントのうちの少なくとも1つが意図的にマーキングされるように設計されて配置される点に技術的特徴がある,[B]引用発明は,頭部という部分領域全体を照らす広範囲の光円錐を放射する光源によって行われる,[C]本願発明によれば,幾つかのユーザの関心のある特定の個々のポイントのみをマーキングし,他のすべての画像ピクセルを無視して3D座標を直接計算するため,演算が容易でかつ高精度な結果を得ることができます。と主張する。 しかしながら,以下のとおりである。 ア 上記[A]について 本願発明の「意図的にマーキングされるように設計されて配置される」という構成に関して,本件出願の明細書の【0037】には,「1つの実施形態において,投影機器は,ユーザの頭部上および/または眼鏡上の特定の個々のポイントが光投影によって画像データ中でマーキングされるように設計されて配置される。それにより,投影機器は,眼鏡を伴う頭部の系の所定のポイントにこれらのポイントを明確にマーキングできるべく光投影を明確に方向付けることができるように設計される。部分領域は,画像データ中のマーキングに起因して特にコンピュータ制御態様またはコンピュータ支援態様で簡単に同定され得る複数のそのような個々のポイントを有してもよい。」と記載されている(当合議体注:平成31年4月22日付意見書の(3)に記載のとおり,「意図的にマーキング」の補正の根拠は,この箇所とされている。)。 しかしながら,前記(3)で述べたとおり,このような構成は,引用文献1の記載が示唆する範囲内の事項にすぎない。 したがって,請求人の主張は採用できない。 イ 上記[B]について 請求人が主張する構成は,引用文献1の【0082】に記載の構成のことと考えられる。 しかしながら,引用発明において,「画像記録ユニットの有効光軸とパターン投射ユニットの投射角度との間の角度」は,「三角測量角度」と「一致する」ように,すなわち,例えば,引用文献1の【0073】において「側部カメラ16は,例えば典型的なプロジェクタなどのパターン投射ユニットに置き換えてもよく,3次元ユーザデータは位相測定三角測量などの典型的な方法に基づいて決定されてもよい。」と示唆されるように,配置されるべきものである。 請求人の主張は,引用発明とは別の構成に関するものであるから,採用できない。 ウ 上記[C]について 特許請求の範囲には,「幾つかのユーザの関心のある特定の個々のポイントのみをマーキング」するとは記載されていない。また,本願発明は,引用発明でいう「ストリップパターン」によりマーキングする態様を含むものと理解される。 したがって,請求人の主張は採用できない。 (6) 小括 本願発明は,引用文献1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 第3 むすび 以上のとおり,本願発明は,引用文献1に記載された発明に基づいて,本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2020-11-09 |
結審通知日 | 2020-11-10 |
審決日 | 2020-11-27 |
出願番号 | 特願2017-522049(P2017-522049) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G02C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 池田 博一 |
特許庁審判長 |
里村 利光 |
特許庁審判官 |
福村 拓 樋口 信宏 |
発明の名称 | 光学パラメータを決定するための装置および方法 |
代理人 | 関根 毅 |
代理人 | 吉元 弘 |
代理人 | 赤岡 明 |
代理人 | 朝倉 悟 |
代理人 | 中村 行孝 |